【蠱毒】決戦:竜へと至る道
アルパカコネクト運営
コメント 46
シナリオID:764
オープニング
「『泥血啜る月吸蟲』の所在が判明した。そなたら冒険者たちの働きの甲斐あって、な」
ディズル大湿地帯のギシュム族集落にある集会場で、シルトラース帝国の皇子レイウェスト・バルダスは目前に居並ぶ冒険者たちへと厳かに告げた。
「私とエフレムはこの後、ディズル大湿地帯のリザードマンたちと共に封印地帯へと向かい、月吸蟲への攻撃に参加することになる」
そこでレイウェストは自らの傍らに控える護衛騎士のリザードマン、エフレムをちらりと見やる。
それに対しエフレムは返事をするでもなく、ただ静かに頷いて見せた。
「しかし実のところ、私たちの課題はそれだけではない。このディズル大湿地帯の影で暗躍を試みる者たちがいる――メドゥの指先だ」
レイウェストが宣言したように、現在、大湿地帯では人為的な事件が次々と起こっており、今はそれらの事件の首謀者がメドゥの指先に属する者であることが判明している。
「そこで、そなたら冒険者に依頼したいことが、主に四つある」
右手の指を一本ずつ順番に立てていきながら、レイウェストは説明の筋道を示す。
「一つ目。私たちと共に月吸蟲の攻撃に参加すること」
先程レイウェストが述べたように、レイウェストとエフレムは共に月吸蟲を封印する地帯へと向かうことになっている。
ギシュム族により選抜されたリザードマンの戦士に同行する形とはいえ、それだけの戦力では大きな犠牲を伴うことは免れないだろう。
ここで冒険者たちに求められるのは、月吸蟲を叩くと共に、その周囲に跋扈するクリーパーも退治し、味方の損耗を防ぐことである。
「あの毒虫めについて、説明しておこう」
ここでギシュム族の大酋長であるアシムベート・グリオウが話を引き継ぐ。
アシムベートの説明によると、月吸蟲の周囲には毒を含んだ紫の霧が常に漂っており、月吸蟲に近づく者はその影響下に置かれることになるらしい。
また、月吸蟲は体表から無数に生やした猛毒を帯びた触手により、周囲を薙ぎ払うように攻撃を行ってくるのだとか。
「触手を切り離しながら戦いたいところではあるのだが、痛打を与えた際、あの毒虫めは麻痺液を噴き出してくるのだ」
眉間にしわを寄せて月吸蟲のやっかいさを語るアシムベート。
この麻痺液は周囲一帯に散布されることになるので、近くにいればその時点で回避もままならない。
回避を主体に立ち回る者にとっては、鬼門となる能力であろう。
「また、あの毒虫めは再生能力も持っておる。ゆえに、目指すのはエーテルの消耗による封印の強化ということになる」
月吸蟲とリザードマンの戦いには、千年を優に超える歴史がある。未だ討伐に至っていないことについて、アシムベート自身も歯がゆく思っているのだろう。
その表情はいかにも悔しさに歯噛みしている、といったものだった。
「エーテルを消耗させるほど、あの毒虫めも本気を出してくるであろう」
アシムベートは最後に、くれぐれも注意してかかるように、と付け加えた。
「二つ目。これは月吸蟲を封印する結界の強化作業だ」
ここでレイウェストが全体の流れの説明に話を戻す。
封印地帯の結界は、エーテルを清浄化した石垣と川により構成されている。
内部の乱れたエーテルによる侵食で崩れた石垣を組み直し、月吸蟲の攻撃により漏れ出したエーテルを浄化して結界に再利用する儀式が行われるのが、この戦場だ。
冒険者たちに依頼されるのは、石垣を組む作業そのものや、作業を妨害する敵の排除となる。
「三つ目。メドゥの指先幹部に対処して欲しい」
「この幹部というのが、我がギシュムがかつて追放した魔術師、ラスリャマスだ」
レイウェストの言葉を継いで、アシムベートが再び口を開く。
ラスリャマスはかつて、同胞の卵を生贄に魔術の実験をしようとしたことを理由に、ギシュム族を追われていた。
その後、メドゥの指先に拾われて幹部になっていたらしく、ディズル大湿地帯で暗躍を繰り広げていた。
「このたび、その拠点が明らかになった。奴めは儂らが月吸蟲へ攻撃を加えている背後をつくつもりらしい。そこで今回、先手を打って儂は奴めの拠点に切り込むことにした」
どうやらアシムベートは月吸蟲の攻撃には参加せず、ギシュム族の大酋長として落とし前をつけにいくつもりのようだ。
冒険者たちはアシムベートと共に、月吸蟲攻撃の背後をつこうとするラスリャマスに対処するという運びだ。
「奴めのことだ、攫った子らをどのように扱っているかは分からぬ……だが、もし仮に助けられる命があれば、救ってやってほしい。こちらから打って出るのは、そのためでもある」
アシムベートは最悪の事態を覚悟してうなだれながらも、声は力強さを失っていなかった。
「そして四つ目。防備が手薄になるであろう、リザードマンの集落を防衛して欲しい」
レイウェストの右手が四本目の指を立てる。
大湿地帯のリザードマンたちも、そして冒険者たちもあちこちに手を取られている現在、集落に悪さをしたい者にとっては絶好の機会となっている。
この隙に乗じて悪さをしようとする者からの集落の防衛、これが冒険者への依頼事項だ。
「このように、そなたらの助けを待っている場所は数多くある。どうか、そなたらの力を貸しては貰えないだろうか」
レイウェストは冒険者たちをぐるりと見渡すと、演説のような、張りのある声で最後の言葉を言い切った。
●
「……大した威圧感だな」
封印地帯を覆う霧が風に運ばれて途切れた隙間から、姿を見せた月吸蟲を見て、レイウェストは呟いた。
月吸蟲の禍々しい色合いの体表からは何本もの触手が生えてうねり、常に紫色の毒霧を周囲に噴き出している。
「殿下は拙のもとから離れぬよう……」
エフレムも月吸蟲の姿を遠目に確認次第、使役するクリーパーを召喚するため、術式を組み上げるのに没頭し始める。
「帝国を取り戻すためにも、リザードマンたちの助力は欠かせない……ここで失うことのないようにしなければな」
レイウェストは覚悟も新たにし、腰に帯びていた剣を抜き放つと、エフレムを狙って現れた中型のクリーパーへと向かった。
●
封印地帯を囲む結界、つまりは石垣の周囲でも、急ピッチで作業の準備が進められていた。
石垣に埋め込まれた要石の各々には、ギシュム族から派遣されたリザードマンの術師が配置されており、月吸蟲への攻撃により漏れ出るエーテルを再利用して封印を強化する儀式に従事しようとしている。
月吸蟲へ攻撃を加える目的は、もとより弱まった封印を再強化することにある。
結界の強化を終えない限りは月吸蟲への攻撃班も引き上げることができず、作業の遅れはそのまま犠牲者を出すことに直結する。
しかし、そのような重要な作業を妨害する存在があった。
一つは猿型の魔獣、モアギブンス。
もう一つは、リザードマンのスケルトンだ。
さらにスケルトンの中には、石材を運搬する者や強化作業者、術師を複数体で連携して狙うなど、知性を感じさせる個体が混ざっているように見える。
「ふははは! 『前回』の宣言通り、今度は儂も全力で挑むとさせて貰おう!」
スケルトンの群れの中で、ローブに身を包んだ何者かが瞳をぎらつかせていた。
●
アシムベートは部族の者を数名連れ、先陣を切ってメドゥの指先の拠点へ踏み込もうとしていた。そして、拠点と目される地点へ近づいたとき、まさに竜へのなりそこないとでも言うべき風体の、緑の鱗を持った巨大なリザードマンが湿原に立っているのを、アシムベートは見た。
「こうしてまた会うことになろうとはな、ラスリャマス」
「貴様は封印地帯で我が儀式の素材として捕えてやろうと思っていたがな、アシムベート。まあいい、こちらから出向く手間が省けたというものだ」
アシムベートは不完全な竜の傍らに、ある人物の姿を認め、忌々しそうに声をかける。
そこにいたのは、紫の鱗を持った隻眼のリザードマン、ラスリャマス。
「貴様らの信じる来世とやらの土産に、いいことを教えてやろう」
ラスリャマスはそう言って、自らの傍らに立つ巨大なリザードマンを見やる。
「こいつは元はターミルから連れて来た個体だ。冒険者が邪魔立てしたせいで、このたびの実験は不完全なものであった。だが、かつて私の左目を奪いし武人アシムベート、貴様を素材にすれば、今度は竜に変じるための儀式も完成するであろう。竜の高みへと上れる栄誉を喜んでいいのだぞ」
「ターミルから……まさか、ディノという少年が攫われていたと聞いたが、その者なのか」
ラスリャマスの言葉に、アシムベートは唸る。
「……少年を元に戻せ、と言ったら?」
「無駄なことよ。そもそも、儀式で注ぎ込んだエーテルを使い果たしでもせぬ限り、元に戻ることはなかろうよ」
アシムベートに睨みつけられながらも、ラスリャマスは平然と答える。
「このっ!」
激高したアシムベートは、手にした大剣でラスリャマスに切りかかる――。
「なに!?」
しかし、ガインッ、と甲高い音が鳴り響き、アシムベートの大剣はラスリャマスに届く前に弾かれる。
さらにギシュム族のリザードマンの一人が、戦力の分断を図ろうと光の檻でラスリャマスを封じようとするも、それも打ち消されてしまった。
「だから貴様らのすることは無駄だと言ったのだ。私の結界は、貴様らには破れはせぬ」
ラスリャマスがそう呟くと、近くにいたメドゥの指先の配下から半透明のエーテルが吸いだされ、それによりラスリャマスのまとっていた結界の傷が修復される。
「観念するといい、アシムベート――私の手に落ちよ!」
ラスリャマスのその言葉を号令とし、配下の内の数人が一斉にアシムベートへと襲い掛かった。
それを皮切りに、不完全な竜へと化したディノも、その長大な尾を振り回しながら、なりふり構わず暴れ始める。見れば、ディノの背には翼のようなものが生えかけている。このまま変異が進めば、近隣の集落へ飛翔していき、そこで被害を生みかねない。
「ぐっ……! ラスリャマスの狙いは儂にあるようだ。冒険者よ、なんとしても少年をここで止めてくれ。もし可能であれば、少年を元に戻してやって欲しい」
アシムベートは大剣を盾にラスリャマス配下の攻撃を受け止めながら、アシムベートは冒険者たちへ自らの願いを口にした。
●
「鍬は持ったか!」
「おう、こっちの準備は万全だ!」
農具を得物に立ち上がったのは、リザードマンの農民たち。
ここはリザードマンの農業集落、ベズイだ。
現在、ベズイのもとには、大量の雲霞鳥が押し寄せていた。
その数は実に数千体にも上る。
この未曽有の危機に、近隣の集落からもリザードマンたちが応援に駆けつけており、その中には同じく農業集落であるターミルの者も含まれる。
「デカいのが混ざってるみたいだな……あれは冒険者に任せたほうがいい!」
農民たちが対峙する雲霞鳥の群れの中には一部、特異個体の姿が見られるようだった。
それらの特異個体が群れを率いているのか、雲霞鳥たちは地上のリザードマンの動きに対応するかのように集合と散開を繰り返し、ベズイへと迫ってくる。
進路上にあった他の集落は、徹底的に破壊し尽くされたという。雲霞鳥たちが本能のままに集まり、行動した結果とは思えなかった。
「こりゃ、裏で雲霞鳥を操っている誰かがいるかもしれないな」
「集落の者に当たってみよう。何か手がかりが掴めるやもしれん」
雲霞鳥とのつきあいも長いベズイの農民たちの勘は告げていた。
この雲霞鳥の襲撃にも、裏で糸を引いている誰かがいる、と。
解説
マスターより
リプレイ
●
どんよりと紫の煙が漂う中で、毒々しい原色に覆われた巨体が異彩を放つ。
ディズル大湿地帯に住まうリザードマンたちの宿敵『泥血啜る月吸蟲』に、冒険者たちは今まさに対峙しようとしていた。
「レイウェストさま! ゴールディの一員として参戦いたし、ます!」
「ああ、そなたらの助力、私も心強く思う」
どこかぎこちない敬語で宣誓を行ったのは、ゴブリンの癒し手、ギャメルだ。
レイウェストから力強く返事が得られたことに喜んだギャメルは、月吸蟲へ攻撃を加えようとする者たちの武器に、張り切って強化の光を施していく。
ギャメルは強化を一通り終えた後、重傷者が出た場合の回復に備え、レイウェストの近隣で待機する。
強化の光をギャメルから受け取った冒険者たちが、月吸蟲に向け打って出る。
「背中は任せたぞ、ベニテング」
背後の警戒をする相棒の大鼬に声をかけ、テテリカが魔弓を引き絞る。
鏃にエーテルをまとわせた矢が月吸蟲の触手に突き刺さり、穿たれた傷口から紫の体液が激しく噴き出す。
麻痺液の噴出を伴う触手への攻撃は、できるだけ味方が月吸蟲に接敵する前に行っておこうという気遣いだ。
「私が道を作ります」
月吸蟲へ近づこうとする者たちを集めて水上歩行の魔法を施していた、リコリス・アデュラリア。
リコリスは俯瞰するような視点を得て戦場を見渡し、月吸蟲への進路上を塞ぐクリーパーの配置を把握する。
「流星よ」
ごく手短な詠唱により完成したリコリスの魔法の光弾が、雨あられとクリーパーたちに降り注ぐ。
