【鬼哭】かくて小鬼は神理に挑む

サチコ
……まさかこんな事になるなんて。アダム、それにドンのお心を理解できない野良ゴブリン達に、私はドンのように優しくできそうにありません。
ブラックデス実行部隊に召集を掛けなさい。私が彼らを率いてヴィントへ向かいましょう。
私は不要なゴブリン達の整理を進めます。たとえ、後でドンにお叱りを受けるとしても。
『アキュアリスタでの国際会議の席で、ドン・ゴーフルが護衛のアダムに刺され、幹部のサチコがブラックデス暫定代理に就きました……。
(12月10日より 【鬼哭】かくて小鬼は神理に挑む 連動シナリオリリース予定!)
assignment【鬼哭】かくて小鬼は神理に挑む 概要
「かくて小鬼は神理に挑む」は帝国のゴブリンがドン・ゴーフルの支配から物理的にも精神的にも離反しつつある現状から、やがてゴブリン全体の命運に関わっていく連動となります。ロスガリア大陸の人類種族の中では最も新しく不安定なゴブリンがどのような未来を掴むのか、この連動の行く先で示される事でしょう。
assignmentここまでの流れ
メアリー王女が冒険者達の協力を得て稼働させた「王家の耳」。無作為に集まってくる情報に耳を傾けたメアリーは、シルトラース帝国南部にてゴールディから移住したゴブリンに関わる騒動が多発している事に気が付く。ドン・ゴーフルやレイウェスト・バルダスも勿論その事態は把握しており、頭を抱えていた。
(2022/12/9追加)
冒険者や帝国民の協力により、暴走ゴブリンの多くは不殺で対応された。しかし、いまだ事態の収まらぬ現状で、ドン・ゴーフルはレイウェスト皇子や帝国復興を支える関連諸国へ会合を呼び掛ける。場所は、騒動から遠い辺境都市群アキュアリスタ。その席でゴーフルは事態の真相を語り、対応を約束するも――。護衛のアダムに突如刺され昏倒する。
ゴーフルの代理となったサチコは、暴走ゴブリンへの苛烈な対応を宣言した。
person_pin関連NPC
ゴールディのマフィア最大の「ブラックデス」首領であり、実質的なゴールディの首長。大脱出を指揮した本人であり、ゴブリンロードとしてもかなりの長命。メドゥの指先に狙われているという噂も。
《本連動での動き》
帝国に移住したゴブリン達の『動揺』を知り、頭を抱えているようだ。
今後の相談と対策の為に呼び掛けた国際会議の席で、自らの護衛であったはずのアダムに刺され意識を失う。
ドン・ゴーフルが擁するマフィア「ブラックデス」の幹部にして実働部隊。ドン・ゴーフルの実子でもある。あくまでも現場思考のため、戦略的な思考は不得手。攻撃魔法としての「消えない炎」を操る授恵者。
《本連動での動き》
ドン・ゴーフルの身体を案じつつ、厄介な動きを見せる同胞たちに苛立ちの念を感じている。
ドン・ゴーフルが倒れた事を受けブラックデス首領代理、ゴールディ代表代理となり、ドンの意志に沿わないゴブリンへの苛烈な対処を宣言した。
亡国となった帝国の皇族の、唯一と思われていた生き残り。皇位継承順位こそ八位と低いが、皇帝ヨゼフとその子女である第三皇女イダとの間に生まれた生粋の皇族と言われている。帝都から脱出して以降、各国の支援や冒険者達の助力を受けて帝国南部を奪還し、その後も帝国民の安住の地を確保しようと努めている。
《本連動での動き》
ゴブリンに起きた異変に不自然さを感じており、できるならば不殺で対応したいと考えている。
ドン・ゴーフルが倒れた後も、サチコの怒りを止める立場ではないが内々の希望としては不殺を続けたいようだ。
シルトラース帝国現皇帝ヨゼフ・バルダスの第三皇女であり、皇妃(側室)でもある女性。第八皇子レイウェスト・バルダスの実母として知られている。『大陸一の美姫』と謳われた美貌の姫だが、ヨゼフ帝と婚姻し成人とされた後の彼女の姿を見た者は極端に少ない。1220年の夏、エフレムに命じて『天霧りに消ゆる幽界樹』を召喚させ、帝国を崩壊させた人物とされている。人を超えた『超越者』となり、神の領域にも近づいているイダは帝都の幽界樹と多数のクリーパーを支配下に置いている。
