【帝国】決戦:叢とみる夢
アルパカコネクト運営
コメント 3
シナリオID:2254
オープニング
●
「今なら、クーネさんはあの殻は壊せるぞ。ただ、ちょっと疲れた。斬るまでの間と、斬ってからの事は任せたい」
かつて、単身で都市ダルトートの幽界樹を両断したクーネ・ルウの言う事には、実績に裏打ちされた信頼がある。もっとも、彼女にしても黒い外皮を砕くのは簡単な事では無く、全力で掛からねばならないという。まずは、進路をふさぐように蠢く中小の黒いクリーパーを退け、クーネを幽界樹の元へ辿り着かせねばなるまい。
「よし、行くぞぉ! エスタルの冒険者魂を見せてやれ!」
長年、市を守ってきた地元の冒険者達が声を上げる。市外からやってきた冒険者達にとっては、ヴィントの幽界樹、ダルトートの二つに斬られてしまった幽界樹に続いて、三度目の対戦だ。勝手知ったる、と言うには随分違った姿になっているし、取り巻きの『幽界樹の仔』も、学習や進歩と無縁なはずのクリーパーにしては行動パターンが変わっている気もしたが、授恵者達とてこれまでの間に経験を積んでいる。勝てない相手では無い筈だ。
「あの黒いクリーパーは、魔法と物理で交互に叩くのが正解だぞ。一方だけで連続で殴るとその攻撃に合わせて固くなって面倒だ」
さっきの魔法使いはなかなか言う事を聞かなかったが、とクーネは苦笑する。まあ、これだけ冒険者がいれば攻撃手段もバリエーション豊富なはずで、物理と魔法を取り混ぜて叩くのも簡単だろう。
●
「た、助かった……。連れて行かれた皆は、大丈夫なのか?」
「分からねぇ。女神様はもう俺達を守ってくれなくなったのか?」
エスタル市の東側、旧帝国東部方面軍の駐屯地の跡で避難してきた市民が一息ついている。『リカルダ=C=アーレンス将軍に率いられた帝国北部方面軍』が冒険者と共に安全を確保した一角だ。なお、ややこしい書き方になっているのは、北部鎮守都市に健在な旧来の帝国北部方面軍と区別する為である。
「現在の状況を説明します。今朝の地震はご存知の方もいるかもしれません。それと同時に、エスタルの中央に黒い円錐状の物体が出現しました」
ティカが、集まった冒険者達に声を掛けている。リーミルが斧を担いで市内へ向かってしまったので、冒険者向けの説明役として貧乏くじを引かされた形だ。これが知れればリーミルはあとでアナンディーンに怒られるかもしれないが、自業自得と言えよう。
「冒険者ギルドは、先だっての調査報告、並びにクーネ・ルウさんの言葉からあれを幽界樹の変種と認定、これより『地に潜みし幽界樹』と呼称するそうです」
「我々帝国軍は冒険者ギルドに討伐作戦、並びに市民保護への協力を要請した。現時点より協働して作戦に当たるものとする」
ティカの説明に続いて、リカルダの戦場で鍛えた声が響いた。レイウェスト皇子はフィルエス大森林で起きた異変に対応せねばならず、バルディオン将軍の南方軍本隊はヴィントに留まり帝国の東西へ睨みを利かせている。エスタルの指揮は、援軍として寄こされた部隊も合わせリカルダに委ねられていた。
「現地で出現が報告されている『黒いクリーパー』ですが、幽界樹の仔の変種と思われます。『地に潜みし幽界樹』本体と類似した黒い装甲を纏っているそうです。性質として、物理攻撃を受ければ物理攻撃に強く、魔法攻撃を受ければ魔法攻撃に強く変質する能力を持っているとの事でした」
『地に潜みし幽界樹』の出現と同時に現れたと情報を、ティカは各員に周知していく。確かにややこしい能力だが、対処方法が分かっていれば冒険者達なら何とかするだろう。説明に一息ついた所に、急ぎ駆けてきた帝国軍人がリカルダの元に辿り着き、慌てた様子で何やら報告を始めた。
「……なるほど。分かった。斥候からこの駐屯地に向かっているクリーパーがいるとの連絡を受けた。エスタルの幽界樹と連携しての事かは分からないが、大型クリーパーも一体いるらしい。一匹たりともここに辿り着かせてはならん」
ティカとリカルダは手早く相談を交わし、クリーパーの迎撃は授恵者主体で行い、一般人の多い帝国軍部隊は駐屯地の最後の防衛線を担う事となった。クールにやりとりしつつも、ティカは内心沸騰中である。
(これ、どう考えても私のやる仕事じゃないだろう! リーミルさん……?)
族長の娘なんだから、人を纏めるのはお手のものですよね! 頑張ってくださいね! と遠くから返事が返ってきたような気がして、ティカは遠い目になる。思えば、村から遠い場所まで来てしまったものだ。
「救出作戦が進めば、市内で保護された人々も送られてくるだろう。既に救助済みのケースからするに、草人から引き離してしばらくすれば眠りから覚めるようだ。彼らの受け入れ態勢も急いで整えねばならん」
彼らからすれば、家で寝ていて目が覚めたら地下から駐屯地へ向けて運ばれている状況だ。混乱するのも無理はなく、安全面もだが落ち着かせるための工夫も必要となるだろう。
●
「……これは、何だ」
逃げる草人を追いかけ、あと少しの所で逃してしまったクライス・アクバーは、市民を抱えた草人を見失った一角で立ちすくんだ。地表に頭を出しているタケノコ程ではないが、両手を広げたよりも大きな直系の黒い柱が並んでいる。良く見れば、表面が脈打っているようにも見えた。
「……繭、か?」
嫌な予感に、一歩後ずさったところで視界の端の柱の表面が割れた。中から、黒い外皮に包まれた人型のクリーパーが姿を現す。ここに来るまでに、幾度か相手をして黒い外皮の特性は理解していた。距離があるから先に魔法を当て、その後に斬る。
「疾い。……これまでとは別物か」
魔弾を回避され、間合いを詰められた。これまでの鈍重な草人とは違う。だが、倒せぬ程ではないと判断したところで、また繭の裂ける音がした。さっき、逃げる草人を見失った辺りだ。
「まさか」
消えたのは草人と市民。出て来たのは一体の黒い草人。消えた市民がどうなったのか、クライスは直感で理解した。
「今なら、クーネさんはあの殻は壊せるぞ。ただ、ちょっと疲れた。斬るまでの間と、斬ってからの事は任せたい」
かつて、単身で都市ダルトートの幽界樹を両断したクーネ・ルウの言う事には、実績に裏打ちされた信頼がある。もっとも、彼女にしても黒い外皮を砕くのは簡単な事では無く、全力で掛からねばならないという。まずは、進路をふさぐように蠢く中小の黒いクリーパーを退け、クーネを幽界樹の元へ辿り着かせねばなるまい。
「よし、行くぞぉ! エスタルの冒険者魂を見せてやれ!」
長年、市を守ってきた地元の冒険者達が声を上げる。市外からやってきた冒険者達にとっては、ヴィントの幽界樹、ダルトートの二つに斬られてしまった幽界樹に続いて、三度目の対戦だ。勝手知ったる、と言うには随分違った姿になっているし、取り巻きの『幽界樹の仔』も、学習や進歩と無縁なはずのクリーパーにしては行動パターンが変わっている気もしたが、授恵者達とてこれまでの間に経験を積んでいる。勝てない相手では無い筈だ。
「あの黒いクリーパーは、魔法と物理で交互に叩くのが正解だぞ。一方だけで連続で殴るとその攻撃に合わせて固くなって面倒だ」
さっきの魔法使いはなかなか言う事を聞かなかったが、とクーネは苦笑する。まあ、これだけ冒険者がいれば攻撃手段もバリエーション豊富なはずで、物理と魔法を取り混ぜて叩くのも簡単だろう。
●
「た、助かった……。連れて行かれた皆は、大丈夫なのか?」
「分からねぇ。女神様はもう俺達を守ってくれなくなったのか?」
エスタル市の東側、旧帝国東部方面軍の駐屯地の跡で避難してきた市民が一息ついている。『リカルダ=C=アーレンス将軍に率いられた帝国北部方面軍』が冒険者と共に安全を確保した一角だ。なお、ややこしい書き方になっているのは、北部鎮守都市に健在な旧来の帝国北部方面軍と区別する為である。
「現在の状況を説明します。今朝の地震はご存知の方もいるかもしれません。それと同時に、エスタルの中央に黒い円錐状の物体が出現しました」
ティカが、集まった冒険者達に声を掛けている。リーミルが斧を担いで市内へ向かってしまったので、冒険者向けの説明役として貧乏くじを引かされた形だ。これが知れればリーミルはあとでアナンディーンに怒られるかもしれないが、自業自得と言えよう。
「冒険者ギルドは、先だっての調査報告、並びにクーネ・ルウさんの言葉からあれを幽界樹の変種と認定、これより『地に潜みし幽界樹』と呼称するそうです」
「我々帝国軍は冒険者ギルドに討伐作戦、並びに市民保護への協力を要請した。現時点より協働して作戦に当たるものとする」
ティカの説明に続いて、リカルダの戦場で鍛えた声が響いた。レイウェスト皇子はフィルエス大森林で起きた異変に対応せねばならず、バルディオン将軍の南方軍本隊はヴィントに留まり帝国の東西へ睨みを利かせている。エスタルの指揮は、援軍として寄こされた部隊も合わせリカルダに委ねられていた。
「現地で出現が報告されている『黒いクリーパー』ですが、幽界樹の仔の変種と思われます。『地に潜みし幽界樹』本体と類似した黒い装甲を纏っているそうです。性質として、物理攻撃を受ければ物理攻撃に強く、魔法攻撃を受ければ魔法攻撃に強く変質する能力を持っているとの事でした」
『地に潜みし幽界樹』の出現と同時に現れたと情報を、ティカは各員に周知していく。確かにややこしい能力だが、対処方法が分かっていれば冒険者達なら何とかするだろう。説明に一息ついた所に、急ぎ駆けてきた帝国軍人がリカルダの元に辿り着き、慌てた様子で何やら報告を始めた。
「……なるほど。分かった。斥候からこの駐屯地に向かっているクリーパーがいるとの連絡を受けた。エスタルの幽界樹と連携しての事かは分からないが、大型クリーパーも一体いるらしい。一匹たりともここに辿り着かせてはならん」
ティカとリカルダは手早く相談を交わし、クリーパーの迎撃は授恵者主体で行い、一般人の多い帝国軍部隊は駐屯地の最後の防衛線を担う事となった。クールにやりとりしつつも、ティカは内心沸騰中である。
(これ、どう考えても私のやる仕事じゃないだろう! リーミルさん……?)
族長の娘なんだから、人を纏めるのはお手のものですよね! 頑張ってくださいね! と遠くから返事が返ってきたような気がして、ティカは遠い目になる。思えば、村から遠い場所まで来てしまったものだ。
「救出作戦が進めば、市内で保護された人々も送られてくるだろう。既に救助済みのケースからするに、草人から引き離してしばらくすれば眠りから覚めるようだ。彼らの受け入れ態勢も急いで整えねばならん」
彼らからすれば、家で寝ていて目が覚めたら地下から駐屯地へ向けて運ばれている状況だ。混乱するのも無理はなく、安全面もだが落ち着かせるための工夫も必要となるだろう。
●
「……これは、何だ」
逃げる草人を追いかけ、あと少しの所で逃してしまったクライス・アクバーは、市民を抱えた草人を見失った一角で立ちすくんだ。地表に頭を出しているタケノコ程ではないが、両手を広げたよりも大きな直系の黒い柱が並んでいる。良く見れば、表面が脈打っているようにも見えた。
「……繭、か?」
嫌な予感に、一歩後ずさったところで視界の端の柱の表面が割れた。中から、黒い外皮に包まれた人型のクリーパーが姿を現す。ここに来るまでに、幾度か相手をして黒い外皮の特性は理解していた。距離があるから先に魔法を当て、その後に斬る。
「疾い。……これまでとは別物か」
魔弾を回避され、間合いを詰められた。これまでの鈍重な草人とは違う。だが、倒せぬ程ではないと判断したところで、また繭の裂ける音がした。さっき、逃げる草人を見失った辺りだ。
「まさか」
消えたのは草人と市民。出て来たのは一体の黒い草人。消えた市民がどうなったのか、クライスは直感で理解した。
解説
■連動特設ページ・イメージノベル
https://alpaca-connect.com/world/world0/event/event24_top3
■相談場所について
このシナリオの相談スレッドのみの運用ですと、閲覧に際し非常に重くなる可能性があることや、戦域が多岐にわたるため、別個相談用のコミュニティを用意いたしました。
【帝国】叢とみる夢 決戦シナリオ相談場
https://alpaca-connect.com/world/world0/community/ZqskfoiKP16WHvFBt2Uo
・戦域単位での募集や挨拶
・パーティの募集・案内
・【タグ】説明スレッド
また、パーティ内での個別の相談については、上記コミュニティ以外を使用してくださってもかまいません。
■【重要】プレイングの書き方
・今回参加する戦域を右記の形式で【一行目に】記載ください。:【1】【2】【3】
・パーティや協調行動を示すタグは【二行目】で指定してください。タグでの指定は必ず【一つまで】となります:【皇子護衛隊】など
例
【1】
【皇子護衛隊】
(プレイング本文)
・【タグ】内容の説明(何を目的とするか、運用方針など)については、「相談用コミュニティ」の専用スレッドに【200文字以内】で記載ください。200字を越えた場合はタグそのものを無効といたします。
■戦域(選択肢)
【1】市内中央:地に潜みし幽界樹の撃破
▼状況
市内中央に出現した『地に潜みし幽界樹』の排除が目的の選択肢。
市の南方の冒険者ギルド付近から攻めあがる形になる。この選択肢付近に草人や市民はいない。
『地に潜みし幽界樹』は行動阻害の黒い霧を吐き出さず、代わりに強固な黒い外皮に守られている。また、『黒いクリーパー』がその周囲を守っており、更に地下から上がってきているようだ。
本体の外皮は殆どの攻撃を受け付けないようだが、クーネ・ルウがその破砕の為に同行する。彼女を消耗させずに幽界樹の元に届け、外皮破壊の為の攻撃を加えるまで敵の攻撃から守る必要がある。
また、クーネ・ルウが行えるのは外皮を砕くまでであり、その後に追撃を加えてとどめを刺さねばならない。
▼味方戦力
・クーネ・ルウ
幽界樹に近接後『溜め攻撃』を行う。無防備になる時間を守って欲しいとのこと。
・エスタル冒険者ギルド選抜メンバー
現地の冒険者ギルドから、実力に不安の無い有志が参加している。
▼敵戦力
・地に潜みし幽界樹
強固な外皮に覆われたタケノコ状の姿をしており、市内中央から動かない。地上部に枝葉などはなく、攻撃手段もないようだが、地下に多数の根を張り巡らせており、それを突き出して攻撃してくる。攻撃手段としての根は細く素早い物、太く小範囲を丸ごと吹き飛ばす物、突き出した後に地表で爆裂する物が存在する。
外皮を破砕した後に攻撃手段等がどのように変化するかは現状では不明だが、これまでの幽界樹と同様であれば、地表部には鋭い葉をまき散らすような広範囲無差別の攻撃手段を持っていた。
・黒いクリーパー(小型多数~中型20程、黒草人少数)
様々な形状のクリーパーに幽界樹の実が寄生発芽した個体に、強固な黒い装甲が施された物。装甲は直前に受けた攻撃の物理、魔法の種別に応じた側に強く変化する性質があるらしい。本体の五感と別に寄生体の感知力を併用し、攻撃に関しても本体と寄生体で二度行ってくる。寄生体の育つ前、実であった部分が弱点と目されているが装甲に守られているようだ。
素体となったのはネズミ風、蝙蝠風などの元々いた小型クリーパーの他、周囲にいた中型クリーパーや草人も含まれる。時間と共に増援が現れる模様。
【2】市内地下:中央へ向かう草人に攫われた市民の保護・回収、クリーパー掃討
▼状況
草人を追撃し、攫われた市民を奪還するのが目的の選択肢。
『地に潜みし幽界樹』が市の中心に出現したのと呼応してか、昏睡中の市民を抱えた草人が地下下水道へ向かった。地上の個体の討伐、市民保護は完了しており、現在保護が必要なのは下水道を移動中の草人になる。
幽界樹の根が彼らを守るように妨害してくる他、少数ながら元から生息する小型クリーパーの生き残りも確認された。また、奥からは黒い強固な外皮を持つクリーパーが出現しつつある。
草人自体は市民に危害を加えようとしていないが、連れ去られた先でどうなるかは不明であり、素早い救助が求められる。なお、救助した一般人の移送に関しては、あまり強くない草人狩り達が協力してくれており、救助と前進に注力して構わない。
▼味方戦力
・クライス・アクバー
草人狩りの中では実力が高いために先行し、単独で幽界樹本体の近くまで到達したのだが苦戦中。
・草人狩り
草人に攫われた市民を保護すべく下水道へ向かった。実力はまちまちだが、以前の地下下水の構造を知悉しており、保護した一般人の後方への移送を主に請け負っている
・リーミル
冒険者ギルド本部から来た受付嬢なのだが、斧を担いで前線へ。前を行く人に着いてきたら下水道の方に来てしまい、ちょっとがっかりしている。
▼敵戦力
・地に潜みし幽界樹(地下)
強固な外皮に覆われたタケノコ状の姿をしており、市内中央から動かない。市内中央まで進むと、その地下部分に遭遇する。地下に多数の根を張り巡らせており、それを突き出して攻撃してくる。攻撃手段としての根は細く素早い物、太く小範囲を丸ごと吹き飛ばす物がある。突き出した後に爆裂する根については、草人や市民を巻き込みそうな場合には使用しないようだ。
また、本体の近くには繭のような物があり、草人やクリーパーがその中に入って黒い装甲を得て出てきている。
・黒いクリーパー(小型多数~中型少数。黒草人少数)
様々な形状のクリーパーに幽界樹の実が寄生発芽した個体に、強固な黒い装甲が施された物。装甲は直前に受けた攻撃の物理、魔法の種別に応じた側に強く変化する性質があるらしい。本体の五感と別に寄生体の感知力を併用し、攻撃に関しても本体と寄生体で二度行ってくる。寄生体の育つ前、実であった部分が弱点と目されているが装甲に守られているようだ。
素体となったのはネズミ風、蝙蝠風などの元々いた小型クリーパーの他、周囲にいた中型クリーパーや草人も含まれる。地下にいる一部の黒い草人は通常の中型よりも強力な個体であるようだ。
・草人
人間を大事に抱えて移動している。反撃よりも逃走を優先するようだ。
【3】市外東部:旧東部方面軍駐屯地防衛、市民保護
▼状況
市の外にある安全地帯の防衛と市民保護、後方支援が目的の選択肢。
エスタル市の外、東側にある元駐屯地において避難、救助された一般市民を帝国軍や冒険者ギルドが保護している。
市内ほど大きな戦闘は生じていないが、はぐれてきたクリーパーが散発的に襲撃してきているため、その対処が必要だ。予想される敵には中型以上のクリーパーも少数ながら存在しており、帝国軍のみで対応した場合には大きな被害を受けるだろう。
また、他の選択肢で救助された人々の受け入れ態勢を整えたり、混乱している市民を落ち着かせたりすることも期待される。
▼味方戦力
・リカルダ=C=アーレンス
帝国の将軍であり、エスタルにおける指揮官。本人も強力な授恵者であり、戦士としては一流。
・帝国北部方面軍および南方軍からの増援
北部方面軍は少数ながらも人員に授恵者を含む精鋭。南方軍の増援は一般人主体であるが、集団行動に習熟した正規兵である。
・ティカ
エーテル浄化者。自分の身は守れる程度の授恵者だが、戦力としては高くはない。市民の世話に回っている。
▼敵戦力
・野良クリーパー(中型少数、大型1)
幽界樹に支配されていないと思しき通常のクリーパーが、黒いクリーパーと異なりエスタル市の外から向かって来ている。
数としては少数ながら、中には一体の巨人型クリーパーが含まれており、警戒が必要だ。
・黒いクリーパー(小型、中型共に少数)
様々な形状のクリーパーに幽界樹の実が寄生発芽した個体に、強固な黒い装甲が施された物。装甲は直前に受けた攻撃の物理、魔法の種別に応じた側に強く変化する性質があるらしい。本体の五感と別に寄生体の感知力を併用し、攻撃に関しても本体と寄生体で二度行ってくる。寄生体の育つ前、実であった部分が弱点と目されているが装甲に守られているようだ。
地表、地下で戦闘が行われているエスタル市南部では無く、市の東部から地表に現れた個体が流れてきている物で、数としては多くはない。しかし、保護された人々の輸送中に遭遇する危険もある為、排除が必要となる。
■決戦シナリオについて
・参加者にはこのシナリオでの働きに応じた褒章が付与されます。将来的にPCの皆さんの功績を表す重要なアイテムになりますので、大切に保管してくださいね!
マスターより
決戦シナリオのリプレイ執筆は複数のマスターが担当いたしますが、基本的な判定は運営サイドで行います。
リプレイ
【2】市内地下:中央へ向かう草人に攫われた市民の保護・回収、クリーパー掃討 前編
(担当マスター:空色みなも)
●
暗く足下の濡れた地下の下水道を、市民を抱えた草人の群れが往く。
もはや人に擬態することを必要としなくなった草人の中には、無数の脚を生やすなど、クリーパーとしての異形を露わにしている個体もあった。
「誰一人、誘拐させないぞ!」
ララベル・サン・ディーベルたち【ふしぎ亭】が、逃げる草人たちを猛追する。
エーテルの波動で地形と敵の存在を把握し、草人を追う最短ルートを算出するララベル。
「頑張ったらララベルからご褒美あるのかな?」
アリエッタもエーテル波で索敵を行いながら、ダンスのように軽やかなステップで草人との距離を詰めていく。
他にも索敵に適した手段を持ち込んだ仲間は多くいたため、【ふしぎ亭】の面々は瞬く間に草人の集団の一つに追いついた。
「逃がさないわ」
事前に地図の写しを入手して【ふしぎ亭】を案内していたテュリン・ヴィングが、術具として儀礼用の短剣を構える。
まずは草人たちにエーテル光をまとわりつかせ、その足を鈍らせたテュリン。
攫われた市民ごと巻き込むことになっても、こちらはただの足止めなのでさしたる問題はない。
そこへテュリンは草人たちだけを狙って、光の剣を次々放って貫いていった。
「見えたわ、そこ」
背中にクノキと呼ぶ相棒の栗鼠を張り付かせ、後方を警戒させている楓月・千弦。
暗闇を見通す千弦自身の目は、逃げる草人たちの姿をしっかりと捉えていた。
千弦が構えた魔弓から、エーテルをまとった矢が放たれる。
草人の背中に突き立った鏃からエーテルがまとわりつき、その回避行動を鈍らせた。
「み~つけたっ」
そこへエーテルを噴出することで宙を駆けたアルラ・ニグラスが肉薄する。
動きの鈍った草人の背に、両手に取り付けた爪を一閃、もう一閃、さらに一閃。
深い傷を負いながらも草人が倒れないので、反撃が来るか、と身構えたアルラであったが。
草人は逃げることを優先しているのか、そのまま走り去ろうとする。
「行かせないっ!」
満を持してララベルが下水道に備えられた歩道を足場に、大きく跳躍。
草人たちを飛び越して、前方へ回り込んだ。
ララベルが細剣に巨大な光の塊をまとわせて挑みかかったことによって、草人たちの足が鈍る。
「ここは私に任せろっ!」
ゴルバルティアが突進の勢いのまま草人の群れを掻き分け、追い抜いた。
「この先は通さねぇ!」
振り向いて短剣を構えると同時、背負った盾から翼のように膜を展開し、防御姿勢をとるゴルバルティア。
ゴルバルティアから放たれる凄まじいプレッシャーが、いよいよ草人たちの足を止める。
さらにゴルバルティアの領域となった空間に、短剣のまとったエーテル光の刃が吹き荒れた。
「偽りの夢から目覚める時だよ!」
度重なる攻撃を受けてとうとう頽れた草人に向かい、ヒロ・テスタロッサが風のように駆ける。
「大事な人々の命、返してもらうからね」
ヒロは草人の一体が抱えていた市民を確保すると、即座に後方へ引き返した。
「この方のこと、お願いします」
「ええ、後は我々に任せてください」
後方に控えていた千弦は、協力者である草人狩りに救出した市民の移送を依頼する。
草人狩りの中でも、実力者の多くは地に潜みし幽界樹の周辺対応に回っていた。
とはいえ、この場に集まった者たちも下水道が持つ本来の構造には詳しく、移送を行うには適任だ。
「よーし、どんどん取り返すよ!」
市民が運び出されるのを見届けたヒロが、次なる市民の救出に向かう。
こうして【ふしぎ亭】は次々と市民を助け出していったのだった。
●
下水道の闇を、炎が照らす。
市内中央地下を目指す【喫茶】の、エルナ・クルプファルツが先行させる狼に咥えさせた松明の炎だ。
「あちらを進むほうが良さそうね」
狼に同行しながらエーテル波で地形をなぞったカメリア・ローレンスが、割り出した移動ルートに沿って案内を行う。
下水道が持つもともとの構造はエルナが草人狩りから聞き出しているものの。
地に潜みし幽界樹が地上に出現した際の地震により、崩落でところどころ道も塞がっている。
草人以外に、黒いクリーパーや前から地下に住むクリーパーが存在することもあり、こうした先行偵察の意味も大きいのだ。
カメリアは進路上にクリーパーを見つけても牽制を行うに留め、移動に支障が出ないように気を配る。
クリーパーの完全な排除は、そのために動ける冒険者に任せる形だ。
「……何か振動音が聞こえますね。ご注意を」
キーゼの鋭い聴覚が、下水道の壁の奥から響く音を捉える。
直後、警告により散開した【喫茶】の面々がつい先ほどまでいた空間を、植物の根のようなものが貫いた。
どうやら、地に潜みし幽界樹の根が下水道に沿う形で伸びていたようで、それが壁を突き破って攻撃してきたようだ。
「お呼びじゃない、引っ込んで」
正三角形の魔法陣が展開されたコハクの左目は、周囲の熱を視覚として感知することもあり。
突き出された根をコハクは最小限の動作で回避していた。
コハクの両の手に握られた漆黒の刃を持つ短剣が、即座に閃き。
三連撃を受けた根は、それで怯んだのかどうかは分からないが、壁の奥に戻っていった。
「またどこかで不意打ちを仕掛けてくるかもしれません。注意が必要でございましょうね」
ネーヴェ・グラヌローザも、地中に隠れた根が突き崩しうる壁に注意を払うようにして先に進む。
「ここは草人を盾にして進みましょう!」
「じゃあ、逃げる草人を捕まえないとね」
ユークリア・フィナンシェの提案で、アルシエラ・ライゼルが白き鞭を振るった。
鞭から放たれた白光のエーテル波が風をまとったように加速し、逃走する草人の一体の脚を打つ。
「難しいけど、死なない程度にしないといけないのよね」
ウォルナ・パイパースが杖から放った魔法の矢も草人に襲い掛かった。
「逃がしません! あなたには私たちの盾になって貰います!」
さらにユークリアが鳥の姿をした魔法の照明光を頼りに、草人に狙いをつける。
雷のようなエーテルの槍が投擲され、やはり草人の脚に突き刺さった。
次々と【喫茶】のメンバーによる攻撃が加えられ、抵抗できないほど痛めつけられた一体の草人が生け捕りにされる。
「では、この草人をこうして括りつけまして――」
草人の抱えていた市民は草人狩りに移送を任せ、捕獲した草人を二輪運搬車に固定するユークリア。
「タケノコ伐採にレッツ、ゴーです!」
ユークリアに率いられる形で、【喫茶】の面々は地に潜みし幽界樹のもとへ向かった。
●
アルシエラの相棒である狼のシアを伴って、ユークリアの二輪運搬車は下水道を突き進んでいた。
時折、細い根が【喫茶】を襲うことはあったものの。
草人を巻き込むことを恐れてなのか、根が爆裂するようなことはなかった。
最後はそんな配慮も失せたようだが、それまでにかなりの距離を稼ぐことに成功している。
そしてついに【喫茶】は地に潜みし幽界樹の地下部分を目にすることになる。
それは形容するとすれば、まさに黒い壁であった。
そう、地に潜みし幽界樹の外皮は、下水道をまるごと塞いでいたのだ。
「これでは壁を殴るような感覚になりそうですね……やることは変わりませんが」
キーゼがエーテルの波動を解放し、周囲に集まった【喫茶】たちの能力を底上げする。
「タケノコ伐採拳法をお見せしましょう!」
全身に稲妻のようなエーテルをまとったユークリアが、アイアンフィストで黒い壁を殴りつける。
――ガィン!