「あわわ……まさかあの人が帝国の皇子様だったなんて……」
トーラが人影に隠れて、何やら挙動不審になっている。
「……決めた! この戦いが終わったら、皇子様に気持ちを伝える!」
やがてシャキッと背筋を伸ばしたトーラは、皇子様に敵を近づけまいと、エーテルの波動を霧の中に走らせ発見したクリーパーに光弾の雨を叩き込む。
「ナハシュ君、今だ。やってしまえ」
「おうとも、任せとけ」
ヨル・スレイマンの解き放ったエーテルの作用により、大きく身体能力が強化されたナハシュが月吸蟲へと駆ける。
月吸蟲の毒霧噴出孔を塞ごうと狙う【虫管】の二人だ。
ナハシュは高められた反応速度を生かして触手をかいくぐり、一気に月吸蟲へ近づく。
そのまま噴出孔の一つに傷口を作ると、格納用の異界から取り出した岩を詰め込むことに成功した。
「ぐっ……!?」
しかし、その際ナハシュは噴霧された麻痺液を直で浴びてしまっていた。
咄嗟に残像で回避を試みるも、辺り一面に散布されたそれを完全にかわすことはできなかったのだ。
「大丈夫か、ナハシュ君?」
ヨルが駆け寄り、月吸蟲の体表から転げ落ちたナハシュの治療を行う。
その間にも、二人に対し触手は容赦なく襲い掛かってくる。
「月吸蟲とやら、近寄りたくねぇ面ァしてやがるなァ」
その様子を鋭い視覚で霧を通して見ていたアウル・アンサラーが、ギリギリと弓の弦を引く。
「さぁて、報酬のためにバケモノ退治と洒落込むかァ!」
アウルの弓からヒュンッと音を立てて放たれた矢が、肉体を蝕むエーテルとともに月吸蟲の顔に突き立った。
「あの毒は厄介ですね、距離をおいて攻撃したいのは確かです」
自らのかけた水上歩行の魔法で沼の水面に立つヘレム・カースワーズが、月吸蟲へ強力な呪法をかける。
それにより月吸蟲の魔法能力が低下したところへ、ヘレムによる魔法の光弾が着弾した。
その瞬間を逃さず、月吸蟲へと駆けるリザードマン戦士たち。ヘレムは霧に紛れるクリーパーに彼らが背後を突かれぬよう、注意深く周囲を見渡した。
「サポートは頼んだよ」
「ええ、お任せください」
他方、エリック・ハルトマンとルーカ・ルンガルディエールの二人【ツインズ】もまた、月吸蟲に迫る。
噴出孔の一つが岩で塞がれ軽減されたとはいえ、未だ月吸蟲は周囲に毒霧を噴き出している。
少しでも毒霧の影響を弱めようとルーカは布で口元を覆い、エリックは持ち前の生命力で毒に耐えていた。
「合わせて!」
「はい!」
エリックが大剣に体を脆くするエーテルをまとわせ月吸蟲へ切り込んだのに合わせ、ルーカによる魔法の矢が月吸蟲に刺さる。
月吸蟲がうっとうしそうに振るった触手を、ルーカにより強化の光をまとった盾で受け止めるエリック。しかし、その威力にエリックは大きく後ずさりを余儀なくされてしまう。
「ああ、僕が、私が必要とされている! 素晴らしい!」
月吸蟲の攻撃により傷ついた者たちを、【狂咲】のギーゼラは興奮気味に癒して回る。
「ふふ、私が痛みを怖がるとでも?」
月吸蟲から触手による一撃を受け、ギーゼラは額から血を流しながらも、痛みを抑え込んで壮絶な笑顔を浮かべる。
ギーゼラはお返しにと、魔力を込めた戦槌を触手へと見舞った。
「ここはボクが!」
ミーミル・ロッポラが割り込むことで、再びギーゼラに向け振るわれた触手が受け止められる。
「みんな頑張ってるんだもん。大丈夫だよ、このくらい」
深い傷を負いながらも、ミーミルは笑みを崩さない。
ミーミルは月吸蟲の攻撃を引きつけようと、月吸蟲に殺気をぶつけながら斧を振るった。
「とにかくこの蟲を封印しないと何も始まらないのよね?」
ヴィノニスが我が身をかえりみず、魔法を紡ぐのに全神経を集中させる。
エフレムやレイウェストの負担を少しでも減らすため、ヴィノニスは全力の魔法を月吸蟲へと放ち続けた。
「よーし、私の持てる全力をぶち込むよ!」
自らに水上歩行の魔法を施し、魔法の照明で周囲を照らすのはニーラ・メッコ。
ニーラが渾身の魔力を込めて放った光弾の群れが、月吸蟲へと殺到する。
それにより、月吸蟲の触手の表面が千切れ飛び、またも戦場に紫の雨が降った――。
●
レイウェストとエフレムの周囲で【白翼騎士団】の四人は迫りくるクリーパーを排除していた。
「ほらそこ、ぼさっとしない!」
索敵用エーテルを沼に走らせたアルト=ミルドレッド=バ・ロッサが指差したその先から、ぬらりと身を起こすようにクリーパーが現れる。
感覚共有したゴリラにクリーパーの足止めをさせたアルトは、魔弓で攻撃方法を切り替えながら、その通り具合を確かめる。
「なるほど、そこに隠れていましたか」
発見されたクリーパーに対し、惑わすような軌道で振るった大剣から衝撃の刃を飛ばすアクセル・ランパード。
「急がば回るのも英雄への近道、ここは守りで耐えましょう」
挑発により釣り出したクリーパーの攻撃を、フリーダ=ブロムヴィストが瞬間的にエーテルを収束させた盾でガッシリと受け止める。
絶え間なく戦闘が続く中、透視能力を発動する余裕はなかったものの、周囲を俯瞰するような視点によりフリーダは新手の出現にも早急に対処することができていた。
「殿下のことは俺がお守りするぜ!」
「ああ、頼もしく思うよ」
アルベルト=V=シュタールシュヴェーアトが輝く大太刀を鋭く振るい、メンバーの攻撃により弱ったクリーパーの一体を真っ二つに切り飛ばす。
それを見たレイウェストも、剣を手に別のクリーパーへと疾駆する。
レイウェストに横槍を入れようとしたクリーパーたちに、アルベルトは大太刀にまとわせた巨大な光の塊を叩きつけた。
「邪魔立てはさせませんよ」
そしてアクセルはエーテルの刃が伸長した大剣で一帯に圧をかけると、レイウェストを追いかけるクリーパーたちをまとめて切り刻んだ。
「サニー、そっちへ回って」
「オッケー、ゼーくん!」
さながら月と太陽のようなゼラルム・エルホワイトとサニー・フォン・オルライトは、二人で【月陽】だ。
ゼラルムから水上歩行の魔法を受け、水上を自在に駆け回るサニーは、鋭い聴覚で見つけ出したクリーパーを、両の手の爪と細剣で切り刻んでは、ヒットアンドアウェイを繰り返す。
サニーが弱らせたクリーパーを、ゼラルムは生命力を転化した魔法の弾でとどめを刺し、さらに召喚した雷光で新たに出現したクリーパーを足止めする。
そのようにして、二人は味方の手が足りない場所を転々とし、遊撃的に動き回った。
「シア! クリーパーをそこから通すんじゃないよ」
感覚をともにしたゴリラに敵を足止めするように指示を出したのは、エリザ・A・ミシャール。
シアと呼ばれたゴリラは大きく腕を広げ、エフレムに近づこうとするクリーパーの行く手を阻む。
エリザ自身は月吸蟲を射程内に収めながら、エフレムの攻撃タイミングに合わせて魔法で霧を吹き飛ばすべく機を窺う。
「ボクのこれは狩りなのです」
赤いフードの下から目を光らせ、ユネスコ・ビスコはギリギリと引いた弓から放った矢で、ゴリラに殺到しようとしたクリーパーの一体を射抜く。
ユネスコは継戦能力維持のため、窮地に立つ味方を狙う敵を優先して排除していく。
矢継ぎ早に次の矢を装填したユネスコは、動き回る労力を抑え、位置を固定しながらの狙撃を続けた。
「必要となれば我が担いでやろう。動けなくなっても安心するのだな、エフレム殿」
ベルク・オスマットは集中して魔力を高め続けているエフレムに声をかけながらも、鋭い聴覚でとらえたゴボゴボッと沼が鳴る音へと向かう。
見立て通り泥中から現れたクリーパーを、ベルクはエーテルの光をまとわせた短剣で切りつけ毒に冒す。
「敵が近づくのが遅れれば、それだけ楽になるのは確かでしょ?」
レヴァーレ・クアルムがマントを翻すと、その手には魔導書が握られていた。
霧によって薄暗い戦場に暗視能力で目を凝らしながら、レヴァーレは魔導書をめくる。
すると球状のエーテル光が現れ、遠方から近づくクリーパーたちにまとわりつくと、その進攻を遅らせた。
「悪いが近づく前に倒れて貰おうか」
足を止められ、もたつくクリーパーたちの中心へ、セリオス・オーガストがエーテルを込めた矢を撃ち込む。
鏃に込められたエーテルは光の礫となって炸裂し、クリーパーたちの体表に無数の穴を穿った。
そうしてクリーパーたちに矢を射かけつつ、セリオスは温度を可視化した視覚で油断なく周囲を警戒し続ける。
「陰気な場所ですね。ここに骨を埋める気はないですよ。ちゃんと帰れるようにするとしましょうか」
エーテルによる索敵で霧に潜むクリーパーを発見したオゴスは、距離をとりつつ眩く光る魔法の矢でクリーパーを撃ち抜く。
オゴスは最終的な撤退も見据えて余力を残しつつ、安全地帯まで最短ルートをとれる位置取りを保つことを心がける。
「この場の主役はむしろ私たちです! 存分に力を発揮してください!」
ユークリア・フィナンシェが【喫茶】のメンバーに武器を強化する支援を施しながら、活を入れる。
集まった【喫茶】はユークリアを含め七人に上っていた。
「ユークリアは俺から離れないようにな」
アルフレッド・エルグランドがユークリアを狙うクリーパーの前に立ち塞がり、攻撃を受け止める。
ユークリアのことを、アルフレッドは無自覚に妹のように見ている節があり、守らなければいけないという意識を抱いているのだ。
「ん、御守り程度だがな」
パヴェル・A・サムルガチェフは【喫茶】の仲間を集めて、水上歩行の魔法を施す。
クリーパーの配置を戦場を俯瞰するような視点で見極めたパヴェルは、からみつく雷光でクリーパーたちを足止めしつつ、降り注ぐ光弾をお見舞いする。
「そっちにもう一体来てるよ」
体に泥を塗り、沼の景色に溶け込むように隠密していたエルナ・クルプファルツが、仲間たちへそっと情報を伝える。
索敵に特化したエルナは、エーテルの波動、優れた聴覚、感覚共有した栗鼠とその分身と、持てる手段を尽くして次々と敵の潜伏場所を洗い出していく。
「じゃあ私が向かうわ」
水上を駆けるカメリア・ローレンスが、エルナの指し示したクリーパーの迎撃に回る。
カメリアが両の手に持つ短剣と剣が閃くたび、クリーパーの体表に傷が刻まれていく。
機動力を生かし、カメリアはクリーパーを翻弄していった。
「そちらの方々、そろそろ交代を!」
感覚共有した狼を先行させつつ、エルナからの情報も併せて戦況把握に努めていたマリイ・パルティスが、友軍のリザードマンたちに指示を出す。
「きっと大丈夫です。皆さんの背中を守りますから!」
負傷したリザードマンを励ましつつ、マリイは横槍を入れようとするクリーパーを弓で牽制し、【喫茶】の仲間のもとへと後退する。
マリイは負傷したリザードマンを仲間へ預けながら、途中見かけた敵の配置を共有した。
「どうも、お怪我は僕が治療しますので」
後退してきたリザードマンの治療を担当するのは、キーゼだ。
キーゼはリザードマンたちの負傷度を見分け、軽傷の者は癒して前線に送り、傷の深い者は時間をかけて治療を行なっていく。
もともと体力のある者が重傷で送られてきた場合には、強力な回復手段で一気に立ち直らせたりもした。
もとより、レイウェストは帝国奪還にリザードマン兵を借り受けるため、月吸蟲攻撃に参加したのだ。
こうしたリザードマンたちを気遣った行動は、最終的にリザードマン兵の犠牲を抑えることに繋がり、大きな意味を持った。
「……拙の準備はできました」
エフレムの言葉を聞き、レイウェストが合図を送ったのを確認した【喫茶】のメンバーたちは、月吸蟲の攻撃に加わっていた者たちに退避を促す。
そしてエフレムにより召喚されたのが紫色の鱗を持つ巨大な蛇――紫電蛇だ。
紫電蛇はエフレムの命に従って雷へと変じ、月吸蟲を激しく打った。
目もくらむほどの光が辺り一面を照らし、大地をも揺るがす凄まじい轟音が響き渡る。
並大抵のものは熱で蒸発させてしまうような落雷に対し、しかし月吸蟲の姿はなおそこに在った。
体表を焼けただれさせ、触手の大半が千切れ飛びながらも、その傷を見る間に再生させようとしている。
「これだけやって結界の強化完了の合図はまだですか……! 皆さん、もう少し持ち堪えますよ!」
それを見たユークリアは、凶暴化する月吸蟲の最初の一撃を防ぎとめるべく、自分たちと月吸蟲との間を塞ぐように光の柱を召喚し、これによりエフレムが無防備になる致命的な一瞬に月吸蟲の攻撃を受けるという事態は防がれたのだった。
●
「さっきより明らかに強くなってる……! 此処が踏ん張り所だよ――皆、頑張って!」
月吸蟲の様子を観察し続けていたエルゼリオ・レイノーラが、友軍たちに注意を促す。
開戦時に冒険者たちを大きく強化する支援を行っていたエルゼリオは、【黒虹】として四人で戦場に臨んでいた。
さらに【黒虹】の仲間たちの反応速度を強化し、月吸蟲からの攻撃に備えるエルゼリオ。
「でもあと少し、エーテルを吐き出させたら結界の強化も終わるはずよ――殿下のためにも負けられない!」
ザザ=ステルヴィナも水上歩行の魔法により【黒虹】の仲間を支援していた。
