【樹謂】決戦:見えない真実、護り手の声
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シナリオID:2347
オープニング
「あんのクソ野郎共が!! 冗っっ談じゃ御座いませんわぁ~~~~~~ッッッ!!!」
『世界樹』の東側。フィルエス大森林へ侵攻中の帝国宮廷女官長ザフィーア・ハイセンは、配下の報告を聞いて甲高い怒声を張り上げる。八つ当たり以外の何物でもなく振るわれた拳を受けて、従者の一人が草の上に転がった。
ザフィーアの失態を責任転嫁され、度重なるモラハラとパワハラに我慢の限界を迎えたメドゥの指先幹部『青の中指』ジルベルと、同じくメドゥの指先の死霊術師アリバ・ジャハール・カサドが帝国過激派の陣営を離れたのだ。
「このわたくしがあれだけ目を掛けて差し上げたにも関わらず、尻尾を巻いて逃げ出すとは……! やはり、下賤なハーフビーストや黒ブタ男如きには荷が重すぎる戦場で御座いましたのね!!! ああ、腹立たしい!! 次に見掛けたらブチ殺して剥製とハムにして差し上げますことよ!!!」
またしても冒険者達に敗北し、自身が率いるゾンビ連隊の半数を失ったザフィーアの怒りと焦燥は、もはや限界値に達している。
『世界樹までの露払いなど、このわたくしにお任せになって。陛下は後方でごゆっくりお待ちくださいませ!』
どうしてあんな事を言ってしまったのかしら……と。豊満な胸に宿った後悔の念を掻き消すように、ザフィーアは鼻息を荒くして顔を上げた。
「……。ま、まあ宜しいですわ。残るアンデッド部隊を全てわたくしの元へ集めなさい。森の野人共がいくら世界樹を守ろうとも、わたくしの頭脳と情報網の前には手も足も出ないに違いありませんわ!」
●
「まあ。『核』というものは、やはり『世界樹』の内部にありますのね」
『世界樹』の根元。怒りを表すように脈打つ幹に手を触れた湖水の巫女ニルヴァーナは、エーテル石をくべる『世界樹の核』とやらがどこにあるかを問うていた。
本人曰く、それは幹の内側――体内にあるのだと言う。
「そこの樹洞から入れますの? ルカンドラ様、まいりましょう」
早速、根元に開いた洞の中に入っていこうとするニルヴァーナと、ケンタウロス代表のルカンドラ。しかし、レイウェストの命でルカンドラを護衛していた帝国兵の一人が止めに入り、斥候役を買って出た。
確かに無警戒な突入は良くありませんわね……などと他の帝国兵や護衛の冒険者達と言い交わしながら、ニルヴァーナは彼の帰りを大人しく待つ。
「遅いですわね……あ、あら?」
「――にっ、ニルヴァーナ様!! 大変です!!!」
待つこと五分。息を切らせて洞から飛び出してきた斥候の口から、とんでもない報告がもたらされた。
「なっ、中は広大な迷宮です! それに加えて、蔦やらキノコやらカビやら――妙なクリーパー共が跋扈しています!」
「ほ、本当ですの? それは、まさか……」
『世界樹』に片手を当てたニルヴァーナが、目を閉じて問う。
「――『混沌の残滓たる大腐樹』の眷属が、まだ……」
●
「湖水の巫女は発ったか。冒険者と各氏族からの応援はもう揃ったのか、グレイオンスよ」
「うむ。樹花・夜天の戦士達とともに東を固め、死者の軍勢を迎え討つよう伝えてある」
樹花の里に臨時の拠点を置き、『灰火の守部』グレイオンスと『ディズルの大酋長』アシムベート・グリオウが現在の状況を確認し合う。
帝国過激派重鎮ザフィーア・ハイセンは、配下の死霊術師が操る部隊も含めて全アンデッド軍をひとつにまとめ、『世界樹』至近まで前進していた。
彼女らが率いる死者の総数は、推定1万。『聖鳥』を始め、ここに至るまでに衝突した数多くのエルフ氏族や冒険者達との戦闘により半数程度のアンデッドを失ったと見られているが、それでも万の軍勢だ。
「ザフィーアとやらは恐らく、相当に高位の死霊術師だろう。かつて帝国の砦を襲ったヤコブ・ヴィリアンに倣って『中継役』のアンデッドを複数操り、それらを介して末端のアンデッド達に命令を届けることで間接的に大群を操っているらしい。配下である他の死霊術師もまた、同様の手法を用いていたという報告もある」
これまでの戦闘で冒険者から得られた情報を整理し、アシムベートに渡すグレイオンス。無骨な大剣を手にしたリザードマンの武人は顎を撫で、頷く。
「成程。となれば、敵軍を押し留めつつ、早急にその『中継役』や死霊術師を叩くが良いか。『中継役』の見分け方は」
「一個体が中継した命令を伝達できる範囲は限られている。恐らくは100か200程度のアンデッドがひとかたまりになり、その中央付近に『中継役』が置かれているようだ。敵味方の前線同士がぶつかる際などは、接敵している個体より群れのやや後方にいるとみて良い」
戦場は『世界樹』の東、樹花・夜天の本集落を背にした森の中となる。
作戦としては、まず樹花・夜天を中心とした大森林のエルフ戦士達と冒険者の一部が正面を受け持ち、敵軍の足止めを行う。その間に、遊撃を担う冒険者達が『中継役』や死霊術師を見つけ出して叩く。その後、指揮系統を断たれた死者達を殲滅するという手順だ。
「ならば、儂はディズルの戦士とともに遊撃に回ろう。後方の指揮は任せたぞ、グレイオンス」
「ディズルの協力に感謝する。前線は頼むぞ、グリオウ」
木漏れ日の差し込む森の中へと進んでいくアシムベートの背中を見送り、グレイオンスは小さく息を吐いた。
『世界樹』の回復を目指してその根元へ向かった湖水の巫女とケンタウロス。迫り来る死者の軍勢から里と世界樹を守るべく集結したエルフ戦士達。それぞれに冒険者達も協力し、あとは成功を祈るのみだ。
しかし、直前になって冒険者の一部とブラックデスのゴブリン隊を南東へ向かわせざるを得なくなったことが、グレイオンスの胸中を不安にさせていた。
「サチコ殿とアダム殿……上手くやってくれればよいのだが」
●
『世界樹』からみて南東方向。随分前にザフィーアの軍団が通過し、再び安全が確保されたはずの『聖鳥』集落のひとつを目指して、多数のビッグオウムが空を行く。
「ビッグオウムが確保できたのは幸運でした。間に合えば良いのですが」
目指す集落には、樹花と夜天の非戦闘員の多くが避難しているという。しかし、『世界樹』を攻めているザフィーアの軍団から分かれた帝国過激派と魔獣ゾンビの一団が、そこを目指して森の中を移動しているとの報せが舞い込んだのだ。
偵察に出たエルフによれば、敵は授恵者と死霊術師がそれぞれ数名、馬や熊、狼系の魔獣を素体にした足の速いゾンビに騎乗し、同様の魔獣ゾンビを率いて猛スピードで集落に迫っているらしい。
この事態に対処すべく、現地へ急行することになったのが、ブラックデス幹部のサチコ率いる授恵者ゴブリン隊20名とアダム、応援の冒険者達だった。
「里には非授恵者のエルフ達が100名ほど避難しています。彼らを守りながらの防衛になりますね……」
「そうダナ……」
応えたアダムの手元をちらりと見て、サチコは「ああ、そうでしたね」と頷く。
「仕方ありません。あなたはドン・ゴーフルの命に従うように」
「ヒヒヒ……承知、ダ」
アダムが握りしめているのは、グレイオンスから預かった『とある場所』に×印のついた大森林の地図――そして、ドン・ゴーフルからの手紙だ。
『レイウェストの坊ちゃんを、パパに会わせてやるチャンスだぜェ? ちょっと森ン中走ってアポ取って来てくれや by.ゴーフル』
『世界樹』の東側。フィルエス大森林へ侵攻中の帝国宮廷女官長ザフィーア・ハイセンは、配下の報告を聞いて甲高い怒声を張り上げる。八つ当たり以外の何物でもなく振るわれた拳を受けて、従者の一人が草の上に転がった。
ザフィーアの失態を責任転嫁され、度重なるモラハラとパワハラに我慢の限界を迎えたメドゥの指先幹部『青の中指』ジルベルと、同じくメドゥの指先の死霊術師アリバ・ジャハール・カサドが帝国過激派の陣営を離れたのだ。
「このわたくしがあれだけ目を掛けて差し上げたにも関わらず、尻尾を巻いて逃げ出すとは……! やはり、下賤なハーフビーストや黒ブタ男如きには荷が重すぎる戦場で御座いましたのね!!! ああ、腹立たしい!! 次に見掛けたらブチ殺して剥製とハムにして差し上げますことよ!!!」
またしても冒険者達に敗北し、自身が率いるゾンビ連隊の半数を失ったザフィーアの怒りと焦燥は、もはや限界値に達している。
『世界樹までの露払いなど、このわたくしにお任せになって。陛下は後方でごゆっくりお待ちくださいませ!』
どうしてあんな事を言ってしまったのかしら……と。豊満な胸に宿った後悔の念を掻き消すように、ザフィーアは鼻息を荒くして顔を上げた。
「……。ま、まあ宜しいですわ。残るアンデッド部隊を全てわたくしの元へ集めなさい。森の野人共がいくら世界樹を守ろうとも、わたくしの頭脳と情報網の前には手も足も出ないに違いありませんわ!」
●
「まあ。『核』というものは、やはり『世界樹』の内部にありますのね」
『世界樹』の根元。怒りを表すように脈打つ幹に手を触れた湖水の巫女ニルヴァーナは、エーテル石をくべる『世界樹の核』とやらがどこにあるかを問うていた。
本人曰く、それは幹の内側――体内にあるのだと言う。
「そこの樹洞から入れますの? ルカンドラ様、まいりましょう」
早速、根元に開いた洞の中に入っていこうとするニルヴァーナと、ケンタウロス代表のルカンドラ。しかし、レイウェストの命でルカンドラを護衛していた帝国兵の一人が止めに入り、斥候役を買って出た。
確かに無警戒な突入は良くありませんわね……などと他の帝国兵や護衛の冒険者達と言い交わしながら、ニルヴァーナは彼の帰りを大人しく待つ。
「遅いですわね……あ、あら?」
「――にっ、ニルヴァーナ様!! 大変です!!!」
待つこと五分。息を切らせて洞から飛び出してきた斥候の口から、とんでもない報告がもたらされた。
「なっ、中は広大な迷宮です! それに加えて、蔦やらキノコやらカビやら――妙なクリーパー共が跋扈しています!」
「ほ、本当ですの? それは、まさか……」
『世界樹』に片手を当てたニルヴァーナが、目を閉じて問う。
「――『混沌の残滓たる大腐樹』の眷属が、まだ……」
●
「湖水の巫女は発ったか。冒険者と各氏族からの応援はもう揃ったのか、グレイオンスよ」
「うむ。樹花・夜天の戦士達とともに東を固め、死者の軍勢を迎え討つよう伝えてある」
樹花の里に臨時の拠点を置き、『灰火の守部』グレイオンスと『ディズルの大酋長』アシムベート・グリオウが現在の状況を確認し合う。
帝国過激派重鎮ザフィーア・ハイセンは、配下の死霊術師が操る部隊も含めて全アンデッド軍をひとつにまとめ、『世界樹』至近まで前進していた。
彼女らが率いる死者の総数は、推定1万。『聖鳥』を始め、ここに至るまでに衝突した数多くのエルフ氏族や冒険者達との戦闘により半数程度のアンデッドを失ったと見られているが、それでも万の軍勢だ。
「ザフィーアとやらは恐らく、相当に高位の死霊術師だろう。かつて帝国の砦を襲ったヤコブ・ヴィリアンに倣って『中継役』のアンデッドを複数操り、それらを介して末端のアンデッド達に命令を届けることで間接的に大群を操っているらしい。配下である他の死霊術師もまた、同様の手法を用いていたという報告もある」
これまでの戦闘で冒険者から得られた情報を整理し、アシムベートに渡すグレイオンス。無骨な大剣を手にしたリザードマンの武人は顎を撫で、頷く。
「成程。となれば、敵軍を押し留めつつ、早急にその『中継役』や死霊術師を叩くが良いか。『中継役』の見分け方は」
「一個体が中継した命令を伝達できる範囲は限られている。恐らくは100か200程度のアンデッドがひとかたまりになり、その中央付近に『中継役』が置かれているようだ。敵味方の前線同士がぶつかる際などは、接敵している個体より群れのやや後方にいるとみて良い」
戦場は『世界樹』の東、樹花・夜天の本集落を背にした森の中となる。
作戦としては、まず樹花・夜天を中心とした大森林のエルフ戦士達と冒険者の一部が正面を受け持ち、敵軍の足止めを行う。その間に、遊撃を担う冒険者達が『中継役』や死霊術師を見つけ出して叩く。その後、指揮系統を断たれた死者達を殲滅するという手順だ。
「ならば、儂はディズルの戦士とともに遊撃に回ろう。後方の指揮は任せたぞ、グレイオンス」
「ディズルの協力に感謝する。前線は頼むぞ、グリオウ」
木漏れ日の差し込む森の中へと進んでいくアシムベートの背中を見送り、グレイオンスは小さく息を吐いた。
『世界樹』の回復を目指してその根元へ向かった湖水の巫女とケンタウロス。迫り来る死者の軍勢から里と世界樹を守るべく集結したエルフ戦士達。それぞれに冒険者達も協力し、あとは成功を祈るのみだ。
