【帝国】決戦:未来への嚆矢

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シナリオID:3366

オープニング

 帝都南と北の城壁に大穴があき、大音声を聞いた帝都内のクリーパー達が我先にと駆け、引き付けられてゆく。新旧の『幽界樹の仔』はもちろん、イダ・バルダス配下のクリーパー達も、多くがロスガリア大陸連合軍による陽動に乗せられていた。
 十分に待ち、次に唸るは帝都南東の投石器。先行偵察時に確認された城壁表面の蜘蛛の巣状の罅(ひび)は、そこが最も脆く、崩しやすい箇所であることを表していた。
 そこに投擲されたのは、南や北で用いられたよりずっと小さな岩。嚆矢の如く飛んだ岩は城壁を打ち崩し、帝都突入部隊が通れるほどの穴を生じさせた。

「突入に備えよ!」

 帝国皇子レイウェスト・バルダスが見つめる先で、マクシミリアン・ミルド率いる部隊が城壁の穴に殺到し、進軍の妨げとなる瓦礫を迅速に払い除ける。穴の向こうを確認し、振り返った近衛連隊長の合図を見て、レイウェストは声を張り上げた。

「――突入せよ!!!」

 クライス・アクバーの指揮のもと、何基もの大型凝黒装置と術師達、帝国兵達が穴をくぐり帝都内へと吸い込まれて行く。征竜の虹宝剣を手に駆け出したレイウェストと共に往くのは、バルディオン率いる帝国軍、ウィリアム・リーンエス率いる王国軍、そしてこの日のために集った多くの冒険者達。

「……! 殿下!」

 帝都内部に足を踏み入れたレイウェストを、頭上から降り注いだ『幽界樹の実』と鋭利な刃と化した『幽界樹の葉』が襲う。爆裂した実がバルディオンの盾を揺らし、乱舞する葉が身を挺して庇った帝国兵の鎧を切り裂いた。

「感謝する! しかし、これは……もはや荒野どころか魔境だな」

 凝黒装置が稼働し、黒い霧が薄まったこの場所では、周囲の様子がよく見える。
 レイウェストやマクシミリアンが知る帝都の姿は、もう跡形もない。城も、民家も、商店も。何もかもが無に帰し、瓦礫すらも殆ど残されていなかった。
 頭の上は都市全体を幽界樹の枝葉に覆われ、いつ実や葉による攻撃が降ってくるかわからない。地面を見れば至る所で幽界樹の根が蠢き、もはや安全地帯など何処にも無い。

「レイウェスト。幽界樹の仔やイダ配下のクリーパーが集まってこないうちに分かれるとしよう。近衛連隊長(マクシミリアン)殿、クライス殿、よろしく頼みます」
「承知した。私とバルディオンは皇妃の捜索へ向かう」

 幽界樹の伐採を目指すウィリアムら王国軍とマクシミリアンの帝国部隊、多数の凝黒装置部隊を引き連れたクライスらは、襲い来る幽界樹の根や葉を冒険者と共に強引に払い除けながら帝都中央へと進軍していく。

 レイウェスト、バルディオンと配下の帝国部隊、そして冒険者達は、残された5基の凝黒装置と術師らを守りながら帝都を進む。広大な帝都のどこかに潜む、皇妃イダ・バルダスを捜し出すために。

●
 帝都外周、南西部。
 城壁の上に座し、ただ黙して帝都を見据えている白き竜――征竜を目の前にして、アシムベート・グリオウ率いるリザードマン部隊は機を待っていた。
 イダ・バルダスは征竜の来訪を歓迎していない。幽界樹の仔なり、配下のクリーパーなり、じきに刺客を差し向けてくるだろう。それを疎んじた征竜が、連合軍を巻き込む反撃に出るような事があっては困るのだ。少なくとも今は、同盟者の休戦相手として静観を貫いていて欲しい。

「多少は敵を引き寄せようが……そろそろ頃合いか」

 音を立てては却って帝都内の敵を引き付けてしまう恐れはあるが、征竜へ向かう敵を排除するなら城壁の内側に入らねばならない。帝国軍が城壁傍で凝黒装置を起動して黒い霧を薄め、投石の準備を終える。
 そしてアシムベートが号令を出そうとした――その時だ。

「あれは……?」

 投石の寸前、アシムベートらは有り得ないものを見た。
 エルフらしき銀髪の娘が、たった一人で必死に城壁をよじ登ろうとしているのだ。

「あの娘を止めよ!」

 凝黒装置の護衛についていた帝国兵が止めにかかるも、彼女は強引にそれを振り払う。大声で叫び、暴れるその娘を、駆け付けたアシムベートが何とか押さえつけた。

「離して! わたしは征竜さまのために戦うんだから! あなた達、リザードマンなのに征竜の巫女の邪魔をするのっ!?」
「征竜の巫女……? お主、噂に聞くヒルルク殿か」
「わかったなら離しなさいよ! わたしには征竜さまをお守りする使命があるのっ!」

 癇癪を起こしたように喚き散らすヒルルクを見遣り、アシムベートはしばらく考えた。そして徐に手を放し、頭上を仰ぎ見る。

「――征竜殿。しばし御耳を拝借したい。此処に居られる貴方の巫女殿は、貴方の盾となり共に戦う事を喜びとする者であろう。それは我らリザードマンとて同じ事」
「なっ――!?」

 嘘を吐くな――と叫びかけたヒルルクを、アシムベートが片手で制止した。

「我らリザードマンが連合軍に与してこの場に居るは、征竜殿の御身を守り共に戦うため。我らは忠実なる竜の僕である。どうか我らが望みを聞き届けてはくれまいか」
「ちょっと! 何言ってるのっ!?」

 さすがに黙ってはいられず、アシムベートに詰め寄るヒルルク。
 だがその時、彼らの周囲に影が差す。

「……征竜、さま……?」

 ヒルルクは動きを止め、恐る恐る頭上を仰ぎ見た。

●
「幽界樹の幹は帝都中央――城の跡に聳えているとレイウェストが言っていたね」
「敵数が増えて参りましたな。本丸が近いという事でしょう」

 ウィリアムやマクシミリアンら幽界樹伐採部隊は、散発的に襲い来る幽界樹の仔や根の攻撃を凌ぎつつ、ひたすらに帝都中央を目指して進んでいた。負傷者の後送や万一の時の退路を確保するため、道中の要所要所に1基ずつ凝黒装置と護衛を置き、黒霧の中に回廊を作るようにして前進するしかない。本隊はまもなく、目標まで1kmほどと思われる地点まで到達していた。

 人を模した形の新型幽界樹の仔が本隊に随伴する凝黒装置を狙い、猛スピードで接近しては襲い来る。護衛を抜けた個体がクライスの拳打に吹き飛ばされ、空中で霧散した。 

(……エフレム殿は姿を現さん、か)

 幽界樹の伐採跡に生じるやもしれぬアストラル界に通じる『穴』を塞ぐため、彼の智者は帝都のどこかで力を蓄えていると言う。クライスはかつて自身に助言を与えたエフレムの姿を探して周囲を見回したが、それらしき者は見当たらない。

「ウィリアム王子。あれを」
 前方。マクシミリアンが指差した先を見て、ウィリアムはその端正な眉を寄せた。

「……これはこれは。盛大な歓迎パーティーの始まりだね」

 凝黒装置の効果範囲外、黒い霧の中から、無数の幽界樹の仔が溢れ出してくる。クライスの声に振り向けば、両側面からも大量の敵が迫ってきていた。

「前方を切り拓け! 凝黒装置を守り、前進せよ!!」

●
 凝黒装置を守りながら帝都を歩き回り、たった一人の女を見つけ出すのは容易なことではない。いくら相手が神にも至れる超越者だとしても、自ら姿を見せて戦う必要のない者ならば身を隠すのは当然だからだ。
 地上に余計な建造物が無いことは捜索の手間を幾分省かせたが、10km四方という帝都の広さが最大の障害だろう。
 大都市ゆえに、下水道や地下室といった地下空間は少なくない。内部は幽界樹の根の活動の影響で崩落していたり、途中で通行不能になっていたりと完全な形で残されてはいないが、それらの何処かに皇妃イダ・バルダスが潜んでいる可能性があった。

「……外れか」

 帝都の南東部から捜索を開始したレイウェスト達は、発見した地下空間の確認を終えた帝国兵の表情から結果を察した。
 そうこうしている間にも、幽界樹の実に寄生された旧型幽界樹の仔らが、征竜の虹宝剣を持つレイウェストや黒霧を吸い続ける凝黒装置を狙って姿を現した。
 爆裂する実と舞い踊る葉をかわしながら、冒険者達と帝国兵は得物を手に敵を迎え討つ。
「隊を分ける。皇妃、もしくは潜伏場所と思しき場所を発見した者は、合図を発してほしい。帝都は広く、声では届かぬだろうからな」

 ここからは捜索範囲を広げるため、危険を承知で隊を分け、5基の凝黒装置をそれぞれに振り分けて進む必要がある。レイウェストの指示に耳を傾けながら、帝国軍の各隊隊長らと冒険者達は事前に配布された呼子笛を確認した。他の伝達手段の方が有効となる場面もあるかもしれないが、無いよりは良いはずだ。
 一方で、バルディオンには別の懸念もあった。

「恐らく、皇妃に近付けば近付くほど、配下のクリーパーの襲撃を受ける可能性が高くなるであろう。幽界樹の根や頭上からの攻撃にも注意を怠らぬように」

 幽界樹の仔ではなく、イダ・バルダスが直接操作しているらしいクリーパーは、この戦より前にも何度か人類の前に現れている。いずれも大型など強力な個体であり、中にはイダの耳口となり、外部との会話を可能とするものまで存在した。人間が指示を出しているだけに幽界樹の仔より高度な戦術や連携をとる可能性があり、遭遇すれば苦戦は必至だ。

「皇帝ヨゼフ・バルダスもまた、この帝都でイダを捜しているはずだ。イダを倒すにはヨゼフや征竜の力も利用せねばならないし、彼らとは一時休戦が成立しているが……油断は禁物だ」

●
「あんな適当なこと言って、征竜さまを騙したんでしょ!? 連合軍が征竜さまの敵だってことくらい、わたしだって知ってるのよっ!」
「そう嚙み付かずともよかろう、巫女殿よ」

 帝都南西部。征竜がアシムベートの進言を受け入れたか、それとも足下で大騒ぎする人間達を邪魔に感じたかは不明だ。しかし、ヒルルクとアシムベート、リザードマン部隊、そして冒険者達は、征竜の念動力によって城壁を飛び越え帝都内に入ることができていた。

「征竜殿は儂ごときに騙されるような方ではあるまい。儂らが今は征竜殿を傷つけず、同盟者の休戦相手としてこの場に在ろうとしている事はわかっておろう」

 征竜ほどの力があれば、幽界樹の仔など敵ではないはずだ。それでもアシムベートらを自身の前に招き入れたのは、征竜にとってイダ・バルダスが一瞬の隙も見せられぬ強敵であり、雑兵の相手などに気を取られたくないという意識の表れかもしれない。
 無論、仮にリザードマンごときが翻意し襲い掛かってきたからといって鎧袖一触で蹴散らせる自信が征竜にはある、という前提もあるのだろう。

「わたしはあなた達の味方じゃないし、信用もしないわ」
「それで構わぬ、巫女殿よ。儂らは儂らでやらせてもらう」

 警戒心を露わにしてリザードマン部隊や冒険者達から距離をとり、征竜を背にして立つヒルルク。やがて、黒い霧の中から無数の幽界樹の仔らが溢れ出し、征竜めがけて迫って来るのが見えた。

