【DA】リーンエスの耳

 栄耀の都市ラグラスは、今日もはた目には平穏を保っている。
 しかしその実態は、領主の暴虐による鬱憤や憎悪が昏い影を落とし、いつ領土を飲み込んでもおかしくはない。
 この状況を変えようと、これまでどれほどの者が立ち上がり、非業の死を遂げてきただろう。
 25年前のエル=バ一族もまた、暴虐からの解放のため戦い、そして裏切りにより族滅の憂き目をみたはずだったが――
 か細い糸で繋がれた祈りは今、大きなうねりとなってひとつの転換点を迎えようとしていた。

「――万事首尾よく進んでいるようだ」
 伝令部隊の報告を受け、エル=バ=ノイアンは小さく頷いた。
 厚い雲に覆われた宵空は見事なほどに闇を抱き、人の相貌を分からなくする。まさに理想的な状況だ。
「予定ではあと半刻ほどで終劇だね。何事もないことを祈ろう」
 先日晴れて婚約の許しを得た(蒼玉候に認められた)シルヴィア・A・カペルが、穏やかに笑んだ。闇の中でさえ、彼女がいつもと変わらぬほど良い緊張と余裕を併せ持った微笑を浮かべていることは、容易に想像できる。
「それにしても叔父上(フィリベル)は金の使い方が上手いと聞いていたが……歌劇場も後援していたとはな」
 ほの灯りの中に浮かぶ劇場を眺めながら、ノイアンは意外そうに呟いた。
「芸術そのものには興味がなさそうだが……そこに迷わず金を使う判断ができる人間か。案外閣下(蒼玉候)とも話が合うかもしれないな」
「確かに、お父様は芸術を尊重する人間には甘いところがあるからね」
 どちらかと言えば(言わずとも)脳筋な叔父と蒼玉候では、まるでタイプが違う。しかし人間関係というものは、ある一点で分かり合えれば上手くいったりするから分からないもので。

 ラグラス領主ドロア伯爵の弟・フィリベル=バラガドゥールは、自尊心の高い軽薄者にして大胆な小悪党――というのが世評であり、ノイアン自身も概ねそのように認識している。
 得意なものは「金勘定」というだけあって、自身にとって利になると判断すれば惜しみなく金を出す豪胆ぶりを評価する声も多い。しかし一方で、駆け引きなどすっ飛ばして実力行使で事を起こそうとする浅薄さが、周囲の頭痛の種となっているのだが。
 それでもフィリベルを慕う人間が多いのは、良くも悪くも分かりやすいその人間臭さが、ある意味での魅力となっている……のかもしれない。
 異母兄(イスタル)の話によれば、冒険者と関わる中で「政争」のやり方を知ったフィリベルは、近々領主の悪政及び領主交代の嘆願を中央へ送る計画だそうだ。
 実行されればかつてない程の政変が予想され、領主の腹心であるエニード卿(ノイアンの父)も連座は免れないだろう。
 そうなる前にフィリベルは亡き妹が遺した甥と姪――イスタル=エニード及びリーシャ=エニード――を保護する計らいを決め、その協力をノイアンたちが請け負ったのである。
 一連の作戦はこうだ。
 まずはフィリベルが甥姪へ観劇チケットを送り、領内の歌劇場に足を運ばせる。
 観劇後、帰宅の馬車には替え玉を乗せ、人波に紛れながら二人をフィリベルの邸宅へと連れて行く。
 その道中の護衛をフィリベルの部下及び冒険者が護衛を務める――というシンプルなものだ。
 とはいえ実際の現場で何が起きるかは分からない。不測の事態が起きても対処できるよう、ノイアンとシルヴィアは内容の検討を重ね決行日を迎えたのだった。

