【帝国】【CP】決戦:ヴィント奪還作戦
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シナリオID:1067
オープニング
今回はヴァイセントラフ砦に残り、後方の兵站などを切りまわすウィリアム・リーンエスはそう愚痴って見せた。激務の中で無駄口を叩いたとき、普段なら何か返してくれるであろう盟友トマス・メルヴィン・アーチボルト辺境伯は前線に行っており、返される言葉はない。
「うん、誰も突っ込んでくれないのはそれはそれで寂しい物だね」
「殿下の無聊は私如きには察することもできませんが、同盟より支援物資が届きました。割り振りの指示を願います」
「……ああ。うん。優秀な部下を持って私は幸せだよ?」
人によっては胡散臭いと称する笑みを張り付かせたまま、ウィリアムは再び机に向き直りつつ前線の友を想う。幸い、ヴィント近くの小さな砦の確保に成功したとあって補給路の維持に不安は無い。
同じころ、前線ではバルディオン将軍が作戦内容を周囲に告げていた。
「ヴィント攻略に至る流れは遡れば単純な流れだ。ヴィント攻略の為には、我々の五感を混乱させる厄介極まる【黒い霧】を排除する必要がある。その為に、【征竜の虹宝剣】による儀式を行う必要がある」
「その儀式の為には、剣の契約者であるレイウェスト・バルダス皇子の身命を守り切る必要があり――」
「儀式にくべる薪として、ダンジョンコアを砕いて生じるエーテルが必要、ということか」
王国側の助力として配下を率いて参陣しているアーチボルト辺境伯と、盟約に従い部族の者を連れてきたアシムベート・グリオウ大酋長がそう応じる。今回の作戦の主軸である彼らにとっては、何もなくとも諳んじれる内容だ。そう、作戦としては彼らが言うように単純かつシンプルではある。どこか一つが躓けば全体に影響があるというのも、その通り。
「――しかし、冒険者ギルドに頼る部分が多すぎるのでは」
ゴールディからの援軍としてこの場にいる、ブラックデス幹部のサチコがそう指摘すると、連合軍の首脳陣は静かに頷いた。
「大型クリーパーを討ち果たすには授恵者が必要だ。口惜しいが、只人の兵士では限界がある」
「神代の再現……、ということでしょうね」
バルディオンの言葉を受けて、アーチボルトも同意を示す。アシムベートも無言で頷いた。ディズル大湿地帯に巣食う【泥血啜る月吸蟲】とサウゼル大樹海に現れた【瘴気纏う腐緑獣】と。これまでの数か月で、人類は二度も危険なクリーパーを撃退している。その中核となったのは、帝国崩壊後に現れた新たな授恵者たちだった。
「……今でも、危険だとは思うのだがな」
一国が抱える総数に及ぼうかと言う、大量の授恵者がわずかの期間に現れた事も。その授恵者達を冒険者ギルドと言う組織が翼下に収めている現状も。それ以前の世界のバランスを司ってきたバルディオンやアーチボルトには危うく見えるのは確かだ。時代は変わっている。それを危うく思うのは良いがいたずらに忌避してはならぬだろう。
●
「まず、かつての南部駐屯所を抑える。ここには連合軍の半数を当てようと思うが」
「そうですね。【黒い霧】がいつまで消せるのかも未知数です。軍の半ばは霧の消失に合わせて攻撃を開始したい」
南部駐屯所を制圧する部隊はバルディオン将軍が、ヴィントに向かう部隊はアーチボルトが指揮をすることになった。アシムベートのリザードマンはバルディオンと共に行き、サチコとゴブリン達はアーチボルトの側へ向かう。授恵者達は、それぞれの場所で作戦の中核を担う計画だ。
「おそらくは駐屯所にヤコブとその一党が現れよう。あとは、ダンジョンに巣食う蟻どもか」
「王国貴族としてはヤコブ・ヴィリアンは狙いたい首ではありますが、今回は将軍が向かわれるべきでしょう」
その場に難しい用兵は不要と思われる。吸血鬼を討ち破り、戦場を制圧すればよい。ただ、単純なだけに戦力としては最精鋭をあてるべきだった。手ごわいのは当人だけでなく配下の吸血鬼、強化されたゾンビのバルディオンJrもだ。ヤコブへは冒険者ギルドの授恵者たちと共に、帝国軍の精鋭を差し向ける事となろう。
「儂らリザードマンはダンジョンへ向かえばよいのだな」
「お願いいたす。ダンジョンにいる蟻亜人の防衛体制はある程度わかっている。外縁部の守りを破るのは軍が引き受けよう」
冒険者たちの偵察によって、外周の敵の構成や行動は筒抜けとなった。戦場が広い地表で、かつ相手が一定の規則に従って行動するのならば、集団で動く軍にとってはやりやすい相手といえる。いわば適材適所。少数精鋭の授恵者達やリザードマンは、より情報が少ない巣の内部に向かってもらう事となった。
「内部には蟻の女王がいるか。手応えのある相手であれば良いがな」
「ヤコブが兵力を残している可能性もある。歴戦の大戦士殿には無用の忠告ではあろうが、注意を払って欲しい」
「いや。油断なきように務めよう」
蟻の通路はリザードマンが4~5体程は並んで歩けるらしい。とはいえ、大型武器を振り回すとなると1人でも狭いこともあるだろう。戦い方の工夫も必要なはずだ。少し広がっている小部屋はその限りではないが、それは敵も同じはず。多数の蟻が待ち構えている可能性が高い。そして、女王蟻がいる場所はおそらく最大の部屋となっているだろう。戦力も最大と予測される。
「探索と、戦力の集中を両立せねばなるまいな。儂らは狩りで慣れて居る。任せておくが良い」
冒険者による事前調査で、半ば程までの構造は判明している。罠の所在なども記録されているので、序盤は楽ができそうだ。
「時にその、【ダンジョンコア】というのはどのような見かけなのか?」
「鮮やかに輝く、球状の『場』だと言われています。私は見たことがありませんが」
冒険者ギルドの資料で見た、と寡黙なサチコが補足した。明らかに異様な存在であるがゆえに、見ればわかるのだという。それならば問題はない、とアシムベートは力強く頷いた。ダンジョンを制圧し、そこにあるだろう【ダンジョンコア】を破壊すれば、集積されたエーテルはよりどころを失って散るらしい。
「ダンジョンを構成していたエーテルを【征竜の虹宝剣】が吸収し、それを転じて【黒い霧】を吹き散らす……ですか。聞けば聞くほど、大掛かりな仕掛けですが」
アーチボルトはそこまで口にしてから、思わし気に天を仰ぐ。もしも、レイウェストが倒れていなかったら、エフレムは独力でそのエーテルを用意するつもりだったとか。かつて帝国の戦力に備えていた身とすれば、いっそ荒唐無稽な話であって欲しいとも思うのだが。
「あれは嘘や冗談でそのような事は言わぬ。儂には分からぬが、あれができると申したのならばそうなのであろうよ」
「そうですか。……エフレム卿が味方でよかった。と言うべきなのでしょうね」
もしも、が起きた際の思考を巡らせつつも淡々と事実を伸べる口調で、アーチボルトは言う。バルディオンにすればかつては近衛騎士としての同僚でもあった相手だが、その力の底が知れぬという意味で不気味がるのも理解は出来た。ただ、彼がこれまで示した忠義は本物だとも思っている。
「失礼。話を戻しましょう。【黒い霧】が無事に排除されたら……その後が、我々の出番ですね」
「そうなる。ヴィントの攻略について、腹案はおありか?」
「その前に一つ確認しておきたい。【征竜の虹宝剣】の儀式の成立条件は、エーテルの共有ともう一つ……。レイウェスト殿下の無事が必要だったはず。殿下の身の安全は確かでしょうか」
アーチボルトがあえて口にした事に、バルディオンは僅かに瞑目した。少し前に目を覚ましたレイウェストは、自らの健在を声高く主張した。その知らせは、彼を暗殺しようとしていたメドゥの指先へも届いているだろう。というよりは、彼は主戦場から離れた場にもう一つ焦点を作ろうとしたのだ。おそらくそれで、ヤコブへのメドゥの指先の介入の可能性はなくなった。策としては無意味だとは言わないが、博打としては最悪だとバルディオンは思う。ヴィント攻略作戦が失敗したとしても次があるが、帝国の皇位継承者は1人しかいないのだから。
「……現状で兵力を固める事は殿下の意に反する。故に、殿下の護衛兵以外は民兵と授恵者のみが難民キャンプの守りについている状態だ」
「儂は先日にコボルトの攻勢が危惧されていると聞いたが、それで大丈夫なのか」
アシムベートが思わず確認する。彼はその場にいるレイウェストも他人と思っていないし、まして弟分のエフレムもいるのだ。万が一は起きて欲しくないと思うのは人情という物であろう。
「民兵を指揮するシュランドル子爵は、囮役の援護もあり【征竜の虹宝剣】輸送を恙なく終えている。報告によれば良将であり、配下の民兵も十分に鍛えられているそうだ。特異個体に率いられているとはいえ、正面から戦えばコボルトごときに後れは取らないであろう」
難民キャンプは多少の森があるとはいえ、基本は平地。せっかくの畑が踏み荒らされるのは住人にとっては悲劇であろうが、戦場としては奇をてらいにくい場所だ。敷地の外周には簡易な防衛施設として掘と木の柵等があり、場合によっては有効に使えるだろう。コボルト王の精鋭と呼ぶべき腹心も、今までの小競り合いで多くが討たれた。故に敗北はないとバルディオンは判断する。
「とすると……。恐れるべきは暗殺ですか」
「然り。正面を手薄にするわけにも行かぬが、予測しがたき刃への備えも必要であろうな」
「殿下を襲ったのは、虚言を吹き込まれた子供だったとか。授恵者にはくれぐれも注意してもらうべきでしょう」
せめて100名規模の正規軍を派遣できればいいのだが、それが成らぬ今は民兵か授恵者に守りを委ねるしかない。信頼はしておれども、歯がゆさに猪の牙がガリリと鳴った。
「難民キャンプの状態は理解しました。【征竜の虹宝剣】の儀式に支障はない、と言う前提で動くしかないでしょう。とすると……」
アーチボルトは事前の偵察報告を脳裏に浮かべる。現地の戦力は小型、中型クリーパー多数。正面から攻めても時間を掛ければ勝てるとは思う。しかし、【黒い霧】がいつまで晴れているかは保証の限りではない。
「……本軍を囮に。少数精鋭で【天霧りに消ゆる幽界樹】を討ちましょう。幸い、城壁に崩れた箇所があるそうです」
「城門に斥候と衛兵役のクリーパーがいると聞いたが。それを逆手にとるか」
「敵が正しく連絡を取り合い連携して動くのならば、こちらの主力に対して兵力を固めるでしょうから」
その動きを聞いて、アシムベートは自分の担当箇所の蟻亜人のような防衛体制だと考えた。それが果たしてただの偶然なのか、理由があってのことかまではわからないが。そう動くのであれば、幽界樹の周囲の戦力は間違いなく手薄になるだろう。
「城壁の隙間から市街地へ向かい、なるべく発見されぬように幽界樹へ接近。伐採します。それを担当するのは……」
「やはり、授恵者になろうな。儀式が成功しても、すぐに霧が晴れ渡る訳ではあるまい。ある程度堪える実力がいる」
分かってはいるが、本来は守るべき市民に危険を冒させる事への忌避感は抜けきらぬ。バルディオンは自らの凝り固まった思考を振り払うように、首を振った。殿下ですら授恵者となり、剣を振るっているのだ。時代は大きく変わっていく。己は古い時代の兵ではあれど、新時代の礎とは為れよう。
「お話が終わりでしたら、一つだけ希望があります。その突入に私を加えてください」
「……あなたを?」
ほとんど発言の無かったサチコの言葉に、アーチボルトは思わず聞き返した。おそらくは授恵者ではあるのだろうが、彼女の実力のほどは定かではない。炎の魔法に秀でるとは聞いているのだが。
「配下のゴブリンは潜入作戦には力不足です。正面の攻め手に加えてください。同行を希望するのは私一人です。……いざと言う時の備えになりましょう」
ゴーフルからの特命を帯びている、とまで言われれば断る理由もない。突入は授恵者達とサチコで行う事となった。
解説
マスターより
リプレイ
●駐屯所ダンジョン突入
地下通路の途中までは、ある程度情報が揃っている。ゆえに侵攻は電撃的だった。
「ダンジョン攻略だな! 燃えて来たぜ!」
飛び交う酸の雨を凌ぎながら、矢のような速さで洞窟を駆け抜けたナキルが大剣の一閃で弓兵蟻の一体を薙ぎ倒した。蟻の戦闘兵達はナキルの方を向き、一斉に酸を浴びせてきた。
「こちらにもいるぞ」
加勢したレイスが蟻の注意を引いた。十分に敵を引き付けた後は殺界を発動し、蟻達を纏めて切り裂いていく。
「逃げていく作業蟻は無視でよい! 儂らの目標はダンジョンコアを破壊することだ!」
リザードマン部隊を率いるディズルの大酋長アシムベート・グリオウが号令をかける。彼らはレイウェスト皇子と交わした約束を果たす為、ヴィント奪還作戦に協力してくれているのだ。
「ぐうっ……!」
一体のリザードマンが腕を深く切り裂かれ、剣を落とした。すかさずナンチ・ヤジナイが加勢し、大剣で蟻を槍ごと両断した。
「ヒールをかけました。さあ、早く武器を拾って下さい」
「かたじけない」
リザードマン達は勇敢に戦っているが、殆どが非授恵者であるリザードマン達と蟻の戦闘兵の実力はほぼ互角だ。時折リザードマン側が押される局面も出てくる。そういった場面では、リザードマン部隊の側で戦っている冒険者達が時折加勢し、均衡を保っていた。
「まずここを成功させて次に繋げましょう。早く、でも焦らずに」
やがて、地図に無い場所へ辿り着く。進みゆく冒険者達は警戒を一段上げた。
「帰りの目印も用意しておかないとね」
移動中、リザードマン部隊の殿を務めるのは、【芽吹】の三人である。カルフ・オルヴォ、ダムド・フィリス、セオ・ウルジオは肩にかけた水袋から白い粉を撒き、白線を引いて来た道を戻れるように目印を付けていた。セオに至っては参考書のページを破り、罠のあった場所に置いておく念の入れようだ。帰り道に迷わない為の措置だが、女王の部屋を見つけた時や強力な敵に出会った時、別ルートを辿っている冒険者達がスムーズに加勢に来られるようにという意味合いもある。
「ギチギチギイギイ」
大部屋で待ち構えていた蟻型亜人の群れが、一斉に口から酸を吐き出した。報告書にあった『弓兵蟻』だ。蟻達は侵入者を返り討ちにせんと、盾持ちの蟻の後ろに隠れながら、断続的に酸を浴びせてきた。
「飛び道具か! 弓を持っている者を中心に応戦せよ!」
アシムベートは衝撃刃を放ちながら、リザードマン達を指揮している。弓兵のリザードマン達が矢を放って応戦していると、その脇を数人の冒険者が駆け抜けた。
「ぐあああー!」
「危ねぇ! ここは下がるんだ!」
蟻型亜人が吐き出した酸を浴び、リザードマンの一人が悲鳴を上げた。すぐさま駆け付けたダムドが負傷した兵をかっさらい、隊列の中央へと逃がした。
「誰も死なせません」
セオが素早くヒールをかけ、件のリザードマンは事なきを得た。
「あの壁、何か……隠し通路です!」
伏兵の居場所を見破ったセオが警告し、ダムドが通路の壁に駆け寄る。確かな敵の気配を感じながら、そのまま剣で突き刺した。厚紙を貫いたような感触が手に残り、壁裏に隠れていた蟻型亜人がぐらり、と前のめりに倒れた。
「あそこの天井にも隠れているようだな。誰か遠距離攻撃ができる奴、頼んだ!」