解説

■連動特設ページ・イメージノベル https://alpaca-connect.com/world/world0/event/event42_top2 ■相談場所について 戦域が多岐にわたるため、相談用コミュニティを用意いたしました。 「【帝国】 決戦:未来への嚆矢」相談場 https://alpaca-connect.com/world/world0/community/02f23053-de0a-4b3f-9274-a09494b6969d ・戦域単位での募集や挨拶 ・パーティの募集・案内 ・【タグ】説明スレッド また、パーティ内での個別の相談については、上記コミュニティ以外を使用してもかまいません。 ■【重要】プレイングの書き方 ・今回参加する戦域を選択肢からお選びください。:【1】【2】【3】 ・パーティや協調行動を示すタグは【一行目に】指定してください。タグでの指定は必ず【1つまで】となります:【幽界樹伐採】【皇子護衛隊】など  例   【幽界樹伐採】   (プレイング本文) ・【タグ】とは、「パーティ」がどういった行動指針をとるのかを示す表記です。お友達同士の参加や、特定の目的の行動をする場合、同じ【タグ】を表記していることで判定に用いられます。 ・同じ【タグ】で戦域が分かれることは問題ありません。 ・【タグ】内容の説明(何を目的とするか、運用方針など)については、「相談用コミュニティ」の専用スレッドに【200文字以内】で記載ください。200字を越えた場合はタグそのものを無効といたします。 【1】【2】【3】戦域共通情報 以下の情報は、帝都内の全戦域に共通する。 ・爆裂する実、葉っぱカッター、幽界樹の根 帝都全体を覆う幽界樹の枝葉から、不定期で『爆裂する実』や『鋭利な刃のような葉』が降ってくる。また、幽界樹の根も帝都全体に張り巡らされており、薙ぎ払いや刺突などの攻撃が予想される。 ・黒い霧 幽界樹が常時発生させている霧。黒い霧の中では、濃度に応じて方向感覚や位置感覚の喪失、能力低下が起きる。幽界樹は現在全力で黒い霧の濃度を高めており、帝都内で最も薄い城壁のすぐ内側であっても、凝黒装置の効果無しで行動できるのはヨゼフら高位の授恵者のみの様子。 ・本格式凝黒装置(大型) エーテル石を内部に収めた紋具装置。大きめの竈程度のサイズで、荷車に積んで移動させる。『黒い霧』を黒い結晶岩に変えることで空間から除去し、人間への悪影響を抑える。ただし一割程度の霧は残る。動作中は基本的に自動で作動するが、作動開始や停止などの操作には最低10人の術者が必要となる。最大効果範囲は直径約500m、最長稼働時間は2~3日と推定される。 作動後、術者は荷車の移動や護衛に専念する。 ・本格式凝黒装置(小型) 大型と同様の効果をもつ、アクセサリー程度の小型紋具装置。術者は1人で良く、最大効果範囲は直径200m弱、最長稼働時間は1時間と推定される。大型が破壊された場合の緊急対応用に、クライス、マクシミリアン、バルディオンが所持している。 ・幽界樹の仔(旧型) 幽界樹の実を植え付けられた、様々な外見、サイズのクリーパー達。取りついた実が発芽し、根を張っているように見える。本体クリーパーと寄生体クリーパーが別個に行動するため、一体であるが二度の攻撃を行う難敵。実の部分が弱点であるようだが、小さい為に狙う事は容易ではない。幽界樹の端末の役目も果たしており、通常の五感も存在はするが、エーテル知覚に多くを頼る。相互の探知情報を共有するために死角が少ない。 ・幽界樹の仔(新型) 幽界樹に生み出された分身体のようなクリーパー。人を模した形をしているがそのサイズは人間同様の小型サイズから巨人並の中型サイズまで存在する。小型には頑丈な近距離型、投石を行う遠距離型の区分が存在し、中型は近距離型のようだ。幽界樹の端末の役目などは旧型と同様。 ・帝都内全体の状況 帝都全体が幽界樹の枝葉に覆われているが、時刻は日中であり、凝黒装置の効果範囲内であれば木漏れ日程度の明るさ。視界に不安は無い。 帝都内の地上には人工建造物や瓦礫が残っておらず、地面の至る所で幽界樹の根が蠢いている。下水道や地下室など地下空間は残っているが、多くが根によって破壊され、崩落したり、通り抜けができなくなっている。 【1】帝都中央『天霧りに消ゆる幽界樹』伐採(危険) ▼状況 最速で帝都中央の幽界樹を目指し、伐採することが目的となる。 現在は幽界樹から南東に約1kmほどの地点を前進中。殆どの大型凝黒装置は退路確保のため途中で置いて来ており、現在は3基とそれぞれ10名ずつの術師が隊に随伴している。また、3基中2基と術師、護衛の帝国兵は、ここからの道中で本隊と分かれて退路確保に留まり、幽界樹の近くまで移動させるのは1基となる。 凝黒装置は全て稼働中で、効果範囲内にいる限り黒い霧の弱体効果は低い。最も霧の濃度が濃い幽界樹の幹付近であっても、Lv.9以下の授恵者に限りわずかな悪影響がある程度。 現在、隊の前方と両側面から大量の幽界樹の仔らが迫ってきており、それぞれ隊との距離は150mほど。前方の敵を切り拓いてでも前進する必要がある。 ▼味方戦力 ・ウィリアム・リーンエス リーンエス王国第二王子。レイウェストの未来の義兄であり、大陸有数の強力なウォーリア。前進と幽界樹の伐採を優先して行動する予定。武器は王家の宝剣。 ・王国騎士団 王国騎士団の授恵者隊30名。授恵者は各クラス6名ずつ。実力は中堅~高レベルPC以上でまちまちである。ウィリアムと行動を共にする。 ・王国【集権派】貴族騎士団 リーンエス王国【集権派】貴族達の騎士団。各クラス8名ずつの授恵者40名。実力は中堅~高レベルPC以上でまちまちである。現在、側面から迫る幽界樹の仔の群れを押し留めるべく展開している。 ・マクシミリアン・ミルド シルトラース帝国近衛連隊長として最強の戦士とされ、滅亡前の帝国では四方将軍の上席にあり、帝国軍人の頂点であった。ヨゼフより切り捨てられ、現在はレイウェスト皇子に協力している。前進と幽界樹の伐採を優先して行動する予定。武器は両手剣。 ・クライス・アクバー シルトラース帝国近衛連隊出身の元軍人で帝国魔導院エスタル支部長を務めていた。強力な授恵者であり、幽界樹に関する問題の専門家でもある。大型凝黒装置の運用を指揮しながら前進し、幽界樹伐採中も装置の護衛に回る予定。 ・帝国兵部隊 多数の授恵者兵士が随伴していたが、多くが退路確保用の凝黒装置の護衛として道中で分かれている。現在残っている30名も凝黒装置3基の護衛として行動する予定。 ▼敵戦力 ・天霧りに消ゆる幽界樹 帝都中央付近に生えており、直径15m、全高60m程と目される超大型級クリーパー。根と枝葉は帝都全体に及んでいる。 特殊能力である『黒い霧』は強力だが、攻撃手段は爆裂する実の投下や葉っぱカッター、根による薙ぎ払いや刺突など比較的単純である。 ・幽界樹の仔(新型・旧型) 多数 初期位置では前方から30体(小型25、中型5)、右側面から15体(小型12、中型3)、左側面から40体(小型30、中型10)が迫ってきている。いずれも新型・旧型が入り混じっている。幽界樹がさらに呼び寄せる可能性は高い。 【2】帝都市内『イダ・バルダス』捜索(危険) ▼状況 帝都市内のどこかに潜伏しているとみられる皇妃イダ・バルダスを発見することが目的となる。 大型凝黒装置は5基とそれぞれ10名ずつの術師が随伴している。捜索は大型凝黒装置を守りながら移動し、常に効果範囲内で行う必要がある。5基はそれぞれ別々に動かしてもよく、複数班で手分けしての捜索が望まれる。1基はレイウェストとバルディオン、護衛の帝国兵10名と共に移動するが、この班に冒険者が加わっても良い。 新型・旧型の幽界樹の仔による散発的な攻撃を受けており、征竜の虹宝剣を持つレイウェストと凝黒装置は特に標的にされやすいようだ。 イダは非常に強力な『魅了』と呼ばれる能力を持つ超越者であり、相対すれば行動を操作されてしまう恐れがある。非常に危険であるため、イダの所在を発見しても無暗に近付くことは推奨されない。発見時の合図として呼子笛が配布されているが、状況次第では別の情報伝達手段を用いても構わない。 また、イダが直接操作する強力なクリーパーと遭遇する可能性もあるほか、ヨゼフも同様に帝都内でイダを捜索しているようだ。 ▼味方戦力 ・レイウェスト・バルダス シルトラース帝国の第八皇子であり唯一と思われていた皇位継承権者で、クラスはシーフ。リザードマンとヒューマンの混血である事が最近判明した。『征竜の虹宝剣』の契約者であり、幽界樹に警戒されやすい。イダの『魅了』の効果を受けないと推測される。 ・バルディオン 帝国南部の要『ヴァイセントラフ砦』と『帝国南部鎮守都市ヴィント』を任された帝国の重鎮であり、南方将軍。強力なウォーリアである。レイウェストの護衛を優先する予定。武器は戦斧。 ・帝国兵部隊 バルディオンが配したレイウェストの護衛10名。帝国軍の授恵者であり、各クラス2名。実力は中堅~高レベルPC以上でまちまちである。 ▼その他 ・ヨゼフ・バルダス 現シルトラース帝国皇帝。民も国も失った今でも「大陸制覇」に固執し、それしか見えていない。レイウェストとはイダ打倒までの休戦を約束している。武器は矛、征竜の頭骨を素材とした特殊な具足を装備。独自にイダを捜索し、その異能の収奪をも狙っているとみられる。 ▼敵戦力 ・イダ・バルダス ヨゼフの第三皇女であり、皇妃(側室)でもある女性。レイウェストの実母。エフレムに命じて『天霧りに消ゆる幽界樹』を召喚させ、帝国を崩壊させた人物。超越者であり、独善的に『美しい世界』を追い求めている。美を極めた末の異能『魅了』により帝都の幽界樹と多数のクリーパーを支配下に置いている。 (姿が見える距離に居る者には、毎ラウンド無条件でBS【行動操作】の付与判定が行われる) ・幽界樹の仔(新型・旧型) 多数 新型・旧型ともに、散発的に攻撃を仕掛けてきている。幽界樹が更に呼び集める可能性がある。 ・イダ配下のクリーパー ?体 捜索中、イダが直接操作する強力なクリーパーの襲撃を受ける可能性がある。クリーパーを通じてイダと会話が可能な場合もあるようだ。 【3】帝都南西『征竜』問答 ▼状況 帝都南西の城壁上にいる征竜に対応し、イダ捜索や幽界樹伐採が行われている帝都内の友軍に被害を出させない事が目的となる。 征竜は現在、幽界樹の枝葉の上から帝都内に目を向けている。征竜の巫女ヒルルクやアシムベートの言葉に応え、彼らとリザードマン部隊、冒険者達を帝都の城壁内へ移動させた。 現在、新型・旧型の幽界樹の仔の群れが征竜を目指して前方から迫ってきている。征竜が反撃を行った場合の余波は凄まじいものと予想されるため、敵が征竜に達する前に排除する必要がある。その他、イダが直接操作するクリーパーを差し向けてくる可能性もある。 城壁のすぐ外側で大型凝黒装置が稼働しているため、直径約200mほどの半円が効果範囲。 ▼味方戦力 ・アシムベート・グリオウ ディズル大湿地帯の最大派閥であるギシュム族の酋長。大酋長とも呼ばれる。かつてイダの異能を知るヨゼフの策により彼女と出逢い、盲目的かつ一方的な恋をした末に子レイウェストが誕生。加齢により衰えはあるが、強力なウォーリアであり、武器は大剣。 ・リザードマン部隊 ディズル大湿地帯の授恵者リザードマン戦士30名。各クラス5名で、実力は中堅~高レベルPC以上でまちまちである。 ・帝国軍部隊 城壁の外側で凝黒装置の護衛を行っており、基本的に戦闘に参加しない。 ▼その他 ・征竜 四つ足に翼の生えたいわゆる西洋竜の形状をしている。余り社交的な生き物ではなく、人類の粛清を口にしているものの、掛けられた言葉や行動には気が向いたら反応する。対応には思念会話を用いる。 ・ヒルルク 【極北の征竜】の耳目としての役割を持つ《征竜の巫女》。征竜が人類の粛清を宣言しても、シル・ウァキア滅亡時の征竜達の暴挙を聞いても、忠実な征竜の巫女であり続けようとしている。武器は巨槌。 ▼敵戦力 ・幽界樹の仔(新型・旧型) 多数 前方100m弱の距離に、新型・旧型が入り混じった40体ほどが迫っている。中型は9体で残りは小型。幽界樹が更に呼び集める可能性がある。 ・イダ配下のクリーパー ?体 大型など、イダが直接操作する強力なクリーパーの襲撃も受ける可能性がある。クリーパーを通じてイダと会話が可能な場合もあるようだ。

マスターより

決戦シナリオのリプレイ執筆は複数のマスターが担当いたしますが、基本的な判定は運営サイドで行います。 参加者にはこのシナリオでの働きに応じた褒章が付与されます。将来的にPCの皆さんの功績を表す重要なアイテムになりますので、大切に保管してくださいね!

