【大変動】決戦:ゴールディズ・デッドライン

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シナリオID:878

オープニング

「頭が三つある、バカでかい象ワニだ」

 前線キャンプに来る前に、ドン・ゴーフルは大樹海に偵察を送っていた。
「辺境都市群の……まあそういうのが得意なヤツらなら、上手いこと調べてくれるんじゃねェかと思ってな。それがまさか、とんでもない化け物を見つけてくるとは驚いたぜ」
 彼らが見たのは、大樹海を北上してくる一体のクリーパーだった。《それ》は大型クリーパーと呼ぶにはあまりに巨大だ。神代に存在したという超大型クリーパーである可能性が高いと報告されている。
「そんなやつ倒せっこねェ。撃退だ。前線キャンプ(ココ)に到達される前に、樹海の奥地にお帰りいただくしかねェわな」
 それは、三つの口から吐き出される瘴気が常に体のどこかに纏わりつき、周りの木々や地面、川の水を腐らせているという。ドンはそのクリーパーを『瘴気纏う腐緑獣』と名付けた。

「各国からの援軍は、キャンプ出発の準備が整っています。ですが、戦力不足は否めません。腐緑獣撃退に冒険者の派遣を」
「ああ。しっかし、世界がこんなにも、ゴブリン族とゴールディのために……少し前なら考えられねェな」
 腐緑獣の撃退のため集った各国からの援軍、そして物資や援助金といった支援の数々。BD(ブラックデス)幹部サチコの言に、ドンは感無量の極みといった表情で何度も頷く。

「だが、問題は腐緑獣だけじゃねェ」

 ドンは小さく舌を打った。

「ホワイトライフとレッドブーツが前線キャンプ(ココ)を狙ってやがる。南からは腐緑獣から逃げ出した大樹海の獣どもと小型クリーパーがウジャウジャ来てんのにだ」
「キャンプの守りにはBD(ブラックデス)のほか、ヴァイオレットレオンからも人を回させています。ですが、授恵者はいません。こちらにも冒険者を呼びましょう」
 両マフィアは腐緑獣出現の混乱に乗じて前線キャンプの襲撃を計画しているという。目的は、今前線キャンプ(ココ)に集結しているBD(ブラックデス)構成員達の殺害、ひいてはBD(ブラックデス)の壊滅だ。
「ああ。俺の留守に好き勝手されちゃたまんねェからな」
 ドン自身はこの後、前線キャンプを発って大樹海を南下する心づもりだった。
 前線キャンプには、保護された古ゴブリン達もいる。北からのマフィアの襲撃、そして南から迫るクリーパーや原生動物達に対処し、前線キャンプへの被害を防ぐには、やはり冒険者達の協力が必要になるだろう。

「し、しかし……メドゥの指先幹部がドンのお命を狙っています。ジャングルの中ではどこから近づかれるか分ったもんじゃありません。殺しに来てくれと言っているようなもんです」
 ドンの出陣を止めようと口を挟んだのは、ブラックデスの幹部タ・ロウだ。
 大樹海に起きた大変動――その原因と目される腐緑獣の出現に、何らかの形で関与していると思われるメドゥの指先幹部『アダム』。交戦した冒険者達によると、彼はドンに激しい憎悪と殺意を抱いているという。
「だから行くんじゃねェか。兄弟(古ゴブリン)達を道具扱いしやがった野郎にゃ、言ってやりてェことが山ほどある」
「ドン、お願いです。自ら囮になるなんてやめてください。あの腐緑獣に追われたクリーパーや危険な原生動物だって、まだまだ樹海には――」
 なおも言葉を尽くしてドンを引き留めようとするタ・ロウの肘をサチコが引いた。無駄だ、とその目が言っている。
「俺ァ、見届けてェんだよ。俺達ゴブリンのために命賭けて戦う奴らを、世界の変わり目ってヤツを、誰よりも近くでな」
「護衛には私とタ・ロウが。冒険者も手配します」

「それはそうと、タ・ロウ。例の特効薬は届いたか?」
「は、はい。急造ですんで、数は多くありませんが……」
 ふと話題を変えたドンに、戸惑いながらもタ・ロウが応じる。
 アダムに『絶望の毒林檎』と名付けられた毒林檎を食べさせられ、狂わされた古ゴブリンと白蛇達。彼らを救う特効薬の第一号が、前線キャンプに届けられたのだ。
「サチコ、冒険者ギルドにもう一つ依頼してくれねェか。この大樹海の中には、まだ狂ったままの兄弟達(古ゴブリン)がいる。アイツらを見つけ出して、その薬を飲ませてやれるのは授恵者しかいねェ」
「はい。保護した古ゴブリンの中には、彼らの村もしくは野営地の方角を指し示せる者達がいました。捜索するなら、その方角かと」
 集落を作れる知恵が災いしたのか、それとも毒林檎により判断が鈍ったのか。古ゴブリン達は野生動物のように逃げ出すことはしていないらしい。万が一、人類が腐緑獣の北上を阻止できなかったとしたら、彼らは樹海の木々とともに凄惨な死を迎えることになるだろう。
「頼む。今しかねェんだ」
「わかりました。では、そのように」 

●
「今回、あなた方冒険者に依頼するのは、超大型クリーパー『瘴気纏う腐緑獣』の撃退、この前線キャンプの防衛、ドン・ゴーフルの護衛、大樹海に潜む古ゴブリンと白蛇の保護、の四つです」
 前線キャンプに集められた冒険者達を前に、ドンの代理としてサチコが作戦概要を説明し始める。

「大樹海の奥地から全高10m、全長20m程度の超大型クリーパー『瘴気纏う腐緑獣』が出現しました。対象は北上を続け、このままではこの前線キャンプを破壊してゴールディに至る可能性があります。そうなる前に、腐緑獣の北上を食い止め、撃退してください」
 撃退とは? と挙がった声を受け、サチコは説明を続ける。
「腐緑獣は今のところ、大型クリーパーかそれをやや超える程度の能力しか出していません。マテリアル界に現れてすぐのクリーパーはエーテルの枯渇(飢え)から凶暴性が増しますが、極端に飢えている状態では本来の力が発揮できないこともあるそうです。強大な敵には違いありませんが――攻撃を加え続け、エーテルを消費させ続ければ、いかに相手が超大型クリーパーといえども活動の限界を迎えます。完全に倒すことは難しくとも、大樹海の奥へ追い返すことはできるはずです」
 生存本能の強い大樹海の原生動物やクリーパーはいち早く逃げ出しており、腐緑獣は十分なエーテルを確保できていない。逆に言えば、このまま腐緑獣を放置して大樹海の北へ進出されてしまうと、住民のエーテルを食らい超大型クリーパー本来の力をすぐに取り戻すだろう。
「対腐緑獣の戦域には、世界各国からの援軍に向かっていただきます。あなた方は、彼らと連携しながら腐緑獣への攻撃を行ってください」
 迎撃予定地は、大樹海の中にぽっかりと開いた穴のような草地だ。かなりの広さがあり、腐緑獣の進路上にあるその草地ならば、冒険者と各国援軍が同時に迎撃体勢をとることができる。
 また、ビッグオウムで駆け付けた各国からの援軍は少数ながら、熟練の授恵者のみで構成された精鋭揃いだ。彼らと息を合わせて行動することで、短時間での決着も期待できる。

「腐緑獣が草地に侵入したら、まずシグモル火山帯の神官隊が巨大な罠(祈雷)を仕掛けます。次に、草地の両側面に配置したドワーフ王国の対邪竜戦用バリスタを発射し、フィルエス大森林の弓兵隊とともに敵が雷嵐に巻かれるまで足止めします。大ダメージは与えられるはずですが、それで敵の足が止まるとは思えません。雷嵐が止む瞬間は、総攻撃を仕掛けるチャンスです。リーンエス王国騎士団がその瞬間を狙って突撃します。あなた方はいずれかのタイミングに合わせるか、独自の行動で敵にダメージを加えてください。初期の一斉攻撃で倒し切れるとは想定していません。シグモル、ドワーフ王国、大森林の戦力も、あなた方の行動に合わせて攻撃を続ける予定です」
 今回の依頼の中では、最も危険な戦域になるだろうことを言い添えて、サチコは次の資料に目を落とす。

「次に、前線キャンプの防衛です。この前線キャンプには北上してくる小型クリーパーや原生動物が南から迫っていて、非常に危険な状況にあります。まず、これらの迎撃を。あなた方以外の防衛戦力としては、非授恵者ではありますがBD(ブラックデス)とヴァイオレットレオンの精鋭が集められています」
 非授恵者といっても、数名で囲めば小型クリーパーの一体くらいは倒せる手練れだ。しかし、その彼らの命を狙って前線キャンプを襲撃しようとする者達もいるという。
「BD(ブラックデス)と敵対するマフィア『ホワイトライフ』と『レッドブーツ』が手を組みました。北から来る彼らの襲撃にも対応しなければなりません」
 彼らの狙いはBD(ブラックデス)構成員の殲滅と破壊工作、あわよくば火事場泥棒だろう。万が一、前線キャンプが失われれば腐緑獣を迎え撃つ隊もドン達も大樹海に孤立する事となる。それに、この戦いの後まで見据えれば大樹海に打ち込まれた楔であるこの地は必ず守り切らねばならない。

「続いて、ドン・ゴーフルの護衛についてです。ドンは腐緑獣の迎撃予定地である草地の後方に陣を構える予定です。草地を突破されない限り腐緑獣の攻撃を受けることはありませんが、周辺には腐緑獣を恐れて北上する小型から中型のクリーパー、危険な原生動物があふれています。これらをドンに近づけないよう迎え撃つことが必要です」
 しかし、と続けるサチコ。
「メドゥの指先幹部『アダム』がドンの命を狙っているとの情報があります。陣は草地から少し密林の中に入った場所にあり、草地側にはまばらに、それ以外の方位は密集した木々に囲まれています。いつ奇襲を受けるかわかりません。十分な警戒をお願いします」

「最後に。未だ大樹海に潜む白蛇と古ゴブリン――ドンが言うところの兄弟達を探し、保護してください」
 最後の資料をめくるとともにサチコが取り出したのは、小さな白い団子のようなものだった。
「これは、彼らを狂わせている『絶望の毒林檎』の芯から作られた薬です。これを経口摂取させることで、毒林檎の効果による凶暴性を低下させ、ヒトへの敵対心――アダムにかけられた暗示を解くことができるはずです。この食用団子の中に液体の薬が入っていますので、手荒に扱って団子を潰したりしないよう気をつけてください。飲ませる時は、団子ごとでも、中身の液体だけでも構いません」
 古ゴブリンと白蛇達がいるであろう方角はわかっても、正確な位置はわからない。これまでに遭遇した個体が皆同じ言葉を喋り、服装や装備も似通っていた点からすれば、中核となる集落一つと複数の野営地からなる共同体と思われる。密林を進むうちに彼らの側から奇襲を仕掛けてくる可能性もある。そして、特効薬を飲ませるためには彼らと戦い、ある程度弱らせる必要があるかもしれない。集落には、毒林檎を与えられていない老人や子供が残っている可能性もあるだろう。