「か……固いっ!」
ユークリアの手に、痺れるような感触。
「物理が効かない状態なら、魔法が効くのではないでしょうか!」
それを見たエルナが杖から魔法の弾丸を飛ばした。
決して低くはない威力の魔法が、地に潜みし幽界樹の外皮を襲う。
しかし、弾は外皮をほとんど傷つけることなく、弾け飛んだ。
「お願い、効いて」
アルシエラが祈るように外皮に突き立てようとした暗器は、外皮の表面を滑るのみだった。
暗器に仕込んだ、体を脆くする効果を持つエーテルも、ほとんど効いた手ごたえがない。
はっきり言って、アルシエラの弱体化を付与する力は高いほうだ。
これは外皮の持つ耐性が高すぎるのが悪い。
「タケノコだし、火を通すと美味しいかもしれないわ」
めげずにウォルナが魔法の炎をうねらせたりしてみたものの。
外皮が美味しそうな焦げ目をつけたりすることもない。
「物理的な装甲と、魔法的な装甲は分配が変わるだけで、総合的には変化しないと見ていたのですが……それ以前に、この状態では分配を変えるどころではないのかもしれませんね」
外皮の装甲は総合的には一定である、とするキーゼの推測に、矛盾する挙動は今のところない。
ただ、現在はそれぞれの装甲がもとより硬すぎるのだ。
「ここは地上を進む方々に任せる他、ないのでございましょうか」
時たま突き出してくる根や、周辺の黒いクリーパーに光球を降り注がせて対処していたネーヴェが呟いた。
そろそろ【喫茶】たちが傷を負い、ネーヴェが治療を施す機会も増えてきている。
最終的に、地上の冒険者たちを信じて【喫茶】の面々は撤退を選ぶことになった。
●
「飲んでばかりいられないからストレス発散に戦場へ行こうと思ったのに……」
暗くじめじめとした空気の下水道に来てしまい、受付嬢のリーミルは荒れていた。
どうもこうも、何の考えもなしに前を行く人に着いていったせいなので、全ては自業自得である。
「こうなれば手当たり次第、クリーパー退治です!」
リーミルが斧を振るうと、下水道に住み着いていた小型クリーパーが一体、吹き飛んだ。
近くに草人を追う冒険者は多かったが、クリーパーを相手する者は多くはなかったので、何だかんだ助けにはなっている。
Alexandra・Hexe・Claudiaやシエラ・フォン・リシェイラといった冒険者たちも、手が足りない役割を買って出るようにしていた。
「何かキナ臭いと思っておりましたが、やはり奇妙な平和とは長続きしないものでございますね」
ランタンを手にしたハリーヌ・ヨツユビは、暗視能力やエーテルの波動による探索も駆使し、状況の把握に努めていた。
『そちらの方に草人が逃げているでございます』
『分かったわ。連絡ありがとうね』
ハリーヌが思念を飛ばすと、思念の届く範囲にいたシルディスが応答した。
「……絶対に、許せないわ。逃がしなんてしない。皆、無事に家に帰るべきだもの」
シルディスはグンと体を加速させると、あっという間に逃げる草人に追いついた。
草人の脚に、シルディスの短剣が見舞われる。
短剣のまとったエーテルが、草人の脚にまとわりついて回避行動を阻害した。
「援護するでございますよ!」
そこへ追い打ちをかけるように、ハリーヌが杖を掲げて光球の群れをけしかける。
雨あられと降り注いだ光球たちは、抱えられた市民を避け、器用に草人だけを撃ち抜いていく。
「わたしは毒を撒くから、救出はお願いするわ」
そこへ吹き込む疾風――アヴェラ・ウッチェロだ。
宣言通り、アヴェラは毒性のエーテルをまとわせた爪で、草人に切りつけた。
エーテル毒が通じたことを確認したアヴェラは草人の深追いをすることなく、次の標的をエーテルの波動で探し出し、そちらへ向かう。
毒が時間をかけて効果を表す性質のものである以上、そのほうが効率がいいからだ。
「ここは危険です! 地上に出て保護を受けてもらいましょう!」
最初は遠方にいたトーラも、エーテルの波動を走らせていたことにより草人の存在に気づき、駆けつけてきた。
濡れて滑りやすい足場を避けるように、トーラは壁を伝って走る、走る。
「それっ!」
トーラは魔弓から矢を放った。
黒いクリーパーに一人で遭遇した場合に備え、物理的な攻撃と魔法的な攻撃を切り替えることも考えて用意したものだ。
それが射程の面でも役に立ち、遠く離れた草人の脚を見事に射貫いた。
「よし、大漁を目指すよ」
「おう!」
ヨル・スレイマンとナハシュの二人、【釣り】がここで動く。
二人はこれまで、ナハシュの入手した地図を頼りに下水道を巡っていた。
ナハシュがエーテルの波動による索敵で草人と市民らしき重なった気配を発見したため、現場へ急行していたのだ。
「幽界樹と草人の間には、指令系統があるんじゃないかな?」
自らの推測に基づき、ヨルは草人を巻き込む形で、精神感応を妨害する領域を展開した。
結果を見るに、実のところ草人はすでに受けた指示をもとに動いているようで、逐一、地に潜みし幽界樹からの指示を必要とするわけではないらしい。
ただし、草人の側から地に潜みし幽界樹に対する情報共有であれば、これで防げているかもしれない。
「一本釣りだ!」
ナハシュが即座に草人に向かい、駆ける。
草人は度重なる攻撃を受けたことにより、抱えていた市民を取り零していた。
ナハシュは母蜘蛛の糸からなったロープにエーテルを通わせて、その先端を地面に転がった市民に引っ付ける。
ぐいっ、と勢いよくナハシュがロープを手繰ると――市民はナハシュのもとへ引き寄せられ、その腕に収まることになった。
「おっと、せっかくの釣果はリリースしないよ」
ヨルが己の血にエーテルを混ぜて地面に垂らすと、草人の足下から黒い腕のようなものが現れ、草人を束縛した。
草人が市民を取り戻そうとするかは分からなかったが、足止めができるに越したことはない。
こうして下水道を担当する冒険者たちは、着々と市民の救助を進めつつあった――。
【2】市内地下:中央へ向かう草人に攫われた市民の保護・回収、クリーパー掃討 後編
(担当マスター:革酎)
●
漆黒の闇に覆い尽くされている下水溝内で、【パン屋】のルアンナ・ミュラー、キリク、クローリカの三人はまるで陽の光がそこに射しているかの如く、何不自由無く動き回っている。
ここまで闇色の殻を纏った強力な小型クリーパーを何体か仕留め、時に草人の手から市民を救助しながら奥へ奥へと突き進んできた三人だが、黒い壁が一角を埋め、謎の黒繭が点在する小さな空間に辿り着いた時は、矢張り情報力不足、火力不足が大きく響いた。
「この繭……何て、硬い……」
クローリカは目の前の巨大な黒繭に何度も刃を叩きつけているが、一向に打撃が通る気配が無い。
一方、時折飛び出してくる鞭の様な根の攻撃に、ルアンナとキリクは手を焼いていた。
ルアンナの自慢の魔法攻撃は幽界樹の外殻とおぼしき黒い壁に通用しているようには見えないが、更に一撃、もう一撃。攻撃に意識を割きながら根の回避も行うのは難しい。「駄目か……ナイフじゃ傷も入らない」
同様に根の攻撃を躱しつつ黒繭に切りつけるキリク。その恐るべき防御力に渋い表情を浮かべていた。あるいはルアンナの魔法攻撃なら通じたかもしれないが、彼女は幽界樹本体を目標と見定めて力戦中だ。
「他の冒険者さん達は、上手く攻略出来ているのでしょうか」
ルアンナは、次第に息が切れてきた。攻撃が通用しない相手に、魔力が尽きかけている。
そこへ草人狩り数名が支援の為に駆けつけてきたが、彼らの力が助けになるかどうかも正直、怪しい。
●
ロゼットが指揮を執る【雷鎚】は、【パン屋】同様に奥へと進みつつも、草人を発見し、市民を奪還することにより重きを置いていた。
全員が何らかの視界確保、索敵術を駆使して上手く草人を発見、追跡し、その都度撃破に成功している。
レイヤ・ダライ=カホールの生み出した光球やロゼットのランタンが周囲を照らし、ギャメルの矢と魔術での目印付与は追跡の一助となった。
草人への直接攻撃の際はオゴスの音を利用した囮策や、アリッグ・レイダーの脚を狙った攻撃が有効に機能した。
「おっと……あれは、繭ですか」
何体目かの草人を斃し、救出した市民を草人狩りに預けていたオゴスが、水路奥に広がる空間の異物に気付いた。
ギャメルの支援で攻撃力を強化したロゼットがいち早くその空間に飛び込むと、丁度繭から這い出てきた『黒い殻で覆われた草人らしきクリーパー』との戦闘に突入した。その奥には、今まさに繭へと飲まれていく草人と市民の姿が垣間見える。つまり、この黒い草人は取り込まれた者の成れの果てと言う事か。
「取り込まれているだけなら、可能性は……!」
しかしロゼットの願いも虚しく、冒険者達が斃した黒い草人体内からは、市民の姿は見つけられない。草人と一緒に黒繭へ連れ込まれた直後でなければ、救出は叶わないのだろうか。
「では、やりましょう。ここにある黒繭から市民を助け出すしかありません」
レイヤの号令を受けてロゼット、アリッグ、オゴスといった火力担当がその場の黒繭を次々と破壊してゆく。中から黒い殻を纏いつつあった草人が現れても速攻で仕留め、辛うじて救出が為った市民にはオゴス以外の面々が総出で回復施術へと力を注ぐ。
「何とか間に合ったみたいですね……この方々をお願いします」
アリッグはここでも、草人狩りに救出した市民を任せて後方へと退かせてゆく。
その時、別方向から不気味な咆哮が響いた。黒クリーパーが乱入してきたのである。
「ちっ……幽界樹や草人だけでも厄介だってぇのによ」
ギャメルは救出した市民への回復術を手早く終えると、弓に矢をつがえて迎撃態勢を取った。同時にオゴス、ロゼット、アリッグが防衛線を構築する様に並び、そのすぐ後ろでレイヤが残りの市民の応急処置を加速する。その最後の措置が終わったところで、レイヤも戦線に加わった。
黒クリーパー撃退と、黒繭の破壊。
一瞬たりとも、ひと息入れられる様な時間は無かった。
その時、近くで轟音が鳴り響いた。誰かが盛大に、極大の魔力を撃ち放ったかの様な衝撃である。
突入している冒険者達を考慮に入れても、これだけの破壊波を一撃で撃ち出せる者は、限られてくる。
「クライス支部長が、近くにいるのかしら」
ロゼットは、噂に聞く草人狩りのリーダーも戦っているのだろうか、と気を取り直した。
ここが踏ん張りどころであろう。
●
爆発音に続いて、凄まじい震動。
下水溝内に殷々と響き渡る爆音の余韻を追う様にして、テス・クラルスとロイ・アウレアの両名が比較的広い空間へと飛び込んできた。
テスとロイが所属する【睡狼】A班は、兎に角も下水道内を市内中心部へ向けて突き進むことに全力を注いでいた。
そんなA班が出会ったのが、丁度黒い草人と黒クリーパーを纏めて仕留めた最強の草人狩り、クライス・アクバーだった。
「待ち侘びたぞ。やっときてくれたか」
睡狼の面々を見るなり、クライスは黒眼鏡の奥で珍しく、その瞳に安堵の色を浮かべた。余程に苦戦を強いられていたのだろう。
単身、奥地までたどり着いて孤軍奮闘していた男に頼りとされたのだから、士気は大いに上がった。まずライオネル・ギシュムがクライスと敵の間に立ち、盾役としての矜持を見せつける。
「俺が来たからには、クライスさんには指一本触れさせないよ」
ライオネルの得物から光塊が振り出される。その一撃で群がり立つ黒い草人の一部が薙ぎ倒された。
「草人狩りの皆様は、もう結構です。危ないから後ろに退がって」
サシャ・テーリングが指示を出して、動けなくした草人を盾替わりにしていた草人狩り達を後方へと移動させてゆく。その時、縛っていた草人が突然ボロボロと崩れるのが見えた。加減を間違えた筈は無く、自死したのだろう。何故か――? 戦術的な意味をテスは考え、ハッと息をのんだ。
「草人も捨てて。その策はここまでだね」
草人の盾は、最初のうちは幽界樹の目を上手く誤魔化せていたが、時が進むにつれ巻き込むことを厭わぬ様子も見え始めていた。その対処として、草人を幽界樹が切り捨て始めたのだとしたら、退き際を誤ると大惨事になるだろう。
この時、レタラ・スマリがB班のエルシー・サリバンと交換して預かってきた栗鼠の反応から、向こう側でも別の地点の黒繭群ポイントに到達したことを察知した。
「どうやらB班も、結構な数の黒繭を発見した様だ。これから市民救出に着手するらしい」
レタラの報告を受けて、テスとロイは静かに頷き合った。市民を連れて移動する草人のゴールは、この黒繭であるらしい。これ以降は力を抑える必要は無いという訳だ。
「ここからは遠慮は無用だね」
「ようし……全員、一気に行くぞ!」
まずはテスが再び動き出した黒い草人の群れに足止めを仕掛け、その間にロイとレタラの放つ矢で物理攻撃を連続して叩き込む。敵の反撃も激しいが、回復の手が続く間は持ち堪えられそうだ。
敵の群れが対物理で相当強くなった頃合いを見計らって、今度はテスの魔力が火を噴いた。
「じゃ、最後は遠慮無くとどめ、だ」
テスの魔法攻撃で今度は対魔力が極端に上がった敵の間を、最後はハル・チフが一気に駆け抜けてゆく。次々と振るわれる刃が、黒い草人を面白い様に薙ぎ倒していった。
ハルの手数だけで足りない部分は、ライオネルが間合いを詰めて一体ずつ始末してゆく。
流れる様な連携攻撃に、黒い草人共はバタバタと仕留められていった。
【睡狼】が見事な連携で敵を引き受けた事で、余裕のできたクライスが黒繭の殻を慎重に破壊してゆく。覗き込んだサシャが、辛うじて助かる見込みのある市民を見つけて引っ張り出し、慌ててヒールを掛けた。
●
市内中心部の地下から、少しばかり離れた位置。
そこに広がる比較的開けた空間でも、結構な数の黒繭群が林立していた。【睡狼】B班はここへ突入してくるなり、水路内から現れた黒クリーパーとの戦闘に突入した。
「俺が相手だ、かかって来い!」
アルバス・ロウルの咆哮に対して黒クリーパーが猛り狂った様に反応した。
その間にルルト・アーキスとエヴァン・ピオネロ、エルシー・サリバンの三人で黒い草人と黒繭への攻撃を、物理と魔法の交互連撃で叩き込んでゆく。
「A班、クライスさんと上手く合流出来たって!」
肩を並べて矢を放つルルトに、エルシーが口早に伝えた。相棒のシロに指示を出していたルルトも、その一瞬だけは笑顔を見せる。
「じゃあ、ボク達にとってはここが最終攻略ポイントって訳だね!」
「ならもう、遠慮は要りませんね。ぱぁーっと盛大にブッパしちゃいましょう」
それまで魔法火力を抑え気味だったエヴァンも、ここが力の出しどころだと認識した。草人追跡時の市民への巻き添えや、草人の盾を扱う草人狩りへの考慮もあって、ここに至るまでは魔力を随分と調節していたエヴァンだったが、やっと本来の力を出し切れるというものだ。
この広間に入って、黒繭に取り込まれる直前の市民を数名確保したアルマ・ヴァレンタインは、肉体への回復術は順調に施術可能であるものの、解呪やアンチサイでは昏睡が解除されないことに小首を捻っている。
「うーん、何か別の原理が働いているのかな? こりゃあちょっと厄介だね……」
何か精神に働きかけているのは間違いないと踏んでいるアルマだが、想像以上の難敵に渋い表情を浮かべるばかりだ。
そのアルマの隣りで、梅・雨陽が妙に素っ頓狂な裏声を放っている。
「やっと分かったヨ!」
「え? 何が?」
うろんな表情で問い返すアルマ。雨陽は今尚、興奮を隠せない様子。
「幽界樹の根の攻撃ヨ! 場所によって緩急が違うネ!」
曰く、同じ距離でも幽界樹の根の攻撃が激しい地点と、緩い地点があるらしい。その緩い地点から救出市民を運搬する草人狩り達を走らせれば、比較的安全に地上へと戻ることが出来るだろう。
「そいつは朗報だな。逆をいえば、攻撃の激しいところに俺が入れば良い訳だ」
丁度黒クリーパーを叩き伏せたアルバスが、幽界樹の根に対する防御は任せろと胸を張る。
その一方でエヴァン、ルルト、エルシーを軸とした黒繭破壊と黒い草人への対処も着々と進んでいる。
既に黒い草人に取り込まれた市民は最早手遅れだが、そうなる前に黒繭から救い出せている市民の数も、決して少なくない。
A班の側でもクライスとの協力で、救助が進んでいるとの連絡が入ってきていた。
救助市民を連れた草人狩りの撤退支援には、案内役として雨陽が先導に立ち、防御と回復担当をアルマが務める。
「草人の盾も、帰りは流石に通用しないかな」
A班と同じく草人の動きを封じて盾とする策を主導していたエルシーも、戦術転換の必要性を認めた上で、仲間達に撤収タイミングをいつ伝えるべきかと敵の動きを探っている。
他の地点の黒繭攻略も少しずつではあるが、確実に進んでいるらしい。何より、ひとたび黒繭を抑えてしまえば、破壊はゆっくりとしか進まずとも、後からやってくる草人と市民が取り込まれる事は阻止できる。成果は、着実に挙がっていた。
●
最も奥へ到達した結果、苦戦を強いられている【パン屋】のルアンナ、キリク、クローリカ達だが、しかし漸く戦況が持ち直しつつあった。
ラーナフ、ファヌ、ヴァン・ローラント、ルイドの四人が草人狩りからの連絡を受け、急遽駆けつけてきたからである。
ルアンナは優れた魔術師だし、キリクの戦闘力やクローリカの接近戦術はラーナフやファヌから見れば十分以上に強力だろうが、僅か三人で幽界樹に挑み、戦闘を続けるのは困難に過ぎた。
「魔法攻撃が必要なところは呼んでくれ、といってはおいたが……これは想定以上の苦戦場所だな」
魔力が尽きかけているルアンナの姿に、ラーナフも内心で僅かに戦慄を覚えている。幸い、奮闘していた三人以外には、バラバラと応援に来ている黒クリーパーしかいない。ラーナフが気にしていた市民の巻き込みは、この場では余り考える必要が無さそうだ。幽界樹本体ではなく黒繭を相手にするならば、ここはルアンナに代わって盛大に火力を投入すれば、それで良い。
ルイドは遠隔攻撃のヴァンを支援する形で前へと出て、迫り来る黒クリーパーに効果的な物理攻撃を叩き込んでいる。
「これだけ殴りゃあ、次はそろそろ魔法攻撃か?」
「……だな。市民の保護状況は?」
ルイドに問われたヴァンは、ファヌに視線を転じた。
ファヌは光縛封での防御も視野に入れて、連れ去られる途中だった市民を奪還後、草人狩り達に次々に搬送を指示している。ルアンナやキリクが黒繭へ早々に辿り着き交戦を開始した結果、ここの黒繭を利用できなくなった草人達が入り口で渋滞を起こしていたのだ。
「大丈夫よ。もう十分に市民救助は達成出来ているみたいだし、そろそろ撤収も考えた方が良さそうね」
何故か変に艶を帯びたファヌの声音だが、いっていることは至極まともだ。【パン屋】の三人も、自分達の戦いが無駄ではなかったことに、若干ながら安堵の念を見せていた。
●
主だった黒繭群の攻略は、各地でほぼ完了しつつある。
【雷鎚】、そして【睡狼】A班とB班はクライスが大規模な魔力攻撃を打ち尽くしたのを契機に、地上に向けての撤退戦に入った。
通常の草人はもうほとんど残っていないのだろうが、黒クリーパー、及び黒い草人は獰猛な勢いで猛追して来る。
黒繭攻略で相当に消耗していた【雷鎚】、【睡狼】A班及びB班だが、折角救助した市民を奪い返されてはならぬと最後の気力を振り絞って決死の撤退戦を繰り広げた。
全員が満身創痍で、今にも殿の防衛線は崩れそうではあったが、それでも何とか持ちこたえた。
「後は地上の皆が幽界樹を斃してくれるのを、期待するだけだね」
テスの言葉に、A班の面々は静かに頷き返す。
途中で合流したB班も、仲間達やクライスの顔を見てやっと生きた心地がした様子を示していた。
最後に、【雷鎚】や【パン屋】とその窮地を救った四人とも合流し、ちょっとした一大勢力となって救助市民の地上への搬送を一気に推し進めてゆく。
「あっ、見えましたよ。愛しの太陽様」
「全員は無理だったけど、最低限の仕事は果たせたってところかしら」
喜ぶレイヤの隣りで、ロゼットは神妙な面持ちで背後を振り返る。
後はもう、テスのいう様に地上の皆の頑張りに期待するしかない。
市内中央の地上付近では、幽界樹攻略戦が始まっているだろう。ルルトは不安げな表情で、ハルを見た。
きっと大丈夫――ハルは仲間を信じようと、静かに頷き返した。
【3】市外東部:旧東部方面軍駐屯地防衛、市民保護 前編
(担当マスター:おおくまねこ)
●
「頑張って下さい、もうじき休める場所に着きます」
Re✕は負傷した市民に肩を貸し、エスタル南門の近くに設置された幾つかのゲルへと急いでいた。ここは【戦誼】が持ち込んだゲルと帝国軍が用立てた医療物資を元に設置された中継地点である。自力で市民達の避難先となっている旧東部方面軍駐屯地まで移動できない重傷者を一時収容する為に使用されている。
「すまん、こいつの手当てを頼む!」
「はい、すぐにヒールをします」
城壁を乗り越え、南門から逃げた人々を追って来た黒いクリーパーと対峙していた帝国兵の言葉に頷き、ミィアはヒールをかけた。人々を守る。その戦いに寄り添い、支えたい――。その思いを胸に、ミィアは帝国兵の側についていた。下水道へ向かった授恵者達は回復手段なども揃えており、彼らに保護され送られてくる市民より、草人狩りや兵士の方にこそ重傷者が多い。
「酷い怪我だ。だが必ず治してみせる」
ゲルにて。担ぎ込まれた重傷者を一か所に集めたシルヴィア・A・カペルは癒しのオーラを体外へと放出し、一気に複数の負傷者を治癒した。
「ここは……?」
「ヒーリングオーラだ。もう大丈夫だよ」
シルヴィアは優しく微笑んだ。
「フフフ、ボクも負けていられませんねえ! さあ、皆さん、ボクの近くへ!」
どこか楽しげに笑いながらギーゼラもヒーリングオーラを放ち、まとめて負傷者を癒す。
「サイラス、この人達を頼む」
「了解」
シルヴィアとギーゼラが治癒した人々を乗せ、サイラスは馬車を駆る。馬は帝国軍からの借り物で、負傷者を乗せ、駐屯地とこの中継地点の間の数百メートルを往復しているのだ。テレパスを使い、南門付近で哨戒している【戦誼】の仲間や、駐屯地と連絡の中継をする役目も負っている。
「カイン、けが人連れて来た。あとは頼む」
「了解した」
カイン・ステラに負傷者を引き渡し、サイラスはすぐ中継地点へと帰っていった。エスタルからはひっきりなしに負傷者が運び込まれてくる。ゆっくり挨拶する時間も惜しいのだろう。
「みんな、もう大丈夫だ。温かい食事も作ってある。さあ食べてくれ」
「ほら、コーディアルだよ。甘いし、滋養強壮効果もある」
「一緒に干し肉のスープもどうぞ。みんな、大変だったね」
駐屯地にて、カイン、ヴィナス、ルーンス・ラグネル達【CA】は持ちこんだ鍋を使って炊き出しをしていた。コーディアルのお湯割りはとても甘く、滋養強壮効果も高い逸品だ。干し肉でダシを取り、醤油、塩、ハーブで味を調えたスープもなかなか好評である。
「無事でよかった。おじさん。俺達の事覚えてるか?」
カインが問いかけると、男は頷いた。
「ああ、あんた達は確か料理大会の時の……そうだ、焼きおにぎりはあるか?」
「すまん、今はないんだ。でも後できっとまた食べられるよ」
市民の言葉にカインは微笑む。カインとルーンスはエスタルの料理大会の優勝チームだ。市民たちにも顔が知られている。【CA】の周りにはすぐに人だかりができた。
「くんくん。とてもいい匂いですね。私ももらっていいですか?」
「あ、君もここにいたのか、ティカ」
ルーンスはおわんを持って近づいてきた見覚えのあるエルフに手を上げて挨拶をした。ティカは負傷者の手当てや運び込みに協力しているようだ。
「息子だと思っていたのに……どうしてあたしはあんなバケモノを……」
「そうか……辛かったんだな」
エスタル市民とは面識の薄いヴィナスは穏やかに彼らに話しかけ、彼らの言葉に耳を傾けることに努めた。
「骨にヒビが入ってる。あっちのテントに向かって」
「君は軽傷だから、自分で手当てして」
「ティカ! この人は手伝ってくれるそうだよ!」
ファム=ゴートは言葉少なながらもてきぱきと市民に面談し、適切に振り分けていた。魔法で全部片付くのなら話は早いのだが、今回の事件の規模だととてもそうはいかない。傷は癒えても、精神的な疲れや気力の欠如も立派な症状だ。医学の知識を豊富に持つファムは大忙しだった。
「よし、こっちも着火完了」
クラリス=ミシェは駐屯地のあちこちに生活魔法でたき火を起こして回り、避難民たちの環境整備に尽力していた。
「はい、お人形よ。可愛がってあげて」
クラリスはお手製の人形を一人で泣いていた小さな少女に手渡した。すると少女は人形を持ったまま、クラリスの側でぼうっとしていた。
「……」
「お人形作り、手伝ってくれる?」
「うん」
クラリスの言葉に、少女はコクリと頷いた。
「この世の終わりじゃ……」
「家族も、住む家も全て失ってしまった……いや、目を逸らしていただけで、もうとっくに全部なくしてたのかも……」
「草人狩り達は正しかった……、では、夢の女神さまは俺達を見捨てたのか?」
無事に破滅の時を生き延びたエスタル市民達だったが、その表情は暗い。家族だと信じていた草人達が、その姿だけを模倣した悍ましい化け物だったという事実は、多くの市民を打ちのめした。
「みんな、そのままでいい。少しアタイの話を聞いてくれ」
ルチル・プルメリア・グレイハーツのとてつもなく大きな声が駐屯地に響き渡る。
「昨日の隣人が敵に、慣れ親しんだ土地が戦場と化し受け入れきれない者も多いだろう」
ただサウンドボマーを使っているだけではない。間の置き方などが完璧に計算された演説だった。絶望して俯いていた市民達が、一人また一人と彼女の話を聞きにテントから顔を出す。
「――しかし君達は生きているじゃないか。今一度同じ立場に立たされた隣人のために力を使ってみないかい?」
また、あるテントの中では。
「大切なことは、恐怖と不安を吐き出してしまう事です。怖いものは怖いのです、不安なものは不安です。それを認め、皆で出来る事をしましょう」
グレイブ・ヤードは優しく諭すように市民たちに言い聞かせた。穏やかな口調だったが、はっきりと耳に残る不思議な声だ。演説の技術もさることながら、備わった王気によるところも大きいだろう。
「必要なのは力よりも、どう感情に寄り添い、それに向き合うかです。その中で出来る事の方向性を作りましょう」
「俺達も何か手伝わせてくれ……」
ルチルやグレイブの言葉が胸に響いたのか、生ける屍同然だった市民達の間には、次第に活気が戻り始めた。
「夢の女神が言っていた……俺達全員を祝福すると……もしかして、この惨状が『祝福』なのか?」
「女神がエスタルを滅ぼそうとしたのか? 草人達が正体を現して暴れたのも、全部女神の仕業なのか?」
「……だが、女神は地下での日々、俺達を助けてくれた。あの導きが無ければ、皆死んでいるぞ」
次第に落ち着いてきた市民達が話す「夢の女神」の噂話に、ヴィナスは静かに耳を傾けていた。どうやら市民達は、今朝久しぶりに例の女神の夢を見たらしい。そして今日、地下にあった幽界樹が覚醒した。この状況が示す、夢の女神の正体とは恐らく……。
(夢の女神……胡散臭いとは思っていたが……)
栗鼠の分身を通じ、市民の会話を盗み聞いたルチルは目を細めた。
「市民たちよ、我ら帝国軍が必ずや守ってみせる!」
レイウェスト皇子の声を使い、物陰に隠れたままサラは市民たちに呼びかけた。あの皇子の声を聞いたなら、安心感を得られると思ったのだ。
「今の声、誰だ?」
「帝国の貴族とかじゃないか? 誰か偉い人が来てくれたのかもしれないな」
(あれ、レイウェスト皇子ってエスタルではあんまり知名度高くない? そっか、ここの人達は帝国崩壊後ずっと孤立していたから……)
サラは気持ちを切り替え、捜波で駐屯地に敵が近づいてこないかを警戒し続けた。
●
「ここまでか……! あと少しで駐屯地なのに……!」
「お待ちなさい! 私! リリリリスが居る限り、皆さまには指一本触れさせませんわ!!」
勇ましい台詞と共に市民を誘導してきた草人狩りのカバリングに入ったリリリリスは、猿人型クリーパーに足首を掴まれた。クリーパーは彼女の足首を掴んで持ち上げ、びったんびったんと力任せに何度も地面に叩きつける。
「ああ、お姉さん!? 俺の代わりに犠牲に……!?」
「とっとと死ね太郎よりぬるい攻撃ですわ、物足りませんわ!」
「俺や仲間達が南門の近くで哨戒する。テレパスで仲間と情報を共有するから、門から出てきた敵の対処や、市民の回収で共闘してほしい」
海神・江流は帝国兵にそう告げると、クリーパーの動きを観測する為、ホライゾナルジャンプで木の上に移動した。
(ガルシアさん、そっちに行ったぞ! 昆虫型の小さいのが四体だ!)