しかし、直前になって冒険者の一部とブラックデスのゴブリン隊を南東へ向かわせざるを得なくなったことが、グレイオンスの胸中を不安にさせていた。
「サチコ殿とアダム殿……上手くやってくれればよいのだが」
●
『世界樹』からみて南東方向。随分前にザフィーアの軍団が通過し、再び安全が確保されたはずの『聖鳥』集落のひとつを目指して、多数のビッグオウムが空を行く。
「ビッグオウムが確保できたのは幸運でした。間に合えば良いのですが」
目指す集落には、樹花と夜天の非戦闘員の多くが避難しているという。しかし、『世界樹』を攻めているザフィーアの軍団から分かれた帝国過激派と魔獣ゾンビの一団が、そこを目指して森の中を移動しているとの報せが舞い込んだのだ。
偵察に出たエルフによれば、敵は授恵者と死霊術師がそれぞれ数名、馬や熊、狼系の魔獣を素体にした足の速いゾンビに騎乗し、同様の魔獣ゾンビを率いて猛スピードで集落に迫っているらしい。
この事態に対処すべく、現地へ急行することになったのが、ブラックデス幹部のサチコ率いる授恵者ゴブリン隊20名とアダム、応援の冒険者達だった。
「里には非授恵者のエルフ達が100名ほど避難しています。彼らを守りながらの防衛になりますね……」
「そうダナ……」
応えたアダムの手元をちらりと見て、サチコは「ああ、そうでしたね」と頷く。
「仕方ありません。あなたはドン・ゴーフルの命に従うように」
「ヒヒヒ……承知、ダ」
アダムが握りしめているのは、グレイオンスから預かった『とある場所』に×印のついた大森林の地図――そして、ドン・ゴーフルからの手紙だ。
『レイウェストの坊ちゃんを、パパに会わせてやるチャンスだぜェ? ちょっと森ン中走ってアポ取って来てくれや by.ゴーフル』
解説
■連動特設ページ・イメージノベル
https://alpaca-connect.com/world/world0/event/event26_top3
■相談場所について
このシナリオの相談スレッドのみの運用ですと、閲覧に際し非常に重くなる可能性があることや、戦域が多岐にわたるため、別個相談用のコミュニティを用意いたしました。
【樹謂】決戦シナリオ相談場
https://alpaca-connect.com/world/world0/community/rIZXhkTrCTfpAXEU4WOs
・戦域単位での募集や挨拶
・パーティの募集・案内
・【タグ】説明スレッド
また、パーティ内での個別の相談については、上記コミュニティ以外を使用してくださってもかまいません。
■【重要】プレイングの書き方
・今回参加する戦域を右記の形式で【一行目に】記載ください。:【1】【2】【3】
・パーティや協調行動を示すタグは【二行目】で指定してください。タグでの指定は必ず【一つまで】となります:【人馬護衛隊】など
例
【1】
【人馬護衛隊】
(プレイング本文)
・【タグ】内容の説明(何を目的とするか、運用方針など)については、「相談用コミュニティ」の専用スレッドに【200文字以内】で記載ください。200字を越えた場合はタグそのものを無効といたします。
■戦域(選択肢)
【1】世界樹内部迷宮攻略、エーテル石の安置
▼状況
湖水の巫女ニルヴァーナと、エーテル石を持つケンタウロス代表ルカンドラとともに『世界樹』の体内へ入り、世界樹の『核』にエーテル石を捧げに行きます。
『世界樹』とはフィルエス大森林中北部にそびえる大樹であり、神代に創造神によって生み出された『大地の守護者』であると言われています。シルトラース帝国皇女イダ・バルダスにより力を奪われ弱体化していますが、『核』にエーテル石をくべることで征竜にも並ぶ本来の力を取り戻すことができるようです。
『世界樹』の根元から入れる体内は概ね幅5m程度の入り組んだ通路と複数階層から成る迷宮であり、樹の中とは思えないほど広大な空間です。
明かりは無く、狭い横穴や足場の悪い場所もあるようです。『核』が迷宮のどこにあるかは『世界樹』本人にもよくわからないため、捜索する必要があります。
また、迷宮内にはかつて『世界樹』に寄生し討伐されたはずの大型級クリーパー『混沌の残滓たる大腐樹』の眷属だったとみられるクリーパーが残っており、注意が必要です。
▼味方戦力
・ルカンドラ
帝国東部辺境の『聖地』からエーテル石を持ってきた特異個体ケンタウロス。『核』に到着するまでエーテル石を背負って離しません。人語は通じないものの、知的。身長が約3mあり、あまりに狭い道は通れない。彼が死亡した場合、『聖地』で人質になっているレイウェストの命の保証はありません。弓と槍を装備。
・ニルヴァーナ
源流氏族のひとつである『湖水(アエリゼル)』の巫女。シューター。亜人語を少しだけ話せる特異な能力を持っています。弓を装備し、ルカンドラの側を離れず護衛します。
・帝国護衛兵
もともとレイウェストを護衛するはずだった精鋭授恵者5名。ルカンドラを護衛しています。
▼敵戦力
・混沌の残滓たる大腐樹の眷属(クリーパー)×多数
かつて討伐された大型クリーパーの眷属だったとみられる小~中型のクリーパーです。壁や天井に張り付く蔦、食虫植物、動くキノコ、浮遊するカビの塊など植物や菌類のような見た目をしています。
【2】世界樹防衛、帝国過激派アンデッド軍の迎撃
▼状況
『世界樹』の東側で、帝国過激派ザフィーア・ハイセン率いるアンデッド軍を迎撃します。
ザフィーアは南北に広がる形でアンデッドを配置し接近中で、対するエルフ戦士達も南北に広がり防壁のように布陣しています。冒険者はエルフ戦士達とともに壁となって敵を迎え討つか、遊撃部隊として死霊術師や『中継役』のアンデッドを捜索し優先撃破するか、いずれかになります。
戦場は森の中。日中なので照明は必要ありません。近接武器の扱いには問題ありませんが、木々が遮蔽になりやすいため、中~遠距離攻撃では射線の取り方に注意してください。
背後には樹花・夜天氏族の里がありますが、非戦闘員の退避は完了しています。
▼味方戦力
・グレイオンス
大森林のエルフの最古老の一人。授恵者であり自衛程度は可能だが、今回は後方で指揮に専念する。
・アシムベート・グリオウ
ディズル大湿地帯の最大派閥であるギシュム族の酋長。リザードマン戦士達とともに大森林へ救援に来た。大剣を装備したウォーリアで、冒険者とともに遊撃を担う。
・大森林エルフ戦士達
樹花・夜天氏族を中心に、大森林各地の氏族から集められた授恵者戦士約300人。『世界樹』東側に布陣し、アンデッド軍を迎撃しつつ足止めする。
・リザードマン戦士達
アシムベートとともにディズル大湿地帯から救援に来た授恵者戦士20名。冒険者とともに遊撃を担う。
▼敵戦力
・ザフィーア・ハイセン
帝国宮廷女官長にして帝国過激派の重鎮。高位の死霊術師でもあり、大量のアンデッドを操作していると思われる。恐らく魔法攻撃も可能。
・アンデッド×約1万
これまでに戦死したエルフを含む人間を素体にしたゾンビと人間の骨を素体にしたスケルトンが主体。殆どは素手による打撃や噛みつき攻撃のみだが、中には剣や槍を持った個体もいる。熊や鹿など森の動物を素体にしたゾンビも一部含まれている。
・死霊術師×?
ザフィーア配下の死霊術師。ザフィーアほどではないが各人が多数のアンデッドを操っていると思われる。恐らく魔法攻撃も可能。
【3】エルフ集落防衛、避難民の保護
▼状況
『世界樹』から南東方向にある『聖鳥(メイルアイレ)』氏族の集落へ向かい、帝国過激派および魔獣ゾンビ隊から集落とエルフの非戦闘員を守ってください。
冒険者とブラックデスのゴブリン隊は集落の西側のやや開けた場所にビッグオウムで降下し、そこから徒歩で300mほど森の中を進み、集落へ向かいます。
敵は帝国過激派のキャスターであるアルヴァスが率いているとみられ、馬や熊、狼型など足の速い魔獣ゾンビに授恵者や死霊術師が騎乗し、同種の魔獣ゾンビ隊を連れています。冒険者とほぼ同時刻に集落の北側へ達する見込みです。
集落には樹花・夜天の避難民が約100人と、避難民の世話をしていた聖鳥の住民10人がいます。到着時、彼らはまだ敵の接近を知りません。
集落は東西南北に四辺を置いた方形で、一辺の距離は約200m。周囲は森に囲まれて見通しが悪く、集落内には木造平屋の住居やツリーハウスが建ち並んでいます。集落の外縁は高さ1.2m程度の獣除けの木柵で囲まれています。日中なので照明は必要ありません。
なお、ドン・ゴーフルからは「集落の東に向かうアダムを無事に送り出す」依頼も来ています。集落から東(帝国国境方面)へ進んだとある場所に皇帝ヨゼフ・バルダスが居ると判明しており、アダムが単身で対話を求めに行こうとしています。目的地付近にビッグオウムでは着陸できないため集落から向かいますが、東へ向かう動きを敵に察知されれば妨害を受ける可能性があります。
▼味方戦力
・アダム
元メドゥの指先幹部であり、現ブラックデス構成員。短距離ながら影を渡る瞬間移動など独自のスキルを操る授恵者ゴブリン。集落を東に抜けて皇帝の拠点に向かう。
・サチコ
ブラックデス幹部のゴブリナ。攻撃魔法としての『消えない炎』やキャスター系の魔法を操る授恵者。冒険者とともに集落の防衛を担う。
・ゴブリン隊(ブラックデス構成員)
大森林へ救援に来たチンピラ風の授恵者ゴブリン達20名。やる気まんまん。冒険者とともに集落の防衛を担う。
▼敵戦力
・アルヴァス
帝国過激派に属する年老いたゴブリン・ロード。キャスターであり、シーフ並の機動力と高い火力を併せ持つ難敵。
・魔獣ゾンビ×100~
馬や熊、狼型など機動力の高い魔獣を素体にしたゾンビ。駆け出し授恵者でも楽に倒せるものから、熟練の授恵者でも苦戦するものまで様々。飛行型は確認されていない。
・帝国過激派(授恵者、死霊術師)×?
帝国過激派に属する授恵者と死霊術師達。過去の戦場では高レベルの授恵者も確認されているため、注意が必要。
■決戦シナリオについて
・参加者にはこのシナリオでの働きに応じた褒章が付与されます。将来的にPCの皆さんの功績を表す重要なアイテムになりますので、大切に保管してくださいね!
マスターより
決戦シナリオのリプレイ執筆は複数のマスターが担当いたしますが、基本的な判定は運営サイドで行います。
リプレイ
【1】世界樹内部迷宮攻略・エーテル石の安置 前編(担当マスター:七海真砂)
●
トクン。トクン。トクン。
世界樹の内部は鼓動を打つように揺れていた。
「これが世界樹の中ですか……」
「明かりが必要でございましょう。どうぞ」
脈打つ不思議な感覚に、Re✕が見回す中、ハリーヌ・ヨツユビはランタンを掲げた。他にも用意していた明かりが灯され、脈打つ巨大な木の幹の姿が浮かび上がる。
天井も、壁も、床も。いかにも木の幹といった見た目でありながらも脈打つ、それは不思議な光景だった。
「どうやら、ルカンドラでも通れそうだな」
ヴァンゲルス・ロッドが振り返った先では、冒険者や護衛の兵士に囲まれた一頭のケンタウロス――ルカンドラが今まさに、世界樹内部へ入って来ようとしていた。
身長が三メートル程ある彼でも、世界樹の内部は屈む事なく通れる高さがある。あとは、十分に幅のある通路を確保しながら進むのが良いだろうと、ヴァンゲルスは偵察に向かう。
「ルカンドラさん、失礼しますね」
エルナ・クルプファルツは彼の肩にリスさんを乗せた。張りつめたこの空気の中で、小さなもふもふはちょっとした憩いになってくれるかもしれない。勿論、リスさんには上方の警戒役をお願いしてある。
「私は最後尾で後ろを見ます。左右と前方の警戒はお願いします!」
「了解!」
移動するエルナにアルバス・ロウル達が頷き返す。【白木蓮】と【睡狼】の合同チームは他の冒険者も交えながら、ルカンドラの周囲をしっかり固めていた。
「失礼。大事な物だからね、こうしておくのが良いと思うんだよ」
ルカンドラの一歩後ろ、彼が背負うエーテル石が入った麻袋に寄り添うハーヴィは、麻袋にしっかりマントを被せて漏れる光を覆い隠す。
(エーテル石を下ろす瞬間こそ、最も警戒すべきだよね)
そう判断していたハーヴィは、極力スキルを温存することを胸に留め置きながら、ルカンドラとエーテル石に寄り添った。
「ニルヴァーナ様にルカンドラ様……そしてエーテル石。今回の決戦の要ですし、しっかりお守りしないといけませんね」
その様子に、フェミナ・ノ・リビディーネが口にした言葉は、今ここにいる皆の気持ちを代弁するものだったに違いない。いくつもの頷きが返ってくる。
テス・アウレアも、そうした冒険者の一人だった。
「必ず護ります」
聖印を握りしめながら、テスはニルヴァーナとルカンドラ、そして世界樹へ深々と礼をしながら誓う――その髪は、ふわりと揺れながら発光し、世界樹の内部を照らしている。
(目立つテスさん……誘蛾灯みたい?)
