【DA】リーンエスの耳
ジュスト・ヴェルジー/ フォスティーヌ・ケレス
『ノベルタイトル:大切なものの為に』馬車猪
●
ジュスト・ヴェルジーを出迎えたのは大勢の使用人達だ。
所作は厳しく教育された貴族並みに美しく、侯爵家の主の屋敷を任されるに相応しい人材であることを行動で証明している。
「ようこそいらっしゃいました」
歓迎の言葉を口にするのは家令 である初老の男だ。
完璧な礼儀と温和な表情であるのにジュストを見る目はどこまでも冷静。
生半可な貴族では緊張して態度に出してしまったかもしれない。
「フォスティーヌ様にお招き頂き光栄だよ」
ジュストは伯爵家次男としてケレス侯爵家とその当主 に敬意を表し、しかし必要以上に卑下はしない。
地位や立場に上下があっても、上下の差を適切に認識し振る舞うことを常に求められるのが上流社会の人間だ。
家令は歓迎の態度を維持したまま高速で思考し評価する。
ヴェルジー伯爵家次男は色男のイメージで語られてきたのに、今目の前にいるのは有力な家系の後継者としての立場を十分にこなせるように見える。有力な伯爵 家はもちろんそれ以上の家でも通用するかもしれない。
「案内してくれるかな?」
ジュストはここ2年ほどで口と顔だけの男という評価を覆したとはいえ、華やかな容姿と雰囲気と言葉の使い方も磨き続けていて切れ味は抜群だ。
恋に恋する若いメイドも、悪意と憎悪にまみれた貴族社会の一面を知る家政婦長まで、直接視線を向けられた訳でもないのに心がざわめくのを自覚する。
そんな彼女等の様子に気付いているのに一切態度には出さず、家令はジュストを最も重要な区画へ導いた。
●
廊下を歩いている間も、ジュストは態度を崩さずに五感と思考を研ぎ澄ませている。
(これは……)
ジュストの実家も始まりの百家のひとつだ。
丁寧な使用と補修を繰り返した建造物は見慣れているし、高価な装飾や高度な紋具も有力な魔術の名門の一員とした慣れ親しんだものだ。
(よく治まっているね)
当代当主に嫡子どころか子すらいない貴族家にしては異様なほど屋敷の雰囲気が良い。
どれだけ金と権力があっても無理がある家 の屋敷は荒れるものだ。
少なくとも、ジュストやそれ以上にできる人間が見落とすなどあり得ない。
(既に手を打っているという訳だ)
どんな手か予想はついている。
ジュストの母はケレス侯爵家当主の妹だ。
子がいないなら最も血が濃い子を貰い受けるのはよくあること。
対価はもちろん必要だが、ケレス侯爵家は既に対価以上のものをヴェルジー伯爵家に支払っている。
1つめはジュストの治療。幼少期に犬型魔獣の群れに襲われて大怪我をしたジュストを万全な状態にまで回復させた。
2つめはジュストの兄の治療。不治の病とされていた難病に対する特効薬を開発し、ヴェルジー家の嫡子として問題ない水準まで回復させた。
つまりヴェルジーの家系が途絶える危機を救ったのがケレス家だ。直系男子1人を養子として貰う程度の要求は簡単に通る。
貰われる1人の交友関係 など関係なくだ。
ぱちり、と扇が閉じられる音が響く。
ただ美しいだけでなく維持管理に極めて高度な造園と薬草知識が必要な中庭で、非常に気配 の濃い女性が口元を微笑みの形に変える。
「よく来たわね」
侯爵が伯爵令息に向けるものとしては柔らかく、私的な場で伯母が甥に向けるものとしては堅苦しい。
ジュストは相手の行動から意図を推測して自らの行動を選択する。
「ご無沙汰しております、伯母様」
血の繋がりのある年下男性として許される限界の数歩手前まで踏み込む。
伯母と甥ならぎりぎり許され、義母と義息子なら問題ない距離と態度だ。
「話が早いのは良いことだけど」
フォスティーヌ・ケレスの気配が強くなる。
どんな手段で維持しているか噂はあっても詳細は分からない美貌が、殺気じみて強い気配で輝くようだ。