 神代以降絶えていた巨大なクリーパーの出現。新紀元の変換点となる戦いが今、幕を開けようとしていた。

解説

■連動特設ページ・イメージノベル https://alpaca-connect.com/world/world0/event/event9_db_detail ■相談場所について このシナリオの相談スレッドのみの運用ですと、閲覧に際し非常に重くなる可能性があることや、戦域が多岐にわたるため、別個相談用のコミュニティを用意いたしました。 【大変動】決戦シナリオ相談場 https://alpaca-connect.com/world/world0/community/l2EdkgUzPTljUuzMtVr7 ・戦域単位での募集や挨拶 ・パーティの募集・案内 ・【タグ】説明スレッド また、パーティ内での個別の相談については、上記コミュニティ以外を使用してくださってもかまいません。 ■【重要】プレイングの書き方 ・今回参加する戦域を右記の形式で【一行目に】記載ください。:【1】【2】【3】【4】 ・パーティや協調行動を示すタグは【二行目】で指定してください。タグでの指定は必ず【一つまで】となります:【ドン護衛隊】など  例   【1】   【ドン護衛隊】   (プレイング本文) ・【タグ】内容の説明(何を目的とするか、運用方針など)については、「相談用コミュニティ」の専用スレッドに【200文字以内】で記載ください。200字を越えた場合はタグそのものを無効といたします。 ■選択肢 【1】瘴気纏う腐緑獣の撃退:危険 ▼状況 大樹海奥地から突如現れた超大型クリーパー『瘴気纏う腐緑獣』の撃退が求められる。 各国からの援軍と協力し、対象にダメージを蓄積させることでマテリアル界での活動に必要なエーテルを消費させ、大樹海の奥地へ追い返すことが目標となる。 ▼味方戦力 ・各国からの援軍 各部隊10~20名程度  ビッグオウムで駆け付けた、少数ながら精鋭の部隊。  作戦中の行動方針はOP本文参照。  ドワーフ王国のバリスタは冒険者による運用も可能。  ドワーフ王国:対邪竜戦用バリスタ部隊(非授恵者の技術者たち)  リーンエス王国:王国騎士団の授恵者部隊  シグモル火山帯:神官隊  フィルエス大森林:弓兵隊 ▼敵戦力 ・瘴気纏う腐緑獣 三つの頭からは、腐敗の吐息と酸の唾液がまき散らされている。時折上げる咆哮には行動の自由を奪う効果もあるらしい。見た目から、鋭い牙と長い鼻、刺の生えた尾を攻撃に使用する事も予想される。また、巨体の質量その物を使ってくる可能性も高い。 【2】前線キャンプ防衛 ▼状況 大樹海北部の前線キャンプに南から迫る小型クリーパーや危険な原生動物を迎撃することが求められる。 同時に、北からと予想される反ブラックデスマフィアの襲撃に対応し、撃退する必要がある。マフィア構成員については「不殺」が望ましい。 前線キャンプ内に保護されている古ゴブリンと白蛇の護衛および避難誘導も歓迎される。 ▼味方戦力 ・ブラックデス構成員およびヴァイオレットレオン構成員 計40名  全員が非授恵者ながら、それなりの手練れ。  反ブラックデスマフィアの襲撃に備え、前線キャンプの建物内外で待機。  襲撃発生時は応戦し、ドン・ゴーフルの命により古ゴブリンと白蛇に危険が迫ると護衛を優先する。 ▼敵戦力 ・ホワイトライフ構成員×30~40名  ゴールディの経済マフィア。約半数が授恵者かつキャスターであり、魔法を中心とした戦術を使う。 ・レッドブーツ構成員×30~40名  ゴールディのマフィア。全員が非授恵者で暴力を好み、ほぼ戦いに知略を用いない。個々の攻撃も直線的な傾向がある。 ・原生動物および小型クリーパー×不明  危険性の高い中型以上の原生動物および小型クリーパーが大量に北上してくる。手負いのものも含まれるが、数が多く凶暴性は高くなっている。クリーパーの多くは昆虫のような堅い外殻を持つ個体が占める。原生動物は武装アリクイや甘露アリといった比較的危険度の低い物のほか、足の速いヒョウのような猛獣が確認されている。 【3】ドン・ゴーフルの護衛:危険 ▼状況 戦域1の後方に陣を構えているドン・ゴーフルの護衛および接近する敵の撃破が求められる。 陣周辺には小型から中型のクリーパーや原生動物がおり、人の気配を感じて襲撃してくるため、これらに対処する。 同時に、ドン・ゴーフルの暗殺を狙っていると思われるメドゥの指先幹部『アダム』への警戒を行い、襲撃時にはこれを撃破することが求められる。 ▼味方戦力 ・ブラックデス幹部 タ・ロウ  シューターであり、射撃が得意。授恵者としては並以上の戦闘能力がある。 ・ブラックデス幹部 サチコ  攻撃魔法としての『消えない炎』を操る。戦闘能力は不明。 ▼敵戦力 ・原生動物および小型~中型クリーパー×不明  危険性の高い中型以上の原生動物および小型~中型クリーパー。手負いのものも含まれるが、数が多く凶暴性は高くなっている。クリーパーの多くは昆虫のような堅い外殻を持つ個体が占め、キャンプ付近よりもサイズが大きい。原生動物は巨大ゴリラのように数は少ないが強力な個体が含まれるほか、『花乙女』のような足の遅い植物型も存在を報告されている。 ・アダム メドゥの指先幹部。ドン・ゴーフルに憎悪と殺意を抱き、暗殺を狙う。 実際に交戦した冒険者により一部の特殊能力が判明しているが、全てではないと思われる。 【影渡り】影に潜り、影から影に渡ることができる。移動可能範囲は数mと見られている。 【飛翔刃】素早く振るったナイフからエーテルの刃を飛ばして斬りつける。ほぼ一瞬で3発まで攻撃可能。 【4】古ゴブリンと白蛇の保護 ▼状況 メドゥの指先幹部アダムにより『絶望の毒林檎』を食べさせられ、凶暴化した古ゴブリンと白蛇を保護することが求められる。 まず彼らの村や野営地があるとされる方角へ樹海を進み、彼らを見つけ出す必要がある。 特効薬を飲ませることで『絶望の毒林檎』の毒性は中和され、保護が容易となる。 特効薬は試作段階のため、運搬時や投与時は無駄にしないよう注意が必要。 ▼敵戦力 ・白蛇×5体前後 全長7m程度の巨大な白蛇。 【噛みつき】大きな口での噛みつき攻撃。 【巻きつき】対象に巻きついて圧迫し、呼吸と行動を阻害する。 【神蛇の睨み】対象を睨み、体を竦ませる。 【原始の結束】自身を中心とした直径5ヘクス以内にいる任意の対象の防御力、魔法防御力を常に高める。 【フォレストストーム】最大射程12。直径3ヘクスの範囲につむじ風を発生させ、岩をも切る水晶化した葉で範囲内にいる対象を切り刻む。 ・古ゴブリン×20~30名程度 戦士系、キャスター系のゴブリン達。冒険者とは体系が異なるスキルを使う者もいる。これ以外に、集落には戦いに向かない個体が残っている可能性がある。 ■決戦シナリオについて ・参加者にはこのシナリオでの働きに応じた褒章が付与されます。将来的にPCの皆さんの功績を表す重要なアイテムになりますので、大切に保管してくださいね!

マスターより

連動主幹のそうすけです。 メドゥの指先がとんでもないものを出現させてしまいました。このまま北上されれば、大変なことになります。 みなさんのお力で、命を狙われるドン・ゴーフルを守りつつ、超大型クリーパーと『緑の親指』アダムを退けてください。 ※※アルパカコネクト運営より※※ 決戦シナリオのリプレイ執筆は複数のマスターが担当いたしますが、基本的な判定は運営サイドで行います。

リプレイ

【4】古ゴブリンと白蛇の保護 (執筆担当マスター:革酎)

●捜索
 ひとは空も飛べる。
 そんなことを思いながら、ララヴェル・ララフェルは上空から周辺の樹々の状態を確認した。厳密にいえばララヴェルは自力で飛んだ訳ではなく、ゴリラの相棒ウッホに木の上から投げ上げて貰ったのだ。
 ララヴェルは高い身体能力を活かし、樹を伝って地上の下生えまで一気に滑り降りると、地表で古ゴブリン野営地の探索を続けていたエルケ・シャルフに、上空で見た結果を手早く伝えた。
「恐らく、中型以上のクリーパーの影響で樹々が荒れている箇所がありました」
「……成程。そんなところには古ゴブリン達も近づかないという訳ね」
 単純に消去法で、捜索範囲を絞り込んでゆく。地道だが、効果的な方法である。エルケはそれまでと同様、再び気配を殺して密林内を静かに進み始めた。
 一方でララヴェルはウッホが樹上から下りて来るのを待つ間に、近くを通りかかった【綺譚】班のクレア・エクレールに上空からの観察結果を伝えた。
「ボクが辿っている方向とは確かに真逆だね。これでかなり絞り込めるよ」
 礼を述べてから、クレアは数メートル左手を進んでいたセヴラン・クアルトに手信号で伝達。セヴランは軽く頷き返すと、懐から栗鼠のララを地上に降り立たせた。クレアからの情報と自身の目で確認した結果、この先に目指すものがある、と踏んだのだ。
「僕やクレアさんの感覚が正しければ、間もなくの筈だけど」
 ララは弾ける様な勢いで走り出していった。野営地か集落の存在が確認出来次第、他の捜索隊にも伝令を走らせる必要がある為、セヴランはその場で待機を続ける一方、クレアはマジカルポケット内に収めた特効薬を軽く確認してから、少しずつ歩を進めていった。

 別地点では【睡狼】隊の面々が額を寄せ合い、エヴァン・ピオネロが作成中の地図を見下ろしている。
「完璧な地図だね。遂に白蛇に肉マーク書き込めるかも」
 アルマ・ヴァレンタインは胸元にぶら下げた羽ペンを軽く小突いて笑った。
「今後の為にも地図は必要ですしね」
 謙遜して笑顔を返すエヴァンも、まんざらではない様子。
 尤も、これ程早くに最初の野営地を発見出来たのには、ハル・チフの指示によるところも大きい。ハルは他の捜索隊と連絡を取り合い、皆の捜波が重なって無駄にならないように効率的な捜索を提案した。個人としては不要な戦闘を避けることを心掛け、その内容を逐一エヴァンの地図に描き込み捜索方向を絞っていった。結果、想定以上の早さで古ゴブリンの野営地を探し当てたのだ。
 そのハルはというと、エヴァンの地図をメモに写し取り、やや後方に位置するエルシー・サリバンに向けて手を振った。エルシーは早くも野営地か集落が発見出来たのかと驚きつつ歩を寄せてきた。
「早速本番だね。白蛇は居た?」
「2時の方角。岩陰に3体隠れています」
 ハルの面には全ての古ゴブリンを見つけ出すという気合が滲み出ている。彼は集落ならば建物内までをも捜索する腹積もりであった。この野営地にも、木の洞や茂みの中に隠れている戦闘に不向きな個体がいるかもしれない。
 【睡狼】隊の戦闘班もすぐ近くにまで接近してきている。その前にエルシー以外の三人で野営地からやや離れた場所に布陣し、支援体制を整えることになった。
 エルシーは栗鼠の相棒ティムを野営地近くにまで走らせ、古ゴブリンや白蛇達の凶暴度合いを目視させる。
 配置に就いたアルマは、ハルが示した白蛇が屯する岩場に目線を送ってから、エヴァンに手信号をかざす。
 エヴァンはひと息入れてから術式を発動。6人の古ゴブリンたちが座す野営地の中心付近にタイダルストリーム2を叩き込み、古ゴブリンと白蛇を一撃で分断した。

 どこかで戦闘が始まったらしい。
 微かな空気の震動に、【ふしぎ亭】のヒロ・テスタロッサは傍らのララベル・サン・ディーベルにそっと視線を流す。
 ふたりは地形を読み、足跡を辿ってここまで来た。樹々の向こうにはやや開けた土地。こちらには気づいていない様子の古ゴブリンと白蛇の姿が見える。
 ヒロは点在する岩や木々の陰にも古ゴブリンの気配を見出している。一方ララベルは、途中で幾つも残してきた目印を手近の岩に書き記している。
「ドンの兄弟達、ひとり残らず助けるよー!」
 気合を入れて自身の両頬を叩くヒロ。後方から仲間達の気配が近づいてくる。
「さぁ皆、ふしぎ亭に続け!」
 ララベルの笑顔が弾ける。
 絶対に全ての古ゴブリン達を救い出すんだという決意が、ふたりの表情に漲っていた。
 ヒロの得物に縛糸刃の赤光が輝く。ふたりは野営地へと足を踏み出した。

●制圧戦
 エヴァンが叩き込んだ魔力の奔流で、古ゴブリンと白蛇は連携を崩された。
 そこに【睡狼】隊の戦闘主力が次々に飛び込む。
 テス・クラルスとロイ・アウレアが白蛇との間合いを詰めた。古ゴブリン達が白蛇を助けようとするものの、梅・雨陽の放つ矢が行く手を遮る。
「ソッチ行っちゃダメよ! ワタシの方がカワユクて魅力的ヨ!」
 次いで、ネーヴェ・グラヌローザの美声とエーテルを受けて力が湧き上がってきているライオネル・ギシュムが大剣を振るって古ゴブリン達の中へと駆け込んだ。
 敵は中々に強力だ。ネーヴェは更に仲間達の力を底上げすることに余念が無い。
「あちらが硬いのでしたら、こちらも攻撃力を上げるまでです!」
 古ゴブリンも十分に強敵だが、矢張り厄介なのは白蛇だ。その白蛇の嗅覚器官を鈍らせるべく、テスは周囲に香水を撒き散らした。
「君の命を奪わず戦いを終えれば、ゴブリンの信頼を得られるかな?」
 テスは見るからに動きの鈍った白蛇に氷の矢を放ち、早急に無力化することに全力を注いだ。
「ルプス、廻り込め!」
 ロイは黒狼の相棒ルプスと共に残る2匹の注意を引きつける。テスの作戦では同時に3匹の無力化は無理だが、ロイとルプスで牽制し、順に香水と魔法で対処していけば何とかなる。
 古ゴブリン達は弓や刃物を手に応戦するも、毒林檎に狂わされた頭では戦況を覆す策も浮かばない。白蛇が次々と力を失ってゆく様を見せつけられた古ゴブリン達は、目に見えて士気が落ちた。そんな彼らを、ネーヴェの術で力を底上げされた雨陽とライオネルが次々と取り押さえてゆく。
「毒で無理矢理ってのは分かってるけど、今はごめんよ」
 申し訳無さそうなライオネルだが、力で制圧しない限り、彼やネーヴェがマジカルポケットで大切に運んできた特効薬を投薬することも出来ない。ライオネルは雑念を振り払い、雄叫びと破壊の衝撃を駆使して古ゴブリン達を沈黙させていった。
 白蛇はテスとロイの活躍で早々に動きが止まり、古ゴブリン達も叩き伏せられた。
 流石に特効薬の投与や言葉では白蛇を味方につけることは叶わない。だが、古ゴブリン達に薬の効果が出始め敵意が失せると、白蛇達もそれに従った。
「後は後続の保護班にお任せすれば良さそうだな」
 ネーヴェとライオネルの投薬を雨陽が手伝う様を眺めつつ、ロイはほっとひと息ついた。

