【DA】リーンエスの耳

ダニエル・ヘリントン
『ノベルタイトル:清く正しく、たくましく』おおくまねこ
●
「うりゃああああ!!」
リーンエス王国王都グランスパーダにて。広場に威勢のいいかけ声が聞こえたかと思うと、続いて地響きのような音が響き渡った。
街の広場の一画には「挑戦者求む、賞金ゴールド一袋」と書かれたノボリが立っていた。これは大都市ではまれにある、腕自慢が行う興行の一種である。挑戦者は参加費を払い、負ければ手ぶらで帰る、というのが定例だが、この興行は奇妙なことに、参加費は無料だった。このイベントの主催者は小銭を稼ぐのが目的ではなく、真の強者と戦うことが目的なのだろう。何を隠そう、このイベントの主催者は平民生まれの王都市民、ダニエル・へリントンその人であった。
「参った。いたたたた……流石王都でこんな催しを開くだけのことはある。いやはや、お強いですな」
「貴方も強かった。ナイスファイトです!」
ダニエルはマットに叩きつけたリザードマンに手を差し伸べ、硬く握手を交わした。挑戦者の男は『湿地帯近接格闘術』なる武術を習得したリザードマンで、修行を積んだ授恵者だった。しかし、帝都決戦までの激闘を潜り抜けたダニエルの相手としては少々力量不足だったようだ。今のダニエルには非授恵者はもちろん、少々武術の心得がある授恵者程度では相手にはならないのだ。
「僕はもっと強くなりたい!」
ダニエルの目標は、様々な依頼で活躍して『英雄』と呼ばれる男となり、立志伝の主人公として成り上がることである。先日のドゥジケット大礼拝祭の閉会式で邪竜ベリアルを退けた際、リーンエス王から「君達の勇気のおかげで、私とメアリー、ウィリアム、そしてこの街の平和は守られた」という言葉を受け、その思いはますます強くなった。ダニエルは既に世界を救った英雄の一人ではあるかもしれない。だが、ダニエルは「英雄の一人」よりも、物語の主役を飾れるような「真の英雄」になりたかった。そんなダニエルは現在も冒険者を引退することなく、「清く正しく」「歪み無ぇ」英雄となるべく修行を続けているのである。
●
「きゃああああああ!!」
「なんだ!? 女性の悲鳴!?」
ダニエルが今日も武者修行をしていると、突然真昼の王都に誰かの悲鳴が響き渡った。
「事件だな! 行ってみよう!」
ダニエルは颯爽とリングから飛び降りると、パンツ一丁のまま女性の悲鳴が上がった方へと駆けていった。
●
「もう大丈夫です! 僕が来ました!」
事件現場に駆け付けたダニエルが見たものは、覆面で顔を隠した強盗達が高級そうな馬車を取り囲み、貴婦人から金品を奪おうとしているところであった。そしてそのすぐ近くには、衛兵らしき男達が血を流して地面に倒れていた。恐らく、強盗側に授恵者がいるのだろう。そうでなければ王都の武装した衛視が強盗に返り討ちに遭うとは考えがたい(ちなみに王都には世界最強の授恵者集団リーンエス王国騎士団もいるが、彼らは王家直属のエリート部隊なので、街のパトロールは基本的には平民である衛視の仕事である)。
「増援か!? なんだ、ただの変態か」
「なぜパンイチなんだ!? この露出狂め!」
「なんという鍛え抜かれた筋肉だ……! ゴクリ」
ダニエルの方を注目する強盗達。ダニエルはレスリングの途中だったので、試合着一丁だった。
「顔を隠して強盗とはだらしねぇ奴らめ!」
「パンツ一丁の野郎に言われたくねぇよ!」
「野郎共、こんな変態は畳んじまえ!」
「望むところだ、かかってこい! てめぇらみてぇなだらしねぇ奴らにはこのダニエル・へリントンが歪み無ぇ魂を注入してやる!」
雄叫びを上げ、ダニエルへと襲い掛かる強盗達。そして、戦いが始まった。
「オラァ!」
ゴンッ!