リプレイ

【1】帝都中央『天霧りに消ゆる幽界樹』伐採(担当マスター:革酎)

●
 一部の箇所に限定した話ではあるが、冒険者達の周囲から黒い霧が消えてゆく。
 それまで『天霧りに消ゆる幽界樹』の完全支配領域として、肉体と精神を蝕む闇に覆われていた帝都シルトラースだったが、幽界樹まで延びる突入路上に本格式凝黒装置がポイント毎に配置されることで、幽界樹討伐隊の行く手を圧していた黒い霧のほぼ九割が除去された。
「来るぞ……余裕は無ぇ。ギリギリまで耐えさせねぇとな」
 視界に飛び込んできた敵集団をじっと睨み据えたまま、【赤翼】のエイル・ビュセファスが傍らのフリューリングスルフト=ティエラに低い声音で呼びかけた。
 幽界樹まで残り約1キロメートルの地点で、前方と左右から迫ってくる幽界樹の仔の数と勢いが格段に跳ね上がっていた。
 右側警戒線を担当している【赤翼】は集権派貴族騎士団15名と共に、突撃を仕掛けてくる新旧混合の仔クリーパー集団との熾烈な戦闘に突入した。
「赤翼一番風、疾風怒濤に参るさぁ!」
 エイルの魔術支援を受けたフリューリングスルフトが、疾風の如き機動力を発揮して敵集団の間を目まぐるしく駆け回る。彼女の得物はまず旧型を積極的に狙った。接近戦と遠隔戦にタイプが分かれる旧型の方が、乱戦では厄介だと判断したのだろう。
 一方のエイルも、フリューリングスルフトや騎士団に指示や情報を送るばかりではなく、回復や弓での援護射撃を適切なタイミングで仕掛けてゆく。右手側防衛線は当面、破られることは無さそうだ。
 逆側の左手側防衛線にも、当然敵は迫ってくる。仔クリーパーの数は、右側防衛線とは比較にならない。
 こちらの防衛線主戦力は集権派貴族騎士団25名に加えて【リューイ隊】のリューイ=ヴァレンゴルト、シンディー・ホシカ、ユニス・ソロアーヌ・アクエリリーアの他に、イヴェール・イリュジオンという顔ぶれが揃っていた。
「ここから先は通さない!」
 鉄壁の守りを誇るリューイが、前へと出る。その後方から、シンディーが生成した防御壁を盾としたユニスが援護射撃を叩き込んできた。
「さぁ進んで! 貴方達の背中は私が守るから!」
 文字通り矢継ぎ早に鏃を撃ち込むユニス。その弾幕の力を借りてリューイとイヴェールが一気に前へ出た。
「中型は、任せて下さい」
 イヴェールが、近接戦闘に於いては最も手強いと目される中型の正面へと走る。その彼女に対して左右から小型が群がり来るが、シンディーの放った爆炎が怒涛の勢いで蹴散らした。
「まとめていくから!」
 その宣言通り、シンディーの範囲攻撃魔法が小型の群れを次々と焼き払ってゆく。
 騎士団もリューイの頑強な防御に守られながら前へと出た。頼りになる盾役が居ることで、彼らもその本来の力を大いに発揮出来ている。
 そしてイヴェールが中型を相手取ることで、騎士団には大きな損耗が出ることも無く、着実に敵の数を減じせしめていった。
 しかし、矢張り数が多い。一部の敵は防衛線を突破し、本格式凝黒装置へと迫る勢いを見せた。が、エイル・アーティライトの魔法がこれらを足止めにかかる。
「幽界樹本体との戦闘に入るまでは、なるべく戦力を温存しなければ……」
 稲光の網で数体のクリーパーの動きを止めたエイル。その間に騎士団が左右から躍りかかり、何とか敵を押し戻すことに成功していた。

 この状況を見て、当初は突入路右側を抜けてゆく作戦を立てていた【ふしぎ亭】も、方針転換をせざるを得なかった。
 最初に問題に気付いたのは、テュリン・ヴィングだった。
「敵の布陣、幽界樹の方角、凝黒装置の効果範囲……全部総合して考えてみたけど、右側を抜けてゆくのは逆にこちらが背後を取られるリスクが高いわ。余りに、危険過ぎる」
 その結論に至ったのは、ヒロ・テスタロッサによる敵陣形の観察結果も大いに寄与していただろう。
「あたしが視た結果も、同じだね。右は拙いと思う」
 正面と右側の敵にその機動力を活かして威力偵察を仕掛けたヒロ自身も、同意見を口にした。仮に右側を突破したとしても、敵正面戦力の一部がこちらの突破に気付いて引き返せば、【ふしぎ亭】は幽界樹と仔クリーパーの双方から挟み撃ちに遭う可能性が高い。下手をすれば、全滅する。
「ふたりがその意見なら、従うしか無いだろうね」
 ララベル・サン・ディーベルは冷静に頷き返した。己の策に固執して仲間を危険に晒す様な愚は犯さない。最大の目的は幽界樹の討伐であり、自分達の手柄を誇ることではないのだから。
「神風四連撃を喰らわせるのはもう少し先かな」
「死齎刃と毒撃も、それまでお預けね」
 アルラ・ニグラスも苦笑を滲ませた。狙いは飽くまでも幽界樹本体。雑魚に用は無い。
「あたしも皆が辿り着けるように精一杯応援するよ」
 今回【ふしぎ亭】と歩調を合わせていたアリエッタが、小さく拳を握り締めた。
 と、その時。
「おっと……おいでなすったぜ」
 ゴルバルティアが得物を抜き放って前へ出た。
 防衛線を突破した一部の敵が、間合いを詰めてくる。生憎【ふしぎ亭】に治癒師は同行していないが、かといって盾役たるゴルバルティアが尻込みすれば、仲間全員が危険に晒されることになるだろう。
「ハヤテ、前は任せるわ」
 相棒の狼ハヤテをゴルバルティアの支援に走らせつつ、楓月・千弦は援護射撃の態勢に入った。
 その傍らでテュリンも光弾の雨を降らせるべく、攻撃魔法発動の準備に入った。
 そしてララベル、アルラ、ヒロといった面々も正面への突破口を切り開く為に、群がり来る敵に向けて一気に間合いを詰めてゆく。
 幽界樹までの距離はまだまだ、遠い。少しずつ前へと進んでゆくしか無さそうだ。

●
 チーム【流星射】は当初、三人の射手による流星射で正面への突破口を切り開く作戦だったが、ペットを連れていたのはサロとロウトフェダーのふたりだけであった。
「新しい神話が生まれるのだな。ならば我も出来ることをやらねばなるまい!」
 今回は流星射の担当になり得なかったポコ・アルデバラッドだったが、その号令が合図となって、サロとロウトフェダーの渾身の一撃が放たれた。
 凄まじいばかりの破壊力が、前方の敵集団を一気に薙ぎ倒した。
 その直後、サロとロウトフェダーは荒れ放題の地面に膝をついた。一瞬、体が動かない。
「のんびりしている場合じゃないね……さっさと後退しよう」
 刃状葉や炸裂種子が降ってくる前に後退せねば――サロは警戒の視線を走らせつつ、ロウトフェダーに頷きかけた。ロウトフェダーも、
「ダンジョンみたいな帝都内に置いてかれたら、流石に生きて帰れないな」
 などと苦笑を返しつつ、力を振り絞って立ち上がった。怯え、あるいはぐったりしているふたりのペットも同時に後退せざるを得ない。僅かに残された黒い霧の影響は、エーテルリンクの無いペット達には依然として脅威なのだ。
「ふたり共、早く退がるッスよ!」
 同じく【流星射】のマトンが短く叫んだ。正面の敵は最前線の個体が薙ぎ倒されたとはいえ、後方からも次々とクリーパーが湧き出る様に接近して来る。マトンとポコがふたりの後退を支援しなければ、あっという間に敵の勢いに呑み込まれてしまうだろう。
 ポコの援護射撃とマトンの攻撃魔法が繰り出される間を縫って、サロとロウトフェダーは早々に後衛の間へと引き退がっていった。
 ここでエイル・アーティライトの稲光が追いすがる敵の足を止め、更にはリコリス・アデュラリアも正面火力に参戦し、大きくこじ開けられた正面への突破口に更なる攻撃魔法を叩き込んだ。
「具合はどうですか?」
 マトンとポコの支援を受けて後退してきたサロとロウトフェダーに、ちらりと視線を流したリコリス。常に敵の動きを警戒していた彼女だが、味方の為に重傷を負ったふたりの射手を気遣う程度の余裕はあった。
 ともあれ正面の敵が一時的とはいえ、その陣形に大きな穴を開けた。
 この瞬間を見逃すことなく、冒険者達は一斉に前へ出た。

 幽界樹討伐隊に参戦しているウィリアム・リーンエスは、傍らで得物を抜き払ったマクシミリアン・ミルドに穏やかな笑みを向けた。
「こりゃあ物凄いおもてなしだね。こんなに大歓迎してくれるなら、こちらもお客として応えないとね」
「手土産は凝黒装置ですな。お持たせにしては、悪くない」
 軽口を交わし合うウィリアムとマクシミリアン。まさに人類切っての最強戦力の一角だ。そのふたりがこうして並び立つだけでも壮観といえる。
 このふたりが先頭に立ち、幽界樹討伐隊は大きく抉られた敵正面戦線へと雪崩れ込んでいった。
「ウィリアム様! 露払いはお任せを! ミレイユ、参ります!」
 ここでミレイユ・ヴェルジーがウィリアムの傍らを駆け抜ける様にして前へと飛び出してゆく。ウィリアムは防御型の戦士だが、その攻撃力は幽界樹討伐には必須だ。仔クリーパー如きにその力を消耗させてしまうのは、余りに勿体無い。
 ミレイユはウィリアムに肉迫しつつあった中型サイズの新型仔クリーパーを一気に弾き飛ばした。彼女が見せたその勢いに乗って、今度は【勇牙】の面々が怒涛の圧力を発揮した。
「うるぁ! 敵の動きは全部俺が見切る! 派手に行くぜ!」
 ハヤト=ガラン=ヴォルファングがミレイユが弾き飛ばした中型の後を追う格好で、敵正面戦力のど真ん中へと飛び込んでいった。その圧倒的な機動力と超速の刃は、この最前線に於いて無双の勢いを見せつけた。
 しかし如何に超機動力を誇るハヤトといえども、完全包囲されてしまっては孤立無援となる。そんなハヤトを地味に助けているのが、バルー・キップリングとカイン・ステラ、ルアンナ・ミュラーら【勇牙】のメンバー達だ。
「今回は、大きな節目だねぇ」
 呑気に笑いながら、愛用の斧で群がり来る小型クリーパーを次々と薙ぎ倒してゆくバルー。見た目が熊そのまんまである為か、戦果以上に見た目の迫力が半端無い。
 一方、カインは余り派手な動きは見せていないが、その戦術は実に手堅い。相棒の大鼬ファを死角への見張りに就かせると同時に、自身は突破戦に用いる技と幽界樹戦に温存する技を巧みに使い分けながら、着実に敵の数を減らしつつある。
 異常発生時や敵に目印をつける必要があれば閃光塗弾を用いることにしているが、今はまだその出番ではない。
「ルアンナ、今日は抑え気味だな」
 カインは傍らで範囲攻撃魔法を放っているルアンナに視線を流した。ルアンナは、えへへと笑いながら防止の鍔にそっと指先を添えた。
「まだ本気を出す場面じゃありませんから」
 どうやら、幽界樹に迫った時には特大の一撃を用意しているらしい。火力と生命力の塊の様な彼女だが、抑えるべきところは抑えるという戦術的発想は頼りになる。
 本当の敵は仔クリーパーではない。如何に幽界樹戦まで戦力を温存出来るかが、攻略の要点であろう。

