【恋眼】決戦:ヴァルザード紛争
アルパカコネクト運営
コメント 3
シナリオID:1821
オープニング
●
1222年1月1日。
新年を迎えたばかりのリーンエス王国は、ウィリアム王子帰還の報に沸いた。
王都に姿を現した彼は、すぐに国王ジョージ四世へ事の次第を報告。その日のうちに、王家から冒険者ギルドへ依頼が出されることとなった。
●
「ヴァルザード・レギンレイヴ侯爵は王家と徹底抗戦する構えですわ。言うに事欠いて、『来れるものなら来るが良い。私は侯爵の間で待っているぞ』とは……。まあ、こうなるとは思っておりましたけど」
「我々リーンエス王家はヴァルザードを叛逆者と認定した。我々は明朝ヴァルザードを討つ為、王国騎士団を派兵する。冒険者のみんなにも、改めて協力をお願いしたい」
ウィリアム王子帰還から数日後。冒険者ギルドのカウンターの前に仲良く並んで立ったウィリアム王子とその妹メアリー王女は優雅に一礼をした。昨年末に起こった、青の親指グリゼルダによるウィリアム襲撃事件――その黒幕であるヴァルザード侯爵の城を攻め落とす為に協力して欲しい――これが、リーンエス王家から冒険者ギルドに出された依頼の内容だ。
「既に多くの人が察していると思うが、僕は『リスの木』と共に、ヴァルザード侯爵の悪事の証拠を掴む為に動いていたんだ。昨年、ヴァルザード侯爵領付近で頻発していた、美青年・美少女誘拐及び、死体損壊事件――その背後には、必ず侯爵がいると睨んでいた。だが、結局僕達は出し抜かれ、僕は信頼できる多くの部下を失った。ヴァルザード侯爵の闇は想定していた以上に深かった。まさか、ここまでグリゼルダと蜜月関係にあったとはね」
ヴァルザード侯爵に手を貸していた寄り子貴族、そして王国南西部で隆盛しつつあった新興宗教『来世の栄光』を調査した冒険者たちや押収された資料からは、彼の悪事の証拠がいくつも集まっている。
「ウィリアムお兄様が調べ上げた情報と合わせれば、ヴァルザード侯爵が全ての黒幕であったことは明白。その目的が王位とは……寝言は寝てから言っていただきたいですわね」
ヴァルザード侯爵はグリゼルダと協定を結び、キメラゾンビの研究・開発を行っていた。その見返りとして、彼女の死体集めを強力にバックアップしたり、ウィリアム襲撃のお膳立てを行っていたのだ。さらに、『来世の栄光』の教主は、偽名で活動していたグリゼルダその人であったことも判明した。
メドゥの指先と通じてまでヴァルザード侯爵が為そうとしていたのは、何とリーンエス王国の王位簒奪。彼は強力な授恵者でもあるウィリアムをグリゼルダに暗殺させ、キメラゾンビの軍勢をもって王都を攻め落とそうと画策していたのだ。
「知らない人もいるだろうから、グリゼルダについても簡単に説明しておこう。彼女はメドゥの指先幹部、『青の親指』の称号を持つ凄腕の死霊術師だ。彼女は『キメラゾンビ』と呼ばれる強力な改造ゾンビを使役することができる。さらに、彼女は一対一の戦いでこの僕を正面から打ち破ったほど強力な戦士だ。普通の死霊術師だと思わない方がいい」
死霊術とは、死者の魂を外付けのリソースとして使用する魔法技術体系だ。外法ゆえにその詳細を知る者は少ないが、その用途は多岐に渡る。グリゼルダはキャスターのイメージが強い多くの死霊術師とは違い、ウォーリアのように自らの肉体を強化して戦う死霊術師なのだ。それも、大陸最強戦士の一人と名高いウィリアムをも圧倒するほどのレベルで。
「もちろん、グリゼルダに対抗する策は用意してある。それについては後で説明するよ。あと、侯爵側にはもう一人厄介な敵がいる。デイウォーカー、ベラドンナだ。グリゼルダは何故か、吸血鬼の少女を娘として重用している。ちなみにグリゼルダは一応人間らしい。吸血鬼よりも恐ろしいけどね」
ウィリアムはそう言うと、肩を竦めた。
●
「――では、作戦内容の説明に移ろう。冒険者諸君には三つの部隊に分かれて貰う。第一は、ヴァルザード侯爵の居城であるレギンレイヴ城攻略部隊。二つ目は、グリゼルダを誘引し、侯爵から引き剥がして足止めする囮部隊。そして三つ目は、ヴァルザード侯爵が領内に隠し持っている、キメラゾンビの生産工場の破壊工作を行う部隊だ」
ウィリアムはヴァルザード領の地図に記されている、三か所の赤い丸を指し示した。
「では、順番に説明しよう。第一部隊は――」
ウィリアムがそこまで言いかけた時、隣にいたメアリー王女がウィリアムを手で制止した。
「いえ、ここからはわたくしが説明いたします。第一部隊の目標は当然、レギンレイヴ城に籠城しているヴァルザード侯爵を討ち取ることですわ。城を守っている侯爵の私兵達はわたくしが率いる王国騎士団がお相手します。冒険者の皆様には、その間に攻城塔で直接最上階に乗り込み、侯爵の間で待ち構えているヴァルザードを討ち取っていただきます」
メアリーがしたり顔で説明すると、冒険者達の脳裏にある疑問が浮かんだ。
ウィリアム王子を打ち破ったというグリゼルダが強いのは分かる。だが、ヴァルザード侯爵の方は冒険者が束になってかからなければならない程の強敵なのか?
「皆様の疑問にお答えしましょう。ヴァルザード侯爵本人は、授恵者ではあるものの、ウィリアムお兄様には遠く及びません。ですが、彼は切り札たる神具を持っているようなのです。名は『ティターン』。古き神の姿を模して作り出された、搭乗型の巨大ゴーレムです」
これは、押収された寄り子達の書簡から明らかになった事実だ。神具。それは現代の魔法技術では再現できない超性能を秘めた魔法の品々を指す。侯爵の持つティターンは特に強力な代物のようで、度々寄り子貴族たちに自慢していたらしい。ちなみに巨大すぎて搬出入が難しく、侯爵の間に無理矢理入れて以降、二度と出せなくなっているそうだ。
「我々はティターン及びヴァルザードを超大型クリーパー級の戦力だと見積もっています。反乱に備えてそれなり以上の戦力を擁している侯爵の私兵と同時に相手取る訳にはいきません。そういうわけで、侯爵を討ち取る役目は皆様にお譲りいたします」
本当は自分が直接侯爵と対決したかったのだろうか。メアリーは唇を尖らせた。
「では続いて、第二部隊について説明いたしますわね。こちらは、グリゼルダとキメラゾンビを侯爵から引き剥がす為、侯爵領の近くにある古い神殿でウィリアムお兄様が結婚式を行います。もちろん偽ですが。皆様は怒り心頭で式場に乗り込んでくるであろう、グリゼルダを迎撃、足止めする役目を担っていただきます。もちろん、式にふさわしい衣装でお願いいたします。花嫁、花婿、参列客……グリゼルダを大いに攪乱する為、頑張って下さいませ。衣装はこちらでたくさん用意してありますので。ちなみに式にそれなりに信憑性を持たせる為、レイウェスト皇子もお呼びしております。ぐぬぬぬぬ、お兄様とレイウェスト皇子の結婚式、最前列かぶりつきで見たかったですわ……!」
思わず本音が零れたらしい。メアリーはこほんと咳払いをして、ブリーフィングに戻った。
なお、式場の神殿は神代に作られたものらしく、死霊術を弱める聖なる結界が張られている。グリゼルダにどの程度効果があるのかは不明だが、過去に出没した時よりも幾分か弱体化が見込めるはずだ。ちなみに神殿を管理する領主は王家に対して協力的なので、作戦を妨害される心配はない。
「最後に第三部隊についてですが、ここでは侯爵が領内の森の奥に秘匿しているキメラゾンビの生産工場を破壊していただきます。製造途中のキメラゾンビや、工場で従事している死霊術師達が迎撃に出て来ることが予想されます。施設の内外入り乱れての戦いとなるでしょう。施設破壊が目的ではありますが、同士討ちや森への延焼を避ける為、火攻め等は御遠慮下さいね。味方が外で迎撃部隊と交戦している隙に、中まで入って設備を破壊して下さいませ」
工場とはいっても、外観はどちらかというと大きめの館に近いものらしい。元々「出る」と噂だった幽霊屋敷を改造してキメラゾンビの生産・開発を行っていたようだ。もっとも、迷える魂がいたとしても既に死霊術のリソースとして回収されているだろうから、出現することはないだろうが。
「それと、デイウォーカー・ベラドンナなのですが、囮の神殿ではなくキメラゾンビ工場に出現する可能性があります。斥候が彼女らしき者を工場の方で目撃したそうですから。彼女もグリゼルダほどではないにせよ、強力な死霊術師だそうです。また、眷属の生き残りもいると聞きます。ご注意下さいませ」
王女はそう言うと、優雅に髪を掻き上げた。
「以上が、ヴァルザード討伐作戦の概要です。王家に叛逆し、メドゥの指先と通じたヴァルザード侯爵は王国法のみならず、国際的にも重罪人です。我々王家の手で然るべき報いを与えねばなりません。皆様のご活躍、期待しておりますわ」
●
そして明朝。宣言通り、メアリー率いるリーンエス王国騎士団は侯爵の城を取り囲んだ。
「何い、城を包囲しているのはウィリアムではなくメアリー王女率いる軍勢だと? おのれ王家の暗愚共! 私を愚弄するか!」
レギンレイヴ城最上階、侯爵の間にて。斥候の報告を聞いたヴァルザード侯爵は憤慨していた。侯爵は王家の剣として知られるウィリアム自らが自分を誅殺する為にやってくるものだとばかり思っていたのだ。まさか、末っ子の姫君が王国騎士達の指揮を執っているなどとは、夢にも思わなかった。
「まあいい。その愚かな采配ゆえに、この国唯一の王女は死ぬこととなる! 王国騎士も、冒険者共も、私にとっては物の数ではない! キメラゾンビの量産が間に合わずとも、私にはこの切り札がある!」
侯爵は高らかに叫ぶと、部屋の奥で手のひらを差し出した姿勢で鎮座している神像の体を慣れた様子でよじ登った。頭頂部のハッチに滑り込み、しっかりと蓋を閉める。神具『ティターン』を動かすには、侯爵自身が頭部に乗り込み、操縦桿を握る必要があるのだ。
「……さあ、目覚めろ、ティターン!」
ボォ……。目を赤く輝かせたティターンは侯爵の命令に応え、巨大過ぎる頭をぐわんぐわんと揺らしながらゆっくりと立ち上がった。
「くくく、このティターンある限り、私は無敵だ! いつでもかかってくるが良い。下賤共よ。格の違いを教えてやろう!」
1222年1月1日。
新年を迎えたばかりのリーンエス王国は、ウィリアム王子帰還の報に沸いた。
王都に姿を現した彼は、すぐに国王ジョージ四世へ事の次第を報告。その日のうちに、王家から冒険者ギルドへ依頼が出されることとなった。
●
「ヴァルザード・レギンレイヴ侯爵は王家と徹底抗戦する構えですわ。言うに事欠いて、『来れるものなら来るが良い。私は侯爵の間で待っているぞ』とは……。まあ、こうなるとは思っておりましたけど」
「我々リーンエス王家はヴァルザードを叛逆者と認定した。我々は明朝ヴァルザードを討つ為、王国騎士団を派兵する。冒険者のみんなにも、改めて協力をお願いしたい」
ウィリアム王子帰還から数日後。冒険者ギルドのカウンターの前に仲良く並んで立ったウィリアム王子とその妹メアリー王女は優雅に一礼をした。昨年末に起こった、青の親指グリゼルダによるウィリアム襲撃事件――その黒幕であるヴァルザード侯爵の城を攻め落とす為に協力して欲しい――これが、リーンエス王家から冒険者ギルドに出された依頼の内容だ。
「既に多くの人が察していると思うが、僕は『リスの木』と共に、ヴァルザード侯爵の悪事の証拠を掴む為に動いていたんだ。昨年、ヴァルザード侯爵領付近で頻発していた、美青年・美少女誘拐及び、死体損壊事件――その背後には、必ず侯爵がいると睨んでいた。だが、結局僕達は出し抜かれ、僕は信頼できる多くの部下を失った。ヴァルザード侯爵の闇は想定していた以上に深かった。まさか、ここまでグリゼルダと蜜月関係にあったとはね」
ヴァルザード侯爵に手を貸していた寄り子貴族、そして王国南西部で隆盛しつつあった新興宗教『来世の栄光』を調査した冒険者たちや押収された資料からは、彼の悪事の証拠がいくつも集まっている。
「ウィリアムお兄様が調べ上げた情報と合わせれば、ヴァルザード侯爵が全ての黒幕であったことは明白。その目的が王位とは……寝言は寝てから言っていただきたいですわね」
ヴァルザード侯爵はグリゼルダと協定を結び、キメラゾンビの研究・開発を行っていた。その見返りとして、彼女の死体集めを強力にバックアップしたり、ウィリアム襲撃のお膳立てを行っていたのだ。さらに、『来世の栄光』の教主は、偽名で活動していたグリゼルダその人であったことも判明した。
メドゥの指先と通じてまでヴァルザード侯爵が為そうとしていたのは、何とリーンエス王国の王位簒奪。彼は強力な授恵者でもあるウィリアムをグリゼルダに暗殺させ、キメラゾンビの軍勢をもって王都を攻め落とそうと画策していたのだ。
「知らない人もいるだろうから、グリゼルダについても簡単に説明しておこう。彼女はメドゥの指先幹部、『青の親指』の称号を持つ凄腕の死霊術師だ。彼女は『キメラゾンビ』と呼ばれる強力な改造ゾンビを使役することができる。さらに、彼女は一対一の戦いでこの僕を正面から打ち破ったほど強力な戦士だ。普通の死霊術師だと思わない方がいい」
死霊術とは、死者の魂を外付けのリソースとして使用する魔法技術体系だ。外法ゆえにその詳細を知る者は少ないが、その用途は多岐に渡る。グリゼルダはキャスターのイメージが強い多くの死霊術師とは違い、ウォーリアのように自らの肉体を強化して戦う死霊術師なのだ。それも、大陸最強戦士の一人と名高いウィリアムをも圧倒するほどのレベルで。
「もちろん、グリゼルダに対抗する策は用意してある。それについては後で説明するよ。あと、侯爵側にはもう一人厄介な敵がいる。デイウォーカー、ベラドンナだ。グリゼルダは何故か、吸血鬼の少女を娘として重用している。ちなみにグリゼルダは一応人間らしい。吸血鬼よりも恐ろしいけどね」
ウィリアムはそう言うと、肩を竦めた。
●
「――では、作戦内容の説明に移ろう。冒険者諸君には三つの部隊に分かれて貰う。第一は、ヴァルザード侯爵の居城であるレギンレイヴ城攻略部隊。二つ目は、グリゼルダを誘引し、侯爵から引き剥がして足止めする囮部隊。そして三つ目は、ヴァルザード侯爵が領内に隠し持っている、キメラゾンビの生産工場の破壊工作を行う部隊だ」
ウィリアムはヴァルザード領の地図に記されている、三か所の赤い丸を指し示した。
「では、順番に説明しよう。第一部隊は――」
ウィリアムがそこまで言いかけた時、隣にいたメアリー王女がウィリアムを手で制止した。
「いえ、ここからはわたくしが説明いたします。第一部隊の目標は当然、レギンレイヴ城に籠城しているヴァルザード侯爵を討ち取ることですわ。城を守っている侯爵の私兵達はわたくしが率いる王国騎士団がお相手します。冒険者の皆様には、その間に攻城塔で直接最上階に乗り込み、侯爵の間で待ち構えているヴァルザードを討ち取っていただきます」
メアリーがしたり顔で説明すると、冒険者達の脳裏にある疑問が浮かんだ。
ウィリアム王子を打ち破ったというグリゼルダが強いのは分かる。だが、ヴァルザード侯爵の方は冒険者が束になってかからなければならない程の強敵なのか?
「皆様の疑問にお答えしましょう。ヴァルザード侯爵本人は、授恵者ではあるものの、ウィリアムお兄様には遠く及びません。ですが、彼は切り札たる神具を持っているようなのです。名は『ティターン』。古き神の姿を模して作り出された、搭乗型の巨大ゴーレムです」
これは、押収された寄り子達の書簡から明らかになった事実だ。神具。それは現代の魔法技術では再現できない超性能を秘めた魔法の品々を指す。侯爵の持つティターンは特に強力な代物のようで、度々寄り子貴族たちに自慢していたらしい。ちなみに巨大すぎて搬出入が難しく、侯爵の間に無理矢理入れて以降、二度と出せなくなっているそうだ。
「我々はティターン及びヴァルザードを超大型クリーパー級の戦力だと見積もっています。反乱に備えてそれなり以上の戦力を擁している侯爵の私兵と同時に相手取る訳にはいきません。そういうわけで、侯爵を討ち取る役目は皆様にお譲りいたします」
本当は自分が直接侯爵と対決したかったのだろうか。メアリーは唇を尖らせた。
「では続いて、第二部隊について説明いたしますわね。こちらは、グリゼルダとキメラゾンビを侯爵から引き剥がす為、侯爵領の近くにある古い神殿でウィリアムお兄様が結婚式を行います。もちろん偽ですが。皆様は怒り心頭で式場に乗り込んでくるであろう、グリゼルダを迎撃、足止めする役目を担っていただきます。もちろん、式にふさわしい衣装でお願いいたします。花嫁、花婿、参列客……グリゼルダを大いに攪乱する為、頑張って下さいませ。衣装はこちらでたくさん用意してありますので。ちなみに式にそれなりに信憑性を持たせる為、レイウェスト皇子もお呼びしております。ぐぬぬぬぬ、お兄様とレイウェスト皇子の結婚式、最前列かぶりつきで見たかったですわ……!」
思わず本音が零れたらしい。メアリーはこほんと咳払いをして、ブリーフィングに戻った。
なお、式場の神殿は神代に作られたものらしく、死霊術を弱める聖なる結界が張られている。グリゼルダにどの程度効果があるのかは不明だが、過去に出没した時よりも幾分か弱体化が見込めるはずだ。ちなみに神殿を管理する領主は王家に対して協力的なので、作戦を妨害される心配はない。
「最後に第三部隊についてですが、ここでは侯爵が領内の森の奥に秘匿しているキメラゾンビの生産工場を破壊していただきます。製造途中のキメラゾンビや、工場で従事している死霊術師達が迎撃に出て来ることが予想されます。施設の内外入り乱れての戦いとなるでしょう。施設破壊が目的ではありますが、同士討ちや森への延焼を避ける為、火攻め等は御遠慮下さいね。味方が外で迎撃部隊と交戦している隙に、中まで入って設備を破壊して下さいませ」
工場とはいっても、外観はどちらかというと大きめの館に近いものらしい。元々「出る」と噂だった幽霊屋敷を改造してキメラゾンビの生産・開発を行っていたようだ。もっとも、迷える魂がいたとしても既に死霊術のリソースとして回収されているだろうから、出現することはないだろうが。
「それと、デイウォーカー・ベラドンナなのですが、囮の神殿ではなくキメラゾンビ工場に出現する可能性があります。斥候が彼女らしき者を工場の方で目撃したそうですから。彼女もグリゼルダほどではないにせよ、強力な死霊術師だそうです。また、眷属の生き残りもいると聞きます。ご注意下さいませ」
王女はそう言うと、優雅に髪を掻き上げた。
「以上が、ヴァルザード討伐作戦の概要です。王家に叛逆し、メドゥの指先と通じたヴァルザード侯爵は王国法のみならず、国際的にも重罪人です。我々王家の手で然るべき報いを与えねばなりません。皆様のご活躍、期待しておりますわ」
●
そして明朝。宣言通り、メアリー率いるリーンエス王国騎士団は侯爵の城を取り囲んだ。
「何い、城を包囲しているのはウィリアムではなくメアリー王女率いる軍勢だと? おのれ王家の暗愚共! 私を愚弄するか!」
レギンレイヴ城最上階、侯爵の間にて。斥候の報告を聞いたヴァルザード侯爵は憤慨していた。侯爵は王家の剣として知られるウィリアム自らが自分を誅殺する為にやってくるものだとばかり思っていたのだ。まさか、末っ子の姫君が王国騎士達の指揮を執っているなどとは、夢にも思わなかった。
「まあいい。その愚かな采配ゆえに、この国唯一の王女は死ぬこととなる! 王国騎士も、冒険者共も、私にとっては物の数ではない! キメラゾンビの量産が間に合わずとも、私にはこの切り札がある!」
侯爵は高らかに叫ぶと、部屋の奥で手のひらを差し出した姿勢で鎮座している神像の体を慣れた様子でよじ登った。頭頂部のハッチに滑り込み、しっかりと蓋を閉める。神具『ティターン』を動かすには、侯爵自身が頭部に乗り込み、操縦桿を握る必要があるのだ。
「……さあ、目覚めろ、ティターン!」
ボォ……。目を赤く輝かせたティターンは侯爵の命令に応え、巨大過ぎる頭をぐわんぐわんと揺らしながらゆっくりと立ち上がった。
「くくく、このティターンある限り、私は無敵だ! いつでもかかってくるが良い。下賤共よ。格の違いを教えてやろう!」
解説
■連動特設ページ・イメージノベル
https://alpaca-connect.com/world/world0/event/event17_db_detail
■相談場所について
このシナリオの相談スレッドのみの運用ですと、閲覧に際し非常に重くなる可能性があることや、戦域が多岐にわたるため、別個相談用のコミュニティを用意いたしました。
【恋眼】決戦シナリオ相談場
https://alpaca-connect.com/world/world0/community/Dd3n27xazfFN9ZliAS4V
・戦域単位での募集や挨拶
・パーティの募集・案内
・【タグ】説明スレッド
また、パーティ内での個別の相談については、上記コミュニティ以外を使用してくださってもかまいません。
■【重要】プレイングの書き方
・今回参加する戦域を右記の形式で【一行目に】記載ください。:【1】【2】【3】
・パーティや協調行動を示すタグは【二行目】で指定してください。タグでの指定は必ず【一つまで】となります:【侯爵暗殺部隊】【新郎新婦】など
例
【1】
【侯爵暗殺部隊】
(プレイング本文)
・【タグ】とは、「パーティの集まり」がどういった行動指針をとるのか、ということを示す表記です。お友達同士の参加や、特定の目的の行動をする場合、同じ【タグ】を表記していることで判定に用いられます。
・同じ【タグ】で選択肢が分かれることは問題ありません。
・【タグ】内容の説明(何を目的とするか、運用方針など)については、「相談用コミュニティ」の専用スレッドに【200文字以内】で記載ください。200字を越えた場合はタグそのものを無効といたします。
■選択肢
【1】叛逆者ヴァルザード・レギンレイヴ侯爵及び神具ティターンの撃破
▼状況
自らの居城の最上階で待ち構えているヴァルザード・レギンレイヴ侯爵を討伐する。
城の内外を警護しているヴァルザード侯爵の私兵及び、寄子の軍勢の相手はメアリー王女率いる王国騎士団が受け持つため、冒険者達は攻城塔(高所に直接乗り移る為に用いられる車輪付きタワー)やスキルなどで侯爵の待つ最上階の窓から直接乗り込み、決戦を挑むことが求められる。侯爵は搭乗型神具『ティターン』で武装しており、超大型クリーパー級の戦闘力を有する。
主戦場である侯爵の間はかなり広く、天井の高さも5メートルほどある。
▼味方戦力
・王国騎士団(雑兵の相手をする為、同じシーンに登場はしない)
・メアリー・リーンエス
リーンエス王家の末っ子にして唯一の王女。シーフの授恵者でもあるが、実力は並の冒険者レベル。基本的には城の外で王国騎士団の指揮を執るのが仕事だが、雑兵をある程度片付けた後、侯爵の間に突撃してくる予定あり。武器は2本の短剣。
▼敵戦力
搭乗型神具『ティターン』
非常に巨大な頭部をした巨神像型の巨大ゴーレム。頭部にコックピットがあり、ヴァルザード侯爵が中から操縦している。全長は約5メートル(約半分は頭部)で、天井の高さギリギリ。パンチやキック、踏みつけなどの原始的な攻撃を行うほか、直線範囲攻撃となるビームを発射する。
ヴァルザード・レギンレイヴ侯爵
本件の黒幕。彼を討伐することが作戦成功の前提条件となる。ティターンの頭部に収納されており、ティターンを撃破すると巻き添えで爆発する。
【2】ウィリアムの偽結婚式。グリゼルダ及びキメラゾンビ軍団の誘引・足止め
▼状況
グリゼルダ及びキメラゾンビ軍団は強力な為、レギンレイヴ城攻略の為には侯爵と引き剥がしておく必要がある。その為、ウィリアムはヴァルザード領付近の古い神殿で偽の結婚式を行い、グリゼルダを誘い出す作戦を行う。神殿の周囲は荒野で、見通しは良い。神殿の敷地内には死霊術を使いにくくする軽度の結界が存在する。
冒険者達は花嫁や花婿、参列者に扮してウィリアム王子を警護しつつ、可能な限り長時間期間グリゼルダとキメラゾンビを足止めすることが求められる。ドレスコードはフォーマルかセミフォーマルで貸衣装あり。
ウィリアムの花嫁花婿は何人いてもグリゼルダが疑問に思うことはない。
※衣装に関わらず、プレイング提出時の装備アイテムの数値が反映されたままのステータスで判定します。
▼味方戦力
・ウィリアム・リーンエス
リーンエス王国第二王子。グリゼルダに眼球を求められ、ストーキングされている。大陸有数の強力なウォーリアであるが、以前グリゼルダに一対一で敗走している。今回は花婿衣装での参戦。グリゼルダの抑えに回る。武器は宝剣。
・レイウェスト・バルダス
ウィリアムに借りを返す為に参戦したシルトラース帝国の皇子。今回は王子の陰謀により、花嫁衣裳での参戦。実力的には中堅のPCと同等ぐらいのシーフだが、『征竜の虹宝剣』という強力な宝剣で武装している。キメラゾンビの露払いを担当する。
▼敵戦力
・グリゼルダ
ウィリアムを亡き恋人の生まれ変わりだと信じ、その眼球に恋焦がれている死霊術師。狂人だが実力は折り紙付きで、かつてはウィリアム王子を真っ向勝負で打ち破ったほど。ただし、今回は神殿とその敷地内(周囲半径200m以内)に侵入すると、地形効果により死霊術が少々パワーダウンする。
式場襲撃の目的はウィリアム以外の参列者を皆殺しにし、そのまま自分とウィリアム(の眼球)との結婚式を執り行うことである。
・中型キメラゾンビ 多数
グリゼルダが製造したキメラゾンビ。クリーパーや魔獣、強力な戦士を掛け合わせて製造されている異形のアンデッド。その戦闘力は並のゾンビを凌駕し、授恵者でも複数体を同時に相手にするのは危険。
・大型キメラゾンビ 少数
キメラゾンビの中でも特に大型のもの。強力だが、屋内では小回りが効かないという弱点もある。ドラゴンや巨人のような外見を持つ。
【3】キメラゾンビ生産工場の破壊
▼状況
ヴァルザード侯爵討伐と並行し、侯爵領内にあるキメラゾンビ工場にも破壊工作を行う。施設の外観・構造は大きめの洋館と言った方が適切。冒険者達は工場内に突入し、製造中のキメラゾンビや生産設備、死霊術の資料などを徹底的に破壊することが求められる。
工場内には製造途中であったキメラゾンビや、工場で作業に当たっていた死霊術師が配置されている。
また、グリゼルダの協力者であるデイウォーカー・ベラドンナ及び彼女の眷属達はこの戦場に出現する可能性が高い。
▼味方戦力
・ポピー・アルルン
冒険者御用達のとあるショップの敏腕店員。元冒険者のシーフ。ウィリアムの出した【2】の依頼を本物の結婚式と間違え、依頼に参加。そしてギルド職員の手違いによりキメラゾンビ工場に送られた。もうヤケクソ。全部壊す。
・リーミル
リブラネスタの冒険者ギルド本部に配属されたばかりの新人受付嬢。戦斧で戦うウォーリア。ウィリアムの出した【2】の依頼を本物の結婚式と間違え、傷心中のポピーを誘って依頼に参加。そしてギルド職員の手違いによりポピーともどもキメラゾンビ工場に送られた。酒すら出ない戦場に怒り心頭。全部壊す。
▼敵戦力
・ベラドンナ
ヤコブ眷属の生き残り。グリゼルダ仕込みの死霊術を行使する。魔法攻撃を得意とするほか、術者に悪影響を及ぼさない濃煙の召喚も可能。
・月影の騎士ベアトリクス
ベラドンナの眷属。耐久力の高い吸血鬼戦士。ベラドンナに変身可能なことが確認されている。
・宵闇の騎士オリビア
ベラドンナの眷属。高い機動力を持つ二刀流の吸血鬼剣士。天井や壁を足場にできる為、屋内戦の適性は高い。
・作りかけのキメラゾンビ × 多数
工場で製造されていたキメラゾンビ。未完成のものを無理矢理動かしている為、普通のゾンビと大差ない戦力。
・在庫キメラゾンビ × 少数
出荷待ちの状態だったキメラゾンビ。完成品なので強力。
・死霊術師 × 若干名
工場でキメラゾンビの製造作業に従事していた死霊術師達。キメラゾンビを操る。
■決戦シナリオについて
・参加者にはこのシナリオでの働きに応じた褒章が付与されます。将来的にPCの皆さんの功績を表す重要なアイテムになりますので、大切に保管してくださいね!