月吸蟲の進攻を少しでも抑えようとザザは絡みつく雷光を設置しつつ、生命力を注ぎ込んだ魔法の弾で月吸蟲の眼球を撃つ。
「――終いにしてやる」
それまで脆い場所を狙っての三連撃を続けていたナハティガル=ラーが何もない宙を踏みしめ、空を駆ける。
一時的に潰れた眼球の側へ回り込み、ナハティガルは月吸蟲の死角から必殺の一撃を叩き込んだ。
再び辺り一帯に充満する麻痺液の飛沫。
ナハティガルは即座に距離をとり少しでも麻痺液の影響を軽減しようと試みた。しかし、全てをかわし切ることはできず膝をつく。
「エフレム様のあの一撃を受けても健在だなんて、よっぽどね」
ナハティガルが後退する隙を作るべく、アウレーリア・フォン・ネーベルベルクは月吸蟲から魔法に対する耐性を弱め、そこへ魔法の弾を叩きつける。
アウレーリアはエフレムの召喚術発動時にも月吸蟲の魔法力を衰えさせていたのだが、それでも倒しきれなかったのだから、大型クリーパーというのは何とやっかいな存在であることか。
「大丈夫かい、ネーベルベルク?」
ナタリア・フィッツジェラルドが、後方まで届き始めた毒霧にむせ込むアウレーリアの体から毒を取り除こうと、治療にあたる。
「月吸蟲もあれでいて堪えているものと見える」
情報を得ようと月吸蟲を観察し続けていたナタリアにはよく分かる。
これだけエーテルを消耗させていれば、封印の完成も近いであろうと。
「私は結界の強化に向かった方々のことを信じています……!」
真正面から月吸蟲に戦いを挑むイヴェール・イリュジオンが、武器にまとわせた光の塊を、月吸蟲の頭部で炸裂させる。
長時間に及ぶ戦いで、毒霧の影響を色濃く受け始めたのを感じたイヴェールは、月吸蟲から一旦距離をとるため、後方へ下がろうとする。
しかし、それを追うように月吸蟲の触手が迫り――。
「そうだよ! だからこんなところで倒れちゃダメだ!」
その触手をバクル・バスリーが体を張って受け止める。
バクルの顔は、毒霧の影響を少しでも防ごうと布で覆われていた。
「ここは、ぼくの踏ん張りどころだね。倒されちゃったこともあるけど、今回こそは守りきって見せるよ」
触手から受けた大きな衝撃に膝から崩れ落ちそうになるのを、どうにか耐えるバクル。
結界強化完了の報せは、果たして届くのであろうか――。
【2】封印結界強化作戦 前編 (執筆担当マスター:革酎)
●
石垣の要修繕箇所は広範囲に亘るが、特に損傷の激しい箇所では冒険者も修繕活動に従事していた。
「さて、効果の程は」
ハッタ・ムラムラは絵パンダを吊るすという奇行に出ていた。その意味するところは余人には分からない。祈りの力に、ハッタは渾身の念を籠めていた。
一方でヴィルヘルミナは、資材運搬や破損箇所の修繕に持てる力を大いに発揮している。
「ここの修繕を終えたら次はその足場下です。先に資材を集めておいて下さい」
「うん、分かったよっ!」
ヴィルヘルミナの指示は明瞭だ。アシュリー・レドルナンは力仕事は好みではないがここでの作業は気楽で、積極的に当たることが出来た。
不意に頭上で乾いた衝撃音が響いた。直後には血に濡れた二体の猿が落下。仕留めた猿を追う様にして、ブルーテ・ビシアの着地姿勢がふたりの視界に飛び込んで来た。
「すまん、邪魔したな。ところで進捗は?」
得物を鞘に収めるブルーテが問いかけた。ヴィルヘルミナは、まぁそれなりにと肩を竦めた。
「レドルナンさんがよく動いて下さるお陰で、少しずつですが順調ですよ」
「そぉかなぁ? ありがとね!」
褒められて、はにかんだ笑みを浮かべるアシュリー。それでも無駄に手を止めず、指示通りの作業を続けるのは流石だった。今の所、憂慮すべき事態になっていないことも大きい。
それにしても、とブルーテは頭上を見上げた。叩いても叩いても、猿の群れは次々と湧いてくる。面倒な相手だった。
「必要なら私も参戦します」
「なるべくそうならない様に何とかするさ」
ヴィルヘルミナに応じつつ、ブルーテは別の位置に猿を発見したのか、険しい表情のまま石垣の垂直に近しい壁を一気に駆け上っていった。
●
睡狼隊は様々な任務のもとで動いている。
例えばエヴァン・ピオネロは膨大な水流を放って堀を構築し、スケルトンの群れの侵攻を食い止めていた。
「これもいつまで持ちますかね?」
次なる術式の発動態勢に入っていたエヴァンは、敵の人海戦術に閉口していた。
そこへエルシー・サリバンが戻ってきた。泥を利用して敵の動きを止め、結構な数を仕留めたが、敵の雪崩の如き勢いには抗い切れなかった。
「何だよ、あの数は」
方々を索敵してきたが、どこも接敵の連続だ。初期配置に誘導しても、別方面から敵が押し寄せてくる。
「どうか我等に守護の光を」
愚痴が止まらないエルシーの傍らで、ネーヴェ・グラヌローザが静かに祈りを捧げた。
エルシーもエヴァンも有効策を打ち出しているが、それは適正数を叩く場合の話だ。この数が相手ではどこまで抑え切れるか。
「やれることは全部やりましょうか」
「ええ。微力ながら全力を尽くして参りましょう」
溜息を漏らすエヴァンにネーヴェは頷き返した。エルシーも気合を入れ直し、堀の外側へと走る。
「もいっちょ見て来るよ」
エルシーが飛び出していった直後、今度は背後から梅・雨陽の悲鳴が上がった。
「なんか口から出てる~!」
猿が吐き出す粘液に嫌悪感を示す雨陽。一方その雨陽と共に迎撃に当たっているハル・チフは、気合を見せて石垣の壁上を駆け巡っていた。
「猿に僕、負けない!」
ハルは味方が攻撃し易い位置へと猿を巧みに追いやってゆく。猿共は、投擲に適した砕石が散乱している箇所へと誘導されていった。
ある程度が集まったところで冒険者が攻撃を集中。雨陽も強烈な射撃で猿を仕留めた。
(キモいけど頑張る! だってワタシ大人だから!)
雨陽は撃ちまくった。それ以外にあの気持ち悪さは払拭出来ない。
そんな訳で猿への対処は上手くいっている。問題はスケルトンだ。普通のスケルトンの中にたまに動きの良い敵が混ざっている事もあって、攻めどころが難しい。睡狼隊の他メンバーは現在、より強敵と思しき別のスケルトン討伐へと動いている。
「皆さん上手くいっているのでしょうか?」
ネーヴェは不安げに呟いたが、今は仲間達を信じるしかない。
【2】封印結界強化作戦 中編 (執筆担当マスター:おおくまねこ)
●
「死霊術師ドレイク、やはり生きていたのですね。これ以上、同胞の遺体を冒涜させません……!」
結界強化作業を邪魔しようと襲い掛かってきた夥しい数のスケルトンを見据え、スィーリーンは呟いた。
スィーリーンがいるのは冒険者達の陣形の後方。結界強化班の守護を選んだのは、尊敬するエフレムが月吸蟲の対処に集中出来る様にと思ってのことである。彼女は倒す事が同胞の魂の解放になると信じて、氷嵐や氷の矢を放ち続けた。
ゴウッ!
銀色の疾風が通り過ぎるたび、スケルトン達がまとめて吹き飛び、バラバラの骨片へと変わっていく。破壊の暴風の正体はアスカ・タチカゼだ。アスカは鋼の大太刀にエーテルを籠め、スケルトン達に光塊を叩きつけ、薙ぎ払っていく。
エレノア・D・グリフィスはお付きの執事であるハイド=トリアニスと、ペットの狼と共に、死霊術師の捜索に当たっていた。これだけの数のスケルトンを使役すれば、術者にも相当負担がかかるはず。少しでも負担を軽くする為、きっと術者は戦場のどこかに隠れているに違いない。
「危ない!」
結界強化にあたる術師を目指して突進してきたスケルトンは、キリクの放ったダマスクス鋼の矢に頭部を砕かれ、地面に倒れた。
「かたじけない……あっ! まだ動いています!」
なんと頭部を砕かれたスケルトンが起き上がり、キリクに向かって槍を構えて突進した。奴らは亡者だ。頭を失っても活動をやめない!
「キリクさん!」
その時、割って入ったクローリカが細剣を一閃し、スケルトンのあばらを粉砕した。
キリクはクローリカに礼を言うと、再び弓に矢を番えた。
「亡者達は私達がなんとしても阻みます! 術師の方々は結界の強化に集中して下さい!」
「キリク! クローリカ! 輝刃だ!」
ゲルトはキリクとクローリカに輝刃をかけた。さらにダマスカス鋼の棍を振るい、押し寄せるスケルトン達をまとめて吹き飛ばしていく。
「せーのっ!」
テス・クラルス、アルマ・ヴァレンタイン、ハーヴィの三人は一斉にタイダルストリームを放った。ただし、その攻撃目標はスケルトンではなく、地面だ。
三名が放った光の波と水流は湿原を二百メートル近くに渡って深々と抉った。これで巨大堀の出来上がりだ。この即席の堀があれば、リザードマン術者たちの防御もかなり堅牢になるだろう。
「こんな大規模な戦い、初めて……。僕に上手く出来るかなぁ。……僕は僕なりに精一杯頑張るしかない、よね」
堀の中からタイダルストリームで攻撃しながら、ハーヴィは不安そうにこぼした。
ロイ・アウレアも堀の内側から矢を放ち、襲い掛かってくる猿やスケルトン達を次々と迎撃していく。優先的に狙っているのは猿たちの方だ。
フラム・アニムスは石垣の修繕作業を手伝いつつも、天眼と超聴覚でレーダーの役割を果たしている。スケルトンの中にもし死霊術師が混ざっていたら、すぐ他の冒険者に知らせるつもりだ。
「キキィ!」
「うわあ!」
リザードマンの悲鳴が上がった。ロイの矢を掻い潜った猿が塀を飛び越えて一気に内側まで来たのだ。
「チッ!」
瞬間的に加速したカルフ・オルヴォは堀を飛び越え、大太刀で猿を斬り捨てた。弟分のハルに頼まれて来たとはいえ、戦意は高い。
「集中して祈ってろ、近づけさせやしねぇよ」
睡狼の面々は堀を利用して敵を迎撃していたが、しばらくすると、戦局に変化があった。
「おい、こいつら、他とは動きが違うぞ!」
フラムが叫んだ。堀へと下りてきた亡者達が積み重なって梯子を作り上げようとしているのだ。その動きは、明らかに知性を感じさせる。
しかし次の瞬間、堀の中のスケルトンは突然ぴたりと動きを止め、ウロウロと彷徨い始めた。ロイがジャマーを発動したのだ。すかさずハーヴィがタイダルストリームでスケルトン達を薙ぎ払った。
「――」
超聴覚で新たな猿の一団の接近を察知したテスは、パートナーのロイへと目配せする。
(ドレイク……本体もスケルトンなのかな?)
ロイと水上を駆け抜けながら、テスはドレイクの正体について思案していた。
「今、スケルトンが組体操してなかったか!?」
クリエーナ・バーリフェルトは興奮気味に叫んだ。妙な動きをするスケルトンが出たと聞き、堀の近くにすっ飛んできたのだ。
「このスケルトン達の動きが見える場所ってーと……あっちの藪とかか?」
クリエーナは激戦区から少し離れた位置に点在する藪を槍で示した。そこを目指すには、まず押し寄せるスケルトンの波を打ち払う必要がありそうだ。
「貴方の望むままに、我が王。王の道を阻むことは許されない、私が打ち払ってやろう」
ルーウィン・ビナーはクリエーナに群がってきたスケルトン達を豪風でまとめて吹き飛ばした。王と同じく、彼女もドレイクはこの戦場が見渡せる場所にいると考えている。死霊術とはいえ遠隔操作では、細かな戦況の変化に対応できないためだ。
「あれは方陣だ。陣の右端を狙え!」
海神・江流は戦術眼でスケルトンの戦術を見極め、味方にアドバイスを出していた。一方で、超聴覚をもってドレイクの気配を探ることも忘れない。
「大軍は囮ですわね。さすがは公主様のいらっしゃるメドゥの指先、セオリーは外しませんわね。されど大軍にまぎれようとも探しようはありますわ」
バンビはストーンブラストを叩き込み、スケルトンの陣形を打ち崩した。戦場では冒険者達があちこちでスケルトンを集中攻撃している。陣形を立て直す時は、術者に近い所から穴が埋まっていくはずだ。
「一体どこにいるんだ? ドレイクってのは」
シスル・ノーティラスはスケルトンの群れへと勢いよく突っ込んだ。細剣でスケルトンを斬り払いながら、「動きの良いスケルトン」を探しているのだ。シスルが通過した直後、ミツキ・アインホルンの放った光弾が降り注ぎ、スケルトン達をまとめて吹き飛ばした。
「死霊術師っぽい思念を感じる……」
アルマは傷付いた味方をヒールで癒しつつ、スケルトンの残骸から残留思念を読み取って回る。中には、ドレイクと思しき思念がわずかに残っている骨もあった。この戦場にいるのは間違いない。
「ここにはドレイクはいません! 次はそちらを!」
ノックス・マグナは栗鼠の目を使い、敵の配置の情報を収集している。さらに手紙を持たせて走らせ、伝令として活用していた。この戦場では、冒険者間の情報伝達が円滑にできるか否かで、勝敗が決まる。
「お嬢様には手出しさせません」
ハイドのダガーがエレノアに近づいてきたスケルトンの胴を粉砕した。心なしか、主戦場から少し離れた藪のあたりにスケルトンが集まっている気がする。
ドレイクはどこだ? 冒険者達はあらゆる探知能力を駆使し、手近な藪から順に検め、ドレイクのいそうな場所を絞り込んでいく。そして、テスの超聴覚が、ついに、ヒトのものと思しき衣擦れの音を捉えた!