天井にへばりついていた蟻を見破ったカルフが叫ぶと、シャリアーヌ=ウルス=ロンディニオンの杖から放たれた魔矢が飛び、天井に隠れていた蟻に突き刺さった。
「殲滅はキリがありません……要所要所で使うようにしましょう」
シャリアーヌは攻撃魔法の無駄遣いを避け、迎撃に出て来た蟻達の陣形に合わせて攻撃魔法を使い分けていた。
●吸血鬼姉妹との戦い
順調に蟻達を蹴散らし、ダンジョンを進んでいた一行だったが、突然、最前線で指揮をしていたアシムベートの肩に巨大な矢が突き刺さった。
「よし、親玉っぽいトカゲに命中! きっと大物だぜ!」
「あらあら……招かれざるお客様が随分と大勢……ヤコブ様の邸宅に土足で踏み入った罪は死で以て贖って貰いましょうか。ねえミモザお姉様?」
「うるせえ。話しかけるな。なんでお前と二人で留守番なんか……ぶつぶつ」
人形兵で通路を塞ぎ、侵入者達を待ち受けていたのはヤコブの眷属たる吸血鬼姉妹、ミモザとベラドンナだ。
(吸血鬼です。二体、至急応援をお願いします)
同行している冒険者だけでは、リザードマンを守りながら強敵に対処するのは難しい。ナンチはテレパスを使い、増援を呼ぶ。人形兵達はまるで動く気配がない。ベラドンナとミモザを守る壁として配置されているのだろう。
「みんな私のゾンビにするんだ! ベラドンナ、てめーには一人もやらねえからな!」
「酷いわお姉様! 私よりゾンビ作るの下手な癖に!」
「てめえのそういうとこが嫌いなんだよ! あっちへ行け! いっそ討ち取られちまえ!」
喧しく騒ぎながら、姉妹は競うように侵入者を攻撃し始めた。幼い容姿や態度に反し、二人の戦闘力は高い。二人の放つメテオライトや貫通衝撃射を浴び、リザードマン達が次々と吹き飛ばされた。
「皆の者、あの二体には手を出すな! 冒険者達に任せるのだ! 儂らは露払いに徹するぞ!」
アシムベートは血気に逸る部下を諫め、人形兵と蟻の相手に徹することを命じた。『親玉っぽいトカゲ』などという無礼極まりない呼ばれ方をされようとも、冷静さは欠いていない。
ナンチら護衛の冒険者とアシムベートは犠牲が拡大しないよう、必死にベラドンナとミモザを食い止めた。後退するリザードマンと入れ替わるように、十人の増援が駆け付けた。【4区】の面々とハリーヌ・ヨツユビである。
「こいつが噂の吸血鬼姉妹だね」
壁を背にし、姉妹を見据えるシルヴィア・A・カペル。彼女がナンチからテレパスを受け取ったのだ。
「ヘイ、久しぶり。これ返すわ。スーパーめちゃ臭いから」
サイラスはミモザに向かって小さな肉塊を投げつけた。何を隠そう、これは過去の戦いの際にこぼれ落ちたミモザの内臓の残骸である。
「内臓まで匂うとは……流石はヤコブの傀儡だな」
スヴァン=ウォルフ=ユーウェンが顔をしかめた。内臓の足は早く、既に腐敗も相当進んでいる。挑発である。
「頼りないクソガキはお留守番でございますか? 足手纏いだからヤコブに置いて行かれたのでございましょうねぇ」
畳みかけるようにハリーヌが二人を鼻で笑った。
「てめえぇらあああああ! ぶっ殺してやる!」
「楽には殺さないわ! 骨が見えるまで鞭で叩いてあげる!」
二人は怒りに我を忘れた。リザードマン達にはもはや目もくれず、挑発した三人へと集中攻撃を仕掛けた。
「今だ! ここはオレ達に任せて先に行け!」
蟻の群れに飛び込みながら、ナキルが叫ぶ。人形兵の布陣が攻撃に偏った隙を突き、女王を目指す冒険者達が二人の脇をすり抜けていく。
「ウホォ!」
ハリーヌのゴリラも道を防ぎ、先を進む冒険者達を見送った。
「ちゃぁんと僕を守ってくださいねぇ!」
ギーゼラは【4区】の仲間達の後方に隠れたまま、ジャマーを発動した。途端に人形兵の動きがガクンと鈍くなる。さらに、囮を引き受けてくれている仲間達に癒しの魔法を飛ばし、倒れないようにサポートを続ける。自身は前に出る気配が全くないのも、卑怯なわけではなく、この戦場における己の役割をしっかり理解しているからだろう。物言いは少し嫌味だが。
「そこです!」
ガルシアの破砕脚が炸裂し、ミモザの脛が切り裂かれた。蟻の雑兵なら一太刀で足ごと斬り飛ばせる所だが、ミモザの皮膚は異様に固く、蟻と比べると手応えは浅い。
ガルシアは油断なくミモザと一定の距離を保ったまま、衝撃刃などの中距離攻撃を仕掛けていった。
「守り、削ぐ。……大事」
ユズが魔錆をベラドンナに浴びせると、彼女を覆うエーテルが乱れた。これでダメージを通しやすくなったはずだ。
「しゃらくさいわね!」
ベラドンナが苛立たし気に叫ぶと、人形兵の一体がユズに向かってダガーを振り上げた。
「ユズ、気を付けろ」
スヴァンは咄嗟にカバリングでユズを庇った。
「闇の中でもがき苦しみながら死ぬといいわ!」
ベラドンナの全身から黒い霧が吹き出し、その姿を覆い隠した。
「情報にあった濃煙ね。みんな、ベラドンナは奥の方に下がったわ。何か魔法を使おうとしているようね」
ルベア・ベルニはすかさずエーテルの波を飛ばし、闇の中を移動しているベラドンナの位置を特定した。エル=バ=ノイアンは殺界を発動してベラドンナと人形兵の正面を塞ぐ。エーテルの檻で移動を妨害し、姉妹を分断したまま叩くつもりだ。私兵を持つベラドンナはともかく、ミモザは孤立し、次第に追い込まれていった。
「ほらほら、こっちだよ」
サイラスはミモザの後ろに回り込み、剣で脇腹を突いた。
「内臓ぶちまいて死にやがれ!」
ぐりんと向きを変え、ミモザがサイラスへと弓の狙いを定めたその時。
「そこだ。もらったよ」
シルヴィアが飛びこみながら放った軍刀での一撃が、ミモザの弓の弦を切り裂いた!
「チィ! やりやがったな!」
無用の長物となった剛弓を放り捨て、なおもミモザは拳でシルヴィアに応戦する。だが、得物を失ったミモザは段々劣勢になり、ついに死神が彼女の元に辿り着いた。
「隙だらけだな」
海神・江流の放った鮮やかな三条の閃光がミモザへと迫る。
「しまっ――」
咄嗟に回避しようとするが、ミモザの体には冒険者による複数のデバフがかかっており、当初より動きが鈍い。斬撃はミモザの首を綺麗に斬り飛ばし、残された胴も二つに断ち切った。
「あああああ!! お姉様ぁ――!!」
ベラドンナが悲鳴を上げた。いかにヤコブの眷属たる吸血鬼といえど、首が千切れ、胴を割られては生きてなどいられない。
(ベラドンナ……今は逃げなさい……)
その時、ベラドンナの脳にミモザの声(幻聴)が響いた。姉の魂は自分だけでも逃げろと言っている!
ベラドンナは残る人形兵に守られながら、姉を置いて去りがたいかのように戦場にしばしとどまっていた。しかし、人形兵が全滅する直前に、捨て台詞も残さず、濃煙の闇に紛れて戦場から逃げ去った。
●女王部屋の探索
吸血鬼姉妹が突破された頃、【ふしぎ亭】の八人は女王の部屋を捜索していた。彼らは探波や捜波を駆使し、地形や蟻の動きを把握することで、極力蟻との接触は避けるようにしている。今回の目的は蟻の殲滅ではないし、ダンジョンコアは女王蟻が守っていると聞いている。無駄な消耗は避けるに越したことはない。
「女王が居るとしたら、兵隊蟻や弓兵蟻からの襲撃が激しい場所ね」
テュリン・ヴィングは曲がり角での遭遇を警戒しながら言った。ヒロ・テスタロッサは逆に、作業蟻が戦いの最中にあえて餌を運んでいく先を注視する。
「働きアリの行列の先に、何があるのかな、ってね♪」
「わたしもテュリンに賛成。守りの厚い場所……つまり、敵が多い場所の方が女王蟻の場所に近いはず」
ヒロとアルラ・ニグラスは捜波を駆使し、蟻の気配を探っていた。戦闘は仲間に任せ、蟻の配置や動きを読むことで女王の居場所を探そうとしているのだ。
「早く女王の居場所を見つけて、皆さんに知らせましょう」
楓月・千弦は仲間が集めた情報や偵察に行かせている狼の視覚情報を総動員しながら、必死に即席の地図を書いている。ダンジョンの前半部分は先遣隊の情報を元に作られた地図があったのでスムーズに突破できたが、ダンジョンの深部については手探りだ。今、この場で出来る限り情報を集めるしかない。
「ギチギチギイギイ」
【ふしぎ亭】が通路を曲がった瞬間、数体の兵隊蟻が襲い掛かってきた。最前列で盾を構えていたゴルバルティアは蟻の槍を受け止め、仲間に警告する。
「敵の出現率が上がってきた! たぶん近いぞ!」
情報の分析に集中している仲間に攻撃がいかないよう、カバリングで懸命に後列を庇うゴルバルティアに向け、弓型蟻の小隊が容赦なく酸を吐きかけてくる。
「高火力、高火力がすべてを解決するんだよ!」
だが、弓型蟻達に向かって大きな炎球が飛び、爆炎が蟻達を纏めて焼き尽くした。
炎を放ったのは、マーハ・アセトシソンだ。マーハは今のようにまとまって蟻が出現した時は炎、味方と乱戦になった時はメテオライトと、攻撃魔法を使い分け、蟻を殲滅していく。
「こっちよ」
アリエッタはゴルバルティアに集中し過ぎている敵の注意を引き付ける為、あえて前へと飛び出した。落とし穴などの罠にも引っかからないように慎重に注意しながら、蟻を別方向へと誘導していく。その隙を突き、テュリンの放った魔弾が誘導された蟻を貫いた。
【ふしぎ亭】は統制の取れた動きで蟻達を蹴散らし、ダンジョンの奥の方へと進んでいく。
「ベル、あっちの方を探ってみて。なんか、蟻が集まってるみたい」
アルラは探波使いのララベル・サン・ディーベルへと声をかけた。
「……あ、奥の方に妙に広い空間がありそう。女王の部屋の入り口かも」
前列にいたララベルの探波によれば、少し先で通路が大きく広がっている。敵の気配を感知する『捜波』と違い、『探波』はエーテルを飛ばしてソナーのように辺りの地形を探る術だ。ララベルは明らかに他の部屋とは構造が違う部屋を見つけたのだ。早速ヒロもララベルが示した場所にエーテルを飛ばし、敵の気配を探る。
「なんか、でかそうなのがいるよ! たぶん女王だね! 他にも、手下っぽいのが何体か!」
もはや決定的だ。この先に、蟻の女王がいる!
「よし、みんなはここにいて! あたし、他の人に知らせて来る!」
ヒロは踵を返し、来た道を引き返した。ララベルもテレパスを使い、範囲内にいる他の冒険者に女王部屋の場所を伝達する。
蟻の女王との最後の決戦が始まろうとしていた。
【2】帝国南部駐屯所跡地の制圧と宝剣の安置(執筆担当マスター:霧柄頼道)
●
ヴィントを取り戻し、犠牲者達の無念を晴らす時が来た。無限の憤怒に身を焦がす帝国軍が雪崩れ込み、ヤコブ軍も迎え撃つようにのろのろと進軍を始める。
「ヤコブは前線へ出ているようだが、配下の吸血鬼やゾンビが邪魔で、いきなり戦闘を挑むのは難しいか……」
「まずはあいつらのガードを崩さないとね!」
周辺は開けた地形で、障害物もほぼなし――偵察を行っていたテテリカとエルシー・サリバンはそれぞれのリスが得た情報を仲間へ伝えた後、敵軍へ接近を試みた。
敵先鋒部隊の一角をつっつき、一部をヤコブ本隊から引き離しつつ、撤退を装い自陣まで誘導し始める。
追いつかれそうであればテテリカが薄煙炸弾を放ち、煙幕を形成して目をくらまし、追撃を妨害。
エルシーも先頭の敵の足を次々と撃ち抜いてよろめかせ、敵陣をつっかえさせて機動力を奪う。
敵部隊は追撃側のはずが、二人の巧みな撤退戦により出血を強いられ続け、気づけば相当弱っていた。
機を逃さず、帝国軍と合流したテテリカとエルシーは反撃へ転じる――。
帝国軍とヤコブ軍の距離は縮まり、いよいよぶつかろうとしている。
「こっちの準備が整うまでは、もう少しゆっくり来てもらいましょうか」
ヴィノニスは隠密に進み、敵の警戒が薄い箇所を目指して矢のように駆け出す!
ゾンビ部隊の真正面めがけ、スタティックフィールドを展開した。
発生したエーテル光に纏わりつかれ、うまく動けぬゾンビ達。
ヴィノニスは包囲される前に後退し、一撃離脱を繰り返し――ヤコブ本隊の進軍遅延に貢献したのだった。
両軍の先鋒同士が衝突し、熾烈な戦いが始まった。
カズマ クレセントブラッドはゾンビの群れを斬り払い、左右へ目を配る。
「卑小なるこの身を勝利へ捧げるには、こんな姑息な手も使わないといけないんだァ!」
剣戟の向こうで吸血鬼と思われる敵が一人、光弾を乱射しながらわめいていた。
「いたな……魔法は使わせない」
狙いをつけて、魔乱印を刻み込む。
敵が動揺した好機を逃さず駆け寄り、疾風の如き三連斬を浴びせて斬り倒した。
ヤコブが来る前に一人でも多くの吸血鬼を倒し、敵戦力を削り取って見せる――。
敵陣の乱れを契機に、アルバス・ロウルがシーザーロアを浴びせかけ、敵を引き込み始める。
ライオネル・ギシュムも足並みを揃えて攻勢をしのぎつつ、シーザーロアを食らわせつつじわじわと後退を開始。
釣られて追って来る敵へは大剣を見舞って間合いを保ち、決して包囲はさせない。
自分達【睡狼】は囮役とはいえ、足を止められては元も子もないからだ。
「二人とも、無理しないでね」
サシャ・テーリングは一歩引いた後ろ側から同行し、戦い続けるアルバスとライオネルへ支援魔法の堅甲をかけていた。
やがて誘い込んだ先には仲間の冒険者達が半円形に並び、武器を手に待ち伏せ、合図を今か今かと待っており。
「よし……今だ、攻撃開始!」
アルバスは振り返るや、敵集団の先頭へ思い切り強打を叩き込み。
「敵は孤立してる! みんなでどっかーん! だ!」
ライオネルはその場でジャンプしながら大きく手を振って、それぞれ号令をかけた。
サシャも戦況が見渡せる位置へ向かいつつ、十字砲火担当役らへ輝刃を付与していく。
「一気に片付けちゃうよ! 紅蓮の炎よ来たれ!」
呼応したハーヴィが杖を掲げる。赤々と燃え盛る紅蓮の炎を纏った巨弾が生成され――杖を振り下ろすと同時にそれは敵集団目指して突き進み、凄まじい衝撃とともに炸裂した。
激しく四散するつぶてがゾンビの群れを吹っ飛ばし、配下吸血鬼達をも巻き込んで薙ぎ払う。
「首狩り援護します!」
ハル・チフも合図に応じて貫通衝撃射を撃ち込んでからは、帝国軍のフォローへ回っていた。
ゾンビを排除する帝国兵を狙う吸血鬼を狙い、人波を右に左にかいくぐりつつ――背後から近くのゾンビもろとも、渾身の闘気槌をぶち込んでかっ飛ばす。
「ふふっ……ゾンビと醜い同士、仲良しですね!」
吸血鬼の反撃を受けつつも挑発を交え、帝国兵と共闘しつつ相手取っていく。
「それにしても深入りしすぎた。ゾンビどもを呼び戻さなくては――うわっ、なんだ!?」
冷静になって来た他の吸血鬼達が指揮するゾンビらの間に、光の壁が複数展開された。
「たたかいは、あまり、とくいではないのですが」
マレーネ・シェーンベルグの魔法だ。モヒカンセンサーによって孤立している吸血鬼の存在を感知したため、すぐさま光縛封を発動し、封じ込めたのである。
サシャもタイミングを合わせて光縛封を使い、敵の隔離を盤石のものとした。
結果として吸血鬼はゾンビから切り離され、指揮系統はより混迷を極めていく。
マレーネとサシャはその間に前線を移動し、傷ついた囮役のアルバスやライオネルを優先してヒールをかけ、怪我の快癒へ徹する。
「敵の注目も集まったね、行くよロイ」
テス・クラルスは守りを固めつつ、【睡狼】がヤコブ隊の視線を充分引き付けた事を確認した後――空に向けて幻影を作り出す!