マスターより
※※連動主幹より※※
明けましておめでとうございます。【恋眼】連動主幹マスターのおおくまねこです。今年もよろしくお願いいたします。
ついにグリゼルダの陰で暗躍していた黒幕(最初からバレバレだった気もしますが)、ヴァルザード侯爵との決戦です。もちろん、グリゼルダも大人しくはしてません。
各戦場には大物NPCたちが駆け付けて来ており、非常に豪華なものとなっております!
皆さんで力を合わせ、ヴァルザード侯爵を成敗しましょう!
※※運営より※※
決戦シナリオのリプレイ執筆は複数のマスターが担当いたしますが、基本的な判定は運営サイドで行います。
※※2022年1月15日 10:55更新※※
同日9時10分より発生した強化コンテンツ不具合に対する対応として、
シナリオ出発時刻の延長対応を実施いたしました。
ご不便とご迷惑をおかけして申し訳ございませんが、
ご理解の程、よろしくお願いいたします。
リプレイ
【3】キメラゾンビ生産工場の破壊 前編(執筆担当マスター:革酎)
●
森の中にひっそりと佇む洋館は、兎に角大きかった。
中庭を一気に駆け抜け、正面の大玄関を物凄い勢いで蹴破った冒険者達は、見るからに殺る気満々、壊す気満々で件の洋館、即ちキメラゾンビ工場へと雪崩れ込んだ。
大玄関から入ってすぐのところは吹き抜けのロビーとなっており、この洋館内でも最大の空間を誇る区画である様だ。
最初に突入を果たした【誘屍】の面々は、指揮官役たるイズレンディル・パラリムを中心に左右へと散り、迎撃に飛び出してきたキメラゾンビや死霊術師と真っ向から激突した。
強固な壁役であるコルネリウス・アーラが、巨躯を揺さぶる数体のキメラゾンビを相手取る為に、中央階段前へと走ると同時に闘気槌を振り回した。
現れた敵をあっという間に薙ぎ払うと、更に別方面から這い出してきた屍の群れへと走る。
「どんどんかかっておいでなさい!」
敵を後方へは行かせぬと、敢えて接近戦を挑むコルネリウス。
すると背後から、獰猛な勢いで魔力の嵐が次々と吹き荒れた。クラリス=ミシェの魔法攻撃だ。
「さぁて、一気に薙ぎ払いますよ~」
やる気があるのか無いのかよく分からないテンションのクラリス。一応、敵を引き付ける為に目立ってやろうという意図はある様だ。
そんなクラリスの微妙な空気感に苦笑を返しつつ、イズレンディルは銃眼光壁を配置して自らの身の安全を確保し、コルネリウスを支援する為にとこちらも派手な魔術で破壊と轟音の嵐を撒き散らしていた。
しかしただ破壊に没頭する訳でもなく、イズレンディルの目と頭脳は全体を常に見渡している。あらゆる方向から敵を引き付ける為には、バランスの良い戦力配置が必要だからだ。
「ワタシも全然負けてられない、です」
敵の注意を引く為だけに何か適当に喋っておこうというのがバレバレな蒋・璃龍だったが、それでもコルネリウスと並んで斬り込み役として前衛に立つだけのことはあり、初撃から範囲攻撃を仕掛けて着実にキメラゾンビを自身の居る位置へと誘い出している。
「腐った参列者、か。嗚呼……美しくねぇなぁ」
頭から青布を被ったパヴェル・A・サムルガチェフが、後衛側面の防御の為に鉄壁を配置しながらやれやれとかぶりを振る。彼が属する【誘屍】は囮部隊として最後まで持ち堪えることが重要だ。ただ暴れ回るだけではなく、パヴェルの様に回復と防御に重点を置き、継戦力を維持しようという発想の持ち主は絶対に必要だった。
実際、パヴェルの守りがあればこそ、前衛に立つ者は安心して攻撃に専念することが出来た。
「ゾンビ製造技術はメドゥから提供されてる筈だよ」
同じく継戦力維持に重点を置いているエルゼリオ・レイノーラは、周囲を警戒しながら魔矢を放ちつつ、隙あらば証拠回収にも向かおうかという姿勢を見せていた。
が、矢張り囮部隊の役割は敵を引き付けることであり、物品捜索はどうしても二の次にならざるを得ない。
「ここは兎に角、敵を誘い出すことに専念しようや」
パヴェルの落ち着いた声音に、一同は異口同音ながら是と応じた。
●
この洋館は、どうやら想像以上に複雑な構造となっているらしい。
フラム・アニムスも【誘屍】のひとりではあったが、彼はただ敵を誘い出すだけではなく、地下の存在を早くから懸念していた。
「派手にいきます!」
攻撃魔術で宣言通り派手にキメラゾンビを蹴散らしてゆくフラム。笛の音で誘い出されてくる敵はことごとくフラムの魔力の前に屈していった。
「キメラゾンビ、なんて食指が全く動かないわね」
回避盾として前衛に立つアヴェラ・ウッチェロは、コルネリウスや璃龍への負担を分散する為に自らもキメラゾンビの前に立ちはだかり、その機動力で敵の攻撃を躱し続ける。屍は兎も角、死霊術師達はアヴェラの高度な回避力に苛立ちを見せる様になっていた。
アヴェラの機動力とフラムの魔力に敵の意識が集中する中、【花秤】のふたり、ローザリカ・L・ディオールとエリカ・プレトリウスが敵意剥き出しの怒りを盛大に発散させている。
「これではエリカ君のドレス姿が……対価は貰う主義でね、この怒りの分、暴れさせて貰うが構わないな」
中途半端に出来損ないのキメラゾンビを火棘槍で纏めて薙ぎ払うローザリカ。彼女が討ち漏らした敵は、エリカがきっちり仕留めてゆく。
当初エリカはローザリカの怒気に気圧されていたものの、
「折角のローザリカ様のご厚意が……」
と考えるうちに、エリカも段々腹が立ってきた。折角のドレスだ、出来れば汚したくはないが、そこまでの実力が無いことは誰よりもエリカ自身がよく分かっている。
今は戦うことに集中し、余計なことは考えない様にするのがベストだろう。
「……そもそも貴方達さえ居なければ!」
それでもつい愚痴のひとつは漏れてくる。これはもう仕方の無いところであろう。
同じく敵の殲滅に主眼を置いているファイサル・アル=ファルドとアンセル・エティエンヌは、揃って機動力の高さを発揮しながらキメラゾンビ共を翻弄しているが、同時に敵の位置や洋館の構造に対してもそれぞれの技能を駆使し、隠れている敵や目に見えない裏の構造に意識を払っている。
事実、ファイサルは隠し部屋に敵を発見し、奇襲を未然に防ぐことに成功した。
「ただの死体工場、という訳でもなさそうですね」
戦場になることもある程度想定した構造になっている、とファイサルは内心で小首を捻る。どうやら、一筋縄ではいかないようだ。
「そこの貴方、地下の存在を疑っているか?」
アンセルが呼びかけると、フラムは素直に頷き返した。アンセルが隠れている敵の配置から、地下の存在が疑われる旨を告げると、矢張りとばかりにフラムは鼻を鳴らした。
●
ポピー・アルルンとリーミルは、荒れている。
それも少々どころではなく、物凄い勢いで。
「ちょっとちょっとちょっと! 何で式場じゃなく、こんなかび臭い死体館!?」
短剣片手に吠えまくるポピー。半ばヤケクソ気味に暴れ倒してはいるが、まだ若干の理性は残っていた。
問題は、リーミルの方である。
「……何で、お酒が無いんですか」
目が据わっている。怒髪天を衝く闘気が、全身から影朧の様に立ち昇っているのが誰の目から見ても明らかであった。
何とかこのふたりを落ち着かせようと、【雀】のイズル・M・ヴォルゴール、ヘレン・ワーグナー、エフィルミアの三人が上手く立ち回っていた。
イズルは戦斧を振り回すリーミルを発見するや、素早い足取りで傍らへと近づき、
「ポピーさんを落ち着けて一緒に戦ってくれたら、もう一本出す」
と、懐から酒瓶をちらつかせた。
一方、前衛に立つヘレンはエフィルミアのアドバイスを受けながら敵との距離を上手く測り、屍の群れを一気に薙ぎ倒してゆく。
「どうせ壊すなら効率良くやらなきゃねー」
「とはいえ、この辺りも限界なので、あと5メートル前に出ましょう!」
既に他の冒険者の手による洋館破壊も、そろそろ開始しつつある。同じ位置に留まっていては、巻き添えを食う可能性もあった。
実際、ポピーもリーミルも敵を斃すことよりは、洋館の破壊に力を注ぐ傾向が強い。死霊術師やキメラゾンビとの戦いよりも、構造物破壊の方が何かとストレス発散になるのだろう。
「ひゃっはー! 破壊って超たのしーい! 全部壊しても良いんですねー?」
いつになくハイテンションのレイヤ・ダライ=カホール。
がちがちに防御力を高めつつ、歓喜の表情で圧倒的な破壊力を誇る攻撃魔術を惜しげも無く披露し続けるその姿は、ある意味ポピーやリーミルよりも危なっかしい。
そして実際、物凄い被害を洋館の主構造に次々と叩き込んでゆく。この調子なら案外、早い段階で地上構造部は崩れ落ちそうな雰囲気だった。
レイヤの放つ破壊の嵐をかいくぐる様にしてシェオル、ストレガ・L・リベルガストラ、牛・奶の三人がポピーやリーミルのもとへと駆けつけてきた。
「こりゃまた盛大に……リーミルくん達、飲む……?」
弓を構えながらシェオルが差し出した蒸留酒を、リーミルは獰猛な手つきで奪い取り瞬く間に飲み干した。シェオル自身は消毒用に持参したのだが、リーミルにとっては食前酒の様なものであった。
シェオルは呆れながらも、ジャマーでキメラゾンビに新たな指令が下されるのを阻止しながら、鏃の連弾で敵の連携を分断してゆく。
「でも早めに合流出来て良かったアル。こういった状況での単独行動は危険アルよ」
奶のこの台詞は自身に対しての戒めであると同時に、お構いなしに破壊衝動に身を任せるポピーやリーミルに対してのものでもあった。奶は周囲との連携に気を廻しながら範囲攻撃や回復にも意識を向けるだけの冷静さを持ち合わせているが、ポピーとリーミルに果たしてそれだけの心理的余裕があったかどうか。
「流石に全部をしょっぴくのは無理そうなのだ」
シェオルの物だけでは足りなかったリーミルに蒸留酒をひったくられたストレガも、仕方が無いとばかりに死霊術師相手に魔術攻勢を仕掛けていた。出来ればひとりやふたりの捕虜を連行したかったが、敵は意外としぶとい。というよりも、まだ何かすがるべき切り札があるのかとも思える。事実、数名の死霊術師は気づけばいつの間にか姿を消しており、どこかに逃走経路を用意していることが伺えた。
逃亡先があるのなら、消去法的に恐らく地下であろうか。
●
もしかすると、ベアトリクスが冒険者側の誰かに化けて接近して来るかも知れない。
トゥーリは内心で警戒に警戒を重ねながら、持ち前の回避力と回復術の組み合わせで敵を引き付けていたが、今のところ彼女の抱いた危機感は杞憂に終わっている様だ。
「もう、大丈夫、かな。そろそろ本格的な地上階破壊戦も始まるみたいだし……」
事実アリア・ティーダがポピーとリーミルを呼びつけ、【睡狼】とタイミングを合わせての地上階破壊戦の段取りについて説明を始めているところであった。
「おふたりさん、不良物件は奇麗に壊して宴会と優良物件探しに洒落込まない?」
アリアの提案に嬉々として頷き返すポピーとリーミル。
地上階破壊戦の一方の柱は間違い無く【睡狼】だが、ポピーやリーミル、或いは個々で戦闘に参加している冒険者達の頭脳となっているのがアリアであるのは、誰もが認めるところであろう。
アリアが誇る建築や土木の知識と技術は非常に高い水準であり、この洋館への攻撃ポイントも的確に見抜いている。
そのアリアの傍らでは、シスル・ノーティラスが控えていた。シスルは久々の依頼参加ということもあり、半ばリハビリ的に洋館破壊戦に参加している。特に今回は部隊間の伝令役を買って出ており、アリアと【睡狼】間の地上階破壊の通信はシスルの力無くして成立はしなかった。
時が来れば全ての破壊担当に、
「待たせたな、ぶっ壊して良い時間だぜ!」
と元気に伝えて回るのが、今回のシスルの役どころであった。
そのシスルはアリアからの言伝を受けて、洋館奥へと侵入しつつある【睡狼】へと走った。
今回【睡狼】の頭脳役を担当しているのは、ロイ・アウレアである。ロイもまたアリアと同様、建築と土木に関する高水準の知識を活かして洋館破壊の司令塔となっていた。
自身は敵を誘い出しながら、アルバス・ロウルが繰り出す必殺の一撃で敵を吹っ飛ばす際の囮役を担当しているが、その間にも地上階破壊戦担当に対してはどの構造物に攻撃を集中させるのかを、早い段階で伝えて廻っていた。
「おっと、伝令さんが来たみたいだな」
何体目かのキメラゾンビを弾き飛ばしたところで、アルバスが駆け寄ってくるシスルに手を振った。
シスルに対する窓口役は、キメラゾンビへのジャマーや仲間の支援に専念しているアルマ・ヴァレンタインが担当した。アルマはシスル経由でアリアからの地上階破壊タイミングの細かな時間調整を聞き出し、ロイへと伝える。
その際、
「終わったら火酒と干物でヤケ酒祝勝会をしよう!」
とポピー、リーミルへの言伝依頼を忘れないアルマ。シスルは苦笑を返しながら、アリアのもとへと引き返してゆく。
「向こうは準備完了か……しかしこっちはまだ少し、やることがある。急がせないとな」
ロイは【睡狼】側の全体状況を俯瞰しつつ、地上階破壊の手順確認を頭の中で高速回転させていた。
一方、アルバスは小部屋で見つけた資料が余り使い物にならない事実に多少落胆していたものの、戦闘再開となれば再び高い集中力を見せている。地上階を徹底的に破壊し尽くすまで、アルバスの仕事も終わらない。
●
洋館地上階の比較的奥の方まで侵入している【睡狼】の面々。
その先導役として、ハル・チフが敵や罠を次々と発見しながら仲間達を率いる。
「敵の重要施設に乗り込むのですよ。罠を警戒して損は無い筈」
ハルは宣言通り、罠や待ち伏せを警戒し、隠し部屋内で待ち構えていた屍を片っ端から発見し、始末し続けていた。
大抵はハルの獲物として始末したが、中には手が足りない場合もあり、そんな時にはライオネル・ギシュムの強烈な突撃能力がハルを助けてくれた。
「ジャマーで分断されてる所為か、死霊術師を庇う様なゾンビは見当たらないな」
何体目かのキメラゾンビを吹っ飛ばしたところで、ライオネルは小さく肩を竦めた。ライオネルがここまで大胆に自身の接近戦能力を発揮出来ているのは勿論ハルの斥候能力の高さもあったが、同時にエルシー・サリバンが相棒の栗鼠の力を駆使した先行潜入偵察が威力を発揮していた。
ハルばかりに危険な目には遭わせられないと、栗鼠を通して懸命に敵の位置を探り出したエルシー。その努力の甲斐もあり、ジャマーの効果を受けた敵とそうでない敵を選別し、ゾンビに囲まれない様にと警戒しながら次々と鏃で仕留めていった。
「……もうすぐ、地上階破壊戦が始まるみたい」
本体栗鼠の視界を通して、ロイからの指示を受け取ったエルシー。
「もうあんまり時間はかけられないね」
資料を持ち逃げしようとしていた雑魚の死霊術師を自らの放った鏃で討ち斃したルルト・アーキスが、偵察から戻ってきたペットのシロを後方へ退かせながら、エルシーに振り向いた。
「この辺りの破壊位置候補は大体絞り込めましたから、アウレア様に伝えて参ります。ポピー様達の悔しさ、ここで存分に晴らして頂きましょう」
手近のゾンビへの対処をライオネルに任せつつ、サシャ・テーリングは踵を返した。ジャマーを掻い潜った敵への牽制も必要だが、地上階破壊戦が迫っているのであれば、破壊部位の最終候補をロイに絞り込んで貰う必要があった。
ルルトも書類や設備から得られる物は無いかと尚も物色を続けたが、特にめぼしい結果は得られない。であれば、後は最早、地上階破壊戦に全力を注ぐのみであろう。
いよいよ、地上階破壊戦が始まった。
【睡狼】の中でも構造物破壊に対する火力担当を仰せつかっていたテス・クラルスが、ロイから事前に指示を受けていた主要な柱に対して全力の魔力を叩きつける。
「お化けも共に消し飛ぶが良い!」
「テス師匠。何でそんなに涙目なんですか?」
不思議そうに小首を捻りながら、それでもエヴァン・ピオネロはテスと共に多くのゾンビを巻き込みながら高威力の攻撃魔法を分厚い壁面に叩きつけた。
地上階での戦闘は最終局面だ。残しておくべき柱も何も無く、一気に破壊を推し進めれば良い。
一方のテスもジャマーやアーケインテンペスト等を駆使した支援中心から、構造物破壊の主火力へと舵を切った。お化け屋敷大嫌いなテスにしてみれば、やっと巡ってきた総攻撃の瞬間だった。
「式場と間違えちゃったのネ。でもこれだけ暴れられるなら上等ネ」
駆け回る相棒の猪を尻目に、梅・雨陽も鏃の連弾を壁や柱に次々と叩き込んでゆく。途中で意味不明な落書きを残してきた雨陽だが、それもこの最後の破壊で全てが綺麗さっぱり消え失せるだろう。
その傍らでネーヴェ・グラヌローザは、未だ力が有り余っているポピーとリーミルを招き寄せ、自分で目星を付けておいた攻撃位置に最後の破壊力を叩きつけることを提案していた。
「おふたりの全力で一気に崩壊させれば溜飲も下がるかと」
ネーヴェ自身もまだ火力を残しており、ポピーやリーミルと一緒になって最後のとどめを刺そう、ということになった。
ロイの指示通り、【睡狼】の面々は洋館に相当な打撃を加えている。一方でアリアが指揮した他の冒険者達も破壊の嵐を巻き起こしており、洋館の耐久性は半ば以上が失われていた。
やがて、冒険者達は倒壊寸前の洋館を飛び出した。今にも崩れ落ちそうな憐れな外観の建物は、哀愁すら漂わせている。そこにポピー、リーミル、ネーヴェの三人が一斉に崩壊のトリガーとなる最後の一撃を加えた。
洋館は盛大な土煙を撒き散らしながら、盛大に崩れ落ちた。今まで指揮者の命令をジャマーに阻害され、隠し部屋から奇襲するはずが出られなかったゾンビ達が倒壊に巻き込まれながら這い出てくる。思った以上の数が残っていたことに驚きつつも、冒険者達は武器を構えなおした。残骸の中に資料が残っている可能性もあり、まだまだ仕事は尽きていない。
そして地下の存在を気に掛けていたフラムらが地下室へと通じる階段を発見した。フラムは仲間と地上の対処を継続するも、ここにいる筈の強敵を追う冒険者らは隠し通路の先へと進んでいく。
まだベラドンナもベアトリクスも討ち斃していない。地上で遭遇しなかった以上、地下への道の先に居る筈だった。
戦いは依然として続いているのである。
【3】キメラゾンビ生産工場の破壊 後編(執筆担当マスター:岩岡志摩)
●散開
キメラゾンビ工場へと突入した冒険者達は、地下に続く通路を発見した。
踏み込んだ先には待ち伏せの敵が多数。直ちにハリス・アル・ターミルとフェイサル・セイフが露払いを担うべく進み出る。
「破壊など生温い。灰燼に帰しましょう!」
魂を冒涜する真似をしたこの工場に、ハリスは激怒する。
「うむ、今回ばかりは怒りと共に剣を抜こう。最早それすらできぬ魂の為に」
フェイサルも歪な形で生命を弄ぶ術に嫌悪と義憤を隠さず、自分達の守りを強化する。
支援を受けたハリスは一気に加速して、キメラゾンビのただ中へと突っ込んだ。
開墾の竜爪とダマスカス鋼の祭刀がそれぞれ光の刃を纏って周囲を薙ぎ払い、攻撃を浴びたキメラゾンビが吠え声をあげる。
ハリスやフェイサルが敵を引き付けている間に、冒険者達は先へ進む。
「どうやらこの先はベラドンナ達の居住区画のようだ」
夜煌石の首飾りで視界を確保したSvart・Nattは、それまで探知スキルを行使して、地下の大まかな構造を調べていた。
先にいる敵の位置を調べ、仲間達に報せる。近い場所には反応が無い。
Svartからの情報をもとに、ランタンを所持する冒険者達が灯り役となって進む。
「被害を止める為、後顧の憂いは除きたいところだね」
セオドア・カザツキも、隠された場所の存在を念頭にスキルを使い、発見した入口を慎重に開錠した。
その先の闇の中には、ベラドンナら吸血鬼が居住していた区画があった。
居室の照明器具にはまだ油が残っており、ランタン持ちの冒険者達はそれに点火して明かりを確保する。
●資料処理
照明を確保できた事で、資料の破棄や回収を担うグループが、居室での活動を開始した。
「できれば残留思念感応で、資料の保管場所を探りたいところだけど……」
極力戦闘を避けてきたハーヴィは、倒した敵からそのような情報が得られなかったことを残念に思いながらも、エンライトで隅々までを照らしつつ調査に入る。
「僕は破壊する前に、死霊術関連の資料を選別しておきます」
キーゼは資料検索スキルを駆使して資料を集め、その内容を記憶力スキルで覚えていく。
「今後死霊術師が暗躍したときに、その対策としてこれらの資料の内容が必要だと僕は考えます」
なおキーゼが記憶した内容には、ベラドンナや配下の『ヤコブ様万歳とかが題材のポエム』的な記録も含まれていたとかいなかったとか。
「死霊術の資料は完全破壊ですか。使えそうな物は回収したいですが……」
当初エイル・アーティライトは自身の培った医学という点から、死体を扱う死霊術師の残した資料は貴重だと考えていた。
しかしエイルが目を通した資料は、研究資料というより作業手順書のような内容が多く、死霊術師の素質がある者にしか意味がない。医学的に役に立つ物は無さそうである。
「死霊術以外の情報が記載された資料があれば回収するわね~」
リンセ・クアルト・アポストㇽは、『それ以外』の資料を探し回る。
調べたところ、吸血鬼の居室では何かの取引書類も見つかった。
リンセはそういった資料だけを回収し、他のものは黒曜石の細剣で切り裂き、破壊していく。
「キメラ製造設備の設計図や関連する資料の類はなかったか?」
アデッサ・ハーレイは資料の内容を調べていた仲間達に尋ねるも、今のところそういった資料は見つかっていない。
アデッサは自身も資料探索に加わり、資料検索スキルを駆使して資料の回収と破壊を手伝う。
「ここから先は、俺が作成した溶液の出番だな」
ハーヴィと行動を共にしていたクルタルは、エンライトの光のもと、マジカルポケットに収納した溶液を取り出す。
クルタルはこの工場へ来る前に予め確保していた石鹸などの材料で、インクを溶かすことのできる溶液を作成していた。
重要そうなことが記載された書類をクルタルは手にとり、溶液に浸して文字を滲ませていく。
「長居は無用だぜ」
やがて調べものが終わり、冒険者達はアデッサの言葉に従い、居室を後にする。
エイルのフレイムゲイズが叩き込まれ、一瞬の閃光と爆発のただ中に、破片と化した資料や構造物が飛び散った。
●追撃戦
資料の処理を仲間に託した冒険者達は、逃走を図るベラドンナ達を追い続ける。
先の見えぬ通路が少し広くなったと思えば、キメラゾンビの群れが姿を見せた。直ちにオキナ・F・ブラッドリーとトウカ・S・ブラッドリーが排除に動く。
「数をこなすため一撃で首を狙います。行きますよ」
「それなら俺はトウカの強化と回復、トウカの死角のフォローに回るのが妥当だな」
攻撃に専念すると宣言したトウカに、オキナもその支援を明言する。
トウカが握る鋼の大太刀が淡い透明な光を纏い、そのままトウカは屍との距離を詰めていく。
一気に肉薄したトウカの大太刀が首を狙って跳ね上がり、屍の胸から喉にかけ斬痕を刻む。
トウカはオキナの支援を受けながら、なおもキメラゾンビとの交戦を続ける。
「キメラゾンビなどと、随分悪趣味な代物を作るじゃないか。排除するのが依頼にあるなら、否やはない」
ロドリック・アルカインは屍に対し特に敵愾心と言ったものはなく、それが任務だから排除するだけだ。
ロドリックの指定した方向に鉄灰色の鉄で出来た壁が組み上がり、側方から追いすがるキメラゾンビを阻む。
前に立ち塞がる屍達を打ち破り、なおも冒険者達はベラドンナ達の後を追う。
「ゾンビ工場……臭いでございますね……」
ハリーヌ・ヨツユビはランタンで仲間達の視界を確保しつつ、捜波を行使していた。
探知用のエーテルが波動となって走り、超聴覚とサーマルアイも併用して探索を続けていたハリーヌは、周囲の仲間に把握できた内容を報せる。
その情報をもとに冒険者達は慎重に進み、再びひらけた空間へと足を踏み入れた瞬間。
冒険者達の瞳に、紫色の光を発して落ちてくる、無数の軌跡が焼き付いた。
瞬間、地面を手荒く乱打する轟音があがり、破片混じりの噴煙を巻き上げる。
闇の向こうから攻撃を放った吸血鬼――ベラドンナ『2体』が眷属吸血鬼オリビアやキメラゾンビ達を従え、姿を見せる。
その直後、煙を貫いて無数の光弾が撃ち放たれ、雨と化してベラドンナ達に襲いかかる。
ハリーヌの行使したメテオライトだ。
ベラドンナ達は大きく飛び退き、攻撃をかわして着地するのと前後して、ベラドンナ達からの攻撃を凌いだ冒険者達が続々と現れる。
「チッ! ゾンビの操作は邪魔されているってわけね……!」
その一部は既に交代でジャマーを使い、ベラドンナ達のエーテルを乱し続けていた。
「お前達の待ち伏せは想定済みだ」
先が広間と聞いたゲルトは待ち伏せの可能性を考慮し、予め仲間達の装甲を強化していたが、それがダメージを抑えることに貢献したようだ。
