【帝国】決戦:枯朽の秋
アルパカコネクト運営
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シナリオID:1535
オープニング
「土地を喰いながら移動しているような連中だ。分散せざるを得なかった、という事だろう」
生産性のないのがクリーパーだ。一か所にまとまっていては飢えてお互いを食べねばならない状況も起こり得る。バラバラに南下してきた群れは多くが冒険者によって打ち払われたが。
「ヴィントに本体が迫る時期と、村や町が襲われる可能性の高い時期が近い。それ故、我々は戦力を分けねばならない」
戦略的に狙っている訳ではないだろう。単に、空腹に耐えかねて手を伸ばすタイミングが重なっているというだけの、しかし守る側にとっては面倒な状況だ。バルディオンはヴァイセントラフの防衛で活躍した設置型の大型弩弓や投石機を『分かたれし幽界樹B』の予想進路に配置する。指示を受けた配下たちが席を立った。
「あの大きさであれば、無駄にはなるまい。……殿下に出て頂くには、ちょうど良いかと愚考します」
「そうか。分かった」
レイウェスト・バルダスもこの戦場に立つ。ヴィントにも、その周辺にも移住したばかりの帝国臣民がいるはずだ。重態で臥せっていた前回とは違う姿を彼らに見せたいのだ、と言われればバルディオンも制止してばかりはいられなかった。配置した兵器での一斉攻撃を指揮する者がいてくれてありがたい、というのも事実としてある。レイウェストがその役を担ってくれるお陰で、バルディオンはその斧を存分に振るえるのだから。
「殿下の一斉射撃の後に、我らと冒険者が突撃をする手筈です。ご案じくださるな。必ずやあの巨木を討ち取りましょう」
「ああ。信じている。将軍も、彼らのことも」
レイウェストと兵器部隊にも、冒険者たちの同行を依頼していた。巨大な敵が射程に入るまで、散発的に来るであろう小物から兵器群を守る者が必要なのだ。ダルトートで目撃されたという巨人型のクリーパーも『分かたれし幽界樹B』に合流していると目される。可能であれば、バリスタやカタパルトで取り巻きを一体でも減らしておきたいところだ。
「しかし、移動用とはいえ。良くビッグオウムを貸し出してくれた。ゴールディに再びの感謝を」
「……ドンのご命令デス。存分に、どうゾ」
目深にフードを被った小柄な影はぎこちなくそう伝える。冒険者は少数のクリーパーに後れを取る事は無いだろうが、なにぶん人数に対しての守るべき範囲が広い。隅々まで駆け回るのは難しいと悩んでいたのを見透かしたように、移動手段としてビッグオウムの提供があった。
「……まだ、力を借りてばかりだな。私は」
「仕方がありますまい。まずは国土を守り、民を守るのです。然る後に恩義は返せましょう」
「この光景を見ている彼の竜に笑われねば良いが」
バルディオンの返事に頷いてから、レイウェストが極北を伺うように北へ目を向ける。その様子を見てバルディオンもまた、北の彼方へ思いを馳せた。
「あとは、北に向かった冒険者たちとクーネ卿か。コンラート将軍とうまく連携が取れればよいが」
同時に展開せねばならぬ作戦は、ヴィントに迫る『分かたれし幽界樹B』だけではない。オルセンへ向かっている『分かたれし幽界樹A』もまた、急ぎ倒さねばならない場所まで北上していた。
●
レイウェストやバルディオンがヴィントから出撃したのとほぼ時を等しくして。多数のオルセン兵を従えたオルセン太守コンラート・マフダルは、毛の長い馬に騎乗したままクーネ・ルウを出迎えていた。馬上のハーフリングを見上げ、クーネはにこやかに笑う。
「良かった。どうやら戦いが始まる前に会えたようだ」
「戦端を開く前に貴女にお会いできたのはこちらにとっても僥倖です」
コンラートがクーネのやってきた方角へ眼鏡越しの視線を向ければ、巨大なクリーパーの姿が遠く地平の彼方に見えてきた。
「またお力をお貸し頂けますか? 我らはすっかり腑抜けてしまい、貴女がいない戦が恐ろしくて仕方ないのですよ」
「ははっ、コンラートは面白い奴だな。安心すると良い。クーネさんだけじゃなく、頼りになる仲間を連れて来たぞ」
と言う言葉に、ハーフリングの端正な顔が歪む。南方へ向かったクーネが出会いそうな頼りになる者と言われると、パッと思い浮かぶ名前は1人。自分と並び帝国の南北を守護する双璧たる猪頭の将軍の事がが脳裏に浮かぶ。
「動乱でバルディオンが死んだとは思っていませんでしたが、まさか陛下よりお預かりした地を捨ててこの地へ……?」
「バルディオン将軍はなかなか強くて良い男だと思う。だが、クーネさんがいま連れて来たのは冒険者という者達だぞ」
「よ、良い男……!? いえ、冒険者……? ギルドの、ですか?」
クーネとコンラートは手短に情報をすり合わせる。帝国滅亡以後に冒険者ギルドの戦力が大きく躍進しているというのは彼の予測になかったが、クーネが使えると判断して連れて来たのであれば否はない。コンラートは素早く伝令を送り、攻撃的だった陣形を防御に適した形へ変えていく。
「半時間持ちこたえてくれれば、クーネさんと冒険者であの大きいのを倒してくる。それまで痛いと思うけれど頑張ってほしい」
「我らが金床という訳ですね。お任せください。その程度の労苦はオルセンを守って頂いたご恩に報いるには程遠い」
爽やかに笑う眼鏡ハーフリング男子に手を振って、クーネは再びものすごい速度で来た道を駆け出した。
「……というわけで、オルセンのコンラートは挟み撃ちを了解してくれたぞ。あとは後ろからあの半端に残った立ち木を思いきり叩くだけだ」
ぐるりと迂回して戻ってきたクーネは、冒険者たちへそう宣言する。北へ向かう『分かたれし幽界樹A』とその取り巻き戦力は、しばらくの後にオルセン軍と戦闘状態にはいるだろう。クリーパーに戦術は無く、足の速い小型や中型が先に向かい『分かたれし幽界樹A』が取り残されるはずだ。そこを、背後から強襲する。
「クーネさんはしばらく力を充填中だから、あの樹を一人でどうこうはできないけれど。一緒に頑張ろうか」
遠く、オルセン軍のあげる鬨の声が聞こえてきた。
解説
マスターより
リプレイ
北部鎮守都市オルセンの軍勢が幽界樹の仔と戦闘する様子を、冒険者達は遠くに確認していた。
「持ちこたえていたのは、ヴァイセントラフ砦だけでなかったのでございますね」
ハリーヌ・ヨツユビは胸を熱くしながら、その光景を目にしていた。足の速い小型、更に中型の幽界樹の仔が続々とオルセン軍とぶつかり、交戦を開始していく――今は彼らの兵力の多さが頼もしく、心強い。
「幽界樹ってあれかぁ」
ひときわ大きな樹木型クリーパー、『分かたれし幽界樹A』と名付けられたそれを見やりながら、シグルド・オルセンが呟く。クーネさんによって真っ二つに切り裂かれたとはいえ、仮にも幽界樹。その巨大な姿を見上げると首が痛くなりそうだ。
(あれに加えて、戦ったことがあるようなちっこいのがわらわらと……やっぱ不気味だなぁ)
分かたれし幽界樹Aの周囲には、それを取り巻くように移動する幽界樹の仔が散見される。シグルドは思わず顔をしかめたが、
「ともかく、あのデカブツを全力で叩く! それだけでございますね?」
「ま、そういう事だな!」
ハリーヌの言葉に頷いたクーネさんは、そんな憂鬱さを笑い飛ばしてくれるかのようだった。
――オルセン軍が多くの幽界樹の仔を引き付けている間に、分かたれし幽界樹Aに冒険者達が接近、討伐する――。
作戦を開始するタイミングを窺うように目配せし合う冒険者達の様子に、「そろそろ良いんじゃないかな」とクーネさんが口を挟んだ。
「あまり時間を掛け過ぎるとコンラート達の負担が大きくなるしな。行こう!」
オルセン太守コンラート・マフダルが指揮するオルセン軍を慮りながら号令をかけるクーネさん。その言葉に、真っ先に反応したのは【赤眼】クリエーナ・バーリフェルトとバンビであった。
「幽界樹の仔の数を減らす事を優先すっぞ」
「承知しました」
探知用のエーテルの波動を走らせたクリエーナは、目視とあわせて攻撃対象を指示する。それに頷いたバンビは、ハイスピードキャスターの名に恥じぬ迅速さで天地のエーテルをかき集めると、
「――バンビは閣下の覇道のために戦いましょう!」
即座に波紋を走らせ、空間を爆砕させる!
「いいね、そこを一気に潰してしまいましょ」
「仕留めるのは任せてください」
頷いて続いたのはザザ=ステルヴィナ。アーケインテンペストを荒れ狂わせ、更に空間を砕く衝撃波を走らせたそこへファイサル・アル=ファルドが飛び込み、二刀流による三段連撃を繰り出すべく構える。
「腹だ、腹んとこ狙え!」
クリエーナの飛ばす声に柔軟に応じ、幽界樹の仔の腹部を貫くファイサル。表に出ていた幽界樹の実を見つけたクリエーナによる的確な指示に、実を喪ったクリーパーが崩れ落ちていく。
「なるほど。効率的ですね……離脱します」
一声かけ、すぐさまフェザーステップで後退するファイサル。すかさずそこにバンビが爆炎を叩き込んで周囲の幽界樹の仔達を薙ぎ払う。
わらわらと迫って来る幽界樹の仔を越えて放たれた木の葉を、ザザは輝く光の膜で全身を包み込んで防御した。
「中型は私達が引き受けましょう」
一方、中型が集まる一角を見据えたのはエイル・アーティライトだ。放たれた炎球は蠢きながら幽界樹の仔に襲い掛かり、メラメラと焼き尽くしていく。頷いてマリイ・パルティスとシニング・W・テュパラは敵を遮るように立つと、幽界樹の仔の足元目掛けて攻撃を繰り出し、その転倒を狙う。撃破よりも足止め、時間稼ぎに主眼を置いた彼女達の作戦であった。
「行ってください、ご武運を!」
今だと判断したセオ・ウルジオが声と共にエーテルを解き放つ。淡い光に包まれながら【瑞雨】を先頭に、冒険者達は幽界樹の仔が群れる中を突入していく。
「敵の流れを誘導します!」
サシャ・テーリングが作り出した六角形の柱は敵に対する障害物となり、それを避けるような形で幽界樹の仔は移動を試みようとする。
だが、それこそがサシャとカルフ・オルヴォの狙いだった。
「こいつらは引き受ける――さっさと行け」
武器にエーテル光をまとわせて長大な刃と成し、同時に不可視のエーテルを範囲内へ張り巡らせることで、カルフは一帯に集まった幽界樹の仔を纏めて抑え込みにかかる。
「ここは任せろ!」
更にその先から迫り来る幽界樹の仔は、一気に加速したダムド・フィリスがトリプルファングで牽制し、仲間達が先へ進みやすくなるように試みる。その様子に、ララベル・サン・ディーベルとハヤト=ガラン=ヴォルファングは頷きながら仲間達を振り返った。
「皆、今のうちに!」
「行くぜ!」
周囲の敵は任せ、分かたれし幽界樹Aへの距離を素早く詰めていく。
一方、後方で足を止めたのはシャルロッテ・リゼ・ヴォーンとファーシル・クリスティアだ。
「ヴォーンさん、後ろをお願いします」
「了解!」
防具を淡い光で包んだシャルロッテは、中型の幽界樹の仔から攻撃を浴びた皆をヒーリングオーラで癒していく。一方、前を向いたファーシルはカルフ達の援護に入る。
「皆様、まだまだ行けますよね?」
「おうよ」
サシャからの回復も受けながら敵を食い止めているカルフは、闘気槌を振り下ろしながら答えたが、その傷は決して浅くはない。
多くの敵を引き付けたカルフの負担は大きい。突出を避けるように後退したダムドが合流し、セオが更に盾を構え敵に相対するが、敵の数は尚多い。
「くっ……これは、なかなか……。篠突く雨を耐える一助となれっ! ヒール!」
セオも回復を放つが苦しげな表情は隠しきれない。
「多勢に無勢……加勢しますよ」
その様子を見たファイサルは、瞬間的に加速しながら空を駆け、彼らの元へ向かうと加勢に入る。僅かに一人、だが今の状況下では大きな戦力だった。サシャはその間に、すぐさまヒールとサイドヒールを駆使してカルフ達を癒していく。
「ここの中型に早めにケリをつけて、カルフ達と合流しよう」
ファイサルが自分達の上を飛び越えて移動していくのを見上げながら、チリチリと炎が残る中型へ斬り付けたクーネさんの言葉に、エイル・アーティライトは次々とフリーズボルトを放ちながら頷く。
「クーネ、充電にヒールはいる?」
「いや、宝剣の力を貯めるのに、そうした回復は効果が無いようだ。私は大丈夫だから、他の皆の援護を頼む」
「わかった」
ファム=ゴートは頷くとメテオライトでの攻撃に転じた。アリオン・リューは今こそ、このタイミングだとばかりに無銘の片手半剣を輝かせると、強力な一撃を繰り出し、幽界樹の仔を叩き斬る。
(あれは帝国の剣技……かな?)