浮かび上がった幻影はなんと、偉そうなポーズをしたヤコブに瓜二つ――というよりヤコブ本人そのままの姿をしていたッ!
ロイ・アウレアがこほんと軽く咳払いをし、両手を広げて声高に言葉を紡ぎ出す。
「さあぁ! 恭しく崇めなさぁぃッ! ワタシはヤコブ・ヴィリアン! 神聖至高にして最強の死霊術師なのです!」
声帯模写を併用して声色を変化させ、口調もヤコブっぽい感じになるよう努力し、語り掛けた――!
果たして、配下吸血鬼達は困惑し、そのほとんどは怒気に顔を歪ませ、陣形も無視して我先にと躍りかかって来る!
が、幻影を作った間、防御が疎かになったテスを【睡狼】の仲間たちは守りきった。
幻影を消したテスも待ってましたとばかりにフレイムゲイズを叩き込んでカウンターし、ロイも絶え間なく弓を連射。
冷静さを失った愚か者達へ、これでもかと痛手を与えていく――!
ゾンビをかき分けながら辿り着いた【紅蓮隊】は、仲間の作ってくれた好機を逃さず、孤立気味のヤコブへ挑む。
「前よりは強くなっているようですが、それでもワタシには届きませんよぉ!」
ヤコブの拳が強烈にうなり、ゲルトを襲う。
キリクがグラヴィティボルトを食らわせるも、敵の動きはまだまだ陰りを見せない。
ゲルトは輝甲で強化した盾を操り、何とか持ちこたえる。全ては仲間のチャンスを作るため――リヴァーオブヴァイタルも惜しまず使い、僅かな間とはいえヤコブの攻撃を耐えきった。
「貴方の相手は私です! 仲間に手出しはさせませんよ!」
エーテルを活性化させたクローリカが、果敢に割り込む。
ヤコブの裏拳に穿たれ視界に火花が散るも、歯を食いしばって耐えながら前進し、ありったけの力を注いだ刺突を突き入れる!
捨て身の一撃を受けたヤコブがわずかにたたらを踏んだ、隙を突き――。
「ふーん、あんたが本物のヤコブなんだ」
ベアトリーチェ・カロッサが大きく飛び込むなり、背後から蒸留酒をぶちまけた。
アルコールが悪趣味な服を濡らすと、直後にキリクが火の点いた松明を投げつける。
火を受けたヤコブの身体は、みるみる燃え上がった!
ヤコブ炎上ッ! 炎上ッ!
「今度は魔法の火よ、たっぷり味わいなさい!」
目を剥いて消火しようとするヤコブにそうはさせじと、ルアンナ・ミュラーが突っかける。
狙い定めた杖を両手で大きく振りかぶり、綺麗なフォームでフルスイング!
至近距離で放たれたフレイムゲイズがヤコブの顔面で炸裂し、盛大に弾き飛ばす!
地へ伏せたヤコブはじたばたして火を消すも、すでに上半身の衣装の半分ほどは見るも無残に燃え落ちて灰と化し、血色の悪い肋骨の浮いた肌が露わとなってしまっている。
「ワ、ワタシの服が台無しに!? なななんて事をっ」
屈辱のあまり、金切り声でわめきながら睨んでくるヤコブへ、ベアトリーチェとキリクは揃って舌を突き出し、あっかんべーで返したのだった――。
配下吸血鬼達もヤコブのセミヌードに赤面したり、自らも服を脱ぎだしたりと、それなりに混乱がもたらされている風だ。
だがその向こうから、歩みを寄せてくる奇怪な異形――バルディオンJrである。
奴は奇声を張り上げて蟷螂の腕を振り下ろし、強烈なかまいたちを発射して来た。
エヴァン・ピオネロは足を踏ん張ってこらえつつ、力を振り絞って魔法を詠唱。
ヤコブとその配下達の間を遮るように、アイアンウォールを作り出した!
ぎょっと目を見開き、驚愕するヤコブ。
気づけば自身一人だけが多数の冒険者達に囲まれ、完全に分断されているではないか。
エヴァンはこの絶好のチャンスに、叫ぶ。
「さあ、ヤコブへGO! ですね!」
恐るべきアンデッドの群れも、配下の吸血鬼達も、親玉さえ倒せば木っ端も同然。
そして、畳みかけるならば今――ヘレム・カースワーズは慌てているヤコブの足元へ、スタティックフィールドを展開する!
抵抗に気が回らなかったのか、あっさりエーテル光に捕まり、動きがぎくしゃくとするヤコブ。
そこへ仲間達が立て続けに波状攻撃を仕掛けていく中、ヘレムはヤコブの移動先にアーケインを打ち建て、効果が出るまで魔錆を浴びせまくって堅牢な防御力をダウンさせにかかった――!
「ワタシは全然大丈夫です! もう帰っていいですよ!」
キオルティスは声帯模写によってヤコブの声真似をし、吸血鬼達へ嘘八百を並べ立てる。
配下らは壁が邪魔で状況が見えない事もあってか、流石はヤコブ様! とばかりうっかり惑わされる者もいた。
「に、偽の言葉に騙されないで下さい! ワタシこそが真のヤコブなんですよ!?」
ヤコブが狼狽えながら訂正にかかるも、キオルティスはその集中を削ぐため、纏わりつくように駆け回って斬りつけ、翻弄していく。
ヤコブが振るう激烈な拳打を、ハヤト=ガラン=ヴォルファングは神経を研ぎ澄ました上で大きく飛びのき、紙一重で回避。
間髪入れず仲間達が一斉攻撃を仕掛け、ハヤト自身も返し技の爪撃を見舞う。
ヤコブはとっさに腕を掲げると、そこに死霊が集まっていき。
刹那――こちらの攻撃は、なんと死霊の壁によって防がれてしまった!
「おお……素晴らしい! 覚醒! 進化! どうやらワタシは新たな一歩を踏み出してしまったようですよーッ!」
讃えなさい! 崇めなさい! と舞台の上の指揮者よろしく腕を振り、狂喜するヤコブ。
死霊術だ。奴はこの土壇場で、死霊を用いた戦闘法を閃いてしまったらしい。
技術そのものは冒険者における初期スキルレベルの可愛いものだが、基礎能力の高いヤコブが使いこなせるならば、厄介には違いない。
だがそんなヤコブの元へ、重厚な足取りで突き進む、一つの大柄な影がある。
「――将軍! トドメはあんたの役目だ!!」
ハヤト達はこの時に備えて帝国兵に言伝を頼み、すでに彼を呼んでいたのだ。
大斧を携えて現れたのは、ヴァイセントラフ砦守将にして賢猪将軍と謳われし――。
「ば……バルディオン!?」
ヤコブが表情を引きつらせて叫び、次には恐怖に急かされたみたいに躍りかかった!
対するバルディオンは大斧を掲げ、ヤコブの飛び膝蹴りを受け止める。その身体は淡い光の膜で包まれていた。
同行していたコンフリーが早めのタイミングでサークルプロテクションをかけていたため、防御能力が上昇しているのである――。
「将軍、援護します」
コンフリーは間を置かずに得物を振りかぶり、ヤコブの鼻っ柱めがけてエーテルブローを叩き込む。
「ぬぐぐ、いきなり横から卑怯ですよ!」
鼻血を吹くも何とか踏みとどまるヤコブ。形勢不利と見たか鉄壁を振り返り、必死の形相で呼びかけた。
「――Jr! バルディオンJr! ここへ来てワタシを助けなさい! 早くっ!」
直後。壁を飛び越えておぞましき異形、バルディオンJrがその場へ降り立った――。
配下吸血鬼達は冒険者や帝国軍が抑え込んでくれているものの、この怪物は強引に突破して来たらしい。
バルディオンJrがバルディオンへ襲い掛かる。相手が誰なのかはもう分からないゆえに、容赦なく狼の爪を振りかざす。
「アンタは俺が守る……だから攻める事だけ考えな、大将!」
ディアンが庇う。盾を掲げつつ自らの身体でもってその猛撃を食い止めるや、左右へステップを踏み、フェイントで撹乱しながら横薙ぎの戦槌を食らわせる。
出鼻を挫かれたJrを見かねたか、ヤコブも攻撃へ参加しようとするが、大鼬の目を通してその動きを監視していたルルト・アーキスは見逃さない。
「――させないんだよ!」
すかさずグラヴィティボルトを放ち、ヤコブへ突き立てる。
花のように広がる重力波は吸血鬼の抵抗力に阻まれる。だが、ヤコブはたった今踏み出しかけていた足を慌ててひねって勝手にすっ転んだ。ルルトは次なる矢をつがえ、ヤコブの足止めへ注力する。
その間に、シニング・W・テュパラ達はJrを相手取っていた。
「これで眠らせてやろう。チビを使うなんて長く許しちゃなんねぇ」
テュパラが前へ出て注意を引きつつ、猛然と振り抜かれる蟷螂の腕を寸前で躱す。
敵の旋回速度を上回るスピードで視界から外れるや、流れるように後背を取って、弾丸の如く肉薄――横合いをすり抜けざまに素早い三連撃を浴びせてのけた。
ベルク・オスマットも息を合わせて周囲を回り、捕捉させない。
忙しく動く一方で敵を観察し、胴体と蜘蛛の繋がった部分へ狙いを定めて。
「幼き猪の子に、永久の安らぎたる眠りを」
一足飛びに突貫。意識外からタナトスバイトを見舞い、つなぎ目へ深々とした裂傷を刻み込んだ。
「体も、心まで弄ぶなんて許せない……」
マリイ・パルティスは、命も尊厳も踏みにじられたJrの無惨さを目の当たりにし、震えるような怒りを覚えて唇を引き結ぶ。
胴体の蜘蛛部位を狙い、ありったけの魔力を込めてメテオライト2を放つ。
無数の光弾はJrの異形下半身へまんべんなく炸裂し、糸排出口や狼足へ損傷を与えた。
ナハティガル=ラーも機動力と隠密能力を活かしてJrを撹乱し、不意の死角から幾度も剣撃を突き入れ、ダメージを蓄積させていた。
ちらりと横目でバルディオンを一瞥。
自分にできる事は、速やかにJrを呪縛から解き放ってやる事――そうしなければならない責任がある……!
「なンともまァ奇っ怪なナリをしやがって。作った奴ァなかなか傾いてやがンな」
中村・右衛門佐・勘次郎はJrと打ち合いながら、その異形ぶりを見据え、ため息交じりに呟く。
瞬間、握り込んだ大太刀が燃え上がるように眩く輝き――凄まじい斬り上げを放つ!
高々とかちあげられる、Jrの腕。敵の体勢を崩した拍子に、勘次郎は声を張る。
「今だ、やりな!」
応じ、ナハティガルが高々と跳躍。
「――ティオル。今度こそお前の魂を……!」
エアーライドでJrの側方を取ると同時、渾身の一発を突き立てた……!
「ピャッ……こ、コワクなんてないんだからネ!」
梅・雨陽ら冒険者&バルディオン対ヤコブ戦も続いていたが、配下吸血鬼達も着々と鉄壁を迂回して来ており、辿り着けば形勢逆転されてしまうであろう。
「将軍! ……どうか御無事で」
ザザ=ステルヴィナはバルディオンから離れ、迫りくる吸血鬼達の抑えへ回る。
眼前へ立ちはだかる事で目立ち、注意を集めつつ――なるべく多くの敵を巻き込む形でアーケインを設置し、移動を遅らせ。
吸血鬼達が押し合いへし合いして一列になるのを見計らい、閃く爆光を使用した全力の魔力を解放し、氷嵐を叩き込んで盛大にぶっ飛ばした!
「い、いいんですか!? アレはアナタの息子ですよ!? やられてしまいますよ!?」
「もう! いい加減にその口を閉じてくださーい!」
バルディオンを揺さぶろうとわめき散らすヤコブめがけ、ネフリティス=N=クリスタロスがその横面を、ディバインストライクで殴り飛ばす。
いよいよ追い詰められたヤコブは、破れかぶれでバルディオンへパンチを放つ。
腕へ死霊を宿して威力を強めた一撃は、間違いなくこの日最強の破壊力をもっていた。衝撃波が周囲の冒険者にまで届く――が、エルゼリオ・レイノーラが先んじてバルディオンへ堅甲2を付与していたため、爆心地のバルディオンは膝を揺らせつつも耐えきった。
「将軍……さあ、とどめを!」
エルゼリオがヒールをかけると、体力が回復したバルディオンはさらに踏み込み――ネフリティスが与えた輝刃によって輝く大斧を振り上げた。
「ひっ……こ、こんな……馬鹿な! このワタシが……あ、あり得な――」
あまりの鬼気迫る迫力に、ヤコブが気圧された刹那――轟! と大斧が打ち下ろされる。
「――ううぅぐぉわがはあぁッ!?」
つんざくような断末魔とともに、その一撃はヤコブを真っ二つに寸断していた。
「ティオル……終わったぞ」
倒れ伏すヤコブへ背を向け――バルディオンは呟いた。
余力ある【睡狼】の面々と帝国軍を中心に、残敵掃討が始まった。
ヤコブ死亡により敵は恐慌や狂乱の渦中にあり、いくらかは廃墟内へ逃げ込んだものの、そこを瞬く間に包囲し、数を減らしていく。
アルマ・ヴァレンタインも死角や奇襲を警戒しつつ、魔法で援護しながら従軍していた。
それに敵の戦闘能力そのものが失われたわけではないため、追撃側にも負傷者が出る。
「せっかく勝ったのにこんな所で死ぬのはもったいないって! 傷は浅いぞー! しっかりしろー!?」
その際はただちに救護へ駆けつけ、矢継ぎ早にヒールをかけ、励まし、回復させていく。
「征竜様の頭蓋骨から作られた剣? かぁ……。何だか不思議だけど、万一の事が無いように守らなきゃ」
アリオン・リューは「征竜の虹宝剣」を安全に設置できるよう、周辺に散らばる敵を倒し続けていた。
バルディオンが宝剣を手に、開けた中央部へ進む。周囲はアリオンら冒険者がしっかり護衛しているため、敵に近づく隙は与えない。
殺界を発動する事で敵の動きを止めたアリオンが見守る先。バルディオンは両手で宝剣を捧げ持ち――剣先を勢いよく、大地へ突き立てた!
