【DA】リーンエスの耳
アルベルト・V・シュタールシュヴェーアト/ レイウェスト・バルダス
『ノベルタイトル:全てはレイウェストのために。』蓮華・水無月
さてその日、アルベルト・V・シュタールシュヴェーアトが願い出たのは、過激派征竜信徒の討伐許可であった。
「レイウェスト皇帝陛下、過激派征竜信者の討伐のご許可を頂きとうございます」
自身の忠実な騎士たるアルベルトの申し出に、レイウェスト・バルダスは緋色の瞳を僅か、思わしげに眇める。それは、戸惑いであるようにアルベルトには見えた。
――シルトラース帝国奪還がなって、そろそろ数ヶ月が過ぎようとしている。レイウェストの現在の拠点たるヴィントを含む、一部の地域や都市ではそれ以前より人類側の勢力圏として復興が進められてきたが、帝都を始めとする大半の地域はまだ復興が始まったばかりか、復興の手のつけようもない地域すらあって。
それらの差配を含めた政に全霊を持って注力する、主君の力にならんとアルベルトもまた、国内の様々に目を光らせていた。そうして――怨敵を見つけたのだ。
「西の街道沿いの村の1つに、彼奴らが潜んでいるとの報がございました」
もちろん、ただそこに居たというだけで犯罪者扱いする訳にはいかない。否、アルベルトにとってはただ存在するのも許し難いのだが、シルトラース帝国は法治国家である。
ゆえに目顔で続きを促すレイウェストに、アルベルトは言葉を続けた。
「その村は、最近になってようやく復興が始まったばかりなのですが――」
その人足の中にどうやら、過激派征竜信者らが紛れ込んでいたらしい。そうして村の子供を人質に取り、信者達の拠点と為して悪逆非道を働いているのだとか。
しかも、村の者に戦闘訓練のようなものまでして、次はヴィントだと息巻いていたという。
「征竜信者どもの狙いは、陛下の御命に相違ありません。ですから、どうか討伐許可を頂きとうございます」
ゆえに、そう深々と頭を下げるアルベルトの脳裏に過るのは、先の戦いにて主君を危険視すると告げ、排除しようとした征竜。――過激派征竜信者は、彼の竜がすでに斃れた今でもなお盲目的に従うテロリストであると、アルベルトは断じていた。
シルトラース帝国は国是として征竜を人類の敵としていた経緯から、基本的に征竜信者自体の数は非常に少なく、活動もし難い土地柄だ。けれども今回の件でも判るように、ゼロではない。
そんな連中を放置していては、征竜の御遺志だとかなんとか抜かしてまたレイウェストの生命を狙い続けるに決まっている。万が一、レイウェストがその凶刃に倒れるような事などあっては、ようやく復興が始まったばかりの新生帝国はこのまま瓦解してしまい、再び多くの帝国民が混乱と苦難の憂き目にあうに違いなかった。
そう――考えるがゆえにアルベルトは、征竜信者を討伐したいと主君へ希う。それに、応えはなかなか返らなかったが。
「――許そう。アルベルト、そなたの事だから大事あるまいが、油断はせぬよう」
「はっ!」
やがて紡がれた許しに、深々と頭を垂れ。主君の前を辞したアルベルトは、瞳に闘志を漲らせて件の村へと向かったのだった。
●
そこは、一見すれば普通の、街道沿いによくありそうな宿場町の様相を呈していた。大半が崩れかけた廃屋や瓦礫の山なのも、1度は滅びた村を再建しようというのだから、何も珍しい光景ではない。
今だ魔獣もクリーパーも跋扈する帝国に在っては、さほど広くはない村をぐるりと囲む頑丈そうな塀や、要所に立つ見張りと思しき者の姿も、さほど奇異ではないだろう。だが、その内実を踏まえた上で観察すれば、おかしな点は幾つでも挙げられた。
見張り役の武具はよく見ればちぐはぐで身の丈に合っていないし、立ち姿もへっぴり腰で、とてもではないが訓練を受けた者の様相ではない。そうして塀の中には、そんな見張り役をさらに見張るように、こちらは見るからに武芸に秀でていると思われる者が居る。
一見すれば、鉄壁の守り。だが――
(穴だらけだぜ)
アルベルトの経験と知識から見れば、それらの警戒は在って無きが如しである。だが油断はせず、離れた場所から注意深く村の様子を窺いアルベルトは、村を制圧するための算段を巡らせた。
順当に考えれば、賊は村落の中でも良い家屋を根城とするだろう。復興が始まったばかりの村であれば、その数も多くはない。