「いた! あの藪のあたりだよ!」
エレノアが放った流星射がスケルトンの群れを貫き、ドレイクの潜んでいる藪への道を切り開いた!
「もう逃さない。此処が、お前の墓標と知れ」
ルーファス・W・ワーズワースが叫びながら一気に駆け寄り、藪へと衝撃波を放った。
衝撃波が直撃し、藪が薙ぎ散らされるのとほぼ同時に、一つの影が藪から飛び出してくる。
藪の中に隠れていたのは、ローブに身を包んだリザードマンの老人!
「かかったぞ!! アイツだ!」
「いたぞー! ドレイクだ!」
事態を把握したフラムが叫び、近くにいたハーヴィの笛とカルフのラッパが鳴った。それらを聞いたアスカが大声でドレイク発見を冒険者達に知らせ、たちまち栗鼠の伝令が走り、ドレイクの位置情報が戦場を駆け巡る。
ドレイクの周りには、大量の冒険者がぞろぞろと集まってきていた。
「ス、スケルトン共よ、儂を守れ!」
老人が叫ぶと、万が一に備え、手元にもある程度の戦力を隠していたのか、ぬかるんだ地面からボコボコとスケルトンの兵士たちが這い出してきた。さらに、戦場に散っていたスケルトン達も呼び戻し、ドレイクと冒険者達の周囲にスケルトンが集中する。冒険者達はドレイクを守るスケルトン達と激闘を開始した。ドレイクが間近にいるせいか、スケルトン達の動きは先ほどまでとは比べものにはならない精度だ。
「貴方が捕えた魂たち、解放してもらうわよ!」
その時、ロゼットがジャマーを放った。さらにルーファス、テス、ロイも一斉にジャマーを畳みかけ、全力でドレイクの死霊術を妨害する。スケルトン達の動きが目に見えて鈍り、一瞬、亡者達の群れの間に隙間が空いた。その隙間から見えたドレイクへと、駆け付けてきたシューターたちの狙撃が殺到する!
「ぐふうっ! 儂はまだ死ねぬ! さらばじゃ!」
ドレイクのローブのフードは千切れ、皴が刻まれた醜い素顔が露わになった。背中に何本もの矢が突き刺さってもなお、ドレイクは亡者に足止めをさせて必死に逃げていく。
「逃がさないわよ!」
逃げていくドレイクの背に向かって、ミツキが香水の瓶を投げつけた。瓶はバシャンと割れ、強い香りを放つ香水がドレイクの背中にこびりつく。
「それが貴方の正体ですか! 絶対に逃がしませんよ! ドレイク!」
レイヤ・ダライ=カホールは激情と共に炎球を放ち、ドレイクごとスケルトンの一団をまとめて黒焦げにした。忌まわしき死霊術で操られた亡者達は、せめて浄化の炎で輪廻の輪へと送ってやらねば。そして、戦士の誇りを汚した忌まわしき死霊術師には報いを与える!
さらに、エアーライドで亡者の上を飛んできた江流のタナトスバイトが、死角からドレイクの胸を貫いた。ドレイクはエーテルバリアでなんとか致命傷を回避し、亡者の隙間を這うようにして逃れる。
「待て! ジジイ、その首おいてきやがれ!」
クリエーナら【赤眼】もドレイクの追撃に現れた。だが、ドレイクも必死だ。亡者を冒険者達にしがみつかせ、スケルトン達に紛れ、なりふり構わずにこの場からの逃走を図る。
「はあっ。はあっ……嫌だ、儂はまだ死にたくない……」
だが、浴びせられた香水の香りはドレイクの行く先を雄弁に教えてくれる。冒険者達は決してドレイクを見失わず、追い続けていた。
「今回の行動は、あなたにとって戦争ではなく女神に死を捧げる儀式でしょうか? それにしては、ずいぶん雑ですが」
「なに?」
ドレイクの前に立ち塞がったリーズ・クラヴィエは眩く輝く光球を頭上に放ちながら、静かに告げる。彼女はドレイクと同じく、死と不死の女神メスの信者だ。だが、彼に情けをかけるつもりはない。他者の命を奪うという、使い古された手段を取るドレイクは、リーズにとって同胞たりえないからだ。
「あなたは我々が女神の元に送って差し上げます」
宣言しながらリーズが発動したレゾナンス・オブ・ヴァローはスケルトンを蹴散らしている冒険者達に加護をもたらした。
「これで終わりだよ!」
次の瞬間、亡者の群れを突破してきたハーヴィの炎球がドレイクの肉体を包んだ。
「ぎゃああ……!」
それが、多くの魂を弄んできた老齢の死霊術師の最期の叫びだった。
ドレイクが討たれた瞬間、彼が操っていたスケルトン達の魂が解放され、動かぬ骨となって崩れ落ちた。この時、封印の結界強化を巡る戦局は大きく冒険者達へと傾いたのである。
【2】封印結界強化作戦 後編 (執筆担当マスター:革酎)
●
激しい戦いのさなかでも儀式を続ける術師の護衛に当たっているゴブリアとレギン・アンドヴァリは、互いに顔を見合わせた。
「そなた、気づいたか?」
「スケルトンの勢いが、随分と弱まったな」
噂によれば、どこかで死霊術師の討伐が成ったらしい。それが事実ならば、戦局が優勢に傾き始めたのも頷ける。
そこへ、疲労の色を浮かべたイネス・エレディアが石垣での戦闘から引き返してきた。猿を優先的に叩き続けていたイネスだが、スケルトンの圧力が弱まったと聞いて戦況を確かめに来たのだ。
「どうやら事実の様ね。随分助かる……」
その時、不意に石垣方面から砕石が降ってきた。壁上の猿が術師目掛けて投げつけてきたのだ。
「今、術師を傷つけさせる訳にはいかない」
濃煙炸弾を取り出して煙幕を張る。猿共は諦めたのか、投石がぴたりとやんだ。
否、必ずしも煙幕だけが原因ではなかった。壁上を走り回っていたセレネ・ヴァーミリオンが、ぬかるんだ地上へと降り立った。血染めの刃が相当数の猿を屠ってきた事実を物語っている。
実際セレネは猿顔負けの機動力を発揮し、敵を圧倒していた。
「スケルトンは? 上からも状況の変化が見て取れたけど」
セレネの問いかけに、ゴブリアとレギンは首肯した。
そこへ、ガルシアがセレネを追いかける格好で石垣から引き返してきた。スケルトンの勢いが弱まっているならば、一気呵成に押し返した方が得策かも知れないと考えたのだ。
「猿の方はお任せして宜しいでしょうか?」
ガルシアの問いに、イネスとセレネは応と頷く。ガルシアは対スケルトン戦に舵を切る腹積もりだ。
ゴブリアとレギンは引き続き術者近辺での護衛を固める。地上の敵は勢いが止まりつつあるが、猿は相変わらず厄介なままだ。冒険者全員が術者近辺から遠ざかるのは危険との判断だった。
方針は決まった。ガルシアはスケルトンへと向けて走り出す。
「ここは簡単に通れると思わないで下さい」
気合十分の声を搾り出し、殺気を振り撒く。
一方でイネスとセレネは再び、石垣へと走った。ここで確実に猿の動きを抑え切れば、勝利は確定的なものとなるだろう。
●
結界を構成する石垣から比較的近い位置の土手広場に、ヴィナスとルーンス・ラグネルのふたりが簡易救護所を設置していた。
「彼は重傷者だね、タグを」
「はい、にいさま」
ヴィナスの指示で、ルーンスは寝台上で呻いているリザードマンに重傷者を意味するバンダナを巻き付けた。
現在、救護所内は大勢の負傷者でごった返しだ。この戦域の重傷者は冒険者たちの働きもあり少ないが、泥血啜る月吸蟲の封印地帯で発生した負傷者を現地で治療するのには危険を伴うため、安全な救護所として各所から負傷者が運ばれてきているようだった。
今もディレイン・オールドケイジは深手を負ったそのリザードマン戦士に肩を貸し、救護所内へ足を踏み入れてきたところである。
「ここはここで、また別の意味での戦争だな」
戦場では声を嗄らしながら駆け回っては応急措置の要否を判断し、対応に回っていたディレインだが、救護所内の慌ただしさはまさに野戦病院と呼ぶに相応しい。しかし、人手不足は前線も同じだった。ディレイン自身も、ヒールを施しながら後送まで担わねばならなくなった。
「んじゃまた、戦場で負傷者探しでも」
「ご武運を」
前線でもここに伍する数の対応をしているディレインにこそ、疲労の色は濃い。ディレインは片手を上げて応じた。潮目は変わってきている。ここが踏ん張りどころだった。
●
赤翼隊は猿迎撃に専念している。
それはスケルトンの勢いが弱まった今も変わらない。
「もう大体、良い感じに数が減ってきているな」
猿の配置や個体毎の強さを分析していたエイル・ビュセファスは、仕上げとばかりに周辺に残っている猿の情報を纏め、大声で壁上に呼びかける。その声音を、フリューリングスルフト=ティエラは鋭く研ぎ澄ました聴覚で確実に拾い上げ、驚くべき身体能力で敵を狙いすまし、そして仕留めてゆく。
「うちから逃げられるぅ思うてんの?」
エイルからの情報を軸に、フリューは猿の感覚を惑わせる程の機動力を発揮し、次の瞬間には数匹を一気に屠った。
残りの猿は、狙い通りの方向へと逃げる。
「任された! 真っ当な魔法はこう使うのよ!」
猿が予定範囲内へ誘導されたところで、シャルロット・エクレールの魔術が炸裂した。轟然たる炎が標的を焼き、吹き飛ばし、消し炭へと変える。
猿共は逃げ惑うが、その動きをもエイルが事前に読み抜いており、正確な移動先が情報として伝えられる。
「あかんて、そんなん。どん詰まりやん」
フリューは淡々と猿を追い詰め、そしてシャルロットの魔術が炸裂する。
更にエイルが放つ矢も加わり、猿はますます逃げ場を失っていった。
●
石垣上の猿は冒険者の手によって次々と駆逐され、居場所を失いつつある。
辻癒隊のララノアにとっては実に都合の良い展開であった。
「おぉ猿さんの! バナナは! 食べ物で! こちらです!」
黄色い果物をぶんぶん振り回すララノア。猿共は見事に釣り出され、地上へと降り立つ。
「よし、かかったわね。あそこのスケルトンにぶつけるわよ!」
敵の動向をつぶさに観察していたエミリア・シバが、やや突出気味のスケルトンの群れを指差した。
ララノアはバナナを抱えたまま、ぬかるみの上を走り出す。その傍らに守りを固めたアリア・ティーダが並んだ。
「下支えなら任せて! しっかりタンク役してみせるよ!」
エミリアとアリアのサポートを受けて、ララノアはスケルトンの群れを目指した。
アリアが猛然と走り込み、襲い来るスケルトンからララノアを決死の思いで守り抜く。
「さぁ来た来た……猿が来たわよ!」
エミリアが刃を鋭く振り抜きながら嬉しそうに笑った。冒険者とスケルトンの戦いに、猿の群れが加わる。戦場は一気に混沌と化した。
だが、悲観の必要は無い。スケルトンの勢いは目に見えて弱まり、壁上に居場所を失った猿共は敵を取り違えて自らの首を絞めつつある。
冒険者達の勝利は寧ろ、もう少しで手に届きそうな位置まで手繰り寄せられていたのだ。
【3】メドゥの指先幹部対応 前編 (執筆担当マスター:そうすけ)
●
精鋭を誇る敵リザードマンたちが突き出す杖の先に導かれ、複数の火球が不規則な弾道を描いて冒険者たちに降り注ぐ。
「さぁ団長、どっちがより多くヤツの結界を削り切れるか勝負しようじゃねぇか!」
ティラミス・ノーレッジは華麗なステップを踏んで、落下してくる火球をギリギリで避けた。
半透明の膜の上に薄いグレイの模様が浮く結界に迫り、両の剣で切りつける。
「無駄だ」、とラスリャマス。
「おいらも、がんばりますよ!」
バルー・キップリングは盾を持ちあげて射線を切ると、振り向きざまに斧を一閃させた。
群がってくる手下たちを切りさいて、邪悪な魔術師を睨む。
ラスリャマスは余裕の表情だ。
アイリーン=N=フェルクスは高く跳んだ。
「その態度が気に食わないんだよね」
落下する自身の重みを剣に乗せ、薄模様が渦巻く結界を切りつける。
着地の瞬間を狙ってラスリャマスが杖を薙ぐ。風圧が刃となり、萎れた草とともにアイリーンの足を切った。
ウォルナ・パイパースが結界の傷に向けて巨大な炎弾を放つ。
着弾の炎が閃き、渦巻く炎の舌が結界全体を包み込むように舐めた。
湿り気を帯びた風が黒煙を吹き払う。
ラスリャマスも結界も無傷。炎が燃え広がる前に手下からエーテルを抜きとり、結界の傷を塞いでいた。
「何度も同じことを言わせるな。貴様らに私の結界は破れぬ」
シルク・メイプルリーフが温かな光を広げて仲間たちの傷を治す。なんとかラスリャマス以外の敵を減らして戦場から連れ出さねば。
突然、ひらめいた。
(他の敵を倒してからラスリャマスを殴れば、ディノ少年からエーテルを吸い取って暴走を止めてくれるのでは?)
