【DA】リーンエスの耳
トゥーリ/ アストリッド・リーヴァイス
『ノベルタイトル:墓標、白き追憶』弓月 蒼
●彼女の戦場
それは、天上の星だった。
白く眩く輝きながら、時に明るく、時に破天荒に、時に騒動を引き起こしながら。
けれどその正しさの信じるままに。その歩みの迷わぬままに。
ただ真っ直ぐに。誰恥じる所なく。自らが為すべき事を為して墜ちた一条の、星。
その輝きを追いかけていた人々にとって、降って湧いた現実は受け止めるには重過ぎて。
彼女もまたそんな1人だった。認めたくなかった事を、認めるには長い時間が掛かった。
どう決別したら良いか分からない日々が続いた。混乱と動揺と迷走があった。
どちらを向いて良いのか。何処を目指したら良いのか。自分の中の正しさと向き合わなければならなかった。
そうして気付いたら世界の危機がやって来て、彼女は同族を護る為。想い人を護る為。
出来ない理由を出来る限り削ぎ落して駆け抜けて。それが正しかったのか、今も分からないままでいる。
■
王国北方辺境――――『城塞都市』ノストガルデン。
その中央。辺境伯領執政府の1階には、かなり広い範囲で北方辺境騎士団の業務区画が設けられている。
勿論、『騎士団』である以上その本懐は、政務補助としての治安維持を目的とした武力装置である訳だが。
一方王国全体の問題として文官の不足が嘆かれる昨今。遊ばせておける人材など一人も居らず。
同組織へ幹部待遇での就職を決めた『双星』トゥーリもまた当然の如く。その多聞に漏れる事は無い。
「うえぇ……目がチカチカする……」
ぐったりと、専用の机に両手で伏すと。左右に積まれた綿紙の束が傾いた。
何と言っても慣れない作業。慣れない読み書き。そして慣れない専門用語の数々である。
北方辺境伯領は家格相応に、東西に広い領土を誇っており領民からの陳情や相談も多い。
それら公務の到達地点であり、認可機関でもある領執政府には日々絶えず書類が郵送されて来る。
領主業とはそれら書類に逐一目を通し、要不要を判断し、予算を付け、場合によっては対策を練る。
そう言った領内で起きる難題、課題、問題への逐次対応と、その最終判断に重きが置かれている。
では領主がそれを効率的に果たせる様に、領主に判断を仰ぐ前の段階の整理、分類分け、一次判断を。
一体誰が担うかと言えば“騎士団幹部”に他ならない。北方辺境に専属文官を雇える程の余裕は無いのだ。
「午前最後の部来ました!」「1番箱は1番机に、2番箱は2か3番机、3番箱は奥に持って行け!」
「小隊長、赤封筒が来ています!」「何!? 赤封筒は最優先だ、幹部席の書類箱に載せておけ!」
机の書類の一番上に赤い封筒が載せられる。これは緊急対応案件の証だ。
封を切ると、帝国難民帰還後の緊急保護設備解体経過について。残留民と揉めているとの記載がある。
確かに。『王国』は“帝都崩壊”後に帝国から脱出した難民達を国内で保護して来た。
緊急予算も組み支援活動に従事して来たが、帝国再興が始まった以上それらは削られつつある。
『王国』内に残留を決めた難民達は、ここからほぼ裸一貫で郷に従う必要がある訳だが。
突然これまで受けられていた支援が打ち切られ、隣人と並んで働けと言われれば揉め事も起きる。
(当たり前の事――――特に、この『王国』では)
書類に記載された、“帝国出身の半獣人労働者”の一文からも、内実が透けて見える。
ここは唯人の国だ。異種族に対しては根強く、そして根深い差別意識がある。
国家の支配階級である『貴族』がそうなのだから、庶民も自然とその前提で訴えを投げる。
同じ立場で自分が唯人、相手が半獣人なら、貴族は自分たちに味方してくれる筈、と考える訳だ。
卑怯、とは言うまい。代々続いて来た“常識的”な考え方なのだから個人を責めても何にもならない。
ただ。忸怩たる想いはある。半獣人が何をした訳でも無い。彼らは何も悪くはない。