「劇場前が騒がしくなってきたね」
 フィリベルの部下と同じ衣服を纏うシルヴィアが、声にほんの少し警戒をにじませた。宵闇に浮かぶ建物から、次々に人影が出てくる。
「頃合いだな」
 ノイアンの合図でチームは出入口近くまで移動し、人波に紛れながらイスタルとリーシャに扮した替え玉を放った。守備よく馬車に乗り込んだのを見届けると、今度は本物が出てくるのを待つ。
(思った以上に人が多いな……)
 暗視を使っているとはいえ、人間違いが起きてもおかしくない。ノイアンはすべての感覚を研ぎ澄ませた。
 異母兄と共に出てきたリーシャは、分かりやすいほどに怯えていた。イスタルからある程度計画を聞かされていただろうが、荒事など経験が無い深窓の令嬢なのだから同然だろう。
「大丈夫だ、あんたのことは必ず守る。兄としてな」
「えっ……お兄様……?」
「突然そう言われても戸惑う(気を紛らわせるためにあえて)だろうが話は後だ」
 ノイアンは言い切るや否や、迷わず彼女を抱え上げた。
「すまないがしばらく我慢してくれ」
 未婚の貴族令嬢に触れるのは好ましいことではないが、ドレスを着たまま走れない以上、背に腹は代えられない。
 なにより、イスタルとの約束――妹を必ず守る――を自身の手で完遂させたかったから。
「シルヴィア、後ろは任せていいか」
「当然だよ。君たちに指一本触れさせはしない」
 そういって彼女は、固まっているリーシャに微笑みかけた。
「久しぶりだね、また会えて嬉しいよ」
「その声は……」
 声の主に心当たりがあったのだろう、紫の瞳にほんの少し安堵の色を浮かぶ。

「おい! イスタル様とリーシャ様がいないぞ!」
「誰だ貴様は!」

 離れつつある劇場の方から、怒号と共にばたばたと人や馬が行き交う喧噪が聞こえた。
「思ったより早くバレたな」
 馬を待たせている場所まであと少し。
 替え玉の露見を察知したノイアンが足を速める後ろで、シルヴィアが警戒を強めつつ飄々と笑んだ。
「想定内だよ。これだけ距離があれば十分だ」
 冒険者として、どれほど過酷な作戦でもやり抜いて来た自負。二人の目に不安の色は無い。
 追手の何人かが追いついてきたため、冒険者達は素早く迎撃体制へと移る。
 花蝶を纏い、流れるように追手を撃退するシルヴィアを、リーシャは呆けたように見つめていた。心ここにあらずといった様子の彼女を、ノイアンが気遣う。
「どうした、大丈夫か」
「お姉さま……素敵……」
 どうやらうら若き少女に、男装の麗人(しかも強い)は刺激が強すぎたようだ。

 追手を撒いた一行は無事目的地へ到着し、イスタルとリーシャはフィリベルの保護下に入った。
「二人ともよく来た、今後のことはすべて我輩に任せておけばよい!」
「叔父様にはなんとお礼を言えばよいか……」
「其方らはアンリエットの忘れ形見であるぞ? 気兼ねなどいらん」
 心配無用と笑う叔父に一抹の不安を覚えないことはなかったが、甥と姪に対する情に嘘はないのだろう。
 一方のリーシャは微笑んでいたものの、その表情ににじむ不安や疲労は隠しきれるものではない。
 自ら望んでここへ来たイスタルはともかく、妹がどのような思いでいるのかノイアンは少々気にかかった。彼女が父親(エニード卿)に対してどのような感情を抱いているのか、直接聞いたことはないが――

