【DA】リーンエスの耳

ナハティガル=ラー/ ウィリアム・リーンエス

『ノベルタイトル:竜の半身と放浪王子』おおくまねこ
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(今日は荒事とは無縁のまま終われると思ったのだがな)
 1224年、リーンエス王国内のとある避暑地にて。刺すような視線に気付いたナハティガル=ラーはため息をついた。
(この殺気は……あの男のものか)
 よくよく群衆を観察してみると、フードで顔を隠した男がチラチラと護衛を警戒している。恐らく会議が終わり、要人達が建物から出てきたところを狙うつもりなのだろう。

(狙いは誰だ? 誰がターゲットであろうとも、テロは未然に防がねばならないが……)
 幽界樹討伐後、『黒鋼竜附護衛士』としてライゼンナクト侯爵家に召し抱えられることとなったナハティガルは多忙な日々を送っていた。今日の任務である商工会議所の警護も任務の一つであった。ここはライゼンナクト領ではなく隣の領主が治める土地だが、通商に関する取り決めのため、ライゼンナクト領を拠点とする商人や、ライゼンナクト領の役人も会議に出席している。そのため、保険としてナハティガルも要人達に帯同したのだ。
 ライゼンナクト侯爵家――通称『黒鋼竜』はリーンエス王国貴族派筆頭の大貴族であり、「死の商人の後ろ盾」などとも呼ばれている。この領に限った話ではないが、貴族だけではなく、商人に恨みを持つ者は少なくない。とりわけ、『ライゼンナクトの乱』を引き起こし、多くの貴族を自らと共に葬った先代当主の所業も考慮すれば、黒き竜に仇為す者はいくらでもいるだろう。

(怪しい男がいるので、マークをしておく)
 ナハティガルは仲間にハンドサインで異常を知らせた。
(いったん泳がせろ。お前はそいつに付け)
(了解)
 簡潔にやり取りをし、ナハティガルは男の背後に忍び寄る。そして【疾風足】の範囲(一瞬で男を取り押さえられる距離)を維持し、男の監視を続けた。

 ……。

 そして数十分。会議が終わったのか、ガヤガヤと商工会議所が騒がしくなった。男はもう、商工会議所しか見ていなかった。
「そこの男。この建物に何の用だ」
 背後からナハティガルが声をかけると、男はぎょっと一瞬固まった後、懐に腕を突っ込んだ。が、数手遅い。ナハティガルはすばやく男の右腕を捻り上げ、地面に叩きつけた。男が抜こうとしたダガーが石畳に落下し、カラン、と音を立てた。

「詳しく話を聞かねばならんようだな。一緒に来てもらおうか」
 悪漢を取り押さえながら、ナハティガルはため息を吐いた。要人たちは他の衛士が手早く馬車まで送迎している。ナハティガルの役目はひとまず終わったようだ。

「くそっ! 離せ! 俺はあいつらのせいで仕事を失った……! 連中が裏で手を回しやがったに違いねえ! この、差別主義者共が!」
 男はナハティガルに捕えられたまま、大声でがなり立てた。
(この男……獣人(ハーフビースト)か)
 フードを引っぺがすと、男の頭の上には狐の耳が生えていた。興奮した男の話は要領を得ないが、何か出自を理由に不当な扱いを受けたのかもしれない。もっとも、単なる逆恨みの可能性も否定できないが。

「理由は駐屯所で話せ」
 ナハティガルは男を最寄りの駐屯所まで引っ立てていった。

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 この土地はライゼンナクト領ではなかったため、ナハティガルは取り調べには参加できなかった。が、後日、取り調べの結果が書簡で送られてきた。結論から言えば、男の犯行(未遂)はナハティガルの主君とは無関係だった。

 男はかつて、毛皮を扱う商人だった。だがある日、「獣が獣の皮を売るのか」と、人間の商人から公然と侮辱され、そいつを一発ぶん殴ってしまった。その結果、領主からあっさりと営業許可を取り消されてしまったらしい。男は自分が獣人だからヒューマンよりも処分が重くなったのだ、と主張した。肝心の商工会議所を襲撃しようとした理由については、その事件は会議に参加していた商人が自分を排除するために仕組んだ陰謀だったのだと思い込むまでに至ったことが理由らしい。

