【DA】リーンエスの耳
●鑑定
ヴィルヘルミナは鍛冶の腕前が上がったと実感し、神匠や匠王の背中も少し見えてきた――という心持ちも生じる。一方で、足りないものがあるとも考える。
鍛冶も武も十全であってこそ一人前、という部族の気風に則り、経験を積み今に至った。
部族の始祖の教え「一面だけを見ても武器の理はつかめぬ」を冒険者の活動を通じ学ぶ。その教えが理解できていくにつれて、成長を感じられる。そこからまた別の己に足りないものに気付く。
それが身についたならば神匠や匠王に追いつくことはできる――だろうか?
「シグちゃんと話せればいいですが……」
鍛冶の腕を王匠にどうみられるか、足りないものに対する考え等を話したい。シグルランとは冒険者ギルドの依頼の時、話すことはあっても、それ以外ではなかなか会って話すことはなかった。
今回は個人的に訪ねようと考えたが、どこにいるか首をひねる。
ドワーフ王国にある工房にいるのか、何等かの酒場にいるのか、全く違うところにいるのか――前もって連絡とるのも時間がかかる。
そのため、手がかりがありそうだし、いることを信じて、ドワーフ王国の工房に向かった。
工房から鋼を打つ音が響き、合間に会話のような声も聞こえる。
シグルランがいることを願いつつ、
「こんにちは」
と、ヴィルヘルミナは声をかけ、工房に入る。火が使われており、熱気が頬を撫でる。
訪問者を見るように顔をあげたシグルランが「あれ、ミーナじゃん、おひさー」と手を振る。
ヴィルヘルミナはそれに手を振り返し、
「お久しぶりです、シグちゃん。お邪魔ではありませんか?」
と、念のため尋ねた。
シグルランは「全然ヘーキ」と、作業用のグローブを外し、「あっちに行こう」と座れる場所に移動していく。
ヴィルヘルミナは何の作業をしていたか気になるため、通り過ぎる際に見た。作りかけの何かがそこにおかれているが、何かよく分からない。
待たせるのもよくないと、シグルランがいる方に急ぐ。
シグルランは椅子に座り「そこに座れば」と、近くの椅子を指さす。
ヴィルヘルミナが座ると「で、最近どーお?」と問いかける。
「そうですね……」
ポツポツとヴィルヘルミナは話す。冒険者としてどこに行ったかや、どういうことがあったか。
シグルランは「へー、ホッント、あっちこっち行ってるねー」と感心する。
「シグちゃんも、結構、行ってるんじゃないですか?」
「まー、必要に駆られて? 行きたいから行くし」
シグルランは笑う。
ヴィルヘルミナは「そうですか」と微笑む。
「シグちゃんは何を作っていたんですか?」
「ナニかになるナニか」
「ええ?」
「この辺りをバーンってしたらカッケーかもって思ったり?」
作りかけの金具を持ちながら説明され、ヴィルヘルミナは「なるほど」というにとどめた。
抽象的過ぎるし、形にもなっていないため、さっぱりわからないから。
シグルランはちょっと真面目な顔になる。
「アタシのことはさておき、今日ここに来たのは、何か武器の案があるとか?」
「あ、いや、これ見てどうでしょうか」
ヴィルヘルミナは比較最近打った一振りのナイフを差し出した。
シグルランの視線が鋭くなった。
受け取り、鞘から抜き、刃の状況を見る。
表から裏から、柄の方から、角度を変えてとらえていく。
「なかなかよさそーなカンジー」
シグルランは細かく言わず、ヴィルヘルミナに話を促した。
「シグちゃんから見て、それはどういう感じでしょうか」
「キソをしっかり押さえて、しっかりつくってるよね」
ヴィルヘルミナは自分が不足と考えている所につながるコメントに納得し、落胆もする。
「それは私がつくりました」
「まーそーだとは思ったよ。ということでー、キソ以上にしっかりと芯を捉えて打たれているし、研ぎの角度もいい。簡単に刃こぼれしないし、切りたいところは切れる。大は小を兼ねるじゃなくて、適材適所の使い方ができる代物だ――って、いうことを聞きたいわけじゃないよねー」
ヴィルヘルミナは褒められている点は嬉しくなるが、心を見透かされているようでちょっと居心地が悪くなる。
「その通りです。実は――」
話を切り出した。
「まだ若く青いので見識や閃きが色々足りていないと思っています」