にも拘わらず、理不尽にも虐げられそれが“常識だ”と言われて納得出来る訳もない。
(……要現場確認、と)
一筆加えて処理済みの箱に移すと、あとは家令団が適宜辺境伯の下へと運んでくれる。
彼女が仕えるあのお人好しの辺境伯様なら。この一文だけで事情を察してくれるだろう。
そういった意味で、トゥーリは自らの主人に一定の信頼を置いている。彼は無辜の民を決して見捨てない。
それが或いは我が身を削ることになろうとも。極力公平に、公正に判断を下そうとする。
それは、種族の立場を今より少しでも引き上げたい彼女にとっては好都合。と言って良い精神性だ。
だからこそ剣を預ける価値が有る。……それはきっと、あの人がそうであったように。
今日は午後から予定を空けてあった。今の内に、残りの書類に目を通しておかないと……。
●最も新しい星
――――北方辺境騎士団宿舎から、小さな脇道へ入ると。外壁寄りに存在する共同墓地。
その入り口から入って真っ直ぐの突き当りに、その墓標は我が物顔で建っていた。
参拝に来る騎士団関係者は多い。良くも悪くも、強者こそ正義である北方辺境騎士団である。
好き嫌いのはっきりした彼女を恨む者は多かったが、その颯爽とした後ろ姿に憧れる者も多かった。
「――――あーあ」
来てしまった。後悔がある訳ではないけれど。今更、呑み込めていない訳では無いけれど。
もしも此処に来さえしなければ。何かの間違いで街角の酒場にふらっと居たりするのではないか。
そんな事を、一度も思わなかったかと言えば。だってそれは嘘になる。
或いはどこかの冒険者ギルドに彼女からの依頼が張り出されていたりはしないか。
また何処かに潜入任務なんかで出向いていて。勝手に追い詰められて困っていたりするのではないか。
もしそうならいの一番に駆けつけて行って、全く心配ばっかりかけて本当困った人だよね――――なんて。
――――ああ。そんなことを。考えた事が無いと言ったら。だってそれはどうしようもなく嘘になる。
「ワタシさ。酒場で、アストリッドさんが好きだったお酒の銘柄を聞いたんだよね」
そうしたら次から次から出るわ出るわ。種類も味も問わず多種多様。
ある酒場では甘い果実酒ばかり十本も並べられたし。かと思えば辛い黒麦酒だって幾つ羅列されたやら。
城塞都市の酒場を巡る度に、別の銘柄を挙げられるからどれが本命なのかまるで分からなくて。
きっと酒瓶を捧げる人達が皆そんな目に合っているから。こんな統一感の無い墓前になるんじゃないかって。
理解ったような。納得出来るような。けれどやっぱり、納得し切れないような。
せめて誰かにこれが一番好きだとか。そういった事を伝えておいてくれたら良かったのに。
或いはそれが――――ワタシであったとしても。ちっとも困らなかったのに、何て。
そんなところも含めて。“らしい”のかな、と。そう思う傍ら、悔しくもあるのだ。
雲を掴むような話。雲を掴むような、人だった。あともう少し。もう一歩で掴めそうだったのに。
「もっと知りたかったな。もっと話したいこと沢山あったんだよ。
征竜を討って、世界を護ったよ。好きな人が出来て、その人と一緒になれたよ」
誰かと一緒に居る事が。共に並んで戦場に立つ事が。どんなに心強いかを知った。
彼女に背を任されたこと。その意味と、重みを。やっと心の底から受け止められた。
「アナタの背中を追って、騎士団に入団したよ。制服も特注で、採寸もして貰ったんだよ。
連星の意匠を入れて貰える事になってるんだ。出来たら、きっと見せに来るね」
『双星』とトゥーリが号された、北方辺境騎士でも数える者しか得られないその二つ名を得た事を。
彼女が聞いたらどんな顔をしたろう。一瞬戸惑って、けれどこれ以上無い笑顔で祝ってくれただろうか。
そのまま祝い酒だ何だと言って、酒場に雪崩れ込んでぐちゃぐちゃになるのは目に見えているけれど。
そんな騒動もまた思い出の一つになったに違いない。そんな未来が、何処かにあったかもしれない。