だが、部下を倒されたラスリャマスがディノのエーテルに手をつける前に逃げる可能性がある。
(それは……やってみなければ分からない)
シルクは周りにひらめきを伝えた。
「試す価値はある」
カイン・ステラは短弓を構えた。
「どうせ倒すんだ。手下から削れ!」
大声で方針を周知する。
狙うは結界前に立つ敵、栗鼠のランが狙い目だと教えてくれた。
精神を研ぎ澄ませた一射を放つ。矢は敵と味方の間を高速で飛び抜け、敵の胸に刺さった。
ロイ・ロビンソンは高めた魔力で炎球を作り上げると、長杖を振るって敵へ飛ばした。
着弾と同時に爆発的に炎が吹きあげ、渦巻く。
炎に飲み込まれた敵が腕をばたつかせて火を消そうとする。
ルオは渦の中にいたが、あわてることなく二振りの剣で敵を斬り伏せた。
ずれた眼鏡を指で押し上げ、巨大な半竜を見上げる。
「他人を犠牲にした実験など見過ごすわけにいかん」
視線を下げ、結界の内にいるラスリャマスをねめつけた。視線が力を持つのなら捻り潰せるほどに。
「私、ああいう輩の思惑通りに事が運ぶの大嫌いなのよね」
「ああいう奴らがいるから色々と厄介事ばかり増えるんだ」
トウカ・S・ブラッドリーとオキナ・F・ブラッドリー夫妻は互いに互いの背を預け合う。
トウカが大太刀に光を走らせて敵の首を切り落とせば、その反対側でオキナが空気を波打たせる戦槌の一打で敵の頭を砕く。
そこへ、敵の魔法使いたちが放った火矢が、二人の頭上から雨のごとく降り落ちて来た。
トウカが大太刀を豪快に振るい、周りで燃え上がる火を斬り払う。
オキナは癒しの光で妻の火傷を治した。
「何を手間取っている。さっさとアシムベートを連れて来い!」
ラスリャマスが怒声を放つと、冒険者たちを襲う火矢の雨が止んだ。
と思えば、また降りだす。
止み、降り、止み、また降るを繰り返しながら、敵は徐々に冒険者たちを押し返し、大酋長に迫る。
シャンテ・フーケは、光の六角形に敵の一人を閉じ込めることに成功した。
「みなさん、頑張りましょう! 僕たちでアシムベートさんとディノくんを助けるんです。絶対に」
続けて、別の敵の腕を祭刀で切る。
が、相手は一瞬顔をしかめたものの、シャンテを無視して大酋長へ向かった。
駄目だ、囲まれる。
「アシムベートさん、逃げて!」
大酋長はゆるりと首を振った。
「儂がやらねば……」
武器を持ち上げるもすぐに降ろしてしまう。もう戦う力など残っていないのだ。ラスリャマスの手の者と冒険者たちの、いずれが先に身柄を得るか。速さの勝負だ。
●
「さぁ、ここは通らせてもらうよー!」
ヒロ・テスタロッサははりめぐらされた敵陣を突破して、大酋長の元へ走る。
立ち塞がる者は黒曜石の短剣に殺意の毒を込めて切った。
傷はすぐに毒々しいエーテルに蝕まれ、敵をのたうち回らせる。
「いくよ、ララベル!」
アリエッタが崩れた囲いの一角に突撃する。
振り返った敵に音もなく忍び寄り、死角から左の短剣で切りつけて目を潰した。すぐに身体の軸をずらして、相手の虚をつき、また死角に潜り込む。今度は右手の短剣で首を切った。
二人の活躍で壁が崩れたのを好機とみたアルラ・ニグラスは、両の爪を大振りしながら囲いの中に飛び込む。
後に続く仲間たちのために、笑みを浮かべながら得物を縦横無尽に振り回し、突破口を大きく広げることも忘れない。
「お待たせ、ふしぎ亭参上だよ」
ララベル・サン・ディーベルの明るい声。
「アシムベートさん、もうちょっと頑張ってください。鬱陶しい連中を片づけちゃいますから」
かかれ、の大号令とともに、ふしぎ亭の面々が囲いに押し入り、内から食い破っていく。
シルヴィア・A・カペルは指を動かして守護の光を放ち、大酋長の防御力をあげる。
研鑽を積み、理想を目指すのは皆同じ。だが、ラスリャマスのやり様は誰が見ても卑劣極まりない。だからこそ――。
「あの男に引導を!」
「面白い。やれるものならやってみろ」
ラスリャマスの余裕が手下たちの息を吹き返らせ、劣勢を盛り返す。敵の配置を捜波で見ていたアリエッタが、味方を盾に突破してきた敵の位置を周知した。
(ちぃ、しかたがない)
シルヴィアは身を挺して敵の剣から大酋長を守り、背を深く傷つけられた。
「ぐっ」
血で赤く濡れた白髪へ、再び剣が振り下されようとしたその時。
エーデルワイス・エンゲルが駆けこんできて、敵に閃光の一撃を放った。
「シルヴィア、撤退して!」
目前に別の剣士が踊り込んできた。振られた剣を光のベールで強化した腕でブロックする。
刃は皮膚の浅いところで止まったが、衝撃で体ごと空に持っていかれそうになるのを堪え――。
敵が剣に炎を纏わせる。
「死ね!」
あわやの瞬間、荒れ狂う炎の息吹がエーデルワイス周辺の敵を纏めて焼き払った。
「火力勝負は私の勝ちね」
オッドアイを光らせて、テュリン・ヴィングが再び魔導書を繰る。
直後、激しい水流が伸ばした指先から迸り、次々と敵を飲み込んだ。
「穢れを祓うなら燃え盛る炎と流れる水……ってね。派手に行くわよ」
アルラが振るう双爪が、空に血の二連リングを描く。心のうちに流れる音楽に合わせてカウントを取りながら、爪と剣の打ち合いの音をリズミカルに響かせた。スピーディーなアクションの中に色香ただよう跳躍もあり、なかなかの迫力だ。
スヴァン=ウォルフ=ユーウェンは大剣を地に突きたて、飛んできた矢を弾き落とした。
大酋長の脇に左手を差し入れて無理やり立たせる。と、同時に突き刺した大剣を土ごと振り上げた。
土塊交じりの衝撃波が敵を吹き飛ばし、さらにその後ろにいた魔術師も倒す。
「連れて……いってくれ。やつの、前へ」
「それはできない相談だ。しかし、メドゥの指先か。一発くらいは叩いておきたい所だが……おい?!」
スヴァンの腕を振りほどいた大酋長の頬を、ララベルが叩いた。
「上に立つ人がそんなわがまま言っちゃダメだよ! 犬死にするつもり?」
ぐっと息を呑み込んで、大酋長が首を垂れる。
「退路口は私が死守するぜ」
ゴルバルティアは大きく息を吸い込んだ。
爆発的ともいえる大声を戦場全体に響かせ、存在をアピールする。
敵の注意が自分に移ると、くるりと背を向けた。背負った盾で攻撃を受け、仲間たちが撤退するまで耐えるのだ。
「行け、早く!」
「アンタ一人にいい恰好させるかよ」
ディアンの戦鎚がエーテル光をまとって巨大化する。
どん、と鋼の戦鎚を大地に打ちおろした。
「いくぜ」
裂帛の気を吐きながら、ディアンが鋼の戦鎚を構え直す。不可視のエーテルが侵入者を絡め捕る殺意の網となった。
「敵が追撃してくる前に戦場から離脱してくれ」
「ご武運を」
イーヤ・レプリスは体の内から聖光を放ってゴルバルティアを癒した。
大酋長の撤退を助けながら、それにしても、と独り言ちる。
「ラスリャマスはあれだけ自信満々に結界を用意しておきながら、なんで背後から奇襲しようとしてたのかしら。片目をとられたのが怖いとか?」
ふと、背に強い視線を感じて振り返る。
独り言を聞かれたわけはない。だが……。
ラスリャマスは図星をつかれたかのように目を細め、イーヤを睨む。
●
「おのれっ」
ラスリャマスの怒りが手下たちの背筋を震わせる。
イルシオ・リスティヒは大酋長奪還を図る敵の額へ魔矢を撃ち、倒した。
「狂桜会の名、まだ色褪せてねぇことでしてよ。なんつって?」
戦場を離脱していく者たちが、感謝の言葉を口にしながら横を通り過ぎて行く。
アイリーン、と最前線で戦う友の名を叫び、その剣に輝く魔法の刃を授けた。
「俺にも頼む、イルシオ」
ソル・ランドグリーズは輝きを増した強弓で最大射程から結界、いや結界の主を狙う。
直接射せぬまでも牽制にはなるはずだ。
得物を追う鷹の目が、ハヤト=ガラン=ヴォルファングがつけた結界の傷を捉える。
放った矢はギリギリ間に合わず、閉じた結界に当たって落ちた。
ソルの攻撃に焦ったラスリャマスが反撃に出る。敵の魔法使いたちも戦場に広く炎の玉を降らせた。
その時、イル・シャーリィは大酋長を囲む一団の殿で、追いすがってくる敵を切り伏せていた。
無数の炎玉が燃える音に気づき、顔をあげると――。
「ララベル、危ない!」
両手で仲間を突き飛ばす。
その瞬間、炎の腕がイルを強く抱きしめた。
倒れたイルをヒロが肩に担いで逃げる。
だが、狂ったように暴れ回っていたディノが、戦場から離脱する一団に目を付けた。
仲間の危険を察知したネフリティス=N=クリスタロスは、硬木の祭刀に輝くエーテルを纏わせた。
「ネフリティスが誰も傷つけさせはしないのですぅ」
半竜に立ち向かい、尾を斬りつける。
「ひゃあ!?」
振られた尾が当たる直前、ネフリティスは光を集めて身を守った。
ハヤトが吼える。
「一か所に固まるな。散れ!」
敵の攻撃はますます苛烈を極めていく。彼はティラミスと2人で、ラスリャマスへ挑んでいた。
「当たるかよ!」
13回目の攻撃チャンスが巡ってきた。敵の結界とて無限ではない。ダメージを受ければ修復の手間は要るし、その修復には周囲の者のエーテルを要する筈だ。
牙を剥き、血を滾らせ、体内のエーテルを燃え上がらせる。
「これで終わりだ!」
炎のような輝きを剣に纏わせ、全力で結界に叩きつけた。そういえば、「無駄だ」と言う声を聞く数が減った。
剣は結界を大きく割くも、弾かれて大きく体勢を崩す。ティラミスがカバーに入った。
(クソ……)
急速に修復された結界にインク瓶を投げる。表面に広がった墨は弾かれるように落ちるがその一瞬だけラスリャマスの目からハヤトの姿を隠した。
【3】メドゥの指先幹部対応 後編 (執筆担当マスター:岩岡志摩)
●攻勢
アシムベート救出成功後、冒険者達はラスリャマスや、竜化ディノへの攻勢を強めていく。
「わざわざ手札を晒してくれて何よりです。修復のためのエーテルを使わせ続け、邪魔な敵の守りを削いでしまいましょう」
閃く爆光によって魔力を増幅させたイオ・ラヴバロックが撃ち放った炎弾が大爆発を引き起こし、ラスリャマスの結界へ損傷を蓄積させる。
「ラスリャマスゥ! お前が奪った数多の未来、数多の明日……今こそ、ケジメつけようやァ!」
ドーマ・アザーリが先に放ったアーケインテンペストは、結界に弾かれつつも部下の周囲には展開されている。次は魔導の潮流で自らのエーテルを燃やし、魔力を増幅させた上で魔弾を行使。
ハートは熱く、頭はクールに。
宿り木の短杖より射出された光球が、ラスリャマスの結界に着弾の火花を散らし、削っていく。
冒険者たちの波状攻撃に対しラスリャマスは、周囲に存在するメドゥの指先構成員達よりエーテルを収奪し、結界を修復する。修復に掛かる間は反撃の手が止まるので、無駄ではないにせよ徒労感は募る。
(またエーテル吸収? 厄介な……!)
シャーリー・ブラウンは、ラスリャマスの挙動に内心眉を顰めると、ダマスカス鋼の弓を敵に向け、弦を引き絞る。
「ラスリャマスの周囲の敵を、炸光矢でまとめて狩ります」
宣言と共にシャーリーは炸光矢を放つ。
弦の響きと共にエーテルを籠めた光の矢弾が敵のただ中で炸裂し、無数の光の破片がその身を裂いていく。結界は部下を守りはしない。
「里への義理を果たそう。……ここは脱落者を弾き飛ばし、敵の回復手段を減らすのが妥当だな」
それまで重点硬化やヒールを駆使し、敵と戦っていたサイラスは、そう判断するなりドラゴンチャリオッツを発動。
エーテル光を纏い、ダマスカス鋼の盾を構えるサイラスの身が前方へと射出され、敵へと激突する。発生した強烈な衝撃が相手の身を吹き飛ばし、ラスリャマスより遠ざけた。
「小癪な……!」
ラスリャマスの放った光球がサイラスを打ち据えたが、負った傷はサイラスが自身で回復し致命傷には至らなかった。彼を狙う様子を見れば、ラスリャマスにしてみれば嫌な手なのだろう。
ソフィア・ウェリタス・ノヴァの手の届く場所で倒された敵は、彼女が別の場所へと運び出していく。
「敵も味方も関係なしに運び出して、結界の修復を阻止するよ!」
――戦闘はしないでおこうかな。今の私ではちょっっと厳しいからね!