 ひと通りの挨拶が済むと、フィリベルは甥と姪に今夜はもう休むよう告げた。二人が退出したのを見届けたとたん、同席していたノイアンとシルヴィアを振り向く。
「で、其方らは我輩と話があるのであろう?」
 二人は思わず顔を見合わせた。護衛依頼を引き受ける条件としてイスタルに依頼したのは『叔父との面会』を取り持つこと。
 事前に話を通していたとはいえ、こんなにも早く機会が来るとは。
「イスタルから聞いておる。我輩はまどろっこしいのは好かんのだ、さっさと要件を言わぬか」
「……改めて面会依頼を出すまでもなかったようだね」
 シルヴィアが笑む隣で、ノイアンも苦笑した。
 フィリベルの尊大な態度はまさに貴族のそれなのに、細かい作法にはこだわらない。だからこそ、兄(現領主)と折り合いが悪かったのだろうが。
「単刀直入は望むところだが、立ち話で済むようなものでもないんでな。悪いが一席設けてくれないか。このあたりでは手に入らない、美味い酒を持って来たんだが」
 ノイアンの言葉にシルヴィアが、持参してきたワインボトルを差し出す。
「これは大森林の葡萄畑と、我がカペル領の醸造所で造り上げたワインでね。市場にはまだ出回っていないものだ」
「ほう、ならば其方がカペル家の者であるか」
 フィリベルの探るような視線に、シルヴィアは改めて身分を告げた上で、近いうちに爵位を継ぐ予定であることも伝えた。
「今日は侯爵家後継として、フィリベル殿と話をさせてもらいたい。おそらく卿にとっても、悪く無いものだ」
「……なるほど、面白いではないか」
 興が乗った様子のフィリベルは、早速酒宴の準備を命じた。設けられた宴席でまずはワインを賞味する。
「このアンバーワインは、『大森林の琥珀』。その名の通り、大森林をイメージしたものだ。こちらのロゼワインは『花領の薔薇』といって、カペルをイメージしている。どちらも試作段階ではあるけれど、味と品質には自信を持っているよ」
 オルセン太守からも取引に前向きな反応を得ているため、さらなる改良を考えている――あえてそう伝えてみると、金の匂いに敏感なフィリベルは興味を示したようだ。
「ならば我輩が改良の手助けとなってやろう。こう見えて酒には目がないのでな」
「いや見たままだが……」
「ん? ノイアンなにか言ったか?」
 三人はしばし、美酒に舌鼓を打った。フィリベルはワインを気に入ったようで、ああでもないこうでもないと言いながら、あっという間にグラスを空けていく。
 酔いが回り切る前に、本題に入っておいたほうがよさそうだ。ノイアンはタイミングを見計らいつつ切り出す。
「イスタルから聞いたが、ドロア家当主をあんたが交代する話は本気なんだな?」
「我輩に二言はない。近いうちに事を起こす手配はできておる」
「そうか。これでラグラスも少しはマシになるだろう」
 それを聞いたフィリベルはふんと鼻を鳴らした。
「何を言うておる? 我輩が領主になる以上、さらなる繁栄を目指すに決まっておろう」
「野心溢れるフィリベル殿らしいね」
 シルヴィアの反応に、フィリベルは当然だと豪快に笑う。ノイアンも相槌を打ちつつ。
「あんたが爵位を継ぐなら、後継の問題が出てくるだろう? そこについてはどう考えているんだ」
 妻を娶らず年を重ねた叔父が、今から実子後継を設けるのは難しい。フィリベル自身もそのことは分かっているのだろう、あっさりと認めた上で「ゆくゆくは養子を迎えることになるであろうな」と答える。
「養子となると、イスタルとリーシャか」
「まだ話はしておらんが、そうなる可能性は高い。我輩の元に保護した以上、放っておくわけにもいかん」
「そうか。ならついでに俺も拾ってくれないか」
 フィリベルの表情に怪訝なものが浮かんだ。おそらく意味を汲み取れていないのだろう、ノイアンはゆっくりと説明する。
「知っての通り、俺と二人は血のつながった兄妹だ。これまでの過程はどうであれ、今後は正式な兄妹として過ごしたい……のと、婿入りに必要なものを揃えないといけなくてな」
「婿入り? 其方どこに婿入りするというのだ」
