【帝国】決戦:混沌の夜明け

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シナリオID:3402

オープニング

『其の竜』にとって、神代とは『争いなき楽園の時代』――創世の頃だった。
 小さきもの達、すなわち四種の人間と数多の動植物は神々の御許にあり、世界はエーテルに満ちていた。
 竜達が創造神より賜った唯一にして絶対の勅は世界の守護であり、『其の竜』は万物が調和した楽園の世こそ、マテリアル界の在るべき姿と魂に刻んだ。
 やがて異界より這者(クリーパー)が現れ、永き眠りから覚めた竜達は創造神の慈しんだ世界を守るべく立ち上がる。創造神は目覚めずとも、それこそが竜達の使命であり存在意義であったのだから。

『其の竜』にとって、世界の変革は好ましからざる事であった。あの楽園の世こそ是であり創造神の慈しんだ世とする竜なれば、神理(世界の理)の変革など何故歓迎できようか。
 しかし小さき神々は人間に導き(祝福)を与え、授恵者を生んだ。『獣の魔女』と呼ばれた人間は神の一柱に導かれ神へと至り、神理を変えた。
 そして『天に溶けし征竜』が竜達の危惧をも受け容れず、蜥蜴を人間へと変じた時、『其の竜』は知った。世界の守護を使命とする『竜』であれども、各々が魂に刻んだ『在るべき世の姿』は同一ではない事を。
 それでも竜達は迷う事なく戦い続けた。這者達の脅威の前では、個々の思想の相違など然したる問題ではなかったからだ。

 しかし混沌の時代を終わりに導いたのは、竜ではなく人間であった。後に『混沌の夜明け』と呼ばれる転換点を迎え、世界の守護を使命とし、存在意義とする竜達は畏怖した。
 創造神は遂に姿を現さず、『其の竜』は他の竜達と同様に微睡みを選択する。
 マテリアル界が終焉の危機に瀕した時、その厄災を祓う事――かつて創造神より賜った勅を、胸に抱いて。

 永き時の流れの中で、竜達は時に、各々の信ずる『在るべき世の姿』を胸に人知れず――或いは人に姿を見せながら世界を守るべく戦った。大平原の大国で人間と。南の大樹海で、遠き海で、広き砂漠の片隅で、雪と氷に閉ざされた極北で、厄災を齎す這者達と。

 やがて『其の竜』は、ひとりになった。
 創造神が目覚める事はなく、己が信ずる『在るべき世の姿』を――楽園の世を再現する事こそ、世界の守護者としての自身の使命であり、創造神の意志であると考える事に疑念など無かった。そのようにして其々に世界を守護し、散っていったのが『竜』であるのだから。

 だが人間は言う。
 自身らもまた世界の一部であると。何故自身らを駆逐するのだと。

●
――何故 解らぬ

 六対の翼を羽搏かせ、帝都の空を舞う白き竜。その姿は力強く――しかし、どこか弱々しくも見えた。

――彼の混沌の時代 人は世を守るべく命をも捨てた
――何故 世の安寧と安定の為 命を捧げる事ができぬ
――神は 其れを望んでいよう 小さきもの達よ 何故抗う

 創造神の望みなど、征竜は知らない。それでも世界を『在るべき姿』に正す事こそ、『世界の守護者』としての使命であるはずだ。
 そうでないと言うならば、なぜ創造神は目覚めないのか。創造神が目覚めぬのならば、征竜は『世界の守護者』として己が信を貫かねばならない。

 例え、神理を書き換えられ、『世界の守護者』としての力を奪われたとしても。

「随分よく喋るわね、征竜。シル・ウァキア滅亡(あの)の時は、私に応えもしなかったのに」
 遠き昔を思い出したかのように、メドゥの左腕がフードの下で目を細めた。その惨劇を知る者を祖父に持つ第三代皇帝クジンリーネ・バルダスはしかし、彼女の過去にすら興味を示さない。束ねた銀髪を靡かせ、クジンリーネは長大な骨剣を征竜へと向けた。

「征竜よ。見えるだろう、私の姿が。お前の嫌う『神に至れる者』が此処に居る。私を殺したくば、掛かってくるが良い」

『征竜』を狩る事しか見えぬ女帝の挑発に、白き竜の金眼が鋭さを増す。同じく『征竜』の抹殺のみを狙うメドゥの左腕が、ふわりと空の高みへ舞い上がった。

 レイウェスト・バルダスは彼女達を見、護衛の兵達、冒険者達、そしてバルディオンへと視線を送る。帝国崩壊から今に至るまで、いくつもの絶望と困難を共に乗り越えてきた猪頭の将軍は、ただ静かに深く頷き、戦斧を構えた。

「――征竜」

――我が新しき巫女(レイウェスト・バルダス)よ

 レイウェストの紅眼が、白き竜を見据える。

「我々はこの世界を愛し、この世界に生きている。貴方には解らずとも、我々は貴方に抗う。私は、私の愛する者達を――貴方に殺させはしない」

――我は汝を 危険視する

●
 帝都中央。『天霧りに消ゆる幽界樹』が消えた跡の大穴はアストラル界に通じ、湧き出した無数のクリーパーと、未だ穴から姿を現さぬ巨大な何か(クリーパー)の触手が暴威を振るう。まさに地獄の様相を呈していた。
 エフレムにかわり、その身をエーテルと化して穴を塞がんと名乗り出たのは、吸血鬼の神であるメドゥの右腕だ。

「じゃあ教えてあげようか。『世界の真実』と、ジドが知らない世界の理をさ」
「だっ……ダメだよ、右腕くん! 皆が『形』を保てなくなったらどうするのさ! 弱き者が『世界の真実』を知ったら、溶けてなくなっちゃうんだよ!! ……って、ボクが知らない世界の理? 右腕くん、それは一体……?」

 静かに力を高め始めたかと思った矢先に、右腕が口にした台詞。それを聞いて表情をくるくると変えたのは、妖精ジュールこと神代の英雄ジド・ルウの意識体だった。

「『世界の真実』を知れば溶けてなくなる? 今は忙しいけど、興味深い話だね!」
「そうだろうね。僕は、今の君達(授恵者)なら大丈夫だと思うよ。程度の差はあっても、君達自身がヒトとして階梯を昇りつつあるのは明らかだし。それに、ヒトの身であの皇妃様の異能にも抗い得る人が現れるなんて、世界樹の加護は思ったより強力だ」

 王国騎士と共に中型クリーパーを押し留めながらのウィリアムの言葉に、右腕は至極真面目な顔でそう返した。白い球体の表面で、ジドは困惑したような表情を浮かべている。

 右腕は、彼が止めない事を確認した後、授恵者達を見渡して口を開いた。

「――この世界はね、全てが只のエーテルに過ぎない」

「――っ!?」

 その時、ウィリアムの身体が震えた。
 自身の手が、脚が、胸が、頭が、自身のものでは無くなったような感覚を覚えた。
 甲虫のようなクリーパーが飛来し、ぐらりと傾ぎかけた頭を必死の思いで元の位置に戻す。剣を薙いでから見れば、周囲の授恵者達も同様に異変を感じ、ほどなくして持ち直したように思えた。

「……それが、『世界の真実』なのかい?」
「そうだよ。空も、大地も、草も、木も、動物も、そこらへんの小石も、人間も。エーテルの『容れ物』なんかじゃない。万物はエーテルそのものに過ぎない。子どもが泥遊びで作った世界のように、何もかもがエーテルをこねくり回して形づくられたものでしかないのさ」

 右腕は言う。 
 この世界は、創造神が霊智(エーテル)の澱から生み出した幻創の箱庭。
 神の定めた理の働く箱庭の中で、揺蕩うエーテルは神々の手により万物として形作られた。
 人は生きていると思うだろう。道端の石とは異なると思うだろう。しかし全ては、そこに『一定量のエーテルが在る』という事実でしかない。
 人は本当の意味で生きてなどいない。ただ定められた時間の間、そこにエーテルが在るだけだ。
 その真実を感じられる者は、この世界の理から乖離しつつある者(超越者)と乖離した者(神)のみ。

 例え埋められぬ欠落を持ち、深い苦しみを抱える者であっても――万物はエーテルに過ぎぬ『世界の真実』を知れば、この世の苦しみなど取るに足らぬと知る事ができる。彼ら彼女らを苦しみから救うために、人としての階梯を昇る手助けをする。
 それこそが、メドゥの指先首領(ジド・ルウ)の目的であり、唯一の教義といえる。

「……そう、か。溶けて消えはしなかったけれど、あまり良い気分ではないよ」

 何とか息を整えながら笑んだウィリアムの傍らを、ジドが胸を撫で下ろしながらフワフワと浮遊する。その間にもクリーパーの勢いは増し、押し留める事はもう不可能な段階にきていた。

「それで、ボクが知らない世界の理って……?」
「……神に成れる人間には、条件があるのさ」
「条、件……?」

 大穴の底から伸びる巨大な六本の触手が荒れ狂い、小型クリーパーごと王国騎士を跳ね飛ばす。ウィリアムらにはもはや、神と英雄の会話を聞いている余裕などなかった。

「神に成るには、生来の素質が必要なのさ。ウチの組織(メドゥの指先)の幹部みたいに、大きな欠落を抱えた存在も神には上がれない。神に成らなかった君(ジド)は、知らなかったよね」
「どういう……こと……!?」

 明らかに動揺したジド(首領)を、微かに哀れみを感じさせる目で見返して。
 右腕は再び、穴を塞ぐべく内なる力を高め始めた。

●
 帝都市中。征竜とレイウェストらが睨み合う光景を背に、第二十五代帝国皇帝ヨゼフ・バルダスは、帝国兵とリザードマン達の先頭に立つ二人の男と対峙していた。

 一人は、帝国三強の一角を成すと言われたかつての配下、帝国近衛連隊長マクシミリアン・ミルド。 
 一人は、ディズル大湿地帯の最大派閥の長であり、大酋長とも呼ばれるリザードマン、アシムベート・グリオウ。

 荒野と化した地で邂逅した三者は互いに言葉を発する事はなく、暫し黙して睨み合った。
 流れた雲が陽光を遮り、程なくして帝都は再び眩い光を取り戻す。

 三者の沈黙を破ったのは、ヨゼフだった。

「余の首を、獲りに参ったか」

 抑揚は無く、しかし威厳に溢れた声音で、ヨゼフは言う。征竜の頭骨を削り造られた具足に身を包み、常人には扱えぬ大矛を携えて、瞳は真っ直ぐに二人の男を見据えていた。

「左様。次代の皇帝は既に居る。――お主には、表舞台から退いてもらわねばならぬ」

 アシムベートの言に、ヨゼフは面白くも無さ気に唇の端を歪める。

「我が娘の異能に溺れた愚かな蜥蜴が、己が過ちの証(息子)を皇帝の座に就けようと申すか」
「反論はせぬ。儂は、己が過ちの幕を……己で引きに参った故に」

 揺らぎもしないアシムベートの紅眼をしばし見返してから、ヨゼフは視線を外した。その瞳が次に映すは、未だ黙したままのマクシミリアンだ。

「其方も同じか、マクシミリアン」
「……左様にございます」

 マクシミリアンはかつて、信じていた。強き帝国の皇帝たるヨゼフこそ、絶対悪たる征竜の打倒を成す筈であると。治める国を失ってもなお忠誠を誓い続けた帝国近衛連隊の想いに、必ずや応える帝であると。