派手な攻撃でサイラスが敵の目を引き付ける中、ソフィアは自身が今できることを全力で行い、味方を支援していた。
ティトやセロンガード・シュタインドルフもまた、敵を回収して運び出す作業に従事し、ソフィアの活動を助けている。
「竜化の儀式についても、それからラスリャマスを幹部に選んだ黒幕も何一つわからない。それらについて聞き出す、よ」
光縛呪で無力化した敵を運びながら、ティトがそう言うと、ヒールを駆使してティトを支援していたセロンガードも賛意を示す。
「そうですね。近衛の精鋭ならば、少しは知っているでしょう」
セロンガードはそう言ったものの、ティトやセロンガードが行った尋問では、中枢に関わることを末端は知らされていないということが判明するにとどまった。無論、このことは実態が明らかになっていない現幹部と末端との関係性の理解において価値のある情報であった。
●奪還
一方、ディノを救いに向かう冒険者達のうち、天眼で敵味方の位置を把握したイズレンディル・パラリムは、ラスリャマスと竜の間へ飛び込むと、アイアンウォールを顕現させる。
「無駄な事を。よもやあの小僧が戻れるとでも? 教えてやろう。私が掛けた催眠など、我が儀式のためのものに過ぎぬ。術が成り、竜に近づけども正気を失って暴れ狂う無様は、小僧自身が変化を受け容れぬ弱さゆえよ」
顕現した鉄灰色の壁がラスリャマスとディノを物理的に隔離し、イズレンディルは両者の分断に成功した。
「殺さないけど、死ぬ気で止めるからー。痛かったらごめんね?」
ヘレン・ワーグナーの口調は軽いが、その表情は真摯だ。
カバリングで仲間への攻撃を防ぎとめると、ヘレンは破脚砕を放つ。
振り抜かれたダマスカス鋼の斧が竜の脚を裂き、刃に纏ったエーテルがその身を蝕んでいく。
「ディディ。ディノの周囲にまとわりついて、攪乱をするんだよ」
アスティン・ヴェルラインはエーテルリンク2で大鼬のディディと連動しつつ、竜の翼に向けダマスカス鋼の強弓の弦を引き絞り、グラヴィティボルトを行使。
矢の先端に強力なエーテルを収束させた一射は竜の翼に突き立ち、その動きを鈍らせる。
「ディノさんがこの場から移動されるとうまくいかなくなるので、翼を破壊します」
リディリディ・トゥラ・イェレミースは攻撃集中を宣言した後、宿り木の長杖Reを竜の翼に向け、一撃を放つ。
超魔法によってエーテルをかき集め、威力を増した一撃は竜の翼に命中し、血をしぶかせる。
(痛いでしょう、ごめんなさい……)
リディリディが内心ディノに詫びる中、スフェーンがディノの戦意を誘引すべく動く。
「ふ、オイラの力を見せる時が来たッスね」
(アーッ、ヤダーッ! 今度こそ死ぬッスゥーー!)
内心の悲鳴を押し隠し、スフェーンは誘引した竜に向け衝撃波を行使。
豪風を撒いて繰り出された鉄の槍より、不可視の衝撃の波が打ち出され、竜の身を打ち据える。
「さて、じゃあ相手してもらおうかしら。メイドは我慢比べ、強いわよ」
(こんな姿や指じゃ、食指が動かないわね)
アヴェラ・ウッチェロは内心そう思いつつも、冷静さを保って竜へと斬りかかる。
バーストストライク改によって、ダマスカス鋼の爪が一瞬眩く輝き、竜の身に刃が突き立つと、既に行使した毒撃により刃に纏っていたエーテルが竜を蝕む。
「ディノさんの行動抑制のため。翼を破壊するために、わたしも攻撃に加わります」
クラリス=ミシェは、周囲の仲間達へ一度竜より距離を取るよう伝えた後、豪風を行使。
竜がいる場所へと光輝くエーテルが急速に収束すると、爆風を巻き起こし、その威力を竜の身に炸裂させる。
このときコルネリウス・アーラは装甲防御を駆使して仲間達を守りながら、仲間達の攻撃に対するディノの反応の確認に努めていた。
「今のところ皆様の攻撃は全て通りますが、弱点となるものではないようです。傷が再生している様子があるので、その分のエーテルは消耗しているでしょう。行けます」
確認と仲間達への伝達を終えたコルネリウスは、竜との距離を詰めていき、破脚砕を行使。
振り下ろされた鋼の大剣が、竜の身に斬痕を刻み、刃に纏っていたエーテルが竜の動きを阻害していく。
「ここに集った彼を救いたい人達の思いも、彼の心も信じてる!」
エフィルミアが手の中よりダマスカス鋼の暗針を抜き放つと、縛糸刃をもって抑止を図る。
赤い光が暗針に纏って刃となり、竜の身に突き立ったところで、赤光の刃は光の投網へと変じて竜の身に絡みつき、その動きを鈍らせる。
なおエフィルミアは先に実行したジャマーの結果から、今のディノは洗脳状態ではないと判断している。無理やり注ぎ込まれた力の暴走に呑まれてはいるが、言葉は届いている筈だ。
そしてハリス・アル・ターミルは竜へ肉薄し、シーザーロアを駆使してその攻撃を引き受けていた。
ハリスは人々を守りたいというディノの想いを信じ、負傷しながらも呼びかけを続ける。
「貴殿の願いは外法に砕かれるような弱い想いではない……! ディノ! 戻って来なさいッ!」
ハリスの破脚砕を纏ったダマスカス鋼の槍Reが竜の身に突き刺さり、その身を蝕みエーテルを削っていく。
『ごあああああ』
応じるようにディノが吠えた。まだ理性もない獣の声かもしれない。しかし、それはディノの戒めに逆らおうという意志だと思えた。
そんなハリスを、トゥーリやフェイサル・セイフがそれぞれの形で援護する。
「ワタシは可能な限り攻撃や挑発で攻撃を引き付けて、ハリスさんを長持ちさせる」
トゥーリはレゾナンス・オブ・ヴァローで周囲の味方の能力を向上させた後、ハリスに触れリヴァーオブヴァイタルを行使。
エーテルの流れと接続し生命力に転化されたエーテルが、トゥーリを介してハリスへと流れ込み、ハリスの傷を癒す。
そんなトゥーリやハリスに向け、フェイサルは堅甲を付与して回り、防御力を向上させながら竜へ呼びかける。
「君にはまだ教える事がある。未来ある姿へ戻るが良い!」
フェイサルはディノのことを、一度救った以上は救い続けるという覚悟を固めている。
だからフェイサルは、ディノにその命を全うさせることを諦めない。だが、竜の身体を維持しようという外法の効果は、本体の少年の生命も危険にさらしていく。
ここで、それまで周囲の物陰に潜伏していたルチル・プルメリア・グレイハーツが駆けつけた。エフィルミアの言によれば、今のディノは洗脳状態ではない。暴走だ。アンチ・サイは効果を為さないが、それでも。
「アタイは届けるだけだ。後は頼んだよ」
ルチルはディノが生き残れるようヒールを行使した後、仲間達へそう言い残し、再び物陰へと退いていく。
「敵の思い通りにはさせない、です! ディノさんを救ってみせる、ます!」
蒋・璃龍はダマスカス鋼の槍Reを振りかざして竜のもとへ疾走を開始。
そのまま肉薄した璃龍より、突風の速度で繰り出された槍が、竜の身を裂いて、さらにエーテルを削りにかかる。
神眼法を駆使し、竜の攻撃を左に跳躍して躱したサフィラ・アズラク・ナハルハルアリーブも、竜の懐へ突っ込んだ。
「ディノくん! 聞こえる!? ターミルのみんながキミの帰りを待ってるよ!」
呼びかけと共にサフィラはトリプルファングを行使。ダマスカス鋼の爪が三閃して竜の身に3度裂傷を負わせ、エーテルをさらに削ったところで『それ』は起きる。
何かの割れる音と共に、竜の身が急速に縮んでいき、やがて緑の鱗を持つリザードマンの少年『ディノ』の姿に戻り、倒れた。
「ここは俺の出番だよな」
それまでヘレンの支援を続けていたイズル・M・ヴォルゴールが、いち早く駆けつけると昏倒するディノをマントで包み、介護にあたる。
「大丈夫だ。気を失っているだけで命に別状はない」
ヒールを駆使しつつディノの容態を確認したイズルからの回答は、ディノを取り戻すべく奮闘した仲間達に報いるものだった。
●離脱
ディノと分断された反対側では、気もそぞろな様子のラスリャマスらを冒険者達が圧していた。
「精鋭の数も減った今が好機だよな」
それまで取り巻きと交戦していたカズマ クレセントブラッドは、結界が幾分弱まったと判断すると、強引にラスリャマスとの距離を狭め、魔乱印を行使。
カズマより魔力の集中を乱す光印が放たれるが、ラスリャマスの身に届く前に結界に弾かれる。ラスリャマスがカウンター気味に放った炎弾がカズマを叩いたが、――残像だ。
「ダメージに関わらず自動で反応するのか?」
反撃を咄嗟に切り抜けたカズマは結界の反応からそう推測し、味方に報せていく。やはり、長期戦は避けられないのだろうか。
「皆様、ご武運を」
ドローミが最初に付与したレゾナンス・オブ・ヴァローはもう効果がない。彼女はグレイ・ナックラーの後を追ってきた。
「グレイ殿、輝刃2を付与させて頂きます」
宣言と共にグレイの握る古木の短杖が淡い透明な光で包まれ、その攻撃性能が強化されていく。
短く礼を述べたグレイは、そのまま残る敵に向け、スタティックフィールドを発動。
直後、敵のただ中にエーテルで構築された光球が顕現し、その光が周囲にいる敵へと絡みつき、その移動を阻害する。
「ラスリャマス周囲にいた精鋭はもはやあれだけじゃな。ケン、今が勝負を仕掛ける時じゃ」
天眼や戦略眼も駆使したグレイの援護を受け、それまで機を伺っていたケン・Z・ブラッドリーはチャージングを駆使して突進する。
「てめぇみたいに他人を弄ぶやつが一番気に食わねぇんだよ!」
叫びと共に、ケンは紫電一閃を行使。
ダマスカス鋼の大太刀Reが、あわせて行使された戦士の一断によって大太刀が一瞬燃え上がるように輝き、力と速度を併せ持ち、鋭化された一撃と化して叩き込まれ、結界をさらに削っていった。
その時、鉄の壁の向こうから歓声があがった。ディノが救出されたのだ。結末を見届けたラスリャマスは、ケンに続く冒険者が殺到する寸前に飛翔し、宙に逃れる。
「ラ、ラスリャマス様が、翼を……!?」
彼の奥の手だ。部下を全て見捨ててでも逃げ出す為の最後の手段。戦闘向きではない彼が、即座に逃げ出さなかったのはこれがある故だが、――アシムベートとの再戦を期して伏せて置きたかった札でもあった。
「これも一つの結果だ。実験を見届けた事は無駄ではなかった」
そう忌々し気に言い残すとラスリャマスは宙で身を翻す。冒険者達が残るメドゥの指先を全滅させた頃には、その姿を消していた。
【4】リザードマン集落防衛 (執筆担当マスター:棟方ろか)
まるで稜線だとサロは呟いた。襲い来る暴挙を目の当たりにして、サロの所感に大福が肯う。
(粽や皆と一緒だから。大福、戦えるのだ!)
