【魂禍】決戦:辺獄戦役

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シナリオID:2013

オープニング

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「ホラホラホラホラどうするゥ~~? テメェらみんな陛下に夢中じゃ俺様困っちゃうからなァ~~! いや~~こんなこともあろうかと? こっそりGODパワー貰っといた俺様マジ有能! 陛下ちょっぴりご立腹みてぇだけどなァ~~~! まあ結果オーライ? ギャハハハハハハ!!」

 仮面(神具)を外した道化師アルルカンが、火生の神ボルガニスクの顔で哄笑する。
 帝国皇帝ヨゼフ・バルダスと超大型クリーパー『魂喰らう黒泥晶』の交戦予想地点である辺獄最深部へ向かう者達を見送って、一部の冒険者達はフラスコ入口前の空間でアルルカンと改造ホムンクルス数体と対峙していた。

「GODのパワーで何百年ぶりの大噴火! 派手にキメちゃうぜェ~~~? 嫌なら俺様とも遊んでもらわねぇとなァ? この仮面にGODパワー入っちゃってっからよォ、サクッと壊さねぇとシグモル壊滅しちまうかもなァ~~~!! ギャーーーッハッハッハッハ!!」

 ボルガニスクの力の一部を収奪したと言う仮面を茶化すように振り、美しい顔を歪めて嗤うアルルカン。
 神の力を以てシグモル火山の噴火を引き起こす――それが冒険者達を攪乱するための彼の虚言であれば、皇帝ヨゼフと黒泥晶を差し置いてまで相手をする必要はない。
 だが、地の底から響く地鳴りと足元から感じる微小な揺れが、冒険者達の理性と本能に危険を告げていた。――アルルカンを放置するべきではない、と。

「アルルカン……! 私たちにひどいことした……。シグモルの人たちまで傷つけようとするの……!?」

 冒険者達と共に武器を構え、自身らを苦しめた(ホムンクルスと化した)男を睨みつけるジャンヌ・アン。アルルカンに操られ、冒険者達へと迫りつつある改造ホムンクルス達は、もはや人の姿をしていない。肥大化し、獣や亜人のパーツを植え付けられ、涎を垂らしながら虚ろな目を敵(冒険者)に向けているのみだ。

「イッツ・ショウ・ダウウウウウンッ!! 俺様を捕まえてみやがれ!! ギャーーーハハハハハ!!!」

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――辺獄最深部。かつてボルガニスクが超大型クリーパー『魂喰らう黒泥晶』を封印した地。
 黒泥晶の力を収奪せんと企む帝国皇帝ヨゼフ・バルダスを追い、冒険者達はそこを目指して辺獄を駆ける。
 分かれ道は幾らもあったが、先を行くヨゼフに討たれた黒泥晶の分け身(クリーパー)の残骸や戦闘の痕は、皮肉にも冒険者達を封印地点へと正しく導いた。

 冒険者達に求められる役割は、『皇帝ヨゼフと黒泥晶を引き離し、皇帝より先に黒泥晶を討伐する』ことだ。最低でもヨゼフに黒泥晶への止めの一撃を譲らない必要があるが、神の力をその身に宿す男と伝説級の超大型クリーパーの争いに横槍を入れ、それを実行するのは容易ではない。

「……聞こえるか。この先に封印地点がある」
 先行していた神徒達が戻り、低い声で告げる。彼らの指し示す先からは、獣ともヒトともつかぬ唸りや咆哮、破壊音、そして何かを地面に叩きつけるような轟音――強大な者同士が衝突する戦いの音が、絶えず響き渡っていた。
「封印地点に出る道は幾つかあった。分かれて進んでくれ」
 皆が同一方向から攻め込む必要はない。既に交戦中の皇帝ヨゼフと黒泥晶を、どのようにして引き離せば良いか――まずはその難題をクリアするために、戦場と彼らを多方向から観察するべきだろう。
 冒険者達は息と足音を殺し、幾つかの横道に分かれながら、封印地点目指して再び前進して行く。

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 その戦いは、人智を超えていた。

 高温のマグマが緋色に照らす灼熱の空間で、外套をはためかせた偉丈夫が矛を構える。
 対する這者(クリーパー)は黒き身体の半ばをマグマの海に沈め、猛火を撒き散らしながら無数の分け身を産み落とす。
 眼前で膨れ上がる炎を矛の一振りと黒き障壁を以て退け、偉丈夫は軽やかな跳躍でマグマに浮かぶ岩を渡った。
 夥しい数の分け身が一直線に偉丈夫へと殺到し、這者の伸ばした黒き腕が胴を衝く。衝撃に飛んだ偉丈夫がマグマを超えて岩壁に叩きつけられ、凄まじい轟音が響き渡った。
 矛の一閃で生じた真空の刃が追いすがる分け身を斬り裂き、這者の放った黒き槍を征竜の具足で受け止める。再び足を踏み出す偉丈夫に対し、這者はマグマの海を後退しながら分け身を放ち続けていた。

「黒泥晶が後退を……」
 やや高い位置に空いた穴から封印地点を見下ろして、ゴールディからの救援として冒険者に同行してきたサチコが口を開いた。
 封印地点は、辺獄の地下にポッカリとあいた広い空間だった。中央部分は煮えたぎるマグマで満たされ、黒泥晶はその中に浸かった状態で皇帝と対峙している。そして、皇帝はマグマの海にいくつか点在する岩場を伝って黒泥晶へ迫ろうとしていた。
 両者の実力は拮抗しているように見える。だが、黒泥晶は攻撃と防御を繰り返しながらも、徐々に後退を始めていた。

「生存本能でしょうか。自身の力が減衰していっている事実に、気付いているのかもしれません」

 黒泥晶が永き時をかけて取り込み、蓄積した数多の魂は今、ボルガニスクの祈りに導かれてマトリクス界へと送られつつある。
 異界の者とはいえ、クリーパーも生物だ。己の力が徐々に減衰しつつあることに黒泥晶が気付き、目の前の男(皇帝)には勝てぬと本能的に察したのだとすれば、後退する選択をしても不思議ではない。

 黒泥晶の背後の岩壁には、大きくあいた裂け目のような穴がある。冒険者達の目には、黒泥晶がそこへ逃げ込む隙を窺っているように見えた。

「……黒泥晶が自らこの場を離れるための隙さえ作ることができれば、黒泥晶と皇帝を一時的に引き離すことができるかもしれませんね。問題はその後です。……黒泥晶を追おうとする皇帝を足止めし、あの穴に逃げ込んだ黒泥晶を追って極力早く討伐する――簡単に達成できることではありません」

 皇帝が渡ろうとしている足場を破壊し、注意を引くとともに進路を塞ぐ。その僅かな時間でも隙ができれば、黒泥晶は裂け目に逃げ込めるだろう。
 だが、それで稼げる時間はごく僅かだ。皇帝はすぐに迂回路を探すか、天井や壁を破壊して新たな足場を作ろうとするに違いない。また、裂け目に逃げ込んだ黒泥晶を冒険者達が見失ってしまう可能性もゼロではないのだ。

 皇帝が黒泥晶に追いつき、討伐を成功させてしまえば、その時点で黒泥晶の身体に残る力は全て皇帝に収奪されてしまう。火生の神と超大型クリーパーの力を同時に宿した男が次に何を為そうと考えるのか――正確にはわからずとも、明るい未来は想像できない。

 サチコと冒険者達は息を潜めたまま顔を見合わせ、困難な状況を打破するための策をひねり出そうと考えを巡らせる。
 その時、

「……見てキタ。裂け目の先は広いガ、入り組んだ道ダ」

 姿が見えなかったもう一人のゴールディからの救援、元メドゥの指先幹部のアダムが影の中からスルリと姿を現した。いつの間にか、隠密と影渡りの能力を駆使して黒泥晶が逃げ込もうとしている裂け目の先を偵察して来たらしい。

「妙ナ石も見つけタ。……何ヶ所かに分けテ、溜めてアル……」

 アダムが持ち帰った無色透明な石が一体何であるか、何人かの冒険者達には理解できた。それは『賢者の石』と呼ばれる石で、ホムンクルス製造の際にも使用されている。
 黒泥晶が捕食した魂が圧縮され、結晶化したものと言われているそれが封印地点の奥にあり、皇帝との戦いに不利を悟った黒泥晶がそこへ逃げ込もうとしている――その状況は、ひとつの仮説を導き出した。

「……黒泥晶は、奥に溜め込んだそれらを再び体内へ取り込み、一時的に力を増そうとしているのかもしれませんね」

 黒泥晶と皇帝を引き離せても、黒泥晶が力を増してしまえば冒険者達による討伐が難しくなってしまう。だが、黒泥晶が賢者の石を求めて裂け目に逃げ込むのであれば、先回りや誘導もある程度は可能になるかもしれない。

「アダム、こちら側から裂け目の先に通じる道を探してください。ここで皇帝の対処をする班と、裂け目の先で黒泥晶を討つ班に分かれましょう」

 尚も激戦を繰り広げる皇帝と黒泥晶を密かに見つめながら、サチコが言った。アダムは再び姿を消し、冒険者達は通路に残って警戒を続ける神徒らを通じて連絡を取り合いながら行動を開始する。

「黒泥晶の討伐に向かう方々が裂け目の先に入ったところで、マグマの中の足場を破壊しましょう。私もお手伝いします。黒泥晶が裂け目に逃げ込んだら、黒泥晶の討伐と皇帝の足止めを。……あとは時間との勝負です。賢者の石を捕食しない限り、黒泥晶は時間が経過するほど弱体化し倒しやすくなります。ですが、時間をかければ皇帝が黒泥晶に追いつく可能性が高まります。――容易な作戦ではありませんが……やるしかないですね」

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「オルグレイ様! アルルカンの手の者が、こちらに――!」
「何っ……!?」
 殆どの神徒達を冒険者とともに辺獄へ送り出した後、ボルガニスク神殿は俄かに騒がしくなっていた。
 神殿前の広場では、火生の神ボルガニスクが鎮魂の祈りを捧げ続けている。その彼女を狙ってのことだろうか。夜闇に紛れ、帝国過激派とみられる集団が迫って来ていた。

「この期に及んで神を殺さんと企むか。アルルカン、そしてヨゼフ……畏れを知らぬ痴れ者どもめ」

 底知れぬ怒りを込めたオルグレイの言葉が、鋭い視線とともにシグモル火山へと向けられた。
 オルグレイは僅かに残る神徒達に命じ、神殿の警護に残っていた冒険者達を呼び集める。

「冒険者達よ。火生の神ボルガニスク様は、その命を賭して彼のクリーパー(黒泥晶)の力を削がんと祈りを捧げられておる。しかし、神をも畏れぬ愚かな者どもが、不敬にもその儀式を妨害し、ボルガニスク様を害すべく神殿に迫っておる。……その蛮行を許してはならぬ。決してな」

 敵の首領は帝国過激派アゾット。アルルカンに似た道化の衣装を身に纏い、攻撃魔法と飛行の術を操る男だ。
 同じく帝国過激派と思しき数名の授恵者、そして洗脳されたホムンクルス達を率いて、南東方向からボルガニスク神殿へと迫っている。