「ディズルに散った近衛連隊の最期を、貴方は知りますまい」
「知らぬ。あの者達は、我が覇道(大陸制覇)の礎となり散ったのだ。何を不満に思う」

 マクシミリアンの拳に、力が籠る。如何に憤怒をぶつけようとも、人の心を失った超越者には――もう届くまい。

「――皇帝ヨゼフ・バルダス」

 己を不要として切り捨てた帝国皇帝を真正面から見据えて、マクシミリアンは剣を抜いた。

「我が同胞(帝国近衛連隊)の無念、今こそ晴らさせてもらう」

解説

■連動特設ページ・イメージノベル https://alpaca-connect.com/world/world0/event/event42_top3 ■相談場所について 戦域が多岐にわたるため、相談用のコミュニティを用意いたしました。 「【帝国】 決戦:混沌の夜明け」相談場 https://alpaca-connect.com/world/world0/community/945451fc-3d61-4460-b432-1d04f0a2db89/f16b3d8a-e59a-489f-93f2-2558496ca938 ・戦域単位での募集や挨拶 ・パーティの募集・案内 ・【タグ】説明スレッド また、パーティ内での個別の相談については、上記コミュニティ以外を使用してくださってもかまいません。 ■【重要】プレイングの書き方 ・今回参加する戦域を選択肢からお選びください。:【1】【2】【3】 ・パーティや協調行動を示すタグは【一行目に】指定してください。タグでの指定は必ず【1つまで】となります:【征竜討伐】【皇子護衛隊】など  例   【征竜討伐】   (プレイング本文) ・【タグ】とは、「パーティの集まり」がどういった行動指針をとるのかを示す表記です。お友達同士の参加や、特定の目的の行動をする場合、同じ【タグ】を表記していることで判定に用いられます。 ・同じ【タグ】で戦域が分かれることは問題ありません。 ・【タグ】内容の説明(何を目的とするか、運用方針など)については、「相談用コミュニティ」の専用スレッドに【200文字以内】で記載ください。200字を越えた場合はタグそのものを無効といたします。 【1】【2】【3】戦域共通情報 以下の情報は、帝都内の全戦域に共通する。 ・昇神した皇妃 滅国の皇妃イ?・バ??スは、征竜の隙をついて昇神し、この世界から消えた。その名と彼女に関する記憶は、全ての人々から急速に消失しようとしている。 ・帝都内全体の状況 幽界樹は倒され、黒い霧や幽界樹の枝葉、幽界樹の仔は消えた。日中であり、視界に不安は無い。 帝都内の地上には人工建造物や瓦礫が残っておらず、幽界樹の根が蠢いていた頃の名残で凹凸の多い荒地となっている。下水道や地下室など地下空間は残っているが、多くが根によって破壊されており、崩落したり、通り抜けができなくなっている。 【1】帝国皇帝ヨゼフ・バルダス討伐(危険) ▼状況 『超越者』帝国皇帝ヨゼフ・バルダスの討伐が目的となる。 現在、冒険者はマクシミリアンとアシムベート、リザードマン部隊、帝国軍部隊と共に帝都市中に居り、ヨゼフと対峙している状態。最前列に居るマクシミリアン、アシムベートとヨゼフの距離は約50m。マクシミリアンとアシムベートのすぐ後ろに帝国軍部隊とリザードマン部隊が居り、少し離れて王国軍が周辺警戒を行っている。冒険者はそれらの味方と同位置および近くの任意の位置から行動できる。 ヨゼフは一人であり、供の者は居ない。 見渡す限りの荒地であり、建物や岩などの遮蔽物は何もない。 昇神した皇妃の配下であった中~大型のクリーパーが彷徨っている。 ▼味方戦力 ・アシムベート・グリオウ ディズル大湿地帯の最大派閥であるギシュム族の酋長。大酋長とも呼ばれる。かつて皇妃イ?・バ??スの異能を知るヨゼフの策により彼女と出逢い、盲目的かつ一方的な恋をした末に子レイウェストが誕生。王国との開戦に向けて同盟を結ぶに至った。加齢により衰えはあるが、強力なウォーリアであり、武器は大剣。 ・マクシミリアン・ミルド シルトラース帝国近衛連隊長として最強の戦士とされ、滅亡前の帝国では四方将軍の上席にあり、帝国軍人の頂点であった。ヨゼフにより切り捨てられ、近衛連隊の部下の多くが死亡した。武器は両手剣。 ・リザードマン部隊 ディズル大湿地帯の授恵者リザードマン戦士のうち精鋭10名。各クラス2名で、実力は中堅~高レベルPC以上。アシムベートと共にヨゼフと交戦する。 ・帝国軍部隊 凝黒装置の護衛を終えた授恵者兵士達のうち、10名が駆け付けている。各クラス2名で、実力は中堅~高レベルPC以上。マクシミリアンと共にヨゼフと交戦する。 ・王国軍部隊 城壁外周および退路確保に配置されていたリーンエス王国軍の一部10名が応援として駆け付けている。各クラス2名で、実力は中堅~高レベルPC以上。クリーパーの警戒と迎撃を行う。 ▼敵戦力 ・ヨゼフ・バルダス 現シルトラース帝国皇帝。民も国も失った今でも「大陸制覇」に固執し、それしか見えていない。武器は矛、征竜の頭骨を素材とした特殊な具足を装備。打ち負かした相手の力を収奪する能力を持つ。 征竜の背から落下したが、然したるダメージはない様子。 矛による強力な斬撃、薙ぎ払い、衝撃波が主な攻撃手段だが、自身の防御力を高める術も有する。火生の神ボルガニスクの力を収奪していることから、炎系統の攻撃手段を持つ可能性もある。 ・中~大型クリーパー 数体 昇神した皇妃が配下としていた様々な形状のクリーパー達が、主を失い彷徨っている。本能に従い、生物を発見すれば襲い掛かる。 【2】征竜打倒(危険) ▼状況 帝都北西部において、【極北の征竜】を打倒することが目的となる。 現在、レイウェストとバルディオン、帝国兵部隊、クジンリーネ・バルダス、冒険者は地上に居り、征竜は最前列のクジンリーネとバルディオンの前方50m地点の真上、高度20mに滞空している。クジンリーネとバルディオンのすぐ後方に帝国兵部隊が居り、彼らの中央にレイウェストが居る。さらにそのすぐ後ろには、征竜の攻撃を受けて瀕死のエフレムが横たわっている。冒険者はそれらの味方と同位置および近くの任意の位置から行動できる。 なお、飛行術を操るメドゥの左腕がやや離れた位置を飛んでおり、征竜に隙ができれば念動力を行使して強制的に地面に落とそうとする。 見渡す限りの荒地であり、建物や岩などの遮蔽物は何もないが、征竜や昇神した皇妃およびヨゼフとの戦闘の跡があちこちに残っており、地面が抉られ深さ5m未満の大穴や塹壕のようになっている場所がある。 昇神した皇妃の配下であった中~大型のクリーパーが彷徨っている。 ▼味方戦力 ・レイウェスト・バルダス シルトラース帝国の第八皇子であり唯一と思われていた皇位継承権者で、クラスはシーフ。『征竜の虹宝剣』の契約者であり、武器とする。授恵者としての実力は中堅程度だが、虹宝剣による攻撃力は比較的高い。この場で最も征竜の殺意を向けられている存在である。 ・バルディオン 帝国南部の要『ヴァイセントラフ砦』と『帝国南部鎮守都市ヴィント』を任された帝国の重鎮であり、南方将軍。強力なウォーリアである。レイウェストの護衛を優先する予定。武器は戦斧。 ・クジンリーネ・バルダス 第三代シルトラース帝国皇帝であり、『首刈帝』の通称で呼ばれた女傑。征竜の骨でつくられた『首刈宝剣【零の剣:姫妖】』を有する。しばらく「謎の旅人クーネさん」を名乗っていたが、最終決戦を前に正体を明かした。征竜の抹殺を『目的』とする超越者であり、【姫妖】による強力な通常攻撃のほか、ロングアクションによる超強力な溜め攻撃が可能。 ・メドゥの左腕 メドゥの指先の大幹部。飛行術を用い、超強力な念動力や魔法攻撃を得意とする女性。シル・ウァキア平原帝国の滅亡以前に【極北の征竜】から世界へ送り込まれた元征竜の巫女であり、同帝国の民を虫けらのように焼いた【国崩しの征竜】の暴挙と、それを見捨てた【極北の征竜】に深く失望した過去を持つ。征竜の抹殺を『目的』とする超越者。 ・帝国兵部隊 レイウェストの護衛10名。帝国軍の授恵者であり、各クラス2名。実力は中堅~高レベルPC以上。レイウェストの護衛を優先する。 ▼その他 ・エフレム 皇子レイウェストの護衛騎士。現在、最も神に近い超越者。幽界樹跡の大穴を塞ぐ準備をしていたが、忠誠を誓うレイウェストの声に応えて征竜を攻撃。反撃により瀕死となっている。 ▼敵戦力 ・極北の征竜 四対八眼の金眼に多数の角、六対十二枚の翼を持つ、いわゆる西洋竜の形状をした生物。皇妃の昇神により、『美しき世界』を破壊し得る唯一の存在と見なされ、守護者としての在り方を『書き換えられた』。それでもレイウェストの抹殺と人類の粛清を己の使命とし、実行せんとしている。 飛行が可能であり、地上へ急接近することで凄まじい風圧による【吹飛:10】の効果を発揮する場合がある。口から吐くブレスは長射程かつ着弾点から直径10ヘクスの対象に大ダメージを与える。尾や首による薙ぎ払い、噛みつき、踏み潰し等の攻撃も行う。 ・中~大型クリーパー 数体 昇神した皇妃が配下としていた様々な形状のクリーパー達が、主を失い彷徨っている。本能に従い、生物を発見すれば襲い掛かる。 【3】天霧りに消ゆる幽界樹跡(危険) ▼状況 『天霧りに消ゆる幽界樹』跡の大穴周辺にて、無限に湧き出してくるクリーパーを相手取り、メドゥの右腕が穴を塞ぐまで耐えることが目的となる。 現在、帝都中央には直径20m程の大穴が開いており、アストラル界に通じている。穴の底からは咆哮が響き、這い上がりつつある超大型クリーパーのものと思しき6本の長大な触手が地上に現れ、暴威を振るっている。また、小型~中型の大量のクリーパー達が穴から溢れ、既に自軍の最前列と交戦している。 穴の淵から30mの距離にウィリアムと王国騎士団が居り、その間には最低50体の小型~中型クリーパー達が居る状態。穴からは毎ラウンド5~10体が這い出して来る。王国騎士団の後ろに王国【集権派】貴族騎士団と帝国軍部隊が居り、冒険者はそれらの味方と同位置および近くの任意の位置から行動できる。 大穴の淵ではメドゥの右腕が血液の壁でクリーパーの攻撃を避けながら、大穴を塞ぐべく力を高めている。その周辺にはメドゥの指先首領こと神代の英雄ジド・ルウの意識体が浮遊している。 見渡す限りの荒地であり、建物や岩などの遮蔽物は何もない。 ここでクリーパーを食い止められなかった場合、他の戦域や帝都外に流出する恐れがある。 【重要】メドゥの右腕が『世界の真実』を明かした影響により、初期時点でこの場の授恵者全員が「強度3」のBS【行動阻害】を受けている。自然回復判定やスキルによる回復判定は可能であるほか、放置しても3ラウンド目のセットアップで回復する。 ▼味方戦力 ・ウィリアム・リーンエス リーンエス王国第二王子。レイウェストの未来の義兄であり、大陸有数の強力なウォーリア。武器は王家の宝剣。防御型ウォーリアだが、攻撃力も人間としてはかなり強い。 ・王国騎士団 王国騎士団の授恵者隊20名。授恵者は各クラス4名ずつ。実力は中堅~高レベルPC以上。ウィリアムと共にクリーパーと戦う。 ・王国【集権派】貴族騎士団 幽界樹伐採までの道中で別れていた、リーンエス王国【集権派】に属する貴族達の騎士団の一部が駆け付けている。各クラス5名ずつの授恵者25名。実力は中堅~高レベルPC以上。ウィリアムと共にクリーパーと戦う。 ・帝国軍部隊 凝黒装置の護衛を終えた授恵者兵士達のうち、10名が駆け付けている。各クラス2名で、実力は中堅~高レベルPC以上。ウィリアムと共にクリーパーと戦う。 ▼その他 ・メドゥの右腕 メドゥの指先の大幹部。神代の終わりに昇神し「吸血鬼」を生んだ神であり、血を媒体とする混沌魔術の使い手でもある。神代の英雄ジド・ルウの盟友であったこと、昇神により吸血鬼種族を生んだのは故意ではなく『世界の理の書き換えの失敗』であったらしいことが判明している。『世界の真実』とジドが知らなかった『昇神できる人間の条件』を暴露し、涼しい顔で穴を塞ぐべく力を高めている。 ・ジド・ルウ 神代に『混沌の夜明け』を齎す切っ掛けとなった英雄。障壁の狭間で意識だけを保っており、所詮は全てエーテルでしかないマテリアル界で悩み苦しむ人々を救うべく、深い欠落を持つ者達が階梯を昇る手助けをする『メドゥの指先』を組織した。白い球体のような意識体で行動しており、メドゥの指先の目的を根本から揺るがしかねない『昇神できる人間の条件』を暴露され動揺している。 ▼敵戦力 ・無数のクリーパー 穴から無数に湧き出してくる小型~中型のクリーパー達。形状もサイズも様々である。 ・超大型クリーパーの触手 穴から6本突き出している長大な触手。直径1.5m、見えているだけでも長さは40mに及ぶ。頭や胴体はまだ現れていないためか、強力だが命中精度の低い薙ぎ払いが主な攻撃手段。全体に吸盤を有しており、触れた者に吸着しつつ巻きつき、大ダメージを与える。

マスターより

決戦シナリオのリプレイ執筆は複数のマスターが担当いたしますが、基本的な判定は運営サイドで行います。 参加者にはこのシナリオでの働きに応じた褒章が付与されます。将来的にPCの皆さんの功績を表す重要なアイテムになりますので、大切に保管してくださいね!