《本連動での動き》
イダの刻印を通じてゴブリンへの支配力を発揮し、ドン・ゴーフルの影響から『解放』しようとしているようだ。
元メドゥの指先幹部「緑の親指」。ゴブリンとリザードマンのハーフで、己の容姿にねじくれたコンプレックスを持つ。ドン・ゴーフル、そしてヒトとの混血を意味するであろう『知恵あるゴブリン』に憎悪を向けていた。ドンゴーフルを殺して、自分も死にたいと願っていたが、冒険者により捕縛される。帝国南部都市ヴィント奪還直後に再び姿を現した時には、無口かつ無表情、ドン・ゴーフルに従順な手下となっていたが……。
《本連動での動き》
イダとの遭遇後もドン・ゴーフルの強力な直接支配の下にあると思われていたが、イダにより強引に操られてドンを刺した。
帝国東部鎮守都市エスタルの生き残りの一人。シルトラース帝国近衛連隊出身の元軍人で帝国魔導院エスタル支部長。黒づくめの外見がトレードマークの授恵者であり、今は冒険者ギルドに所属している。最愛の妻と娘を帝国崩壊時に失って以後しばらくは攻撃性の塊のような時期もあったが、現在は生来の子供好きの性格が復活し、他人の子供の世話を焼いていることが多い。
《本連動での動き》
ゴブリンの異変について、独自の視点で研究を進めようとしている。
長い銀髪を後に纏めた紅眼の女性。シルトラース帝国遊牧民族の衣装をまとい、長大な骨剣を有する。帝国北部鎮守都市オルセンを帝国滅亡時の幽界樹の出現とその後の混乱から救い、絶大な感謝と敬意を向けられている。また、人知れず帝国都市ダルトートの幽界樹へ単身で挑み、瀕死の状態に追い込んだが最後の止めを欠き、後の暴走を招くなどうっかりした面もある。
《本連動での動き》
ゴブリンの異変に対応できるかどうか、試してみようとしている。
エーテルを用いて自分の表面から毒を齎す能力を持つ。かつては倫理観が稀薄であり、メドゥの指先の構成員として子供だけのチーム『デゼスポワル』を率いていた。ささいな迷惑行為から場合によっては命に係わる妨害までを分け隔てなく行っていたが、レイウェスト皇子の暗殺事件に連座し捕縛、皇子により恩赦される。その後の冒険者や帝国兵の対応もあり人生観を一変させた。現在は帝国所属の薬師(駒)として過去の贖罪の為、日々勉強と仕事にあたっている。
《本連動での動き》
メドゥの指先構成員時代に帝国、ゴールディ双方に様々な被害を出していた。レイウェストのように相手を殺しかけたようなケースもあり、中には今では相手に忘れられているような些細な事もあるのだが、当人はその全ての贖罪の為と考え、この騒動を解決するべく行動している。
menu_book関連用語・情報
帝国復興とゴブリンの移住
レイウェストらの支配地域であるヴィント付近には、幾つかの移住ゴブリン達の村がある。種族的な問題に配慮し、ゴブリンのみで構成されている村が多いが、人とゴブリンの混在する村もある。住民はブラックデスの構成員か関係者であり、ドン・ゴーフルの指示のもと帝国民とは決して諍いにならぬよう、慎ましく生きていた、はずであった。
(2022/12/9追記)
冒険者の介入により、人とゴブリンの争いの幾つかは防がれている。
過去の経緯
1221年初頭、帝国南部鎮守都市ヴィントを奪還したレイウェストらが直面したのは、今後も帝国の領域を奪還していくには、各国へ避難した難民達の帰還も織り込んだとしてもなお、帝国民の生き残りがあまりに少ないという現実だった。一方、ロスガリア内で、実際にはゴールディ一か所でしか人間扱いされないゴブリンの現状に思う所のあったドン・ゴーフルはレイウェストへゴブリン達の復興援助と引き換えに労働力としての移住の権利を要請する。帝国の生き残り以外に今の帝国へ移り住みたい者などそう多くはいない現状、ゴーフルの申し出はありがたいものであった。