そんな姿に、エルシー・サリバンはふと夜更けに灯す明かりを連想するが、この際それもアリだろうと思う。明かりに敵が寄って来るなら、それだけルカンドラは安全になるのだから。
(だったら私がテスさんも護衛するよ!)
そう気を引き締めるエルシーから、唇にさした茜狐の口紅の香りがふわりと漂う。まるでそれが大切な物を繋いでくれるかのように、別動隊からの情報が飛んだ。
「こっちのルートは敵の掃討が済んでいるそうだ。行こう!」
テレパスを受け取ったアルバスも頷き、皆を誘導するように前に立つ。
(ここ……ここも……あとここも、外れ……と)
「……二十三歩先、脇道が、あります……気を、付けてください」
「ありがとう」
エルは、テレパス等で皆から受け取った情報も反映しながら地図を作り上げ、一行のナビ役を担っていた。中枢と思われる方角へ進みながら、ふと想うのはハイアルヴ――いや、イダ・バルダスのことであった。
(ここなら、わたしにも聞こえる? ……あなたの望みは、何……?)
尋ねるように、求めるように想うエルだが、ハイアルヴの声は聞こえて、こない――。
「――いる」
セロンガード・シュタインドルフが短く告げる。何が、とは言わなかったが、この状況下でそれは一つしかない。
敵だ。
「ぼくが直接確認する、よ」
探知用のエーテルを走らせているセロンガードの脇を抜けて、ティトが進み出る。二十、二十一、二十二……三歩目。
脇道から飛び出してきたのは、槍のように鋭く刺突してくる蔦だった。その背後で蠢くのはキノコだろうか。その周囲を、ふよふよと浮遊するカビのような塊。あれもまたクリーパーだと直感する。
ティトはそのすべてをテレパスで共有しながら、短剣を素早く構えた。
(さあ、生きて帰りましょう、必ず――)
エデル=マグノリアが詠唱する。舞い狂う白花とともに、古き言葉で高らかに……それに鼓舞されながらカメリア・ローレンスは跳躍し、濃密な胞子の塊を避ける。その間にハリーヌは傍らに光の玉を形成し、辺りが良く見えない者の為に周囲を照らしていった。
「今だ、狙ってくれ」
両手を伸ばしたナタリア・フィッツジェラルドの指先から宿った、淡い透明な光で皆の力が強化されていく。アルバスは頷くと、一気にキノコ型クリーパーへの距離を詰め、振り上げた大剣で強打する。
「エーテル石を特別に狙っている、という訳では無さそうですか……?」
「そうね」
そんな敵の動きを確認しながら口にしたセロンガードに、頷き返したのはアウレーリア・フォン・ネーベルベルクだ。同時に緋の鳥籠が発動し、出現した幻影の火焔がクリーパー達の足を止める。
「……エーテル石、というよりは、わたし達が持つエーテルそのものを狙っているように感じられるわ」
ここにはエーテルを持つ者達が大勢集まっている。クリーパーにとって人の持つエーテルもエーテル石の持つエーテルも同じエーテル、わざわざ遠いエーテル石を狙う理由はなく、まずは手近な獲物から、ということなのだろう。
(それなら、エーテル石は護りやすい)
殿下の覚悟を、無駄にすることは許されない――セロンガードはティトの後ろから鋭く矢を放つ。
「あれは俺が引き付ける!」
そこにアルバスが言葉と共にエーテルを叩きつけ、自分の方へ引き付けた。クリーパーの反撃に、すぐさま駆け付けたのはナタリアだ。
「このクリーパーは回避能力を削いでくるようだな? だが……」
きちんと備えてあるぞ、とナタリアはアルバスのエーテルを活性化させ、抵抗力を増幅させる光を放つ。
「誰一人として死なせはしないわ」
的確に位置取ったエデルが更に治癒の祈りを捧げると、足元から光る花が舞い踊って傷口を優しく癒していく。その淡く光る白花は、瞬く間に傷を拭い去り、クリーパー達に付け入る隙を与えない。
その間に、ティトは蔦植物型クリーパーを切り裂き、そちら側の掃討を試みていた。
「加勢するよ」
敵の攻撃を回避しながら近付いたカメリアが剣を振るって不可視の衝撃を飛ばし、クリーパーの蔓部分を切り裂く。その一帯を、更にテスのフレイムゲイズが包む――。
「焼き払え!」
蠢いた炎は辺りに漂う菌糸ごと、クリーパーを燃やし尽くした。
「回復します、怪我のある方は、集まってください……」
フェミナは皆に声をかけると、今の戦闘で傷を負った皆をまとめてヒーリングオーラで回復していく。
「先の様子を見て来るよ」
たいまつを握ったエリザ・A・ミシャールは、一人で先行しての偵察に向かう。大勢で固まっての行動は、クリーパーを刺激することもあるかもしれない。だからこそ、あえて単独での行動を選んだ。
(――最後まで見届けることが、アタシの責任だろうからね)
エルフの一員として、あの場にいた者として……耳を澄ませ、探知用のエーテルを走らせながら進んだエリザは、敵との接触を回避しながら、上へと登っていく通路を確保する。
その先まで上がったところで、皆に一時停止を提案したのはアリア・ティーダだった。
「ここは少し開けているし、拠点に良いと思うんだ」
土木工事の時はこういうスペースを有効活用するんだよね~と笑うアリア。一旦ここで待機しつつ、その間に、先発組が先へ進むルートを選定するのが良いのではないかと考えたのだ。もちろん、その間に休息を取ったり、回復をすることも出来る。
「なるほど。エル、既に報告の来ているルートはありますか?」
「右は駄目、みたい……左か、中央の二本の道か、どちらか……」
リコリス・アデュラリアは返事を聞きながら閃光塗弾で目印を刻み、「手分けして最終確認しましょう」と呼びかける。頷いて素早く左のルートに向かったハリーヌは、しばらくして戻って来ると『×』を書いた。行き止まりだったようだ。
「中央の二本は……」
「左はちと狭そうだ、右から行くぞ」
ルカンドラの体躯を勘案して、ヴァンゲルスがちゃっちゃと判断するのに従って、一行はまた進み出す。
「ニルヴァーナ、知らせて」
前方を索敵していたシファーは、別の通路から回り込んで現れたらしいクリーパーを発見すると、視線を敵の方向に向けたまま告げた。すぐさまニルヴァーナがルカンドラにも敵の接近を知らせ、頷いたルカンドラが武器を構えて敵の接近に備える。
だが、ルカンドラの元まで寄せ付けないと言わんばかりに跳び上がったカメリアがシファーの元へ駆けつけ、巧みなステップで向かい合った敵の攻撃を躱し、反撃に出る。
「巻き込まれないでね」
短い忠告の後、アウレーリアの元から放たれたタイダルストリームが、そんなクリーパー達を纏めて飲み込んでいく。すかさず奔流が通り過ぎたそこへシファーが詰め寄り、暗針を素早く突き立てた。
「後ろからも来ます!」
エーテルの気配に惹かれてきたのだろう、新手の登場にエルナが杖を構えながら皆を呼ぶ。
「ここは通しません」
リコリスはクレネルウォールを召喚し、ルカンドラを護る防壁とする。その両脇から、ベルク・オスマットとヤウズ・オスマットが飛び出した。
「殿下の帰還を果たすため、ルカンドラ殿は死守するぞ」
「はい。帝国の臣として、ルカンドラ様をお守りいたします」
『狐爪』と『狐牙』を抜いたベルクの言葉に頷き、ヤウズは空間に不可視の波紋を走らせると、そこを起点に次の瞬間、爆発的に荒れ狂う衝撃波をクリーパー達に繰り出した。その中をベルクは駆け、対の刀で対峙したクリーパーを貫いて仕留める。
「お姉ちゃん」
「下がるぞ」
素早く壁の向こうへ戻っていくベルクと短く頷き合って、ヤウズは更に短杖を構える。
(これが殿下のため――だから!)
見つめた一点に向かって流れる奔流が一気にクリーパー達を押し流す。その一撃を耐え凌いだクリーパー達も、動きが鈍い。それはハーヴィが作り上げたグラビティフィールドによるものだ。そんなクリーパー達に向かって、リコリスは小さな光弾を無数に出現させると次々に降らせた。
「回復はお任せください」
「助かります!」
その間にミィアが放った癒しの光を受け、今はルカンドラの護衛についている帝国兵がそんなクリーパーを仕留めに掛かる。
(――レイウェストさん。レイウェストさんと私の答えは違うようです)
対価では贖えない重さに対して、レイウェストは自らが人質になるという覚悟を見せた。
でも。
(『命が必要』なら、それを覆して死なせません!)
この兵士達も、自分達を信じてくれたルカンドラも――もちろん、レイウェストも。
だから、その為にエーテルを紡ぐ。紡いで、紡いで……届けてみせる。
「行きましょう! ルートは確保してありますので!」
先駆けの皆と協力して、ルカンドラ達が進みやすいであろう経路を確保してきたトーラが皆を呼ぶ。
多くの冒険者が世界樹の内部に入り、『核』を探し、そこまで無事に辿り着けるようにと手を尽くしている。
何としても、成し遂げなければ――その決意と共に冒険者達は更に歩みを進めていく。
(人間達は、ただ本当に真実を語っていたのかもしれんな。世界樹……いや、世界の危機……。ジド・ルウが成し遂げた奇跡の鍵が、この神石であると……)
皆に護られながら進むルカンドラはこの時、冒険者達が語っていた言葉を、信用しつつあった。それは、数多の冒険者達が見せた様々な姿が、言葉は通じなくともルカンドラの胸に、響いたからに他ならなかった。
【1】世界樹内部迷宮攻略・エーテル石の安置 後編(担当マスター:狐野径)
ルカンドラたちより先を行く冒険者たち。彼らの持つ明かりが、世界樹内部を照らし出す。
核の部分はどこかエルフに知るものはいない。
一方で、ララベル・サン・ディーベルやルルト・アーキスが植物共感で確認をしようとする。
世界樹は植物ではないのだが、小さき者たちから何か求められているという感覚を得る。
そのため、意図を探り「核がどこにあるかは時間をかけて探せ」という事を伝えた。
それは接触を試みた者にはイメージとして伝わる。
「これはお告げ!」
ルルトは驚く。
結局は世界樹自身にも内部のことはわからないのだから、実際見られる冒険者たちが探すしかないのだ。
迷宮と化している世界樹の内部。迷わず進むためには記憶し、地図を作り、連携をしていくしかあるまい。
イヴェール・イリュジオンは「露払いをしていきましょう」と迷宮の先へと足を進める。
エミリア・シバも「無駄な時間を減らすためにさっと見てくるわね」とふらりと闇に消えた。
それに続くように、アステルとキオルティスが駆けていく。
「僕達も行こう」
ララベルが【ふしぎ亭】のメンバーに声を掛けた。
ヒロ・テスタロッサは今にも駆け出しそうにステップを踏む。
「迷宮探検! 【ふしぎ亭】ご一行の十八番だね♪」
迷わない。
中には「混沌の残滓たる大腐樹」の眷属だったと思われるクリーパーがいるだろうから、対応を迫られる。
【ふしぎ亭】が出発し、それに続き、他の班の者たちも奥へと進むことになる。
イヴェールやエミリアは暗視をもって調査を進める。
イヴェールはできる限り敵を発見し、討伐はしたい。さらに言えば、後続の人たちに不意打ちを避けてもらったり、必要なら迂回を促したい。
クリーパーは天井に張り付くツタや食虫植物、動くキノコなど植物に由来するものが見られる。
「大腐樹の眷属ということですね」
特に横穴や出入り口など死角になるところ、隠蔽される空間は注意を払う。
一方、エミリアは双波で確認し、行き止まりや注意事項は閃光塗弾やレターセットなどでメモを残す。調査で来た他の人が同じものを見ないで済むように。
「時間はいくらあっても足りないわね」
エミリアが双波で状況を把握すると、敵らしい反応はあるが今一つわかりづらい。
回避してやり過ごそうとしていたところ、イヴェールが来る道と合流していた。
「クリーパーが来るわよ」
「わかりました。ここは任せてください」
イヴェールはそれがいる場所を看破し、手にした剣をたたきつけた。
ルイドは丹念に通路を確認していく。
進むのが難しいと見える場所、見通しが悪いところは、何か見落としがある場合もある。さらにはそういうところに核があるかもしれないため、看破は欠かせない。
ランタンを手に足下に注意を払う。必要ならばロープで体を支え、側面の確認をした。
「次はこっちだな……ん?」
一体敵がいることに気付いたと同時に、それはこちらに来る。
討伐し、先に進むのだった。
【白杖白盾】のライナ・フレイヴァルツとフロマーシュ・ダイヤドロップは先に進む者たちや組織立って動く者たちの隙間を縫う形で行動する。何かあっても補完しあえれば、守るべき人たちも守りやすくなる。
ライナは通路にある印を見て、進む道を考える。
すでに先に向かう道として定着している部分もある。
進む中、印ではなく、閃光塗弾の塗料がこぼれているのに気づいた。
誰かに何かあったのかもしれないと、二人は確認に向かった。
そこにはキノコのようなクリーパーが複数いた。
すぐに臨戦態勢をとり、フロマーシュが、
「任せてください!」
と、盾を構える。さらに、複数敵がいるため、殺界改で足止めを図る。
ライナがその背後で風凛新星でエーテルを高め、月下燦爛を放つ。
連携をして敵を討伐した。
「誰かいますか?」
フロマーシュが声を掛ける。
ツィーラ・イェレミースが角から現れた。
「何か大きな音がしたよね?」
「ケガはないか? クリーパーがいたし、塗料を撒いたような跡があったが」