「……ねえ、アストリッドさん」
春の風が吹く。シオンの花が、無数の花束の一番上で揺れる。
やっぱり一人で来て良かったと。ことさら心配する想い人を断ったその選択の正しさを噛みしめる。
だって流石にこんな顔は見せられない。可愛くもないし綺麗でもないし、きっと凛々しくもない。
胸を衝くのは、ただ茫漠とした寂しさだけだ。やっと振り切れたと思っていたのに。
「ワタシは、少しでも追いつけたかな」
嘘でも良い。幻でも良いから、答えが欲しかった。
声が聴きたかった。頷くだけでも良かったのだ。ただ――――もう居ない事を思い知らされることが。
「ワタシは、ちゃんとアナタを追えているかな」
恐くて、苦しくて。何も出来なかった自分が、来て良かったのかも分からなくて。
自分で決めて、自分で見定めて選んだ筈の道なのに。その正しさが、揺らぎそうになる。
「……寂しいよ」
声にはならなかった。最期にだって零れなかった涙が堰を切った様に溢れて。
戦いが終わり強がらなくて良くなった半獣人の娘は、自分に泣くことを赦してあげられた。
シオンの花言葉は「追憶」、そして、「あなたを忘れない」。
トゥーリはこの日ようやく。ただ憧れた、追い続けた人の死と向き合うことが出来た。
■
それは、天上の星だった。
白く眩く輝きながら、時に明るく、時に破天荒に、時に騒動を引き起こしながら。
その星の軌跡を追うように、また一つ。新たな星が空を目指す。
覚悟は出来た。例えこの先幾度俯こうとも、必ず顔を上げてその高みを超えてみせると。
騎士の銘は『双星』。戦場に輝く唯一の白光を、双つで以て追い越してみせると言う誓い。
彼女は最も新しい星の片割れとして。その名を北方辺境に刻んで行く事だろう。
白の双剣は語らず。けれどその前途を祝福する様に。捧げられた花束が優しげに揺れた。
それは、天上の星だった。
白く眩く輝きながら、時に明るく、時に破天荒に、時に騒動を引き起こしながら。
けれどその正しさの信じるままに。その歩みの迷わぬままに。
ただ真っ直ぐに。誰恥じる所なく。自らが為すべき事を為して墜ちた一条の、星。
その輝きを追いかけていた人々にとって、降って湧いた現実は受け止めるには重過ぎて。
彼女もまたそんな1人だった。認めたくなかった事を、認めるには長い時間が掛かった。
どう決別したら良いか分からない日々が続いた。混乱と動揺と迷走があった。
どちらを向いて良いのか。何処を目指したら良いのか。自分の中の正しさと向き合わなければならなかった。
そうして気付いたら世界の危機がやって来て、彼女は同族を護る為。想い人を護る為。
出来ない理由を出来る限り削ぎ落して駆け抜けて。それが正しかったのか、今も分からないままでいる。
■
王国北方辺境――――『城塞都市』ノストガルデン。
その中央。辺境伯領執政府の1階には、かなり広い範囲で北方辺境騎士団の業務区画が設けられている。
勿論、『騎士団』である以上その本懐は、政務補助としての治安維持を目的とした武力装置である訳だが。
一方王国全体の問題として文官の不足が嘆かれる昨今。遊ばせておける人材など一人も居らず。
同組織へ幹部待遇での就職を決めた『双星』トゥーリもまた当然の如く。その多聞に漏れる事は無い。
「うえぇ……目がチカチカする……」
ぐったりと、専用の机に両手で伏すと。左右に積まれた綿紙の束が傾いた。
何と言っても慣れない作業。慣れない読み書き。そして慣れない専門用語の数々である。
北方辺境伯領は家格相応に、東西に広い領土を誇っており領民からの陳情や相談も多い。
それら公務の到達地点であり、認可機関でもある領執政府には日々絶えず書類が郵送されて来る。
領主業とはそれら書類に逐一目を通し、要不要を判断し、予算を付け、場合によっては対策を練る。
そう言った領内で起きる難題、課題、問題への逐次対応と、その最終判断に重きが置かれている。