シグルランは「えー、そんなモンかな?」とつぶやく、ヴィルヘルミナは続けた。
「ナイフとかちょっとしたものでも他の方との違いが出るのかどうか……気になります」
「ナイフから見えたことと、ミーナって人を関わらせるとアタシは納得した」
「しかし、そのナイフを私が渡さず、他の人が鑑定してくれと持ってきて、私が作ったものだと分かるものでしょうか?」
「ミーナがつくったのをたくさん見せてくれたら、わかるかもよ?」
ヴィルヘルミナは「これからです」と真面目に答える。
「これまで作ってきたものはあります。このレベルとなると……これからです」
「そうかー」
シグルランは腕を組む。
「ここまで来たってことはいいことだし、それはこれからかー。でもさ、ああいったけど、ミーナと結びつかない打ち方ってことだってある。いや、それもミーナらしさ? ってか、さっきカンソーも十分アンタらしさがあるって言ってるよね、アタシ!」
ヴィルヘルミナは「ありがとうございます」とお礼を述べる。
「これからってのものジジツじゃん。ミーナも言ったけど、鍛冶屋としてやっていくのはここからが本番。そー考えれば、武器見てミーナらしさが知れ渡るのもこれから」
「そうなれるように、努力したいです」
「で、青いとか、ケンシキとか? そんなん、年齢カンケーないじゃん」
「年を重ねれば、知識も経験も増えますし」
「増えるっちゃー増えるけど、養える判断力って別じゃん。それに、ミーナと同じことしても、国から出ないで鍛冶だけに打ち込んでも、得られるモン全く違うし。で、ずーっと、武器と向き合っていいモンが作れるかとか、ミーナみたいに行動しろってのも、また別じゃない?」
そういわれたら、その通りだとヴィルヘルミナは思う。
得られる経験や知識、そこから身につく判断力は人によって違う。
ヴィルヘルミナは鍛冶とウォーリアの研鑽に務めている自身のことを思い返す。
「武器を知らなければ、作ることは難しいですし、応用を利かせることもままなりません」
「そーなると知識はいるかもしれないけど、閃きって違うところから出るもんじゃん」
「んー、そうですか?」
「だってさー、邪竜が暴れてヤッベってなったとき、アタシら何をした? 武器を考えてつくったわけじゃん? 閃きってどこで出るかって、切羽詰まったとき?」
ヴィルヘルミナは「ええと」と困惑する。
「切羽詰まるよりも、持っている知識もなければ作れなくないですか? 相手がどういうものか知って、どうすれば私たちが攻撃できるかとか考える……とかです」
シグルランは「そーなると、見識は重要か」と眉間にしわがググッと寄った。
「でもさ、武器をこうしたいって考えるんだったら、若くて青くてもできるじゃん。敵を見て判断するわけだし。冒険者に広くアイデア募ったり、色々して作ることもある。むしろ、年寄りでこうあるべきだってなってダメって奴もいる。アタシはそうなりたくはないけどね!」
シグルランは笑う。
「ケンシキは必要あるとして、若くて青いは関係ないじゃん?」
シグルランはナイフを丁寧に見て、いとおしそうに鞘に戻し、ヴィルヘルミナに返した。
返されたナイフをヴィルヘルミナは胸に抱いた。
「アタシには、気になることがあるんだけどー?」
シグルランがいじわるそうな光を目に浮かべた。
●鍛冶と王位と
「冒険者としての活動が落ち着いたら、ミーナはどうするの?」
シグルランの問いかけにヴィルヘルミナは横に首を振る。
「まだ、考えてはいませんが……今は大切な人と一緒にいるのが優先なので」
「それはそれでいーじゃん。聞き方を変えよう。このままいったら鍛冶を究めて、アタシを越えるかもしれない。アタシはそう思う。そしたら王の座は狙うの?」
「……ああ、それは――」
ヴィルヘルミナは出身の部族でも、族長候補の一人となっている。授恵者であるということもあるからだ。
また、鍛冶を究め、その高みを目指していくとなると、族長どころか王の座も見えてくる。シグルランがそうであるように、鍛冶の能力は王と直結するから。
族長の座も興味は希薄だった。ただ、王の座となると、また話は別だった。
シグルランと出会い、国を知り、世界や施政者を見て、色々考える。