(男のやろうとしたことには何の正当性もない。商人達の陰謀云々もおそらく妄想だろう。だが、最初の役人の処分については、一概に被害妄想とは言い切れない……)
 他国からヒューマン至上主義と揶揄されるこの国では、同じような罪を犯しても異種族の方が罪が重くなったりするケースは珍しいことではない。異種族の中でも特に社会的地位が低い、小鬼(ゴブリン)であるナハティガルにとっては、なんとも気の重い話だった。

(だが、この国も変わりつつある。否、俺と【黒鋼竜】で変えてみせる)
 ナハティガルは、種族や人種・身分によって理不尽な差別が行われない世界を求めている。その理想の為、王国の未来のためならば親をも殺す覚悟を持った賢君であった【黒鋼竜】に剣を預けたのだ。

(先は永いな……そして、未遂に終わった以上、あの男も死罪にはまではならないと思いたいが)
 男の行く末……そしてこの国の未来を案じ、物憂げな表情でナハティガルが通りを歩いていると、前方からウィリアム・リーンエスが歩いてきた。

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(ウィリアム・リーンエス第二王子……いや、ウィリアム・バデーニ公爵だと!? なぜここにあの男がいる!)

 唐突過ぎるウィリアムの登場に幻覚攻撃でも喰らったのかと思い、ナハティガルは思わずエーテルを活性化させ、目の前の金髪碧眼のヒューマンを凝視した。すると、青年もナハティガルに気付いたのだろう。気さくに手を上げ、挨拶をしてきた。

「やあ、ナハティガルじゃないか。久しぶりだね」

 にこにこと微笑みながら話しかけてきた金髪碧眼の青年は、まごうことなきこの国の第二王子であった。否、彼はすでに第二王子ではない。先日かねてより告知されていたバデーニ家への婿入り(臣籍降下)が完了したので、今の彼の肩書は『ウィリアム・バデーニ公爵』である。
 ウィリアムは長らく未婚の第二王子としてふらふらしていたが、メアリーとレイウェストの婚約が結ばれてすぐ後――厳密には、それから数か月してレイウェストの出生の秘密が征竜の力を借りたヨゼフ皇帝により暴露されたほぼ直後に、突如として臣籍降下を発表。時が来れば全ての権利を王家へ奉還する事を約した【集権派】の構想を示して見せた。
 この動きはただでさえ混乱していた当時の王国貴族社会に巨大な一石を投じ、沈みゆく船から逃げ出すネズミの如く、貴族派からも派閥を離脱する者が続出した。そして……それが出来なかった者達は貴族派の盟主(ナハティガルの主君の父)と共に澱の果て(あの世)へと旅立っていった。ウィリアムは大胆ながらも正鵠を射た一手を以て、王家と妹姫(メアリー)への批判の矛先を自分に向けつつ、未来へと歩を進めて見せたのだ。
 そんな因縁もあり、ナハティガルは【集権派】の盟主であるバデーニ公爵とは政敵ともいえる関係ではあるが、目的の為には決して揺るがないウィリアムの非情とも言える冷徹さと政治的センスには一目置いており、『決して敵には回したくない男』の一人でもある。

「バデーニ公爵? なぜここに」
 ナハティガルが困惑しつつも彼の名を口にすると、青年はチチチ、と指を振った。
 
「おっと、今日はお忍びでね。これまで通り冒険者ウィルで頼むよ」
「そうか。それはすまなかったな」

 ナハティガルはため息を吐く。目の前の爽やかな好青年(31歳)は今日は貴族ではなく冒険者ウィルであらせられるそうなので、以前と同じく敬語は使わずともよいだろう。

「それで、アンタはライゼンナクト侯爵領領都(こんなところ)で何をしてるんだ」
「いやなに。ただの息抜きさ。ここのところ公務続きで忙しかったから、ちょっと涼みにね。ここは翠(エメラルド)色の湖が綺麗だし」

 爽やかな笑顔で答える王子。答える必要がないと判断されたか、本当に大した用はないかどちらかだろう、とナハティガルは判断した。ライゼンナクト領の領都が大きな湖を有しており、避暑地としての価値があるのは本当なので、ただ観光や視察に来ただけ、という可能性もゼロではない。そう言えば、以前この男とバッタリ会った時も湖(正確には泉だが)だったな、とナハティガルは思い出した。