「奴らを迎え討ち、ボルガニスク様をお守りするのだ。伏兵がおらんとも限らぬ。どうか……我らに力を貸してくれぬか」

解説

■連動特設ページ・イメージノベル https://alpaca-connect.com/world/world0/event/event19_top4 ■相談場所について このシナリオの相談スレッドのみの運用ですと、閲覧に際し非常に重くなる可能性があることや、戦域が多岐にわたるため、別個相談用のコミュニティを用意いたしました。 【魂禍】決戦シナリオ相談場 https://alpaca-connect.com/world/world0/community/2jtF7yWeEXs5WmcmYGjP ・戦域単位での募集や挨拶 ・パーティの募集・案内 ・【タグ】説明スレッド また、パーティ内での個別の相談については、上記コミュニティ以外を使用してくださってもかまいません。 ■【重要】プレイングの書き方 ・今回参加する戦域を右記の形式で【一行目に】記載ください。:【1】【2】【3】 ・パーティや協調行動を示すタグは【二行目】で指定してください。タグでの指定は必ず【一つまで】となります:【皇帝妨害班】【女神警護】など  例   【1】   【皇帝妨害班】   (プレイング本文) ・【タグ】とは、「パーティの集まり」がどういった行動指針をとるのか、ということを示す表記です。お友達同士の参加や、特定の目的の行動をする場合、同じ【タグ】を表記していることで判定に用いられます。 ・同じ【タグ】で選択肢が分かれることは問題ありません。 ・【タグ】内容の説明(何を目的とするか、運用方針など)については、「相談用コミュニティ」の専用スレッドに【200文字以内】で記載ください。200字を越えた場合はタグそのものを無効といたします。 ■戦域 ※(危険)戦域は高難易度です。場合により死亡・再起不能(喪神)の可能性があります。 【1】フラスコ深部:仮面道化―The Jester― ▼状況 ホムンクルス製造工房であった辺獄の「フラスコ」内で、帝国過激派アルルカンを撃破する。 アルルカンは仮面の神具にボルガニスクの力を一部収奪しており、その力を使ってシグモル火山の噴火を起こすと宣言している。現在は迷路状に入り組んだフラスコ内のどこかに姿を消しており、まず捜索を行う必要がある。 冒険者達の初期地点は、アルルカンが消えたフラスコ入口前。入口には改造ホムンクルス5体がいる。フラスコ内部にも改造ホムンクルスが潜んでいる可能性があるほか、罠への警戒も必要。 ▼味方戦力 ・神徒(入口前やフラスコ外に留まり、魔獣やクリーパーの相手をするため同じシーンには登場しない) ・ジャンヌ・アン 冒険者達に保護されたホムンクルスで、ハーフリングの女性が素体。キャスター。行動について冒険者から要望があれば考慮する。 ▼敵戦力 ・アルルカン かつての帝国で「実力派」とも呼ばれていた「帝国過激派」の筆頭に立つ宮廷道化師の男エルフ。ホムンクルスの製造方法を編み出し、獣皮の鞭の神具で彼らを洗脳している。戦闘能力は不明だが、恐らくは魔法攻撃を得手とする後衛タイプと思われる。 ・改造ホムンクルス×5~ ホムンクルスの中でも戦闘に特化した個体。知能が低く、洗脳の度合いも強い。いずれも通常のヒューマンの倍ほどに肥大化し、個体により四足獣の手足や蝙蝠のような翼、オーガの腕などを持つ。 【2】辺獄封印地点:人魔相克―The Emperor ―(危険) ▼状況 帝国皇帝ヨゼフ・バルダスと超大型クリーパー『魂喰らう黒泥晶』が争う封印地点で、ヨゼフが足場にし得るマグマ上の複数の岩場を初手で破壊する。その後は黒泥晶を追おうとするヨゼフを何としてでも足止めし、【3】の別動隊が黒泥晶を討伐するまでの時間を稼ぐ必要がある。 封印地点は約50へクス四方の空間であり、岩壁に囲まれ天井は高い。ヨゼフは東側の入口付近で黒泥晶の分け身と戦っており、黒泥晶は空間の大半を満たすマグマの海に身を沈めている。東側から黒泥晶へ向かうにはマグマ上の足場を伝って行く必要がある。 冒険者はヨゼフ背後の東側入口のほか、南と北の岩壁にあいた穴(すぐ下はマグマの海、近くに足場が数か所ある)からも行動開始できる。 足場を破壊された皇帝は、天井や壁を崩落させて足場を作ろうとしたり、引き返して迂回路を探す可能性がある。 いかなる手段を用いてでも「皇帝に黒泥晶の止めを刺させない」ことが求められる。 ▼味方戦力 ・サチコ ゴールディ最大のマフィア「ブラックデス」幹部のゴブリナ。通常の攻撃魔法のほか「消えない炎」を操る。初手の足場破壊に協力。行動について冒険者から要望があれば考慮する。 ▼敵戦力 ・ヨゼフ・バルダス シルトラース帝国現皇帝。女神ボルガニスクの力を収奪し、不完全ながらその身に宿す。神やクリーパーのあらゆる攻撃に対して超強力な耐性を有する「征竜の具足」と強力な「矛」を持つ。 ・中~小型クリーパー×多数 黒泥晶が生み出した「分け身」であり、黒い流動体が魔獣やヒトなどの形を模倣した姿。分け身に宿る魂によって様々な攻撃方法をとり、打撃、範囲攻撃、遠距離攻撃、BS付与など多岐にわたる。体のどこかに結晶体を有し、それを破壊することでも撃破可能。 冒険者達の行動開始時点では、40体ほどがヨゼフに群がっている。 【3】辺獄封印地点:人魔相克―The Creeper―(危険) ▼状況 封印地点の西側の裂け目の先に先回りし、逃げ込んでくる超大型クリーパー『魂喰らう黒泥晶』を討伐する。 【2】でヨゼフの足場を破壊した隙に、黒泥晶は賢者の石を貯蔵している西側の裂け目に逃げ込むことが予想される。冒険者達はアダムが発見した別の道から裂け目の先に入り、ヨゼフが追いついてくる前に黒泥晶を倒し切る必要がある。 黒泥晶は時間経過とともに弱体化するが、時間をかけすぎるとヨゼフに追いつかれる恐れがある。また、裂け目の先は入り組んだ通路となっており、幾つかの小部屋に賢者の石が大量に置かれている。ボルガニスクの祈りにより賢者の石も徐々に数を減らしつつあるが、黒泥晶が賢者の石を取り込むと一時的に力を増すので注意。必要に応じて賢者の石を「捜索」「破壊」「移動」することもできる。 ▼味方戦力 ・アダム 元メドゥの指先幹部であり、現ブラックデス構成員のゴブリン。短距離ながら影を渡って瞬間移動する能力を持つ授恵者。行動について冒険者から要望があれば考慮する。 ▼敵戦力 ・魂喰らう黒泥晶(旧名:とっとと死ね太郎) ボルガニスクにより辺獄最深部に封印されていた伝説級の超大型クリーパー。黒く巨大な不定形の怪物であり、夥しい数の結晶体が体表に浮かんでいる。普段は高さ10mほどの小山のような形しているが、不定形のため比較的狭い通路も通り抜けることができる。 殺した相手の魂を吸い込み、所有物として体内に保管してしまう特異な能力を持ち、取り込んだ魂の数に応じて力を増していく。体の一部を切り離して「分け身」と呼ばれる分身クリーパーを生み出すことができる。 皇帝との戦いでは、扇状に噴射する猛烈な炎や不定形の体を伸ばしての打撃、無数の黒い槍の発射、空間爆砕を思わせる衝撃波、自身の周囲に行動阻害を付与すると思われる波動など様々な攻撃手段をみせている。 ボルガニスクの祈りにより蓄えた魂と力を奪われつつあり、皇帝との戦いに不利を悟っている様子。 ・中~小型クリーパー×数体 黒泥晶が生み出す「分け身」であり、黒い流動体が魔獣やヒトなどの形を模倣した姿。分け身に宿る魂によって様々な攻撃方法をとり、打撃、範囲攻撃、遠距離攻撃、BS付与など多岐にわたる。体のどこかに結晶体を有し、それを破壊することで撃破可能。 多くはヨゼフと戦闘中だが、冒険者達と対峙する際に何体か生み出す可能性が高い。 【4】ボルガニスク神殿:神殿防衛―The Prayer― ▼状況 鎮魂の儀により黒泥晶の弱体化を進める女神ボルガニスクを妨害・殺害すべく、アルルカンの部下である帝国過激派の一団がボルガニスク神殿へと迫っている。これらを迎撃し、儀式の終了または黒泥晶の討伐完了までボルガニスクを守り切る必要がある。 ボルガニスクは神殿前に設けられた舞台の上で祈りを捧げており、身動きは取れない。敵の首領アゾット率いる帝国過激派とホムンクルスの部隊は神殿の南東方向から迫っているが、別動隊が居ないとは限らない。 神徒の多くは辺獄へ送られており、神殿に残っていた冒険者達を中心とした防衛戦となる。 時刻は夜。神殿周囲と内部は篝火などにより視界が確保されている。人里から少し離れた丘の上に神殿があり、草木はまばらだが岩場が多く遮蔽物がそれなりに存在する。 ▼味方戦力 ・ボルガニスク 皇帝ヨゼフ・バルダスに力を奪われた火生の神。残された力を使ってシグモル火山を神具と化し、自身が文字通り燃え尽きるまで鎮魂の儀を続ける。 ・オルグレイ ボルガニスク神殿の長で、火山帯全体の意見調整を担う神議長官。自衛の魔法くらいは使えるが、基本的に神殿内で大人しくしている。 ・神徒×数名 ボルガニスク神殿の警護に残った授恵者。基本的にオルグレイとボルガニスクの傍を離れない。 ▼敵戦力 ・道化師アゾット 帝国過激派のキャスター。芝居がかった台詞を好む仮面の道化師。攻撃魔法やデバフ系魔法を操るほか、短時間の飛行能力を有する。 ・帝国過激派×数名 アルルカンの部下。キャスターやウォーリアなど様々なクラスの授恵者がいると思われる。 ・洗脳ホムンクルス×15~ アルルカンの命令によりアゾットらに従うホムンクルス達。素体となった種族やクラスは様々で、洗脳の度合いが強く会話は成立しない。 ■決戦シナリオについて ・参加者にはこのシナリオでの働きに応じた褒章が付与されます。将来的にPCの皆さんの功績を表す重要なアイテムになりますので、大切に保管してくださいね!

マスターより

決戦シナリオのリプレイ執筆は複数のマスターが担当いたしますが、基本的な判定は運営サイドで行います。 なお、マグマの上では「ウォーターウォーク」が使用できませんのでご注意ください!

リプレイ

【1】フラスコ深部:仮面道化―The Jester―(執筆担当マスター:空色みなも)

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「お待ちかねのショウ・ダウンだぜェ! テメェらに俺様を捕まえられるかな!? ギャハハハ!」
 美しいボルガニスクを模した顔が冒険者たちを嘲るように歪んだかと思うと、くるりと背を向ける。
 その正体こそ帝国過激派の道化師、アルルカン。
 アルルカンは五体の改造ホムンクルスを入口に残し、フラスコ内部へと姿を消した。

「逃がすものか! マーシュ!」
「はい、ライナ様! 皆様、ここは私たちにお任せください!」
 そうした改造ホムンクルスに対し、ライナ・フレイヴァルツとフロマーシュ・ダイヤドロップらの【白杖白盾】が立ち向かう。
 ライナが白き杖を掲げれば、改造ホムンクルスたちを重力場が縛めて。
 フロマーシュが殺気を放ち、引き寄せた改造ホムンクルスが振るうオーガの腕を白き盾にて受け止める。
 そうして改造ホムンクルスがフロマーシュの周囲に群がったところを見計らい、ライナの放った魔法の光が流星のごとく降り注ぎ。
 フロマーシュが振るう大剣のまとった光が、何体もの改造ホムンクルスをまとめて飲み込んだ。
「こっちだよ」
 アルシエラ・ライゼルが白狼のシアに導かれ、一体の改造ホムンクルスを引き連れる。
 翠玉を思わせるアーチ状の弓から鋭く矢を放ち、改造ホムンクルスの額を狙うアルシエラ。
 アルシエラが煙幕により改造ホムンクルスの視界を奪うと――。
「落ちちゃえ」
 アルシエラの矢で崩された崖に足を踏み入れ、傷を負った改造ホムンクルスは踏ん張りきれずに崖下へと落ちて行った。残る改造ホムンクルスへは、神徒達が向かっていく。

 こうして入口付近で攻防が繰り広げられる間に、アルルカンを追う冒険者たちがフラスコ内へ雪崩れ込んだのだった。

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 実験器具――フラスコの名に相応しく、その内部にはアルルカンの生み出した改造ホムンクルスたちが徘徊。
 また、フラスコ内の道は複雑に入り組んでおり、時には隠し通路、時には罠の存在が冒険者たちに立ち塞がっていた。

「パルド、こっちに隠し通路がある」
「ありがとうウォーゼル。奥には敵も潜んでるみたいだな……他隊にも伝えておこう」
 先を進む【豹狼】のウォーゼルは地形、パルドは敵の存在をエーテル波で探る連携を見せる。
『こちらパルドだ――隠し通路を発見した。敵が先に二体、注意して向かってくれ』
 パルドは思念による通信が可能であり、敵の位置をマークできるパルドが情報を共有することは、全体の捜索効率に大きく寄与していた。
 また、調査済みの地点に印をつけることで二度手間を避けることも忘れない。
「ちょっと待ってて。罠だ」
 ウォーゼルにより罠も解除され、二人は安全に進むことができている。
 先ほども、もし罠に気付かずに進んでいれば、天井の崩落に巻き込まれて生き埋めになっていたことだろう。
「こっちにも敵――」
「ああ、せめて苦しまないように倒してやろう」
 目前に改造ホムンクルスが現れ、交戦を避けられないと見るや、ウォーゼルが正面から向かい、パルドが側面の壁を駆ける。
 ウォーゼルが三連撃で傷つけた改造ホムンクルスの核――賢者の石を、パルドは短剣を強く突き付けて叩き割ったのだった。

「パルドさんから通信。向こうに隠し通路だって」
「そのようアルね。敵もいるようだから注意するアル」
 クレア・エクレールら【追面】の面々も、他隊と情報を共有しながら捜索を進めていた。
 牛・奶も思念をやり取りできるため、受け取った通信を仲間に伝えて回っている。
 自身もエーテル波で敵の位置を捉えた奶は、エーテルを通わせた狼に先行偵察させ、敵の姿を確認。
 エーテル波だけでは分からない、敵の詳しい情報を隊に共有した。
 入口の敵は引き受けてくれた者たちがいたため、中に入ってから奶は索敵に集中しているのだ。
「……悪魔の所業ですわね。一時でも早く、望まぬ反魂から解放して差し上げましょう」
 フィリスティア・リュナ・ブルーメルティスは、もはや異形と化した改造ホムンクルスを目にして眉を顰める。
 せめてもの慈悲を与えんと、フィリスティアはエーテルをまとわりつかせて足止めした改造ホムンクルスへ、凍てつく嵐を吹雪かせた。
「アルルカンの手にした力はあるべき場所に帰さねばなりません」
 レイヤ・ダライ=カホールより光の群れが放たれる。
 小さな光はそれぞれ鳥の姿を成し、改造ホムンクルスの体を啄んだ。
 それはディズルに生きるものに刻まれた、雲霞鳥への恐怖を体現していた。
「ボクはボクらしいやり方で皆を助けるんだ!」
 これまで探索において活躍を見せていたクレアも戦闘に加わる。
 クレアの短剣に傷つけられた改造ホムンクルスがエーテル毒に冒され、体力を奪われていく。
 苦し紛れに振るわれた改造ホムンクルスの爪をかわしたクレアは、その勢いを逆用してカウンターを繰り出した。
「こっちに来い。俺が相手してやる」
 アデッサ・ハーレイが放った殺気に釣られるように、改造ホムンクルスが引きつけられる。
 勢いよく振り回された改造ホムンクルスの爪を、アデッサは盾で受け止めた。
 盾に貼り付けられた頑丈な竜鱗と、爪のぶつかる甲高い音。
「兄貴たちが行く道を俺たちが切り開く――!」
 そこに躍り出たアルフィー・リッパーが細剣で突くことで、ヒビの入った改造ホムンクルスの爪がへし折られた。
 無力化を図った一撃であったが、得物となる爪を失っても改造ホムンクルスの戦意は衰えない。
「元は人間、殺したくないが――気絶くらいはさせないとか」
 腹をくくったアルフィーは、強力な刺突により改造ホムンクルスの体を貫き、その意識を刈り取った。
「さてアルルカンだが、フラスコ内を監視できる部屋にいるんじゃねーかな?」
 一同が再び探索に戻り、アデッサが透視能力で周囲を見渡しながら呟く。
「あれも道化師、芸のないことはしないでしょう。足跡や罠、魔法的な幻影もあるかも?」
 レイヤは魔法的な仕掛けの存在も警戒しながら進んでいる。
「こんな時こそ俺を頼ってくれよ、兄貴」
 迷宮の構造を把握しながら罠解除に勤しむアルフィーは、己の拓いた道を進む兄貴分のことを思ったのだった。

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「こっちだ」
 ジュスト・ヴェルジーら【破面】が、アルルカンらしい影がマークされたとの報せを思念による通信で受け、それを追う。
 追われるアルルカンは、追手を皇帝と黒泥晶の戦う戦場から引き離すかのようにフラスコの奥へ、さらに奥へ。果たしてジュストたちが駆け付けたその先に、アルルカンの背はあった。
「なんだァ、テメェらもう追いついてきたわけ? マジでツマンネー! もっと鬼ごっこを楽しませろヨ!」
 両脇に二体の改造ホムンクルスを従えたアルルカンは、右手に鞭、左手に仮面を持ち、冒険者たちに向き直る。
「……哀しい人。あなたは愛されたことがないのね。それとも愛を失って壊れてしまったのかしら」
 それを見たルフィナ・ヴィオレットがエーテルを解き放つことで、仲間たちの身体能力を引き上げた。
 さらに仲間たちの武器へ強化の光を施し、万全の戦闘態勢を整えていくルフィナ。
「てめぇがアルルカンか。すぐに殺してやるよ、くされ外道野郎」
 アーシェル・G・クラインは静かな怒りを燃やしながら、弾かれるようにしてアルルカンへと向かう。
 アルルカンを倒してもホムンクルス化した大切な部下――家族は戻らない。
 しかしこれ以上の悲劇を生まぬために、アーシェルは刃を振るうのだ。
「おォ怖い怖い! マジになっちゃって! おい、木偶人形ちゃん! こういうときくらい役に立ちやがれ!」
 しかしアルルカンは鞭を振るうことで、改造ホムンクルスを矢面に立たせる。
「それで俺が止まるかよ!」
 だが不退転の決意を固めたアーシェルの太刀が、鈍ることはない。
 アルルカンにその刃を届かせるまでと、アーシェルはひたすらに太刀を振るう。
「一人遊びばかりで得意で困るな、僕とも踊ってくれよ」
「君に任せるから僕の分まで殴っておいで」
 進み出るローザリカ・L・ディオールを、後方で指揮をとるジュストが送り出す。
 怒りを向けることすらアルルカンの愉悦となる――。
 そう理解するローザリカは、弄ばれた者の苦しみと仲間に背を押され、アルルカンへと足を振り上げた。
「オーマイゴッド! GODのご尊顔を傷つけるたァ不敬じゃねェか!」
 アルルカンの顔――今やボルガニスクの姿となったその額に、一筋の血が伝う。
 ローザリカの踵落としが額を掠めたのだ。
「じゃじゃ馬ちゃんには調教が必要だなァ!」
 アルルカンが魔法の炎弾を飛ばす――が、それを前に出たジュストが受ける。
「命を玩具にした罰、貴様の魂で贖え」
 蒼焔に包まれたジュストであったが、エーテルの膜を展開し、炎が晴れた後もその場にしかと立っていた。
「はァ!? 面白くねェ! ならまとめて吹き飛ばしてやんよォ!」
 アルルカンが叫ぶと同時、一帯のエーテルが一点に収束していく――。
「させないわ!」
 そこへアンネエルカが割って入る。
 刹那、巻き起こる激しい爆発――それを眩い光に包まれたアンネエルカの槍が盾となって受け切っていた。
「アーシェルさん、ローザリカさん、守りは私に任せておいて!」
 大技を受けてなおアンネエルカは揺るがない姿勢で槍を構え、アルルカンの魔法を引き受け続ける。
(さて、後はうまく意識が神具から逸れてくれるといいが……このままだと少し手数が足りないか?)
 その間に、ナハト・シュライバーはアルルカンの死角に潜み、神具を狙う機を窺っていた。

