【怨都】怨讐の都に闇と舞え

ウィリアム・リーンエス

まさか、ゴルティエ元侯爵が吸血鬼になってまで王城襲撃を計画していたとはね……。
こんな時に王都を離れたくはないけれど、僕は『メドゥの右腕』から呼び出しを受けてしまったようだ。

メアリー・リーンエス

メドゥの右腕の狙いは、恐らくウィリアムお兄様の命。叔母様を人質に取るとは、卑怯ですわ!

ウィリアム・リーンエス

王都は任せたよ、メアリー。警戒すべきはゴルティエだけじゃない。例の――バルヴィック侯爵の動きも気になるからね。

メアリー・リーンエス

はい、お兄様。――どうか、御無事で。

リーンエス王国に、幾つもの不穏な動きがあるようです――
(11月17日 【怨都】決戦シナリオリリース予定!)

assignment【怨都】怨讐の都に闇と舞え 概要

「怨讐の都に闇と舞え」連動とは、悪事が露呈しリーンエス王国グランスパーダから逃走した悪徳法衣貴族二コラ・ゴルティエ元侯爵の行方を追う中で発生する一連の事件の記録である。ゴルティエ侯爵の潜伏先とみられるシルトラース帝国西部および不審な事件が多発している南部を調査し、同人物の捜索と情報収集を行う。

assignmentここまでの流れ

メアリー王女が冒険者達の協力を得て稼働させた「王家の耳」。無作為に集まってくる情報を分析したメアリーは、先日王都からの逃走を許した二コラ・ゴルティエ元侯爵が密かに国境を越え、帝国西部に潜伏していることを突き止めた。帝国西部といえば、皇帝ヨゼフ・バルダスと帝国過激派の本拠地があるとも言われている未奪還地域だ。さらにゴルティエ侯爵が帝国入りした頃を境に、ヴィントより西に点在する元難民たちの村々で行方不明事件や吸血鬼による襲撃事件が相次いで起きるようになり、ヴィント周辺では「メドゥの左腕」に似た女の目撃情報もあるという。メアリーとウィリアムはヴィントのレイウェスト・バルダスへ書状を送り、冒険者による現地調査を行う了承を得た。
(2022/11/16追記)
帝国過激派の本拠地はやはり帝国西部に存在するとみられ、ニコラ・ゴルティエ元侯爵が護送された際の痕跡らしきものも発見された。ニコラは吸血鬼となり、メドゥの指先や帝国過激派と組んでリーンエス王国の王城襲撃を計画しているという。帝国南部に現れていた吸血鬼らは二コラや他の吸血鬼の子孫にあたり、手勢として更なる子孫吸血鬼を増やすべく人々を攫っていた。二コラの狙いは愛妻の奪還のようだが、冒険者が接触した『メドゥの左腕』はウィリアムの命と『王家の聖剣』にも気を付けろと警告した。
リーンエス王家はクローディア・ゴルティエ元侯爵夫人の処刑日を大々的に宣伝し、ニコラ一派を王都で迎え討つ準備を始める。しかしその矢先、『メドゥの右腕』が王国内の街を襲撃し王妹キャサリンを人質にウィリアムを呼び出した。更に、王国南方の貴族派バルヴィック侯爵も呼応するように挙兵し、自領の騎士団を王都へと差し向ける。

assignment決戦の概要

戦域1:リーンエス王国 首都グランスパーダ
友軍:メアリー・リーンエス、王国騎士団近衛隊、ハスラム・レイノーラ
敵軍:二コラ・ゴルティエ、吸血鬼
戦域2:リーンエス王国 コートネイ伯爵領(危険)
友軍:ウィリアム・リーンエス、王国騎士団、グリゼルダ、キメラゾンビ
敵軍:メドゥの右腕、混沌の怪物、帝国過激派
戦域3:リーンエス王国 ウェザーランス子爵領
友軍:王国騎士団
敵軍:バルヴィック侯爵家『迅雷騎士団』、ラズロー・ヴェトール、グレイシャ・O・ベルグリーズ


person_pin関連NPC

ウィリアム・リーンエス王子の妹にあたるリーンエス王国第一王女。長い金髪と大きな青い目のお人形のような少女だが、宮廷のドロドロ人間関係の中で生きているだけあって気が強い。第一王女かつ唯一の王女、しかも遅くに生まれた末っ子ということで国王や王太子、ウィリアム王子の寵愛を一身に受ける影の女王。