(承知しました!)
江流からのテレパスを受け取ったガルシアは刀を振り上げ、警告があった方向へと突進した。
「はっ!」
鋭撃を叩き込み、一体を一撃で仕留めるガルシア。だが数が多い。ガルシアは残る三体に囲まれ、必死にクリーパーの猛攻に耐えていた。
「またクリーパーが……!」
黒いクリーパーが南門から単独で逃げようとしている市民を追いかけてきたのを発見したルベア・ベルニはホライゾナルジャンプで割り込み、市民を抱え上げた。クリーパーがギチギチと不気味な音を立てて触腕を振るうが、その時には既にルベアは市民と共に疾風足で離脱していた。
「この人をお願い」
帝国兵に市民を引き渡し、ルベアは敵と対峙する。短剣で脛撃を叩き込むと、クリーパーの体が僅かに揺れた。
「ルベア様、加勢します!」
小型クリーパーを仕留めたガルシアはルベアと並び立ち、クリーパーに破脚砕を叩き込んだ。
「奴らに追いつかれる前にさっさと逃げろ!」
「さあ、急ぐアル。兵隊さん、重傷者と走れないお年寄りはあっちに運ぶアルよ」
ロドリック・アルカインと牛・奶は南門付近で草人狩りや市民を送り出す役を買って出ている。エスタルを脱出しようとする市民と護衛する草人狩りを追いかけて来るしつこい黒いクリーパー達を黙らせるのが主な役割だ。
「黒いクリーパーが付いてきてる。足止めを頼む!」
帝国兵の警告の直後、南門から姿を現したのは黒いサソリのクリーパーだった。
「邪魔をするな!」
ロドリックはアーケインテンペストを放つ。稲妻がクリーパーの脚に絡みつき、目に見えて動きが鈍くなった。直後、魔法の追撃を受けた黒い装甲が様相を変えるが、奶が槍の一撃を叩き込み、サソリの額を抉って仕留めた。
「急ぐアル」
奶は遠ざかっていく市民らの背を横目で見守る。すると、また似たような姿の黒いクリーパー達がぞろぞろと街の中から這い出て来た。だが、ロドリックがいた位置とは別の方向からフリーズボルトが飛来し、黒いサソリの一体の足を止めた。
「黒いクリーパー達は魔法と物理で交互に攻めるのが有効のようですね。ここは共闘しましょう」
加勢に現れたエイル・アーティライトは淡々と言った。
「異存ないアル。物理はワタシにお任せアル」
「断る理由はないな。討ち漏らしを防ぐためには手数も必要だ」
奶とロドリックは頷き、三人は黒いクリーパーに連携して対処を始めた。
「……よし。気合入れてこうぜ、ルブラ。ドジ踏んだらオレが助けてやるからよ」
「は、はい。頑張り、ます。エルヴィーラ氏……」
エルヴィーラ・レイセンの言葉にルブラ・ソンジュはおっかなびっくり返答した。二人はパンクリアース学園学生寮の【同室一年】コンビだ。
「拙者は捜波で索敵しつつ、後ろからデバフを撒いて妨害します……エルヴィーラ殿は拙者の盾役をお願いします……」
「おう。任せとけ。オレも耳でクリーパー共の気配を探ってみる」
「帝国兵、発見! ヒールをかけまする……!」
「来やがれ、怪物!」
市民らの誘導をしていた帝国兵に駆け寄り、傷を癒すルブラ。エルヴィーラはクリーパーをシーザーロアで引き付け、衝撃刃を放つ。二人は帝国兵達と共にクリーパーと交戦を開始した。
「ぼっさん、お願いします。この方達を駐屯地へ……」
敵と間違われぬようにとルブラが描いた絵を背中に貼った猪に先導され、市民たちは駐屯地へと逃げていった。
「クリーパーがここに接近しています! 数は五体!」
「分かりました! 私が足止めします!」
駐屯地の防衛に当たっていた帝国兵の警告を聞き、ヴィルヘルミナは持っていた土木作業用のシャベルを放り出し、クリーパーへと突進していった。
「ここから先は通しません」
ヴィルヘルミナの全身から殺気が迸り、殺界を形成する。足止めされたクリーパーがたたらを踏んでいる隙に帝国兵の授恵者達が集中砲火を浴びせ、クリーパー達を仕留めた。
「マーシュ、あそこだ! 黒いクリーパーがいる!」
「沢山の人の無事のため、全力で守ります!」
超視覚で避難ルートへと近づいてくるクリーパーの姿を捉えたライナ・フレイヴァルツはフロマーシュ・ダイヤドロップと共に走り出していた。
「いました!」
そこにいたのは、黒い外殻を装甲のように纏った、人狼のような姿の黒いクリーパーだ。
「グルルルル!」
「みんなを守ります!」
フロマーシュは市民や草人狩りとクリーパーの間に突進し、身を挺して庇う。激しく左右の爪を突き立てられ、鎧に穴が穿たれるが、重点硬化したフロマーシュは攻撃を弾き返し、ダイヤモンドの如き輝きを浴びせた。その輝きに誘引され、黒いクリーパーはフロマーシュに執着し始める。
「よし、これで……!」
フロマーシュは黒いクリーパーへと大剣を一閃した。すると、ヒビが入った黒い外殻が突然様相を変えた。
「変わったか。しかし!」
直後にライナの放った綺羅星の如く輝く魔弾が直撃し、黒いクリーパーの装甲に穴が空いた。すると、黒い外殻はまた様相を変え、最初と同じ姿に戻った。
「ギルドの情報通りだ。マーシュ! 私と交互に攻撃しよう!」
「了解です!」
フロマーシュとライナは交互に攻撃を浴びせる。敵の特徴を掴んだ二人の連携により、装甲ごと核を貫かれたクリーパーは塵となった。
「エスタルの人達は傷つけさせません!」
「黒いクリーパーが相手だろうと、私達の光で塗り潰すだけだ!」
「黒いクリーパーだ。ウォーゼル。迎撃するぞ!」
超聴覚で大きめの黒いクリーパーの接近を察知した【豹狼】のパルドは幼馴染のウォーゼルに声をかけ、門へと急いだ。すると、人間大の蜘蛛のような黒いクリーパーが城壁にへばりついているのが見えた。
「降りてくる前に削ろう、パルド!」
ウォーゼルがクリーパーの背中に魔矢を撃ちこんだ。さらに畳みかけるように疾風足で距離を詰めたパルドの破脚砕が甲虫のような黒いクリーパーの下部を命中し、その動きを鈍らせる。蜘蛛は二人を敵とみなしたのか、二人に向かって糸を吐きかけてきた。
「このまま誘導してクリーパーを門から引き離そう!」
「了解だ! ウォーゼル!」
【瑞雨】……ダムド・フィリス、カルフ・オルヴォ、そしてセオ・ウルジオの三人も帝国軍と連携し、南門付近で市民の救助のために動いている部隊の一つだ。
「あれは……!」
市外から避難ルートへと近づいてきている野生のクリーパーを発見したダムドは笛を吹き、周りにいた者達へとクリーパー接近を知らせた。ダンゴムシのような姿の小型クリーパー達が、ゴロゴロとこちらに向かって転がってくる。
「クリーパーだ! オレたちで追い払うから、アンタ達は市民を急いで逃がしてくれ!」
「かたじけない!」
背後の守りをダムド達に任せ、帝国兵は市民らを急がせた。
「カフ……!」
笛の音を聞いて戻って来たセオはセイントスラストを叩きつけた。その一撃でクリーパーの一体がバラバラに吹き飛んだ。
「うおおおおおっ!」
カルフは雄叫びと共に小型クリーパーへとドラゴンチャリオッツを叩きつける。不意を打たれたクリーパーは勢いよく吹っ飛んでいった。
「おお、やった!」
帝国兵が喝采を上げる。
「まだ仕留め切れてねえ! 多分すぐ戻ってくるぞ! 今の内に急げ!」
「みんなを守らないといけないよ」
【星座】のリルディライラ・アステールはペットの狼の頭を撫でながら言い聞かせる。彼女の役割は一座の『目』だ。エーテルリンクした彼女の狼は、市民らを誘導する一座に先行し索敵するのが仕事である。
「がんばるんだよ、いいこいいこ」
主人に頭を撫でられた狼は、駐屯地へ向いて走っていった。少し進んだところで足を止め、耳を立てる。
「クリーパーの群れよ! みんな注意して!」
狼の視線の先へ捜波をうち、クリーパーの接近を察知したパドは大声で仲間達に危機を知らせた。コウモリ型のクリーパーが群れとなり、駐屯地を目指して飛んできている。パド達は群れが避難中の市民に襲い掛かる前に駆逐するべく、打って出た。
(避難ルートに野生のクリーパー接近中。手の空いている人、加勢に来て)
シファーはテレパスを発し、近くにいる冒険者に呼びかけた。自身も魔矢を放ち、クリーパーを撃ち落としていく。
「さ、早く終わらせましょ。留守組がおいしいごはん作って待っててくれてるわ」
アルカディアが杖を一振りすると、光弾の雨が放たれ、小型クリーパーの群れがまとめて消し飛んだ。だが後方集団は未だ健在だ。クリーパー達が大きく口を開くと、メテオライトによく似た赤い光の雨が広範囲に降り注いだ。まだ背後には、逃げきれていない市民達がいる。
「市民の皆さん! 安心して逃げられよ! なに、うちの座員たちは強いからな!」
ブレイズ・アステールは大きな声で市民たちを励ましつつ、その身を盾にして市民の退避を促した。光弾を浴び、ブレイズの体に激痛が走るが、ブレイズは自らにヒールをかけて傷を癒して対処する。クリーパー達はブレイズの頭部に纏わりつき、トドメを刺そうとした。
「オラァ!」
その時、飛びこんできたレオネベルが横合いから盾でコウモリの一体を殴りつけた。コウモリが吹き飛んでいったその隙にブレイズは態勢を立て直し、仲間達と陣形を整える。
「ありがとう助かった! このコウモリの相手は俺達がする! 君はその人達を頼む!」
「分かった!」
ブレイズの言葉にレオネベルは迷わず市民の方へと走り、彼らを先導して駐屯地へと走る。震えている子供もいたので、優しくその手を握った。
「怖いかもしれねぇがオレたちがついてる。帝国の人たちもな」
【3】市外東部:旧東部方面軍駐屯地防衛、市民保護 後編
(担当マスター:真柄 葉)
避難民救助と戦線維持を並行して行う為、リカルダ=C=アーレンス率いる帝国軍は駐屯地西側へと布陣した。
「この地を死守する! エスタルの為! 帝国臣民の為! 気張れよ、お前達!!」
リカルダの鼓舞に、帝国軍兵士達の鬨の声が上がる。
そんな大音声を聞きながら――。
「……やはり嫌な予感がする」
「どうしたのお姉ちゃん」
遥か帝都へ視線を向けるベルク・オスマットにヤウズ・オスマットが問いかける。
「無駄に終わろうが構わん、我等は帝都の方に陣取るとしよう」
「帝都の方って……もっと西の方? わわ、待ってお姉ちゃん」
突然、戦場を離れ駆け出したベルクを、ヤウズが慌てて追いかける。
ベルクの胸には一抹の不安が去来する。
――幽界樹が帝都から派生したものである以上、その幽界樹と繋がりがあると目される夢の女神とは一体何なのか。我の予想が正しければ、それはあの……。
「杞憂であればいい。だが、もし現実であれば……」
ベルク達は更に西へ走る。帝都から来る不測の敵『イダ派』の介入を警戒して――。
●
駐屯地西側には、エスタルから逃げてきた市民達を追って黒いクリーパー達が現れた。
「き、来ました!」
【超聴覚】でその動向をいち早く察知したララノアが声を上げる。
それに合わせ投げ上げられた、閃光塗弾が空中で弾けた。
「これで伝わったはずよ」
馬に曳かせた馬車に乗り、戦場へ一番乗りしたエミリア・シバ達【風花】の面々。
事前に周知してあった閃光塗弾の合図で、戦端が開かれた事を他の仲間達も知るだろう。
「住民の方々の安全を、確保しなくては……!」
馬車の上から、【超視覚】で敵を探るラティア・ミゼリア。
黒のクリーパーの標的は逃げる住民達だ。草人狩りが護っているとはいえ、急がなければ危険な事には変わりない。
「飛ばすわ。掴まって!」
エミリアがすぐさま馬に鞭を入れ、【風花】の三人はクリーパーへ肉薄する。
「先制、行きます……!」
ラティアの【攪乱射撃】が住民を追う敵へ浴びせられた。
「私も、負けずに、戦います!」
同じ標的をララノアの【魔矢】が撃ち抜く。
三人は黒いクリーパーの特性をよく理解し、物理・魔法織り交ぜた連携により、黒のクリーパーを倒した。
「っ! 他の場所でも、戦闘が、始まったみたい……です!」
ララノアが【超聴覚】で他所の音を拾い仲間に伝える。
「まだ黒のクリーパーが出てくるわ。このまま警戒を続けましょう」
エミリアは馬車の上から住民達に避難先を示すと、再び馬に鞭を打った。
帝国軍の守備隊と協力し、バクル・バスリー、スィーリーンの両名は戦線を維持する。
「草人……クリーパーでも、ヒトに害を為さないなら信じてみたかったのですけれど……」
「どうかしたの、スィーリーンさん?」
「すみません、なんでもありません。感傷的になっている暇はありませんね」
二人は抜けてきた黒クリーパーに対し、スィーリーンの魔法で先制、バクルの闘気槌で粉砕と、見事な連携を見せていた。
「僕達がここにいる限り、避難民の人達には手出しさせないよ!」
バクルはシーザーロアで城壁を越えて現れた中型の注意を惹く。
そんなバクルの後方では、リリアンが小型クリーパーを受け持っていた。
「ボクだって、やれるんだ……!」
未熟を自覚するリリアンは、バクル達や帝国軍との連携を重視し、自らが立ち向かえる相手を確実に倒していた。
それが更なる連携の強化に繋がっている事をリリアンはまだ気づいていないが、スィーリーンの魔法、バクルの範囲攻撃、そして、リリアンの単体攻撃。この連携が確実に黒のクリーパーの弱点をついた。
「現状を維持できれば、押し返せるよ! 攻めすぎず、敵を深く誘い込んで確実に数を減らそう!」
バクルの声に頷いた二人。三人は即席ながらも見事な連携で敵を確実に減らしていった。
「このクリーパー達は幽界樹に惹かれて出現したのだろう。ここを抜かれ街に入り込まれると厄介なのだ」
そして彼らと共に戦線を維持するストレガ・L・リベルガストラが、クリーパーの小集団へ向け広域魔法を撃ち分ける。帝国兵が追撃を与え、手負いのクリーパーを討ち取った。
「敵の数は少ない! このまま戦線を維持するぞ!」
戦線の状況を見て、リカルダが号令をかける。
駐屯地とエスタル市の間の守りは、冒険者達の助けを借り盤石となりつつあった――。
●
「土煙! やっぱり来た」
その頃、駐屯地の外に広がる荒野を愛馬『コバルデ』と共に駆けるアリオン・リューが、別の敵の気配に気付いた。
広範囲を索敵する為、愛馬を走らせていたのが功を奏し、真っ先に敵を察知したアリオンは角笛を鳴らし味方へと敵襲来を伝える。
「他の方面からも来ているかもしれない。コバルデ行くよ!」
愛馬に声をかけると、手綱を引き鼻先を東に向けた――。
ピクリと赤い耳が動いた。
「敵発見の合図が来た。行ってくるね!」
「待ってください、僕も行きます!」
角笛の音を聞いたクレア・エクレールとナハト・シュライバーが【金糸雀】の仲間達にそう言い残すと、駐屯地の柵を越え荒野に飛び出す。
荒野を駆けながら、ナハトが【ホークアイ】と【超視覚】で索敵しつつ合図のあった場所へと急行すると、濛々と立ち上がる土煙が見えた。二人はすぐさま【捜波】を放ち、その正確な数をマークする。
「多い……でも、この程度なら!」
「待ってくださいっ! 一匹大きいのが混じっています!」
土煙の中に巨影を見つけたナハトが声を上げた。クリーパーが自ら集団をつくる事は余りない。この大型の存在に釣られてより小さい個体が何となく集まったのだろう。
「大きいの……って、大型まで居るの!?」
「はい。すぐに本隊へ伝えましょう。帝国の者として民を脅かす存在を放ってはおけません」
そのまま敵の動向を探るナハトに代わり、クレアはすぐにテレパスで仲間達へ状況を伝えた――。
時を同じくして、大型の存在を捉えたパーティーがあった。
アリオンの合図を聞き、駐屯地の北側を警戒していた【野戦】の面々が動き出す。
「ほほぅ、巨人ばかりに目が行くが取り巻きもなかなかではないか」
敵が見える位置へと先着した夕霧が敵の陣容を即座に【捜波】で確認。テレパスにてエルケ・シャルフへと情報を送った。
「結構多いのね。これはむやみに突っ込むと痛い目見るわ。――さぁ、作戦立案任せたわよ」
夕霧からの情報を受けたエルケは、すぐに飯塚・麦穂へとテレパスを繋ぐ――。
そして、もう一隊、大型発見の報を聞いて動く隊があった。
「――戦局、動いたみたいです!」
「……よし」
他の隊の動きを察知したシャルロット・エクレールが、指揮を執るエイル・ビュセファスへ情報を伝える。
「おっ、ついに出番さぁ!」
「ああ、戦機だ。他の隊と協力し、敵主力を一気に叩く。合図し次第、奔れフリュー」
「おうさぁ!」
「シャル、他の隊の攻撃に合わせ、ありったけをぶち込め」
「はい、任せてください!」
エイルの指示にフリューリングスルフト=ティエラとシャルロットは力強く頷く。
「よし、行くぞ!」
エイルはサウンドボマーを響かせ強敵出現の報と参戦の意を味方に伝えると、駐屯地を飛び出した――。
●
各所で響くサウンドボマーや楽器の爆音に引き寄せられるように、バラバラに行動していたクリーパーが向きを変え、大きな塊を形成していく。味方側の動きによって、それまでの散発的な襲撃が大集団の攻撃に変わったのは誰が意図したものでもないが、戦場の様相は大きく変わった。
「南から【野戦】。東から【赤翼】。そして、西は我々だ」
クレアからのテレパスを受け取ったローザリカ・L・ディオールが、ジュスト・ヴェルジーへ伝える。
「出来れば駐屯地に近づく前に何とかしたいな」
ジュストは持ち前の【戦術眼】を駆使し、戦場を分析。ローザリカ経由で伝えられる敵の情報を組み込み、迎撃作戦を練り上げる。
「アンネエルカ嬢、ミレイユ、ここだ。この場所で仕掛ける」
顔を寄せてくる頼もしき二人の前衛に、ジュストは迎撃ポイントの指示を出した。
「他の隊の参謀クラスも必ず気付く。ロゼ、クレア嬢達にも作戦の共有を」
ジュストの指示に頷いたローザリカが、クレアとのチャンネルを再び開く――。
「……リヒャルトさん、進路は割り出せそう?」
斥候組から得た情報の精度をさらに上げる為、麦穂は兵舎の屋根から超視覚にて戦場全体を見るリヒャルトに声をかけた。
「――大型は真っ直ぐこちらに向かってきているね。他の陣営のボマーには惹かれていない」
戦場を俯瞰するリヒャルトから、正確な敵の動き、距離、数の報告を逐一受けつつ、麦穂とハリスが作戦を組み上げていく。
「他の隊も気付いている事でしょう。ならば挟撃が叶う。狙うはこの一点!」
「うん、そうだね。それじゃ、各隊へ連絡を取りに行ってくるよ」
ハリス・アル・ターミルの示した作戦に賛同した麦穂は、他の隊の元へ駆けていった。
●
爆音に惹かれ寄ってきたクリーパーを【金糸雀】【赤翼】の二隊がそれぞれ対応に当たった。
西進する一団に当たる【金糸雀】。
「何処を見ているんだ。君達の相手はここに居るぞ!」
けたたましい管楽器の音に続きローザリカの声の爆音二連発がぶちかまされた。
「ロゼ、ナイスだ! このまま各個撃破しつつ、大型の後背に回る!」
【金糸雀】はジュストの指示の元、巨人から出来るだけ戦力を引き剥がしつつ、ゆっくりと戦場を迂回する。
「雑魚を相手に時間はかけていられん。焼き尽くせ、シャル」
「任せてよっ!」
東進する一団へは【赤翼】が。エイルが二人に祝福をかけると、数的不利をものともせず、敵を切り崩し大型の後背を目指す。
爆音に惹かれていく小型クリーパーとは対照的に、巨人は一直線に駐屯地へ迫る。
「ここで食い止める。続け」
【野戦】が誇る前衛ゴブリアが先陣を切り、巨人の前へと躍り出た。
続くのは同じく前衛のハリス。そして、すぐ後ろにはエリザ・A・ミシャールと前線補助のフェイサル・セイフ、トゥーリが控え、後衛のヴィノニスが後ろに続く。
斥候を担っていたエルケ、夕霧が遊撃に回り、リヒャルトの眼を活かして麦穂が全体指揮を執る。
【野戦】は一丸となって、巨人を迎え撃つ。
「トゥーリ殿、景気付けをお願いします。貴殿の祝福を我等に!」
「まっかせてよっ! それじゃ、行くよっ」
ハリスの要請を受けたトゥーリが、仲間達へ祝福を施したのを合図に、戦端が切って開かれた。
初撃はゴブリアのチャージングから始まった。
ゴブリアは敵までの距離を一気に詰めると、その取り巻きごと【闘気槌】に巻き込んだ。
ゴブリアの攻撃に重ねるように、エリザが【炸光矢】を巨人の上半身へ浴びせる。
「っ! 反撃来るぞ! みんな、構えろ!」
しかし、巨人も黙ってはいない。けたたましい咆哮が辺りに木霊したかと思うと、巨大な拳を地面へと打ち付けた。
大地を揺らす衝撃波が冒険者達を襲う。
「癒しの光を」
しかし、エリザの気付きにより防御体勢をとった【野戦】の面々は、強烈な一撃を耐えて見せる。そして、フェイサルの回復がすぐに味方を回復した。
●
「ちっ、外れか」
「いや、当たりでしょ! ほら、行くよっ!」
巨人へと当たる味方の動きを見つめる【月陽】ゼラルム・エルホワイトとサニー・フォン・オルライト。
二人は主力が抜けた穴を補う様に、駐屯地の守備を担っていた。
集団を押さえる為に主力が出たのはいい。しかし、そればかりを見ていれば今まで通りに脇を抜けてくる小型に足元をすくわれる。現に、集団に合流せずに散発的に駐屯地へ向かってくるクリーパーがいる。その最後の防衛線は、帝国軍の一般人兵士と共に彼らが担っていた。
「足止めする。討ち漏らすなよ」
「それは君のサポート次第かなっ!」
そんなクリーパー達を、ゼラルムの魔法とサニーの斬撃の連携が確実に阻んでいく。
「大丈夫か! 無理せず下がってな!」
散発的に襲ってくるクリーパーを迎撃する帝国軍の中に、ディアンは居た。
一般兵が主力の部隊では、クリーパー相手に苦戦する事もあるだろうと、自ら護衛を買って出る。
ディアンの援護を受けて帝国軍は集団の強みを発揮していった。
「矢、放て! この後ろには一匹も通すな!」
「わかってる! こっから先へは行かせねぇよ!」
ディアンが一斉射撃を抜けてきたクリーパーへ、とどめの一撃を放った。
帝国兵達は体勢を立て直す時を得て、再び強固な防衛陣を作り出す。
●
一進一退の攻防が続く中、戦場の影に潜み、暗躍する者があった。
「ふふ……大きいだけじゃ使い物にはならないのよ」
ヴィノニスは味方の攻撃に合わせ、巨人に気付かれない位置からひたすらデバフをばらまく。
巨人はその攻撃力に加え、とてつもなくタフだった。
何度となく効果的な攻撃を当てているにもかかわらず、一向に弱る気配を見せない。行動を共にしているクリーパーの存在も厄介だ。
「しまっ……!」
「トゥーリ殿!!」
巨人の投げた岩がトゥーリを狙う。しかし、その動きに気付いていたハリスが割って入り、岩を盾で弾いた。
【野戦】の面々は、徐々に押されつつあった――。
「貴方のお相手は【野戦】の方々だけではありませんよ!」
そんな時だ、巨人の後方から勇ましい声が聞こえる。
声の主ミレイユ・ヴェルジーが盾を掲げ、巨人の眼前へと突っ込んだ。
そして、鋭く放たれた殺気が巨人の注意を惹きつける。
「ミレイユ、来い!」
巨人の執着を取り付けたミレイユに、兄ジュストが指示を出すと、彼女は一気に後退した。
巨人の標的が【野戦】から、【金糸雀】へと移る。
「間に合ったさぁ!」
そこへさらに第三の戦力が駆け付けた。
疾駆するフリューの一撃が、こっちも相手しろとばかりに巨人のわき腹へと突き刺さる。
「もう貴方は袋の鼠です! 観念しなさいっ!」
同時にシャルロットが放った火球が巨人の肌を焼き、周囲のクリーパーにも手傷を与えた。
「微力ながら加勢するぞ」
エイルが他の二隊の指揮官へ大声で現着を知らせ、ついに揃った三隊が巨人を囲む――。
『ルオォォォォォォォォッッ!!』
不利を悟ったのかそれとも逆か。巨人は巨大な咆哮を上げ、ミレイユへと向かった。
「ミレイユさん! 一緒に押さえましょう!」
太い腕を振り上げ突っ込んでくる巨人を前に、ミレイユの隣に立ったアンネエルカ。
二人で盾と槍を並べ、巨人の突進を待ち構えた。
――ドンッ!!