リプレイ

【3】天霧りに消ゆる幽界樹跡(担当マスター:おおくまねこ)

●
『天霧りに消ゆる幽界樹(ミスティアニ・アストラキル)』跡の大穴周辺――。アストラル界へと繋がるこの穴からは、多数のクリーパーの軍勢と、超大型クリーパーの触手6本が湧き出ていた。冒険者達は、リーンエス王国騎士団20名、王国【集権派】貴族騎士団25名、シルトラース帝国軍10名、そして、放浪王子ウィリアム・リーンエスと共に、メドゥの右腕がこの穴を塞ぐまでの間、右腕を守り切らねばならない。全てはエーテルに過ぎない――世界の真実を知り、揺れる授恵者達だが、クリーパー達はそんなことはお構いなしに、エーテルを求めて襲い掛かってきた。

「一瞬の油断が命取りだよ!」
 アルマ・ヴァレンタインは世界の真実を知ったことで動揺しつつも、大声を張り上げ、味方に呼び掛けた。エーテルで増幅されたアルマの声は小さな体に見合わない声量となって広がり、戦う戦士達を勇気づける。
(『世界の真実』がまさかそんな内容だったとはねー……正直気持ちが追いつかないけど)

「そうだ! 今は戦う時だ! なんとしてもあの穴を塞ごう! 傷は全て、僕らが癒す!」
「ここで戦う者達に勝利と栄光を。今こそ、授かった力を人々の為に使う時だ」
【四葉】のローザリカ・L・ディオールと【戦誼】のシルヴィア・A・カペル、そして数秒遅れてアルマから、聖なる輝きが広範囲に広がっていく。三人がかりで手分けして戦場の広範囲にかけられた『聖印の後光』は、冒険者達と王国騎士団ら友軍、そしてウィリアムに強力な加護を与えた。

「ほしにねがいを」
【遠足】のヨル・スレイマンが祈りを込めて十字を切ると、ヨルのエーテルと共鳴したナハシュや、近くにいた冒険者達のエーテルが輝きを増した。さらにヨルはナハシュに【解呪】をかけ、世界の真実を知って揺らいでいた彼のエーテルを安定させた。
「ありがとよ! ヨル!」
 軽快なステップで最前列に躍り出たナハシュは戦場に目を凝らし、クリーパー達と味方の位置を一瞬で把握した。ナハシュはクリーパーの壁が薄い場所へと突貫し、メドゥの右腕目指して小型クリーパー達を薙ぎ払いながら進んで行く。

「世界の真実がたとえどうであれ、私は冒険者として、貴族として、責任を果たします」
 レティシア・レインフィールは自身に【解呪】をかけ、世界の真実を知ったことによるエーテルの揺らぎをすぐさま振り払った。レティシアはすぐに近くにいるウィリアムへと目をやるが、彼はすでに、自力で自分を取り戻していたようだ。

「僕なら大丈夫だよ。さあ、今度こそこれが最後の戦いだ。こいつらを片付けて、みんなで英雄として王国に帰還しようじゃないか!」
 ウインクをしながら、クリーパーの一体をまっぷたつにするウィリアム。それは英雄王子として非の打ちどころのない振舞いであった。
(さすがです、殿下。しかし、貴方には時折危ういものを感じます。必要とあれば、貴方はきっとためらわずに王国の為にその命を差し出すでしょう。ですが、そうはさせません。貴方にはまだまだやるべきことがたくさんあるはずです)

『ゴアアアアアッ!!』
 戦場を照らす聖なる光がカンに触ったのか、津波のように溢れ出る小型クリーパー達の群れが、輝きの発生源たち目指して突っ込んできた。すかさず、護衛についていた冒険者達は、アルマ、ローザリカ、シルヴィアのカバーに入った。

「みんな、気を付けろ! あのデカい触手がくるぞ!」
 ブレイドは超大型クリーパーの触手の動きに目を凝らし、攻撃の予兆を仲間達に伝えた。

「障壁を出すわ! 危なくなったらこの後ろに!」
【鉄壁】のシンディー・ホシカはアルマの目の前に光壁(クレネルウォール)を展開した。
(驚くことばかりですが気持ちを強く持ちませんとですね)
 東雲(シノノメ)・更紗(サラサ)は己の身に起こった異変から、メドゥの右腕の言葉が真実であることを悟ったが、心を強く保ち、シンディーのものと並べるように、自身もクレネルウォールを発動した。
 ギュルンッ!!
 その直後、ビチビチと荒れ狂う超大型クリーパーの触手が光壁を叩き、一枚があっさりと叩き壊された。しかし、二人体制だったことが功を奏し、シンディーと更紗は交互に光壁を張ることで、触手の攻撃に耐えた。触手は目が見えていないのか、右腕への攻撃はまばらだ。

「ここは通さない!」
 リューイ=ヴァレンゴルトはアダマントボディで己の身を強化し、果敢にクリーパーの前に立つ。敵の攻撃を恐れず、リューイは雷神剣で次々とクリーパーを薙ぎ払った。

「空の敵は任せて」
 ユニス・ソロアーヌ・アクエリリーアはシンディーの光壁の後ろに身を隠し、空から来るクリーパー達に狙いを定め、矢を放った。中型クリーパーと戦っているリューイの援護もしつつ、ユニスは次々と小型クリーパーを射落としていく。

「ユニスさん、援護します」
 ヴォーレリアはユニスへ『輝刃』をかけ、彼女の攻撃力を強化した。
(私は皆さんの援護に徹しますね)

●
「殿下! まだいけますか?」
「ああ、もちろん!」
 騎士の問いに力強く答えるウィリアム。ウィリアムと王国の騎士達は押し寄せる小型クリーパー達を薙ぎ払っていた。数はおよそ五十。ヒーラー達の加護もあり、ウィリアム達優位のまま戦局は動いていたが、いかんせん、剣のみで相手取るには敵の数が多い。切っても切っても、穴から新たなクリーパー達が湧き出てくる。
 
「――あらゆる災厄を吹き飛ばせ。『東風綺想曲(レバンテ・カプリチオ)』」
 戦いが始まって30秒ほどたった時、突如空中から叩きこまれた翡翠色の烈風が、小型クリーパー達をバラバラに引き裂いた。騎士達が上を見上げると、そこにはマントをたなびかせて空中に浮かぶ、ジュスト・ヴェルジーの姿があった。
「世界の真理より大切な生きる理由があるんでね」

「ローザリカさんは私が守るわ」
 アンネエルカは聖印を発動中のローザリカを守るべく、彼女の目の前に立っていた。五感を研ぎ澄ませ、視覚と聴覚をフルに使い、敵の接近を察知する。
「ロゼ! 一体そっちに行った!」
「任せて!」
 空から聞こえてきた声に反応したアンネエルカはすぐに槍を構え、迎撃態勢を取った。
「ギギー!」
 空からローザリカを狙い、急降下してくるのは鮫型のクリーパーだ。竜巻を纏い猛回転してきたサメの突進を、アンネエルカはカバリングで受け止める。大きな牙で噛みつかれ、激しく傷つきながらも、アンネエルカは『希望紡ぐ星』で鮫を刺し貫き、地面へと叩き落とした。

「ローザリカお義姉様、ジュストお兄様! 私も一緒に戦います!」
 ミレイユ・ヴェルジーは勇ましく声を張り上げ、アンネエルカと共にローザリカをガードしていた。防御型ウォーリアであるミレイユの戦闘スタイルは、彼女の兄(ジュスト)や義姉(ローザリカ)よりも、むしろウィリアムによく似ていた。ミレイユの使っている武器は剣ではなく、槍だったが。

「ボクも忘れないでね♪」
 クレア・エクレールはミレイユの近くを縦横無尽に駆け回り、クリーパーの注意を引きつけていた。もちろん、注意を引き付けるだけではない。隙を見ては短剣を振るい、クリーパー達を切り捨てていく。世界の危機だが、いつも前向きな彼女はどこかまだ余裕があった。

「雷蛇大禍(とらえろ)」
 ジュストの空爆とほぼ同時に、荒れ狂う稲妻の蛇がクリーパー達の群れを飲み込み、その足に絡みついた。押し寄せてくるクリーパー達をまとめて足止めしたのは、ストレガ・L・リベルガストラだ。
「この世界の理を先に知った所で、どうしたいかは後で考えればいいのだ。その為には先ずこの場を持ち堪える事、生き残る事。少なくとも私は何も変わらないのだ。この戦いを世界に記録する。それだけなのだ」

●
 戦士達の奮戦により、前線は徐々に押し上げられていった。際限なく押し寄せるクリーパー達は少しずつ数を減らしていき、アストラル界に繋がる穴とその近くで穴を塞ぐ準備をしているメドゥの右腕へと、冒険者達は近づいていく。

「また触手が来るぞ!」
「分かった!」
 『戦闘解析』を使い、触手の動きを警戒していたブレイドが警告を発した直後、ウィリアムが前へと飛び出し、王家の宝剣で触手を受け止め、その勢いを殺した。すかさずレティシアのヒールが飛び、ウィリアムの受けた傷は即座に塞がっていく。
「うおおお! よっ! ほっ! でけえけど、攻撃は雑だな!」
 ナハシュは触手の合間を器用にすり抜け、無傷のままいち早く右腕の近くまで到達した。

「ウォーゼル……!」
【豹狼】のパルドはウォーゼルに駆け寄りたい衝動をぐっとこらえ、彼の方に視線をやった。世界の真実にショックを受けたことは事実だが、何よりの心配は相棒のことだった。
 幸い――ウォーゼルは泥になってなどいなかった。
「大丈夫だよ、パルド」
「ああ、そうだな」
(自身が何者だろうとこの想いは真実だ)
 ウォーゼルは力強く頷くと、暴れている触手の一本に狙いを定め、『エーテルアナライズ』をかけた。しかし、最も危険な超大型クリーパーの触手には「手の内」は何もなかった。スキルも何もなく、ただ暴れているだけのようだ。

「あの触手に捕まったら怪我じゃ済まないぞ! 気を付けろ!」
 気を持ち直したパルドは穴に近くへと走り、クリーパーに果敢に挑んだ。母蜘蛛糸のロープを持っているパルドは他の戦士達よりも大胆に穴の淵に踏み込み、クリーパー達を穴へと突き落とした。

「全てエーテル。だから何だというのか。俺はここにいてルルトはそこにいる。それで十分。為すべきことを見失うな」
 世界の真実の衝撃から立ち直った【豹狼】のアルバス・ロウルは仲間達へと声をかけながら、闘気槌をクリーパーの群れへと叩きこみ、まとめて大剣の錆へと変えた。振り抜く剣に迷いはない。その曇りなき瞳に見つめられ、ルルト・アーキスは力強く頷いた。

「ああ。そうだね。例えエーテルだとしても、これまでに得た経験や思い、絆は紛れもないボクの物なんだよ。アルバスの言う通りそれで十分!」
「こちら側の世界には、決して来させません!」
 ルルトとエリカ・プレトリウスの弓から、一際巨大な炎の矢が放たれた。真実の衝撃で思うように体が動かぬ間も、二人は己のエーテルを弓矢へと注ぎ込み続けていたのだ。着弾と同時に大爆発を起こした二本の矢は触手の肉をそのまま引き千切り、ずたずたに引き裂いた。

「穴ごと燃やします! 超大型クリーパー、燃やすべし!」
 ルアンナ・ミュラーは真紅のドレスを翻し、ロッドを穴へと向ける。その直後、穴の中心部が空間ごと爆砕し、穴から飛び出ていた触手もろとも、穴から出てこようとしていたクリーパー達を吹き飛ばした。しかし、爆砕に耐えきったクリーパーがルアンナの喉笛を食いちぎらんと、飛びかかってきた。
「ふん!」
 ルアンナは『エーテルバリア』でその牙を弾き返すと、クリーパーを睨み付ける。

「今だ! 突撃せよ!」
 冒険者達が次々と精神的ショックから立ち直りつつある今を好機と見た王国騎士達は、様子見をやめ、一斉に穴への突撃を開始した。突っ込んできた授恵者達の猛攻を受け、触手は萎れて穴の奥へと引っ込んでいく。

「こんにちは、ジド君。プレゼントだ」
 ナハシュと『プリズムシャドウ』で位置を入れ替え、ジド・ルウの意識体のすぐ側までやってきたヨルは、ジドにべしゃん、と酒をひっかけた。
「悩んで苦しんだから今がある。全てが、俺が生きた証になるから。そこにも救いはある筈だ」
 ヨルが優しい声音でそう告げると、ジドはぴかぴかと明滅した。
「ボクはお酒は飲めないんだ。でも、頭は少し冷えた」

 穴から出現したクリーパーの群れを圧殺しながら、授恵者達は穴の淵へと進んで行く。最初にいた50体ほどのクリーパーを殲滅し、後続が途切れた時、何人かの冒険者が、穴のすぐ近くで己の体をエーテルに変える準備をしていたメドゥの右腕の近くまで到達した。この辺りまで来ると、そろそろ『聖印の後光』の範囲外になる。

●
 クリーパーの群れが消えた隙を突き、世界に空いた穴の近くまで到達した冒険者達は、触手からメドゥの右腕を守るため、触手に対して集中砲火を仕掛けた。しかし、クリーパーの群れが消えたのはほんの数秒。すぐにまた新たなクリーパーが出現し、穴の周辺に這い出ようとしていた。

「皆さん、右腕を守り切るため、役割分担をしましょう! 我々は触手を抑えます!」
「わかった! 俺達は雑魚を片付ける!」
【触止】のイズレンディル・パラリムは他の部隊に連携を呼びかけると、周りとの連携に気を配っていた【豹狼】のアルバスが応答した。騎士団の指揮官らも、メドゥの右腕のための時間稼ぎという点を念頭に、手早く相談を始めた。王国騎士団、集権派の騎士団、帝国軍、そして冒険者達は散開すると、穴を取り囲むように、陣形を整えた。