 【綺譚】班も10人前後の古ゴブリンが身構える野営地で戦闘に突入していた。
 セヴランとクレアの報告を受け、ナハト・シュライバーの矢を援護に受けたアンネエルカとアーシェル・G・クラインが、それぞれの得物を構えて接近戦を仕掛けた。アンネエルカは魔法を駆使する個体に、そしてアーシェルは白蛇に対して切っ先を向ける。
「早くお薬飲んで欲しいから、痛い目に遭うのは許してね!」
 アンネエルカの驚く程の接近速度に、魔法で対抗しようとしていた古ゴブリンは完全に虚を衝かれた。一方、アーシェルは白蛇の破壊力に満ちた一撃を鉄壁の守りで凌ぎ切り、反撃の刃を叩きつける。
「そう無闇に暴れるな! 本当の敵は俺達じゃない!」
 徹底的に防御力を高めたアーシェルの前では、流石の白蛇も有効打を撃ち込むことが出来ない。
 そして肝心の古ゴブリンはナハトの攪乱射撃とセヴランの魔矢で次々に無力化されてゆく。
 中でもアンネエルカは比較的早い段階で魔法を駆使する古ゴブリンを全て叩き伏せ、次いでナハトが牽制している戦士タイプへと刃を向けた。クレアは隙あらば投薬しようと思っていたが、狂暴化した古ゴブリンは無駄に頭を振ったり口を開け閉めしたりするのでやはり打ち倒さねば無理だと切り替える。
 古ゴブリンは次第に圧倒され始め、アーシェルが白蛇を抑えている間に全員が無力化された。そしてその白蛇も最後には力尽き、【綺譚】班の軍門に下った。
 全員が大人しくなったところで、クレアとアンネエルカがマジカルポケットから特効薬を取り出し、投薬が一斉に始まる。
「おっと、ここはもう勝負がついたのか」
 そこへバーネット・フォーサイスが駆けつけてきた。丁度ナハトが他隊に伝令の鼬を走らせようとしていたところだった。
「はい、ここは制圧完了です……あ、絵ですか?」
 ナハトはバーネットの意図を察した。彼は亜人語適正で古ゴブリンの言葉を聞き取り、得意の絵図で意志疎通を図ろうとしているらしい。
 フィリスティア・リュナ・ブルーメルティスも同じく、古ゴブリン達を治療しながらコミュニケーションを取り始めていた。
「大丈夫ですわよ。あなた方を安全な場所まで送って差し上げますから」
 言葉は通じなくとも優しく声をかけ、ジェスチャーや絵図を駆使して思いを伝えるフィリスティアとバーネット。だが古ゴブリン達は他にも助けて欲しい仲間が居るらしい。彼らの必死の形相と片言で理解できる言葉が、そう訴えかけていた。

●兄弟達の保護
 最後に制圧が完了したのは、【ふしぎ亭】が攻め込んでいた野営地だった。
「うーん、駄目だったわね」
 色仕掛けが不発に終わったアルラ・ニグラスは、戦闘中の投薬も難しいと見て回避に集中し、古ゴブリン達の攻撃を引きつけていた。
 その一方でテュリン・ヴィングは得意の魔法を駆使して、次々と古ゴブリン達を無力化してゆく。
「ちょっと痛いけど、今は我慢してね。後でちゃんとお薬あげるから」
 特効薬は、まだ使えない。暴れている古ゴブリンに対しては、とてもではないが投薬は不可能だ。
 ゴルバルティアだけは白蛇に接近戦を仕掛けていた。過去にも戦った経験があり、対白蛇戦はお手の物であった。尤も、ひとりで倒せる相手ではない為、牽制と足止めで精一杯だったのだが。
「ほらほら、こっちだ。古ゴブリン助けてる余裕なんか無ぇぜ」
 轟然と吠えるゴルバルティアに、白蛇はすっかり意識を奪われている。
 その間に古ゴブリン達はアルラとテュリンの連携で、そのほとんどが叩き伏せられていた。
 そこへ待ってましたとばかりにルーシカとアリエッタが特効薬を投与していく。
「流石にちょっと料理する余裕は無さそうかな……」
「ま、仕方無いね。あ、でも、薬は効いてきたみたい」
 残念そうに頭を掻くルーシカに対し、アリエッタは表情が明るい。正気を取り戻し始めた古ゴブリン達が自分達が置かれていた状況を理解し、何かを訴えかけているのが亜人語適性を持つ彼女には理解出来た。
 彼らは自分達と同じ様に狂った同胞、そして集落に残っている同胞を救って欲しい懇願しているようだ。
「おぉい、そっち片付いたんならこっちも手伝ってくれ」
 ゴルバルティアの要請を受け、ヒロ、ララベル、テュリン、そしてアルラは白蛇への制圧に舵を切った。既に古ゴブリン達は特効薬の効果で敵対行動を取ることは無いように見えたから、集中して白蛇を抑え込むことが出来る。
 やがて、冒険者達には敵意が無いと理解した古ゴブリン達の呼びかけもあり、白蛇も戦闘を終了した。
 それからややあって、他隊から伝令の鼬や栗鼠が駆け込んでくる。
 古ゴブリンの野営地は概ね、制圧が完了したと見て良かった。
 この場にいる古ゴブリン達と同様に、他の野営地で保護された者達も集落に残る仲間を助けてほしいと訴えているらしい。【ふしぎ亭】の面々は、まだ体力を残している古ゴブリンの案内を受け、他隊を追うようにして彼らの集落へ向かうのだった。

 キリクとゲルトのふたりで組む【薬師】班は、古ゴブリン僅か5人という小さな野営地を早々に制圧し、投薬作業に入っていた。
 ロープで捕縛された古ゴブリン達はすっかり力を失い、ただされるがままに薬を与えられている。
「混ざり物の子孫に薬を与えられるというのは、どんな気分なんだろう」
「まぁ気にするな。どうせ言葉は通じない」
 ゲルトの何気ない呟きに、キリクは肩を竦めた。
 古ゴブリン達はキリクの射撃能力とゲルトの突進力に圧倒され、簡単に捕縛された。今更彼らが何を思ったところで、投薬は淡々と進められるばかりである。
「大きな野営地での戦闘は、大体収まったかな。結構派手にやってたみたいだが」
「……みたいだな。僕達も急ごう」
 ここから先は、投薬と保護が主な作業となる。薬の効果が出るまではまだ少し、時間がかかりそうであった。

 【薬補給】隊のルチル・プルメリア・グレイハーツとサララ ココノカは、途中で偶然合流したエーファ・メイベル・マジェリトと連れ立って、集落から古ゴブリン達を移動させる準備を進めていた。
 集落に辿り着いた【綺譚】や【ふしぎ亭】【睡狼】ら冒険者達の活躍により、集落に少数残っていた戦闘員の古ゴブリン達の投薬は既に完了している。今は、非戦闘員の捜索が進められている段階だ。
 他隊の野営地での戦闘に参加し、情報を集めて廻っていたルチルは、この集落が最後の保護ポイントであることを理解していた。バーネットらと同様、絵図や亜人語適正による意思疎通が上手くいったのだ。
「もう他には、あんた達の仲間は居ないみたいだね」
 ひと息ついたルチルの傍らで、サララが傷ついた古ゴブリンに肩を貸して立ち上がった。
「さぁ、参りましょう。こう見えて力はありまする」
 一方、エーファは老人や子供の古ゴブリン達を引率し、安全地帯へと誘導してゆく。
「もう安心ですよ。皆さんの兄弟……ドン・ゴーフルが守って下さいます」
 エーファの言葉の意味は理解出来ずとも、その表情で安心感を与えている。冒険者達が同胞の案内を受けて集落に現れたというのも、彼らが警戒心を緩めた理由のようだ。
「ま、余り多くを望み過ぎるとバチが当たるかもね」
 頭蓋面の奥で苦笑しつつ、ルチルは栗鼠の相棒ラトの帰りを待って、自らも帰路に就いた。
 古ゴブリン達への投薬と保護活動は、一先ずの幕引きを見た。
 彼らがドン・ゴーフルのもとでどの様な暮らしぶりを送ることになるのかは、まだ誰にも分からない。


【2】前線キャンプ防衛 (執筆担当マスター:ゆうきつかさ)

●
 前線キャンプの南では、【獣断】が防衛線を張っていた。やや後方には【リザイン】と【雀】が構える。南からの敵に備えた共同戦線だった。
「マフィア同士の抗争など興味ありませんが、キャンプが襲われるのは避けたいですね」
 リディリディ・トゥラ・イェレミースが呟く。
 前線キャンプに到達される前になるべく多くのクリーパーを片付ける必要がある。【獣断】はまず罠で敵を迎える作戦だった。大福がエーテルリンクを結んだ粽(狼)と連絡を取りつつ、防衛線最南端に横一直線の深い溝を掘り、せっせと草で隠していく。
 クラリス=ミシェ、サフィラ・アズラク・ナハルハルアリーブ、アヴェラ・ウッチェロ、ユゥラ=フォン、レオナルド・ピーフォウルも、各々のスキルや知識を駆使して罠を設置していった。
「……来るぞ」
 周囲を警戒していたセリオス・オーガストが、クリーパー達の存在を確認。フラム・アニムスも超聴覚と天眼で状況を把握し、イズレンディル・パラリムに状況を報告する。
 クリーパー達の多くは、昆虫のような堅い外殻を持つ個体だ。原生動物の群れの先頭は武装アリクイ。そのまわりには甘露アリの大群や、ヒョウのような猛獣の姿もある。
 【リザイン】のザインは狩猟の経験を活かし、獣の習性や動き等から待ち伏せに最適の場所を選んでいる。Re:Leeがアイアンウォールを召喚し、ザインと一緒に身を隠した。
「……!」
 武装アリクイ達が大福の罠に掛かり、落とし穴にストンと落ちた。
 小型クリーパー達も次々と落下したところで、ミシェがタイダルストリームを解き放つ。
「ここから先には行かせないのだ!」
 さらに大福が木の上から狙いを定め、武装アリクイの頭を撃ち抜いた。
 だが、甘露アリの大群は落とし穴から這い上がり、止まろうとしない。
「罠が効く敵と効かない敵がいるようですね」
 イズレンディルが仲間達と連携を取りつつ、視界を埋め尽くすほどの甘露アリの大群を相手にするべく行動を開始した。
 一方、ヒョウのような猛獣は、樹を足場に落とし穴を飛び越える。その様子を見習った身の軽い原生動物達と共に、いまにも防衛線を突破しそうな勢いで迫ってきた。
 すかさずサフィラが捜波・改を使い、魔豹をマークして追いかける。
「このまま突破させると厄介だな」
「ここはぜったいししゅだー……」
 その先を塞いでいたのは【雀】の3人。イズル・M・ヴォルゴールがエフィルミアの身体を淡い光で包み込むと同時に、ヘレン・ワーグナーが魔豹に衝撃波を解き放った。
 魔豹が一気に加速し、衝撃波を避ける。
「最速シーフを目指す私を抜けようなんて甘いです!」
 エフィルミアが疾風足で魔豹の横に並んだ。腕の立つ彼女を軸に、イズルが癒し、ヘレンが牽制。
 しかし、それを邪魔するようにして、遅れて来た原生動物が次々と飛び掛かってきた。ということは、追いすがった【獣断】の面々も追いついてくるということだ。
「退いて頂戴。ハッキリ言って、邪魔よ」
 乱戦だ。【獣断】のアヴェラが原生動物に三連撃を仕掛け、セリオスが鋭射で魔豹の肩を貫いた。
「……と言うか、そんなのろまじゃ、あたしに追いつけないでしょ? あっかんべーっ!」
「おにごっこ、自分、まけるしない」
 サフィラとユゥラが疾風足を使って魔豹を挑発。サフィラを追いかけようとした次の瞬間、魔豹は罠に足を引っかけ、地面を滑り転がっていった。
「どうやら油断したようですね」
 イズレンディルからテレパスで後備えの苦戦を聞いたコルネリウス・アーラが、チャージングで先回りをして魔豹に迫り、兄の形見の剣を振るって脚の腱を斬った。
 それでも魔豹は、今にも飛び掛かってきそうな勢いで唸り声を上げている。
「……来なさい」
 コルネリウスが魔豹を挑発し、真正面から強打を繰り出した。
「もうおしまい」
 ユゥラが毒撃を繰り出す。続くサフィラがエアーライドで跳躍しつつ、死角からタナトスバイトを仕掛けて魔豹の息の根を止めた。
 魔豹の突破と撃退までは、長い防衛戦の中では一瞬の出来事であった。息をつく間もなく、小型クリーパー達の第二波が襲い掛かってきた。
「このまま一気に片付けるわよ!」
 【リザイン】のRe:Leeが、【獣断】のフラムと重ならないようにアーケインテンペスト改を発動させ、稲妻のような光で小型クリーパー達を絡めとる。続いてザインが炸光矢を放ち、敵の頭上で炸裂させた。彼のペットの狼も小型クリーパーに飛び掛かり、容赦なく牙を突き立てていく。
「これ以上、先には行かせませんよ」
 ミシェが放った火球がうねり、クリーパー達に襲い掛かる。そこに追い打ちをかけるようにしてリディリディもフレイムゲイズを発動させ、敵を次々と消し炭に変えていった。
 だが、消し炭と化した小型クリーパーを踏み越え、勢いよく迫ってきたのは、さらなるクリーパー達の群れであった。
 今倒したばかりのもの達に比べて、さらに外殻が硬く見える。
 罠なども体の頑強さに物を言わせて乗り越え、踏みちぎり、ほとんど無傷のモノもいた。
「まだそれだけの数が残っていたとは……」
 一方、甘露アリの相手を終えたイズレンディルは、コルネリウスからのテレパスを受信し、前線キャンプに達しようとしていたクリーパー達をメテオライトで迎え撃つ。
「みんな、集まってくれ! 戦いは、これからが本番のようだしね」
 危機感を覚えたレオナルドが仲間達を呼び寄せ、ヒーリングオーラを発動させた。
 これまでに倒した小型クリーパーの中に、毒を持っている個体はいなかった。新たに押し寄せてくるクリーパー達も、毒を持っている可能性はさほど高くないかもしれない。
 そのため、レオナルドは辺りに注意を払いながら回復に専念する事にした。
 力任せに突っ込むクリーパー達の行く手に、【リザイン】のアイアンウォールが現れる。
「なるべく数を減らす。それだけだ」
 ザインが狼と連携してクリーパー達を挑発しつつ、可能な限り前線キャンプから引き離そうとした。
「それじゃ、これであの世に旅立ってもらおうかな」
 ザインと連携してRe:Leeがメテオライトを発動させ、大量の光弾を降り注がせる。
 その隙をつくようにして、ヘレンが破脚砕を仕掛ける。それでも突破した敵へはエフィルミアが死角から走り寄り、タナトスバイトで刺しつつ足止めした。
 冒険者達の奮戦の甲斐あって、敵の大半を食い止める事が出来た。だが、そこから逃れた一部の敵は、未だ前線キャンプに向けて北上を続けていた。