●
 幽界樹討伐隊は徐々にではあるが、討つべき敵との距離を詰めつつある。
 当然、頭上から降りかかる刃状葉や炸裂種子の飛来頻度も高くなるし、地中から襲い来る槍状鞭根による攻撃も次第に苛烈となりつつある。
 しかしウィリアムやマクシミリアンといった高度火力が然程に損耗していないのは、【花鳥】の壁エルフことコルネリウス・アーラによる徹底した護衛が功を奏していたからといって良い。
「コルネちゃん、お疲れ……お蔭さんでマックスの剣を幽界樹戦に全力投入出来そうだね」
 幾らかの負傷を受けて後退してきたコルネリウスに、ディレイン・オールドケイジが治癒術を施した。なるべく短時間での治癒施術で終わる様にと、フクシア・S・シュルツも手を貸した。
「それにしても、今のところは怖いぐらいに順調ですね」
 フクシアは相手が相手だけに幾分の不安を抱いている様だが、コルネリウスは大丈夫ですと笑みを浮かべてかぶりを振った。
「こちらは取るべき戦術は全て取っています。信じて前進を続けましょう」
 その力強い言葉の中には、数々の激戦を潜り抜けてきた経験の妙が滲み出ている。やるべきことを普通にやれば勝てる。警戒し、慎重になることも大事だが、必要以上に恐れ、卑屈になるのは後手を踏む第一歩だ。
 今は兎に角、自分達の力を信じるしか無いだろう。
 その時、フクシアの精神に語り掛ける声が響いた。サフィラ・アズラク・ナハルハルアリーブが、正面やや左手方向から新手の敵が迫りつつあることをテレパスで告げてきたらしい。
 報告したサフィラも、急ぎ引き返しつつある様だ。
「左手前方か。先に俺が出迎える」
 コルネリウスの代わりにマクシミリアン周辺で警戒に当たっていたレピド・クロサイトが、フクシアに頷き返してから獰猛な勢いで飛び出していった。
 それからものの数秒後には、炸裂種子を叩き割りながら襲い来る新手の懐に飛び込んでゆく。
「にゃ! 先手必勝だよ!」
 合流してきたサフィラもレピドとタイミングを合わせて毒撃を叩き込んだ。
 が、どうやら少しばかり数が多い。ディレインはコルネリウスを送り出しながら、盾を構えて【花鳥】の攻撃魔法主火力たるリディリディ・トゥラ・イェレミースの傍らへと退いた。
 そのリディリディは幽界樹戦に備えて魔力を温存しつつも、目の前の敵に対しては魔矢を叩き込んでいた。
「これ、全部防ぐことが出来そうですか?」
 リディリディからの問いかけに、ディレインもフクシアも微妙な表情。少し敵が多いかも知れない。
 そして悪い予感というものは往々にして的中するものだ。一体の新型仔クリーパーが凝黒装置の一基へと迫りつつあった。
 誰もが拙いと思ったその時、しかし敵の魔手が凝黒装置に届くことは無かった。
 ルイドが、ほとんど一瞬にして離れた位置から間に割り込んできたのである。
「俺の目が届く限り、装置にゃ指一本触れさせねぇぜ」
 冒険者の中でも破格の攻撃力を誇るルイドの剣戟は、凝黒装置へあと一歩のところまで迫っていた敵を一瞬で蹴散らした。
 装置の曳行と護衛の為に同伴している術師達も心底肝を冷やした様子だったが、ルイドの完璧なカバーは彼らに勇気を与えたといって良い。
 と、そこへ【ふしぎ亭】の面々が正面突破戦に加わるべく、続々と駆け付けてきた。
 左右の敵には相変わらずそれぞれの防衛線が機能しており、正面への攻撃力は更に増強され、幽界樹との距離を詰めるには十分な戦力が揃ったといって良い。

 頭上からの刃状葉や炸裂種子の爆撃は、幽界樹本体に近づくにつれてその激しさをどんどん増している。
 凝黒装置への徹底した護衛に力を割いている【星苺】の面々は、兎に角一基たりとも破壊させてはならぬと、懸命の努力で上下左右からの攻撃に対処し続けていた。
「荷馬車が使えなかったのは、少々誤算でしたが……」
 エルナ・クルプファルツは【勇牙】や【花鳥】、或いは【ふしぎ亭】が切り開き続けている突破口を死守すべく、左右から迫る敵に自身の能力を惜しみなく投入しつつも、一瞬間が空いた時にほんの少しばかり、残念そうな面持ちで小さな吐息を漏らした。
「ま……仕方が無いわね。馬が黒い霧の影響でこんなにも動けなくなるなんて、流石に想定外だったわ」
 正面突破路に立ち塞がる敵に対して圧倒的な攻撃魔力を叩き込んでいたアウレーリア・フォン・ネーベルベルクも、こればかりはどうしようも無いとかぶりを振った。
 現在、凝黒装置各基は帝国兵が護り術師が引く荷車に乗せられ、徒歩速度で慎重に前進を続けている。負傷者の後送にも荷馬車が使えなくなったが、担架と徒歩でも搬送は可能であり、冒険者達が為すべきことには大きな変わりは無いだろう。
「クライスさんが用意した荷車が頑丈で助かります」
 Alexandra・Hexe・Claudiaは、前方を進むクライス・アクバーの長身をそっと眺めた。あの黒眼鏡の奥ではどの様な思案が働いているのかは未だによく分からないが、語らずの智者エフレムを除けば、幽界樹に最も詳しい人物といえる。黒い霧と凝黒装置双方の効果を熟知しているクライスが用意した人力運用の荷車は、不整地かつ多方向からの攻撃を受けかねない帝都内の環境を想定した造りであった。
「彼が敵でなくて良かったよ。過激派についていたらと思うと、ぞっとするな」
 負傷した帝国兵の治療に当たっていたナタリア・フィッツジェラルドが、苦笑を滲ませた。が、その面が一瞬にして緊張に引き締まる。
 右手前方から、集団で迫り来る敵の足音が彼女の聴覚を衝いた。結構な数だ。
「ナタリアセンセ、ちょっと急いだ方が良さそうですね」
 一緒になって帝国兵の治療に当たっていたバルバラ・アンネリース・フォン・アルトホーフェンも、この時ばかりは余裕をかましている場合ではないと緊張感を漂わせる。彼女はかねてより計画していた負傷兵の後方搬送へと着手しつつ、【星苺】の主火力のひとりであるラケルに手早く指示を出した。
「ラケちゃん、あと宜しく」
「うん。ラケル、ばんばん魔法撃つ。絶対、負けない」
 ラケルは敵の位置を正確に把握する為にと、アウレーリアと一緒になって荷車上に位置を移した。ふたりの魔術師は早い段階で旧型仔クリーパーの接近位置と数を割り出すと、そのままの態勢で魔法火力による迎撃へと入った。
 Alexandraも、いつまでも火力温存は無理だと割り切り、なるべく迎撃すべき敵の数を絞って魔法攻撃を仕掛けることにした。
 同時にエルナも、炸光矢を叩き込んで新手を蹴散らしにかかる。
 前進と迎撃を並行するという困難な状況が続くものの、それでも冒険者達は一歩ずつ、確実に幽界樹との距離を詰めていった。

●
 凝黒装置は、全てを幽界樹との決戦現場にまで運搬する訳ではない。
 ほとんどの凝黒装置は退路確保の為、途中でポイント毎に配置してきており、幽界樹との接近戦に於いては最終的に一基のみが使用される算段だ。
 そして残り1キロメートル時点で三基となっていた凝黒装置も、更に一基を帝国兵及び貴族騎士団の一部と共に途中経路に残した。
 現在は、二基。この二基を何が何でも守り切らなければならない。幽界樹との距離は残り数百メートルと、かなり肉迫している。当然、相手側の迎撃も更に苛烈なものとなってきていた。
 しかし【戦誼】のヴィナスは自身の視覚聴覚、更には索敵能力までをも全て駆使して、頭上から襲い来る刃状葉や炸裂種子を事前に発見し、凝黒装置の防衛の為に大いに役立てていた。
 そのヴィナスの前に、海神 江流が自慢の機動力を駆使して引き返してきた。彼はここから先、幽界樹に到達するまでの最短距離と、荷車が通り易い比較的平坦な地面を調べて廻っていたのである。
「敵も多いけど、このルートが一番妥当だと思う」
「成程……アクバー元エスタル支部長殿、如何致しましょうか?」
 江流が手早く線を書き入れた地図を、ヴィナスがクライスの面前に広げた。
 クライスは一瞬考え込む仕草を見せたが、しかし決断は早かった。
「良かろう。このルートを取る」
 応じてからクライスは、チームの盾役であるリリリリスと、機動戦及び斥候役のルベア・ベルニに視線を向けた。前後に展開しろ、という訳だ。
 勿論、ふたりに否やは無い。寧ろリリリリスなどは、いつものMッ気を発揮して恍惚の表情。
「えぇ、えぇ、参りますわよ! 私達の帝国の為ですわ。帝国貴族のひとりとして、帝国の民を脅かす存在は、これ以上一歩たりとも進ませませんわ!」
 張り切って前方へ飛び出してゆくリリリリス。一方クライスは眉間に皺を寄せてルベアに訊いた。
「あいつ、帝国貴族だったのか?」
「……みたいね。まぁ、後で本人に訊いてみたら良いんじゃない?」
 クライスに苦笑を返しながら、ルベアは後方へと駆け出してゆく。背面や側面を衝かれぬ為には、彼女の様な戦闘力に富んだ機動斥候要員が不可欠であろう。
 その時、大地が揺れた。
 と思った次の瞬間には、無数の槍状鞭根が地表を割って飛び出してきた。
「おっと、これはいけない……僕の愛は、戦場の隅々まで行き渡らないといけませんからねぇ!」
 あっという間に複数の帝国兵や術師が血にまみれたのを見て、ギーゼラがやけに嬉しそうな表情で彼らを立て続けに治癒してゆく。その広い視野はひとりの負傷者も見逃さず、凝黒装置の荷車を引く術師や護衛の帝国兵達は然程の時間を要することも無く、片っ端から回復していった。
 一方、シルヴィア・A・カペルは別方向から接近する旧型仔クリーパーの群れにいち早く気付いた。
「奴らを操っている実を叩くんだ! 旧型は実と本体、別々に攻撃してくるから厄介だ!」
 声をあげながら、自身も魔矢を放って敵の出鼻を挫かんとするシルヴィア。
 帝国兵や王国騎士団達も、【戦誼】には治癒師が多いことから攻撃に専念することが出来ると見て、積極的に旧型仔クリーパーの討伐に走った。
「まさかこんなところで、僕の医療や薬学の知識が役に立つとはね」
 シルヴィアの傍らで、ルーンス・ラグネルが小さく肩を竦める。彼は主に、帝国兵や王国騎士団の回復役として積極的に治癒術を駆使することを心がけていたが、負傷の度合いに応じて治癒術を使い分けるその手腕に、多くの者が感心する様子を伺わせていた。
 勿論、クライスが負傷した際にもルーンスやギーゼラなどは積極的に治癒術を施術するつもりであっただろうが、そのクライスは今のところ全くの無傷だ。格闘魔導師としての本領は未だに発揮していないが、敵からの攻撃を難無く躱す技術はこれまでにも大いに発揮されている。
 寧ろクライスに治癒術を施術出来るのは、中々チャンスが巡ってこないのかも知れない。
 だが、そのクライスが珍しく動きを止めた。
 幽界樹討伐隊が更に距離を進め、もう一基を退路確保地点に配置した頃合いの話であった。
「エフレム師。こちらにおいででしたか」
 その瞬間、冒険者達は一様に驚きの表情を浮かべ、クライスの視線を追った。

 語らずの智者エフレムが、そこに居た。
 彼は何もいわず、ただ凝然と佇み、ある一点をじっと見据えている。クライスがエフレムの目線に倣ってその方角に面を向けると――やがて、凝黒装置が機能し、黒い霧が晴れてゆく。そして、霧が晴れたそのすぐ先に、不気味な巨影が姿を現した。
 直径およそ15メートル、全高およそ60メートル。
 帝国を壊滅に追いやった破壊の根源。
 天霧りに消ゆる幽界樹が、冒険者達の前に姿を現した瞬間だった。