ライナに問われツィーラは「クリーパーには遭遇していないよ」と告げる。
塗料を撒いた理由が身の危険による物ではないことに、ライナとフロマーシュはホッとした。
「印をつけるといい」
ライナが説明する。
その横で、フロマーシュが「ここで交戦あり」と告げるような印を書いた。
「そっか」
ツィーラは広大な迷宮探索に魅力を感じて参加するということで、少し気持ちが先走っていた。
暗視があるし、位置感覚を生かして進めるから一人でもよいかもしれないが。
「一緒にいってもいい?」
その問いかけに【白杖白盾】は断る理由もなかった。
●
【月陽】のゼラルム・エルホワイトとサニー・フォン・オルライトは迷宮内部の状況把握に力を注ぐ。地図を作製することで、敵からの奇襲を避けやすくなり、探索不足があれば戻りやすくなる。
サニーが地図作成を中心に、ゼラルムが護る。
サニーは双波を用い、視覚情報を得ていく。また、仲間が残している跡やテレパスでもたらされる情報も吸収していく。
ふと、サニーが地図作りを止め「来たみたいだよ」とクリーパーの襲来を警告する。
ゼラルムは指摘された方向を見て「数は?」と問う。答えを得て【氷嵐】を放った。
頭上からツタを伸ばしていたクリーパーたちは巻き込まれて消えた。
「紙は足りてるか?」
「あ、そろそろもらっていい?」
ゼラルムから紙をもらい、サニーは地図作りを再開した。情報を後続に共有する事で、助けになるだろう。
●
ロイ・アウレアたち【睡狼】は班を三つに分け捜索や護衛に当たる。捜索に当たるのはそのうち二つの班だ。
なお、エーテルリンクできるペットは互いの状況を補うため、他の班に預けるという形をとっていた。
ロイは「道の太さにかかわらず進もう」と告げる。
「あとは進みやすい道をそこから見つける必要があるよな」
アルマ・ヴァレンタインは「そうだね」とうなずく。
冒険者だけ通れればいいわけではなく、エーテル石を持つルカンドラが通れないと困るのだ。
ライオネル・ギシュムは迷宮に足を踏み入れた時、
「世界樹探検……わくわくする!」
と明るい声で告げていた。閉塞空間の妙な緊張感をやわらげる効果はあった。
なお、ライオネルはバンダナで口と鼻を覆っていた。クリーパーに胞子やカビに似た雰囲気のものがいるため、防げればよいと考えたからだ。
アルマはエンライトの明かりの下、位置感覚と記憶力を生かしマッピングをしていく。
「核はどういうところにあるのかな」
ロイは「地道に探すしかないのだろうな」と返す。
時折、耳を澄ませ、人間でいうならば脈のような音や流れがないか確認するが、普通の生物とは異なるのかよく分からなかった。
ハル・チフは双波や看破で迷宮の把握に努める。
一方で、他の班とのラッパによる連絡手段構築もしてあるため、そちらも意識していた。
普通の閃光塗弾や「強制♪桃色弾」での印付けは調査中、完了、そして、危険ありなど分けることでまとまっている。
ふと、妙な場所を発見した。
「ここ、おかしいですよ?」
薄い壁の向こうに別の通路が見えるため「ここ壊す?」とライオネルが問う。
「何か来てるな」
ロイが耳を澄ませた。
アルマは地図を見て「回り込んだ先で合流します」という。
ここで倒さなくても先で合流する。
近くにいる人には注意を促す連絡をしておくのだった。
【睡狼】のもう一班、梅・雨陽、サシャ・テーリング、ルルト、そしてエヴァン・ピオネロが進む。
ルルトは核の位置を推測する。
「エーテルがかかわるなら、核の近くだと敵が多いとかあるのかな?」
サシャは「そうなのかも?」とうなずく。
「太陽の光が届くところかなと思うのですよね」
「結局、地道に探すしかないんだよね」
ルルトは気合を入れなおし、捜波で何か近づいてくるものはないかなど、確認をしていく。
雨陽はペットの芍薬を他の人に預けているため、
「芍薬ちゃんは自由なイノシシだけど、みんなを守ってネ」
と心配もしていた。
「核探しはライオネルちゃんの案で幸運の星を持ってるし、イケる!」
そのおかげか、敵との遭遇は少ないかもしれない?
雨陽自身は暗視を駆使し、警戒する。
世界樹のためにも、敵と遭遇するなら掃除してあげたいところだった。
エヴァンは地面が不安定だろうということであらかじめ滑り止めの靴など準備はしていた。
「中がこんな風になっていれば、迷子が続出する危険があることは納得です」
だからこそ、位置感覚を駆使し、進行方向や他の班の位置は察知していきたい。
それと同時に閃光塗弾と「強制♪桃色弾」で色を区別し、印もつける。目に見えるものは重要だ。
サシャがテレパスで受けた他の班からの連絡で、敵の位置も把握できた。必要なら、討伐は惜しまないが、スキルには限りがあるため、戦闘回避もある程度求められる。
順調に迷宮を上がっていくけれども、上層部に行くにつれ、やや狭い場所が散見された。
「ルカンドラさんが通れるか……ですね」
他の班からの連絡もあり、迂回路がないか一行は確認した。
「壊してしまいますね」
「反対側は誰もいないと思いますが、連絡入れますね。あと、ルカンドラさんたちがいる方……にもでしょうか?」
サシャがエヴァンが魔法を使う前に各方面に連絡を入れた。
そして、エヴァンは「世界樹さん、ごめんなさい」とダイダルストリームでたまたま出くわした魔物ともども壁に穴をあけるのだった。
世界樹からは文句は言われなかった。
●
ララベルたち【ふしぎ亭】は最短で奥を目指すため、粛々と前に進んでいく。
ヒロとララベルは暗視で視界を確保し、捜波や双波で地形および敵の把握に努める。
手がかりはないに等しいが、中にそれはあるという事はわかっているのだ。
だから、進むことがゴールに向かう近道だ。
進むのに問題はないが、時折、足場が悪いところも出てくる。
段差があっても、不安定な足場でも、進むつもりはある。
「で、どっちいこうか? 足場悪くてもぐんぐん行くよ!」
ヒロは促した。
アリエッタはそのあとに続く。
「何階層あるのかな」
「わからないというのが本音かもね」
ララベルは苦笑したが、何があっても踏破するという意志は揺らがない。
楓月・千弦はララベル達の後ろにつき、敵の状況などに意識を配った。
背中にペットの栗鼠・クノキを張り付かせ、後方の視界も確保した。
核を置くべき場所は、樹形という事を考えると、根や枝、先端にかかわる部分にあるのではと考える。
通路の状況、周囲の風景には気を配り、戦術眼を以て観察をする。
また、通り過ぎたところは、閃光塗弾で印をつけていった。
「敵です!」
その声に反応し、ゴルバルティアはチャージングで接敵する。すぐさま盾を構え、ドラゴンチャリオッツで吹き飛ばした。
テュリン・ヴィングはヒロやララベルの背を追いながら、周囲の観察を怠らない。
核があるならば、入り口である根本からは離れていそうだし、力の源と考えるならば、どのあたりだろうかなどダンジョン知識を生かし推測する。世界樹の中はダンジョンと言う訳ではないのだが、参考になる部分はあった。
「幹というより、木の最上部当たりかしらね」
世界樹の中がどう変化していくか、そこで魔物の出現は変わるかも重要だ。
先に先にと進む中、ふと、空気が変わった気がする。
先に進み、階層が変わっていく。
徐々に敵の数が変わるような気がした。
テュリンはピリリとした妙な気配を空気に感じた。
「この階層は特に注意して見た方がいいわ」
「手がかりがありそう?」
ララベルの問いかけにテュリンはうなずいた。
クリーパーの数が増えたようだった。ゴルバティアがすぐさま敵との間に割って入る。
「手ごたえが違う感じがするな」
あくまで気持ちかもしれないが、何かが違うという意識を保つことは必要だ。
クリーパーを倒し、前に進むと、角を曲がった先にその場所は現れた。
ララベルが「一番乗りだ!」と声をあげた。テュリンがテレパスで後続の仲間たちへ連絡を入れる。
【イメージノベル】(執筆担当マスター:桃谷かな)
探し求めていたそれは、地上から数えて十五階層も上がった所で見つかった。
脈打つ壁の表面にあいた、まるで樹洞のような見た目の穴。直径でいえば大人二人分ほどもある空洞の中には眩い七色の光が満ち、渦を巻くようにゆっくりと回り続けている。
「こちらですわ」
冒険者たちに導かれて核の前に到達したニルヴァーナが振り返り、ルカンドラを呼んだ。背に掛けられたマントを外し、光が漏れ出る麻袋を手に歩を進めた人馬の青年は、眼前に在る不思議な光景に圧倒されているようにも見える。
「……ルカンドラ様。お願いいたします」
人語で、そして亜人の言葉で、ニルヴァーナはルカンドラの背中を押した。
ルカンドラは一瞬の逡巡の後、麻袋の口を開け、虹の渦巻く穴の前へと立つ。
冒険者と湖水の巫女、帝国兵が見守る中で。
光輝く聖なる石が、核の中へと捧げられた。
【2】世界樹防衛・帝国過激派アンデッド軍の迎撃 前編(担当マスター:岩岡志摩)
●遊撃開始
フィルエス大森林中北部にそびえる大樹――『世界樹』東側では、エルフの戦士達とアシムベート・グリオウ率いるリザードマンの戦士達、そして冒険者達が敵軍を待ち構えていた。
やがて木々の向こうから屍の大群――帝国過激派ザフィーア・ハイセン率いるアンデッド軍が姿を見せ始める。
まるで屍で形成される濁流が押し寄せてきたような光景だが、【華組】所属のクレア・エクレールは双波を駆使して敵群の中継役の位置や周囲の地形と言った必要な情報を探り、同じ【華組】や周囲の仲間達へ報せていく。
「派手にいこうか」
同じ【華組】のジュスト・ヴェルジーは、クレアからの情報を受け取ると自身の戦略眼に従って立ち位置と角度を調整し、詠唱する。
「呼び掛けに応え、至れ。至りて流れよ、地の果てと。海の果てまで流れ、我らの敵を貫き運べ――大飛燕」
無数の花弁を思わせる青いエーテル光波が轟音と共に放たれ、ジュストの正面にいたアンデッド群を薙ぎ払い、一筋の道を開く。
「さーて、期待に応えるかな」
【華組】のローザリカ・L・ディオールは、眼前の大群を指揮する死霊術師や中継役となるアンデッドと思しき個体を倒すため、敵群の中央へと攻め入る。
「さて、派手に行こうじゃないか!」
叫びと共にローザリカは炎を孕んだ棘の槍を顕現して振り下ろし、その先にある地面より湧き出た幻影の棘が炎を纏ってアンデッド達の身を突き通し、仮の生命を断っていく。
こじ開けた道を突く形でクレアとミレイユ・ヴェルジーが突き進む。
「目潰しはアンデッドには無効でも死霊術師には有効のはずだよね」
ミレイユが翠光塗弾の塗料を中継役と思しきゾンビへ投擲する様子を見つつ、クレアも自身の閃光塗弾を死霊術師を発見した時に備えて準備した。
「中継役を撃破しますわ!」
ミレイユは竜鱗の盾を構え、エーテル光で全身を包むと、塗料をぶちまけた中継役のゾンビに向け突撃する。
衝突の瞬間、ドラゴンチャリオッツによって発生した衝撃が中継役の身を跳ね飛ばす。
「いつだって、無い道は切り拓けばいいだけよ」
アンネエルカもエーテル光を全身に纏うと綺槍「夢飾る夜空」を構え、起き上がったスケルトンへ突撃した。
衝突の瞬間、強烈な衝撃が巻き起こり、アンネエルカの一撃を浴びたスケルトンの体がさらに宙を舞う。
中継役の1体が配置をずらされたことで、アンデッド達の動きに一部乱れが生じた。周囲の群れの数か所が、欠落をカバーするように向きを変える。
それまで味方のテレパスを中継していたペルゼィックは、その兆候を見逃さない。
(【華組】さん達が切り込んだ場所からそれほど離れていない位置に、死霊術師とその中継役が複数潜んでいるはずです)
丁寧な口調を頑張って維持しながら、ペルゼィックはテレパスをフル活用して中継役や死霊術師がいると思しき位置を仲間やテレパスを使用するエルフ、リザードマン達にも報せていく。
「単身ではザフィーアに到達するのは困難ということでしょうか」
母蜘蛛糸のロープを頭上に飛ばし、立木の枝に絡ませて高い位置へ飛び上がったヴィルヘルミナは、超視覚を駆使してザフィーアがいると思しき場所を調べていた。
しかし遮蔽するものや敵が多く、実現は不可能と判断したヴィルヘルミナは、眼下にいるアンデッド達への射撃に切り替え、エーテルを籠めた光の矢を撃ち放つ。
放たれた一射は敵群のただ中で炸裂し、撒かれた光の破片がアンデッド達を切り裂き、屠っていく。
マトンも天眼を駆使して敵群の真ん中がどのあたりにあるのか、おおよその見当をつけると魔導の潮流を使い、自身のエーテルを燃やして魔力を増幅させる。
「ドッカンドッカンするだけの簡単なお仕事っスー!」
そしてマトンは巨大な炎弾を敵群中央に向け撃ち放つと、着弾した箇所に焔の花が咲き、周囲の敵を薙ぎ払っていった。範囲に中継役も含まれていたらしく、周囲の敵の動きが曖昧になる。
●防戦
遊撃に回る冒険者達がアンデッド達を削り続ける中、残る敵群は南北へと広がりながら進撃を続ける。
これに対しエルフの戦士達もその戦力を南北に広げ、冒険者達と共に迎え撃つ。
「敵が押し寄せてくる形か。アイアンウォールを足止めに使い、敵を密集させるような形を作りたいところだな」
ロドリック・アルカインは自身の傍にアイアンウォールを構築すると、アンデッド群の進撃を塞ぎにかかる。
(帝国過激派……?)