その視点で見れば、取るべき戦略は自ずと定まった。あとは制圧するだけだ。
ゆえにアルベルトはシュトルツの握りを1度確かめ、速やかに行動を開始する。即ち、警備の隙を突いての強行突破だ。
漆黒を身に纏い、遠目にも剣呑なアルベルトを目にした見張り役が、ビクッ、と怯えたように槍を構えた。だがその頃にはすでに雌雄は決している。
瞬く間に見張り役を戦闘不能にしたアルベルトは、そのまま村の門を突破した。途端、村の人々の動きが2つに分かれる――怯え逃げ惑う者と、アルベルトを明確な敵と見做す者に。
過激派征竜信者は須らくアルベルトの敵だが、無辜の村人はレイウェストの臣民だ、出来るだけ被害は抑えるべきだろう。目星をつけた家屋へと奔りつつ、すぅ、とアルベルトは大音声を張り上げた。
「征竜信者ども!!」
その声は緊張感満ちる空気を震わせ、狭い村の隅々まで響き渡る。
「未だに征竜の遺志に従い、行動を続けて人類の間引き及びレイウェスト陛下の排除を試みる貴様等を放置することはできない! レイウェスト陛下の騎士として、貴様等テロリストを討つ!」
「ひ……ッ、お助けを……!」
「わしらは脅されていただけで……!」
その言葉に、怯え逃げ惑っていた者達が口々に命乞いを始めた。対照的に、征竜信者らしき武芸者は舌打ちをして、アルベルトから距離を取ろうとする。
それを、もちろん見逃すアルベルトではなかった。あっという間に距離を詰めてシュトルツを抜き放ち、鋭い一撃で斬り伏せる。
周囲の村人らから、歓声が沸いた。うちの幾人かが「あの家にボスが」と、まさにアルベルトが向かっていた家屋を指し示す。
「助かるぜ!」
その期待に、応えねばレイウェストの臣とは言えまい。そんな思いでアルベルトは、一気に家屋へと駆け付けドアを蹴り開けた。
刹那、中からナイフが飛んで来て、アルベルトの頬を浅く切り裂く。ウンボイクザームを掲げてそのまま踏み込めば、カンカン! とナイフの当たる乾いた音が響いた。
だが、もはやアルベルトへは届かない。狭い屋内を目線で探れば、壁際に飛び道具を構えた男が居るのが見えた。
ニッ、唇の端を釣り上げる。
「貴様を討つ!」
「おのれ……ッ!」
それでも男は最後の抵抗を試みようとしたが、その時にはもう目の前に、アルベルトが居た。漆黒の剣が鋭く振り上げられ、振り下ろされる速度は防御する暇すらない。
ザンッ!!
シュトルツの黒き刃が、征竜信者の首を切り落として赤い血の花を咲かせた。そのままどさりと崩れ落ちた身体を無造作に踏み越え、アルベルトはさらに敵を探す。
幾らなんでもこの2人だけという事はあるまい――そう考えて家の奥へと踏み込んだアルベルトへと、魔法の矢が背後から浴びせかけられた。ほぅ、と凶暴な笑みを浮かべて振り返れば、馬鹿な、と相手が慄きを漏らす。
恐らく敵は、乗り込んできたのがアルベルト単騎だと気が付いて、簡単に倒せる相手だと判断していたのだろう。だとすれば、馬鹿は貴様らの方だ、とアルベルトは笑う。
そのまま一気に距離を詰め、いっそ無造作にシュトルツを振り下ろせば、技を使うまでもなく敵はあっさりと崩れ落ちた。容赦なく止めを刺して、その屍も踏み越える。
そうしてアルベルトは村中を駆け巡り、見つけた征竜信者を片端から誅殺して回るのだった。
●
最後の敵を打ち倒し、アルベルトは「よし!」と大きく息を吐いた。
「これで陛下の御生命を狙い、新生帝国の復興を妨げる敵を討つことができた……!」
もちろん、これが最後の過激派征竜信者という事はあるまいと、アルベルトにも解っている。帝国内に潜む過激派信者は少なくとも、征竜信者そのものはロスガリア大陸に数多く存在しているのだから。
――けれども。今、確かにアルベルトは、レイウェストの復興と治世の障害となるであろうテロリスト集団を、1つ討ち果たしたのである。それは、アルベルトに確かな達成感をもたらした。
「騎士様、ありがとうございます……!」
「アルベルト様、レイウェスト陛下、万歳……!」
村人たちの歓喜と感謝の声が、その達成感をより高めた。これからも、主君を脅かさんとする敵はすべて、1つ残らず討ち果たしてみせよう。
シュトルツに強くそう誓いながら、今はこの喜ばしき報を主君へと齎すべく、アルベルトは村を後にした。そうしてヴィントへの最短ルートを、急ぎ駆け始めたのだった。
「レイウェスト皇帝陛下、過激派征竜信者の討伐のご許可を頂きとうございます」