《本連動での動き》

調査の指示と依頼など全般の指揮を執っている。「王家の耳」の最初の戦果として炙り出したゴルティエ侯爵の逃走を許したことで、責任を感じている。
(2022/11/16追記)
王都グランスパーダにて、ゴルティエ元侯爵一派迎撃の指揮を執る。

リーンエス王国第二王子。放蕩者の授恵者としての顔で各国を飛び回りながら、諜報面での活動も行っており、優秀な部下を子飼いの配下としていたがメドゥの指先グリゼルダとの交戦でその多くを失った。

《本連動での動き》

昨年のグリゼルダに続き、ゴルティエ侯爵の逃走という手痛い敗北を喫してしまった。メアリーと協調し、調査の指示と依頼など全般の指揮を執っている。
(2022/11/16追記)
メドゥの右腕一派に奪われた街と王妹キャサリンの奪還のため、王都より北東のコートネイ伯爵領へ向かう。

始まりの百家以来の格式を持つ王都の法衣貴族だった壮年の男性。商業面の長官を務めていた。優秀な人物だったが、裏の顔はメドゥの指先と通じる人身売買の元締めであった。1222年9月に王家が捕縛に動くも、メドゥの指先幹部ジルベルの手引きにより邸宅から姿をくらませた。かなりの愛妻家であったらしい。

《本連動での動き》

密かに国境を越え、シルトラース帝国西部に潜伏中とみられている。
(2022/11/16追記)
帝国西部で接触したメドゥの指先と帝国過激派の支援を得て、愛妻の奪還と王家への復讐のためグランスパーダおよび王城を襲撃する。既に人間ではなく吸血鬼と化している。

ニコラ・ゴルティエ元侯爵の妻。王都におけるファッションリーダーの1人として、夫の名の元に様々な夜会を取り仕切ってきた。仮面舞踏会にてパンクリアース学園生徒会役員の一人を誘拐するも、悪趣味な狩猟遊びに興じていた処を踏み込まれ、捕縛された。

《本連動での動き》

処刑が決定し、王城の地下牢に幽閉されている。
(2022/11/16追記)
夫であるニコラ・ゴルティエ元侯爵を誘き寄せるため、処刑日が大々的に発表された。

メドゥの指先幹部『右腕』。通称『メドゥの右腕』。黒い貴族風デザインの衣装を好む、中肉中背、黒髪の青年の外見をもつ吸血鬼。非常に長く生きている強力な吸血鬼らしく、子孫にあたる吸血鬼の数も多い。混沌魔術の使い手でもあるようだ。

《本連動での動き》

コートネイ伯爵領の街ひとつを壊滅させ、王妹キャサリンを人質にウィリアムを呼び出した。目的はウィリアムの殺害。

メドゥの指先の幹部『青の親指』にして、卓越した技量を持つ死霊術師。特に死魂を利用した戦闘力強化術と、魔獣やクリーパーの死体を利用した改造ゾンビである『キメラゾンビ』の作成を得意としている。ヒステリックで気まぐれなパワハラ体質。ウィリアムを死別した恋人アランの生まれ変わりだと信じ、アランを死霊術で蘇らせる為にウィリアムの眼球を欲している。

《本連動での動き》

メドゥの右腕の目的がウィリアムの殺害と知り、眼球の取り扱いを巡って対立。冒険者や王国騎士団との一時的な共闘を決め、メドゥの右腕と戦う。

リーンエス王国国王の勅命を受けて動く王国近衛騎士であり、男爵。現国王ジョージ四世の懐刀的存在と言われる事もある。豪胆、傲岸不遜、傍若無人が服を着て歩いていると言われる王国の問題児だが、それに見合う実力を有している。

《本連動での動き》

王国騎士団近衛隊を指揮する隊長の一人として、グランスパーダの王城にて国王夫妻および王太子ら王族の護衛を任されている。

貴族派の大貴族バルヴィック侯爵家の現当主。『迅雷候』とも称され、リーンエス王国南方に領地をもつ。現在は老齢により一線を退いているものの、内政の功多き名領主として王家からも一定の信頼を得ていた。しかし、帝国崩壊以降は同家に不穏な動きが見え隠れし、パンクリアース学園校長ジルワード・ファルゲン侯爵からの調査報告もあり王家からは警戒対象とされている。