ほどなく周辺から敵が一掃され、合戦は勝利に終わった。
後は、他の部隊がうまくやってくれているかどうか――冒険者達は休息を入れがてら、安置された宝剣を見つめ、仲間の無事を祈ったのだった。
【1】蟻亜人ダンジョンの攻略とダンジョンコアの破壊 後編(執筆担当マスター:岩岡志摩)
●突入
帝国南部駐屯所跡の一角に存在するダンジョン中盤を突破した冒険者達は、蟻亜人の女王がいる部屋を目指していた。
先に女王の部屋を発見した者達の連絡を受け、冒険者達は最奥へとひた走る。
「破壊ならわしに任せろ! なんでも叩き壊してやるからの!」
フーグ・オグ・フーグが叫びをあげて、同伴するリザードマン達と共に、兵隊蟻達へと切り込んでいく。パヴェル・A・サムルガチェフもそれに続いた。
戦術眼で突破できそうな個所を見出したフーグは、ペインキルで痛覚を遮断して自身の負傷より敵の撃破を優先した。兵士蟻の槍をその身に受けつつも、双手にさげたダマスカス鋼の剣で即座に切り返す。
「俺は主に道を塞ぐ蟻亜人の排除を行い、コアを目指します」
ファイサル・アル=ファルドもまた、反応強化で飛来する蟻酸を躱しながら切り込んだ。先手必勝を駆使し、反応速度を高めた状態から一気に弓兵蟻との距離を詰める。
ダマスカス鋼の短剣と鋼の短剣が縦横に振るわれ、弓兵蟻は仰向けに倒れて絶命した。
なおも冒険者達は通路にいる蟻亜人たちを蹴散らし続け、その一部がついに広い空間へと足を踏み入れた。
今までにない広さを有した部屋の中には、ひときわ大きな腹を抱えた『蟻亜人の女王』が最奥に陣取り、その周囲を『親衛蟻』とでもいうべき、兵隊より二回りは大きな複数の蟻亜人達が護りを固めていた。
その女王は周囲に向け、何かギチギチという音を鳴らしている。
(伝令! 女王蟻を見つけたわ!)
【雷槌】所属のロゼットは冒険者達の後方から女王の姿を確認すると、テレパスを駆使して同じテレパススキルを有する他の仲間達へと現在位置を報せ、部屋への誘導を開始する。
またロゼットは伝令役をこなしつつも壁役も兼ねて隊後方に留まり、看破スキルを駆使して部屋内に罠がないか探索していた。
この時シャトン・アルジェントは暗視と超聴覚を駆使して、この部屋の外から敵の増援が来ないか警戒に努めている。
「足音……金属音が殆どしないわ。敵よ」
シャトンの暗視と超聴覚は、通路の向こうから女王を守るべく、蟻亜人達が馳せ参じる姿と物音を捉えていた。
「ダンジョンは任せて」
部屋の中ではバクル・バスリーがそう請け負うと、蟻亜人の女王との距離を詰めていき、シーザーロアを行使。
「ぼくが相手だ!」
叫びと共に、バクルより発したエーテルが女王に叩きつけられ、バクルに執着させる感情を刺激する。それは同時に親衛蟻も刺激した。
そのままバクルは仲間達の前に屹立し、ダマスカス鋼の盾を掲げてリヴェンジスマイトを行使。
殺到する蟻酸や槍の刺突をバクルは一心に防ぎ、時に反撃も織り交ぜつつ持ちこたえる。
「こうしてるといかにも冒険者って感じだな。あたしは前列でバクルと一緒に敵を蹴散らすぜ」
それまで捜波・改による索敵や、罠解除スキルによる罠の警戒に努めていたシスル・ノーティラスは、バクルを攻撃していた親衛蟻にダマスカス鋼の細剣とダマスカス鋼の短剣を交互に繰り出した。重厚な盾で巧みに受け流す様は、これまでの蟻と一味違う。
同じく【雷鎚】のリディリディ・トゥラ・イェレミースは、前衛に守られつつ蟻亜人の女王を射程に捉えた。
「崩落の予兆はなさそうですね。では味方の援護に動きます」
ここでレイヤ・ダライ=カホールがリディリディと歩調をあわせ、先にマジックディソナンス改を行使。
レイヤより放たれた不可視のエーテルの波動が女王の身にまとわりつき、その魔法的な力を低下させる。
「あの、これから最大火力で破壊します」
リディリディも既に超魔法で魔法力を高めており、轟音と衝撃波と共に巨大なエーテル光の波を撃ち放つ。女王のみならず親衛蟻へ強烈な先制攻撃を叩きつけた。
その間にも冒険者たちが至ったのとは別の通路から新手の弓兵蟻達が蟻酸を撃ち放ち、兵隊蟻達が槍先を揃え、冒険者達へと迫る。
「ここで兵隊蟻を足止めして、女王戦への増援を阻止するのだ」
【肉球】所属の大福は相棒の狼『粽(ちまき)』やリザードマン部隊と連携して通路の出口に陣取る。
(大福と同じ敵を攻撃するのだ!)
(こっちは蟻酸の発火狙っていきます!)
テレパスを駆使して大福や他の仲間達と連絡をとっていたフラム・アニムスは、アーケインテンペスト改を行使。
稲妻のような光が荒れ狂う空間が通路に顕現した。
次いで大福の行使した炸光矢2と、フラムが行使したフレイムゲイズが同じ蟻亜人達へと炸裂し、光の破片と炎がそれぞれ蟻亜人達の身を引き裂き、蝕む。
「此処から先へは通さねぇ」
フラムや大福はリザードマン達と共に、蟻亜人達の部屋への侵入を阻んだ。
●撃破
【肉球】が敵を抑える間に、【破塊】所属の冒険者達が部屋に到着する。
その中でエリザ・A・ミシャールは、部屋に到達するまでの間、孤高者の捜波や看破スキルなどを駆使して、仲間達の消耗を抑えるよう動いていた。
(ここまでの情報感謝だ。以後はアタシも攻撃に参加するつもりだ)
テレパスで仲間達に感謝した後、エリザは炸光矢3を行使。光の矢が親衛蟻達のただ中で炸裂した。
「がはは! 美味い宴の飯の為なら頑張ろうじゃ無いか!」
ジョン・ベアーは、味方の露払いをすべく、親衛蟻へと肉薄する。
飛来する蟻酸をダマスカス鋼の盾で防いだジョンは強打を行使。
ダマスカス鋼の大太刀が威力を重視した強力な一撃と化して斬り下ろされ、盾で受け流し切れなかった親衛蟻の腕が折れ曲がった。切り込んできたジョンを蟻の群れが取り囲みかけたその時。
これが初陣のルーゼティア・ルーデルクラフトもまた、負傷者の搬送や最後尾での殿など、できることで仲間達を支援していたが、ジョンの攻撃にあわせ炸光矢を行使。
「平和じゃないと売り上げに影響するんだから! 戦いで荒れたら素材だってダメになっちゃうし!」
叫びと共に、ダマスカス鋼の強弓より放たれた光の矢に、とっさに盾を掲げた蟻亜人はジョンへの追撃の好機を逸した。
【破塊】の仲間が敵の目を引く間にもサロとポコ・アルデバラッドは共同でコアの探索を行う。
サロはエーテルリンクを結んだ大鼬に偵察させ、ポコの探索結果とすり合わせる。
その結果、サロとポコは蟻亜人の女王の異様に大きな腹に注目した。仲間の攻撃によりわずかに傷ついた部分から、時折青い光が漏れ出ている。パッと見でも自然な物には思えない。
「コア発見だよ。場所は女王の腹の中みたいだけど、まとめて攻撃すればいいよね?」
サロは周囲の仲間達に伝達すると、ダマスカス鋼の魔弓の弦を引き絞る。
「破壊である! 邪魔するならそいつも破壊である!」
ポコはエーテルリンクを行ったゴリラに止まってもらい、その上に乗るとダマスカス鋼の魔弓の弦を引き絞り、狙いをつける。
「今のところ、通路側からの敵の増援は防いでもらえてるよ」
それまで周囲の警戒にあたっていたファム=ゴートは、コア付近にいる敵達に向けフレイムゲイズを行使。
直後、古木の長杖の先より炎球が射出され、仲間を避けて蟻亜人の女王や親衛蟻達だけへまとわりついていく。
それまでリーフェは『ヴェルト』と名付けた狼と共に、超聴覚や暗視を駆使して周囲の索敵を行い、仲間達の攻勢を支援していた。
そして知り得た情報を整理分析しつつ、リーフェもダマスカス鋼の弓の弦を引き絞ると、ロウトフェダーに探索結果を報せる。
「女王らしき個体を守る敵達はかなり手ごわいみたいだよ。今から流星射の一斉射撃はいけそうなの?」
それまで栗鼠との視聴覚共有やテレパスを介して【雷槌】や他の冒険者達との情報共有に努めていたロウトフェダーは、リーフェの言葉を受け、頷きを返す。巨体の女王蟻の腹は高い位置にあった。味方の頭上を越えるように放てば巻き込みはすまい。
「ああ。今から一斉射撃の時間だぜ。ひたすらコアに向けて範囲攻撃だ」
ロウトフェダーの号令と共に、流星射の一斉射撃が始まった。
栗鼠がロウトフェダーの元へ駆け戻ってくるのを待って、ダマスカス鋼の強弓Reを鳴らして渾身の一射を放つ。リーフェやサロ、ポコ達もそれぞれエーテルを通わせた相棒と共に生命力を絞り出し、渾身の一射をそれぞれ撃ち放つ。
複数の方角から放たれた一斉射撃は、射線上にいた敵と味方を飛び越えて、蟻亜人の女王の身を次々と貫いていく。
蟻亜人の女王は悲鳴めいた叫びをあげ、大穴を開けた女王の腹より青く輝くコアらしき球体が一部その姿を覗かせた。
「みんなの回避と力を伸ばす支援をする前に、今はみんなの回復を優先するぞ」
ここでライラック・I・フローレスが流星射を撃ち終えた仲間達のもとに駆けつけ、ヒーリングオーラを行使。
光輝くエーテルの波動で、仲間達の傷を癒す活力の付与を試みる。さらにライラックはサークルプロテクションを行使。
守護の力を秘めた光が周囲に放たれ、仲間達を淡い光の膜に包んだ。呪いと出血で弱体化した彼らへ、親衛蟻の敵意が集中する。
それまで鋼の短弓で親衛蟻や女王に攻撃を加え続けていたSvart・Nattも援護に駆けつけた。
「わたしも援護するぞ。回復手段が不足しそうなら呼んでくれるかい?」
Svartは流星射を撃ち終えた仲間達の前へ出ると、敵に向け炸光矢を行使。
鋼の短弓の弦が鳴り、放たれた光の矢が蟻亜人の女王の近くで炸裂すると、前のめりになりかけた親衛蟻達へと主の守りを強いる。鉄壁の守りに生じた僅かな混乱を見逃さぬ者がいた。
「クジンリーネ様に恥じぬ戦いを♪」
ザンカ・クジンは、首刈帝クジンリーネへの誓いを口にすると、チャージングでコア近くまで肉薄し、戦士の一断を行使。
ノービスアックスが一瞬眩く輝き、振り下ろされた一撃が、腹部を庇う蟻亜人の女王の腕関節を切り裂く。
「コアは首♪ 腕も首♪」
ザンカの中では、コアも蟻の腕も首扱いとなる。
●最後
他班の猛攻が続く中、【風花】所属の冒険者達が、蟻亜人の女王に挑む。
「わ、私達が! 女王様を踏んで~プッチン!」
既にエンライトを行使して、光の玉を作成したララノアが精一杯の挑発を見せる。
光の玉はララノアの他に、ラティア・ミゼリアの姿も照らしていた。
この2人が敵の目を引くよう動く目的は、本命を通すための陽動。
「流星射……すごく疲れるんですよね……」
そう言いながらも、既に覚悟を決めていたラティアは流星射を行使。
生命力を絞り出し、放たれたラティアの渾身の一撃は、既にボロボロだった女王の身ごとコアを射抜き、女王を瀕死へと追い込む。
さらにララノアが行使したメテオライト2によって、顕現した無数の光の弾が蟻亜人の女王へと降り注ぎ、コアもろとも打ち据える。親衛蟻は盾を並べて光弾を防ごうとしたが、防ぎきれはしない。
「エミリア様……お気をつけて」
ララノアとラティアの援護を受け、疾風足や壁歩きなどを駆使して部屋の天井を進んでいたエミリア・シバが、女王の頭上より強襲する。
「おねえさんらしくいくわね」
落下する途中でエミリアはそう呟くと、トリプルファングを行使。
ダマスカス鋼の剣Reとダマスカス鋼の短剣Reが3連撃と化して蟻亜人の女王に殺到し、その首を裂き、胸を貫き、コアを斬り払ってエミリアは着地する。
既に損傷が蓄積していた蟻亜人の女王はその連撃で絶命したが、腹から覗くコアはまだ砕けてはいない。
残る親衛蟻が主の死を悲しむかの如くギチギチと音を立て、殺戮者へ向き直った背後から、他の冒険者達が一斉攻撃を加えた。守るべきものを失った蟻はたやすく崩れ、次々に倒れていく。最後はコアに攻撃を集中させ、無数の攻撃を浴びたコアはついに破砕した。
その途端、コアから濃いエーテルが噴き出す。辺りに広がる前に渦を巻くように指向性を見せ、蟻塚天井を突き抜けて消えていった。
【イメージノベル】(執筆担当マスター:紀藤トキ)
ダンジョンコアの破壊と共に拠り所を失った寄る辺なきエーテルは、地表にある征竜の虹宝剣へと吸い寄せられていく。地からにじみ出た青い輝きが渦を巻いて剣身へと呑まれるにつれ、宝剣自身の輝きが増した。
「……虹耀。虹の輝きと言う別名を持つと聞くが、なるほど……。これが」
天霧りに消ゆる幽界樹の影響でどんよりと淀んだ空に、虹が立つ。まばゆい光は天でほどけ、キラキラとした光の粒が見渡す限りの空へと降り注いだ。黒い霧が見る間にその色を失い、青空が頭上に見え始めると、誰ともなく歓声があがる。それはやがて、宝剣の主たる病床のレイウェスト・バルダスを称える声となった。
「霧は一気に半減……、いや、まだ薄くなっているようですね。全軍に通達。これより本軍は攻撃を開始します」
差し込む陽光を背に、メルヴィン・トマス・アーチボルト辺境伯は、ヴィント市外での陽動作戦に取り掛かった。敵の警戒区域へと前衛が踏み込み、反応したクリーパーへ矢の雨を注ぐ。斃れる前に声なき指示が飛んだのだろう。多数のクリーパーが連合軍へ向かって動き出した。