「興味はありますが……先程も言いましたように大切な人と一緒にいるのが今は優先です」
「なんで?」
「えっと、その人とは寿命の差もあるので、いずれ見送ることになると思うからです」
シグルランは「そっか」とつぶやく。
「私は今とさほど変わらず、相手だけが老いてゆく事を嫌でも知る事になるでしょうし。今を大事にしたいです。王を目指すなら、大きな寄り道かもしれませんが」
「なるほどね」
「はい。王の座を甘く見ているというわけではないんですが……何が何でもなりたいと貪欲にさを持つことはできません」
シグルランは「それでいーんじゃない」という。
「じゃんじゃん人とはかかわった方が。種族違うとかだけじゃなくて、アタシたちだって何がどうなるかわからないしー、大体、楽しいとか、嬉しいとか、大切じゃん」
「そういうものですかね」
「そーそー。ミーナがしたいことはしないと、それこそ、閃きも見識もついてこないよ」
人とのつながりも経験だ。そこで培われる判断力、知識……たくさんあろう。
「武器作ったり、誰かと何かしたり、とまー、結局さ、色々やってみなきゃ、わからないこともたくさんあるし」
ヴィルヘルミナはシグルランの言葉を考える。
経験と知識、年齢の関係を。
冒険者として各地を周り、多くの人と出会った。
戦うすべを覚え、身を鍛え、そして、武器を知り鍛冶の腕をあげる。
色々なことがつながり、ヴィルヘルミナを作り上げている。
「王を目指すだけなら、まだまだ時間はある訳で。なれるかどうかは別として……」
「平行するんじゃなくて、ぜーんぶ、目指すためのモンじゃないの」
「え?」
「うーん、ほら、えとー……ケンシキにつながるから」
シグルランは説明に悩んだらしく、ざっくりいう。
ヴィルヘルミナはシグルランが「色々やってみないと分からない」と言ったことだろうととらえる。
「今、出来ることをして、目標を見失わないように進めばいいんですね」
シグルランはきょとんとした後、ヴィルヘルミナの背中をたたく。
「カァァア、堅苦しいけど!! まー、ミーナはミーナだし。そーそー、やってみないとわかんないって。武器作るのだってそーだし。材料を吟味して、どう打つか考えても、火の加減や力のかけ方で変わってくるし。そこから、何ができるかなんてさ!」
経験していくことで対応できることは増える。
武器を作っている最中に何が起こるかわからない。空気の熱さ、水気の多さなどとらえて考えて、これが最良だと思ってもうまくいかない場合だってある。
武器つくりだけでなく、人生も同じ、か。
「あの……今、持っている武器は、少し前に作ったものです。普段は刀です」
ヴィルヘルミナは月喰いを台の上に置く。少し鞘から出すと、白銀の刃が現れる。
ただし、刃はつぶされている。
「岩のように固い相手とか、避けるとか気にしない巨大な化物を相手取る時の代物です」
シグルランは手に取る。
「使う方も選ぶけどさ、作る方も並みじゃできないし」
どうやって火に収めるのか、どうやってこの大きさを叩くか。
刃が大きければ大きいほど打つ方は見て感じる範囲が広がる。
ヴィルヘルミナは悔しそうにつぶやく。
「剣の形をした鈍器。武器としての完成度は今一つです」
「前も言ってたよねー、大は小を兼ねねーモンだって」
「そうですね……道具を選ぶように武器も選ぶものだと思います」
「じゃあ、これをどうしたい? もっと刃を鋭くする? そうすれば、置くだけで重さで切れる。それを扱うための技量も必要になる」
武器を作る側だけでなく、使う側にも力を求める。
「すぐに答え出たら、クローしないって」
シグルランはヴェルヘルミナをなだめる。
「焦ったってしょーがない。それこそ、閃きは見識じゃん? あれ? 青さと若さは、まーカンケーないけど……」
シグルランの思考が混乱しているようだったが、ヴィルヘルミナは笑う。
「いえ、結局、関係しているし、していない点もあるってわかりました」
悩むけれども、それはそれだ、と。
「あとはどんなに鉱石を吟味して、技術の粋を尽くしても天然物には敵わないのが、モヤモヤする部分ではあります。武器がエーテルの容れ物を作っているようなものとはいえ」
「鉱石だって色々あるんだし、何かでこうドーンと越えることもあるかもしれない!」