(全てはエーテル。それが、世界の真実だったのですね)
「それでも。人が掴む未来を、絶対にあきらめません!」
 ゲルダ・クラインはメドゥの右腕の前に飛び込むと、血液の壁を貫いてきた触手の攻撃を盾で受け止めた。ゲルダは王国騎士すらもなぎ倒す触手の攻撃を受けてもびくともせず、小さな体で必死に右腕を守っている。
「ゲルダちゃん! 無理はしないで!」
 リサ・ベイカーはヒールは温存しつつ祭刀を振るい、寄ってくるクリーパーへと斬りかかった。ゲルダは大丈夫そうだが、敵は絶え間なく襲い掛かってくる。リサはゲルダの側から離れず、防御に専念しているゲルダの露払いに務めた。

「万物には元がある。今日を愛し笑える物に生まれて良かった!」
 アリア・ティーダは「どたゆんっ!」とわがままボディから発する色気を振りまきながら、『ハウリング・オブ・ブルーフレア』を帝国軍にかけた。アリアの暖かなエーテルに包まれ、帝国の兵士達(特に男)は元気になった。アリアがメドゥの右腕の方をちらっと見ると、彼は苦笑していた。

(ふーっ、確かにびっくりはしましたけど、それはそれ。わたしはここに在る。誰かを助けたい、守りたいという想いが偽物だったわけじゃありません)
「いきましょう! えいえいおうー!」
 か弱き人々を守る護気・幻耀剣(ごき・げんようけん)伝承者のファーシル・クリスティアは迷いを振り払い、負傷者の回復に努めていた。
「ヒーラーです! こっちのモヒカンの方の回復いきます!」
 元気よく声を出し、ヒーラー活動をアピールする。大規模な戦場だけあり、ヒーラーは多かったので、声を出すことは地味に回復の効率化に貢献していた。

「……なるほど。私は出来損ないと思っていたけれど、文字通り失敗作。まあいいです、もう。これが終わったら、婚活でも始めましょう……嫁(い)き遅れそうですし」
 ラティア・ミゼリア(28)がぽつりと呟き、右腕の近くまでやってきたクリーパーへと矢を浴びせかけた。
「脆いので、守っていただけるとありがたいですけど……」
「任せてくれ、僕は防御には自信があってね」
「!?」
 ラティアのつぶやきに反応したのか、なんか大物が釣れた(ウィリアム王子が守りに来てくれた)。よくみると、王国の騎士達(全員男性)も何名かラティアの援護に駆け付けてきている。彼らはまるで競うかのように、ラティアの壁になってくれた。これはラティアが『色気』の超越者であることとは、無関係ではないだろう。
(私を守るためじゃなくて、メドゥの右腕が最重要護衛対象だから、ですよね?)

「右腕は神とか超越者になってからもテメエとダチじゃねえのかよ?! お前等、この世界で唯一、俺達と同じヒトだった時の名前知ってる同士だろ。ダチが――」
 危険を顧みず、ペルゼィックはジド・ルウの意識体へと近づいていく。しかし、最後まで言い終わるよりも早く、荒れ狂う触手がペルゼィックへと襲い掛かり、ペルゼィックは触手に絡め取られ、宙へと吊り上げられた。

「ジーク(ペルゼィック)!」
 右腕の近くにいたイズル・M・ヴォルゴールはペルゼィックを吊り上げている触手に向け、メテオライトを放った。光の雨は触手だけを撃ち抜き、ペルゼィックは血まみれの状態で地面へと落下した。
「ヘレン! ジーク(ペルゼィック)を安全な場所まで連れてって!」
「りょーかい」
 ヘレン・ワーグナーは意識を失っているペルゼィックを担ぎ、後方へと引っ張っていった。

「ここは通さん!」
 ペルゼィック達の背後へと迫る触手を遮るように赤い影が飛び込み、触手に『タナトスバイト』が突き立てられた。眼が見えていない触手に暗殺の一撃を叩きこんだのは、レピド・クロサイトだった。
「俺もあんたの名前を知りたい。最後に教えてくれ。今、共に戦う戦友の名を」
 レピドは触手の反撃から身を躱しながら、静かに右腕へと問いかけた。
(俺は真実を知っても尚この世界を愛し守ろうとする右腕と共に戦う為に、見届ける為にここに来た)

「……」
 しかし、メドゥの右腕はレピドの問いには応えず、静かに首を横に振る。するとジドが口を挟んだ。
「……右腕くんの名前はもう誰も覚えていないんだよ。僕も、右腕くん自身も。……右腕くん。エーテルに変わる時は、力を入れるより、リラックスした方がいいよ」
 ジド・ルウは何か思う所があったのか、右腕に助言をした。すると右腕はにっこりと笑い、「分かった。試してみよう」と答える。
「……ありがとう。戦友って、良い響きだよね」
 レピドを見る右腕の両目は、穏やかに細められていた。

●
 ――ヴォオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!
 四方から触手を攻撃し、メドゥの右腕を守っていた授恵者達だったが、突然、穴の底から凄まじい唸り声が聞こえてきた。

 ズン!! 
その直後、穴の中央から黒く硬質な円錐状のものが現れた。
「な、なんだっ!? クリーパーなのか!?」
「「メテオライト!」」
 更紗はシンディーとタイミングを合わせ、円錐を攻撃する。しかし、円錐はひび割れただけで、破壊には至らなかった。それどころか、触手は円錐への攻撃に呼応するように、シンディーたちを狙い始めた。

「こいつ、目が見えるようになったの!?」
 驚愕するシンディー。先ほどまでは狙いも何もなく、出鱈目に振るわれていた触手が、こちらの誰かがいる場所を狙って仕掛けてくるようになったのだ。

「触手の攻撃の正確さが上がった!?」
 【アクセラレイター】でなんとか触手の範囲攻撃を躱したロッカード=キリヤが叫んだ。戦闘が始まってからというもの、触手の攻撃を受けたシーフは今までいなかった。触手の攻撃はかなり雑で、機敏なシーフ達が躱すことは容易かったからだ。しかし、今、触手はロッカードの動きを読み、明らかに狙って当ててきた。

「クリーパーの攻撃パターンが変わった! あの円錐は超大型クリーパーの感覚器官に違いないのだ!」
 クリーパーの群れに【氷嵐】を打ち込みながら、ストレガが叫んだ。

「おい、いつの間にか、小型クリーパーがいなくなってないか? でかいのばかりになってるような……」
 【鉄壁】の支援を受けながら、クリーパーを切り伏せていたリューイが呟いた。いつの間にか、小型クリーパーが戦場から消えている。その代わり、今まではまばらだった中型クリーパーが戦場にどんどん出現するようになっている。千差万別なフォルムを持つクリーパー達だが、肉食獣型や竜型、甲虫型など、戦闘向けの形態を持つクリーパーが増えている気もする。
「大丈夫ですか、リューイさん」
 援護に徹していたヴォーレリアが傷ついたリューイにヒールをかける。
「ああ、助かった」
「雑魚の間引きは終わったということか……?」
 触手の間合いから逃れたロッカードは竜型クリーパーが吐いた炎を躱しつつ、トリプルファングを叩きこんだ。
 クリーパーの軍勢の質が上がったことで、状況は悪化していた。小型クリーパーよりペースが落ちたとはいえ、中型クリーパーは間断なく穴からわき出してくる。もはや最初のような「圧殺」は難しい状況となっていた。

●
「次はあっちから出てくるよ!」
「了解!」
「りょーかい」
 双波で穴の中の触手の位置を探っていた【雀】のエフィルミアは、仲間達に警告を発した。直後、イズルとヘレンが直ちに迎撃準備を開始する。

(今だ! 行って!)
(分かりました! 突破します!)
 ルルトは貫通衝撃射で中型を吹き飛ばした瞬間、すさかず猪に跨ったララヴェル・ララフェルに思念を送った。

「よおし行くぞ! 最終決戦である!」
 ゴリラの背に乗った【流星射】のポコ・アルデバラッドは『炸光矢』をクリーパーの群れへと浴びせた。
「今です!」
 【赤翼】のシャルロット・エクレールが間髪入れずに水流(タイダルストリーム)を放ち、強引に戦線をこじ開ける。【流星射】達は【赤翼】三名の護衛と共に敵が薄くなった箇所を強行突破し、一気に穴の近くに到達した。

「作戦通りにいくさぁ!」
「よし、やるぞ!」
【赤翼】のフリューリングスルフト=ティエラとエイル・ビュセファスは穴の近くで気配を隠した。『流星射』は使用後、体力を一気に消耗する一発こっきりの大技だ。撃った後も【流星射】組のサポートをするために、【赤翼】は彼らについている。

「アストラル界までとどけ流星射ぁ!!!」
「流星射ァ!」
「流星射!」
「流星射ァ!」
 触手の元まで辿り着いたサロ、ポコ・アルデバラッド、ララヴェル、ロウトフェダーは一斉に己の生命力を振り絞り、弓へと乗せて矢を放つ。次々と着弾した矢は触手に突き刺さり、しなびた触手は次々の穴の中へと引っ込んでいった。

『ヴォオオオオオオオオオオオオオ!!』
「ダンジョンを制覇したら次はアストラル界だ! また会おうぜ混沌共!」
 爽やかに笑いながら、ダッシュで後方へ逃げ去ろうとするロウトフェダー。しかし、怒りに身を震わせた新たな触手が穴から飛び出し、ゴリラごと、ポコを捕まえてしまった。
「吸盤が……! 離れん!」
「ウホォ……!」
 なんとか触手から脱出しようともがくポコとゴリラのうー君。しかし、流星射で大きく生命力を消費していたポコは触手を振り払うことができない。
 シュババババッ!!
 絶体絶命かと思われたその時、嵐のような剣圧がポコとゴリラを掴み上げていた触手を袈裟切りに断ち切った。触手を断ち切り、ポコたちを救出したのは、宝剣を携えたイヴェール・イリュジオンだ。

「ここは私が。早く撤退してください」
 イヴェールが地上に落下してきたポコ(とうー君)に声をかける。すると、怒り狂った触手がイヴェールを狙って降ってきた。イヴェールはあえて触手の方に近づき、肩当てを吹き飛ばされながらも、直撃は回避した。
 
「逃げるッスよ! 急げ!」
「あそこから突破します! ついてきて下さい!」
 マトンとシャルロットは続けざまに空間爆砕を放ち、怒れる触手を吹き飛ばした。触手は激しい攻撃でのけぞり、その隙にフリューリングスルフトとエイルが更なる痛打を与える。彼らの支援を受けて、なんとか疲弊した【流星射】達は触手の射程外まで逃げおおせた。

●
「集権派騎士団の方に中型の手ごわいのが集まってる! 増援を回そう」
 海神(ウミガミ) 江流(エル)は最前線に立ち、溢れ出るクリーパー達の攻撃を捌きながら、【戦誼】の指揮を執っていた。彼の肩にはカイン・ステラのペットの大鼬(ファ)が乗っており、後衛のカインにも江流の視界に近い光景が共有されている。

「……上からもクリーパーが来るぞ!」
 捜波でいち早く敵の接近を察知したカインは仲間達に警告しながら、上空に「置く」ように矢を放つ。クリーパーの接近と同時に炸裂した矢は光の破片を撒き散らし、クリーパー達に打撃を与えた。

「こうすれば、穴の中が覗けるかしら?」
 ルベア・ベルニは宗波を飛ばし、アストラル界に繋がる穴の中を探っていた。直径が20メートルほどある巨大な穴だが、宗波ならば素早く探れる。上がってくる触手の気配を感じ取ったルベアは、大声で叫びながら、前方を短剣で差し示した。
「見えたわ! 次はあそこから触手が来る!」

「真実? そんなの関係ありません。僕達は確かに生きていて、僕の愛もこんなに溢れているのですから!」
 ギーゼラは楽しそうに笑いながら、ガルシアにヒールをかけた。ギーゼラ自身は後ろに下がり、回復役に徹している。この戦場は耐久戦だ。敵が無制限に湧き出てくる以上、回復役は最後まで倒れるわけにはいかない。

「ガルシア! 今だ!」
「はい!」
 江流の合図に合わせ、クリーパーが引いた空間を駆け抜けたガルシアは、結刀(むすびがたな)『紅夜(こうや)』を触手に向かって一閃。雷光の速度で叩きつけられた一太刀はうねる触手を切り裂き、先端を切り落とした。しかし触手は暴れ、ガルシアへと反撃。超大型の触手の直撃を受けたガルシアは激しく流血するが、その闘志はむしろ昂っていた。

(小隊だけ無事でも意味がない。数を減らしたら時間稼ぎなんて無理)
【戦誼】の後衛の位置にいたルーンス・ラグネルは負傷者に対し、ひたすらに回復魔法を放ち続けていた。敵は際限なく現れるクリーパー達に加え、超大型クリーパーの触手もいる。常に回復を続けていなければ、すぐに戦線は崩壊してしまうだろう。エーテルの消耗を防ぐため、ルーンスは負傷の度合いを瞬時に見分け、ヒールの出力を調整し、使い分けていた。

「シルヴィア、いったん下がって」
「ああ、頼む、ヴィナス」
 ヴィナスはシルヴィアに声をかけると、『プリズムシャドウ』を発動し、瞬時に彼女と位置を入れ替わった。ヴィナスは空から強襲をかけてきた鳥型のクリーパーの嘴を躱すと、魔弓を放ち、クリーパーを射落とした。
(彼女の負傷には注意しなければ……聖印の使い手はこの戦場の要だ)
 ヴィナスはシルヴィアの緊急回避用の保険の役割だ。彼は常にシルヴィアとの距離を一定に保っていた。