では領主がそれを効率的に果たせる様に、領主に判断を仰ぐ前の段階の整理、分類分け、一次判断を。
一体誰が担うかと言えば“騎士団幹部”に他ならない。北方辺境に専属文官を雇える程の余裕は無いのだ。
「午前最後の部来ました!」「1番箱は1番机に、2番箱は2か3番机、3番箱は奥に持って行け!」
「小隊長、赤封筒が来ています!」「何!? 赤封筒は最優先だ、幹部席の書類箱に載せておけ!」
机の書類の一番上に赤い封筒が載せられる。これは緊急対応案件の証だ。
封を切ると、帝国難民帰還後の緊急保護設備解体経過について。残留民と揉めているとの記載がある。
確かに。『王国』は“帝都崩壊”後に帝国から脱出した難民達を国内で保護して来た。
緊急予算も組み支援活動に従事して来たが、帝国再興が始まった以上それらは削られつつある。
『王国』内に残留を決めた難民達は、ここからほぼ裸一貫で郷に従う必要がある訳だが。
突然これまで受けられていた支援が打ち切られ、隣人と並んで働けと言われれば揉め事も起きる。
(当たり前の事――――特に、この『王国』では)
書類に記載された、“帝国出身の半獣人労働者”の一文からも、内実が透けて見える。
ここは唯人の国だ。異種族に対しては根強く、そして根深い差別意識がある。
国家の支配階級である『貴族』がそうなのだから、庶民も自然とその前提で訴えを投げる。
同じ立場で自分が唯人、相手が半獣人なら、貴族は自分たちに味方してくれる筈、と考える訳だ。
卑怯、とは言うまい。代々続いて来た“常識的”な考え方なのだから個人を責めても何にもならない。
ただ。忸怩たる想いはある。半獣人が何をした訳でも無い。彼らは何も悪くはない。
にも拘わらず、理不尽にも虐げられそれが“常識だ”と言われて納得出来る訳もない。
(……要現場確認、と)
一筆加えて処理済みの箱に移すと、あとは家令団が適宜辺境伯の下へと運んでくれる。
彼女が仕えるあのお人好しの辺境伯様なら。この一文だけで事情を察してくれるだろう。
そういった意味で、トゥーリは自らの主人に一定の信頼を置いている。彼は無辜の民を決して見捨てない。
それが或いは我が身を削ることになろうとも。極力公平に、公正に判断を下そうとする。
それは、種族の立場を今より少しでも引き上げたい彼女にとっては好都合。と言って良い精神性だ。
だからこそ剣を預ける価値が有る。……それはきっと、あの人がそうであったように。
今日は午後から予定を空けてあった。今の内に、残りの書類に目を通しておかないと……。
●最も新しい星
――――北方辺境騎士団宿舎から、小さな脇道へ入ると。外壁寄りに存在する共同墓地。
その入り口から入って真っ直ぐの突き当りに、その墓標は我が物顔で建っていた。
参拝に来る騎士団関係者は多い。良くも悪くも、強者こそ正義である北方辺境騎士団である。
好き嫌いのはっきりした彼女を恨む者は多かったが、その颯爽とした後ろ姿に憧れる者も多かった。
「――――あーあ」
来てしまった。後悔がある訳ではないけれど。今更、呑み込めていない訳では無いけれど。
もしも此処に来さえしなければ。何かの間違いで街角の酒場にふらっと居たりするのではないか。
そんな事を、一度も思わなかったかと言えば。だってそれは嘘になる。
或いはどこかの冒険者ギルドに彼女からの依頼が張り出されていたりはしないか。
また何処かに潜入任務なんかで出向いていて。勝手に追い詰められて困っていたりするのではないか。
もしそうならいの一番に駆けつけて行って、全く心配ばっかりかけて本当困った人だよね――――なんて。
――――ああ。そんなことを。考えた事が無いと言ったら。だってそれはどうしようもなく嘘になる。
「ワタシさ。酒場で、アストリッドさんが好きだったお酒の銘柄を聞いたんだよね」
そうしたら次から次から出るわ出るわ。種類も味も問わず多種多様。
ある酒場では甘い果実酒ばかり十本も並べられたし。かと思えば辛い黒麦酒だって幾つ羅列されたやら。