自身の忠実な騎士たるアルベルトの申し出に、レイウェスト・バルダスは緋色の瞳を僅か、思わしげに眇める。それは、戸惑いであるようにアルベルトには見えた。
――シルトラース帝国奪還がなって、そろそろ数ヶ月が過ぎようとしている。レイウェストの現在の拠点たるヴィントを含む、一部の地域や都市ではそれ以前より人類側の勢力圏として復興が進められてきたが、帝都を始めとする大半の地域はまだ復興が始まったばかりか、復興の手のつけようもない地域すらあって。
それらの差配を含めた政に全霊を持って注力する、主君の力にならんとアルベルトもまた、国内の様々に目を光らせていた。そうして――怨敵を見つけたのだ。
「西の街道沿いの村の1つに、彼奴らが潜んでいるとの報がございました」
もちろん、ただそこに居たというだけで犯罪者扱いする訳にはいかない。否、アルベルトにとってはただ存在するのも許し難いのだが、シルトラース帝国は法治国家である。
ゆえに目顔で続きを促すレイウェストに、アルベルトは言葉を続けた。
「その村は、最近になってようやく復興が始まったばかりなのですが――」
その人足の中にどうやら、過激派征竜信者らが紛れ込んでいたらしい。そうして村の子供を人質に取り、信者達の拠点と為して悪逆非道を働いているのだとか。
しかも、村の者に戦闘訓練のようなものまでして、次はヴィントだと息巻いていたという。
「征竜信者どもの狙いは、陛下の御命に相違ありません。ですから、どうか討伐許可を頂きとうございます」
ゆえに、そう深々と頭を下げるアルベルトの脳裏に過るのは、先の戦いにて主君を危険視すると告げ、排除しようとした征竜。――過激派征竜信者は、彼の竜がすでに斃れた今でもなお盲目的に従うテロリストであると、アルベルトは断じていた。
シルトラース帝国は国是として征竜を人類の敵としていた経緯から、基本的に征竜信者自体の数は非常に少なく、活動もし難い土地柄だ。けれども今回の件でも判るように、ゼロではない。
そんな連中を放置していては、征竜の御遺志だとかなんとか抜かしてまたレイウェストの生命を狙い続けるに決まっている。万が一、レイウェストがその凶刃に倒れるような事などあっては、ようやく復興が始まったばかりの新生帝国はこのまま瓦解してしまい、再び多くの帝国民が混乱と苦難の憂き目にあうに違いなかった。
そう――考えるがゆえにアルベルトは、征竜信者を討伐したいと主君へ希う。それに、応えはなかなか返らなかったが。
「――許そう。アルベルト、そなたの事だから大事あるまいが、油断はせぬよう」
「はっ!」
やがて紡がれた許しに、深々と頭を垂れ。主君の前を辞したアルベルトは、瞳に闘志を漲らせて件の村へと向かったのだった。
●
そこは、一見すれば普通の、街道沿いによくありそうな宿場町の様相を呈していた。大半が崩れかけた廃屋や瓦礫の山なのも、1度は滅びた村を再建しようというのだから、何も珍しい光景ではない。
今だ魔獣もクリーパーも跋扈する帝国に在っては、さほど広くはない村をぐるりと囲む頑丈そうな塀や、要所に立つ見張りと思しき者の姿も、さほど奇異ではないだろう。だが、その内実を踏まえた上で観察すれば、おかしな点は幾つでも挙げられた。
見張り役の武具はよく見ればちぐはぐで身の丈に合っていないし、立ち姿もへっぴり腰で、とてもではないが訓練を受けた者の様相ではない。そうして塀の中には、そんな見張り役をさらに見張るように、こちらは見るからに武芸に秀でていると思われる者が居る。
一見すれば、鉄壁の守り。だが――
(穴だらけだぜ)
アルベルトの経験と知識から見れば、それらの警戒は在って無きが如しである。だが油断はせず、離れた場所から注意深く村の様子を窺いアルベルトは、村を制圧するための算段を巡らせた。
順当に考えれば、賊は村落の中でも良い家屋を根城とするだろう。復興が始まったばかりの村であれば、その数も多くはない。
その視点で見れば、取るべき戦略は自ずと定まった。あとは制圧するだけだ。
ゆえにアルベルトはシュトルツの握りを1度確かめ、速やかに行動を開始する。即ち、警備の隙を突いての強行突破だ。
漆黒を身に纏い、遠目にも剣呑なアルベルトを目にした見張り役が、ビクッ、と怯えたように槍を構えた。だがその頃にはすでに雌雄は決している。
