【DA】リーンエスの耳

ラティア・ミゼリア
『ノベルタイトル: 歩く災厄』おおくまねこ
●
「ずいぶん立派な家が買えたわねえ」
ラティア・ミゼリアはここ数年の冒険者生活で稼いだお金を使い、リーンエス王国のとある街で小さな家を買った。家の立地は祖母が住む森とも近く、なかなかの好物件だ。ラティアは家を買ってすぐ引っ越し、今は母と二人で暮らしている。
(いつのまにか、こんなに稼いでいたなんて……)
「もう世界は平和になったことだし、婚活でもしたら? いくらデカい(184cm)のアンタでも、家付きなら貰い手も見つかるでしょ」
(うん。それもいいですね……そろそろ30だし……)
母の言葉に頷き、ラティアはぼんやりと将来のことを考える。血なまぐさい生活は、そろそろ終わりにしてもいいだろう。
●
ある日、ラティアは近所の喫茶店で一人ティータイムを楽しんでいた。この喫茶店のケーキセットはラティアの密かなお気に入りだ。シフォンケーキはほどよい甘さで、ほおばると口いっぱいに紅茶の香りが広がってくる。
(私をもらってくれる人、本当に見つかるでしょうか……優しい人がいいんですけど)
ラティアは憂いを秘めた眼差しでティーカップに口をつける。あやうくカップに長い髪が入りそうになったので、ラティアはそっと髪を掻き上げた。そのしぐさの妙な艶めかしさに、ウェイターはつい足を止めて見入り、周囲の男性客も、ごくりと息を呑み込んでいた。
(なんだか、見られているような……大きい女が喫茶店にいるのが変だからでしょうか?)
「お会計お願いします」
ティータイムを終えた後、ラティアは店のカウンターで財布を取り出した。しかし、コインを取り出す際にうっかり手を滑らせてしまい、床にコインをばらまいてしまった。
「あっ……! す、すみません」
ぺこぺこと店員に頭を下げるラティア。ラティアの頭が上下するたびに豊かな双胸もぷるんぷるんと弾む。店員は仕事を忘れ、その光景に見入っていた。そして、密かにラティアを見ていた周囲の男達が一斉に席から立ち上がり、ラティアが落としたコインを拾おうと殺到した。
「このコインは俺が彼女に届けるんだ!」
「いいや、渡すのは俺だ! このスケベ野郎!」
なんと男達は、ラティアの落としたコインを巡って殴り合いを始めてしまった。
「あの……。す、すみません。コインはあげます」
ラティアは乱闘する男達を尻目にそそくさと喫茶店を後にした。
●
その翌日。
「ラティアさん、俺と結婚してくれ!」
「えっ…………」
突然の愛の告白を受け、ラティア・ミゼリアは困惑した。たった今目の前でラティアに愛を囁いている男は、斜め向かいに住む、クマのように毛深く大きい男だった。
「す、すみません……ちょっとか、考えさせてください」
本心ではすぐ断りたかったのだが、いきなり袖にするのも角が立つと思い、ラティアはとりあえずその言葉を絞り出した。一週間ほど放置し、改めて「考えてみたんですけど……」と、断るつもりだった。
「わかった、ありがとう!」
30分後。
「ラティアさん、僕と付き合っていただけませんか。こう見えて、付き合い始めたら一途です」
「一目惚れしました。僕はエドモンド商会の跡取りです。幸せにします」
(……これは夢でしょうか?)
市場に買い物に出たラティアは次から次へとやってくる求婚者たちに困惑していた。実は、ラティア親子の会話を立ち聞きした隣のおばさんが、「こないだ引っ越してきたラティアさんが婿を探しているらしい」と、近所中に言いふらしてしまったのだ。たちまち街の男達は色めきだった。
「ラティアさんと結ばれるのは俺だ!」
「いいや、私だ! 私は商家の跡取りだ! ラティアさんは必ず俺を選ぶに決まっている!」
「何を! 俺の方が顔はいい!」
「妻とは今日にでも別れる! 嫁に来てくれ!」
「あの……すみません……」
「俺がラティアさんを嫁にする! 文句のある奴は全員かかってこい!」
「望むところだ!」
「ちょっと……?」
ラティアは男達を制止しようとしたが、その努力も空しく、路上で乱闘が始まった。どうやら一番強い奴がラティアを嫁にする権利を得られるらしい。だがしかし、肝心のラティアの意志は置き去りだった。
●
「もう引っ越すのかい? 慌ただしいねえ。まあ仕方ないけど……。私を『お義母さん』と呼ぶ連中にはうまく言っとくよ」
ラティアは母に家を譲り、街を出ることにした。この街の男達はみんなラティアに夢中なため、町に住む年頃の娘たちは日増しに冷たいものになりつつある。それだけならまだいいが、既婚の男達もラティアに色目を使ってくるので、主婦たちの視線も冷たい。ラティアは針の筵に座らされている気分だった。
(とりあえず、おばあちゃんの所に行こう……やっぱりもう結婚とかいいかな、あんまり痛いことしてこなさそうな小さな子と、適当に子供だけ作れば)
祖母の住む森へと向かいながら、ラティアはぼんやりとそんなことを考えていた。
「ずいぶん立派な家が買えたわねえ」
ラティア・ミゼリアはここ数年の冒険者生活で稼いだお金を使い、リーンエス王国のとある街で小さな家を買った。家の立地は祖母が住む森とも近く、なかなかの好物件だ。ラティアは家を買ってすぐ引っ越し、今は母と二人で暮らしている。
(いつのまにか、こんなに稼いでいたなんて……)
「もう世界は平和になったことだし、婚活でもしたら? いくらデカい(184cm)のアンタでも、家付きなら貰い手も見つかるでしょ」
(うん。それもいいですね……そろそろ30だし……)
母の言葉に頷き、ラティアはぼんやりと将来のことを考える。血なまぐさい生活は、そろそろ終わりにしてもいいだろう。
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ある日、ラティアは近所の喫茶店で一人ティータイムを楽しんでいた。この喫茶店のケーキセットはラティアの密かなお気に入りだ。シフォンケーキはほどよい甘さで、ほおばると口いっぱいに紅茶の香りが広がってくる。
(私をもらってくれる人、本当に見つかるでしょうか……優しい人がいいんですけど)
ラティアは憂いを秘めた眼差しでティーカップに口をつける。あやうくカップに長い髪が入りそうになったので、ラティアはそっと髪を掻き上げた。そのしぐさの妙な艶めかしさに、ウェイターはつい足を止めて見入り、周囲の男性客も、ごくりと息を呑み込んでいた。
(なんだか、見られているような……大きい女が喫茶店にいるのが変だからでしょうか?)