「いつかヒトの知恵や技術がそれらを超えていく事ができるのでしょうか」
「そのために、あれこれやってんじゃん」
シグルランは先ほどまで作っていた何かの武器になるらしいものを見せる。
ヴィルヘルミナは「そうですね」とうなずいた。
シグルランが立ち上がる。
「ところで、何も飲まないで一気にしゃべって来たし、喉を潤そう」
「いいですね。ここに来る前にこういうのを買ったんですよ。あと、これは途中の街で見つけたもので美味しそうですよね」
「おお、うまそー」
シグルランは工房の奥の部屋に行く。
そこには大きなテーブルや椅子があると同時に、酒が入った樽もあった。
「そう、ちょうどこれがあったんだ。ミーナはちょうどいい時に来た」
「どこのお酒ですか」
樽に捺された刻印を見つつ、シグルランの説明を聞く。
「ああ、あそこの蒸留酒ですか。いいですね」
「早速、飲もう」
シグルランはカップをいそいそと取り出し、ヴィルヘルミナにも渡す。
「ミーナの悩みが解決したことを願って、カンパーイ!」
「え? ええっ!? それですか。カンパーイ」
とはいえ、カップを掲げ酒を飲み干す。
酒は喉を潤していき、胃を満たしていく。
話をしているときは気付いていなかった喉の渇き。
「おいしいですね」
「そだね。ミーナが買ってきたのはどんなの」
「注ぎますね」
注がれた酒をシグルランは嗅ぎ、飲む。
ヴィルヘルミナは食べ物の方の包みを解く。
「こちらを出しておきます」
シグルランが手を伸ばし、口に運ぶ。
「この塩気がいい。これに合わせて買った?」
「ちょっと考えました」
ヴィルヘルミナも自身が買って来た酒とつまみを飲食する。
「ちょうどいい塩梅でよかったです」
工房にいた人たちも、シグルランを追うようにやってくる。
酒の入った器やつまみになる料理類を持って。
酒と料理が増える。
特に拒む理由もないため、にぎやかな酒の席になっていくのだった。
ヴィルヘルミナは鍛冶の腕前が上がったと実感し、神匠や匠王の背中も少し見えてきた――という心持ちも生じる。一方で、足りないものがあるとも考える。
鍛冶も武も十全であってこそ一人前、という部族の気風に則り、経験を積み今に至った。
部族の始祖の教え「一面だけを見ても武器の理はつかめぬ」を冒険者の活動を通じ学ぶ。その教えが理解できていくにつれて、成長を感じられる。そこからまた別の己に足りないものに気付く。
それが身についたならば神匠や匠王に追いつくことはできる――だろうか?
「シグちゃんと話せればいいですが……」
鍛冶の腕を王匠にどうみられるか、足りないものに対する考え等を話したい。シグルランとは冒険者ギルドの依頼の時、話すことはあっても、それ以外ではなかなか会って話すことはなかった。
今回は個人的に訪ねようと考えたが、どこにいるか首をひねる。
ドワーフ王国にある工房にいるのか、何等かの酒場にいるのか、全く違うところにいるのか――前もって連絡とるのも時間がかかる。
そのため、手がかりがありそうだし、いることを信じて、ドワーフ王国の工房に向かった。
工房から鋼を打つ音が響き、合間に会話のような声も聞こえる。
シグルランがいることを願いつつ、
「こんにちは」
と、ヴィルヘルミナは声をかけ、工房に入る。火が使われており、熱気が頬を撫でる。
訪問者を見るように顔をあげたシグルランが「あれ、ミーナじゃん、おひさー」と手を振る。
ヴィルヘルミナはそれに手を振り返し、
「お久しぶりです、シグちゃん。お邪魔ではありませんか?」
と、念のため尋ねた。
シグルランは「全然ヘーキ」と、作業用のグローブを外し、「あっちに行こう」と座れる場所に移動していく。
ヴィルヘルミナは何の作業をしていたか気になるため、通り過ぎる際に見た。作りかけの何かがそこにおかれているが、何かよく分からない。
待たせるのもよくないと、シグルランがいる方に急ぐ。
シグルランは椅子に座り「そこに座れば」と、近くの椅子を指さす。
ヴィルヘルミナが座ると「で、最近どーお?」と問いかける。
「そうですね……」
ポツポツとヴィルヘルミナは話す。冒険者としてどこに行ったかや、どういうことがあったか。
シグルランは「へー、ホッント、あっちこっち行ってるねー」と感心する。