「焦って口に出すのは若いわ」
悪意も揶揄もなく事実を口にしている。
彼女は甥の全てを知っている訳ではないが、能動的な調査をしなくても多くを知れる程度に侯爵家当主という立場は強力だ。
「参りましたね」
並の貴族相手なら内心を隠し通せる自信と実績があっても、貴族として百戦錬磨の伯母には通用しない。
「ヴェルジー伯と先代に話は通しているの」
だから後は詳細を決めるだけよと微笑む様は、甥に対する情はあっても甘さは一切感じられなかった。
●
甥を次期ケレス侯爵として迎え入れる。
そう一方的に告げられた分家と配下の当主達は、反発も安堵もせずただただ冷静だった。
ヴェルジー伯爵家とどのような合意に至ったのか。
甥御 の経歴と能力はどの程度であるのか。
ケレス侯爵家という勢力内では絶対的権力者ともいえるフォスティーヌに対し、言葉だけは穏やかに一歩も退かぬ態度で問い詰める。
フォスティーヌはその態度を鷹揚に許す。
後継者の出来はケレス侯爵家はもちろんその下の勢力の将来に強く影響する。
忠誠心の有無や強弱に関係なく、生き延びる気があるなら今知る必要がある。
「ヴェルジー家から参りましたジュストです」
正式に籍が移動するのは帝国の件が片付いてからになるが、現ケレス侯 が既に決定と発表を終えているので実質的には既に次期侯爵だ。
(実力不足と判断されたらお飾りにされる立場だけどね)
お飾りには名誉しか与えられない。
ケレス侯爵家の意思決定にも関われず、誰と関わるかも自分自身では決められない立場に追い込まれてしまうだろう。
だから今ここで自らの価値を示すしかない。
養子入りは納得しているが、大切なものを手放す気はないのだから。
フォスティーヌは手を貸さない。
甥の恋路を邪魔するつもりはないが、この程度の試練を乗り越えられないようでは今の婚約者を守り通すのは不可能。
力不足ならこの場で関係を断ってやった方が甥と今の婚約者のためだと判断している。
「パンクリアース学園で生徒会副会長をされているとか」
爵位持ちの分家当主は褒めているようで実際は褒めていない。
侯爵家に次期当主として迎えられるならその程度できて当然。実際に何を侯爵家にもたらすことができるのか問うている。
「興味深い経験をしています」
ジュストは余裕の態度を意図して維持し続ける。
奇人変人が派手に活躍している部分もあるが、あの学園は学力や能力や生まれやそれら複数が飛び抜けた存在が集まる場所だ。
実際に得た有力なコネや知識もあるし、口に出す訳にはいかないものもある。
言葉を選んでいることを悟らせず、貴族らしい優雅な態度と言葉遣いで過去話という形で己の実績をアピールする。
(器量はあるようだが)
(ケレスの跡取りとして今から育てられるとしたらこれでも厳しいぞ)
(否定はせん。だがこれ以上の候補が今から探して見つかると思うのか)
分家や配下達の思考も置かれた立場も似通っていて、口に出さなくても意思疎通が行えてしまう。
そんな様子をフォスティーヌは楽しげに見守っている。
甥の成長が誇らしくもあるし、愛するひとのために全身全霊で奮闘する様が実に可愛らしい。
視線を感じた。
妻の名誉に関わることを除いて存在感が薄くなるよう振る舞ってきた夫が、若者を虐めないでやれと目だけで諭してくる。
こうなるとフォスティーヌは弱い。
夫を愛しているのは当然だが、私人としても公人としても非常に借りが多いのだ。
フォスティーヌは軽く咳払いをして注目を集め、後の話は次の会合でするよう全員に告げ のだった。
●
「援護をありがとうございます」
頭を下げるジュストは消耗を隠せていない。
非常に高い素質と高度な能力を持つ彼でも、社会の第一線で戦い続けている人々を相手に単身で立ち向かうのは本当に大変なのだ。
「私に礼を言う必要はないわ」
フォスティーヌはあっさりした態度だ。