さらにゲルトは光輝くエーテルの波動を周囲に放ち、仲間達の負傷を癒していく。
「「ここであいつらを食い止めて」」
声を揃えたベラドンナ達の言葉と共に、闇めいた霧が噴出し、周囲に真夜の暗幕を展開する。
ラティア・ミゼリアは濃煙炸弾をベラドンナの魔法と重ねる様に撃ち込んだが、強力な魔法に一方的に掻き消された。
「雑魚は炸光矢で散らします」
失敗に動じることなくラティアは取り巻きのキメラゾンビへ攻撃を加える。
「この剣にて助太刀します! アセット・アセトシソン参ります!」
アセット・アセトシソンは名乗りを上げると共に、屍に追撃をかける。
アセットの大剣【仏桑花】を斬り下ろすと、斬撃を浴びた屍は左肩から右わき腹にかけて斬り裂かれ、既に損傷を蓄積させていた屍は仮の生命を断たれて倒れ、沈黙する。
「こんなのダメです! 全部、ぶ……ぶっこわすです!」
工場内で目撃したものに憤っていたララノアは、ベラドンナと相対して怒りを露わにした。
支援で味方の各能力を底上げしたララノアは、自らも前に出て光塊を纏う竜石の祭刀を振り下ろす。
同じく仲間達の能力を向上させていたシルヴィア・A・カペルが真夜の暗幕に潜んだベラドンナを挑発する。
「ヤコブから死霊術師に鞍替え? 例の命令は下ったかな?」
ベラドンナの逃走を阻止すべく、シルヴィアが光輝を放つ六角形の柱を顕現させるも、ラティアの濃煙同様に真夜の暗幕に弾かれ光の柱は消失する。
「「残念だったわね。お馬鹿さん達。暗闇の中でせいぜい踊ってなさい」」
ベラドンナがオリビア達とキメラゾンビを足止めとして残し、逃走に転じようとしたとき、海神・江流が決定的な一言を言い放つ。
「ミモザの首を飛ばしたのが誰だったか忘れたのか?」
それはベラドンナにとって、最も許しがたい一言だった。
「――お前が!」
(ぶっ殺す)
ベラドンナは憤怒の表情で真夜の暗幕を飛び出し、もう片方のベラドンナがわずかに遅れてその後に続く。
「真っ先にこちらへ来た方が本物だね」
洞察スキルでその僅かな差を見抜いた江流は、周囲の仲間達へ情報を伝えた。
すさまじい速度で迫るベラドンナ達を、ギーゼラが妨害しに回る。
「これで嫌がらせをして、ぶん殴るとしましょう」
ギーゼラは閃光塗弾を取り出すと、ピンを抜いてベラドンナ達へと投擲する。
片や怒りで、片や焦りで我を忘れたところで、閃光をぶつけられたベラドンナ達は一瞬その場に立ち止まる。同時に幾人かが母蜘蛛糸のロープを投じ、ユズが巴屋の高級醤油を『本物』のベラドンナへと投擲する。
閃光に不意を打たれたベラドンナは、避けることもできず醤油入りの容器を長杖で叩き割った。蜘蛛糸のロープも殆どは弾かれ、中には隙をついて付着に成功したものもあったが、吸血鬼を引きずり出すには強度が足りず、すぐに断ち切られる。
だが醤油の一部はベラドンナの身に付着し、ユズは仕事中の口調で仲間達に報せる。
「今醤油の匂いがする方が本物です」
「ふざけた真似を!」
『偽物』のベラドンナがゆずへ怒りの矛先を向けるも、戦術眼で状況を把握していたエル=バ=ノイアンが割って入る。
「俺の仕事は仲間を守ることだ。させはしない!」
叫びと共にノイアンが攻撃を防ぎ止めると、リリリリスがノイアンと入れ替わるように前に出る。
「私の取って置きの香水ですわ!」
リリリリスはノイアンに向かってきたベラドンナに向け、趣味で調合した香水『フレグランス』を投擲する。
「私が円舞曲のお相手をしてさしあげますわ!」
「アタシを忘れてるんじゃない!?」
そのままリリリリスが『偽物』と対峙する所へ、ベラドンナ達を援護すべくオリビアが突っ込んでくる。
天井を駆けるオリビアに向け、それまでキメラゾンビ達の掃討に勤しんでいたキリクが竜骨の魔弓の弦を引き絞る。
「これの重力で天井から引きずり落とせないか、試してみるか?」
重力を収束させた矢が射出され、炸裂した重力波のエーテルがオリビアを絡めとろうと試みる。
だがオリビアはキリクのエーテルを振り払い、頭上を駆け抜けた。先を読んでいたデイジー・ロックウェルは跳躍してオリビアの前へと体を割り込ませた。
「アナタがこう動くと読んでいたわ」
掲げたダマスカス鋼の盾や、自身の身にエーテルを収束させ、瞬間的に防御を高める。
「キャハハ、このまま切り刻んでやるよォ!」
哄笑と共にオリビアの双刀が三閃し、デイジーは3度切り裂かれるも反撃の一閃がオリビアを切り裂き、血を噴出させる。
地に降りたオリビアに向け、それまでランタンで味方の視界を確保していたナキルも追撃をかける。
「オリビアっつったか、好きにはさせねェぜ!」
そのままナキルは雷神剣/レグ・フルグスを行使。
「テメェもオレの武勇伝にしてやるぜ!」
叫びと共に、蒼剣アルサリアより必殺の一閃が繰り出され、オリビアの身を深々と切り裂く。
「この、アタシが……?」
オリビアは討たれ、塵と化し消えた。
「醤油の匂いが本物で香水の香りは偽物ということかよ?」
サイラスは超嗅覚でベラドンナ達を識別すると、ルアンナ・ミュラーやベアトリーチェ・カロッサと共に、ベラドンナ達の包囲に移る。
「アタシは天井に張り付いて、上から奇襲を掛けてまた昇るを繰り返します」
ベアトリーチェは斃れたオリビアのお株を奪うかのように床から壁へ、壁から天井へと駆け上がる。
「本物かどうかは攻撃方法で判別したいところですが……」
天井を足場にしたベアトリーチェは眼下のベラドンナ達に向け、食用野草オイルをふりまく。
「今度こそベラドンナを燃やすんです。見敵必殺なの」
ルアンナは冷え切った瞳でベラドンナ達を見据え、ベアトリーチェの撒いたオイルに合わせる形でフレイムゲイズを、サイラスも別方向からベラドンナ達に向け攻撃を加えた。
ルアンナの放った炎珠が炸裂し、別方向よりサイラスからエーテルを収束させた閃光が迸った。
何かが割れる音と共に、連撃を浴びた『ベラドンナ』のうち、片方の形が崩れ、黒甲冑に身を固めた吸血鬼ベアトリクスの姿に戻る。
ルアンナの炎を振り払ったベラドンナは、オリビアが倒されたことを察すると、不利を悟り今度こそ逃走に移る。
「ベアトリクス。足止めは頼むわよ」
「承知しました」
ベアトリクスとベラドンナは短く言い交わし、異なる方角へ走り出す。奥へ続く通路へと駆けるベラドンナ。冒険者と主の間に立ちはだかるベアトリクス。
それを見逃す冒険者達ではなく、ルベア・ベルニと江流がホライゾナルジャンプをそれぞれ行使。
空を飛べるとさえ言われたシーフの特殊な足さばきが、妨害するベアトリクスすらすり抜け、ルベアと江流はベラドンナに追いついた。
「このまま退路ルート塞ぎつつ、攻撃を続けるわよ」
「たった2人で!」
ルベアの竜爪の短剣が突き出され、同時に江流も攻撃を加える。逃げ足を止められたベラドンナは、2人を無数の光弾で打ち据えた。しかし、一撃で倒れはしない。
「筆頭眷属の名にかけて、行かせるものか!」
「皆さんを先へと進ませるため、押し通ります」
そしてクローリカが身を挺して立ち塞がるベアトリクスに向け、ダマスカス鋼の盾を構えて吶喊し、ベアトリクスを吹き飛ばした。
「既にマーク付与は終えたわ。まだ逃げるつもりなの?」
エミリア・シバは既に双波を行使して、ベラドンナ達への追跡の手立てを終えていた。完全に振り切られない限り、もう小手先の技で逃げ隠れはできまい。
エミリアは疾風足でクローリカが開いた道を駆け、一気にベラドンナのもとへ到達すると、ベラドンナの身を立て続けに斬り裂き、血を噴出させる。足止めに3人目が加わり、ベラドンナの表情が歪んだ。
「冗談じゃ――」
逃げ切れぬ間に、他の冒険者達も本物のベラドンナに殺到して押し包んでいく。
「お姉……様……」
死闘の末にベラドンナは塵と化し、消滅した。
●終わり
ナンチ・ヤジナイは地下通路の先にある、工場外で警戒に当たっていた。
主だった死霊術師や屍達は工場内で待ち受けていたのか、今のところナンチは敵に遭遇していない。
ベラドンナ達を倒し、その先の地下通路を抜けてきた冒険者達と、ナンチは合流する。
「逃げてきた奴を見なかったか」という問いに、ナンチはこう答えた。
「僕が見回っていたこちらには来なかったですね」
ナンチの言葉は、逃げ延びた敵がいないだろうことを示していた。
【2ー1】ウィリアムの偽結婚式。グリゼルダ及びキメラゾンビ軍団の誘引・足止め(執筆担当マスター:空色みなも)
※【2ー1】と【2ー2】は同時進行です。一つの戦域で行われた偽結婚式~戦闘終了までを、それぞれ別視点で描いています。
●
木枯らしの吹く荒野に、ポツリと佇む古神殿。
そんな辺鄙な土地は今、数多くの人々で賑わっていた。
見れば、人々は揃ってフォーマルな服装に身を包んでいる。
そう、この古神殿では結婚式が開かれようとしているのだ。
「さあさ、新郎新婦の入場だよ。盛大な拍手で出迎えておくれ」
ルチル・プルメリア・グレイハーツの司会進行に応え、参列者の間から割れんばかりの拍手が起こる。
「うう、どうして私が……」
そこで式場に入って来たのは、花嫁姿のレイウェスト・バルダスだった。
恥じらいで朱に染まった頬は、レイウェストの美しさを一層、引き立てている。
だが、レイウェストは男だ。
「やあやあ、みんな。今日は僕たちのために、ありがとう」
同時に式場に現れたのが、新郎姿のウィリアム・リーンエス。
レイウェストにウェディングドレスを着せた諸悪の根源――ではなく、この度の偽装結婚式の立役者である。
この結婚式はウィリアムの眼球に恋しちゃった死霊術師、グリゼルダを誘き出すための罠なのだ。
ゆえに花嫁役がレイウェスト以外にたくさんいたとして、何もおかしいことはない。
「なんで俺が花嫁の恰好をするんだ?」
「俺だけ恥ずかしい思いをしてたまるか、お前は道連れだ」
花嫁役として【綺譚】のアルフィー・リッパーやアーシェル・G・クラインといった冒険者たちの姿もあった。
なおこの二人も男だが、別に何もおかしいことはない――はずだ。
「目立てばその分、敵の目から殿下を守れるわ」
男二人を説得するように、ブライズメイド役のルフィナ・ヴィオレットが建前を力説する。
本音は二人の花嫁姿を見たいだけだが。
「まあ、女子たちを危険な目にあわせるよりは……結局、戦うのだから変わらないな」
一瞬、納得しかかったアルフィーであったが、やはり釈然としない思いは残るのだった。
「ふふっ、とても人目を惹きますわよ」
「うん、似合ってる似合ってる」
フィリスティア・リュナ・ブルーメルティスやクレア・エクレールといった他の【綺譚】の女子組もブライズメイドとして花嫁のそばに控えている。
「これで『花嫁に嫉妬する悪魔』はやってくるかしら?」
アンネエルカもそうしたブライズメイドの一人である。
「くるんじゃないですか、きっと」
同じく【綺譚】のナハト・シュライバーは男『なのに』燕尾服を着ている。
なぜ花嫁衣装でないのだろう――と思ったとしたら、感覚がズレてきているのだろう。
「日頃、世話になってるし、手伝い位は構わねぇ……けど、マネキンやるのは聞いてねぇ!」
「よくお似合いですよっ」
シニング・W・テュパラはマリイ・パルティス作、ラブリーデザインドレスを着せられ、会場にいた。
「やるからにはきちんとやっけどよ……」
そうは言いつつ、テュパラは人目を気にして、耳を隠すための帽子を目深に被り直している。
「私のドレスを選んでくださっている方もいて大満足です」
マリイは自作のドレスを会場の貸衣装に加えてもらい、販促を行っていたのだ。
商魂たくましい。
「王子×皇子のご結婚なんて、まるでドゥジンシの世界ですね……って聞いてます?」
「これはもうダメかもわからんね……」
腐腐腐――と当て字でもつきそうなニヤつき方をする東雲・更紗を見て、ブレイドが肩をすくめる。
そんな中にあっても、ブレイドは作戦の要となる、神殿の結界が破壊されないか気にかけていた。
結界は神代の遺物なので、グリゼルダには壊せないだろう――というのがウィリアムの見立てではあったが。
そんな悲喜こもごもを交えつつ、ルチルの司会で結婚式はつつがなく進んでいく――かのように思われた。
「敵襲ですの、ですの!」
式の参列者として外の警戒にあたっていた――という文章がすでにおかしいが、とにかく【銀撃】のレイラ=ルナフィニスにより警鐘が鳴らされる。
神殿の周囲を囲む荒野は見通しがいいので、視力と索敵能力に優れたレイラによる警戒は有効に働いていたのだ。
「おいでなすったようだね」
ルチルも感覚共有した栗鼠、ラトの分身を外に放っており、感知した異常を【皇護】の仲間に伝える。
どうやらグリゼルダは神殿の敷地の外縁部に到達したようだ。外に向かった一部の冒険者がグリゼルダを足止めしており、神殿にはキメラゾンビのみが向かっているらしい。
「グリゼルダが花婿を攫いにやってきたようだね」
自身が狙われているという状況にも関わらず、ウィリアムは楽しげな笑みを浮かべて外へ飛び出していく。
ルチルは射撃や治療術で援護をしながら、ウィリアムの少し後ろについて駆けていった。
「レイウェストしゃま! 自身の安全を第一にお考えください!」
動転のあまり台詞を噛んでしまったトーラは、フォーマルのパンツスーツで参列していた。
花嫁姿のレイウェストと並んでいると、気分はまるでお婿さん――などと書いてはみたが、トーラは女である。
「せめてゾンビの相手ぐらいはさせてくれ」
「殿下、その前に着替えを」
レイウェストがウェディングドレスを着たまま駆け出そうとするものだから、ベールを持っていたベルク・オスマットがそのまま引っ張られて移動する形になっている。
「悪いがその時間はないようだ」
そう言ってレイウェストはベールを脱ぎ捨てると、ドレスの裾を破いてミニ丈に。
スラリとした美脚を晒し、見る者に溜息を――だが、繰り返しになるがレイウェストは男だ。
「せっかく着替えを用意していたのだが、致し方ない」
ベルクはそのままレイウェストに付き従い、神殿前に押し寄せてきたキメラゾンビの群れと交戦を始めたレイウェストの背を守る。
「レイウェスト様!」
今度は噛まずに言えたトーラにより、レイウェストに襲い掛かるキメラゾンビに光弾の雨が降り注いだのだった。
●
「新郎はお祝いに爆破すると法で決まっている!」
樽ジョッキ片手に神殿の屋上に陣取り、声高に主張するのは【爆殺】のロウトフェダーだ。
「だが遺憾なことに、新郎は早々に手の届かぬ先へ逃げてしまった! 仕方ないのでキメラゾンビだけ爆破する!」
どうやらこのロウトフェダー、もとはウィリアムを巻き込む算段だったようである――恐ろしい子。
「結婚おめでとう!」
そうしてロウトフェダーの放った矢がキメラゾンビの群れの中で次々と爆散していく。
「末永く幸せを炸裂させていくといい。これが君たちへのライスシャワーだ」
同じく【爆殺】として参加のサロも神殿の屋根上から炸裂する矢を雨あられと降らせている。
「くっ、王子の周りが護衛で固められてさえいなければ……!」
ポコ・アルデバラッドもどさくさに紛れてウィリアムを巻き込むつもりだったようで、それを実行しては言い訳の効かない状況に歯噛みしつつ、八つ当たり気味にキメラゾンビへ矢を炸裂させている。
なんといっても、この結婚式はポコにとっては許しがたいものだった。
なぜならポコは従者×皇子派だったから――なんのことかは分からないほうが幸せかもしれないが。
「戦闘が神殿内で起こらずよかったわい。せっかくの飯が爆発させられずに済んだしの」
そんな【爆殺】の射手たちを護っているのが、ジョン・ベアーである。
しかしジョンが仲間のいる屋根上ばかりでなく、神殿の中をチラチラと気にしているのは、料理の安全を気にしてのことだろうか。
「流、星、射ァ!」
「よしきた」
ロウトフェダーとサロが、相棒として連れた動物と力を合わせ、極太の一射で戦場を貫く。
傷ついていたキメラゾンビの何体かが、これにより吹き飛んだ。
それを確認したサロは、反動の負傷が続く間を狙われぬよう、煙幕を張るのだった。
「うおっ、危ねえって!?」
花嫁姿のまま敵の迎撃に出ていたアルフィーのすぐ横で、【爆殺】による絨毯爆撃が爆ぜていく。
アルフィーは持ち前の身のこなしで爆発を潜り抜けて、キメラゾンビに三連撃を浴びせていた。
そして【綺譚】のもう一人の花嫁はというと――。
「俺が遊んでやるよ!」
もう一人の花嫁こと、アーシェルには大きなモテ期が到来していた。
そう、アーシェルの周りに大量のキメラゾンビが押し寄せていたのだ。
挑発による成果もあるが、引きつけのためと、そこはかとなくいい匂いを漂わせているのが効いたらしい。
「くそっ、動きづれぇな!」
キメラゾンビに集られたアーシェルはドレスの裾を破ると、キメラゾンビたちを大太刀でまとめて薙ぎ払った。
「お邪魔虫さんはお呼びじゃないの、ごめんなさいね!」
大型キメラゾンビを突撃で吹き飛ばしたアンネエルカが、足止めのために周囲へプレッシャーを張り巡らせ、敵の分断を図る。
「花嫁にはお触り厳禁だよ!」
クレアが花嫁衣装のまま立ち回るレイウェストに駆け寄り、キメラゾンビたちを爪で薙いだ。
「汚い手で殿下に触れるな、邪な目で見るなぁあ!」
と、叫びたくなるのをナハトはぎりぎり堪え――られなかった。
ナハトは矢が放つ貫通性の衝撃でキメラゾンビを貫きつつ、【綺譚】の仲間へ障害物を設置すべき場所を指示していく。
「任せてくださいませ」
その指示に従い、フィリスティアは鉄壁や渦巻く雷光を召喚する。
そうした障害物で牽制や移動阻害をしつつ、キメラゾンビを魔法で苦しめるフィリスティア。
今もフィリスティアの放った霧状のエーテルで、一体のキメラゾンビの目が眩んだところだ。
「そのゾンビは隔離するわ、少し離れてちょうだい」
ルフィナもナハトに指示されたキメラゾンビを光の壁で囲い、封じ込める。
光の壁が構成した柱の中で、勢い余ったキメラゾンビが頭をぶつけたか、ゴツンと音がした。
「こっち、こないでくださ~い!」
光り輝くエーテル球が、【銀撃】の御邑 奈月によりキメラゾンビの群れの只中に出現する。
エーテル球はキメラゾンビたちにまとわりつくことで、その足を止めた。
前を行くキメラゾンビに急ブレーキがかかったものだから、後ろを進んでいたキメラゾンビが追突を起こしている。
「僕がいるから大丈夫だよぉ~」
「そう、わたしたちがいますわ」
御邑 都とルナフィニスはそんな奈月を囲むように布陣していた。
ルナフィニスは奈月が足を止めたことにより渋滞を起こしているキメラゾンビたちを、矢の生み出す衝撃で貫いていく。
「いくよぉ~」
前方に出て迎撃を行う都は、おっとりした口調ながらも、大太刀を力強くキメラゾンビへと振るっている。
燃え上がるように輝いた大太刀により、都が研ぎ澄まされた一撃を放って怯ませたキメラゾンビへ。
今度は奈月が魔法の矢を見舞うのだった。
●
神殿の結界による妨害と、グリゼルダ本人が戦闘中で制御まで気が回らないこともあり、キメラゾンビはほぼ無秩序に冒険者たちを襲っている。
それでもキメラゾンビは一体一体が強力であり、数も多いため、戦いは激戦となっていた。多くの冒険者に援護されたレイウェストも、自ら剣を振るい戦っている。
「誰一人、脱落なんかさせません」
ここで皇子と王子を失う訳にはいかないと、フェミナ・ノ・リビディーネは辻治療を行って回り、戦線を支えた。
特に、隊を組んでいても回復手段を用意してない者たちにとっては、遊撃的な治療の担い手はありがたい存在だった。
「皇子様も遠慮なくどうぞ。癒すことが私の喜びですから」
「ああ、助かる」
フェミナはレイウェストのもとへも駆けつけ、その治療にあたっていた。
「これはね……間違いない、予感というか確信があるのよ――」
そんな中、花嫁に扮したエルケ・シャルフが、同じく花嫁であるレイウェストへと近づく。
有事の際に備えた護衛――というのは建前で。
「売れる、ってね……!」
そう、エルケの目的は隙を見てレイウェストの花嫁姿をスケッチすることにあったのだ。
「く、戦闘中でさえなければ……」
レイウェストは顔を真っ赤にしつつも、手にした虹宝剣でキメラゾンビを叩き切るのに忙しく、エルケを止める暇もなかった。一応、最後の砦として護衛の任も果たしているので強く言えない所もある。
「アン、ドゥ――」
さらにもう一人、花嫁衣装で冒険者たちの治療にあたっていたファーシル・クリスティアが、殴り合いに参戦する。
ファーシルがゆるやかな踏み込みから一転、最速の踏み込みを行うと――。
「ドルァアアアア!!」
思いっきり凄んだファーシルにより、全力の突きがキメラゾンビに放たれた。
これぞ護気・幻耀剣奥義「御綿・亜素刃世」である。
「やれやれ、これほど一方的な愛の押し付けなんて、もし王子以外が被害者でも見過ごせない程だよ」
そしてこちらは花婿姿、ザスキアが果敢にも大型のキメラゾンビに挑みかかっていく。
花婿が巨大な鉄斧でキメラゾンビの太い脚を穿つ姿は、女性ながらに見ていて中々に雄々しい。
「運んだ岩もバリケードとまではいかなかったけど、遮蔽くらいには使えるな」
こうした戦場には、テテリカが格納用異空間を用いて運搬した岩が所々、並んでいた。
テテリカ自身、そうした岩を遮蔽にして魔弓による射撃を行っているし、他にも遮蔽として岩を利用する冒険者はいる。
「グリゼルダが殿下から狙うようなら、諜報員のよしみでリスの木の仇を討ちたかったのですが」
レイウェストの護衛の合間に、【帝諜】のセロンガード・シュタインドルフはグリゼルダの動向を窺っていた。
「グリゼルダ、王子のほうにご執心みたいだ、ね」
同じく【帝諜】のティトも、レイウェストの護衛としてキメラゾンビ相手に立ち回っていた。
ティトが今回ひっそり設定した目標は、攻撃を一度も受けないこと。
そんなティトが目前のキメラゾンビに集中している間に、背後から迫るもう一体のキメラゾンビが――。
「ティト! ――ええい!」
不意打ちのために隠れていたセロンガードが、それを見てたまらず一射を放つ。
キメラゾンビの知覚外からの一撃は、そのまま頭蓋を貫通し、その動きを止めさせたのだった。
「攻撃に集中しますので、しっかり護ってくださいましね?」
「ああ、分かっているさ」
更紗はブレイドに護られながら、天地のエーテルをかき集める。
数秒の後、更紗から放たれた極太光線の威力は絶大。
光線が通った跡には、何体ものキメラゾンビが深い傷を負っていた。
「討ち漏らしはあたしらに任せな」
「キメラゾンビが私のドレスの前にひれ伏すのは、きっと美しい光景でしょう」
そこに飛び込んだテュパラが縦横無尽に駆けながらキメラゾンビたちに攻撃を加えて回り。
マリイが光弾の雨を降らせてキメラゾンビをまとめて叩いていく。
「結婚式とはこうも面妖な催しだったか?」
霊木から仕立てられたゴブリアの木刀がオーラをまとい、キメラゾンビたちをまとめて飲み込んだ。
ゴブリアが周囲を見回して状況を確認すると、冒険者たちの奮闘の甲斐あって、キメラゾンビは着実に数を減らしつつあった。
「守る、ってのも大変ね」
ミツキ・アインホルンは、魔術師ながらレイウェストとキメラゾンビの間に立ち、レイウェストを守ろうと奮闘中だ。
「この先は通さないわ」
時にミツキはバリアを張ることでキメラゾンビの攻撃を自ら受け止め、レイウェストがこれ以上、傷つかないように心を配っていた。
今回の結婚式により、色々な意味でレイウェストが傷ついたことには目をつぶるにしても。
「祝い酒だ、たんと呑めよ!」
という声がしたほうを見やれば、ヴァンゲルス・ロッドがドラゴン型キメラゾンビの背にまたがり、その顔に蒸留酒をぶっかけている。
こうした騒ぎはいつまで続くのだろうか。
無論、グリゼルダが死ぬか退くまで――。
【2ー2】ウィリアムの偽結婚式。グリゼルダ及びキメラゾンビ軍団の誘引・足止め(執筆担当マスター:おおくまねこ)
※【2ー1】と【2ー2】は同時進行です。一つの戦域で行われた偽結婚式~戦闘終了までを、それぞれ別視点で描いています。
●
「それでは、新郎新婦は向かい合って」
偽結婚式もいよいよ佳境となり、司婚者役を担当しているハッタ・ムラムラは、厳かに告げた。結婚式の作法はバッチリ予習してきたので、なかなか堂に入った姿だ。
「結婚式で敵を誘き寄せるのは分かりますが、皇子に花嫁衣装を着せる意味は一体……」
「殿下が王子とご結婚……????」
スィーリーンはレイウェストの花嫁衣裳姿に首をかしげていた。アウレーリア・フォン・ネーベルベルクはウィリアムを睨み付けている。怒り心頭である。
「お美しゅうございますレイウェスト殿下!」
一方、アルベルト=V=シュタールシュヴェーアトはレイウェストの美しさに感嘆の声を漏らしていた。
「王国貴族として王子の結婚式に参列出来るのは光栄なことです」
(衣装や諸々を覚えておいて後日の創作活動に生かさないと!)