 その時である。
 フラスコ内に笛の音が響き渡ったのは――。

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「敵の大将の位置を知らせるだけでいいなら、これが一番だろ?」
 笛を鳴らしたのは、ヴァンゲルス・ロッドであった。
 ヴァンゲルスは索敵や地形把握用のエーテル波を駆使し、極力戦闘を避けながらここまで進んでいた。
 そのため、大きな隊に所属していないながらも、この場へ早期に辿り着くことができていたのだ。
「テメェ~! 余計な真似しやがってよォ!」
「おっと、油売ってる場合じゃないんでな。なにせ、これからお前さんのもとへ大勢、案内しなきゃならないんだ」
 睨みつけてくるアルルカンを無視して、ヴァンゲルスは横道へと引っ込む。
「ふん、それなら俺様ちゃんもいっぱい呼んじゃおうかなァ! 可愛い人形ちゃんをよォ~! ギャハハハハハハ!!!!」
 その背を見送るしかないアルルカンは、代わりに鞭をピシリと鳴らした。

 こうして鳴らされた笛の音は、思念による通信を受け取れない冒険者たちにも届く。
「笛の音――? アルルカンが見つかったのね」
 特に【リザイン】のRe:Leeのように鋭い耳を澄ませて探索を行っていた冒険者は、笛の合図に逸早く気付いていた。
「ここら一帯の罠はオレっちが解除しといたから、安心して進んでくれ!」
 隊を同じくするザインが周囲の冒険者へ安全な道を示す。
 エーテル波により他隊へ合図することも考えたが、それを感知できる者がいないようであったため、地道に声をかけて回ることにした。
「邪魔しないで貰えるかしら」
 そしてRe:Leeは横道から隊の側面を襲撃しようとする改造ホムンクルスの姿を認めると、魔法の鉄壁で道を塞ぎ、横槍を防いだのだった。

「みんなー! こっちは罠を解除しておいたよー!」
 ぶんぶんと手を振って他の冒険者たちを呼び寄せるのはツィーラ・イェレミース。
「とりあえず武器持って、わーって突っ込もうかとも思ったんだけど、こうしておいてよかったかな?」
 武器で敵を倒すばかりが戦いではないと、ツィーラは改めて実感する。
 もし罠を解除していなければ、冒険者たちは満足に進むこともかなわなかっただろう。
「曲がり角の向こうから一体、敵が近づいてるようね」
 そこへリンセ・クアルト・アポストㇽが索敵結果を告げる。
 エーテルの波動を道の先へ飛ばし、敵の気配を探っていたのだ。
「全く、悪趣味なショーだな、許せないよ。道化師ならば他人を笑顔にするべきだろう?」
 ザスキアはアルルカンに対峙せんとする者たちの道を拓くべく、自らは改造ホムンクルスに向かう。
「……どうか、最期は安らかに」
 ザスキアが大きく振りかぶった斧に脚を穿たれ、改造ホムンクルスはその場に頽れた。

「あっちから敵が来るな……それも二体」
「分かった。なら一体はオレが時間を稼ごう」
 後続の冒険者のために罠の解除にあたっていた【罠処理班】のキリクが、エーテル波による索敵で敵の存在に気付く。
 ゲルトはその言葉に頷くと、棍と盾を構えて戦闘に備える。
 曲がり角の先から改造ホムンクルスが現れようとする際、キリクは小石を壁に投げつけ物音を立てた。
 改造ホムンクルスの意識がそちらへ逸れたところを、キリクは矢で射抜く。
 もう一体の改造ホムンクルスがキリクを襲おうとするのを、今度はゲルトが光の柱に封じ込めた。
 こうして二人は罠の解除ばかりでなく、敵を排除することでも冒険者たちの道を作っていくのだった。

 アルルカンが鞭を振るったことにより、アルルカンのもとへ改造ホムンクルスが集まって来る。
 その一方で、先行する冒険者たちが切り開いた道を進み、続々と冒険者が集結しつつあった。
「アルルカン――同族の恥晒し」
 同族のエルフとしてけりをつけるべく、リコリス・アデュラリアが取り巻きの改造ホムンクルスごとアルルカンを光の雨に巻き込む。
「いてェじゃねェか! 正義面して、俺様ちゃんを殺す気? 怖ぇなァ、ヒトのイノチを何だと思ってるんデスかァ~~~~~!!??」
 アルルカンが喚くのを無視し、リコリスは呪いをこめた魔法の糸をアルルカンの腕に絡みつかせた。
「今だ!」
 そこにナハトがアルルカンの意識外から一射を放つ。
 矢は過たずアルルカンの右手に収まった鞭を捉え――跡形もなく破壊した。
「テメェーーーー!! なんてことしやがる!? これじゃお人形さん誰の言うことも聞かねェぜ!?」
 アルルカンの鞭を破壊したとて、改造ホムンクルスが理性を取り戻すわけではない。
 しかし、これで改造ホムンクルスがアルルカンの命令を聞くこともなくなった。

「ジャンヌ様やホムンクルスたちを酷い目に遭わせたアルルカンは許せません! これ以上の非道はさせませんよー!」
 後から追いついたシェルリア・リトヴァールにより、激しく抗戦するアルルカンから冒険者が受けた傷も次々と治療されていく。
 なにせ、ひとたびシェルリアが輝く波動を放てば、周りにいる冒険者はまとめて癒えてしまうのだ。
「ぬし、そんなに遊ぶのが好きなら、わらわと遊んでみぬか?」
「カァーーッ!! テメェらマジでツマンネェーーーー!! 俺様ちゃんが興奮するのは蹂躙だけなんで!」
 夕霧がアルルカンにぴたりと体を寄せてみるも、色仕掛けより密着による身動きのとりにくさのほうがアルルカンの集中を乱せているようだった。
 夕霧はそのまま戦いを続けながら、アルルカンの持つ仮面をスリ取る好機を虎視眈々と狙うのだった。

●
 ヴァンゲルスの笛が鳴った時、【喫茶】はフラスコの浅層にいた。
 アルルカンの性格上、深部への突入自体が罠ではないかと警戒したためだ。
「ジャンヌさん、帰り道に使えそうなルートは他にありますか?」
「それなら……たぶん、こっちの道が……」
 エルナ・クルプファルツが脱出ルート吟味のため、ある程度フラスコ内部を知るであろうジャンヌ・アンと打ち合わせをしていたところ――。
「笛の音――ですね」
「ですわね」
 鋭い聴覚を有するイヴェール・イリュジオンとバンビが笛の音に反応した。
「どうやら深部でアルルカンとの交戦が発生したようですね」
 浅層での張り込みを提案していたキーゼであったが、こうなれば迷わず奥へと駆ける。
 いくつかの懸念は杞憂に終わっているが、不利になればアルルカンが逃走を図るであろうとの予想はまだ当たるかもしれず、油断はならない。
「こっちの壁の奥、近道になってるかもしれねーぜ!」
 温度を視覚化していたナキルが、壁の温度から奥に隠された通路を発見する。
 ナキルの見つけた通路を通り、【喫茶】の面々はアルルカンのもとへと急いだ。
 途中、通路を塞ぐ改造ホムンクルスは、バンビが見敵必殺とばかりに見かけ次第、排除。
 爆発的に広がる衝撃波に薙ぎ払われる改造ホムンクルスを背に、【喫茶】は足を止めることなく駆けたのだった。

●
 こうして【喫茶】がアルルカンのもとへ辿り着いたとき、戦闘は激化の一途をたどっていた。
「こいつはちょっと演説どころじゃなさそうかね」
 これまで経路構築に活躍していたルチル・プルメリア・グレイハーツは、仮面を狙う仲間を支援するため演説を行う予定であった。
 シグモルだけで満足か、もっといい方法がある――と。
 しかしアルルカンが話に耳を傾ける余裕すらない戦場を見ると即座に気持ちを切り替え、弩を構えた。
「ここでけじめをつけて頂きましょう」
 火山の地下に、ネーヴェ・グラヌローザが生み出したエーテルの雪が舞う。
 雪の結晶は仲間たちに溶け込むように消え、その能力を大幅に引き上げた。
「お願いしますね、コハクさん」
「ん、任されたわ」
 さらにネーヴェはコハクに知覚の冴える支援を施し、送り出す。
 コハクはそのままアルルカンに疾駆し、流れるような三連蹴りを繰り出した。
 脚が宙を切り裂くたび、脚甲から噴き出すエーテルが炎の雲かのごとく棚引く。
 しかし、これもアルルカンの注意を引くための囮。
 アルルカンの左手に収まった仮面こそ本命である。
「余所見してると首を掻かれるわよ」
 カメリア・ローレンスの短剣から飛ばされた衝撃の刃が、アルルカンの首許を掠め、ツゥと血が流れる。
 追い詰められたアルルカンは、もはや仮面に注意を払う余裕すら無くしつつあった。
「こごはおらにまがせるごんすっ」
 その間にも後衛を襲う改造ホムンクルスは、カンナ 三木が押しとどめていた。
 強化を重ねに重ねたカンナの防衛力は、生半可な攻撃ではびくともしない。
 わずかに後ずさることすらなく、カンナはその場を守り続ける。
「私たちが招いた結果……何もしないわけにはいかない」
「うげっ!?」
 ここでイヴェールがアルルカンの隙を突いて背後に回り込み、盾で突き飛ばすことに成功した。
 たまらず前方に向かってたたらを踏むアルルカン――。
「ユウゥ~クリア~バスタァー!」
 そこに待ち構えていたのがユークリア・フィナンシェである。
 ユークリアは母蜘蛛糸のロープを左右の腕に巻きつけており、先端を掌に持っていた。
 物理的な説法により分からせるべく、ユークリアがアルルカンを投げにかかる。
 生憎、母蜘蛛糸は横方向の力に弱く格闘中に切れてしまったが、ユークリアが掴みかかったことにより、アルルカンに決定的な隙ができた。

「よっと! これは貰ってくよ」
 この絶好の機会を逃さず、飛ぶように駆けたキオルティスが、仮面をアルルカンから掠め取る。
 キオルティスは単独行動であることを生かし、これまでじっと息を潜めて隠れていたのだ。
「おいコラ泥棒! 返しやがれ! カァーーッ、シツケの悪い奴らだなァ? 冒険者ってのはよォ!!」
「何が泥棒だよ。そろそろ貴方が奪ったものの大きさを理解するといいよ」
 焦りを見せたアルルカンから、キオルティスは構わず距離を取る。
 その離脱を支援するためアルルカンに向かう冒険者たちの中には、アステルの姿もあった。

「やるじゃねぇか! 俺もちったあいいとこ見せねぇとなぁ! 顕現せぃ!」
 さらに【喫茶】のパヴェル・A・サムルガチェフが三叉棍を手に舞い、地面を踏みつけると、割れた地面から雷のエーテルより成る障壁が現れる。
 障壁はアルルカンが放った魔法を遮り、キオルティスの離脱を大いに助けた。
「その仮面は私たちの希望にもなりましょう――どうか届いて」
 フクシア・S・シュルツの祈りが、アルルカンとキオルティスの間を隔てるように光の柱を生み出す。
 このダメ押しにより、アルルカンが仮面を取り戻すのはもはや不可能と言ってよくなった。
「ありがとうございます――あとは私たちが!」
「ああ、頼んだよ」
 脱出経路を頭に叩き込んだエルナがキオルティスから仮面を受け取り、異空間に格納する。
「さあ、早く仮面を届けよう!」
 ずっとそばに控えていたネロに付き添われ、エルナは来た道を急いで引き返し始めた。
 周囲を見張るネロが発見した敵を迂回するように、ひたすら交戦を避け、入口へと速く、早く――。

「くそっ、やってらんねェ! どいつもこいつもツマンネーーーーーッ!! もっとハジケた奴はいねェのかよォ~~~~!!!!」
 仮面を失ったアルルカンはついに不利を悟ったか、脱兎のごとく逃げ出そうとする。
「おい! 邪魔すんなよ、テメェ! たかが人形ごときがよォ!」
 しかし、アルルカンの行く手を阻んだのは改造ホムンクルスであった。
 もはやアルルカンの命令を受け付けなくなり、全てを敵とみなすようになった改造ホムンクルスは、アルルカンすらも標的としていたのだ。
「テメェは火中で懺悔してろ!」
「ぎゃあ!!」
 そしてナキルの蒼剣に背中を大きく切り裂かれたアルルカンは、どさりとうつ伏せに倒れた。
 得意の口上を述べる暇もなく、ただ断末魔の叫びのみを残して――。
 後にアルルカンの遺骸を冒険者たちが検めると、その顔はただの凡庸な男のものになっていたという。


【4】ボルガニスク神殿:神殿防衛―The Prayer― 前編(執筆担当マスター:おおくまねこ)

●
「頼むぞ、冒険者達よ。私は今祈りをやめるわけにはいかぬ。シグモルの民の命運は、お前達にかかっている」

 少しずつ存在が希薄になりつつあるボルガニスクが激励を言葉を送ると、冒険者達は力強く頷き、敵を迎撃すべく飛び出していった。

「行くぞ、人形達よ。我らの目的はただ一つ。死にぞこないの女神の暗殺だ!」

 暗夜の中、血の匂いを漂わせた集団が走っている。アルルカンの部下アゾットは、同僚数名と共にホムンクルス達を率いて神殿へと向かっていた。広場で鎮魂の儀を行っているという女神さえ消し、皇帝の勝利を揺るがぬものにしようという腹積もりである。恐るべきは、アゾット達アルルカンの部下全員が『女神さえ殺せば相討ちでも構わない』と考えていることである。そしてそれは、アルルカンの神具によって洗脳されているホムンクルス達も同様であった。目的の為には己の死さえも厭わず、神さえも殺す集団――まさに『帝国過激派』と呼ぶにふさわしい、狂信者達の部隊であった。

「ハリスさん、南東の方から敵が近づいてくるよ」
「トゥーリ殿、どうかご助力を。火生の神は己の命すら燃やし、シグモルの民の為に鎮魂の儀を行っておられます。ここを通すわけには参りません」
「もちろん!」

 神殿の方から接近してくる人影に気付き、アゾットは唇を吊り上げる。アゾット達の行く手に最初に立ち塞がったのは、【竜羊】コンビ、ハリス・アル・ターミルとトゥーリの二人だった。一気にホムンクルス達の群れへと飛びこんだハリスは、トゥーリの堅甲で固くなった鎧でホムンクルス達の猛攻を凌ぎ、血まみれになりながらも咆哮と共に殺界を放つ。巨大な闘気の結界はホムンクルスの数体を飲み込み、内部に閉じ込めた。

「チッ」
 アゾットはハリス達に捕まった数体のホムンクルスを見捨て、そのまま彼らを迂回して神殿に向かおうとする。だがその矢先、【睡狼】の面々がアゾット達の前に周り込み、襲い掛かった。

「神殿へは行かせんぞ、アゾット!」
 アルバス・ロウルはホムンクルスの脇を通り抜け、アゾットへと大剣で斬りかかった。だがアゾットはエーテルバリアで剣を弾き返すと、おかえしとばかりにアルバスにスネア―ジャベリンを放ち、大地に縫い留めた。生半可な相手ならその一撃で地に伏しそうなところ、魔法にも物理にも守りを固めたアルバスは耐える。

「おや、貴方とは初対面のはずだが。私も有名になったものだ!」
(道化が神落としの本命という事も在り得る……さて、どう出る?)