夫は職場へ向かったので、これ以上甘くすることは絶対にない。
「分かっているわよね?」
「……はい」
ヴェルジー伯爵家とフォスティーヌとの契約では、ジュストが現在結んでいる婚約を破談させないことになっている。
これはジュストの家族の思いやりだ。
彼も他は譲ってもこれだけは絶対に譲れない。
「ジュストがケレス内部の掌握に成功しない限り、結婚相手は針のむしろに座らされることになるわ」
ケレス内部でフォスティーヌの意思が最優先されるのは、フォスティーヌが実力と実績で分家や配下からの信頼を獲得しているからだ。
婚約の維持はジュスト個人の希望であり、フォスティーヌが認めても下からの反発はジュストや婚約者に向かう。
「予測はしていました」
強ばろうとする表情筋を気合いで操作する。
不敵に、優雅に、あの魔境でナンバー2を続ける青年が華やかに微笑む。
「義母様」
己の最も大事なものが危険に晒されているのにジュストの瞳は野心で強く輝いている。
野心の中で最も強いのは愛だ。
権力や名声など道具でしかない。
「ケレスの人間に相応しい知識と技術を身につけたいのです」
その真っ直ぐな野心は実に心地良い。
伯母として、義理の母として、そして何よりケレス侯爵として、優れた後継候補はどんな財宝よりも魅力的だ。
「あの人に嫉妬されそうね」
扇を開いて口元を隠す。
今日の晩は本当に久しぶりに夫婦喧嘩をすることになりそうだが仕方がない。
失われる可能性すらあった知識や技術を最高の素材に仕込むというのは、他に比較するものがないほど楽しいに決まっている。
だから夫の医療技術より先に教え込むのは自然なことなのだ。
(待たせる訳にはいかないからな)
ジュストは大切なもの のことを思い、必ず迎えに行く決意を改めて固めていた。
ジュスト・ヴェルジーを出迎えたのは大勢の使用人達だ。
所作は厳しく教育された貴族並みに美しく、侯爵家の主の屋敷を任されるに相応しい人材であることを行動で証明している。
「ようこそいらっしゃいました」
歓迎の言葉を口にするのは家令 である初老の男だ。
完璧な礼儀と温和な表情であるのにジュストを見る目はどこまでも冷静。
生半可な貴族では緊張して態度に出してしまったかもしれない。
「フォスティーヌ様にお招き頂き光栄だよ」
ジュストは伯爵家次男としてケレス侯爵家とその当主 に敬意を表し、しかし必要以上に卑下はしない。
地位や立場に上下があっても、上下の差を適切に認識し振る舞うことを常に求められるのが上流社会の人間だ。
家令は歓迎の態度を維持したまま高速で思考し評価する。
ヴェルジー伯爵家次男は色男のイメージで語られてきたのに、今目の前にいるのは有力な家系の後継者としての立場を十分にこなせるように見える。有力な伯爵 家はもちろんそれ以上の家でも通用するかもしれない。
「案内してくれるかな?」
ジュストはここ2年ほどで口と顔だけの男という評価を覆したとはいえ、華やかな容姿と雰囲気と言葉の使い方も磨き続けていて切れ味は抜群だ。
恋に恋する若いメイドも、悪意と憎悪にまみれた貴族社会の一面を知る家政婦長まで、直接視線を向けられた訳でもないのに心がざわめくのを自覚する。
そんな彼女等の様子に気付いているのに一切態度には出さず、家令はジュストを最も重要な区画へ導いた。
●
廊下を歩いている間も、ジュストは態度を崩さずに五感と思考を研ぎ澄ませている。
(これは……)
ジュストの実家も始まりの百家のひとつだ。
丁寧な使用と補修を繰り返した建造物は見慣れているし、高価な装飾や高度な紋具も有力な魔術の名門の一員とした慣れ親しんだものだ。
(よく治まっているね)
当代当主に嫡子どころか子すらいない貴族家にしては異様なほど屋敷の雰囲気が良い。
どれだけ金と権力があっても無理がある家 の屋敷は荒れるものだ。