シェルリア・リトヴァールは仲良く(?)並んで立っている二人を見て、拳を握った。彼女はウィリアムとレイウェストの雄姿を目に焼き付ける為にここに来たのだ。そして、全部終わった後にドゥジンシを書く。
「では、ウィリアム王子。汝は病める時も、健やかなる時も、花嫁を愛することを誓いますか?」
「誓い――」
ハッタの言葉を受けて、ウィリアムがそこまで言いかけた時だった。
「――!」
会場がざわつく。超視覚や超聴覚などを駆使して索敵にあたっていた冒険者たちが、敵の接近を感知したのだ。
【勇牙】や【兵】ら、グリゼルダの足止めを担当する冒険者たちがいち早く武器を取り、外へと飛び出して行く。もちろん着替える時間なんてなかったので、みんなそのままの格好で。
●
「ウィリアム! ウィリアム! ウィリアァァァム!!」
グリゼルダは巨大な竜型ゾンビの背に乗り、王子の名を連呼していた。服装は以前出没した時と同じ黒いウェディングドレスだ。神殿から飛び出したグリゼルダ対応班の冒険者達は、押し寄せてくるグリゼルダとキメラゾンビの群れに向かって一直線に進んでいく。
(まだだ)
神殿建物から200mほど離れた、結界の外縁部。荒野の岩陰に身を隠し、グリゼルダを待ち構えていたセリオス・オーガストは深く息を吐いた。北の方から地鳴りのような足音と、女性の喚き声が近づいてくる。セリオスはあえてグリゼルダの先をゆくゾンビ達は見逃し、本命の獲物が近づくのを待つ。
「さあ、キメラゾンビ達! 神殿から出てきた連中を皆殺しにしなさい!」
主の命を受け、キメラゾンビ軍団の大部分が彼女に先行して神殿へと進撃していく。グリゼルダの元には、彼女が乗り物にしている大型のドラゴン型ゾンビと、数体の中型キメラゾンビ、そして全長数メートルはあろうかという巨人のゾンビだけが残った。
そして数秒後、神殿を見つめるグリゼルダの視線の先で、先陣を切って迎撃に出てきた冒険者たちと大量のキメラゾンビが交戦を開始する。
「みなさん僕の近くに! 強化魔法を使います!」
【兵】のドローミは近くの味方に声をかけた後、勇気の魔法を放った。淡い光に包まれた仲間たちが得物を手にゾンビへと斬りかかり、道をつくり、迫り来るグリゼルダを迎え討たんと進んでいく。
「ウィリアム王子殿下、強化魔法をかけますわ。どうぞこちらに」
その後方では、続いて神殿から駆け出して来たウィリアムと護衛の冒険者たちを呼び止め、レティシア・レインフィールがエーテルの波動を解き放った。波動を浴びた冒険者たちはエーテルが急激に増幅され、蒼い炎に包まれる。
「まあ! 古いけど素敵な神殿ね! 待っていてウィリアム! 今会いに――あら?」
屍竜の背に乗ったまま神殿を目指していたグリゼルダは頓狂な声を上げた。今まで思い通りに動いていた屍竜の速度がガクン、と落ちたのだ。
「今だ!」
その瞬間、巨大な光の矢がグリゼルダへと真っすぐ飛んできた。グリゼルダが神殿の結界に足を踏み入れ、死霊術の力が弱まる瞬間――セリオスはこの一瞬の隙を狙っていたのだ。
「あーれー!」
グリゼルダは光の矢の直撃を受け、屍竜の背から真っ逆さまに落下した。セリオスは無防備に落下していくグリゼルダに向けて二発目の光矢を放つ。しかし、グリゼルダは巨人ゾンビを盾にして矢を防御し、華麗に着地した。
「この人がグリゼルダ……! そのドレス、似合ってないですよ!」
着地の瞬間を狙い、セリオスと同様に待ち構えていたキリアン・フィッツジェラルドがグリゼルダへ閃光塗弾の塗料袋つきの矢を放つ。咄嗟に払いのけようとしたグリゼルダの手が塗料袋を破裂させ、ドレスに派手な染みが広がった。
「私のドレスを……! 許さないわよ!」
神殿方向へ抜けていくキメラゾンビの群れはそのままに、味方の援護を受けながら敵軍を搔き分けるようにしてグリゼルダとの距離を詰めていた【兵】の面々が、ついに結界の端へと辿り着く。グリゼルダを守るキメラゾンビたちが咆哮を上げ、大乱闘が始まった。
「あれがグリゼルダか」
少しでも高い位置から射線を確保しようと岩の上にのぼり、弓を引いたのはシューターであるアスティン・ヴェルラインだ。彼の放った矢は前衛の仲間に襲い掛かろうと動く人馬のようなキメラゾンビに突き刺さった。
「ウィリアム! ずいぶんとガラの悪い連中がお友達のようね!」
グリゼルダは冒険者達を睨みながら、誇示するように鎌を掲げた。さらに死せる竜と巨人が咆哮を上げ、冒険者達を威嚇する。
「ウィリアム王子の花嫁さんはこのネフリですぅ! お邪魔虫は帰ってくださぁい!」
【勇牙】のネフリティス=N=クリスタロスは荒野に仁王立ちし、ひらひらとウェディングドレスを見せびらかした。
「この泥棒猫がァ!」
激昂したグリゼルダはネフリティスへと突進する。慌てて躱そうと身を捻るネフリティスだが、反応速度がわずかに足りない。グリゼルダに殴りつけられたネフリティスは物凄い勢いで後方へと吹き飛ばされていった。しかし、頭に血が上ったグリゼルダは、自分が冒険者たちの只中へと誘い込まれていることに気が付かない。
「綺麗な花嫁さんなのだ~! 指輪とブーケをどうぞなのだ!」
リングボーイの衣装に身を包んだ大福と相棒の粽は、グリゼルダへと小さな箱を投げつけた。
「あら、指輪ですって?」
「綺麗な花嫁」という言葉に反応したグリゼルダが超人的な反射神経で箱を片手キャッチすると、箱が開き、内側に仕掛けられていた閃光塗弾のピンが抜けた。
「ちょっと、罠じゃないの!」
グリゼルダはすぐさま箱を放りだし、後方で閃光が弾けた。噛みつかんばかりの勢いで喚きながら、大福と粽を追いかけるグリゼルダ。
「全く、油断も隙もな――ウィリアム!!!」
グリゼルダの動きが一瞬止まる。いつに間にか、前方にウィリアムが出現していたのだ。
「嗚呼、会いたかったわ!」
ウィリアムに突進したグリゼルダは、一瞬で間合いを詰めると、容赦の無い拳打をウィリアムへと叩き込んだ。しかし手応えはなかった。幻だからだ。
「幻覚ですって!?」
「かかったね」
【兵】のキオルティスが細剣でグリゼルダの背を突き刺した。超人的な反射で急所への直撃を避けたグリゼルダは大鎌でキオルティスを薙ぎ払う。だが、すぐさまフリーダ=ブロムヴィストとコルリスがグリゼルダに襲い掛かり、キオルティスの退避をサポートした。
「とても迷惑な方のようなので退治しますね。巨乳美人でもヤンデレはちょっとなあ、と啓示にもありました」
「セリオスさんの隣に座りたかったのに! 身体くっつけたりしたかった! おかげで式に乱入されずに済んだけど!」
大剣と槍の一撃を受け、ドレスに穴を開けられたグリゼルダの顔が怒りに歪む。その瞬間、グリゼルダの側面から男の声がした。
「他人の瞳狙うんだ……もちろん奪われる覚悟あるよな」
一気に距離を詰めたケン・Z・ブラッドリーが、グリゼルダの目を潰さんと暗針で襲い掛かる。洗練された無拍子での一撃だったが、グリゼルダは針を額で受け止めた。
「女の顔を狙うなんて、なんて野蛮なのかしら!!」
グリゼルダは額から盛大に血を噴き出しながら大鎌を一閃した。あわよくばカウンターを狙ったケンだが、グリゼルダの強烈な鎌の一撃を受け止めるのが精いっぱいだ。
「素敵なドレスね。でも供回りがみんな裸なのはいかがなものかしら?」
アウレーリアは重力場を召喚し、キメラゾンビ達を拘束しながらグリゼルダへと問いかける。
「この子達は参列客ではないから大丈夫よ! 私の式の前にちゃんと帰らせるわ!」
あまりにも噛み合わない会話にアウレーリアは溜息を吐く。
「グリゼルダ! これ以上レイウェスト殿下には近寄らせないぜ!」
アルベルトはグリゼルダへと駆け寄り、稲妻のような斬撃を叩き込んだ。まだ喋りたかったらしいグリゼルダはムッとしながらもすかさず反撃し、アルベルトを遥か彼方まで吹き飛ばした。
●
「相変わらずやりたい放題だね、グリゼルダ」
護衛の冒険者とともにようやく追いついてきた本物のウィリアムが、グリゼルダと対峙する。その顔にはいつもと変わらぬ爽やかな笑顔が張り付いていたが、その片眼はスカーフで覆い隠されていた。
「あらウィリアム、どうして貴方は眼をスカーフで隠しているの? その美しい瞳こそが貴方の魅力なのに!」
「お褒めに預かり光栄だが、僕の瞳は愛の証としてもう花嫁と交換してしまったのさ! 残念だったね!」
ウィリアムは高笑いした。もちろん嘘である。【勇牙】のヴィナスの発案で、ウィリアムはグリゼルダを挑発する為に一芝居打ったのだ。
(さて……どう解釈するかな)
「なんですって! 許さないわ、ウィリアム! その瞳は私のものよォ!」
ヴィナスが見つめる中、激昂したグリゼルダはウィリアムへと突進。その顔面に貫手を放った。ウィリアムは身を引いて回避したが、衝撃でスカーフが外れ、ウィリアムの素顔が露わとなった。
「あら、ちゃんと揃っているじゃない。私の気を惹きたかったのかしら! 可愛いわね!」
「うおお! おっぱい!!」
「は?」
グリゼルダの意識が弛緩した瞬間。野獣のような影が突っ込んできた。獣の名はハヤト=ガラン=ヴォルファング。エーテルを迸らせながら一瞬で間合いを詰めたハヤトは欲望のままに、禁断の楽園へと両手を伸ばす!
「獲った!」
「なんて汚らわしい! 去勢してあげるわ!」
この一手に賭けた好色漢と死霊の力を身体能力に極振りした乙女の極限の攻防は、後者に軍配が上がる。ハヤトの手はグリゼルダの肩のあたりを掠め、ドレスを塗料で汚すだけという結果に終わった。そして、突然のセクハラに激怒したグリゼルダはハヤトの股間目掛け、第三の腕を振るう。
「くそ、失敗か! やべえ!」
ハヤトはこんなこともあろうかと用意していたスキルを駆使して素早く身を翻し、全速力で後ろに後退していった。
「きぃいいい! 逃がすものですか――!」
グリゼルダは脱兎のごとく逃げ出したハヤトを追おうと、ぐりんと向きを変えた。
「――死を受け入れるのが怖いのか? 王子の瞳を抉っても、アンタの恋人は戻らない。死者は生き返らない」
グリゼルダがハヤトだけを見ていた瞬間を狙い、ナハティガル=ラーが背中からグリゼルダの心臓を串刺しにせんと突きを放った。剣はグリゼルダの背中を抉り、鮮血が噴き出した。だがその刃は心臓までは届かなかった。
「何を言っているの? アランならここにいるじゃない! おかしな人ね!」
正論がさっぱり理解できないグリゼルダはナハディガルの言葉にもまるで動じず、第三の腕で殴りかかった。
(恋人の死で狂ったのか、死ぬ前からの狂気か……。少なくとも、恋人の死が彼女をここまで狂わせたのは確かだな)
やや離れた位置で魔導書を開き、ハヤトとナハティガルの退路を阻もうとするキメラゾンビに光弾の雨を降らせるオゴス。グリゼルダの声を注意深く聞きながら、彼女の狂愛の原因に興味を向けていた。
「やはり何を言っても無駄な相手だったね」
「皆で協力すればきっと勝てます!」
ヴィナスもまたグリゼルダを冷静に観察しながら、ハヤトを狙うドラゴンゾンビを衝撃波で攻撃した。さらにスィーリーンの放った全力のメテオライトがグリゼルダを巻き込んで屍竜へと直撃。グリゼルダはドレスを焦がしながらも耐えたが、屍竜の胴にはいくつもの穴が空いた。
「ハヤトー!! これ終わったらお仕置だからね!!」
処刑を宣告しつつ、サフィラ・アズラク・ナハルハルアリーブはグリゼルダへと駆ける。
「邪魔をするなら先に殺すわ!」
「ふん! おっぱいならあたしの方が大っきいもん!」
グリゼルダが放った闘気の塊に巻き込まれ、サフィラは消し飛んだ。だが、それは残像だ。サフィラは次の攻撃が来る前に足にエーテルを集中させ、全速力で敵の背後へと回り込む。
「全く、ハヤトは勇敢なんだか何なんだか」
「だがエロ鬼のおかげで隙ができたな!」
負傷者に回復魔法をかけながら、ルーンス・ラグネルは溜息をついた。彼から輝刃をもらったカイン・ステラはグリゼルダの顔面に狙いを定め、矢を放つ。流石のグリゼルダも顔を攻撃されるのは嫌だったのか、腕で顔面を庇った。彼女の視界が狭まった一瞬の隙を突き、冒険者たちはさらにグリゼルダに連続攻撃を畳みかける。
「団長のセク……囮作戦成功ですね! ボクの前から、誰も奪わせません!」」
グリゼルダの重い反撃を盾で受け止め、ハルハン・ツァガーンナルが壁となって仲間たちを守る。彼女はそのままグリゼルダの前へと立ち塞がり、斧槍を叩きつけた。
「きぃ! 次から次へと! 大人しく道を開けなさい!」
「隙ありです」
グリゼルダがツァガーンナルを吹き飛ばそうと大きく踏み込んだ瞬間、ヴィルヘルミナが横から飛び込み、大太刀を一閃した。稲妻の様な斬撃がグリゼルダの肩へと食い込み、傷口から血が流れ出す。
「豊穣神よ、彼らを癒したまえ」
シルク・メイプルリーフが天に祈りを捧げると、傷ついた冒険者たちに回復の光が飛んだ。ゾンビに絡まれながら何とか逃げてきたハヤトの傷も、みるみるうちに癒えていく。
「団長大丈夫ですか。私の胸揉みます? もみ放題ですよ」
「ではぜひ――ハッ!? いえ、何でもありません」
●
死闘は続く。冒険者達は前衛を頻繁に入れ替え、回復と補助魔法による強化と弱体化を粘り強く続けながら、グリゼルダを足止めし続けていた。グリゼルダ本人はまだまだ元気だが、周りにいるキメラゾンビ達は少しずつ数を減らしていた。
「素敵なドレスだね。もっとワイルドにしてあげる♪」
ネロは軽口を叩きながらグリゼルダに泥団子を投げつけた。べちょ。泥はグリゼルダのドレスへと直撃し、戦闘でボロボロになっていたドレスをさらに汚した。
「よくも! 貴方の命で弁償してもらうわ!」
「おっと、それ以上先には行かせんぞ」
激昂したグリゼルダはネロに向かって突進しようとした。だが、突如として無数の稲妻がグリゼルダの腰へと絡みつき、彼女の動きが鈍る。戦況をずっと観察していたグレイ・ナックラーが絶妙なタイミングでアーケインテンペストを放ったのだ。さらに、シグルド・オルセンが放ったエーテルの刃がグリゼルダへと飛来し、グリゼルダのドレスをズタズタに切り裂いた。
「どいつもこいつも! そんなに私とアランを引き裂きたいの!?」
「いやぁ、熱烈だな。ウィリアムも災難だが、実際好意を向けられるのはどう思ってるんだ?」
シグルドは優れた防御を活かしてウィリアムを庇うように前に出ると、振り向かないままウィリアムへと問いかけた。
「世界にたった二人だったとしても、彼女とはありえないかな!」
「二人だけの世界が欲しいのね!? いいわ! 貴方が望むなら屍の山でお城を作りましょう!」
グリゼルダはなおもウィリアムに迫ったが、ぬっと出てきたハッタとシグルドに道を塞がれ、その間に目当てのウィリアムはさらに後方に避難する。
「おばさん、めげないね」
グリゼルダの鋼のメンタルに、ルーンスはぽつりと呟いた。
●
「ああ、もう! ドレスが台無しじゃない! なんてしつこい連中なのかしら!」
グリゼルダは苛立たし気に叫んだ。圧倒的なタフネスを誇るグリゼルダだが、気力も体力も無限というわけではなく、だんだんと動きが鈍ってきた。
だが、冒険者側にもあまり余力がない。巧みな連携でグリゼルダを攻め立てる【兵】も、好機を見つけては集中攻撃を繰り返す【勇牙】も、彼らの攻撃の隙間を繋ぐように動く者たちも、次々と倒れては癒されなんとか持ち堪えつつも、全体でみれば苦戦を強いられていた。
次第に戦線離脱者が出てきており、ヒールが使える者も残り少なくなっている。グリゼルダを守るキメラゾンビの多くを打ち倒したとはいえ、どこまで持ちこたえられるか、ウィリアムやレイウェストを守り切れるかは、ギリギリの瀬戸際だった。
「そうだわ! ウィリアムさえ連れて行けば式はできるわよね!」
「……来るぞ! まだ動ける者はウィリアム王子を守れ!」
緩慢な膠着状態を、先に我慢しきれなくなったのはグリゼルダの方だった。
突撃の気配を察知し、【兵】のナタリア・フィッツジェラルドは回復の手を止めて気合と共にエーテルの波動を拡散させた。最後の一押しの為に温存していたとっておきの強化魔法だ。エーテルの蒼い炎に包まれた冒険者たちに力が漲る。ウィリアムは冒険者達に庇われながら、必死に後退した。
「これ以上王子を傷つけさせないわ!」
長い髪を夜会巻きにし、ドレスを纏ったザザ=ステルヴィナはグリゼルダへと杖の先を向けた。直後、空間に波紋が走り、グリゼルダとキメラゾンビだけを巻き込んだ空間の大爆発が起こった。その一撃がトドメとなったのか、ついに巨人のゾンビが大地に崩れ落ちる。
(そういえば、ほったらかしにしていたキメラゾンビ達は何をしているの?)
ドレスも肌もあちこちが傷ついたグリゼルダはここに至って、神殿へ向かったはずの亡者達の群れへと意識を向けた。見れば、レイウェストを囲むように神殿前に陣取った冒険者たちの手で、大量にいたはずのキメラゾンビがほとんど始末されてしまっている。
このままでは、自分を取り囲む冒険者を全滅させるよりも、神殿側の冒険者達が加勢に来る方が早い。
「きぃいいいい!! 今日のところは! このぐらいにしておいてあげるわ!」
グリゼルダはヒステリックに怒鳴ると、傷ついた体を強引に動かして身を翻した!
「――また逃げようってのか? もう少し俺と踊ってくれや!」
「これ以上の被害は許せません! 逃がすわけには――!」
「ケン殿! 輝刃です!」
シェルリアとドローミの回復と支援を受け、何とか戻ったケンがグリゼルダへと肉薄し、背中に渾身の一太刀を叩き込む。しかし、三本目の腕が切っ先を逸らした。ひとたび撤退と心を決したグリゼルダは、それ以上挑発を受けようとも血が噴き出そうとも振り返らず、猛烈なスピードで荒野を駆けて行く。
「ギャーオ!」
その時、最後に残っていた穴だらけの屍竜が翼を広げ、火炎の吐息を乱射して必死に冒険者達の追撃を阻止した。冒険者達の集中攻撃で屍竜が物言わぬ骸へと戻る頃には、すでにグリゼルダの後ろ姿は点のように小さくなっていた。
「やれやれ、ただの狂人かと思えば案外切り替えが良いね。だが囮としてはこれで十分だよ。彼女はキメラゾンビを全て失った。今頃レギンレイヴ城へ戻ったところで、ヴァルザード侯爵はもう討ち取られているはずさ。みんな、ありがとう。作戦は成功だ」
ボロボロになったウィリアムは大剣を放り出しながら、同じくボロボロのフォーマルウェアを纏う冒険者達に微笑んだ。
【1】叛逆者ヴァルザード・レギンレイヴ侯爵及び神具ティターンの撃破(執筆担当マスター:霧柄頼道)
●
レギンレイヴ城の門扉が、メアリー・リーンエス率いる王国騎士団の攻囲により、ついに開かれた!
「不届きなるヴァルザード候とそれに従う者達よ、覚悟なさいな!」
メアリーの揚々たる喝破が響き渡り、城内に籠もる侯爵の手勢達を竦ませる。
「王国騎士団――突撃!」
勇ましい号令を得て、居並ぶ騎士達は一斉に雪崩れ込んだ!
一方最上階では、ヴァルザードの命を受けた兵士達が、侯爵の間を出ていく。
「生意気な小娘め……! ボロ雑巾に変えてくれる!」
操縦席で腕を組み、鼻息も荒く粋がる侯爵を、外から壁歩きで登ったラモンが、閃光塗弾を手に窓際へ身を潜め、透視と探波を併用して観察する。
ティターンの造形は、二足二腕ではあるが異様に頭部が巨大で、全体のバランスは悪く、転倒はさせやすそうだが――まったく動いていないため、詳細な部分までは不明だ。
実際の弱点の位置などは、戦いながら読み取る必要があるだろう。
他の冒険者の仲間達もそれぞれが最上階まで登り、突入準備を済ませる。
「さあ、皆さん、行きましょう……!」
エデル=マグノリアは彼らと目を見交わして頷き合うや、そう合図を出し――窓から閃光塗弾を投げ入れる。
ラモンら他の仲間も間髪入れず、閃光塗弾を投げ込んで数秒後。
ものすごい光が発せられ、侯爵の間を白で塗り潰した。
びっくり仰天して腰を抜かしたのか、侯爵の耳障りな悲鳴が聞こえて来る。
光が収まるや否や、冒険者達は次々と飛び込んだ!
ヴァルザードは動転しているためか、ティターンの腕をやたらめったら振り回している。
壁歩きで上っていたが故に、攻城塔組より一手突入が速かった【豺狼】のパルドは身を屈め、高速で振るわれる危険な拳をかいくぐりながら踏み込む。
そうして下方より、スピードを乗せた痛烈な一撃を叩きつけ、片腕の軌道を寸時逸らす。
天井を伝って接近したウォーゼルも、飛び降りながら刃を振るう。
身体が頭部と交差する瞬間に、斬撃を走らせ――身をひねり、もう一方の腕の隙間をすり抜けて降り立つ。
パルドと同時に振り返りざま、敵の頭部へ塗料を投擲した!
「うおっ! メインカメラが汚れているではないか!」
少し目が治った侯爵は、ティターンの視界に点々とこびりついた塗料に、戸惑いと怒りを覚えている風だ。
閃光塗弾、そして先駆けの味方が作ってくれた間隙を突き、攻城塔の渡り板から多くの冒険者が侯爵の間へ侵入し、各々がやるべき行動へ移ろうとしていた。
【喫茶】のコハクもその一人だ。気配を消して敵の足元へ高速で切迫するや、強烈に斬りつける!
カメリア・ローレンスも衝撃刃を放って敵の注意を引きつつ、素早く動き回る事で狙いを定めさせない。
その間に、エデルが敵の足元の床へ魔弾を撃ち込む。絨毯が吹き飛ぶも、まだまだ床には少し亀裂が入った程度だ。
「火力が足りればいいけど……行って!」
立て続けに、ウォルナ・パイパースも同じ場所へ狙い澄まし、魔矢を発射。
満身込めた一撃は亀裂を大きくしてのけたが――まだまだ、こんなものではない。
ありったけの魔力を注ぎ、床の破壊に注力していく。
次手からは、エデルのレゾナンス・オブ・ヴァローでの強化を受けた上で、コハクも床へ得物を振るう。硬い床だが、必ずやり遂げて見せる。
「さっきから何をしている? 必死な顔で床ばかり攻撃しおって、滑稽だな!」
ヴァルザードはせせら笑いながら腕を引き、床狙いの冒険者達の頭上で振りかぶる。
その矢先、カメリアが飛び出し、連続で斬りつけて意識を向けさせた!
敵がいらつきながら矛先を変え、カメリアへ拳を突き出し――瞬間、その動きがつんのめって止まった。
腕の付け根あたりに突然、魔法の壁が出現し、技の出かかりを食い止めたのである。
Alexandra・Hexe・Claudiaだった。敵の側にウォールを生成する事で障害物とし、動作を中断させたのだ――!
腕が駄目なら足で踏み潰してくれる、とヴァルザードが脚部を駆動させて持ち上げ、冒険者達を踏みつけようとする。
「皆、今だっ!!」
その挙動を見て取ったララベル・サン・ディーベルが、テレパスで【ふしぎ亭】の面々へ思念を伝達しながら、張り付いていた天井から飛び降りる。
テレパスを持っていたテュリン・ヴィングが即座に続き、他の仲間はちょい遅れて行動開始した。
魔力強化を済ませたテュリンが、これみよがしに片足を上げている敵のもう片方の軸足へ照準を定め、炎弾を放つ。
軸足のすぐ間近で爆炎が炸裂し、敵を火炎と衝撃、爆風が焼き揺るがす。
その余波の風にスカートをたっぷりはためかせながら、アルラ・ニグラスも飛び降りざまの軽やかな攻撃を見舞う。
斬撃を刻み込みつつくるりと回転しながら着地するや、跳ねるように駆けて敵の射程から逃れつつ、構え直して次手へ備える。
侯爵は操縦桿をガチャガチャしてバランスを取り戻そうとあがくが、アリエッタや【豹狼】の二人も追撃を浴びせ、妨害してのける。
「ひとりでダメなら皆でやればいいじゃない♪」
ヒロ・テスタロッサも疾風の如く接近。
足の周りでまとわりつくようにステップを繰り返しながら、脚部へ攻撃を集中する。
エーテルを宿した刃を叩き込むほど、奴は斜めに傾ぎ、よろめきが大きくなっていく。
楓月・千弦は魔弓を構えながら、そんな敵の様子を観察していた。
自身は正面側から、そしてクノキのエーテル分身は背後へ回り、なるべく多くの面を視野で捉えつつ――奴の予備動作や重心の置き方、癖を見極め、そこから関節部の弱い点、さらには各種兵装の位置を予測していく。
「見えたわ、そこ」
すかさずエーテルの矢を発射する。計算された一矢は狙い過たず敵の軸足を穿ち、操縦による体勢の修正をより困難な状況へ陥れた。
ララベルが優れたバランス感覚でもって、ティターンの後頭部にしっかりと両の足を踏みしめ、腰の入った闘気槌を打ち込む!
響く衝撃。しかし敵はまだ倒れない。頭は上向き、振り上げた方の足は上がり切っているが、両腕をじたばたさせて悪あがきしている。
「神具も哀れな……愚者に使われる上に大きさに対し中身が伴わない頭脳を乗せる事になって」
仮にも神具の見るも無惨な有様に、イヴェール・イリュジオンは嘆息を漏らしつつも、迅速に足元へ肉薄。
全身を輝きで纏い、掲げた盾もろともの激烈な特攻をぶちかます!
上と下の衝撃を同時に受けた敵は、たまらず海老反ったかと思うと――次の瞬間轟音を張り上げ、床の上へ転がったのであった。
ミア=リゼルはこの機を逃さず、侯爵の間の入り口まで思い切って駆けた。
周辺に敵が潜んでいないか、クリアリングを迅速に済ませて確保する。
退路と増援の道を同時に塞いだのみならず、ある程度安全な陣地を作る事に成功。
起き上がろうと慌てふためくヴァルザードは、着々と治療準備を整えるミアを見て、ティターン越しにいらだたしげな歯ぎしり音を響かせている。
エルもまた、敵がすってんころりんしている内に、近くの窓にロープを結ぶ。
いざという時の脱出用だ。作業を終えたら新たなロープを手に、また別の窓へ向かって移動する。
途中、あえて機体の近くを横切り、スキルも併用しつつ性能や構造を調べ――同じように調査する面々へなるべく情報を伝えておいた。急いでいるので少しのみにとどまるが。
「……という段取りで、城の床を破壊する事になってしまうと思いますが、よろしいでしょうか?」
一方、少し時間が遡り――城外ではアリオン・リューが、メアリーに【喫茶】の落とし穴作戦について説明していた。
「それは面白そうですわね……構いませんわ、派手に決めてくださいませ!」
アリオンの申し出に対し、メアリーは悪戯っぽく笑み、むしろノリノリで許可を出したのであった。
【喫茶】のエルナ・クルプファルツがロープに掴まり、威勢よく滑り降りながら下階へ飛び込むと、すでにそこは王国騎士団とヴァルザードの私兵のぶつかる戦場のまっただ中である。
上で潜伏中のリスさんから、共有視界によって目的地は分かっているのだが――剣やら魔法やらが飛び交う乱戦、たった一人で進むのはさすがに大変そうだ。
「もしかしてーッ! 【喫茶】の方ですかーッ!?」
そこへ、アリオンが敵兵と戦いながら近づいて来るのが見えた。大声で呼びかけてくる。
大声なのは周囲の音が騒々しすぎるせいだ。エルナも負けじと叫び返す。
「……はーい! そうでーす!」
「僕もーッ! お手伝いーッ! しまーすッ!」
「はーい!」
アリオンが仲間に加わったッ!
やっとこさ起き上がるティターン。冒険者達の連携によって転倒まではイケたが、撃破にまで至る事ができないのは、さすが腐っても神具といったところか。
「おのれぇ……奴ら、好き勝手やりおって! 絶対に許さ――」
「ふわぁ~、すごい! でっかいゴーレム!」
怒気を発しつつ操縦桿を握るヴァルザードの目の前へ、移動系スキルを用いて身軽によじ登ったフリューリングスルフト=ティエラが、にゅっと顔を突き出す。
「げ、げ、下賤の分際でぇ……――どかんかぁ~ッ!」
上半身を振り回してフリューを跳ね飛ばし、拳を突き出して追い打ちをかけるも、フリューは右に左に駆け回り、一層敵を翻弄してのける。
「神話の鎧。普通に使えば貴方も英雄になれたのに……」
フリューに気を取られ、またしても防御ががら空きとなった間隙を捉え、ラセリ=リエ―ブルが薄煙炸裂弾を放つ。
「――狡い事に使い過ぎたんですよ!」
立ち込める薄い煙幕を、敵は両手で払おうとするも、それもまた隙を生じさせるだけだ。
その後もラセリは頭部めがけ、手を変え矢を変え品を変え、視界を阻む事に努めた――。
ここまでの交戦を通し、仲間達の間で情報が回り、敵の目となる部分への見当がつき始めていた。
サラも高い視力と、得られた情報も加味してそれらしい部位を導き出し……矢尻にくくった閃光塗弾の内袋を射出する!
塗料がまきちらされ、ティターンの頭の上部あたりにまぁまぁ張り付く。
間を置かず、ワイパーみたいな棒が伸びて塗料を拭い始めるが、その焦ったような動きからはむしろ、まさに奴の目となる箇所を撃ち抜いたのではないかという確信を得られた。
侯爵の視界が阻害されている隙に乗じ、だわが至近距離まで駆け込む。
ワイパーを使う傍ら、ティターンの両手は冒険者の接近を嫌がるみたいに振り回されている。
不規則な軌道ゆえ近づくのは骨が折れるも、腕の関節部へちぎりとって丸めたマントを突っ込み噛ませ、動きを強張ったものにさせてやった。
ヴァルザードは怒り狂っているからか、異物を取り出すよりも、構わず動かし、質量で無理に噛み潰す選択を選んだ――。
少しの手間を惜しんだせいで布地が駆動部に絡み、余計にもたつくティターンを、グレイブ・ヤードは待機していた天井部から見つめ――やおら、ひらりと身を躍らせる。
輝く得物を両手で握り、体当たりするように脳天へ突き入れる。
敵と天井との高さがほとんどないため、思ったほど高度は稼げなかったが、予想外の方向からの衝撃にヴァルザードは元からない冷静さをさらに失っていく。
ティターンが攻撃時に向く方向や、近くの冒険者への反応速度、サラが叩きつけた塗料の位置関係などから、ゼラルム・エルホワイトも奴の操縦席の位置を把握し始めていた。
「恐らく、あのあたりだな」
同じ班のサニー・フォン・オルライトへ声かけしつつ、目印となるよう、幾度目かの魔触を頭部めがけて撃ち放つ。
撃たれた敵は、びくぅっ……とおおげさに身じろぎして反応した。
「侯爵、驚いてるね……これは大当たりかも!」
サニーもその地点を目指し、ホライゾナルジャンプで一息に切迫。
奴の頭部を視野へ納めるなり――ゼラルムの教えてくれた位置へインクを投げつけて浴びせ、どろりとした粘性の液体を塗りつけてのけた。
セオ・ウルジオの放つ衝撃刃が、ティターンの膝を微妙な角度へカックンさせた。
カルフ・オルヴォが間断なく壁を蹴り、三角飛びの要領でティターンの真後ろを取る。
今だ、とテレパスでダムド・フィリスへ指示を出しつつ――抱えた大量の石鹸をティターンの足元へ、びっちゃばらぁとまき散らす。
「了解」
応じたダムドも壁を駆け上がり、宙返りしながら距離を稼ぎ――奴の鼻先へ迫る。
「侯爵でも叛逆者なら騎士道とか関係ないな」
投げ込んだ醤油が回転しながら飛び散り、ヴァルザードの視界を黒で完全に閉ざしてのけた。
動揺した侯爵は反射的に後退するも、その足が石鹸を踏む――体勢は確かに多少崩れたが、巨体を転がすには石鹸の量がさすがに足りず、転倒までは望めない。
「今です! 光縛封!」
それでもよろめき、足元がお留守となっている事には変わらないため、すかさずセオが光の柱を出現させる。
このサイズの巨人の足の間をピンポイントに狙って差し込める程の細やかな術ではないが、周りに立てるだけでも、奴の機動を邪魔するには充分だった。
冒険者達がティターンの頭部へ色々投げ当てたからか、侯爵の視界はぐちゃぐちゃだ。
されど、ここで何度目かの頼れるワイパー君が颯爽と登場し、顔面を拭いだす。
その様子を、窓枠に残っていたエリザ・A・ミシャールが、上から観察していた。
ほどなく、塗料を握って大きく振りかぶるや、ワイパーがひとしきり拭い終わった箇所へ狙いを定め――力強く投擲する!