 アルバスはホムンクルス達の攻撃を受けながら、アゾットの様子を注意深く探る。仮面のせいで表情は見えないが、道化師はどこか余裕があるように感じられた。夜襲ならば服も暗い色のするのが定石だが、こいつはわざわざ目立つ道化師の服装をしている。アゾットが馬鹿でないなら、陽動だと考えるべきだろう。

「センサー、反応あり! 大当たりだよ!」

 アルマ・ヴァレンタインのモヒカンセンサーはビンビン反応していた。アルマは偽者を疑っていたが、この仮面の道化師は恐らく本物のアゾットだ。アルマはすかさずハウリング・オブ・ブルーフレアを発動し、強敵との戦いに備える。
「いやいや、実はアルルカン様と入れ替わっているかもしれませんよ?」
「どちらにせよ、ここで仕留めるだけだ!」

 後列にいたロイ・アウレアの放ったバスターアローが軽口を叩くアゾットへと直進した。さらに畳みかけるように、他の者の光源となる為に発光していたテス・クラルスが放った空間爆砕がアゾットを呑み込んだ。

「やったか?」
 土煙が晴れた先には、無傷のアゾットとボロボロになったホムンクルスがいた。アゾットはホムンクルス二体のカバリングでロイとテスの攻撃をやり過ごしたのだ。

「随分地味なピエロだね。ボロい仮面に雰囲気を合わせたのかい?」
 ならばと、テスはアゾットを挑発し、この場に引き付けんと試みる。
「黙るがいい、発光体! お返しだ!」
 激昂したアゾットはテスに向けて巨大な振り子刃を召喚し、投げ放った。しかし、ライオネル・ギシュムが咄嗟に割って入り、テスを庇った。

(向こうの狙いはやっぱりボルガニスクさんだ。こっちを適当にあしらって先に進もうとしてる)
 ライオネルは自身にヒールをかけ、傷を癒す。アゾットが彼らの相手をしている間にも、アゾットの配下達は神殿に近づこうとしている。だがそうはさせまいと、梅(バイ)・雨陽(ウヨウ)のペットの猪がホムンクルスの一体に猛烈なタックルをぶちかました。

「いいわ、芍薬(しゃくやく)ちゃん!」
 雨陽(ウヨウ)はバランスを崩したホムンクルスに貫通衝撃射をお見舞いし、戦闘不能に追い込んだ。

 冒険者達の殲滅よりも移動を優先し、神殿に向かおうとする過激派達に、【睡狼】たちは必死に食らいついていた。
「目前の貴方がアゾットかどうかは問いません。敵として立つ者を討つだけです」
 エルシー・サリバンのペットの栗鼠が分身しながら飛び出し、アゾットの正面を遮った。エヴァン・ピオネロは重力場をホムンクルス達のど真ん中に打ち込み、その場に釘付けにする。サーマルアイを持つエヴァンには、光源の乏しい場所でもホムンクルス達の居場所がハッキリ見えていたのだ。

「「今だ!」」
 ホムンクルス達へと矢の雨が降り注ぐ。エルシー、レタラ・スマリ、ルルト・アーキスの三人が一斉射撃をお見舞いしたのだ。
 
「いい加減にお暇させてもらおうか」
 苛立たし気にアゾットが放ったフリーズボルトが通せんぼをしていたレタラの下半身を凍結させた。すると、サシャ・テーリングが即座にサルベーションをかけ、レタラの凍結を解除した。

「……ドゥジンシのネタにでもしないと、割に合わんな」
 暗視をも駆使し、逃げるホムンクルス達を探しながらレタラはぼやいた。ペットの栗鼠(リス)経由で仲間達にホムンクルスの位置をこまめに連絡し、レタラは自身も走りながら鋭射で敵を撃つ。忙しい夜だ。

「今度は10時の方向に逃げました! 追いかけましょう!」
 栗鼠の視線を頼りにレタラから情報を受け取ったサシャは、ホムンクルスを追って大地を駆ける。相手の得物を注視し、魔法攻撃が有効そうなウォーリアへと狙いを定めて爆炎を放った。

(紛れて背後を狙うですか? 主目的へ向かって隠蔽しコソコソ? 自分ならば……)
 ハル・チフは乱戦の最中、頭を目まぐるしく回転させていた。ハルの狙いは、敵のシーフだ。向こうの狙いがボルガニスクの暗殺であることは明らかなので、最速のクラスであるシーフはここで叩いておきたい。

「看破し、叩き切るのです!」
 ハルは雄叫びと共に、サシャを後ろから狙っていたホムンクルスを横合いから切りつけた。

「熱烈な歓迎痛み入るが、今夜は女性を待たせているのでね!」
 アゾットはクレネルウォールで冒険者達の射線を遮り、自らも神殿へと走った。残るホムンクルスやシーフ達もその動きに連動し、猛烈な速度で神殿へと向かっていく。

「逃がさないよ!」
 ルルトはシーフの背中に向けて重撃射を放った。さすがに完全な死角からの攻撃は回避し切れず、シーフの一体がばたりと大地に倒れた。

●
「全く、ヘビのようにしつこい連中だな!」
 苛立たし気にアゾットが叫ぶ。ホムンクルスやアルルカンの部下から戦線離脱者が現れ始め、アゾット陣営の作戦に崩壊の兆しが見え始めていた。

「みんな、お腹空いてるでしょう? 遠慮しなくていいのよ!」
 【四葉】のルアンナ・ミュラーは営業スマイルを浮かべながらマジカルポケットを解放した。出てきたのは特大バスケットに詰め込まれていた大量のメロンパンと焼きそばパン。焼き立てパンの香しい香りが辺りに広がり、戦場にいる者達の鼻をくすぐる。さすがに戦闘中にパンを食べようとする者は敵にも味方にもいなかった。だが、それはルアンナの想定内。ルアンナは弱っているホムンクルスに狙いを定め、スタティックフィールドで動きを止めると――、
「えい、メロンパンチ!」
 おもむろにホムンクルスの口に乱暴にパンを突っ込んだ。
「ふご!?」
 ホムンクルスは面くらった様子だったが、パンを吐き出し、猛然と反撃してきた。
「こら、吐くなー!」(プンスコ)
「まあ、まあ。おなか、すいていませんか?」
 マレーネ・シェーンベルグはすかさずホムンクルスの少年の剣を弾き飛ばして無力化した後、焼きそばパンを口に突っ込んだ。

「何をしているつもりか知りませんが、人形に人質の効果があるとでも?」
 アゾットは小馬鹿にしたような表情で、ルアンナ達へと無数のナイフを飛ばす。

「させませんっ!」
 だが、駆け付けてきたゲルダ・クラインが咄嗟に盾となり、ホムンクルスは守られた。ルアンナも真エーテルバリアで身を守った。マレーネだけは直撃を受けたがなんとか耐え、ヒールで傷を癒す。
「すみません、奥に引っ込みます!」
 ゲルダは盾で殴って素早くホムンクルスの意識を刈り取ると、ホムンクルスを担いで自陣の奥へと退避していく。

「敵に情けをかけるか。なんともお優しいことで……っ!」
「手出しはさせませんよ。三流道化!」
「これ以上、ホムンクルス達を利用なんてさせない!」
 アゾットの前に立ちはだかったのは、クローリカとアリオン・リューだ。衝撃刃に体勢を崩され、アゾットは追撃を断念する。
(あの男、エーテルが漲っている……殺界か!)
 アリオンの狙いを察したのか、アゾットはここで奥の手として隠していた飛行術を解禁し、空高く舞い上がっていく。

(今だ!)
 その瞬間、ハイディングで気配を隠していたベアトリーチェ・カロッサが地を蹴ってアゾットへと襲い掛かった!
「主文。アゾットは有罪、絞首刑に処す!」
 エアーライドで空中を蹴ったベアトリーチェは勇ましく宣言すると、母蜘蛛の糸で作ったロープをアゾットの首を狙って放り投げた。

「チチチ」
 しかし、予想以上の速度で高所まで飛び上がったアゾットまで糸は届かず、アゾットは冷笑を浮かべてベアトリーチェに指を振った。

●
「何人前いるでしょうか……とにかく美味しい料理をたくさん作らないと!」
 その頃、前線を【四葉】の仲間に任せたリサ・ベイカーは神殿の厨房に籠り、一心不乱に料理をしていた。ホムンクルスの洗脳を解く為には、魂への強い刺激(ショック)が必要となる。そのために、リサは偵察部隊の情報を頼りに、生前の幸せな記憶を少しでも呼び起こせればと、各地の郷土料理や、種族固有の料理を作り続けているのだ。ルアンナのパンが尽きても彼女たちの戦いは終わらない。

●
「凄いスピードで敵が近づいて来る! 恐らくシーフとウォーリアだ!」
「まだ見えにくいけど……確かに足音がするね。他の方向からも来ないか注意しよう」
 ゼラルム・エルホワイトの警告に、サニー・フォン・オルライトは頷いた。神殿の屋根にいた【月陽】の二人が気付いたのはアゾットの同僚が率いる敵の別動隊の一つである。【睡狼】達に行く手を遮られ、迂回したつもりが追い込まれてきたのだ。

「あそこの岩陰にも一体いるぞ!」
 エーテルリンクした栗鼠の視覚で敵の接近を察知したサロは仲間に大声で警告する。【月陽】と共に屋根の上にいた【高偵】達は暗がりに潜むホムンクルス達を超視覚や超聴覚、捜波を駆使し、手分けして探した。

「いたぞ、あそこだ! 派手にかますよ!」
「撃ちまくるぞ! 神の元には近づけさせん!」
「これは伝承の一頁、手出しさせないのである!」
 サロとロウトフェダー、二人分の流星射、そしてポコ・アルデバラッドの炸光矢が同時に打ち込まれ、ホムンクルス達は痛烈なダメージを受けつつも足を止める事は無く、ひるまずに向かってくる。

「敵の主力は他の部隊が抑えてくれているようだが……隠密部隊の奇襲や遠方からの狙撃にも注意せねばな」
「まずい、キャスターがこっちに向かってる!」
「何、撃ってる最中はごろ寝させてもらってる身分じゃからな。敵が来た時の壁ぐらいにはなってみせるけん!」
 ジョン・ベアーは屋根から飛び降り、キャスターへと走り出した。戦場に壁を立てて冒険者達の邪魔をしていたキャスターは、ジョンのシーザーロアを受けて目標を変更し、爆炎を放ってきた。ジョンは爆炎に呑まれて倒れる。遮蔽から身を出したところを、仲間達の集中砲火を受けてキャスターは仕留められたが、足の速い敵がその隙に神殿前へと駆け抜けた。

●
「今なのだ!」
 ベアトリーチェの攻撃を躱し、銃眼光壁の裏側から空中に浮かび上がったアゾットを視界に捉えたストレガ・L・リベルガストラは、上空に向けて重力場を放った。重力の渦がアゾットを捉え、空中にアゾットを固定する。
「なに!? だがこの程度の拘束では――」
「では、これならどうですか」
「!?」
 重力場を強行突破しようとしたアゾットへと、リディリディ・トゥラ・イェレミースはスネアージャベリンを放つ。呪法強化された魔力の槍によって空中に縫いつけられたアゾットは、今度こそ完全に身動きがとれなくなった。
「うおおおおおっ!?」
 シューター達の一斉射撃を受けたアゾットは飛行を維持できなくなり、地上へと落下していく。間髪入れずに【ツインズ】の二人、ルーカ・ルンガルディエールとエリック・ルンガルディエールがアゾットへと駆け寄った。

「シャアアアッ!」
 大将を討たせまいと、ホムンクルス達が二人を取り囲む。だが、エリックが身を挺してルーカの盾となり、ホムンクルス達の間を闘気塊でこじあけ、道を拓いた。
「やれ、ルーカ!」
「お命、頂戴します!」
「おのれェエエエエエッ!」
 すでにエーテルバリアを使い果たしていたアゾットを守るものはもう何もない。ルーカの祭刀に心臓を貫かれたアゾットは血を吐き、糸の切れた人形のように地面に崩れ落ちる。

「くくく……私を殺しても……今頃は別動隊が、ボルガニスクの元に辿り着いている……はず……私は澱の果てにて……貴方達が後から来るのを……待つとしましょう……」
 落下した際に仮面が砕け、素顔が露わになった道化師は凄絶な笑顔を浮かべてこと切れた。

●
 アゾットが倒れた後も、まだ戦いは続く。
「一体ずつ確実に……」
 パドは仲間の攻撃の合間を縫い、倒れたホムンクルスへとダガーの一撃を叩きこんだ。転倒しても、戦闘から離脱したとは限らない。パドの役割は主に弱っているホムンクルスへの対処だ。今回はボルガニスクを守る為の戦いなので、討ち漏らしは命取りとなる。

「皇帝陛下の為、女神は殺すべし!」
「まさに狂信者だね。……あと少しだ、無理はするなよ、あい」
 ローリー・R・テイワズは帝国過激派達の攻撃を耐えていた。ローリーはあいを狙う者がいないか注意深く戦場を観察しながら、ホムンクルス達の猛攻を耐え凌ぐ。
「デスデス! 援護しますデス! ローリー!」
 あいはモモンガのように空を滑空すると、ローリーを攻撃しようと狙っていたホムンクルスに鉤爪を叩き込んだ。あいはその後もローリーを狙っている敵がいないか注視しながら、戦場をせわしなく駆け巡る。互いを庇い合いながら、2人は粘り強く敵を狩り続けた。

「……アゾットは死んだか。だが一人でも女神の元に辿りつけば我々の勝ちだ」
 ホライゾナルジャンプで辛くも冒険者達を突破した帝国過激派シーフはそう呟くと、岩陰を伝うようにして暗闇の中に溶けていった。


【2】辺獄封印地点:人魔相克―The Emperor ―(執筆担当マスター:革酎)

●
 オレンジ色の輝きを放つ溶岩の海。
 ここはシグモル火山帯の地下に広がる魔境『辺獄』にして、その最奥地に当たる封印領域。
 溶岩内を悠然と泳ぐ超大型クリーパー『魂喰らう黒泥晶』を前にして、シルトラース帝国現皇帝ヨゼフ・バルダスは圧倒的な破壊力を誇る必殺の矛を繰り出そうとしているが、黒泥晶の放つ無数の分け身が結果的に盾となり、黒泥晶本体への破壊波の直撃はことごとく阻止されている。
 封印領域の東端で、溶岩の海に点在する岩の足場への移動を模索していた皇帝だが、その傍らにナタリア・フィッツジェラルドとアウレーリア・フォン・ネーベルベルクの姿があった。
 ふたりは恭順する姿勢を示しつつ、決済文書の提出や休憩を勧めたりしているが、
「今、何をすべきか分からぬのか」
 というひと言であっさり却下された。ナタリアが医療者権限で無理に座らせようとしても、帝国に於いては医療者よりも皇帝の方が権限は圧倒的に上である。この局面で通用する話ではなかった。
 如何に臣下を装ったところで、時と場合を弁えぬ行動が生み出す成果は微々たるものだ。結局ふたりからの諸々の手短かな報告を、皇帝が戦いながら聞き流す程度に終わった。
 そこへ、【小救】の面々が東端入り口の奥から駆けつけてきた。
「居ました……あそこです」
 ケリー ルギエルが東端すぐ近くの岩棚で分け身と戦う皇帝を指差した。
「さて、準備完了よ」
 リズ・ジェイド・フローレンスが足を止めて仲間達に輝刃を仕掛け終えると、攻撃力が増強されたミツキ・アインホルンが手近の足場を破壊し始めた。
「神の力に届かなくても、全力をぶつけるわ」
 ミツキは更に、魔力の雷を迸らせて黒い分け身達を誘導する。一部の分け身は標的が逸れて足場破壊に専念しているケリーやリズに襲い掛かろうとするも、その前にカズマ クレセントブラッドとバクル・バスリーが立ちはだかった。
「結構な数だな……流石に皇帝までは手が回らないか」
「今は分け身を退けることに集中しよう。ぼく達がやられたら、仲間を守る盾役が居なくなるからね」
 カズマもバクルも現実的で、且つ冷静だった。余裕があれば、或いは皇帝がこちらに向かってくる様であればあの恐るべき矛の破壊力を受けて立つ覚悟はあったが、冒険者の側から積極的に仕掛けない限り、皇帝も手を出そうとはしない様子だった。
 ならばと、ケリーとリズは足場破壊に専念し、ミツキは分け身をけしかける為にと更に魔力を投入する。
 皇帝は、冒険者を無視しても黒泥晶を早期に討てると判断していたのだろう。だが、足場が減らされ攻撃に有意な位置取りを取るのに余分な二手、三手が必要になり、その間に増えた分け身が必殺の攻撃を阻む。この状況が長く続けば流石に皇帝も無視は出来ないと悟ったのか、ミツキやリズにちらりと視線を走らせた。矛を握る手に、力が籠もる。
 ここでケリーがさっと手を上げた。
「撤退しますッ!」
 そのひと言を合図にミツキとリズは即座に東端入り口に繋がる横穴通路へと駆け込んでゆく。カズマとバクルが分け身を退けながら、ケリーと共に封印領域を退出していった。
 鮮やかな撤退劇である。初手の足止めとしてはそこそこ時間を稼ぐことが出来たといって良い。
 皇帝が追ってくるかと警戒したカズマとバクルだったが、皇帝は分け身の相手に手一杯で、それどころではなかった。