チラリと目を向けた先では、クーネさんが別の中型に斬り付けていた。アリオンは世界各地の流派に熟達しているという訳では無い、が、それは王国の剣術などよりも、帝国民が操るそれに似ている気がした。
ハッキリと、この流派だという枠に嵌るようなものとは少し異なるようだけれど……。
「シェオル、他に敵は?」
「いや、大丈夫だよ」
クーネさんに問われ、隠れて残っている幽界樹の仔がいないかシェオルが双波で探るが、討ち漏らした敵はいないようだ。その返事に「なら」と前進してカルフらの元へ向かいながら、クーネさんはRe:Leeとザインの【リザイン】を振り返る。
「討ち漏らしが無ければ、当面の撤退路確保は大丈夫だろう。向こうの援護を頼みたい」
「OKよ。ね、ザイン」
「勿論だぜリリィちゃん」
最後方に位置していたRe:Leeとザインは頷き合うと、味方を巻き込まないよう繰り出した氷嵐と攪乱射撃でカルフの近くにいた幽界樹の仔を翻弄にかかる。エイル・アーティライトの爆炎が放たれ、ファムがタイダルストリームでそれに加わる間に、距離を詰めたシェオルが破鎧砕を繰り出すと、その傍らからアリオンの鋭い剣戟が繰り出された。
その間に前を目指した冒険者達は、分かたれし幽界樹Aのすぐ傍まで迫っていた。だが――。
「根だ、気を付けて!」
それを阻むように蠢いた根が冒険者達の足元を乱す。常に揺れ続ける足元に気を配りながら接近を続けるのは困難を極め、エルゼリオ・レイノーラが放ったハウリング・オブ・ブルーフレアを浴びた【勇牙】の面々も、その足が思わず止まっていく。
「そういうことなら直接行けばいいですよねっ」
ベアトリーチェ・カロッサはエアーライドで空を駆け、根の上を一気に飛び越えると、そのまま死齎刃で分かたれし幽界樹Aの表面を切り裂いた。
途端に、そんなベアトリーチェを引き剥がそうとするかのように根の一本が鋭く伸び、彼女を貫こうとしてくる。咄嗟にその軌道を見切りながら着地したベアトリーチェは、バランス感覚を保ちながら間合いを取った。
「……あの動きを全員で真似するのは難しいでございましょうから……ふむ……」
こういうのはいかがでございましょうか、と提案するのはハリーヌだ。
「縦半分で直立しているなら、片側の根を集中して切っていけばバランスを崩すのでは?」
分かたれし幽界樹――その名の通り、既に分かたれてアンバランスな存在であれば、それは容易いのではないだろうか。
「なるほどね。歪な木だからこその戦略かぁ……だったら、そこかな?」
ヒロ・テスタロッサが頷きながら、攻撃を通しやすそうな根を選定し、ララベルを振り返れば、
「うん、僕も同意見だよ。アリエッタ、目印をお願い!」
「任せて!」
頷いたララベルが根を断つならそこだと指示を出したそこへ、紅い染料を抱えたアリエッタが向かい、素早く塗りつけて目印とする。
蠢く根につけた目印は、遠くからでは分かり難いかもしれない。だが、近くにいる仲間達へそれを知らせる合図としては十分なものであった。
「いいね? 斬り込むよ! 僕らの力で根を断って、幽界樹のバランスを崩すんだ!!」
「了解よ」
ララベルの号令にすかさず楓月・千弦が炸光矢を構えて放つ。光の破片が撒き散らされた直後、そこを中心として爆風が巻き起こる。魔法力を高めたテュリン・ヴィングによる爆炎だ。
ぐらり、とバランスを崩しかけた幽界樹は根を次々と大地に突き刺し、踏ん張ってバランスを保とうとするかのように動く。それを見たアルラ・ニグラスは、すかさず根の一つに死齎刃を突き立てて、巧みな身のこなしで間合いを取る。
「効果があると嬉しいんだけど~」
本来は栄養を吸い上げる為に存在する根を、死齎刃は逆に蝕んでいく。すかさずララベルは標的を隣の根に移して三連突を放った。
「実が来る、みんな下がりな!」
根を徹底的に叩いていく【ふしぎ亭】の皆を厄介に感じたのだろうか。彼らの頭上から実を落下させての攻撃が降り注ぐが、すかさずゴルバルティアがカバリングに入る。盾をきっちり構えて防御に集中するゴルバルティアの守りは、そう易々とは破られない。
その間に、皆の影に隠れるようにしながら認識を妨げるエーテルを体の周囲に張り巡らせたアリエッタは、練りに練ったエーテルを武器に籠め、タナトスバイトを繰り出した。
「効いているようね」
「んじゃ次は!」
追い打ちをかけるように千弦がバスターアローを放ったそこに、ヒロの腱撃が続く。虚を突かれ、ますますバランスを崩していく幽界樹の根に、テュリンの叩き込んだ魔弾の光の火花が散った。
「今なら近付ける――いきます!」
幽界樹本体目がけて、周囲の根を巻き込みながらキリアン・フィッツジェラルドが炸光矢を放つのと同時に、【勇牙】は一気に突撃を開始した。根を慎重に回避しながら瞬間的に加速したデイジー・ロックウェルの剣が、エーテルを纏いながら叩き込まれる。
「もらった!」
破鎧砕が決まったことを皆へ知らせるデイジーの声に、すかさずハヤトが勇牙嵐撃を決める。その後ろから飛来するのはエルゼリオが放った光の矢だ。それと共に距離を詰めたハルハン・ツァガーンナルは、幹に直接、衝撃波を叩き込んだ。
「にいさま、無理はしないでよ」
「勿論だよ」
ルーンス・ラグネルが放つ守護の力を秘めた光を浴びながら、頷いたヴィナスは幽界樹の幹に取り付いた幽界樹の仔を見上げた。分かたれし幽界樹Aの取り巻きの一部は、その巨大な幹や枝の上に直接止まっていたのだ。
「皆の邪魔はさせないよ」
赤光のエーテルをまとわせ、刃と成して斬りつけるヴィナス。それは瞬時に光糸に変化すると、幽界樹の仔にまとわりついて動きを妨害する。
「ラン、根の警戒を頼んだ」
ポーチから顔を出した栗鼠が小さく鳴くのを聞きながら、カイン・ステラは精神を研ぎ澄ませて狙いを定める。分かたれし幽界樹に取り付いている幽界樹の仔に応戦し、主力が幽界樹との戦いに専念できるよう――矢を放つ!
「見たところ小型ばかりだわ……蹴散らすわよ!」
超高速で天地のエーテルをかき集めて魔法力を高めたミツキ・アインホルンは、メテオライトを次々と降らせる。根の動きを封じ込めに掛かっているテュリンも、幽界樹の仔を巻き込みながら攻撃を試みていく。ヒロは、衝撃にバランスを崩した幽界樹が更に傾くよう、幹を蹴りながら幽界樹の仔へと腱撃を繰り出した。
「細かいのは任せろ!」
幽界樹に取り付いた幽界樹の仔を抑えに来たダムドも、幹を駆け登ると敵をトリプルファングで切り刻んだ。
根をバランスの維持に費やしている幽界樹は己の体を支えるので精一杯なのか、反撃に根を繰り出す余裕を失っていた。かわりに吹き荒れる鋭い木の葉は広範囲に散らばり、冒険者達の肌を切り裂いていく。
エルゼリオは、そんな皆の傷をハイパーヒーリングオーラでできるだけ癒す。
「あと回復が必要なのは……」
「こちらは私が。ファーシルさんは【ふしぎ亭】の皆さんを」
ミア=リゼルの声に頷き、ファーシルは手分けして回復にあたる。広がっていく光輝くエーテルの波動は負った傷を癒し、分かたれし幽界樹達と相対し続ける活力の源となっていた。
「回復は任せてください。私がここに留まる限り、皆さんを倒れさせはしません」
ミアの眼差し、その言葉には、癒しの担い手としての矜持が滲んでいた。
「クーネさん、引き返してくる敵がいるわ」
マジックディソナンスと魔錆で皆を支援していたミツキは、オルセン軍方面から引き返してくる幽界樹の仔がいるのを見つけ、それを知らせに走った。
オルセン軍が、崩れたという訳ではない。分かたれし幽界樹Aの苦戦と危機を察知した幽界樹の仔の一部が、引き返すことを選んだのだろう。
「足止めしたい所だな……頼めるか?」
「いいぞ。行こうマリイ」
「ええ。コルデラ、お願いします」
クーネさんがまず振り返ったのはテュパラとマリイだった。すぐに駆け出す二人の先へ、更に白い毛並みの狼が飛び出す。
敵の足回りを狙い、進行を妨害する策を携えて今回の作戦に参加していたマリイ達が、この役目には最も適役だとクーネさんは判断したのだろう。それから見やったのはヨル・スレイマンとナハシュである。
「他にもオルセン方面から退いてくる幽界樹の仔がいるかもしれない。オルセン方面をよく見ていた二人なら、そういうのも把握しやすいだろう。行ってくれると助かる」
確かに迂回して割り込める隙間ができないか、オルセン側の状況を注視していたのはその通りだが、よく見ているものだとナハシュは感心した。そういうことなら、とヨルと共にテュパラ達を追う。
「じゃあ一緒に行くよ」
戦線の維持なら役に立てるはずだと、その後ろにファムが続いた。
彼らの合流に頷きながらマリイはストーンブラストを叩き込む。飛び散った礫にたたらを踏む幽界樹の仔に、対の短剣を構えたテュパラとコルデラがすかさず姿勢を低く飛び掛かり転倒を狙う。
それに倣いナハシュがヒット&アウェイを繰り出す後ろで、ヨルは十字を切った。共鳴させたエーテルが皆の手の甲に印を刻んでいく。それによって高まった能力で反撃を避け、あるいはその威力を抑え込みながら、マリイ達は敵を食い止める。
「でかいのは寄生体を潰そうぜ。位置はここだ」
と、エイル・ビュセファスの声と共に、映像が浮かび上がった。
そこには、今まさに食い止めている中型の幽界樹の仔に寄生する実の位置が映し出されている。それは、彼ら【赤翼】の一員であるフリューリングスルフト=ティエラや、シャルロット・エクレールが外から観察できた情報を、テレパスでエイル・ビュセファスに集めて作り出した物だった。
「エイルぅ……うぞうぞ気持ち悪い。片付けよう?」
「そうだな、俺らもこっちに加勢しよう」
顔をしかめたシャルロットはうんうんと頷くと、周囲に大量の小さな光弾を出現させ、次々と寄生体へ叩き込む。その光景にフリューリングスルフトは思わず口笛を吹いた。
「シャルの魔法、いつ見ても凄いさぁ♪」
自分も負けてはいられない。フリューリングスルフトは瞬間的に加速し、起き上がろうと必死の敵との距離を詰めるとトリプルファングで実であった部分を貫き、巧みな身のこなしで素早く距離を取る。
各個撃破に努めながら敵の数を一定数まで減らし、後退してくる幽界樹の仔を食い止める……彼らの動きによって、分かたれし幽界樹Aとの合流は防がれ続けた。
「極力、一点に集中させていきましょう」
分かたれたとはいえ幽界樹は大きい。
できるだけ攻撃を一点に集中させ、穿ち、倒す――そう考えたスィーリーンの言葉に、分かたれし幽界樹Aに接敵した者達は頷いた。
「今です!」
巧みに跳び駆けたベアトリーチェの死齎刃に続けて、イヴェール・イリュジオンは瞬間的に加速しながらイリュジオン・メモワールを構えた。勢いに乗せて繰り出される研ぎ澄まされた鋭い一撃が、幽界樹の幹に亀裂を走らせる。
そこを守ろうとするかのように、幽界樹は実を叩きつけてくるが、
「防御は任せて」
この位なら大丈夫だとシグルドがカバリングに入り、そんな彼をミアが癒す。
その間にナタリア・フィッツジェラルドはできるだけ多くの仲間に蒼白い光を立ち上らせ、皆のエーテルを急激に増幅・上昇させていった。
「それっ、それっ、――それっ!」
白銀の旋棍を構えたシルク・メイプルリーフは攻撃に転じると、片っ端から魔矢を放って幽界樹へと叩きつける。その合間に疾風足で駆け抜けていったアステルは、迫り来る木の葉を浴びながらもカウンターランジを繰り出し、更にそこからトリプルファングへと繋げていく。
「下がってください」
仲間を巻き込まないよう、タイミングを見計らってキリアンは炸光矢を放つ。光の破片が散る中、更にスィーリーンの魔矢が突き刺さる。その間に、ルーンスは木の葉が皆に与えた傷を癒していった。
「一気に攻めるぞ!」
「了解した」
ハヤトの号令にナタリアも攻撃に転じて魔法を放つ。シルーン・サルヒを再び構えたツァガーンナルはそれを大きく振るうと、不可視の衝撃の波を強く走らせ打撃を与えていく。
ピシピシと、軋む幽界樹の幹は、まるで甲高い悲鳴を漏らしているかのようだ。
それを見たナハティガル=ラーは幽界樹の幹にダブルエッジを繰り出した。淡い光を帯びた両の刃に返る手応え――幹を、貫くその感触。離脱した彼と入れ替わるようにアステルがそこを薙ぎ払えば、一気に大きな穴が穿たれた。
最早バランスを崩すことなど厭わず、抜き取った根を強烈に叩きつけてくる幽界樹だが、
「ここで、絶対に倒してみせます!」
盾を構えたツァガーンナルが反対に、その根ごと幽界樹の幹を叩き斬る。すかさずハヤトが嵐のような連撃を叩き込んだ。紅い稲妻を纏ったかのように眩く輝いたその閃撃に、また悲鳴を上げて幽界樹の幹が裂ける。
「動きは単調だ。よく観察していれば……避けられる」
耳を澄ませたナハティガルは根を避け、ホライゾナルジャンプで跳び上がると二刀流での連続攻撃で分かたれし幽界樹のバランスを大きく崩した。呼応するようにララベル達が繰り出した攻撃が、その巨体を一気に傾ける。
「倒れるぞ!」
「離脱離脱~」
ゴルバルティアの警告に、アルラ達が素早く避けていく。もともとバランスを崩す目的で繰り出されていた攻撃だったからこそ、彼女達の退避も早い。
テュリンは仲間を巻き込む心配は無さそうだと判断すると、追い打ちをかけるように爆炎を放つ。千弦はそんな幽界樹を更に攪乱するかのように矢を射かけ、倒れていくその幹へ、ザザはすかさず魔弾を飛ばした。
「――圧し折ります」
皆の攻撃が繰り出し続けられたその一点を睨みつけ、イヴェールは渾身の力で強打する。
その、瞬間。
根を徹底的に叩かれ、バランスを大きく崩して倒れた分かたれし幽界樹Aの幹が、真っ二つに砕けた。
パキパキバキバキバキバキバキ――!