「そこはたった今拭いたばかりだろうがあぁぁ! いい加減にしろ貴様らあああああ!」
ヴァルザードの怒号が響き渡った。ワイパーは必死に働くが、その間に他の冒険者達は、四方八方からどんどん攻撃を加えていく――。
ひとしきり暴れたヴァルザードは、疲れてうなだれ――ふとその目が計器類へ落ちる。
機体の損傷具合は比較的軽微。エネルギー残量もまだまだある事を確認し、少し余裕を取り戻す。
「……わはははは! 分かったぞ貴様達の狙いが! くだらん挑発を仕掛けて私の判断力を鈍らせようという腹づもりだったろうが、もうその手には絶対に……かからんッ!」
「おいおい本当かよ? さっきまでの暴れっぷりはだいぶ面白かったがな」
ナハシュは敵の正面でしつこく跳ね回り、三次元的な動きを見せつけながら嘲笑う。
「なんだと! 下賤なゴブリン如きがふざけた物言いを!」
即激昂した侯爵が突っ込んで来るのに合わせ、天井まで飛び上がって張り付くや、この期に及んで更なるインクをぶちまけ、視界を黒く塗り潰す。
頼みのワイパー氏が酷使され始める一方、ヨル・スレイマンは敵の裏へ回り込み、足の関節部を破脚砕で思い切りぶっ叩く。
「取るに足らないな。王子も逢瀬……他の用事の方が大事だったらしいし」
「う、うるさぁい! 王子など別に待っておらんわ!」
向き直ったティターンの胸部が、ぱかっと開き、鈍く光る砲口が覗く。
エーテルが収束し――極太ビームが放たれた!
動作を見ていたヨルは、すぐ横へ転がっていたため、すんでのところで直撃を回避。
自分の傷を癒しながらひとまずナハシュと合流した所で、再びビームが飛んできた。
光縛封を展開して盾とするも、ビームは魔法攻撃であり威力も高く、一撃で粉砕された! しかもこの威力で連射まで可能らしく、既に次弾が発射準備に入っている。
バクル・バスリーは窮地の二人を救うべくスキルで急行し、敵へ肉薄するや否やシーザーロアを放ち、標的を変えさせる。
「神具なんて、凄い物、こんなことに使っちゃダメなんだぞ」
巨大な拳が叩き込まれた。体が冗談みたいに跳ね上がり、床へ勢いよく打ち付けられる。
「おお、強いぞティターン! 遠近共に隙が無い……。まさに無敵!!」
どうにか立ち上がった。対する侯爵は追撃をかまそうと迫るも、勝ち誇った油断からか、足取りは隙だらけ――バクルはカウンターの大太刀で斬りつける!
「効かぬわ! ぬ、どこにいったチビ蜥蜴。ええい、光線でまとめて薙ぎ払ってくれる!」
「光線兵器は厄介ね……発射口の開く瞬間に攻撃を合わせれば、破壊できると思うわ! 足の関節も狙いながら、そのタイミングを見極めましょう!」
ロゼットが【雷鎚】らをハウリング・オブ・ブルーフレアで強化しつつ、奴を指差す。
面々は魔法防御壁をどんどん作り出し、我が物顔で乱射されるビームを何とか防ぐ。
その猶予を縫い、リサ・ベイカーは幻影を作り出す。
顎に手を添え、オーホホホ! と高笑いする王女の幻だ。
「なっ! 小娘めが、私を愚弄するか!? 食らえ……ヴァルザードッビイィィィム!」
お前のビームではない。
無駄撃ちさせている隙にリサはバクルと合流し、傷を治癒していく。
「実に残念ですよ、ヴァルザード侯。……王国貴族の恥晒しが」
偽メアリーだと分かり、アルェー? と首を傾げる侯爵を、ジュスト・ヴェルジーが見下す。
恥ずかしいやらで大憤激したのだろう――この手でひねり潰そうというのか、ティターンはビームを撃つのを一時やめ、拳を振り上げるではないか。
その醜態を見据えつつ、ジュストは自身の魔力を強化。
敵の足……皆の度重なる攻撃を受けてヒビまみれの関節部を狙い澄まし、渾身の魔矢をぶち込む!
「足を取られれば隙が生まれるはずだ。そこを突く!」
合わせてライナ・フレイヴァルツも魔矢を撃ち込む。黒炎を纏ったかのように総身から魔力を燃え上がらせ、力の続く限り撃つ構えだ。
「足の動きが鈍くなっている……もう一息だ!」
ビームを凌ぎながらも観察を欠かさず、戦況の報告にも努めていく。
「待っているぞ、ですって? 追い詰められているのはあなたでしょう?」
ファヌも魔矢を食らわせつつ、怒りを誘うべく侮辱の言葉を投げかける。
侯爵は期待を裏切らない。すぐさまのっしのっしと寄って来かかる進行方向上へ、ファヌは祈雷を設置する。移動をためらった侯爵は、結果的に侯爵の間の中央付近にとどまり続けることとなった。床を狙い続ける【喫茶】をはじめ、流れ弾も合わせれば結構な衝撃が加わっている場所だとも気付かずに。
鬱陶しいとばかり、射出されたビームが破壊をまき散らす。ファヌはその間に、負傷した仲間を光縛封で守る一方、発射口の挙動から目を逸らさず、情報収集にも注力する。
荒れ狂う拳やビームは脅威そのもので、【雷鎚】にも負傷者が出始めていた。
ギャメルは敵の気を引かないよう、後方からハイパーヒーリングオーラで回復支援を行っていた。
「あんまり一つの所に集まり過ぎるなよ、張った壁の数も少なくなって来てるからな!」
天眼も併用し全体を見渡しつつ、味方が追い詰められないよう、声掛けも忘れない。
「これだけ撃たれたら、動きを捉える事ができて来たわ……みんな、合わせて!」
ロゼットはビームが降り注ぐ中を駆けて跳び、開ききった状態の発射口めがけ、エーテルブローを叩き入れた!
侯爵は発射口を閉じようとするも、続けざまにゲルダ・クラインが肉薄。ロゼットと入れ替わりに、発射口へ紫電一閃を浴びせかける。
精密かつ鋭利な一撃を受け、発射口から火花が散り――開閉部分が壊れて開きっぱなしとなった。
「ちょこざいなっ」
盾を構えるゲルダへ、侯爵の反撃パンチが直撃。踏ん張りが効かず殴り飛ばされる。
「くくくく! どいつもこいつもかかってこい! ヴァルザードパンチで相手してやる!」
お前のパンチではない。
発射口へ衝撃刃を見舞っていたフロマーシュ・ダイヤドロップは、床をバウンドしていくゲルダに気づくなり、チャージングで猛追。
残っているアイアンウォールの後ろへ引っ張り込み、少しでも安全な場所でヒールをかけ、傷をいやす。
追撃をかまそうと進むティターンの目前に、アーケインが設置された。奴の足が止まる。
アイアンウォールの後ろで、冷静に機を窺っていたヴァレリア・ブランシェ・ウィザースプーンの一手だ。
さらに、負傷者達を守るための新たなアイアンウォールを生成。敵からの死角を増やし、同時にこちらの安全地帯を作っていく――。
【雷鎚】ズが無防備になったビーム発射口へ総攻撃を仕掛け始めるのに合わせ、サマエラ=フォリウムはハウリング・オブ・ブルーフレアによる強化を、彼らへ施した。
さらに次手では、発射口でなく、足を狙って魔矢を射かける。
【喫茶】らの執拗な攻撃で床のヒビはだいぶ広がっているから、ここでもう一押しして、片足を使い物にならなくしてやろう――。そう考えたのはサマエラだけではない。
「我が掌中に輝くは紅蓮の焔! エクスッ――プロ―ジョン!」
マーハ・アセトシソンの放った炎弾が、燃え盛りながらまっすぐ飛来し、ティターンの足元へ着弾する。
炸裂した刹那、凄まじいまでの熱風が爆音を伴い、これでもかと吹きすさぶ。
魔力の塊がダメージを与えたのはビーム発射口と脚部の両方。巨躯がよろめいた。
目を閉じ、精神を集中するリディリディ・トゥラ・イェレミースの頭上に、エーテルの凝縮された一本の矢が出現する。
槍と見まがうばかりの長大なそれは、リディリディがまぶたを開くのに合わせ、ひとりでに飛び出した。
虚空を裂き神具へと迫るや、ぽっかりと開いたままの発射口へ吸い込まれるように着弾。
「なんだとぉ! ぐぬわぁあ!」
瞬間、小規模な爆発が巻き起こり、ビーム発射口はバラッバラに砕け散ったのだった。
一方階下では、王国騎士団が戦いを制し、侯爵の間へ突貫しようとする所であった。
エルナ&アリオンもようやく目標地点へ辿り着き、いよいよ天井への攻撃を開始する。そこはすなわち、激戦の最中の侯爵の間の直下。
ペットの合図を通じ、【喫茶】達は残った力を振り絞り、最後の猛攻を床へ加え始めた……ッ!
ヴェイグ=ベーリングは仕上げの時間を稼ぐべく最前線へ飛び出して、敵の猛撃を引き受けていた。
「生身であれば痛みでわかるのだ――大仰な神具に頼るが故に敗れると知れい!」
「うるさああああい!」
怒りの拳を真っ向から受けたヴェイグが吹き飛ばされるのと同じくし、敵の足元がミシミシと音を立て、沈み込む。
脆くなった床がティターンの重さで潰れ、砕け、抜け、穴が開いていく。
敵は慌てて逃げようとするも、肝心の脚部はすでにボロボロで、思うように動かない。
陥没する床に、敵は吸い込まれていき――胴体が穴へがっちりはまり込む格好で、ようやく止まったのだった。
ここを好機と、Re✕達冒険者が取り囲み、攻勢をかける。
敵は両腕をしゃにむにぶん回して威嚇し、必死に己の延命へ努めている。
そこへリコリス・アデュラリアがメテオライト、魔弾といったあらん限りの魔法をぶつけていく。
さしものティターンの剛腕も、リコリスの火力や他の冒険者達の範囲攻撃に巻き込まれ、いよいよ限界を迎え――。
そうして、高速展開式超魔法からの強化魔弾が空を奔り……片腕が吹っ飛んだ!
青ざめた侯爵は操縦桿をガチャガチャするも、もはやティターンが応える事はない。
ついには冒険者達の一斉攻撃によって、損傷が内部深くにまで達したか、あるいは自爆装置でも起動したか。
ティターンは目もくらむ閃光とともに、内側から大爆発した!
「王国を統べるはずの、この私が……うおおおぉぉおおぉぉぉぉあああああぁぁッ!」
それが冒険者達の聞いた、ヴァルザードの最後の言葉であった。
爆発と見たセオが咄嗟に守護の光を放出し、仲間達を保護。
余波は壁や天井にも達した。石や瓦礫がガラガラ崩れ落ち、床の穴も大きくなっている。
「む、嫌な予感が当たったか。これでは侯爵も助かるまい……ひとまず崩落に巻き込まれそうな者は先に退避するがよかろう」
これまで一連の事件に関する証拠品を探していた夕霧が、窓際へと駆ける。彼女のススメで、隅に追い込まれたり負傷している者は、エルの張っておいたロープを使って脱出し始める。
「た、確かに穴を開けて良いとは言いましたが……やりすぎではありませんこと!?」
その時、メアリーと騎士達も扉から駆け込んできて、事態に目を丸くしたものである。
そんなメアリーの前へ、夕霧とジュストが、ヴァルザードを引っ張ってきた。
侯爵は黒焦げのアフロとなり、大口を開けて白目を剥いて息を引き取っている。
こうして冒険者達とメアリーらの活躍により、神具は撃破され、侯爵も倒された。
王国の危機は、無事に去ったと言えるだろう――。
監修:アルパカコネクト運営
●
森の中にひっそりと佇む洋館は、兎に角大きかった。
中庭を一気に駆け抜け、正面の大玄関を物凄い勢いで蹴破った冒険者達は、見るからに殺る気満々、壊す気満々で件の洋館、即ちキメラゾンビ工場へと雪崩れ込んだ。
大玄関から入ってすぐのところは吹き抜けのロビーとなっており、この洋館内でも最大の空間を誇る区画である様だ。
最初に突入を果たした【誘屍】の面々は、指揮官役たるイズレンディル・パラリムを中心に左右へと散り、迎撃に飛び出してきたキメラゾンビや死霊術師と真っ向から激突した。
強固な壁役であるコルネリウス・アーラが、巨躯を揺さぶる数体のキメラゾンビを相手取る為に、中央階段前へと走ると同時に闘気槌を振り回した。
現れた敵をあっという間に薙ぎ払うと、更に別方面から這い出してきた屍の群れへと走る。
「どんどんかかっておいでなさい!」
敵を後方へは行かせぬと、敢えて接近戦を挑むコルネリウス。
すると背後から、獰猛な勢いで魔力の嵐が次々と吹き荒れた。クラリス=ミシェの魔法攻撃だ。
「さぁて、一気に薙ぎ払いますよ~」
やる気があるのか無いのかよく分からないテンションのクラリス。一応、敵を引き付ける為に目立ってやろうという意図はある様だ。
そんなクラリスの微妙な空気感に苦笑を返しつつ、イズレンディルは銃眼光壁を配置して自らの身の安全を確保し、コルネリウスを支援する為にとこちらも派手な魔術で破壊と轟音の嵐を撒き散らしていた。
しかしただ破壊に没頭する訳でもなく、イズレンディルの目と頭脳は全体を常に見渡している。あらゆる方向から敵を引き付ける為には、バランスの良い戦力配置が必要だからだ。
「ワタシも全然負けてられない、です」
敵の注意を引く為だけに何か適当に喋っておこうというのがバレバレな蒋・璃龍だったが、それでもコルネリウスと並んで斬り込み役として前衛に立つだけのことはあり、初撃から範囲攻撃を仕掛けて着実にキメラゾンビを自身の居る位置へと誘い出している。
「腐った参列者、か。嗚呼……美しくねぇなぁ」
頭から青布を被ったパヴェル・A・サムルガチェフが、後衛側面の防御の為に鉄壁を配置しながらやれやれとかぶりを振る。彼が属する【誘屍】は囮部隊として最後まで持ち堪えることが重要だ。ただ暴れ回るだけではなく、パヴェルの様に回復と防御に重点を置き、継戦力を維持しようという発想の持ち主は絶対に必要だった。
実際、パヴェルの守りがあればこそ、前衛に立つ者は安心して攻撃に専念することが出来た。
「ゾンビ製造技術はメドゥから提供されてる筈だよ」
同じく継戦力維持に重点を置いているエルゼリオ・レイノーラは、周囲を警戒しながら魔矢を放ちつつ、隙あらば証拠回収にも向かおうかという姿勢を見せていた。
が、矢張り囮部隊の役割は敵を引き付けることであり、物品捜索はどうしても二の次にならざるを得ない。
「ここは兎に角、敵を誘い出すことに専念しようや」
パヴェルの落ち着いた声音に、一同は異口同音ながら是と応じた。
●
この洋館は、どうやら想像以上に複雑な構造となっているらしい。
フラム・アニムスも【誘屍】のひとりではあったが、彼はただ敵を誘い出すだけではなく、地下の存在を早くから懸念していた。
「派手にいきます!」
攻撃魔術で宣言通り派手にキメラゾンビを蹴散らしてゆくフラム。笛の音で誘い出されてくる敵はことごとくフラムの魔力の前に屈していった。
「キメラゾンビ、なんて食指が全く動かないわね」
回避盾として前衛に立つアヴェラ・ウッチェロは、コルネリウスや璃龍への負担を分散する為に自らもキメラゾンビの前に立ちはだかり、その機動力で敵の攻撃を躱し続ける。屍は兎も角、死霊術師達はアヴェラの高度な回避力に苛立ちを見せる様になっていた。
アヴェラの機動力とフラムの魔力に敵の意識が集中する中、【花秤】のふたり、ローザリカ・L・ディオールとエリカ・プレトリウスが敵意剥き出しの怒りを盛大に発散させている。
「これではエリカ君のドレス姿が……対価は貰う主義でね、この怒りの分、暴れさせて貰うが構わないな」
中途半端に出来損ないのキメラゾンビを火棘槍で纏めて薙ぎ払うローザリカ。彼女が討ち漏らした敵は、エリカがきっちり仕留めてゆく。
当初エリカはローザリカの怒気に気圧されていたものの、
「折角のローザリカ様のご厚意が……」
と考えるうちに、エリカも段々腹が立ってきた。折角のドレスだ、出来れば汚したくはないが、そこまでの実力が無いことは誰よりもエリカ自身がよく分かっている。
今は戦うことに集中し、余計なことは考えない様にするのがベストだろう。
「……そもそも貴方達さえ居なければ!」
それでもつい愚痴のひとつは漏れてくる。これはもう仕方の無いところであろう。
同じく敵の殲滅に主眼を置いているファイサル・アル=ファルドとアンセル・エティエンヌは、揃って機動力の高さを発揮しながらキメラゾンビ共を翻弄しているが、同時に敵の位置や洋館の構造に対してもそれぞれの技能を駆使し、隠れている敵や目に見えない裏の構造に意識を払っている。
事実、ファイサルは隠し部屋に敵を発見し、奇襲を未然に防ぐことに成功した。
「ただの死体工場、という訳でもなさそうですね」
戦場になることもある程度想定した構造になっている、とファイサルは内心で小首を捻る。どうやら、一筋縄ではいかないようだ。
「そこの貴方、地下の存在を疑っているか?」
アンセルが呼びかけると、フラムは素直に頷き返した。アンセルが隠れている敵の配置から、地下の存在が疑われる旨を告げると、矢張りとばかりにフラムは鼻を鳴らした。
●
ポピー・アルルンとリーミルは、荒れている。
それも少々どころではなく、物凄い勢いで。
「ちょっとちょっとちょっと! 何で式場じゃなく、こんなかび臭い死体館!?」
短剣片手に吠えまくるポピー。半ばヤケクソ気味に暴れ倒してはいるが、まだ若干の理性は残っていた。
問題は、リーミルの方である。
「……何で、お酒が無いんですか」
目が据わっている。怒髪天を衝く闘気が、全身から影朧の様に立ち昇っているのが誰の目から見ても明らかであった。
何とかこのふたりを落ち着かせようと、【雀】のイズル・M・ヴォルゴール、ヘレン・ワーグナー、エフィルミアの三人が上手く立ち回っていた。
イズルは戦斧を振り回すリーミルを発見するや、素早い足取りで傍らへと近づき、
「ポピーさんを落ち着けて一緒に戦ってくれたら、もう一本出す」
と、懐から酒瓶をちらつかせた。
一方、前衛に立つヘレンはエフィルミアのアドバイスを受けながら敵との距離を上手く測り、屍の群れを一気に薙ぎ倒してゆく。
「どうせ壊すなら効率良くやらなきゃねー」
「とはいえ、この辺りも限界なので、あと5メートル前に出ましょう!」
既に他の冒険者の手による洋館破壊も、そろそろ開始しつつある。同じ位置に留まっていては、巻き添えを食う可能性もあった。
実際、ポピーもリーミルも敵を斃すことよりは、洋館の破壊に力を注ぐ傾向が強い。死霊術師やキメラゾンビとの戦いよりも、構造物破壊の方が何かとストレス発散になるのだろう。
「ひゃっはー! 破壊って超たのしーい! 全部壊しても良いんですねー?」
いつになくハイテンションのレイヤ・ダライ=カホール。
がちがちに防御力を高めつつ、歓喜の表情で圧倒的な破壊力を誇る攻撃魔術を惜しげも無く披露し続けるその姿は、ある意味ポピーやリーミルよりも危なっかしい。
そして実際、物凄い被害を洋館の主構造に次々と叩き込んでゆく。この調子なら案外、早い段階で地上構造部は崩れ落ちそうな雰囲気だった。
レイヤの放つ破壊の嵐をかいくぐる様にしてシェオル、ストレガ・L・リベルガストラ、牛・奶の三人がポピーやリーミルのもとへと駆けつけてきた。
「こりゃまた盛大に……リーミルくん達、飲む……?」
弓を構えながらシェオルが差し出した蒸留酒を、リーミルは獰猛な手つきで奪い取り瞬く間に飲み干した。シェオル自身は消毒用に持参したのだが、リーミルにとっては食前酒の様なものであった。
シェオルは呆れながらも、ジャマーでキメラゾンビに新たな指令が下されるのを阻止しながら、鏃の連弾で敵の連携を分断してゆく。
「でも早めに合流出来て良かったアル。こういった状況での単独行動は危険アルよ」
奶のこの台詞は自身に対しての戒めであると同時に、お構いなしに破壊衝動に身を任せるポピーやリーミルに対してのものでもあった。奶は周囲との連携に気を廻しながら範囲攻撃や回復にも意識を向けるだけの冷静さを持ち合わせているが、ポピーとリーミルに果たしてそれだけの心理的余裕があったかどうか。
「流石に全部をしょっぴくのは無理そうなのだ」
シェオルの物だけでは足りなかったリーミルに蒸留酒をひったくられたストレガも、仕方が無いとばかりに死霊術師相手に魔術攻勢を仕掛けていた。出来ればひとりやふたりの捕虜を連行したかったが、敵は意外としぶとい。というよりも、まだ何かすがるべき切り札があるのかとも思える。事実、数名の死霊術師は気づけばいつの間にか姿を消しており、どこかに逃走経路を用意していることが伺えた。
逃亡先があるのなら、消去法的に恐らく地下であろうか。
●
もしかすると、ベアトリクスが冒険者側の誰かに化けて接近して来るかも知れない。
トゥーリは内心で警戒に警戒を重ねながら、持ち前の回避力と回復術の組み合わせで敵を引き付けていたが、今のところ彼女の抱いた危機感は杞憂に終わっている様だ。
「もう、大丈夫、かな。そろそろ本格的な地上階破壊戦も始まるみたいだし……」
事実アリア・ティーダがポピーとリーミルを呼びつけ、【睡狼】とタイミングを合わせての地上階破壊戦の段取りについて説明を始めているところであった。
「おふたりさん、不良物件は奇麗に壊して宴会と優良物件探しに洒落込まない?」
アリアの提案に嬉々として頷き返すポピーとリーミル。
地上階破壊戦の一方の柱は間違い無く【睡狼】だが、ポピーやリーミル、或いは個々で戦闘に参加している冒険者達の頭脳となっているのがアリアであるのは、誰もが認めるところであろう。
アリアが誇る建築や土木の知識と技術は非常に高い水準であり、この洋館への攻撃ポイントも的確に見抜いている。
そのアリアの傍らでは、シスル・ノーティラスが控えていた。シスルは久々の依頼参加ということもあり、半ばリハビリ的に洋館破壊戦に参加している。特に今回は部隊間の伝令役を買って出ており、アリアと【睡狼】間の地上階破壊の通信はシスルの力無くして成立はしなかった。
時が来れば全ての破壊担当に、
「待たせたな、ぶっ壊して良い時間だぜ!」
と元気に伝えて回るのが、今回のシスルの役どころであった。
そのシスルはアリアからの言伝を受けて、洋館奥へと侵入しつつある【睡狼】へと走った。
今回【睡狼】の頭脳役を担当しているのは、ロイ・アウレアである。ロイもまたアリアと同様、建築と土木に関する高水準の知識を活かして洋館破壊の司令塔となっていた。
自身は敵を誘い出しながら、アルバス・ロウルが繰り出す必殺の一撃で敵を吹っ飛ばす際の囮役を担当しているが、その間にも地上階破壊戦担当に対してはどの構造物に攻撃を集中させるのかを、早い段階で伝えて廻っていた。
「おっと、伝令さんが来たみたいだな」
何体目かのキメラゾンビを弾き飛ばしたところで、アルバスが駆け寄ってくるシスルに手を振った。
シスルに対する窓口役は、キメラゾンビへのジャマーや仲間の支援に専念しているアルマ・ヴァレンタインが担当した。アルマはシスル経由でアリアからの地上階破壊タイミングの細かな時間調整を聞き出し、ロイへと伝える。
その際、
「終わったら火酒と干物でヤケ酒祝勝会をしよう!」
とポピー、リーミルへの言伝依頼を忘れないアルマ。シスルは苦笑を返しながら、アリアのもとへと引き返してゆく。
「向こうは準備完了か……しかしこっちはまだ少し、やることがある。急がせないとな」
ロイは【睡狼】側の全体状況を俯瞰しつつ、地上階破壊の手順確認を頭の中で高速回転させていた。
一方、アルバスは小部屋で見つけた資料が余り使い物にならない事実に多少落胆していたものの、戦闘再開となれば再び高い集中力を見せている。地上階を徹底的に破壊し尽くすまで、アルバスの仕事も終わらない。
●
洋館地上階の比較的奥の方まで侵入している【睡狼】の面々。
その先導役として、ハル・チフが敵や罠を次々と発見しながら仲間達を率いる。
「敵の重要施設に乗り込むのですよ。罠を警戒して損は無い筈」
ハルは宣言通り、罠や待ち伏せを警戒し、隠し部屋内で待ち構えていた屍を片っ端から発見し、始末し続けていた。
大抵はハルの獲物として始末したが、中には手が足りない場合もあり、そんな時にはライオネル・ギシュムの強烈な突撃能力がハルを助けてくれた。
「ジャマーで分断されてる所為か、死霊術師を庇う様なゾンビは見当たらないな」
何体目かのキメラゾンビを吹っ飛ばしたところで、ライオネルは小さく肩を竦めた。ライオネルがここまで大胆に自身の接近戦能力を発揮出来ているのは勿論ハルの斥候能力の高さもあったが、同時にエルシー・サリバンが相棒の栗鼠の力を駆使した先行潜入偵察が威力を発揮していた。
ハルばかりに危険な目には遭わせられないと、栗鼠を通して懸命に敵の位置を探り出したエルシー。その努力の甲斐もあり、ジャマーの効果を受けた敵とそうでない敵を選別し、ゾンビに囲まれない様にと警戒しながら次々と鏃で仕留めていった。
「……もうすぐ、地上階破壊戦が始まるみたい」
本体栗鼠の視界を通して、ロイからの指示を受け取ったエルシー。
「もうあんまり時間はかけられないね」
資料を持ち逃げしようとしていた雑魚の死霊術師を自らの放った鏃で討ち斃したルルト・アーキスが、偵察から戻ってきたペットのシロを後方へ退かせながら、エルシーに振り向いた。
「この辺りの破壊位置候補は大体絞り込めましたから、アウレア様に伝えて参ります。ポピー様達の悔しさ、ここで存分に晴らして頂きましょう」
手近のゾンビへの対処をライオネルに任せつつ、サシャ・テーリングは踵を返した。ジャマーを掻い潜った敵への牽制も必要だが、地上階破壊戦が迫っているのであれば、破壊部位の最終候補をロイに絞り込んで貰う必要があった。
ルルトも書類や設備から得られる物は無いかと尚も物色を続けたが、特にめぼしい結果は得られない。であれば、後は最早、地上階破壊戦に全力を注ぐのみであろう。
いよいよ、地上階破壊戦が始まった。
【睡狼】の中でも構造物破壊に対する火力担当を仰せつかっていたテス・クラルスが、ロイから事前に指示を受けていた主要な柱に対して全力の魔力を叩きつける。
「お化けも共に消し飛ぶが良い!」
「テス師匠。何でそんなに涙目なんですか?」
不思議そうに小首を捻りながら、それでもエヴァン・ピオネロはテスと共に多くのゾンビを巻き込みながら高威力の攻撃魔法を分厚い壁面に叩きつけた。
地上階での戦闘は最終局面だ。残しておくべき柱も何も無く、一気に破壊を推し進めれば良い。
一方のテスもジャマーやアーケインテンペスト等を駆使した支援中心から、構造物破壊の主火力へと舵を切った。お化け屋敷大嫌いなテスにしてみれば、やっと巡ってきた総攻撃の瞬間だった。
「式場と間違えちゃったのネ。でもこれだけ暴れられるなら上等ネ」
駆け回る相棒の猪を尻目に、梅・雨陽も鏃の連弾を壁や柱に次々と叩き込んでゆく。途中で意味不明な落書きを残してきた雨陽だが、それもこの最後の破壊で全てが綺麗さっぱり消え失せるだろう。
その傍らでネーヴェ・グラヌローザは、未だ力が有り余っているポピーとリーミルを招き寄せ、自分で目星を付けておいた攻撃位置に最後の破壊力を叩きつけることを提案していた。
「おふたりの全力で一気に崩壊させれば溜飲も下がるかと」
ネーヴェ自身もまだ火力を残しており、ポピーやリーミルと一緒になって最後のとどめを刺そう、ということになった。
ロイの指示通り、【睡狼】の面々は洋館に相当な打撃を加えている。一方でアリアが指揮した他の冒険者達も破壊の嵐を巻き起こしており、洋館の耐久性は半ば以上が失われていた。
やがて、冒険者達は倒壊寸前の洋館を飛び出した。今にも崩れ落ちそうな憐れな外観の建物は、哀愁すら漂わせている。そこにポピー、リーミル、ネーヴェの三人が一斉に崩壊のトリガーとなる最後の一撃を加えた。
洋館は盛大な土煙を撒き散らしながら、盛大に崩れ落ちた。今まで指揮者の命令をジャマーに阻害され、隠し部屋から奇襲するはずが出られなかったゾンビ達が倒壊に巻き込まれながら這い出てくる。思った以上の数が残っていたことに驚きつつも、冒険者達は武器を構えなおした。残骸の中に資料が残っている可能性もあり、まだまだ仕事は尽きていない。
そして地下の存在を気に掛けていたフラムらが地下室へと通じる階段を発見した。フラムは仲間と地上の対処を継続するも、ここにいる筈の強敵を追う冒険者らは隠し通路の先へと進んでいく。
まだベラドンナもベアトリクスも討ち斃していない。地上で遭遇しなかった以上、地下への道の先に居る筈だった。
戦いは依然として続いているのである。
【3】キメラゾンビ生産工場の破壊 後編(執筆担当マスター:岩岡志摩)
●散開
キメラゾンビ工場へと突入した冒険者達は、地下に続く通路を発見した。
踏み込んだ先には待ち伏せの敵が多数。直ちにハリス・アル・ターミルとフェイサル・セイフが露払いを担うべく進み出る。
「破壊など生温い。灰燼に帰しましょう!」
魂を冒涜する真似をしたこの工場に、ハリスは激怒する。
「うむ、今回ばかりは怒りと共に剣を抜こう。最早それすらできぬ魂の為に」
フェイサルも歪な形で生命を弄ぶ術に嫌悪と義憤を隠さず、自分達の守りを強化する。
支援を受けたハリスは一気に加速して、キメラゾンビのただ中へと突っ込んだ。
開墾の竜爪とダマスカス鋼の祭刀がそれぞれ光の刃を纏って周囲を薙ぎ払い、攻撃を浴びたキメラゾンビが吠え声をあげる。
ハリスやフェイサルが敵を引き付けている間に、冒険者達は先へ進む。
「どうやらこの先はベラドンナ達の居住区画のようだ」
夜煌石の首飾りで視界を確保したSvart・Nattは、それまで探知スキルを行使して、地下の大まかな構造を調べていた。
先にいる敵の位置を調べ、仲間達に報せる。近い場所には反応が無い。
Svartからの情報をもとに、ランタンを所持する冒険者達が灯り役となって進む。
「被害を止める為、後顧の憂いは除きたいところだね」
セオドア・カザツキも、隠された場所の存在を念頭にスキルを使い、発見した入口を慎重に開錠した。
その先の闇の中には、ベラドンナら吸血鬼が居住していた区画があった。
居室の照明器具にはまだ油が残っており、ランタン持ちの冒険者達はそれに点火して明かりを確保する。
●資料処理
照明を確保できた事で、資料の破棄や回収を担うグループが、居室での活動を開始した。
「できれば残留思念感応で、資料の保管場所を探りたいところだけど……」