「そうか。今日は一人なのか?」
「ああ。できれば妻たちも連れてきたかったんだけど、出張帰りだから」

(……この男も公爵就任直後で忙しいだろうから、ここで何かよからぬ陰謀を企んでいる、という可能性は低いだろう……)
 ナハティガルはなぜウィリアムがこんなところにいるのか理屈をつけようとしたが、それ以上考えるのをやめた。仮に何か悪事を働こうとしているならば、もっとコソコソしているだろうし、その気になれば気配を隠すこともできるだろう。実際、『青の親指』に追われて潜伏していた時期は、この男は一月以上消息を絶っていた。

「ところでナハティガル。また少し僕に付き合ってくれないか? 妻たちに買って帰るお土産を選びたいんだ。君ならこの街には詳しいだろう?」
「……分かった。いいだろう」
(すべて、お見通しというわけか……)

 色々突っ込みたいことはあったが、ナハティガルは目の前の野生の公爵の申し出を承諾した。

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(しかし、土産物(みやげ)選びの手伝いとは……これはテストか何かなのか?)

 領都内の貴族御用達の高級店の位置を思い出しながら、ナハティガルは訝しんでいた。末席とはいえ、ナハティガルもいまや貴族社会の一員に近い。もっと言えば、王家にとっては仮想敵の一つであろう、貴族派筆頭領主に仕えているナハティガルは集権派筆頭のウィリアムとは政敵同士と言える間柄だ。なぜ自分が集権派の旗印であるウィリアムの妻や家臣へのプレゼント選びを手伝わされているのか、さっぱり分からない。無論、ウィリアムもナハティガルの去就については把握しているはずだ。だからこそ、案内役を頼んだのだろうし。

(バデーニ公爵は俺の何かを推し測ろうとしているのかもしれない。いいだろう、望むところだ)
 そう結論し、ナハティガルは真面目にウィリアムに付き合うことにした。とんだ休日だが、バデーニ公爵に探りを入れるまたとない機会であるし、彼のわがままを聞くことと引き換えに提案してみたいこともある。

(……やはり、気付くか)
 ウィリアムと一緒に歩き始めてすぐ、ナハティガルは物陰から視線を感じた。殺気は感じないので、おそらくウィリアムに気付いた間諜の監視だろう。ナハティガルは別に撒く理由もない(むしろその方がかえって疑われるだろう)ので、素知らぬフリをした。ウィリアムは気づいているのかいないのか、特に態度に変化はない。

「土産物は幾ついるんだ?」
 ナハティガルはそれとなく、ウィリアムの近況について探りを入れてみた。公表されている限りではウィリアムとの結婚・婚約が内定している貴族は現在三名(正室が一人、側室が二人)だ。そしてその三名は全員が冒険者ギルドともそれなりに縁がある者達だった。ナハティガルの同期の冒険者でウィリアムを愛している者がいる、という話はついぞ聞かなかったが、それは同期だけの話で、大陸レベルだとウィリアムはモテモテのはずだし、ウィリアムは愛してはいなくとも集権派に取り入りたい貴族が娘を送り込むことも間違いなくあるはずだ。無論、ウィリアム側から断っている縁談もあるのだろうが……。

「とりあえず三つだね。縁談は他にも申し込みは来ているけど、新生活や公務が落ちついてからどんどん進めるつもりだよ」
「なるほど……」
(どんどん、か。口ぶりからすると、縁談はそれなりの数が来ていそうだな)

 ウィリアムの嫁探しは順調のようだ。そして、ナハティガルの知らない嫁はまだ増えてはいないらしい。今日の彼は冒険者ウィルである、という建前はすでに崩壊しているが、そこはもうあまりに気にはしていないようだ。その辺の区切りについては、昔から割と適当ではあったが。
 その後、適当に雑談をしながら、ナハティガルはいくつかの(庶民ならば門前払いを喰らうような)宝石店や洋服屋などを案内した。店員達もウィリアムの顔に気付いたのか、皆丁重に出迎えてくれた。