●
 遂に、敵の懐に潜り込んだ。
 だが待ち受ける防衛戦力は、ここまでの道中の比ではない。かつて無い程に分厚い仔クリーパーの防衛線が、冒険者達の前に立ち塞がった。
 その時、鬨の声が一斉に湧き起こった。遂に帝都奪還の最終決戦の火蓋が、切って落とされたのだ。
 凝黒装置の最後の一基を幽界樹本体の間近にまで突入せしめ、高密度の黒い霧を一気に消し去ってゆく。
 最初に動いたのは、【雀】のエフィルミアだった。彼女は押し寄せる仔クリーパーの防衛線を一気に跳び抜き、幽界樹の胴部たる幹の一点に閃光塗弾を叩きつけた。
「皆さん! 目印は付けました!」
 幽界樹には特に弱点らしい弱点は無い。であれば、一点集中で火力を浴びせ、無理矢理にでも弱点を作ってしまえば良いのだ。
 このエフィルミアの策はしかし、幽界樹に対して防衛箇所を一点に絞らせてしまう諸刃の剣にもなる。
「もう一本、要るね……イズル、行くよ」
 同じく【雀】のヘレン・ワーグナーが自身の後方にイズル・M・ヴォルゴールを従え、仔クリーパーの防衛線突破を試みた。幸いイズルは治癒能力が高く、ヘレンの傷を手早く回復させながら幽界樹本体に迫ることが出来た。
「よぉし、もう一丁」
 イズルが投じた閃光塗弾が、胴部の別ポイントに炸裂。これで集中攻撃ポイントは二カ所目。
 彼らの行動を見て【勇牙】からカインも飛び出し、三本目となる閃光塗弾を投擲。幽界樹は合計三カ所を守らなければならなくなった。
 ここで王国騎士団が仔クリーパーの防衛線排除の為に怒涛の突撃を開始した。同時にエフィルミア、ヘレン、イズルの三人はその乱戦に紛れて一時退却。三人が他の冒険者達と合流を果たし、いよいよ幽界樹攻略戦が本格的に開始された。
 幽界樹目掛けて先陣を切ったのは、矢張りウィリアムとマクシミリアンの両名だ。ここまでコルネリウスがふたりを徹底して守り抜いてきたことが功を奏し、ふたりはほぼ無傷、且つ持ち得る能力全てを幽界樹に注ぎ込むことが可能だった。
 そして、その後に続く形で冒険者達も【勇牙】、【ふしぎ亭】、【花鳥】、【雀】の面々を中心として巨大なる宿敵へと殺到してゆく。
「私はここまでだ……後は、任せた……」
 直前まで【ふしぎ亭】の仲間達を守り続けてきたゴルバルティアが、全身血まみれで膝を落とした。
 その彼女の傍らを走り抜け、ララベルが幽界樹の幹を駆け登ろうとしたが、思わぬ抵抗に遭い、壁歩きは叶わなかった。それでもアルラと共に効果的な一撃を叩き込んだのは意地の為せる業であろう。
「テメェもオレの武勇伝にしてやるぜ!」
 ウィリアムと並んで幽界樹に突撃を仕掛けたナキルの刃が、鋼の様に硬い幹へと振り下ろされた。
 敵の防御はまだまだ健在で、ただ物理的に攻撃を叩き込むだけでは、恐ろしく時間を要することがこの一手で証明された。
 その時、頭上から炸裂種子が雨あられと降り注いでくる。ナキルは流石に無事では済まなかったが、彼が斃されるよりも早く、レティシア・レインフィールが動いた。レティシアは初手でウィリアムに支援魔術を仕掛けていたが、その後も全体を俯瞰して戦況を見極め、重傷者のケアに動く準備を整えていた。
「槍状鞭根が、そろそろ来るかも知れません。殿下、今のうちに防御態勢を」
 レティシアの進言に、ウィリアムは視線だけで頷き返してきた。直後、大地が割れ、巨大な槍状の根が次々と突き出してきた。ウィリアムもマクシミリアンもすんでのところで回避出来たが、レティシアのタイミングの良い進言が無ければ、危なかったかも知れない。

 エフィルミアが刻んだ集中攻撃点に、ペルゼィックの魔矢と、【樹撃】のイズレンディル・パラリムが放った空間爆砕が炸裂した。
 他の冒険者が撃ち込んでいる状態異常による防御力低下が威力を発揮するまでにはまだ少し、時間がかかる。それまでに少しでも、削れるだけ削ろうという訳である。
「ちっ……子分共めが、いちいち鬱陶しいな」
 ペルゼィックは更に返す刀で、後方から迫る仔クリーパーに稲光の網を張り、接近を防いだ。
 直後に【樹撃】のアヴェラ・ウッチェロが機動力を駆使して間を駆け抜けて刃を撃ち込み、更にはエリカ・プレトリウスがクラリス=ミシェの戦術眼を頼りに、敵が密集しているポイントに炸光矢をお見舞いした。
「あそこに遠距離型がいるわ」
 アヴェラの視線の先に、数体の旧型仔クリーパーが陣形を張っている。
 するとクラリスが、傍らで他の冒険者の治癒に勤しんでいるギャメルに視線を走らせた。
「大丈夫だ。すぐに支援に廻る」
「お願いします……エリカさん、参りましょう」
 ギャメルから回復支援の確約を受けたことで、クラリスはエリカと共に遠隔タイプの旧型仔クリーパー排除に動くことにした。
「クラリス様、お供します」
 エリカはクラリスを守る格好で前に立ち、鏃を次々と撃ち込んでゆく。と思った次の瞬間には、クラリスの放った攻撃魔法が面倒な遠隔型の敵を一気に薙ぎ倒していった。
 一方、ギャメルは負傷したアヴェラに治癒術を施術しつつ、イズレンディルにそっと振り向いた。
「インフィニティ、持ちそうか?」
「まだまだ大丈夫です。それより、敵の防御がそろそろ弱まってきた様です。友軍に伝達をお願いします」
 イズレンディルは自身の攻撃魔法に手応えを感じ始めていた。即ち、幽界樹に状態異常の蓄積が始まっていることを意味する。
 ここから一気に畳み掛ければ、勝負に出られる筈だ。
 仔クリーパーの排除と足止めに廻っているアヴェラ、クラリス、エリカに対しても、頃合いを見て幽界樹戦に参加せよと呼び掛ける必要があるだろう。
「帝国崩壊から始まった戦いだ……そろそろ区切りと行こうじゃねぇか」
 ギャメルのその呟きは、多くの冒険者達の想いを代弁しているのかもしれない。

●
 そして――。
 大地を鳴動する轟音が、帝都シルトラースを震撼させた。
 ロスガリア大陸に未曾有の危機をもたらした天霧りに消ゆる幽界樹が遂に、その最期の時を迎えようとしていた。
 刃状葉、炸裂種子、槍状鞭根、更には無数の仔クリーパー。あらゆる手段を尽くして迫り来る冒険者を打ち払おうと試みた幽界樹だったが、結局は全てが無意味だった。
 冒険者達は何度も薙ぎ払われ、打ちのめされ、地に這いつくばった。それでも彼らは立ち上がった。回復手達は自身も深手を負いながら仲間の命を繋ぐ為に奔走した。
 状態異常の蓄積によって防御力を徹底的に削られた幽界樹は、三カ所に絞り込んだ集中攻撃によって超絶に硬い守りを崩され、ルアンナのヘルフレイムやリディリディのカオスバーンを浴びて幹が大きく抉られた。
 それでも幽界樹は必死に抵抗した。手当たり次第に刃状葉と炸裂種子をばら撒き、無規則に槍状鞭根を繰り出した。しかしそれらの反撃を、冒険者達は徹底的に凌いだ。
 人類の強固な意志が怒涛の攻撃力と化し、深く抉られた幽界樹の胴部を容赦無く叩いた。
 黒い霧を打ち消す凝黒装置に加え、幽界樹討伐隊の背後を完璧に護る冒険者や王国騎士団の存在が、幽界樹攻撃部隊の背中を見事に後押ししたのである。
 やがて幽界樹はボロボロと無残に崩れ落ち、灰の様に消えてゆく。
 帝都を覆っていた全ての黒い霧が、見る見るうちに晴れ渡っていった。仔クリーパー共も一斉に斃れた。
 人類は、その奇跡的な光景に歓声を上げることも忘れていた。達成感と勝利の感動が、ひとびとにしばしの沈黙をもたらしていたのである。
 ウィリアムやマクシミリアンですら、すぐには声が出せなかった。
 そんな中――消えゆく幽界樹の根元には語らずの智者エフレムが静かに佇んでいた。


【2】帝都市内『イダ・バルダス』捜索(担当マスター:馬車猪)

●
「皇子さん、皇妃が行きそうな場所や好きな香りは覚えてないか?」
 時間の余裕はない。パルドの問いに、レイウェストは黙って記憶を辿った。
 母(イダ)は息子(レイウェスト)を産む前に後宮入りし、以降は殆ど外に出ていない。
「イダが隠れているとしたら地下しかない。心当たりはないか。イダが知ってる奴で、皇室御用達だと尚良い」
(皇室御用達……か)
 ナハシュが飄々とした態度で重要な鍵を口にし、レイウェストの記憶が刺激される。
「母上が知っているかはわからぬし、それぞれ地下があったかも定かではないが……」
 レイウェストはバルディオンに地図を用意させる。
「市中にあった皇族の別邸(御用邸)、皇室御用達の商会、後は……」
 概ね帝都の外縁部ではなく中央寄りに合計10か所。
 幽界樹があり多くの授恵者が向かうだろう帝都中央付近にイダが潜むとは思えず、特に幽界樹に近い3点は候補から真っ先に除外される。
 それで7箇所。5基の凝黒装置で5つの班を作れば比較的短時間で調べることは可能と思われた。勿論それ以外にイダが潜んでいる可能性はあるが、ナハシュの閃きがなければヒントすら得られなかったのだ。広い帝都をあてもなく探す事を思えば希望が見える。
「良いですね」
 皇子と将軍から計画を聞かされたロゼットは口調は丁寧で表情は元気づけるかのように力強い。
「発見の際の合図、今ここで決めませんか」
 イダやヨゼフが優れた隠密や超常的な五感を所有していたとしても、今この場で決める合図までは探れないだろう。
 レイウェストが大きく頷く。
 バルディオンと冒険者達は実際に音は出さずに笛の吹き方を統一。
 それからすぐ、凝黒装置を運ぶ集団が5つ、帝都の奥へ進み始めた。

●
 【雷鎚】は北東の2点を目指して帝都内部を東回りで移動していた。
 ライナ・フレイヴァルツは索敵と捜索に集中する。
 暗殺眼( 第3の眼)と超視覚の同時運用は、地上も地下も問わず圧倒的な情報収集能力を実現している。
「反応はありません」
 凝黒装置の護衛として同行しているラティア・ミゼリアが孤高者の宗波で念入りに地下を確認すれば、北東1つめの商会跡捜索は完了だ。
 【雷鎚】は、幽界樹の葉や実だけでなく幽界樹の仔の襲撃も撃退しながら2つめの捜索も終え、そのまま北西へ向かった。

 途中で【雷鎚】と別れた【豹狼】は、皇族の御用邸跡を目指して帝都の東部を進む。
 新雪を思わせる白さのイイズナが警戒の声をあげた次の瞬間、音も無く降ってきた実が複数同時に炸裂。
 術師達が回避と護衛を行うも、急な加速が難しい装置に小さな破片が当たっている。何度も実や葉の攻撃を受けるうち、装置の効果は衰えていった。
 ルルト・アーキスはペット(イイズナ)を通じてそれを察知し、捜索を進める仲間と共に装置の傍へ戻る。
「パルド、こっちだよ」
 ウォーゼルが凝黒装置の様子を確認しながら、目的地方向を指した。
 上からの実(爆撃)だけでなく下からの根(襲撃)もあるので一瞬も気を抜けない。
(地下。いるとしたらここだ)
 地下への入口らしきものを幾つか発見し、パルドとウォーゼルは決め打ちで捜波を使う。
「外れだね」
 元御用邸だけあって調査対象は広大だが、事前の情報収集と分析で時間を短縮できていた。
 彼らの側方で、頭部から芽が生えた獣型クリーパーが砕けた街路に崩れ落ちる。
 アルバス・ロウルは汗を拭う余裕もなく、推定死骸を警戒すると同時に周囲を広く警戒する。
「あれは」
 方角としては西。黒い霧の中から酷く大きな……クリーパーの分類では大型といえるものが現れた。
 破損した凝黒装置を守りながら戦える相手ではない。幸い、担当箇所の探索は終わったところだ。まだ進めれば進みたいが、無理をする必要は無い。
「幽界樹の仔ではない!」
 凹みから跳ね起きようとした旧型幽界樹の仔(元々は獣型クリーパー)に止めを刺しながらアルバスが警告する。
 ルルトが即座に濃煙炸弾を使用。煙幕を背にして術師達と共に荷車を曳き、元来た方向へと走る。
 撤退する【豹狼】には、凝黒装置がとても重く感じられた。