極力戦闘を避けてきたハーヴィは、倒した敵からそのような情報が得られなかったことを残念に思いながらも、エンライトで隅々までを照らしつつ調査に入る。
「僕は破壊する前に、死霊術関連の資料を選別しておきます」
キーゼは資料検索スキルを駆使して資料を集め、その内容を記憶力スキルで覚えていく。
「今後死霊術師が暗躍したときに、その対策としてこれらの資料の内容が必要だと僕は考えます」
なおキーゼが記憶した内容には、ベラドンナや配下の『ヤコブ様万歳とかが題材のポエム』的な記録も含まれていたとかいなかったとか。
「死霊術の資料は完全破壊ですか。使えそうな物は回収したいですが……」
当初エイル・アーティライトは自身の培った医学という点から、死体を扱う死霊術師の残した資料は貴重だと考えていた。
しかしエイルが目を通した資料は、研究資料というより作業手順書のような内容が多く、死霊術師の素質がある者にしか意味がない。医学的に役に立つ物は無さそうである。
「死霊術以外の情報が記載された資料があれば回収するわね~」
リンセ・クアルト・アポストㇽは、『それ以外』の資料を探し回る。
調べたところ、吸血鬼の居室では何かの取引書類も見つかった。
リンセはそういった資料だけを回収し、他のものは黒曜石の細剣で切り裂き、破壊していく。
「キメラ製造設備の設計図や関連する資料の類はなかったか?」
アデッサ・ハーレイは資料の内容を調べていた仲間達に尋ねるも、今のところそういった資料は見つかっていない。
アデッサは自身も資料探索に加わり、資料検索スキルを駆使して資料の回収と破壊を手伝う。
「ここから先は、俺が作成した溶液の出番だな」
ハーヴィと行動を共にしていたクルタルは、エンライトの光のもと、マジカルポケットに収納した溶液を取り出す。
クルタルはこの工場へ来る前に予め確保していた石鹸などの材料で、インクを溶かすことのできる溶液を作成していた。
重要そうなことが記載された書類をクルタルは手にとり、溶液に浸して文字を滲ませていく。
「長居は無用だぜ」
やがて調べものが終わり、冒険者達はアデッサの言葉に従い、居室を後にする。
エイルのフレイムゲイズが叩き込まれ、一瞬の閃光と爆発のただ中に、破片と化した資料や構造物が飛び散った。
●追撃戦
資料の処理を仲間に託した冒険者達は、逃走を図るベラドンナ達を追い続ける。
先の見えぬ通路が少し広くなったと思えば、キメラゾンビの群れが姿を見せた。直ちにオキナ・F・ブラッドリーとトウカ・S・ブラッドリーが排除に動く。
「数をこなすため一撃で首を狙います。行きますよ」
「それなら俺はトウカの強化と回復、トウカの死角のフォローに回るのが妥当だな」
攻撃に専念すると宣言したトウカに、オキナもその支援を明言する。
トウカが握る鋼の大太刀が淡い透明な光を纏い、そのままトウカは屍との距離を詰めていく。
一気に肉薄したトウカの大太刀が首を狙って跳ね上がり、屍の胸から喉にかけ斬痕を刻む。
トウカはオキナの支援を受けながら、なおもキメラゾンビとの交戦を続ける。
「キメラゾンビなどと、随分悪趣味な代物を作るじゃないか。排除するのが依頼にあるなら、否やはない」
ロドリック・アルカインは屍に対し特に敵愾心と言ったものはなく、それが任務だから排除するだけだ。
ロドリックの指定した方向に鉄灰色の鉄で出来た壁が組み上がり、側方から追いすがるキメラゾンビを阻む。
前に立ち塞がる屍達を打ち破り、なおも冒険者達はベラドンナ達の後を追う。
「ゾンビ工場……臭いでございますね……」
ハリーヌ・ヨツユビはランタンで仲間達の視界を確保しつつ、捜波を行使していた。
探知用のエーテルが波動となって走り、超聴覚とサーマルアイも併用して探索を続けていたハリーヌは、周囲の仲間に把握できた内容を報せる。
その情報をもとに冒険者達は慎重に進み、再びひらけた空間へと足を踏み入れた瞬間。
冒険者達の瞳に、紫色の光を発して落ちてくる、無数の軌跡が焼き付いた。
瞬間、地面を手荒く乱打する轟音があがり、破片混じりの噴煙を巻き上げる。
闇の向こうから攻撃を放った吸血鬼――ベラドンナ『2体』が眷属吸血鬼オリビアやキメラゾンビ達を従え、姿を見せる。
その直後、煙を貫いて無数の光弾が撃ち放たれ、雨と化してベラドンナ達に襲いかかる。
ハリーヌの行使したメテオライトだ。
ベラドンナ達は大きく飛び退き、攻撃をかわして着地するのと前後して、ベラドンナ達からの攻撃を凌いだ冒険者達が続々と現れる。
「チッ! ゾンビの操作は邪魔されているってわけね……!」
その一部は既に交代でジャマーを使い、ベラドンナ達のエーテルを乱し続けていた。
「お前達の待ち伏せは想定済みだ」
先が広間と聞いたゲルトは待ち伏せの可能性を考慮し、予め仲間達の装甲を強化していたが、それがダメージを抑えることに貢献したようだ。
さらにゲルトは光輝くエーテルの波動を周囲に放ち、仲間達の負傷を癒していく。
「「ここであいつらを食い止めて」」
声を揃えたベラドンナ達の言葉と共に、闇めいた霧が噴出し、周囲に真夜の暗幕を展開する。
ラティア・ミゼリアは濃煙炸弾をベラドンナの魔法と重ねる様に撃ち込んだが、強力な魔法に一方的に掻き消された。
「雑魚は炸光矢で散らします」
失敗に動じることなくラティアは取り巻きのキメラゾンビへ攻撃を加える。
「この剣にて助太刀します! アセット・アセトシソン参ります!」
アセット・アセトシソンは名乗りを上げると共に、屍に追撃をかける。
アセットの大剣【仏桑花】を斬り下ろすと、斬撃を浴びた屍は左肩から右わき腹にかけて斬り裂かれ、既に損傷を蓄積させていた屍は仮の生命を断たれて倒れ、沈黙する。
「こんなのダメです! 全部、ぶ……ぶっこわすです!」
工場内で目撃したものに憤っていたララノアは、ベラドンナと相対して怒りを露わにした。
支援で味方の各能力を底上げしたララノアは、自らも前に出て光塊を纏う竜石の祭刀を振り下ろす。
同じく仲間達の能力を向上させていたシルヴィア・A・カペルが真夜の暗幕に潜んだベラドンナを挑発する。
「ヤコブから死霊術師に鞍替え? 例の命令は下ったかな?」
ベラドンナの逃走を阻止すべく、シルヴィアが光輝を放つ六角形の柱を顕現させるも、ラティアの濃煙同様に真夜の暗幕に弾かれ光の柱は消失する。
「「残念だったわね。お馬鹿さん達。暗闇の中でせいぜい踊ってなさい」」
ベラドンナがオリビア達とキメラゾンビを足止めとして残し、逃走に転じようとしたとき、海神・江流が決定的な一言を言い放つ。
「ミモザの首を飛ばしたのが誰だったか忘れたのか?」
それはベラドンナにとって、最も許しがたい一言だった。
「――お前が!」
(ぶっ殺す)
ベラドンナは憤怒の表情で真夜の暗幕を飛び出し、もう片方のベラドンナがわずかに遅れてその後に続く。
「真っ先にこちらへ来た方が本物だね」
洞察スキルでその僅かな差を見抜いた江流は、周囲の仲間達へ情報を伝えた。
すさまじい速度で迫るベラドンナ達を、ギーゼラが妨害しに回る。
「これで嫌がらせをして、ぶん殴るとしましょう」
ギーゼラは閃光塗弾を取り出すと、ピンを抜いてベラドンナ達へと投擲する。
片や怒りで、片や焦りで我を忘れたところで、閃光をぶつけられたベラドンナ達は一瞬その場に立ち止まる。同時に幾人かが母蜘蛛糸のロープを投じ、ユズが巴屋の高級醤油を『本物』のベラドンナへと投擲する。
閃光に不意を打たれたベラドンナは、避けることもできず醤油入りの容器を長杖で叩き割った。蜘蛛糸のロープも殆どは弾かれ、中には隙をついて付着に成功したものもあったが、吸血鬼を引きずり出すには強度が足りず、すぐに断ち切られる。
だが醤油の一部はベラドンナの身に付着し、ユズは仕事中の口調で仲間達に報せる。
「今醤油の匂いがする方が本物です」
「ふざけた真似を!」
『偽物』のベラドンナがゆずへ怒りの矛先を向けるも、戦術眼で状況を把握していたエル=バ=ノイアンが割って入る。
「俺の仕事は仲間を守ることだ。させはしない!」
叫びと共にノイアンが攻撃を防ぎ止めると、リリリリスがノイアンと入れ替わるように前に出る。
「私の取って置きの香水ですわ!」
リリリリスはノイアンに向かってきたベラドンナに向け、趣味で調合した香水『フレグランス』を投擲する。
「私が円舞曲のお相手をしてさしあげますわ!」
「アタシを忘れてるんじゃない!?」
そのままリリリリスが『偽物』と対峙する所へ、ベラドンナ達を援護すべくオリビアが突っ込んでくる。
天井を駆けるオリビアに向け、それまでキメラゾンビ達の掃討に勤しんでいたキリクが竜骨の魔弓の弦を引き絞る。
「これの重力で天井から引きずり落とせないか、試してみるか?」
重力を収束させた矢が射出され、炸裂した重力波のエーテルがオリビアを絡めとろうと試みる。
だがオリビアはキリクのエーテルを振り払い、頭上を駆け抜けた。先を読んでいたデイジー・ロックウェルは跳躍してオリビアの前へと体を割り込ませた。
「アナタがこう動くと読んでいたわ」
掲げたダマスカス鋼の盾や、自身の身にエーテルを収束させ、瞬間的に防御を高める。
「キャハハ、このまま切り刻んでやるよォ!」
哄笑と共にオリビアの双刀が三閃し、デイジーは3度切り裂かれるも反撃の一閃がオリビアを切り裂き、血を噴出させる。
地に降りたオリビアに向け、それまでランタンで味方の視界を確保していたナキルも追撃をかける。
「オリビアっつったか、好きにはさせねェぜ!」
そのままナキルは雷神剣/レグ・フルグスを行使。
「テメェもオレの武勇伝にしてやるぜ!」
叫びと共に、蒼剣アルサリアより必殺の一閃が繰り出され、オリビアの身を深々と切り裂く。
「この、アタシが……?」
オリビアは討たれ、塵と化し消えた。
「醤油の匂いが本物で香水の香りは偽物ということかよ?」
サイラスは超嗅覚でベラドンナ達を識別すると、ルアンナ・ミュラーやベアトリーチェ・カロッサと共に、ベラドンナ達の包囲に移る。
「アタシは天井に張り付いて、上から奇襲を掛けてまた昇るを繰り返します」
ベアトリーチェは斃れたオリビアのお株を奪うかのように床から壁へ、壁から天井へと駆け上がる。
「本物かどうかは攻撃方法で判別したいところですが……」
天井を足場にしたベアトリーチェは眼下のベラドンナ達に向け、食用野草オイルをふりまく。
「今度こそベラドンナを燃やすんです。見敵必殺なの」
ルアンナは冷え切った瞳でベラドンナ達を見据え、ベアトリーチェの撒いたオイルに合わせる形でフレイムゲイズを、サイラスも別方向からベラドンナ達に向け攻撃を加えた。
ルアンナの放った炎珠が炸裂し、別方向よりサイラスからエーテルを収束させた閃光が迸った。
何かが割れる音と共に、連撃を浴びた『ベラドンナ』のうち、片方の形が崩れ、黒甲冑に身を固めた吸血鬼ベアトリクスの姿に戻る。
ルアンナの炎を振り払ったベラドンナは、オリビアが倒されたことを察すると、不利を悟り今度こそ逃走に移る。
「ベアトリクス。足止めは頼むわよ」
「承知しました」
ベアトリクスとベラドンナは短く言い交わし、異なる方角へ走り出す。奥へ続く通路へと駆けるベラドンナ。冒険者と主の間に立ちはだかるベアトリクス。
それを見逃す冒険者達ではなく、ルベア・ベルニと江流がホライゾナルジャンプをそれぞれ行使。
空を飛べるとさえ言われたシーフの特殊な足さばきが、妨害するベアトリクスすらすり抜け、ルベアと江流はベラドンナに追いついた。
「このまま退路ルート塞ぎつつ、攻撃を続けるわよ」
「たった2人で!」
ルベアの竜爪の短剣が突き出され、同時に江流も攻撃を加える。逃げ足を止められたベラドンナは、2人を無数の光弾で打ち据えた。しかし、一撃で倒れはしない。
「筆頭眷属の名にかけて、行かせるものか!」
「皆さんを先へと進ませるため、押し通ります」
そしてクローリカが身を挺して立ち塞がるベアトリクスに向け、ダマスカス鋼の盾を構えて吶喊し、ベアトリクスを吹き飛ばした。
「既にマーク付与は終えたわ。まだ逃げるつもりなの?」
エミリア・シバは既に双波を行使して、ベラドンナ達への追跡の手立てを終えていた。完全に振り切られない限り、もう小手先の技で逃げ隠れはできまい。
エミリアは疾風足でクローリカが開いた道を駆け、一気にベラドンナのもとへ到達すると、ベラドンナの身を立て続けに斬り裂き、血を噴出させる。足止めに3人目が加わり、ベラドンナの表情が歪んだ。
「冗談じゃ――」
逃げ切れぬ間に、他の冒険者達も本物のベラドンナに殺到して押し包んでいく。
「お姉……様……」
死闘の末にベラドンナは塵と化し、消滅した。
●終わり
ナンチ・ヤジナイは地下通路の先にある、工場外で警戒に当たっていた。
主だった死霊術師や屍達は工場内で待ち受けていたのか、今のところナンチは敵に遭遇していない。
ベラドンナ達を倒し、その先の地下通路を抜けてきた冒険者達と、ナンチは合流する。
「逃げてきた奴を見なかったか」という問いに、ナンチはこう答えた。
「僕が見回っていたこちらには来なかったですね」
ナンチの言葉は、逃げ延びた敵がいないだろうことを示していた。
【2ー1】ウィリアムの偽結婚式。グリゼルダ及びキメラゾンビ軍団の誘引・足止め(執筆担当マスター:空色みなも)
※【2ー1】と【2ー2】は同時進行です。一つの戦域で行われた偽結婚式~戦闘終了までを、それぞれ別視点で描いています。
●
木枯らしの吹く荒野に、ポツリと佇む古神殿。
そんな辺鄙な土地は今、数多くの人々で賑わっていた。
見れば、人々は揃ってフォーマルな服装に身を包んでいる。
そう、この古神殿では結婚式が開かれようとしているのだ。
「さあさ、新郎新婦の入場だよ。盛大な拍手で出迎えておくれ」
ルチル・プルメリア・グレイハーツの司会進行に応え、参列者の間から割れんばかりの拍手が起こる。
「うう、どうして私が……」
そこで式場に入って来たのは、花嫁姿のレイウェスト・バルダスだった。
恥じらいで朱に染まった頬は、レイウェストの美しさを一層、引き立てている。
だが、レイウェストは男だ。
「やあやあ、みんな。今日は僕たちのために、ありがとう」
同時に式場に現れたのが、新郎姿のウィリアム・リーンエス。
レイウェストにウェディングドレスを着せた諸悪の根源――ではなく、この度の偽装結婚式の立役者である。
この結婚式はウィリアムの眼球に恋しちゃった死霊術師、グリゼルダを誘き出すための罠なのだ。
ゆえに花嫁役がレイウェスト以外にたくさんいたとして、何もおかしいことはない。
「なんで俺が花嫁の恰好をするんだ?」
「俺だけ恥ずかしい思いをしてたまるか、お前は道連れだ」
花嫁役として【綺譚】のアルフィー・リッパーやアーシェル・G・クラインといった冒険者たちの姿もあった。
なおこの二人も男だが、別に何もおかしいことはない――はずだ。
「目立てばその分、敵の目から殿下を守れるわ」
男二人を説得するように、ブライズメイド役のルフィナ・ヴィオレットが建前を力説する。
本音は二人の花嫁姿を見たいだけだが。
「まあ、女子たちを危険な目にあわせるよりは……結局、戦うのだから変わらないな」
一瞬、納得しかかったアルフィーであったが、やはり釈然としない思いは残るのだった。
「ふふっ、とても人目を惹きますわよ」
「うん、似合ってる似合ってる」
フィリスティア・リュナ・ブルーメルティスやクレア・エクレールといった他の【綺譚】の女子組もブライズメイドとして花嫁のそばに控えている。
「これで『花嫁に嫉妬する悪魔』はやってくるかしら?」
アンネエルカもそうしたブライズメイドの一人である。
「くるんじゃないですか、きっと」
同じく【綺譚】のナハト・シュライバーは男『なのに』燕尾服を着ている。
なぜ花嫁衣装でないのだろう――と思ったとしたら、感覚がズレてきているのだろう。
「日頃、世話になってるし、手伝い位は構わねぇ……けど、マネキンやるのは聞いてねぇ!」
「よくお似合いですよっ」
シニング・W・テュパラはマリイ・パルティス作、ラブリーデザインドレスを着せられ、会場にいた。
「やるからにはきちんとやっけどよ……」
そうは言いつつ、テュパラは人目を気にして、耳を隠すための帽子を目深に被り直している。
「私のドレスを選んでくださっている方もいて大満足です」
マリイは自作のドレスを会場の貸衣装に加えてもらい、販促を行っていたのだ。
商魂たくましい。
「王子×皇子のご結婚なんて、まるでドゥジンシの世界ですね……って聞いてます?」
「これはもうダメかもわからんね……」
腐腐腐――と当て字でもつきそうなニヤつき方をする東雲・更紗を見て、ブレイドが肩をすくめる。
そんな中にあっても、ブレイドは作戦の要となる、神殿の結界が破壊されないか気にかけていた。
結界は神代の遺物なので、グリゼルダには壊せないだろう――というのがウィリアムの見立てではあったが。
そんな悲喜こもごもを交えつつ、ルチルの司会で結婚式はつつがなく進んでいく――かのように思われた。
「敵襲ですの、ですの!」
式の参列者として外の警戒にあたっていた――という文章がすでにおかしいが、とにかく【銀撃】のレイラ=ルナフィニスにより警鐘が鳴らされる。
神殿の周囲を囲む荒野は見通しがいいので、視力と索敵能力に優れたレイラによる警戒は有効に働いていたのだ。
「おいでなすったようだね」
ルチルも感覚共有した栗鼠、ラトの分身を外に放っており、感知した異常を【皇護】の仲間に伝える。
どうやらグリゼルダは神殿の敷地の外縁部に到達したようだ。外に向かった一部の冒険者がグリゼルダを足止めしており、神殿にはキメラゾンビのみが向かっているらしい。
「グリゼルダが花婿を攫いにやってきたようだね」
自身が狙われているという状況にも関わらず、ウィリアムは楽しげな笑みを浮かべて外へ飛び出していく。
ルチルは射撃や治療術で援護をしながら、ウィリアムの少し後ろについて駆けていった。
「レイウェストしゃま! 自身の安全を第一にお考えください!」
動転のあまり台詞を噛んでしまったトーラは、フォーマルのパンツスーツで参列していた。
花嫁姿のレイウェストと並んでいると、気分はまるでお婿さん――などと書いてはみたが、トーラは女である。
「せめてゾンビの相手ぐらいはさせてくれ」
「殿下、その前に着替えを」
レイウェストがウェディングドレスを着たまま駆け出そうとするものだから、ベールを持っていたベルク・オスマットがそのまま引っ張られて移動する形になっている。
「悪いがその時間はないようだ」
そう言ってレイウェストはベールを脱ぎ捨てると、ドレスの裾を破いてミニ丈に。
スラリとした美脚を晒し、見る者に溜息を――だが、繰り返しになるがレイウェストは男だ。
「せっかく着替えを用意していたのだが、致し方ない」
ベルクはそのままレイウェストに付き従い、神殿前に押し寄せてきたキメラゾンビの群れと交戦を始めたレイウェストの背を守る。
「レイウェスト様!」
今度は噛まずに言えたトーラにより、レイウェストに襲い掛かるキメラゾンビに光弾の雨が降り注いだのだった。
●
「新郎はお祝いに爆破すると法で決まっている!」
樽ジョッキ片手に神殿の屋上に陣取り、声高に主張するのは【爆殺】のロウトフェダーだ。
「だが遺憾なことに、新郎は早々に手の届かぬ先へ逃げてしまった! 仕方ないのでキメラゾンビだけ爆破する!」
どうやらこのロウトフェダー、もとはウィリアムを巻き込む算段だったようである――恐ろしい子。
「結婚おめでとう!」
そうしてロウトフェダーの放った矢がキメラゾンビの群れの中で次々と爆散していく。
「末永く幸せを炸裂させていくといい。これが君たちへのライスシャワーだ」
同じく【爆殺】として参加のサロも神殿の屋根上から炸裂する矢を雨あられと降らせている。
「くっ、王子の周りが護衛で固められてさえいなければ……!」
ポコ・アルデバラッドもどさくさに紛れてウィリアムを巻き込むつもりだったようで、それを実行しては言い訳の効かない状況に歯噛みしつつ、八つ当たり気味にキメラゾンビへ矢を炸裂させている。
なんといっても、この結婚式はポコにとっては許しがたいものだった。
なぜならポコは従者×皇子派だったから――なんのことかは分からないほうが幸せかもしれないが。
「戦闘が神殿内で起こらずよかったわい。せっかくの飯が爆発させられずに済んだしの」
そんな【爆殺】の射手たちを護っているのが、ジョン・ベアーである。
しかしジョンが仲間のいる屋根上ばかりでなく、神殿の中をチラチラと気にしているのは、料理の安全を気にしてのことだろうか。
「流、星、射ァ!」
「よしきた」
ロウトフェダーとサロが、相棒として連れた動物と力を合わせ、極太の一射で戦場を貫く。
傷ついていたキメラゾンビの何体かが、これにより吹き飛んだ。
それを確認したサロは、反動の負傷が続く間を狙われぬよう、煙幕を張るのだった。
「うおっ、危ねえって!?」
花嫁姿のまま敵の迎撃に出ていたアルフィーのすぐ横で、【爆殺】による絨毯爆撃が爆ぜていく。
アルフィーは持ち前の身のこなしで爆発を潜り抜けて、キメラゾンビに三連撃を浴びせていた。
そして【綺譚】のもう一人の花嫁はというと――。
「俺が遊んでやるよ!」
もう一人の花嫁こと、アーシェルには大きなモテ期が到来していた。
そう、アーシェルの周りに大量のキメラゾンビが押し寄せていたのだ。
挑発による成果もあるが、引きつけのためと、そこはかとなくいい匂いを漂わせているのが効いたらしい。
「くそっ、動きづれぇな!」
キメラゾンビに集られたアーシェルはドレスの裾を破ると、キメラゾンビたちを大太刀でまとめて薙ぎ払った。
「お邪魔虫さんはお呼びじゃないの、ごめんなさいね!」
大型キメラゾンビを突撃で吹き飛ばしたアンネエルカが、足止めのために周囲へプレッシャーを張り巡らせ、敵の分断を図る。
「花嫁にはお触り厳禁だよ!」
クレアが花嫁衣装のまま立ち回るレイウェストに駆け寄り、キメラゾンビたちを爪で薙いだ。
「汚い手で殿下に触れるな、邪な目で見るなぁあ!」
と、叫びたくなるのをナハトはぎりぎり堪え――られなかった。
ナハトは矢が放つ貫通性の衝撃でキメラゾンビを貫きつつ、【綺譚】の仲間へ障害物を設置すべき場所を指示していく。
「任せてくださいませ」
その指示に従い、フィリスティアは鉄壁や渦巻く雷光を召喚する。
そうした障害物で牽制や移動阻害をしつつ、キメラゾンビを魔法で苦しめるフィリスティア。
今もフィリスティアの放った霧状のエーテルで、一体のキメラゾンビの目が眩んだところだ。
「そのゾンビは隔離するわ、少し離れてちょうだい」
ルフィナもナハトに指示されたキメラゾンビを光の壁で囲い、封じ込める。
光の壁が構成した柱の中で、勢い余ったキメラゾンビが頭をぶつけたか、ゴツンと音がした。
「こっち、こないでくださ~い!」
光り輝くエーテル球が、【銀撃】の御邑 奈月によりキメラゾンビの群れの只中に出現する。
エーテル球はキメラゾンビたちにまとわりつくことで、その足を止めた。
前を行くキメラゾンビに急ブレーキがかかったものだから、後ろを進んでいたキメラゾンビが追突を起こしている。
「僕がいるから大丈夫だよぉ~」
「そう、わたしたちがいますわ」
御邑 都とルナフィニスはそんな奈月を囲むように布陣していた。
ルナフィニスは奈月が足を止めたことにより渋滞を起こしているキメラゾンビたちを、矢の生み出す衝撃で貫いていく。
「いくよぉ~」
前方に出て迎撃を行う都は、おっとりした口調ながらも、大太刀を力強くキメラゾンビへと振るっている。
燃え上がるように輝いた大太刀により、都が研ぎ澄まされた一撃を放って怯ませたキメラゾンビへ。
今度は奈月が魔法の矢を見舞うのだった。
●
神殿の結界による妨害と、グリゼルダ本人が戦闘中で制御まで気が回らないこともあり、キメラゾンビはほぼ無秩序に冒険者たちを襲っている。
それでもキメラゾンビは一体一体が強力であり、数も多いため、戦いは激戦となっていた。多くの冒険者に援護されたレイウェストも、自ら剣を振るい戦っている。
「誰一人、脱落なんかさせません」
ここで皇子と王子を失う訳にはいかないと、フェミナ・ノ・リビディーネは辻治療を行って回り、戦線を支えた。
特に、隊を組んでいても回復手段を用意してない者たちにとっては、遊撃的な治療の担い手はありがたい存在だった。
「皇子様も遠慮なくどうぞ。癒すことが私の喜びですから」
「ああ、助かる」
フェミナはレイウェストのもとへも駆けつけ、その治療にあたっていた。
「これはね……間違いない、予感というか確信があるのよ――」
そんな中、花嫁に扮したエルケ・シャルフが、同じく花嫁であるレイウェストへと近づく。
有事の際に備えた護衛――というのは建前で。
「売れる、ってね……!」
そう、エルケの目的は隙を見てレイウェストの花嫁姿をスケッチすることにあったのだ。
「く、戦闘中でさえなければ……」
レイウェストは顔を真っ赤にしつつも、手にした虹宝剣でキメラゾンビを叩き切るのに忙しく、エルケを止める暇もなかった。一応、最後の砦として護衛の任も果たしているので強く言えない所もある。
「アン、ドゥ――」
さらにもう一人、花嫁衣装で冒険者たちの治療にあたっていたファーシル・クリスティアが、殴り合いに参戦する。
ファーシルがゆるやかな踏み込みから一転、最速の踏み込みを行うと――。
「ドルァアアアア!!」
思いっきり凄んだファーシルにより、全力の突きがキメラゾンビに放たれた。
これぞ護気・幻耀剣奥義「御綿・亜素刃世」である。
「やれやれ、これほど一方的な愛の押し付けなんて、もし王子以外が被害者でも見過ごせない程だよ」
そしてこちらは花婿姿、ザスキアが果敢にも大型のキメラゾンビに挑みかかっていく。
花婿が巨大な鉄斧でキメラゾンビの太い脚を穿つ姿は、女性ながらに見ていて中々に雄々しい。
「運んだ岩もバリケードとまではいかなかったけど、遮蔽くらいには使えるな」
こうした戦場には、テテリカが格納用異空間を用いて運搬した岩が所々、並んでいた。
テテリカ自身、そうした岩を遮蔽にして魔弓による射撃を行っているし、他にも遮蔽として岩を利用する冒険者はいる。
「グリゼルダが殿下から狙うようなら、諜報員のよしみでリスの木の仇を討ちたかったのですが」
レイウェストの護衛の合間に、【帝諜】のセロンガード・シュタインドルフはグリゼルダの動向を窺っていた。
「グリゼルダ、王子のほうにご執心みたいだ、ね」
同じく【帝諜】のティトも、レイウェストの護衛としてキメラゾンビ相手に立ち回っていた。
ティトが今回ひっそり設定した目標は、攻撃を一度も受けないこと。
そんなティトが目前のキメラゾンビに集中している間に、背後から迫るもう一体のキメラゾンビが――。
「ティト! ――ええい!」
不意打ちのために隠れていたセロンガードが、それを見てたまらず一射を放つ。
キメラゾンビの知覚外からの一撃は、そのまま頭蓋を貫通し、その動きを止めさせたのだった。
「攻撃に集中しますので、しっかり護ってくださいましね?」
「ああ、分かっているさ」
更紗はブレイドに護られながら、天地のエーテルをかき集める。
数秒の後、更紗から放たれた極太光線の威力は絶大。
光線が通った跡には、何体ものキメラゾンビが深い傷を負っていた。
「討ち漏らしはあたしらに任せな」
「キメラゾンビが私のドレスの前にひれ伏すのは、きっと美しい光景でしょう」
そこに飛び込んだテュパラが縦横無尽に駆けながらキメラゾンビたちに攻撃を加えて回り。
マリイが光弾の雨を降らせてキメラゾンビをまとめて叩いていく。
「結婚式とはこうも面妖な催しだったか?」
霊木から仕立てられたゴブリアの木刀がオーラをまとい、キメラゾンビたちをまとめて飲み込んだ。
ゴブリアが周囲を見回して状況を確認すると、冒険者たちの奮闘の甲斐あって、キメラゾンビは着実に数を減らしつつあった。
「守る、ってのも大変ね」
ミツキ・アインホルンは、魔術師ながらレイウェストとキメラゾンビの間に立ち、レイウェストを守ろうと奮闘中だ。
「この先は通さないわ」
時にミツキはバリアを張ることでキメラゾンビの攻撃を自ら受け止め、レイウェストがこれ以上、傷つかないように心を配っていた。
今回の結婚式により、色々な意味でレイウェストが傷ついたことには目をつぶるにしても。
「祝い酒だ、たんと呑めよ!」
という声がしたほうを見やれば、ヴァンゲルス・ロッドがドラゴン型キメラゾンビの背にまたがり、その顔に蒸留酒をぶっかけている。
こうした騒ぎはいつまで続くのだろうか。
無論、グリゼルダが死ぬか退くまで――。
【2ー2】ウィリアムの偽結婚式。グリゼルダ及びキメラゾンビ軍団の誘引・足止め(執筆担当マスター:おおくまねこ)
※【2ー1】と【2ー2】は同時進行です。一つの戦域で行われた偽結婚式~戦闘終了までを、それぞれ別視点で描いています。
●
「それでは、新郎新婦は向かい合って」
偽結婚式もいよいよ佳境となり、司婚者役を担当しているハッタ・ムラムラは、厳かに告げた。結婚式の作法はバッチリ予習してきたので、なかなか堂に入った姿だ。
「結婚式で敵を誘き寄せるのは分かりますが、皇子に花嫁衣装を着せる意味は一体……」
「殿下が王子とご結婚……????」
スィーリーンはレイウェストの花嫁衣裳姿に首をかしげていた。アウレーリア・フォン・ネーベルベルクはウィリアムを睨み付けている。怒り心頭である。
「お美しゅうございますレイウェスト殿下!」
一方、アルベルト=V=シュタールシュヴェーアトはレイウェストの美しさに感嘆の声を漏らしていた。
「王国貴族として王子の結婚式に参列出来るのは光栄なことです」
(衣装や諸々を覚えておいて後日の創作活動に生かさないと!)