響き渡る破裂音と共に、その巨体がどこまでもどこまでも裂けていく。
冒険者達の手によって完膚なきまでに叩きのめされた、分かたれし幽界樹Aは、そのまま崩壊していった。
「こっちもだ」
崩壊したのは、分かたれし幽界樹Aだけではない。
大元の幽界樹を失い、その寄生する実を喪失した幽界樹の仔もまた、力を失い次々と倒れていた。辛うじて持ち堪えた中型が何体かいたようだが、いずれも、この状況下で戦い続けることは避けたようで、すぐにあちこちへ散らばりながら逃亡していった。
「動けない人は荷車に!」
一息ついたダムドは、すぐに周囲に呼びかけ、自らも負傷した仲間を運んでいく。
荷車には回復を施すシャルロッテ達も乗り、傍には【リザイン】がついて安全な退路確保に努めながら、分かたれし幽界樹A撃破の第一報をヴィントに運ぶ役目も担うこととなる。
「……本体と命運を共にする幽界樹の仔が相手でなければ、強襲後の撤退の備えは重要な意味を持っただろうな」
出発する荷車を見送りながら、クーネさんは小さく呟いた。
「オルセン軍も大丈夫そうだな」
「そのようだね……やれやれ」
ナハシュが視線を向けた先では、ここまで持ち堪えたオルセン軍が同じように一息つく動きが見て取れた。そんなナハシュの隣で、ヨルが持ってきた鞄を見やる。
「ようやく持ってきた弁当を食べることができそうだよ」
中身は二人分のサンドイッチ。なかなかハードな【遠足】だったと苦笑するヨルに、吹き出すナハシュである。
「無事にまた会えたわね、クーネ」
「ああ。見事な戦いぶり、後ろから見ていたよ」
手を上げるデイジーの言葉にクーネさんも手を上げて応える。クーネさんはその後も皆の所を回りながら「お疲れ様」「ありがとう」などと声を掛けている。
(クーネ・ルウ……食う寝る……? 雑な偽名と受け取れますが……)
そんなクーネさんを見ながら、イヴェールは彼女の素性を疑っていた。ただし悪い意味ではなく、少し違った意味で。
(――本名を明かせば、恐らく、帝国が割れるような……そんな理由があるのではないでしょうか)
だとしたら、それを明かさない事にこそ利があるのかもしれない。
ならば、今はそこには触れないでおこう……そう思うイヴェールの視線の先で、クーネさんは更に、オルセン軍の様子を見に向かっていった。
【4】広範囲遊撃。南下してくる「幽界樹の仔」を個別に撃破 前編(執筆担当マスター:革酎)
●
「おー、あっちに敵が居るであるぞー!」
滑る様に上空を奔るビッグオウムの背面上で、【空偵】のポコ・アルデバラッドは炸光矢を撃ち上げる。直後に別のビッグオウムが高度を下げ、乗せていた冒険者を地上に降ろすと再び天へ舞い上がった。
だわとサラの【遊撃】班が、ポコ発見の小型クリーパー、所謂『幽界樹の仔』目掛けてひと息に駆けた。
「余り前に出るなよ」
「うん、だわおにいちゃん……後ろから援護する、ね」
前方の敵は二体。サラが矢を撃ち込んで手前のクリーパーを足止めしたところへだわが刃を振るい、自らに有利な間合いで勝負をかける。
「……俺に出来るのはこれくらいだからな」
然程の手間を要さずに、だわはサラとの連携で敵をひと息に排除した。
だが頭上のポコは、尚も複数の敵の接近を視界に収め、慌ててビッグオウムを降下させた。そうしてその場で狼煙を上げ、別地点の味方に増援を要請する。広範囲に散らばる敵を確実に、そして効率的に叩いてゆくには、これが最も有効な手段だ。
「まだまだ他にも居そうだな」
再びビッグオウムの背に飛び乗りながら、だわは小さく呟いた。その傍らでサラは、他地点で狼煙が上がっていないかを、超視覚にホークアイと看破を組み合わせた目で抜かりなく追っていた。
帝国には珍しくもない原野で、牛・奶は同じ戦域で一緒になったSvart・Nattとテミ・ウィリアム・ライトニングの両名と肩を並べて、小型クリーパーの迎撃に廻っていた。
「哎呀、これはまた大規模な戦争アルね」
経験が豊富とはいい難い奶だが、そう簡単に斃されるつもりは無い。尤も、奶以上に初心者に近しいテミが何とか鏃を叩き込んで敵殲滅の一助になろうとする姿を見ると、自身も負けていられないと発奮させられる。
「まだ今は余裕があるか……少し状況を見て来る」
テミの隣りで矢を放っていたSvartが、得物を持ち替えて前へ出た。敵の数が少ない現段階こそ、先手を打って敵勢を見極めておくチャンスだ。
「なら、敵の注意はなるべくこちらで引き受けよう」
テミの緊張を帯びた声に、Svartは頷き返した。
奶とテミは互いをカバーする位置を取り、迂回するSvartとは反対側から矢を射かける。
「まだ初心者だけど、精一杯頑張るアルよ」
「……狙い撃つ」
Svartが必ず有効な情報を持ち帰ってくれると信じて、ふたりは同時に鏃の連弾を叩き込んだ。
一方その頃、ヴィントを支える工房街ヴェルターゼンの北では、恐るべき光景が――中型と小型の巨大な群れが南下しつつあった。
「あれは拙い」
【空偵】の頭脳ロウトフェダーは炸光矢を撃ち上げた。程無くして同様に上空索敵を進めていたヴァンゲルス・ロッド、サロ、セリオス・オーガストらが一斉に近づいてきた。
手近な場所に降下し、各分担空域での索敵及び冒険者投入結果が口早に報告される。
「ヴェルターゼンの西方にある小集落近くで冒険者数名を投入した」
先ずはセリオスから。敵の位置は集落よりも幾分離れていたが、逃げ遅れた集落民を守る為に早めの措置を取ったらしい。
次いでサロが東を指差す。狼煙が細々と黒い煙を上げていた。
「こっちもだ。集落に小型数体が接近中だったもんで、冒険者を何人か投入した」
彼らはロウトフェダー計画の哨戒ルートに沿って細やかな偵察を実施。その結果広い範囲に散らばった敵をいち早く発見し、被害が出る前に的確な戦力投入に至っている。
一方ヴァンゲルスは冒険者投入よりも集落民避難を優先させ、彼らをヴェルターゼン方面へと走らせた。彼が受け持っていたのはヴェルターゼンから見て北東の区域だった。
「敵の接近が早かったからな。冒険者投入よりも集落民避難が先だと判断したよ」
彼の判断は的確で、冒険者が駆けつけるよりも早く敵の群れがその集落に到達した。あと一歩遅ければ無用な被害が出ていただろう。
ロウトフェダーは静かに頷いた。【空偵】は間違い無く有効に機能している。そして現時点での懸念は、あの大規模な群れへの対処だ。
「睡狼を呼ぶ。皆は引き続き索敵を続行」
そのひと言でこの場は解散となった。ロウトフェダーはやや後方で控えている【睡狼】のもとへと奔る。
●
ロウトフェダーからの連絡を受けて、【睡狼】も矛先を変えた。
今回【睡狼】は囮と迎撃の二段構えで臨んでいる。囮が散らばった敵を一箇所に集め、迎撃が範囲系の高火力で一気に叩くという算段だ。
だが敵を迎える前に、やることがある。周辺一帯の集落を廻り、彼らに自衛の為の迎撃準備提言や、ヴェルターゼンやヴィントへの脱出を支援しておく必要があった。
それらの任にはネーヴェ・グラヌローザとエヴァン・ピオネロが当たっていたが、更にその前段階としてテス・クラルスが戦場になり得る近隣集落を絞り込んでいた。テスの戦域予測が無ければ、ネーヴェもエヴァンも効率的に集落を廻ることが出来なかっただろう。
踏みとどまった集落民はネーヴェの言葉に激励され、脱出を選択した避難民はエヴァンから借り受けた馬や荷車で誰ひとり犠牲を出すことなく、無事に生き永らえることが出来た。
「後は火力でロイ大叔父を助けるだけ、と」
最重要の任務を終えてひと息入れるエヴァン。その傍らでネーヴェは一瞬、籠城態勢に入っている集落方面をちらりと見遣った。
(私達が何とか敵を討ち斃します……ですが、万一討ち漏らしたら、皆様が最後の頼りです)
無論、そうならぬ様に全力は尽くす。その為の【睡狼】なのだ。
中型と小型の混成大群は、ヴィントとヴェルターゼンの二方向に分離しようとしている。これらを再度ひとつの塊として合流させ、一気に殲滅可能なポイントまで誘導しなければならない。
ヴィント方面の群れに対しては、エルシー・サリバンとライオネル・ギシュムが誘導に当たった。
「さぁおいで! パーティ会場で皆様がお待ちだよ!」
笛を吹き鳴らしながら、エルシーの元気な声がクリーパー共の注意を引く。
「ついて来い! 俺は睡狼の盾だ! 簡単に倒せると思うなよ!」
ライオネルも声高に挑発し、絶妙な距離を維持して小型、次いで中型と誘導を仕掛ける。敵との距離は自身の技能を巧みに使い分け、尚且つ他に視線が向かぬ様に細心の注意を払う。
エルシーは攻撃に重点を、そしてライオネルは防御に重点を置き、バランス良く注意を引き続けていた。
一方、ヴェルターゼン方面にはハル・チフと梅・雨陽が誘導担当として出向いた。
「クリーパーって、肉は食べないんでしたっけ……?」
肉や血の臭いで効率的にクリーパーを誘導しようとしていたハルだが、あちこちにばら撒いた血肉に敵が思ったほど食いつかず、自身や雨陽にばかり食らいついて来る様子を受けて、思わず首を傾げた。
「そりゃクリーパーは、エーテル食べて生きてるからネ……とかいってたら、ピャー!」
ハルに応じていた雨陽に小型数体が迫る。ワタシを襲う気ね、などと嘯きながらも、雨陽は迎撃と接近を繰り返しつつ攻撃予定ポイントに敵を誘い出してゆく。
「ま……何でも良いから食いついてくれれば、それで良いんですけどね」
鏃を立て続けに撃ち込みながら走る雨陽の傍らで、ハルは肩を竦めた。
ふたつの集団がひとつに合流しながら、低い窪地へと雪崩れ込んでくる。【睡狼】迎撃班アルマ・ヴァレンタインが事前に選定しておいた殲滅ポイントだ。
「よぉし、来た来た……さ、みんな、輝刃はもうばっちりだからね」
窪地の縁の上でアルマが笑みを浮かべる。その傍らでロイ・アウレアがさっと手を挙げた。
「攻撃! 皆、ここで止めるぞ!」
ロイの号令を受けて、テスが空間爆砕の術式発動態勢に入った。
「閃け!」
目に見えない波紋の衝撃波が敵集団の中央で盛大に炸裂した。クリーパー共の動きが乱れたところに、囮と入れ替わる格好でアルバス・ロウルが得物を振りかざしながら敵中へ突入してゆく。
「後衛の方には行かせない」
挨拶代わりの闘気槌が炸裂し、手近の小型を一気に薙ぎ払った。左右から迫る敵にはロイの放つ鏃とエヴァンの魔力が襲い掛かった。ライオネルはその場に踏みとどまり、アルバスと戦線を構築する。そんな彼らを支援する為に、アルマも窪地へと降りていった。
その間もテスの圧倒的な破壊力を誇る魔術が次々と繰り出される。小型はものの数秒で半数以上が討ち斃された。
「一匹たりとも、逃がさない」
ネーヴェの輝刃で威力が増強された矢を次々と撃ち込むテテリカ。前衛のアルバスとライオネル、後衛のロイとテス、エヴァンという組み合わせだけで小型の殲滅は可能だが、敵には中型も居る。この中型に対して如何に早く打撃を与えられるかが、今後の戦闘を大きく左右する。
「シロ、右手の敵の注意を引きつけておいて!」
テテリカの傍らでルルト・アーキスが、相棒のイイズナに鋭く指示を出した。狙う中型との射線の間に邪魔な小型が割り込んできていたのだ。
直後、誘導された小型の体躯が射線上から逸れ、ルルトの矢は中型の頭部を文字通り射貫く。若干混戦模様になりつつあったが、ルルトは矢を必要な場所へ的確に撃ち込み、味方の攻撃と動線をしっかり確保した。
一旦窪地の縁の上に戻り、ネーヴェの回復を受けていた囮のエルシー、ハル、雨陽といった面々も総攻撃の戦列へと復帰していった。
小型はほぼ全て片付いた。残るは中型のみ。こちらは一体ずつ火力を集中させ、個別に叩いてゆくしかない。音頭を取るのはロイだ。
「まずは手近なそいつからだ!」
ロイの号令を受けてアルバスとライオネルが正面から挑みかかる。雄叫びをあげるアルバスに、目の前の中型は完全に意識が囚われていた。
長期戦はご法度だ。テテリカとルルト、ロイの集中砲火、テスとエヴァンの連続魔術攻撃で、まずは最初の中型を一体、仕留め終える。
後は同じことの繰り返しだ。【睡狼】はこの方面では最も厄介と思われ得たクリーパー集団を、着実に殲滅しつつあった。
●
それにしても、クリーパー共の群れは一向に潰える気配が無い。敵はヴェルターゼンだけを狙っているわけではないのだ。
【白杖白盾】のふたり、ライナ・フレイヴァルツとフロマーシュ・ダイヤドロップはセリオスが駆るビッグオウムの誘導で迎撃戦に入っていたが、小型は散発的に迫ってくる。多少途切れる時間帯もあるが、基本的にはほぼ移動と連戦だ。
「ライナ様、魔力の方は如何でしょうか?」
連戦が続くと、如何に高火力魔術の使い手たるライナといえども、疲労が蓄積して来る。そしてそんなライナを気遣うフロマーシュも顔色が若干悪い。
だが捨てる神あらば拾う神あり。別方面で敵を一掃し終えた【迎撃】班のハーヴィとセオドア・カザツキが駆けつけて来て、次に迫ろうとしていた小型の群れに対し、ライナとフロマーシュに先んじて一気に肉迫した。
「よーしっ、派手に撃つよー! みんな纏めて、えいっ、どっかーんっ!」
ハーヴィは力を持て余しているのか、幾分余計な魔力で小型の群れの一部をほとんど一瞬で薙ぎ倒した。一方でセオドアは別方面から接近しつつあった二体の小型を、鮮やかな身のこなしで素早く始末した。
幽界樹の仔は確かに敵としては厄介だが、その動きや攻撃パターンには一定の隙がある。弱点を見抜いて一撃離脱を試みれば、然程の損害を被らずに叩くことが出来た。
「凄い数だけど、ひと死には避けたいところだね」
ここでいうひと死にとは冒険者の死も含まれる。セオドアは友軍戦力の損耗もなるべく抑えたかった。目の前の敵を捜波で探り、万が一取り逃がしても見落とさぬようマークをつけてから倒していく。
