【DA】リーンエスの耳
クレア・エクレール/ クリストフ・エクレール
『ノベルタイトル:父と娘の決戦の日』広大野人
●
貴族が乗るような豪華な馬車。
驚くほど座り心地の良い座席は、揺れによるショックを和らいでくれるし、内装は御伽噺か絵本に出て来るお姫様が乗るような仕上がりだ。
そんな訳で、クレア・エクレールは落ち着かない。冒険者としての生活が長かったから、どちらかというと良く揺れる乗り合い馬車の方が慣れていた。
「技術の進歩って凄いんだね」
だから、率直な感想を口にした。
「まだ試作中さ。ただ、ちょうど良い機会だったよ。長距離移動のテストを直に確かめる事が出来たから」
そう応えたのは、向かいの座席に座っているイグシィ=スタスだった。
彼の商会で、新型馬車の開発を進めている。クレアは詳しく分からないが、これまでの馬車とは一線を画す特別な機構を車輪に組み込んでいるらしい。
目を引く贅沢な飾りは、その重さも加味しての事……らしい。
「実家に到着したら、ちょっとした騒ぎになったりして」
クレアは苦笑を浮かべた。
オルセンからリブラネスタに構える実家の宿までの旅路は、途中、目立った飾りが仇となって賊に襲われるもクレアが撃退し、順調に進むのであった。
一方、結婚予定の男と一緒に帰郷するという連絡を受け取っていたクリストフ・エクレールは、落ち着かない様子で宿のロビーをウロウロとしていた。
昨日から宿の方は休止させている。多くの従業員達は久々の纏まった休暇を与えたので、宿も酒場も静かなものだ。どうしても休みたくない訳ありの給仕が困った表情を浮かべてクリストフを見守っている。
「到着は今日ではありませんから、少しは落ち着いたらいかがですか? 奥様も呆れていますよ」
「わかっている!」
思わず強い言葉が出て来てしまった。
最近では、威圧的言動と呼ばれる事もあるらしい。クリストフからすれば、そんな程度……とは思うが、それで従業員が一斉に辞めたという話も聞くので、静かに自戒する。
「……分かっている。しかし、落ち着かないのだ。どんな男がやってくるのか……心配なんだ」
心の内を素直に出せるようになったのは、以前の自分と比べればだいぶと変わったと思う。何が切っ掛けになったか定かではないが、きっと、娘や若い冒険者達と共に依頼を受けた事が、要因の一つかもしれない。
「旦那様、香り高いお茶でも如何ですか?」
給仕が出してきたブランド物のティーカップは、過日、リーンエス王国で行われたとある結婚式の引出物で、式に参列した娘が実家に送ってきたのだ。
「そうだな……結婚式か……」
話が飛躍し過ぎて表情がコロコロ変わるクリストフだった。
そして、落ち着かない日々が過ぎたある日の事。ついに、娘が帰ってきた。男を連れて――。
●
「な……なんだ、この馬車は!?」
宿の外に飛び出したクリストフの前には、贅沢な造りの馬車。
王国貴族の中でも、ここまで贅を尽くした馬車は高位の貴族ぐらいしか持っていないだろう。
音を立てて両開きの戸が開き、中から出て来たのはお姫様……にも等しい自分の娘だ。
「……ただいま、父さん」
「お、おう」
短い挨拶。
気の利いた一言位出て来ない己にクリストフは思わず憮然とした表情が出てしまう。
直後、馬車からもう一人、降りて来た。
男だ……それも娘とあまり変わらない歳の……。
「はじめまして。クレアと交際させていただいている、イグシィ=スタスと申します。以後、お見知りおきをよろしくお願い致します」
如何にも頭の良さそうな立ち振る舞いに新鋭的な紳士服。洗練された帝国式の作法。
事前に情報を調べていたとはいえ、想像を超える状況にクリストフは妻から尻を軽く叩かれるまで固まってしまっていた。
「クレアの父、クリストフだ。冒険者をやっている」
「『紅雷』の異名は、遠く、オルセンの地でも聞き及んでいます。お会いできて光栄です」
すかさず差し出されたイグシィの手。