シェルリア・リトヴァールは仲良く(?)並んで立っている二人を見て、拳を握った。彼女はウィリアムとレイウェストの雄姿を目に焼き付ける為にここに来たのだ。そして、全部終わった後にドゥジンシを書く。
「では、ウィリアム王子。汝は病める時も、健やかなる時も、花嫁を愛することを誓いますか?」
「誓い――」
ハッタの言葉を受けて、ウィリアムがそこまで言いかけた時だった。
「――!」
会場がざわつく。超視覚や超聴覚などを駆使して索敵にあたっていた冒険者たちが、敵の接近を感知したのだ。
【勇牙】や【兵】ら、グリゼルダの足止めを担当する冒険者たちがいち早く武器を取り、外へと飛び出して行く。もちろん着替える時間なんてなかったので、みんなそのままの格好で。
●
「ウィリアム! ウィリアム! ウィリアァァァム!!」
グリゼルダは巨大な竜型ゾンビの背に乗り、王子の名を連呼していた。服装は以前出没した時と同じ黒いウェディングドレスだ。神殿から飛び出したグリゼルダ対応班の冒険者達は、押し寄せてくるグリゼルダとキメラゾンビの群れに向かって一直線に進んでいく。
(まだだ)
神殿建物から200mほど離れた、結界の外縁部。荒野の岩陰に身を隠し、グリゼルダを待ち構えていたセリオス・オーガストは深く息を吐いた。北の方から地鳴りのような足音と、女性の喚き声が近づいてくる。セリオスはあえてグリゼルダの先をゆくゾンビ達は見逃し、本命の獲物が近づくのを待つ。
「さあ、キメラゾンビ達! 神殿から出てきた連中を皆殺しにしなさい!」
主の命を受け、キメラゾンビ軍団の大部分が彼女に先行して神殿へと進撃していく。グリゼルダの元には、彼女が乗り物にしている大型のドラゴン型ゾンビと、数体の中型キメラゾンビ、そして全長数メートルはあろうかという巨人のゾンビだけが残った。
そして数秒後、神殿を見つめるグリゼルダの視線の先で、先陣を切って迎撃に出てきた冒険者たちと大量のキメラゾンビが交戦を開始する。
「みなさん僕の近くに! 強化魔法を使います!」
【兵】のドローミは近くの味方に声をかけた後、勇気の魔法を放った。淡い光に包まれた仲間たちが得物を手にゾンビへと斬りかかり、道をつくり、迫り来るグリゼルダを迎え討たんと進んでいく。
「ウィリアム王子殿下、強化魔法をかけますわ。どうぞこちらに」
その後方では、続いて神殿から駆け出して来たウィリアムと護衛の冒険者たちを呼び止め、レティシア・レインフィールがエーテルの波動を解き放った。波動を浴びた冒険者たちはエーテルが急激に増幅され、蒼い炎に包まれる。
「まあ! 古いけど素敵な神殿ね! 待っていてウィリアム! 今会いに――あら?」
屍竜の背に乗ったまま神殿を目指していたグリゼルダは頓狂な声を上げた。今まで思い通りに動いていた屍竜の速度がガクン、と落ちたのだ。
「今だ!」
その瞬間、巨大な光の矢がグリゼルダへと真っすぐ飛んできた。グリゼルダが神殿の結界に足を踏み入れ、死霊術の力が弱まる瞬間――セリオスはこの一瞬の隙を狙っていたのだ。
「あーれー!」
グリゼルダは光の矢の直撃を受け、屍竜の背から真っ逆さまに落下した。セリオスは無防備に落下していくグリゼルダに向けて二発目の光矢を放つ。しかし、グリゼルダは巨人ゾンビを盾にして矢を防御し、華麗に着地した。
「この人がグリゼルダ……! そのドレス、似合ってないですよ!」
着地の瞬間を狙い、セリオスと同様に待ち構えていたキリアン・フィッツジェラルドがグリゼルダへ閃光塗弾の塗料袋つきの矢を放つ。咄嗟に払いのけようとしたグリゼルダの手が塗料袋を破裂させ、ドレスに派手な染みが広がった。
「私のドレスを……! 許さないわよ!」
神殿方向へ抜けていくキメラゾンビの群れはそのままに、味方の援護を受けながら敵軍を搔き分けるようにしてグリゼルダとの距離を詰めていた【兵】の面々が、ついに結界の端へと辿り着く。グリゼルダを守るキメラゾンビたちが咆哮を上げ、大乱闘が始まった。
「あれがグリゼルダか」
少しでも高い位置から射線を確保しようと岩の上にのぼり、弓を引いたのはシューターであるアスティン・ヴェルラインだ。彼の放った矢は前衛の仲間に襲い掛かろうと動く人馬のようなキメラゾンビに突き刺さった。
「ウィリアム! ずいぶんとガラの悪い連中がお友達のようね!」
グリゼルダは冒険者達を睨みながら、誇示するように鎌を掲げた。さらに死せる竜と巨人が咆哮を上げ、冒険者達を威嚇する。
「ウィリアム王子の花嫁さんはこのネフリですぅ! お邪魔虫は帰ってくださぁい!」
【勇牙】のネフリティス=N=クリスタロスは荒野に仁王立ちし、ひらひらとウェディングドレスを見せびらかした。
「この泥棒猫がァ!」
激昂したグリゼルダはネフリティスへと突進する。慌てて躱そうと身を捻るネフリティスだが、反応速度がわずかに足りない。グリゼルダに殴りつけられたネフリティスは物凄い勢いで後方へと吹き飛ばされていった。しかし、頭に血が上ったグリゼルダは、自分が冒険者たちの只中へと誘い込まれていることに気が付かない。
「綺麗な花嫁さんなのだ~! 指輪とブーケをどうぞなのだ!」
リングボーイの衣装に身を包んだ大福と相棒の粽は、グリゼルダへと小さな箱を投げつけた。
「あら、指輪ですって?」
「綺麗な花嫁」という言葉に反応したグリゼルダが超人的な反射神経で箱を片手キャッチすると、箱が開き、内側に仕掛けられていた閃光塗弾のピンが抜けた。
「ちょっと、罠じゃないの!」
グリゼルダはすぐさま箱を放りだし、後方で閃光が弾けた。噛みつかんばかりの勢いで喚きながら、大福と粽を追いかけるグリゼルダ。
「全く、油断も隙もな――ウィリアム!!!」
グリゼルダの動きが一瞬止まる。いつに間にか、前方にウィリアムが出現していたのだ。
「嗚呼、会いたかったわ!」
ウィリアムに突進したグリゼルダは、一瞬で間合いを詰めると、容赦の無い拳打をウィリアムへと叩き込んだ。しかし手応えはなかった。幻だからだ。
「幻覚ですって!?」
「かかったね」
【兵】のキオルティスが細剣でグリゼルダの背を突き刺した。超人的な反射で急所への直撃を避けたグリゼルダは大鎌でキオルティスを薙ぎ払う。だが、すぐさまフリーダ=ブロムヴィストとコルリスがグリゼルダに襲い掛かり、キオルティスの退避をサポートした。
「とても迷惑な方のようなので退治しますね。巨乳美人でもヤンデレはちょっとなあ、と啓示にもありました」
「セリオスさんの隣に座りたかったのに! 身体くっつけたりしたかった! おかげで式に乱入されずに済んだけど!」
大剣と槍の一撃を受け、ドレスに穴を開けられたグリゼルダの顔が怒りに歪む。その瞬間、グリゼルダの側面から男の声がした。
「他人の瞳狙うんだ……もちろん奪われる覚悟あるよな」
一気に距離を詰めたケン・Z・ブラッドリーが、グリゼルダの目を潰さんと暗針で襲い掛かる。洗練された無拍子での一撃だったが、グリゼルダは針を額で受け止めた。
「女の顔を狙うなんて、なんて野蛮なのかしら!!」
グリゼルダは額から盛大に血を噴き出しながら大鎌を一閃した。あわよくばカウンターを狙ったケンだが、グリゼルダの強烈な鎌の一撃を受け止めるのが精いっぱいだ。
「素敵なドレスね。でも供回りがみんな裸なのはいかがなものかしら?」
アウレーリアは重力場を召喚し、キメラゾンビ達を拘束しながらグリゼルダへと問いかける。
「この子達は参列客ではないから大丈夫よ! 私の式の前にちゃんと帰らせるわ!」
あまりにも噛み合わない会話にアウレーリアは溜息を吐く。
「グリゼルダ! これ以上レイウェスト殿下には近寄らせないぜ!」
アルベルトはグリゼルダへと駆け寄り、稲妻のような斬撃を叩き込んだ。まだ喋りたかったらしいグリゼルダはムッとしながらもすかさず反撃し、アルベルトを遥か彼方まで吹き飛ばした。
●
「相変わらずやりたい放題だね、グリゼルダ」
護衛の冒険者とともにようやく追いついてきた本物のウィリアムが、グリゼルダと対峙する。その顔にはいつもと変わらぬ爽やかな笑顔が張り付いていたが、その片眼はスカーフで覆い隠されていた。
「あらウィリアム、どうして貴方は眼をスカーフで隠しているの? その美しい瞳こそが貴方の魅力なのに!」
「お褒めに預かり光栄だが、僕の瞳は愛の証としてもう花嫁と交換してしまったのさ! 残念だったね!」
ウィリアムは高笑いした。もちろん嘘である。【勇牙】のヴィナスの発案で、ウィリアムはグリゼルダを挑発する為に一芝居打ったのだ。
(さて……どう解釈するかな)
「なんですって! 許さないわ、ウィリアム! その瞳は私のものよォ!」
ヴィナスが見つめる中、激昂したグリゼルダはウィリアムへと突進。その顔面に貫手を放った。ウィリアムは身を引いて回避したが、衝撃でスカーフが外れ、ウィリアムの素顔が露わとなった。
「あら、ちゃんと揃っているじゃない。私の気を惹きたかったのかしら! 可愛いわね!」
「うおお! おっぱい!!」
「は?」
グリゼルダの意識が弛緩した瞬間。野獣のような影が突っ込んできた。獣の名はハヤト=ガラン=ヴォルファング。エーテルを迸らせながら一瞬で間合いを詰めたハヤトは欲望のままに、禁断の楽園へと両手を伸ばす!
「獲った!」
「なんて汚らわしい! 去勢してあげるわ!」
この一手に賭けた好色漢と死霊の力を身体能力に極振りした乙女の極限の攻防は、後者に軍配が上がる。ハヤトの手はグリゼルダの肩のあたりを掠め、ドレスを塗料で汚すだけという結果に終わった。そして、突然のセクハラに激怒したグリゼルダはハヤトの股間目掛け、第三の腕を振るう。
「くそ、失敗か! やべえ!」
ハヤトはこんなこともあろうかと用意していたスキルを駆使して素早く身を翻し、全速力で後ろに後退していった。
「きぃいいい! 逃がすものですか――!」
グリゼルダは脱兎のごとく逃げ出したハヤトを追おうと、ぐりんと向きを変えた。
「――死を受け入れるのが怖いのか? 王子の瞳を抉っても、アンタの恋人は戻らない。死者は生き返らない」
グリゼルダがハヤトだけを見ていた瞬間を狙い、ナハティガル=ラーが背中からグリゼルダの心臓を串刺しにせんと突きを放った。剣はグリゼルダの背中を抉り、鮮血が噴き出した。だがその刃は心臓までは届かなかった。
「何を言っているの? アランならここにいるじゃない! おかしな人ね!」
正論がさっぱり理解できないグリゼルダはナハディガルの言葉にもまるで動じず、第三の腕で殴りかかった。
(恋人の死で狂ったのか、死ぬ前からの狂気か……。少なくとも、恋人の死が彼女をここまで狂わせたのは確かだな)
やや離れた位置で魔導書を開き、ハヤトとナハティガルの退路を阻もうとするキメラゾンビに光弾の雨を降らせるオゴス。グリゼルダの声を注意深く聞きながら、彼女の狂愛の原因に興味を向けていた。
「やはり何を言っても無駄な相手だったね」
「皆で協力すればきっと勝てます!」
ヴィナスもまたグリゼルダを冷静に観察しながら、ハヤトを狙うドラゴンゾンビを衝撃波で攻撃した。さらにスィーリーンの放った全力のメテオライトがグリゼルダを巻き込んで屍竜へと直撃。グリゼルダはドレスを焦がしながらも耐えたが、屍竜の胴にはいくつもの穴が空いた。
「ハヤトー!! これ終わったらお仕置だからね!!」
処刑を宣告しつつ、サフィラ・アズラク・ナハルハルアリーブはグリゼルダへと駆ける。
「邪魔をするなら先に殺すわ!」
「ふん! おっぱいならあたしの方が大っきいもん!」
グリゼルダが放った闘気の塊に巻き込まれ、サフィラは消し飛んだ。だが、それは残像だ。サフィラは次の攻撃が来る前に足にエーテルを集中させ、全速力で敵の背後へと回り込む。
「全く、ハヤトは勇敢なんだか何なんだか」
「だがエロ鬼のおかげで隙ができたな!」
負傷者に回復魔法をかけながら、ルーンス・ラグネルは溜息をついた。彼から輝刃をもらったカイン・ステラはグリゼルダの顔面に狙いを定め、矢を放つ。流石のグリゼルダも顔を攻撃されるのは嫌だったのか、腕で顔面を庇った。彼女の視界が狭まった一瞬の隙を突き、冒険者たちはさらにグリゼルダに連続攻撃を畳みかける。
「団長のセク……囮作戦成功ですね! ボクの前から、誰も奪わせません!」」
グリゼルダの重い反撃を盾で受け止め、ハルハン・ツァガーンナルが壁となって仲間たちを守る。彼女はそのままグリゼルダの前へと立ち塞がり、斧槍を叩きつけた。
「きぃ! 次から次へと! 大人しく道を開けなさい!」
「隙ありです」
グリゼルダがツァガーンナルを吹き飛ばそうと大きく踏み込んだ瞬間、ヴィルヘルミナが横から飛び込み、大太刀を一閃した。稲妻の様な斬撃がグリゼルダの肩へと食い込み、傷口から血が流れ出す。
「豊穣神よ、彼らを癒したまえ」
シルク・メイプルリーフが天に祈りを捧げると、傷ついた冒険者たちに回復の光が飛んだ。ゾンビに絡まれながら何とか逃げてきたハヤトの傷も、みるみるうちに癒えていく。
「団長大丈夫ですか。私の胸揉みます? もみ放題ですよ」
「ではぜひ――ハッ!? いえ、何でもありません」
●
死闘は続く。冒険者達は前衛を頻繁に入れ替え、回復と補助魔法による強化と弱体化を粘り強く続けながら、グリゼルダを足止めし続けていた。グリゼルダ本人はまだまだ元気だが、周りにいるキメラゾンビ達は少しずつ数を減らしていた。
「素敵なドレスだね。もっとワイルドにしてあげる♪」
ネロは軽口を叩きながらグリゼルダに泥団子を投げつけた。べちょ。泥はグリゼルダのドレスへと直撃し、戦闘でボロボロになっていたドレスをさらに汚した。
「よくも! 貴方の命で弁償してもらうわ!」
「おっと、それ以上先には行かせんぞ」
激昂したグリゼルダはネロに向かって突進しようとした。だが、突如として無数の稲妻がグリゼルダの腰へと絡みつき、彼女の動きが鈍る。戦況をずっと観察していたグレイ・ナックラーが絶妙なタイミングでアーケインテンペストを放ったのだ。さらに、シグルド・オルセンが放ったエーテルの刃がグリゼルダへと飛来し、グリゼルダのドレスをズタズタに切り裂いた。
「どいつもこいつも! そんなに私とアランを引き裂きたいの!?」
「いやぁ、熱烈だな。ウィリアムも災難だが、実際好意を向けられるのはどう思ってるんだ?」
シグルドは優れた防御を活かしてウィリアムを庇うように前に出ると、振り向かないままウィリアムへと問いかけた。
「世界にたった二人だったとしても、彼女とはありえないかな!」
「二人だけの世界が欲しいのね!? いいわ! 貴方が望むなら屍の山でお城を作りましょう!」
グリゼルダはなおもウィリアムに迫ったが、ぬっと出てきたハッタとシグルドに道を塞がれ、その間に目当てのウィリアムはさらに後方に避難する。
「おばさん、めげないね」
グリゼルダの鋼のメンタルに、ルーンスはぽつりと呟いた。
●
「ああ、もう! ドレスが台無しじゃない! なんてしつこい連中なのかしら!」
グリゼルダは苛立たし気に叫んだ。圧倒的なタフネスを誇るグリゼルダだが、気力も体力も無限というわけではなく、だんだんと動きが鈍ってきた。
だが、冒険者側にもあまり余力がない。巧みな連携でグリゼルダを攻め立てる【兵】も、好機を見つけては集中攻撃を繰り返す【勇牙】も、彼らの攻撃の隙間を繋ぐように動く者たちも、次々と倒れては癒されなんとか持ち堪えつつも、全体でみれば苦戦を強いられていた。
次第に戦線離脱者が出てきており、ヒールが使える者も残り少なくなっている。グリゼルダを守るキメラゾンビの多くを打ち倒したとはいえ、どこまで持ちこたえられるか、ウィリアムやレイウェストを守り切れるかは、ギリギリの瀬戸際だった。
「そうだわ! ウィリアムさえ連れて行けば式はできるわよね!」
「……来るぞ! まだ動ける者はウィリアム王子を守れ!」
緩慢な膠着状態を、先に我慢しきれなくなったのはグリゼルダの方だった。
突撃の気配を察知し、【兵】のナタリア・フィッツジェラルドは回復の手を止めて気合と共にエーテルの波動を拡散させた。最後の一押しの為に温存していたとっておきの強化魔法だ。エーテルの蒼い炎に包まれた冒険者たちに力が漲る。ウィリアムは冒険者達に庇われながら、必死に後退した。
「これ以上王子を傷つけさせないわ!」
長い髪を夜会巻きにし、ドレスを纏ったザザ=ステルヴィナはグリゼルダへと杖の先を向けた。直後、空間に波紋が走り、グリゼルダとキメラゾンビだけを巻き込んだ空間の大爆発が起こった。その一撃がトドメとなったのか、ついに巨人のゾンビが大地に崩れ落ちる。
(そういえば、ほったらかしにしていたキメラゾンビ達は何をしているの?)
ドレスも肌もあちこちが傷ついたグリゼルダはここに至って、神殿へ向かったはずの亡者達の群れへと意識を向けた。見れば、レイウェストを囲むように神殿前に陣取った冒険者たちの手で、大量にいたはずのキメラゾンビがほとんど始末されてしまっている。
このままでは、自分を取り囲む冒険者を全滅させるよりも、神殿側の冒険者達が加勢に来る方が早い。
「きぃいいいい!! 今日のところは! このぐらいにしておいてあげるわ!」
グリゼルダはヒステリックに怒鳴ると、傷ついた体を強引に動かして身を翻した!
「――また逃げようってのか? もう少し俺と踊ってくれや!」
「これ以上の被害は許せません! 逃がすわけには――!」
「ケン殿! 輝刃です!」
シェルリアとドローミの回復と支援を受け、何とか戻ったケンがグリゼルダへと肉薄し、背中に渾身の一太刀を叩き込む。しかし、三本目の腕が切っ先を逸らした。ひとたび撤退と心を決したグリゼルダは、それ以上挑発を受けようとも血が噴き出そうとも振り返らず、猛烈なスピードで荒野を駆けて行く。
「ギャーオ!」
その時、最後に残っていた穴だらけの屍竜が翼を広げ、火炎の吐息を乱射して必死に冒険者達の追撃を阻止した。冒険者達の集中攻撃で屍竜が物言わぬ骸へと戻る頃には、すでにグリゼルダの後ろ姿は点のように小さくなっていた。
「やれやれ、ただの狂人かと思えば案外切り替えが良いね。だが囮としてはこれで十分だよ。彼女はキメラゾンビを全て失った。今頃レギンレイヴ城へ戻ったところで、ヴァルザード侯爵はもう討ち取られているはずさ。みんな、ありがとう。作戦は成功だ」
ボロボロになったウィリアムは大剣を放り出しながら、同じくボロボロのフォーマルウェアを纏う冒険者達に微笑んだ。
【1】叛逆者ヴァルザード・レギンレイヴ侯爵及び神具ティターンの撃破(執筆担当マスター:霧柄頼道)
●
レギンレイヴ城の門扉が、メアリー・リーンエス率いる王国騎士団の攻囲により、ついに開かれた!
「不届きなるヴァルザード候とそれに従う者達よ、覚悟なさいな!」
メアリーの揚々たる喝破が響き渡り、城内に籠もる侯爵の手勢達を竦ませる。
「王国騎士団――突撃!」
勇ましい号令を得て、居並ぶ騎士達は一斉に雪崩れ込んだ!
一方最上階では、ヴァルザードの命を受けた兵士達が、侯爵の間を出ていく。
「生意気な小娘め……! ボロ雑巾に変えてくれる!」
操縦席で腕を組み、鼻息も荒く粋がる侯爵を、外から壁歩きで登ったラモンが、閃光塗弾を手に窓際へ身を潜め、透視と探波を併用して観察する。
ティターンの造形は、二足二腕ではあるが異様に頭部が巨大で、全体のバランスは悪く、転倒はさせやすそうだが――まったく動いていないため、詳細な部分までは不明だ。
実際の弱点の位置などは、戦いながら読み取る必要があるだろう。
他の冒険者の仲間達もそれぞれが最上階まで登り、突入準備を済ませる。
「さあ、皆さん、行きましょう……!」
エデル=マグノリアは彼らと目を見交わして頷き合うや、そう合図を出し――窓から閃光塗弾を投げ入れる。
ラモンら他の仲間も間髪入れず、閃光塗弾を投げ込んで数秒後。
ものすごい光が発せられ、侯爵の間を白で塗り潰した。
びっくり仰天して腰を抜かしたのか、侯爵の耳障りな悲鳴が聞こえて来る。
光が収まるや否や、冒険者達は次々と飛び込んだ!
ヴァルザードは動転しているためか、ティターンの腕をやたらめったら振り回している。
壁歩きで上っていたが故に、攻城塔組より一手突入が速かった【豺狼】のパルドは身を屈め、高速で振るわれる危険な拳をかいくぐりながら踏み込む。
そうして下方より、スピードを乗せた痛烈な一撃を叩きつけ、片腕の軌道を寸時逸らす。
天井を伝って接近したウォーゼルも、飛び降りながら刃を振るう。
身体が頭部と交差する瞬間に、斬撃を走らせ――身をひねり、もう一方の腕の隙間をすり抜けて降り立つ。
パルドと同時に振り返りざま、敵の頭部へ塗料を投擲した!
「うおっ! メインカメラが汚れているではないか!」
少し目が治った侯爵は、ティターンの視界に点々とこびりついた塗料に、戸惑いと怒りを覚えている風だ。
閃光塗弾、そして先駆けの味方が作ってくれた間隙を突き、攻城塔の渡り板から多くの冒険者が侯爵の間へ侵入し、各々がやるべき行動へ移ろうとしていた。
【喫茶】のコハクもその一人だ。気配を消して敵の足元へ高速で切迫するや、強烈に斬りつける!