「すべてはエーテルか……こりゃ驚きの事実だぜ。でも深遠な話で実感がわかねぇや。エーテルの入れ物だろうがそのものだろうがケガが痛えことに変わりねぇ」
 ギャメルは真実のショックから立ち直り、冷静さを取り戻していた。人間が何で構成されていようが、やることは変わらない。ただ、癒し手としての責務を果たすのみだ。ギャメルはぶんぶんと頭を振り、黄金色の波動(ウェイブ・オブ・インフィニティロア)を最前線の前衛達に向けて解き放った。【聖印の後光】ほど範囲は広くないが、これで前衛達はさらに強化されたはずだ。

「最高の芸術である、指と比べるまでもないわね」
 アヴェラ・ウッチェロはウインクしながら触手について批評すると、死齎刃(デスブリンガー)を触手へと浴びせた。アヴェラのエーテルは弾き飛ばされてしまったが、うっとおしいとは思ったのか、触手の一本はアヴェラの方を向いてもぞもぞしている。
(暗殺者だった私が、ここで皆を守るために前に立つなんてね……)

「あっちの触手が弱ってきています。集中攻撃をお願いします!」
「分かりました。合わせてください!」
 クラリス=ミシェは戦術眼で戦況を瞬時に判断し、味方に指示を出した。すかさずイズレンディルは周囲のエーテルを上乗せした特大の魔弾を放つ。魔弾を受けた触手がぶるぶると震えた後、魔弾が飛んできた方向を薙ぎ払うように動いた。しかし、その辺りには誰もいなかった。
「イズレンディルさん。あの触手、残念ながら弱点はなさそうです。やはり、視覚や嗅覚もないみたいですね。感覚器官からの指示を受けないときには、攻撃された触覚に反応してるのかもしれません」

●
 ヴオオオオオオオオオオオオ!!
 メドゥの右腕の体にエーテルが収束しているのを感じ取ったのか。触手は激しく暴れ出した。上から弧を描くように放たれた複数の触手が護衛達を迂回し、メドゥの右腕が張っていた血液の壁を吹き飛ばしてしまった。ゲルダが割り込もうとするが、その全てを肩代わりすることはできない。

「!」
「右腕くん!」
 ジドが右腕の名を呼ぶ声と同時に、メドゥの右腕の眉が吊り上がる。しかし、こんなこともあろうかと事前に展開されていたまばゆく輝く光壁が、触手の嵐から彼を守った。

(不愉快な存在ですが、彼が本当に世界を救う気ならば、最後までこの目で見届けましょう)
 血液の壁の隙間を埋めるように光壁(クレネルウォール)を展開していたのは、リコリス・アデュラリアだった。彼女は無表情のまま、メドゥの右腕をちらりと見遣る。荒れ狂う六本の触手があっというまにリコリスの光壁を粉砕したが、その一手の余裕を使い、右腕は自分で血液の壁を再生させていた。

「帝国の……いえ、私の後ろには護るべき民達がいますわ」
 リリリリスは危険を承知の上で、超大型クリーパーの触手の一本にシーザーロアをかけた。たちまち触手は矛先を変え、リリリリスをブッ叩いた。ゲルダのように防げるものではなく、血反吐を吐くも、すぐさまギーゼラ、シルヴィアやルーンスがヒールを飛ばし、彼女のお肌はツヤツヤになる。
「私、リリリリス。誇りある帝国貴族ですわ! さあ、もっと来なさい! もっと!」
 自身を攻撃する触手はそのままに、更に別の一本を挑発する。リリリリスは帝国貴族の誇りを胸に、触手の攻撃を受け止め続けていた。

●
【戦誼】が総力で触手の攻撃を捌いていると、遊撃部隊であった【ふしぎ亭】達が横合いから触手へと襲い掛かった。

「世界の真実……そんなもの、大切な人達は確かにここに居る!」
 ララベル・サン・ディーベルは自分の想いを口にしながら、まっすぐに触手へと突っ込んでいった。ララベルが瞬時に四連撃を浴びせると、帝国兵を掴んでいた触手が切り裂かれ、帝国兵が落っこちてきた。
「すまん、恩に着る」
「気を付けてね!」
 ララベルはにっこり笑い、引いていく帝国兵のカバーに入った。

「全てはエーテル……ん? それって結局、物質かエーテルかの違いじゃ……考えるだけ無駄な気がするね♪」
 ヒロ・テスタロッサは短剣を猛然と振り、触手を切り刻んでいく。うねる触手の位置を天眼や超視覚など、あらゆる感覚を総動員しているヒロは、まるで捉えどころのない風だ。ヒロは攻撃の瞬間だけ触手の近くに接近し、一撃離脱を繰り返した。

(戦うのは大事だけど、皆が生きて帰るのがなにより大事)
「すごく速いクリーパーがいる! 気を付けて!」
 アリエッタは捜波を使い、巨大な穴の内側を探っていた。クリーパーが出現する位置をいち早く察知したアリエッタは、仲間達に位置を知らせつつ、炸光矢をクリーパーへと叩きこむ。出鼻をくじかれたクリーパーは足を踏み外し、奈落の底へと落下していった。
(一人で無理はしないし、させない。必ず皆で帰ろうね)

「とにかく落ちないことを優先ね」
 【ホライゾナルジャンプ】で触手の懐に潜り込んだアルラ・ニグラスは、ララベルに襲い掛かろうとしていた触手を切り刻み、牽制した。いつも一緒のみんなが生きて帰るため、アルラは仲間達の動きに細心の注意を払っていた。

「よし、追いついた!」
 チャージングで加速し、シーフ達の後を追っていたゴルバルティアは穴の付近まで辿り着いた。威圧感を放ち、ゴルバルティアはクリーパー達にプレッシャーをかけつつ、短剣でクリーパー達に切り込んでいく。
 ゴンッ!
 穴から飛び出してきた恐竜のようなクリーパーの頭突きを食らい、ゴルバルティアはたたらを踏んだ。しかし、エーテルで防御したゴルバルティアはそのまま穴の淵に踏ん張る。
「おーい! こっちだ!」
 ゴルバルティアが仲間に呼びかけると、【ふしぎ亭】の仲間達が応援に駆け付け、恐竜型クリーパーはずたずたにされて穴へと叩き落とされた。

「それが世界の真実だったとして、それが総てではないでしょ? この世界には、まだ見ぬ神秘が存在している。私はそう信じてるからこそ、この世界が滅ぶのを否定するわよ」
 テュリン・ヴィングは月灯りの儀礼短剣を構え、【星剣の雨】を触手へと降り注がせた。戦列にも注意を払うが、こちら側の方が押している。このまま火力支援を続けた方が良さそうだ。

「最優先はやはりあの触手ね」
 優れた戦術眼で敵の様子を観察していた楓月(ふづき)・千弦(ちづる)はぽつりと呟いた。中型クリーパーは小型よりは手ごわいとはいえ、こちらが押している。あの触手にさえ注意を払っていれば、いきなりこちらが劣勢になることとはなさそうだ。千弦は【ふしぎ亭】の集中攻撃を受けていた触手の一本に巨大な光矢(ハイパーバスターアロー)を叩きこみ、穴の内へと引っ込めさせた。

●
(さすがに、そろそろ危ないかも……)
 味方の消耗がそろそろ無視できないレベルになってきたと感じていた千弦は焦りを覚え始めていた。授恵者達は手堅い戦いで、メドゥの右腕を無傷のまま守り通している。しかし、それもスキルによる火力と、ヒーラー達の継続的な支援があってこそ。エーテルが尽きれば、超大型の触手はメドゥの右腕にまで届くだろう。

「あの、まだ時間かかるんですか、メドゥの右腕さん?」
 千弦と同じように感じていたクラリスが尋ねると、メドゥの右腕は静かに答えた。
「……お疲れ様。もう良いよ。準備が出来た」


【1】帝国皇帝ヨゼフ・バルダス討伐(担当マスター:革酎)

●
 現シルトラース帝国皇帝ヨゼフ・バルダスは、身じろぎひとつ見せない。
 その超然たる眼光の先には、数多くの授恵者達の姿。
 先頭を走るマクシミリアン・ミルド、アシムベート・グリオウ、帝国軍部隊、リザードマン部隊、そして【花鳥】の面々の多くが、フクシア・S・シュルツが仕掛けた支援魔術によって全身を蒼い光に包まれている。
「帝国兵の皆様方、皇帝は火生の神ボルガニスクの力を収奪しています! もしかすると炎系の範囲攻撃を仕掛けてくるかも知れません!」
 だから密集するな、とフクシアは呼びかけた。的確な読みといって良い。
 フクシアの助言を受けて帝国軍部隊のみならず、リザードマン部隊も左右に散開した。多対多であれば密集戦術は有効だが、多対一に於いて敵が範囲攻撃を具えている場合は分散陣形が最も適している。
「うむ、良い指示だ」
 アシムベートが頷けば、
「優秀な軍師を連れてきたじゃないか」
 マクシミリアンも口元をにやりと笑みの形に歪めた。
 と、そこへ挨拶代わりとばかりにヨゼフの放った衝撃波が人類戦力に襲い掛かってきた。
「早速来ましたか……ここは私が受けます!」
 その瞬間、コルネリウス・アーラが一気に前へと飛び出し、鉄壁の防御力でマクシミリアン正面へと迫る衝撃波を吸収してみせた。
 止め切れなかった破壊力は左右の帝国兵を容赦無く打ったものの、ディレイン・オールドケイジの驚く程の速い治癒術で事無きを得た。
「マックス、突出は控えるんだ。ひとりじゃないでしょ……皆、一緒に居るんだから」
 ディレインが帝国兵達に次々と治癒術を仕掛けてゆく間にも、口早に呼びかける。これに対してマクシミリアンは、心配するなと頷き返した。流石に帝国近衛連隊長、冷静さは片時も失われていない。
 その時、ひとりチームから離れていたサフィラ・アズラク・ナハルハルアリーブが引き返してきた。
「クリーパーは他で抑えてくれてるから心配無いよ!」
 それだけいい残して、荒野と化した帝都の僅かな凹凸の向こうへと姿を消す。ヨゼフ相手には真正面からの攻撃だけでは有効打になり得ない。サフィラはサフィラの最も得意とする戦術で一太刀浴びせる算段の様だ。
 そんなサフィラの動向などまるで目に入らぬといわんばかりに、ヨゼフがゆっくりと歩を進めてきた。
 いよいよ、人類対皇帝の息詰まる攻防が本格化しようとしていた。

●
 ヨゼフは攻撃力、防御力共に人類戦力個々の能力とは明らかに桁違いだ。まともにやり合っては絶対に勝てない。
 そこでまず【喫茶】のラケルや、個人で行動しているエイル・アーティライト、パヴェル・A・サムルガチェフといった面々が状態異常付与を矢継ぎ早に叩き込む戦術に出た。
「最早、民のことは見えませんか……残念です」
 淡々と呟き、かぶりを振るエイル。逆に傍らのパヴェルは妙に気合が入っている。
(これが終われば、いよいよ婿入り、だな。待っててくれ、ランラン)
 それぞれに、それぞれの思惑がある。だが目的は皆ひとつだ。即ち、皇帝ヨゼフ打倒。その為に、授恵者達はこの地に集結したのだ。見るべき目線は誰ひとり違わず、同じ方向に定められている。
(倒される前に、少しでも多く……)
 ラケルはヨゼフの矛先が己に向けば、ひとたまりも無いことを心得ている。だからこそ、早い段階で自身の役割を全うしようと集中していた。距離を取り、場合によっては群がり来るクリーパーへの対処も怠らない。
 その存在感は、早い段階からヨゼフの目に留まりつつあった。