先刻まで大福にあった震えも冷たさも、今は熱へと変わっている。
けれどたなびく凶鳥の軍勢は、前線へ緊迫を霞みがからせていた。尚も不安を帯びるリザードマンの腕へ、ご安心くださいまし、とキャロライン・スノーイーリスが言で安堵を寄せた。
「我が家を守る皆様の心意気、わたくしが支えてみせましょう!」
「有り難きお言葉です……!」
集落を拠り所とする部族たちは、勇猛果敢な鼓舞を受け、注がれる穢れの除去をキャロラインたちへ一任する。
「私も共に、在る」
部族の民へそう続けたのはサマエラ=フォリウムだ。
彼女は彼らが倒れぬよう、彼らの意志が折れぬよう、エーテルの淡い光で包んでいく。
その間に感謝を示す民の横、大きなゴリラが突き進んでいった。
「うー君! 愚かな鳥へ現実を教えるのであるーー!」
「ウホオォーー!!」
ゴリラに乗ったポコ・アルデバラッドが叫べば、ゴリラはめいっぱいのドラミングで雲霞鳥の意識を集める。
鳥の群れが目立つゴリラを追おうとすれば、迎撃態勢をとっていた冒険者たちが動き出す。
「投擲用意!」
リサ・ベイカーの一声がこだました。凛と響いた音に、投石部隊として集った民も奮い立つ。
「撃ち方!」
ロウトフェダーも、ペットを連れた射撃班へ報せる。
「放てッ!」
リサが片腕で示せば、それが合図となった。
迫る軍勢めがけた石の雨が降る。翼を折り、または首を傷つけ、尾を砕くための礫の雨あられだ。
「流星射ァ!」
狙い過たず的を捉えたロウトフェダーの矢も弾け、軍勢へ破裂音という名の脅威を示す。それらは恰も流星のごとく。農民たちへ率先して瓦礫集めを呼びかけたのも功を奏し、悲鳴とも鳴き声とも区別し難い叫喚が響き渡る。
その間に、治癒に専念していたキャロラインが、リサと揃って聖別の加護を皆へもたらす。
一斉射撃を受けても混乱に陥るほどではなく、敵陣は懲りずに群れようとする。雲霞鳥の特性として、纏まられすぎるのは問題だ。
だが雲霞鳥の習性はサロの想定内だ。ゆえに彼は番えた志を、矢に換え飛ばす。散りかけた群れの軸を射抜けば、そこを起点にまた集いも散開する。集まり過ぎぬよう、しかし皆の攻撃の効果は残るよう、着実に塊を解き、サロは襤褸の外套を掻き寄せた。
「次の攻撃へ移りましょう」
「しかし我々は……」
戦闘が始まっても尚、農民の中にはリサら冒険者たちの指示に渋る者も少なくなかった。
「今やらないでいつやる、ってやつだぞ!」
不穏な兆しにひょっこり首を出したのはニワニだ。混じり気なきまなこで、渋っていた同種族を見つめる。
「なら、強そうなのは俺が引き受けるから、援護してくれ!」
ただ突きつけるだけでは押し問答だと考え、彼はそう提案した。すると相手も同じリザードマンのニワニが言うならと首肯する。
「よし、先陣を突っ切るぞ!」
雲霞鳥ハンター初級のニワニが、小分けされた敵へ仕掛けると、動けず残っていたリザードマンたちも続いた。それでも足踏みしていた人々へ、トマス・グレイ・ディズールーが守護を贈る。
「生きるのに大切なのは倒れないことさー。とはいえ僕より皆様の方が強いだろうね!」
からからと笑うトマスに、留まっていた民だけでなく、ベズイ族や他の農耕部族らも、つられて緩みを得る。それを見届けてトマスは目深にフードを被り直した。口許に笑みを刷きながら。
そのとき、胸いっぱいに空気を吸い込んでアステルが雄叫びを轟かせた。
「そうだ! 果ての果てまで襲撃者を突き飛ばせぇえぇぇッ!!」
「「オオォオォォ!!!」」
朗々たる白炎に呼応したリザードマンたちが、大地を、空気を震わせる。
突如響いた叫びにも鳥は揺らがず、輝き纏うフロマーシュ・ダイヤドロップは、襲来した翼を盾で押し返す。
そして囲う羽ばたきの群れに紛れ、ライナ・フレイヴァルツは振り返らずに問うた。
「マーシュ、怖くはないか?」
フロマーシュがかぶりを振る。
「ライナ様と一緒ですから、何ひとつとして」
「……そうか」
手短な返事にフロマーシュは眦を和らげ、すぐさま敵を睨みつけた。ひりつく殺気に恐れをなし、雲霞鳥が鳴けば、それを目印にライナは高ぶる熱を矢に換え――放つ。
両名の近く、ロドリック・アルカインは、仲間が散り散りにさせた群れのひとつ、一帯の空を占拠する雲霞鳥へと目映い光を解き放った。
(あの群れだな、よし)
閃光に悶えた姿を眺めているうち、ふと気負うリザードマンの青年が目に留まる。見兼ねて近付いたロドリックは。
「無理はしないようにな」
一言と肩を叩く仕種で冷静さを呼び覚ませば、リザードマンもハッとして彼へ会釈した。
大空に広がる雲とも見紛う夥しい群れの縁、ハリーヌ・ヨツユビがロドリックに連ねて一閃を描く。
ハリーヌが起こした輝きは鏃となり敵を討つ。弾けた光輝の破片もまた、敵陣の輪郭を明瞭に浮かび上がらせる。チッ、と意識せずハリーヌは舌を鳴らした。
「焼き鳥になりてぇのか? お望み通り焼いてやるよ!」
焼鳥になる標的が定まる頃、闇をも照らすレシュノルティア・ピオジェレラの魔力が、圧倒する岩石となって雲霞鳥へ飛ぶ。けれど群れればその分、強くなるのが雲霞鳥の特性だ。大きな群れの中央ともなれば、密集した黒い霞が魔法を目に見えて減衰させる。
「しぶといわね……あっ」
レシュノルティアの視界の片隅、烏合の衆よりまろび出たのはマーハ・アセトシソンだ。
「いったた、よーし、強火で次こそ焼鳥にしてやるから!」
痛がったかと思いきや、直後には気合いと意欲に満ちる。相手は群れると強い敵。それを身に染みて理解したマーハは散った塊に狙いを定めなおす。正しくそこに立ち昇った色が、紅蓮が鳥の群れを戦慄させた。
赤を避けようとした敵は、目映い光球を浮かべた地点に疎外される。百鬼 朱羅が配したスタティックフィールドは、踏み込んだ雲霞鳥とそうでない物の足並みを乱した。群れが崩れる。そこを、凍てる一矢で貫いた。聞くに堪えない悲鳴が聞こえるも、朱羅は驕らず誇らず未来を見据えて杖を握り直して。
「少し頭を冷やしてはいかがかしら?」
朱羅の冷気に纏わり付かれ、雲霞鳥が鈍る。
鈍りが見えた跋扈する群れを眼前に、守るべき集落の数々を背に、誰もが足へ力を込めていく。
最前衛の仲間たちをアーシェル・G・クラインが奮い立たせる。
「くたばんじゃねぇぞ! 絶対に!」
「「おおおお!!」」
適切な掛け声を適切な機で行えば、たとえ僅かな影が心に差そうとも、また立ち上がれる。苦痛に苛まれても、人々は戦える。
その間にも櫓を確認していたアーシェルは、見張りと報告を担う部族民には『異変がない』と察し、不審者に関する情報を取り纏めていたクレア・エクレールへ仲間のテレパスを介して伝える。
離れた場所で、リザードマンたちを癒していたクレアが頷く。
「ありがとう、そこには出没しないって情報、大事だからね!」
一方、髪を靡かせてリザードマンと凶鳥との間に割り込んだダリア・レプシウスが、盾でぐっと忌々しい鳥を押し返していた。
「お任せくださいな。このダリア・レプシウスがお守りいたしますわ」
堂々たるダリアの様相を、部族の青年は頼もしそうなまなこで見つめた。
大勢での戦を、冒険者との大規模な共闘を、初めて経験する者はリザードマンにも多い。
「弱った個体を狙うのだ。大丈夫、私がいる」
迷える子羊ならぬ迷えるリザードマンへ、ストレガ・L・リベルガストラが道を示す。1人ではなく集団であたるよう示しながらも油断は持たず、迫りくる脅威を怒涛の稲妻で阻み、エーテルの光波を疾駆させた。ストレガによる慣れた攻め手は農民へ感心をもたらし、良き手本となる。
そう、守り抜くと意を決した人が揃えば、遥かなる果ても暗澹たる戦禍も、打ち砕いてゆける。
●
「どうかされましたか、リザードマンさん」
呼びかけたのはナハト・シュライバーだ。戦線を離れて紐のようなものを振り回していた青年を、ナハトは決して逃さなかった。塵やざわめきの中でよくよく見れば、彼が手にしていたのは虫獣を呼ぶ際に用いる、小さな唸り笛。
「ベズイ族さんに紛れていたのですか? 随分無用心ですけど」
「……何用か、冒険者よ。一人で私をどうにかできると?」
問うだけのナハトへ青年が刺々しく返しながら、後ずさる。すると。
「逃れられると、そう思っていたのですかしら?」
そこへフィリスティアの喚んだ光が降り注ぎ、構成員の膝を折らせる。
細めた双眸すら氷に似た輝きを燈して、敵を射抜く。
「な、いつのまに……っ」
驚愕する青年の反応を眼前にして、ナハトと大鼬も得意げだ。
●
押し潰せ。踏み超えろ。押し返せ。言葉で象れぬ殺意がぶつかりあう中、掛け声を発したのはクロハ=ヴェローナだ。
「いっくぞー!」
己の内側から湧かせた力を素早く矢へ宿し、大空を謳歌する凶の兆しへ撃ち込む。
「うひゃあ、多っ! 全然減らないよっ」
本当にその通りだと、クロハの声を耳にしたライル・クライブスは駆ける。疾風を思わせる速さで飛び込み、腹を裂いては後ろへ跳ぶ。その繰り返しに苛立ったのか、敵はリザードマンの輪へ飛び込み暴れてみせるも、ライルは。
「おっとと、そうきましたか」
ふっと頬へ笑みを含んだ。
レオネベルの立つ位置は、他より冒険者の数が少ない。
だが、クロハやライルの作った勢いの波へ、レオネベルは矢継ぎ早に続く。
「ほらほら、侮ると地面を舐めることになるぜ?」
見目華やかな彼女が喉を開き、大声と派手な仕種で鳥の目を惹く。
撒いた執着の種も実を結び、ここ一帯が手薄だと敵に思わせなかった。
「レティシア殿!」
顔見知りのベズイ族から呼び止められ、治療に駆け回っていたレティシア・レインフィールは瞬ぐ。
「まあ。ご無事でございますね……よかった」
胸を撫で下ろした彼女へ、ベズイ族は頷いたのち後方を目線で示す。
「あちらに仲間が……傷が深めなので、どうか」
「承知いたしました、ご案内お願いいただけますか?」
惑わず迷わず、レティシアが告げたものだから相手も安心したのだろう。感極まったかのように双眸を潤ませた。
「レティシア、回復は私が、引き継ごう」
彼女から要回復者の居場所を聞いて駆けつけたサマエラが後押しすると、レティシアはベズイの民に同道し、要回復者の元へ急いだ。
同じ頃、戦力の厚い一帯では。
「うおーーー!! 覚悟せよ!!」
ポコとゴリラの絶叫が伝い、サロが集まり切る前に散らし、こくりと首肯した大福が禍々しい鳥を貫く。そして気付いた。
「特異個体!」
鏃のように真っ直ぐ示した先、標的を発見し大福が声をあげる。
周りの冒険者たちは、急ぎ特異個体へ照準を定めた。
その混乱に乗じて、羽ばたいた数羽が戦線を離れようとする。
(逃がしません!)
物陰で兎の耳がぴくりと立つ。ラセリ=リエ―ブルの射た矢は、逃走を図った敵を逃さず狙撃する。華奢な腕から放たれたとは思えぬ強烈な一矢に貫かれ、敵は身を蝕まれて喘ぐ。
幼馴染みの呼吸は、期せずしても合うもの。
攻め手が緩んだの隙に物陰へ転がり込んできた農民らへ、マリア・C・クロードが治療を呼びかけていく。
「ッ、俺はまだいける!」
血気に逸る農民を、縋るような細腕が掴む。興奮や不安が綯い交ぜとなり肌膚へ伝う衝動を、マリアは見逃さない。
「お顔が優れません。手当、させていただけませんか?」
二粒の青を潤ませたマリアの微笑みに、農民も黙して座り込む。
近くで運ばれた負傷者を救護しながら、エルケ・シャルフは、混乱に乗じて悪事を働こうとする輩がいないか、警戒も怠らずにいた。
「今度はきっちり守らないと、ってね」
決意を改めて口にしてみれば、耳にした怪我人たちも揃って頷く。
――自分より強くはない。それがララヴェル・ララフェルの所感だった。
食料や水、怪我人の運搬を担うララヴェルは、集落の民ではなさそうなリザードマンを探っていた。モヒカンの反応だけで見定めるには足りないが、直感で彼の怪しさを伝えねばと考えた。
「ウッホ」
相棒の名を紡げば、嬉々としてゴリラが胸部を叩く。
かの音は戦地に響き渡り、周囲にいた冒険者やリザードマンの視線を吸い寄せる。何事かとざわつく人々の中、ララヴェルから離れようとしたリザードマンは、一人の冒険者と目が合った。否、Re:Leeがかの者を覗き込んだのだ。
「駄目だよね、こういうのは」
Re:Leeがリザードマンの男から、虫獣を操る際に使う笛を取り上げた。
●
果たして喚いたのは、誰だったのだろうか。
フィリスティア・リュナ・ブルーメルティスの招いた嵐は凍てつき、世も命も今という瞬間へ留めさせる。それに鳥たちが連なって鳴いたのだ。
特異個体の挙動を細かく観察していたセヴラン・クアルトは、そこに微かな違和を覚える。そして納得に至るまで専念したことで、いち早く理解した。あれに指示を出している敵は、前線にあって戦わずとも不審に思われない場所に居る。
「ララ」
セヴランが呼べば、栗鼠が戯れる。
「行こう」
目指す場所は、もう定まっている。
列を作る怪我人へ、クレアは順番に治療を施し――エンパシーで感情も伺っていた。今の患者には問題は無い。ほっと一息ついた所に、栗鼠が咥えたメモが目に入った。
『救護所内に不審あり』
「回復も無理せずにな。ここは俺に任せて少し休んだらどうだ」
ふう、と溜息を落としたクレアへ、助手役のリザードマンが噛み締めるように言う。その腕に軽く触れると、はっきりした悪意が感じ取れた。仲間もいる。冒険者が集まってきたので逃げようと焦っていた。
「うんっ、ありがとう!」
にこやかに応じながらも、クレアはこの事をアンネエルカへとテレパスで伝える。配置につくのを見てから、マタリキー・T・ヒーローへ合図を出した。
「この助手さんが工作員です!」
「な! なぜ!」
「はいはい、おとなしく……しないっすよね!」
相手は恐らく授恵者。武器を出す暇を与えずとも、抵抗されればそれなりに痛い。とはいえ、こうなっては逃げる事など不可能だ。
「はいはーい、タイーホ」
マタリキーが、抗い疲れた構成員を光の虜にした。
「わかってたっす、どうせボコられる運命なんす」
ぐすんと弱った真似をしていると、救護所の片隅でもぞりと動く影が見えた。
クレアが一番最初に手当したリザードマンだ。が、逃げ口にアンネエルカが張り巡らしていた殺気にあてられて足が止まる。
「わかりやすい。尻尾を出すってこういうことよね?」
アンネエルカの一言を受けて、セヴランの唇がほんのり笑みを湛える。
「特異個体から操り手を洗い出すの、うまくいってよかったよ」
●
恐れ知らずかのようにも思えた鳥の突撃も、指揮者を失ったためか弱まりつつあった。