●
 南から来た敵の一部が突破したらしい。その知らせに、キャンプに残った人々が慌ただしさを増す。
「みんな大丈夫ギャ! 色んな人がたくさん駆けつけてくれてるギャ! みんなの仲間もきっと助かるギャ! ここに居る皆も傷つけさせないギャ!」
 シファー・アルムグニーは仲間達と共に、古ゴブリン達を本部の1階に誘導していた。
 古ゴブリン達は不安げな表情を浮かべていたものの、状況を理解しきれていないのか、黙って指示に従っていた。
「安心してください。味方がきっと防いでくれますから。それまで、皆さんは私が必ず守りますわ」
 緊迫した空気の中、ダリア・レプシウスが古ゴブリン達を落ち着かせようとした。
 言葉こそ通じていなかったものの、ダリアの熱意を感じ取ったのか、古ゴブリン達は先程よりも落ち着きを取り戻したようだ。
「どうやら、何体か、こちらに来るようですね」
 ファイサル・アル=ファルドは超視覚や捜波・改で、突破してきた小型クリーパー達の存在に気づき、仲間達に警告をした。ダリアとともに本部の外で敵を迎え撃つ。
 周囲にいたブラックデスとヴァイオレットレオンの構成員達は古ゴブリン達を守るため、本部の1階に陣取った。
「こっちですわ!」
 敵の姿が見えるなり、ダリアがシーザーロアで先頭のクリーパーの注意を引いた。
 さらにファイサルが先手必勝でクリーパーに迫り、ダブルエッジを繰り出し、息の根を止める。防衛戦を抜けてきた敵は少なく、彼らの奮闘により倒されていった。
 だが、ホッとするのも束の間、今度は北からレッドブーツとホワイトライフが攻めてきた事が、仲間達によって知らされるのであった。

●
 レッドブーツの構成員達は策もなく、バラバラになって突っ込んできた。
 ホワイトライフと組んでいる様子はないものの、ブラックデス精鋭構成員の殺害という目的は一致しているようだ。
 その行く手を阻むようにして、【戦姫】を中心にした冒険者達と、ブラックデスの構成員達が陣取る。
「クソッ、冒険者か!? 邪魔だ! そこを退けぇ!」
 レッドブーツの構成員が吠えた。
「名前の通り、赤いブーツがトレードマークなんですね」
 それに臆する事なく、クローリカがレッドブーツの構成員達の足元を見る。
「だから、どうした! 邪魔を……するなァ!」
 レッドブーツ達が、短剣を握り締めたまま叫び声を響かせる。
 その気持ちに反して、気圧された身体はまったく動かない。
「別に邪魔をするつもりはない。だが、旗色決まって降参より、旗色を変える為の加勢の方が心象は良いぜ?」
 ゴブロウタが、考えを改めるように説得を試みた。
「な、何が言いたい! 脅したって、無理だぞ!」
「騙されるな! これは罠だ! あいつの目を見ろ! 目が笑っていねぇだろうが!」
 虚勢を察した別の構成員が、ゴブロウタの目を指さして仲間を説得する。
 この時点で、ゴブロウタの時間稼ぎは成功した。
「確かに……。あいつの目……って、目……目がああああああああああ!」
 木の上から落ちてきた何かに、レッドブーツの構成員が悲鳴を上げた。
 どうやら、ベアトリーチェ・カロッサが木の上から蒸留酒を垂らしたらしい。
 蒸留酒まみれの男が片目を押さえたまま、のたうち回った。
「まあ、落ち着けよ。こっちは授恵者、そっちは非授恵者だ。どうなるかわかるだろ? さっきも言ったがブラックデスにつくなら今だぜ。ただし、断るって言うなら……」
 ゴブロウタがそう言いながら、レッドブーツの構成員達の顔色を窺う。
 完全に舐められている。その事実が彼らをさらに煽った。
「そ、そんな危ねぇ橋をボスに無断で渡れるか! 要はお前達を殺ればいいんだろ?」
「世界情勢が読めない阿呆共は当代のストレガが再教育してやるのだ」
 即座に、ストレガ・L・リベルガストラがスタティックフィールドを発動させ、光り輝く球をレッドブーツの構成員達に纏わりつかせた。
「マフィアなんて大嫌いです!」
 そこに追い打ちをかけるようにして、ルアンナ・ミュラーが嫌悪感をあらわにしながら、フリーズボルトで向かってくる男の足元を凍らせた。
「ドンの指示がありやす。成るべく、穏便に……、お願いしやす!」
 ブラックデスの構成員達が慌てて手加減するように懇願する。授恵者ではない彼らに万が一にも犠牲が出ないよう、リサ・ベイカーからキャスターのいないレッドブーツ側へ向かうよう提案されたのだが、ちょっと後悔しつつあった。
「あ、あいつ、ヤベエ!」
 ルアンナの本気ぶりを本能的に悟ったのか、レッドブーツの構成員達の腰が引ける。
「死にたくなかったら、大人しくしてください。私達は貴方達を殺害するため、ここに来たわけではないのですから……」
 すかさず、クローリカが警告する。
「嫌なら、メテオライトを撃つだけなのだ」
 さらにストレガが真顔のまま、脅しをかけた。
「うぐ……ぐ……」
 レッドブーツの構成員達が地面に突っ伏した状態で、抵抗する事を止め、次々に拘束されていく。
 最後にストレガが仲間達に怪我がないかを確認し、対レッドブーツ戦は幕を閉じたのであった。

●
 一方、ホワイトライフの構成員達は、【雷鎚】を中心とした冒険者達に足止めされ、身動きが取れなくなっていた。
「どさくさに紛れて暴れようなんて下衆の極みね」
 ルベア・ベルニが呆れた様子で、深い溜息を洩らす。
 超視覚と天眼を駆使して、機先を制する事が出来たのは幸いだった。
 リーダーらしきキャスターは奇襲を仕掛けるつもりでいたのか、悔しげな顔だ。
「奴らだけを狙うつもりだったのだが。まさか自分からマフィアの抗争に首を突っ込むとは……」
 リーダーは下手に冒険者を刺激しないよう言葉を選んでいる様子だった。
「それなら、私達を倒して、先に進みますか? 別に構いませんよ。キャスターがされて嫌な事は、よーく知っていますからね」
 ヘレム・カースワーズがイイ笑顔を浮かべ、リーダーに視線を送る。
「くっ……」
 この場にいる人数だけで言えば、ホワイトライフは冒険者達を上回る。だが、目の前の相手の実力を理解できたリーダーは口を噤んだ。
「何時までも2番手争いで良いんですか? まずは地位を固めては? 協力して貰えれば上手く話は通しますよ」
 実力を背景に、内訌を勧めるリサ。リーダーは判断を迷っている。
 だが、なお止まれないホワイトライフの構成員もいた。
「こんな奴等の話を聞いても無駄だ。どうせ、見掛け倒しだ。……臆するな!」
 非授恵者であり、前衛を担う彼らは問答無用で襲いかかってきた。こうなると、キャスター達も援護せざるを得ない。
「そう言えば、知っているか? オハナシは殴った後が一番聞く耳を持たれるんだぜ」
 無数に降り注ぐ光弾の雨をかわし、時にその身に受けながらも、敵の前衛を軽くねじ伏せキャスター達へと迫るシスル・ノーティラス。
「……クッ!」
 彼女を狙い、キャスターのリーダーが杖を掲げて呪文を唱えようとする。
「そこまでっす! それ以上、動いたら、どうなるか分からないすよ!」
 マタリキー・T・ヒーローが茂みの中から飛び出し、彼が持っていた杖を射落とした。
 非授恵者の敵前衛はロゼットの棍とリサの祭刀を受けて次々と倒され、後衛まで食い込んだシスルとルベア、トーラの3人が動揺するキャスター達に連撃を見舞う。
 反対側からはレイヤ・ダライ=カホールがアーケインテンペスト改でキャスター達の足を止めた。そこへ、へレムの放った巨大なエーテル光波が撃ち込まれる。
「……という訳で話し合いだ。みんな、あたし達のオハナシが聞きたくなっただろ?」
 キャスターの一人を気絶させたシスルが、含みのある笑みを浮かべる。
「今ドンは各国の支援を受けてます。これを潰しちゃうと各国のお偉方の面子が……。そうなると今後『観光』のお仕事がやりにくくなりますよ?」
 レイヤが、考えを改めるように説得した。
「だから、何だ! 混沌としているからこそ、俺達の仕事がある」
「冷静になって、考えてください。ドンさんを暗殺したら、大陸中を敵に回す事になりますよ? そうなったら、仕事どころではありません」
 トーラの大陸中を敵に回すという一言が聞いたのか、構成員達の間に動揺が走る。
 リーダーも周りを納得させるだけの答えが出せないようだ。
「それが原因で、帰る家を失っても良いの? 黒も、白も、赤もない。貴方たち全員がゴールディの家族(ファミリー)なんでしょう!?」
 ロゼットが真剣な表情を浮かべ訴えかけた。
「そ、それは……」
 リーダーがさらに動揺した様子で、悔しそうに口を噤んだ。
 ここで反論するのは簡単だが、迂闊な事を言えば、士気にも関わる。
「こ、こんなの、時間の無駄だ! やっちまおうぜ!」
 動揺を誤魔化すようにして、何とか無傷だった敵前衛の一人が大声を上げた。
「何をする気だ? まさか、この状況で抵抗する訳じゃないよな?」
 シスルが疾風足を発動させ、彼らの懐に潜り込みながら、物凄い形相で睨みを利かせた。
 明らかに不利であると悟った敵前衛は恐怖で歯をガチガチと鳴らしながら、動きを止める。キャスター達も、これ以上戦う意志はないようだ。
「私達が本気を出したら、この程度では済まなかったわよ」
 ロゼットが医療技能を使って、倒れたホワイトライフの構成員達を手当てしていく。
 幸い、命には別状はないものの、しばらく動く事が出来ないだろう。
「これで俺達の方は何とかなったすけど、他は大丈夫すかね?」
 そんな中、マタリキーが瘴気纏う腐緑獣と戦う仲間達に、思いを馳せるのであった。


【3】ドン・ゴーフルの護衛 (執筆担当マスター:空色みなも)

●
 咆哮に揺れる森に、陣を構えるドン・ゴーフルと、それを護る冒険者たち。
 青空から降り注ぐ白い光、木々の緑が落とす黒い影のどこかに、ドンを狙う悪意――メドゥの指先幹部、アダムが潜んでいるに違いない。
 冒険者たちの間に、緊迫した空気が漂っていた。

 カランカラン――と軽快な音が密林に鳴り響く。
「かかったでございますね! ここは通さないでございますよ!」
 ハリーヌ・ヨツユビが仕掛けた鳴子に、原生動物が引っ掛かったのだ。
 それらの接近を仲間に知らせたハリーヌは、感覚共有したゴリラに突破阻止を指示すると、自身は原生動物たちへと矢を放ち、鏃にまとわせたエーテルを炸裂させる。

「あっちで鳴ったな」
「ゼーくん、援護お願い!」
 さながら月と太陽のような二人、ゼラルム・エルホワイトとサニー・フォン・オルライトが鋭い聴覚で鳴子の音を聞きつけ、魔獣の対処へと向かった。
 ゼラルムは自らの生命を燃やして魔力へと転化し、敵の群れへ光弾を流星雨のように降らす。
 光弾の隙間を縫って、サニーが群れの中にいた巨大ゴリラに肉薄。
 一閃、また一閃と目にも留まらぬ速さで連撃を加えると、後方へ跳躍した。
「行かせるものか」
 それでも倒しきれず、押し寄せようとする魔獣たちは、ゼラルムが絡みつく雷光を召喚して足を止めたのだった。

「あいつは俺が!」
 原生動物たちの中に花乙女の姿を認めたカズマ クレセントブラッドが、花乙女の身に光印を刻み込み、魔力の集中を乱す。
「その手は食うかっ!」
 口吻によりカズマの命を奪おうと、一瞬で接近する花乙女――しかし、そこにあったのはカズマの残像。
 その間に側面に回り込んでいたカズマは、二本の剣で切りつけ、花乙女の鱗を散らした。