少なくとも、ジュストやそれ以上にできる人間が見落とすなどあり得ない。
(既に手を打っているという訳だ)
どんな手か予想はついている。
ジュストの母はケレス侯爵家当主の妹だ。
子がいないなら最も血が濃い子を貰い受けるのはよくあること。
対価はもちろん必要だが、ケレス侯爵家は既に対価以上のものをヴェルジー伯爵家に支払っている。
1つめはジュストの治療。幼少期に犬型魔獣の群れに襲われて大怪我をしたジュストを万全な状態にまで回復させた。
2つめはジュストの兄の治療。不治の病とされていた難病に対する特効薬を開発し、ヴェルジー家の嫡子として問題ない水準まで回復させた。
つまりヴェルジーの家系が途絶える危機を救ったのがケレス家だ。直系男子1人を養子として貰う程度の要求は簡単に通る。
貰われる1人の交友関係 など関係なくだ。
ぱちり、と扇が閉じられる音が響く。
ただ美しいだけでなく維持管理に極めて高度な造園と薬草知識が必要な中庭で、非常に気配 の濃い女性が口元を微笑みの形に変える。
「よく来たわね」
侯爵が伯爵令息に向けるものとしては柔らかく、私的な場で伯母が甥に向けるものとしては堅苦しい。
ジュストは相手の行動から意図を推測して自らの行動を選択する。
「ご無沙汰しております、伯母様」
血の繋がりのある年下男性として許される限界の数歩手前まで踏み込む。
伯母と甥ならぎりぎり許され、義母と義息子なら問題ない距離と態度だ。
「話が早いのは良いことだけど」
フォスティーヌ・ケレスの気配が強くなる。
どんな手段で維持しているか噂はあっても詳細は分からない美貌が、殺気じみて強い気配で輝くようだ。
「焦って口に出すのは若いわ」
悪意も揶揄もなく事実を口にしている。
彼女は甥の全てを知っている訳ではないが、能動的な調査をしなくても多くを知れる程度に侯爵家当主という立場は強力だ。
「参りましたね」
並の貴族相手なら内心を隠し通せる自信と実績があっても、貴族として百戦錬磨の伯母には通用しない。
「ヴェルジー伯と先代に話は通しているの」
だから後は詳細を決めるだけよと微笑む様は、甥に対する情はあっても甘さは一切感じられなかった。
●
甥を次期ケレス侯爵として迎え入れる。
そう一方的に告げられた分家と配下の当主達は、反発も安堵もせずただただ冷静だった。
ヴェルジー伯爵家とどのような合意に至ったのか。
甥御 の経歴と能力はどの程度であるのか。
ケレス侯爵家という勢力内では絶対的権力者ともいえるフォスティーヌに対し、言葉だけは穏やかに一歩も退かぬ態度で問い詰める。
フォスティーヌはその態度を鷹揚に許す。
後継者の出来はケレス侯爵家はもちろんその下の勢力の将来に強く影響する。
忠誠心の有無や強弱に関係なく、生き延びる気があるなら今知る必要がある。
「ヴェルジー家から参りましたジュストです」
正式に籍が移動するのは帝国の件が片付いてからになるが、現ケレス侯 が既に決定と発表を終えているので実質的には既に次期侯爵だ。
(実力不足と判断されたらお飾りにされる立場だけどね)
お飾りには名誉しか与えられない。
ケレス侯爵家の意思決定にも関われず、誰と関わるかも自分自身では決められない立場に追い込まれてしまうだろう。
だから今ここで自らの価値を示すしかない。
養子入りは納得しているが、大切なものを手放す気はないのだから。
フォスティーヌは手を貸さない。
甥の恋路を邪魔するつもりはないが、この程度の試練を乗り越えられないようでは今の婚約者を守り通すのは不可能。
力不足ならこの場で関係を断ってやった方が甥と今の婚約者のためだと判断している。
「パンクリアース学園で生徒会副会長をされているとか」
爵位持ちの分家当主は褒めているようで実際は褒めていない。
侯爵家に次期当主として迎えられるならその程度できて当然。実際に何を侯爵家にもたらすことができるのか問うている。