「お会計お願いします」
ティータイムを終えた後、ラティアは店のカウンターで財布を取り出した。しかし、コインを取り出す際にうっかり手を滑らせてしまい、床にコインをばらまいてしまった。
「あっ……! す、すみません」
ぺこぺこと店員に頭を下げるラティア。ラティアの頭が上下するたびに豊かな双胸もぷるんぷるんと弾む。店員は仕事を忘れ、その光景に見入っていた。そして、密かにラティアを見ていた周囲の男達が一斉に席から立ち上がり、ラティアが落としたコインを拾おうと殺到した。
「このコインは俺が彼女に届けるんだ!」
「いいや、渡すのは俺だ! このスケベ野郎!」
なんと男達は、ラティアの落としたコインを巡って殴り合いを始めてしまった。
「あの……。す、すみません。コインはあげます」
ラティアは乱闘する男達を尻目にそそくさと喫茶店を後にした。
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その翌日。
「ラティアさん、俺と結婚してくれ!」
「えっ…………」
突然の愛の告白を受け、ラティア・ミゼリアは困惑した。たった今目の前でラティアに愛を囁いている男は、斜め向かいに住む、クマのように毛深く大きい男だった。
「す、すみません……ちょっとか、考えさせてください」
本心ではすぐ断りたかったのだが、いきなり袖にするのも角が立つと思い、ラティアはとりあえずその言葉を絞り出した。一週間ほど放置し、改めて「考えてみたんですけど……」と、断るつもりだった。
「わかった、ありがとう!」
30分後。
「ラティアさん、僕と付き合っていただけませんか。こう見えて、付き合い始めたら一途です」
「一目惚れしました。僕はエドモンド商会の跡取りです。幸せにします」
(……これは夢でしょうか?)
市場に買い物に出たラティアは次から次へとやってくる求婚者たちに困惑していた。実は、ラティア親子の会話を立ち聞きした隣のおばさんが、「こないだ引っ越してきたラティアさんが婿を探しているらしい」と、近所中に言いふらしてしまったのだ。たちまち街の男達は色めきだった。
「ラティアさんと結ばれるのは俺だ!」
「いいや、私だ! 私は商家の跡取りだ! ラティアさんは必ず俺を選ぶに決まっている!」
「何を! 俺の方が顔はいい!」
「妻とは今日にでも別れる! 嫁に来てくれ!」
「あの……すみません……」
「俺がラティアさんを嫁にする! 文句のある奴は全員かかってこい!」
「望むところだ!」
「ちょっと……?」
ラティアは男達を制止しようとしたが、その努力も空しく、路上で乱闘が始まった。どうやら一番強い奴がラティアを嫁にする権利を得られるらしい。だがしかし、肝心のラティアの意志は置き去りだった。
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「もう引っ越すのかい? 慌ただしいねえ。まあ仕方ないけど……。私を『お義母さん』と呼ぶ連中にはうまく言っとくよ」
ラティアは母に家を譲り、街を出ることにした。この街の男達はみんなラティアに夢中なため、町に住む年頃の娘たちは日増しに冷たいものになりつつある。それだけならまだいいが、既婚の男達もラティアに色目を使ってくるので、主婦たちの視線も冷たい。ラティアは針の筵に座らされている気分だった。
(とりあえず、おばあちゃんの所に行こう……やっぱりもう結婚とかいいかな、あんまり痛いことしてこなさそうな小さな子と、適当に子供だけ作れば)
祖母の住む森へと向かいながら、ラティアはぼんやりとそんなことを考えていた。
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メアリー王女が冒険者達の協力を得て稼働させた「王家の耳」。メアリーは無作為に集まってくる情報を、余人に及びもつかぬ閃きを持って分析しながら、今日も世界の動きへ耳を傾けている。
集まった情報の中には、世界の情勢に影響はないかもしれないが興味深い個人の記録があるかもしれない。