リリアンがアンデッドの群れに向ける視線は冷えている。
(「ボク」を殺したやつらの仲間、だよね……)
帝国過激派を仇と定めるリリアンは、鋼の槍にエーテル光を纏わせ形成した刃をさらに伸ばし、周囲に向け不可視のエーテルを張り巡らせて、範囲内にいたゾンビ達の移動を妨げる。
やがて槍の刺突が肉や骨を穿つ異音が幾重にも重なり、ゾンビ達の生命を削ったところで、ロドリックより射出された水の奔流めいた一撃が追撃となって襲いかかる。
直撃を浴びたゾンビ達は仮の生命が尽きて倒れ、骸に戻り沈黙する。
エルフ達からの射撃や攻撃魔法も加わり、攻撃を浴びたゾンビやスケルトン達が仮の生命を失い倒れていくが、アンデッド群は次から次へとやってくる。
「死者の不協和音などに屈してなるものか」
アルエット・アステールはノービスセイバーを構えると、アンデッド達を迎撃するエルフ達に向け、守護の力を秘めた光を放つ。
アルエットが発する歌声と共にエルフ達は淡い光の膜に包まれ、守りを強化された状態でアンデッド達と激突する。
アンデッド達が倒される中、味方の負傷者も増えていくが、駆けつけたアンジェが癒しの力を秘めた光球を飛ばして負傷者の治療にあたる。
「……アンジェ、にも、できることがあれば……」
さらにアンジェは自分の周囲に負傷者を集めると、光輝くエーテルの波動を放ち、エルフ達の傷を癒し活力を与え、戦闘を支援する。
――現世の先を決めるのはあくまで今を生きるもの。
その信念をもとに、グレイブ・ヤードはスケープ・セイントで危うい味方を庇い、周囲にいる負傷者達に向け光輝くエーテルの波動を解き放つ。
「所詮、従うだけの死人の数でどうにかなるほど、本当の戦争は甘くはないということでしょう?」
グレイブの呟きと共に放たれたヒーリングオーラは負傷者達を包み込み、その傷を癒していく。
「早急に、指揮系統を潰すべきだろうが……その間の守りも、必要か」
そんな判断のもと、これまでサイドヒールやヒール3を駆使して味方の治療に当たっていたサマエラ=フォリウムは、自身の戦術眼をもとにタイミングを見極め、ジャマーによる妨害を実行する。
サマエラの読み通り、包囲にかかろうとしていた死霊術師達からの指示がアンデッド達に届く前に阻害される。
それまで透視を駆使して木々の向こうを見据えていたユークリア・フィナンシェは、周囲にいるエルフ達を呼び集めると、自身の術が届く範囲を説明してエーテルの波動を開放し、能力を向上させる効果を付与していく。
「押されている箇所の出鼻を削ります!」
そしてユークリアもサマエラに続いてジャマーを展開し、宣言通り死霊術師の出鼻をくじく。
味方のジャマーによってアンデッド達がゆらぎを見せ、あちこちに隙間が生じていく。
それまで高所より超視力を駆使して敵陣の動向を探っていた【攻壁】のエルケ・シャルフはそれを察知すると、即座に同じ【攻壁】所属のトゥーリへと伝達する。
「包囲にかかろうとした敵に乱れが生じたみたいなの。方角は――」
エルケからの連絡を受けたトゥーリも、自身の天眼や五感を駆使して状況を把握すると、予め周囲にいる味方に周知していたサウンドボマーを放つ。
――今が敵を押し返す絶好の機会だよ。
爆音のような響きが周囲にいる味方の鼓膜を震わせ、トゥーリの意図を伝達すると共に、それまで仲間と共に状況把握に努めていた同じ【攻壁】所属のハリス・アル・ターミルも、攻めこむために最適な場所へと移動すると、発光スキルでその体を光らせる。
――私のいる場所が、範囲攻撃の起点として最適です。
事前にハリスは自身の光が意図するものを周囲の仲間達に伝えており、トゥーリの『合図』とハリスの光に導かれた冒険者やエルフ達が、アンデッド達を押し返す。
「攻撃仕掛けるよ!」
ラーナフは前方にいる友軍に向け警告を発し、エルフや冒険者達がタイミングを合わせようと構える。
入れ違いに召喚された稲妻めいた光が敵群のただ中に顕現してアンデッド達に絡みつき、その移動を阻害すると、続けて叩き込まれたフレイムゲイズがアンデッド達を押し包み、まとめて打ち砕く。
数の優位があるアンデッド軍は一瞬生じた空隙を埋め戻すも、トゥーリより放たれた大量の小光弾がその頭上より降り注ぐ。
アンデッド群はゾンビやスケルトンといった種を問わず小光弾の乱打を浴びて仮の生命を失い、倒れていく中、生じた空隙の中へハリスが突っ込んだ。
巨大な光塊を纏う開墾の竜爪が勢いよく振り下ろされ、打撃音と共に頭蓋を叩き潰されたアンデッド群が地面に叩きつけられ、沈黙する。
さらに疾風足を駆使して最適な位置に着いたエルケもダマスカス鋼の短弓より矢の飛翔音を響かせ、ゾンビの1体を射抜き、敵の行動阻害に尽力する。
「重傷者と同行者は絶対に死なせないことが最重要項目だ」
同じ【攻壁】に属するフェイサル・セイフは自身の役割をそう定め、ヒーリングオーラを駆使して味方の治療に当たっていたが、アンデッド群の接近を察知すると天へと祈りを捧げ、アンデッド群のただ中に霧を伴う雷の嵐を顕現する。
霧の中で雷の嵐はアンデッド達を薙ぎ払い、仮の生命を断って骸に戻していく。
ここでレティシア・レインフィールが笛を吹き鳴らし、予めその意図を聞いていたエルフ達が隊列を入れ替える。
「前衛は足止めに専念して下さい。中衛や後衛の方は遠距離攻撃で確実に敵の数を減らし、敵の集団を逆に包囲する形で近接戦を行う敵の数を制限しましょう」
天眼で敵の動向を把握しながら、レティシアはエルフ達にそんな戦術案を提示し、賛同を受けていた。
レティシアは太陽光に似た温かい癒しの光でエルフ達の負傷を癒すと、連携を重視した指示を出してアンデッド達を削っていく。
それまでは後方にて指揮を執るグレイオンスに対し、何らかの提案を行っていたイズレンディル・パラリムも、今が反攻の時だと察知して前に出る。
「中央付近にいる敵がやや厚いようですね」
天眼を駆使して戦況をある程度把握したイズレンディルは、その方面に味方がいないことを確認し、不可視の波紋を走らせる。
イズレンディルが起点と定めた場所一帯に不可視の衝撃波がぶちまけられ、周囲のアンデッド達を引き裂き、まとめて葬った。
●遊撃2
エルフや守りを担う冒険者達が構築する防壁に沿って移動する東雲・更紗は、ブレイドの発したエーテルの波動で探知できたアンデッド群の情報をもとに、共同でその群れを捕捉する。
「それでは共同作業と参りましょうか、ブレイドさん?」
「随分と色気のない共同作業もあったものだな……」
短いやり取りの後、更紗とブレイドが使用したジャマーによって、効果範囲内にいるアンデッド達の動きが乱れていく。
ブレイドはジャマーの効果を確認すると、敵群の中でも機動力の高い動物ゾンビや武装したゾンビに狙いを定め、巧みな身のこなしでその1体へと肉薄し、竜爪の籠手と竜爪の短剣による高速三段連撃を叩き込む。
肉がひしゃげ、骨が穿たれる異音が連続で響き渡り、仮の生命を断たれた動物ゾンビがその場に倒れ、骸に戻る。
更紗も残る動物ゾンビや武装ゾンビ達に向け、天地のエーテルをかき集めて自身の魔法力を高めた状態から、無数の小光弾を顕現して浴びせかけ、全身を穿たれたアンデッド群は仮の生命を根こそぎ奪われて倒れ伏し、沈黙する。
「ゾンビに近づかれ過ぎないように気を付けて、負傷者にヒールをかけるわね」
それまで堅甲や輝刃、ヒールを駆使して味方の支援に当たっていたファヌが、アシムベート率いるリザードマンの戦士達への防衛に回る。
「祈雷で一網打尽にするわよ」
ファヌが呟きと共に祈りを捧げると、ゾンビ達がいる一帯を霧が包み、次いで現れた雷の嵐が周囲を席巻する。
まともにその威力を浴びたゾンビ達は仮の生命を刈り取られ、打ち倒される。
「アシムベート様やディズルの同胞たちを援護します!」
レイヤ・ダライ=カホールも自身の火力をもって、アシムベート達の援護に加わる。
「進路を切り開きます!」
レイヤの叫びと共に、光で構成される小鳥の群れが顕現してアンデッド達に群がると、その身ごと仮の生命を削り、屠っていく。
「援護感謝する」
アシムベートはファヌやレイヤ、冒険者達に感謝を述べると、リザードマンの戦士達と共にアンデッド群へ切り込んでいく。
その間にも【流空】のサラ、だわの2人は、アンデッド群を動かしている死霊術師の探索を続けていた。
「このあたりにはテレパス使用者が少ないのか? では積極的に死霊術の指揮系統を断つぞ」
だわは、サラからの連絡と自らの看破スキルで把握した情報をもとに、アンデッド群に向けジャマーを使用すると、予想通りアンデッド群の動きに乱れが生じ始める。
それまでエーテルの波動を走らせ、常にアンデッド達の位置情報を把握していたサラは、ホークアイや看破、超視覚スキルをフル活用し、敵群の中より死霊術師と思しき個体を探り当てていた。
「あれが死霊術師なのかな? 倒しやすくなるよう死霊術師への道を切り拓くつもりだよ」
サラはだわ、そして周囲にいる味方に死霊術師らしき個体の位置や特徴を伝えると、ダマスカス鋼の短弓Reの弦を引き絞り、矢の飛翔音を鳴らす。
エーテルを籠めた鋭い一射が宙で破裂して衝撃波を放ち、巻き込まれたアンデッド達は薙ぎ倒される。
だわも剣 -復元調律に纏わせたエーテル光より長大な刃を形成し、周囲に不可視のエーテルを張り巡らせて、範囲内にいたゾンビやスケルトン達の移動を阻止する。
やがて肉や骨を断つ斬撃音が幾重にも響き、ゾンビやスケルトン達は倒れていく。
そしてサラからの情報を受けた【豹狼】のパルドとウォーゼルが周囲にある木々の間に身を隠しつつ、死霊術師に迫る。
「あの死霊術師以外にも、中継役のアンデッドの位置がわかったよ」
ウォーゼルは周囲へ走らせたエーテルの波動によって把握できた情報をパルドに伝え、パルドは頷きで応じる。
「了解だ。死霊術師には念のため印をつけてから倒すぞ」
そう言うとパルドはエーテルを噴出して空中を駆け、閃光塗弾の内袋を投擲して死霊術師に塗料をぶちまける。
パルドの動きに死霊術師が気を取られている間に、疾風足で一気に加速したウォーゼルが死霊術師の懐へ飛び込むと、己を軸にして旋回するなり、強力な一撃と化した竜爪の剣が振り抜かれ、死霊術師の胴を裂く。
さらに死霊術師の頭上より降下に転じたパルドが竜爪の短剣とダマスカス鋼の短剣を交互に放ち、3度死霊術師を貫いた。
頭上と前方からの同時攻撃を受けた死霊術師は血煙を噴いて絶命し、倒れた傍にパルドが着地する。
それまでフェイクウッドによって、ある程度アンデッド達をやり過ごしていたアルシエラ・ライゼルは、ウォーゼルやサラ達からの情報をもとに近くの木に登る。
「あれが死霊術師なのかな? このまま狙い撃ちさせてもらうよ」
そしてアルシエラはホークアイで発見できた死霊術師に向け、白鞭を振るう。
直後白い光めいたエーテル波が顕現して宙を奔り、不意打ちに等しい一撃を浴びた死霊術師はその身より血を噴いて倒れ、沈黙する。
その近くではナキルもサーマルアイによって冷たい死者の中の死霊術師を発見し、一足で一気に距離を詰め躍り込む。
「ヒトの実家に迷惑掛けんじゃねェ!」
――将来的にはそうだからな。
幾分私情を含む叫びと共に、ナキルの蒼剣アルサリアが翠星のごとき一撃と化して繰り出され、まともに斬撃を浴びた死霊術師は斬られた箇所から血を噴出して横転し、骸の仲間入りを果たした。
●優勢
その後も【流空】、【華組】や【豹狼】ら冒険者達がそれまで潜んでいた死霊術師達を次々と発見し、戦場は指揮系統を崩された死霊術師側からエルフとリザードマン、そして冒険者側の優位に傾いていった。
【2】世界樹防衛・帝国過激派アンデッド軍の迎撃 後編(担当マスター:革酎)
●
フィルエス大森林内、世界樹の東側。
帝国過激派のアンデッド軍団は南北に広がる長大な戦線を西進させ、エルフ達が構築する防衛線に圧力をかけつつある。
そんな中、ゾンビに扮したハッタ・ムラムラが帝国過激派側の司令官ザフィーア・ハイセン撃破に動いた。
(こう見えて、おれはゾンビには詳しいからな)
だが、現実は厳しかった。ゾンビは生者たるハッタを早々に見抜いたらしく、あっという間に彼を包囲。とてもではないがザフィーアまで辿り着けない。
しかし他の冒険者達はリザードマン戦士達と協力し、死者の群れを押し返しながら東進を続けている。
中でもアンデッドの密度が濃いと判明した敵軍中央方向を進む【戦誼】の面々は、死霊術師や中継役ゾンビの位置を的確に見抜きながら、敵の組織力を徹底して破壊していった。
「おっと、あそこで慌ててる奴……ありゃ死霊術師だな」
前衛ながら弓での広い攻撃範囲で死者を次々と討ち斃しているサイラス。全身に大小無数の傷を負いつつ、それでもジャマーで屍共の組織的な動きを阻害しながら前へ前へと出続ける。