【3】難民キャンプ防衛とレイウェストの守護 前編(執筆担当マスター:革酎)
●
難民キャンプを後方に据えた丘の緩い斜面を、無数の黒い影が一斉に駆け上ってくる。
「遊兵2番隊……上手くやってるようだね」
後方の味方布陣から放物線状に放たれた矢の雨を頭上に眺めつつ、トゥーリは嬉しそうに笑った。自身も持てる力を存分に発揮してコボルトの精鋭部隊に単身突入し、痛打を加えては離脱を繰り返している。
「所詮は烏合の衆。わたしたちが手を取り合って立ち向かえば」
先程までロモズ歩兵団の支援に廻っていたアルフィンレーヌが、トゥーリと同じ最前線に飛び出してきた。彼女の支援によってロモズ歩兵団は随分と戦線を押し上げることが出来ている。その勢いにアルフィンレーヌ自身も乗って、前へ出てきた格好だ。
特に疲労回復用のチョコは好評だったようだ。
「この勢いを止めさせる訳にゃあいかんな。ってこたぁ、あそこの敵が邪魔か」
八武衆ルンネル率いる強襲隊の位置を大鼬の目線から見て取った【リザイン】のザインは早速その方角、即ち右翼側に向けて諸々の進撃阻害策を打ち始めた。
「了解。あそこだね」
同じく【リザイン】のRe:Leeが小高い岩の上から標的の位置を確認すると、素早く術式発動の態勢に入る。自身が造り出した鉄壁の陰から迸る魔術で、密集隊形の敵の猛進を見事に止めた。
そこにザインが怒涛の如き勢いで矢を次から次へと撃ち込んでゆく。ルンネル隊は完全に勢いを削がれ、出足が鈍った。
「ありがとう、助かるよ!」
「お陰で歩兵団が敵精鋭の攻撃に晒されずに済んだわ」
トゥーリとアルフィンレーヌの謝辞に、ザインはサムズアップで応えた。一方、Re:Leeは相変わらず淡々と敵の突出を豊富な魔力で抑え続けている。
ザインとRe:Leeが右翼側のルンネル隊を一時的に止めたことで、他のコボルトへの攻勢が容易となった。
【綺譚】は左翼側のコボルト隊へと転進。こちら側にも雑魚とは違うコボルト共がいる。
「大丈夫です。今ならルンネルの矢を気にせずに戦えます」
左翼正面の敵に無数の矢を浴びせかけながら、ナハト・シュライバーが同じ綺譚班の面々に心の声で呼びかける。ナハトがルンネルの動きを監視し続けることで、仲間達はその実力を存分に発揮出来るだろう。
「それじゃ、遠慮無く!」
最前線に突出しているアンネエルカが猛然と得物を振るい、コボルト共を一気に薙ぎ払った。そのアンネエルカのすぐ後ろから、セヴラン・クアルトがナハトと同じく強烈な矢の嵐を敵中へと叩き込む。
「コボルトを陽動に使った暗殺、の線は無さそうかな」
友軍エルフの損耗を気にかけながらも、セヴランはコボルトにそこまでの知恵は無いかと内心で苦笑を漏らした。今は兎に角、目の前の敵に集中すれば良さそうである。
しかし知能は低くてもハリアウムのコボルトは精強だ。アンネエルカやセヴランの攻撃をすり抜けて肉迫する個体も少なくない。それらの敵には、クレア・エクレールが対処に向かう。
「エルフさん達、ボク達の背中は任せたよ!」
ルンネルの居ない戦線では多少肩透かし感を喰らった気がしないでもないが、それでもクレアは疾風の如き素早さで確実に敵を斃してゆく。
ナハトからは分刻みでルンネルの動向が報告されてくるが、今のところ右翼戦線から動く気配が無い。
「じゃあ今のうちに、ごそっと数を減らしておきましょう!」
アンネエルカの号令に、【綺譚】の面々は応と頷く。この乱戦の中にあっては暗殺を気にかけている場合でもなかった。
だが敵も、ただ突撃するばかりではないようだ。体格の良い個体が密集隊形で突入を仕掛けてくる。
これに対してフィリスティア・リュナ・ブルーメルティスがカウンターとなる爆炎を叩きつけた。更に味方が接近戦で足止めしてくれている間に、諸々の弱体魔術を織り交ぜる。
「友軍のエルフさん達を疑うよりも、こうして何も考えずに敵と戦う方が気が楽ですわね」
おっとりとした調子で嗤うフィリスティアに、回復と攻撃支援を担当するルフィナ・ヴィオレットが苦笑を返した。フィリスティアもルフィナも、開戦前に態々友軍エルフと接触して潜入者の感知を試みたが、結局は杞憂に終わっていた。
「そうね、今は目の前の敵に集中しましょ」
ルフィナのいう通り、今はただコボルト共に対してのみ、神経を集中させればそれで良い。
「すまん、遅くなった」
そこへアーシェル・G・クラインが最後方から一気に前線へと飛び出してきた。友軍エルフに横手から奇襲を仕掛けてきた別のコボルト部隊を蹴散らしていた彼は、やっと目処がついたところで当初の予定だったアンネエルカとの前衛二枚看板に就いたのである。
接近戦に強いアーシェルとアンネエルカが敵の正面に立つことで、【綺譚】の他の面々の能力がより一層に活きるというものだ。
そして今のところ、ルンネルの動きに変化は無い。左翼戦線は【綺譚】の独壇場となった。
●
中央戦線はロモズ歩兵団重兵隊が分厚い防御力と突破力を発揮して、徐々にコボルトを圧倒し始めている。しかし当然ながら、彼らだけの力でコボルトを押し返している訳ではない。
「ふむ……どうやらある程度の提言だけで動いてくれるって訳か」
ルンネル撃破を狙う【狗防】からの情報展開を受けつつ、【赤翼】エイル・ビュセファスは次にどこを叩くべきかを素早く計算した。
敵が比較的多く集まり、次に突出してきそうな位置は中央右手と読んだ。エイルは負傷者の手当てと並行して敵の動きをじっと観察し続けていたが、考えが纏まったところでさっと手を挙げた。
そのエイルの合図を受けて、今度はシャルロット・エクレールが中央右手から攻め込んで来る一団に狙いを定めた。
(考えるのです……どこを崩したら皆が動きやすい?)
敵の突出位置を一瞥し、シャルロットはほとんど一瞬で標的を捕捉した。突撃ルートは決まった。後はそこに魔力を注ぐだけである。
ここと決めたポイントに、シャルロットは足止めを仕掛けてから、攻撃力抜群の魔術を投入した。
その直後にフリューリングスルフト=ティエラが陣形の乱れた敵陣へと踊り込む。
「赤翼一番風、フリューリングスルフト=ティエラ! 疾風怒濤に駆け抜けるさぁ!」
風を名乗るだけあって、フリューリングスルフトは駆け抜け様に次々と敵を薙ぎ倒してゆく。
だがそれだけでは敵勢は崩れない。横合いからセリオス・オーガストが、流れる様な乱れ撃ちでコボルト共を次々と射貫いてゆく。
(これだけ密集していれば、目を瞑っていても当たるな)
などと呑気なことを考えていたセリオスだが、コボルトを斃してゆく手は一切緩まない。
敵突出部隊は明らかに乱れ、狼狽していた。そこへゴブロウタが怒涛の勢いで矢を射かけた。この突出部隊を指揮している下士官的な親玉級コボルトに痛打を加えようというのである。
「お前さんにゃ恨みはねぇが、これも戦争だ。悪く思うな」
ゴブロウタが次々と放つ矢は親玉級コボルトを最初に討ち斃し、次いでその取り巻きも仕留めてゆく。突出部隊は完全に浮足立った。
「お見事です。ならば私は」
ゴブロウタの傍らで同じく射撃態勢を取っていたレラ・シュマリは、斃れた親玉級に代わって指揮を執ろうとしている別の個体を一撃で仕留めた。
更に敵を混乱させる為に、無差別に矢を叩き込む。防御も陣形も完全に崩れたコボルト共は、後はただフリューリングスルフトに蹂躙されるばかりであった。
辛うじてその刃から免れた個体も、セリオス、ゴブロウタ、レラの容赦無い矢の嵐に呑み込まれてゆく。
その時、再びシャルロットの魔力が強大な破壊力を炸裂させ、敵陣形に大きな穴を開けた。その空隙を衝いて【狗防】が敵中央戦線を突破してゆく。狙いはルンネル。右翼側敵勢力の裏側だった。
●
「壁エルフのお姉さん、参上!」
【赤翼】の支援を受けてルンネル隊の後方へと廻り込んだ【狗防】。その先頭に颯爽と現れたコルネリウス・アーラは、持ち前の圧倒的な防御力を発揮して、ルンネル周辺へと至る最短距離の突破口をこじ開けにかかった。
コルネリウスの叫びは歩兵団の士気を大いに奮い立たせた。彼女は殺到するコボルトを次々と薙ぎ倒しながら突き進むが、直線軌道の側背は死角となる。
だが結局、それらの敵はコルネリウスには辿り着けない。頭上からまさかの高火力爆撃が降ってきたからである。
攻撃の主はイズレンディル・パラリム。彼は自身の身長よりも高い位置に鉄壁を水平に現出させ、これを宙空の足場として矢と魔術の混成多重攻撃を仕掛けていた。
戦場に於いて頭上を取られることは即ち、死を意味する。イズレンディルの目には敵の配置が手に取る様に分かり、どこにどれだけの火力を投入すれば良いのかが即座に判断出来た。
「さぁルンネル……勝負と参りましょうか」
イズレンディルの声はまだかなり距離がある筈のルンネルに届いたのか。幾重にも構築されるコボルト兵の奥向こうから獰猛な雄叫びが聞こえてきた。
コルネリウスがこじ開けた突破口に、蒋・璃龍とノックス・マグナ、レオナルド・ピーフォウルの三人が続いた。
「折角開かれた道だ。邪魔はさせない」
「勿論、あなた方には全員、死んで頂きますけどね」
防御力ではコルネリウスに劣るが、攻撃力という点では璃龍とノックスも負けてはいない。左右から雪崩の如く襲い掛かってくるコボルト共を手当たり次第に薙ぎ倒し、鮮血の紅い霧が舞い上がる。
「やれやれ、これは治療よりも血で足を滑らせないことに気を遣った方が良いかもねぇ」
回復担当として突破口を駆け抜けてゆく戦士達の背後に付き従っていたレオナルドは、この激戦の中でも苦笑を禁じ得なかった。それ程までに【狗防】の突破力は群を抜いていた。
しかし対ルンネルの火力は別に用意してある。その切り札を敵の鼻先に送り届けるまでが勝負だ。クラリス=ミシェとフローラリア・ネムス・ラミナ、オゴスの三人が突破組のすぐ後に続き、イズレンディルの頭上火力牽制に合わせてそれぞれの魔力を解放した。
「見えてきましたね。あれがルンネルですか」
圧倒的な破壊力を誇る範囲攻撃魔法でコボルトの群れを蹴散らすオゴス。その視界の向こうに巨大な弓を構えた特異個体の姿があった。
「わ、何ですかあれ……矢を同時に十本も?」
クラリスが驚くのも無理は無い。ルンネルは散弾射撃の達人だ。しかしクラリスには光弾という対抗手段がある。一方的に射貫かれるつもりは毛頭無かった。
「さぁ、一気に押し開きます。間合いを詰めて参りますわよ」
フローラリアは初手に足止めの魔力光で敵の群れをその場に釘付けにし、次いで流星雨の如き光弾で一帯のコボルトを撃ち倒した。
ルンネルまでの最短距離が開けた。コルネリウスと璃龍、ノックスらが至近距離へと詰め寄り、その間にオゴス、クラリス、フローラリアで遠距離からの魔力攻撃を集中させた。
強威力の散弾矢がばら撒かれ、【狗防】の面々は少なからず打撃を被った。しかし痛打を浴びているのは敵も同じだ。ここは我慢比べだ。
ここで奥の手が動く。仲間達の徹底した全力陽動の間に、サフィラ・アズラク・ナハルハルアリーブがルンネルの背後へと迫っていた。
「おぅりゃぁ!」
ルンネルの後頭部目掛けて死角から突き入れられた刃が、激痛と怒りの咆哮を誘った。だが、この僅かな隙が命取りとなった。
【狗防】がその一瞬に全火力をルンネルに投入。超弓使いの特異個体は集中攻撃を浴び、血の海に沈んだ。
遂に難敵を一体、撃破した。直後、全員の表情が僅かに緩みかけたが――。
「おっと、呑気に勝利を祝っている場合じゃなさそうだ」
レオナルドが警鐘を放った。コボルト共はルンネルを失って気落ちするどころか、却って怒りに燃えた。
流石に状況の拙さを察知した【狗防】だが、そこへ頼れる助っ人が参上。
サマエラ=フォリウムとファーシル・クリスティアの両名だ。レオナルドだけでは手早い回復施術は不可能だったが、このふたりが加わることで【狗防】が浴びた打撃が驚く程の速さで癒されてゆく。
「歩兵団の皆が、安全区域を確保してくれている。そこまで一気に後退するぞ」
サマエラのひと言に、【狗防】の面々が頷き返す。次いでファーシルがいつものおっとりした調子とは打って変わって、防衛ラインへの撤退路を手早く説明した。
「移動しながら回復術を順次かけていきますから、多少の傷みは我慢して下さいね」
今の今まで、自身の回復技術で戦線を維持させてきたファーシルの言葉には、説得力があった。一方のサマエラは開戦直前までロモズ歩兵団の面々と言葉を交わし合い、意思の疎通を図ってきた。その成果が、【狗防】の窮地を救う結果となった。
頭上の鉄壁から、イズレンディルが跳び下りて来た。ルンネルを討伐した以上、長居は禁物だ。
「サフィラさん、最初に逃げて下さい。ルンネル戦死の切欠を作ったんですから一番に狙われますよ」
オゴスが冗談めかして笑ったが、サフィラは璃龍とノックスに守られつつ、脱兎の如く逃げ出す。