 帝都南側。レイウェストを守る【兵】の火力は凄まじい。
 荒地であり敵味方が入り乱れた戦場で、恐るべき強弓や精密な狙いで矢を飛ばし当て続けている。
(ここまで来た以上、やれる事も、やるべき事も変わらない。たとえ死ぬとしても力を尽くすだけ)
 数個目の矢筒から取り出した矢をシャーリー・ブラウンが放つ。
 まだ矢にもスキルにも余裕がある。この調子ならまだ戦える。
「来るぞ」
 弓に矢をつがえたセリオス・オーガストがぽつりとつぶやいた。
 優れた視聴覚を持つセリオスは、黒い霧の奥から急接近する敵増援(幽界樹の仔)と今にも落下しようとする複数の実が見えている。
「皆さん。僕が援護します!」
 ダニエル・ヘリントンが彼にとっての切り札を使う。
 猛烈なエーテル波動は直径約15メートルの味方の能力を引き上げる。
 【兵】以外にも大勢の冒険者と帝国兵らが居るこの集団では、非常に多くがその恩恵を受けることになり、防御と攻撃の効率が非常に向上した。
 シャーリーが積極的にスキルを使い攻撃力を強化する。
 消耗した幽界樹の仔は、冒険者の前衛に接触した瞬間切り倒される。
 セリオスは回数制限のあるスキルを使っていない(もちろんダニエルによるバフは効いています)のに威力が凄い。
 前衛が維持されている限り、セリオスの大威力長射程攻撃は止まらない。
 敵の襲撃は続く。
 冒険者とレイウェスト達を特に苦しめたのは頭上からの爆撃(実の破裂)だ。負傷者が出て上方への警戒も厚くする前は、ダニエル達が癒やしにスキルを消費した。
(伏兵だよ!)
 ティトのテレパスがセロンガード・シュタインドルフに届く。
 【黒曜】や【親衛】と共にレイウェストの周囲を固めるセロンガードだが、弓を使えるので弱い敵(小さな根など)は単独で対処可能だ。索敵スキルとティトからの情報を総合すれば、味方との連携も上手くいく。
(攻撃する余裕はないから、セロンにお願い)
 ティトからの声は余裕がないようにも聞こえるが、実際はそこまででもない。
 足も回避も優れ、テレパスまで使うティトは斥候としても優れている。
 セロンガード達弓使いの支援も得られるのだから、それほど危ない目にはあわない。
(警戒は絶対に怠らない、よ)
 双波を何度も使い、ティトはレイウェスト一行の目のひとつになっていた。
 ミツキ・アインホルンやスィーリーンが常時レイウェストの傍についている状況で、【黒曜】ナハト・シュライバーも双波(特に探波の方)と聴覚に集中している。
 短時間でも大変な作業だが常時となると心身への負担が凄まじい。
 だが効果はある。
 彼とクレア・エクレールがイダを捜索すべく地中に送り続けたエーテルの波は、幽界樹の根の動きをも感知し、全体への危険と負担を大いに減らす。
(広いね!)
 1分1秒が貴重な戦場で、2人は言葉だけでなくアイコンタクトも駆使して効率的に捜索を進めていた。
 だから、それでも見つからないなら理由は明確だ。
「この辺りは外れかもな」
 【遠足】としてナハシュと共に探索を行ったヨル・スレイマンは普段と同じ飄々とした態度で、しかしその言葉は苦く響いていた。

 【四葉】(北西担当)と【黒猫】ら(西担当)は帝都中央を避けて目的地に向かっている。
 レイウェストがいる班ほどではないが、幽界樹の仔の数も実や葉や根の迎撃も密度が高い。
「上からだ」
 宗波を用いて索敵を行っていたナハティガル=ラーが、全周への警戒から対空警戒に切り替える。
 サイズとしては大型の鳥型クリーパーが降下してくる。
 明らかに幽界樹の仔ではない。
 ゲルダ・クラインは凝黒装置を守りながら地上の敵と戦うので手一杯。
 ヴェイグ=ベーリングや【黒猫】のアステル達も自分達の凝黒装置の防衛でぎりぎりだ。
 看破や索敵に優れたアステルとキオルティスが敵の奇襲を察知しているので辛うじて拮抗が成立している。
「空か。迎撃する」
 ジュスト・ヴェルジーは魔法で飛び立つ。
 時間制限があるとはいえ戦術の幅は飛躍的に広がり、素で大魔力な魔法攻撃が猛威を振るう。
 しかも超エーテルバリアと真ハリケーンウォールという分厚い防御まである。
 大型鳥型クリーパーが、飛行するジュストを避けるように地面へ近付いた。その直後にナハティガルによる神速の暗殺剣(魔法剣攻撃)で4度貫かれ悲鳴をあげる。
(イダの配下だな)
 これほどの強敵相手では、イダ本人の捜索は中断せざるを得ない。
 ナハティガルは一撃離脱に徹して時間を稼ぐ。
 リサ・ベイカーが傷ついた仲間達にヒールを飛ばしながら、地上を駆けてくる幽界樹の仔の攻撃を防ぐ。
 葉と実の脅威も相変わらずで、ヒーラーは大活躍だ。
 今のところイダ本人は近くに居ないのか、様子がおかしい仲間も見当たらない。
「お邪魔しているよ。美しい世界とやらに惹かれてね」
 ローザリカ・L・ディオールは常人ならば惑わされること必至の魅力を漂わせ、大型クリーパーに悪戯を仕掛けた。そして、クリーパーの向こうに居るだろうイダへと語りかける。
 ローザリカは確かに視線を感じた。
『貴方も美しい世界を愛しているのね。素晴らしいわ』
 言葉が届いたのにその言葉を交わせた気がしない。
 ローザリカがどれほど超越者に近くても、超越者が食いつく言葉選びは予想以上に困難だ。
(これは……)
 地上に戻ったジュストが機会を窺うが、これでは情報を得るのも難しい。
「あなたがまだ見ぬ美を教える代わりに居場所を教えてはくれませんか」
 キオルティスの説得は真に迫っている。
 彼にとっては真実なのだ。彼が言う「イダがまだ見ぬ美」は彼の兄妹愛であり彼の音楽であり戦闘だ。しかし、その言葉も狙ったような意味ではイダに刺さらない。
『そう。貴方は美しくて特別なものに囲まれているのね? それは貴方にとって、とても美しい世界に違いないわ』
 宗波を地下に向けても反応はなく、キオルティスは渋い表情にならないよう努力する必要が有った。
 装置を守り続けたゲルダのカバリングが尽きる。
 傷だらけの大型クリーパーが【四葉】の凝黒装置を踏み潰すも、直後に【黒猫】から集中した攻撃で止めを刺された。
「ぎりぎりだね……」
 土を積んだ山にも見える急造簡易防御地点から安堵の声が響く。
 アリア・ティーダが緊急退避させ、術師達と共に守った西担当の凝黒装置は、埃は被ったが動作に問題はなさそうだ。
 間接的ではあるがイダと接触した冒険者達は、大型クリーパーが飛来した北西か北が怪しいと踏み、そのまま1つの班として北上を開始した。

●
 幽界樹の仔、そして頭上と地中からの猛烈な攻撃を受けながら南側を進むレイウェスト達の背後に人影が現れる。
「味方です。所属は【豹狼】」
 テレパスで受信したミツキがレイウェストへ報告する。
 ウォーゼル達【豹狼】は一度南東まで撤退した後、荷車の轍を辿って追いついてきたらしい。
 テレパスを使って状況を説明するウォーゼルの近くには、今にも機能を停止しそうな装置があった。
 こちらの装置も損傷している。レイウェストの思考に撤退の文字が浮かんだ。
「幽界樹の仔とは趣の異なる大型クリーパーか」
 東部を捜索した【豹狼】の面々が言うには、イダ配下と思しきクリーパーは西から来たという。ならば、今いる帝都南側からみても西の方が怪しいのだろうか。
 万が一の撤退にはバルディオンの小型凝黒装置も使える。
 西進が始まった。
 レイウェストを直接守るミツキとスィーリーンまで敵との交戦を強いられる。
 幽界樹に属する全てからの猛攻だ。
「エフレム様の代わりなどとは烏滸がましいですが。その思いと願いを叶え、戻る場所を守る為に」
 スィーリーンは超視覚で敵を捉えながら、稲光が荒れ狂う場を召喚する。
 足止めした敵をただひたすらに魔法で射貫き、レイウェストを守る事に全身全霊を尽くしていた。
 憧れの先に居る人との約束を全力で遂行しようするのは尊くもあるが、偏りが激しい行動でもある。ともすれば、超越者特有の視野狭窄が始まっているのかもしれない。
(殿下の元へ集中してくるのであれば、ここで敵を少しでも撃破できれば皆が楽になるはず)
 躱されかけたはずのミツキの一撃が、中型の幽界樹の仔に直撃する。
 直前まで強靱さと粘り強さを兼ね備えていた木の体が、乾ききった木材であるかのように地面に倒れてひび割れる。

「霧が」

 消えた。
 距離をとって包囲してきていた幽界樹の仔まで同時に命を失い、倒れて動かなくなる。

「幽界樹本体が打倒されたと判断する。凝黒装置は放棄。皇帝の先を行くぞ!」
 迎撃がなくなった帝都を馬並の速度で進軍する。
 足音は必然的に大きくなり、しかしそれを上回る超大音量の笛の音が進行方向のやや右から響いてくる。
 それは、イダ発見の合図であった。

 それは既に音というより揺れだった。
 渾身の力で吹き終えたロゼットは、サウンドボマーが普段より良く効いた気がした。
 視線の先には敵がいる。
 姿は様々でも全て整った猛獣型の大型クリーパー8体が、冒険者の前に立ち塞がっていた。
 ライナの遮蔽を無視した超視覚は、クリーパー達の足下の地面を無視して地下にいる黒髪の女を捕捉している。
『幽界樹さんを倒すなんて、団結の力って美しいわね』
 これ以上近付けば。もし彼女がこちらを向けば、思考が変容してしまうかもしれない。
『私を見つけてどうするのかしら?』
 主の意を察した虎と豹が、片方が重厚に、もう片方が最初から最高速で突撃して冒険者に飛び掛かった。
 ライナによる魅了対策を兼ねたアイアンウォールが一撃を防ぐも、容易く砕け散る。
 目標を発見したのだから長居は不要だ。【雷鎚】【四葉】【黒猫】、そしてアリアとラティアも防戦に専念しながら徐々に後退していくが、2体のクリーパーは追撃をやめない。防御を固めたフロマーシュ・ダイヤドロップが盾を構えてロゼット達を庇い、傷ついていく。
 そんな中でもリサのインフィニティロアが冒険者達の能力を強化して損耗を抑え、同時に万が一の魅了に備えていた。

 クリーパー達は形の良さ故の高効率高性能を発揮する。
 しかも帝都のあちこちから、同じく大型の気配がいくつも近づいて来ている。
「こっちだよ!」
 装置を放棄したアリアが術師達を先に後退させる。
(他の班が来てくれたようですね)
 ラティアの宗波は、集まってくるクリーパー達の気配だけでなく、こちらへ向かってくる大勢の気配を捉えていた。通常の視界では天眼も駆使して戦場を注視し、敵味方の動きを把握する。
 豹が大回りして冒険者を横から叩く前に、自身を含めた迎撃を成立させた。
「連続して大型の相手はきつい、けど!」
 アステルは大型クリーパー相手に殺界を展開する。
 大型2体同時は脅威だが、1度殺界に巻き込めば時間を稼げるかもしれない。
 クリーパーの追撃を抑える中心である【四葉】。
 その防御の要であるゲルダは並外れた守りの堅さを誇るが、限界はもちろんある。
(このままだと……)
 黒い霧が晴れた結果、敵も味方も多くの情報をもとに判断し行動できる。
 ゲルダさえ崩せばよいと考えたかのように、虎が体当たりを敢行。
 これも防御に成功し、しかし激戦を短時間で繰り返したゲルダの体が悲鳴をあげた。
「いたよ! 今、助けるから!」
 その時、【兵】アドルフ・ジーノのエーテルがゲルダまで届く。
 レイウェストの班が到着し始めたのだ。
(解呪、聖別の必要なひと、たぶんなし)
 アドルフも全力で駆けて来た直後の大声は辛かったが、ここが頑張りどころだ。
 高速で敵味方の配置と向きと速度と状態を認識・計算して防御強化の術(エーテル)を飛ばす。
 アドルフが属する【兵】が虎(大型)とぶつかり拮抗する。
「殿下の邪魔です!」
 ナハトの強化された弓が容赦のない矢を放つ。
 虎は十分硬いが、ナハトの矢を止めるには足りない。皮膚を射抜かれ唸りをあげる。
(殿下に近付くならもっと強いのを使いますよ)
 激戦の最中でも優先順位を忘れないナハトは、実に帝国貴族らしい。
「イダはどこにいるの?」
 クレアが声を上げれば、【雷鎚】から方角が示される。クレアはそれを横目に見ながら刃を操り、巨大な首に傷を入れる。
 虎に反撃の機会は与えない。
 一撃入れた後は冒険者が作る隊列をすりぬけ安全な場所まで下がり次の機会を狙うのだ。
 虎が翻弄されて動きを止めた所で、冒険者前衛が一気に距離を詰め猛攻を浴びせる。
 後は気絶、処理だ。
 まだ無事だった豹も、数に囲まれた状態では徐々に圧され、崩れ落ちた。