カメリア・ローレンスも衝撃刃を放って敵の注意を引きつつ、素早く動き回る事で狙いを定めさせない。
その間に、エデルが敵の足元の床へ魔弾を撃ち込む。絨毯が吹き飛ぶも、まだまだ床には少し亀裂が入った程度だ。
「火力が足りればいいけど……行って!」
立て続けに、ウォルナ・パイパースも同じ場所へ狙い澄まし、魔矢を発射。
満身込めた一撃は亀裂を大きくしてのけたが――まだまだ、こんなものではない。
ありったけの魔力を注ぎ、床の破壊に注力していく。
次手からは、エデルのレゾナンス・オブ・ヴァローでの強化を受けた上で、コハクも床へ得物を振るう。硬い床だが、必ずやり遂げて見せる。
「さっきから何をしている? 必死な顔で床ばかり攻撃しおって、滑稽だな!」
ヴァルザードはせせら笑いながら腕を引き、床狙いの冒険者達の頭上で振りかぶる。
その矢先、カメリアが飛び出し、連続で斬りつけて意識を向けさせた!
敵がいらつきながら矛先を変え、カメリアへ拳を突き出し――瞬間、その動きがつんのめって止まった。
腕の付け根あたりに突然、魔法の壁が出現し、技の出かかりを食い止めたのである。
Alexandra・Hexe・Claudiaだった。敵の側にウォールを生成する事で障害物とし、動作を中断させたのだ――!
腕が駄目なら足で踏み潰してくれる、とヴァルザードが脚部を駆動させて持ち上げ、冒険者達を踏みつけようとする。
「皆、今だっ!!」
その挙動を見て取ったララベル・サン・ディーベルが、テレパスで【ふしぎ亭】の面々へ思念を伝達しながら、張り付いていた天井から飛び降りる。
テレパスを持っていたテュリン・ヴィングが即座に続き、他の仲間はちょい遅れて行動開始した。
魔力強化を済ませたテュリンが、これみよがしに片足を上げている敵のもう片方の軸足へ照準を定め、炎弾を放つ。
軸足のすぐ間近で爆炎が炸裂し、敵を火炎と衝撃、爆風が焼き揺るがす。
その余波の風にスカートをたっぷりはためかせながら、アルラ・ニグラスも飛び降りざまの軽やかな攻撃を見舞う。
斬撃を刻み込みつつくるりと回転しながら着地するや、跳ねるように駆けて敵の射程から逃れつつ、構え直して次手へ備える。
侯爵は操縦桿をガチャガチャしてバランスを取り戻そうとあがくが、アリエッタや【豹狼】の二人も追撃を浴びせ、妨害してのける。
「ひとりでダメなら皆でやればいいじゃない♪」
ヒロ・テスタロッサも疾風の如く接近。
足の周りでまとわりつくようにステップを繰り返しながら、脚部へ攻撃を集中する。
エーテルを宿した刃を叩き込むほど、奴は斜めに傾ぎ、よろめきが大きくなっていく。
楓月・千弦は魔弓を構えながら、そんな敵の様子を観察していた。
自身は正面側から、そしてクノキのエーテル分身は背後へ回り、なるべく多くの面を視野で捉えつつ――奴の予備動作や重心の置き方、癖を見極め、そこから関節部の弱い点、さらには各種兵装の位置を予測していく。
「見えたわ、そこ」
すかさずエーテルの矢を発射する。計算された一矢は狙い過たず敵の軸足を穿ち、操縦による体勢の修正をより困難な状況へ陥れた。
ララベルが優れたバランス感覚でもって、ティターンの後頭部にしっかりと両の足を踏みしめ、腰の入った闘気槌を打ち込む!
響く衝撃。しかし敵はまだ倒れない。頭は上向き、振り上げた方の足は上がり切っているが、両腕をじたばたさせて悪あがきしている。
「神具も哀れな……愚者に使われる上に大きさに対し中身が伴わない頭脳を乗せる事になって」
仮にも神具の見るも無惨な有様に、イヴェール・イリュジオンは嘆息を漏らしつつも、迅速に足元へ肉薄。
全身を輝きで纏い、掲げた盾もろともの激烈な特攻をぶちかます!
上と下の衝撃を同時に受けた敵は、たまらず海老反ったかと思うと――次の瞬間轟音を張り上げ、床の上へ転がったのであった。
ミア=リゼルはこの機を逃さず、侯爵の間の入り口まで思い切って駆けた。
周辺に敵が潜んでいないか、クリアリングを迅速に済ませて確保する。
退路と増援の道を同時に塞いだのみならず、ある程度安全な陣地を作る事に成功。
起き上がろうと慌てふためくヴァルザードは、着々と治療準備を整えるミアを見て、ティターン越しにいらだたしげな歯ぎしり音を響かせている。
エルもまた、敵がすってんころりんしている内に、近くの窓にロープを結ぶ。
いざという時の脱出用だ。作業を終えたら新たなロープを手に、また別の窓へ向かって移動する。
途中、あえて機体の近くを横切り、スキルも併用しつつ性能や構造を調べ――同じように調査する面々へなるべく情報を伝えておいた。急いでいるので少しのみにとどまるが。
「……という段取りで、城の床を破壊する事になってしまうと思いますが、よろしいでしょうか?」
一方、少し時間が遡り――城外ではアリオン・リューが、メアリーに【喫茶】の落とし穴作戦について説明していた。
「それは面白そうですわね……構いませんわ、派手に決めてくださいませ!」
アリオンの申し出に対し、メアリーは悪戯っぽく笑み、むしろノリノリで許可を出したのであった。
【喫茶】のエルナ・クルプファルツがロープに掴まり、威勢よく滑り降りながら下階へ飛び込むと、すでにそこは王国騎士団とヴァルザードの私兵のぶつかる戦場のまっただ中である。
上で潜伏中のリスさんから、共有視界によって目的地は分かっているのだが――剣やら魔法やらが飛び交う乱戦、たった一人で進むのはさすがに大変そうだ。
「もしかしてーッ! 【喫茶】の方ですかーッ!?」
そこへ、アリオンが敵兵と戦いながら近づいて来るのが見えた。大声で呼びかけてくる。
大声なのは周囲の音が騒々しすぎるせいだ。エルナも負けじと叫び返す。
「……はーい! そうでーす!」
「僕もーッ! お手伝いーッ! しまーすッ!」
「はーい!」
アリオンが仲間に加わったッ!
やっとこさ起き上がるティターン。冒険者達の連携によって転倒まではイケたが、撃破にまで至る事ができないのは、さすが腐っても神具といったところか。
「おのれぇ……奴ら、好き勝手やりおって! 絶対に許さ――」
「ふわぁ~、すごい! でっかいゴーレム!」
怒気を発しつつ操縦桿を握るヴァルザードの目の前へ、移動系スキルを用いて身軽によじ登ったフリューリングスルフト=ティエラが、にゅっと顔を突き出す。
「げ、げ、下賤の分際でぇ……――どかんかぁ~ッ!」
上半身を振り回してフリューを跳ね飛ばし、拳を突き出して追い打ちをかけるも、フリューは右に左に駆け回り、一層敵を翻弄してのける。
「神話の鎧。普通に使えば貴方も英雄になれたのに……」
フリューに気を取られ、またしても防御ががら空きとなった間隙を捉え、ラセリ=リエ―ブルが薄煙炸裂弾を放つ。
「――狡い事に使い過ぎたんですよ!」
立ち込める薄い煙幕を、敵は両手で払おうとするも、それもまた隙を生じさせるだけだ。
その後もラセリは頭部めがけ、手を変え矢を変え品を変え、視界を阻む事に努めた――。
ここまでの交戦を通し、仲間達の間で情報が回り、敵の目となる部分への見当がつき始めていた。
サラも高い視力と、得られた情報も加味してそれらしい部位を導き出し……矢尻にくくった閃光塗弾の内袋を射出する!
塗料がまきちらされ、ティターンの頭の上部あたりにまぁまぁ張り付く。
間を置かず、ワイパーみたいな棒が伸びて塗料を拭い始めるが、その焦ったような動きからはむしろ、まさに奴の目となる箇所を撃ち抜いたのではないかという確信を得られた。
侯爵の視界が阻害されている隙に乗じ、だわが至近距離まで駆け込む。
ワイパーを使う傍ら、ティターンの両手は冒険者の接近を嫌がるみたいに振り回されている。
不規則な軌道ゆえ近づくのは骨が折れるも、腕の関節部へちぎりとって丸めたマントを突っ込み噛ませ、動きを強張ったものにさせてやった。
ヴァルザードは怒り狂っているからか、異物を取り出すよりも、構わず動かし、質量で無理に噛み潰す選択を選んだ――。
少しの手間を惜しんだせいで布地が駆動部に絡み、余計にもたつくティターンを、グレイブ・ヤードは待機していた天井部から見つめ――やおら、ひらりと身を躍らせる。
輝く得物を両手で握り、体当たりするように脳天へ突き入れる。
敵と天井との高さがほとんどないため、思ったほど高度は稼げなかったが、予想外の方向からの衝撃にヴァルザードは元からない冷静さをさらに失っていく。
ティターンが攻撃時に向く方向や、近くの冒険者への反応速度、サラが叩きつけた塗料の位置関係などから、ゼラルム・エルホワイトも奴の操縦席の位置を把握し始めていた。
「恐らく、あのあたりだな」
同じ班のサニー・フォン・オルライトへ声かけしつつ、目印となるよう、幾度目かの魔触を頭部めがけて撃ち放つ。
撃たれた敵は、びくぅっ……とおおげさに身じろぎして反応した。
「侯爵、驚いてるね……これは大当たりかも!」
サニーもその地点を目指し、ホライゾナルジャンプで一息に切迫。
奴の頭部を視野へ納めるなり――ゼラルムの教えてくれた位置へインクを投げつけて浴びせ、どろりとした粘性の液体を塗りつけてのけた。
セオ・ウルジオの放つ衝撃刃が、ティターンの膝を微妙な角度へカックンさせた。
カルフ・オルヴォが間断なく壁を蹴り、三角飛びの要領でティターンの真後ろを取る。
今だ、とテレパスでダムド・フィリスへ指示を出しつつ――抱えた大量の石鹸をティターンの足元へ、びっちゃばらぁとまき散らす。
「了解」
応じたダムドも壁を駆け上がり、宙返りしながら距離を稼ぎ――奴の鼻先へ迫る。
「侯爵でも叛逆者なら騎士道とか関係ないな」
投げ込んだ醤油が回転しながら飛び散り、ヴァルザードの視界を黒で完全に閉ざしてのけた。
動揺した侯爵は反射的に後退するも、その足が石鹸を踏む――体勢は確かに多少崩れたが、巨体を転がすには石鹸の量がさすがに足りず、転倒までは望めない。
「今です! 光縛封!」
それでもよろめき、足元がお留守となっている事には変わらないため、すかさずセオが光の柱を出現させる。
このサイズの巨人の足の間をピンポイントに狙って差し込める程の細やかな術ではないが、周りに立てるだけでも、奴の機動を邪魔するには充分だった。
冒険者達がティターンの頭部へ色々投げ当てたからか、侯爵の視界はぐちゃぐちゃだ。
されど、ここで何度目かの頼れるワイパー君が颯爽と登場し、顔面を拭いだす。
その様子を、窓枠に残っていたエリザ・A・ミシャールが、上から観察していた。
ほどなく、塗料を握って大きく振りかぶるや、ワイパーがひとしきり拭い終わった箇所へ狙いを定め――力強く投擲する!
「そこはたった今拭いたばかりだろうがあぁぁ! いい加減にしろ貴様らあああああ!」
ヴァルザードの怒号が響き渡った。ワイパーは必死に働くが、その間に他の冒険者達は、四方八方からどんどん攻撃を加えていく――。
ひとしきり暴れたヴァルザードは、疲れてうなだれ――ふとその目が計器類へ落ちる。
機体の損傷具合は比較的軽微。エネルギー残量もまだまだある事を確認し、少し余裕を取り戻す。
「……わはははは! 分かったぞ貴様達の狙いが! くだらん挑発を仕掛けて私の判断力を鈍らせようという腹づもりだったろうが、もうその手には絶対に……かからんッ!」
「おいおい本当かよ? さっきまでの暴れっぷりはだいぶ面白かったがな」
ナハシュは敵の正面でしつこく跳ね回り、三次元的な動きを見せつけながら嘲笑う。
「なんだと! 下賤なゴブリン如きがふざけた物言いを!」
即激昂した侯爵が突っ込んで来るのに合わせ、天井まで飛び上がって張り付くや、この期に及んで更なるインクをぶちまけ、視界を黒く塗り潰す。
頼みのワイパー氏が酷使され始める一方、ヨル・スレイマンは敵の裏へ回り込み、足の関節部を破脚砕で思い切りぶっ叩く。
「取るに足らないな。王子も逢瀬……他の用事の方が大事だったらしいし」
「う、うるさぁい! 王子など別に待っておらんわ!」
向き直ったティターンの胸部が、ぱかっと開き、鈍く光る砲口が覗く。
エーテルが収束し――極太ビームが放たれた!
動作を見ていたヨルは、すぐ横へ転がっていたため、すんでのところで直撃を回避。
自分の傷を癒しながらひとまずナハシュと合流した所で、再びビームが飛んできた。
光縛封を展開して盾とするも、ビームは魔法攻撃であり威力も高く、一撃で粉砕された! しかもこの威力で連射まで可能らしく、既に次弾が発射準備に入っている。
バクル・バスリーは窮地の二人を救うべくスキルで急行し、敵へ肉薄するや否やシーザーロアを放ち、標的を変えさせる。
「神具なんて、凄い物、こんなことに使っちゃダメなんだぞ」
巨大な拳が叩き込まれた。体が冗談みたいに跳ね上がり、床へ勢いよく打ち付けられる。
「おお、強いぞティターン! 遠近共に隙が無い……。まさに無敵!!」
どうにか立ち上がった。対する侯爵は追撃をかまそうと迫るも、勝ち誇った油断からか、足取りは隙だらけ――バクルはカウンターの大太刀で斬りつける!
「効かぬわ! ぬ、どこにいったチビ蜥蜴。ええい、光線でまとめて薙ぎ払ってくれる!」
「光線兵器は厄介ね……発射口の開く瞬間に攻撃を合わせれば、破壊できると思うわ! 足の関節も狙いながら、そのタイミングを見極めましょう!」
ロゼットが【雷鎚】らをハウリング・オブ・ブルーフレアで強化しつつ、奴を指差す。
面々は魔法防御壁をどんどん作り出し、我が物顔で乱射されるビームを何とか防ぐ。
その猶予を縫い、リサ・ベイカーは幻影を作り出す。
顎に手を添え、オーホホホ! と高笑いする王女の幻だ。
「なっ! 小娘めが、私を愚弄するか!? 食らえ……ヴァルザードッビイィィィム!」
お前のビームではない。
無駄撃ちさせている隙にリサはバクルと合流し、傷を治癒していく。
「実に残念ですよ、ヴァルザード侯。……王国貴族の恥晒しが」
偽メアリーだと分かり、アルェー? と首を傾げる侯爵を、ジュスト・ヴェルジーが見下す。
恥ずかしいやらで大憤激したのだろう――この手でひねり潰そうというのか、ティターンはビームを撃つのを一時やめ、拳を振り上げるではないか。
その醜態を見据えつつ、ジュストは自身の魔力を強化。
敵の足……皆の度重なる攻撃を受けてヒビまみれの関節部を狙い澄まし、渾身の魔矢をぶち込む!
「足を取られれば隙が生まれるはずだ。そこを突く!」
合わせてライナ・フレイヴァルツも魔矢を撃ち込む。黒炎を纏ったかのように総身から魔力を燃え上がらせ、力の続く限り撃つ構えだ。
「足の動きが鈍くなっている……もう一息だ!」
ビームを凌ぎながらも観察を欠かさず、戦況の報告にも努めていく。
「待っているぞ、ですって? 追い詰められているのはあなたでしょう?」
ファヌも魔矢を食らわせつつ、怒りを誘うべく侮辱の言葉を投げかける。
侯爵は期待を裏切らない。すぐさまのっしのっしと寄って来かかる進行方向上へ、ファヌは祈雷を設置する。移動をためらった侯爵は、結果的に侯爵の間の中央付近にとどまり続けることとなった。床を狙い続ける【喫茶】をはじめ、流れ弾も合わせれば結構な衝撃が加わっている場所だとも気付かずに。
鬱陶しいとばかり、射出されたビームが破壊をまき散らす。ファヌはその間に、負傷した仲間を光縛封で守る一方、発射口の挙動から目を逸らさず、情報収集にも注力する。
荒れ狂う拳やビームは脅威そのもので、【雷鎚】にも負傷者が出始めていた。
ギャメルは敵の気を引かないよう、後方からハイパーヒーリングオーラで回復支援を行っていた。
「あんまり一つの所に集まり過ぎるなよ、張った壁の数も少なくなって来てるからな!」
天眼も併用し全体を見渡しつつ、味方が追い詰められないよう、声掛けも忘れない。
「これだけ撃たれたら、動きを捉える事ができて来たわ……みんな、合わせて!」
ロゼットはビームが降り注ぐ中を駆けて跳び、開ききった状態の発射口めがけ、エーテルブローを叩き入れた!
侯爵は発射口を閉じようとするも、続けざまにゲルダ・クラインが肉薄。ロゼットと入れ替わりに、発射口へ紫電一閃を浴びせかける。
精密かつ鋭利な一撃を受け、発射口から火花が散り――開閉部分が壊れて開きっぱなしとなった。
「ちょこざいなっ」
盾を構えるゲルダへ、侯爵の反撃パンチが直撃。踏ん張りが効かず殴り飛ばされる。
「くくくく! どいつもこいつもかかってこい! ヴァルザードパンチで相手してやる!」
お前のパンチではない。
発射口へ衝撃刃を見舞っていたフロマーシュ・ダイヤドロップは、床をバウンドしていくゲルダに気づくなり、チャージングで猛追。
残っているアイアンウォールの後ろへ引っ張り込み、少しでも安全な場所でヒールをかけ、傷をいやす。
追撃をかまそうと進むティターンの目前に、アーケインが設置された。奴の足が止まる。
アイアンウォールの後ろで、冷静に機を窺っていたヴァレリア・ブランシェ・ウィザースプーンの一手だ。
さらに、負傷者達を守るための新たなアイアンウォールを生成。敵からの死角を増やし、同時にこちらの安全地帯を作っていく――。
【雷鎚】ズが無防備になったビーム発射口へ総攻撃を仕掛け始めるのに合わせ、サマエラ=フォリウムはハウリング・オブ・ブルーフレアによる強化を、彼らへ施した。
さらに次手では、発射口でなく、足を狙って魔矢を射かける。
【喫茶】らの執拗な攻撃で床のヒビはだいぶ広がっているから、ここでもう一押しして、片足を使い物にならなくしてやろう――。そう考えたのはサマエラだけではない。
「我が掌中に輝くは紅蓮の焔! エクスッ――プロ―ジョン!」
マーハ・アセトシソンの放った炎弾が、燃え盛りながらまっすぐ飛来し、ティターンの足元へ着弾する。
炸裂した刹那、凄まじいまでの熱風が爆音を伴い、これでもかと吹きすさぶ。
魔力の塊がダメージを与えたのはビーム発射口と脚部の両方。巨躯がよろめいた。
目を閉じ、精神を集中するリディリディ・トゥラ・イェレミースの頭上に、エーテルの凝縮された一本の矢が出現する。
槍と見まがうばかりの長大なそれは、リディリディがまぶたを開くのに合わせ、ひとりでに飛び出した。
虚空を裂き神具へと迫るや、ぽっかりと開いたままの発射口へ吸い込まれるように着弾。
「なんだとぉ! ぐぬわぁあ!」
瞬間、小規模な爆発が巻き起こり、ビーム発射口はバラッバラに砕け散ったのだった。
一方階下では、王国騎士団が戦いを制し、侯爵の間へ突貫しようとする所であった。
エルナ&アリオンもようやく目標地点へ辿り着き、いよいよ天井への攻撃を開始する。そこはすなわち、激戦の最中の侯爵の間の直下。
ペットの合図を通じ、【喫茶】達は残った力を振り絞り、最後の猛攻を床へ加え始めた……ッ!
ヴェイグ=ベーリングは仕上げの時間を稼ぐべく最前線へ飛び出して、敵の猛撃を引き受けていた。
「生身であれば痛みでわかるのだ――大仰な神具に頼るが故に敗れると知れい!」
「うるさああああい!」
怒りの拳を真っ向から受けたヴェイグが吹き飛ばされるのと同じくし、敵の足元がミシミシと音を立て、沈み込む。
脆くなった床がティターンの重さで潰れ、砕け、抜け、穴が開いていく。
敵は慌てて逃げようとするも、肝心の脚部はすでにボロボロで、思うように動かない。
陥没する床に、敵は吸い込まれていき――胴体が穴へがっちりはまり込む格好で、ようやく止まったのだった。
ここを好機と、Re✕達冒険者が取り囲み、攻勢をかける。
敵は両腕をしゃにむにぶん回して威嚇し、必死に己の延命へ努めている。
そこへリコリス・アデュラリアがメテオライト、魔弾といったあらん限りの魔法をぶつけていく。
さしものティターンの剛腕も、リコリスの火力や他の冒険者達の範囲攻撃に巻き込まれ、いよいよ限界を迎え――。
そうして、高速展開式超魔法からの強化魔弾が空を奔り……片腕が吹っ飛んだ!
青ざめた侯爵は操縦桿をガチャガチャするも、もはやティターンが応える事はない。
ついには冒険者達の一斉攻撃によって、損傷が内部深くにまで達したか、あるいは自爆装置でも起動したか。
ティターンは目もくらむ閃光とともに、内側から大爆発した!
「王国を統べるはずの、この私が……うおおおぉぉおおぉぉぉぉあああああぁぁッ!」
それが冒険者達の聞いた、ヴァルザードの最後の言葉であった。
爆発と見たセオが咄嗟に守護の光を放出し、仲間達を保護。
余波は壁や天井にも達した。石や瓦礫がガラガラ崩れ落ち、床の穴も大きくなっている。
「む、嫌な予感が当たったか。これでは侯爵も助かるまい……ひとまず崩落に巻き込まれそうな者は先に退避するがよかろう」
これまで一連の事件に関する証拠品を探していた夕霧が、窓際へと駆ける。彼女のススメで、隅に追い込まれたり負傷している者は、エルの張っておいたロープを使って脱出し始める。
「た、確かに穴を開けて良いとは言いましたが……やりすぎではありませんこと!?」
その時、メアリーと騎士達も扉から駆け込んできて、事態に目を丸くしたものである。
そんなメアリーの前へ、夕霧とジュストが、ヴァルザードを引っ張ってきた。
侯爵は黒焦げのアフロとなり、大口を開けて白目を剥いて息を引き取っている。
こうして冒険者達とメアリーらの活躍により、神具は撃破され、侯爵も倒された。
王国の危機は、無事に去ったと言えるだろう――。
監修:アルパカコネクト運営
マスターコメント
「【恋眼】決戦:ヴァルザード紛争」ご参加ありがとうございました。お疲れさまでした!
王位簒奪を目論んだヴァルザード侯爵は成敗され、吸血鬼ベラドンナとその眷属も無事に討ち取られました。
頭に血が上ったグリゼルダは、ウィリアムの策に全く気づかず。足止めされた上に痛手を負って敗走していきました。
新年一発目の決戦は、大成功です!
ご参加いただきました皆様に感謝申し上げます。
「特別褒章一覧」とエピローグノベルも更新しておりますので、TOPまたは連動特設ページからご確認くださいませ!
決戦シナリオ非常に難しい 報酬:多い179 / 1〜9999人
2022年01月26日 17時30分29秒 公開
大成功
参加者
トゥーリ
ハッタ・ムラムラ
蒋・璃龍
バクル・バスリー
イヴェール・アーチボルト
- メイプルリーフ シルク
ヨル・スレイマン
エリザ・A・ミシャール
ゲルダ・クライン
コルネリウス・アーラ
ミツキ・アインホルン
アンネエルカ
セオドア・カザツキ
エイル・アーティライト
リンセ・クアルト・アポストㇽ
ゴブリア
ケン・Z・ブラッドリー
アデッサ・ハーレイ
ゼラルム・エルホワイト
サニー・フォン・オルライト
- サイラス
エルゼリオ・レイノーラ
ルアンナ・ミュラー
エルナ・クルプファルツ
ナハシュ
アルベルト・V・シュタールシュヴェーアト
アリア・ティーダ
スィーリーン
Svart・Natt
リサ・ベイカー
テス・アウレア
フリーダ=ブロムヴィスト
リリリリス
ザザ=ステルヴィナ
パヴェル・A・サムルガチェフ
ベルク・オスマット
ジョン・ベアー
ヴィルヘルミナ
ハリス・アル・ターミル
ルチル・プルメリア・グレイハーツ
ルルト・アーキス
レティシア・R・クラティアス
カメリア・ローレンス
シニング・W・テュパラ
- イェレミース トゥラ リディリディ
ストレガ・L・リベルガストラ
グレイブ・ヤード
イズレンディル・パラリム
ウォルナ・パイパース
ギャメル
マリイ・パルティス
エフィルミア
サフィラ・アズラク・ヴォルファング
ロイ・アウレア
ヘレン・ワーグナー
リコリス・アデュラリア
ギーゼラ
ヴィナス
キリク
ヒロ・テスタロッサ
セリオス・オーガスト
イズル・M・ヴォルゴール
ハヤト=ガラン=ヴォルファング
アルマ・ヴァレンタイン
アルラ・ニグラス
ドローミ
シスル・ノーティラス
ララベル・サン・ディーベル
アリオン・リュー
ゲルト
フェイサル・セイフ
カイン・ステラ
フリューリングスルフト=ティエラ
アスティン・ヴェルライン
マーハ・アセトシソン
レイヤ・ダライ=カホール
クローリカ
海神 江流
アヴェラ・ウッチェロ
サマエラ=フォリウム
エルケ・シャルフ
ラセリ=リエ―ブル
テュリン・ヴィング
ファーシル・クリスティア
ロゼット
- キーゼ
トーラ
ネフリティス=N=クリスタロス
ライナ・フレイヴァルツ
クレア・エクレール
キオルティス
Alexandra・Hexe・Claudia
梅・雨陽
セロンガード・シュタインドルフ
ロドリック・アルカイン
コハク
ナハティガル=ラー
ナキル
アーシェル・G・クライン
アセット・アセトシソン
フィリスティア・リュナ・ブルーメルティス
テテリカ
ナンチ・ヤジナイ
御邑 奈月
御邑 都
レイラ=ルナフィニス
アリエッタ
ララノア・グラヌローザ
フロマーシュ・ダイヤドロップ
ロウトフェダー
オゴス
ファイサル・アル=ファルド
ナハト・シュライバー
エルシー・サリバン
ハル・チフ
エヴァン・ピオネロ
楓月・千弦
エミリア・シバ
ネーヴェ・グラヌローザ
ラティア・ミゼリア
ハルハン・ツァガーンナル
ベアトリーチェ・カロッサ
ハリーヌ・ヨツユビ
ティト
サロ
- ポコ・アルデバラッド
グレイ・ナックラー
アウレーリア・フォン・ネーベルベルク
フラム・アニムス
ナタリア・フィッツジェラルド
トウカ・S・ブラッドリー
- オキナ・F・ブラッドリー
カルフ・オルヴォ
大福
エル=バ=ノイアン
ルベア・ベルニ
シルヴィア・A・カペル
クラリス=ミシェ
アルフィー・リッパー
ハーヴィ
ルーンス・ラグネル
エル
エデル=マグノリア
アルバス・ロウル
クルタル
ユズ
ライオネル・ギシュム
コルリス
- ファヌ
ヴァンゲルス・ロッド
キリアン・フィッツジェラルド
牛・奶
サシャ・テーリング
ダムド・フィリス
セオ・ウルジオ
パルド
ウォーゼル
ルフィナ・ヴィオレット
シグルド・オルセン
ブレイド
夕霧
デイジー・ロックウェル
ミア=リゼル
- Re✕
シェオル
ヴァレリア・ブランシェ・ウィザースプーン
ネロ
ジュスト・V・ケレス
だわ
サラ
東雲・更紗
フェミナ・ノ・リビディーネ
ラモン
ローザリカ・D・ケレス
エリカ・プレトリウス
ザスキア
- アンセル・エティエンヌ
シェルリア・リトヴァール
ヴェイグ=ベーリング
相談掲示板
シーフのトーラです。 レイウェストさまとウィリアム王子の結婚を阻止…じゃなかったレイウェストさまの身を守るため頑張ります!
ロゼットよ。【1】の巨神像戦に参加するわ。 また共闘してくれる人を募集したいから、 興味あったら相談場の方で、よろしくね。
おーっす! ブレイブファング傭兵団のハヤト=ヴォルファングだ、よろしくな!! 今回は【2】で敵の首魁グリゼリダを仕留める(意味深)つもりでいんぜ!! 奴のタマ(乳)を獲る為にゃ皆での協力が不可欠になるはずだ! 相談所の方でも声掛けさせてもらうが、良かったら一緒に戦ってくれ、よろしくな!!