●
 皇帝が分け身の群れ相手に手間取っている隙に、【瑞雨】のダムド・フィリス、カルフ・オルヴォ、セオ・ウルジオの三人が【小救】に代わって足場破壊へと動いた。
「出番だな。行こう」
 カルフが得物を抜き払うと、ダムドは壁や天井を駆け回る為の機動準備態勢に入った。
「一発喰らったら死亡だからな……やるだけやって逃げ切ってやるぜ」
 気合に満ちたふたりに、セオが支援魔術を施術する。
「カルフさん、ダムドさん! 行くよ、輝刃!」
 セオによる強化を順に受けたダムドとカルフは、即座に動いた。
 その時、フレイヤ・サンライズとベルク・オスマットも同時に足場破壊へと合流してきた。フレイヤが魔術による足場破壊を担当し、ベルクは足場破壊の傍ら、皇帝の牽制をも担当する。
「あんまり近づき過ぎると、危ないかな?」
「安全第一に徹しよう。痴れ者とはいえ、あの強さは異常だ」
 フレイヤもベルクも頭では分かっている。間合いに入ったら最後、確実に負ける相手だと。
 それはダムドもカルフも同様だ。兎に角、如何にして皇帝の意識の中に入らず、そして足場を少しでも多く破壊出来るか。そこが勝負の分かれ目となるだろう。
 しかし今回ばかりは、間と相手が悪かったかも知れない。
 母蜘蛛糸のロープを駆使して封印領域内を飛び回るダムドや、足場破壊だけに専念せず、敢えて皇帝にも手を出す意図を持っていたフレイヤやベルクの行動は先に見逃した数名以上に目障りで、間違い無く皇帝の頭の中でもその存在が明確に意識される様になっていた。
 いくらかの足場が破壊されマグマの海に沈んでいく中、皇帝の矛が強大な破壊力を伴う衝撃波を一閃させた。天井から巨岩を叩き落として新たな足場にすると同時に、その余波がダムド、フレイヤ、ベルクにも襲い掛かった。
 三人は躱し切れず、直撃を浴びた。新たに生じた巨大な足場が無ければ、三人共溶岩の中へと呑み込まれていたかも知れない。
 その時、アリア・ティーダが恭順の姿勢を取りながら歩を寄せてきた。
「陛下、恐れながら今少し、お時間を頂戴したく」
 今の今まで土木知識を活かし、岩棚や壁の段階的崩落工作に時間を費やしていたアリアだが、最後の仕上げとばかりに皇帝に近づき、そしていきなり、光縛封を発動させた。
 光の柱の中で自身もろとも足止めになろうと考えたのだが、その瞬間、矛の切っ先が宙空を鋭く走った。臣下の礼を取りながらも光縛封を仕掛けるという行為は無礼中の無礼に当たる。皇帝は穏やかな表情ではあったが、矛を振るうその豪腕には明らかに怒りの念が感じられた。
 光の柱は一撃で叩き割られ、その余波を受けてアリアは岩壁に叩きつけられて昏倒した。
 だがその間に、カルフとセオが動けないダムドを救出して離脱することが出来た。
 アリアは皇帝の怒りを買い、足止めすら叶わなかったが、傷ついた冒険者達を救う為の足掛かりになることは出来た。

●
 アリアの悲劇を向こうに見ながら、【流空】のハルト・ゼルフェイトは仲間達に輝刃を施術していた。
「皆(精霊達)……行くよ!」
 直後、サラの弓が淡い光に包まれ始める。そのサラに分け身が襲い掛かった。
「……手出しはさせない」
 だわが、敵とサラの間に割って入り、力技で押し返す。
 その強固な防御に支えられつつ、サラは分け身内側の結晶体位置を見抜き、必殺の一撃で破壊していった。
 一方、ハーヴィは皇帝を溶岩上に誘い出そうと幻影の偽足場投影を目論んだが、幻影は間近にしか出せないという射程問題の為、この策は不可能だった。
「仕方が無いか……じゃあせめて、足場破壊だけでも……」
 結局ハーヴィは路線変更、無数の光弾を放って皇帝の進行方向にある足場を破壊する方向に頭を切り替えた。
 一方オルト・レーヴェニールもまた魔力を存分に使い、足場破壊に勤しんでいる。
「厄介な御相手ですね。嫌がらせは好きなんですがねぇ」
 しかし全ての魔術が有効だった訳ではない。例えば豪風で溶岩を巻き上げようとしたが、これは爆風を生じさせる魔法である為、何かを巻き上げるという使い方は出来ない。
 ならばとオルトは皇帝が分け身に注意を向けている隙に近くまで接近し、だわの合図を待ってある人物の幻影を造り上げた――それは、レイウェスト・バルダスだった。
「父上、助太刀に馳せ参じました」
 レイウェストの声を模写しているのは、サラだ。これで皇帝を溶岩上に誘い出せれば、という思惑だった。
「皇子殿下のお目見えですよ」
 皇帝に声をかけたオルトだが、今の今まで足場破壊に励んでいた者の言葉など、皇帝が信じる筈も無い。その場に跪いたまま髪の一本すら動かぬ幻影もまた、皇帝の目を欺くことはできず、即座に見破られた。
 その時、再び分け身が束になって襲い掛かってきた。幻影と見破ったレイウェストも虚言を弄したオルトも皇帝は容赦無く巻き込んで、矛を振るう。
「少しだけでも……!」
 ハルトが発動させた光の柱は身近の仲間を守ることは出来たが、皇帝間近のオルトは流石に守り切れない。オルトもまた、恐るべき矛の餌食となった。

●
 東雲・更紗とブレイドが南側の岩棚に降り立った時、【雷鎚】のテテリカとロゼットが、ゴールディからの助っ人サチコと額を突き合わせて、残る足場の中で破壊するものを絞り込んでいる最中だった。
 サチコの傍らにはテテリカの相棒たるゴリラのオニフスベが控えており、何かあればすぐにでもサチコを連れて離脱する準備が出来ている。
 更紗とブレイドはロゼット達に会釈を送ってから、溶岩の真上へと飛び出す。ブレイドは母蜘蛛糸のロープを駆使して宙空を渡り、そのブレイドに抱えられた更紗が天井付近から分け身や足場に強力な魔術を叩き込むという算段だ。
「溶岩を眼下に一蓮托生というやつですねー、ブレイドさん」
「戦場なんだからもっとこう緊張感をだな……」
 地獄の戦場、それも皇帝という圧倒的強者を相手に廻す戦いであるにも関わらず、更紗とブレイドにはどこか余裕の色が感じられた。
 そんなふたりに思わず苦笑を浮かべるロゼット。更紗はこの直前に、必要なら鉄壁を行使して【雷鎚】を支援すると申し出ていたが、そこまで頭が回るのも、ふたりの余裕が為せる業であろうか。
 ともあれ、【雷鎚】の全体方針は固まった。西側の裂け目に近い場所から破壊し、皇帝の経路を潰すということで、既にこの場にはいないナハティガル=ラーにも頼まれていたサチコがまず、強大無比な破壊の魔力をその方面に叩きつける。
「敵は無双……でもここで逃げたら、シグモルの民の名が泣くわ!」
 ロゼットも気合を込めて、サチコと共に魔力を溶岩上の足場へと叩きつける。
「皇帝の、好きにはさせないからな……」
 同じくテテリカも、ロゼットやサチコの狙う位置周辺の足場を攻撃し始めた。
 すると、分け身の一部が南側の岩棚に矛先を変えてきた。が、それらの分け身に対し、北側から封印領域内へと侵入したララヴェル・ララフェルが、文字通り矢継ぎ早に次々と鏃を分け身の群れへと叩き込む。
「邪魔はさせませんよ。貴方達の相手は私です」
 ブレイド同様、母蜘蛛糸のロープを駆使して溶岩上の天井付近を自在に往来するララヴェル。分け身の矛先は完全に南の岩棚からララヴェルへと切り替わった。
 一方、南の岩棚から少し下方に降りたところの岩場では、フセイン ラファが数々の魔術を駆使して比較的皇帝に近い位置の足場を破壊していた。
「皇帝は……次は右斜め前への移動を考えている様ですね」
 ラファの傍らで皇帝の位置をしっかり見極めているトーラが、次に破壊すべき足場の情報を逐次、ラファに伝えている。
 今回トーラは水袋に入れて持ち込んだ水で溶岩を固める方法や水蒸気による目くらましも考えていたが、流石にこの場所の溶岩相手にその程度の水量では効果が期待できなさそうだった。それこそ湖ひとつ分の水量が必要だ。その為、今回は皇帝の位置捕捉担当として意識を集中するのがベストだった。
「……ナハティガルが戻ってくるみたいね」
 ラファは攻撃の手を止め、ナハティガルの帰着を出迎えた。ナハティガルは、意識のないアリアを小脇に抱えて溶岩上を駆け抜けてきた。
「頼めるか?」
 ナハティガルが声をかけたのは、フリーで冒険者達の回復役に専念していたファーシル・クリスティアだ。
「これは……。えぇ、勿論です」
 アリアの傷の深さに一瞬目を見張ったファーシルは、おっとりとした調子で穏やかに微笑んだ。彼女の足元には他にフレイヤやベルクといった姿もある。いずれもナハティガルが救助し、ファーシルの治癒術で九死に一生を得ていた。
 今回、ナハティガルは素晴らしいまでの機動力を冒険者救助の一点に費やしていた。地味な役回りだが、対皇帝足止め戦でここまでひとりの死者も出ていないのは、ナハティガルの功績が非常に大きい。そしてファーシルの治癒術の存在も決して無視は出来ないだろう。
「また何人か連れ帰ってくる」
「はい、お任せ下さい」
 ナハティガルはひと息入れ、頭上のブレイドや更紗、或いはララヴェルといった面々の位置を確認し、更にトーラから皇帝の移動経路を聞き出してから、再び溶岩上の足場へと躍り出ていった。
 封印領域内の西半分の足場は、相当な勢いで消えつつあった。
 皇帝も流石に焦りを感じたのか、ここへ来て移動速度を速めようとしていたが、テテリカが目の前に仕掛けた濃煙炸弾に視界を一瞬覆われ、黒泥晶の正確な位置を見失った。

●
 封印領域の大半を満たす溶岩の海の中心付近で、皇帝は足止めを喰らった。西側の足場が全て【雷鎚】の面々によって破壊し尽くされていた上に、更に天井を崩して急造の足場を増やそうとしても、今度はザザ=ステルヴィナが豊富な魔力を駆使して新たな足場を破壊してゆくからだ。
 実のところザザは皇帝を溶岩の中へと叩き落とそうともしていたが、下手に手の届く場所を狙えば魔法を切り払われてしまい、新たな足場増設を阻止することに方針転換せざるを得なかった。
 勿論皇帝もザザの妨害に対処しようとしたが、しかしザザに近付けない。天井付近から母蜘蛛糸のロープでぶら下がっていたバーネット・フォーサイスが、皇帝周辺やザザへと至る経路上に稲妻の波や重力場を発生させており、皇帝の移動を阻んでいたのである。
 幾つかの足場は、ふたりとも敢えて残している。それらが非常に脆いことをふたりは見抜いていた。皇帝もそれらの足場が使えないことを理解しており、使うに使えなかった。
 その時、東端の岩場から足場上を駆けて来る者が居た。【偽子】の飯塚・麦穂であった。
「暑い。これは大変なところへ来てしまったかも」
 そんなことをぼやきながらも、麦穂は皇帝の傍らに辿り着くと臣下の礼を取った。
「……皇子殿下があちらに」
 麦穂が指し示したのは東端の岩棚。そこには確かに、レイウェストと思しき人影が。
「おいおい、皇子殿下、本当に来たのか?」
「あらぁ……でも、ちょっと様子が変かしら? っていうか、本当に本物?」
 足止め戦の手を止めて、バーネットとザザもその方角に視線を転じる。しかし皇帝は先程皇子の偽物を見せられた事を、あるいは本物のレイウェストと合流するのを邪魔する策とも考えており、やっと追いついてきたかとばかりに東端へと引き返し始めた。
 実はこのレイウェストも偽物だ。
 リヒャルトがエリザ・A・ミシャールの変装術で扮装しているに過ぎない。レイウェストの細かな所作についてはヴィノニスが指導していた。
「わたし、記憶力には自信があるのよ」
 特にかわいい子には、という点でヴィノニスは随分と自信ありげだった。現在、そのヴィノニスはエリザと共にリヒャルトから距離を置き、皇帝の動向が観察可能な岩陰に隠れている。
 リヒャルトはエリザからの念話を介して、ヴィノニスによる指示を受けて皇帝に応じていたが、矢張りもともとがレイウェストとは余り似ていない顔つきであり、エリザの変装技術も飛び抜けて高い訳でもなく、そして何よりリヒャルト自身の演技力には難があった。
「コレ、バレたらボクが一番ヤバい立ち位置だよね?」
 作戦開始前、リヒャルトは冗談めかして笑っていたが、その危ない状況が現実になりつつある。
 ゆっくりと足場を戻ってきていた皇帝が、途中で足を止めた。偽物だと気付いたからだ。
 バレた以上は離脱するしかない。麦穂は皇帝周辺に稲妻を発生させ、リヒャルト離脱の隙を作ろうとした。
「リヒャルト、行け!」
 エリザもリヒャルトを脱出させる為に鏃を放ったが、皇帝の矛は直接的に敵対行動を取った麦穂に襲い掛かった。麦穂は必殺の矛の一閃を浴びて、昏倒した。ヴィノニスが救出の隙を窺うも、皇帝と目が合い、迂闊に飛び出せない。
 麦穂、万事休す。だがそこに、ゴブリアが獰猛な勢いで割り込んできた。
「ひとつ、手合わせ願おうか」
 ゴブリアは、真正面から盾を構えて果敢に挑んだ。だが余りに力量が違い過ぎた為、必殺の突撃技も容易に躱されてしまう。皇帝の注意は麦穂から逸れたが、ゴブリアはほとんど手も足も出ないまま一瞬で蹴散らされた。そして麦穂諸共、溶岩の中へと落ちるかと思われたが、しかし死には至らない。
 彼女達が生き永らえたのは救助専念のナハティガルに、溶岩への落下寸前に救われたからだった。