轟音と共に土煙が舞い上がる。
剛腕の一撃は、二人が掲げた盾や槍に当たるよりも前に、地面を打ちつけていた。
二人にダメージはない。そう、巨人が狙いを外したのだ。
「ようやく効いた。ほんと、タフ」
それはヴィノニスが絶え間なくかけ続けてきたデバフの効果だった。
すぐさま、別の魔法を撃つ体勢に入るヴィノニス。巨人の動きは、見るからに精彩を欠いている。
「ハリス殿、『機』だ。いくぞ」
「承知!」
その隙を逃すまいと飛び出したゴブリアとハリス。突撃で巨人の左右の足へ身体ごと盾をぶつけた。
両足への衝撃に巨体が傾ぐ。
好機とみたアンネエルカがチャージングで一気に巨人の前へと躍り出た。
「ロゼ!」
ジュストの合図を受け、ローザリカが【祈雷】の霧を呼ぶ。
「セイフさん!」
同時に、麦穂の合図を受けたフェイサルも、巨人の逃げ道を塞ぐように【祈雷】の霧を召喚した。
巨人と共に巻き込まれたクリーパーも霧の包囲から脱しようともがく中、アンネエルカが槍を振り上げると――。
「たとえこの身が砕かれようとも、貴方は絶対に逃がさないわ!」
【殺界】にその巨体と取り巻きを囲った。仲間たちの攻撃が飛び、小型や中型のクリーパー達が次々と倒れていく。
「さぁ、怒りに焼かれるがいい!」
「天の裁きをその身に受けよ!」
そして数秒後。移動を止められた巨人と取り巻きを、二人が召喚した無数の応雷が襲った。
一帯に焦げた臭いが充満する。今までに受けたダメージと合わせてとうとう限界を超えたのか、あれだけタフだった巨人が膝をついた。諸共に焼かれた取り巻きも、多くは絶命している。
「とどめだよ! みんな、お願いっ!」
麦穂の号令が響くと同時に、各隊から一斉に攻撃が巨人へ向かう。
【金糸雀】ナハトの重撃射とジュストの羽衣素馨矢が巨人の動きをさらに止め、クレアのタナトスバイトが巨人の腕を裂く。
【野戦】エリザが攪乱射撃で更に弱体化させると、ゴブリア、ハリスの強撃、トゥーリ、エルケの追撃が巨人を打つ。
【赤翼】シャルロットが残った魔法をありったけ吐き出し、巨人の少なくなった体力をごっそりと削ると――。
「トドメは赤翼一番風フリューが貰ったさぁ!!」
フリューが巨人の首元へとその刃を振り下ろした――。
●
大型クリーパー討伐の報はデイジー・ロックウェルによってリカルダ達に伝えられた。
「そうか、やってくれたか」
「はいっ、今は残った残党を片付けている所です」
「よし、こちらも掃討に入る。手を貸してもらえるか?」
「喜んでっ!」
デイジーを戦力に加えた帝国軍は、未だ散発的に現れる黒のクリーパー掃討に向けて動き出す。
最前線を維持するバクル、リリアン、スィーリーンの三名が城壁付近まで前線を上げ、エスタルから出てくるクリーパーに対峙する。
馬車で戦場を縦横無尽に駆けていた【風花】の三人は南門付近の冒険者達とも協力し、避難民救出と先制攻撃を担う。
後方支援に徹していたディアンとストレガも、前線を押し上げる一翼を担い、デイジーと共にクリーパーを確実に倒していった。やがて、城壁を越える黒クリーパーや、三々五々市外から向かって来る敵の発見報告がゆっくり数を減らしていく。そして、新手の姿が確認されなくなってからしばしの時を置いて。
「我々の勝利だ! 勝鬨を上げろ!!」
リカルダの号令に答えた帝国軍兵士達。そして、冒険者達が一斉に勝利の雄叫びを上げる。
天も衝かんばかりの大音声は、駐屯地、そしてエスタルをも揺らさんばかりに響き渡った――――。
【1】市内中央:地に潜みし幽界樹の撃破
(担当マスター:七海真砂)
ふわりと木蓮の香りを漂わせ、エデル=マグノリアは詠唱する。彼女が古き言葉と呼ぶ、その詠唱の意味を理解できる者は少なかったが、皆、不思議とエデルが紡ぐ言葉に鼓舞されていた。
「――さあ皆様、参りましょう」
「前は任せてください!」
頷いて進み出たのはフリーダ=ブロムヴィストら、前衛を担う面々だった。
幽界樹との間を塞ぐように蠢いている黒いクリーパーに向けて彼らが物理攻撃を叩き込むと、すぐさまグレイ・ナックラーらの魔法が飛んでいく。更に、セリオス・オーガストらの放つ矢が飛び、遠近両方からの攻撃が道を切り開いていていった。
後ろにはファーシル・クリスティアら癒し手達が続き、黒いクリーパーからの反撃で負った傷をすぐさま、癒しのエーテル光によって回復させていく。
「右側に下水道の出入口がある。気を付けて」
警告を発したのは、借りた下水道の地図を携えながらルートを確認していたサロだった。その傍らで五感を総動員しながら敵を警戒していたマトンが、いち早く出現した黒いクリーパー目掛けて、メテオライトを降らせる。
黒いクリーパーが地下――下水道から現れるのであれば、その出入口が記された地図が役立つかもしれないと、冒険者ギルドで借り受けてきたのは正解だったようだ。
「更に前方にもう一ヶ所、下水道の出入口があるよ」
「前――あそこか」
サロが示した方へ目を向けたサマエラ=フォリウムは、遠くに蠢く敵の姿を見付けると、すぐさま魔矢を飛ばして攻撃する。
距離があるうちに出来るだけの攻撃を放ち、痛手を負わせ、撃破する――消耗を避けながら幽界樹の元へ向かうには、それが一番だろうと考えたサマエラのような者達がいち早く反応し、迫って来る黒いクリーパーを次々と倒していく。
「この音……根が来ます!」
優れた聴覚で根の動きを察知したセラフィナ・M・ベイリーの呼びかけで、皆が一斉に足元を注視する。
そのおかげで真下からの不意打ちを避けると、反対にヴァンゲルス・ロッドが根を貫いて退けにかかった。
「根にもちゃんと効くらしいな」
肉体を蝕むエーテルをまとわせた一撃は、根の動きを鈍らせており、ヴァンゲルスはニッと笑って更に武器へエーテルによる光を籠める。
「魔法、いきます」
淡々と、しかし皆へ届くようにハッキリと、リコリス・アデュラリアは宣言しながらメテオライトを降り注がせた。
魔法と物理で交互に叩くのが有効なのであれば、声を掛け合って確実に攻撃を繰り出していくべきだろうと考えたからだ。
リコリスの呼びかけに、周囲の冒険者達がすぐに倣う。
「OK、物理いくよ」
弓を構えたアスティン・ヴェルラインがエーテルを収束させると、破壊力の増した矢を爆発的に鋭く射放った。
(偵察した感じだと、右の廃屋や瓦礫の辺りには敵が潜んでるみたいだから、不意打ちを避ける意味でも左寄りのルートで進んでいくのがいいと思う!)
(なるほど、ありがとう)
サフィラ・アズラク・ナハルハルアリーブからのテレパスに応えながら、ヘレン・ワーグナーは地下に広がる幽界樹の根の様子を確認していた。飛び出してくる根は無秩序のように見えて、その密集具合には差があるようだ。それならできるだけ、根の隙間が粗そうなルートで抜けられないかと考える。
「あそこは根が隆起しているようだから……しばらく中央を進んで、あの看板で脇に逸れるのはどうだろう?」
「クリーパーも少ないみたいです、いいと思いますよ!」
探知用のエーテルの波動を走らせながら、物陰の様子を確認したエフィルミアが頷き返すと、ヘレンはすぐさま敵の手薄そうなルートだと、皆にそれを知らせていく。
「こっちですね! 皆さん!」
リサ・ベイカーは足を止めて呼びかけると、皆のエーテルを増幅・上昇させていった。
蒼白い光を纏いながら「ありがとう」と告げたクーネさんを中心に据え、護るようにしながら、一行は更に先へ進む。
「ここは通しませんよ」
飛び出してきた根とクーネさんの間にコルネリウス・アーラが割り込み、その一撃を防げば、リディリディ・トゥラ・イェレミースのメテオライトが、根と眼前に迫る黒いクリーパーをまとめて貫く。
「よーっし、じゃあチクッといっちゃうぞー!」
リディリディの魔法攻撃に続けて、ガレナが赤光のエーテルを纏わせた短剣を突き刺して、黒いクリーパーの動きを妨害していく。そこを合流したサフィラがトリプルファングで切り裂いた。
「ハーヴィ、気をつけて」
耳を澄ませていたユズは、地中で蠢く根の微かな音を聞き分けると、ハーヴィの方に向かって告げた。同じようにその微かな音を聞き取ったハーヴィは、飛び出して来る根を跳び上がって回避すると、即座にストーンブラストを炸裂させる。
「突破しま……っととと!」
そんな根を多重に切り裂いたフリーダが、予期せぬ形で前方に突っ込んでいくのを仲間達が追いかける。
(伏兵……は、いないようですね)
周囲を確認したキリアン・フィッツジェラルドは、この勢いのままどんどん進んでいこうと、皆に敵の手薄かつ幽界樹へと近付きやすそうなルートを指示していく。走り続けるうちに現れた黒いクリーパーにエーテルを籠めて鋭く矢を放てば、目標地点で破裂したそれが衝撃波を撒き散らす。それなら、とナタリア・フィッツジェラルドの放つメテオライトが続いた。
「えへへっ、負けないよーっだ!」
その先から現れた黒いクリーパーからの攻撃の軌道を、ネロが瞬間的に見定めて回避行動を取る。
軽やかに舞うように動いたネロは、予備動作がほとんど無い、予測困難な一撃を繰り出して、黒いクリーパーを貫いた。
敵が繰り出してくる反撃を、エデルの祈りがもたらした淡く光る白花や、フェミナ・ノ・リビディーネが引き出した癒しの光で回復しながら、一行は幽界樹へと向けて迅速に駆け続けた。
黒いクリーパーからの奇襲が無いように備えながら進み、根の攻撃が少ないルートを考案し、できるだけ戦闘よりも移動を優先した事は移動時間の短縮にも繋がり、みるみる幽界樹が近付いて来る。
「向こう……太い根が少ない、みたい……根の攻撃が少ない、と、思う」
「じゃあ向こうから近付こう」
地中の根の広がり方とその太さを観察したエルは、根の偏りと、それによる攻撃の頻度について予測を立てていた。少しでも攻撃が少ないと思われる方向から、回り込んで幽界樹へと近付く。
「よし。ここまで来れば届くぞ」
皆のおかげで、息を乱すことなく幽界樹の傍まで辿り着いたクーネさんは、宝剣マフダルを構えると力を集中させ始めた。
膨大な量のエーテルが動いている事を、その場の誰もが感じ取る。
「クーネ様は攻撃させません!」
それに反応するかのように蠢いて迫る幽界樹の根を、ゲルダ・クラインが受け止める。すぐ近くにいるコルネリウスと頷き合ったゲルダは、クーネさんを挟み込むようにして構えると、四方八方から迫ってくる根からクーネさんを護衛する。
「黒いクリーパーが……!」
「すごい数ッス! そっちに行くッスよ!」
その時、近くの下水道の出入口を警戒していたサロとマトンから声が上がった。エーテルの動きに反応したのだろうか? 地下から多数の黒いクリーパーが現れ、幽界樹の方へ向かおうとしているではないか。
サロとマトンは物理と魔法が交互になるよう分担して攻撃を繰り出していたものの、二人だけで食い止められるような数では無く、やむなく皆の方へと下がって来る。
「来たわね」
警告を聞き、そんな敵の動きを予測していたアウレーリア・フォン・ネーベルベルクは、敵がクーネさんの方へ迫って来るなら、反対にそれを利用すればいいと、緋の鳥籠を発動させた。瞬間、檻のような炎が噴き出し、クリーパー達を拘束しにかかる。
リコリスもまたスタティックフィールドを発生させ、迫り来ようとする黒いクリーパー達の移動を阻害すると、そこにリディリディの放つメテオライトが襲い掛かった。
「敵の数が多くとも戦略は同じ――バランスを取ることに関しては、やはりGPの出番だろう」
続いて、落ち着き払った様子で進み出たのはハッタ・ムラムラだった。
その手が頭の白い毛の部分を指し示す。
そう、これすなわち物理攻撃のタイミング!
「次はこうだ」
その手が腕の黒い毛の部分を指し示す。
そう、これすなわち魔法攻撃のタイミング!
「これなら効率良く駆除できますね」
事前に知らされていたハッタの動きに合わせて、セラフィナが放ったストーンブラストが炸裂し、礫を飛び散らせながら黒いクリーパー達を攻撃していく。更にザスキアが殺気と共にエーテルを叩きつけ、一体、また一体と黒いクリーパーを自分に引き寄せていくことで、クーネさんの方へ向かうのを阻止していった。
「根も、来る……!」
探知用のエーテルを走らせていたエルが、精神を研ぎ澄ませて飛び出してきた根に矢を放つ。
根は真下からではなく、脇の方から回り込むようにして襲い掛かって来るが、それはコルネリウスによって食い止められる。彼女の負った傷は、すぐさまフェミナによって癒されていった。
「この動き方……」
その時、マリイ・パルティスが、蠢く根の物音についての違和感に気付く。周囲で蠢く根は複数あるが、一方向だけ――幽界樹がまさにそびえ立つ、その方向だけ、根の動く音がしない。
「ハヤトさん、分かりますか?」
「これは――そうか。本体が近すぎるんだ」
振り返ったマリイの言葉を受け、ハヤト=ガラン=ヴォルファングが幽界樹の方を見つめる。
巨大な幽界樹は地下では更に大きく広がっている。そして、根は更に太い根から枝のように生えて攻撃するようだ。幽界樹本体がスペースを埋めているせいで太い根が存在できない幽界樹の真下からは根が伸びて来ないのだろう。
(範囲は……五メートル、ってとこか?)
逆に言えば、幽界樹本体から五メートルの範囲は、根が真下から飛び出して来ることのない安全地帯のようなものだ。これを利用しない手は無いだろう。
「クーネ! もっと思いっきり近付け! その方が攻撃が届かなくなるはずだ!」
「突破口を作るのは任せてください!」
幽界樹本体を護ろうとするかのように動く根を、ゲルダがドラゴンチャリオッツで弾き飛ばした。すかさずエルゼリオ・レイノーラが祭刀を構えながら進み、幽界樹の元へ向かう道を確保する。
「クーネさん、こっちだよ」
「ありがとう」
導かれるように進んだクーネさんが再び宝剣マフダルを構えるのを見たエルゼリオ。そんなクーネさんと宝剣マフダルを淡い透明な光で包み、その攻撃力を強化していく。
その後ろに続いたレティシア・レインフィールは、祈りと共に光輝を放つ六角形の柱を作り出して、クーネさんを護る防壁と化した。
「これで脇から回り込んでくる根の攻撃も、しばらくの間、防ぐことができましょう」
「あとは向こうの黒いクリーパーですね」
なら、と振り返ったコルネリウスは流水を想い描きながら剣へエーテルを送り、不可視の花で檻を作りあげた。
「みんな、今のうちに狙って!」
範囲内にいた黒いクリーパーが次々と捕えられていく中、ガレナが更に肉体を蝕むエーテルをまとわせた短剣を振るって、更にその動きを妨害していく。
「リディさん!」
リサが放つ淡い透明な光で包み込まれたリディリディが頷きながら杖を振るうと、黒いクリーパー達の元にエーテルで精製された刃が出現する。次の瞬間、爆ぜたそれは、次々と敵達へ襲い掛かった。
「いっくよー!」
更にサフィラの闘気槌が黒いクリーパーを纏めて仕留めていく。それをこらえた敵にはキオルティスの魔矢が飛び、魔法攻撃に備えるように蠢いた所に向かって、フリーダが武器を一閃、強力な一撃を叩き込む。
その後ろから、更に進んできた黒いクリーパーが攻撃を繰り出してくるが、
「ハッ。この位の攻撃、なんてことないぜ!」
アルベルト・V・シュタールシュヴェーアトは輝くエーテルを収束させて盾に纏わせると、その防御性能を瞬間的に高めて攻撃を防ぐ。そんなアルベルトの後ろからセリオスが炸光矢を放って、敵を一気に飲み込んだ。
「まとめて物理に弱くするわ。狙って」
アウレーリアが頭上に呼び出した無数の小火球を、まるで流星群のようにクリーパーの群れ目掛けて撃ち下ろす。そこへ、ケン・Z・ブラッドリーが闘気槌を放ち、黒いクリーパー達を纏めて効率よく倒していく。
そんな風に戦う皆の姿を、クーネさんは静かに見つめていた。
(あの時よりも、成長している――)
分かたれし幽界樹との戦いから、僅か半年に満たない期間しか経っていない。だが、この短期間で皆が遂げた成長に、知らず笑みがこぼれる。
「皆、ありがとう――さあ、攻撃に転じる時が来たぞ――!」
ニッと笑ったクーネさんが地を蹴った。すかさずレティシアはエーテルの波動を開放し、クーネさん達のエーテルを増幅させていく。
蒼白い光を全身より立ち登らせながら、クーネさんは軽い助走と共に、宝剣マフダルを無造作に振るう。下から上へ、一直線に振るわれた剣筋に沿ってエーテルが迸り、まるで光のような軌跡と化して……。
幽界樹を斬った。
その瞬間、タケノコのような形をした黒い装甲が大きく裂けた。外皮がめくれるかのように削り取られて、その内側で守られていた幽界樹本来の色が露出する。
「クーネさんのバトンは受けとったわ」
真っ先に動いたのはミツキ・アインホルンだった。超高速で天地のエーテルをかき集めて魔法力を高めたミツキは、更に呪法強化した魔錆を撃ち放つ。
「やってくれるって信じてたぞ!」
『燦めく剣閃』アステルが、それに続いて二刀流による三段連撃を叩き込んだ。外殻が裂け、更に脆くなった幽界樹には確かに三つの傷が刻まれ、そこから黒い体液が飛び散っていく。
「攻撃が通ってる! 今だよ、魔法を!」
「ああ! 今こそ……」
「エスタルを解放するんだ!」
【黒猫】のアステルがクーネさんをカバーするように動きながら呼びかけた言葉に、エスタル冒険者ギルドの選抜メンバー達のうち、魔法を得意とする者達が一斉に攻撃を放つ。
エスタルの崩壊を目の当たりにした、あの日。
地下に潜り、何とか生き延びてきた日々。
地上での暮らしを、取り戻したあの日。
そして、草人という名のクリーパーに抗うべく、密かに活動してきた日々……。
彼らの胸に去来する思いは様々だったかもしれない。けれど、その元凶たる幽界樹をここで必ず倒してみせるという意気込みは、全員に共通している。
「あれは、枝か?」
幽界樹をよく観察していたペルゼィックは、クーネさんの攻撃を喰らって大きく裂けた部分に、枝のようなものが生え出している事に気付いた。かつての幽界樹や、幽界樹の仔と同様であれば、あの枝は何らかの攻撃手段に繋がっているに違いない。
(黒い霧も漂っているようだが……濃度が薄いせいか、ほとんど気にならないな。残る外殻も色が茶色に変わっている。それに――)
傷口から飛び散った体液の方が、嫌な感じがすると、ペルゼィックは直感していた。あれは極力浴びないように動いた方が良さそうだ。
「なるほど。――弓なら丁度良いな。外殻の色の変化も気になるが……」
そんなペルゼィックの情報に頷いたセリオスは、目を凝らして狙いを定めると、幽界樹の中心目掛けてバスターアローを撃ち放った。
「次は魔法だ!」
すかさずイズル・M・ヴォルゴールがテレパスを飛ばしながら声を張り上げる。度重なる攻撃に、幽界樹はありったけの根を蠢かせて冒険者達を襲い、更には枝を伸ばして至近距離にある者達を刺突してくるが、その物音に負けじと波状攻撃の指示を飛ばして、幽界樹の早期撃破を目指す。
「そうか。残る外殻も強度は落ちているな。物理と魔法への耐性変化も消えた――か?」
幾つもの攻撃が幽界樹へ飛ぶ中、ペルゼィックが声をあげた。黒色から茶色へ変色した外殻はまだ硬いが、エフィミア・リリックの大魔法にも耐えた強固さはもう見られない。受けた攻撃が物理か魔法かで耐性を偏らせる様子も無くなっていた。
「派手に暴れ回っているようだが、そいつもここまでよ」
ヴァンゲルスは、そんな幽界樹の動きを鈍らせるべく、肉体を蝕むエーテルをまとわせた暗針を打ち込む。
まるで脈打つように震えた幽界樹は、突き刺す枝の矛先を鈍らせていく。その間にファーシルが光輝くエーテルの波動を放ち、周囲の皆の傷を癒して、更なる戦いに備える為の力とする。
「師匠、行きましょう!」
「わかった。ボク、敵の守り、弱める――狙って」
「はい!」
ハーヴィの言葉に頷き返したユズは、呪法強化したマジックディソナンスで幽界樹の弱体化を図る。すかさず、ハーヴィ渾身の魔弾が炸裂し、被弾した幽界樹がぐらりと揺れた。
「一気に畳みかけるよ!」
「いっくぞー!!」
そこへ、二人のアステルが、続けざまに威力を重視した強力な一撃と三段連撃を叩き込んだ。脆くなった外殻に傷が刻まれ、刃が幽界樹の本体へと達する。飛び散った幽界樹の黒い体液を浴びた瞬間、体が重くなったような感覚に眉を顰めた二人だったが、力を振り絞って次の攻撃を繰り出す。
「いくぜぇ!」
唸る声と共に、パヴェル・A・サムルガチェフの周囲から迸った無数の光弾が幽界樹へと降り注ぐ。その光を追うように、幽界樹への距離を詰めたのはナキルだった。
(クーネが斬ったのは幽界樹の中央。そこに重なった皆の攻撃を考えると……狙いは、あそこだ!)