《本連動での動き》

ゴルティエ元侯爵の襲撃に呼応するように、自領から王都へ『迅雷騎士団』を進軍させた。

ラズロー・ヴェトール(2022/11/16追加)

バルヴィック侯爵家所属『迅雷騎士団』第二騎士隊の隊長を務める中年男性。王国騎士位を有するウォーリア。やる気の無さそうな雰囲気を漂わせるが、戦闘能力の高さは折り紙付き。

《本連動での動き》

バルヴィック侯爵の命により、『迅雷騎士団』を率いて王国騎士団と冒険者を相手取る。

グレイシャ・O・ベルグリーズ(2022/11/16追加)

バルヴィック侯爵家所属『迅雷騎士団』第三騎士隊の隊長を務めるエルフの女性。エルフの中でも『長老級』の古エルフであり、魔術知識に長けたキャスター。同一の攻撃魔法を二連続で発動させる未知系統の魔法を操る。

《本連動での動き》

バルヴィック侯爵の命により、『迅雷騎士団』を率いて王国騎士団と冒険者を相手取る。第三騎士隊だけでなく、遠征軍の総指揮も担っていると考えられる。

国王ジョージ四世の実妹であるが、学園在学中に帝国高官の子息を自身の近衛騎士が殺害した事から表向き廃嫡された。現在は真相が明るみに出、名誉を回復している。先代『王家の耳』を束ねており、引き続きメアリーの新生『王家の耳』に協力していた。

《本連動での動き》

メドゥの右腕の子吸血鬼に誘拐され、ウィリアムを誘き出すための人質として利用されている。

menu_book関連用語・情報

新生「王家の耳」

メドゥの指先グリゼルダにより実行部隊の多くを失った王家の密偵が再建されるまでの間、王女メアリーの提案によって動き出した新たな諜報機関。通称「リーンエスの耳」。冒険者に依頼し無作為に集められた各国の噂話などを、分析整理する事で真実を拾い上げる。この分析整理はメアリー王女個人の才覚に頼る面が大きい。

帝国南部鎮守都市「ヴィント」

帝国滅亡に際してクリーパーに蹂躙された都市。1221年初夏の奪還作戦において【天霧りに消ゆる幽界樹】の分樹の打倒に成功し、解放された。現在は廃墟の整理も進み、避難していた帝国民も少しずつ戻り、周辺地域も含めて復興の途にある。太守はバルディオン。

帝国西部

帝国の他の地域と同様、帝国崩壊時に壊滅的な被害を受けている。未だ多数のクリーパーが跋扈する魔境であり、西部鎮守都市ヨラヒムを含め都市や街はすべて滅んだとみられているが、偵察は進んでいない。この地域には、帝国皇帝ヨゼフ・バルダスと帝国過激派の本拠地があるとも言われている。

帝国過激派

シルトラース帝国が崩壊する以前から存在していた派閥。当時は「実力派」と呼ばれていた。帝国こそがロスガリアの統治者として相応しく、王国も都市同盟も、その他の小国も全てを滅ぼすか吸収し永久に支配すべし、その為には手段など選んではおれぬ、という思想。帝国崩壊後はヨゼフを匿い、様々な事件の裏で暗躍するメドゥの指先とも蜜月の関係にあるらしい。シグモル火山帯の【魂禍】連動、フィルエス大森林の【樹謂】連動では、それぞれ幹部が大事件を起こし討伐されている。

王都グランスパーダ(2022/11/16追加)

王都グランスパーダはリーンエス王国建国以来の首都であるが、王国の発展と共に拡大を続けた結果、歪さを孕む都市でもある。華やかな貴族、裕福な王国民、地方から出て来た貧しい民が区画を隔てて共に住まう都市だ。城壁と堀に守られた市街地と、その外に或るスラム街で構成される。市街地には貴族街や市民の居住区、パンクリアース学園など様々な区画と施設が存在し、中心部には堅固な城壁に囲まれた王城がある。

王都グランスパーダの出入り(2022/11/16追加)