瞬く間に見張り役を戦闘不能にしたアルベルトは、そのまま村の門を突破した。途端、村の人々の動きが2つに分かれる――怯え逃げ惑う者と、アルベルトを明確な敵と見做す者に。
過激派征竜信者は須らくアルベルトの敵だが、無辜の村人はレイウェストの臣民だ、出来るだけ被害は抑えるべきだろう。目星をつけた家屋へと奔りつつ、すぅ、とアルベルトは大音声を張り上げた。
「征竜信者ども!!」
その声は緊張感満ちる空気を震わせ、狭い村の隅々まで響き渡る。
「未だに征竜の遺志に従い、行動を続けて人類の間引き及びレイウェスト陛下の排除を試みる貴様等を放置することはできない! レイウェスト陛下の騎士として、貴様等テロリストを討つ!」
「ひ……ッ、お助けを……!」
「わしらは脅されていただけで……!」
その言葉に、怯え逃げ惑っていた者達が口々に命乞いを始めた。対照的に、征竜信者らしき武芸者は舌打ちをして、アルベルトから距離を取ろうとする。
それを、もちろん見逃すアルベルトではなかった。あっという間に距離を詰めてシュトルツを抜き放ち、鋭い一撃で斬り伏せる。
周囲の村人らから、歓声が沸いた。うちの幾人かが「あの家にボスが」と、まさにアルベルトが向かっていた家屋を指し示す。
「助かるぜ!」
その期待に、応えねばレイウェストの臣とは言えまい。そんな思いでアルベルトは、一気に家屋へと駆け付けドアを蹴り開けた。
刹那、中からナイフが飛んで来て、アルベルトの頬を浅く切り裂く。ウンボイクザームを掲げてそのまま踏み込めば、カンカン! とナイフの当たる乾いた音が響いた。
だが、もはやアルベルトへは届かない。狭い屋内を目線で探れば、壁際に飛び道具を構えた男が居るのが見えた。
ニッ、唇の端を釣り上げる。
「貴様を討つ!」
「おのれ……ッ!」
それでも男は最後の抵抗を試みようとしたが、その時にはもう目の前に、アルベルトが居た。漆黒の剣が鋭く振り上げられ、振り下ろされる速度は防御する暇すらない。
ザンッ!!
シュトルツの黒き刃が、征竜信者の首を切り落として赤い血の花を咲かせた。そのままどさりと崩れ落ちた身体を無造作に踏み越え、アルベルトはさらに敵を探す。
幾らなんでもこの2人だけという事はあるまい――そう考えて家の奥へと踏み込んだアルベルトへと、魔法の矢が背後から浴びせかけられた。ほぅ、と凶暴な笑みを浮かべて振り返れば、馬鹿な、と相手が慄きを漏らす。
恐らく敵は、乗り込んできたのがアルベルト単騎だと気が付いて、簡単に倒せる相手だと判断していたのだろう。だとすれば、馬鹿は貴様らの方だ、とアルベルトは笑う。
そのまま一気に距離を詰め、いっそ無造作にシュトルツを振り下ろせば、技を使うまでもなく敵はあっさりと崩れ落ちた。容赦なく止めを刺して、その屍も踏み越える。
そうしてアルベルトは村中を駆け巡り、見つけた征竜信者を片端から誅殺して回るのだった。
●
最後の敵を打ち倒し、アルベルトは「よし!」と大きく息を吐いた。
「これで陛下の御生命を狙い、新生帝国の復興を妨げる敵を討つことができた……!」
もちろん、これが最後の過激派征竜信者という事はあるまいと、アルベルトにも解っている。帝国内に潜む過激派信者は少なくとも、征竜信者そのものはロスガリア大陸に数多く存在しているのだから。
――けれども。今、確かにアルベルトは、レイウェストの復興と治世の障害となるであろうテロリスト集団を、1つ討ち果たしたのである。それは、アルベルトに確かな達成感をもたらした。
「騎士様、ありがとうございます……!」
「アルベルト様、レイウェスト陛下、万歳……!」
村人たちの歓喜と感謝の声が、その達成感をより高めた。これからも、主君を脅かさんとする敵はすべて、1つ残らず討ち果たしてみせよう。
シュトルツに強くそう誓いながら、今はこの喜ばしき報を主君へと齎すべく、アルベルトは村を後にした。そうしてヴィントへの最短ルートを、急ぎ駆け始めたのだった。
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メアリー王女が冒険者達の協力を得て稼働させた「王家の耳」。メアリーは無作為に集まってくる情報を、余人に及びもつかぬ閃きを持って分析しながら、今日も世界の動きへ耳を傾けている。
集まった情報の中には、世界の情勢に影響はないかもしれないが興味深い個人の記録があるかもしれない。