最も強烈な一撃であるクーネさんの攻撃は、幽界樹を大きく傷付けたはずだ。
外殻も本来の樹皮も失ったそこへ、更に重なった皆の攻撃――傷に傷が重なって、脆くなっているであろうその箇所に必殺の一撃を叩き込む機会を、ナキルは窺い続けていた。
それが、今だ。
「さあ――テメェもオレの武勇伝にしてやるぜ!」
全身全霊を込めた一閃に、幽界樹が大きく震えた。
幽界樹は哭かない。だがまるで悲鳴を上げて叫ぶかのように、茶色い胴体がミシミシと激しく軋んだ。
「効いているみたいですね。なら!」
更に、その傷口を抉るかのように、エフィルミアが魔矢を飛ばしてダメージを重ねていく。そこへイズルが戦槌を握り、予備動作をとても小さくした一撃を叩き込んだ。
「弱い部分をどんどん狙っていこう」
呼びかけるイズルの言葉に、エスタル冒険者ギルドの選抜メンバー達も続く。
そんな中、キリアンはハーツベインショットを放った。矢に纏わせたエーテルは幽界樹にまとわりつき、強烈に蝕んでゆく。
もがくように荒れ狂う幽界樹の根が、次々と真下から、あるいは斜めに伸びてくるが、そんな皆へのダメージをナタリアがハイパーヒーリングオーラで一気に癒していく。
「このまま追い詰めるわよ」
高速多段式超魔法を用意していたアウレーリアがここがチャンスだと魔弾を叩き込み、その脇を、ナハティガル=ラーが一気に駆けた。エアーライドで跳躍すると剣を突き立て、幽界樹そのものに取り付く。
「さて、先端が脆いと読んだが」
そのまま一気に幽界樹の上まで登りきったナハティガルは、上から下に向かって強力な一撃を振り下ろす。その動きに呼応するように、ネロのトリプルファングが重なって、次々と切り裂いた。
「なら次は、わしの番じゃな」
そこにグレイが前衛を避けて巨大な炎弾を放ち、爆風と共に爆炎で幽界樹の上部を薙ぎ払う。
どんどんダメージを重ねようと、エスタル冒険者ギルドの選抜メンバー達にも声をかけて促し、次々と攻撃を繰り出していく。幽界樹の外殻があちこちで剥がれ、抉られた樹皮の下から黒い樹液が飛んだ。
「正念場ね。サポートするわ」
彼らの猛攻を目にしたミツキもまた、呪法強化した魔錆を再び繰り出す。
「さあ、最後は任せるわよ……!」
「今だ!」
ナタリアのコモンブラッドと輝刃が発動し、周囲の仲間達が持つ武器を淡い透明な光で包み込んでいく。
「地に潜みし幽界樹――今こそ、お前を倒す!」
その力を受け、今が好機だと見たアルベルトは高らかに宣言しながら大太刀を構えると、落雷のように鋭く苛烈な一撃を繰り出した。まるで落雷で大木が裂けるかのような轟音が鳴り響き、幽界樹から黒い樹液が溢れかえる。そこに、まるで重力を無視したかのような動きで距離を詰めたフリーダが、想定以上の威力を秘めた一撃を叩き込んだ。
「これで終いにさせてもらうぜ!!」
フリーダの攻撃と同時に、ケンの武器が一瞬、燃え上がるように眩く輝く。
まるで雲耀すら置き去りにするかのような、刹那に放たれる素早い一撃が幽界樹を襲った、その瞬間――。
パキ、パキバキバキバキ――!
幽界樹が割れる、砕ける。
果てしない音と共に粉々に散った幽界樹が、まるで靄と化すかのように薄れ、消滅していく……。
それが、地に潜みし幽界樹の最後だった。
「これは……ヴィントの時と同じですか……!」
幽界樹が生えていた場所には大きな空洞が生じていた。それだけではない。地中や地上にあった数多の根も消滅したことで、地面が大きく崩れ、広範囲に渡って陥没していく。
「いけない、落ちてきます」
幽界樹の上空に異変が無いか警戒していたマリイが、近くの建物の崩壊に気付いて警告を発する。一行がそれを素早く避け、退路を探そうとしたその時。
「大丈夫、撤退路は確保してあるから。さあ、こっちだよ」
皆を手招いたのはキオルティスだった。敵の分布、地形、そして幽界樹を倒した際に崩れるであろう場所を予め考慮し、より安全に素早く撤退できるであろうルートの目星をつけておいたのだ。その読みは見事なものだった。
「クーネさん、走れますか?」
「大丈夫だ、コルデラに乗せて貰う程じゃないよ」
笑みを浮かべたクーネさんにマリイが頷き返す。怪我人に関しても、エデルやファーシル、フェミナ達が手早く癒しの光を放って治療している。動けないというほど重傷の者がいなかったのは幸いだっただろう。
「それじゃあ全力で撤退!」
バランス感覚に長けたサフィラがキオルティスに続き、一行は崩落する瓦礫を回避しながら南の方角へと駆けていく。
その最後尾についたザスキアは一瞬だけ、幽界樹のいた場所を振り返った。
地に潜みし幽界樹は皆の手によって切り倒され、もういない。
「……悪い夢からは覚める時間だ」
長い間、まどろみの中にあったエスタルが、現実へと還る時が来ていた――。
監修:アルパカコネクト運営
(担当マスター:空色みなも)
●
暗く足下の濡れた地下の下水道を、市民を抱えた草人の群れが往く。
もはや人に擬態することを必要としなくなった草人の中には、無数の脚を生やすなど、クリーパーとしての異形を露わにしている個体もあった。
「誰一人、誘拐させないぞ!」
ララベル・サン・ディーベルたち【ふしぎ亭】が、逃げる草人たちを猛追する。
エーテルの波動で地形と敵の存在を把握し、草人を追う最短ルートを算出するララベル。
「頑張ったらララベルからご褒美あるのかな?」
アリエッタもエーテル波で索敵を行いながら、ダンスのように軽やかなステップで草人との距離を詰めていく。
他にも索敵に適した手段を持ち込んだ仲間は多くいたため、【ふしぎ亭】の面々は瞬く間に草人の集団の一つに追いついた。
「逃がさないわ」
事前に地図の写しを入手して【ふしぎ亭】を案内していたテュリン・ヴィングが、術具として儀礼用の短剣を構える。
まずは草人たちにエーテル光をまとわりつかせ、その足を鈍らせたテュリン。
攫われた市民ごと巻き込むことになっても、こちらはただの足止めなのでさしたる問題はない。
そこへテュリンは草人たちだけを狙って、光の剣を次々放って貫いていった。
「見えたわ、そこ」
背中にクノキと呼ぶ相棒の栗鼠を張り付かせ、後方を警戒させている楓月・千弦。
暗闇を見通す千弦自身の目は、逃げる草人たちの姿をしっかりと捉えていた。
千弦が構えた魔弓から、エーテルをまとった矢が放たれる。
草人の背中に突き立った鏃からエーテルがまとわりつき、その回避行動を鈍らせた。
「み~つけたっ」
そこへエーテルを噴出することで宙を駆けたアルラ・ニグラスが肉薄する。
動きの鈍った草人の背に、両手に取り付けた爪を一閃、もう一閃、さらに一閃。
深い傷を負いながらも草人が倒れないので、反撃が来るか、と身構えたアルラであったが。
草人は逃げることを優先しているのか、そのまま走り去ろうとする。
「行かせないっ!」
満を持してララベルが下水道に備えられた歩道を足場に、大きく跳躍。
草人たちを飛び越して、前方へ回り込んだ。
ララベルが細剣に巨大な光の塊をまとわせて挑みかかったことによって、草人たちの足が鈍る。
「ここは私に任せろっ!」
ゴルバルティアが突進の勢いのまま草人の群れを掻き分け、追い抜いた。
「この先は通さねぇ!」
振り向いて短剣を構えると同時、背負った盾から翼のように膜を展開し、防御姿勢をとるゴルバルティア。
ゴルバルティアから放たれる凄まじいプレッシャーが、いよいよ草人たちの足を止める。
さらにゴルバルティアの領域となった空間に、短剣のまとったエーテル光の刃が吹き荒れた。
「偽りの夢から目覚める時だよ!」
度重なる攻撃を受けてとうとう頽れた草人に向かい、ヒロ・テスタロッサが風のように駆ける。
「大事な人々の命、返してもらうからね」
ヒロは草人の一体が抱えていた市民を確保すると、即座に後方へ引き返した。
「この方のこと、お願いします」
「ええ、後は我々に任せてください」
後方に控えていた千弦は、協力者である草人狩りに救出した市民の移送を依頼する。
草人狩りの中でも、実力者の多くは地に潜みし幽界樹の周辺対応に回っていた。
とはいえ、この場に集まった者たちも下水道が持つ本来の構造には詳しく、移送を行うには適任だ。
「よーし、どんどん取り返すよ!」
市民が運び出されるのを見届けたヒロが、次なる市民の救出に向かう。
こうして【ふしぎ亭】は次々と市民を助け出していったのだった。
●
下水道の闇を、炎が照らす。
市内中央地下を目指す【喫茶】の、エルナ・クルプファルツが先行させる狼に咥えさせた松明の炎だ。
「あちらを進むほうが良さそうね」
狼に同行しながらエーテル波で地形をなぞったカメリア・ローレンスが、割り出した移動ルートに沿って案内を行う。
下水道が持つもともとの構造はエルナが草人狩りから聞き出しているものの。
地に潜みし幽界樹が地上に出現した際の地震により、崩落でところどころ道も塞がっている。
草人以外に、黒いクリーパーや前から地下に住むクリーパーが存在することもあり、こうした先行偵察の意味も大きいのだ。
カメリアは進路上にクリーパーを見つけても牽制を行うに留め、移動に支障が出ないように気を配る。
クリーパーの完全な排除は、そのために動ける冒険者に任せる形だ。
「……何か振動音が聞こえますね。ご注意を」
キーゼの鋭い聴覚が、下水道の壁の奥から響く音を捉える。
直後、警告により散開した【喫茶】の面々がつい先ほどまでいた空間を、植物の根のようなものが貫いた。
どうやら、地に潜みし幽界樹の根が下水道に沿う形で伸びていたようで、それが壁を突き破って攻撃してきたようだ。
「お呼びじゃない、引っ込んで」
正三角形の魔法陣が展開されたコハクの左目は、周囲の熱を視覚として感知することもあり。
突き出された根をコハクは最小限の動作で回避していた。
コハクの両の手に握られた漆黒の刃を持つ短剣が、即座に閃き。
三連撃を受けた根は、それで怯んだのかどうかは分からないが、壁の奥に戻っていった。
「またどこかで不意打ちを仕掛けてくるかもしれません。注意が必要でございましょうね」
ネーヴェ・グラヌローザも、地中に隠れた根が突き崩しうる壁に注意を払うようにして先に進む。
「ここは草人を盾にして進みましょう!」
「じゃあ、逃げる草人を捕まえないとね」
ユークリア・フィナンシェの提案で、アルシエラ・ライゼルが白き鞭を振るった。
鞭から放たれた白光のエーテル波が風をまとったように加速し、逃走する草人の一体の脚を打つ。
「難しいけど、死なない程度にしないといけないのよね」
ウォルナ・パイパースが杖から放った魔法の矢も草人に襲い掛かった。
「逃がしません! あなたには私たちの盾になって貰います!」
さらにユークリアが鳥の姿をした魔法の照明光を頼りに、草人に狙いをつける。
雷のようなエーテルの槍が投擲され、やはり草人の脚に突き刺さった。
次々と【喫茶】のメンバーによる攻撃が加えられ、抵抗できないほど痛めつけられた一体の草人が生け捕りにされる。
「では、この草人をこうして括りつけまして――」
草人の抱えていた市民は草人狩りに移送を任せ、捕獲した草人を二輪運搬車に固定するユークリア。
「タケノコ伐採にレッツ、ゴーです!」
ユークリアに率いられる形で、【喫茶】の面々は地に潜みし幽界樹のもとへ向かった。
●
アルシエラの相棒である狼のシアを伴って、ユークリアの二輪運搬車は下水道を突き進んでいた。
時折、細い根が【喫茶】を襲うことはあったものの。
草人を巻き込むことを恐れてなのか、根が爆裂するようなことはなかった。
最後はそんな配慮も失せたようだが、それまでにかなりの距離を稼ぐことに成功している。
そしてついに【喫茶】は地に潜みし幽界樹の地下部分を目にすることになる。
それは形容するとすれば、まさに黒い壁であった。
そう、地に潜みし幽界樹の外皮は、下水道をまるごと塞いでいたのだ。
「これでは壁を殴るような感覚になりそうですね……やることは変わりませんが」
キーゼがエーテルの波動を解放し、周囲に集まった【喫茶】たちの能力を底上げする。
「タケノコ伐採拳法をお見せしましょう!」
全身に稲妻のようなエーテルをまとったユークリアが、アイアンフィストで黒い壁を殴りつける。
――ガィン!
「か……固いっ!」
ユークリアの手に、痺れるような感触。
「物理が効かない状態なら、魔法が効くのではないでしょうか!」
それを見たエルナが杖から魔法の弾丸を飛ばした。
決して低くはない威力の魔法が、地に潜みし幽界樹の外皮を襲う。
しかし、弾は外皮をほとんど傷つけることなく、弾け飛んだ。
「お願い、効いて」
アルシエラが祈るように外皮に突き立てようとした暗器は、外皮の表面を滑るのみだった。
暗器に仕込んだ、体を脆くする効果を持つエーテルも、ほとんど効いた手ごたえがない。
はっきり言って、アルシエラの弱体化を付与する力は高いほうだ。
これは外皮の持つ耐性が高すぎるのが悪い。
「タケノコだし、火を通すと美味しいかもしれないわ」
めげずにウォルナが魔法の炎をうねらせたりしてみたものの。
外皮が美味しそうな焦げ目をつけたりすることもない。
「物理的な装甲と、魔法的な装甲は分配が変わるだけで、総合的には変化しないと見ていたのですが……それ以前に、この状態では分配を変えるどころではないのかもしれませんね」
外皮の装甲は総合的には一定である、とするキーゼの推測に、矛盾する挙動は今のところない。
ただ、現在はそれぞれの装甲がもとより硬すぎるのだ。
「ここは地上を進む方々に任せる他、ないのでございましょうか」
時たま突き出してくる根や、周辺の黒いクリーパーに光球を降り注がせて対処していたネーヴェが呟いた。
そろそろ【喫茶】たちが傷を負い、ネーヴェが治療を施す機会も増えてきている。
最終的に、地上の冒険者たちを信じて【喫茶】の面々は撤退を選ぶことになった。
●
「飲んでばかりいられないからストレス発散に戦場へ行こうと思ったのに……」
暗くじめじめとした空気の下水道に来てしまい、受付嬢のリーミルは荒れていた。
どうもこうも、何の考えもなしに前を行く人に着いていったせいなので、全ては自業自得である。
「こうなれば手当たり次第、クリーパー退治です!」
リーミルが斧を振るうと、下水道に住み着いていた小型クリーパーが一体、吹き飛んだ。
近くに草人を追う冒険者は多かったが、クリーパーを相手する者は多くはなかったので、何だかんだ助けにはなっている。
Alexandra・Hexe・Claudiaやシエラ・フォン・リシェイラといった冒険者たちも、手が足りない役割を買って出るようにしていた。
「何かキナ臭いと思っておりましたが、やはり奇妙な平和とは長続きしないものでございますね」
ランタンを手にしたハリーヌ・ヨツユビは、暗視能力やエーテルの波動による探索も駆使し、状況の把握に努めていた。
『そちらの方に草人が逃げているでございます』
『分かったわ。連絡ありがとうね』
ハリーヌが思念を飛ばすと、思念の届く範囲にいたシルディスが応答した。
「……絶対に、許せないわ。逃がしなんてしない。皆、無事に家に帰るべきだもの」
シルディスはグンと体を加速させると、あっという間に逃げる草人に追いついた。
草人の脚に、シルディスの短剣が見舞われる。
短剣のまとったエーテルが、草人の脚にまとわりついて回避行動を阻害した。
「援護するでございますよ!」
そこへ追い打ちをかけるように、ハリーヌが杖を掲げて光球の群れをけしかける。
雨あられと降り注いだ光球たちは、抱えられた市民を避け、器用に草人だけを撃ち抜いていく。
「わたしは毒を撒くから、救出はお願いするわ」
そこへ吹き込む疾風――アヴェラ・ウッチェロだ。
宣言通り、アヴェラは毒性のエーテルをまとわせた爪で、草人に切りつけた。
エーテル毒が通じたことを確認したアヴェラは草人の深追いをすることなく、次の標的をエーテルの波動で探し出し、そちらへ向かう。
毒が時間をかけて効果を表す性質のものである以上、そのほうが効率がいいからだ。
「ここは危険です! 地上に出て保護を受けてもらいましょう!」
最初は遠方にいたトーラも、エーテルの波動を走らせていたことにより草人の存在に気づき、駆けつけてきた。
濡れて滑りやすい足場を避けるように、トーラは壁を伝って走る、走る。
「それっ!」
トーラは魔弓から矢を放った。
黒いクリーパーに一人で遭遇した場合に備え、物理的な攻撃と魔法的な攻撃を切り替えることも考えて用意したものだ。
それが射程の面でも役に立ち、遠く離れた草人の脚を見事に射貫いた。
「よし、大漁を目指すよ」
「おう!」
ヨル・スレイマンとナハシュの二人、【釣り】がここで動く。
二人はこれまで、ナハシュの入手した地図を頼りに下水道を巡っていた。
ナハシュがエーテルの波動による索敵で草人と市民らしき重なった気配を発見したため、現場へ急行していたのだ。
「幽界樹と草人の間には、指令系統があるんじゃないかな?」
自らの推測に基づき、ヨルは草人を巻き込む形で、精神感応を妨害する領域を展開した。
結果を見るに、実のところ草人はすでに受けた指示をもとに動いているようで、逐一、地に潜みし幽界樹からの指示を必要とするわけではないらしい。
ただし、草人の側から地に潜みし幽界樹に対する情報共有であれば、これで防げているかもしれない。
「一本釣りだ!」
ナハシュが即座に草人に向かい、駆ける。
草人は度重なる攻撃を受けたことにより、抱えていた市民を取り零していた。
ナハシュは母蜘蛛の糸からなったロープにエーテルを通わせて、その先端を地面に転がった市民に引っ付ける。
ぐいっ、と勢いよくナハシュがロープを手繰ると――市民はナハシュのもとへ引き寄せられ、その腕に収まることになった。
「おっと、せっかくの釣果はリリースしないよ」
ヨルが己の血にエーテルを混ぜて地面に垂らすと、草人の足下から黒い腕のようなものが現れ、草人を束縛した。
草人が市民を取り戻そうとするかは分からなかったが、足止めができるに越したことはない。
こうして下水道を担当する冒険者たちは、着々と市民の救助を進めつつあった――。
【2】市内地下:中央へ向かう草人に攫われた市民の保護・回収、クリーパー掃討 後編
(担当マスター:革酎)
●
漆黒の闇に覆い尽くされている下水溝内で、【パン屋】のルアンナ・ミュラー、キリク、クローリカの三人はまるで陽の光がそこに射しているかの如く、何不自由無く動き回っている。
ここまで闇色の殻を纏った強力な小型クリーパーを何体か仕留め、時に草人の手から市民を救助しながら奥へ奥へと突き進んできた三人だが、黒い壁が一角を埋め、謎の黒繭が点在する小さな空間に辿り着いた時は、矢張り情報力不足、火力不足が大きく響いた。
「この繭……何て、硬い……」
クローリカは目の前の巨大な黒繭に何度も刃を叩きつけているが、一向に打撃が通る気配が無い。
一方、時折飛び出してくる鞭の様な根の攻撃に、ルアンナとキリクは手を焼いていた。
ルアンナの自慢の魔法攻撃は幽界樹の外殻とおぼしき黒い壁に通用しているようには見えないが、更に一撃、もう一撃。攻撃に意識を割きながら根の回避も行うのは難しい。「駄目か……ナイフじゃ傷も入らない」
同様に根の攻撃を躱しつつ黒繭に切りつけるキリク。その恐るべき防御力に渋い表情を浮かべていた。あるいはルアンナの魔法攻撃なら通じたかもしれないが、彼女は幽界樹本体を目標と見定めて力戦中だ。
「他の冒険者さん達は、上手く攻略出来ているのでしょうか」
ルアンナは、次第に息が切れてきた。攻撃が通用しない相手に、魔力が尽きかけている。
そこへ草人狩り数名が支援の為に駆けつけてきたが、彼らの力が助けになるかどうかも正直、怪しい。
●
ロゼットが指揮を執る【雷鎚】は、【パン屋】同様に奥へと進みつつも、草人を発見し、市民を奪還することにより重きを置いていた。
全員が何らかの視界確保、索敵術を駆使して上手く草人を発見、追跡し、その都度撃破に成功している。
レイヤ・ダライ=カホールの生み出した光球やロゼットのランタンが周囲を照らし、ギャメルの矢と魔術での目印付与は追跡の一助となった。
草人への直接攻撃の際はオゴスの音を利用した囮策や、アリッグ・レイダーの脚を狙った攻撃が有効に機能した。
「おっと……あれは、繭ですか」
何体目かの草人を斃し、救出した市民を草人狩りに預けていたオゴスが、水路奥に広がる空間の異物に気付いた。