その時点で、クリストフは自分が『計算されていた』事に気が付いた。
(やはり、ただ者ではないな)
目立つ馬車は宿の周囲にご近所さんを呼ぶには十分過ぎる効果があった。その上で、クリストフを持ち上げて、握手を断られにくい演出へと自然に仕向けた。周囲の人から見れば、クレアが連れてきた男を、クリストフが友好的に受け入れている……みたいに見えるだろう。
(これは、竜と対峙していると思った方が良さそうだな)
クリストフは笑った目を向けながら、心の中で戦闘モードに入る。
娘が連れて来た男が、娘を本当に幸せに出来るのか……それを見定める為に。
宿のロビーに入り、クレアは身体を解すよう、背を伸ばした。
久々の実家だ。ゆっくりしたい所だが、まずはその前に『話』をしないといけない。
父親の顔を見ても、妙な反抗心はそれほど出てこないようになった今だからこそ、結婚を認めて貰おうと思った。
かつて、父が出来なかった事を、娘である自身が成す。それが、愛情深く育ててくれた両親への、親孝行の一つだとも思えるから。
案内されたテーブルにつくと、クレアは前置きせず、真っ直ぐ父を見て告げる。
「父さん、今日はイグシィとの結婚を認めてほしくて帰って来ました」
「話は聞いてやる。認めるかどうかはその後だ」
横柄な物言いに、クレアはムスっとしたが、グッと堪えた。以前はこれですぐに喧嘩になっていたが、深呼吸をすると今一度、父に強い視線を向けた。
「イグシィは――」
「待て。まずは、君から、クレアを選んだ理由を聞かせてくれないか」
突然の本人への直接質問。
しかし、想定の内だったのだろう。イグシィは小さく頭を下げてから即答した。
「彼女が私に生きて欲しいと強く願ってくれたからです」
「それだけか?」
「逆にそれ以上の事があるでしょうか? 私は……夢破れ、全てを失った時、それで構わないと思っていました。けれど、彼女は違った。彼女は自身の全てを失ったとしても、それでも私に生きて欲しいと願ってくれたのです」
聞いていたクレアが恥ずかしくなって、ピコピコと耳が揺れる。
幾度も愛を伝えられてきたが、第三者に……それも父親に宣言されると、こそばゆい。
「そうか……君の、私の娘に対する想いは分かった。だが、一度、全てを失ったのだろう。これからの生活を君が保障できるのか、それを俺は心配だ」
一度、大きな失敗をした者の中には失敗する事に慣れてしまったり、癖になってしまう者がいるのだ。娘への想いは認めるが、不安もある――彼の経歴を調べたら遡れなかったという事実に、だ。
イグシィ=スタス……帝都出身。帝都崩壊時に家族親族全て失われ、その後、行商として細々と活動する。頭角を現したのは、娘が王国内でメドゥの指先が企む陰謀を阻止した依頼群の後の事だ。
二人の出会いが、ただの護衛依頼を通じてとはとても思えなかった。冒険者としての勘が何かを告げていたが、自身も褒められた経歴ではないので、詮索するつもりは無いが……せめて、娘は不自由なく過ごして欲しいとは思う。
「父さんの心配は分かるよ。けれど、これを見てよ」
テーブルに音を立てて帳簿の束がクレアによって置かれた。難癖つけてくるであろう父に対して、根拠を示して話をつけるつもりだったからだ。
「イグシィの商会の業績を纏めた帳簿だよ」
その表紙には公的監査組織の印が記してあった。
書類の束を手に取り、クリストフは幾枚か開く――長く冒険者として活躍して貯めた資産を軽く超える額が並んでいて、クリストフはそっと束を戻した。
隣に座る妻はめちゃくちゃ明るい顔をしていて、何も突ける場所がなくなり、クリストフは天井を仰ぎ見る。
いつもこうだ。振り上げた拳を降ろす場所が無い。
そのタイミングを見計らっていたのだろう。イグシィが深々と頭を下げる。
「クリストフさんからすれば、私は若輩者。ご心配をお掛けしてしまう事は重々承知しております。だからこそ、クレアと共に歩ませていただけないでしょうか」