「エリック、出番のようですよ」
「ああ、そうみたいだね、ルーカ!」
 ルーカ・ルンガルディエールがエーテルの波動を走らせ、何者かの気配を察知していた物陰から、クリーパーが姿を現す。
 エリック・ハルトマンはルーカにより強化の光を施された盾で、ルーカを狙ったクリーパーの突進を受け止めた。
「これならっ!」
 お返しにとばかりに、エリックがクリーパーへ大剣を振るう。
 大剣にはエーテルがまとわせてあり、クリーパーはそれにより堅牢な外殻を脆くした。
「守ってくださるのは嬉しいですが、無理はしないでくださいよ」
 ルーカはクリーパーへと魔法の矢を放ちながらも、エリックに残された体力に気を配る。
 彼らの脇を駆け抜けていった敵に杖を向けるのは、ロドリック・アルカインだ。
「敵が多いな。長期戦を見越すなら、力を節約し、温存するのも大事だろう」
 呟きながら、ロドリックは光の矢で一体の小型クリーパーを撃ち抜く。胴に風穴を開けられたクリーパーは地に倒れ、ピクリとも動かなくなった。

「生きて帰るためのおまじないさぁ」
 フリューリングスルフト=ティエラが、シャルロット・エクレールの頬に、そしてエイル・ビュセファスの手にそっと唇を添える。
「奴は固そうだ、攻めは魔法主体がいいだろうな……シャル!」
 事前に得た情報と合わせ、目前の中型クリーパーの外見から有効な攻撃手段を推測したエイルが、シャルロットに声をかける。
 それと同時に、エイルはシャルロットが手にした杖に、淡い光を付与していた。
「祝福もらった私たちは強いわよ!」
 指示を受け、シャルロットが魔力を込めた杖から巨岩が放たれ、炸裂した礫がクリーパーの体を打った。
 そうしてクリーパーに攻撃を加えながらも、魔法を得意とする敵が現れたら率先して攻撃を引き受けるべく、シャルロットは周囲に注意を払っていた。
「守りは回避主体だ、フリュー」
「うちに任せるさぁ!」
 エイルの支援により、脚に輝きを帯びたフリューリングスルフトが前に躍り出る。
 フリューリングスルフトは手にした剣でクリーパーに痛烈な一撃を与えながらも、細かく動き回ってクリーパーを翻弄した。

●
 ドンはこれまで長く生きてきた中で、おそらく今、最も輝いている。
 なにも比喩ではない――ドンは実際、数々の光源によって照らされていたのだ。
 そのうえ、ドンは冒険者たちにより白い外套を羽織らされていたものだから、それはもうギンギンに光を反射していた。
 冒険者たちも伊達や酔狂でドンを光らせているわけではない。
 アダムの影を渡る能力を警戒し、ドンの周囲から転移先の影を潰すための策だ。
 また、影を生み出し得る周囲の草木は、何人かの冒険者によって事前に刈られていた。

「ゴーフルさんはここにいて。体を張ってでも、クーが貴方を護るから」
「そいつぁ頼もしいぜ。しかし……少しばかり熱いな、こりゃ」
 そうした光源のうち一つを用意したのが、クー=ウィッシュである。
 ドンの言葉が示すように、クーが準備した光源は篝火であった。
 炎が燃え盛るのは――ドンの頭上。
 その様子はまるで、ドンを祀る祭壇のようであった。

「アダムの野郎、まだ姿を現さないみたいですね」
 オゴスのように魔法の光球を伴っている冒険者も、数多くドンの周囲に配置されている。
 こうしてドンの周囲から影が極力排され、その身も手厚く護られているため、アダムも攻めあぐねているのだろうか。オゴスが走らせる索敵用エーテルにも、それらしい気配はまだ引っ掛からない。
 オゴスはクリーパーに対処しつつ、アダムが影に沈めば出現が予想される範囲に光弾の雨を降らす心づもりで、森に目を光らせた。
「ただのゴブリンにも意地がある、って見せてやらないとな」
 ギャメルは格納用の異空間を活用し、ドンの周囲にあった障害物をあらかじめ運び出していた。
 そうして可能な限り物陰を排した陣地に、ギャメルはうっすらとした霧を呼び出す。
 そこへ構わず踏み込んだクリーパーは、次の瞬間、稲妻に打たれて絶命していた。

「ドン・ゴーフル様に何かあっては大変ですので」
 クリーパーの排除を担当するスィーリーンであったが、アダムをドンに近づけぬよう、攻撃手段に光や炎を伴う魔法を積極的に選んでいた。
 スィーリーンの呼び出した火炎がクリーパーを舐めまわすように焼くとともに、戦場を明るく照らし出す。
「そうね、何者も近づけるわけにはいかないわ」
 戦場を見下ろすような視点を得たザザ=ステルヴィナが、クリーパーの密集地帯へ絡みつく雷光を呼び出すことで進攻を止め、自らの生命力すら注ぎ込んだ冷たい嵐を巻き起こす。
「そんじゃあ、頑張りますかねぇ。ちょっとした嫌がらせをね!」
 家宝として受け継いだ双剣を両の手に握り、戦場を駆けるティラミス・ノーレッジ。彼は周囲の森に物陰を見つけては、雑多な物品を壊して作った破片をばらまいていく。
 鋭利な破片により、アダムの影渡りを制限するのがティラミスの狙いである。

「よぉ、また会ったな」
「知り合っちゃったからには死なれたら夢見が悪いでしょ、だから手伝うよ。野菜運ぶのは手伝って貰えなかったけどねぇ」
 タ・ロウと軽口を叩き合うのは、ディレイン・オールドケイジ。
 向かってくるクリーパーにタ・ロウが矢を射るのに合わせ、ディレインも魔法の矢を同じクリーパーへと放つ。

「サチコ、炎でクリーパーを攻撃して貰えるか?」
「木が多いですね。消える炎も使えますから、念のためそちらにしましょうか」
 アステルの願いに応え、サチコの操る炎がクリーパーを焦がす。
「ありがとう! あと、考えたんだけどアダムを誘き出すために、わざとドン・ゴーフルの影を作ってみるのはどうかな?」
「それは承りかねます。有用なのは分かりますが、ドンを危険に晒すわけには……」
 次いで行なわれたアステルの提案には、サチコは首を横に振る。
「ですが、私や皆さんがアダムの動きを追い切れなかったとしたら……その時は」
「わかった。そうならないように、頑張ろう」
 アステルは答えに納得したのか、そこで自身もクリーパーへの応戦へ向かった。

「安心しろ、一対多には慣れている――同族だから、というわけではないが、死なれては困るのでな」
 ゴブリアはドンを背に庇うように立ちながら、振り上げた得物を押し寄せるクリーパーへ叩きつける。
 するとゴブリアの得物がまとった光の塊が弾け、破片のように飛び散ったエーテルが数体の小型クリーパーへと襲い掛かった。
「ああ、誰も死なせねぇよ」
 御堂・秀哉もドンをいつでもカバーできる位置を保ち、クリーパーに対処していた。
 アダムが現れそうな影があれば、そこに太刀を突き立てておくことでアダムを貫けないかとも考えたが、戦場が数多の光源に照らされた現状では、アダムが渡れそうな影は周囲に無さそうだ。秀哉はタ・ロウの射撃の隙間を抜けてくる小型クリーパーへと、大太刀を振るった。

「大軍はむしろ囮、俺たちの気が緩んだ時が最も危険ですわ」
 バンビは、アダムの狙いは冒険者たちがクリーパーや原生動物への勝利を確信した隙を突くことにあると考えていた。
 いざとなればドンを突き飛ばしてでもアダムの投擲物から守らなければと、ノックス・マグナとともにドンの傍で警戒を強める。
「報告によれば影を渡る能力で長距離移動はできないらしいが……最悪は想定すべきだよな」
 クリエーナ・バーリフェルトは、仲間が移動することにより生まれる影や、空を飛ぶ鳥が地に落とす影など、刻一刻と変化する状況を、油断なく監視する。
 照明により影のコントロールができているとはいえ、戦場における配置は目まぐるしく変化するため、こうした懸念は必要なものと言えた。

「……妙な気配だな、まさか」
 索敵用のエーテルを森へ飛ばしていたルオが、マークした気配の中に他とは異なる動きを見せるものに気付いた。
 その気配は、がむしゃらに攻め寄せてくるクリーパーや原生動物と異なり、森の中にじっと息を潜めている。
「――アダムだ!」
 ルオが鋭く声を上げると同時、その気配の位置から、煌々と明るい戦場においても最大級の光が空へと打ち上がった――。

●
 空へと浮かんだのは、アダムの生み出した偽の太陽であった。
 眩く照らし出されたドンの背後、そして周囲の冒険者たちや木々の背後に、本来であれば影とも呼べないような、かすかな光の濃淡が生み出される。

「そうはさせません!」
 その光の正体が何であるかを考えるより早く。瞬時に動いたのが、シャロン・ラ・モリエールであった。
 シャロンの祈りにより、ドンを囲むように光の壁が形作られ、ドンに近づくための経路は完全に封鎖される。
「あと少し、あと少しでドン・ゴーフル殺せた……なのに、お前が邪魔をした!」
 その時、光の壁には到底届かない距離の、わずかに光の薄い地点――とでも呼ぶべき場所から、ついにフードを被った男が姿を現した。
 その男――アダムは、遠方からシャロンへ向けて三度、短剣を閃かせる。
「シャロン、危ない!」
 そこへ悠人・ラドルファスが割って入り、飛来したエーテルの刃のうち一つを受け止めた。
 しかし、連続して放たれた刃を全て受け止め切ることはできず、シャロンの肌に二筋の傷が刻まれる。
「私なら大丈夫……! 悠人様、いきますよ!」
「ああ!」
 シャロンの解き放ったエーテルにより力を得た悠人が、アダムに突進する。
 悠人はエーテルをまとわせた槍を勢いのままアダムの脚に突き入れ、その動きを阻害した。

「我が王の仰せのように突発的に生まれる影には注意していましたが、まさか偽りの太陽が浮かぶとは」
 クリエーナに付き従っていたルーウィン・ビナーが、渦巻く稲光を設置することで、アダムの偽太陽により生まれた影を再びかき消す。
 彼女らが鳥などの飛来物に気を配り、陣とその周囲に突発的に生まれる影を警戒していたおかげで、アダムは偽りの太陽と言う切り札を逃走ではなく侵入の為に切らねばドンとの距離を詰めることが叶わなかった。輝きの強さからみても、幾度も使える技ではないのだろう。結果としてアダムは冒険者たちの真ん中に現れることとなり、明らかに不利な状況となっている。
「逃がさないぞ、アダム」
 また、テテリカが相棒の大鼬の視界も借りつつアダムに向け放った矢には、発光するペンダントが括りつけられており、細かな光の濃淡もこれで潰される。
 これによりアダムは完全に退路を断たれた形となったが、アダムはこの状況下にあって、もとより逃げる様子を見せなかった。

「アダム……ドンを殺しても過去は変わらない――だが。共に生きることで、未来を変えることならできる」
「黙れ! アダムの欲しい未来、ドン・ゴーフルのいない未来、それだけ! お前もゴブリンならゴーフルを殺せ!」
 ナハティガル=ラーが三連撃でアダムを押し込みながら語りかけるも、アダムはあくまで突っぱねようとする。
「ドン・ゴーフル、ヒトとゴブリン混ぜた。アダムみたいなモノ、生まれた。殺す、殺す、コロスコロスコロス!!!」

「もはや完全に狂人のようですね」
 それを聞いたリコリス・アデュラリアは、アダムを止めるにはこの戦いに勝つしかないと悟り、呪いを込めたエーテルの糸をアダムへと飛ばす。
 それは蜘蛛の巣のようにアダムを絡めとり、回避行動を妨げた。

「これでも食らいなさい」
 影渡りの様子を分析しようと観察していたヴィルヘルミナがそこで近づき、アダムへと蒸留酒を浴びせる。
「ブワッ!?」
 サチコが炎で炙れば着火するかもしれない。アダムをフランベしたとして、美味しいステーキになる、というわけでもないが。
「今回は本物を護衛か、光栄だな」
 本物のドンを前に張り切るベルク・オスマットが、酒で一瞬目を潰されたアダムへと短剣で切りつける。
 すると短剣のまとっていたエーテルが、毒のようにアダムの体を蝕んだ。
「アダムの邪魔する奴、呪われろ!」
「うっ……!?」
 その時、アダムが口にした呪詛が形を成してベルクを絡めとり、その動きを完全に封じてしまった。

「やらせない――ドンも皆も、護ってみせるよ!」
 未知の能力にも怯まず、エルゼリオ・レイノーラが駆け寄る。祭刀の先から光を放ち、ベルクを縛っていた呪いを祓ってみせた。
 アダムが強烈な魔法攻撃で冒険者に傷を負わせても、エルゼリオがそれを癒すことで、戦線は立て直されていく。
 そしてアダムにも再生能力があるらしく、冒険者たちから受けた傷がいつの間にか塞がっている。
 アダムと冒険者たちとの戦いは、消耗戦の様相を呈していた。