セオドアとハーヴィが一定数の敵を受け持ってくれたことで、ライナとフロマーシュにもかなりの余裕が出来た。厳しい連戦から解放された精神的なゆとりは矢張り大きい。
四人の冒険者は互いの死角をカバーし合いながら、それぞれの相手に照準を定めて気合を入れ直した。
セロンガード・シュタインドルフの目の前で、ゴブリン隊が小型数体を仕留めた。
「みんな頑張ってる、ね」
傍らでティトが、ほっとひと息入れた。
だが、まだ終わりではない。敵は無尽蔵かと思える程の物量で迫ってくる。セロンガードが戦術眼を駆使して戦況を観察したところ、次なる群れが迫りつつあることが予測出来た。
「本当に、一体いつになったら終わるのか……」
思わず愚痴が口を衝いて飛び出してくる。頭上を振り仰ぐと、ビッグオウムの巨影。この様子では、敵はまだまだ南下し続けてきているのだろう。
「ね……村人のところ、見に行こう、か」
ティトの提案に、セロンガードは素直に乗った。ゴブリン隊も休息が必要だ。
この連戦、いつまで続くのか――それは誰にも、分からない。
【2】ヴィント方面の「分かたれし幽界樹B」の仔ら取り巻きの迎撃。帝国軍兵器部隊らの護衛(執筆担当マスター:馬車猪)
●
全高5メートルの巨人の皮膚の下には、太い血管ではなく植物の根がうごめいていた。
ゆっくりした動きに見えるのは目の錯覚でしかなく、小幅な一歩でも数メートル動く怪物だ。
「殿下」
帝国軍にはわずかしか残っていない精鋭がレイウェスト皇子を守っている。
「私は後方から指揮に専念する。改めて命じる。冒険者は分かたれし幽界樹に関わる全てを足止めし、バリスタとカタパルトの準備が整うまでの時間を稼げ」
既に戦いは始まっている。
遠くに声を直接届けるのは不可能。
しかしレイウェストが預かった栗鼠が、カタパルトのてっぺんで器用に前脚を動かして敬礼っぽい姿勢をしていた。
●
「キーゼさん!」
エルナ・クルプファルツの意図を【喫茶】の面々は誤解しない。
エーテルリンクは最大1キロメートル有効な情報伝達手段でもある。
エルナは栗鼠と己という2つの視点を駆使し膨大な情報を得、これまでの間正確に伝えることに成功している。
「上手くいきそうですね」
沈着冷静で知られるキーゼも、顔には出ていないが少し緊張をしている。
皇子への提案が全て通ったのだ。責任は命令者であるレイウェストにあるとはいえ、気合いも入るしプレッシャーも感じる。
「我々は無理に特異個体と戦う必要はありません。砲撃開始までこの地点を確保し、多数の敵を砲撃の射程内に押さえ込みます」
キーゼは今は守りのときと判断し、攻撃よりも回復優先で行動していた。
奇怪な植物じみたものに侵されたクリーパーが押し寄せてくる。
「さっそく来やがったか」
パヴェル・A・サムルガチェフは荒荒しく吐き捨て、しかし舞う姿はどこまで美しい。
呼び出された紫の雷が二角馬に似た形をとる。
雑魚にまともな判断力はない。紫雷を突破しようにも急減速を強制され、後続とぶつかり一部は押し潰された。
「多いな!」
バーネット・フォーサイスはパヴェルに負けない凶悪な笑みを浮かべる。
詠唱するのは基本中の基本であるメテオライトだ。
ただし光弾の数は2桁後半、1つ1つに込めた魔力もすさまじい。
数十の小光弾が解き放たれて、敵の命を貫き絶命させた。
しかし1つの術では担当できる範囲は限られる。
【喫茶】を避け、遠回りな進路で兵器群を目指す雑魚もいた。
「脆いわ」
2連撃が異なる対象を襲う。
カメリア・ローレンスの背後で子鹿のような化け物が2頭倒れ、幽界樹の支配から死をもって解放される。
「後10頭」
全てを倒す必要はない。
ここ以外にも冒険者はいる。限られた頭数と戦力を有効に使わなければ、雑魚と特異個体の背後にいる本命に一斉射撃の有効打を与えるに至れない。
カメリアは、一撃離脱を数度繰り返しては味方の援護や治療を受けるのを繰り返す。
「9……10」
速度に優れた幽界樹の仔が遠ざかる。それを衝撃刃の射程を活かして打ち倒すカメリア。
敵の死体が積み重なり、無残な光景になっていった。
「質は粗雑でも数は力」
フェイサル・セイフは、彼1人でもまとめて複数相手できそうな雑魚に対しても、仲間と連携して当たる。
1人あたりその十倍以上倒さないと、勝利はもちろん現状維持も難しいのだ。
明後日の方向へ向かっていた雑魚が戻り、敵増援として現れる。
「決して油断しないように」
フェイサルは攻撃を止め、多少の被弾を覚悟した上でハリス・アル・ターミルを支援する。
「助かります!」
ハリスは元気に光っている。
知性がろくにない雑魚が発光に注意をひかれることは多くなかったが、後方に対する目印にはなる。
エーテルを大きな光塊に変え、雑魚からの反撃をかわし防ぎ、その上で攻撃力でも上回って十数メートルの範囲を殲滅する。
「他の場所に流れたものもいますか」
追撃する体力はあるが、【喫茶】内でやりとりされる情報に触れ、その場に留まることを決断する。味方はここ以外にもいるのだ。
「なんとしても砲撃開始までこの場を保持する」
フェイサルが数に限りのある治癒術を最大限有効に使うため、人を集めたり節約したりと工夫と苦労を重ねていた。
●
「工兵のお時間さ! 帝国工兵どもー! 気合いをいれろー!」
地質学から建築や土木まで修め、ロモズ歩兵団で役職まで持っているアリア・ティーダは大胆な決断をくだす。
「余った資材は全部ころがせー! 櫓は簡易な奴なんだから見張り用と割りきれー!」
ヒューマン換算で20代前半な見かけのエルフ美女に応援かつ命令されると、工兵のテンションが上がり作業の効率も上がる。
工兵達は守りを冒険者に任せて必死に作業を進める。少しでも見張りに適した高い場所を作り、少しでも早く矢や岩の準備を整えなくてはならない。
「重いのは私に任せな」
パドはカタパルトの砲弾である岩を単身で運んでいく。
位置の調整などは全て帝国工兵に任せ、体力的にも危険度的にも最も苛酷な作業を担当する。
敵に近い場所での作業もだ。
「来たな」
割合としては極少な、数としてはかなりの数の雑魚相手の戦闘が、兵器群のすぐ側で始まろうとしていた。
「これほどの数とは」
無数の光弾が地面と水平に飛ぶ。
小さいとはいえ非授恵者を殺すには十分な化け物達が、ロドリック・アルカインのメテオライトで射殺される。
「カモフラージュを信じろ。返事は不要だ!」
工兵に目を向けず声だけ伝える。
ロドリックは冒険者のキャスターに声をかけてオブジェクトの配置予定を調整中だ。
(行動阻害の設置型はキャスター同士で無駄打ちしないよう、周囲へ声を掛けていかねばな)
地味に見えても、非常に重要な仕事であった。
戦場では死傷者が発生する。
冒険者がどれだけ努力しても、減らすことはできても0にはならない。
「大丈夫です。治りますから安心して下さい」
敵の攻撃ではなく恐怖による転落事故で傷を負った工兵を、エルケ・シャルフが優しく、しかし素早く衛生兵の居る所まで運んで引き渡す。
【ツインズ】のルーカ・ルンガルディエールは絶対に油断しない。
常に捜波・改を使うという苦行じみた警戒を行い、小さく目立たぬ色をした雑魚も、視界の外から攻めて来るものも確実に見つけて相棒へ伝える。
精神的に疲れていても、堅甲で援護することも絶対に忘れない。
「ありがと!」
相棒のエリック・ハルトマンは感謝を忘れない。
警戒もルーカに任せきりにはせず、しっかりと周囲を見ながら敵に近づき、多少の抵抗をものともせずに確実に仕留める。
「ルーカ!」
少し離れたところに敵集団が見えたのでルーカを誘う。
今度はエリックが前に出て、ルーカに敵の攻撃が向きそうになったときもしっかりカバリングして守り切る。
(敵も味方も足が速いわね)
エルケは圧倒的な速度を活かして側面から敵を襲う。
【ツインズ】に押されていた小集団はあっという間に崩れて最後の1体が倒れた。
「一度戻ろう」
ルーカは無意識にエリックとエルケを遮る位置へ移動しながら、苦行を再開するのだった。
「2、1、今」
ヴァレリア・ブランシェ・ウィザースプーンが術を使う。
白蛇にも稲妻にも見える光は何も傷つけない。
幽界樹に冒されたクリーパーを破壊するのは、直後に発動したヴァレリアの大威力範囲攻撃魔法だ。
「魔力が足りなくても」
極僅かな生き残りにはフセイン ラファが対処する。
歪な形の命は冷えたエーテルに抵抗できず動きが鈍る。
別の個体が反撃しようとしたときには、既にラファは撤退済みだ。
「ローリー、ローリー! くるデスよ、いっていいデスか?」
うきうきするあいに優しい目を向けて、しかしローリー・R・テイワズは文字通りの全力で次の敵へ向かう。
(敵が多いと万一があり得ますから)
あいの強さを信頼はしているが敵の数が多いのだ。
ローリーは十分敵集団に接近してから、優しげな見た目からは想像もできない殺気を放つ。
大部分が恐怖に駆られ、一部が狂乱して強引にローリーへ迫る。
殺界使用直後は反撃不能で、射出爪を構えたあいが圧倒的な攻撃力でざくりと撃ち抜く。
ローリーはあいに優しく笑いかけ、恐怖や殺意に捕らわれた雑魚どもをエーテルを纏った一撃で抹殺した。
「いまだ未熟なるこの身、エフレム卿には遠く及ばざるも、されど御身のお傍にてお守りいたします」
ベルク・オスマットがしているのは、半ば押しかけ警護だ。
戦闘開始前には茶の用意までしていた。
レイウェストの護衛はベルクを歓迎している。忠誠篤い者はいくらいてもいいし、幽界樹の仔や暗殺者に対する警戒は目がいくつあっても足りないからだ。
「消耗しますね。直接敵と戦う方がどれだけ気が楽か」
エーファ・メイベル・マジェリトも皇子を守る最後の盾として、気配を消して物陰で待機中だ。
最終的に敵は一度も皇子に迫ることができなかったが、魔法攻撃の使い手も控えていてくれたことで護衛達は非常に精神的に楽だったらしい。レイウェストも初めての単独指揮に集中できたようだ。
●
粗雑な連携でも、連携するのが身長5メートルの筋肉達磨なら最強級の集団になる。
現在最精鋭の冒険者でも、複数から同時に攻撃を浴びれば戦闘能力を失い、踏み潰されかねないからだ。
だがそれは、冒険者の前で連携を維持できればの話だ。
「魔法攻撃はありません」
【四葉】のレティシア・レインフィールは目の良さを活かして断言する。
高速で動く巨体が巻き起こす壮絶な衝撃波の中、レティシアが出現させた光柱が無傷のまま建っていた。
柱の中に1体、右に2体と左に2体。
足止めのつもりだったが最強級だった集団の分断にまで成功していた。
【幽斬】【雀】【四葉】【小救】【雷鎚】が、それぞれ1体ずつを目標に定めて同時攻撃を仕掛ける。
嵐の中から大木じみた拳が飛んでくる。
ゲルダ・クラインはレティシアからの支援に感謝する。
鍛えに鍛えた技と体と戦術があっても、支援がなければ手足の1本か2本が無くなっていた可能性があった。
ゲルダは後退しつつ回避の技と盾を使った防御で耐えに耐える。
耐えているうちに、他班の光る冒険者により約5メートルの巨体が前後にぽんぽん飛ばされていった。ゲルダもまた盾を構え突進し、巨人の1体を【四葉】の仲間の方へと押し込んだ。
「弱点は……それっぽいのがいくつもあるっ」
リサ・ベイカーは仲間が稼いでくれた時間を観察に使う。
うごめく血管だか根だか分からないものがいっぱいだ。怪しいものが多すぎる。
やや遠くから、全体を見ることでその要というべき実の位置を推測し、決断する。
「あそこ!」
決断した後は魔矢で牽制することで、前衛のヴィルヘルミナを支援する。
「届かないと思いましたか?」
細身で戦士としては小柄な体から凄まじい斬撃が繰り出される。
まずは脚。
切断には失敗したが機能を半減させて姿勢を崩させる。
巨人は向きを変えることで弱点を隠そうとしたが、敵の執着を受けているゲルダが危険を冒して前に出て向きと姿勢の変更を邪魔する。
ヴィルヘルミナの冷たく輝く銀の刃が閃光と化す。
巨体の脇に広がる管を切断して管に守られていた何かを引き裂く。
まだ膨大な生命があると見えていた巨体が全身を激しく痙攣させ、前のめりに倒れた。
【雀】として動くヘレン・ワーグナーの薙ぎ払いがわずかに残った雑魚を消し飛ばし、5メートルの巨体にも手傷を負わせる。
だが反撃が強烈過ぎて一瞬意識を持っていかれそうになった。
シーザーロアと防御能力の高さを活かして強敵を引きつける。
「長くはもたないよ」
こんなときでもおっとりした口調を崩さないのは豪胆さの現れかもしれない。
「洞察できるほどの知性もないかっ」
イズル・M・ヴォルゴールは攻撃ではなく回復に集中せざるを得ない。
【雀】の仲間だけでなく協力してくれる冒険者に支援と回復を行い、巨人との攻防をなんとか維持する。
後衛からじっと敵の全身を見つめ、気付いたこと、分かったことを囁くように伝える。
恐らく実は埋まりきっている。しかし、よく観察すればそれらしき部位を見つけることができた。
何もないように見える場所で、気配が動いたような気がした。
ダマスカス鋼の槍が精神的にも物理的にも死角から繰り出される。
まさしく必殺の暗殺撃。
出っ張っていた筋肉が邪魔で破壊からの一撃死には届かなかったが、イズルの助力も得て弱点を看破したエフィルミアのたった一度の攻撃で、巨人の勢いが衰える。
1体が早々に倒れ、1体が攻勢から守勢に変わった影響は、予想よりずっと大きかった。
仕掛けたのは五隊同時。エーテルや魔法の光で白い肌が強調されている。
魔法や紋具で装甲を代替する高級装備もありはするが、【小救】に所属するアリシア・リターナーの軽装鎧は特に独特だ。
(わしが活躍することを機にビキニアーマーを布教するのじゃ……!! 増えろビキニアーマー部隊……!!)