王都内外を隔てる城壁は作りも防衛体制も、帝国の帝都や鎮守都市ほど堅固な物ではない。一般人では難しいだろうが、授恵者ならば隙を見て乗り越えることは可能だろう。門は大きなものが8方向にあり、方角が名前となっている他、地域住民や利用者達が独自の愛称をつけている場合もあるようだ。 グランスパーダは王国を南北に流れるシエナ河に水源を委ねているが、防衛上の理由から、シエナ河は直接王都に流れ込む事は無く、水門を設けて取水する形となっている。王都への荷を水門外で小型船へ積み替える役夫はスラムの住人の大きな働き口となっている。

ウェザーランス子爵領(2022/11/16追加)

王党派貴族であるキルハイム・ウェザーランス子爵が治める小領地。王都グランスパーダ近郊に位置し、独自の騎士団などの防衛戦力は有していない。バルヴィック侯爵家の『迅雷騎士団』が領内に侵入し、王都方面へ進軍中。

コートネイ伯爵領(2022/11/16追加)

貴族派貴族であるイーサン・コートネイ伯爵が治める小領地。王都からみて北東に位置する。領都でもある街『ケイレブ』がメドゥの右腕と帝国過激派の襲撃を受けて陥落。伯爵家の騎士団は壊滅状態となっている。

王家の聖剣(2022/11/16追加)

リーンエス王家の象徴であり、国の紋章にもなっている三本の聖剣。一本は建国の際に失われ、二本が現存している。うち一本はウィリアムなど王族が儀礼時や戦に赴く際に帯剣するとされているが、メドゥの右腕の『呼び出し』を受けたウィリアムは王太子エドワードにこれを託し、コートネイ伯爵領へは持ち込んでいない。最後の一本は王宮の一角に大切に安置されていると言われていたが、実は王宮の中庭に建てられた小さな祠の中にあり、大地に突き刺さった状態であるとメアリーにより冒険者へ明かされた。誰一人として抜くことができた者はいないと言うが、抜ければ“災厄”が王国を襲うと伝えられているそうだ。

●王国北東部コートネイ伯爵領
 鐘音が鳴り響く夜の街。月明りに照らされた街路は逃げ惑う人々であふれ、悲鳴と怒号が渦巻く地獄と化していた。

「邪悪なる吸血鬼め……! 何が目的でこの街を襲った!?」
 鮮血に濡れた広場の石畳。無数に転がる甲冑と、肉片(騎士団だったもの)。
 噎せ返るような血の匂いに包まれながら、街の主――コートネイ伯爵は目の前の男を睨みつけた。
「ごめんね。君達に恨みはないんだけど、丁度いい所に丁度いい街があったからさ」

 深紅の瞳。へらへらと微笑む唇から覗く鋭い犬歯。
 メドゥの右腕と名乗ったその吸血鬼は、傷ついた腕で剣を構えようとする初老の伯爵を憐憫混じりの表情で見返していた。

「おのれ、愚弄するか……!!」
 せめて一太刀。死を覚悟して踏み込んだ伯爵の右足が、異様な熱をもった。
 男(メドゥの右腕)は片手を挙げ、お別れを言うかのようにヒラヒラと振って見せる。

「――っ!?」

 悲鳴を上げる暇すら無く。
 伯爵の身体が、内側から弾けた。
 先に逝った騎士達と同じように血と肉片へと姿を変えた伯爵が、甲冑が崩れ落ちる音とともに石畳の上へ広がっていく。

「何ということを……!」
 背後から上がった批難の声。右腕が振り返った先には、後ろ手に縛られ帝国過激派の授恵者に両脇を固められた老女――リーンエス王国国王ジョージ四世の実妹、キャサリンが力なく座り込んでいた。
「仕方ないよ。これぐらいしなきゃウィリアム王子は来てくれないからね」

 飄々と笑ってみせる右腕を、唇を噛んで睨みつけるキャサリン。自害も禁じられた今は、その程度の反抗しかできはしない。
 右腕が何事かを呟いた直後、石畳を染めていた伯爵と騎士達の血液がざわざわと蠢き、宙を流れていった。

 真っ赤な鮮血が辿り着いた先には、天を衝く異形の怪物。
 多量の血液を取り込んで更に一回り膨れたそれは、べちゃり、べちゃりと濡れた音を立てながら広場を進み、逃げ惑う人々を追いかけていく。