そのサイラスをカバーする様に、リリリリスが盾役として更に前方へと押し出していた。
「憐れなアンデッドの皆様。私が優雅で華麗な戦い方というものを教えて差し上げますわ!」
サイラス以上に生傷の多いリリリリスだが、【戦誼】の盾役としては十分以上にその役割を果たしている。そして彼女も死霊術師や中継役ゾンビの位置を戦闘の中で次第に見抜き始めており、手当たり次第ではなく、目標を絞り込んだ上で前進を続けていた。
このふたりが深手を負わずに済んでいるのは、そのすぐ後ろにギーゼラが控えていたからだ。
ギーゼラは前衛達の傷を癒しつつ、大体の居場所が判明した死霊術師に対しては炸光矢を叩き込む。
「ちょっと大きいのを撃ち込みますから、射線からどいて下さいね。出来なければ気合で避けて下さい」
中々無茶な要求だが、それでもサイラスやリリリリスは上手く射線を空けてくれていた。
そのギーゼラの傍らへ、アンデッドに対し果敢に足止めと接近戦を交互に仕掛けていたガルシアが全身傷だらけで引き返してきた。
「テレパス持ちが我がチームには他に居なくて、少し困りました」
などとぼやいていたが、リザードマン戦士が孤立しかかったガルシアを助けてくれたから、何とか治療の為に引き返すことが出来たらしい。
それでもガルシアは決してめげず、治癒術を受けた後には再びジャマー要員として前線へ繰り出してゆく。
だが矢張り、これだけの数を一気に押し返すのは中々骨が折れる。そういう意味では敵をまとめて薙ぎ倒す術を持つユズの存在は大きい。
「見えた。あそこ……死霊術師。皆、すこし退がってて」
それまでゾンビ共の足止めに専念していたユズは魔力を破壊の奔流に変えて、遠目に発見した死霊術師までの間に居る全ての敵を片っ端から薙ぎ倒した。
●
進撃を続ける【戦誼】に続く形でイズル・M・ヴォルゴール、ヘレン・ワーグナー、そしてエフィルミア達のチーム【雀】も、同じくアンデッドの密度が濃いポイントを進み続けていた。
途中、撃破した死霊術師からローブを奪い、敵に扮して動いていたイズルはヘレンとエフィルミアの両名と合流し、ザフィーアの居る大体の方角をふたりに伝えた。
「矢張り、後ろに居たんですね」
既にエフィルミアはザフィーアの位置を大方で予測していたが、イズルからの情報で間違い無いと確信。
「兄上と同名で悪事を働く奴は放っておけない。早く見つけ出そう」
イズルの言葉を号令として、三人は森に蠢くアンデッドを撃破し、時に回避しながら急ぎ、敵後方へと廻り込んでゆく。
エフィルミアは樹上を素早く移動し、敵軍後方を目指す。
そして、見つけた。
「こんな大自然の中で不自然な良い匂い……それに、あの甲高い声」
ヘレンも気づいた。アンデッドや死霊術師との激闘の中でも、これ程に目立つ存在感を漂わせる者は、ひとりしか居ないだろう。
エフィルミアは、ザフィーア発見を知らせる閃光塗弾を上空高くに放り投げた。
ザフィーア発見を受けて、戦局は一気に動き始めた。
それまでジャマーを有効に活用して死霊術師を炙り出していた【戦誼】の海神・江流は、サポート役として樹上を移動していたルベア・ベルニに手信号で合図を出した。
ここまでは主に江流が死霊術師を発見し、ルベアがその死霊術師を樹上からの奇襲で撃破してきたが、ザフィーアが見つかったとなれば、そちらに重点を置き換えるべきであろう。
それは地上を進んでいたエル=バ=ノイアンとシルヴィア・A・カペルにも同じことがいえた。
「ここから先は、ザフィーアまでの道を作ることに専念する。治療は任せた」
「よし行こう……絶対に辿り着いてみせるよ」
ノイアンとシルヴィアは頷き合い、より一層分厚くなってくる敵の守りに決死の突入を仕掛けた。
樹上のルベアも、傷だらけの江流に声をかける。
「まだ、行ける? かなり負傷が重なっているようだけど」
「大丈夫。あのふたりだけに負担を負わせる訳にはいかない」
江流は静かに笑みを返す。
シルヴィアが居れば、回復担当としては十分だ。寧ろ下手に距離を取ってしまう方が危ない。
江流の応えを聞いて、ルベアもこのままザフィーアを目指す腹を固めた。
既に【雀】の三人がザフィーア周辺の護衛アンデッドに対して攻撃を仕掛け始めている。ここで【戦誼】も参戦し、ザフィーアの守りを一気に崩さなければ、戦闘は膠着状態へと陥るだろう。
突進力に富むノイアンが敵陣深くで、そして手広く敵の位置を探り出す江流がやや後方で、それぞれジャマーを発動してゾンビ共の動きを攪乱した。
後は友軍が辿り着くまで、少しでもザフィーアの護衛を削り続けるだけだ。
●
ザフィーアの位置がはっきりしたことで、【パン屋】の面々も動き易くなった。
「今一度、守りを固め直す。全員、集まってくれるか」
チームの回復役と防御支援を担当するゲルトが、仲間達に声をかけた。
ルアンナ・ミュラー、キリク、クローリカ、ベアトリーチェ・カロッサの四人は周辺のアンデッドをあらかた片付けてから、ゲルトの支援魔術範囲内へと急ぎ、駆け寄ってきた。
「もう始まっているようですね。私達も急がなければ」
ゲルトによる防御向上を受けてから、ルアンナは杖を握り直した。遥か樹々の向こうの戦場から、激しい戦闘音が流れてくる。
「よし、行こう。中継役も大体仕留め終えたし、後はザフィーアの守りを削るだけだ」
キリクも弓を構え直した。
ここまでの戦闘で合体魔法なども駆使して効果的に敵を蹴散らしてきた五人だが、対ザフィーア戦の為に、まだ幾らか余力は残してある。
ここでベアトリーチェが樹上へと駆け登った。
ザフィーア周辺までの道のりを確認する為、先行して戦場を見て廻る腹積もりだった。
「すぐに戻ってくるから、それまで少しずつ、接近を始めてて頂戴!」
それだけいい残し、ベアトリーチェは樹上と地上を交互に行き交いながら、ザフィーア護衛部隊方面へと足早に駆けていった。
残った四人は、【戦誼】のジャマー戦術で統率が失われた屍の群れを各個撃破しつつ、敵戦線の最後方を目指す。
「これまでと同じく、私が前に出ます。皆さんは余り突出しない様にお願いします」
得物を構えたクローリカがルアンナ、キリク、ゲルトの三人を守る様にして前へと出た。
動く物を本能的に襲うゾンビやスケルトンに対し、積極的に仕掛けて盾となるクローリカ。敵の注意が彼女に集まったところで、キリクが威力の高い鏃を叩き込んでゆく。数が纏まっていれば、ルアンナの光弾の雨で蹴散らしていった。
やがて、遠くからヒステリックな甲高い声が響き渡ってきた。ザフィーアであろう。
ほぼ同時にベアトリーチェも引き返してきた。既に【戦誼】と【雀】がザフィーア護衛部隊と熾烈な戦闘に突入している旨を報告すると、【パン屋】の一同は気合を入れ直す様に表情を厳しくした。
クローリカが猛然と、ザフィーア護衛部隊の一角へと斬り込んでゆく。
そこにキリクとベアトリーチェの矢が援護射撃を仕掛け、左右から群がる屍に対してはルアンナの魔力が破壊波となって襲い掛かった。
●
ザフィーア・ハイセンは、怒り心頭だった。
何故、自分の居場所がこうも簡単に判明したのか。本人の派手な外観や、キツ過ぎる香水などには全く思考が及んでいない彼女は、ひたすら側近の死霊術師や守りを固めるゾンビ達に八つ当たりの甲高い声を叩きつけるばかりである。
その間も冒険者達は続々とザフィーア護衛部隊に挑み続けていた。新たに【勇牙】のメンバーもザフィーア攻略に加わり、周辺のゾンビ共を徐々に仕留め始める。
「森の野人とはよくいってくれたものですね。その野人に追い立てられる貴女は何でしょうね?」
圧倒的な高火力魔術をゾンビ共に叩き込んでいるリディリディ・トゥラ・イェレミース。その口調は静かだったが、周囲がドン引きする程の怒りの念が滲み出ている。
ザフィーアの姿が見えれば、即座に極大の一撃をぶつけてやる腹積もりだった。
一方、スィーリーンはリディリディとは異なる気分で、目の前の屍達を範囲攻撃魔法で蹴散らしていた。
(皇帝陛下もイダ様も何を考えておられるのでしょう……エフレム様も、与していらっしゃるのでしょうか)
だが今は、ザフィーア討伐に集中しなければならない。その後のことは、また改めて考えれば良い。
時折、ふたりの火力を抜けて数体のアンデッドが接近してくるが、シルク・メイプルリーフの回復支援を受けつつ、リザードマン戦士達のカバーもあって事無きを得た。
そんな中で、カイン・ステラは体のあちこちに妙な火傷を負って引き返してきた。
シルクとスィーリーンがどうしたのかと訊くと、
「いや、少し声真似を……」
と、何とも微妙な回答が返ってきた。
カインはザフィーアに肉迫したところで、死霊術師の声を真似て彼女を中傷する台詞を近くで放ってみたのだが、ザフィーアはお構いなしに火炎魔術を叩き込んできたのだ。戦闘中に無駄話をする部下を偽物と見破ったのか、あるいは本物であってもそんな部下は不要ということか。
「とんでもない上司ですねぇ。まぁ、だからメドゥの指先にも見切られるんでしょうけどぉ」
直前までゾンビの群れを薙ぎ払っていたネフリティス=N=クリスタロスが、笑いながらカインに治癒術を使用してくれた。
頭悪そうに見えても、矢張り宮廷女官長。正攻法で叩くしか無さそうだ。
そのネフリティスからの治療を受けて、カインは再び戦線に引き返していった。
ザフィーア護衛部隊の居る帝国過激派側最後方は、次第に乱戦の様相を見せ始めていた。
ジャマーの連打で統制が取れなくなっているゾンビ共は完全に陣形が崩壊し、無数の野良ゾンビに近しい状況に陥っている。
そこへ、チーム【兵】が到着した。彼らもまたザフィーアの首を狙うことに力を注いでいる。
しかし未だ、ザフィーアの間合いに至る経路は切り開かれていない。今しばらく、周囲の護衛部隊の数を削り続ける必要がありそうだ。
「やれやれ……本当に傍迷惑な連中じゃわい」
グレイ・ナックラーはまず、どの位置の敵を斃せば効率的にザフィーアへの距離が縮まるかを検討した。その上でキリアン・フィッツジェラルドと示し合わせ、最短距離上のアンデッド共に狙いを定める。
「ゾンビの数と位置は大体、把握しました。後は手分けして、掃除していきましょう」
グレイは魔術で、キリアンは強力な矢の攻撃でそれぞれの敵を討ち斃してゆく。狙うべき敵を重複させないことで、ふたりは効率的にザフィーアと冒険者達の間の敵を手早く仕留めていった。
そして徐々に、ザフィーアの姿が冒険者達の視界の中に見え隠れし始めてきた。
●
見えた――そう思った瞬間には、【勇牙】の突撃が始まった。
リザードマン戦士達に突撃経路左右のゾンビを抑えさせつつ、ハヤト=ガラン=ヴォルファングが一気に駆けた。それでもザフィーア周辺にはまだ分厚い守りが残っている。
「ボクが露払いします!」
後方の仲間達の配置に危険が無いと悟ったハルハン・ツァガーンナルが、巨大な光塊を振るってハヤトの邪魔になりそうな敵を片っ端から薙ぎ倒した。
そして遂にハヤトがザフィーアに肉迫する。
「テメェがパワハラ女か。引導渡してやんぜ!」
「なっ……!?」
ところがハヤトはザフィーアの隙を狙って刃を入れる、のではなく、その豊満な乳房を盛大に揉みしだいた。これでザフィーアの怒りが頂点に達し、次にハヤトが刃を振るうよりも早く、反撃の劫火が彼の全身に襲い掛かった。
「な、なんって下品な……!! 無礼者が!! この代償は高くつきますわよ!!!」
流石にこれは拙いとツァガーンナルがハヤトを守る位置に割り込み、ヴィナスとルーンス・ラグネルが慌ててハヤトを敵陣内から引きずり出してゆく。
「全く、何やってんだか……」
「ナルが居なかったら、丸焼けにされてたよ」
呆れるヴィナスとルーンスに、ハヤトは引きずられながら申し訳ないと両手で拝む仕草を見せた。
しかしハヤトの乳揉み奇襲は功を奏した。怒り心頭のザフィーアは極大火力魔法を咄嗟に放った為、次なる攻撃魔法の準備に多少の時間を要してしまったのである。
この僅かな隙を衝いて【兵】のフリーダ=ブロムヴィストが別方向からザフィーアへと迫った。そのすぐ後ろにケン・Z・ブラッドリーとアルベルト・V・シュタールシュヴェーアトが続く。
「啓示にも、おばさん滅びるべしとあります。さぁ、参りましょう」
得物を振り回しながら迫るフリーダの圧力に、護衛部隊のゾンビは次々と蹴散らされてゆく。一方のザフィーアは甲高い声で激しくののしりながら、次なる攻撃魔法の術式発動態勢が何とか間に合った格好である。
「ザフィーアさんよぉ! 懐ががら空きだぞ!」
「帝国の面汚しが! 俺が貴様を討つ!」
ケンとアルベルトが左右に分かれて刃を振るう。ザフィーアはケンに意識を取られそうになったが、それでも辛うじて防護魔法で身を固めたのは流石というべきか。
