【DA】リーンエスの耳

パヴェル・A・サムルガチェフ

『ノベルタイトル: パヴェルの婿入り準備』おおくまねこ

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「ここに来るのも久しぶりだなぁ。ここなら、置いてあるかぁ?」
 パヴェル・A・サムルガチェフは学術都市ヴェルクリエの図書館にいた。目的はある調べものをするためだ。「学術都市」というだけあり、ヴェルクリエの図書館は大陸でもトップクラスの蔵書量を誇る。パヴェルは期待に胸を膨らませながら、受付へと向かった。

「なあ、史書さんよぉ。人馬(ケンタウロス)の資料を探してるんだけどよぉ、どこの棚にあるか分かるかぁ?」
「ケンタウロスですね。それなら、『非人型亜人種』のコーナーにあったかと思います。あちらの奥です」
「……そうかぁ。ありがとなぁ」
 パヴェルは史書に礼を言い、示された書架に向かった。

「非人型亜人……ねぇ」
 この大陸において、『人類』は8種類だとされている。ヒューマン、エルフ、ドワーフ、ハーフリング、ハーフビースト、リザードマン、ゴールディのゴブリン、そして、ホムンクルス。今挙げた8種族以外の生き物は、たとえ知性をもっていても「亜人種」と呼ばれ、人類としては扱われない。メジャーな亜人種としては、ゴールディ以外のゴブリンや、コボルト、オーク、マーマン、そして人馬(ケンタウロス)などがいる。パヴェルが探しているケンタウロスは、一般には「非人型亜人」として認識されているのだ。
 パヴェルはその亜人種であるケンタウロスと『婚約』した、変わり者であった。ケンタウロスは大陸各地に生息しており、時折人里にも出没することがある。言葉が通じる特異個体が出現することは稀なため、人類の敵対者として認識されているのが常識なのだが、近年、シルトラース帝国の東部にすむケンタウロス……通称『聖地のケンタウロス』との間で、人類との交渉が成立することが確認されたのだ。しかし、そんな事例は人類史上で初めての出来事であり(聖地のケンタウロスの主張によれば、遠い昔に一人だけ、人馬と約束を交わした『人類(ハーフリング)』がいたはずだが)、パヴェルがどこの図書館を当たっても、ケンタウロスと人類が何らかの交渉をした、という記録は全く見つからなかった。かろうじて分かったことは、ケンタウロスは部族単位で、それぞれかなり異なる文化を持っているらしい、ということだった。
 たとえば、シラー砂漠に棲むケンタウロスのとある部族は、鳥葬文化を持ち、コンドルを神(という表現が正確かどうかは分からないが)の使いとして崇めているらしい。
 また、フィルエス大森林の近くに生息するケンタウロスは、食事する姿を他人に見せることを嫌う部族がいるという記録があった。どちらも、パヴェルの知るケンタウロス像とは大幅に異なるものだ。

「ここにも、聖地のケンタウロスの本はねえなあ……帝国にしかいねえからかなぁ?」
 パヴェルは聖地のケンタウロスのとある部族の娘と婚約したので、婿入りの準備として聖地のケンタウロスの情報を集めている。しかし、聖地のケンタウロスはごく最近人類との交渉が始まったばかりだったので、どこの図書館にもパヴェルが知りたいことを書いた資料はなかった。強いていうならば、参考になったのはここ数年の、帝国の東部で活動した冒険者ギルドの記録ぐらいだ。その内の何割かは、パヴェル自身も参加した依頼のものだったが。

「亜人種であるケンタウロスは、非人型亜人に分類される種族である。馬の下半身に人間の上半身をつなげたような外見から、人工的に作られた種族ではないかとも言われている。出産までの期間は1年弱で、出生後すぐに走れるようになるなど、馬の生態に近い。また、彼らは一妻多夫の、女性を頂点とする逆ハーレム社会を築くことがある。寿命は30年ほどだが、50年を超える高齢の個体がまれに存在し、そういった個体は、大勢の群れを率いることがある……うーん、この資料も他の図書館と大差ねえ内容だなぁ」

 パラパラと、眉間にしわを寄せながらパヴェルは詰み上げた本のページをめくっていく。だが、どうやら聖地のケンタウロスについての資料は、ここにも無いようだ。

「どうやら、ランランの部族のことは、ランラン達に直接聞くのが一番いいみてぇだなぁ……」
 文献での調査に限界を感じたパヴェルはそう結論を出し、嘆息した。「聖地のケンタウロス」に限るなら、冒険者ギルドの報告書こそが今、世界で最も確度の高い資料なのだ。メドゥの指先首領が本当にジド・ルウと同一人物ならば、そいつも聖地のケンタウロスに詳しいかもしれないが、まさか、聞きに行くわけにもいくまい(そもそも、どこにいるとも分からないのだが)。

「うん、悩むのはやめだ。何にせよ、まずは勝たなきゃなあ。婿入りは、戦いが終わったらって約束だしなぁ。ランランの嬢ちゃんは肉が好きみてぇだし、とびきり美味い肉でも持ってくかぁ」
 図書館を出たパヴェルは、帝都のある方角の空に向かって流れていく雲を見つめていた。

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集まった情報の中には、世界の情勢に影響はないかもしれないが興味深い個人の記録があるかもしれない。

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アーカイブ生成日時 2026年08月05日 14時56分25秒 ・ world0