「右腕殿。生き残りの騎士とコートネイ伯爵令嬢を街の外へ放しました。これで宜しいので?」
「そうだね。じきにウィリアム王子が来てくれるんじゃないかなぁ」

 帝国過激派の女の問いに、右腕はただ愉しげな声を返すのみだった。

 ●王都グランスパーダ
「ニコラ・ゴルティエ元侯爵は、やはり帝国西部の帝国過激派やメドゥの指先と組んでいるようですわね。妻のクローディア夫人の奪還と王家への復讐のため……この王城の襲撃を目論んでいるとか」
「ゴルティエ元侯爵が吸血鬼と化して、人々を誘拐しては子吸血鬼を増やしていた……か。吸血鬼にとって子孫を増やす儀式はかなりの負担だと聞いたけど、まったく王家も恨まれたものだ」
「ええ、世間ではそれを『逆恨み』と言いますけれど」

 帝国領内での調査にあたった冒険者達の報告書を捲りながら、メアリー・リーンエスとウィリアム・リーンエスの兄妹は共に溜息をついた。
 帝国西部で発見された、ニコラ・ゴルティエ元侯爵の護送を行ったらしき痕跡。帝国南部で村民の誘拐や襲撃を行っていた吸血鬼達とメドゥの指先構成員の言。冒険者達が集めてきた情報は、リーンエス王国と王家にとって到底歓迎できないものばかりだった。

「ゴルティエ元侯爵の子吸血鬼達は、霧化の能力を持っているようですわ。親であるゴルティエも同様と考えて良いでしょう。恐らくは、子孫吸血鬼達を連れて夜闇に紛れ、王都への侵入を企てているのでしょう」
「とは言っても、王城の地下牢にまで侵入するのは骨が折れるはずだよ。ゴルティエを挑発するために奥方の処刑日を宣伝しておいた甲斐があったね。――処刑時間と場所まで公表して、彼を歓迎しようじゃないか」

 ゴルティエ元侯爵の目的が妻の奪還であるのなら、侵入も逃走も困難な地下牢ではなく、処刑場かそこへ至るまでの移送中を狙う可能性が高い。勿論、王都への侵入を阻止できれば、もしくはゴルティエ元侯爵の身柄を事前に拘束できれば最上だが――いつ、どこから現れるかもわからぬ吸血鬼達を長期間警戒し続け、かつ王国と帝国の二国にまたがる捜索を続けるのは非現実的に過ぎた。

 であれば、餌(妻)で釣って誘き寄せ、確実に仕留めるしかない。

「ですが、帝国ではゴルティエ以外を親に持つらしき吸血鬼も同様の事件を起こしていたようですわ。メドゥの指先か、帝国過激派か……いずれにせよ、ゴルティエの血統には無い能力を持つ個体への警戒も必要ですわね」
「そうだね。それに……メドゥの左腕だ。彼女はなぜ『聖剣』の情報を冒険者に伝えた……?」

 報告書の束から最後の一枚を手に取って、ウィリアムは僅かに眉間の皺を深くした。
 帝国南部に赴いた冒険者達が遭遇したのは、吸血鬼だけではない。メドゥの左腕――超大型級クリーパー『瘴気纏う腐緑獣』を眷属とし、帝国東部辺境のケンタウロスの聖地を襲ったメドゥの指先の大幹部もまた、冒険者と接触しゴルティエ元侯爵らの情報を齎している。

 ――二コラ・ゴルティエがクローディア・ゴルティエを奪還する為、グランスパーダの王城を目指そうとしているわ。気を付けなさい。それと王族……そうね、ウィリアム・リーンエスの命と、『王家の聖剣』の在処にも。

 メドゥの指先に属する彼女が、なぜ王家を利するような情報を冒険者に与えたのか。
 ウィリアムの命と、建国以来王家に伝わる『聖剣』。ゴルティエがそれらに執着するとは思えないが――左腕の真意は、不明のままだ。

「誰にも抜くことができないと――そして抜けた時には王国を“災厄”が襲うと言われている、あの『聖剣』ですわね」
 兄の蒼眼をじっと見返して、メアリーもまた眉を寄せる。

 ――メドゥの右腕を名乗る吸血鬼と帝国過激派が、リーンエス王国北東部コートネイ伯爵領領都を占拠。
 ――国王ジョージ四世の実妹キャサリンを人質に取り、交渉相手として第二王子ウィリアムを指名している。