ならばと、後方で死霊術師に狙いを定めていたセリオス・オーガストが標的をザフィーアに切り替えた。
「往生際が悪いな……ここで死に絶えろ」
強烈な鏃が、セリオスの手元を離れてザフィーアへと殺到する。ザフィーアはこれも辛うじて防ぎ切ったが、セリオスからの鋭い射撃に防御意識を向け過ぎた為、それ以外が幾分、疎かとなった。
●
ここでケンが再び、吠えた。
ザフィーアは思わずケンの咆哮に意識が奪われ、その隙にアルベルトとフリーダの接近を許してしまった。ふたりの振るう刃がそれぞれ、ザフィーアの肩口と脇腹へと突き刺さる。
魔力の防御で致命傷は免れたものの、その豪奢な衣装は瞬く間に鮮血で紅く染まった。
「ま、待ちなさい! 森の野人共の倍額の報酬を支払いますわ! だから、わたくしにつきなさい!」
この期に及んでザフィーアは、冒険者達を買収しようと必死になった。
だが、その言葉は誰の心にも響かない。この場に居る冒険者達は、ザフィーアに対して然程の好感を抱いていなかったのだ。メドゥの指先にすら見捨てられる程の高慢で我儘な性格は、ここぞという時に最大の災いとなって自身に降りかかったのである。
ツァガーンナルがその自慢の耐久力を活かして再び、ザフィーアの正面に迫った。ザフィーアの攻撃魔法はこのツァガーンナルとフリーダで徹底的に凌ぎ切る。どんどん消耗してゆくふたりの体力は、ルーンスが手早く回復していった。
そしてヴィナスが斬り込むと同時にセリオスが別方向から鏃を撃ち込み、ザフィーアの攻撃への集中力を削いでゆく。この時点で最早、勝負はついていた。
ザフィーアは尚も何かを声高に喚いているが、ケンの突き立てた刃がザフィーアの心臓を貫き、アルベルトの振り下ろした一撃が憐れな宮廷女官長の脳天を叩き割った。
焦点が定まらない両眼をかっと見開いたままのザフィーアは、その場でぐらりとよろめき、そしてゆっくりと崩れ落ちた。
遂に、ザフィーアは死んだ。
だが勝負は終わっていない。死霊術師はまだ数人が残っているであろうし、野良ゾンビと化したアンデッドの大群が周囲にうようよと居る。
これらを全て平らげなければ、フィルエス大森林の危機が去ったとはいえないのだ。
エフィルミアが、ザフィーア討伐成功を意味する閃光塗弾を天高く放り上げた。
普通ならこの一報で帝国過激派は総崩れになるところであろうが、今回の主力はアンデッドだ。首領が斃されたからといって、撤退してゆくものは皆無である。
「負傷者は回収だ、急げ!」
ヴィナスの号令に応じて、リザードマン戦士達が傷ついた友軍兵を次々と後方へと移送してゆく。
一方で【パン屋】、【戦誼】、【兵】、【勇牙】、【雀】をはじめとする面々は残敵掃討へと着手した。
「ザフィーア・ハイセン……振られた上に、買収にも失敗か……あんな人物が部下では、皇帝も大変だ」
野良ゾンビ掃討戦に入ったところで、シルヴィアは小さく肩を竦めた。
しかし後で捕縛された死霊術師から聞いた話だが、どうやらザフィーアは恐れ多くも皇帝の正室の座を狙っていたらしい。そんなことを皇子レイウェスト・バルダスが知ったら、どう思うだろうか。
「考えただけで、空恐ろしいですね」
圧倒的な魔力でアンデッド共を焼いているルアンナも、背筋が寒くなった。
そんな中でただひとり、リディリディだけはとどめを刺し損ねたとぼやいていた。
【3】エルフ集落防衛・避難民の保護(担当マスター:おおくまねこ)
●
「跪き首を垂れ、臣下の礼を示し前口上の挨拶を経て許しを賜らなければ皇帝陛下からお言葉すら頂けません。許しを賜った後も目線は足元以上に上げない事が望ましく、要件を終えた後も目前で起立しない様に」
「ヒヒヒ、承知しタ……」
エルフの集落に向かう道中、エイル・アーティライトはアダムに礼儀作法の指導をしていた。何せ相手は帝国皇帝だ。他国からの使者とはいえ、無礼者であれば即座に排除されてもおかしくはない。アダムはエイルの指導を真面目に聞き、礼儀作法の身振りを真似ていた。
「アダム、ドンからの大森林の地図と手紙を見せてもらいたいのだけど」
ザザ=ステルヴィナはアダムに頼んでみた。手紙に残留思念感知を使えば、ドンの真意を知ることができるかもしれないという狙いだ。
「地図ハいい。ダガ手紙はダメだ」
しかし、アダムは手紙を見せることを拒否した。無理強いできる状況ではなかったので、ザザは引き下がった。ザザが地図を手に取り残留思念感応をかけると、アダムのただならぬ使命感が伝わってきた。さすがにドンの思念は残っていなかったらしい。
「アダム、栗鼠を会談に同行させてもらいたい。いいかい?」
ルチル・プルメリア・グレイハーツはペットのラトを掌に載せ、アダムに聞いてみた。
「ヒヒヒ、イイだろう」
アダムは頷き、ルチルのペットの同行を受け入れた。
「サチコ、アンタにもこいつを連れて行ってもらいたいんだがいいか? エーテルリンクしてるからアンタの居場所が他の班にも分かる」
「そういうことでしたら問題ありません」
ナハティガル=ラーがナハト・シュライバーの肩の上にいる栗鼠を指差して尋ねると、サチコはコクリと頷いた。
●
世界樹から南東方向にある『聖鳥』氏族の集落へ向かった冒険者達は、ブラックデスのゴブリン部隊と共に集落の西側のやや開けた場所にビッグオウムで降下した。ここから徒歩で300mほど進んだ森の中に聖鳥の集落はある。
一方、馬や熊、狼などの足の早い魔獣に騎乗した帝国過激派の授恵者と死霊術師達が、北側から聖鳥の集落へと向かっていた。数はおよそ百。このまま進めば、冒険者達が集落の西に到着するのとほぼ同時に集落に到着するだろう。
「行くぞ、栄光ある帝国の兵達よ。皇帝陛下の露払い、しかと果たして見せよ!」
ゴブリン・ロードのアルヴァスは襲撃部隊の最後尾から、魔獣のゾンビに騎乗した授恵者と死霊術師からなる襲撃部隊に突撃を命じた。
●
「急いでこの村を出るんだ! 帝国の死霊術師達がこの集落を襲いにやってくるぞ!」
ビッグオウムに取り付けた籠で運んできた愛馬で森を駆け抜け、敵より先に集落へと辿り着いたアリオン・リューは大声を張り上げた。避難民達はまだ帝国過激派達の接近に気付いていない。突然現れた騎馬の戦士の警告に、危険を知ったエルフ達が慌て始める。
「キューキュキュー!」
サロのペットの大鼬も大声で鳴きながら集落を駆け回り、エルフ達に注意を促している。その背中には『敵が北から接近中。西側から避難と防衛援助の為向かっている。退避のための準備を。冒険者ギルド所属サロ』と書かれた手紙が貼り付けられており、それに気付いた者は顔色を変えた。
「悪い奴らが来るよ! 急いで逃げて!」
【花鳥】から先行したサフィラ・アズラク・ナハルハルアリーブもアリオンと手分けして集落を駆け回り、まだ敵に気付かず避難生活を送っていた避難民と世話係の住民達へ警告を発していた。
(まだ敵は来てないよ! この人達を安全な場所に逃がす班の準備をお願い!)
避難勧告をしつつ、合間にサフィラはテレパスで村に走ってきている仲間達へと連絡を送った。やがて、冒険者達の本隊が集落の西に到着したのとほぼ同時に、北側からエーテルの炸裂音と獣達の唸り声が聞こえた。
●
「来たな! 作戦開始だ!」
集落を突っ切り、草木に身を隠しながら北へと進軍していた【遠足】のナハシュは樹上から、ジャマーを発動した。何者かの妨害と察し、敵の授恵者達は周囲を探り始めるが。
「さて、それじゃ遊ぼうか」
ヨル・スレイマンはエーテルを込めた模造銀貨を射出し、魔獣の頭部を撃ち抜いた。
「魔獣の強さはバラバラだ! 背中に乗ってる授恵者にも気を付けろ!」
前髪で本能的に魔獣たちの強さを感じ取ったロウトフェダーが言った。ロウトフェダーは大地を駆け、煙幕弾でナハシュの隠れている樹も含めた一帯を覆い隠す。仲間の陽動を受けて、ナハシュは樹上をするすると駆けた。
「まだ避難が完了していない。敵を集落に近づかせるわけには行かんな」
【瑞雨】のカルフ・オルヴォは過激派授恵者達が騎乗している魔獣を狙い、足を狙って太刀を振るう。決して深追いはせず、攻撃と離脱を繰り返して敵の機動力を削ぐことに専念した。
「ええ、カフさん。エルフ達を守りましょう……あ、あそこの木の陰に授恵者が隠れています。気を付けて!」
セオ・ウルジオは察知した敵の存在を教えつつ、カルフが足を落とした魔獣にすかさず接近し、首を落としていく。ゾンビ達をコントロールしている術師達はかなり後ろの方に陣取っているようだ。前衛達を排除しなければ、術師の首は取れそうにない。
「首を落としても止まるか分かんねえから……足を狙うか」
ダムド・フィリスは木の上とツリーハウスの屋根の上を移動しながら、魔獣たちの死角から暗針で奇襲を仕掛けている。狙いはカルフと同じく、乗騎となっている魔獣の足だ。乗り物としては使い物にならなくなったと判断した授恵者達は、魔獣から降り、徒歩で冒険者達と交戦を始めた。
「やはり数が多いな。俺達は機動力の高い奴だけを優先的に狙おう」
「了解さぁ。まだ、村人らの避難が終わってないから、うちらが頑張って、時間を稼がんとさぁ」
【花鳥】と共に脱出していくエルフ達の護衛についていた【赤翼】のエイル・ビュセファスとフリューリングスルフト=ティエラは【瑞雨】の足止めをすり抜けてきた魔獣のゾンビ達の接近をフリューリングスルフトの超聴覚で察知し、カバーに入っていた。
【瑞雨】は奮戦したが、いかんせん数が少なく、嵐のように押し寄せて来る魔獣達の多くは彼らのいる場所を通過して村へと接近していく。だが、その一方で【瑞雨】と【赤翼】に守られた【花鳥】達はエルフの避難民たちを誘導し、西へと抜けることに成功していた。
「村の皆さんは我々と一緒に避難を! 二列になって移動して下さい!」
「西側の方が安全です。急ぎましょう」
冒険者達が来た西側へも敵が現れ始める中、コルネリウス・アーラとフクシア・S・シュルツはエルフ達を誘導し、敵が少ないルートへと先導している。全員がテレパス使いである【花鳥】を含め、テレパス使いはこの戦場に数多くいたため、情報の共有はスムーズに行えている。
「大丈夫だ、アンタ達は傷つけさせない」
【花鳥】に同行しているシグルド・オルセンは殿を務め、後方から追撃してくる魔獣達を槍で打ち払っていた。
「こっちの方が敵が少ないよ! 強行突破にゃー!」
先頭を行くサフィラは燕が滑空するような優雅な動きで大地を移動すると、側面から魔獣の群れに接近し闘気塊でまとめて叩き潰した。
「罠を仕掛ける暇は無さそうなのだ。護衛を頑張るのだ~!」
大福はペットの粽と手分けして安全地帯を探している。捜波と超聴覚、ホークアイを扱える大福は、【花鳥】のレーダー役だ。
「アルヴァスの位置は分かる? エルゼリオ」
「分からない。生い茂ってる木が邪魔で上からでも敵部隊の全貌は見えないから。でも多分後方だと思うよ」
ロゼットの言葉に、エルゼリオ・レイノーラは首を横に振った。彼女ら【雷槌】は押し寄せて来る魔獣のゾンビ達と交戦しつつ、アルヴァスの迎撃準備を整えている。
「姿を見せる前に罠を張っておきましょう。その間、護衛をお願いします」
アリッグ・レイダーは持参したロープを木の枝に引っ掛け、草色に塗装して偽装している。持参したロープは3本。全てセットするにはそれなりの時間がかかる。
「チッ」
樹上から帝国過激派の授恵者を不意討ちしようとしていたアーテミシアは、逆に魔矢で攻撃され、舌打ちしながら木から飛び降りた。
「テメエらを口車に乗せたやつがいるだろ。どこに行ったか吐きやがれ!」
アーテミシアはそのまま授恵者と交戦を開始する。魔矢を食らって流血しながらもまだ余力を残していたアーテミシアが戦槌を一閃すると、ひ弱なキャスターは一撃で背骨をへし折られ、魔獣ゾンビから墜落した。
「あそこだ」
超聴覚・超視覚・捜波を駆使し、敵の接近を予測していたレタラ・スマリは敵の乗るゾンビ馬に狙いを定め、風読みの矢で狙撃した。完全不意討ちを受けたゾンビ馬は走行中に前足を破壊され、後ろに詰めていた別の騎兵とクラッシュ事故を起こした。直後、サロがレタラが転倒させた魔獣ら目掛けて流星射を打ち込んだ。
「これだけいっぱいいると殺しがいがありますね。楽しいです」
セラフィナ・M・ベイリーはフレイムゲイズで魔獣の群れを焼き払いながら、にこにこしていた。セラフィナにとってはエルフの集落の安否はぶっちゃけどうでもいいのだが、敵を屠るのは胸が躍るのだ。
●
一方その頃、集落の東側では皇帝ヨゼフと交渉を試みるアダムのサポートの為、十数名の冒険者達が彼の護衛として同行していた。
(アダム、本当に大丈夫なのか……?)