回復と光縛封による戦線維持を行いながら、こんなことを考えていた。
「この時点で光縛封を使わざるを得ないとは」
冒険者としては初心者なケリー ルギエルは己の仕事を果たす。
戦えば必然的に生じる土煙や光る柱の向こうの状態を捜波と五感で探り、特異個体と直接戦うため雑魚への索敵が疎かにならざるを得ない【小救】の仲間へ新鮮な情報を提供し続ける。
この時点ではまだ5つ健在だった巨人を追い越す形で敵増援がやって来る。
雑魚ばかりだが強敵と戦っている状況では非常に危険な相手だ。
「きたー!」
が、前衛を任されたミーミル・ロッポラはびくともしない。
自らに向かってきた相手はドワーフ戦士らしい重厚な装甲で耐え、カバリングで仲間を庇うことまでしてみせる。
(後衛狙い。稚拙だが、幽界樹の作戦か?)
カズマ クレセントブラッドは攻撃による支援を担当する。
淡い青色の残光と共に小型の敵を蹂躙して巨人への進路と射線を確保。対巨人戦を担当する後衛も前衛も戦い易くする。
わずかでも余裕ができればデバフを巨人にぶつけることまでしていた。
「ヒー、怖いであります」
ミウミは臆病だ。
鋼の槍を突き出す様はへっぴり腰ですらある、
が、防御優先で癒し手に負担をかけず、敵には打撃を与え処理能力に負担をかけるというのは、有効な戦術であった。
「やらせないよ!」
ミウミに挑発され接近しようとした巨大な体を、エーテル光で全身を覆ったバクル・バスリーが盾ではね飛ばす。
敵の重量が有り過ぎるので長距離は飛ばないが、数歩たたらを踏むだけでも冒険者には十分過ぎる。これを他班と同時に行う事で、五体の敵の連携は寸断されていた。
ミーミルがチャンスを逃さず破脚砕、そして紫電一閃を繰り出す。
脚の骨まで届いたことで巨体の移動速度が目に見えて鈍る。
バクルは巨人からの攻撃に耐えている。
耐えた上で、味方が攻撃の手筈を整えている場所へ再び巨体をはね飛ばした。
リズ・ジェイド・フローレンスは緊張はしていても焦りはしない。
完全に防いでも骨や内臓にまで響く打撃を治療するため、複数の術を駆使してヒーラーとして前線維持に貢献する。
「あっ」
巨人が腕を大きく振り上げ、衝撃波を撃つ姿勢をみせた。
回復は間に合わないと判断し、光縛封で封じる。それにより、十数秒という黄金より貴重な時間を稼いだ。
柱が消える。完全に回復したバクルが真正面から吹き飛ばす。
特異個体は、ある場所へと誘導されていっていた。
筋肉は力だ。
同じ身長でも筋肉が太ければ力は強く、防御は厚く、速度は上がる。
そして巨人達は弱点の位置も異なる。
(焦ることはないよラト。見つからないよう、しっかりとね)
【雷鎚】のルチル・プルメリア・グレイハーツは、栗鼠経由で他部隊へ情報を渡す。
(同じ場所を抉っても外れとはね。敵も甘くはないか)
テレパスも駆使して情報の受け渡しも行いつつ観察を続ける。
「貴方の相手は私たちよ!」
ロゼット達の攻撃は【雷鎚】が受け持った特異個体へ集中する。
5体の特異個体に漫然と攻撃を浴びせるのではなく、各班が手分けして孤立させた担当の敵に、可能な限りの戦力を揃えて一斉攻撃するのだ。
青い光を纏った冒険者の攻撃は正確で、青い光で支援したロゼットも攻撃に加わり筋肉も骨も関係なく深くまで破壊する。
だが敵は物理的に厚い。動きは鈍らず攻撃頻度は増すばかりだ。
エーテルブローで敵を叩いても、徐々に押されてしまう。
「効いてはいるんだがな」
オゴスの主な担当はジャマーだ。
使えば敵の連携は少しだが雑さが増す。
味方がテレパスを使うタイミングを避ける必要はあるが、有効ではあるのだ。少しの差で死者が出かねない戦いなのだから。
美しいのに何故か禍々しくも感じられる魔導書を手に、しっかり攻撃にも参加していた。
「アーケインを使います!」
レイヤ・ダライ=カホールは宣言して無数の小稲妻を解き放つ。
細い白が知性持つ蛇か何かのように地面を伝って移動。
別の特異個体に近づこうとしていた巨体の脚に絡みついてその意図を挫く。
(スキルが尽きるのと敵を削りきるのがどちらが早いか……)
弱点の位置特定も難しく、かなり厳しい状況だ。
【雷鎚】の火力は十分に高い。
だが敵の頑丈さも非常に高水準だ。
「負傷者は後退を。逃げ遅れて砲撃に巻きこまれるのは馬鹿らしいですよ」
レヴァーレ・クアルムは攻撃の手を一時止めて鉄の壁を地面から生やす。
特異個体ですら一撃では破壊しきれないそれは、負傷者が後退するための貴重な時間を稼ぐ。同時に、巨人同士の接近も妨げていた。
(もつ……か?)
レヴァーレはこれまで多くのダメージを与えてきたが、閃く爆光を使うための代償は大きかった。
「肌の色をした実?」
ルチルは嫌悪感に耐え、見つけた弱点の位置を【雷鎚】全体へ伝える。
トーラの速度は人間離れしている。
鍛えた技と体とスキルを駆使し、残像が生じる速度で右に行っては左に戻って振り下ろされる拳を躱し、蹴りを跳び越える。
「高い! 届きませんっ」
伝えられた弱点は少々以上に高い。シーザーロアもドラゴンチャリオッツもない【雷鎚】において、ロゼットと協力しつつ巨人の引きつけを担当するトーラは、間違いなく輝いていた。
比喩としての筋肉達磨ではなく文字通りの筋肉達磨である。
超重量なのに一歩踏み出した時点で最高速に達し、拳も衝撃波も他と比べて威力が3割増し以上だ。
「すごいね!」
【幽斬】のギーゼラが極太エーテル光波をぶっ放す。
衝撃波の余波で蹂躙された雑魚の群れが完全に消滅し、【幽斬】のメンバーが極めつけの強敵に猛攻を仕掛けた。
「まだまだぁ!」
鎧の上からでも逞しさと力強い美しさが分かるカンナ 三木が、超腕力の巨体の至近距離で衝撃に耐える。
後衛を守るため光縛封を防壁として使った。
自らを支援しても被害が甚大で、カンナ本人の頑丈さとヒールがなければこの時点で最低でも重傷だ。
カンナが稼いだ貴重な時間を使い、シルヴィア・A・カペルが新たな光柱を建ててカンナを庇うと同時に筋肉達磨が別の特異個体から支援される可能性を0にする。
(ルベア、リリリリスが仕掛けるよ)
攻撃が一度直撃するだけで破綻しかねない強敵ではあるが、魔法的な攻撃能力を持たない偏った相手だ。
シルヴィア達は光縛封を活用することで互角以上に戦えていた。
「私が踊って差し上げますわ!」
リリリリスは大胆にも挑発。
攻撃がやり易くはなるがそれは特異個体も同じ。
リリリリスは突撃を防ぎはしたが、骨が縦に割れそうな衝撃とダメージを受ける。
あは、と楽しげな笑い声が艶やかに響く。
傷ついたままエーテル光を纏い、リリリリスは強敵を盾で10メートル近く後ろへ押し込んだ。
「さぁいっぱい僕の愛(ヒール)を受け取って!」
ギーゼラは絶好調だ。
エーテル光波をぶっ放した直後に後退し次のポイントに移動していたため、ギーゼラ本人の被害は皆無。
治療に集中する余裕があり、戦場の真っ只中で倒れる寸前だったリリリリスを高速で癒やしていった。
「無茶をするわね。けど、そうでもしないと……」
ルベア・ベルニが光の巨塊を振り回す。
強敵の膨大な生命を削りきるには威力が不足だが、雑魚を殲滅して仲間がやり易くするという面では満点だ。
飛び退く前に、毒の性質を持たせたエーテルを筋肉の塊に付着させていた。
(弱点が見つからない。砲撃で潰すしかないのかもしれないわね)
ルベア達が準備を整えた状況に、オーラをまとったサイラスがドラゴンを思わせる勢いで参加する。
しかし、ドラゴンチャリオッツで飛ばされた直後であるのに、特異個体の拳は速くて正確だ。
「見事だな」
だがサイラスなら耐えることができる。
特異個体と違って、体だけではなく技も心も鍛えられているからだ。
(飛ばせるぎりぎりの重量か)
激突の瞬間ひやりとしたが、成功したから問題なしだ。
「敵の防御、絶対、削ぎ落とす……」
巨体を出迎えたのはアーケインテンペストによる白い稲妻空間と、その術者であるユズだ。
特異個体は着地はできても移動速度が半減しているのでユズに攻撃が届かない。
緑色の光弾は見た目が派手なだけでなく超高水準の付与技術により形作られていて、特異個体の頑丈な肌を並程度にまで弱めてしまう。
「作戦通り……だな!」
エル=バ=ノイアンが力強い一撃を叩き込む。
膨大な生命を誇る敵は、それで死にはしない。だが、命は大きく削られる。
危機感を抱いて衝撃波を乱射するが、ノイアンも特異個体ほどではないが固くて頑丈だ。
耐えるだけでなく本命を防御することまでやってみせた。
「海神様!」
ガルシアの気合いは強力だ。
心で押された巨大筋肉達磨は、体格に勝ることを活かして腕を伸ばしガルシアを打つ。
だがガルシアを折るには全く足りない。
一見何の変哲もない、実際には多くの絆から生み出された鋭い太刀が、大量の筋肉を支える太い脚を深く傷つけバランスを崩させた。
海神・江流が突撃する。
飛び抜けて強い特異個体を、【幽斬】全員で誘導し罠にかけようやくここまで連れてきた。
後は仕上げだけだ。この場所に、巨人を釘付けにする。
エーテルを限界まで絞り出し、加速する。
そして衝突。
側面からの三連撃を片足に受けた特異個体は、それまでのしぶとさと頑丈さが嘘のように膝をつく。
そこはバリスタやカタパルトが狙いをつけた場所であり、生き延びた筋肉の巨体がすべて追い込まれた場所であった。
●
もふもふとした栗鼠が、発射準備が完全に整ったカタパルトから飛び降りた。
分かたれし幽界樹Bが射程内に侵入したという【喫茶】からの知らせだ。
「頼むぞ」
レイウェストは目を凝らして主戦場を見る。
戦闘で発生した土煙で地上の戦いはよく分からない。
分かるのは、幽界樹Bが動く大きな音が近づいてきていることだけだ。
「風向きに変更なし。湿度に変更なし。エーテルにも異常なし」
【喫茶】のAlexandra・Hexe・Claudiaは仲間とともに最前線に位置し、帝国軍兵器部隊のための情報収集を行っている。
旗から風の向きと強弱を読み取り、超聴覚と位置感覚に他の五感を加えて微細な情報も集める。
一斉射撃の着弾予定地点へと誘導されてきた特異個体が無理矢理Alexandraを狙うが、貴重な術を使って防御し情報収集に専念した。
予定されていた着弾地点で問題ない。その結果を【喫茶】の仲間に共有する。
「今だ! 撃ってくれ!」
バーネットが詠唱を完了。巨大な業火が現れ、生き残りを処分すると同時に後方へ合図を伝える。間髪入れずキーゼも空へ向かって炸光矢を放ち、それが「攻撃ではなく合図である」ことを強調した。
「撃て!」
アリア主導で射手への輝腕の付与も完了された直後、レイウェストは真っ直ぐに手を上げ振り下ろす。
城壁を貫通可能な矢と、堅牢な建物に穴を開けられる重さの岩が、非常に狭い空間に対して一斉に飛び立った。
「着弾、すぐ!」
Alexandraが大声を出して駆け出す。