「シグちゃんも、結構、行ってるんじゃないですか?」
「まー、必要に駆られて? 行きたいから行くし」
シグルランは笑う。
ヴィルヘルミナは「そうですか」と微笑む。
「シグちゃんは何を作っていたんですか?」
「ナニかになるナニか」
「ええ?」
「この辺りをバーンってしたらカッケーかもって思ったり?」
作りかけの金具を持ちながら説明され、ヴィルヘルミナは「なるほど」というにとどめた。
抽象的過ぎるし、形にもなっていないため、さっぱりわからないから。
シグルランはちょっと真面目な顔になる。
「アタシのことはさておき、今日ここに来たのは、何か武器の案があるとか?」
「あ、いや、これ見てどうでしょうか」
ヴィルヘルミナは比較最近打った一振りのナイフを差し出した。
シグルランの視線が鋭くなった。
受け取り、鞘から抜き、刃の状況を見る。
表から裏から、柄の方から、角度を変えてとらえていく。
「なかなかよさそーなカンジー」
シグルランは細かく言わず、ヴィルヘルミナに話を促した。
「シグちゃんから見て、それはどういう感じでしょうか」
「キソをしっかり押さえて、しっかりつくってるよね」
ヴィルヘルミナは自分が不足と考えている所につながるコメントに納得し、落胆もする。
「それは私がつくりました」
「まーそーだとは思ったよ。ということでー、キソ以上にしっかりと芯を捉えて打たれているし、研ぎの角度もいい。簡単に刃こぼれしないし、切りたいところは切れる。大は小を兼ねるじゃなくて、適材適所の使い方ができる代物だ――って、いうことを聞きたいわけじゃないよねー」
ヴィルヘルミナは褒められている点は嬉しくなるが、心を見透かされているようでちょっと居心地が悪くなる。
「その通りです。実は――」
話を切り出した。
「まだ若く青いので見識や閃きが色々足りていないと思っています」
シグルランは「えー、そんなモンかな?」とつぶやく、ヴィルヘルミナは続けた。
「ナイフとかちょっとしたものでも他の方との違いが出るのかどうか……気になります」
「ナイフから見えたことと、ミーナって人を関わらせるとアタシは納得した」
「しかし、そのナイフを私が渡さず、他の人が鑑定してくれと持ってきて、私が作ったものだと分かるものでしょうか?」
「ミーナがつくったのをたくさん見せてくれたら、わかるかもよ?」
ヴィルヘルミナは「これからです」と真面目に答える。
「これまで作ってきたものはあります。このレベルとなると……これからです」
「そうかー」
シグルランは腕を組む。
「ここまで来たってことはいいことだし、それはこれからかー。でもさ、ああいったけど、ミーナと結びつかない打ち方ってことだってある。いや、それもミーナらしさ? ってか、さっきカンソーも十分アンタらしさがあるって言ってるよね、アタシ!」
ヴィルヘルミナは「ありがとうございます」とお礼を述べる。
「これからってのものジジツじゃん。ミーナも言ったけど、鍛冶屋としてやっていくのはここからが本番。そー考えれば、武器見てミーナらしさが知れ渡るのもこれから」
「そうなれるように、努力したいです」
「で、青いとか、ケンシキとか? そんなん、年齢カンケーないじゃん」
「年を重ねれば、知識も経験も増えますし」
「増えるっちゃー増えるけど、養える判断力って別じゃん。それに、ミーナと同じことしても、国から出ないで鍛冶だけに打ち込んでも、得られるモン全く違うし。で、ずーっと、武器と向き合っていいモンが作れるかとか、ミーナみたいに行動しろってのも、また別じゃない?」
そういわれたら、その通りだとヴィルヘルミナは思う。
得られる経験や知識、そこから身につく判断力は人によって違う。
ヴィルヘルミナは鍛冶とウォーリアの研鑽に務めている自身のことを思い返す。
「武器を知らなければ、作ることは難しいですし、応用を利かせることもままなりません」
「そーなると知識はいるかもしれないけど、閃きって違うところから出るもんじゃん」
「んー、そうですか?」
「だってさー、邪竜が暴れてヤッベってなったとき、アタシら何をした? 武器を考えてつくったわけじゃん? 閃きってどこで出るかって、切羽詰まったとき?」