●
 機を窺うような様子を見せていた黒泥晶は遂に、封印領域から西の裂け目の向こう側へと姿を消した。
 溶岩で満たされたあの裂け目の中に潜り込むのは、流石の皇帝にも不可能だ。加えて、この封印領域自体が既に強度面で相当不安定になっている。少しばかり、壁や天井を崩し過ぎたかも知れない。
 皇帝は東端から元の横道へと引き返した。あの裂け目の奥にも冒険者が居る、即ち迂回路があるということを察知したのである。
 その皇帝の前に、妙な人影が現れた。リーンエス王国のウィリアム王子だった。これはファヌが造り出した幻影だが、流石にもう引っかからない。また茶番か、という冷めた目つきで幻影を無視し、そのまま通り過ぎようとした。
「皇帝陛下、王国の者らが黒泥晶を討つと、この道を抜けて行きました」
 ウィリアムの幻影を消してから、今度はファヌ自身が現れて臣下の礼を取ったが、皇帝は幾分呆れた様子で何もいわず、そのまま黒泥晶の気配と奥から響く音を頼りに迂回路を進み始めた。
 ところが、この迂回路が中々の曲者だった。
 ヴェイグ=ベーリングとロドリック・アルカイン、更には【悪戯】のナハシュとヨル・スレイマンが迂回路側に様々な仕掛けを用意し、皇帝の行く手を阻んでいたからである。
 まず、クリーパーの群れが居た。これはヨルが痛い目に遭いながらも懸命に誘い出してきた群れだった。
 更にヴェイグが正解の道と不正解の道双方を適度に破壊してカモフラージュし、ロドリックも魔術を駆使して皇帝の行く手を要所で阻んでいた。
 ナハシュは念写で岩肌を造り出していたが、これは簡単に見破られた。少しばかり皇帝の能力を甘く見ていたかも知れない。だがそれでも、黒泥晶を討伐する為に西の裂け目の奥へと走った冒険者達の移動の痕跡を消していたことは、非常に有効だった。
 皇帝は黒泥晶や冒険者達の気配を、自らの直感と五感だけで追わなければならなくなった。これは相当に時間のロスを招く結果となった。斥候となる本物の臣下が傍に居ない状況は、矢張り不便なものである。
 ナハシュとヨルはそれぞれの技能を駆使して更に道を誤らせようとしたが、皇帝には通用せず、矛の恐るべき破壊力を多少なりとも浴びる結果となった。幸い、それでも大きな事故には繋がらなかった。
「皇帝は、まだ決戦の場には辿り着いてないかな?」
 迂回路の一角で負傷したナハシュの治療に当たっていたヨルに、ロドリックが声を潜めて訊いた。
「大丈夫、皇帝は完全に迷子になった。もう少し時間が稼げそうだよ」
 ヨルが薄く笑った。その時、ナハシュが瞼を開いた。皇帝を不正解の道に誘導したところで矛の一撃を喰らってしまい、今の今まで気を失っていたのである。
「……上手くいったか?」
 ナハシュは、ロドリックと同じことを訊いた。ヨルは苦笑交じりに、小さく頷き返す。
「どれ……備えは不要になるが一番だが、行くだけ行くか。小僧……シグモルを舐めるでないわ」
 それまでひと息入れていたヴェイグがゆっくりと腰を上げた。皇帝が黒泥晶に辿り着けぬ様に、もうひと算段手を打つ必要がある。
 ナハシュ、ヨル、ロドリックらが見送る中、ヴェイグは決戦の地へと足を向けた。この時、サラの白フェレットが足元をすり抜けていった。


【4】ボルガニスク神殿:神殿防衛―The Prayer― 後編(執筆担当マスター:岩岡志摩)

●別働阻止
 神殿南東では道化師アゾットや帝国過激派、そして洗脳ホムンクルスの多くが冒険者達の守りに阻まれている。
 しかしその一部は迎撃を突破し神殿へ迫りつつあった。目立ちすぎる強襲は別方面の為の陽動という危惧もある。
 これに対し、ラセリ=リエ―ブルとマリア・C・クロードが神殿からかき集めたロープや鈴を使い、即席の鳴子で警戒網を構築していた。
「ラセリを手伝って貰えないでしょうか?」
 マリアが神殿に詰める神官らにも協力を頼み、周囲への敷設を終わらせたところで、早くも鳴子の一部が鈴の音を散らす。
 超聴覚で音を捉えたラセリはマリアと共にその場所へと疾走し、別動隊の存在を察知したラティア・ミゼリアやエミリア・シバ、サマエラ=フォリウムも迎撃に向かう。
「本隊が到着するまで時間稼ぎを行いましょう」
 捜波を駆使して敵位置を特定したラセリは、周囲の仲間達へそう伝達する。
 発言と同時にラセリが放った矢は、鳴子を潜り抜けた洗脳ホムンクルスの1体へと突き刺さった。矢に収束されていたエーテルが絡みつき、その動きを鈍らせる。
「こちらに来た敵の別動隊だけど、数はそう多くないわ」
 エミリアは暗視と双波を駆使して敵別動隊の規模を把握すると、ラティアより預かった栗鼠へおよその数や位置を伝え、駆けだした。
 そのままエミリアは敵のただ中に飛び込み、薙ぎ払いを行使。
 光の刃を纏った竜爪の籠手が真横に振り抜かれて周囲の敵を薙ぎ払い、過激派や洗脳ホムンクルス達の身を切り裂いていく。
「了解です。では敵発見の合図を出します」
 一方でエーテルリンクを行い、エミリアに同行させた栗鼠を介し情報を受け取ったラティアも合流すると、閃光塗弾を空へ投擲する。
 やや遅れて眩い光が辺りを一瞬照らし出し、敵の姿を露わにするとともに、周囲にいる仲間達への合図となった。
 そしてラティアはエミリアが攻撃した敵の1体に向け、風読みの矢を行使。
 風のエーテルを纏い、加速した矢は狙い過たず洗脳ホムンクルスの身へと突き刺さり、血を噴出させる。
 冒険者達の猛攻を浴びて見つかった事を悟った敵群も突撃を始め、一部は迎撃を排除すべく攻撃に転じた。互いの攻撃が交わされ、互いにダメージを負っていく。
 その中で負傷者のもとへ駆けつけたマリアが、治癒の光を飛ばして回復に努め、看破や超聴覚を駆使して更なる増援を警戒していたサマエラも防戦に加わる。
「ボルガニスクへの接近は阻止しないとな」
 『閉』を構えつつ、攻撃を凌いでいたサマエラの祈りと共に光輝く六角形の柱が構築され、敵の進路を阻んだ。

●神殿前
 南西方面の冒険者達が敵別動隊の発見と足止めに向かうのと時を同じくして、南東方面の前線を突破した過激派や洗脳ホムンクルス達が神殿のすぐ傍で交戦を始めている。
「さぁ、私に出来る事で手伝おうか」
 南東方面にある岩陰に身を潜めていたセオドア・カザツキは、超聴覚や暗視、捜波を駆使して神殿へ迫る敵の位置を把握すると、その背後へと忍び寄っていく。
「うちは特に火で生活してんだ。加護が消えると困るんだよ!」
 魔導の潮流で攻撃力を高めたペルゼィックの声と共に、稲妻めいた光の群れが顕現し、稲光が範囲内にいた過激派や洗脳ホムンクルス達へと絡みつく。移動を阻害したところで、ペルゼィックは魔矢を行使。
 威力を増した魔法の一射が過激派の1人へと命中し、その身を穿った直後、セオドアが過激派の背後から奇襲をかける。
 セオドアが突き出した『薫風』より放たれた不可視の衝撃が過激派の背を打ち据え、その生命を削り取る。
「全力で殲滅すべきは此処まで突破してきた過激派です。鉄壁等を弾除けに撃ち合いに徹しましょう」
 神殿前では、ヴァレリア・ブランシェ・ウィザースプーンが当面の方針を仲間達に示し、布陣を進めている。
 既に行使したアイアンウォールによって構築された鉄壁が、過激派の遠距離攻撃を防ぐ中、ヴァレリアはアーケインテンペスト改をさらに行使。
 稲妻めいた光を纏う光球が顕現し、過激派や洗脳ホムンクルス達の動きを鈍らせる。鉄壁と合わせて足止めの効果は高く、後続は迂回を余儀なくされた。
「早く消えてよ。ゆっくりしたいんだからさー……」
 ニールは鉄壁を遮蔽物にしながらテレパスや暗視を駆使し、情報の伝達と収集を行っている。
 そしてニールは鉄壁を破壊せんと魔弓を放つ過激派に狙いを定めた。
 グリモアより黒い矢が射出され、過激派に突き刺さると、矢に込められていたエーテルが過激派の身を蝕み、命中精度を低下させる。
 ニールと共に索敵役を務めていたザキも攻撃に移り、ニールが攻撃した過激派の死角へと回り込む。
「お相手を務めさせていただきます。それでは」
 宣告と共に、ザキは魔力の集中を乱す光印を過激派の身に刻み、その攻撃力を低下させていく。
 仲間が攻撃に転じる間も、マリィ・スノードロップは暗視や超聴覚を駆使して、敵の索敵を続けていた。
「皆さん、どうかお気を付けて!」
 マリィは守護の光を周囲に放ち、味方の防御力を向上させ、カハトラに向け輝腕を行使する。
 カハトラはマリィに向け片手をあげ、感謝の意を示すと過激派や洗脳ホムンクルス達へ向き直った。
「不届き者は帰った帰った」
 カハトラはぶっきらぼうにそう言うと、天眼で敵味方の動向を見据えながらメテオライトを行使。
 直後カハトラの周囲に無数の光弾が顕現して過激派やホムンクルスを手荒く打ち据え、血煙をあげさせる。
 そしてヴァイス・ヴェルブレドが、なおも足を止めず突破を試みる敵の前に立ちはだかる。
「どこ行くンだよ。俺と斬り合おうぜ?」
 既にペインキルと暗視を使用していたヴァイスは、敵に向け不敵な笑みを見せると殺界を行使。
 竜鉄の大太刀にエーテル光が纏い、長大な刃を形成すると、ヴァイスの周囲へと不可視のエーテルが張り巡らされ、範囲内にいる敵の移動を阻止する。
 そしてヴァイスの殺界に巻き込まれた過激派や洗脳ホムンクルス達に向け、大太刀の斬撃が襲いかかり、切り裂いていく。しかし、足止めを強制したヴァイスへ敵の反撃も集中した。
 ヴァイスが稼いだ時間にエイル・アーティライト、セロンガード・シュタインドルフ、ティト、Re✕達も迎撃に加わる。

●舞台
 激しい攻撃に倒れる敵は多かったが、お互いすら盾とし損耗を恐れず突撃を続ける敵全てを阻み切ることはできない。冒険者達の激しい迎撃を突き抜けた洗脳ホムンクルスや過激派の一部が、神殿前広場へと突入した。
 ニールやザキのテレパスを介し、敵の侵入を知ったヘレン・ワーグナーが周囲の味方に状況を報せ、舞台周囲に布陣した冒険者達が神徒の一部と共に、迎撃に乗り出す。
「近寄らせないし、撃たせない!」
 ウォルナ・パイパースは敵味方が入り乱れる乱戦になる前に先制攻撃を行うべく、迫る敵群に向け爆炎を行使。
 ウォルナより撃ち放たれた火球が、敵群のただ中で火焔の花を咲かせた。
 攻撃を受けた過激派からも報復の光矢が放たれた。
 立て続けに爆発が巻き起こり、前衛となった神徒達を吹き飛ばす。
「うちが癒しの力で絶対ボルガニスク様を守るんよ!」
 それまで神徒達の支援にあたっていたキャッスル・アイランドは、薙ぎ払われた神徒達のもとへと駆けつける。キャッスルより周囲へと輝くエーテルの波動が放たれ、効果範囲内にいる神徒達の傷を癒していく。
 その間にも敵の攻撃が飛来するも、シャルロッテ・リゼ・ヴォーンが駆けつけ、防衛に加わる。
「怪我の具合は? 撤退が必要なら支援するつもりだよ」
 そう言うとシャルロッテはダマスカス鋼の盾を押し出し、背後で治療にあたる仲間達を庇う。
「少しでも長く戦えるように戦線維持をします」
 グレイブ・ヤードもまた、キャッスルと連動する形で神徒や負傷した仲間の治療に奔走していた。
 神徒達の命が救われていく一方、その神徒達の脱落により生じた隙間を突く形で、シーフらしき過激派や足の速い洗脳ホムンクルス達が強引に駆け抜ける。
 その先では、アセット・アセトシソンとマーハ・アセトシソンが連携して守りを固めていた。
「姉ちゃんと一緒なら百人力さ! コンビネーションを見せてやろうよ!」
「うん、そうだね。2人でここを守り抜こう絶対に!」
 マーハとアセットは短いやり取りの後、アセットが前衛、マーハが後衛となって過激派や洗脳ホムンクルス達を迎え撃つ。
 まずマーハよりフリーズボルトが行使され、宿り木の杖の先より氷の矢が放たれる。
 マーハの攻撃は洗脳ホムンクルスに命中し、炸裂した氷の矢より冷気が噴出してその身に絡みつき、その移動を阻害すると、間髪入れずアセットが襲いかかる。
 一気に肉薄したアセットより大剣【仏桑花】が振り下ろされ、斬撃を浴びた洗脳ホムンクルスが胸から喉にかけ、鮮血の霧を噴き上げ転倒する。
(ここまで来ている過激派はシーフがほとんど。ならば当てやすい攻撃での応戦になるね)
 テミ・ウィリアム・ライトニングは頭の中で様々なやり方を模索しながら、後方からの援護を続けている。
 そして過激派の1人へダマスカス鋼の魔弓を向けると、強射を行使。
 エーテルを纏う一射が撃ち放たれ、過激派の身に突き刺さると、射抜かれた過激派は穿たれた箇所から血を噴くも、止まらない。
 その動きを、暗視や超視覚を駆使するエフィルミアが捉えていた。
 エフィルミアは捜波・改も行使して、把握できた残敵の数や位置を味方に報せる。それまでテレパスを駆使して情報伝達に当たっていたヘレンが過激派との距離を詰めていく。
「死んだ人は生き返らない。自然の鉄則だよね」
 そんな呟きと共に、ヘレンは衝撃刃を行使。
 ダマスカス鋼の大太刀が勢いよく振り抜かれ、その先にいた洗脳ホムンクルスが不可視の衝撃を浴び、血煙をあげてのけぞった。
「私は今生きてるボルガニスクさんを助ける為に全力を尽くすよ!」
 ヘレンの攻撃に合わせる形で、エフィルミアが同じ洗脳ホムンクルスへと忍び寄り、タナトスバイトを行使。
 エーテルを籠めたダマスカス鋼の暗針Reが突き通され、必殺の暗殺撃となって洗脳ホムンクルスの生命を削り、打ち倒す。
 エフィルミアが倒した洗脳ホムンクルスを、テレパスを介し情報を受け取ったイズル・M・ヴォルゴールが身柄の確保に動く。
 イズルは倒された洗脳ホムンクルスを射程に捉え、光縛呪を行使。
 エーテルが光の縄を形成すると、戦闘不能になった洗脳ホムンクルスの身を拘束していく。

 その間にも、舞台の周囲では消滅を憂いた冒険者達がボルガニスクに向け、様々な延命の為の提案を行っていた。中には捕えたホムンクルスや自身を依り代にと言う者までいたが、ボルガニスクは他者の犠牲で永らえる気はないようだ。「気持ちだけは受け取ろう」と謝辞の姿勢を崩さない。帝国と交渉しエーテル石を入手しようという【命繋】の意見を聞いたシグモル神殿が使者を送ったが、シグモルと帝国は遠く離れており、今この瞬間には間に合わないだろう。
「ボルガニスクには、もっと関わりたかったんだがなぁ」
 シグルド・オルセンは、近くで祈りを捧げるボルガニスクに視線を向ける。
 ――あんまり表情は変わらないが、楽しそうにしているのを見るのは好きだったんだが。
 内心そう思いながらも、シグルドはボルガニスクへの攻撃を察知すると、カバリングを行使。
「まぁ、頼りない盾かもしれんが、最後まで付き合おう」
 強引に敵とボルガニスクの間に割り込んだシグルドはそう呟き、青い波の紋様が刻まれた蒼月甲を掲げ、飛来した攻撃を防ぐ。
「力を奪われたボルガニスクに新たなる力を与えよう」
 その近くにいたハッタ・ムラムラは、何かを決意したようだ。
 ――女神の力に匹敵するパワーと言えば……そう、GPに他ならない。
 そう解釈したハッタは行動に移る。
「ジャイアントパンダ神よ、今こそ降臨せよ! かーっ!」
 その声に何かが答えたかどうかは定かではないが、ハッタは満足げであった。
「火山は地とも縁深いですから、地神様の恵みで験担ぎされてください」
 カイン・ステラがボルガニスクのもとへ駆け寄ると、マジカルポケットより鍋に詰め込まれたアイスを取り出す。
「な、成し得てしまったら、口にできませんし……」
 今にも消えそうなボルガニスクに向け、無理やり笑みの形を作ったカインがアイスを差し出すと、ボルガニスクは自然な笑顔で応じそれを受け取り、最後の瞑想に入る。
 広場に踏み入った敵は少数ながらもボルガニスクのいる舞台を執拗に狙っていたが、突如洗脳ホムンクルス達の動きが止まり、次々と意識を喪失していった。
 辺獄の「フラスコ」内で繰り広げられていた戦いの中で、アルルカンの神具が破壊されたことによる影響だ。
 洗脳ホムンクルス達が倒れ、残るは過激派のみとなった。
 【命繋】所属の冒険者達が神殿に到着したのを察知したレティシア・レインフィールは、舞台へ向かう彼らに乗じる敵の妨害にあたる。
「これより先は通行止めでございます」
 レティシアの祈りと共に、霧の空間が出現し、その中で眩い稲妻の嵐が荒れ狂う中、ハイディングを行使した【命繋】の海神・江流が「フラスコ」内で戦っていた冒険者達より託された『あるもの』をマジカルポケットに忍ばせ、ボルガニスクのもとへ急行した。
「一番脅威になりそうな敵はアレだな」
 移動妨害を乗り越えうる敵はどれか。サイラスは戦略眼を駆使して最適な行動を導き出すと、シーフらしき過激派へ狙いを定め、鋭い一矢を送る。
 エーテルを収束させ、竜花琴より鋭く放たれた一射は過激派の身に突き刺さり、深手を負わせる。
 最後の直線、ホライゾナルジャンプを行使して、空を飛ぶとさえ言われる走行を見せた江流が、徐々に姿が薄れていくボルガニスクのもとへ到着した。
「返せない借りを押し付けて勝手に逝くな! ヒトは足掻くモノなんだよ」
 そう叫ぶと江流は「フラスコ」にて仲間達がアルルカンより奪取した仮面を、消失間際のボルガニスクの足元へ届ける。
 直後、仮面に蓄積していたボルガニスクの力が解放された。
「火神様の身が消えて得た状況……長い目で見れば大損。人はあなた様を失うには早すぎると思います」
 薄れていた姿が再び形を取り戻しつつある中、祈り続けるボルガニスクに向け、ルーンス・ラグネルはそう告げる。
 直後、無数の光弾がルーンスの周囲に出現すると、サイラスの攻撃で深手を負いつつも、突進を止めない最後の過激派へと降り注ぐ。
 全身を光弾に穿たれた過激派は、そこで生命が尽きたのか、血霧を撒いて転倒し、沈黙した。