●
 そしてヨゼフの動きがそれなりに鈍り始めたところで、【兵】の猛攻が始まった。
「世界の害悪はひとの和には要らねぇから……これで終いだ!」
 ケン・Z・ブラッドリーが果敢に突撃を仕掛けてゆく。が、お世辞にも命中精度が高いとはいえない彼の攻撃は思う様に当たらない。それでも前に出続けるのは、後方に控える友軍戦力の為の囮も兼ねているからだ。
 そのケンの傍らにシャーリー・ブラウンの相棒たる狼グレイの躍動する姿があった。
「ケンさん、父さん、母さん、グレイ……みんな、ありがとう。ヨゼフは必ず、斃します」
 狼グレイが前衛としてヨゼフと接敵する間、シャーリーは後衛位置から次々と鏃を叩き込み続けた。
 ケンや狼グレイがヨゼフの注意を引いてくれている為、今はシャーリーの矢を阻害する者は居ない。だがそれもいつまで続けられるか分からない以上、今この瞬間に持てる力の全てを注ぎ込む必要があった。
「啓示にも、体を張れば良いことがあると出ています。ついでに閃光塗弾でカチコミ参ります」
 ヨゼフからの反撃は思った以上に激しく、重い。その恐るべき破壊力に【兵】が辛うじて耐えられているのはフリーダ=ブロムヴィストの鉄壁に近い守りがあればこそだ。
 勿論【兵】にも、フェミナ・ノ・リビディーネが主回復担当として参戦している。
(絶対誰も、脱落なんてさせません)
 そのフェミナの意思は、治癒術の手数にも表れている。損耗の激しい【兵】に於いては、彼女の治癒術は非常に貴重だ。が、装備面と土台となる回復能力が低い為に、フェミナひとりの回復術では到底追い付かないのが現状だった。
 更にヨゼフもそろそろ後方戦力への攻撃が必須と判断したのか、後衛に対しても遠距離攻撃を仕掛け始めてきている。フリーダの守りで何とか後衛メンバーの脱落は今のところ免れているが、それもいつまで続くか。
「クリーパーと違って、皇帝には流石にスリップは入り辛いですね……」
 直前まで周囲から群がり来るクリーパーの排除に奔走していたキリアン・フィッツジェラルドが、幾分疲れた様子でグレイ・ナックラーの傍らへと退いてきた。
 そのグレイは、セリオス・オーガストと共に【兵】の後方主火力としてひたすらにヨゼフへの攻撃を仕掛け続けていた。
「さてさて……和を害する老害は良い加減ご退場願おうかのぅ」
 フェミナとセリオスの背中を前方に眺めつつ、グレイはキリアンに軽く笑いかけた。が、その表情が緊張に強張った。
 ヨゼフが前衛と後衛をまとめて薙ぎ倒す大技に出るであろうという予測が、脳裏を過ったからだ。
 そして事実、ヨゼフが凄まじい衝撃波を伴う爆炎を炸裂させた。
「く……こいつは中々、きつい」
 それまでひたすら攻撃に集中していたセリオスは、超高熱と爆風の二重の破壊力に薙ぎ倒され、その場に叩き伏せられた。
 だが、それまでの攻撃で十分に手応えはあった。役割は果たしたといって良い。ここでお役御免となっても、非難されることは無いだろう。
 そしてヨゼフの放った爆炎はセリオスのみならず、フェミナやシャーリー、狼グレイらも次々と薙ぎ倒した。それまではフリーダが何とか仲間達を守り抜いていたが、こればかりはどうしようも無い。
 損耗の激しい【兵】だが、先陣を切った部隊としては十二分に活躍したと胸を張れるだろう。後は如何に被害を抑えて後退するかだ。
 撤退直前、ケンが轟然たる一撃をヨゼフに浴びせた。ラケルが付与し続けている状態異常による回避遅延が、ここで威力を発揮した格好だった。
 が、当然反撃も浴びた。ケンはここで一度意識が暗転、英雄再帰で復帰したものの、これ以上この場に留まるような余裕はない。
 それでも【兵】が全滅を免れたのは、フリーダが温存していた閃光塗弾がヨゼフの視界を一瞬奪うことに成功したからだ。
 加えてグレイによる稲妻の網も上手く機能した。ヨゼフの追撃の手が及ばなかったのは、彼らの後退を埋めるべく、攻撃を仕掛けた他の面々のお陰もあろう。

●
 戦闘が激化するということは、それだけ動きも大きくなるということだ。
 大小様々なクリーパー共の注意を引いてしまうのは、どうにも避け難い状況だった。
「小僧! 心を燃やす熱はまだあるか? 無ければ向こうの冒険者らには勝てんぞ! わはは!」
 ヨゼフから離れた位置で大型クリーパー相手に得物を振るっているヴェイグ=ベーリング。その哄笑はヨゼフの耳にも届いていただろうが、ヨゼフはほとんど反応らしい反応は見せていない。
 同じくリリアンもヨゼフに対しては、思うところがある。リリアンは、ホムンクルスだ。即ち、過去にヨゼフの命令で一度、命を落としたことがあるという事実がその身に刻まれていることに他ならない。
(あのひとの部下が、ボク達を殺したんだ……だからボクは、ボクの仇を取るよ)
 そのリリアンが出来ることは、王国軍部隊と共にクリーパー共への対処に当たることだ。今は兎に角、人類戦力によるヨゼフ攻略の邪魔をさせないこと。それが自身の目的を達することにも繋がるだろう。
 また、【喫茶】のナタリア・フィッツジェラルド、バルバラ・アンネリース・フォン・アルトホーフェン、そしてエルナ・クルプファルツといった面々も、仲間に近づこうとするクリーパーの排除に動いていた。
 尤も、積極的に動き回っているのはナタリアとバルバラのみで、エルナは相棒の栗鼠と共に荒れた大地の隙間にじっと身を潜めて、仲間の攻撃で弱ったクリーパーに止めの一撃を喰らわせる待ち伏せ戦術で対応していたのだが。
(それにしても、皇帝の弱点や癖は全然分からないですね……)
 元々、看破能力は決して高くはないエルナ。どの敵を狙うのかという傾向は何となく読み取れるが、打倒に直接繋がり得る情報は流石に読み取れなかった。
 その間にも、ナタリアとバルバラは手近のクリーパー掃討に忙しく走り回っていた。
「皇妃のクリーパー共は、流石に手強いな」
 二体目の中型クリーパーを斃したところで、ナタリアは溜息を漏らした。対ヨゼフ戦に温存したかった治癒術も、対クリーパー戦での使用を強いられている。
「ナタリアセンセ、もうそろそろ治癒術は任せてくれた方が……」
 バルバラが小さく肩を竦めた。彼女の治癒術と支援魔術が【喫茶】全体の底上げにも繋がっている。
 この最終決戦、怖くないといえば嘘になるが、それでもナタリアと肩を並べることで勇気を振り絞り、チームの治癒担当として大車輪の活躍を見せていた。
 そして、戦局は更に激しさを増そうとしている。
 クリーパー排除はヴェイグやリリアン、或いは王国軍部隊に任せても良さそうな頃合いだろう。

●
 ここまで、エイルとパヴェルの与えた状態異常は抵抗を受けることもあった。矢張り超越者といったところであろうか。
 そんな中でただひとり、ラケルが叩き込んだ状態異常だけはほぼ完璧に機能していた。
 流石のヨゼフも叶わぬと見て、行動不能状態だけは何とか解除しているものの、それ以外は人類戦力の猛攻によって中々手が取れず、仕方無くそのまま放置している。
 アシムベート率いるリザードマン部隊は、【雷鎚】のロゼット、ライナ・フレイヴァルツ、フロマーシュ・ダイヤドロップらの支援を受けつつ、確実にヨゼフの体力を奪いつつあった。
 ライナが守りの要となり、フロマーシュが持ち前の防御力と戦術眼でリザードマン部隊の損耗を極力抑え、ロゼットが治癒担当として駆け巡る。
 先陣を切った【兵】は損耗激しく後退を余儀無くされたが、リザードマン部隊とアシムベートの猛攻が立て続けにヨゼフを襲い、この恐るべき超越者に休む暇を与えなかった。
 更に逆方向からはコルネリウスの防御とディレインの治癒術に守られたマクシミリアンが大地を割る程の勢いで刃を叩きつけてくる。
 如何にヨゼフといえども、これ程の怒涛の攻めを受け続けては、後手に廻らざるを得ない。
「このまま、押し切れるか?」
 守りから攻撃へと転じつつあったライナは、ちらりとフロマーシュに視線を流した。フロマーシュは自身の防御力を徹底的に固めており、いつでも前に出る準備は整っている。
 だが、そのフロマーシュが瞬時に表情を険しくして鋭く叫んだ。
「ライナ様、来ます!」
 それまで守勢に回っていたヨゼフがいきなり、前へと踏み出した。フロマーシュはヨゼフが恐るべき範囲攻撃に打って出ると咄嗟に読んだのである。
 その直後、猛爆の激しい炎が周辺一帯を焼き尽くした。明らかに後衛を狙った一撃だった。
 先に【兵】を退却に追い込んだ物を上回る、凄まじいまでの破壊の衝撃がラケル、パヴェル、エイルといった状態異常付与戦力をほとんど瞬間的に薙ぎ倒した。
 タイミング良く対ヨゼフ戦に加わっていたナタリアやバルバラ、或いはリザードマン部隊の支援の為に治癒担当として同行していたファヌが迅速な治癒活動に入ったから何とか死は免れたものの、受けた打撃は相当に深刻だった。
「拙いわね……すぐに後方へ搬送を!」
 ファヌの指示を受けて帝国軍部隊の一部が素早く反応し、動けなくなったラケル、パヴェル、エイルらを次々と戦線離脱させてゆく。
 だがヨゼフは、追い打ちをかけてこない。ライナとフロマーシュが徹底的に守りを固め、更には遠隔攻撃のタイミングを正確に予測した事実を受けて、ヨゼフとしてもそれ以上の追撃が出来なかったのだ。
 しかし、それだけではない。
 ヨゼフの動きには目に見えて、異常が感じられた。それまで立て続けに注ぎ込まれていた状態異常付与がいよいよ、この局面になって効果を表し始めていたのである。
 攻めるなら、今が好機だった。

●
 リザードマン部隊に意識が向いているヨゼフの後方に、不意にサフィラの姿が舞い上がった。
 必殺の蒼穹雷閃が炸裂――その一撃はヨゼフの注意を引くには十分だった。
 ヨゼフの矛は空を切り、サフィラを斃すには至らない。そしてその直後、今度は【喫茶】のAlexandra・Hexe・Claudiaとエルナ、アウレーリア・フォン・ネーベルベルクの三段連続攻撃が襲い掛かってきた。
「結局何を極めた超越者なのかは分かりませんでしたが……ノヴァクラスターぐらいは入るでしょう!」
 まさに決死の接近戦だった。
 Alexandraが叩き込んだ一撃は乾坤一擲ではあったが、確実に効果はあった。尤も、その直後に浴びた反撃は彼女の意識を瞬時に消し飛ばした。
 続くエルナの攻撃こそが本命――と思わせておいて、最後に仕掛けたのはアウレーリアだ。その高威力の魔法攻撃がヨゼフの肉体を鋭く抉り、自己回復すらままならない程の打撃を叩き込んだ。
 上体がぐらりと揺れたヨゼフにアシムベート、マクシミリアン、リザードマン部隊、コルネリウスらが殺到した。
 ヨゼフはしかし、動揺の欠片も見せない。矛を振り、群がる人類戦力を薙ぎ払った。
 それでも人類は諦めない。決して手を休めない。
 大きく矛を横に薙いだ姿勢のヨゼフの懐に、いつの間にかロゼットが潜り込んでいた。
「貴方に殺された火山の神徒と、力を奪われたボルガニクス様の無念よ!」
 ロゼットはヨゼフの右腕に渾身の一撃を叩き込んだ。
「エルナ! もう一度! 捉えて!」
 アウレーリアが叫んだ。その声に応じて、エルナが超至近距離から追撃の鏃を放つ。
 流石に、耐えられなかった。ヨゼフは遂に、恐るべき破壊力の権化たる矛を取り落としてしまった。
 その瞬間を、ハリーヌ・ヨツユビは相棒のゴリラと共にクリーパーの乱入を阻止しつつ、若干驚いた様子で眺めていた。
「おぉ……遂に……でございますね」
 大陸の全ての民から嫌われ、それでも尚、制覇を目指すという野望を全く理解出来なかったハリーヌ。その理解の先を超えた存在だと思っていた怪物が遂に、武器を手離した。
 一方、【兵】の面々の治癒を終えて前線に復帰してきたアドルフ・ジーノも同様に、ヨゼフが丸腰になった光景に信じ難い思いを抱いた。
 今なら、攻め切れる。ハリーヌは再び矢をヨゼフに向け、アドルフはマクシミリアンに最後の支援魔術を施した。
「近衛連隊長! とどめを!」
 アドルフの、全ての想いを乗せた叫び。ここが攻め時だと誰もが直感した。
 コルネリウスが盾として走り、ディレインが防御魔術を施す。ふたりの支援を受けたマクシミリアンの刃が、ヨゼフの懐へと迫った。そして、それまでじっと息を潜め続けていたハヤト=ガラン=ヴォルファングが後方から頭上へと舞った。
「陛下、御覚悟を!」
「これで……終わりだ!」
 マクシミリアンの切っ先がヨゼフの胸元に吸い込まれ、ハヤトの蹴りがヨゼフの頸部に致命の一撃となって振り抜かれた。
 直後――ヨゼフはその場にがっくりと膝を落とした。
 その瞳から、見る見るうちに生気が失われてゆく。
「……余は、負けたのか」
 感情の起伏を一切感じさせない声で、ヨゼフは誰にともなく問いかけた。
「時代が、余を拒んだか」
 何かを悟り、そして理解したかの如き低い声音。
 そしてそのまま、シルトラース帝国皇帝ヨゼフ・バルダスは動かなくなった。
 覇道を目指した男は遂にその野心を達することが叶わぬまま、激闘の中でその生涯を終えた。
 マクシミリアンが、跪いて頭を垂れた。一度は主君として仕えた男に敬意を表す為に。
 アシムベートが、両の瞼を閉じて黙祷を捧げた。かつての同盟者の、壮絶なる死に様に。
 そして――人類はここにひとつの結末を見た。


【2】征竜打倒(担当マスター:七海真砂)