 火急の報せが飛び込んできたのは、兄妹が王都防衛計画案を纏め終えた直後だった。

 ●山中
「冗談じゃないわ! 王族を殺すと言うからついて来てみれば!! 言うに事欠いてウィリアム(アラン)を殺すですって!?」

 獣道すら無い山中で目覚めたメドゥの指先幹部『青の親指』グリゼルダは、下草に黒のウエディングドレスを引っ掛けない奇跡の走りをみせながら麓を目指していた。
 帝国西部で冒険者と遭遇して帝国西部鎮守都市ヨラヒムに引っ込んだ後、王国へ行くと言うメドゥの右腕達について夜の登山をしていたところ、彼の殺害対象(ターゲット)を知ってしまい、揉めに揉めたのだ。
 どうやら、右腕に何かされて気を失い、山の中に置いて行かれたらしい。

「ガサツな右腕なんかに任せたら、ウィリアム(アラン)の美しい眼球(ひとみ)に傷がついてしまうじゃない!! それを、言うに事欠いて『死んだ恋人(アラン)とウィリアムは無関係だと思うよ』ですって!!!!????」

 怒髪天を衝くほどの怒りを全て言語化しながら、黒いエーテルを撒き散らすグリゼルダ。ふと気配を感じて死霊術を行使すれば、主の指示を失って山を彷徨っていた中型恐竜のようなキメラ(継ぎ接ぎ)ゾンビが数体、駆け寄ってきた。
 うち一体の背にひらりと飛び乗り、グリゼルダは猛スピードで目的地(コートネイ伯爵領)を目指す。

「ああ、ウィリアム(アラン)! 待っていて頂戴。貴方の瞳は私のものよ!!!」

 ●処刑前日
 クローディア・ゴルティエ元侯爵夫人の処刑は、夜明けとともに王都グランスパーダの北広場にて実行される。
 悪徳大貴族の公開処刑が大々的に宣伝されたにもかかわらず、前日を迎えた王都からは賑わいが消え、通りに見える人影は警邏の兵のみ。

 外出禁止令など、大国の首都において頻繁に発出されるものではない。

 北広場方面から王城までは危険区域とされ、住民達はパンクリアース学園など他の区域に移されている。王国騎士団と衛兵、貴族の私兵らによる厳重な警備により大きな混乱は起きていないが、都市全体に漂う空気はまさに一触即発の緊張状態だった。

「王国騎士団の一部は、ウィリアムお兄様と共にコートネイ伯爵領へ遠征中。王都に残る騎士団と兵士、冒険者を全てゴルティエ元侯爵らの迎撃にあてれば、決して不利な戦いではありませんわ」
「――だがなぁ、メアリー」

 王城から王都の街並を見渡して、厳しい表情を崩さぬまま口を開いたメアリー。その背後で、桃色髪(ストロベリーブロンド)の美丈夫が頭を掻いた。

「例の『狸』の出方が気になるぜ。奴が動くなら今だろうが、まだ――」
「レイノーラ男爵、ここは王城ですわよ」

 唇に指を当てて振り返ったメアリーに、近衛騎士ハスラム・レイノーラは「おっと」と口を噤んだ。学んだばかりの貴族式作法に則り、言葉を継ぐ。

「……失礼。南方のバルヴィック侯爵家に不穏な動きありと報告があった件です。俺の勘だが――奴が横槍を入れるなら、今だ」
「ええ。事を起こすかもしれませんわね……あの『迅雷候(バルヴィック)』ならば」

 貴族派の大貴族、バルヴィック侯爵家。現当主は、王家からも信を置いた名領主オーガスタス・D・バルヴィック。同家の不穏な動きについては、パンクリアース学園校長も務めるジルワード・ファルゲン侯爵からも報告が上がっている。

 ウィリアムと王国騎士団の一部が遠征し、吸血鬼達の襲撃が刻一刻と迫る王都。
 その緊迫した状況を『狸(バルヴィック)』が見逃すだろうか。

「……どうして、嫌な予感ほど当たるのでしょうね」

 長身のハスラムを見上げ、メアリーは静かに目を伏せる。
 階段を駆け上がって来る騎士達の足音が、王城に響き渡っていた。


「ウェザーランス子爵領より使者が到着! バルヴィック侯爵家所属『迅雷騎士団』が領内に侵入――領主の制止を振り切り王都へ兵を進めております!!」


 執筆:桃谷かな
アーカイブ生成日時 2026年08月05日 14時56分25秒 ・ world0