●
 複数の冒険者が捜波で捉えていたイダの気配が、動いた。
 レイウェストとその護衛が後退、【雷鎚】【四葉】【黒猫】ほか多くの冒険者達も後退して距離をとっていく。
「せっかく来ていただいたけれど、私と一緒に征竜やあの男と戦う気がないならお帰りいただかないと」
「退避! 退避してください!」
 フロマーシュは仲間(【雷鎚】)を守りながら走り、声をあげる。
 目視されれば抵抗しきれないと、本能が警告している気がした。
「そうね。退屈でしょうから、皆さんで遊んで待っていらして?」
 直後に起きた出来事はこの場の大部分の予測を超えていた。
 ここまで幽界樹の仔をいくつも斬り捨ててきたケン・Z・ブラッドリーを含む【兵】の一部は、イダの魅了の効果を解明すべく後退を遅らせていた。そのケンが、武力を|すぐ後ろの味方に向けたのだ。
 視線を直接あわせていた訳でもない。
 微かな違和感に気付いた時点で自傷(気付け)をする心構えもできていた。
 しかし、ケンは違和感に気付くこともできないまま、自分の意志で身体を動かすことができなくなっていた。
 優れた(Lv.9の)戦術眼で異変に気付いたアルベルト・V・シュタールシュヴェーアトが盾を掲げ、なんとかケンの刃を受け止めた。
 強力な幽界樹の仔を相手に単独で耐えてきた黒い盾が悲鳴をあげる。
「さすがに重いぜ……!」
 手加減して食い止められる相手では絶対にない。
(俺が無事だったのは大型クリーパーがイダとの間にいたからか)
 ケンとの違いはイダの視界に入ったかどうか、その位しかない。
「私も前に出ます」
 白金の輝きを持つ戦士が堂々とした歩みでケンへと近付く。
 イダの視線を直接浴びることになり、しかしフリーダ=ブロムヴィストの心はいつもの通りだ。
(こちらにバフありでもまだ足りない事がある、強力なデバフ……でしょうか? カバリングは殿下のために温存しておきたいですが難しいかもしれませんね)
 大型クリーパー達は動きはしないが警戒を強め、イダは彼女にしては本当に珍しく何度も瞬きする。
 それはそれとして迎撃は行う。ケンはアルベルトに無防備な背中を晒してフリーダを急襲。巨大な防御力を持つフリーダと激しくぶつかりあった。

●
 フェミナ・ノ・リビディーネによるサルベーションオールは全く問題なく発動したが目的は果たせない。
 もう一度抵抗の機会を増やしはするが、『魅了』にそもそも耐えきれない者にとってはさほど恩恵はないのだ。
(繰り返せば効くかもしれませんが……)
 残念ながら何度も繰り返す余裕はない。
 ケン(イダの魅了)による被害は大きく、フェミナが単体ヒールと大勢へのハイパーヒーリングオーラを惜しみなく使わないと意識不明やそれより酷い目にあう冒険者が出かねない。
 ナハシュは非常に高い抵抗能力と味方からの支援を活かして、直視される範囲で行動する。
 ナハシュが敢えて目立ちケンの注意を一瞬引きつけ、その機を逃さずヨルが真サルベーションを発動。
 手応えはあったが、ぎりぎりで足りない。
「下がるぞ」
 オーバーレジスタンスによる抵抗で耐えられるとはいえ、回数は有限だ。無理はせず、後退する。
 チャージング後の攻撃をフリーダに止められたケンの背後に鉄の壁が現れる。
「一撃はもつじゃろ」
 グレイ・ナックラーは2度目のアイアンウォールを使いケンとクリーパー、そしてイダの視線を完全に分断する。
(正直きついがの。わしでは一瞥されただけで脳内を塗り替えられるわい)
 筋肉質な長身をイダの視界外に置いたまま、ケンを巻き込む形でスタティックフィールドを展開しケンの移動をますます困難にさせる。
「僕なら耐えられる。オートリカバリーもあるから確実に行動できるはずだ」
 距離を取っていた【四葉】から、ローザリカがイダの視界に入ることも恐れず駆け付けて真サルベーションを使用。ケンは抵抗に失敗。
 イダの瞳がローザリカを映し、しかし特別優れた抵抗力を持つローザリカには魅了に耐える。
 そして2回目。
 真サルベーションで抵抗を猛烈に高められたケンが、今度こそ『魅了』から解放された。
「今です!」
 キリアン・フィッツジェラルドが放った矢がケンとイダの中間地点に突き刺さる。
 濃厚な煙はイダの視線を遮り、全ての冒険者に退避の好機を与える。
 イダは極めて強力だが、冒険者達と積極的に戦いたい訳ではないのかもしれない。
 物理的には障害にならない煙にクリーパーを突撃させることはせず、キリアンは優れた聴覚と熱視覚で相手が深追いしない事を読み取り、冒険者の後退を強力に援護する。
 幽界樹は斃れ、イダを炙り出し舞台に登場させることに成功した。ヨゼフに先を越され、いずれかがもう片方の力を収奪してしまうような事態も起きていない。
 ここからは予定通り征竜と超越者達の戦いになるはずだ。その戦いの中で、ヨゼフかイダによる力の収奪さえ防げれば、人類に勝機はあると信じるしかない。
(後の仕事は……)
 味方と合流したキリアンは、これほどの大舞台でも適度な緊張と適度な気合いを維持するレイウェスト皇子を見た。

●
 【親衛】は強力な戦力であると同時にレイウェストの盾だ。
 これは比喩ではない。
 レイウェストが何かを為そうと危険を冒すのならば、ベルク・オスマットが狐惑幻影(プリズムシャドウ)で身代わりになって死に、ヤウズ・オスマットがグラビティフィールドを展開してレイウェストの退却を援護して死ぬ。
 それを成し遂げる能力と覚悟があることをレイウェストは疑わない。
(一度既に死んだこの身、死兵向きであろう?)
(何をいまさら。殿下こそ我らが要、これほどの機会を与えて下さるのを感謝しろ)
 妹(ヤウズ)も姉(ベルク)も覚悟はとっくに決まっている。
 だからレイウェストは1度だけ2人と視線を交わした後、献身にふさわしい存在であり続けるために煙が消えた方向へ一歩を踏み出し、声を張り上げた。

「母上。彼の皇帝ヨゼフが居らぬ今こそ、御話ししたい事がございます」

 美貌に見劣りしない中身を持つに至ったレイウェストへ、超越者イダはレイウェストという個を認識した目を向けた。


「お前さんのような"英雄"が統べる世界は面白くないわ」
 イダの潜伏していた地点が遠くに見える、帝都北西部。
 立ち止まったヨゼフにそう言い放ったのは、黒い霧が晴れた時点でヨゼフの捜索に向かったヴェイグだった。
 覚悟はあった。
 しかし覚悟と気合いで補うには力の差があり過ぎた。
 ヨゼフに薙ぎ払われたヴェイグが力を失った状態で地面を転がる。
 話しかけてからここまで数秒。
 こうまでして稼いだ数秒にどれほどの価値があるか決まるのは、きっとこれからだ。
 ヨゼフの視線の先では授恵者達が後退中で、その視線を遮るように中型や大型のクリーパー達が更に集まってきていた。


【3】帝都南西『征竜』問答(担当マスター:真柄 葉)

 帝都を見下ろす城壁の上に、巨大な影があった。白銀の翼を折りたたみ、戦局を睨む極北の征竜だ。征竜は城壁から冒険者やリザードマンたちが幽界樹の仔らと戦う様子を静かに見下ろしていた。

 大型凝黒装置の影響下、黒い霧が薄く漂う戦場で両軍は激しく矛と牙を交えている。

「ハリスさん こっちもでよう!」
「承知しました」

 最前線から戻ってきたトゥーリの言葉に、ハリス・アル・ターミルは立ち上がる。
 更地となった帝都には意図していたような狭い場所は無かったが、【羊竜陣】はその実力を以て戦線維持の一翼を担っていた。

「征竜、そしてヒルルクも。この世界を大切に思っているのはアナタ達だけじゃないってこと。みんなの頑張りを見ればわかるよね」

 トゥーリがヒルルクの前に立つ。

「わかってる。でも――――」
「『でも』はいらない。あと壁の上の”ごしゅじんさま”にもよく言っといて」

 そう言って城壁の上をチラリと見たトゥーリは、『ワタシがどう動くか、わかるでしょ?』とだけ告げてハリスを追っていった。

「しかし、こうして再び並び立てるとはな」

 二人を背中を見送ったフェイサル・セイフが、ヒルルクの隣に立つ。

「安心しろ。君達に手出しはせん。他の連中はともかく、私達が約束を違えた事はないだろう?」
「……信じていいのね」

 ヒルルクの反応ににかりと笑ったフェイサルは、友人たちを追って戦線へと向かっていった。

「ヒルルクさんはどうするの?」
「わたしは征竜様を護るわ。例え何があっても」
「……そっか、やっぱりキミは揺るがなかったんだね」

 前線へ向かった3人を見つめていたヒルルクに、メドゥの左腕との一件を知るエルゼリオ・レイノーラが話しかける。

「ならボクたちも頑張らないとね。それが例え一時的であっても、ボクたちは協力し合えるんだから」
「そうなのだ! 大福と粽も征竜さんを護る為に一緒に戦うのだ!」

 エルゼリオと共に大福がヒルルクとの共闘を申し出た。
 以前袂を分かった冒険者たちからの共闘という言葉に、ヒルルクは驚く。

「それに、なんだかイダっぽいのを感じるのだ! そう、あの大亀みたいな!」
「大亀って……イダの言葉を喋った、あの?」
「そうなのだ、きっとあれのどこかに紛れてるのだ」

 そう言って大福は鼻先を幽界樹の仔、そしてその奥へと向けた。

「……わかったわ。わたしも戦う」

 大福の言葉になにかを感じたのか、ヒルルクは冒険者たちと共闘することに同意した。

●
「なんとか説得に成功したみたいですね。正直冷や冷やしました」

 仲間たちの説得によりヒルルクが参戦したのを確認したシエラ・フォン・リシェイラが、そのことを【操蝶】の仲間に伝える。
 
「このまま援護に入りますので、そちらも頑張ってくださいね。あ、報酬は美味しいご飯とかでけっこうですよ」

 至極真面目にそう告げたシエラに肩をすくめたルチル・プルメリア・グレイハーツとサララ ココノカは、彼女を見送ると城壁へ振り返った。

「征竜殿に申し上げる。見ての通り、我々は盤石の状態にあります。もし貴殿が今暴れてしまえば、折角の態勢が崩壊。結果、イダ妃の配下が貴殿に殺到。戦場に無用な混乱が訪れます」

 サララは言葉の裏に『こっちでうまいことやるから、大人しくしとけ』と含ませ、征竜に物申す。

「然り。征竜殿には足元の蟻(ヒト)よりも気にかけるべき事があります」

 サララに続きルチルも、丁寧な言葉の裏に“暴れればアンタの巫女も無事では済まないから大人しくしてろ”と、畳みかけた。
 本来なら“小さきもの(ヒト)”の進言など意にも介さぬ征竜だが、【超越者】であるルチルの言葉は無視できなかった。

『巫女であれば 世界のため 死すら厭わぬだろう』

 だからこそ、征竜はありのままの事実を素直に答える。
 そして、この答えは戦場に立つ者すべての心に直接響いた。

「アタイにできることはやってやった。だから無事に帰っておいで。もし言う事を聞けたら、あの子(ラト)を譲ってもいいよ」

 征竜から言葉(会心の答え)を引き出したルチルは、ヒルルクの背中へ向け小さく呟いた。

●
 アシムベート率いるリザードマンたちと冒険者たちがそれぞれ最前線を堅持する一方、予期せぬ場所から襲い来る敵もいた。幽界樹が放つ『実』と『葉』だ。
 しかし、これらの襲来を予測し、的確に排除するのが【作麼生】のアルマ・ヴァレンタイン、ブレイド、東雲・更紗の三人だった。

「上からくるぞ、気を付けろ!」

 ブレイドは幽界樹の放つ『実』や『葉』が征竜や凝黒装置に届く前に、スキルを駆使しうち落とすと、そしてそれらを投下してきた枝そのものをアルマと更紗の『合タイダル(タイダルストリーム)』が薙ぎ払った。
 戦線は崩れることなく堅持されている。おかげで戦線に若干の余裕ができた。
 アルマと更紗は、このタイミングを見計らい征竜に質問をぶつける。