暴走するゴブリン達
帝国領土へ移住したゴブリンの一部が先祖がえりを起こしたように狂暴化し、人類への攻撃衝動や仲間内での闘争に向かっている。一時的に思考を失いゴブゴブ言って暴れる(そして後で元に戻って反省する)暴走もあれば、理性を残したまま反抗的になるケースもあるようだ。
(2022/12/9追記)
単なる状態異常ではなく、薬物(ゴブリナ草)による鎮静や解呪などのスキルによる解消は出来ない模様。
グリーンナイフ
帝国南部にて、暴走したゴブリン達の一部が結成しようとしている新興マフィアの名称。かつてブラックデスに反抗し、ドン・ゴーフルに恭順していた元レッドブーツ、ホワイトライフの幹部なども含まれており、短い間に名前だけが随分広まっているようだ。
(2022/12/9追記)
決起直後に声をあげた多くのゴブリンが捕縛されたものの、暴徒ゴブリンの間で反体制組織として草の根のように広まっているらしい
ドン・ゴーフルとゴブリンの文明化(2022/12/9追加)
大脱出とそれ以後のゴブリン種族の文明化は、特異個体ドン・ゴーフルの影響によるものであり、彼が失われれば幾つか世代を経て元の亜人に帰っていくと推測される。【大変動】でかつての同志の子孫が野生に帰りつつある姿を見た事で、ゴーフル自身はこの事に確信を持った。
イダの刻印(2022/12/9追加)
一部のゴブリンに刻まれた、帝国皇女イダ・バルダスからの精神支配を示す魂への刻印。痣など何らかの形で外見上に出てくる場合もあり、出てこない場合もある。ドン。ゴーフルの影響力と拮抗しており、帝国のゴブリン族動揺の原因の一つとみなされている。
イダの刻印を受けたゴブリンに接触したゴブリンにも伝染していくらしい。伝染力は、イダから受けた精神支配が深い個体程強いと思われる。
イダの刻印の対処法(2022/12/9追加)
ドン・ゴーフル自身の言葉によれば、イダに比肩する様な神に近い存在の影響下に置くことで刻印を排除できると推定される。帝国と言う場所にはそれ以外の方法もあるような事を匂わせていたが、アダムにより刺されその後の言葉は不明となった。
水上都市アキュアリスタ(2022/12/9追加)
ロスガリア大陸北東、辺境都市郡の遺跡都市の一つ。
ヴィントで集まるのは微妙な時期と判断したサチコの進言で今回の国際会議の舞台となった。ドン・ゴーフルを刺傷したアダムが遺跡に逃げ込んでいる。
紀元前より存在するとされる広大な湖内部に沈んだ遺跡部と、遺跡の中でも大きい建造物の最上部を利用して作られた行政区などの中心部、遺跡上に建築したり浅瀬を埋め立てることで建造された外縁部からなる。
都市内は徒歩での移動も可能だが、ボートでの移動もよく利用されている。同都市では冬季に行われる『水神祭』が最も知られている。原因は不明であるが、湖は一年に一度、冬季に大きく水位が下がり、遺跡の外観の一部が明らかになると同時に遺跡への進入が可能となる。
この時期は冒険者、研究者、加えて、その景観を見ようと観光客が押し寄せる時期であり、『水神祭』は彼らをターゲットとした、大陸全土で見ても最も大きな祭りの一つである。なお、遺跡自体は強固な素材で建築されており、破壊による遺跡調査や資材採集が困難であることから、長年に渡り探索・研究の対象となっている。現状確認されている遺跡内部への入り口は都市中心部の深層に一つのみであることも手伝い、調査用・探索用に遺跡を開放する際の利用料は同都市の貴重な収入源となっている。
遺跡は巨大な石材を組み合わせて作られており、巨大な基部と、そこから様々な方向に伸びる直方体様の構造物が組み合わさったような形をしている。
水位が下がった際に見ることができる威容はこの世のものとは思えない景観であること、夜間はその外壁の紋様が明るく発光することから、観光客の人気も根強い。