クラリスとフローラリアの魔力が追撃を押し戻し、【狗防】は無事に撤退した。
●
ルンネル戦死の一報は、コボルト共を一斉に動揺させた。
それまでシャハロウ率いる本隊を相手に廻して防戦一方だった【月陽】のゼラルム・エルホワイトとサニー・フォン・オルライトの両名は、この時ばかりは本当に助かったと心底胸を撫で下ろした。
「これだけ動揺すれば、敵の隊列も一気に乱れる。彼らがシャハロウを発見するのも時間の問題だ」
魔力光の帯で何とか至近の敵を抑え込んでいたゼラルム。その頬にやっと余裕の色が浮かんだ。
「噂をすれば何とやら、だね」
サニーが手近のコボルトを蹴散らしながら、ある一団の接近に笑みを浮かべた。
シャハロウ撃退部隊【兵】が、いよいよ敵の首魁を討ち取りに参上したのである。その先頭を走るのはケン・Z・ブラッドリーとアルベルト=V=シュタールシュヴェーアト。群がり来るコボルト共を豪快に撥ね退けながら、シャハロウ本隊を一気に突破してゆく。
「アスティン、奴はどこだ!?」
すぐ後ろに続くアスティン・ヴェルラインに、ケンが問いかける。アスティンは戦場内を駆け回らせていた相棒の狼から、シャハロウの位置をおおよそ把握していた。
「二時の方角、300メートルってとこだね」
「はっはぁ、道理でその方向は敵の守りが分厚いって訳だ」
アスティンの分析を受けて、アルベルトは大太刀を振るいながら苦笑を漏らす。その時、フリーダ=ブロムヴィストが右手方向を指差して叫んだ。
「ルンネル隊の混乱に乗じて、向こう側から廻りましょう」
突破の容易さを考えれば、寧ろそのルートの方が最短距離といえる。ならばということで、コルリスとグレイ・ナックラー、ドローミの三人が目の前の敵を引き付けることになった。
「ここは任せて。こんな連中、すぐに片付けて追いつくから」
「ま、もともと前衛の皆さんの進路を確保するのが僕の役目でしたしね」
コルリスとドローミが余裕の笑みを浮かべる。その間に早くもグレイが右手方向の敵集団に魔術で動きを封じることで、突破口への足掛かりとしていた。
「さぁ、早う行けい。わしらもじきに追いつく」
グレイが敵の動きを封じ、そこへコルリスが壁になりつつ光弾の雨を降らせ、ドローミの矢がコボルト共を居竦ませた。
この隙に乗じて前衛組がシャハロウへと肉迫。黒い巨躯が、視界に飛び込んできた。
「居ました……シャハロウです!」
シャーリー・ブラウンが叫ぶと同時に必殺の矢弾を繰り出す。既に前衛組にはアルト=ミルドレッド=バ・ロッサが守りを固めさせていたが、矢張り初手は敵の目を分散させるに越したことはない。
「回復管理は任せろ。存分に殴り合ってこい」
アルトのぶっきら棒な檄を受けつつ、前衛組がシャハロウへと殺到した。
「貴様ら如きにハリアウムは負けん!」
シャハロウが轟と吠えた。配下のコボルト共が迎撃に飛び出してくる。が、フリーダ、アスティン、アルト達が素早く対応し、ケンとアルベルトの為に道を切り拓く。
「ここで貴様を討ち、殿下を護る!」
気合十分のアルベルトだが、その一方で彼の冷静な目はコボルト共の多くがルンネル戦死で大いに動揺していることを見抜いていた。特にシャハロウ近くで未だに動こうとしない連中は、ほとんど護衛として機能していない。そこが狙い目だ。
「その首、良い加減狩らせて貰えねぇかな!」
ケンの瞬間的な接近に対応出来たのは、矢張りシャハロウだけである。護衛のコボルト共は動きが鈍い上に、シャーリーの矢の連弾に圧倒されていた。
ケンの攻撃をシャハロウは想像以上の巧みな剣捌きで防ぎ、その巨体に似つかわしくない俊敏さで逆に圧倒し始める。だがアルベルトが死角を衝くことで、シャハロウは注意を分散せざるを得なかった。
そこへ取り巻きを蹴散らし終えたシャーリーの矢が襲い掛かる。シャハロウは集中力を大いに削がれた。
兎に角、痛打を二、三発程度浴びせればそれで良い。十分な火力は揃っているから、動きを鈍らせさえすれば勝機はある。
持久戦かと誰もが思い始めたその時、シャハロウの動きが急激に鈍った。追いついてきたドローミがシャハロウの足を重撃射で封じ、グレイの魔術が鋼の如き防御力を蝕み始めたのである。
「おのれ、小癪な!」
再びシャハロウが吠えた。だが、その怒りの咆哮がこの怪物の最期の声となった。
反撃による苦痛を厭わぬ超接近戦を挑んだケンとアルベルトの刃が、シャハロウの鎧を叩き割った。ハリアウムの英雄は血飛沫を撒き散らしながら、その場に仰臥した。
コボルト共は一斉に手を止め、絶望的な色を浮かべた視線をシャハロウの骸に集めた。
「やったか?」
異様な程の静寂の中で、アルトの声がやけに甲高く響いた。
そして次の瞬間、コボルト共は堰を切った様な勢いで一斉に後退し始めた。シャハロウの死は瞬く間に全軍に伝わり、狗顔の亜人共は恐慌に支配されたのである。
この日、遂にハリアウムは瓦解した。
【3】難民キャンプ防衛とレイウェストの守護 後編(執筆担当マスター:馬車猪)
●
難民キャンプは広く、難民が1箇所に集まると見慣れぬ顔ばかりになる。争いごとの種が今しも芽吹きそうになっていた。
「おっとごめんよ」
冒険者としての装備を全部取り外したイクスがモブのように割り込む。
「アンタ等もメシ目当てだろ? 無駄な体力使ってないで行こうぜ」
喧嘩をすれば負けると本能的に判断したただの難民を集団から引き離す。
(ここは頼むぜ)
テレパスを持つ冒険者に目配せで伝えて難民の背を押して行った。
「暇なら皿に盛るのを手伝うのだ」
連れられて行った先の厨房で主のように振る舞うのはストレガ・L・リベルガストラだ。
数日ここで暮らしている人間よりはるかに良い手際で最低限の食事を仕上げつつ、手持ち無沙汰な難民に仕事を割り振る。
調理、配膳、掃除、子供の面倒などやるべきことは無数にある。
(この調子でレイウェスト殿の部屋に近寄らないようするのだ)
実際に刃を交える前から、戦いは始まっていた。
「ごめんなさいね。人数が多すぎると怪我とかしてしまうから」
ヘレン・ワーグナーの語り口と態度は穏やかだが、バリケードの隙間にある関所を厳しく守っている。【雀】は皇子近くの守りを物理的に固めていた。
合い言葉を言えない者はもちろん、怪しいと感じた者も決して通さずテレパスによる連絡網で情報共有する。
「君等はこっちだ。おい、余所の部屋を覗き込むのはマナー違反だぞ」
鉄の戦槌を軽々携えたイズル・M・ヴォルゴールが有象無象を遠ざける。
窓も塞いで皇子がいる場所を物理的に封鎖している。
メドゥの指先の行動は、戦う前に失敗しつつあった。
(事件の抑止が最上。エフレム様の負担を少しでも減らさなくては)
【皇護】からはスィーリーンが、封鎖された皇子の居住空間周辺を見回りしている。
封鎖といっても重武装した授恵者なら突破成功の可能性がある。
まだ完調ではないレイウェスト皇子を守るために、敵の侵入も難民の暴発も防ぐ必要があった。
「そこの方」
超視覚を駆使し、人間をみかけたときは、冒険者と護衛兵を除いて遠ざけていった。
(向こうでは故郷の者も援軍として戦っているのだろうか)
大湿地帯から来た同胞のことを思っている間も、ルチル・プルメリア・グレイハーツはペットと繋がるリンクへ注意を向けている。
捜波で得た情報を天眼に加工し、その上で視点が低いペットからの情報と組み合わせると見落としがほぼなくなる。
「信じてこっちは客人を守るだけさ」
客人の周りは安全な空間になりつつあった。
(私が必要な出番なんてなければ良い、と思いますよ)
仮面をつけてフードを目深にかぶっていても、グレイブ・ヤードは不審者ではなく徳のある人間として扱われる。
カリスマと熟練を感じさせる慰撫で難民の面倒を見ているからだ。
難民が暴発あるいは暴走してメドゥの指先達を利する可能性を摘み取るための行動でもあった。
(見慣れない顔ばかりだな)
レヴァーレ・クアルムは内心苦笑する。
皇子やエフレムがいる場所から少し離れるとこの状況だ。
もちろん手を抜くつもりはない。
「久しぶりですね」
過去依頼で顔を合わせた者には注意を促し、怪しい者には聞き込みを行い牽制と威圧を行う。
扇動者にとっては非常にやりにくい状況を維持していた。
「屋根の下にいれば少しはマシさ」
ディレイン・オールドケイジは世慣れた態度で難民が動き回らないよう誘導する。
強く言われてもストレスを溜め、厳しく言われないなら雑に応じるのが一般的な人間だ。
ディレインのやり方は困難な状況では非常に有効で、多くの人間を助けることに繋がる。
「そろそろか。エルフは歩兵団の下につくのかねえ」
彼らの支援でも、と彼が前線に向かって数分して、怒声や血の臭いが難民のもとへ届くほどキャンプ外の戦闘が激しくなった。
●
「何事か」
得物は木刀。
言葉はクールではあるが粗雑でも粗暴でもない。
良く鍛えられた長身と、暴の気配を完全に律する心が確かな力を感じさせる。
皇子の休む区画へ通じる検問に押し寄せた難民に対するのは、そんなゴブリアであった。
「いつまでこんなのが続くんだよっ」
刃を抜いて威嚇されたら暴発したかもしれないが、圧倒的な格の違いを見せ付けられると勢いも衰える。
不安に駆られ、早急な決着と自身らの安全の確保をレイウェストに直訴するつもりだった難民複数の声が急速に弱くなった。
「通るつもりなら身元の照合だ。並べ」
煽動されただけの彼等は、面倒な手続きを経てまで自分が何か言いに行きたいのかわからなくなった。我に返れば、空腹を意識する。
「みなさん、食事の前に手を拭いて下さい」
食事の準備に奔走する難民を支援していたプラムが暴徒未満に向きなおる。
聖職者らしいプラムの態度は、直前まで激しく苛立っていた難民に強い羞恥を感じさせる。
(殿下を暗殺したい側から見ると、健在宣言は「罠はってます」と同義なので……来ましたね揺さぶりが!)
外見は幼げなハーフリングでも、中身は知性に優れた授恵者である。まだ敵はキャンプ内に辿り着いていない、と今まで集めた情報を話して安心させていく。
「殿下が居るからこそ安心なんです」
居なければ多分私達は呼ばれませんでしたしと、硬軟使い分けて宥めていた。
「そんなところで立ち止まらないで。美味しいご飯は大事だよ! 準備もね! コップに水を注ぐくらいのことはしてよね!」
青い肌にピンクの髪のゴブリナ、ネーアが明るく朗らかに難民を促す。
雰囲気の良い食事処に似た気配を感じ、難民達が懐かしくもほろ苦い気分に浸る。
「さあさあ、人の流れを止めないでくださいね」
【皇護】のシエラ・フォン・リシェイラが礼儀正しく程よい強引さで難民を一方向へ動かす。
「食事も順番ですよ。走ったり止まったりしたら順番を後回しにしてしまいますよ?」
酒場での経験を自分なりに昇華して、誰が悪いと指摘もせず雰囲気で押し流す手法を使う。
実に手慣れた、治安維持のやり方であった。
(仕方がない。やるぞ)
冒険者に先回りされ難民を使ったテロを予防されたメドゥの指先達が直接的な行動に出ようとする。
成功して皇子を倒せばよし、それが無理でも本命への陽動になればよしの、指先以外にとっては迷惑な行動だ。
「いけません。うちの閣下が密通で先にしょっぴかれてしまいますわ」
バンビは大真面目に懸念し、刃物を手に難民の間から飛び出してきた者達を全力で迎撃する。彼女のリーダーは必要とあれば皇子の寝所に隠れて侍るつもりなのだ。
建てた鉄壁は賊にとっては分厚すぎ、大量にばらまいた光弾は末端の指先達には致命的な程痛い。
「バンビ、それはあまりにも我が王に」
同じく【赤眼】に属するルーウィン・ビナーは抗議するが否定は出来ない。
皇子はこの時代最高の美少年の1人で、リーダーであるクリエーナ・バーリフェルトは美貌の持ち主ではあるが20代。いない筈の部屋から出てくれば、人によっては問題視してしまうかもしれない組み合わせだ。
「巫山戯るか冒険者共!!」
「最初から真面目だぞ?」
ルーウィンは霞状のエーテルと糸状のエーテルを順々に操る。
馬鹿話に気を取られた曲者の動きを乱して大きな隙を作る。
鉄壁を突破出来ずに焦る賊の真横にうっすらとした気配が現れる。
怒りで熱せられた指先の頭に、冷たい鉄の感触と灼熱の激痛が届く。
悲鳴が口から出る前に形の良い手のひらで塞がれる。
「やあ、奴等の閣下で王様だ」
クリエーナは止めを刺してそっと下ろし、【赤眼】に食い止められ【皇護】に包囲されつつある次の賊へと近づく。
(俺はそんな気ないし、まだ20だぞまったく)
暗がりの暗闘は、クリエーナの独擅場であった。
「私が居る限り、ここより後ろへは何人たりとも通しませんわ!!」
テントや天幕のすぐ外まで、主戦場からこぼれたコボルトが三々五々と攻め寄せてくる。
まっ昼間の広大な戦場で、リリリリスが襲撃者を引きつけ、難民達に被害が及ばぬよう攻撃を受け止め続けていた。
(難民へ魅せる、私の背中は気品と高貴さで輝くべきなのですわ!)