「ゴーフル、見えた!」
 ドンを護る光の壁が崩れたのを見て、何かに弾かれるようにしてアダムが疾駆する。
「ボスが慌てれば動揺は全体に走る――その点、ドンは流石に動じないね」
 アダムの突き出した短剣を、バクル・バスリーが体で受け止める。
「ぐっ……やるね。でも今回のぼくは、盾であるとともに、矛でもあるんだ!」
 漆黒の闇をまとった短剣は、バクルの甲冑を易々と貫いていた。
 そのため即座に反撃とはいかなかったが、持ち前のタフさにより耐えたバクルは、お返しに大太刀の一撃をアダムに見舞った。
「バスリーさん、大丈夫ですか?」
 シルク・メイプルリーフが光り輝くエーテルの波動を放ち、バクルの受けた傷を癒すとともに、自らの体をもってして戦場を照らす光源となる。
 これにより、いよいよアダムの動きが制限された。
「テメェの憎い、ドン・ゴーフルの味方はここにいるぞ! さぁ来いや!」
 ハヤト=ガラン=ヴォルファングが啖呵を切りながら、アダムをクイクイと指で招く。
「バカにするな!」
 それを隙と受け取ったアダムが、ハヤトの胸に凶刃を突き立てようとした。
「うるぁ! こないだのお返しだ!」
 しかし、それはハヤトがアダムの攻撃を誘うための罠であった。
 ハヤトは上体を捻ってアダムの刃をかわすと、相手の突進の勢いをそのまま利用し、カウンターの膝蹴りをアダムの腹に叩き込んだ。
「かっ……!」
 これによりアダムはいよいよ膝をつき、そのまま地面に倒れ伏す。

「自爆手段などは……なさそうですね」
 レティシア・レインフィールがアダムに触れ、意識を失っているのを確認。
 必要ならアダムを治療することも考えていたレティシアであったが、再び大人しくさせるためにかえって苦しい思いをさせることになる可能性もあると、思い留まることになった。
 冒険者たちに囲まれてなお、ドン・ゴーフルの殺害に執着した男だ。油断はできない。
「なら捕縛の方向でいくわね」
 それを受けてザザが光の縄でアダムを拘束し、かくしてアダムは冒険者たちによって捕らえられた。

「……静かになったな」
 そして、なお煌めきに包まれた戦場で眩しさに目を細め、何も見えていないドンが、ボソリと呟きを漏らしたのだった。


【1】瘴気纏う腐緑獣の撃退 (執筆担当マスター:馬車猪)

●
 遠くから響く足音はゆるやかだ。
 木々の上から見えるモノ(巨体)も小さいままで、会敵まで時間がかかるかと思われた。
 もちろん勘違いでしかない。
 一歩進むだけで巨木が数本まとめて押し退けられ、真正面から押された木など端材か何かのように弾けて飛んでしまう。
 各国から選りすぐられた精鋭が、精鋭だからこそ敵の強さを理解してしまった。
「全く問題ありませんわ!」
 フローラリア・ネムス・ラミナは現実を理解し、心の一部では恐怖しているのに堂々と立ち向かう。
 瘴気纏う腐緑獣からは木の残骸が頻繁に飛んでくるが、これは攻撃ですらない(狙って投げている訳ではない)のでフローラリアの回避術なら回避することが出来る。
「計画通りにいきますわよみなさん!」
 白く輝く小さな雷の群れが、森の中にぽっかり開いた空間の端を満たしていく。
 巨大な脚が、木々を蹴散らし広場に侵入する。
 膨大な白蛇(稲妻)は、木々の群れより効率よく脚を引っ張り腐緑獣の速度を激減させた。
「あなた達は後退してください。バリスタは【喫茶】(私達)が引き継ぎます!」
 エルナ・クルプファルツの言葉に、ドワーフ達から反発はない。
 大きく目立つバリスタに迷彩を施すことで腐緑獣から見つかり辛くしたのはエルナだからだ。Alexandra・Hexe・Claudiaに伴われ、ドワーフ達は素直に後退していった。
(土煙で観測困難っ、旗信号も今は無理です)
 テレパスを使って情報をやりとりしながら、エルナはバリスタと共にそのとき(総攻撃開始)を待つ。
「前に出るな」
 サマエラ=フォリウムは前進しようとする騎士(ウォーリア)達を止める。
 格(レベル)に差はあっても現在の落ち着きでは圧倒的に上回るサマエラを、見るからに無骨な男達が戸惑ったように見る。
「ぶつかるつもりなら最高の状態とタイミング(HPMAXバフ山盛り)でぶつかれ」
 不運にも木の直撃を受けた騎士を治療する。
 ほとんど同じタイミングで、膨大なエーテル(レゾナンス・オブ・ヴァロー)による長時間(50秒間)のバフ(能力向上)が騎士全体に施される。
 おお、と感嘆の声が人数分生じるが超巨大クリーパーが出す音が大きすぎて声はほとんど届かない。
 術行使を終え治療に向かうトゥーリの背に、バフの恩恵を貰ったフィルエス大森林弓兵隊が小さく礼をしていた。
 霧が生じる。
 雷嵐の準備が始まったのだ。
 無数の稲妻(アーケイン)とは明確に棲み分けが行われていて、ここが戦場でなければ見て楽しい娯楽だったかもしれない。
「墜ちろっ、象ワニ野郎ぉぉぉっ!」
 天眼(俯瞰視点)を持つパヴェル・A・サムルガチェフが攻撃の合図を出す。
 腐緑獣へバリスタを向け、ドワーフから教わった通りの操作で必殺の矢を撃ち出す。
 ほとんど時間差無く放たれたバリスタ矢が、異様に強固な鱗と肌に4分の1ほどめり込んだ。
「怯むな。奴は殺せる」
 フェイサル・セイフが光の六角柱を地上に呼び出す。
 全長20メートルに達する腐緑獣を封じるには全く足りないことは承知の上だ。
 【喫茶】を含むバリスタ隊への進路を邪魔する形で呼び出す。巨大な脚(物理攻撃)が無造作に蹴飛ばそうとしたが、六角柱には何の影響も与えられなかった。
「なんと」
 突撃を敢行せんとしていた騎士たちが感嘆の声をあげる。
 しかし敵の攻撃はまだ始まったばかりだ。巨大な首の1つが何か(腐食の波)を吐き出す。
 生命に満ちていた森が、腐緑獣を中心に直径50メートル以上腐り落ちる。
 高位の授恵者でも耐えられるかどうか分からない、異常な攻撃だ。
「大自然の草木や水を腐食させていくクリーパーなんて絶対許せない!」
 ニーラ・メッコが怒りを理性で抑え込んで仕掛ける。
「こういうのは頭が弱点って相場が決まってるのよ!」
 魔錆を使った後即座に攻撃に移ろうとするが、大森林弓兵隊の方が一手分動きが早い。
 引き絞る力、長年研鑽した技、強力なエーテルの全てが揃った狙撃が、弓隊の人数分腐緑獣の口(腐食の波の源)を襲う。
 弱体後を狙った掃射は有効だった。「続けろ」と短く告げた弓隊の隊長がニーラに黙礼。評価されたとみるべきか、ニーラは戸惑いながら、「ありがと」と呟いた。 
「並みのスタティックフィールドでは効かないっ」
「アーケインを張り直せ!」
 雷嵐の準備のため足止め策が制限されている。
 足りない分はバリスタが補う。
 バリスタ用の矢が巨大な首をかすめ、それまで戦闘という意識すらなかった腐緑獣が少し警戒を始めた。
(上に2メートル、左に3メートル、ずれた……)
 実績の割に非常に弱々しいティトの口調(思考)がセロンガード・シュタインドルフに届けられる。
 砂埃と腐食の気配に晒されながら、セロンガードは返信の時間も惜しんで再装填と照準を行う。
(目標が移動を再開……向きは手前やや右より、目標の高度は、同じ)
 ティトはセロンガードを信じて観測手(スポッター)に専念。
 射撃の精度は急速に向上し、開閉する口腔への攻撃が時折成功するようになった。
「ハッタさんここだめー!」
 地獄そのものの戦場でもユネスコ・ビスコはあざとかわいい。
 【レッドパンダ】の仲間であるハッタ・ムラムラには通じないが、照準を合わせた体勢のユネスコを抱き上げ次のバリスタに運ぶ手つきは優しい。が、周囲の状況は苛烈で顔つきも必死だった。後方から、腐緑獣が蹴り上げた木が放物線を描いて飛んでくる。
 ハッタの体力でも運べないほど重く頑丈で固定式でもある兵器が、安価な玩具であったかのように貰い物の迷彩ごと叩きつぶされた。
「頭は狙えるか」
 赤頭巾(ユネスコ)をバリスタの側に下ろし、ハッタは矢の装填に専念する。
 腐緑獣の射程は予想より短く、後方のバリスタを使えば近づかれるまでは安全だ。
「次は外しませんよ」
 ここまでの戦いでバリスタの癖は知った。
 着弾観測に不安はあるが、仲間(ハッタ)もいるから大丈夫だ。
(そろそろカマしてくれよ神官さんよぉ)
 口に当て、首に当てる。
 時間を稼いでいる実感はあるものの、敵が頑丈すぎて軽い手応えしかなかった。
「逆に今まで見つからなかった方が不思議ってぐらいの図体じゃあないか」
 エリザ・A・ミシャールは重力波のエーテル力場付きの矢を放つ。
「そうね。術も長くは効かないでしょうけど……それなら適切なタイミングで使うだけよ」
 ミツキ・アインホルンは魔錆を使う。
 どちらも飛び抜けて高度な技ではなく、本来なら超巨大クリーパー相手に通じる術ではない。
 が、2人の圧倒的な付与能力が超巨大クリーパーの抵抗を打ち砕く。
 腐緑獣の動きが乱れ、頑丈過ぎる鱗が明らかに脆くなった。
 シグモル神官達が顔をあげる。
 極度の集中で虚ろとなった瞳が空を見上げ、霧を通してうっすら注ぐ光が血の気の退いた顔を照らす。
 空高くの雲が捻れて一点に集まり、内部に巨大な稲妻を発生させる。
 地上の騒音をかき消すような轟音を伴い光が落ちていく。
 一条の光が、空から見れば非常に小さなもの(腐緑獣)に突き刺さった。
 桁外れのエネルギーが鱗を焼く。
 その威力は分厚い皮膚を貫き肉を裂くに十分で。
「っ」
 殺気が吹き付ける。
 エネルギー不足で食欲にのみ従っていた超巨大クリーパーが、授恵者(小粒なおやつ)が不遜にも反抗してくる敵であることに気付く。
「神官を下げろ、すぐにだっ」
 疲労しきった神官隊が後退。
 代わりに前進する冒険者達と、神官を追う巨体が真正面から激突した。

●
 【首妨】の目的は一貫している。
 とにかく腐緑獣の首を邪魔する。
 その結果として他の冒険者や騎士隊を活躍させる意図はあるが、最優先は首の妨害だ。
 稲妻の園(アーケイン)を踏み越えた超巨大クリーパーを、ロウトフェダーが準備した灰色の煙が出迎える。
 腐緑獣には冒険者が視認出来ず、その攻撃が非常に見づらい。
 そして、腐緑獣はその巨体ゆえに、被弾は多い。
「大雑把な奴だな」
 混乱させるために準備して来た罠に頓着しない腐緑獣に、ロウトフェダーが苦笑。だとすれば、こちらを認めたこれからが正念場だ。
 腐緑獣の頭が2つ、大きく口を開いた。
 これまでより開き度合いが大きく、矢が口腔に当たる数が激増するが閉じようとしない。
 煙の脅威に直感的に気付き、全力で吹き飛ばそうとしていた。
 轟音が空気を揺らす。
 膨大な生命を誇る騎士隊が一気に不調に襲われる。
 が、音で耳が痺れた冒険者の中で、状態異常に陥った者は驚くほど少なかった。
「咆哮の射程は弓やバリスタの射程よりずっと短いようです。射程外なら耳栓の必要もありません」
 楓月・千弦は【喫茶】の発案で事前に配られ装着していた耳栓を外し、射撃に集中する。
 少し薄くなった煙へ咆哮が放たれてはいる。
 千弦には影響はないし近くの冒険者の声なら辛うじて聴き取ることが出来る。
「首を自由にさせるな。騎士隊の回復まで時間を稼げ」
 レヴァーレ・クアルムは危険をおかして腐緑獣に近づいている。
 ぎりぎり攻撃術が届く範囲は、敵にとっては前進すれば強烈な咆哮(超広範囲行動阻害)が届く距離だ。
 しかし今が踏ん張りどころだ。【首妨】の一員として貴重な時間を稼ぐ。
「動くぞ、東だっ」
 腐緑獣が猛然と駆け出す。
 全身に刺さった矢が邪魔でも、もともとの歩幅が非常に大きいので速い。イデアが張り直した稲妻の園(アーケイン)があっても煙の範囲から逃れる寸前までいく。
「逃がすものか」
 サロが濃煙炸弾を打ち込む。
 腐緑獣の目に確実に当てるほどの超絶技量はないが、敵が煙の中心になるよう打ち込むには十分だ。
 サロの濃煙炸弾はこれが最後。しかし薄煙炸弾も多数準備してきているので同種の戦術を継続可能だ。
 ポコ・アルデバラッドは目(超視覚)を活かして引き撃ちで眼球を狙っている。
「中央、眼球、特徴なし」
 飢えの極限にいるはずなのに、腐緑獣の頑丈さは驚異的だ。
 ポコは貴重な情報を集めた上で味方に伝え、同時に煙の維持に尽力する。
 濃煙炸弾はまだ尽きない。
「大きいですね、成長期ですか」
 イデアも巨大首に術攻撃を行い注意をひきつける。
 体勢を立て直した騎士隊が、ようやく突撃の準備を整える。
「皆様どうかご無事で」
 イデアが最後の大規模術攻撃を行う。
(後は私は程々に頑張るとします)
 十分な支援を受けた騎士隊は、ようやくその実力を発揮する。
 真正面から腐緑獣と激突。
 力で勝る腐緑獣がじりじりと押してはいるが、前方(騎士隊)に意識を集中しているため左右と後ろは隙だらけだった。