城塞都市の酒場を巡る度に、別の銘柄を挙げられるからどれが本命なのかまるで分からなくて。
きっと酒瓶を捧げる人達が皆そんな目に合っているから。こんな統一感の無い墓前になるんじゃないかって。
理解ったような。納得出来るような。けれどやっぱり、納得し切れないような。
せめて誰かにこれが一番好きだとか。そういった事を伝えておいてくれたら良かったのに。
或いはそれが――――ワタシであったとしても。ちっとも困らなかったのに、何て。
そんなところも含めて。“らしい”のかな、と。そう思う傍ら、悔しくもあるのだ。
雲を掴むような話。雲を掴むような、人だった。あともう少し。もう一歩で掴めそうだったのに。
「もっと知りたかったな。もっと話したいこと沢山あったんだよ。
征竜を討って、世界を護ったよ。好きな人が出来て、その人と一緒になれたよ」
誰かと一緒に居る事が。共に並んで戦場に立つ事が。どんなに心強いかを知った。
彼女に背を任されたこと。その意味と、重みを。やっと心の底から受け止められた。
「アナタの背中を追って、騎士団に入団したよ。制服も特注で、採寸もして貰ったんだよ。
連星の意匠を入れて貰える事になってるんだ。出来たら、きっと見せに来るね」
『双星』とトゥーリが号された、北方辺境騎士でも数える者しか得られないその二つ名を得た事を。
彼女が聞いたらどんな顔をしたろう。一瞬戸惑って、けれどこれ以上無い笑顔で祝ってくれただろうか。
そのまま祝い酒だ何だと言って、酒場に雪崩れ込んでぐちゃぐちゃになるのは目に見えているけれど。
そんな騒動もまた思い出の一つになったに違いない。そんな未来が、何処かにあったかもしれない。
「……ねえ、アストリッドさん」
春の風が吹く。シオンの花が、無数の花束の一番上で揺れる。
やっぱり一人で来て良かったと。ことさら心配する想い人を断ったその選択の正しさを噛みしめる。
だって流石にこんな顔は見せられない。可愛くもないし綺麗でもないし、きっと凛々しくもない。
胸を衝くのは、ただ茫漠とした寂しさだけだ。やっと振り切れたと思っていたのに。
「ワタシは、少しでも追いつけたかな」
嘘でも良い。幻でも良いから、答えが欲しかった。
声が聴きたかった。頷くだけでも良かったのだ。ただ――――もう居ない事を思い知らされることが。
「ワタシは、ちゃんとアナタを追えているかな」
恐くて、苦しくて。何も出来なかった自分が、来て良かったのかも分からなくて。
自分で決めて、自分で見定めて選んだ筈の道なのに。その正しさが、揺らぎそうになる。
「……寂しいよ」
声にはならなかった。最期にだって零れなかった涙が堰を切った様に溢れて。
戦いが終わり強がらなくて良くなった半獣人の娘は、自分に泣くことを赦してあげられた。
シオンの花言葉は「追憶」、そして、「あなたを忘れない」。
トゥーリはこの日ようやく。ただ憧れた、追い続けた人の死と向き合うことが出来た。
■
それは、天上の星だった。
白く眩く輝きながら、時に明るく、時に破天荒に、時に騒動を引き起こしながら。
その星の軌跡を追うように、また一つ。新たな星が空を目指す。
覚悟は出来た。例えこの先幾度俯こうとも、必ず顔を上げてその高みを超えてみせると。
騎士の銘は『双星』。戦場に輝く唯一の白光を、双つで以て追い越してみせると言う誓い。
彼女は最も新しい星の片割れとして。その名を北方辺境に刻んで行く事だろう。
白の双剣は語らず。けれどその前途を祝福する様に。捧げられた花束が優しげに揺れた。
assignment【DA】史実ノベル 関連特設ページ
メアリー王女が冒険者達の協力を得て稼働させた「王家の耳」。メアリーは無作為に集まってくる情報を、余人に及びもつかぬ閃きを持って分析しながら、今日も世界の動きへ耳を傾けている。
集まった情報の中には、世界の情勢に影響はないかもしれないが興味深い個人の記録があるかもしれない。