ギャメルの支援で攻撃力を強化したロゼットがいち早くその空間に飛び込むと、丁度繭から這い出てきた『黒い殻で覆われた草人らしきクリーパー』との戦闘に突入した。その奥には、今まさに繭へと飲まれていく草人と市民の姿が垣間見える。つまり、この黒い草人は取り込まれた者の成れの果てと言う事か。
「取り込まれているだけなら、可能性は……!」
しかしロゼットの願いも虚しく、冒険者達が斃した黒い草人体内からは、市民の姿は見つけられない。草人と一緒に黒繭へ連れ込まれた直後でなければ、救出は叶わないのだろうか。
「では、やりましょう。ここにある黒繭から市民を助け出すしかありません」
レイヤの号令を受けてロゼット、アリッグ、オゴスといった火力担当がその場の黒繭を次々と破壊してゆく。中から黒い殻を纏いつつあった草人が現れても速攻で仕留め、辛うじて救出が為った市民にはオゴス以外の面々が総出で回復施術へと力を注ぐ。
「何とか間に合ったみたいですね……この方々をお願いします」
アリッグはここでも、草人狩りに救出した市民を任せて後方へと退かせてゆく。
その時、別方向から不気味な咆哮が響いた。黒クリーパーが乱入してきたのである。
「ちっ……幽界樹や草人だけでも厄介だってぇのによ」
ギャメルは救出した市民への回復術を手早く終えると、弓に矢をつがえて迎撃態勢を取った。同時にオゴス、ロゼット、アリッグが防衛線を構築する様に並び、そのすぐ後ろでレイヤが残りの市民の応急処置を加速する。その最後の措置が終わったところで、レイヤも戦線に加わった。
黒クリーパー撃退と、黒繭の破壊。
一瞬たりとも、ひと息入れられる様な時間は無かった。
その時、近くで轟音が鳴り響いた。誰かが盛大に、極大の魔力を撃ち放ったかの様な衝撃である。
突入している冒険者達を考慮に入れても、これだけの破壊波を一撃で撃ち出せる者は、限られてくる。
「クライス支部長が、近くにいるのかしら」
ロゼットは、噂に聞く草人狩りのリーダーも戦っているのだろうか、と気を取り直した。
ここが踏ん張りどころであろう。
●
爆発音に続いて、凄まじい震動。
下水溝内に殷々と響き渡る爆音の余韻を追う様にして、テス・クラルスとロイ・アウレアの両名が比較的広い空間へと飛び込んできた。
テスとロイが所属する【睡狼】A班は、兎に角も下水道内を市内中心部へ向けて突き進むことに全力を注いでいた。
そんなA班が出会ったのが、丁度黒い草人と黒クリーパーを纏めて仕留めた最強の草人狩り、クライス・アクバーだった。
「待ち侘びたぞ。やっときてくれたか」
睡狼の面々を見るなり、クライスは黒眼鏡の奥で珍しく、その瞳に安堵の色を浮かべた。余程に苦戦を強いられていたのだろう。
単身、奥地までたどり着いて孤軍奮闘していた男に頼りとされたのだから、士気は大いに上がった。まずライオネル・ギシュムがクライスと敵の間に立ち、盾役としての矜持を見せつける。
「俺が来たからには、クライスさんには指一本触れさせないよ」
ライオネルの得物から光塊が振り出される。その一撃で群がり立つ黒い草人の一部が薙ぎ倒された。
「草人狩りの皆様は、もう結構です。危ないから後ろに退がって」
サシャ・テーリングが指示を出して、動けなくした草人を盾替わりにしていた草人狩り達を後方へと移動させてゆく。その時、縛っていた草人が突然ボロボロと崩れるのが見えた。加減を間違えた筈は無く、自死したのだろう。何故か――? 戦術的な意味をテスは考え、ハッと息をのんだ。
「草人も捨てて。その策はここまでだね」
草人の盾は、最初のうちは幽界樹の目を上手く誤魔化せていたが、時が進むにつれ巻き込むことを厭わぬ様子も見え始めていた。その対処として、草人を幽界樹が切り捨て始めたのだとしたら、退き際を誤ると大惨事になるだろう。
この時、レタラ・スマリがB班のエルシー・サリバンと交換して預かってきた栗鼠の反応から、向こう側でも別の地点の黒繭群ポイントに到達したことを察知した。
「どうやらB班も、結構な数の黒繭を発見した様だ。これから市民救出に着手するらしい」
レタラの報告を受けて、テスとロイは静かに頷き合った。市民を連れて移動する草人のゴールは、この黒繭であるらしい。これ以降は力を抑える必要は無いという訳だ。
「ここからは遠慮は無用だね」
「ようし……全員、一気に行くぞ!」
まずはテスが再び動き出した黒い草人の群れに足止めを仕掛け、その間にロイとレタラの放つ矢で物理攻撃を連続して叩き込む。敵の反撃も激しいが、回復の手が続く間は持ち堪えられそうだ。
敵の群れが対物理で相当強くなった頃合いを見計らって、今度はテスの魔力が火を噴いた。
「じゃ、最後は遠慮無くとどめ、だ」
テスの魔法攻撃で今度は対魔力が極端に上がった敵の間を、最後はハル・チフが一気に駆け抜けてゆく。次々と振るわれる刃が、黒い草人を面白い様に薙ぎ倒していった。
ハルの手数だけで足りない部分は、ライオネルが間合いを詰めて一体ずつ始末してゆく。
流れる様な連携攻撃に、黒い草人共はバタバタと仕留められていった。
【睡狼】が見事な連携で敵を引き受けた事で、余裕のできたクライスが黒繭の殻を慎重に破壊してゆく。覗き込んだサシャが、辛うじて助かる見込みのある市民を見つけて引っ張り出し、慌ててヒールを掛けた。
●
市内中心部の地下から、少しばかり離れた位置。
そこに広がる比較的開けた空間でも、結構な数の黒繭群が林立していた。【睡狼】B班はここへ突入してくるなり、水路内から現れた黒クリーパーとの戦闘に突入した。
「俺が相手だ、かかって来い!」
アルバス・ロウルの咆哮に対して黒クリーパーが猛り狂った様に反応した。
その間にルルト・アーキスとエヴァン・ピオネロ、エルシー・サリバンの三人で黒い草人と黒繭への攻撃を、物理と魔法の交互連撃で叩き込んでゆく。
「A班、クライスさんと上手く合流出来たって!」
肩を並べて矢を放つルルトに、エルシーが口早に伝えた。相棒のシロに指示を出していたルルトも、その一瞬だけは笑顔を見せる。
「じゃあ、ボク達にとってはここが最終攻略ポイントって訳だね!」
「ならもう、遠慮は要りませんね。ぱぁーっと盛大にブッパしちゃいましょう」
それまで魔法火力を抑え気味だったエヴァンも、ここが力の出しどころだと認識した。草人追跡時の市民への巻き添えや、草人の盾を扱う草人狩りへの考慮もあって、ここに至るまでは魔力を随分と調節していたエヴァンだったが、やっと本来の力を出し切れるというものだ。
この広間に入って、黒繭に取り込まれる直前の市民を数名確保したアルマ・ヴァレンタインは、肉体への回復術は順調に施術可能であるものの、解呪やアンチサイでは昏睡が解除されないことに小首を捻っている。
「うーん、何か別の原理が働いているのかな? こりゃあちょっと厄介だね……」
何か精神に働きかけているのは間違いないと踏んでいるアルマだが、想像以上の難敵に渋い表情を浮かべるばかりだ。
そのアルマの隣りで、梅・雨陽が妙に素っ頓狂な裏声を放っている。
「やっと分かったヨ!」
「え? 何が?」
うろんな表情で問い返すアルマ。雨陽は今尚、興奮を隠せない様子。
「幽界樹の根の攻撃ヨ! 場所によって緩急が違うネ!」
曰く、同じ距離でも幽界樹の根の攻撃が激しい地点と、緩い地点があるらしい。その緩い地点から救出市民を運搬する草人狩り達を走らせれば、比較的安全に地上へと戻ることが出来るだろう。
「そいつは朗報だな。逆をいえば、攻撃の激しいところに俺が入れば良い訳だ」
丁度黒クリーパーを叩き伏せたアルバスが、幽界樹の根に対する防御は任せろと胸を張る。
その一方でエヴァン、ルルト、エルシーを軸とした黒繭破壊と黒い草人への対処も着々と進んでいる。
既に黒い草人に取り込まれた市民は最早手遅れだが、そうなる前に黒繭から救い出せている市民の数も、決して少なくない。
A班の側でもクライスとの協力で、救助が進んでいるとの連絡が入ってきていた。
救助市民を連れた草人狩りの撤退支援には、案内役として雨陽が先導に立ち、防御と回復担当をアルマが務める。
「草人の盾も、帰りは流石に通用しないかな」
A班と同じく草人の動きを封じて盾とする策を主導していたエルシーも、戦術転換の必要性を認めた上で、仲間達に撤収タイミングをいつ伝えるべきかと敵の動きを探っている。
他の地点の黒繭攻略も少しずつではあるが、確実に進んでいるらしい。何より、ひとたび黒繭を抑えてしまえば、破壊はゆっくりとしか進まずとも、後からやってくる草人と市民が取り込まれる事は阻止できる。成果は、着実に挙がっていた。
●
最も奥へ到達した結果、苦戦を強いられている【パン屋】のルアンナ、キリク、クローリカ達だが、しかし漸く戦況が持ち直しつつあった。
ラーナフ、ファヌ、ヴァン・ローラント、ルイドの四人が草人狩りからの連絡を受け、急遽駆けつけてきたからである。
ルアンナは優れた魔術師だし、キリクの戦闘力やクローリカの接近戦術はラーナフやファヌから見れば十分以上に強力だろうが、僅か三人で幽界樹に挑み、戦闘を続けるのは困難に過ぎた。
「魔法攻撃が必要なところは呼んでくれ、といってはおいたが……これは想定以上の苦戦場所だな」
魔力が尽きかけているルアンナの姿に、ラーナフも内心で僅かに戦慄を覚えている。幸い、奮闘していた三人以外には、バラバラと応援に来ている黒クリーパーしかいない。ラーナフが気にしていた市民の巻き込みは、この場では余り考える必要が無さそうだ。幽界樹本体ではなく黒繭を相手にするならば、ここはルアンナに代わって盛大に火力を投入すれば、それで良い。
ルイドは遠隔攻撃のヴァンを支援する形で前へと出て、迫り来る黒クリーパーに効果的な物理攻撃を叩き込んでいる。
「これだけ殴りゃあ、次はそろそろ魔法攻撃か?」
「……だな。市民の保護状況は?」
ルイドに問われたヴァンは、ファヌに視線を転じた。
ファヌは光縛封での防御も視野に入れて、連れ去られる途中だった市民を奪還後、草人狩り達に次々に搬送を指示している。ルアンナやキリクが黒繭へ早々に辿り着き交戦を開始した結果、ここの黒繭を利用できなくなった草人達が入り口で渋滞を起こしていたのだ。
「大丈夫よ。もう十分に市民救助は達成出来ているみたいだし、そろそろ撤収も考えた方が良さそうね」
何故か変に艶を帯びたファヌの声音だが、いっていることは至極まともだ。【パン屋】の三人も、自分達の戦いが無駄ではなかったことに、若干ながら安堵の念を見せていた。
●
主だった黒繭群の攻略は、各地でほぼ完了しつつある。
【雷鎚】、そして【睡狼】A班とB班はクライスが大規模な魔力攻撃を打ち尽くしたのを契機に、地上に向けての撤退戦に入った。
通常の草人はもうほとんど残っていないのだろうが、黒クリーパー、及び黒い草人は獰猛な勢いで猛追して来る。
黒繭攻略で相当に消耗していた【雷鎚】、【睡狼】A班及びB班だが、折角救助した市民を奪い返されてはならぬと最後の気力を振り絞って決死の撤退戦を繰り広げた。
全員が満身創痍で、今にも殿の防衛線は崩れそうではあったが、それでも何とか持ちこたえた。
「後は地上の皆が幽界樹を斃してくれるのを、期待するだけだね」
テスの言葉に、A班の面々は静かに頷き返す。
途中で合流したB班も、仲間達やクライスの顔を見てやっと生きた心地がした様子を示していた。
最後に、【雷鎚】や【パン屋】とその窮地を救った四人とも合流し、ちょっとした一大勢力となって救助市民の地上への搬送を一気に推し進めてゆく。
「あっ、見えましたよ。愛しの太陽様」
「全員は無理だったけど、最低限の仕事は果たせたってところかしら」
喜ぶレイヤの隣りで、ロゼットは神妙な面持ちで背後を振り返る。
後はもう、テスのいう様に地上の皆の頑張りに期待するしかない。
市内中央の地上付近では、幽界樹攻略戦が始まっているだろう。ルルトは不安げな表情で、ハルを見た。
きっと大丈夫――ハルは仲間を信じようと、静かに頷き返した。
【3】市外東部:旧東部方面軍駐屯地防衛、市民保護 前編
(担当マスター:おおくまねこ)
●
「頑張って下さい、もうじき休める場所に着きます」
Re✕は負傷した市民に肩を貸し、エスタル南門の近くに設置された幾つかのゲルへと急いでいた。ここは【戦誼】が持ち込んだゲルと帝国軍が用立てた医療物資を元に設置された中継地点である。自力で市民達の避難先となっている旧東部方面軍駐屯地まで移動できない重傷者を一時収容する為に使用されている。
「すまん、こいつの手当てを頼む!」
「はい、すぐにヒールをします」
城壁を乗り越え、南門から逃げた人々を追って来た黒いクリーパーと対峙していた帝国兵の言葉に頷き、ミィアはヒールをかけた。人々を守る。その戦いに寄り添い、支えたい――。その思いを胸に、ミィアは帝国兵の側についていた。下水道へ向かった授恵者達は回復手段なども揃えており、彼らに保護され送られてくる市民より、草人狩りや兵士の方にこそ重傷者が多い。
「酷い怪我だ。だが必ず治してみせる」
ゲルにて。担ぎ込まれた重傷者を一か所に集めたシルヴィア・A・カペルは癒しのオーラを体外へと放出し、一気に複数の負傷者を治癒した。
「ここは……?」
「ヒーリングオーラだ。もう大丈夫だよ」
シルヴィアは優しく微笑んだ。
「フフフ、ボクも負けていられませんねえ! さあ、皆さん、ボクの近くへ!」
どこか楽しげに笑いながらギーゼラもヒーリングオーラを放ち、まとめて負傷者を癒す。
「サイラス、この人達を頼む」
「了解」
シルヴィアとギーゼラが治癒した人々を乗せ、サイラスは馬車を駆る。馬は帝国軍からの借り物で、負傷者を乗せ、駐屯地とこの中継地点の間の数百メートルを往復しているのだ。テレパスを使い、南門付近で哨戒している【戦誼】の仲間や、駐屯地と連絡の中継をする役目も負っている。
「カイン、けが人連れて来た。あとは頼む」
「了解した」
カイン・ステラに負傷者を引き渡し、サイラスはすぐ中継地点へと帰っていった。エスタルからはひっきりなしに負傷者が運び込まれてくる。ゆっくり挨拶する時間も惜しいのだろう。
「みんな、もう大丈夫だ。温かい食事も作ってある。さあ食べてくれ」
「ほら、コーディアルだよ。甘いし、滋養強壮効果もある」
「一緒に干し肉のスープもどうぞ。みんな、大変だったね」
駐屯地にて、カイン、ヴィナス、ルーンス・ラグネル達【CA】は持ちこんだ鍋を使って炊き出しをしていた。コーディアルのお湯割りはとても甘く、滋養強壮効果も高い逸品だ。干し肉でダシを取り、醤油、塩、ハーブで味を調えたスープもなかなか好評である。
「無事でよかった。おじさん。俺達の事覚えてるか?」
カインが問いかけると、男は頷いた。
「ああ、あんた達は確か料理大会の時の……そうだ、焼きおにぎりはあるか?」
「すまん、今はないんだ。でも後できっとまた食べられるよ」
市民の言葉にカインは微笑む。カインとルーンスはエスタルの料理大会の優勝チームだ。市民たちにも顔が知られている。【CA】の周りにはすぐに人だかりができた。
「くんくん。とてもいい匂いですね。私ももらっていいですか?」
「あ、君もここにいたのか、ティカ」
ルーンスはおわんを持って近づいてきた見覚えのあるエルフに手を上げて挨拶をした。ティカは負傷者の手当てや運び込みに協力しているようだ。
「息子だと思っていたのに……どうしてあたしはあんなバケモノを……」
「そうか……辛かったんだな」
エスタル市民とは面識の薄いヴィナスは穏やかに彼らに話しかけ、彼らの言葉に耳を傾けることに努めた。
「骨にヒビが入ってる。あっちのテントに向かって」
「君は軽傷だから、自分で手当てして」
「ティカ! この人は手伝ってくれるそうだよ!」
ファム=ゴートは言葉少なながらもてきぱきと市民に面談し、適切に振り分けていた。魔法で全部片付くのなら話は早いのだが、今回の事件の規模だととてもそうはいかない。傷は癒えても、精神的な疲れや気力の欠如も立派な症状だ。医学の知識を豊富に持つファムは大忙しだった。
「よし、こっちも着火完了」
クラリス=ミシェは駐屯地のあちこちに生活魔法でたき火を起こして回り、避難民たちの環境整備に尽力していた。
「はい、お人形よ。可愛がってあげて」
クラリスはお手製の人形を一人で泣いていた小さな少女に手渡した。すると少女は人形を持ったまま、クラリスの側でぼうっとしていた。
「……」
「お人形作り、手伝ってくれる?」
「うん」
クラリスの言葉に、少女はコクリと頷いた。
「この世の終わりじゃ……」
「家族も、住む家も全て失ってしまった……いや、目を逸らしていただけで、もうとっくに全部なくしてたのかも……」
「草人狩り達は正しかった……、では、夢の女神さまは俺達を見捨てたのか?」
無事に破滅の時を生き延びたエスタル市民達だったが、その表情は暗い。家族だと信じていた草人達が、その姿だけを模倣した悍ましい化け物だったという事実は、多くの市民を打ちのめした。
「みんな、そのままでいい。少しアタイの話を聞いてくれ」
ルチル・プルメリア・グレイハーツのとてつもなく大きな声が駐屯地に響き渡る。
「昨日の隣人が敵に、慣れ親しんだ土地が戦場と化し受け入れきれない者も多いだろう」
ただサウンドボマーを使っているだけではない。間の置き方などが完璧に計算された演説だった。絶望して俯いていた市民達が、一人また一人と彼女の話を聞きにテントから顔を出す。
「――しかし君達は生きているじゃないか。今一度同じ立場に立たされた隣人のために力を使ってみないかい?」
また、あるテントの中では。
「大切なことは、恐怖と不安を吐き出してしまう事です。怖いものは怖いのです、不安なものは不安です。それを認め、皆で出来る事をしましょう」
グレイブ・ヤードは優しく諭すように市民たちに言い聞かせた。穏やかな口調だったが、はっきりと耳に残る不思議な声だ。演説の技術もさることながら、備わった王気によるところも大きいだろう。
「必要なのは力よりも、どう感情に寄り添い、それに向き合うかです。その中で出来る事の方向性を作りましょう」
「俺達も何か手伝わせてくれ……」
ルチルやグレイブの言葉が胸に響いたのか、生ける屍同然だった市民達の間には、次第に活気が戻り始めた。
「夢の女神が言っていた……俺達全員を祝福すると……もしかして、この惨状が『祝福』なのか?」
「女神がエスタルを滅ぼそうとしたのか? 草人達が正体を現して暴れたのも、全部女神の仕業なのか?」
「……だが、女神は地下での日々、俺達を助けてくれた。あの導きが無ければ、皆死んでいるぞ」
次第に落ち着いてきた市民達が話す「夢の女神」の噂話に、ヴィナスは静かに耳を傾けていた。どうやら市民達は、今朝久しぶりに例の女神の夢を見たらしい。そして今日、地下にあった幽界樹が覚醒した。この状況が示す、夢の女神の正体とは恐らく……。
(夢の女神……胡散臭いとは思っていたが……)
栗鼠の分身を通じ、市民の会話を盗み聞いたルチルは目を細めた。
「市民たちよ、我ら帝国軍が必ずや守ってみせる!」
レイウェスト皇子の声を使い、物陰に隠れたままサラは市民たちに呼びかけた。あの皇子の声を聞いたなら、安心感を得られると思ったのだ。
「今の声、誰だ?」
「帝国の貴族とかじゃないか? 誰か偉い人が来てくれたのかもしれないな」
(あれ、レイウェスト皇子ってエスタルではあんまり知名度高くない? そっか、ここの人達は帝国崩壊後ずっと孤立していたから……)
サラは気持ちを切り替え、捜波で駐屯地に敵が近づいてこないかを警戒し続けた。
●
「ここまでか……! あと少しで駐屯地なのに……!」
「お待ちなさい! 私! リリリリスが居る限り、皆さまには指一本触れさせませんわ!!」
勇ましい台詞と共に市民を誘導してきた草人狩りのカバリングに入ったリリリリスは、猿人型クリーパーに足首を掴まれた。クリーパーは彼女の足首を掴んで持ち上げ、びったんびったんと力任せに何度も地面に叩きつける。
「ああ、お姉さん!? 俺の代わりに犠牲に……!?」
「とっとと死ね太郎よりぬるい攻撃ですわ、物足りませんわ!」
「俺や仲間達が南門の近くで哨戒する。テレパスで仲間と情報を共有するから、門から出てきた敵の対処や、市民の回収で共闘してほしい」
海神・江流は帝国兵にそう告げると、クリーパーの動きを観測する為、ホライゾナルジャンプで木の上に移動した。
(ガルシアさん、そっちに行ったぞ! 昆虫型の小さいのが四体だ!)
(承知しました!)