「多くは無事に取り押さえられたとはいえ、ゴブリンが暴走したばかりのヴィントへドンが出向く事は、いらぬ諍いを生みかねません」
ドン・ゴーフルの横から、サチコがにべもなく切り捨てた。今までは背後に控えていた彼女がドンの隣で席に就いているのは、ドンに事実上の後継者として指名されたのかと、各国の代表は納得する。ドンには高齢による体調不安も噂されており、遅すぎたくらいだとも言えた。
「……って、言われちまってよォ。まあ、それも一理あるって事で、ちょいと離れたココに一席設けさせてもらったって訳だ」
「なるほど、そう言う事であったか」
レイウェストが深く頷く。今は王国もきな臭く、同盟はどの都市を選んだかで後々ゴールディとの関係が揉めそうで面倒くさい。現状を考えれば辺境都市群のアキュアリスタが良さそうだと、サチコが自ら手配したそうだ。
「冬のアキュアリスタは観光の名所だからね。会議の後に訪れるのも悪くないよ。本当ならメアリーを連れて来て君に会わせたかったのだけどね」
ドンと共に卓を囲んでいるのは、ゴブリン暴走で被害を受けた当事者である帝国からレイウェスト・バルダス皇子。そして帝国復興を支える当事者としてリーンエス王国のウィリアム・リーンエス王子と都市同盟のヴィルジニア・テレーザ・セルッティが並んでいた。
「王国の一件は、こっちでも伺っています。……メアリー王女の予後はそんなに悪いのですか?」
「まあ、それはまた別の席での話題にすべきじゃないかな」
内戦を切り抜けたばかりのウィリアムの列席にはヴィルジニアも驚いたようだ。心配げな表情を隠さず『女狐』らしからぬ余所行き口調の彼女に、ウィリアムは肩をすくめてそう返す。
「確かに、王国もやべェって話は俺も聞いている。時間が惜しい。さっさと本題に入らせて貰うぜェ」
喋り出したゴーフルを、サチコは心配げに見た。この後話す内容を彼女は直前に聞いたのだが、信頼するドンの言葉でなければ眉に唾を付けるような内容だったのだ。すなわち。
「俺ァ、ゴブリンの神だ。いや、まァ成りかけってのが本当の所だがな。そこにイダ・バルダスが横やりを入れてきたってのが、事の真相だ」
神、という言葉に列席者は反射的に眉を顰める。このような席にふさわしくない大言壮語。そう切って捨ててしまうには、この会議を招集したドンの本気度が邪魔をした。
「ドンのお言葉だけですと説明が足りないかもしれません。ドンは、私達ゴブリンが亜人という枠を超えて人として活動するようになった、その流れの中心にいます。それを、分かりやすく表現したのが『ゴブリンの神』と言う言葉です」
サチコの補足を聞き、【大変動】での古ゴブリン達の様子を思い返した者もいよう。四百年前のドン・ゴーフルの大脱出の際、ドンと袂を分かって樹海に残った者の子孫は、亜人に間違うほどに『退化』していた。あの差がゴーフルの存在の有無によるものだとすれば、神と言う表現もあながち言い過ぎではないのかもしれない。少なくとも、列席者が真面目に続きを聞く状態になったのを見て、ゴーフルは言葉を続けた。
「奴が仕込んだのは、『イダの刻印』と俺ァ呼んでる。魂に打ち込んだ楔みてぇなモンだな。めんどくせェ事に、見た目じゃ掛かってる事がわからねェ。流行り病みたいに伝染もするらしく、知らねェ間に広がりやがった」
イダがどういうつもりでゴブリンにちょっかいを出してきたのかは、わからないとドンは言う。だが、その意向は明らかだ。ドンがこれまで与えてきた『文明化』への影響力を削ぎ、原始のゴブリンへと回帰させようというものらしい。
「ゴブリンの神、か……。ちょっと、いろいろ整理しないといけない事が多いけど、まあそれはいい。その『イダの刻印』って奴は、ゴブリン以外には効かないのかな? 例えば、ヒューマンは」
「歴史からすると、ゴブリンとリザードマンの次に『新しい』アタシらハーフビーストも、気になるところさね」