●
「忍ぶのやめたシノビがうちや。派手にいかしてもらうで」
 敵に複数方向への対処を強いるロウランの方針は最適解だった。同時に最も厳しい箇所を受け持つ騎士隊への援護にもなる。
「これでムキムキや、ほないくで」
 サークルプロテクション、堅甲、輝刃と攻防両面への支援が【4区】の仲間に対して行われた。
 腐緑獣の尻尾に斧の間合いまで近付くと、いつ落ちてくるか分かれない巨大浮遊物にも見える。
「ここで倒れろ!」
 十分に強力なエル=バ=ノイアンの一撃でも、鱗の1つに凹みをつけるのが精一杯。
「スヴァン、任せたぞ」
 だがそれでも構わない。
 状態異常(物防低下)が防がれたとしても、同じ場所を狙えば効果はある。
 これほど大きい敵だと狙い易いのだ。
「任された」
 準備完了までカバリングに徹していたスヴァン=ウォルフ=ユーウェンが、文字通り全力を振り絞り一撃を与える。
 凹みは亀裂に変わり、しかしスヴァンは戦果を確認する前に大きく飛び退いた。
 腐緑獣が体を震わせる。
 尻尾が無意識に動き、寸前まで【4区】がいた場所を小さな崖じみた形に抉り取る。
 騎士隊と共に突進したアスカ・タチカゼが、腐緑獣の脚の先端を痛打する。
 これは撤退のための準備だ。
 【4区】が素早く後退したように騎士隊も引くか進むか選ばないと、斜め上からの体当たりでまとめて巨体と地面でサンドイッチだ。
 天眼を持つアスカに僅かに遅れ、状況を把握した騎士隊が動き出す。
「させねぇよ」
 集団の端が避けきれないかと思った刹那、カルフ・オルヴォの斬撃が巨大な向こう脛を削る。
 痛みと衝撃が超重量の進路をねじ曲げ、騎士隊すれすれに地面に直撃して激しく揺らす。
 咆哮が1つ。
 文字通り頭上から巨大な頭が襲ってくる。
 辛うじて受け流したがダメージは大きい。耐えた騎士が反撃を試み、窮地を脱した。
「咆哮が止まりましたか。騎士の皆さん、調子が悪い方は? すぐに治します」
 ドローミは素早くサルベーションを駆使して治療を行う。2人直した時点で【兵】仲間の援護に回らざるを得なくなる。
 敵の攻撃力が高すぎるのだ。
(レゾナンス・オブ・ヴァローの効果時間が終わる前に……難しいですか)
「いい加減その首おいてけやぁぁぁぁ!!」
 温存していた技をケン・Z・ブラッドリーが絶妙のタイミングで使う。
 騎士隊を一気に攻め潰そうと焦って伸ばされた首が、眼球の至近を切り裂かれてぶるりと震えた。
「これを耐えるかよ」
 ケンは騎士達と違って切り込むタイミングに迷いがない。
 大型のクリーパーとの戦闘経験という点では、国外に出た事のない騎士隊を上回っている。それを見て取った騎士隊は、この戦いにおける自分たちの役割を盾と定めた。
「勝てば良かろう。クリーパー相手に名誉も糞もあるか」
 ゴールディまで派遣されてくるような(厄介ごとを押し付けられ慣れた)騎士達らしく、思考が柔軟なようだ。
 紫電一閃。
 複数のバフデバフと戦士の一断まで組み合わされたアルベルト=V=シュタールシュヴェーアトの斬撃が象鼻と頭部のつなぎ目を抉る。
 並のクリーパーなら即死確実な威力があるのに、恐るべき(超巨大)クリーパーは部位欠損にすらならない。痛打ではあったのだろう。腐緑獣の憤怒の声が響く中、月の援護を受けながらアルベルトも思いきりよく後退。
 騎士隊と息をあわせて【兵】が腐緑獣から距離をとった。
「一番被害を受けるの(騎士)は誰? あなたね」
 アルト=ミルドレッド=バ・ロッサは、怒っているような態度で堅甲を使う。
 やっていることは死から遠ざける必死の努力なので、感謝の視線を向けられてしまい態度が険しく(ツンツン)なる。ごまかすように視線を逸らして敵へと目を向けた。
(弱い場所が……ない?)
 目が良い(適切なスキル複数)のアルトですら見つけられない。
 少し弱そうなのは口内だが、牙と噛みつきの強さを考えると近接攻撃で狙うのは危険過ぎた。
「む」
 グレイ・ナックラーの沈着冷静な態度が驚きで崩れる。
 運良く、魔錆が腐緑獣の抵抗を抜いていた。
「アスティン、急ぐのじゃ!」
 とっておきのフレイムゲイズを使っても牽制にしかならず、だが今は1秒でも時間が欲しいのでこれでいい。
(目的地はバリスタ隊。何か言われても手紙を渡すのを優先)
 アスティン・ヴェルラインにリンクを介して命じられた狼が凄まじい勢いで駆け出す。
 混戦ゆえか、ペットの狼は、腐緑獣の注意を惹きつけ辛い。アスティンの予想をこえて迅速に、バリスタを担当する冒険者達に情報が届く。
 地上に伸ばされていた3つ首のうち1つが持ち上がりきょろきょろと周囲を見渡す。
 知性は薄くてもこれまで異界で生き抜いてきた勘はあり、異常に気づく寸前だ。
「隙だらけですよ!」
 首が1本減れば防御も攻撃も手薄になる。
 騎士隊と【兵】前衛陣と共に再突撃したフリーダ=ブロムヴィストが残った首の片方に手傷を負わせ、反撃の首アタックを見事に盾で防ぐ。
 苛立った3本目の首が地上近くに戻り、騎士隊が迎え撃つ。バリスタへの警戒は完全に消えた。
「来るぞ!!」
 授恵者が伏せる。
 当たれば高位授恵者でも危ない巨大矢が次々頭上を通過する。
 ようやく気付いた3つ首が、これまでとは一線を画す速度で払い、防ぎ、耐える。
 相変わらず傷は薄い。
 しかしまるで息をきらせたかのように、首の動きが鈍り超巨体のあちこちの筋肉が小刻みに揺れた。
「エーテルが足りていない?」
 キャスターらしくエーテルの扱いに一家言あるアウレーリア・フォン・ネーベルベルクが気付く。
 瘴気纏う腐緑獣は、戦闘の途中で食べるつもりだった餌(授恵者)を1度も口に出来なかった結果、生存に必要なぎりぎりまでエーテルを消費してしまっていた。
「範囲攻撃が来るわ!」
 天地から集めたエーテルに自身の生命を加え、腐緑獣が吐き出す腐食の波ごと巨大頭部を狙う。
 アウレーリアの炎は、強酸性の唾液と腐食性のガスを一部燃やしはした。
 しかし冒険者を庇って矢面に立ち大ダメージを負った騎士隊が、敗走に近い後退を強いられたのだった。