ヴィルヘルミナは「ええと」と困惑する。
「切羽詰まるよりも、持っている知識もなければ作れなくないですか? 相手がどういうものか知って、どうすれば私たちが攻撃できるかとか考える……とかです」
シグルランは「そーなると、見識は重要か」と眉間にしわがググッと寄った。
「でもさ、武器をこうしたいって考えるんだったら、若くて青くてもできるじゃん。敵を見て判断するわけだし。冒険者に広くアイデア募ったり、色々して作ることもある。むしろ、年寄りでこうあるべきだってなってダメって奴もいる。アタシはそうなりたくはないけどね!」
シグルランは笑う。
「ケンシキは必要あるとして、若くて青いは関係ないじゃん?」
シグルランはナイフを丁寧に見て、いとおしそうに鞘に戻し、ヴィルヘルミナに返した。
返されたナイフをヴィルヘルミナは胸に抱いた。
「アタシには、気になることがあるんだけどー?」
シグルランがいじわるそうな光を目に浮かべた。
●鍛冶と王位と
「冒険者としての活動が落ち着いたら、ミーナはどうするの?」
シグルランの問いかけにヴィルヘルミナは横に首を振る。
「まだ、考えてはいませんが……今は大切な人と一緒にいるのが優先なので」
「それはそれでいーじゃん。聞き方を変えよう。このままいったら鍛冶を究めて、アタシを越えるかもしれない。アタシはそう思う。そしたら王の座は狙うの?」
「……ああ、それは――」
ヴィルヘルミナは出身の部族でも、族長候補の一人となっている。授恵者であるということもあるからだ。
また、鍛冶を究め、その高みを目指していくとなると、族長どころか王の座も見えてくる。シグルランがそうであるように、鍛冶の能力は王と直結するから。
族長の座も興味は希薄だった。ただ、王の座となると、また話は別だった。
シグルランと出会い、国を知り、世界や施政者を見て、色々考える。
「興味はありますが……先程も言いましたように大切な人と一緒にいるのが今は優先です」
「なんで?」
「えっと、その人とは寿命の差もあるので、いずれ見送ることになると思うからです」
シグルランは「そっか」とつぶやく。
「私は今とさほど変わらず、相手だけが老いてゆく事を嫌でも知る事になるでしょうし。今を大事にしたいです。王を目指すなら、大きな寄り道かもしれませんが」
「なるほどね」
「はい。王の座を甘く見ているというわけではないんですが……何が何でもなりたいと貪欲にさを持つことはできません」
シグルランは「それでいーんじゃない」という。
「じゃんじゃん人とはかかわった方が。種族違うとかだけじゃなくて、アタシたちだって何がどうなるかわからないしー、大体、楽しいとか、嬉しいとか、大切じゃん」
「そういうものですかね」
「そーそー。ミーナがしたいことはしないと、それこそ、閃きも見識もついてこないよ」
人とのつながりも経験だ。そこで培われる判断力、知識……たくさんあろう。
「武器作ったり、誰かと何かしたり、とまー、結局さ、色々やってみなきゃ、わからないこともたくさんあるし」
ヴィルヘルミナはシグルランの言葉を考える。
経験と知識、年齢の関係を。
冒険者として各地を周り、多くの人と出会った。
戦うすべを覚え、身を鍛え、そして、武器を知り鍛冶の腕をあげる。
色々なことがつながり、ヴィルヘルミナを作り上げている。
「王を目指すだけなら、まだまだ時間はある訳で。なれるかどうかは別として……」
「平行するんじゃなくて、ぜーんぶ、目指すためのモンじゃないの」
「え?」
「うーん、ほら、えとー……ケンシキにつながるから」
シグルランは説明に悩んだらしく、ざっくりいう。
ヴィルヘルミナはシグルランが「色々やってみないと分からない」と言ったことだろうととらえる。
「今、出来ることをして、目標を見失わないように進めばいいんですね」
シグルランはきょとんとした後、ヴィルヘルミナの背中をたたく。
「カァァア、堅苦しいけど!! まー、ミーナはミーナだし。そーそー、やってみないとわかんないって。武器作るのだってそーだし。材料を吟味して、どう打つか考えても、火の加減や力のかけ方で変わってくるし。そこから、何ができるかなんてさ!」
経験していくことで対応できることは増える。