特異個体に止めを刺す寸前だった冒険者も、最後の大技で雑魚数十を殲滅しようとしていた冒険者もAlexandraを追うようにして退避を始める。
巨人は獲物を追撃しようとするが、加速するより鉄槍着弾の方が早い。
槍は分厚い筋肉を貫き内臓を破壊しても止まらず、不用意に直進してきた幽界樹Bに届く。
それは序章でしかない。
弧を描いた分到着が遅れた岩が、幽界樹Bを中心とした半径数十メートルに降り注ぐ。
冒険者の剣や弓や術に比べれば、狙いは非常に甘い。
だが当たれば大威力だ。
半数以上が外れても、当たった岩で根や枝が歪んで刺さった鉄槍が幹を傷つける。
外れた岩や矢も無駄ではない。
地面に刺さった槍は幽界樹Bの動きを妨害し、外れた岩は幽界樹Bを守ろうとする特異個体にぶつかり絶命させる。
雑魚の場合は触れただけでも巻きこまれて挽肉で、【喫茶】に足止めされていた集団はほとんど無残に死んで生き残っているのは極少数だ。
「殿下!」
「あ、あぁ」
砲撃に圧倒されていたレイウェストが我に返る。
「冒険者諸君! そして我が帝国の精鋭達よ! 今こそ討ち取り民に安寧をもたらすのだ!!」
若き皇子の声が、はるか遠くまで響き渡った。
【3】一斉射撃後に「分かたれし幽界樹B」を強襲、撃破(執筆担当マスター:霧柄頼道)
●
「敵が浮足立っている今、進むべきはこの時をおいて他にない! 全軍……」
バルディオンが斧を掲げ、戦場中に響き渡るかのような大音声の号令をかける。
「突撃ッ!」
待機していた帝国の精鋭兵達と、冒険者達が雪崩を打って、攻めかかった。
砲撃により手ごわい中型の多くは倒れたものの、着弾地点より手前に位置していた小型クリーパーが行く手を阻む。
「ヴィントに帰れた方々のためにも、行こうイノシシさん」
前面に展開している小型の幽界樹の仔の群れへ、ライナスが薄煙炸弾を撃ち込む。
薄い煙幕が発生し、敵の動きを阻害する。そこに続けざま、炸光矢を叩き込んだ。
飛散する光の破片を食らい、敵は次々と倒れていくも――それでも前進をやめない。
ライナスは深追いする事なく、ペットに敵の足止めをしてもらいながら、足並みを揃えて後退。射撃による殲滅を続けるのだった。
フレイヤ・サンライズが狙うは、仲間が撃ち漏らした敵。
逃げようとするそこへ、魔矢を撃ち込みながら追いすがる。間合いに入ったら大太刀を振るい、着実に仕留めていった。
フリーズボルトでの足止めも交えつつ、孤立した敵から斬り倒し、限界まで奮闘するのだった――。
個人で仔を狙うライナスやフレイヤらにとっても、同様の狙いで動く【仔誘】の面々は頼もしく、共闘していた。その【仔誘】の一人、サフィラ・アズラク・ナハルハルアリーブも、敵勢へ身を躍らせる。
素早く肉薄して刺突を見舞う。間髪入れず横へ薙いで引き裂き、蹴りを食らわせて吹き飛ばし、軽やかなステップで常に間合いを調節。
攻防一体の動きでもって、様々な角度から幾度も切り込み、群れを翻弄していくのだった――。
「あちらの方角が手薄ですね。一気に道を開きましょう」
冷静に状況を観察していた【仔誘】のイズレンディル・パラリムは、敵の層が薄い方向を示す。
続いて高速多段式超魔法を発動し、魔力を限界突破。
指示した場所へ、魔弾を撃って撃って撃ちまくる!
周囲の仲間もイズレンディルに続き、火力を集中させて群れの壁へ風穴を開けていく。
そこを後続部隊が突撃し、小型の群れを突破して見せた。
そしてイズレンディルは転進し、追撃して来るクリーパー達を阻む形で銃眼光壁を展開。
爆炎も駆使して応戦に回り、後列を守るのだった。
後続部隊は、分かたれし幽界樹の方へまっしぐらに向かうものの……周囲の小型クリーパーはそれを追い、阻もうとしていた。
ファヌはイズレンディル達とともに残り、小型を相手取る。
敵が迫り寄って来るようであれば、魔矢を放って牽制し、進行を遅延させていく。
通り過ぎる後続部隊の前衛には堅甲や輝刃を付与し、後衛にはヒールをかけ、この先で待ち受ける戦闘に、万全の態勢で挑めるよう支援した――!
兵器群の射撃を受けてなお残る中型クリーパーは10体程度で、負傷しているものの、障害である事は間違いない。
コルネリウス・アーラは動きの速い個体へシーザーロアを浴びせ、自身へ引きつけた。
降り注ぐ強烈な攻撃を盾で受け、衝撃を流してダメージを減らす。
敵の攻撃が集中したら、紅の花弁にも似たエーテルを盾へ纏わせ、防御力をぐんと引き上げた。
次手には露花の檻を発動し、群れを巻き込んで足止め。
そうして前線で耐えているうちに、仲間が敵を囲み、ガンガン打ち倒していく――!
アヴェラ・ウッチェロも先陣を切り、不可視のエーテルを纏わせた得物を自在に振るい、中型を相手に立ち回っていた。
「仔はわたし達に任せて、幽界樹の方へ行きなさい」
殺到する中型達へ鋭い一撃を見舞い――分かたれし幽界樹の元へ向かう部隊のための道を作り出す。
こうしてアヴェラも、コルネリウスとともに敵を引きつけ、前線を維持。
敵に隙が出来れば弱体化させ、妨害役としても活躍するのだった。
彼女たちが前線を支えてくれるお陰で、リディリディ・トゥラ・イェレミースは攻撃のみに全てを集中。
魔法で射程内の敵を薙ぎ払い、片っ端から消し飛ばす。
遠くの敵には蒼白い光の槍を投擲し、いっぺんに動きを止めてのける。
気づくと、コルネリウスやアヴェラが複数の敵に詰め寄られていた。
ただちに、凝縮された魔力の槍を生成。助走をつけて投げつけた。
中空を裂いて飛来するその一撃は、敵の身体を的確に貫き、絶命せしめた――。
マレーネ・シェーンベルグは中型との戦いが始まった直後、コルネリウスとアヴェラの両名へ、レゾナンス・オブ・ヴァローをかけ、身体能力へ磨きをかけていた。
リディリディとも歩調を合わせつつ、距離を取った場所から、回復支援に徹する。
マレーネが回復手を務める事により、前線は抜群に安定。
力を合わせ、ほとんどの中型を引き受ける事に成功するのだった。
【仔誘】ら先行部隊がクリーパーを倒しつつ、釘付けにしたために、【兵】【月陽】【魔砲】をはじめとする後続部隊は分かたれし幽界樹Bの所まで、まっすぐ駆け抜ける事に成功した。
分かたれし幽界樹は、冒険者達の接近を阻むかのように、枝や根を禍々しく蠢かせ、迎撃態勢を取っている。
【兵】のアウレーリア・フォン・ネーベルベルクは、危険を顧みずその足元まで接近。敵の正面に、アイアンウォールを出現させた。
突如として現れた鉄壁に、さしもの奴も意表を突かれたみたいに、ごつんと衝突して少しの間停止する。
「もう一つ……!」
敵が鉄壁迂回のため、動かし始めた脚の間へ、さらに新たな鉄壁を設置。
するとどうだろう。いくつもの脚が鉄壁にぶち当たったり、行き場を失ってお互いに絡まったりと、もはや移動どころではない、明らかに混乱の様子を見せているではないか。
痛烈な反撃を受けて倒れはすれど、実に鮮やかな足止め。素晴らしい、会心の一手である。
「でかい木、か。さすがに心臓はないだろうけど……」
アスティン・ヴェルラインはアウレーリアの妨害で一時停止している分かたれし幽界樹へ、続けざまにグラヴィティボルトを放つ。
根や枝の挙動が鈍く、ぎこちなくなる。リュリュにも果敢に攻めてもらう傍ら、自身は一歩引きつつ各部位へ矢を撃ち続け、一挙手一投足の反応を観察。
弱点や核になりそうな部分を探っていく――。
「弱点はどこにあるのでしょう。ひとまず、私が囮になって時間を稼ぎます」
フリーダ=ブロムヴィストもこの隙を逃さず分かたれし幽界樹へ肉薄。
剣へ光塊を纏わせ、のたうつ脚めがけて振り下ろす。――硬いが、確かな手ごたえ。
対する敵も枝をぶん回し、打ち据えて来るが、こらえて踏みとどまる。
敵の急所を探りつつ、目に付く端から脚をぶった斬っていくのだった。
「確かにかなりの巨体で仔にとっての実のような明確な弱点は見受けられませんが……各部の動きの主体は脚にあるのかもしれません」
【月陽】のゼラルム・エルホワイトは幾度か弱体化攻撃を仕掛けつつ、仲間達による攻撃の結果も加味し、推測を披露する。
荒れ狂う脚達へ狙いすまし、その一部を縫い留めるように、アーケインを打ち建てる。
すると、鉄壁を抜けて今しも突進しようとしていた敵は、脚に引っ張られる格好でつんのめり、がくりと速度が落ちた。
やはり脚を狙うにしても、全体を止めるより、一点のみに絞った方が、効率も良い。
サニー・フォン・オルライトも敵の攻撃を回避しつつ、隙を見て攻撃を仕掛けていた。
赤光のエーテルを纏わせ、刃を付加した得物で、同じ脚を狙い撃ちに何度も斬りつける。
敵の動きが一層強張り、当初のしなやかさは見る影もない。効いている。
「みんな、聞こえる!? 脚を攻撃して!」
成果を確認した後はゼラルムとともに一旦退き、ヒールで回復してもらいつつ、自身の声での呼びかけやテレパスを駆使して、仲間達にこの情報を伝えていった。
サマエラ=フォリウムはゼラルムやサニーとタイミングを合わせ、脚部位を狙う仲間達をできるだけ効果範囲へ含めた上で、ハウリング・オブ・ブルーフレアを発動。
次いで自身には輝刃を付与し、のたうちうねる脚部位の一点を狙い――魔矢を浴びせてダメージを積み重ねていくのだった。
三名で動く【魔砲】。ルアンナ・ミュラーは閃く爆光で己の出力を増幅。
分かたれし幽界樹の幹を射程へ収めるや否や、出し惜しみなしの強力な魔法を繰り出し、砲撃の如く叩きつけ、ぶち込み、ありったけをぶつけていく。
クローリカも、ルアンナの前へ立ちはだかり、押し寄せる敵の反撃を防ぎ止める。
鞭のようにしなる、根や枝の猛襲。一発が強烈なそれらの角度や威力を見定め……盾で受け止め、あるいは弾いて被害を減らす。
キリクは敵の薙ぎ払いや叩きつけを、右に左にひらりと躱しつつ――間隙を突いてクローリカへヒールを飛ばし、より長く耐えられるよう回復させていく。
そうして、ルアンナが最大火力を放とうとしているのを見て取るや、すぐさまグラヴィティボルトを撃ち込み――敵の動きを鈍重なものにせしめる。
直後、ルアンナによる空間爆砕による衝撃波が、敵の中心部に叩き込まれた。
この猛攻により、分かたれし幽界樹の幹に、鋭い亀裂が走る!
仲間達の攻撃で傷ついた脚部位めがけ、【兵】のキオルティスは闘気槌を打ち込む。
左右から根や枝が伸びて来るも、身をひねって避け、受け流して凌ぎつつ……敵の懐へ更に迫り寄り、斬って斬って斬りまくる。
「攻略方法はハッキリした。これでキミも終わり、だね」
脚をズタズタにされた敵は、一瞬ぐらりと傾ぎ……慌てたみたいに根を数本、地面へ刺してバランスを取った。
キオルティスはより容赦なく、執拗に追撃を重ねていく。
ハッタ・ムラムラは祭刀を手に、威勢よく猛進する。
「相手が精鋭だろうが……バルディオンらには負けてられぬ」
暴れ回る根や枝をものともせず、得物を激しく振り回し、滅多切りにしていく!