「その心配は要らねェ。今のゴブリンはまだ出来損ないだからよォ。簡単に付け込まれたが、ゴブリンからお前達に『刻印』が伝染する事はねェよ」
ウィリアムとヴィルジニアの危惧を、ドンは首を振って退ける。イダの刻印が爆発的に広まるのは魂の形として『ゴブリンが未完成なヒト』であるからだと彼は言う。既に確立した人類である種族の魂にはそのような瑕疵はないとも。
「もっとも、実際にイダに会えば、人だろうが亜人だろうが関係なく喰われるだろうがなァ」
あるいはクリーパーのような異質な存在であっても、丸ごと取り込まれてしまう可能性は高いだろう。実際に、一度は世界の守護者たる世界樹の力を奪っている。イダはそれ程の怪物だと、ドンは言う。しかし、彼は自信ありげに笑って見せた。
「イダは強ェ。タイマンじゃあ俺ァ逆立ちしても勝てっ子ねェが、ゴブリンの事なら話は別だ。俺は先祖代々連中の面倒を見て来たんだぜ。おかしくなった連中に会えば、元の『まともな』ゴブリンにすぐに戻せらァ」
「……すぐ、というのは」
「遣って見ねェと分からねェが、一日は掛からんだろう。半日くらいじゃねェか?」
それならば、順次面会させる手配は出来るだろうとレイウェストは言うも、捕縛されている人数は少なくない。体調の悪いゴーフルがその全てを見る事が出来るのか、心配ではあった。それに、ドンの説明が正しいのなら、一度解放されてもまた刻印に絡めとられる可能性はあるのだろうし。
「確かに、ドンの御身体は一つしかありません。無理な場合は、手の届かない範囲は処分……」
「まァ、俺以外の奴でも、気合の入った奴ならイダに対抗できるかもしれねェ。宛があるなら、そう言った奴の協力を得てもいい。それに面倒だがヴィントなら他の手も……無く、は……」
語っていたゴーフルが突然、机に突っ伏した。
「アダムッ!」
ドンの背後、血濡れた短刀を手にしていたアダムへ、サチコが殺意を向ける。何もない空間に猛火が発生するのを、アダムはのけぞるように回避した。
『あら怖い。私は彼が無理をし過ぎないように、止めただけ。殺したりはしないわ?』
「……母上?」
「イダ・バルダス皇妃か?」
無表情なアダムの口から、涼し気な女性の声が聞こえる。いや、聞こえたような気がしただけで、思念の声だ。
『まあ、ウィリアム王子。いつも息子と仲良くしてくださってありがとう。……確かに私はレイウェストの母だけれど、皇妃と呼ばれるのは不快よ? とても』
視えざる衝撃を受けたようにウィリアムが身を強張らせ、レイウェストが声を掛けようと身を乗り出したが。
『たまには、息子とお話するのも楽しそうだけれど、この子を通してでは嫌だわ』
「お待ちください、母上! 話を!」
「ゴ、ゴーフル。俺が、殺し、殺し……」
「させません!」」
「ギャアアアッ!」
よろよろと伸ばした手が燃え上がる。アダムは悲鳴を上げて飛び退り、窓を破って外へ逃げ出した。窓まで駆け寄ったサチコが、眼下を睨んで舌を打つ。
「冒険者にも手配を。裏切り者を絶対に殺しなさい」
「……いや、気持は良く分かるけれど、可能なら彼は捕えた方が良いよ、レディ。僕達にはどうも、分からない事が多すぎる。ドン・ゴーフルの為にもその方がきっと良い」
まだ眼が眩むのか、言葉を発しつつも頭を振るウィリアム。ゴーフルへその場にいた授恵者が生命回帰を施すも、意識が戻る様子はない。扉を蹴り破るようにして、ブラックデスの医師が駆け込んできた。
「まさか、アンタはこんなところでくたばるつもりはないだろう? しぶとく生きあがいて見せな」
外交面ではドンの好敵手であるヴィルジニアが、複雑そうな表情でピクリとも動かぬドンへ目を向ける。目を強くつぶり、レイウェストは絞り出すように呟いた。
「……一体貴女は何を、なさろうと言うのか。母上」
民を見捨てた父に続き、あるいは母とも訣別を覚悟せねばならぬ。それは、帝王教育を受けた訳でもない彼にとっては、重い決断であった。
執筆:紀藤トキ