青年からの懇願にどう返事をすべきか悩むクリストフよりも早く、感極まった妻が先に口を出した。
「イグシィ君のご両親は既に亡くなっているのよね。アナタ、私達で二人を見守っていきましょう」
「父さん、お願いします。ボクは彼とずっと一緒にいたい!」
続いた愛娘の言葉がトドメとなった。
これで断ったら、全世界が敵に回ってしまう気がする。
「……分かった。そこまで言うのであれば、交際と結婚を認めてやろう。だが、条件がある。まず、君は俺と仕事を一緒にする。それができなければダメだ」
「畏まりました。実は今、オルセンで警備を主体とした傭兵団の立ち上げに関わっています。是非とも、クリストフさんのお力もお借りできればと思っていました」
「警備となれば、クリーパーや悪党共との戦いも想定されるな。実戦的な立ち回りなら、俺がみっちり叩き込んでやる」
場の空気が一転して、ビジネスの話になり、緊張していた糸が解れる。
傭兵団と聞くとならず者っぽいイメージがあるが、イグシィが目指すのは警備商会と言う。あれよこれよと話が弾み、妻から諫められ、クリストフは咳払いした。
「すまない。冒険者としての血が騒いでな。まぁ、今日は安心したよ。娘の腹が既に大きい状態だったら、どうしようかと思っていたからな。ハハハハハハ!!」
バンバンとテーブルを叩いて笑う父親に、妻と青年が思わず身を引いた。
その異変の理由にクリストフは咄嗟に口元を抑えたが、台詞は既に放たれた後だ。恐る恐る愛娘を見ると、これまで喧嘩した時に見せた表情以上に、怒りで顔が歪んでいた。
「父さんの、ばかぁ!!」
「お、俺に向かって、馬鹿とはなんだ!!」
「あほぉ!!」
「阿保もダメだ!!」
二人の叫び声が宿の外にまで轟き、ご近所さんに「いつもの父娘だね」と笑われるのは明日の事であった。
貴族が乗るような豪華な馬車。
驚くほど座り心地の良い座席は、揺れによるショックを和らいでくれるし、内装は御伽噺か絵本に出て来るお姫様が乗るような仕上がりだ。
そんな訳で、クレア・エクレールは落ち着かない。冒険者としての生活が長かったから、どちらかというと良く揺れる乗り合い馬車の方が慣れていた。
「技術の進歩って凄いんだね」
だから、率直な感想を口にした。
「まだ試作中さ。ただ、ちょうど良い機会だったよ。長距離移動のテストを直に確かめる事が出来たから」
そう応えたのは、向かいの座席に座っているイグシィ=スタスだった。
彼の商会で、新型馬車の開発を進めている。クレアは詳しく分からないが、これまでの馬車とは一線を画す特別な機構を車輪に組み込んでいるらしい。
目を引く贅沢な飾りは、その重さも加味しての事……らしい。
「実家に到着したら、ちょっとした騒ぎになったりして」
クレアは苦笑を浮かべた。
オルセンからリブラネスタに構える実家の宿までの旅路は、途中、目立った飾りが仇となって賊に襲われるもクレアが撃退し、順調に進むのであった。
一方、結婚予定の男と一緒に帰郷するという連絡を受け取っていたクリストフ・エクレールは、落ち着かない様子で宿のロビーをウロウロとしていた。
昨日から宿の方は休止させている。多くの従業員達は久々の纏まった休暇を与えたので、宿も酒場も静かなものだ。どうしても休みたくない訳ありの給仕が困った表情を浮かべてクリストフを見守っている。
「到着は今日ではありませんから、少しは落ち着いたらいかがですか? 奥様も呆れていますよ」
「わかっている!」
思わず強い言葉が出て来てしまった。
最近では、威圧的言動と呼ばれる事もあるらしい。クリストフからすれば、そんな程度……とは思うが、それで従業員が一斉に辞めたという話も聞くので、静かに自戒する。
「……分かっている。しかし、落ち着かないのだ。どんな男がやってくるのか……心配なんだ」
心の内を素直に出せるようになったのは、以前の自分と比べればだいぶと変わったと思う。何が切っ掛けになったか定かではないが、きっと、娘や若い冒険者達と共に依頼を受けた事が、要因の一つかもしれない。