●儀は続く
 帝国過激派の足を止めている間に冒険者達が生命力を削りきるか、帝国過激派が神殿の舞台まで走り抜けるかという勝負は、帝国過激派の生命力を削り切った冒険者達の勝利に終わった。
 ボルガニスクも再び確たる像を結び、その消失をひとまずは免れることができた。鎮魂の儀は妨害を振り払い、なおも続いている。


【3】辺獄封印地点:人魔相克―The Creeper―(執筆担当マスター:馬車猪)

●
 亀裂から洞窟へ入り込んだ巨体を冒険者が追う。
「エルゼリオさん、俺にもお願いします」
「無理はしないで」
 エルゼリオ・レイノーラはフラム・アニムスに支援する間も、不定形の黒から目を離さない。
(移動して攻撃……違う。移動9割に攻撃1割)
 術の発動が確定した直後に自身を淡い光(輝刃3)で包む。
 誰のものか分からない悲鳴が響く。
 黒泥晶が置き土産のように放った衝撃波が、追跡中の冒険者に浅くない傷を与えている。
 エルゼリオが即座に回復しなければ、この時点で【黒撃】を中心にした追撃は失敗していたかもしれない。
「援護しつつ敵を引き付けます!」
 イズレンディル・パラリムと組んで術攻撃を仕掛ける。
 フラムは最大火力重視だ。
 高速展開式超魔法で強化したフレイムゲイズはもちろん、高い魔力により行使されるメテオライトも十分に高威力だ。
 黒い異形が数秒立ち止まり、猛烈な扇状の炎を放つ――、という反応を引き出す。
「……絶対逃がさない!」
 光の膜(真エーテルバリア)でぎりぎり耐えて、さらに攻撃を継続した。
「マグマに……!」
 小川のように流れるそれ(マグマ)を物ともせず渡り切る黒泥晶。
 飛び散った溶岩は固まりきらず危険な罠と化し、黒泥晶の行方をくらます煙幕代わりにもなる。
「こちらです」
 アヴェラ・ウッチェロは決して見失わない。
 探波と捜波の併用は追撃の場面で非常に強力だ。
 しかし敵(黒泥晶)は強い。
 アヴェラほどの使い手が回避に集中しても危険なほど黒泥晶の攻撃は強烈だ。
 溶岩の奥に見える狭い裂け目へ向かう道筋は、追えば避けようのない一直線。これ以上の追撃は危険と判断して、閃光塗弾を投げつけ黒い表面に目印をつけた。溶岩に潜れば消えてしまうかもしれないが、やらぬよりマシだ。

●
「こちらでございます!」
 ハリーヌ・ヨツユビが探波で見つけた亀裂ともいえぬ亀裂をこじ開け奥へ進む。
 小柄な体格を活かして短時間で突破に成功し、宝石というには命の気配がありすぎる石の山を目にする。
 バックパックを下ろし、麻袋を取り出しつつテレパスを使って連絡する。
(ハヤト様、賢者の石を袋2つ分見つけましたが黒泥晶の気配が迫っているでございます)
 お互い忙しいのは分かっているので返事は待たず【赤翼】にも連絡した。
「こんなにたくさん」
 テレパスで誘導されてきたシャルロット・エクレールが最初にしたのはスタティックフィールドを黒泥晶へ打ち込むことだ。
 少人数で戦うのは無謀と理解しているので、仕掛けてすぐハリーヌと合流して袋詰めされた賢者の石を異空間(マジカルポケット)へ収納する。
「時間を稼ぎます」
 洞窟の曲がり角からフリーズボルトを使いさらに移動を邪魔する。
 シャルロット自身、後1分ももたないと考えていた。稼いだ時間分、探知を進めているはずの他の仲間を追いかける。
「悪いな、俺の身体の世話は頼むわ」
 一方、先行していたエイル・ビュセファスは恐るべき大胆さで幽体離脱を実行していた。
 黒泥晶に追いつかれれば即死しかねない危険な行動だ。
 が、探波では察知しづらい現場の状況を視覚的に探れるのは非常に有用でもある。
(あれが賢者の石か。皮肉な名前だ)
 即座に帰還。意識の無い彼を背負っていたフリューリングスルフト=ティエラに礼を告げ、【赤翼】を駆り立てるようにして次の目標(賢者の石)へ向かう。
「探し物はうちの得意分野さぁ」
 思ったよりばらけているなぁという本音は口にしない。
 フリューリングスルフトは、エイルの先導で辿り着いた狭い洞窟の先から石を次々に見つけて手分けして回収する。
 双波も使えて看破の心得まであるので、1人で探索と警戒の両方をこなしていた。
「シャルのお菓子で祝杯するんさぁ」
 追いついて来たシャルロットと、その向こうから近づいて来る不吉な気配に気付いた上で、冷静に行動し続けていた。

●
 常人ならストレスで参る環境でも、【ふしぎ亭】の面々はいつも通りだ。
「一つでも多くの石を見つけた人の勝ちー♪ 本当の意味でね!」
 ヒロ・テスタロッサは賢者の石捜索に専念している。黒泥晶から離れ安全を確保する事よりも、彼女らは速度を優先した。
 疾風足も使って徹底して効率よく石を見つけては後続に伝えチーム全体の効率を向上させる。
 直接顔をあわせなくても、黒泥晶と戦っていた。
 ヒロが見つけた石を、ピンク髪のハーフビーストシーフ、アリエッタが拾って袋に入れる。
 袋の行き先はララベル・サン・ディーベルだ。
「行くよ皆、死ね太郎の好物取り上げ大作戦だ!!」
 袋にまとめて異空間(マジカルポケット)へ収納。
 散らばりすぎて回収に時間がかかり過ぎると判断した賢者の石は、大きな光塊(闘気槌)をぶつけて岩や石ごと破壊する。
 多少洞窟は傷んだが許容範囲であるしこの場から敵の餌も消えた。
 瞬間、楓月・千弦の背中に張り付いていた栗鼠が何かに気付いた。
 強くしがみつかれた千弦だけでなく、【ふしぎ亭】の仲間達も合図を見落とさず誤解もしない。
 アリエッタが先手必勝で先んじて退避すると同時に周囲へ注意を促す。さっと散らばった直後に、餌を消滅させられた黒泥晶の怒りの矛先が飛んできた。
 が、直撃すれば確実に戦闘不能の衝撃波も、余波だけであれば身を隠すなりやり過ごす手立てはある。
(ここで戦えば全滅)
 千弦は現状を正しく認識し、その上で望む未来を手繰り寄せる戦術を選択する。
 背中に栗鼠をしがみつかせたまま、予め確保していた退却路を使い仲間と合流する。
「厳しいわね」
 つぶやいたアルラ・ニグラスをはじめ、【ふしぎ亭】のメンバーの過半は足が速く、一撃離脱を心得ていた。
 その速度を活かして黒泥晶に戦いを挑むのではなく、身軽な動きで残った賢者の石を回収してしまう事を選ぶ。
(これ以上は無理ね)
 【ふしぎ亭】は石を奪って退却することで、黒泥晶の誘導という役割まで果たしていた。
 此方から仕掛けずとも、被害なしで切り抜けるのは不可能だ。
 異形の巨体がアルラへ狙いを定めた瞬間、振り返ったゴルバルティアが大音声で叫びながら盾のグリップを握りしめる。
「勝てはしなくてもなぁ!」
 当然のように防御集中。飛んでくる黒の槍相手にエーテルを集中してなんとか耐える。
 全力を尽くしても、耐えきれるのは僅かな時間。その一瞬で稼いだ時間分、仲間が石を拾い集めている。
(やっべぇよ)
 痛みと出血でくらくらする体に鞭打ち、ゴルバルティアは後へ猛烈に加速し必死に距離をとった。追い打たれれば命も危なかっただろうが、黒泥晶は彼女に見向きもせずに行きすぎた。
「気配が」
 栗色と金色のオッドアイに驚きの感情が浮かぶ。ボルガニスクの儀式の効果か、最初に遠目に見たときには絶望的に思えた強敵が、今ではただ恐ろしい敵にも感じられる。
「補給を断つのが1番効くのね」
 テュリン・ヴィングは、取り残した石へ黒泥晶が食らいつく寸前、洞窟ごと破壊するつもりで空間爆砕を叩きこんだ。崩落した岩が黒泥晶へ降り注ぐ。
 おそらく浅手にしかならないだろうが、後退する時間稼ぎには十分だ。近場の賢者の石を一つも喰わせなかった代償として、ゴルバルティアを筆頭に仲間たちも無傷ではない。
「……私達はここまでね」
 テュリンは黒い巨体の監視を別のチームに引き継いでもらい、洞窟の奥へ向かった。

●
 テレパス経由で黒泥晶の位置と衰弱、順調な賢者の石回収の情報が届く。
「いける」
 【勇牙】のハヤト=ガラン=ヴォルファングが断言した数秒後に、彼の視界ぎりぎりに白いフェレットがたどり着いた。
 嫌な予感に突き動かされるようにしてフェレットを回収し手当をする。
 【流空】からの使者(フェレット)がもたらした情報は、想定より早くはなかったが、十分に余裕があると言い切れるほどでもない。
「皇帝が来やがった」
「そうですか」
 オゴスは一度息を止めて吐いて自身の動揺を抑え込む。
「では第2案を使いましょう」
 決戦場に十分な広さを探して見つけた、行き止まりでない広い空間は2つある。
 素早く集まれるのは第2案。遮蔽物が少なく危険なのも第2案だ。
 2人はテレパスを使い、あるいは連絡に動ける冒険者に伝達を依頼して、冒険者達に進路と決戦が想定される場所を伝えていった。

●
 それまで黒泥晶と出くわさなかった者もいる。
 それは別に幸運ではない。積極的に先へと進んだ結果だ。
「私達の任務はこの、賢者の石ってのを1個でも多く壊すこと! ダチュラさんも頑張って探してね!!」
 回収という戦いに挑むハルノ・ヒビキは張り切っている。
 目の前にはヒューマンのヒビキにとって込み入った地形の洞窟。
 賢者の石もいくつか見えるが、間違いなく今見えている以上にあるし回収も大変だ。
 が、捜波で敵が接近しないか警戒しつつ探索を決行。
 装束が汚れても構わずどんどん石を集めていく。
「ここまで来て土木作業か」
 ダチュラの口は悪いが目は優しい。
 それは嫁(ハルノ)に対してだけかもしれないが、いざというときかばえる位置と体勢で荷物(賢者の石)をまとめる様は格好良くすらある。
「ダチュラさん」
 旦那に向けた声に緊張が混じる。
 ダチュラは不敵に笑うことで安心させて、2人で次の目的地(石のある場所)を目指した。
「敵がいないのは重畳ですね」
 ヴィルヘルミナはドワーフであり戦士である。洞窟は馴染深い場所だ。
 暗視で闇を見通し、関係ない石(岩)を避けて必要な石だけを回収する。
 最後は光塊(闘気槌)で残りの賢者の石と賢者の石がありそうな場所をまとめて破壊して、ヴィルヘルミナは次の石がある場所を探しに行った。その先でエルケ・シャルフに行き合う。
「この先は残ってないの」
 看破が得意で探波も使えるエルケにとって、賢者の石の回収は得意分野だ。
 移動中に冒険者に会ったときは今のように情報交換を行い、石を見つけたときは効率よく集めるか破壊するかしてから再度移動する。
 決戦が終わるまでこの調子かなと思ったとき、今度は動かぬ冒険者を見つけた。ハヤトの連絡に応じて引き返してきた【兵】の面々だ。
「クリーパー?」
「分け身。黒泥晶ほどではないけど強い。賢者の石も狙ってる」
 その場で待機しているように見えたアスティン・ヴェルラインは、狼(ペット)とエーテルリンク越しにやりとりしながら敵襲も警戒している。
「石を取り込ませないようにするのが短期で狩るのに絶対必要な条件かな」
 この場の石の回収完了を確認し、エルケと別れて魔獣型の分け身の迎撃へ向かう。
 その行く手で、2匹の栗鼠が薄い亀裂から飛び跳ねるように離れた。
 ペットからのSOSを受け取り、キリアン・フィッツジェラルドは炸光矢(範囲攻撃)を連続使用し、栗鼠の退却を援護するより遠方の未回収賢者の石を次々に破壊する。
 栗鼠から泣き言に近い念が届いたので宥めながら次の矢をつがえる。
 口もないのに酷く餓えた気配をまとった黒い何かが、怒気を放ちながら向かって来ていた。
(弱いのだから無理はしないことねっ)
 アルト=ミルドレッド=バ・ロッサの思念は自身の栗鼠(ペット)に対する労りに満ちている。
 環境が苛酷すぎて冒険者から遠くに向かわせ辛いとはいえ、小柄な体格を活かして壁の亀裂の向こうを覗いて警戒させていた。
 アルト自身は捜波と天眼とホークアイを組み合わせた索敵だけでなく、ヒールと射撃も担当して戦線維持に努めている。
(なるほど)
 シャーリー・ブラウンはアスティンを見て狼(ペット)の行動範囲を狭くする。
 強敵に近付ける訳にはいかないが、回収し切れていない破片のようなサイズの石の排除は任せられる。
 憎悪と食欲が入り交じった気配が、精密な射撃を繰り返すシャーリーではなく石を砕く狼(グレイ)に向けられ、しかし冒険者が邪魔で攻撃もできない。
「遠くで見つけたからには、射程がある僕たちが有利です」
 強敵が相手でも先手を取れれば有利に戦える。
 キリアンの矢だけでなく駆けつけたアスティンの矢も突き刺さり、しかしまだ倒れぬ敵が冒険者達へと襲いかかった。その牙が届く寸前に予想外の方向から矢が着弾する。
(間に合ったか)
 セリオス・オーガストは息を整える時間も惜しんで次の矢をつがえる。
 もちろんその間も【兵】は動き続けている。
 奇襲で混乱し動きが鈍った異形からキリアンとアスティンが距離を取り、その間にも次々矢が着弾。稲妻のような光と氷の矢が相手の脚を止め、死地への滞在を強要する。
 結果としては一方的に、黒泥晶に糧を運ぶはずだった異形が倒れた。
 そのタイミングで、【虹】のユズが展開していたアーケインが効果を失う。【兵】と同じ場所へ向かっていた集団が合流するのは必然であった。
「足速い。……でも」
 これなら勝てる。
 敵(分け身)の強さを知った今なら、もう少し少ない人数でも確実に勝てる。
 まずは賢者の石だ。
 決戦に向かう間にも散らばる石を集める。
 分け身の気配は既になく、時間を使って残さず集めてまとめて異空間(マジカルポケット)に格納することができた。