強盗が振りかぶった棍棒がダニエルの頭に直撃する。ボキッと鈍い音が響き、思わず馬車の客のマダムが目を覆った。
「なにっ!?」
ダニエルがニヤリと笑う。へし折れたのはダニエルの頭蓋骨ではなく、棍棒の方だ。ダニエルはまるでダメージを受けていない!
「うりゃあああ!!」
ダニエルは強盗の服を掴むと、片手でリフトアップし、石畳へと叩きつけた。強盗は背中を強打し、動かなくなる。
「衛兵の皆さん、治療をします!」
ダニエルはキラリと爽やかに笑うと、周囲に癒しのエーテルを振りまいた。ダニエルのたくましいエーテルに包まれ、衛兵たちはみるみるうちに傷が癒えていく。
「こいつ……授恵者だ!」
その時、ようやく強盗達はダニエルが怪物であることに気付いた。
「授恵者がなんぼのもんじゃ! 全員でかかれ! 目か金●を潰せ! 悶絶してる間に逃げるぞ!」
「「へい、兄貴!」」
頭目の指示に従い、一斉に襲い掛かる強盗達。三方向から同時に襲い掛かった強盗達の棍棒やナイフがダニエルに突き刺さるが、テカテカと汗で光るダニエルの皮膚には傷一つなかった。
「アッーーーーー!!」
雄叫びと共にダニエルの筋肉が躍動する。ダニエルは強盗の一人の両足を掴むと、ぐるぐると振り回し、棍棒代わりにして残りの二人もあっという間に叩きのめした。
「てめぇらみてぇなだらしねぇ連中じゃ、修行にもならないな!」
「駄目だ! 勝てっこねえ! あばよ!」
部下を見捨てて自分だけ逃げ去ろうとする頭目。しかしそんなことを「仕方ないね」と許すダニエルではない!
「逃がすか!」
ダニエルは走り、強盗の背に追いつく。だがダニエルが追いついた瞬間、強盗の頭目は立ち止まり、振り向きざまにダニエルへと短剣の一閃をお見舞いした!
「喰らえ必殺! 『卑怯剣』!」
バチッ!
「とことんだらしねぇ奴だな!」
「弾いた、だと……!」
頬をわずかに切り裂かれただけで頭目の一撃に耐えたダニエルは怒りのエーテルを滾らせ、強盗の尻の肉をがっしりと掴む!
「歪み無ぇ魂を注入してやる!」
「アッーーーーーーーーー!!」(強盗の悲鳴)
ダニエルは強盗を地面に押し倒した。そして関節を極め、戦闘力を奪う。
「まだ武器を持ってるな! 全部外せ!」
「離せぇええええ!!」
「暴れるんじゃない!」
ビリッ!!
「あ」
ダニエルが武装解除しようと強盗の下半身をまさぐっていると、ダニエルの溢れるパワーのせいで強盗のズボンとパンツが一緒に千切れてしまった。
「きゃあああああああああっ!!」
そして、見てはならぬモノを見てしまった貴婦人が絹を裂くような悲鳴を上げた。
●
こうして、ダニエルの活躍により、強盗事件は無事に解決した。ダニエルは修行の傍ら、今日も王都の平和を守り続ける。心身を鍛えていれば、いずれは英雄への道の第二のステップである「逆玉のオファー」が来ることを信じて……。
平和を愛し、健全な未来を夢見、英雄王子を尊敬する彼が『グランスパーダの英雄』と呼ばれる日もそう遠くないだろう。
「かかってこい! てめぇらみてぇなだらしねぇ悪党はこのダニエル・へリントンが生尻をぶっ叩いて歪み無ぇ魂を注入してやる!」
……その前に公然わいせつ罪でダニエル自身がお縄にならなければ!!