武器を作っている最中に何が起こるかわからない。空気の熱さ、水気の多さなどとらえて考えて、これが最良だと思ってもうまくいかない場合だってある。
武器つくりだけでなく、人生も同じ、か。
「あの……今、持っている武器は、少し前に作ったものです。普段は刀です」
ヴィルヘルミナは月喰いを台の上に置く。少し鞘から出すと、白銀の刃が現れる。
ただし、刃はつぶされている。
「岩のように固い相手とか、避けるとか気にしない巨大な化物を相手取る時の代物です」
シグルランは手に取る。
「使う方も選ぶけどさ、作る方も並みじゃできないし」
どうやって火に収めるのか、どうやってこの大きさを叩くか。
刃が大きければ大きいほど打つ方は見て感じる範囲が広がる。
ヴィルヘルミナは悔しそうにつぶやく。
「剣の形をした鈍器。武器としての完成度は今一つです」
「前も言ってたよねー、大は小を兼ねねーモンだって」
「そうですね……道具を選ぶように武器も選ぶものだと思います」
「じゃあ、これをどうしたい? もっと刃を鋭くする? そうすれば、置くだけで重さで切れる。それを扱うための技量も必要になる」
武器を作る側だけでなく、使う側にも力を求める。
「すぐに答え出たら、クローしないって」
シグルランはヴェルヘルミナをなだめる。
「焦ったってしょーがない。それこそ、閃きは見識じゃん? あれ? 青さと若さは、まーカンケーないけど……」
シグルランの思考が混乱しているようだったが、ヴィルヘルミナは笑う。
「いえ、結局、関係しているし、していない点もあるってわかりました」
悩むけれども、それはそれだ、と。
「あとはどんなに鉱石を吟味して、技術の粋を尽くしても天然物には敵わないのが、モヤモヤする部分ではあります。武器がエーテルの容れ物を作っているようなものとはいえ」
「鉱石だって色々あるんだし、何かでこうドーンと越えることもあるかもしれない!」
「いつかヒトの知恵や技術がそれらを超えていく事ができるのでしょうか」
「そのために、あれこれやってんじゃん」
シグルランは先ほどまで作っていた何かの武器になるらしいものを見せる。
ヴィルヘルミナは「そうですね」とうなずいた。
シグルランが立ち上がる。
「ところで、何も飲まないで一気にしゃべって来たし、喉を潤そう」
「いいですね。ここに来る前にこういうのを買ったんですよ。あと、これは途中の街で見つけたもので美味しそうですよね」
「おお、うまそー」
シグルランは工房の奥の部屋に行く。
そこには大きなテーブルや椅子があると同時に、酒が入った樽もあった。
「そう、ちょうどこれがあったんだ。ミーナはちょうどいい時に来た」
「どこのお酒ですか」
樽に捺された刻印を見つつ、シグルランの説明を聞く。
「ああ、あそこの蒸留酒ですか。いいですね」
「早速、飲もう」
シグルランはカップをいそいそと取り出し、ヴィルヘルミナにも渡す。
「ミーナの悩みが解決したことを願って、カンパーイ!」
「え? ええっ!? それですか。カンパーイ」
とはいえ、カップを掲げ酒を飲み干す。
酒は喉を潤していき、胃を満たしていく。
話をしているときは気付いていなかった喉の渇き。
「おいしいですね」
「そだね。ミーナが買ってきたのはどんなの」
「注ぎますね」
注がれた酒をシグルランは嗅ぎ、飲む。
ヴィルヘルミナは食べ物の方の包みを解く。
「こちらを出しておきます」
シグルランが手を伸ばし、口に運ぶ。
「この塩気がいい。これに合わせて買った?」
「ちょっと考えました」
ヴィルヘルミナも自身が買って来た酒とつまみを飲食する。
「ちょうどいい塩梅でよかったです」
工房にいた人たちも、シグルランを追うようにやってくる。
酒の入った器やつまみになる料理類を持って。
酒と料理が増える。
特に拒む理由もないため、にぎやかな酒の席になっていくのだった。
assignment【DA】史実ノベル 関連特設ページ
メアリー王女が冒険者達の協力を得て稼働させた「王家の耳」。メアリーは無作為に集まってくる情報を、余人に及びもつかぬ閃きを持って分析しながら、今日も世界の動きへ耳を傾けている。
集まった情報の中には、世界の情勢に影響はないかもしれないが興味深い個人の記録があるかもしれない。