江流からのテレパスを受け取ったガルシアは刀を振り上げ、警告があった方向へと突進した。
「はっ!」
鋭撃を叩き込み、一体を一撃で仕留めるガルシア。だが数が多い。ガルシアは残る三体に囲まれ、必死にクリーパーの猛攻に耐えていた。
「またクリーパーが……!」
黒いクリーパーが南門から単独で逃げようとしている市民を追いかけてきたのを発見したルベア・ベルニはホライゾナルジャンプで割り込み、市民を抱え上げた。クリーパーがギチギチと不気味な音を立てて触腕を振るうが、その時には既にルベアは市民と共に疾風足で離脱していた。
「この人をお願い」
帝国兵に市民を引き渡し、ルベアは敵と対峙する。短剣で脛撃を叩き込むと、クリーパーの体が僅かに揺れた。
「ルベア様、加勢します!」
小型クリーパーを仕留めたガルシアはルベアと並び立ち、クリーパーに破脚砕を叩き込んだ。
「奴らに追いつかれる前にさっさと逃げろ!」
「さあ、急ぐアル。兵隊さん、重傷者と走れないお年寄りはあっちに運ぶアルよ」
ロドリック・アルカインと牛・奶は南門付近で草人狩りや市民を送り出す役を買って出ている。エスタルを脱出しようとする市民と護衛する草人狩りを追いかけて来るしつこい黒いクリーパー達を黙らせるのが主な役割だ。
「黒いクリーパーが付いてきてる。足止めを頼む!」
帝国兵の警告の直後、南門から姿を現したのは黒いサソリのクリーパーだった。
「邪魔をするな!」
ロドリックはアーケインテンペストを放つ。稲妻がクリーパーの脚に絡みつき、目に見えて動きが鈍くなった。直後、魔法の追撃を受けた黒い装甲が様相を変えるが、奶が槍の一撃を叩き込み、サソリの額を抉って仕留めた。
「急ぐアル」
奶は遠ざかっていく市民らの背を横目で見守る。すると、また似たような姿の黒いクリーパー達がぞろぞろと街の中から這い出て来た。だが、ロドリックがいた位置とは別の方向からフリーズボルトが飛来し、黒いサソリの一体の足を止めた。
「黒いクリーパー達は魔法と物理で交互に攻めるのが有効のようですね。ここは共闘しましょう」
加勢に現れたエイル・アーティライトは淡々と言った。
「異存ないアル。物理はワタシにお任せアル」
「断る理由はないな。討ち漏らしを防ぐためには手数も必要だ」
奶とロドリックは頷き、三人は黒いクリーパーに連携して対処を始めた。
「……よし。気合入れてこうぜ、ルブラ。ドジ踏んだらオレが助けてやるからよ」
「は、はい。頑張り、ます。エルヴィーラ氏……」
エルヴィーラ・レイセンの言葉にルブラ・ソンジュはおっかなびっくり返答した。二人はパンクリアース学園学生寮の【同室一年】コンビだ。
「拙者は捜波で索敵しつつ、後ろからデバフを撒いて妨害します……エルヴィーラ殿は拙者の盾役をお願いします……」
「おう。任せとけ。オレも耳でクリーパー共の気配を探ってみる」
「帝国兵、発見! ヒールをかけまする……!」
「来やがれ、怪物!」
市民らの誘導をしていた帝国兵に駆け寄り、傷を癒すルブラ。エルヴィーラはクリーパーをシーザーロアで引き付け、衝撃刃を放つ。二人は帝国兵達と共にクリーパーと交戦を開始した。
「ぼっさん、お願いします。この方達を駐屯地へ……」
敵と間違われぬようにとルブラが描いた絵を背中に貼った猪に先導され、市民たちは駐屯地へと逃げていった。
「クリーパーがここに接近しています! 数は五体!」
「分かりました! 私が足止めします!」
駐屯地の防衛に当たっていた帝国兵の警告を聞き、ヴィルヘルミナは持っていた土木作業用のシャベルを放り出し、クリーパーへと突進していった。
「ここから先は通しません」
ヴィルヘルミナの全身から殺気が迸り、殺界を形成する。足止めされたクリーパーがたたらを踏んでいる隙に帝国兵の授恵者達が集中砲火を浴びせ、クリーパー達を仕留めた。
「マーシュ、あそこだ! 黒いクリーパーがいる!」
「沢山の人の無事のため、全力で守ります!」
超視覚で避難ルートへと近づいてくるクリーパーの姿を捉えたライナ・フレイヴァルツはフロマーシュ・ダイヤドロップと共に走り出していた。
「いました!」
そこにいたのは、黒い外殻を装甲のように纏った、人狼のような姿の黒いクリーパーだ。
「グルルルル!」
「みんなを守ります!」
フロマーシュは市民や草人狩りとクリーパーの間に突進し、身を挺して庇う。激しく左右の爪を突き立てられ、鎧に穴が穿たれるが、重点硬化したフロマーシュは攻撃を弾き返し、ダイヤモンドの如き輝きを浴びせた。その輝きに誘引され、黒いクリーパーはフロマーシュに執着し始める。
「よし、これで……!」
フロマーシュは黒いクリーパーへと大剣を一閃した。すると、ヒビが入った黒い外殻が突然様相を変えた。
「変わったか。しかし!」
直後にライナの放った綺羅星の如く輝く魔弾が直撃し、黒いクリーパーの装甲に穴が空いた。すると、黒い外殻はまた様相を変え、最初と同じ姿に戻った。
「ギルドの情報通りだ。マーシュ! 私と交互に攻撃しよう!」
「了解です!」
フロマーシュとライナは交互に攻撃を浴びせる。敵の特徴を掴んだ二人の連携により、装甲ごと核を貫かれたクリーパーは塵となった。
「エスタルの人達は傷つけさせません!」
「黒いクリーパーが相手だろうと、私達の光で塗り潰すだけだ!」
「黒いクリーパーだ。ウォーゼル。迎撃するぞ!」
超聴覚で大きめの黒いクリーパーの接近を察知した【豹狼】のパルドは幼馴染のウォーゼルに声をかけ、門へと急いだ。すると、人間大の蜘蛛のような黒いクリーパーが城壁にへばりついているのが見えた。
「降りてくる前に削ろう、パルド!」
ウォーゼルがクリーパーの背中に魔矢を撃ちこんだ。さらに畳みかけるように疾風足で距離を詰めたパルドの破脚砕が甲虫のような黒いクリーパーの下部を命中し、その動きを鈍らせる。蜘蛛は二人を敵とみなしたのか、二人に向かって糸を吐きかけてきた。
「このまま誘導してクリーパーを門から引き離そう!」
「了解だ! ウォーゼル!」
【瑞雨】……ダムド・フィリス、カルフ・オルヴォ、そしてセオ・ウルジオの三人も帝国軍と連携し、南門付近で市民の救助のために動いている部隊の一つだ。
「あれは……!」
市外から避難ルートへと近づいてきている野生のクリーパーを発見したダムドは笛を吹き、周りにいた者達へとクリーパー接近を知らせた。ダンゴムシのような姿の小型クリーパー達が、ゴロゴロとこちらに向かって転がってくる。
「クリーパーだ! オレたちで追い払うから、アンタ達は市民を急いで逃がしてくれ!」
「かたじけない!」
背後の守りをダムド達に任せ、帝国兵は市民らを急がせた。
「カフ……!」
笛の音を聞いて戻って来たセオはセイントスラストを叩きつけた。その一撃でクリーパーの一体がバラバラに吹き飛んだ。
「うおおおおおっ!」
カルフは雄叫びと共に小型クリーパーへとドラゴンチャリオッツを叩きつける。不意を打たれたクリーパーは勢いよく吹っ飛んでいった。
「おお、やった!」
帝国兵が喝采を上げる。
「まだ仕留め切れてねえ! 多分すぐ戻ってくるぞ! 今の内に急げ!」
「みんなを守らないといけないよ」
【星座】のリルディライラ・アステールはペットの狼の頭を撫でながら言い聞かせる。彼女の役割は一座の『目』だ。エーテルリンクした彼女の狼は、市民らを誘導する一座に先行し索敵するのが仕事である。
「がんばるんだよ、いいこいいこ」
主人に頭を撫でられた狼は、駐屯地へ向いて走っていった。少し進んだところで足を止め、耳を立てる。
「クリーパーの群れよ! みんな注意して!」
狼の視線の先へ捜波をうち、クリーパーの接近を察知したパドは大声で仲間達に危機を知らせた。コウモリ型のクリーパーが群れとなり、駐屯地を目指して飛んできている。パド達は群れが避難中の市民に襲い掛かる前に駆逐するべく、打って出た。
(避難ルートに野生のクリーパー接近中。手の空いている人、加勢に来て)
シファーはテレパスを発し、近くにいる冒険者に呼びかけた。自身も魔矢を放ち、クリーパーを撃ち落としていく。
「さ、早く終わらせましょ。留守組がおいしいごはん作って待っててくれてるわ」
アルカディアが杖を一振りすると、光弾の雨が放たれ、小型クリーパーの群れがまとめて消し飛んだ。だが後方集団は未だ健在だ。クリーパー達が大きく口を開くと、メテオライトによく似た赤い光の雨が広範囲に降り注いだ。まだ背後には、逃げきれていない市民達がいる。
「市民の皆さん! 安心して逃げられよ! なに、うちの座員たちは強いからな!」
ブレイズ・アステールは大きな声で市民たちを励ましつつ、その身を盾にして市民の退避を促した。光弾を浴び、ブレイズの体に激痛が走るが、ブレイズは自らにヒールをかけて傷を癒して対処する。クリーパー達はブレイズの頭部に纏わりつき、トドメを刺そうとした。
「オラァ!」
その時、飛びこんできたレオネベルが横合いから盾でコウモリの一体を殴りつけた。コウモリが吹き飛んでいったその隙にブレイズは態勢を立て直し、仲間達と陣形を整える。
「ありがとう助かった! このコウモリの相手は俺達がする! 君はその人達を頼む!」
「分かった!」
ブレイズの言葉にレオネベルは迷わず市民の方へと走り、彼らを先導して駐屯地へと走る。震えている子供もいたので、優しくその手を握った。
「怖いかもしれねぇがオレたちがついてる。帝国の人たちもな」
【3】市外東部:旧東部方面軍駐屯地防衛、市民保護 後編
(担当マスター:真柄 葉)
避難民救助と戦線維持を並行して行う為、リカルダ=C=アーレンス率いる帝国軍は駐屯地西側へと布陣した。
「この地を死守する! エスタルの為! 帝国臣民の為! 気張れよ、お前達!!」
リカルダの鼓舞に、帝国軍兵士達の鬨の声が上がる。
そんな大音声を聞きながら――。
「……やはり嫌な予感がする」
「どうしたのお姉ちゃん」
遥か帝都へ視線を向けるベルク・オスマットにヤウズ・オスマットが問いかける。
「無駄に終わろうが構わん、我等は帝都の方に陣取るとしよう」
「帝都の方って……もっと西の方? わわ、待ってお姉ちゃん」
突然、戦場を離れ駆け出したベルクを、ヤウズが慌てて追いかける。
ベルクの胸には一抹の不安が去来する。
――幽界樹が帝都から派生したものである以上、その幽界樹と繋がりがあると目される夢の女神とは一体何なのか。我の予想が正しければ、それはあの……。
「杞憂であればいい。だが、もし現実であれば……」
ベルク達は更に西へ走る。帝都から来る不測の敵『イダ派』の介入を警戒して――。
●
駐屯地西側には、エスタルから逃げてきた市民達を追って黒いクリーパー達が現れた。
「き、来ました!」
【超聴覚】でその動向をいち早く察知したララノアが声を上げる。
それに合わせ投げ上げられた、閃光塗弾が空中で弾けた。
「これで伝わったはずよ」
馬に曳かせた馬車に乗り、戦場へ一番乗りしたエミリア・シバ達【風花】の面々。
事前に周知してあった閃光塗弾の合図で、戦端が開かれた事を他の仲間達も知るだろう。
「住民の方々の安全を、確保しなくては……!」
馬車の上から、【超視覚】で敵を探るラティア・ミゼリア。
黒のクリーパーの標的は逃げる住民達だ。草人狩りが護っているとはいえ、急がなければ危険な事には変わりない。
「飛ばすわ。掴まって!」
エミリアがすぐさま馬に鞭を入れ、【風花】の三人はクリーパーへ肉薄する。
「先制、行きます……!」
ラティアの【攪乱射撃】が住民を追う敵へ浴びせられた。
「私も、負けずに、戦います!」
同じ標的をララノアの【魔矢】が撃ち抜く。
三人は黒いクリーパーの特性をよく理解し、物理・魔法織り交ぜた連携により、黒のクリーパーを倒した。
「っ! 他の場所でも、戦闘が、始まったみたい……です!」
ララノアが【超聴覚】で他所の音を拾い仲間に伝える。
「まだ黒のクリーパーが出てくるわ。このまま警戒を続けましょう」
エミリアは馬車の上から住民達に避難先を示すと、再び馬に鞭を打った。
帝国軍の守備隊と協力し、バクル・バスリー、スィーリーンの両名は戦線を維持する。
「草人……クリーパーでも、ヒトに害を為さないなら信じてみたかったのですけれど……」
「どうかしたの、スィーリーンさん?」
「すみません、なんでもありません。感傷的になっている暇はありませんね」
二人は抜けてきた黒クリーパーに対し、スィーリーンの魔法で先制、バクルの闘気槌で粉砕と、見事な連携を見せていた。
「僕達がここにいる限り、避難民の人達には手出しさせないよ!」
バクルはシーザーロアで城壁を越えて現れた中型の注意を惹く。
そんなバクルの後方では、リリアンが小型クリーパーを受け持っていた。
「ボクだって、やれるんだ……!」
未熟を自覚するリリアンは、バクル達や帝国軍との連携を重視し、自らが立ち向かえる相手を確実に倒していた。
それが更なる連携の強化に繋がっている事をリリアンはまだ気づいていないが、スィーリーンの魔法、バクルの範囲攻撃、そして、リリアンの単体攻撃。この連携が確実に黒のクリーパーの弱点をついた。
「現状を維持できれば、押し返せるよ! 攻めすぎず、敵を深く誘い込んで確実に数を減らそう!」
バクルの声に頷いた二人。三人は即席ながらも見事な連携で敵を確実に減らしていった。
「このクリーパー達は幽界樹に惹かれて出現したのだろう。ここを抜かれ街に入り込まれると厄介なのだ」
そして彼らと共に戦線を維持するストレガ・L・リベルガストラが、クリーパーの小集団へ向け広域魔法を撃ち分ける。帝国兵が追撃を与え、手負いのクリーパーを討ち取った。
「敵の数は少ない! このまま戦線を維持するぞ!」
戦線の状況を見て、リカルダが号令をかける。
駐屯地とエスタル市の間の守りは、冒険者達の助けを借り盤石となりつつあった――。
●
「土煙! やっぱり来た」
その頃、駐屯地の外に広がる荒野を愛馬『コバルデ』と共に駆けるアリオン・リューが、別の敵の気配に気付いた。
広範囲を索敵する為、愛馬を走らせていたのが功を奏し、真っ先に敵を察知したアリオンは角笛を鳴らし味方へと敵襲来を伝える。
「他の方面からも来ているかもしれない。コバルデ行くよ!」
愛馬に声をかけると、手綱を引き鼻先を東に向けた――。
ピクリと赤い耳が動いた。
「敵発見の合図が来た。行ってくるね!」
「待ってください、僕も行きます!」
角笛の音を聞いたクレア・エクレールとナハト・シュライバーが【金糸雀】の仲間達にそう言い残すと、駐屯地の柵を越え荒野に飛び出す。
荒野を駆けながら、ナハトが【ホークアイ】と【超視覚】で索敵しつつ合図のあった場所へと急行すると、濛々と立ち上がる土煙が見えた。二人はすぐさま【捜波】を放ち、その正確な数をマークする。
「多い……でも、この程度なら!」
「待ってくださいっ! 一匹大きいのが混じっています!」
土煙の中に巨影を見つけたナハトが声を上げた。クリーパーが自ら集団をつくる事は余りない。この大型の存在に釣られてより小さい個体が何となく集まったのだろう。
「大きいの……って、大型まで居るの!?」
「はい。すぐに本隊へ伝えましょう。帝国の者として民を脅かす存在を放ってはおけません」
そのまま敵の動向を探るナハトに代わり、クレアはすぐにテレパスで仲間達へ状況を伝えた――。
時を同じくして、大型の存在を捉えたパーティーがあった。
アリオンの合図を聞き、駐屯地の北側を警戒していた【野戦】の面々が動き出す。
「ほほぅ、巨人ばかりに目が行くが取り巻きもなかなかではないか」
敵が見える位置へと先着した夕霧が敵の陣容を即座に【捜波】で確認。テレパスにてエルケ・シャルフへと情報を送った。
「結構多いのね。これはむやみに突っ込むと痛い目見るわ。――さぁ、作戦立案任せたわよ」
夕霧からの情報を受けたエルケは、すぐに飯塚・麦穂へとテレパスを繋ぐ――。
そして、もう一隊、大型発見の報を聞いて動く隊があった。
「――戦局、動いたみたいです!」
「……よし」
他の隊の動きを察知したシャルロット・エクレールが、指揮を執るエイル・ビュセファスへ情報を伝える。
「おっ、ついに出番さぁ!」
「ああ、戦機だ。他の隊と協力し、敵主力を一気に叩く。合図し次第、奔れフリュー」
「おうさぁ!」
「シャル、他の隊の攻撃に合わせ、ありったけをぶち込め」
「はい、任せてください!」
エイルの指示にフリューリングスルフト=ティエラとシャルロットは力強く頷く。
「よし、行くぞ!」
エイルはサウンドボマーを響かせ強敵出現の報と参戦の意を味方に伝えると、駐屯地を飛び出した――。
●
各所で響くサウンドボマーや楽器の爆音に引き寄せられるように、バラバラに行動していたクリーパーが向きを変え、大きな塊を形成していく。味方側の動きによって、それまでの散発的な襲撃が大集団の攻撃に変わったのは誰が意図したものでもないが、戦場の様相は大きく変わった。
「南から【野戦】。東から【赤翼】。そして、西は我々だ」
クレアからのテレパスを受け取ったローザリカ・L・ディオールが、ジュスト・ヴェルジーへ伝える。
「出来れば駐屯地に近づく前に何とかしたいな」
ジュストは持ち前の【戦術眼】を駆使し、戦場を分析。ローザリカ経由で伝えられる敵の情報を組み込み、迎撃作戦を練り上げる。
「アンネエルカ嬢、ミレイユ、ここだ。この場所で仕掛ける」
顔を寄せてくる頼もしき二人の前衛に、ジュストは迎撃ポイントの指示を出した。
「他の隊の参謀クラスも必ず気付く。ロゼ、クレア嬢達にも作戦の共有を」
ジュストの指示に頷いたローザリカが、クレアとのチャンネルを再び開く――。
「……リヒャルトさん、進路は割り出せそう?」
斥候組から得た情報の精度をさらに上げる為、麦穂は兵舎の屋根から超視覚にて戦場全体を見るリヒャルトに声をかけた。
「――大型は真っ直ぐこちらに向かってきているね。他の陣営のボマーには惹かれていない」
戦場を俯瞰するリヒャルトから、正確な敵の動き、距離、数の報告を逐一受けつつ、麦穂とハリスが作戦を組み上げていく。
「他の隊も気付いている事でしょう。ならば挟撃が叶う。狙うはこの一点!」
「うん、そうだね。それじゃ、各隊へ連絡を取りに行ってくるよ」
ハリス・アル・ターミルの示した作戦に賛同した麦穂は、他の隊の元へ駆けていった。
●
爆音に惹かれ寄ってきたクリーパーを【金糸雀】【赤翼】の二隊がそれぞれ対応に当たった。
西進する一団に当たる【金糸雀】。
「何処を見ているんだ。君達の相手はここに居るぞ!」
けたたましい管楽器の音に続きローザリカの声の爆音二連発がぶちかまされた。
「ロゼ、ナイスだ! このまま各個撃破しつつ、大型の後背に回る!」
【金糸雀】はジュストの指示の元、巨人から出来るだけ戦力を引き剥がしつつ、ゆっくりと戦場を迂回する。
「雑魚を相手に時間はかけていられん。焼き尽くせ、シャル」
「任せてよっ!」
東進する一団へは【赤翼】が。エイルが二人に祝福をかけると、数的不利をものともせず、敵を切り崩し大型の後背を目指す。
爆音に惹かれていく小型クリーパーとは対照的に、巨人は一直線に駐屯地へ迫る。
「ここで食い止める。続け」
【野戦】が誇る前衛ゴブリアが先陣を切り、巨人の前へと躍り出た。
続くのは同じく前衛のハリス。そして、すぐ後ろにはエリザ・A・ミシャールと前線補助のフェイサル・セイフ、トゥーリが控え、後衛のヴィノニスが後ろに続く。
斥候を担っていたエルケ、夕霧が遊撃に回り、リヒャルトの眼を活かして麦穂が全体指揮を執る。
【野戦】は一丸となって、巨人を迎え撃つ。
「トゥーリ殿、景気付けをお願いします。貴殿の祝福を我等に!」
「まっかせてよっ! それじゃ、行くよっ」
ハリスの要請を受けたトゥーリが、仲間達へ祝福を施したのを合図に、戦端が切って開かれた。
初撃はゴブリアのチャージングから始まった。
ゴブリアは敵までの距離を一気に詰めると、その取り巻きごと【闘気槌】に巻き込んだ。
ゴブリアの攻撃に重ねるように、エリザが【炸光矢】を巨人の上半身へ浴びせる。
「っ! 反撃来るぞ! みんな、構えろ!」
しかし、巨人も黙ってはいない。けたたましい咆哮が辺りに木霊したかと思うと、巨大な拳を地面へと打ち付けた。
大地を揺らす衝撃波が冒険者達を襲う。
「癒しの光を」
しかし、エリザの気付きにより防御体勢をとった【野戦】の面々は、強烈な一撃を耐えて見せる。そして、フェイサルの回復がすぐに味方を回復した。
●
「ちっ、外れか」
「いや、当たりでしょ! ほら、行くよっ!」
巨人へと当たる味方の動きを見つめる【月陽】ゼラルム・エルホワイトとサニー・フォン・オルライト。
二人は主力が抜けた穴を補う様に、駐屯地の守備を担っていた。
集団を押さえる為に主力が出たのはいい。しかし、そればかりを見ていれば今まで通りに脇を抜けてくる小型に足元をすくわれる。現に、集団に合流せずに散発的に駐屯地へ向かってくるクリーパーがいる。その最後の防衛線は、帝国軍の一般人兵士と共に彼らが担っていた。
「足止めする。討ち漏らすなよ」
「それは君のサポート次第かなっ!」
そんなクリーパー達を、ゼラルムの魔法とサニーの斬撃の連携が確実に阻んでいく。
「大丈夫か! 無理せず下がってな!」
散発的に襲ってくるクリーパーを迎撃する帝国軍の中に、ディアンは居た。
一般兵が主力の部隊では、クリーパー相手に苦戦する事もあるだろうと、自ら護衛を買って出る。
ディアンの援護を受けて帝国軍は集団の強みを発揮していった。
「矢、放て! この後ろには一匹も通すな!」
「わかってる! こっから先へは行かせねぇよ!」
ディアンが一斉射撃を抜けてきたクリーパーへ、とどめの一撃を放った。
帝国兵達は体勢を立て直す時を得て、再び強固な防衛陣を作り出す。
●
一進一退の攻防が続く中、戦場の影に潜み、暗躍する者があった。
「ふふ……大きいだけじゃ使い物にはならないのよ」
ヴィノニスは味方の攻撃に合わせ、巨人に気付かれない位置からひたすらデバフをばらまく。
巨人はその攻撃力に加え、とてつもなくタフだった。
何度となく効果的な攻撃を当てているにもかかわらず、一向に弱る気配を見せない。行動を共にしているクリーパーの存在も厄介だ。
「しまっ……!」
「トゥーリ殿!!」
巨人の投げた岩がトゥーリを狙う。しかし、その動きに気付いていたハリスが割って入り、岩を盾で弾いた。
【野戦】の面々は、徐々に押されつつあった――。
「貴方のお相手は【野戦】の方々だけではありませんよ!」
そんな時だ、巨人の後方から勇ましい声が聞こえる。
声の主ミレイユ・ヴェルジーが盾を掲げ、巨人の眼前へと突っ込んだ。
そして、鋭く放たれた殺気が巨人の注意を惹きつける。
「ミレイユ、来い!」
巨人の執着を取り付けたミレイユに、兄ジュストが指示を出すと、彼女は一気に後退した。
巨人の標的が【野戦】から、【金糸雀】へと移る。
「間に合ったさぁ!」
そこへさらに第三の戦力が駆け付けた。
疾駆するフリューの一撃が、こっちも相手しろとばかりに巨人のわき腹へと突き刺さる。
「もう貴方は袋の鼠です! 観念しなさいっ!」
同時にシャルロットが放った火球が巨人の肌を焼き、周囲のクリーパーにも手傷を与えた。
「微力ながら加勢するぞ」
エイルが他の二隊の指揮官へ大声で現着を知らせ、ついに揃った三隊が巨人を囲む――。
『ルオォォォォォォォォッッ!!』
不利を悟ったのかそれとも逆か。巨人は巨大な咆哮を上げ、ミレイユへと向かった。
「ミレイユさん! 一緒に押さえましょう!」
太い腕を振り上げ突っ込んでくる巨人を前に、ミレイユの隣に立ったアンネエルカ。
二人で盾と槍を並べ、巨人の突進を待ち構えた。
――ドンッ!!
轟音と共に土煙が舞い上がる。
剛腕の一撃は、二人が掲げた盾や槍に当たるよりも前に、地面を打ちつけていた。
二人にダメージはない。そう、巨人が狙いを外したのだ。
「ようやく効いた。ほんと、タフ」
それはヴィノニスが絶え間なくかけ続けてきたデバフの効果だった。
すぐさま、別の魔法を撃つ体勢に入るヴィノニス。巨人の動きは、見るからに精彩を欠いている。
「ハリス殿、『機』だ。いくぞ」
「承知!」
その隙を逃すまいと飛び出したゴブリアとハリス。突撃で巨人の左右の足へ身体ごと盾をぶつけた。
両足への衝撃に巨体が傾ぐ。
好機とみたアンネエルカがチャージングで一気に巨人の前へと躍り出た。
「ロゼ!」
ジュストの合図を受け、ローザリカが【祈雷】の霧を呼ぶ。
「セイフさん!」
同時に、麦穂の合図を受けたフェイサルも、巨人の逃げ道を塞ぐように【祈雷】の霧を召喚した。
巨人と共に巻き込まれたクリーパーも霧の包囲から脱しようともがく中、アンネエルカが槍を振り上げると――。
「たとえこの身が砕かれようとも、貴方は絶対に逃がさないわ!」
【殺界】にその巨体と取り巻きを囲った。仲間たちの攻撃が飛び、小型や中型のクリーパー達が次々と倒れていく。
「さぁ、怒りに焼かれるがいい!」
「天の裁きをその身に受けよ!」
そして数秒後。移動を止められた巨人と取り巻きを、二人が召喚した無数の応雷が襲った。
一帯に焦げた臭いが充満する。今までに受けたダメージと合わせてとうとう限界を超えたのか、あれだけタフだった巨人が膝をついた。諸共に焼かれた取り巻きも、多くは絶命している。
「とどめだよ! みんな、お願いっ!」
麦穂の号令が響くと同時に、各隊から一斉に攻撃が巨人へ向かう。
【金糸雀】ナハトの重撃射とジュストの羽衣素馨矢が巨人の動きをさらに止め、クレアのタナトスバイトが巨人の腕を裂く。
【野戦】エリザが攪乱射撃で更に弱体化させると、ゴブリア、ハリスの強撃、トゥーリ、エルケの追撃が巨人を打つ。
【赤翼】シャルロットが残った魔法をありったけ吐き出し、巨人の少なくなった体力をごっそりと削ると――。
「トドメは赤翼一番風フリューが貰ったさぁ!!」
フリューが巨人の首元へとその刃を振り下ろした――。
●
大型クリーパー討伐の報はデイジー・ロックウェルによってリカルダ達に伝えられた。
「そうか、やってくれたか」
「はいっ、今は残った残党を片付けている所です」
「よし、こちらも掃討に入る。手を貸してもらえるか?」
「喜んでっ!」
デイジーを戦力に加えた帝国軍は、未だ散発的に現れる黒のクリーパー掃討に向けて動き出す。
最前線を維持するバクル、リリアン、スィーリーンの三名が城壁付近まで前線を上げ、エスタルから出てくるクリーパーに対峙する。
馬車で戦場を縦横無尽に駆けていた【風花】の三人は南門付近の冒険者達とも協力し、避難民救出と先制攻撃を担う。
後方支援に徹していたディアンとストレガも、前線を押し上げる一翼を担い、デイジーと共にクリーパーを確実に倒していった。やがて、城壁を越える黒クリーパーや、三々五々市外から向かって来る敵の発見報告がゆっくり数を減らしていく。そして、新手の姿が確認されなくなってからしばしの時を置いて。
「我々の勝利だ! 勝鬨を上げろ!!」
リカルダの号令に答えた帝国軍兵士達。そして、冒険者達が一斉に勝利の雄叫びを上げる。
天も衝かんばかりの大音声は、駐屯地、そしてエスタルをも揺らさんばかりに響き渡った――――。
【1】市内中央:地に潜みし幽界樹の撃破
(担当マスター:七海真砂)
ふわりと木蓮の香りを漂わせ、エデル=マグノリアは詠唱する。彼女が古き言葉と呼ぶ、その詠唱の意味を理解できる者は少なかったが、皆、不思議とエデルが紡ぐ言葉に鼓舞されていた。
「――さあ皆様、参りましょう」
「前は任せてください!」
頷いて進み出たのはフリーダ=ブロムヴィストら、前衛を担う面々だった。
幽界樹との間を塞ぐように蠢いている黒いクリーパーに向けて彼らが物理攻撃を叩き込むと、すぐさまグレイ・ナックラーらの魔法が飛んでいく。更に、セリオス・オーガストらの放つ矢が飛び、遠近両方からの攻撃が道を切り開いていていった。
後ろにはファーシル・クリスティアら癒し手達が続き、黒いクリーパーからの反撃で負った傷をすぐさま、癒しのエーテル光によって回復させていく。
「右側に下水道の出入口がある。気を付けて」
警告を発したのは、借りた下水道の地図を携えながらルートを確認していたサロだった。その傍らで五感を総動員しながら敵を警戒していたマトンが、いち早く出現した黒いクリーパー目掛けて、メテオライトを降らせる。
黒いクリーパーが地下――下水道から現れるのであれば、その出入口が記された地図が役立つかもしれないと、冒険者ギルドで借り受けてきたのは正解だったようだ。
「更に前方にもう一ヶ所、下水道の出入口があるよ」
「前――あそこか」
サロが示した方へ目を向けたサマエラ=フォリウムは、遠くに蠢く敵の姿を見付けると、すぐさま魔矢を飛ばして攻撃する。
距離があるうちに出来るだけの攻撃を放ち、痛手を負わせ、撃破する――消耗を避けながら幽界樹の元へ向かうには、それが一番だろうと考えたサマエラのような者達がいち早く反応し、迫って来る黒いクリーパーを次々と倒していく。
「この音……根が来ます!」
優れた聴覚で根の動きを察知したセラフィナ・M・ベイリーの呼びかけで、皆が一斉に足元を注視する。
そのおかげで真下からの不意打ちを避けると、反対にヴァンゲルス・ロッドが根を貫いて退けにかかった。
「根にもちゃんと効くらしいな」
肉体を蝕むエーテルをまとわせた一撃は、根の動きを鈍らせており、ヴァンゲルスはニッと笑って更に武器へエーテルによる光を籠める。
「魔法、いきます」
淡々と、しかし皆へ届くようにハッキリと、リコリス・アデュラリアは宣言しながらメテオライトを降り注がせた。
魔法と物理で交互に叩くのが有効なのであれば、声を掛け合って確実に攻撃を繰り出していくべきだろうと考えたからだ。
リコリスの呼びかけに、周囲の冒険者達がすぐに倣う。
「OK、物理いくよ」
弓を構えたアスティン・ヴェルラインがエーテルを収束させると、破壊力の増した矢を爆発的に鋭く射放った。
(偵察した感じだと、右の廃屋や瓦礫の辺りには敵が潜んでるみたいだから、不意打ちを避ける意味でも左寄りのルートで進んでいくのがいいと思う!)