●
「やっぱり象さんは3つあればいいってもんじゃないわね」
 戦闘に集中している状態でも、イーヤ・レプリスの色香は非常に目立つ。
 人生の全てを鍛錬に費やしたような脳筋(騎士)には特にだ。
「はーい、集まって頂戴。完全に回復するには少し時間がかかるわよ」
 イーヤの治癒術(ヒーリングオーラ)は強力。しかし騎士の負傷はそれ以上に深刻だった。
「わたしも手伝いします」
 射手がドワーフから冒険者に代わったバリスタ隊から、騎士隊の状況に気付いたファーシル・クリスティアがやって来る。
 冒険者としての経験は浅いがヒーリングオーラによる全員同時回復は有効で、それ以上に有効なのはサルベーションによる状態異常回復支援だ。
「助かった……」
 腐緑獣により絶不調に陥っていた騎士が深々と頭を下げる。
「やはり持久戦になってしまったか。いけるかい? よし!」
 ナタリア・フィッツジェラルドがレゾナンス・オブ・ヴァローを使う。
 戦術に大きな問題はあっても個人としての能力は高い騎士達の生命力は、現時点の冒険者では到達不能な域に到達する。
「いくぞ!」
 冒険者の支援を受けた騎士隊が、驚くべき短時間で戦場へ舞い戻った。
 彼らの援護を得て、冒険者たちも再び前進を開始する。
 それを迎え撃つように。腐緑獣が後ろ足で立ち上がった。全体重を使った打撃を意図したのだ。
 外れても地震あるいは地盤崩壊でこの場の人類全滅の確率が大である。
「うぬう、騎士よ、命を捨てるときは今ぞ! はあああああ!」
 隊長の指示の元、騎士達が何やら代償の大きそうな防御手段をとろうとする一方、冒険者たちは工夫で打開策を講じた。
「これしかありませんか」
 極めて高度な付与術で行使された神霊達の腕が腐緑獣に弾かれるのを見て、ユークリア・フィナンシェが超巨大尻尾の至近に光の柱を置(・)く(・)。ようやく、有効に設置できる位置まで近づけた。
 動きの起点(尻尾を振り勢いをつける)が封じられたクリーパーが、移動はもちろん攻撃の精度を激減させた。
「何をぼうっとしている! 彼女の行動を無駄にするつもりか!」
 そう呼びかけるアルフレッド・エルグランドは、巨獣が身動きするだけで飛んでくる石や土塊を防いでいる。
 万一のときはカバリングで首や脚に割り込むつもりだ。
 奥義を放たずに済んだ騎士隊も盾を構えつつ、ユークリア達【喫茶】の前進を援護する。
「奴は魔法攻撃を使わないようですね。残り15秒」
 キーゼは尻尾を挟んだ反対側に光柱を建てる。
 柱の高さは20メートルある。
 腐緑獣の尻尾はどちらかといえば不器用であり、2本の脚しか使えない状況では柱の間から引き抜くのは不可能だ。
 人類にとってのピンチであると同時に、最初で最後の好機であった。
「ユークリアがつくったチャンス、逃せないでしょ!」
 レシュノルティア・ピオジェレラは左の首を執拗に魔弾で狙う。
 眼球などの重要な部位はなかなか狙えないが威力が強烈で、腐緑獣が左脚や尻尾に集中出来なくなる。
「行げぇっ! ごごで決めるんだぞぉっ!!」
 カンナ 三木はサークルプロテクションを展開する。
 対象が個人ではなく範囲なので、大勢がいる戦場での効果は絶大だ。
 さらにカンナは一度の援護では満足せず、堅甲を尽きるまで延々と行使する。
 ここで退けば体力と移動(速度)が回復した腐緑獣に追い付かれ踏み潰される。
 出し惜しみなど、絶対にするつもりはない。
「畜生かすめただけで即死だぞこれっ。危なっ」
 シニング・W・テュパラはフェザーステップによる一撃離脱を徹底していた。
 敵の動きに巻きこまれたら圧倒的重量差により即死確実。
 移動時に壊れた地面の破片を受けるだけで危険だ。
 カメリア・ローレンスも一撃離脱で左脚関節部を狙っている。
 テュパラ同様ダブルエッジによる手数増加は有効だ。関節部に積み重ねたダメージは決して小さくはない。
「仕掛けるわ。一旦離れて」
 離脱後衝撃刃による攻撃に切り替える。
 手数が減りダメージも減るが、次の攻撃には絶対に必要な行動だった。
「これが……敵」
 英雄譚ではなく神話がふさわしい敵を前に、イヴェール・イリュジオンは緊張しつつも剣と盾の構えは乱さない。
「緑と土地を汚しに汚して……」
 全ダマスカス鋼製の鍬(・)と盾を構えて憤怒を顔に浮かべるハリス・アル・ターミル。
 加速は同時。
 膨大なエーテルと共に、盾を先頭に両者突っ込む。
 威力も強大だがそれ以上に強烈なのは衝撃だ。後ろ脚で立ち尻尾を封じられるという不安定な腐緑獣に致命的な影響を与える。
 つまり、2つしかない支えのうち1つがズレた。
 揺れる。揺れる。揺れる。
 右脚に集中した重さに地面が耐えられず、土を巻きこみ超巨大な体躯が地面へ沈んでいく。
 地面の上でなんとか安定しようとした左脚を、ドラゴンチャリオッツを使うウォーリア2人が追いかけ被害を覚悟しひたすら叩く。
 腐食ブレスはイヴェールが盾で防いでハリス・アル・ターミルが刺さったままのバリスタ矢を押し込む。
 骨まで響く痛みに苛まれ、腐緑獣は地震を引き起こすのを諦めた。
 前脚を落とし4つ脚に戻ることで安定を取り戻そうとする。
(今よ)
 マリイ・パルティスにエーテルリンクで命じられた狼が、バリスタ隊のもとで派手に動く。ほぼ同時に、アスティンの狼が吼える声(合図)もうっすらと響いてきた。
 数秒後、立ち上がった結果剥き出しになった腹に次々バリスタ矢が命中し半ばまでめり込む。
 執拗に眼球を狙うマリイの矢のせいで、回避も防御も成功率が落ちていた。
 腐緑獣は慌てて前脚を下ろす速度を上げた。
 戦闘開始からこの時点まで、エミリア・シバは腐緑獣の攻撃、移動、およびその予備動作をしっかり見て記憶してきた。
 だから今の大きな動き(前脚振り下ろし)も、いつ終わるか、どの時点でどの位置にあるか予測可能だ。
「後2秒!」
「は……い」
 控えめを通り越して陰気な態度ではあるが、ラティア・ミゼリアの矢を射る姿勢は伸び伸びとして美しい。
 ここまで温存してきた濃煙炸弾を、3つ首を巻きこむ位置で炸裂させる。
「足がついて歩くんだったら世の理に従ってコケるのもできるよねっ!」
 アリア・ティーダが光の六角柱をエミリアの指示に従い建てる。
 全高20メートル。
 首の行動を制限するのに十分な高さであり、勢いがついた状態で右脚をぶつけられても壊れない頑丈さがあった。
 超巨体の平衡が崩れる。
 それは良いのだが、このままでは横回転して一部冒険者とカバーに入った騎士隊が潰れかねない。
「ローリング阻止っ、お帰りくださいませぇ!!」
 【百花】の策はララノアの光縛封により完成する。
 いくら重くても物理攻撃でしかない胴が新たな光柱にぶつかりそれ以上進めず、攻撃ではなくただの自滅として、瘴気纏う腐緑獣が地面に叩き付けられる。
 後ろの左脚が不自然な向きに曲がる。
 脚1本が邪魔者になった結果平衡が完全に崩れ、3つ首の高度が下がった
「み、皆様……えっおー! にございましよ!」
 ララノアの言葉が総攻撃の合図となった。
 騎士隊はもはや戻ることなど考えない。
 文字通り全ての力を振り絞り、真正面から3つ首に挑んで押さえ込む。
 直後に3つ首の口全てから噴出した腐食の波(ブレス)により凶悪な毒(スリップ)を受けるが己の身を盾に後方への浸透を軽減した。
「さぁ僕の為にいっぱい傷ついて来てくださいね!」
 ギーゼラの言葉は残酷だがやっていることは反対だ。
 ヒーリングオーラが騎士達の生命をぎりぎりでつなぎ止め、騎士達の筋肉で振るわれる得物が巨大首を痛めつける。ダメージを嫌ったのか、首は頭上へと逃げた。
「なんとまあここまで頑丈とは」
 シルヴィア・A・カペルは、何度目かになる尻尾から生えた棘への攻撃を終えて結論を下す。光縛封による阻止もそろそろ切れる。これが最後の機会だ。
「あれでいこう」
 シルヴィアは攻撃から治療(ヒール)に切り替え【尾切】の仲間へ合図を送る。
 煙の中から海神・江流が現れる。
 場所は尻尾の付け根。
 ここは硬くもないが脆くもない。
 完全に不意打ちに成功したタナトスバイトでも、十数センチの切れ込みが入っただけだ。
 江流は予定通りに、目立つ色のインクを傷口へぶちまけた。
 騎士の献身にギーゼラのレゾナンス・オブ・ヴァローと解呪による支援があるとはいえ腐食の波の影響は甚大だ。
 自身の鼻や口の防御が甘かった者達は到着と攻撃開始が遅れる。
「ここ……そこですか!」
 戦闘開始直後から戦い続けているガルシアが、スキルを使い尽くしてもまだ使えるエーテル刃を振り下ろす。
 ゴブリンのロード種に相応しい威力と精度であり、インクで目立った傷が大きく広がった。
「王国の、まだいけるな?」
 返り血と自身の血で染まったサイラスが騎士達を煽る。
 種族が違っても通用する威風(カリスマ)があり、半死半生の脳筋達が不敵な笑みを返す。首には逃げられたが、サイラスが狙う尻尾へ目を向けた。
 サイラスも笑みを浮かべて闘気槌を使う。
 尻尾を広範囲に叩く一撃は、インクの残った箇所の傷をさらに深くした。
「Ahhhhhhh!!」
 ヨル・スレイマンのヒールは既に空だ(残弾0)。
 残った力を攻撃にまわし、眩く輝くエーテルで得物を光らせ巨大な尻尾を狙う。
 巨大すぎる腐緑獣もさすがに尻尾が狙われていることに気付くが、煙が晴れたことで光に気をとられてしまった。
(届くか?)
 ナハシュの攻撃に問題は無い。
 ヨルと組んだ連携は成功し、死角からの一撃(タナトスバイト)で傷口を深く広くするだけでなく追撃まで行っている。
 が、敵は頑丈過ぎる。
 傷が中心近くにまで達している尻尾は動きこそ多少鈍ったが、まだまだ元気だ。邪魔な光縛封が消えた今、受け止める役を買って出た騎士達に余裕はない。
「荒事は得意ではないのですが……」
 ガレシアス=エルムートは尻尾に立ち向かう【4区】のメンバーとは別の形で戦っている。
「特性練金薬です。どうぞ」
 50メートル以上離れた場所から魔錆(物理防御低下)。
 この戦場に使い手が数人いるのが幸いした、極めて高度な付与術による支援だ。
「ハーヴィ、あんまり無理するな。後ろにいるんだぞ」
 一歩分位置選択を間違うだけで死ぬ戦場で、クルタルがヒーリングオーラを展開して味方の傷を治療する。
 既に息は切れ、極度の疲労で目が霞む。
 それは腐緑獣も同じで、傷以外の理由(エネルギー不足)で判断速度も力も衰えが隠せない。
 ハーヴィは自らのエーテルを燃やして魔力を増幅させる。
 超巨大クリーパーの抵抗を貫通出来ないなら力(魔法)で対抗するだけだ。
「当たれぇっ!」
 通常のクリーパーなら絶命する威力の魔弾が、傷口を焦がす戦果にしからない。
 それでもハーヴィが諦めず藁(攻撃)を積み重ねる。
 ハーヴィが諦めないならクルタルも退かず、ぼろぼろの授恵者達を支え続ける。
 後に綿密な調査と検証が行われたが、どれが最後の藁だったか分からない。
 確かなのは、冒険者の攻撃により突起だらけの尻尾が動かなくなったということだけだ。
「今、怯えたわね」
 愛らしい少女の容貌に残酷な微笑みが浮かぶ。
 危険を承知の上でスキルを温存してきたヴィノニスが、試行回数で抵抗の高さを打ち破ろうとフリーズボルトを連打しスタティックフィールドを使う。
「?」
 まだ手応えはない。
 けれど見た目よりずっと経験を重ねたヴィノニスが驚く光景が、目の前に広がっていた。
「尻尾切り?」
 まるでトカゲのように。ただの重りと化したトゲ付き巨大尻尾が地面に落ちた。
 本体によって切り離された巨大な筋肉が、そこに残る最後のエネルギーまで使って激しく暴れ始める。
 頭がないので狙いは甘く、けれど力と速度と頑丈過ぎるトゲが邪魔過ぎる。
 移動を開始した腐緑獣を追撃するには、大きな損害を覚悟して尻尾を排除するか、大きく迂回して追うしかなくなった。
「あら」
 しかも攻撃を受け止め続けていた騎士隊がもう限界だ。
 前のめりに倒れ、呼吸すら怪しげな者までいる。
 不自由な左後脚をひきずり腐緑獣が森の奥へ戻っていく。
 飢えに苛まれたソレは酷く鈍く、しかしまだ戦う力を残している。
 だが勝ったのは人間だ。冒険者と各国の精鋭による、勝利の雄叫びが響いていた。


(監修:アルパカコネクト運営)

マスターコメント

【大変動】決戦シナリオ、お疲れさまでした! どの戦域においても、綿密に練られたプレイングと適切なスキルのセッティングが多数見受けられました。 結果は大成功です。 ご参加いただきました皆様に感謝申し上げます。 「特別褒章一覧」とエピローグノベルも更新しておりますので、TOPまたは連動特設ページからご確認くださいませ!
決戦シナリオ

決戦シナリオ非常に難しい 報酬:多い161 / 1〜9999人

2021年05月20日 13時48分26秒 公開

大成功

参加者

相談掲示板

  1. トーラ

    シーフのトーラです。 よろしくお願いします! なんだかここもいろいろ問題が山積みですね…。 ホワイトライフやレッドブーツの人も、このタイミングでドンさんが暗殺されたらゴールディが大変なことになるのが分からないんでしょうか。 上手く説得してこの場だけでも協力してもらえないかとも想うんですけど。

  2. シファー・アルムグニー

    キャスターのシファーだギャ! レベル低いから戦力にはならないのと、同じ釜の飯を食った古ゴブが心配だから、【2】で保護されてる古ゴブと白蛇の護衛と避難誘導に回ろうと思ってるんだギャ~。 ドンも気になるけど…シファーだと弾避けにしかなれない気がするんだギャ…あう。 んギャ~! あっちこっちえらいこっちゃ~!

  3. ギャメル

    ヒーラーのギャメルだ。よろしくな! ……ついにこの時がきた! 【3】でクリーパーを排除しつつ、アダムの【影渡り】妨害にエンライトで影を消すっていうシンプルな行動を予定してる。 今のところオレ一人だが、複数人で力を合わせたいって思ってるぜ! いっしょに戦いに来てくれるとめっちゃうれしい!

  4. ハヤト=ガラン=ヴォルファング

    おーっす! ブレイブファング傭兵団のハヤト=ヴォルファングだ、よろしくな!! 今回もメンバー募集させてくれ!! チーム【勇牙】では【3】ドン・ゴーフルの護衛で『アダム』の野郎を返り討ちにしてやる予定だ! 一度戦ったが、あの野郎は影から影へ移動する特殊能力で奇襲と回避が得意な印象だな。 【3】に向かう別チームからの連携相談なんかも歓迎だ! 俺の第2の故郷でもあるゴールディのピンチを一緒に救ってくれると助かるぜ! 別のエリアで戦うみんなもよろしくな!! https://alpaca-connect.com/world/world0/community/BL95hacTWpq5LK1hh5pn

  5. エル=バ=ノイアン

    ぉ…[張り上げるほどの声がない] 決戦…死なない程度にやらせてもらおうか。 戦域【1】にて継戦支援をするつもりなんだが、そこで防御バフが撒けるヒーラーの手を借りたい… 興味のあるやつはこっちまで来てくれ。よろしく頼む。 https://alpaca-connect.com/world/world0/community/5YzI0W4ADvjpltp7CkBo

  6. ロゼット

    ヒーラーの神官ロゼットよ。「【2】前線キャンプ防衛」で、 またタグを使った協力者を募集しようと思うから、 興味があったら決戦シナリオ相談場までよろしくね。

  7. ルチル・プルメリア・グレイハーツ

    情報屋のルチルだ。 【4】で白蛇と古ゴブリン達の治療と保護に向かおうと思ってるよ。

  8. ロイ・アウレア

    シューターのロイ・アウレアです。 【睡狼】でも【4】で古ゴブリンと白蛇の保護へ向かいます。 手分け・共闘・同行と募集してますので宜しかったら 【大変動】決戦シナリオ相談場の戦域の【4】相談用スレッドで打ち合わせましょう。

  9. No.10

    サイラスだ、よろしくなー。 とりま数人と一緒に【1】に行く予定だなー

  10. イーヤ・レプリス

    ヒーラーのイーヤよ、よろしく。 とりあえず【1】を予定してるわね。 回復してるわ。

  11. アルベルト・V・シュタールシュヴェーアト

    ウォーリアのアルベルト=V=シュタールシュヴェーアトだ。 よろしくな。 【1】に行く予定だが現在、ウォーリアを募集しているパーティーを探しているところだ。 俺で良ければ誘ってやってくれないか?

  12. ケン・Z・ブラッドリー

    ウォーリアーのケンだ よろしくな 選択肢【1】でパーティー【兵】を率いて参戦するよ もし所属先とか探してる一はやる気がある人は歓迎するんで俺のところで一緒に暴れないか?

  13. アーシェル・G・クライン

    ウォーリアのアーシェルだ。 よろしく頼む。 【綺譚】4人は選択肢【4】に行く予定だ。 同じ行き先の奴等も他の戦域に行く奴等も武運を祈ってるぜ。

  14. フリューリングスルフト=ティエラ

    こんばんは! うちら【赤翼】は選択肢【3】でクリーパーの排除に向かうよ!

  15. アウレーリア・フォン・ネーベルベルク

    そう言えばこっちで挨拶していませんでした。 キャスター、アウレーリアよ。宜しく。 行き先は【1】を予定しているわ。

  16. マタリキー・T・ヒーロー

    どうもす、マタリキーす。【2】にお邪魔させていただくことになりましたす。よろしくす。

  17. クー=ウィッシュ

    微力ながらクーは【3】に協力させてもらうよ。

  18. ユークリア・フィナンシェ

    チーム【喫茶】は1で大ボスを後ろから攻撃する予定です! 宜しくお願いします!

  19. ザザ=ステルヴィナ

    ザザ=ステルヴィナよ。今回は【3】でクリーパーの対応に向かう予定。 ご一緒される方達はヨロシクねん♪

  20. ガレシアス=エルムート

    PT【4区】では開幕敵の周囲に左右からサークルプロテクションを置く予定です。2ラウンドのみですが敵左右正面をカバーしますのでお役立てください(PL:他の参加者さんでタイミングや範囲が被ってしまっていたら教えてください)。 他は回復やデバフ・バフなどの支援がメインです。よろしくお願いいたします。 …明日の12:00出発ですね。白紙提出は勿体無いのでお気をつけくださいますよう。

  21. ナタリア・フィッツジェラルド

    ナタリア・フィッツジェラルドだ。行先は【1】の予定だ。 持久戦というなら、ヒーラーは入用だろう。

  22. エルゼリオ・レイノーラ

    ヒーラーのエルゼリオ・レイノーラです。 最初は【4】に行く予定だったけど、【3】のクリーパー対応が少ない様に感じたから、 【3】に移動するね! 戦線維持の為に戦場を移動しながら回復や支援をするつもりだよ。

アーカイブ生成日時 2026年08月05日 14時56分25秒 ・ world0