「ぬおおおおおりゃあああーーー!」
分かたれし幽界樹の脚には、多数の切れ込みが刻み込まれていくのであった――。
「帝国を、これ以上踏みにじらせてたまるものか……うおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉおッ!」
バルディオンもハッタに負けてはいない。斧を満身込めて振り下ろし、樹の脚へ深々と食い込ませる。
彼の配下達も怯む事なく攻勢をかけつつ、時にはその身を盾に冒険者達を庇って見せた。
ゲルトもまた、次から次へと手を止める事なく、魔法を駆使していた。
自分と同じように特にどこにも所属していない仲間へ回復魔法を送り、余力がありそうであれば攻撃や防御力を高める補助魔法を付与。
戦線が少しでも安定するよう、暴風のような戦場を留まる事なく駆け続ける――!
分かたれし幽界樹は数々の妨害を受けつつも、性懲りもなく前進を再開せんとしている。
リコリス・アデュラリアは自分と仲間を守る遮蔽物となるように――そしてアウレーリアが先ほどやった風に、敵の脚を引っかける格好で、アイアンウォールを設置した。
敵がもたもたする隙を突いて、梢部分へ回り込み……タイダルストリームを放出!
確かな痛手を与えるのであった――。
【兵】のキャスター、グレイ・ナックラーも分かたれし幽界樹の脚へ的を絞り、アーケインテンペストを行使する。
それによって動きの鈍くなった一部が、他の脚とより合わさって複雑に絡まり、気持ち悪い団子状態と化す。
グレイが続けざまにフレイムゲイズを放つと、脚達は高熱に包まれ、炎の渦中に呑み込まれた――!
分かたれし幽界樹は、自由な根を地面へ刺し、自身の体勢を安定させ始めた。
一方で移動そのものは完全に止まっている。アスカ・タチカゼはここを好機と、加速しながら接近を試みた。
邪魔な脚の群れはかなり無力化されつつあり、幹部分はがら空きだ。
幹にしても、兵器部隊による一斉射撃や、冒険者の遠隔魔法攻撃を受け、大きな亀裂が入っていた。
そこをめがけ、袈裟懸けに斬りつける。
その一撃は亀裂を大きく斜めに抉り、力ずくで斬り広げた!
狙っていた好機だ。【兵】のシャーリー・ブラウンは内心不安を抱えつつも、仲間達が見つけた糸口を信じ、ノンストップで矢を発射し続ける。
少しずつ広がっていく、分かたれし幽界樹の亀裂。シャーリーは自身のエーテルをこれでもかと消費し、強化した矢をぶち込んで射貫いていく。
ペットのグレイも直接近づき、勇敢に攻撃を加え続けた――!
「勝つ!」
分かたれし幽界樹を目指し、【兵】の数名で疾駆するアルベルト=V=シュタールシュヴェーアト。
「前衛よろしくお願いします」
その背へドローミが輝刃を付与し、攻撃力を上昇させる。
アルベルトは攻撃のみに特化した、半ば捨て身で斬りつけた。
両断する勢いでダメージを蓄積させていくも……苛烈な反撃を受けてよろめく。
そこにドローミが、周辺の仲間達も含めてヒーリングオーラを放ち、減った体力をすぐさま復活させた。
次手にはレゾナンス・オブ・ヴァローも発動し、畳みかけるチャンスを作り出す。
おかげで強化されたアルベルトは、仲間と共にさらなる猛撃を喰らわせ、樹を揺るがした――!
禍々しい樹が根を打ち出す。意思を持つ蛇じみた鋭利な刺突が、前衛達を次々穿つ!
アルト=ミルドレッド=バ・ロッサは治療が必要な仲間と位置を入れ替え、戦線を維持。
自身には堅甲をかけてあるから、そう簡単に倒れたりはしない……と弓を構える。
こうして絶え間なく射撃を浴びせつつも、全体を見てフォローも欠かさず、ペットとともに戦い続けた――。
ナキルは移動スキルを多用し、敵の攻撃を回避がてら、仲間による強化支援魔法や回復魔法に巻き込んでもらいつつ、食らいつくように攻め続けていた。
「テメェもオレの武勇伝にしてやるぜっ!」
衝撃刃を浴びせた後で急接近しつつ、エーテルブレードを発動。
クレーターみたいに巨大化した亀裂めがけ、渾身の紫電一閃を叩き込むッ!
もがき苦しむようにのたうち、大地を砕く極太の根と枝。
ケン・Z・ブラッドリーは足を踏みしめて耐えしのぎつつ……仲間達が刻みつけた傷へ狙い定め、首狩刀『SHIMADZU』を構え直す。
「いい加減これで終いだ!!」
眩く輝く得物を大きく引くや否や、踏み込みと同時に思い切り薙いだ。
豪快な一撃がうなりを上げ、奴の傷口に真っ向から直撃する!
刹那、敵は全ての動作をやめた。
傷口を中心に、破壊的な音を立ててヒビが広がっていき……幹が中ほどから、拍子抜けするほどあっさりと、ぽっきり折れたのである。
荒く息を切らし、警戒の目で折れた樹を見据える、冒険者達とバルディオン達。
分かたれし幽界樹がそれ以上何の反応も示さない事を確認すると――ほどなくして、割れんばかりの歓声が、そこら中から上がるのだった。
【4】広範囲遊撃。南下してくる「幽界樹の仔」を個別に撃破 後編(執筆担当マスター:空色みなも)
●
張り詰めた緊張感に反応してか、昂った様子のビッグオウムをゴブリンの操り手がなだめている。
ヴィント西方から迫る幽界樹の仔らの迎撃に向かうため、冒険者たちはビッグオウムで飛び立とうとしていた。
「オウム乗ってみたかったのだ! 大福と粽なのだ! よろしくなのだ!」
自身とよく似た毛並みの狼を連れた大福が、ゴブリンたちに声をかけている。
「オウムありがとよ。ドンは元気か?」
そこへギャメルも現れ、ゴブリンの中でもフード姿の者へと呼びかけた。
「ああ……そうだナ」
しかしフードのゴブリンから返ってきたのは、虚ろな返事。
冒険者たちに特に構うでもなく、フード姿はビッグオウムに搭乗すべく背中を向けてしまう。
「……ゴブリン族の将来が気になるところだが、今はクリーパー退治だな」
その背中を見送る形となったギャメルもすぐに気持ちを切り替え、自身を運ぶビッグオウムへと向かったのだった。
●
「あいつは大丈夫かな」
ビッグオウムに乗ったウォーゼルが、近くを飛ぶもう一羽のビッグオウムをちらりと見やった。
あそこには、幼馴染のパルドが乗っている。
連携可能な距離とはいえ、いつも隣にいたパルドとこうして離れているのは、どことなく落ち着かないものがあった。
「オレらの目から逃れられると思うなよ――ほら、見つけた」
空高くから地上を見下ろすパルドの鋭い視覚が、幽界樹の仔たるクリーパーの姿を捉える。
見れば、ウォーゼルを乗せたビッグオウムも降下を始めていた。
ウォーゼルもクリーパーを見つけたのだろう。
「あのビッグオウム、この辺りに降りてくるみたいですね」
「うん、見えてる。安全地帯に誘導しよう!」
地上にいたマリア・C・クロードとラセリ=リエ―ブルが、高度を下げるビッグオウムへ手を振っていた。
辺りを見れば、ラセリの矢に射抜かれた小型クリーパーの死骸が転がっている。
これまで二人は、ビッグオウムの着陸地点を確保すべく動いていたのだ。
「行ってらっしゃいませ、ご武運を」
「助かります」
マリアはビッグオウムからひらりと降りたウォーゼルたちへ、守護の光を施した。
「戻ってきたらすぐ乗れるように、ビッグオウムは僕たちが守っておきます」
ラセリはビッグオウムが空中で待機しなくても済むよう、そのまま護衛につくつもりだった。
ビッグオウムは離着陸の際に特に細心の注意を払う必要がある。
離着陸の回数節約に繋がるラセリの働きは、この戦場において大きな意味を持った。
「それはありがたい。よし、行って来る」
パルドたちは上空で発見したクリーパーへ向かい、疾駆する。
ウォーゼルが両の手の短剣を閃かせれば、そこへパルドの飛ばした衝撃がクリーパーを刻む。
クリーパーの注意を引きつけた二人は、そのまま迎撃を担う冒険者のもとへ誘導していく。
「皆がんばってきたのにさ、踏み荒らされちゃ困るんだよね!」
それを迎えたのが【綺譚】のクレア・エクレールだ。
クレアの灯した魔法の光を餌とでも思ったか、釣られたクリーパーたちが寄って来る。
クリーパーの一群の進路を、集落のある方向から逸らすように誘導していくクレア。
「……村は絶対に襲わせないぜ」
共に囮を務めるアルフィー・リッパーの脳裏には、過去に自分の村が襲撃を受けた記憶がよぎっていた。
あのような悲劇を繰り返してはならない――。
決意を胸にしたアルフィーは、攻撃をかいくぐりながら、クリーパーを一か所に集めるように引きつける。
「毒々しい実は全部かりとってしまいましょう。治療と支援は任せてね」
「ご支援ありがとうございます」
2人が誘導してくる先では、ルフィナ・ヴィオレットの術によりフィリスティア・リュナ・ブルーメルティスの杖が淡い光に包まれる。
「今だよ!」
十分にクリーパーを引きつけたと見たクレアが発した号令が、空に抜ける。
「おやすみなさい、土に還れぬ哀れな仔たち……」
フィリスティアはクレアの号令が届くや否や、杖を掲げて術を編む。
ルフィナにより強化された杖の生み出した炎は、クリーパーを舐めまわすように焼き尽くした。
「授恵者になって即、大きな戦いとかついてないなぁ……でも、あんなのが広がったらうちの領地も困るからね」
そこにジュスト・ヴェルジーが放った炎が重なり、さらなる破壊をもたらす。
「狙い辛い弱点なら、纏めて攻撃すればいいでしょ?」
畳みかけるように炎を爆ぜさせ、雹を吹雪かせるジュスト。囮を終えたクレアとアルフィーは、得物から放った衝撃によりクリーパーたちをまとめて貫いていた。
それでも倒しきれないクリーパーに対しては、フィリスティアが雷光を絡みつかせて足止めする。
「ごめん、流石にちょっと怪我しちゃった」
「私が治すから問題ないわ」
クレアが離脱してきた際には、ルフィナがその負傷を癒していた。この場の敵を始末しても、まだ戦っている仲間がいる。急がねばならない。
「絶対に倒れねぇから、守らせろよ!」
「村人も、皆の努力も守り通すわ」
大人数の【綺譚】が護るのは一方向だけではなかった。別方向から雪崩れ込んでくるクリーパーに、アーシェル・G・クラインとアンネエルカが立ち向かう。
アーシェルが強い圧を放ち、アンネエルカが闘気槌を振るうことによって、前線の封鎖を完成させていた。
戦場に絶え間なく、二人の攻撃が吹き荒れる。
「その程度、効くかよ!」
クリーパーに生える芽から飛来した鋭利な葉を、殺界を解いたばかりのアーシェルがエーテルを収束させた盾で弾く。
返礼にアーシェルは大太刀で薙ぎ、クリーパーの芽をかりとった。
「実に吸われた足りない脳味噌で、ここを突破できるとは思わないことね……!」
アーシェルが再び圧を放てば、アンネエルカも再び、希望の銘が刻まれた槍の穂先に巨大な光塊をまとわせる。
アーシェルが押しとどめるクリーパーたちを、アンネエルカが突き入れた光塊が飲み込んだ。さきほど聞こえたクレアの号令からすれば、あちらが片付く頃合いか。
「帝国をこれ以上、食い荒らされてなるものか」
射撃による攪乱を行っていたナハト・シュライバーも、クレアの号令を聞きつけた。
クリーパーの群れの中にナハトの送り込んだ矢が着弾し、衝撃により複数体のクリーパーが貫かれる。苦戦していた村人たちやゴブリン隊から歓声が上がった。
「誰が守るだけなんて言いました? 今は猫の手でも借りたいんですよ」
ナハトは注目を受けたのを幸い、友軍に指示を飛ばして動かし、クレアたちが駆け付けるまで持ちこたえるのだった。
●
「さて、これで隊商が居ると思ってくれるといいけど」
「う、うまくいきますように……」
エミリア・シバが持ち込んだゲルを、ララノアが共に組み立てている。
ゲルの傍らには、エミリアの映し出した荷馬車の映像がぼんやりと浮かんでいた。
さらに、ララノアも商人のような姿を空間に投影している。
クリーパーが人の集まる場所を襲うという情報から、囮として隊商の存在を偽装しようというのだ。
「うぅ歌いましゅ!」
さらにララノアが楽器をつま弾いて、高らかに歌えば――。
「来ましたよ、クリーパーです」
手を額にかざしたラティア・ミゼリアが、優れた視力でクリーパーの姿を遠方に発見した。
クリーパーは隊商の幻に引かれてか、あるいは人の気配に引かれたのか、ともかく三人へ向かっている。
「い、いきましゅ!」
ララノアにより、三人の武器へ一度に強化の光が施される。
「まとめて片付けちゃうわよ」
「えっおー!」
エミリアとララノアが杖を掲げると、クリーパーたちに光が流星のように降り注ぎ、炎弾が炸裂した。
「これが少しでも助けになるといいのですが」
そこへラティアの放った矢がまとうエーテルが弾ければ、クリーパーたちは軒並み骸と化したのだった。
●
「雇われ傭兵の俺にゃ詳しく作戦を読み込む時間もねぇ。手が足りねぇ地域の情報だけ先に寄越しな」