――我が新しき巫女(レイウェスト・バルダス)よ
――我は汝を 危険視する

 すっと細められた征竜の八眼は、レイウェストを間違いなく睨みつけていた。
 その背後で倒れているエフレムを、最前列で挑発的な態度を崩さないクジンリーネを、飛空しながら機を計るメドゥの左腕を、トーラやスィーリーン、グレイブ・ヤードやルチル・プルメリア・グレイハーツといった超越者達を……次々に見据えた征竜は顎を開く。
「させない」
 そんな征竜の頭部目掛けて、レタラ・スマリは濃煙炸弾を叩き込んだ。辺りに濃い煙幕が発生し、視界が遮られる中、それでも構わず征竜はブレスを吐き出し、一帯にいる者達を呑み込もうとする。
「散れ!」
「殿下、こちらへ!」
 声が飛び、冒険者達は一斉に散開する。紙一重の差でブレスを避けきった者達は、そのまま次々と塹壕のような地形へと潜り込む。
「エフレム!」
 動けずにいるエフレムへの攻撃は、ルイドが引き寄せられるかのように距離を無視して瞬時に割り込み、肩代わりして受け止める。
「……貴方、は」
「喋れるなら大丈夫だな。今のうちに……」
「任せて、回復するよ! ……よし、ルティスお兄ちゃん運んで!」
 【黒猫】アステルが癒しの光を撃ち出し、エフレムの負った傷を回復させていく。瀕死のエフレムだったが、顔色がほんの僅かに持ち直した事がわかる。それを見ながら駆け寄ったキオルティスもまたヒールでエフレムの命を繋ぎ止めると、そのまま迷わずエフレムを担ぎ上げた。
 とにかく、攻撃を避けられる場所に運んで、治療を施さなければ。

――抗うのか 小さきもの達よ

 エフレムなど吐き出したブレスに巻き込まれてすぐに命を落とすだろうと、そう高を括っていたのだろう。だが、そうはならなかった現実を前に、征竜は再び口を開く。
「させませんっっ!」
 吹き荒れるブレスから、今度はレラ・F・ギュンターがエフレムを庇う。何故、と小さく呟くエフレムの声を聞き、レラはにっこり笑いかけた。
「ギュンタに出来ますことは、お守りすることだけです。しなないで下さい。生きて、罪をつぐなうんです」
「ああ……さあ、急ぐぞ!」
 ルイドも頷き、いつでもまたエフレムを庇えるように備えながらキオルティス達と走る。
(『世界の守護者』……在り方は否定しねぇが、俺にゃ『誰かの守護者』くらいがちょうどいいわ。そういう意味で――やったことはどうあれ、嫌いではねぇからな)
「エフレムさんの事は必ず守るからね、安心して。ええっと……」
「こちらへ!」
 再度ヒールを掛けながら、逃げ込む先を探そうとしたアステルに向かって、【羊竜陣】のフェイサル・セイフが穴掘り紋具「グレイウォッシャー」で掘った横穴に皆を招く。飛び込んだ先には、【不語竜守護】シェルリア・リトヴァールが待ち構えていた。
「エフレム様、治療させていただきますよー!」
 治療は時間との勝負。即座に放たれた光がエフレムの傷を本格的に癒し始める。キオルティスがエフレムを下ろすのを手伝いながら、アステルもまたヒールを掛けた。
(スィーリーン様に頼まれましたからね! エフレム様は、絶対に死なせません!)
 シェルリアも、繰り返し繰り返し治療にあたる。

「ルチル殿、ここから狙ってください」
 【操蝶】サララ ココノカが、できるだけ周囲にクリーパーがおらず邪魔されにくそうな狙撃ポイントを見つけ出すと、ルチルを呼び寄せた。
 ルチルは塹壕地形に下半身を隠しながら、征竜への射線を確保すると、狙撃の構えを取り始める。
(あの竜がいる限り、あの子の未来は万に一つも有り得ない)
 だから、倒さなければいけない。
 今は、その為に準備をする時間が欲しいと、サララがマジカルポケットで持ち込んでいたブランケットを掛けて極力身を隠しながら、エーテルを込める。
(これまで磨いてきた、ぼくの力がどこまで通じるか。試してみたい気持ちもあるしね)
 そんなルチルの護衛としてバクル・バスリーが付き添うその脇を、再度放たれたブレスが掠めていく。
 征竜はブレスを吐きながら、レイウェストやクジンリーネを探して旋回しているようだった。
(こっちを狙う為になら、降りて来るかもしれない)
 そんな様子を見ながら【羊竜陣】飯塚・麦穂はアーケインテンペストを召喚する。光は征竜に纏わりついて、その動きを鈍らせる。それを見たエリザ・A・ミシャールは、征竜の死角となる地点から、番えた矢を大きな弧を描きながら飛ばした。
 更に、高速展開式超魔法を用いたヴィノニスの魔弾が炸裂する。
 これらの攻撃は、征竜を地表付近に誘い込もうとする目論見もあってのものだったが、征竜の方も、その狙いに気付いているのだろう。射程の長いブレス攻撃を用いることで間合いを維持しつつ、上空からの攻撃を重ねて来る。
「っ……狙う隙が無いわね……」
 【竜殺】ザザ=ステルヴィナは塹壕地形から顔を覗かせて攻撃の機会を計ろうとするが、人影に気付いた征竜が撃ちおろして来たブレスを逆に浴びてしまう。エルゼリオ・レイノーラのヒールが即座にそれを癒すが、埒が明かない。
(やはり、征竜はクリーパーごとこちらを薙ぎ払うつもりのようですね)
 優れた聴力を持つ【白黒】キーゼの耳には、ブレスの炸裂音と同時にクリーパーの苦鳴が聞こえていた。耳を澄ませ、その接近を悟るとすぐさま、周囲の味方に『征竜接近』の合図を出す。
「守って、クレネルウォール……!」
 ハーヴィが皆の前に作り出した『壁』が、ブレスを受け止めて崩れていく。咄嗟に、その陰に隠れる事に成功したユズはホッと胸を撫で下ろした。
 多くの者達が潜む塹壕地形に向かって、征竜が更に探りを入れるかのように視線を落とす。
(これだと、塹壕地形から出るだけで目立ってしまいますね)
 クリーパーへの対応を念頭に置いていたヴィルヘルミナのような者達が、動きにくさに嘆息する。目立てばブレスが降り注ぐ状況下、思うように動けない状態が続き、クリーパーは徐々に塹壕地形へと近付いて来る。
 ブレスを浴びながらもフラフラと近付いて来るクリーパーを、ゴブリアの殺界が切り裂いて阻止する。ヴァンゲルス・ロッドは、破脚砕を叩き込んでクリーパーの行動を阻害し、スィーリーンはアーケインストリームでクリーパーを足止めし、背後にいるエフレムを守る。
(エフレム様はレイウェスト殿下に『死ぬな』と言われたのですから、生きたいでしょう)
 ならば、尊敬し敬愛しているこのお方を、守ってみせる。決して死なせはしない。この指先で、その為のモノを生み出すまで――今も治療が続くエフレムのいる横穴を、スィーリーンは守る為にエーテルを紡ぐ。
 そんなエフレムのいる横穴を、レイウェストは心配そうな表情で見つめていた。
「……征竜もエフレム殿も、竜と超越者ゆえか、素直になれないらしい」
 しょうがない人達ですねと、セロンガード・シュタインドルフは呟く。
「背を向けた『世界の守護者』ではない征竜を説得して下さい殿下。『友』と」
「私が……?」
「はい。あなたがハッピーエンドの鍵なのです、殿下」
 その為に、自分は自分の役目を果たしてみせる……そうセロンガードは密かに決意していた。そんな二人の会話に、ベルク・オスマットが静かに問いかける。
「殿下、どうなさりたいですか?」
 ベルクは征竜の動きを警戒し続けながらも、レイウェストに強い瞳で告げる。
「一度だけでしたら、征竜の元に送り届けてみせましょう」
 それは一太刀浴びせるためかもしれない。それは対話のためかもしれない。
 どんな理由であろうと目的があろうと、レイウェストが望むなら必ず叶えてみせましょうと語りかけるベルクに「頼む」とレイウェストは告げる。
「畏まりました」
「殿下、私も出来る限りお供いたします」
 周囲を警戒しながら伝えるアルベルト・V・シュタールシュヴェーアトの言葉に、レイウェストは「ありがとう、アルベルト。心強いよ」と応えた。

「殿下の方に、向かわせはしない」
 バルディオンは、奥へ進もうとするクリーパーを食い止めるように刃を振るう。塹壕地形の外には決して出ないよう注意しながら、素早く一撃を繰り出して、クリーパーを斬り伏せる。
(隙が無い……ほんの一瞬だけでいいのだけれど……)
 征竜から距離を置きながら、その様子を観察し続けているメドゥの左腕だったが、なかなか征竜に念動力を仕掛けるタイミングを掴めない。
 そんなメドゥの左腕の様子を一瞥し、征竜は再び塹壕地形を見下ろした。

――所詮 この程度か

 隠れ、潜み、ブレスをやり過ごそうとする人間達の様子は、征竜にとって『弱きもの』としか映らなかった。
 メドゥの左腕もまた、距離を置いて自分をやり過ごそうとするばかり。
 それらは、いずれも『小さきものの、小さな抵抗』にしか見えない。

――この程度の「小さきもの」が 神となり世界の理を変えるなど

 やはり、それは『世界の守護者』として看過すべきものではない。そう再認識したように征竜は旋回した。塹壕地形に潜む小さきもの達を、ブレスで丸ごと呑み込もうとするかのように、また口を開いたその時だった。
 一つ、小さな影が躍り出たのは。
「あなたも迷っているのでしょう? 人に世界を委ねて貰えませんか?」
 それは、征竜を説得する為に飛び出したトーラだった。
 小さな彼女の大きな瞳に見上げられ、征竜は八つの眼を見開く。

――世界を 汝らに?

 その声は揺れていた。
 トーラの言葉は、世界の守護者たる絶大な力を失った征竜に、小さきものが『世界の守護者にはヒトのほうが相応しい』と迫ったも同じだからだ。神から世界の守護者の役目を与えられた竜が、神々の慈しんだ『小さきもの』にハッキリとその存在価値を否定されたのは、初めてのことだった。まして、彼らを自身より『弱きもの』と再認識したばかりだ。
 ただでさえ『力を失った』という実感がある征竜にとって、その事実は、現実は、少なからず衝撃があったのだろう。

――有り得ぬ!

 動揺しながらも高度を下げ、征竜はトーラに襲い掛かった。
 しかし、
「……! させませんよ!」
 ナハト・シュライバーはグレートボウ:炎で力を溜めたバスターアローを放ち、征竜の横っ面に炸裂させた。クリーパーが闊歩する戦場ゆえに溜めが足りなかった一撃ながらも、咄嗟の機転で放たれたそれは征竜の攻撃を逸らし、トーラの回避を手助けする。
(今しかないね……!)
 征竜がトーラからナハトへ視線を向けた隙を逃さず、グレートボウ:炎の構えのままルチルが更に弓を引き絞る。その瞬間の為にシエラ・フォン・リシェイラが掛けていた輝刃と輝腕がルチルに力を与え……一直線に飛んだデッドエンドショット:蒼雷が征竜の翼を一気に貫く!
 蒼い雷が更に一枚、もう一枚と翼を呑み込み、合計四枚もの翼が撃ち抜かれる。
「私の事『は』見るんだね」
 その眼がルチル達を睨みつけた瞬間、呟いたルチル達に向けてブレスが連続で叩きつけられた。
「通しません!」
「護衛は任せて!」
 ルチルの射撃直後にリシェイラが立てた光縛封が最初の一瞬を防ぎ、バクルがルチルを庇う。強烈なブレスを二人分浴びる格好となったバクルは耐えきれずに崩れ落ちたものの、ルチル達の傷は浅く済み、何とか後退することができた。
「メドゥの左腕殿! 念動力を! 皆々方、今こそ総攻撃のチャンスです!」
 サララがすぐさま声を張る。それに呼応するかのようにメドゥの左腕は征竜に向かって急接近すると、その頭を抑え込むように念動力を発動させた。
「今なのだ!」
 大福が飛び出し、その瞬間のために準備していた閃光塗弾の内袋を取り付けた矢を放った。途中で破けないように袋を二重にしておいた工夫もあり、それは見事に八眼の上部で炸裂する。
「下側は任せろ!」
 更にアルフィー・リッパーが跳躍しながら征竜の眼を狙って、キーゼから借りた閃光塗弾を投げつける。ネーヴェ・グラヌローザもまたピンを抜くと、閃光塗弾を素早く投げつけた。
 立て続けに叩き込まれた閃光塗弾によって、一時的に目が眩んだ征竜が大きくバランスを崩すのを見たハーヴィが、杖を構える。
「ハーヴィ様!」
「ハーヴィ、行くよ……!」
 ネーヴェが、そんな杖を淡い透明な光で包み強化すると、ユズの合体魔法が乗せられる。二人からの支援を受けながら、ハーヴィは渾身の魔弾を叩き込む。
 その衝撃に、征竜はたまらず墜落していく。
「みんな、今だよ! ……ボク等は全力で抗ってみせる!」
 征竜が地に足をつけた瞬間、エルゼリオが周囲の仲間達にウェイブ・オブ・インフィニティロアを放った。