拳に熱と覚悟を秘めて、ニール・ロブラリアがリザードマンたちに続く。
――進ませない。これ以上は、一匹たりとも。
言の葉に代わって鳥を叩くのは、ニールが撃ちだした強烈な矢だ。鏃に命ごと抉れた鳥が朽ち、そこへ吠え猛る声が返る。ニールへ人数の減った戦域を報せる、狼の声。
「ウォクス、今いくよ」
ニールが駆けつけるまでの間、強固なる守りを築いたカンナ 三木が戦線を支える。
「おらだって村さ守るだべ」
どっしり構えた盾も身を包む鎧も、輝きを宿しカンナに力を与えていた。
「負けらんねぇんだ。田畑ば守る気持ち、わかるもん」
「くっ、だがあと何匹残ってるのか……」
傍らのリザードマンが弱音を吐くと、一羽が飛び掛かろうとする。標的となった筈のリザードマンはしかし、倒れることなく立っている――ギド・フェルミだ。戦局の変化により守備が手薄となった地へギドが舞い降り、鳥を蹴散らした。
「甘いな」
ギドが呟けば、芯の揺るがぬ姿に農民たちも顔を見合わせ、頷きあった。
負けはしない。彼ら冒険者がいれば。
そこへ冴える金色を光らせて、アステルが勇ましき牙の軌跡を描く。残った敵へ悟る暇すら与えずに。
「はーい、来ちゃいましたよ」
テレパスを受けて、手数を欲する場へ駆けつけたシャーデンフロイドが、その細い指先で魔法の矢を編む。
「狩りは本職じゃないんですけど、せっかくなら鮮やかに、ねぇ」
ギドやアステルとの挟撃で、鳥が完全に沈黙して沈むのを見届け、シャーデンフロイドは柔和な微笑を湛えた。
雲霞鳥と対峙した経験は、バーネット・フォーサイスが普通でない個体を見抜く助けとなっていた。
逸早く特異個体をターゲットにしたバーネットは魔で紡いだ弾を放つ。刹那、翔けた弾が巨躯を射抜き、羽を散らす。彼に続いて仲間やリザードマンが追い打てば、また一羽特異個体が落ちた。背後では工作員が次々と見つかっていく。
数時間にわたる戦いの末、集落を目指していた雲霞鳥の群れは先導者を失い、いつしか住み慣れた地を求め出した。身を翻し沼へと帰っていく様を双眸に宿した冒険者たちが、顔を揃える。すると部族の民らも目線を重ねた。かれらを操っていた者たちを、捕らえきったのだと、言わずとも知れる。
そして誰が言うでもなく、拳を突き上げた。誰に促されるでもなく、歓声をあげて。
集落を守り抜いたその瞬間を、皆で分かち合った。
マスターコメント
決戦シナリオ非常に難しい 報酬:多い181 / 1〜9999人
2021年04月19日 19時24分06秒 公開
参加者
トゥーリ
ニワニ
ハッタ・ムラムラ
蒋・璃龍
バクル・バスリー
イヴェール・アーチボルト
- メイプルリーフ シルク
ヨル・スレイマン
エリザ・A・ミシャール
コルネリウス・アーラ
ミツキ・アインホルン
アンネエルカ
- ビスコ ユネスコ
ゴブリア
レシュノルティア・ピオジェレラ
ティラミス・ノーレッジ
ケン・Z・ブラッドリー
リーズ・クラヴィエ
ゼラルム・エルホワイト
サニー・フォン・オルライト
- サイラス
エルゼリオ・レイノーラ
エルナ・クルプファルツ
ユークリア・フィナンシェ
ナハシュ
アルベルト・V・シュタールシュヴェーアト
ドーマ・アザーリ
アリア・ティーダ
シャルロット・エクレール
スィーリーン
アクセル・ランパード
リサ・ベイカー
エーデルワイス・エンゲル
テス・アウレア
アイリーン=N=フェルクス
フリーダ=ブロムヴィスト
ザザ=ステルヴィナ
パヴェル・A・サムルガチェフ
ライル・クライブス
ディアン
ベルク・オスマット
ヴィルヘルミナ
ハリス・アル・ターミル
ルチル・プルメリア・グレイハーツ
- レオネベル
クリエーナ・バーリフェルト
レティシア・R・クラティアス
バルー・キップリング
イル・シャーリィ
カメリア・ローレンス
ヘレム・カースワーズ
- イェレミース トゥラ リディリディ
ストレガ・L・リベルガストラ
ギド・フェルミ
イズレンディル・パラリム
ノックス・マグナ
ウォルナ・パイパース
ギャメル
マリイ・パルティス
エフィルミア
サフィラ・アズラク・ヴォルファング
ロイ・アウレア
トマス・グレイ・ディズールー
セヴラン・クアルト
- スフェーン
ヘレン・ワーグナー
リコリス・アデュラリア
ギーゼラ
ヴィナス
イーヤ・レプリス
キリク
ヒロ・テスタロッサ
セリオス・オーガスト
イズル・M・ヴォルゴール
ハヤト=ガラン=ヴォルファング
アルマ・ヴァレンタイン
シャーリー・ブラウン
アルラ・ニグラス
ドローミ
シスル・ノーティラス
ララベル・サン・ディーベル
ゲルト
ゴルバルティア
フェイサル・セイフ
カイン・ステラ
フリューリングスルフト=ティエラ
ディレイン・オールドケイジ
アスティン・ヴェルライン
ルーウィン・ビナー
マーハ・アセトシソン
レイヤ・ダライ=カホール
レヴァーレ・クアルム
バンビ
クローリカ
ニーラ・メッコ
海神 江流
アヴェラ・ウッチェロ
アウル・アンサラー
エイル・ビュセファス
サマエラ=フォリウム
エルケ・シャルフ
ラセリ=リエ―ブル
百鬼 朱羅
アステル
ニール・ロブラリア
ブルーテ・ビシア
テュリン・ヴィング
ロゼット
- キーゼ
トーラ
マリア・C・クロード
エリック・ルンガルディエール
キャロライン・スノーイーリス
ネフリティス=N=クリスタロス
- エレノア・D・グリフィス
ルーカ・ルンガルディエール
カンナ 三木
ライナ・フレイヴァルツ
イオ・ラヴバロック
バーネット・フォーサイス
クレア・エクレール
ソル・ランドグリーズ
梅・雨陽
セロンガード・シュタインドルフ
ロドリック・アルカイン
アルト=ミルドレッド=バ・ロッサ
Re:Lee
ナハティガル=ラー
ロイ・ロビンソン
アーシェル・G・クライン
シャンテ・フーケ
フィリスティア・リュナ・ブルーメルティス
テテリカ
アリエッタ
ララノア・グラヌローザ
レギン・アンドヴァリ
ルーファス・W・ワーズワース
フロマーシュ・ダイヤドロップ
ロウトフェダー
オゴス
アスカ・タチカゼ
セレネ・ヴァーミリオン
ヴィノニス
ナハト・シュライバー
エルシー・サリバン
ハル・チフ
エヴァン・ピオネロ
エミリア・シバ
ネーヴェ・グラヌローザ
ミーミル・ロッポラ
ガルシア
イルシオ・リスティヒ
ハリーヌ・ヨツユビ
ティト
サロ
ララヴェル・ララフェル
- ポコ・アルデバラッド
グレイ・ナックラー
ルオ
ダリア・レプシウス
アウレーリア・フォン・ネーベルベルク
フラム・アニムス
カズマ クレセントブラッド
ナタリア・フィッツジェラルド
シャーデンフロイド
トウカ・S・ブラッドリー
- オキナ・F・ブラッドリー
イネス・エレディア
カルフ・オルヴォ
大福
- ヴェローナ クロハ
- スヴァン=ウォルフ=ユーウェン
マタリキー・T・ヒーロー
シルヴィア・A・カペル
クラリス=ミシェ
アシュリー・レドルナン
ハーヴィ
ハイド=トリアニス
- アルフレッド・エルグランド
ルーンス・ラグネル
- ソフィア・ウェリタス・ノヴァ
相談掲示板
シーフのトーラです。 リザードマンさん達の為にも頑張りましょう!
ウォーリアーのケンだ 決戦だし、また【兵】で仲間を募って戦うつもりだ とりあえず行き先は<戦域3>でラスリャマスか<戦域4>で暴れるかって感じで考えてるよ 一緒に戦ってくれる仲間は常に募集してるんでよろしくな
ヒーラーのリサです。 よろしくお願いします!
ヒーラーの神官戦士ロゼットよ。 またパーティを募集してみようと思うから、 もし気が向いたら、よろしくね。
キャスターのバーネット・フォーサイスだ。 まぁ、よろしく頼むわ。
ウォーリア、ルーファスと言います。どうぞ良しなに。 【2】封印結界強化作戦にて、死霊術師の討伐に動こうと思います。 同じ場所へ向かわれる方でパーティなど組んでみたい方がいらっしゃいましたら 良ければ御一報頂けますと幸いです。
ウォーリアのヴィルヘルミナです。今回はよろしくお願いします。
シューターのロイ・アウレアです。 【睡狼】では【2】で石垣の修繕に関わる人達を守る為にクリーパーを討つ予定です。 (結果的に術師達も守る事に繋がると思う) 詳しい内容は皆で相談してから決戦シナリオ相談場に書き込みますね。 皆で大成功を導こうー!
よォ!!俺ァドーマってもんで!! 見てのとおりのキャスターよォ!! 【3】でラスリャマスにケジメつけてやらねェとなァ!一緒にカマすヤツらヨロシク頼むぜ!!!
おーっす! ブレイブファング傭兵団のハヤト=ヴォルファングだ、よろしくな!! 【勇牙】 ベースは【3】で竜化させられたディノを助ける為にラスリャマスの野郎をぶっ潰す方向で動く予定だが、団員には別選択肢に散って各員で得意なことで活躍して来もらう事も考慮に入れてる感じだぜ!! 各選択肢で功績を挙げてきてくれりゃブレイブファング傭兵団の名も上がるってもんだからな! ちなみに団員以外でもチームを組んでの参加希望者も大歓迎だぜ♪ 良かったらコミュニティの方にも顔だしてくれ! https://alpaca-connect.com/world/world0/community/BL95hacTWpq5LK1hh5pn
ターミル族のハリスと申します。どうぞ宜しく。 我々の故郷を守り、封印を確固たるものとするため…皆様の力をお貸しください。 >行動 選択肢【3】にてディノの救出を主軸に行動するタグ【竜救】を作成予定です。 仔細については相談所の該当スレッドに記載しますので、お力添え頂ければ幸いです。
ウォーリアのフリーダです。よろしくお願いします。
情報屋のルチルだ。よろしく。 気になる事は多いが……ここは【3】でリザードマンの少年を助ける術を探ろうと思う。
おっすー☆《赤眼の山猫団》のクリエーナだぞー。 【1】あたりでうろちょろする予定だから一緒になる奴はよろしくなー?
あ、やめだやめ。やっぱ【2】行くわ、うん。という事で 改めてよろしく。
ウォーリアのスヴァンだ、よろしく頼む。 ふむ……【3】へ行こうと思う。
キャスターのスィーリーンと申します。 よろしくお願いします。 【2】にて死霊術師ドレイクの対処に参ります。
ウォーリアのバクルだよ。よろしくね。 【1】で月吸蟲攻撃に加わるつもり。 同じところへ行く人は、一緒に頑張ろうね!
シルヴィアだ。よろしくね。 【3】でアシムベートの護衛をするよ。
んんにゃf…なんだかすごい所に来てしまいましたががが… ひ、ヒーラーの…ララノアと申しまして、はい…(きょどきょど よ、よよよよろしくお願いいたしましでッ!!!!!!!(がばちょ
レイヤ・ダライ=カホール、キャスターです。 よろしくお願いしますね。 【2】に行こうと思ってます。 妙に動きがよいスケルトン…おのれドレイク、またもや英霊の魂を汚すというのですか…。
ウォーリアの蒋・璃龍、です。 【3】に行くつもり、ですので、一緒の人は、よろしくお願いする、ます
シューターのテテリカ。よろしく頼む。 【1】に向かう。 危険な戦いということで緊張するが……出来る限りのことをしてみよう……。
キャスター、アウレーリアよ。 【1】で殿下の支援を行うわ。同行する方は宜しくね。
【1】に行く予定です! どう動くかの詳細はまだ未定です。
ヒーラーのナタリアだ。 【1】で殿下らの元へ向かうつもりだ。
フリューリングスルフト! 【2】、仲間とモアギブンス狙いで動こうと思ってるよ!
フェイサル・セイフ、ヒーラーだ。 ターミルの者ではないが……かの少年の元、即ち【3】へと向かおう。
ヒーラーのギャメルだ! みんな、よろしく頼むぜー! 【1】で治療とか封印完成後にすぐ撤退できるようにとか、支援的な動きをしよーかなって思ってる!
シューターのアスティン。よろしく。 んー…。【3】に行く、かな…多分。
エルフのキャスター、イズレンディル・パラリムと申します。 【戻竜】のパーティでディノさんの救出に向かう予定でおります。 ご一緒の方は宜しくお願い致します。
シューターの大福と相棒の狼、粽なのだ。 おっきな戦いは初めてなのだ。ちょっと何ができるのか分からなくて迷子なのだ。
どうも、迷子ことマタリキーす。 ふーむ。む。どっか少なそうなところに行こうとおもっているす。 今ん所多いのは【3】>【2】=【1】>>【4】って感じすかね? よーし。じゃあ俺は【4】に行こうとおもうす。 ・雲霞鳥×数千体 ってやばそうな感じすけど、とりあえず「・メドゥの指先構成員×数名」こいつを狙って動くようにしたいと思うす。
ヒーラーのキャロラインです。宜しくお願い致しますの。 【4】に参りまして、シューターの皆様の流星射を援護しようかと思いますわ!
キャスターのシャルロット・エクレールです。フリューも言っていたけど、仲間と一緒に【2】でモアギブンスの討滅に従事します!どこの戦域でも、みんな仲間ですね、たくさんいらして心強いです。頑張りますのでよろしくね。ご武運を!
キャスターのパヴェルだ。宜しくなぁ。 チームで【1】に参加する事になった。気張っていくぜ。
んだぁおらカンナだべ おら【4】行くだべさ
シーフのギドだよ、よろしく頼むねー。 人少なそうな【4】に向かおうかと思ってるぜ。
キャスターのロドリック・アルカイン。よろしく頼む。 どこぞの放送で大変な状況と聞いて猫の手になりに来た。 報酬も美味しいらしいしな……。 【4】で雲霞鳥とやらを相手にしようと思う。 大きい雲霞鳥やメドゥの指先やらは他の皆に任せて雑魚退治をするつもりだ。 選択肢的に近くの人はよろしく。遠くの人はそちらも頑張ってくれ給えよ!
ヒーラーのエルゼリオ・レイノーラだよ。今回は宜しく! 戦域【1】で『泥血啜る月吸蟲』の対応に回るね。
ウォーリアのコルネリウスです。チームで【3】へ向かう予定です。宜しくおねがいします。
遅れてすまない、ウォーリアのニワニだ。 【4】の雲霞鳥の数を何とか減らしてみよう。
キャスターのイオ・ラヴバロックです。よろしくお願いします。 ふうむ、私は【3】で結界への攻撃でもしましょう。修復のために部下を消耗してくれるなら助かりますからね。
キャスターのザザ=ステルヴィナよん。今回は宜しくねん♪ 私は【1】で月吸蟲の対応に当たらせて貰うわ。
ウォーリアのアーシェルだ。 チームで【4】に向かう。 同じ行き先の奴らはよろしくな。
シーフのナハティガル=ラーだ。 戦域【1】の対応に向かう。 同戦域参戦者は宜しく頼む。