『知らぬ ただ、長々と戦う理由を語った神代で共に戦ったヒト(【小さきもの】)は、最後を迎えた時 迷わずエーテルへと還っていった』

 もし超越者になれば将来どうなるのかという不安をぶつけたアルマに、征竜は神代時代の超越者の顛末を伝えた。

『我の与り知らぬ地ゆえ 外(大陸外)のことは知らぬ』

 自分のルーツがあるとされる【日出ずる国】にまでその脅威(人類粛清)を広げるつもりかと問うた更紗に、征竜は興味も義務もないと答える。

「第二陣だ! 来るぞ!」

 どういう事だと更に問おうとした二人を、ブレイドの声が遮った。

●
 ブレイドたちの様な個々の活躍もあり、戦線を堅持する事に成功する冒険者やリザードマンたちは、被害も軽微に幽界樹の仔を着実に減らしていった。
 そしてこの機に、今まで戦線を支えていた者たちも戦う手はそのままに征竜へ疑問をぶつけ始める。

「創造神は変化をお望みでない、と貴方は思ってらっしゃるのよね。でも、本当に望んでおられないのかしら。創造神は変化を望まなかったのではなく、知りたかった。だからこそ、未だに見ぬ変化の先にたどり着くものに価値を見出し、様々な種族を生み出された。私にはそう思えるわ」

『知らぬ 創造神は我にこの世界の守護を命じた ただそれだけだ』

 ザザ=ステルヴィナの問いに対し、征竜は迷いも見せず答えた。

「さっぱりわかりません! 守護が目的ならなら何故わたし達ヒトを駆逐するのですか! わたしたちも世界の一部です! 共にこの危機に立ち向かえませんか?」

 ザザへの回答を聞き、トーラが声を上げる。
 先ほどのザザの質問とは違い、【超越者】であるトーラの言葉に警戒の色を見せる征竜は、僅かな迷いと共に思念を送ってきた。

『今はそうしている しかし“小さきもの”よ 汝は世界から乖離しつつある そのまま進めば 世界の一部へ戻ることは叶わぬ存在へ至るだろう』

 ヒトの域を超えたトーラに対する征竜の警戒心は予想以上に高い。

「征竜は、ボク達ホムンクルスの事、どう思ってるの? 人間だって思ってくれてる?」

 トーラに代わり、リリアンが征竜に質問を投げかける。

「……きっと思ってないよね。ボク達は、人間未満だ」

『“新しきもの”よ その問いに何の意味がある』

 自信なさげに呟いたリリアンに、征竜は淡々と答えた。
 その後も征竜への質問は続き、最後にヴィルヘルミナが『極北の大穴』について質問する。

『どの穴(裂け目)の事かは知らぬが あれら(クリーパー)が這い出た跡であろう』

 ヴィルヘルミナの問うた『極北の大穴』について、似たような物は極北には幾つもあると征竜は答える。

「なるほど、結局わからずじまいですか。なら、神へと至る仕組みについて教えてください。新たな神を生み出したくないのならば、何故そこ(神)へと至れる仕組みなんてものが存在するのでしょう」

 そう問いかけるヴィルヘルミナに、征竜が視線を向けようとした――――その瞬間だった、征竜は突然顔を上げた。

 征竜の視線を追うように、冒険者たちも帝都中心を見やる。そこでは幽界樹を中心に立ち込めていた黒い霧が急速に薄まっていた。そして、霧の消滅に合わせるように幽界樹の仔らが次々と動きを止め、崩れ落ちていった。

●
 想定よりもかなり早い段階で、幽界樹の伐採が達成されたのだろう。中心部から勝鬨の声が聞こえる。
 征竜への進攻を防いでいた冒険者やリザードマンたちも、これで終わりかと安堵し、一息ついた。

「……そんなはずはない。きっとこれで終わりじゃないわ――――はっ!」

 敵が崩れて前線の緊張感が薄れても、警戒を怠らなかったファヌが『それ』を見つける。残骸となった幽界樹の仔らを踏みつぶし、黒い霧の中から大型を含むクリーパー群が現れたのだ。

「新手よ! 迎撃準備を!!」

 ファヌは味方へ警戒を促しながらも、相手の様子を探っていた。新手の中には、何かヒトの意思のようなものが介在している……ファヌはじっと目を凝らす。
 ファヌと同じく襲来に気づいたハリーヌ・ヨツユビや大福もすぐに声を上げ、味方が急ぎ迎撃準備を整える中――――。

『考え方が違うものが手を取り合って戦うのも美しいわ。けれども、その美しさは共通の敵がいてこそよね』

 冒険者たちの耳に、どこかから美しい女の声が届いた。
 誰かが「イダだ……」と呟いたのを合図に、戦場に動揺が広がる。

「静まれ! 例え敵が何であれ、双方が協力すれば必ずや道は開けよう。今こそ肩を並べ、敵を討つべし!」

 動揺する味方を前に、グレイブ・ヤードが声を上げた。グレイブは強烈なカリスマ(王気)にもって浮足立つリザードマンたちを喝を入れた。
 リザードマンはグレイブの鼓舞に士気を回復させると、アシムベートの指揮もあり冒険者たちと足並みを揃える。
 この鼓舞が切っ掛けで、双方はより強固に協力し、再び強靭な防陣を築くに至った。

●
「征竜が動くと我々も被害を受ける。幽界樹の仔らから征竜を守ったアシムベート殿の対応は正解なのだ」
「冒険者たちが賛同してくれたからなせた成果だ」

 リザードマン部隊に混じるストレガ・L・リベルガストラは、アシムベートと言葉を交わすと、迫るクリーパーへ向かう。
 敵は大型クリーパーに複数の中型。見える限りでも圧倒的な物量だ。
 何より、敵の中心にはイダの意思を宿すであろう大型がいる。

「将を射んとすれば、まず馬――――なのだ」

 ストレガは大型を指揮官と睨み、その周囲を固める中型に向け広範囲魔法攻撃を放った。

 強烈なストレガの魔法がクリーパー群の速度を鈍化させたのを皮切りに、【羊竜陣】の3人やリリアン、ヴィルヘルミナら前衛がリザードマンたちと連携し前線を押し上げ、後衛が魔法で援護する。そして、ヒルルクも戦線に加わり、彼らと連携し懸命に戦った。

 そんな激しい戦闘の後ろでも、『戦い』が続いている。
 城壁近くに構築された陣には、絶えず負傷者が運ばれ、治癒術師による懸命な回復が行われていた。

「あっちを見りゃ強い敵。
 こっちを見りゃ異形の群れ。
 はぁ~、どうしたら生き残れるんだろうかねぇ」

 パヴェル・A・サムルガチェフが運ばれてきた負傷者を陣へと誘導しつつ、ため息を漏らした。

「そんな呑気に悲観している場合じゃないですよ。これからもっと激戦になるんですから、後方を支えるわたしたちがしっかりしないとっ!」

 味方の治療を終えたファーシル・クリスティアがパヴェルに向けぐっと拳を握る。
 ファーシルやファヌ、グレイブらによる献身的な回復だけでなく、陣からは後衛による援護射撃も行われ、戦線維持に大いに貢献していた。
 この生命線ともいえる陣を潰さんと敵も押し寄せるが、天眼で戦場を俯瞰するエルゼリオがいち早く察知し、迎撃の指示を飛ばした。

「ゴリラ、いつもお前には苦労を掛け通しでございますが、それもこれが最後としたいところでございますね。生き残る為に、今できることを最大限に重ねていくでございます」

 陣を狙い右翼を抜けてくる中型に対し、ハリーヌが相棒のゴリラに道を塞がせ足止めすると、魔法を叩き込む。ハリーヌは【操蝶】の3人とも協力しながら、懸命に右翼を守った。
 左翼からも中型が隙をついてくるが、こちらは【作麼生】とザザが協力し合い、猛攻を凌ぐ。

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 イダの意思を宿す大型クリーパーは強敵ではあるものの、力を合わせた冒険者とリザードマン達は互いに助け合い、互角以上の戦いを繰り広げていた。
 この中には冒険者たちと共闘するヒルルクもおり、征竜の為だと、自身の負傷も厭わない、ある種破滅的ともとれる戦いを続けている。
 見るに堪えないその戦いぶりに、傍で戦っていたハーヴィは意を決し話しかけた。

「ヒルルクさん、こんな戦い方はダメだ。もっと物事を客観的に見て。左腕は未来の君の姿なんだよ」

 ハーヴィは先ほど、征竜と対話するタイミングでヒルルクを気に掛けて欲しいと言葉を投げかけていた。
 しかし、返ってきた答えは、ただ『わかっている』のみ。
 冷酷ともとれる征竜の返事に絶望したハーヴィは、直接ヒルルクの説得を試みた。

「……そう、やっぱりあなたも皆と一緒なのね。あなたならわかってくれると思ってたのに」
「違っ! 僕は君の未来を思って!」

 必死で反論するハーヴィに、ヒルルクは一瞬悲しそうに微笑むと、巨槌を握り直す。

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 敵の猛攻は激しさを増していくが、冒険者たちはアシムベートと密に連携を取り、よく耐えた。
 このまま耐え続け、征竜に刃を届かさなければ、こちらの勝利となる。
 そんな思いが冒険者たちの脳裏によぎった時だった。今まで大型から感じられていたイダの気配が突然消えたのだ。
 これにより大型を中心にある程度統制の取れた攻撃を仕掛けてきていたクリーパーたちが、その制御を失った。
 クリーパーは本来の凶暴性を剥き出し、力任せに冒険者たちへ襲い掛かる。

「探すのだ! イダはまだどこかに絶対にいるのだ!」

 突然の戦術の変化に必死に対応する仲間たちに向け、大福が叫んだ。
 冒険者やリザードマンたちは最後の気力を振り絞りクリーパーの猛攻に耐える一方で、不気味に沈黙するイダの気配を探す。戦線を抜ける敵に警戒していた【猫友】のアルフィー・リッパーは、その懸念を陣内で戦場を俯瞰しているネーヴェ・グラヌローザにも共有していた。

「あれは……」

 そのネーヴェが、凝黒装置の範囲外で揺れる黒い霧に気付いた。
 ネーヴェがよく目を凝らすと、霧の揺らめきは大きく戦場を迂回しながら征竜を目指し、壁を駆けあがっていく。

「アルフィーさん!」
「任せろ!」

 ネーヴェの声に即座に反応したアルフィーが、壁に飛び上がり霧の揺らめき(中型クリーパー)に肉薄すると神速の三連撃を見舞い、地面へ引きずり下ろした。
 再び声を上げたネーヴェの合図に、地に落ちた中型へ冒険者たちが殺到する。

『あら、負けてしまったわ。征竜に直接ご挨拶できなかったのは残念ね』

 最後に美しき声を響かせ、中型は霧へと還った。

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 時を同じくして、他の戦場から次々と勝鬨が上がる。
 防戦を強いられていたこの戦場に他の戦場から援軍が詰めかけ、クリーパー群を駆逐した。

 戦はレイウェスト側の勝利に終わる。

 そして、戦いの終焉を見届けた征竜は、言葉なく翼を広げると帝都上空に滞空する。

マスターコメント

「【帝国】決戦:未来への嚆矢」へのご参加ありがとうございました。お疲れさまでした! 皆様から頂いた沢山のプレイングの結果、幽界樹が非常に迅速に討伐され、黒い霧や幽界樹の仔が早々に消えた事が他の戦域にも良い影響を及ぼしました。結果は大成功です。 ご参加いただきました皆様に感謝申し上げます。 「特別褒賞・負傷者一覧」とエピローグノベルも更新しておりますので、TOPまたは連動特設ページからご確認くださいませ!
決戦シナリオ

決戦シナリオ非常に難しい 報酬:多い116 / 1〜9999人

2023年12月18日 11時51分26秒 公開

大成功

参加者

相談掲示板

  1. ロゼット

    ヒーラーのロゼットよ。最後の決戦かしら。 今のところ【2】への参加を考えてるわ。 またパーティ募集を立てさせてもらうから、 もし良かったら考えてみてね。

  2. ハヤト=ガラン=ヴォルファング

    おーっす! ブレイブファング傭兵団のハヤト=ヴォルファングだ、よろしくな!! うちは【1】で幽界樹討伐を狙う予定だ! 一緒に来てくれる面子がいたら大歓迎だぜ!! ブレイブファング傭兵団 https://alpaca-connect.com/world/world0/community/BL95hacTWpq5LK1hh5pn 良ければこっちにも顔出してくれよな!!

  3. グレイブ・ヤード

    ヒーラー、グレイブ・ヤード 【3】に行くつもりです

アーカイブ生成日時 2026年08月05日 14時56分25秒 ・ world0