「興味深い経験をしています」
ジュストは余裕の態度を意図して維持し続ける。
奇人変人が派手に活躍している部分もあるが、あの学園は学力や能力や生まれやそれら複数が飛び抜けた存在が集まる場所だ。
実際に得た有力なコネや知識もあるし、口に出す訳にはいかないものもある。
言葉を選んでいることを悟らせず、貴族らしい優雅な態度と言葉遣いで過去話という形で己の実績をアピールする。
(器量はあるようだが)
(ケレスの跡取りとして今から育てられるとしたらこれでも厳しいぞ)
(否定はせん。だがこれ以上の候補が今から探して見つかると思うのか)
分家や配下達の思考も置かれた立場も似通っていて、口に出さなくても意思疎通が行えてしまう。
そんな様子をフォスティーヌは楽しげに見守っている。
甥の成長が誇らしくもあるし、愛するひとのために全身全霊で奮闘する様が実に可愛らしい。
視線を感じた。
妻の名誉に関わることを除いて存在感が薄くなるよう振る舞ってきた夫が、若者を虐めないでやれと目だけで諭してくる。
こうなるとフォスティーヌは弱い。
夫を愛しているのは当然だが、私人としても公人としても非常に借りが多いのだ。
フォスティーヌは軽く咳払いをして注目を集め、後の話は次の会合でするよう全員に告げ のだった。
●
「援護をありがとうございます」
頭を下げるジュストは消耗を隠せていない。
非常に高い素質と高度な能力を持つ彼でも、社会の第一線で戦い続けている人々を相手に単身で立ち向かうのは本当に大変なのだ。
「私に礼を言う必要はないわ」
フォスティーヌはあっさりした態度だ。
夫は職場へ向かったので、これ以上甘くすることは絶対にない。
「分かっているわよね?」
「……はい」
ヴェルジー伯爵家とフォスティーヌとの契約では、ジュストが現在結んでいる婚約を破談させないことになっている。
これはジュストの家族の思いやりだ。
彼も他は譲ってもこれだけは絶対に譲れない。
「ジュストがケレス内部の掌握に成功しない限り、結婚相手は針のむしろに座らされることになるわ」
ケレス内部でフォスティーヌの意思が最優先されるのは、フォスティーヌが実力と実績で分家や配下からの信頼を獲得しているからだ。
婚約の維持はジュスト個人の希望であり、フォスティーヌが認めても下からの反発はジュストや婚約者に向かう。
「予測はしていました」
強ばろうとする表情筋を気合いで操作する。
不敵に、優雅に、あの魔境でナンバー2を続ける青年が華やかに微笑む。
「義母様」
己の最も大事なものが危険に晒されているのにジュストの瞳は野心で強く輝いている。
野心の中で最も強いのは愛だ。
権力や名声など道具でしかない。
「ケレスの人間に相応しい知識と技術を身につけたいのです」
その真っ直ぐな野心は実に心地良い。
伯母として、義理の母として、そして何よりケレス侯爵として、優れた後継候補はどんな財宝よりも魅力的だ。
「あの人に嫉妬されそうね」
扇を開いて口元を隠す。
今日の晩は本当に久しぶりに夫婦喧嘩をすることになりそうだが仕方がない。
失われる可能性すらあった知識や技術を最高の素材に仕込むというのは、他に比較するものがないほど楽しいに決まっている。
だから夫の医療技術より先に教え込むのは自然なことなのだ。
(待たせる訳にはいかないからな)
ジュストは大切なもの のことを思い、必ず迎えに行く決意を改めて固めていた。
assignment【DA】史実ノベル 関連特設ページ
メアリー王女が冒険者達の協力を得て稼働させた「王家の耳」。メアリーは無作為に集まってくる情報を、余人に及びもつかぬ閃きを持って分析しながら、今日も世界の動きへ耳を傾けている。
集まった情報の中には、世界の情勢に影響はないかもしれないが興味深い個人の記録があるかもしれない。