 すぐ隣にカペル侯爵家の後継がいるのだが、フィリベルは本気で分かっていないようだった。そういったことを察するのが面倒(NOUKINだからしかたない)なのだろう。
 ノイアンは隣にいるシルヴィアが婚約者であること。当代蒼玉候には婚約の許しを得ているが、貴族としての体裁を整える必要があることを伝えた。
「単刀直入に言えば、侯爵家に婿入りするための身分が欲しい。幸いあんたは俺のことをそれなりに戦える傭兵として気に入ってくれているようだし、悪い話じゃないと思うんだが」
 想定外の話に面食らうフィリベルに、シルヴィアが畳みかけた。
「我がカペル家はウィリアム殿下に『歓迎するよ、【蒼玉】と盟を結ぶことが叶うなら心強い』とお言葉を頂き、集権派への所属替えを認められてね」
「ほ、ほう。蒼玉の地は安泰であるか。喜ばしいではないか」
 フィリベル自身は長らく政争に興味がなかったせいだろう。王国内の貴族が今後どのような立場になっていくのか、理解はしていても実感が伴っていないように見えた。
 これから起きる領内の紛争を思えば、外のことまで意識を向ける余裕がないのは致し方ない。だからこそ今、いち早く集権派となり、新たな貴族像を見据えるカペル家の人間が接触することは、ドロア家にとって大きな意味がある。
 シルヴィアはそのことを暗に伝えるため、礼節と理屈を絶妙に織り交ぜた説得を展開していく。
「ドロア家は貴族派。貴族派にも尊敬出来る人々はいるけれど、クレシーは悪逆非道の限りを尽くした圧政者だ。事が起きればドロア伯はもちろんのこと、寄り親の失脚も免れないと私たちは考えている」
 このままでは、ドロア家が不利な立場に追い込まれていく可能性は高い。フィリベルもそのことは理解しているのだろう、腕組みする顔に苦々しいものが混じる。
 ここでシルヴィアはあえて試すような視線を送った。
「卿は賢い御方だ、(現ドロア)伯と同じ轍は踏まないだろう?」
「当然よ、我輩がそんな器であるはずがなかろう!」
「そう聞いて安心したよ。ドロア伯爵となった卿にノイアンが養子入りした上でカペルに婿入りするなら、卿にも利がある――この意味が分かってもらえたのではないかな」
 集権派侯爵家とある程度の繋がりを持つのは、生き残る為に悪くない戦略だろう――?
 フィリベルの瞳が揺れる。
「我がカペル領は花の領地として観光業や芸術家業、地方は農業や醸造業が盛んだけれど、今後は他国との文化交流を活性化させたいと考えていてね。その切欠として、経済活動の積極化を予定しているんだ。王国西方の商業都市、栄耀都市ラグラスと手を組めば西方交易の足掛かりを得られるはずだ」
 圧政阻止のための見張り立て直し支援をするのは、王国の利にもなる。これはカペルにとっても、利になる話なのだと。
 腕組みをしたたまま唸るフィリベルに、ノイアンは付け加えた。
「念のために言っておくが、俺は目的が果たせればそれでいい。特権はいらないし、あんたに迷惑をかけるつもりはない」
「む……」
「今後寄親を立てる必要もあるだろうしな。親子の縁を契ったからといって、余計な真似はしないから安心しろ」
 それを聞いたフィリベルは、いかにも不満げに鼻を鳴らしてから。尊大さを隠そうともしない目でノイアンを見やった。
「まったく欲のない奴だ。それだから我輩は其方が気に入らんのだ!」
「ぇ」
「バラガドゥールに連なる者になるのならば、もっと野心を持たんか! 父親(養父)など踏み台にするくらいでないと、我輩の息子(養子)は務まらんぞ!」
「いやだから縁組は形だけだと……」
 そう言いかけ、口をつぐむ。シルヴィアを見やると、彼女も苦笑しながら頷いた。
「卿なりの承諾のようだ」
 フィリベルは手にしたグラスを飲み干してから、にやりと口角を上げた。
「いいだろう、我輩は其方らの言う『利』とやらに賭けてやる。ラグラス領主最初の仕事として、悪くはない」
 それを聞いたシルヴィアは蒼玉を継ぐ者に相応しい、矜持と寛容に満ちた微笑を浮かべてみせた。
「新たな縁を繋げて嬉しいよ、栄耀ラグラスの後継者殿」