「旦那様、香り高いお茶でも如何ですか?」
給仕が出してきたブランド物のティーカップは、過日、リーンエス王国で行われたとある結婚式の引出物で、式に参列した娘が実家に送ってきたのだ。
「そうだな……結婚式か……」
話が飛躍し過ぎて表情がコロコロ変わるクリストフだった。
そして、落ち着かない日々が過ぎたある日の事。ついに、娘が帰ってきた。男を連れて――。
●
「な……なんだ、この馬車は!?」
宿の外に飛び出したクリストフの前には、贅沢な造りの馬車。
王国貴族の中でも、ここまで贅を尽くした馬車は高位の貴族ぐらいしか持っていないだろう。
音を立てて両開きの戸が開き、中から出て来たのはお姫様……にも等しい自分の娘だ。
「……ただいま、父さん」
「お、おう」
短い挨拶。
気の利いた一言位出て来ない己にクリストフは思わず憮然とした表情が出てしまう。
直後、馬車からもう一人、降りて来た。
男だ……それも娘とあまり変わらない歳の……。
「はじめまして。クレアと交際させていただいている、イグシィ=スタスと申します。以後、お見知りおきをよろしくお願い致します」
如何にも頭の良さそうな立ち振る舞いに新鋭的な紳士服。洗練された帝国式の作法。
事前に情報を調べていたとはいえ、想像を超える状況にクリストフは妻から尻を軽く叩かれるまで固まってしまっていた。
「クレアの父、クリストフだ。冒険者をやっている」
「『紅雷』の異名は、遠く、オルセンの地でも聞き及んでいます。お会いできて光栄です」
すかさず差し出されたイグシィの手。
その時点で、クリストフは自分が『計算されていた』事に気が付いた。
(やはり、ただ者ではないな)
目立つ馬車は宿の周囲にご近所さんを呼ぶには十分過ぎる効果があった。その上で、クリストフを持ち上げて、握手を断られにくい演出へと自然に仕向けた。周囲の人から見れば、クレアが連れてきた男を、クリストフが友好的に受け入れている……みたいに見えるだろう。
(これは、竜と対峙していると思った方が良さそうだな)
クリストフは笑った目を向けながら、心の中で戦闘モードに入る。
娘が連れて来た男が、娘を本当に幸せに出来るのか……それを見定める為に。
宿のロビーに入り、クレアは身体を解すよう、背を伸ばした。
久々の実家だ。ゆっくりしたい所だが、まずはその前に『話』をしないといけない。
父親の顔を見ても、妙な反抗心はそれほど出てこないようになった今だからこそ、結婚を認めて貰おうと思った。
かつて、父が出来なかった事を、娘である自身が成す。それが、愛情深く育ててくれた両親への、親孝行の一つだとも思えるから。
案内されたテーブルにつくと、クレアは前置きせず、真っ直ぐ父を見て告げる。
「父さん、今日はイグシィとの結婚を認めてほしくて帰って来ました」
「話は聞いてやる。認めるかどうかはその後だ」
横柄な物言いに、クレアはムスっとしたが、グッと堪えた。以前はこれですぐに喧嘩になっていたが、深呼吸をすると今一度、父に強い視線を向けた。
「イグシィは――」
「待て。まずは、君から、クレアを選んだ理由を聞かせてくれないか」
突然の本人への直接質問。
しかし、想定の内だったのだろう。イグシィは小さく頭を下げてから即答した。
「彼女が私に生きて欲しいと強く願ってくれたからです」
「それだけか?」
「逆にそれ以上の事があるでしょうか? 私は……夢破れ、全てを失った時、それで構わないと思っていました。けれど、彼女は違った。彼女は自身の全てを失ったとしても、それでも私に生きて欲しいと願ってくれたのです」
聞いていたクレアが恥ずかしくなって、ピコピコと耳が揺れる。
幾度も愛を伝えられてきたが、第三者に……それも父親に宣言されると、こそばゆい。
「そうか……君の、私の娘に対する想いは分かった。だが、一度、全てを失ったのだろう。これからの生活を君が保障できるのか、それを俺は心配だ」