(なるほど、ありがとう)
サフィラ・アズラク・ナハルハルアリーブからのテレパスに応えながら、ヘレン・ワーグナーは地下に広がる幽界樹の根の様子を確認していた。飛び出してくる根は無秩序のように見えて、その密集具合には差があるようだ。それならできるだけ、根の隙間が粗そうなルートで抜けられないかと考える。
「あそこは根が隆起しているようだから……しばらく中央を進んで、あの看板で脇に逸れるのはどうだろう?」
「クリーパーも少ないみたいです、いいと思いますよ!」
探知用のエーテルの波動を走らせながら、物陰の様子を確認したエフィルミアが頷き返すと、ヘレンはすぐさま敵の手薄そうなルートだと、皆にそれを知らせていく。
「こっちですね! 皆さん!」
リサ・ベイカーは足を止めて呼びかけると、皆のエーテルを増幅・上昇させていった。
蒼白い光を纏いながら「ありがとう」と告げたクーネさんを中心に据え、護るようにしながら、一行は更に先へ進む。
「ここは通しませんよ」
飛び出してきた根とクーネさんの間にコルネリウス・アーラが割り込み、その一撃を防げば、リディリディ・トゥラ・イェレミースのメテオライトが、根と眼前に迫る黒いクリーパーをまとめて貫く。
「よーっし、じゃあチクッといっちゃうぞー!」
リディリディの魔法攻撃に続けて、ガレナが赤光のエーテルを纏わせた短剣を突き刺して、黒いクリーパーの動きを妨害していく。そこを合流したサフィラがトリプルファングで切り裂いた。
「ハーヴィ、気をつけて」
耳を澄ませていたユズは、地中で蠢く根の微かな音を聞き分けると、ハーヴィの方に向かって告げた。同じようにその微かな音を聞き取ったハーヴィは、飛び出して来る根を跳び上がって回避すると、即座にストーンブラストを炸裂させる。
「突破しま……っととと!」
そんな根を多重に切り裂いたフリーダが、予期せぬ形で前方に突っ込んでいくのを仲間達が追いかける。
(伏兵……は、いないようですね)
周囲を確認したキリアン・フィッツジェラルドは、この勢いのままどんどん進んでいこうと、皆に敵の手薄かつ幽界樹へと近付きやすそうなルートを指示していく。走り続けるうちに現れた黒いクリーパーにエーテルを籠めて鋭く矢を放てば、目標地点で破裂したそれが衝撃波を撒き散らす。それなら、とナタリア・フィッツジェラルドの放つメテオライトが続いた。
「えへへっ、負けないよーっだ!」
その先から現れた黒いクリーパーからの攻撃の軌道を、ネロが瞬間的に見定めて回避行動を取る。
軽やかに舞うように動いたネロは、予備動作がほとんど無い、予測困難な一撃を繰り出して、黒いクリーパーを貫いた。
敵が繰り出してくる反撃を、エデルの祈りがもたらした淡く光る白花や、フェミナ・ノ・リビディーネが引き出した癒しの光で回復しながら、一行は幽界樹へと向けて迅速に駆け続けた。
黒いクリーパーからの奇襲が無いように備えながら進み、根の攻撃が少ないルートを考案し、できるだけ戦闘よりも移動を優先した事は移動時間の短縮にも繋がり、みるみる幽界樹が近付いて来る。
「向こう……太い根が少ない、みたい……根の攻撃が少ない、と、思う」
「じゃあ向こうから近付こう」
地中の根の広がり方とその太さを観察したエルは、根の偏りと、それによる攻撃の頻度について予測を立てていた。少しでも攻撃が少ないと思われる方向から、回り込んで幽界樹へと近付く。
「よし。ここまで来れば届くぞ」
皆のおかげで、息を乱すことなく幽界樹の傍まで辿り着いたクーネさんは、宝剣マフダルを構えると力を集中させ始めた。
膨大な量のエーテルが動いている事を、その場の誰もが感じ取る。
「クーネ様は攻撃させません!」
それに反応するかのように蠢いて迫る幽界樹の根を、ゲルダ・クラインが受け止める。すぐ近くにいるコルネリウスと頷き合ったゲルダは、クーネさんを挟み込むようにして構えると、四方八方から迫ってくる根からクーネさんを護衛する。
「黒いクリーパーが……!」
「すごい数ッス! そっちに行くッスよ!」
その時、近くの下水道の出入口を警戒していたサロとマトンから声が上がった。エーテルの動きに反応したのだろうか? 地下から多数の黒いクリーパーが現れ、幽界樹の方へ向かおうとしているではないか。
サロとマトンは物理と魔法が交互になるよう分担して攻撃を繰り出していたものの、二人だけで食い止められるような数では無く、やむなく皆の方へと下がって来る。
「来たわね」
警告を聞き、そんな敵の動きを予測していたアウレーリア・フォン・ネーベルベルクは、敵がクーネさんの方へ迫って来るなら、反対にそれを利用すればいいと、緋の鳥籠を発動させた。瞬間、檻のような炎が噴き出し、クリーパー達を拘束しにかかる。
リコリスもまたスタティックフィールドを発生させ、迫り来ようとする黒いクリーパー達の移動を阻害すると、そこにリディリディの放つメテオライトが襲い掛かった。
「敵の数が多くとも戦略は同じ――バランスを取ることに関しては、やはりGPの出番だろう」
続いて、落ち着き払った様子で進み出たのはハッタ・ムラムラだった。
その手が頭の白い毛の部分を指し示す。
そう、これすなわち物理攻撃のタイミング!
「次はこうだ」
その手が腕の黒い毛の部分を指し示す。
そう、これすなわち魔法攻撃のタイミング!
「これなら効率良く駆除できますね」
事前に知らされていたハッタの動きに合わせて、セラフィナが放ったストーンブラストが炸裂し、礫を飛び散らせながら黒いクリーパー達を攻撃していく。更にザスキアが殺気と共にエーテルを叩きつけ、一体、また一体と黒いクリーパーを自分に引き寄せていくことで、クーネさんの方へ向かうのを阻止していった。
「根も、来る……!」
探知用のエーテルを走らせていたエルが、精神を研ぎ澄ませて飛び出してきた根に矢を放つ。
根は真下からではなく、脇の方から回り込むようにして襲い掛かって来るが、それはコルネリウスによって食い止められる。彼女の負った傷は、すぐさまフェミナによって癒されていった。
「この動き方……」
その時、マリイ・パルティスが、蠢く根の物音についての違和感に気付く。周囲で蠢く根は複数あるが、一方向だけ――幽界樹がまさにそびえ立つ、その方向だけ、根の動く音がしない。
「ハヤトさん、分かりますか?」
「これは――そうか。本体が近すぎるんだ」
振り返ったマリイの言葉を受け、ハヤト=ガラン=ヴォルファングが幽界樹の方を見つめる。
巨大な幽界樹は地下では更に大きく広がっている。そして、根は更に太い根から枝のように生えて攻撃するようだ。幽界樹本体がスペースを埋めているせいで太い根が存在できない幽界樹の真下からは根が伸びて来ないのだろう。
(範囲は……五メートル、ってとこか?)
逆に言えば、幽界樹本体から五メートルの範囲は、根が真下から飛び出して来ることのない安全地帯のようなものだ。これを利用しない手は無いだろう。
「クーネ! もっと思いっきり近付け! その方が攻撃が届かなくなるはずだ!」
「突破口を作るのは任せてください!」
幽界樹本体を護ろうとするかのように動く根を、ゲルダがドラゴンチャリオッツで弾き飛ばした。すかさずエルゼリオ・レイノーラが祭刀を構えながら進み、幽界樹の元へ向かう道を確保する。
「クーネさん、こっちだよ」
「ありがとう」
導かれるように進んだクーネさんが再び宝剣マフダルを構えるのを見たエルゼリオ。そんなクーネさんと宝剣マフダルを淡い透明な光で包み、その攻撃力を強化していく。
その後ろに続いたレティシア・レインフィールは、祈りと共に光輝を放つ六角形の柱を作り出して、クーネさんを護る防壁と化した。
「これで脇から回り込んでくる根の攻撃も、しばらくの間、防ぐことができましょう」
「あとは向こうの黒いクリーパーですね」
なら、と振り返ったコルネリウスは流水を想い描きながら剣へエーテルを送り、不可視の花で檻を作りあげた。
「みんな、今のうちに狙って!」
範囲内にいた黒いクリーパーが次々と捕えられていく中、ガレナが更に肉体を蝕むエーテルをまとわせた短剣を振るって、更にその動きを妨害していく。
「リディさん!」
リサが放つ淡い透明な光で包み込まれたリディリディが頷きながら杖を振るうと、黒いクリーパー達の元にエーテルで精製された刃が出現する。次の瞬間、爆ぜたそれは、次々と敵達へ襲い掛かった。
「いっくよー!」
更にサフィラの闘気槌が黒いクリーパーを纏めて仕留めていく。それをこらえた敵にはキオルティスの魔矢が飛び、魔法攻撃に備えるように蠢いた所に向かって、フリーダが武器を一閃、強力な一撃を叩き込む。
その後ろから、更に進んできた黒いクリーパーが攻撃を繰り出してくるが、
「ハッ。この位の攻撃、なんてことないぜ!」
アルベルト・V・シュタールシュヴェーアトは輝くエーテルを収束させて盾に纏わせると、その防御性能を瞬間的に高めて攻撃を防ぐ。そんなアルベルトの後ろからセリオスが炸光矢を放って、敵を一気に飲み込んだ。
「まとめて物理に弱くするわ。狙って」
アウレーリアが頭上に呼び出した無数の小火球を、まるで流星群のようにクリーパーの群れ目掛けて撃ち下ろす。そこへ、ケン・Z・ブラッドリーが闘気槌を放ち、黒いクリーパー達を纏めて効率よく倒していく。
そんな風に戦う皆の姿を、クーネさんは静かに見つめていた。
(あの時よりも、成長している――)
分かたれし幽界樹との戦いから、僅か半年に満たない期間しか経っていない。だが、この短期間で皆が遂げた成長に、知らず笑みがこぼれる。
「皆、ありがとう――さあ、攻撃に転じる時が来たぞ――!」
ニッと笑ったクーネさんが地を蹴った。すかさずレティシアはエーテルの波動を開放し、クーネさん達のエーテルを増幅させていく。
蒼白い光を全身より立ち登らせながら、クーネさんは軽い助走と共に、宝剣マフダルを無造作に振るう。下から上へ、一直線に振るわれた剣筋に沿ってエーテルが迸り、まるで光のような軌跡と化して……。
幽界樹を斬った。
その瞬間、タケノコのような形をした黒い装甲が大きく裂けた。外皮がめくれるかのように削り取られて、その内側で守られていた幽界樹本来の色が露出する。
「クーネさんのバトンは受けとったわ」
真っ先に動いたのはミツキ・アインホルンだった。超高速で天地のエーテルをかき集めて魔法力を高めたミツキは、更に呪法強化した魔錆を撃ち放つ。
「やってくれるって信じてたぞ!」
『燦めく剣閃』アステルが、それに続いて二刀流による三段連撃を叩き込んだ。外殻が裂け、更に脆くなった幽界樹には確かに三つの傷が刻まれ、そこから黒い体液が飛び散っていく。
「攻撃が通ってる! 今だよ、魔法を!」
「ああ! 今こそ……」
「エスタルを解放するんだ!」
【黒猫】のアステルがクーネさんをカバーするように動きながら呼びかけた言葉に、エスタル冒険者ギルドの選抜メンバー達のうち、魔法を得意とする者達が一斉に攻撃を放つ。
エスタルの崩壊を目の当たりにした、あの日。
地下に潜り、何とか生き延びてきた日々。
地上での暮らしを、取り戻したあの日。
そして、草人という名のクリーパーに抗うべく、密かに活動してきた日々……。
彼らの胸に去来する思いは様々だったかもしれない。けれど、その元凶たる幽界樹をここで必ず倒してみせるという意気込みは、全員に共通している。
「あれは、枝か?」
幽界樹をよく観察していたペルゼィックは、クーネさんの攻撃を喰らって大きく裂けた部分に、枝のようなものが生え出している事に気付いた。かつての幽界樹や、幽界樹の仔と同様であれば、あの枝は何らかの攻撃手段に繋がっているに違いない。
(黒い霧も漂っているようだが……濃度が薄いせいか、ほとんど気にならないな。残る外殻も色が茶色に変わっている。それに――)
傷口から飛び散った体液の方が、嫌な感じがすると、ペルゼィックは直感していた。あれは極力浴びないように動いた方が良さそうだ。
「なるほど。――弓なら丁度良いな。外殻の色の変化も気になるが……」
そんなペルゼィックの情報に頷いたセリオスは、目を凝らして狙いを定めると、幽界樹の中心目掛けてバスターアローを撃ち放った。
「次は魔法だ!」
すかさずイズル・M・ヴォルゴールがテレパスを飛ばしながら声を張り上げる。度重なる攻撃に、幽界樹はありったけの根を蠢かせて冒険者達を襲い、更には枝を伸ばして至近距離にある者達を刺突してくるが、その物音に負けじと波状攻撃の指示を飛ばして、幽界樹の早期撃破を目指す。
「そうか。残る外殻も強度は落ちているな。物理と魔法への耐性変化も消えた――か?」
幾つもの攻撃が幽界樹へ飛ぶ中、ペルゼィックが声をあげた。黒色から茶色へ変色した外殻はまだ硬いが、エフィミア・リリックの大魔法にも耐えた強固さはもう見られない。受けた攻撃が物理か魔法かで耐性を偏らせる様子も無くなっていた。
「派手に暴れ回っているようだが、そいつもここまでよ」
ヴァンゲルスは、そんな幽界樹の動きを鈍らせるべく、肉体を蝕むエーテルをまとわせた暗針を打ち込む。
まるで脈打つように震えた幽界樹は、突き刺す枝の矛先を鈍らせていく。その間にファーシルが光輝くエーテルの波動を放ち、周囲の皆の傷を癒して、更なる戦いに備える為の力とする。
「師匠、行きましょう!」
「わかった。ボク、敵の守り、弱める――狙って」
「はい!」
ハーヴィの言葉に頷き返したユズは、呪法強化したマジックディソナンスで幽界樹の弱体化を図る。すかさず、ハーヴィ渾身の魔弾が炸裂し、被弾した幽界樹がぐらりと揺れた。
「一気に畳みかけるよ!」
「いっくぞー!!」
そこへ、二人のアステルが、続けざまに威力を重視した強力な一撃と三段連撃を叩き込んだ。脆くなった外殻に傷が刻まれ、刃が幽界樹の本体へと達する。飛び散った幽界樹の黒い体液を浴びた瞬間、体が重くなったような感覚に眉を顰めた二人だったが、力を振り絞って次の攻撃を繰り出す。
「いくぜぇ!」
唸る声と共に、パヴェル・A・サムルガチェフの周囲から迸った無数の光弾が幽界樹へと降り注ぐ。その光を追うように、幽界樹への距離を詰めたのはナキルだった。
(クーネが斬ったのは幽界樹の中央。そこに重なった皆の攻撃を考えると……狙いは、あそこだ!)
最も強烈な一撃であるクーネさんの攻撃は、幽界樹を大きく傷付けたはずだ。
外殻も本来の樹皮も失ったそこへ、更に重なった皆の攻撃――傷に傷が重なって、脆くなっているであろうその箇所に必殺の一撃を叩き込む機会を、ナキルは窺い続けていた。
それが、今だ。
「さあ――テメェもオレの武勇伝にしてやるぜ!」
全身全霊を込めた一閃に、幽界樹が大きく震えた。
幽界樹は哭かない。だがまるで悲鳴を上げて叫ぶかのように、茶色い胴体がミシミシと激しく軋んだ。
「効いているみたいですね。なら!」
更に、その傷口を抉るかのように、エフィルミアが魔矢を飛ばしてダメージを重ねていく。そこへイズルが戦槌を握り、予備動作をとても小さくした一撃を叩き込んだ。
「弱い部分をどんどん狙っていこう」
呼びかけるイズルの言葉に、エスタル冒険者ギルドの選抜メンバー達も続く。
そんな中、キリアンはハーツベインショットを放った。矢に纏わせたエーテルは幽界樹にまとわりつき、強烈に蝕んでゆく。
もがくように荒れ狂う幽界樹の根が、次々と真下から、あるいは斜めに伸びてくるが、そんな皆へのダメージをナタリアがハイパーヒーリングオーラで一気に癒していく。
「このまま追い詰めるわよ」
高速多段式超魔法を用意していたアウレーリアがここがチャンスだと魔弾を叩き込み、その脇を、ナハティガル=ラーが一気に駆けた。エアーライドで跳躍すると剣を突き立て、幽界樹そのものに取り付く。
「さて、先端が脆いと読んだが」
そのまま一気に幽界樹の上まで登りきったナハティガルは、上から下に向かって強力な一撃を振り下ろす。その動きに呼応するように、ネロのトリプルファングが重なって、次々と切り裂いた。
「なら次は、わしの番じゃな」
そこにグレイが前衛を避けて巨大な炎弾を放ち、爆風と共に爆炎で幽界樹の上部を薙ぎ払う。
どんどんダメージを重ねようと、エスタル冒険者ギルドの選抜メンバー達にも声をかけて促し、次々と攻撃を繰り出していく。幽界樹の外殻があちこちで剥がれ、抉られた樹皮の下から黒い樹液が飛んだ。
「正念場ね。サポートするわ」
彼らの猛攻を目にしたミツキもまた、呪法強化した魔錆を再び繰り出す。
「さあ、最後は任せるわよ……!」
「今だ!」
ナタリアのコモンブラッドと輝刃が発動し、周囲の仲間達が持つ武器を淡い透明な光で包み込んでいく。
「地に潜みし幽界樹――今こそ、お前を倒す!」
その力を受け、今が好機だと見たアルベルトは高らかに宣言しながら大太刀を構えると、落雷のように鋭く苛烈な一撃を繰り出した。まるで落雷で大木が裂けるかのような轟音が鳴り響き、幽界樹から黒い樹液が溢れかえる。そこに、まるで重力を無視したかのような動きで距離を詰めたフリーダが、想定以上の威力を秘めた一撃を叩き込んだ。
「これで終いにさせてもらうぜ!!」
フリーダの攻撃と同時に、ケンの武器が一瞬、燃え上がるように眩く輝く。
まるで雲耀すら置き去りにするかのような、刹那に放たれる素早い一撃が幽界樹を襲った、その瞬間――。
パキ、パキバキバキバキ――!
幽界樹が割れる、砕ける。
果てしない音と共に粉々に散った幽界樹が、まるで靄と化すかのように薄れ、消滅していく……。
それが、地に潜みし幽界樹の最後だった。
「これは……ヴィントの時と同じですか……!」
幽界樹が生えていた場所には大きな空洞が生じていた。それだけではない。地中や地上にあった数多の根も消滅したことで、地面が大きく崩れ、広範囲に渡って陥没していく。
「いけない、落ちてきます」
幽界樹の上空に異変が無いか警戒していたマリイが、近くの建物の崩壊に気付いて警告を発する。一行がそれを素早く避け、退路を探そうとしたその時。
「大丈夫、撤退路は確保してあるから。さあ、こっちだよ」
皆を手招いたのはキオルティスだった。敵の分布、地形、そして幽界樹を倒した際に崩れるであろう場所を予め考慮し、より安全に素早く撤退できるであろうルートの目星をつけておいたのだ。その読みは見事なものだった。
「クーネさん、走れますか?」
「大丈夫だ、コルデラに乗せて貰う程じゃないよ」
笑みを浮かべたクーネさんにマリイが頷き返す。怪我人に関しても、エデルやファーシル、フェミナ達が手早く癒しの光を放って治療している。動けないというほど重傷の者がいなかったのは幸いだっただろう。
「それじゃあ全力で撤退!」
バランス感覚に長けたサフィラがキオルティスに続き、一行は崩落する瓦礫を回避しながら南の方角へと駆けていく。
その最後尾についたザスキアは一瞬だけ、幽界樹のいた場所を振り返った。
地に潜みし幽界樹は皆の手によって切り倒され、もういない。
「……悪い夢からは覚める時間だ」
長い間、まどろみの中にあったエスタルが、現実へと還る時が来ていた――。
監修:アルパカコネクト運営
マスターコメント
「【帝国】決戦:叢とみる夢」ご参加ありがとうございました。お疲れさまでした!
これで三度目となった幽界樹との戦い。黒いクリーパーへの対策も多くの方が気にかけてくださり、今回も無事に大成功となりました!
ご参加いただきました皆様に感謝申し上げます。
「特別褒賞・負傷者一覧」とエピローグノベルも更新しておりますので、TOPまたは連動特設ページからご確認くださいませ!
決戦シナリオ非常に難しい 報酬:多い161 / 1〜9999人
2022年06月27日 12時37分00秒 公開
大成功
参加者
トゥーリ
ハッタ・ムラムラ
バクル・バスリー
ヨル・スレイマン
飯塚・麦穂
エリザ・A・ミシャール
ゲルダ・クライン
コルネリウス・アーラ
ミツキ・アインホルン
アンネエルカ
エイル・アーティライト
リヒャルト
ゴブリア
ケン・Z・ブラッドリー
シエラ・フォン・リシェイラ
ゼラルム・エルホワイト
サニー・フォン・オルライト
- サイラス
エルゼリオ・レイノーラ
ルアンナ・ミュラー
エルナ・クルプファルツ
ユークリア・フィナンシェ
ナハシュ
アルベルト・V・シュタールシュヴェーアト
シャルロット・エクレール
スィーリーン
リサ・ベイカー
テス・アウレア
フリーダ=ブロムヴィスト
リリリリス
パヴェル・A・サムルガチェフ
ディアン
ベルク・オスマット
ヴィルヘルミナ
ハリス・アル・ターミル
ルチル・プルメリア・グレイハーツ
ルルト・アーキス
- レオネベル
レティシア・R・クラティアス
カメリア・ローレンス
- イェレミース トゥラ リディリディ
ストレガ・L・リベルガストラ
グレイブ・ヤード
ファム=ゴート
ウォルナ・パイパース
ギャメル
マリイ・パルティス
エフィルミア
サフィラ・アズラク・ヴォルファング
ロイ・アウレア
ヘレン・ワーグナー
リコリス・アデュラリア
ギーゼラ
ヴィナス
キリク
ヒロ・テスタロッサ
セリオス・オーガスト
イズル・M・ヴォルゴール
ハヤト=ガラン=ヴォルファング
アルマ・ヴァレンタイン
アルラ・ニグラス
ララベル・サン・ディーベル
アリオン・リュー
ゴルバルティア
フェイサル・セイフ
カイン・ステラ
フリューリングスルフト=ティエラ
ミィア
アスティン・ヴェルライン
レイヤ・ダライ=カホール
クローリカ
海神 江流
アヴェラ・ウッチェロ
エイル・ビュセファス
サマエラ=フォリウム
エルケ・シャルフ
アステル
テュリン・ヴィング
ファーシル・クリスティア
ロゼット
- キーゼ
トーラ
ライナ・フレイヴァルツ
- アステル
クレア・エクレール
キオルティス
Alexandra・Hexe・Claudia
梅・雨陽
ロドリック・アルカイン
コハク
ナハティガル=ラー
ナキル
アリエッタ
ララノア・グラヌローザ
フロマーシュ・ダイヤドロップ
オゴス
ヴィノニス
ナハト・シュライバー
エルシー・サリバン
ハル・チフ
エヴァン・ピオネロ
楓月・千弦
エミリア・シバ
ネーヴェ・グラヌローザ
ラティア・ミゼリア
- ラーナフ
ガルシア
ハリーヌ・ヨツユビ
サロ
グレイ・ナックラー
アウレーリア・フォン・ネーベルベルク
ナタリア・フィッツジェラルド
カルフ・オルヴォ
ルベア・ベルニ
シルヴィア・A・カペル
クラリス=ミシェ
ハーヴィ
ルーンス・ラグネル
エル
エデル=マグノリア
アルバス・ロウル
ユズ
ライオネル・ギシュム
- ファヌ
ヴァンゲルス・ロッド
キリアン・フィッツジェラルド
牛・奶
サシャ・テーリング
ダムド・フィリス
パド
セオ・ウルジオ
パルド
ウォーゼル
ヴァン・ローラント
夕霧
デイジー・ロックウェル
- Re✕
ネロ
ジュスト・V・ケレス
サラ
フェミナ・ノ・リビディーネ
ローザリカ・D・ケレス
ザスキア
アリッグ・レイダー
レタラ・スマリ
アルシエラ・ライゼル
ペルゼィック
ミレイユ・ヴェルジー
ルブラ・ソンジュ
シファー
- アルカディア
- アステール ブレイズ
- リリアン
ヤウズ・オスマット
ルイド
シルディス
マトン
リルディライラ・アステール
- エルヴィーラ・レイセン
セラフィナ・M・ベイリー
ガレナ