●
 黒泥晶を追撃してきた【黒撃】、連絡を受け、決戦場である洞窟の広場に待ち構えていた【虹】と【兵】、そして【勇牙】とこの場に間に合った冒険者達が魂喰らう黒泥晶(旧名:とっとと死ね太郎)を取り囲んだ。しかし、黒泥晶の側には賢者の石の一つもないこの場に留まる理由はない。
「レーショソ(黒泥晶)……やはりどう見ても歩く至高の皿ですわ」
 リリリリスは自分達に目もくれず移動を続ける黒泥晶を見つめて艶めかしく微笑む。
 巨体が、リリリリスの殺意と欲(シーザーロア)に釣られて進路を曲げた。
「とっても美味しそう……踊り食いですわ」
 下味(毒撃)をつける余裕はなし。
 故にリリリスは真正面から迎え撃ち、辛うじて耐えた。
「無茶をしますね」
 ギーゼラはリリリリスを盾にし、リリリリスはギーゼラを外付け生命力にしている。そのどちらが欠けても、そう長くはもたなかっただろう。
 2人が防いでいる間、数十人の冒険者が黒泥晶を囲んで叩く。
 一向に倒れぬリリリリスに執着させられた黒泥晶は、ついに皇帝をすら吹き飛ばした突進を繰り出した。頑強に耐え続けていたリリリリスが木っ端のように宙に舞い、壁面へ叩きつけられる。
(腹が減ってもこの強さ。万が一にもごはん(賢者の石)を奪われる訳にはいきませんね)
 とっておき(リヴァーオブヴァイタル)を使って繋ぎ止めたが、幾度も使える手ではない。ひとたび意識を飛ばされればマジカルポケットが解除され、所持している石が全てぶちまけられるだろう。そう考えたギーゼラは衝撃に朦朧とするリリリリスを後ろへ引っ張っていった。
 執着の解けた黒泥晶が、ヒトの形をした分け身を複数生み落とす。そのうちの数体はリリリリスとギーゼラの方を向いた。
「死者を出すわけには……」
 ヴィナスがここまで温存していた閃光塗弾を転がし炸裂させる。
 目が潰れたのか情報が多すぎて処理仕切れなくなったのかは分からないが、分け身の動きが明らかに鈍くなったところへ、他の大勢が攻撃を加える。
 2体が倒れ、3体目と4体めは手負いの2人を諦め、本体(黒泥晶)と連携出来る位置に向かおうとした。
 デイジー・ロックウェルが賢者の石を1つ取り出す。
 とても小さい。
 しかし餓えた黒泥晶が激しく反応。分け身を突き飛ばすように向かってきた。
 連携の崩壊だ。
(結晶体を狙いたかったのだけど)
 狙いとは別の成果が出たことに内心苦笑する。
「危ない!」
 シルク・メイプルリーフがギリギリで光縛封を打ち立てた。サイズ的に光縛封で囲むことは無理でも、迂回はさせられると踏んだのだが。
「これで時間は稼ぎ……まずいですね……っ」
 無造作に衝撃波を放つ黒泥晶。光柱(光縛封)は一瞬の抵抗を見せたが消し飛ばされ、そのままデイジーとシルクも吹き飛ばされる。黒泥晶はデイジーの手からこぼれた賢者の石へ身を伸ばし、分け身の群れから飛び出した。

「そいつを狩るのは……俺達だ!!」
 絶好の機会とみた【兵】が、ケン・Z・ブラッドリーを先頭に仕掛ける。狙うは黒泥晶本体だ。
 猛加速(チャージング)による高速接敵からの高速斬撃の効果は凄まじく、これまで大量の矢と術を浴びても耐えてきた黒が歪んで大きな裂け目が生じる。
「ヨゼフ皇帝より先にこいつを倒す!」
 あえて目立つ動きでアルベルト・V・シュタールシュヴェーアトが突撃する(チャージング)。
 衝撃に震える巨体ののしかかりが、攻撃直後のケンとまだ振り下ろす前のアルベルトをまとめて狙う。
「聞いたほどではっ、ないなっ!」
 黒泥晶が皇帝から逃れ、亀裂に潜り込んだ直後と比較すると明らかに弱くなっている。
 骨がきしむ振動を耳ではなく内蔵で感じながら、至近距離にある黒を大きく切り裂いた。
 その直後の攻撃は対照的だ。
 息を切らしたように震える黒泥晶と、膨大なエーテル(朝露の如き清浄な雫)を注がれ体を修復される戦士(ケン)。アルベルトは辛うじて、自分の脚で立っていた。
 反魂花の涙(リヴァーオブヴァイタル)を使用したエデル=マグノリアが後退するのを新たに生み出された分け身が追おうとするが、3次元の複雑な戦場を天眼で認識しているフェミナ・ノ・リビディーネと情報を渡されたフリーダ=ブロムヴィストにより迎撃される。
 武器を起点に生じさせた光塊で分け身の体を大きく削る。
「範囲攻撃は洒落になりませんね」
 奇妙な場所で立ち止まったように見えるフリーダだが正しい選択だ。
 黒い槍の豪雨が【兵】だけでなく多くの冒険者にダメージを与え、フリーダはぎりぎりその範囲から逃れ攻撃を継続した。
 フェミナは支援に集中している。
 堅甲による前衛の支援(バフ)は重要であるし治癒(ヒール)は常に必要だ。
「誰も倒れさせはさせません」
 全体の消耗が激しくヒーリングオーラもこの段階で使うしかない。
(この相手に余力を残して戦うのは辛いのう)
 光弾の群(メテオライト)を分け身にぶつけながらグレイ・ナックラーが内心ぼやく。
 いざとなれば、鉄壁(アイアンウォール)で皇帝を止めるつもりだ。数秒ももたないかもしれないが対策なしはあり得ない。
 味方の援護もあれば、黒泥晶を倒しきる時間を稼げるかもしれない。
 皇帝の気配が遠くから近づく。
 最も焦ったのは黒泥晶で、全身に力を込めて(残り少ない力を振り絞り)冒険者の前衛に躍りかかった。
 だがガルシアは読んでいた。
 読んだ上で危険を冒して殺意による結界を張っていた。
 ガルシアを無視することはできず、黒泥晶の巨大な攻撃力がガルシア1人に集中。
 跳ね飛ばされたガルシアが地面にぶつかり何度も跳ねる。
 その行動で、黒泥晶は冒険者全体にダメージを与える機会を失った。
 ガルシアのマジカルポケットの維持ができなくなる寸前でエデルの反魂花の涙(リヴァーオブヴァイタル)が間に合う。
 それでも即座に戦線復帰は不可能だ。しかし、死や再起不能を避けることができ、賢者の石(パワーアップアイテム)を黒泥晶に渡さずに済んだことは大戦果であった。

●
(異空間(マジカルポケット)以上の隠し場所はないとはいえ)
 シルヴィア・A・カペルは一部の冒険者に負担が集中しているのを苦々しく思う。
 しかし顔には出さずに【虹】と他隊の連携維持に注力する。
「これ以上、邪魔はさせない」
 ルベア・ベルニが衝撃波を放つと同時に横に跳ぶ。
 飛来する黒槍は相変わらず危険ではあるが見切りが有る限り躱せる。
 波打つ黒に着弾した衝撃波が、黒から生まれ落ちようとしたヒト型の邪魔をする。
 【虹】の仲間だけでなく気付いた冒険者達が分け身に何もさせずに撃破。
 ルベアは誘き寄せのため使った小さな石を、再利用不可能なほどに破壊した。
(分け身は、結晶体を壊せば撃破。なら本体も? 結晶体の数で残り体力が、とか?)
 エルは戦闘前にそう予測し、神様(ボルガニスク)の献身に応えるため大火力の敵相手に攻勢をかける1人となった。
 だから最初に気付いたのも偶然ではない。
 深い傷を多数負った黒がその体積を取り戻す瞬間、黒に埋まった結晶が存在感を失い消えるのを目視できた。
 まだ消えていない結晶の位置も記憶している。
 エルは皆と情報を共有し、最後の攻勢を発起した。
「そこと、そこと、そこです」
 もとより結晶体を意識していたイズレンディルも、攻撃隊と誘導隊による挟撃を、複数箇所の特に大きな結晶体狙いに切り替えることに成功する。
 分け身を一時的にとはいえ全て撃破しているので非常に狙い易く、黒い不定形の奥にある石を正確に……あまり正確でないときも広範囲の大威力攻撃で破壊していく。
 シルヴィアも結晶破壊に集中していた。
 1秒でも惜しいので言葉を省いているが、熟練の冒険者が誤射などしない。
 切羽詰まった黒泥晶はかつてない強度で(残り少ない結晶を大量に使い)、頑丈な授恵者の抵抗を貫通する状態異常を押しつけ、かつてない強度の槍を(さらに結晶を使い)打ち出しつつ移動をはじめる。
 槍の狙いは攻撃の主導者の1人であるイズレンディルを含む一帯だ。
(さすがに……)
 恐ろしい、だけですんだ。
 ハリケーンウォール改が問答無用で回避を成功(攻撃を失敗)させたのだ。
「ヨゼフ様に黒泥晶の力を渡す訳には参りません。何としても私達で倒さなければ!」
 スィーリーンは迫る気配に気付いた上で決して逃げず、アーケインテンペスト改で稲光を呼び出して黒い巨体の移動速度を激減させた。
「大丈夫です。絶対に、ボクが守りきってみせますから!」
 ハルハン・ツァガーンナルが稲光の園に踏み入り、スィーリーンに降る黒い槍を受け止める。
 分厚い防御と装甲防御があってもきつい。
 しかし味方の支援があれば、問題ないと思える程度に、黒泥晶は弱っていた。
「皆で無事に帰るのが第一です」
 スィーリーンの柔らかな言葉とは裏腹に攻撃は苛烈で、衝撃波(空間爆砕)で黒泥晶の命を削りに削る。
 一方、ツァガーンナルの活躍を支えていた1人がフェイサル・セイフである。
「皆の魂、あのようなモノに取らせはせん。死は、私の敵だ」
 分け身(クリーパー)がいないので前衛への支援に集中できる。
 少なくとも、皇帝がここに来るまでは。
 フェイサルがやや後方とはいえ前衛にいるから、前衛陣からまだ死者が出ていない。
 だがそろそろ限界を迎えるだろう。複数の回復手段を用意している者は多くはない。
 彼のヒールも今ツァガーンナルを癒やしたのが最後で、ヒーリングオーラはだいぶ前に打ち止めだった。
 時間との勝負の中、セリオスは味方から提供される情報に基づき延々射撃を続けている。
 スキルを使わなくても援護がなくても大火力高精度なので敵にとっては最悪だ。
 残り少ない結晶が、確実に破壊されていく。
「皇帝はもうすぐそこでございます!」
 捜波を飛ばしたハリーヌの声が急を告げた。
「後少しだ!」
 ギャメルは自分自身を叱咤する。
 肌が粟立つほど怖い気配が感じられ、黒い巨体から命の最後の輝きを感じる。
 解呪で味方を癒やし終えて次はどうするかと思ったそのとき、予想はしていたができれば外れて欲しかった光景がすぐ近くにあるのに気付いた。
「不要」
「うるせぇ受け取れ」
 闇から出た瞬間吐血しうずくまるアダムにリヴァーオブヴァイタルを叩きつけた。
「喰らいやがれ! 勇牙嵐撃!!」
 情報伝達に戦闘にと走り回って体力的に限界が近いはずのハヤトが連打を浴びせて不定形の黒を押し退ける。
 剥き出しになった最後の結晶を砕かれ、存在を支える力を完全に失った魂喰らう黒泥晶は、最初から存在しなかったかのように薄れて何も残さず消えた。

 予想外に回復されたアダムは、何かを言いかけたが結局無言で指を指す。
 細めの洞窟から皇帝が現れる。
 アダム(無価値なもの)に指差されても意識すらせず、しかし荒い息をつくハヤトの目と凝視してくるオゴス、ギャメルの目には確かに意識を向けた。

「死んだか。ならば是非も無し。して、そなたらは我が道を阻むのか?」

 身を起こしかけるアダムの肩を、ギャメルが押さえつけるのを見ると、皇帝は興味を失ったように踵を返す。
 来た時と同様にゆったりとした足取りで立ち去る皇帝を、追う者はいなかった。


監修:アルパカコネクト運営

マスターコメント

「【魂禍】決戦:辺獄戦役」ご参加ありがとうございました。お疲れさまでした! 過去の決戦シナリオを比較しても難しいシナリオでしたが、結果は大成功です! 皇帝ヨゼフを足止めし、魂喰らう黒泥晶を討伐し、アルルカンを撃破。ボルガニスクと神殿を守り切り、なんとボルガニスクの消滅も阻止するという、シグモルの民もびっくりの大活躍でした。 ご参加いただきました皆様に感謝申し上げます。 「特別褒賞・負傷者一覧」とエピローグノベルも更新しておりますので、TOPまたは連動特設ページからご確認くださいませ!
決戦シナリオ

決戦シナリオ非常に難しい 報酬:多い197 / 1〜9999人

2022年04月03日 14時36分37秒 公開

大成功

参加者

相談掲示板

  1. トーラ

    シーフのトーラです。 よろしくお願いします! 行き先は、足止め出来なかった皇帝の所に行くか、アルルカンの仮面を割ればボルガニスク様の力が戻って消滅を免れないかなと思って迷っています。

  2. ロゼット

    ヒーラーの神官戦士ロゼット、参加するわ。 戦域【2】で、ヨゼフ・バルダスの足止めを考えていて、 【雷鎚】というタグで、一緒に向かってくれる人を募集するわ。 相談場で募集をかけておくから、良かったら検討してちょうだい。

  3. ギャメル

    ヒーラーのギャメルだぜ。よろしくな。 危険戦域で敵と対峙する人が安心して戦えるよう、治療と支援に尽力する。 今んとこ【3】で黒泥晶と直接戦うって表明してる人がいねぇのか。 とりあえずオレはここに行ってみるな。 オレ、攻撃手段はロクに用意できそうにねぇや。攻撃が得意な人の参加を待ってるぜ!

  4. ハヤト=ガラン=ヴォルファング

    おーっす! ブレイブファング傭兵団のハヤト=ヴォルファングだ、よろしくな!! 【3】でとっとと死ね太郎を倒しに行くぜ!! 【勇牙】のタグでチームを募って総攻撃の予定だ。 賢者の石での力増強を阻止する為に先回りして石の回収もした方がいいかもしんねーな! 我こそはって面子がいたらよろしく頼むぜ!!

  5. フリューリングスルフト=ティエラ

    どうもー!【赤翼】のフリューさぁ。 うちらんところは【3】で賢者の石の捜索探索を中心にしていく予定さぁ

  6. シャルロット・エクレール

    【赤翼】のシャルロットでーす。キャスターやってるの。よろしくね。 現地で一緒になる方は頑張りまっしょ。 どの戦域にいくみんなも、いい結果出して敵にあっかんべ!ってしてやりましょうね。

  7. カズマ クレセントブラッド

    「リトルセイヴァーズ」のカズマだ! 俺達は【2】で前衛後衛でヨゼフの足場破壊を目標に動くつもりだぜ まだメンバーも募集中だから気軽に来てくれよな!

  8. ロドリック・アルカイン

    【2】にて、適当な行き止まりへの道を鉄壁とアーケインで封鎖して、そちらに進んでもらいたくないそぶりを見せるつもりだ。 運が良ければ、道を誤って時間を無駄にしてくれるだろう。 行き止まりを知っている、あるいは探れる人が居れば、現地でぜひ教えて欲しい。

  9. アーシェル・G・クライン

    直前の挨拶で悪ぃな。 ウォーリアのアーシェルだ。 仲間と一緒に【1】でアルルカンをぶっ倒しに行く。 同じ戦域の奴等はよろしくな。

アーカイブ生成日時 2026年08月05日 14時56分25秒 ・ world0