「クリーパーの方は任せろ!」
 塹壕地形から飛び出したヴァンゲルスは暗針を握り、征竜のブレスに巻き込まれないように位置取りながら、迫り来るクリーパー達に向き直った。ミツキ・アインホルンも魔導書を構えると無数の光弾を降らせて、クリーパーを纏めて攻撃していく。レタラは征竜の射程から逃れるように位置取って、炸光矢を撒き散らした。
 麦穂の放つメテオライトが、更にクリーパー達へ突き刺さり、傷付いた中型クリーパーがバタバタと倒れていく。エリザはなお健在な大型クリーパーに向けて死角から曲射・極を撃ち込んだ。
「新手が来るぞ。向こうからだ。三体」
 彷徨い歩いていたクリーパーの接近に気付いたレタラが警告を発すると、ヴィノニスが構えた。
「豪風で呑み込んであげるわ」
 声と共にヴィノニスが光輝くエーテルを高速で収束させ、爆風を巻き起こす。ユズは、残っていた閃光塗弾を放って、迫り来るクリーパー達の目を眩ませた。
 次の瞬間、辺りに張り巡らされたゴブリアの殺界が、クリーパー達を纏めて攻撃していく。
 対クリーパーは彼らに任せ、ヴィルヘルミナは月喰いを振りかぶりながら征竜への距離を詰める。青白い炎を立ち上らせながら接敵したヴィルヘルミナは、概念破壊でその翼の一枚を根元から叩き潰して切断する。
「でっけぇトカゲの理屈で、オレ達の未来をとやかく言われる筋合いはねぇぜ!」
 その戦術眼で征竜の様子を見つめていたナキルも、素早く蒼剣アルサリアを構える。
 ……今こそ師の剣に追いつく時だ。
 稲妻さえも叩き斬ると謳われる程に素早く鋭く力強い一撃を繰り出し、更にもう一枚の翼を斬りつけた。次の瞬間、征竜の振り回した尾がヴィルヘルミナとナキルを纏めて薙ぎ払っていく中、ザザがスペルバインドを飛ばす。絡みついた光の鎖が征竜を束縛するのを見ながら、ナハティガル=ラーはクジンリーネを振り返った。
「竜は、逆鱗なる首の部位を狙われることを大層嫌がるという。そこを狙ってみるのはどうだろう」
「逆鱗か。聞いたことの無い部位だし、本当に征竜にそれがあるのかは分からないが……ともかく、狙いを絞ってみるのはアリだな」
 首というのも悪くない、とクジンリーネは笑い返す。二人はそれぞれ武器を握ると、征竜の首めがけて攻撃を振るう。
「左腕さんも……」
 エルゼリオは、メドゥの左腕にも呼びかけようとするが、反応は薄い。だが、頭を狙うこと自体は悪くないと捉えたのだろう、その攻撃は、引き続き頭部へと叩き込まれる。
「征竜様……いえ、征竜よ。我々は力と意志を示します」
 ハリス・アル・ターミルの宣言と共に、エリザたちが支援攻撃を降らせる。反対に繰り出される征竜のブレスから仲間達を守りながら、フェイサルは征竜を真剣な顔で見つめる。
「世界とは入れ物ではなく、そこに生きる命の営みの事だろう。私の――私達の守るべきは、それだ!」
 トーラの宣言を思い起こさせるような『小さきもの』達の言葉に、征竜は言葉では無く反撃で応えた。
「征竜さん! ヒルルクにいい子いい子してあげて欲しいのだ!」
 大福の呼びかけに、その必要性が全く理解できないといった様子で、征竜は大福から視線を外し尾を振るう。
「征竜様、貴方は全然分かってない! 本当にヒルルクさんを大切に思うんなら、世界の為に死ねなんて言わない!」
 ハーヴィは再び、ありったけの力を込めて魔弾を叩きつけた。そこには、ありありと怒りが灯っている。

――巫女だけではない この世界より優先すべき命など あるはずもない

「そうでしょうか?」
 淡々と答える征竜に、意を唱えたのはグレイブ・ヤードだ。
「貴方に従属すれば、きっと世界は幸福なのでしょう。しかし我らは、その軛を否定し、自ら立ち上がる事を望みます」
 征竜の言葉を全て否定するのでは無く、征竜の下で幸福を認めた上での反駁。一見緩やかに見えるも決定的な拒絶の言葉に、征竜が小さく息を呑んだのがわかった。グレイブはそんな征竜から視線を外し、皆へと呼びかける。
「征竜は強大です。しかし、かつて『ザッカ・グロムレイ』は人のまま竜を討っているのです」
 グレイブのカリスマ性を秘めた呼びかけは、レイウェストの周囲にいた帝国兵を奮起させる。ザッカ・グロムレイのように……自分達もまた、勝利を掴んでみせるのだと!

――何故 汝らは抗うのだ 何故 汝らは幸福な世界の在り方を 捨てようとするのだ

 理解に苦しむと、征竜が呻く。隠しきれない動揺を露にする征竜に向けて、リディリディ・トゥラ・イェレミースは杖の先を向けた。
「貴方は、今や人類の敵であるのにも関わらず、貴方を信じ従っていたヒルルクさんを裏切り傷つけました。どういう意図があろうと、私は決して許しません」
 リディリディにとって、ヒルルクは恩人だ。
 だから、これは私怨に過ぎない。過ぎないけれど、許せない事はある。
 リディリディは魔法陣を描きながら、詠唱で更に魔法を重ねるキャスターの技術をもってギガンティックシュートで拡大、強化された魔矢を叩き込む。すぐさま、征竜は反撃の構えを取りブレスを放った。それはリディリディを呑み込みながら辺りに土煙を立てる。
「……!」
 その土煙の間を縫って、クジンリーネが駆けた。急激に高まる殺意を感じ取った征竜が身構え、クジンリーネの首をへし折る勢いで噛み砕こうとする。
「させないよ!」
 その痛みを、傷を、トゥーリがスケープセイントで分かち合う。致命傷になりかねない程に激しいダメージを浴び、トゥーリはぐらりと体を揺らし、その場に崩れ落ちた。
(ありがとう。そのお陰で攻め込める)
 チャンスは絶対に作ってみせると……肉を切らせて骨を断つ作戦を繰り出したトゥーリに無言で感謝しながら、クジンリーネは首刈宝剣【零の剣:姫妖】に溜め込んだ力を一気に解き放った。
「その首、貰い受けるぞ!」
 盾も防具も要らない。征竜の首を刈るための、ただ一振りの剣だけでいい。
 遠い記憶がほのかにクジンリーネの脳裏に蘇る中、振るったその一撃は征竜の首を抉る。
「援護します!」
 ダニエル・ヘリントンのウェイブ・オブ・インフィニティロアが周囲の仲間達に掛けられ、アルベルト達が一気に征竜に向かって進む。征竜は残る翼を羽搏かせることで凄まじい風圧を起こし、アルベルト達を吹き飛ばそうとするが、アルベルトはぐっと地面を踏み締めて、それを堪えた。

――何故 足掻くのだ

 帝国兵やバルディオン達が周囲のクリーパーを倒しながら道を切り拓く様を、征竜は睨みつける。――更にその先には、レイウェストと、懸命な治療によって復活したエフレムが居る。彼ら二人の傍にはキオルティス達が寄り添い、クリーパーの攻撃による流れ弾で負ったダメージを即座に回復していく。
 ――それを見た征竜が渾身のブレスを放つも、それがレイウェスト達に届くことは無かった。
「ハハッ。……今この場で一番弱い傭兵が、今生きるべき男を守る、ちょっとしたイレギュラーさ」
 戦況を左右する致命的な一撃が繰り出された瞬間だからこそ、それに備えていたディアンはレイウェストをしっかりと守りきった。
「……ねえ、征竜様。ヒルルクは怪我をして運ばれていった、よ……?」
 エフレムを守り倒れたアステルにかわって前に出たティトは、じっと征竜を見つめる。そこに僅かな期待を込めて。だが、

――此処は戦いの場 ゆえに当然である

 冷ややかとも取れるその反応に、幾人ものため息がこぼれた。
(ヒルルクがメドゥの左腕みたいになったら、とっても悲しい……から。それだけは防ぎたいと、思ったんだけど……)
 ティトもまた、残念そうな表情を隠しきれない。その理由が全く理解できないといった様子で……あるいは、何も全く意に介さない様子で……更なるブレスを発動させようとする征竜を遮るかのように、ミツキがクレネルウォールを立てた。
「殺意が定まっていれば読みやすいわね」
 そのままレイウェストの護衛に入るミツキ。一歩進み出たレイウェストは、征竜に問いかけをぶつける。
「征竜よ。貴方は『世界の守護者』としてこの世を護ってきた。だが、今や貴方だけの力で世界は守れまい。ならば人と竜は手を取り合い、共により良き世を目指すべきではないか?」
 戦うだけではない、一つの道を模索しようとするレイウェスト。その言葉に、自分に抗い続ける者達の姿を前に、征竜は迷いながらも『世界の守護者』として答える。

――小さきもの達よ 我は『世界の守護者』
――真にこの世を護るに相応しきが ヒトであるならば

――その力を示せ

 征竜は、どこまでも折れない、折れることを許せない生き物であったのだろう。
 だが、冒険者達から無数の攻撃を浴び、クジンリーネに首を半ばまで抉られて、征竜は既に満身創痍といった様相であった。更に、ユズのアーケインテンペストが纏わりついて、その移動を阻害する。
 そこを素早く、皆が取り囲んだ。そんな仲間達に向かって、キーゼがウェイブ・オブ・インフィニティロアを放ち、エーテルを増幅させていく。
「頼もしい仲間達と一緒だからな、安心して戦える。……ここで決着をつけてやる!」
 アルフィーは跳躍すると、トリプルファングで征竜の背を次々と連続で切り裂いた。その後ろから、エリザの射撃による不意打ちが征竜に飛ぶ。反対側から麦穂のメテオライトが飛び、更にヴィノニスの魔弾が炸裂すると、ザザは魔錆を撃ち放ち、征竜の肉体を更に脆くさせる。
「誇り高き竜よ。これより先は人の時代だ」
 そこへ詰め寄ったナハティガルの一撃が征竜の首を突き、ゴブリアの妖刀「血啜」から斬撃が飛んだ。その後ろから飛んできたナハトの矢が、更に征竜の眼を貫く。
 そんな彼らを纏めて、征竜の尾が次々と薙ぎ払っていく。ネーヴェはすぐさま、ハイパーヒーリングオーラを放ち、回復を試みた。
「絶対に皆様と生きて帰りますわ……!」
 決して、誰も失わせたりしない。その意識はダニエル達、他の回復手も同じだ。傷が癒え切らない者達には、ダニエルのワイドヒールプラスが飛んでいく。
「とことん付き合うと決めましたからね。勇姿を目に、末代まで語り継がれる詩にしましょう」
 それなら自分は、攻撃に転じよう。リシェイラはセイントスラストを放つ。その後ろから、更に飛び出して来たトーラが流水を放った。
「わたしを、見て!!」
 この想いが消えないうちに、刺し違えてでも倒してみせる……その名の通り、流れるような四連続攻撃が、征竜の首の傷を更に深めていく。背中を大きく揺らして、征竜はそんなトーラごと、後方にいるレイウェストやエフレムをも巻き込んでブレスを放つ。
「させません……!」
 セロンガードは咄嗟にブロックアローを放った。反射的なその一撃は、しかし確実に征竜の動作を邪魔をする。レイウェストは咄嗟に飛び退いて、ブレスを避けていた。
「トゥーリ、フェイサル殿……ターミルの同胞よ、私に力を……!!」
 ハリスは大切な二人の名を、心の支えたる皆の姿を脳裏に浮かべながら、エフレムに炸裂するはずであった攻撃から彼を庇った。その無事を確認しながら、アルベルトはシュトルツを構えると大嵐無双剣を叩き込む。
「殿下、今です」
 妹のヤウズ・オスマットと共に征竜に肉薄したベルクは、狐惑幻影でレイウェストと入れ替わった。それを確認したヤウズは、すぐさまレイウェストの為の肉盾になる決意で寄り添い、いつでもクレネルウォールを出現させられるように構える。
「この世界は、必ず護る」
 レイウェストは征竜の虹宝剣を振りかぶり、もはや身動きも儘ならぬ竜へと、そう宣言した。

マスターコメント

「【帝国】決戦:混沌の夜明け」へのご参加ありがとうございました。お疲れさまでした! 皆様から頂いた沢山のプレイングの結果、皇帝ヨゼフ・バルダスと征竜は倒され、アストラル界に通じる穴も無事に塞がれました。 最終決戦の結果は、大成功です。 ご参加いただきました皆様に感謝申し上げます。 「特別褒賞・負傷者一覧」とエピローグノベルも更新しておりますので、TOPまたは連動特設ページからご確認くださいませ!
決戦シナリオ

決戦シナリオ非常に難しい 報酬:多い133 / 1〜9999人

2024年01月11日 11時26分15秒 公開

大成功

参加者

相談掲示板

  1. トーラ

    シーフのトーラです。 戦域2に参加する予定ですが、他の戦域に参加する方も合わせてよろしくお願いします!

  2. グレイブ・ヤード

    戦域2 精神的なものを含めて支援をする予定です

  3. レピド・クロサイト

    レピド・クロサイト、シーフだ。よろしく頼む。 戦域3へ行く。

アーカイブ生成日時 2026年08月05日 14時56分25秒 ・ world0