 その後上機嫌のフィリベルからキャスター(物理)武勇伝を二時間ぐらい聞かされ、従者に抱えられたフィリベル(酔っぱらい)が退室したときはすっかり夜も更けていた。
「やっと解放されたな……」
 あのおっさん明日になったら取引を綺麗さっぱり忘れてやしないかとノイアンは一抹の不安を覚えたが、ひとまず縁組の了承を得たことに胸をなでおろしつつ。
「叔父上の気が変わる前に手続きを進めた方がよさそうだ」
「あの様子なら大丈夫だろうけれど。その方がいいかもしれないね」
 シルヴィアは笑いながら、「卿は考え方がシンプルだから、私のお父様も気に入るかもしれないね」と頷く。
 その時、フィリベルが退室したばかりの扉を叩く音がした。
 まさかあの酔っ払い戻って来たのかと二人は身構えたが、どうやらそういった気配はない。
「夜遅くに申し訳ありません」
 聞き覚えのある声にノイアンが扉を開けると、そこにはローブを羽織ったリーシャが立っていた。周囲を窺うが、他には誰もいない。どうやら寝室から一人で抜け出してきたようだ。
「まだ起きていたのか。どうした?」
「少し、お話をよろしいでしょうか」
「あ、ああ。構わないが」
 ノイアンはリーシャを室内に招き入れ、椅子に座るよう促した。
「大丈夫だ。シルヴィアにも同席してもらうから」
 彼女の表情はどこか思い詰めたように硬く、緊張も相まって青ざめて見えた。少し離れた場所に立ったノイアンは、慎重に問いかける。
「何かあったのか」
「……兄からノイアン様のことについて聞きました。……父が、何をしたのかも」
 一瞬言葉を失うノイアンの目前で、異母妹は消え入りそうに見えた。シルヴィアがそっと彼女の背に触れる。
「大丈夫かい?」
 まだ16の少女には父親の不貞すら辛い話だろうに、その相手を陥れ命を奪ったとなれば、どれほどの衝撃が彼女を貫いただろう。
 血の気の無い表情が、それを物語っている。
「お気遣い感謝いたします。ですが私はいま、ノイアン様とお話をしなければなりません。……もう、何もしないままでいるのは嫌だから」
 ノイアンとシルヴィアは互いに目で頷いてから、改めて彼女と向き合った。
「わかった。話を聞こう」
「まずは父がしたこと、私からもお詫びいたします。謝って許されることでないのは、わかっていますが……」
 真摯に頭を下げる異母妹に、ノイアンはかぶりを振る。
「イスタルにも言ったが、あんたが謝ることじゃない。これは俺とエニード卿との問題だ」
「私は何も知らず……知ろうとせず、これまで生きてきました。それは十分罪なことだと、皆さまを見て気づきました」
「令嬢ってのはそういうものだ。気に病むことはない」
「でもお姉さまは違うでしょう?」
 視線を向けられたシルヴィアは、気遣わしげに微笑んだ。
「私は家督を継ぐ身だからね。子どもの頃から多くを知る必要があったんだ」
 後継者として育てられた令嬢と、そうでない令嬢では心構えも受ける教育もまったく異なる。だからリーシャが負い目を感じることはない――そう暗に伝えたつもりだったのだが。
 隣のノイアンを見やると、なぜか思案気な表情を浮かべている。
「確かにシルヴィアなら、たとえ深窓の令嬢でもそこで収まってるとは思えないな……」
「えっ…………………(あれやこれやを思い起こし)まあ否定はできないね」
 急に方向性を変えてきた恋人に、つい肯定してしまう。
「で、でもこれは私の性格的なものであって、決して君が至らないわけでは」
「……やっぱり私、決めました」
 力のこもったまなざしが、こちらを向いた。
 目を丸くするシルヴィアとノイアンを交互に見つめ、リーシャはきっぱりと告げる。
「令嬢だからといって、何も知らないままでいるのはもう止めます」
「リーシャ……」
「私、お姉さまのようになりたいんです。強くて、綺麗で、弱い人たちのために尽力して……そうすれば、ノイアン様も認めてくださるでしょう?」
 それを聞いたノイアンは、ようやく思い至った。
 彼女はまだ幼さを残すその心の内で、必死になって考えたのだろう。どうすれば異母兄に償えるのか、自分を許せるのか――
「俺を理由に変わる必要なんかない。そういうのはやめてくれ」
「も……申し訳ありません」
 しおしおと項垂れるリーシャに、きっぱりと告げる。
「謝る必要なんてないし、俺はあんたが笑っていてくれたらそれでいい。兄妹ってのはそういうもんだろ?」
 こちらを見上げた紫の瞳が、小さく震えた。
「では……またお会いできますか?」
「当然だ。これからはいつでも会える」
 ノイアンが小さく笑んでみせると、リーシャは目元を拭い微笑んだ。よほど緊張していたのだろう、脱力したように座り込む彼女を支え、シルヴィアも笑む。
「可愛い妹が増えて私も嬉しいよ」
「お姉さま……!」
 百合が咲き乱れそうな恋人と妹に、ノイアンはつい笑ってしまうのだった。

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メアリー王女が冒険者達の協力を得て稼働させた「王家の耳」。メアリーは無作為に集まってくる情報を、余人に及びもつかぬ閃きを持って分析しながら、今日も世界の動きへ耳を傾けている。
集まった情報の中には、世界の情勢に影響はないかもしれないが興味深い個人の記録があるかもしれない。

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アーカイブ生成日時 2026年08月05日 14時56分25秒 ・ world0