凜々しく美しい背中に老若男女が魅せられる。
尊いのは事実でもその中の趣味の比率が結構高めなのは、きっと口外しないのが全員にとっての幸せに繋がるはずだ。その騒ぎに乗じてキャンプに忍び込もうとする影もいた。難民に潜んでいた指先と違い、あれは殺しを生業とした暗殺者だろう。
「しかし、何故暗殺を? 確かにこの世で死者は私達に異論を挟まず、その意志を継ぐも廃するも自由ですが……あの世では……いえ、狂人なら別ですか」
エーファ・メイベル・マジェリトは何かを察したのかリリリリスを助けようとはせず、メドゥの指先の目的について思案する。
襲撃に気付いた冒険者に加わり、集団で袋叩きにした。
「喋ってもらいますよ。貴方の意思とは関係なくね」
いつの間にか逃げ場を無くしたメドゥの指先の自害は、間に合わなかった。
「職業暗殺者……怖いですね」
1対1で戦えば冒険者も安全ではない。
そんな連中が複数捕まったのを知らされたトーラは驚き、そして巡回を強化した。
敵影。風のように駆けて構えて刃を繰り出すのがほぼ同時。
見た目は可憐な少女でも熟練シーフのトーラは、速いだけでなく狙いも正確なのだ。
(コボルト、非特異個体4視認、3撃破、1撤退)
追撃よりもテレパス連絡網に情報を上げることを優先した。
「分かった、ここは任せて貰おう」
ロドリック・アルカインは、櫓というには頼りない台の上で言った。
(大きく回り込んできたコボルトか。内側の敵を倒し切れていない状態でこれとは)
数に限りのある術を惜しまず使う。
捕らえた指先は現在尋問中だが他にもいそうな雰囲気だ。皇子を守り、難民を守り、その上で内外からの攻撃を撃退するのは難易度が高い。
「向こうからも来ている。ああ、助かるよ!」
普段の小心さを忘れてしまうほど追い詰められたせいか、増援に来てくれた冒険者に向ける顔は実に良い感じだった。
「ふぅーん……あの美少年が帝国の皇子ね。恩賞で秘蔵の魔術書とか帝国縁の遺跡とか教えてもらえないかしら?」
ナタリア・サフィエリは下心で動いてはいるが、欲の方向性は不老不死の秘法の探求である。
皇子の色気に溺れるような性質ではない。
「なんとなんと、凄い数ですこと」
ユリは妖艶に笑って主であるナタリアを支援する。
バラバラやってくるコボルトの数は意外に多く、特異個体がいない集団でも少数で突破を防ぐには厳しい相手だ。
なのに、主の勝利を理性とそれ以外で確信して全くうろたえない。
「あの数の敵を相手に全く引かないご主人様素敵です!」
ジープもまたナタリアを信じている。
「ご主人様! ドーンと一気にやっちゃって敵の気勢を殺ぎましょう」
うなずいたナタリアのエーテルが熱を帯び、膨大な魔力を経て巨大な炎球へと変わる。
ユリもフレイムゲイズを使い、負けじとジープも続く。
着弾した場所がずれていたため着弾は同時。
炸裂した範囲が重なり、強力な業火が広大な範囲に広がる。
覚悟は決まっていても特異個体ではないコボルトは、肺まで焼かれて倒れていく。全身消し炭になった個体までいる。
ジープのくるくる巻いた大きな角が、炎に照らされ禍々しくも美しく輝いていた。
「コボルト達は陽動! 搦め手で来るのはほぼ間違いないね!」
ハルノ・ヒビキが元気な大声で注意を促す。
いつでもかかってこいとあちこちに顔を出すハルノは、戦う力を持たない難民にとっては非常に頼もしく、メドゥの指先達にとっては今すぐにでも殺したい対象だ。
粘つく毒が塗られたナイフが、ハルノに向かって死角から投げつけられる。
そして、固い衝突音を発生させてダチュラの盾で叩き落とされた。
「ったく無茶しやがる」
荒っぽく言うダチュラではあるが、ハルノを守る姿勢はまさに騎士だ。
しかも、2本目の毒ナイフを手に指先が走り出す前に距離を詰め、もつれ合うようにして接近戦を挑んで巻き込まれかけた難民を救う。
ハルノはダチュラの防御を信じて狙いを定め、矢を放つ。
慌てて避けた暗殺者とダチュラの距離が離れた瞬間、魔力を込めた杖をダチュラが振り下ろして敵に致命傷を与えるのだった。
「燃えるものなど有りませんよ」
【索】のウォーゼルが穏やかに笑う。
至近距離から語りかけられたメドゥの指先は、授恵者でしかあり得ない身体能力でその場から飛び退こうとする。
「っ」
【索】のパルドによる全力攻撃が、隠密行動中でろくな防具のない授恵者を捉える。
深手だが致命傷ではない。
が、傷を隠して潜伏を続けるのは不可能な傷だ。かといって決死で火をつけようにも油や巻きは片付けられていた。となれば逃げるしかない。
パルドは追撃しない。
余裕のない指先は何故追撃されないか分からない。
(マークに成功した。以後はテレパスによる情報提供に集中する)
これで賊の未来は確定した。
ウォーゼルもパルドに倣い捜波を飛ばし、平行して可燃物の捜索と撤去または通報を行う。
(賊が考えることはどこも同じですね)
看破し、パルドに伝え、皇子を守る冒険者全体と情報を共有する。
【索】の活躍と貢献は、相当なものだった。
(テレパス傍受の可能性は……あるのかな? 指先の幹部級が関わってるから未知の手段があってもおかしくないよね)
ふわふわの桜色髪ときらめく緑の目が目立つエフィルミアは、氷の刃の如く冷たく鋭い思考を行う。
「皇子……いえエフレムさんに伝えてください。コボルトの別働隊は息切れ寸前。メドゥの指先達に仕掛けるつもりがあるなら、状況に気付き次第動きます」
数少ない帝国の護衛兵が、テレパスを使わず情報を受け取り駆け出す。
その場に残ったエフィルミアは、気付いたことに気付かせないためその場のコボルトを鏖殺した。
●
ベッドから立ち上がろうとしたレイウェストが、起き上がれずにベッドの上に背中から落ちる。
羞恥と悔しさで血の気の引いた頬がうっすらと赤くなる。
「体力の温存も重要な仕事ですわ」
果実を剥いていたアヴェラ・ウッチェロがおっとりと言う。
レイウェストの指先に無意識に目が向いてはいるが、思考の大部分は捜波と探波に向けられている。
後者に反応があった。
賊の移動を阻害する形で巧妙に配置されていた罠が、退けられたのだ。
言葉にするより早く、気配でエフレムが気付く。
(そこだ、ね)
エフレムの視線の先で、ティトの短剣が閃いた。
空気が微かに揺れ、何もないはずの宙から鮮血が流れる。
ティトは、おそるべき隠密技術で忍び寄っていた賊と交戦する。
敵は練度が高いだけでなく命を捨てている。
与えたダメージはティトが多くても、戦闘不能に近いのはティトだ。
もっとも、不利だったのはテレパスを使っていた分、ティトの手数が減っていたからだ。
思念が聞こえた瞬間、セロンガード・シュタインドルフは気配を感じさせないままその場で弓を引き絞った。
(この手の相手は昔からお手の物です)
皇室唯一の生き残りの前で武器の使用まで許されたのだ。
ここまで信頼されて結果を出せないなら自分自身を許せなくなる。
矢を放つ。
高価で頑丈な布を食い破った矢尻が、単独の能力ならセロンガードに匹敵する暗殺者を柱に縫い止めた。
「終わりました」
レイウェストを庇っていたアヴェラが、偽装でもあるメイドを再開する。
「残るは後片付けです。集まった冒険者を信頼してあげてください」
皇子は何かを言いかけ、そのまま飲み込みベッドの上で力を抜いた。復調にはまだ時間が必要だった。
指先達の切り札が失われた直後に、警備の一部だけが不自然に緩む。
誘いだと分かってはいても、幹部に暗殺を命じられた彼等は動かざるを得ない。
「急所が有るなら、突かれると考える方が自然です」
護衛兵の協力を得て得意な戦いに持ち込んだルーファス・W・ワーズワースが、隣接する天幕の中で毒塗りの刃を防いでいる。
目の前の冒険者を倒しても本命には近付けないのに、見せかけでしかない隙に惑わされた暗殺者はルーファスを倒そうと焦る。
「正念場です。死なせはしません、守り抜いてみせます」
皇子も、難民も。
そう心に誓ったイデアがアーケインテンペストを発動する。
回避不能の移動速度激減は、逃走と暗殺の成功確率を限りなく0に近付ける。
冷たい月を思わせる光の弾が、絶望した暗殺者の頭部を貫通した。
時間と共に難民に怪我人が増えている。冒険者は成功しているが、本来防衛戦は非常に不利な戦いなのだ。
「大丈夫よ」
エデル=マグノリアはヒーリングオーラで可能な限り多くの難民を治療する。
冒険者としては新人ではあるが、日々の鍛錬と適切な装備により非授恵者の外傷が完治するほど強力な癒しを使える。
「みなさんは私の後ろへ。危険は私達が引きつけるわ」
おっとりしているのに勇敢に立ち向かうエデルに、信仰に近い視線が集中した。
(今ならいける)
アステルはきりりと表情を引き締め、しかし目は悪戯小僧のように輝く。
「オウジ、イタッ! ココッ!!」
捕虜の声は聞いたが悲鳴ばかりなので、会話能力のあるコボルトを真似た。
気付いて怯えた難民もいはするが、エデルが頑張ってくれているので怯えは拡大しない。
(うまくいった!)
これまで不審な動きをしなかった指先が、逃げるか襲うか迷ってその思考が顔に出る。
「な」
アステルの刃が深々と突き立てられる。
「人質をとられたら皇子さん気にしそうだからな」
素早く物陰に連れ込んで処理。混乱を最小限にした。
「拙も、また……帝国の者であります……! この責、必ず果たして見せますとも……」
コボルトとの主戦場に近い方面から比較的安全な側へ、サララ ココノカが難民の避難を誘導する。
素直に従う難民が大部分で、一部に天邪鬼はいたが悪質なのは極一部だけだ。
「帝国人でも、真っ当な人類ですらない者に慈悲は不要です」
逃げだそうとした賊に毒撃を叩き込み、後は集まってくる冒険者に任せて誘導を続けた。
コボルトの新たな増援が到着する。無傷の個体は少ない。
ひょっとしたら、主戦場でコボルトが敗退し、逃げ出したのかもしれない。
「あい、無理はしないでね! 俺もしないから」
ローリー・R・テイワズの言葉をあいはあまり聞いてくれない。
ふわふわのテントや不安定な簡易櫓で壁歩きをするのに夢中になっている。
バリケードも検問も突破出来ず絶望的な抵抗をする指先の生き残りも、悪運強く難民に近付いたコボルトも、全てあいの獲物だ。
その中でもローリーを狙ったものが優先的に狩られていた。
「いくぞ!」
ローリーは合図を出してから殺界を発動する。
敵に攻撃される危険はあっても足止め効果は絶大だ。
その上、味方と連携すると効果はさらに向上する。
「わし、まだ冒険者のタマゴなんじゃがのぅ……」
エルフのキャスターであり、冒険者になっての初めての実戦のただ中にいるラシェルが、普段よりほんの少し自信のない態度で強大な炎を操り、焼いた。
ただの農民でしかない男達が、妻や子を背に庇って冒険者の奮戦を見守っている。
脅威が去ったことが確定するまで、まだかなりの時間が必要だった。
【4】ヴィント市突入と幽界樹の伐採(執筆担当マスター:空色みなも)
●
浄化されることで薄まった黒い霧を通し、天を衝く『天霧りに消ゆる幽界樹』が姿を露わとした、南部鎮守都市ヴィント。
メルヴィン・トマス・アーチボルト辺境伯に率いられた連合軍が正面からの陽動を開始し、クリーパーたちが門へと集結しようとする最中。
冒険者たちはクリーパーを避け、崩れた城壁から市内への侵入を果たしていた。
(ここまで来ると、うろついてるクリーパーも増えてくるね)
ヴィント市の旧地図を手に先行するアスカ・タチカゼが、薄闇に蠢くクリーパーの影を認める。
(まずはこのことを本隊に伝えないと)
クリーパーに気取られる前にと、アスカは全速力でその場を離脱し、他の冒険者たちに自らの見たものを伝えた。
「この先、いよいよ戦いになるんだね。がんばろう」
クリーパーとの戦闘が避けられないと分かったことで、月が杖を握って気を引き締める。
同様にシャロン・ラ・モリエールも自身に気合いを入れた。
「ここはわたしたちが引き受けるわ! あなたたちは幽界樹へ向かって!」
【四葉】の仲間を伴い、リサ・ベイカーが哨戒しているクリーパーへとあたる。
「そこにいる赤いクリーパーには見覚えがあるわ。粘液に触れないよう、注意して」
事前の斥候で得られた情報を生かし、リサは仲間たちへ指示を送っていく。
市中を覆う黒い霧は完全に消え去ったわけではないが、リサが身体の動きを確かめたところ、行動に大きな支障はなくなっていた。
「このヴィントを帝国奪還の橋頭堡としようじゃないか」
ナタリア・フィッツジェラルドが解き放ったエーテルに包まれた仲間たちの体に、力が湧き上がってくる。
リサやナタリアが行動を共にする仲間の多くは、思念を飛ばすことによる意思疎通が可能であり、それにより高度な連携を可能としていた。
「オレたち、けっこうできるぜ!」
虚勢も言葉にすれば自信に繋がるとでもいうように、ギャメルはあえて大きな態度を表に出す。
攻勢に打って出る仲間には武器へ、クリーパーを引きつける仲間には防具へ。
ギャメルが淡い光を付与することで、仲間にさらなる力が引き出されていく。
また、帰路を見失わないよう地面に矢印がチョコレートで記されているのも、ギャメルの手によるものであった。
「こちらを向いてください!」
ララヴェル・ララフェルが輝く矢を放ち、クリーパー集団の只中で光の破片を炸裂させる。
なまじ互いに情報伝達できるがゆえに、クリーパーたちは囮であるララヴェルに一斉に釣られたようだった。
連れていた狼に騎乗したまま立ち回り続けるのは難しかったため、ララヴェルは自らの足で後退しながらクリーパーを誘導する。
「祖国を奪った異形どもに思い知らせてやる時が来たようね」
その様子を廃屋の屋上に立って眺めていたアウレーリア・フォン・ネーベルベルクが、杖を掲げた。
杖に施された炎の象嵌が輝き、呼び出されるは稲妻――雷光はクリーパーを絡めとり、その進攻を食い止める。
「指揮個体は――あいつかしら」
アウレーリアは連携の中心となっているクリーパーを探り出し、光の弾で撃ち抜いた。
「ララヴェル様、ここまでありがとうございます。後はわたしが引き取ります」
一瞬、連携が乱れたクリーパーたちの前に、ゲルダ・クラインが小さな体を滑り込ませる。
圧を放つゲルダにより展開された不可侵の領域が、ララヴェルを追うクリーパーたちの足を止めた。
「ここは通しません」
ゲルダは身長より遥かに長い槍を振り回し、その切っ先でクリーパーたちを刻む。
「その埋め込まれた実……気になりますね」
それとは位置をずらしてクリーパーを足止めするヴィルヘルミナが、手にした刀を振るった。
欠けた月のように刀身が煌めいた後、クリーパーの頭部に露出していた、木の実のような物体がぱっくりと割れる。
実を失ったクリーパーはギラギラと輝いていた目の光を失い、その場に頽れた。
「クリーパーはわたしたちで食い止めるわよ!」
仲間の傷を癒すリサによる激励が、戦場に響き渡る――。
「幽界樹も冒険者の方々が侵入したのに勘付きましたかね」
一体のクリーパーを矢で射抜きつつ、連合軍を指揮するメルヴィンが独白する。
連合軍に押し寄せていたクリーパーは、一部が市内へと引き返し始めていた。
しかし未だなお多くのクリーパーを相手取る連合軍は、冒険者たちに向かうクリーパーを見送るしかない。
しかし、こうしたクリーパーたちは、他の冒険者たちを幽界樹のもとへ送り込んで残った、リサたちによる防衛線に阻まれることとなる。
●
送り出された冒険者たちは、そびえ立つ幽界樹の姿を頼りにヴィント中央へと急ぐ。派手な囮に食いついたのか、巡回のクリーパーに遭遇することはない。
冒険者たちは幽界樹から視線を切るよう建物の影を利用していたが、中心部に近づくほど、残された建造物も崩れたものが増えていた。
この分であれば、幽界樹の周辺は更地となっていることだろう。
「迷宮りーな、何か感じますか?」
エルナ・クルプファルツは、ふと手持ちの植木鉢に収まった植物に視線を落とし、語りかけてみる。
「りーなには答えられませんよね。聞いて頂きありがとうございます」
しかし植物が黙して語らないのを見て、エルナは改めて幽界樹を眺めた。
市外から見た時と比べ、その頂上を見上げる際の視角はずいぶん大きくなっている。
「あれだけ巨大な樹です。そろそろ、根を張っている範囲に辿り着いていてもおかしくありませんね」
幽界樹の根を狙おうと考えているエルナたち【喫茶】が、地上に露出した根が無いか見回そうとしたところ。
鋭敏な聴覚を有するエルナの耳が、かすかな音を捉えた。
それはまるで、地面を掘り起こすような――。
「散開っ!」
考えるよりも早くエルナが鋭い声を飛ばし、仲間たちが散ったその空間を、地面から錐のように突き出した根が貫いた。
仮にエルナが音に注意を払っていなければ、何人かは串刺しになっていたかもしれない。