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「ありがとう、ナハティガル。これで妻たちの分はあらかた選び終えたかな。あとは、僕自身の分も何かお土産を買いたいんだけど、何かおススメはあるかい?」
(バデーニ公爵自身のお土産か……)

 ナハティガルは少し悩んだ。この場合、公爵の身分にふさわしいものを選ぶべきなのだろうか。それとも、『冒険者ウィル』にふさわしいものを選ぶべきなのだろうか? ちなみに道案内自体は「同じ冒険者として」へりくだったりはせず、友人を案内するようにやった。

「……分かった。ついてきてくれ」
 悩んだ末、ナハティガルはウィリアムを城門の近くにある土産物屋に案内した。

「これはどうだ?」
 ナハティガルが抱えて持ってきたのは、クリーパーらしき謎の生命体が彫られた木彫りの置物だった。ナハティガル自身も機会があれば自分で購入したいと思っていた一品である。

(元王家の人間であるウィリアムはおそらく審美眼も一流だろう。ならば、この像の芸術性も理解できるはずだ。今度は俺が試させてもらう……!)

「……なんだい、これ?」
 ウィリアムは肩を竦め、苦笑したのだった。どうやらさしものバデーニ公爵といえど、大陸の百年先を進んでいる(いずれ追いつくという保証はない)ナハティガルの芸術的センスにはついて来れなかったようだ……。

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 土産物屋を出た後、二人は軽く食事を取りながら、スケジュールを確認した。

「ところでウィリアム。まだ時間はあるか?」
「ああ。今夜はこの街で一泊するつもりだからね」
「ならちょうどいい。アンタの用事に付き合った礼として、俺にも一つ付き合って貰いたい」
 ナハティガルが挑むような視線を向けると、ウィリアムは鷹揚に頷いた。

「いいよ。何をするんだい?」
「再戦だ。また俺と盤上遊戯をしよう」
 ナハティガルが不敵に笑いながら告げると、ウィリアムもまた不敵な笑みを返した。
「ああ、いいとも」

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「お待たせ」
 ウィリアムが宿屋(高級宿だと目立つからか、冒険者が使うような宿の一番いい部屋だった)のチェックインを済ませてロビーに戻ると、ナハティガルはすでに駒の配置を終えていた。並ぶ駒の色は黒と白――だが、駒の種類が以前とは異なる。ナハティガルが準備をしていたのは、軍棋(チェス)ではなく、王国将棋(キングスゲーム)だった。

「今回は王国将棋でどうだ?」
 そうナハティガルが申し出ると、ウィリアムは、
「構わないよ。僕は王国将棋も多少の心得はある」と快諾した。果たしてそれは本当に「多少」なのか。ナハティガルは苦笑しつつ駒を並べ始めながらウィリアムを待っていたというわけである。それと、かなり時間に余裕があった前回とは異なり、今回は宿の消灯時間という制約がある。協議の末、今回は一度きりの勝負ということに決まった。

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「俺はこちらを使わせてもらうぞ」
 ナハティガルが迷いなく黒の駒が並べられた席につくと、ウィリアム異論を挟まず余った方の席へと座った。

「公爵。あんたの掲げた中央集権化を成し遂げたなら、王家に集中した既得権益は民草達へと分散していく事になるだろう。それには中産階級の底上げと、産業の更なる発展が不可欠となるが……青写真はあるのか」
 まずは歩兵を盾にして敵陣へと歩を進めつつ、ナハティガルはウィリアムへと尋ねた。

「おっと。少し誤解があるんじゃないかな。集権派の思想としては、王家に権益を集中させるというよりは、領地制度の改革の方がメインだよ。法律の一本化とかね。……ただ、文字の読み書きや最低限の知識の下地がないと法律の改革もあまり意味がないもだろうから、中央集権化が進む頃にはパンクリアース学園みたいな学校がいっぱいできているといいね。できれば僕の黄金像も……おっと、これは冗談だよ」
(公表されている以上のことは話すつもりはないか……まあ、この答えは想定の範囲内だ)

 学校がたくさんできていればいい、というのは、パンクリアース学園のような総合教育機関を今後増やしていくつもり、という意味だろう(分校なのか、既存のものとは別の『平民の学校』を作るつもりなのかは分からないが)。パンクリアース学園は急速に「教育を受ける権利」を貴族から民にまで拡大しようとしているし、この答えは既知の情報から導き出されるものに過ぎない。あとは、ウィリアムや王家は一代で事を為そうとしているわけではなさそうだ、ということを確認できたぐらいか。