「うりゃああああ!!」
リーンエス王国王都グランスパーダにて。広場に威勢のいいかけ声が聞こえたかと思うと、続いて地響きのような音が響き渡った。
街の広場の一画には「挑戦者求む、賞金ゴールド一袋」と書かれたノボリが立っていた。これは大都市ではまれにある、腕自慢が行う興行の一種である。挑戦者は参加費を払い、負ければ手ぶらで帰る、というのが定例だが、この興行は奇妙なことに、参加費は無料だった。このイベントの主催者は小銭を稼ぐのが目的ではなく、真の強者と戦うことが目的なのだろう。何を隠そう、このイベントの主催者は平民生まれの王都市民、ダニエル・へリントンその人であった。
「参った。いたたたた……流石王都でこんな催しを開くだけのことはある。いやはや、お強いですな」
「貴方も強かった。ナイスファイトです!」
ダニエルはマットに叩きつけたリザードマンに手を差し伸べ、硬く握手を交わした。挑戦者の男は『湿地帯近接格闘術』なる武術を習得したリザードマンで、修行を積んだ授恵者だった。しかし、帝都決戦までの激闘を潜り抜けたダニエルの相手としては少々力量不足だったようだ。今のダニエルには非授恵者はもちろん、少々武術の心得がある授恵者程度では相手にはならないのだ。
「僕はもっと強くなりたい!」
ダニエルの目標は、様々な依頼で活躍して『英雄』と呼ばれる男となり、立志伝の主人公として成り上がることである。先日のドゥジケット大礼拝祭の閉会式で邪竜ベリアルを退けた際、リーンエス王から「君達の勇気のおかげで、私とメアリー、ウィリアム、そしてこの街の平和は守られた」という言葉を受け、その思いはますます強くなった。ダニエルは既に世界を救った英雄の一人ではあるかもしれない。だが、ダニエルは「英雄の一人」よりも、物語の主役を飾れるような「真の英雄」になりたかった。そんなダニエルは現在も冒険者を引退することなく、「清く正しく」「歪み無ぇ」英雄となるべく修行を続けているのである。
●
「きゃああああああ!!」
「なんだ!? 女性の悲鳴!?」
ダニエルが今日も武者修行をしていると、突然真昼の王都に誰かの悲鳴が響き渡った。
「事件だな! 行ってみよう!」
ダニエルは颯爽とリングから飛び降りると、パンツ一丁のまま女性の悲鳴が上がった方へと駆けていった。
●
「もう大丈夫です! 僕が来ました!」
事件現場に駆け付けたダニエルが見たものは、覆面で顔を隠した強盗達が高級そうな馬車を取り囲み、貴婦人から金品を奪おうとしているところであった。そしてそのすぐ近くには、衛兵らしき男達が血を流して地面に倒れていた。恐らく、強盗側に授恵者がいるのだろう。そうでなければ王都の武装した衛視が強盗に返り討ちに遭うとは考えがたい(ちなみに王都には世界最強の授恵者集団リーンエス王国騎士団もいるが、彼らは王家直属のエリート部隊なので、街のパトロールは基本的には平民である衛視の仕事である)。
「増援か!? なんだ、ただの変態か」
「なぜパンイチなんだ!? この露出狂め!」
「なんという鍛え抜かれた筋肉だ……! ゴクリ」
ダニエルの方を注目する強盗達。ダニエルはレスリングの途中だったので、試合着一丁だった。
「顔を隠して強盗とはだらしねぇ奴らめ!」
「パンツ一丁の野郎に言われたくねぇよ!」
「野郎共、こんな変態は畳んじまえ!」
「望むところだ、かかってこい! てめぇらみてぇなだらしねぇ奴らにはこのダニエル・へリントンが歪み無ぇ魂を注入してやる!」
雄叫びを上げ、ダニエルへと襲い掛かる強盗達。そして、戦いが始まった。
「オラァ!」
ゴンッ!