現地の人々に対し尋ねかけているのは、遊撃的に動こうとしているディアンだ。動き回るほとんどの敵は上空から見つけられるが、潜んでいる物がいるとすれば、目撃談も馬鹿にはできない。
「お願いします……お恥ずかしい話ですが、私たちだけの手では村を護ることもままなりません」
「任せろ、俺がアンタたちを守ってやるよ」
人々に見送られ、猛々しい笑みを向けたディアンは、借り受けた馬を駆る。
「今じゃこの斧も木を切るほうが少なくなったんだがな!」
ディアンはクリーパーを発見すると、馬から飛び降り突進。
クリーパーの背に芽吹いた植物体が、ディアンの斧によって両断された。
「肉球隊! 加勢します!」
「大福も手伝うのだ!」
そこへビッグオウムから降りてきたフラム・アニムスと大福、そして粽も駆けつける。
「芽の根本に弱点の実があったりするのだ?」
粽が陽動する間に、大福は鋭い視覚でクリーパーに生えた芽を注視する。
その根本を針の穴に通すような正確さで射抜く大福。
矢が突き立ったクリーパーは、苦しそうにもがいている。
「撃ちます! 避けてー!」
フラムが放った炎は自ら仲間を避け、クリーパーのみを焼き尽くす。
空と大地からかき集めたエーテルを注ぎ込んだ炎は、クリーパーを跡形もなく灰にしたのだった。
●
「人たりないんで、お手伝いお願いしまーす!」
ハルノ・ヒビキの朗々とした声が集落に響き渡る。
人手が足りない村で、ハルノは村人にも弓を持たせ、協力して戦おうとしていた。
「ハルノには寄らせねぇよ」
行動を共にしていたダチュラによって放たれた炎弾が、クリーパーの群れに着弾して爆風を巻き起こす。
「村の皆さんより体、丈夫なんで! 任せてください!」
前線を支える人員が必要と判断したハルノは、自らも前に出て短剣でクリーパーと渡り合い始めた。
弓を渡されていた村人たちも、必死でクリーパーに矢を射かけてハルノを援護する。
「寄らせねえって言ったろ」
そしてダチュラは身体を張って、ハルノへ向かうクリーパーの攻撃を庇っている。
二人が防衛に加わったことによって、村の士気は大きく高まっていた。
「命がかかってるってなったら、おじさんもほっとけないねぇ」
村の防衛にはディレイン・オールドケイジも加わっていた。
「弓を使えない村人は、壁でも作って耐えといて。俺たちが倒してくから」
ディレインは居合わせたハルノやダチュラに支援を施すと、自らも攻勢に打って出る。
「目標は明日も笑うこと! いのちだいじに、だよ」
村人たちに向けたディレインの言葉には、果たして身を投げうって戦う自身のことも含まれているのだろうか――。
「己の手で己の村を守る――授恵者の力に頼り切りでないその気概には私も感じ入りました」
グレイブ・ヤードは、他の冒険者たちとは距離を置いて、村人の支援にあたっていた。
「いたた、俺はもうダメだぁ……」
「大丈夫ですよ。適切に手当てすれば助かります」
大きな騒乱の中にあって、村人にも負傷が発生するのはどうしても避けられなかった。
そこでグレイブは取り乱す村人を落ち着かせ、医学の心得により治療を施していくのだった。
●
「やはりこの辺が手薄だったか。あっちで狼煙が上がっているな。あそこへ向かってくれ」
地図から視線を上げ、ヒューゴ・バルトロウはビッグオウムの操り手に指示を送る。
ビッグオウムから降り、幾人かで向かった先に居たのは、やはり頭に植物体を生やしたクリーパーの群れであった。
「ここはひとつ、頼んだぜ」
「ええ。この図体、今生かさずして、いつ生かすというのでしょう」
ギャメルが施した強化の光で防具を輝かせ、ドゥーンフォルトが敵の群れに向かって突き進む。
「貴様の相手はこっちだ」
ドゥーンフォルトは殺気でクリーパーを誘引し、大剣を大きく振るう。
大剣の暴威に巻き込まれ、小型クリーパーは面白いように斃れていく。
「なんの、これしきのことで自分は倒せないぞ」
それでも生き残った中型の攻撃を、瞬間的にエーテルを収束させた盾で受けるドゥーンフォルト。
「どんな小さな集落だって取りこぼさねぇよ。この集落はおれっちが守ってやる」
そこへヒューゴが中型へ切りかかり、エーテル毒でその体を蝕む。
「小さいクリーパーは僕に任せてください。バルトロウさんたちは、中型に注力を」
その間にも群がってこようとする小型クリーパーたちを、ナンチ・ヤジナイの大剣が襲う。
大剣は巨大な光塊をまとっており、無数のクリーパーが同時に吹き飛んだ。
(稽古じゃない命のやりとり、恐怖がないと言えば嘘になる。でも、オレの後ろには里みたいに日常を営む人たちがいて……)
嵐丸にとって、この決戦は初陣に相当した。
「……人々のために刃を振るえずして何が武士か! 嵐丸、いざ参る!」
だが、嵐丸も覚悟は決まっている。
受けた傷の痛みを捻じ伏せつつ、大太刀を中型へと振り下ろす嵐丸。
中型はそれで地に倒れ、大きな地響きが鳴ったのだった。
●
「ドンの命ということもあるが、それでなくとも村人を守らねばなのだ」
ストレガ・L・リベルガストラは各地を転戦していた。
蛇のようにうねる雷光がクリーパーを絡めとり、足が止まったところへ収束したエーテルが爆風を巻き起こす。
「あらかた片付いたようなのだ」
動くクリーパーの居なくなった戦場を、ビッグオウムで後にするストレガ。
「……おや?」
そしてストレガは上空から目撃する。
続々と集落へ迫っていたクリーパーたちが、力を失って頽れていくのを。
そして生き残ったわずかなクリーパーたちも、散り散りになって逃げていくのを。
「これは――分かたれし幽界樹が倒されたのだ」
ストレガは悟った――戦いに決着がついたのだ、と。
「――結果、報告スル」
そして、同様に上空から戦況を眺めていたフード姿のゴブリンが。
自身を運ぶビッグオウムを転進させたのだった。
監修:アルパカコネクト運営
マスターコメント
決戦シナリオ非常に難しい 報酬:多い185 / 1〜9999人
2021年11月05日 17時32分10秒 公開
参加者
ハッタ・ムラムラ
バクル・バスリー
イヴェール・アーチボルト
- メイプルリーフ シルク
ヨル・スレイマン
ゲルダ・クライン
コルネリウス・アーラ
ミツキ・アインホルン
アンネエルカ
セオドア・カザツキ
エイル・アーティライト
ケン・Z・ブラッドリー
ゼラルム・エルホワイト
サニー・フォン・オルライト
- サイラス
エルゼリオ・レイノーラ
ルアンナ・ミュラー
エルナ・クルプファルツ
ナハシュ
アルベルト・V・シュタールシュヴェーアト
アリア・ティーダ
シャルロット・エクレール
スィーリーン
Svart・Natt
リサ・ベイカー
テス・アウレア
フリーダ=ブロムヴィスト
リリリリス
ザザ=ステルヴィナ
パヴェル・A・サムルガチェフ
ディアン
ベルク・オスマット
ヴィルヘルミナ
ハリス・アル・ターミル
ルチル・プルメリア・グレイハーツ
ルルト・アーキス
クリエーナ・バーリフェルト
レティシア・R・クラティアス
エーファ・メイベル・マジェリト
カメリア・ローレンス
シニング・W・テュパラ
- イェレミース トゥラ リディリディ
ストレガ・L・リベルガストラ
グレイブ・ヤード
イズレンディル・パラリム
ファム=ゴート
ギャメル
マリイ・パルティス
エフィルミア
サフィラ・アズラク・ヴォルファング
ロイ・アウレア
ヘレン・ワーグナー
リコリス・アデュラリア
ギーゼラ
ヴィナス
キリク
ヒロ・テスタロッサ
セリオス・オーガスト
イズル・M・ヴォルゴール
ハヤト=ガラン=ヴォルファング
アルマ・ヴァレンタイン
シャーリー・ブラウン
アルラ・ニグラス
ドローミ
ララベル・サン・ディーベル
アリオン・リュー
ゲルト
ゴルバルティア
フェイサル・セイフ
カイン・ステラ
フリューリングスルフト=ティエラ
ディレイン・オールドケイジ
アスティン・ヴェルライン
レイヤ・ダライ=カホール
レヴァーレ・クアルム
バンビ
クローリカ
海神 江流
アヴェラ・ウッチェロ
エイル・ビュセファス
サマエラ=フォリウム
エルケ・シャルフ
ヒューゴ・バルトロウ
ラセリ=リエ―ブル
アステル
テュリン・ヴィング
ファーシル・クリスティア
ロゼット
- キーゼ
トーラ
マリア・C・クロード
ザイン
エリック・ルンガルディエール
ルーカ・ルンガルディエール
カンナ 三木
ライナ・フレイヴァルツ
バーネット・フォーサイス
クレア・エクレール
キオルティス
Alexandra・Hexe・Claudia
梅・雨陽
セロンガード・シュタインドルフ
ロドリック・アルカイン
アルト=ミルドレッド=バ・ロッサ
Re:Lee
ナハティガル=ラー
ナキル
アーシェル・G・クライン
フィリスティア・リュナ・ブルーメルティス
テテリカ
ナンチ・ヤジナイ
ミウミ
アリエッタ
ララノア・グラヌローザ
フロマーシュ・ダイヤドロップ
ロウトフェダー
オゴス
マレーネ・シェーンベルグ
アスカ・タチカゼ
ファイサル・アル=ファルド
ナハト・シュライバー
エルシー・サリバン
ハル・チフ
エヴァン・ピオネロ
楓月・千弦
エミリア・シバ
ネーヴェ・グラヌローザ
ミーミル・ロッポラ
ラティア・ミゼリア
ハルハン・ツァガーンナル
ガルシア
ベアトリーチェ・カロッサ
あい
ハリーヌ・ヨツユビ
ティト
サロ
- ポコ・アルデバラッド
アリシア・リターナー
グレイ・ナックラー
アウレーリア・フォン・ネーベルベルク
フラム・アニムス
カズマ クレセントブラッド
ローリー・R・テイワズ
ナタリア・フィッツジェラルド
カルフ・オルヴォ
大福
エル=バ=ノイアン
ルベア・ベルニ
シルヴィア・A・カペル
アルフィー・リッパー
ハーヴィ
ルーンス・ラグネル
アルバス・ロウル
ユズ
ライオネル・ギシュム
ハルノ・ヒビキ
- ファヌ
ヴァンゲルス・ロッド
キリアン・フィッツジェラルド
牛・奶
ダチュラ
- テミ・ウィリアム・ライトニング
フレイヤ・サンライズ
- ケリー ルギエル
フセイン ラファ
サシャ・テーリング
ダムド・フィリス
パド
- シャルロッテ・リゼ・ヴォーン
セオ・ウルジオ
パルド
ウォーゼル
ルフィナ・ヴィオレット
シグルド・オルセン
デイジー・ロックウェル
- ライナス
ミア=リゼル
シェオル
ヴァレリア・ブランシェ・ウィザースプーン
リズ・ジェイド・フローレンス
ドゥーンフォルト
嵐丸
ジュスト・V・ケレス
だわ
サラ
相談掲示板
「ナキルだ、よろしくな。って、ココで言ってよかったか…?ま、いいか。 とりあえず、【3】で考えるか…」
ヒーラーの神官戦士ロゼットよ。よろしくね。 【2】で取り巻きの迎撃、特に幽界樹の仔(特異個体)×5の 排除を考えているわ。【雷鎚】というタグで共闘してくれる人を 募集したいから、関心がある人がいたら「教会プレイヤ」という コミュニティを覗いてみてちょうだい。みんな、頑張りましょう。
シーフのトーラです。 帝国の土地を蝕むクリーパー退治頑張りましょう!
大福と相棒の粽なのだ~ 今の所【4】かなぁと思ってるのだ ビックオウムって何体貸してもらえるのだ?一体だけなのだ?
おーっす! ブレイブファング傭兵団の団長ハヤト=ヴォルファングだ、よろしくな!! ウチは【勇牙】のタグで【1】の分かたれし幽界樹Aを潰しに行く予定だ! 恐らくクーネあたりに帯同して暴れ回る事になんだろーな。 派手に暴れ回りてぇって奴がいればウチに参加してくれ! 参加してくれるってんなら『ブレイブファング傭兵団』のコミュに専用スレも立ててあるからそっちに顔出ししてくれると助かるぜ!! んじゃ、いっちょ派手にぶちかまそーぜ!!
ウォーリア、シグルド・オルセンだ。 俺は【1】に行くつもりだ。とりあえず味方の壁になれればと考えている。
ヒーラーのミア=リゼルです。 【1】に向かい、皆さんのお怪我を治せたらと。 少し立て込んでいまして、綿密な相談が難しいため いわゆる「おひとりさま」ですが、よろしくお願いいたします。 あっ こう動いて欲しい、などありましたら 遠慮なくお声がけくださいませ。
3人の少数部隊『赤翼』の代表、フリューです! 【1】で幽界樹の仔撃破をメインに行動予定です!
ウォーリアのアーシェルだ。 【綺譚】で【4】に行く。 同戦域の奴等はよろしくな。
アリシアじゃ。わしは別の小隊で【2】へ行くでな。 ビキニアーマー部隊増えろ…!! というかレイウェスト殿下も死んだら王朝滅亡じゃろ? ここは一つ、女性近衛部隊を作ってだな、ハーレムの一環でも始めたらよいのではないかの。そこで見目麗しいビキニアーマーの女性部隊をじゃな……(以下戯言に付き割愛)…