 その頃、盤上では、中央まで進撃した歩兵たちがウィリアムの魔法使いに蹴散らされていた。だが、それはナハティガルの想定内。もっとも弱い歩兵数個を犠牲にし、ナハティガルが弓兵で魔法使いを討ち取ると、ウィリアムは開けた戦場に盾兵と槍兵を送り込んできた。さらに、ナハティガルから奪い取った駒も増援として投入し、数の暴力で戦線をこじ開けようとしている。

(本題はここからだ。公爵も王国の民主化は視野に入れている筈)
 ナハティガルはウィリアムの猛攻を捌きながら、彼に問いかける。

「中央集権化……平民の権利を向上させる、という目標には大いに賛成だが、俺は諸侯から力を奪った王家がいつか暴走するんじゃないかと危惧している」

 ナハティガルがウィリアムの槍兵を歩兵の連携攻撃で仕留めながらそう口にすると、ウィリアムの顔から笑顔が消えた。

「おっと。いきなりズバッときたな。この間も似たようなことを言われたけれど、王家への不敬を疑われる発言も今は聞き流そう。二人きりだしね」

 ウィリアムは冷笑を浮かべながら肩を竦める。厳密には宿屋の主人も聞こうと思えば聞こえるし、ナハティガルの身内の間諜も宿屋の外で待機しているはずだ。二人きり、というのは今がプライベートな時間である、というのを強調するためのポーズだろう。

(遠慮せずに言ってみろ、ということか。有難い)
「時が満ちれば、王権を制限するべき時は来るだろう。その時に『国王の権限と各代表の意見を聞く事』を明記した文書を作り、それを遵守する契約を諸侯・国民と結ぶと国王に宣言して貰う……どうだ?」

 ナハティガルの眼が細まり、ウィリアムの反応を伺う。

「それも王国の歩む先にある未来のうちの一つかもしれないね」
 ウィリアムは冷笑を崩さないまま、ナハティガルの言葉に頷いた。ウィリアムはナハティガルの言葉を、肯定も否定もしない。

(そんなことはあり得ない、と否定されなかったということは、無理筋とは考えていないということか……?)
 ナハティガルがウィリアムの顔をじっと見つめていると、ウィリアムはニヤリと笑い、ナハティガルの盾兵を間者で強襲して掠め取っていった。

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「――これで王手(チェックメイト)だ」
 ナハティガルは敵陣深くまで切り込んだ槍兵で近衛を奪い、王へとチェックをかける。弓兵と魔法使いに逃げ道を塞がれ、ここに王の命運は尽きた。

「見事だ。僕の負けだよ」
 ウィリアムはニヒルに笑うと、両手を上げて降参した。

(盤上遊戯(ゲーム)では勝てたが、あまり勝った気がしないな……)
 
 勝負の傍らでバデーニ公爵の手の内を探ってやろうとしたナハティガルだったが、肝心な部分についてはのらりくらりと躱されてしまった。成果と言えば、冒険者時代よりもナハティガルへの警戒心が上がっている(向こうからも政敵になり得ると思われている)ことを確認できたこと、ぐらいか。

「これで一勝一敗か。やれやれ、勝ち逃げできると思ったんだけどなあ。ああ、負けたからこれは僕が店主に返しておくよ」
 ウィリアムは肩を竦め、駒を片付け始めた。

「今日は楽しかったよ。またいつか会おう、ナハティガル。次にあった時も一緒に遊べるといいんだけど」
「ああ。また会おう、バデーニ公爵。あんたが敵に回らないことを俺も願っている」

 ナハティガルは微笑みを浮かべて手を振るウィリアムに別れを告げ、宿屋を後にした。

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メアリー王女が冒険者達の協力を得て稼働させた「王家の耳」。メアリーは無作為に集まってくる情報を、余人に及びもつかぬ閃きを持って分析しながら、今日も世界の動きへ耳を傾けている。
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アーカイブ生成日時 2026年08月05日 14時56分25秒 ・ world0