一度、大きな失敗をした者の中には失敗する事に慣れてしまったり、癖になってしまう者がいるのだ。娘への想いは認めるが、不安もある――彼の経歴を調べたら遡れなかったという事実に、だ。
イグシィ=スタス……帝都出身。帝都崩壊時に家族親族全て失われ、その後、行商として細々と活動する。頭角を現したのは、娘が王国内でメドゥの指先が企む陰謀を阻止した依頼群の後の事だ。
二人の出会いが、ただの護衛依頼を通じてとはとても思えなかった。冒険者としての勘が何かを告げていたが、自身も褒められた経歴ではないので、詮索するつもりは無いが……せめて、娘は不自由なく過ごして欲しいとは思う。
「父さんの心配は分かるよ。けれど、これを見てよ」
テーブルに音を立てて帳簿の束がクレアによって置かれた。難癖つけてくるであろう父に対して、根拠を示して話をつけるつもりだったからだ。
「イグシィの商会の業績を纏めた帳簿だよ」
その表紙には公的監査組織の印が記してあった。
書類の束を手に取り、クリストフは幾枚か開く――長く冒険者として活躍して貯めた資産を軽く超える額が並んでいて、クリストフはそっと束を戻した。
隣に座る妻はめちゃくちゃ明るい顔をしていて、何も突ける場所がなくなり、クリストフは天井を仰ぎ見る。
いつもこうだ。振り上げた拳を降ろす場所が無い。
そのタイミングを見計らっていたのだろう。イグシィが深々と頭を下げる。
「クリストフさんからすれば、私は若輩者。ご心配をお掛けしてしまう事は重々承知しております。だからこそ、クレアと共に歩ませていただけないでしょうか」
青年からの懇願にどう返事をすべきか悩むクリストフよりも早く、感極まった妻が先に口を出した。
「イグシィ君のご両親は既に亡くなっているのよね。アナタ、私達で二人を見守っていきましょう」
「父さん、お願いします。ボクは彼とずっと一緒にいたい!」
続いた愛娘の言葉がトドメとなった。
これで断ったら、全世界が敵に回ってしまう気がする。
「……分かった。そこまで言うのであれば、交際と結婚を認めてやろう。だが、条件がある。まず、君は俺と仕事を一緒にする。それができなければダメだ」
「畏まりました。実は今、オルセンで警備を主体とした傭兵団の立ち上げに関わっています。是非とも、クリストフさんのお力もお借りできればと思っていました」
「警備となれば、クリーパーや悪党共との戦いも想定されるな。実戦的な立ち回りなら、俺がみっちり叩き込んでやる」
場の空気が一転して、ビジネスの話になり、緊張していた糸が解れる。
傭兵団と聞くとならず者っぽいイメージがあるが、イグシィが目指すのは警備商会と言う。あれよこれよと話が弾み、妻から諫められ、クリストフは咳払いした。
「すまない。冒険者としての血が騒いでな。まぁ、今日は安心したよ。娘の腹が既に大きい状態だったら、どうしようかと思っていたからな。ハハハハハハ!!」
バンバンとテーブルを叩いて笑う父親に、妻と青年が思わず身を引いた。
その異変の理由にクリストフは咄嗟に口元を抑えたが、台詞は既に放たれた後だ。恐る恐る愛娘を見ると、これまで喧嘩した時に見せた表情以上に、怒りで顔が歪んでいた。
「父さんの、ばかぁ!!」
「お、俺に向かって、馬鹿とはなんだ!!」
「あほぉ!!」
「阿保もダメだ!!」
二人の叫び声が宿の外にまで轟き、ご近所さんに「いつもの父娘だね」と笑われるのは明日の事であった。
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メアリー王女が冒険者達の協力を得て稼働させた「王家の耳」。メアリーは無作為に集まってくる情報を、余人に及びもつかぬ閃きを持って分析しながら、今日も世界の動きへ耳を傾けている。
集まった情報の中には、世界の情勢に影響はないかもしれないが興味深い個人の記録があるかもしれない。