強盗が振りかぶった棍棒がダニエルの頭に直撃する。ボキッと鈍い音が響き、思わず馬車の客のマダムが目を覆った。
「なにっ!?」
ダニエルがニヤリと笑う。へし折れたのはダニエルの頭蓋骨ではなく、棍棒の方だ。ダニエルはまるでダメージを受けていない!
「うりゃあああ!!」
ダニエルは強盗の服を掴むと、片手でリフトアップし、石畳へと叩きつけた。強盗は背中を強打し、動かなくなる。
「衛兵の皆さん、治療をします!」
ダニエルはキラリと爽やかに笑うと、周囲に癒しのエーテルを振りまいた。ダニエルのたくましいエーテルに包まれ、衛兵たちはみるみるうちに傷が癒えていく。
「こいつ……授恵者だ!」
その時、ようやく強盗達はダニエルが怪物であることに気付いた。
「授恵者がなんぼのもんじゃ! 全員でかかれ! 目か金●を潰せ! 悶絶してる間に逃げるぞ!」
「「へい、兄貴!」」
頭目の指示に従い、一斉に襲い掛かる強盗達。三方向から同時に襲い掛かった強盗達の棍棒やナイフがダニエルに突き刺さるが、テカテカと汗で光るダニエルの皮膚には傷一つなかった。
「アッーーーーー!!」
雄叫びと共にダニエルの筋肉が躍動する。ダニエルは強盗の一人の両足を掴むと、ぐるぐると振り回し、棍棒代わりにして残りの二人もあっという間に叩きのめした。
「てめぇらみてぇなだらしねぇ連中じゃ、修行にもならないな!」
「駄目だ! 勝てっこねえ! あばよ!」
部下を見捨てて自分だけ逃げ去ろうとする頭目。しかしそんなことを「仕方ないね」と許すダニエルではない!
「逃がすか!」
ダニエルは走り、強盗の背に追いつく。だがダニエルが追いついた瞬間、強盗の頭目は立ち止まり、振り向きざまにダニエルへと短剣の一閃をお見舞いした!
「喰らえ必殺! 『卑怯剣』!」
バチッ!
「とことんだらしねぇ奴だな!」
「弾いた、だと……!」
頬をわずかに切り裂かれただけで頭目の一撃に耐えたダニエルは怒りのエーテルを滾らせ、強盗の尻の肉をがっしりと掴む!
「歪み無ぇ魂を注入してやる!」
「アッーーーーーーーーー!!」(強盗の悲鳴)
ダニエルは強盗を地面に押し倒した。そして関節を極め、戦闘力を奪う。
「まだ武器を持ってるな! 全部外せ!」
「離せぇええええ!!」
「暴れるんじゃない!」
ビリッ!!
「あ」
ダニエルが武装解除しようと強盗の下半身をまさぐっていると、ダニエルの溢れるパワーのせいで強盗のズボンとパンツが一緒に千切れてしまった。
「きゃあああああああああっ!!」
そして、見てはならぬモノを見てしまった貴婦人が絹を裂くような悲鳴を上げた。
●
こうして、ダニエルの活躍により、強盗事件は無事に解決した。ダニエルは修行の傍ら、今日も王都の平和を守り続ける。心身を鍛えていれば、いずれは英雄への道の第二のステップである「逆玉のオファー」が来ることを信じて……。
平和を愛し、健全な未来を夢見、英雄王子を尊敬する彼が『グランスパーダの英雄』と呼ばれる日もそう遠くないだろう。
「かかってこい! てめぇらみてぇなだらしねぇ悪党はこのダニエル・へリントンが生尻をぶっ叩いて歪み無ぇ魂を注入してやる!」
……その前に公然わいせつ罪でダニエル自身がお縄にならなければ!!
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メアリー王女が冒険者達の協力を得て稼働させた「王家の耳」。メアリーは無作為に集まってくる情報を、余人に及びもつかぬ閃きを持って分析しながら、今日も世界の動きへ耳を傾けている。
集まった情報の中には、世界の情勢に影響はないかもしれないが興味深い個人の記録があるかもしれない。