「根は近づく者を迎撃する役割もあるみたいですね。しかし、切るためにはこのほうが好都合とも言えます」
エーテル吸収などの役割を根が担っていると予測していたキーゼが、力を引き出すエーテルを仲間に放ちつつ、突き出た根の伐採を提案する。
「サチコ氏、根を炎で燃やすことはできませんか?」
「ええ。可能です」
キーゼからの要請にサチコが頷き、術を完成させるべくエーテルを練り上げる。
「あれも命だというのなら、殺せるはずだ」
フェイサル・セイフは幽界樹がクリーパーである以上、植物より動物として捉えるべきだと考えていた。
根を切り離されることは、幽界樹にとって身体の部位を失うも同じ。
幽界樹を打ち倒すうえで根の伐採は有効に働くはずと、フェイサルも根を切ろうとする仲間の武器に強化を施す。
「倒木は礎となる――我々の反攻の!」
支援を受けたハリス・アル・ターミルが吶喊し、爪を畳んで槍の穂先とした鍬で、地上に出現した根を突き刺す。
「やはりクリーパーと言うべきか、植物の根とは違いますね。それと――」
根の手応えが植物のものとは異なることを見抜いたハリスが、遠くそびえる幽界樹の本体を見る。
これだけ広範囲にわたって幽界樹の根に侵食された土地が、地盤を支える根を失ったら何が起こるか――。
備えをするに越したことは無いと、ハリスは地面の様子にも気を配る。
「根も体の一部というのなら、毒に侵すのも無駄にはならないはずね」
ここに辿り着くまで仲間たちを先導し、難所にロープを張るなどの補助をしてきたカメリア・ローレンスが、根切りに参加する。
カメリアにより振るわれた刃のまとったエーテルが根を蝕み、その命を徐々に枯らしていく。
「ひとーつ、人よりいい匂い! ふたーつ、不埒な悪臭三昧! みーっつ、魅せるぞ最臭奥義ぃ!」
得も言われぬ匂いを放ちながら、ク・サーヤ・クッセーワが突き出たばかりの根に暗器を突き立てる。
索敵用エーテルを地面に走らせ、根の出現位置を予測していたのだ。
暗器に仕込まれたエーテルは、長い時間にわたり根を蝕み続けた。
「援護いたしますわ、エルナ様!」
「ありがとうございます、ネーヴェさん!」
ネーヴェ・グラヌローザがエルナの持つ杖を眩い光で包み込む。
エルナが全神経を集中し、ネーヴェにより強化された杖から放った光の弾は、一本の根に風穴を開けた。しかし、本格的に戦いが始まれば散らばっていたクリーパーが集まってくる。
「邪魔はさせません」
根の切除を行う間にも迫って来るクリーパーには、イヴェール・イリュジオンが対処にあたっていた。
殺気でおびき寄せたクリーパーを狙い、イヴェールが大剣を振るって飛ばした衝撃の刃が、クリーパーに埋め込まれた実ごとその身を切り裂いていく。
「なにか……来ます!」
根を攻撃した際の幽界樹の変化に気を払っていたレティシア・レインフィールは、幽界樹の梢が揺れたことに気付く。
咄嗟にレティシアが月の意匠を持つ杖に祈り、召喚した光の六角柱の影に入ることで、冒険者たちは飛来した無数の葉に切り刻まれるという難を逃れていた。
「皆さん、そちらから離れるようお願いします」
根を焼き払うべく機を窺っていたサチコから、異様な熱が放たれた。
直後、切断面を曝した根の一本から紅蓮の炎が上がる。
一本の根を灰に変えるまで炎は消えることなく、むしろ火勢を強めながら根を焼き尽くした。
「信念を、使命を以って動く者に対し、助力を与えずして何がGP教か」
そのままジャイアントパンダのようなハーフビースト、ハッタ・ムラムラはサチコを守るべく、そばに付き従っていた。
ハッタはサチコの備える「いざという時」に向け、サチコをいつでも癒せるようにし、万全の状態に保つ心積もりだ。
「サチコさんが考えていること、ボクにはなんとなく予想がついた気がします」
同じくユネスコ・ビスコもサチコに付き、近寄ろうとするクリーパーを射撃により退けていた。
炎を操るサチコに視線を向ければ、その顔には悲壮な覚悟が浮かんでおり。
冒険者たちが窮地に陥れば、サチコはその身を犠牲にすることも厭わないつもりだろう。
「そうなる前に、ボクたち冒険者で何とかしないといけませんね」
全てをサチコに背負わせてはならないと、ユネスコは決意を新たにした。
●
根の切除を続けるうちに、冒険者を襲う幽界樹の攻撃は根による突き上げから、葉による撃ち下ろしへと変化し始めた。
一帯の根があらかた片付いたと見た冒険者たちは、降り注ぐ葉により肌に傷を刻みながらも一気に前進し、幽界樹の根本へ取りつこうとする。その行く手に現れる、敵。
「そこは通行止めにさせてもらうぞ」
幽界樹への進路を塞ごうと集まるクリーパーたちを、バーネット・フォーサイスが雷光で絡めとる。
そこへバーネットがさらにエーテル光をまとわりつかせれば、クリーパーたちは完全にその場に縫い止められた。
「幽界樹がクリーパーを操るなんて……さっさと切り倒さないと怖いことになりそうね」
ファヌもあえてクリーパーの前に身をさらし、幽界樹に直接対応する冒険者から引き離すように釣り出していく。
おびき寄せたクリーパーに、ファヌは光り輝く戦槌を叩きつけた。
「さて、指揮しているのはあいつかな?」
クリーパーの中に指揮個体らしき姿を見つけたギド・フェルミが戦場を駆ける。
「邪魔しないでもらえるかい!」
指揮個体に近づく妨げとなるクリーパーたちを、ギドは暗器で薙ぐ。
「露払いは任せるすよ!」
それでも立ちはだかるクリーパーへは、マタリキー・T・ヒーローが矢を射かけて道を拓いていく。
こうして切り開かれた幽界樹までの道に、冒険者たちが一斉に雪崩れ込んだ。
「やあ、眺めはどうだい?」
「くそっ、眺めはともかく、気分は最悪だ」
ヨル・スレイマンの軽口に対し、幽界樹の幹を登るナハシュが余裕を失った様子で返した。
あらかじめヨルにより力を引き出す支援を受けているものの、幽界樹から噴き出す黒い霧を直に浴び、ナハシュの能力は大きく制限されている。
それでもめげずに登攀を続けて枝が伸びる高さまで到達し、実を刈り取り始めたナハシュを、幽界樹の実が――睨みつけた。
「ぐっ!?」
途端、一本の枝がしなってナハシュを強かに打つ。
ナハシュはたまらず樹から転げ落ち、地面に叩きつけられた。
「おっと、大丈夫かい?」
「いっつつ。あの実……目みてぇな役割があるようだな」
駆け寄って治療にあたるヨルに、ナハシュは体を張って得た情報を伝える。
「なるほどね。なら、潰しておけば奴の視界は制限されるわけだ」
ヨルは幽界樹の枝を見上げると、光の矢を飛ばして一個の実を貫いた。
「私が与えられる影響なんて限定的だけど――」
精神を統一し、ミツキ・アインホルンが呪法を編み上げていく。
「最大の力を発揮させるのが戦術眼よ!」
幽界樹へ向けミツキが放った二つの呪いは、幽界樹の魔力を衰えさせ、その体を脆くした。
これを好機と見た冒険者たちは、幽界樹へ一気呵成に攻め上がる。
「伐採のため、受け口くらいは私が刻んでやりましょう」
黒い霧が吐き出される合間を狙い、シルワ・カルブクルスが爆発的な加速により、幽界樹に肉薄する。
突進の勢いのままシルワの叩き込んだ斧が、幽界樹の幹に深く食い込んだ。
「私の軽業を拝めること、ありがたく思ってよ」
更地となった幽界樹周辺から少し離れ、形の残った廃屋の壁をエルケ・シャルフが駆け上がる。
「よっ、っと!」
廃屋の屋上で助走をつけ、エルケは足場のない空中へと踏み切った。
直後、勢いよくエーテルが噴出し、エルケは宙を駆ける。
「足下ばっか気にしてないで、少しこっちもサッパリしたら? ってね」
瞬時に幽界樹まで辿り着いたエルケは、枝の一本を掴んでひらりと飛び乗ると、周囲の枝を切り払ったのだった。
鋭利な葉を舞わせ、肌に血を滲ませても。
根を突き上げ、脚を貫いたとしても。
幽界樹が冒険者たちの勢いを止めるには至らない。
クリーパーは大きなものほど強い。故に自分を脅かす物は常に巨体だった。
小さな強者達との闘いなど幽界樹の経験にはなかったのだ。
冒険者たちにより根を切られ、実をもがれ。
枝を払われ、幹を傷つけられた幽界樹は、金切声にも似た高音を響かせる。
「天霧りに消ゆる幽界樹よ――ここで朽ちなさい」
リコリス・アデュラリアが呪いのエーテルを蜘蛛糸のように幽界樹に絡みつかせる。
身動きを縛られた幽界樹へ向け、天地から掻き集めたエーテルを注ぎ込んだリコリスによる光の弾が放たれ。
幽界樹の幹で眩い閃光が走ったかと思うと――。
断末魔の悲鳴のような一際高い音が、冒険者たちの耳をつんざいた。
「幽界樹が――果てましたか」
緊迫感に満ちていたサチコの表情が、ここでようやく和らいだ。
サチコの見上げる視線の先で、幽界樹の絶命を示すように、ハラハラと大量の葉が舞い落ちていた。
「……それでは、急ぎ撤退を」
足下から地響きが鳴り始めたのを聞いて、サチコは冒険者たちの指摘を思い出す。
見る間に萎れ始めた幽界樹は、一帯の地盤に根を張り巡らせていた。
その根が消えたとき、果たしてどのような事態が予想されるか――。
冒険者たちが迅速に撤収を終えた直後、爆音を轟かせ、ヴィントの大地は広範囲にわたって陥没した。
その様を目撃した冒険者たちは、崩壊直後の一瞬、中心に底知れぬ大穴が暗く口を開けたのを見たことだろう。
やがて染み出した水が溜まっていくことで、大穴は水底に隠されて見えなくなった。
監修:アルパカコネクト運営
マスターコメント
決戦シナリオ非常に難しい 報酬:多い194 / 1〜9999人
2021年07月09日 16時43分44秒 公開
参加者
トゥーリ
ハッタ・ムラムラ
蒋・璃龍
バクル・バスリー
イヴェール・アーチボルト
- ザンカ・クジン
ヨル・スレイマン
エリザ・A・ミシャール
ゲルダ・クライン
コルネリウス・アーラ
ミツキ・アインホルン
アンネエルカ
- ビスコ ユネスコ
ゴブリア
ケン・Z・ブラッドリー
シエラ・フォン・リシェイラ
ゼラルム・エルホワイト
サニー・フォン・オルライト
- サイラス
エルゼリオ・レイノーラ
ルアンナ・ミュラー
エルナ・クルプファルツ
ナハシュ
アルベルト・V・シュタールシュヴェーアト
シャルロット・エクレール
スィーリーン
Svart・Natt
リサ・ベイカー
テス・アウレア
フリーダ=ブロムヴィスト
リリリリス
ザザ=ステルヴィナ
パヴェル・A・サムルガチェフ
ディアン
ベルク・オスマット
ジョン・ベアー
ヴィルヘルミナ
ハリス・アル・ターミル
ルチル・プルメリア・グレイハーツ
ルルト・アーキス
クリエーナ・バーリフェルト
レオナルド・ピーフォウル
レティシア・R・クラティアス
エーファ・メイベル・マジェリト
カメリア・ローレンス
シニング・W・テュパラ
ヘレム・カースワーズ
シャトン・アルジェント
- イェレミース トゥラ リディリディ
ストレガ・L・リベルガストラ
グレイブ・ヤード
ギド・フェルミ
イズレンディル・パラリム
ノックス・マグナ
ファム=ゴート
ギャメル
マリイ・パルティス
エフィルミア
フローラリア・ネムス・ラミナ
サフィラ・アズラク・ヴォルファング
ロイ・アウレア
セヴラン・クアルト
ヘレン・ワーグナー
プラム
リコリス・アデュラリア
ギーゼラ
キリク
ヒロ・テスタロッサ
セリオス・オーガスト
シャロン・ラ・モリエール
イズル・M・ヴォルゴール
ハヤト=ガラン=ヴォルファング
アルマ・ヴァレンタイン
シャーリー・ブラウン
レイス
アルラ・ニグラス
ルーゼティア・ルーデルクラフト
ドローミ
シスル・ノーティラス
ララベル・サン・ディーベル
アリオン・リュー
リーフェ
ゲルト
ゴルバルティア
フェイサル・セイフ
アルフィンレーヌ
フリューリングスルフト=ティエラ
ディレイン・オールドケイジ
アスティン・ヴェルライン
ルーウィン・ビナー
マーハ・アセトシソン
レイヤ・ダライ=カホール
レヴァーレ・クアルム
バンビ
クローリカ
イクス
海神 江流
アヴェラ・ウッチェロ
エイル・ビュセファス
サマエラ=フォリウム
エルケ・シャルフ
アステル
テュリン・ヴィング
ファーシル・クリスティア
ロゼット
- キーゼ
トーラ
ザイン
ネフリティス=N=クリスタロス
バーネット・フォーサイス
クレア・エクレール
中村・右衛門佐・勘次郎
キオルティス
梅・雨陽
セロンガード・シュタインドルフ
ロドリック・アルカイン
アルト=ミルドレッド=バ・ロッサ
Re:Lee
ナハティガル=ラー
ナキル
アーシェル・G・クライン
シャリアーヌ=ウルス=ロンディニオン
フィリスティア・リュナ・ブルーメルティス
テテリカ
ナンチ・ヤジナイ
アリエッタ
ララノア・グラヌローザ
ルーファス・W・ワーズワース
ネーア
ロウトフェダー
フーグ・オグ・フーグ
サララ ココノカ
オゴス
マレーネ・シェーンベルグ
アスカ・タチカゼ
ヴィノニス
ファイサル・アル=ファルド
- シルワ・カルブクルス
ナハト・シュライバー
エルシー・サリバン
ハル・チフ
エヴァン・ピオネロ
楓月・千弦
エミリア・シバ
ネーヴェ・グラヌローザ
ライラック・I・フローレス
月
ラティア・ミゼリア
ガルシア
ベアトリーチェ・カロッサ
あい
ハリーヌ・ヨツユビ
ティト
サロ
ララヴェル・ララフェル
- ポコ・アルデバラッド
グレイ・ナックラー
アウレーリア・フォン・ネーベルベルク
フラム・アニムス
カズマ クレセントブラッド
ローリー・R・テイワズ
ナタリア・フィッツジェラルド
ゴブロウタ
カルフ・オルヴォ
大福
- スヴァン=ウォルフ=ユーウェン
エル=バ=ノイアン
マタリキー・T・ヒーロー
ナタリア・サフィエリ
ユリ
ジープ
ルベア・ベルニ
シルヴィア・A・カペル
クラリス=ミシェ
ハーヴィ
エデル=マグノリア
アルバス・ロウル
ユズ
ライオネル・ギシュム
- イデア
コルリス
ハルノ・ヒビキ
- ファヌ
ダチュラ
ク・サーヤ・クッセーワ
サシャ・テーリング
ダムド・フィリス
セオ・ウルジオ
コンフリー
パルド
ウォーゼル
ルフィナ・ヴィオレット
レラ・シュマリ
- ラシェル
相談掲示板
シーフのトーラです。 3か4の戦域に行く予定なので、同行される方はよろしくお願いします!
ヒーラーのロゼットよ。よろしくね。 【1】でダンジョンコアの破壊に向かう、パーティを募集するわ。 同行できそうな人がいたら、相談用コミュニティを覗いてみてね。 あとパーティ募集とは別に、【1】でダンジョン内の連絡網に 「テレパス」習得者の参加も声かけしてるわ。こっちもよろしくね。
キャスターのミツキよ。よろしく。 【4】でクリーパー討伐に動くつもり。 一緒する人達はよろしくね
ウォーリアの蒋・璃龍、です。よろしくお願いする、ます 【3】のキャンプ防衛をするつもり、です。一緒の方は、よろしく、です
「ナキルだ、よろしくな! さぁて、どっか適当に殴り込む予定だ! 現地で顔合わせた時はよろしく頼むぜー」
おーっす! ゴブリンのシーフ、ブレイブファング傭兵団のハヤト=ヴォルファングだ、みんなよろしくな!! ブレイブファング傭兵団は【勇牙】のパーティーで【2】の対ヤコブ軍団討伐で動くぜ! バルディオン将軍にヤコブの首を挙げて仇討ちさせる為のチャンスメイクをするのが目的だ! 我こそはって賛同者がいたら参加待ってるぜ!!
わたしは【3】のキャンプ防衛にあたるわ。
ウォーリアのアーシェルだ。 よろしく頼む。 仲間と【3】のキャンプ防衛に向かう予定だ。 同じ戦域の奴等はよろしくな。
かー、あぶねぇあぶねぇ!俺としたことがこんなデカイ戦いを見逃しかけるとは! どこに参戦するかはまだ決めてねぇが、もし同じ戦場になった時はよろしく頼むぜ諸君!
ルアンナ・ミュラーです。 選択肢【2】でヤコブを焼きに行きます!
動きが固まってきたので。 ウォーリアのノイアンだ。俺を入れて9名のPTで【1】にて吸血鬼姉妹の対応にあたる。詳しい動きについては公式が用意してくれたスレッドを参照してほしい。よろしく頼む。
おっす、こっちにも募集を兼ねてだ アタシはシーフのテュパラだ。よろしくな! アタシら【AHL】はバルディオンJrをメインに戦域【2】に参加する予定だぜ ただ手は足りてねぇから貸してくれるって奴は協力してくれると嬉しいぜ
そういえば、こちらで表明しておりませんでしたね。 エルナ氏を代表代理とした【喫茶】は今回、 【4】にて対幽界樹を基点として動きます。
遅くなったのだ! 大福は【肉球】で粽や心友と一緒に【1】に参加するのだ。 リザードマンさん達と協力してダンジョン攻略と蟻さんたちの対応するのだ
【四葉】 戦域4で、幽界樹へ向かう方の支援を行います。 主に中小型クリーパー対応です。
滑り込み! 戦場と行動はこれから急いで考える予定だ。 どっかで会ったらよろしくなー!