マントを被り、偽アダムに変装した【影護】のギャメルはドン・ゴーフルの行為を黙認することに矛盾を感じつつも、自慢の嗅覚で索敵をしていた。しばらくすると、北西の方から風に乗ってすさまじい腐臭が漂ってきた。
(すげえ腐臭だ……! みんな、ゾンビが来るぞ!)
ギャメルはテレパスで味方に警告した。
「北西からですね。アダム、エリアサイレンスを使います。皆さんもどうぞ中へ」
オゴスはアダムに一声かけ、自分の周囲数メートルを静寂に包んだ。これで攻撃態勢に移行するまでのあいだは、音を完全に遮断したまま進むことができる。さらにオゴスは、敵の死霊術を妨害するため、ジャマーも発動した。
「アダムに敵を近づけさせるわけには行きません。陽動に行って来ます」
陽動に飛び出したのは、【影護】のナハトとザザ、アデッサ・ハーレイと【操蝶】の面々だ。ナハトが前列にいた魔獣のゾンビに矢を撃ち込むのに合わせ、ザザとアデッサはジャマーを発動した。すると、ゾンビ達が暴走を始め、制御が甘くなった。その隙を見逃さず、魔獣ゾンビの群れに飛び込んだアデッサの剣とナハトの矢が魔獣たちを次々と打ち倒していく。冒険者達の強烈な奇襲で敵の進軍は停止し、その場で乱戦となった。
「陽動、頑張ろう」
わざと目立つように全身を発光させているファム=ゴートはタイダルストリームを放った。エーテルの水流は60メートルほどの距離の地面を抉って即席の堀を作りつつ、敵の隊列に風穴を開けた。
「シエラ、ジャマーを頼む。死霊術に対してはジャマーが有効だ」
(アダム以外に懸念があるとすればシエラの地元が戦場である事か。集落から離れた場所にして良かったとも)
シエラ・フォン・リシェイラの隣にいたルチルは、傍らの彼女に声をかけた。
「はい」
(飛び出してきた森ではあるけど、大切な故郷だから。少し離れた位置に配置してくれたルチルさんには感謝しています。近いと感情的になってしまいそうで……)
シエラはすぐにジャマーを発動する。たちまち、二人の周囲にいた魔獣ゾンビ達が暴走を始めた。ルチルは炸光矢を放ち、魔獣達をまとめてバラバラにした。
「シャー!」
だが、暴走した魔獣ゾンビの一体が本能のままにファム達へと突進してきた。ファムの光っている体に惹きつけられたのだろう。ファムの前にいたシエラは刀を抜くと、襲い掛かってきたワニゾンビの突進を受け止め、返す刀で首を切り落した。
「やるじゃないか、シエラ」
「最近練習したんですよ!」
●
敵の陽動を仲間に任せ、アダムの護衛についていたナハティガルとオゴス、ネーヴェ・グラヌローザは、見事敵が途切れる所まで逃げおおせていた。
「ここカラは影移動を使う。足止めは頼ム」
「分かった。アダム、油断はするなよ」
「今更ですが、ヨゼフと対話できるんですか? くれぐれもおっ死なないでくださいよ」
「ヒヒ、アリガトウ」
ギリギリまでアダムの護衛についていたナハティガルとオゴスに見送られ、アダムは木の影の中に沈んでいった。
「……無事に行きましたね」
「いや、まだだ。アダムへの追撃を阻止しなければ」
「敵の足止めですね。お付き合いしますよ」
影から影へと瞬間移動していく能力を持つアダムだが、ナハティガルには彼の行方が追えていた。なぜなら、捜波で索敵を行っていた際、彼にもマーキングを施していたからだ。【影護】はそのまま、アダムに追いつきそうな敵の排除へと向かった。
●
「さて、ここからですね」
ネーヴェの手伝いも得て施した森林迷彩で見事に周囲の風景に溶け込んだキーゼは、協力者の隠れた援護もあり、他の冒険者達にも気づかれないままアダムについてきていたのだ。
「流石に速いですが……なんとか食らいつけそうです」
重たい装備を全て外し、武器すら携帯していないキーゼは、影移動で出たり入ったりしながら高速で森を移動するアダムに何とかついていった。
(キーゼさんは大丈夫でしょうか……)
自身も護衛に混ざりつつ、天眼でさりげなくキーゼに注意が向かないよう護衛の位置を誘導していたネーヴェは、彼の身を案じたのであった。
●
「まずいです、もうじき柵が破られます……!」
防衛柵近くの樹上から木で魔獣達を狙撃していたゲルダ・クラインは表情を歪ませた。真っ先に危急を知らせたアリオンをはじめ、数に劣る冒険者達は押し寄せて来る魔獣のゾンビや授恵者相手によく戦っていたが、ついに防御柵の一か所が破られようとしているのだ。
バキキキ! 木材がへし折れる鈍い音と共に、ついに村の防御柵は破られた。だがその時、ゲルダの後方から飛来した炸光矢が魔獣ゾンビの群れと激突して炸裂した。それに続くにように、十数本の矢が魔獣達へと浴びせかけられる。
「ゲルダちゃん! 村で戦える人達を集めて来たわ!」
「リサちゃん!」
炸光矢を放ったのはリサ・ベイカーだった。彼女の後ろにはリサと共に武器を取り戦う非授恵者のエルフ達が二十名ほど。防衛柵の内側から、矢を魔獣を射かけてくれるそうだ。
「『ストレガ』は同胞と共にあり。サチコ殿、私の後ろへ」
ストレガ・L・リベルガストラはブラックデスらと共に、集落の北側の柵の少し内側で敵を待ち構えていた。銃眼光壁を展開し、ストレガはサチコと共にその裏へと身を隠す。柵を破り、集落へと突撃してきた魔獣ゾンビ達は不可視の重力場によって足止めされ、動きを止めた。その隙に、銃眼光壁の裏から飛来した荒れ狂う光弾の雨とエーテルの暴風、そしてサチコの【消えない炎】が魔獣たちを貫き、吹き飛ばしていく。
「助かったよ。ありがとう。みんな、あと少しだ!」
アリオンが声を上げ、援護に乗じた冒険者達は敵を押し返していく。
●
「ここか! 見つけたぜ、死霊術師共!」
冒険者達と帝国過激派達の死闘が続く中、ロウトフェダー、ヨルの援護を受けたナハシュは身を隠しながら魔獣ゾンビの群れを突破し、死霊術師達の待機していた後衛まで辿り着いていた。
「喰らえ!」
ナハシュがジャマーを発動したその瞬間、魔獣のゾンビ達が死霊術師達のコントロールを離れ、本能のままに暴走し始めた。不意を突かれた死霊術師達に動揺が走り、前線のゾンビ達も統制を失う。中には、自分に騎乗していた帝国過激派授恵者に襲い掛かる個体もいた。慌てて自分達の防御を固めようとする死霊術師達だが、真近でジャマーを受けているゾンビ達の動きは鈍い。さらに、ナハシュの後からついてきていたヨルも銀貨で死霊術師達を狙撃したことで、敵の戦線はさらに混乱した。ナハシュは敵が態勢を立て直す前に三人の死霊術師を切り伏せた。
「貴様ら、生かしては帰さぬぞ!」
「やばい! 気付かれた!」
アルヴァスが放った火炎を躱したナハシュは身を翻す。アルヴァスはなおも撤退していくナハシュらに追い縋り、ロウトフェダーに向けてメテオライトを放った。
「がはっ!」
降り注ぐ光弾に撃ち抜かれたロウトフェダーが口から血を吐く。ナハシュをここに送り込むまでの間、ダメージを受け続けていた彼女の体力は、ついに限界を迎えたのだ。
「これは奥の手だったが……!」
ヨルは光縛封を放ち、アルヴァスを光の結界の内へと閉じ込めた。
「おのれ、光縛封か! うっとおしい連中じゃ!」
アルヴァスは光の壁を魔法で破壊し、強引に結界を突破した。だが、彼が封鎖を脱した時、既にナハシュ達は姿を消していた。
「くそ、死ぬなよ、ロウトフェダー!」
ナハシュとヨルは重傷を負ったロウトフェダーを支え、全速力で後退していった。
●
「! ゾンビ共の統率が乱れた! 一気に攻撃を仕掛けるのだ!」
魔獣達のコントロールが甘くなっていることに気付いたストレガは大声で叫んだ。その事実はテレパス使いの冒険者達の間で素早く共有され、冒険者達は一気呵成に魔獣達を撃滅していく。
「今戻った! エルフの人達は安全な場所まで逃げたぞ!」
「おれ達も加勢する!」
西側から走ってきたエイルとカルフが言った。エルフ達の護衛の任務を終え、【赤翼】と【瑞雨】が帰還を果たしたことで、防衛柵付近の危険な戦局は冒険者側へと傾きつつある。
「ええい、もう我慢ならん、儂が冒険者共を焼き払ってくれる!」
とうとう痺れを切らしたアルヴァスは生き残っていた死霊術師の一人に指揮権を預け、集落へと突撃してきた。
「てめえが大将だな! 命取ったらぁ! ロードがナンボのもんじゃ!」
ブラックデスのゴブリン達はアルヴァスへと挑まんと気炎を上げる。
「やめなさい。あいつは危険です。冒険者に任せなさい」
「へい、サチコ姐さん」
が、サチコに制止され、ブラックデス達は魔獣ゾンビの生き残りの相手をすることにした。
「エルフさん達も下がって! こいつの相手は私達がします!」
リサに促され、エルフ達も後方へと下がる。
「こいつ、危険さぁ!」
フリューリングスルフトが叫んだ。冒険者達はアルヴァスを迎撃せんと、射撃攻撃を放ちながら老ゴブリンを包囲していく。しかし、アルヴァスは老人とは思えぬ動きで攻撃を回避し、高速で移動しながら辺りに爆炎を撒き散らした。
「出たな、アルヴァス! お前に殺されたケンタウロス達の恨み、ここで晴らしてやる!」
「人馬じゃと? 帝国を荒らす亜人共を殺して何が悪い! 逆に感謝してほしいくらいじゃ!」
アリッグはアルヴァスの名を呼び、アルヴァスの注意を引き付けた。同時に、アルヴァスの進行方向の樹上に潜んでいたダムドへと手信号を送る。
「今だ!」
ダムドはアリッグが仕掛けていたロープをぐいっと引いた。その瞬間、滑車の原理で持ちあがったロープにアルヴァスは足を引っかけられ、地面にすっ転ぶ。
「おのれ、小賢しい真似を……! ぐわっ」
「キミはもう、おしまいだよ!」
アルヴァスはすぐに起き上がろうとするが、タイミングを合わせたエルゼリオの強襲をまともに受け、再び地面に突っ伏す。
「このゴブリン、なんだか偉そうですね! 殺しましょう!」
「見つけたぞジジイ、往生しやがれ!」
「チィ!」
老ゴブリンが立ち直るより早く、セラフィナの魔法攻撃とアーテミシアの戦槌がアルヴァスへと襲い掛かる。アルヴァスはエーテルバリアでセラフィナの攻撃を防いだが、そこが限界だった。振り下ろされたアーテミシアの戦槌が肩にめり込み、アルヴァスは血へドを吐く。さらに、アーテミシアと対峙するアルヴァスの側面にロゼットが接近した。
「消えなさい、アルヴァス!」
己の死期を悟ったアルヴァスは、今わの際に怨敵の姿を幻視する。
「おのれ、イダ! お主さえいなければ帝国は……! ぎゃああああ!」
直後、光輝く祭刀に薙ぎ払われたアルヴァスの肉体は鮮血を噴き、それが老いたゴブリン・ロードの遺した最後の言葉となった。リーダーを失い、残る敵にもはや勢いはなく、様相は掃討戦に転じていく。
「もう大丈夫のようです。皆さん、村に戻りましょう」
戦いが終わってすぐ後、テレパスで敵を殲滅したという知らせを受け取ったコルネリウスは、保護していた避難民へと微笑んだ。
【イメージノベル】(執筆担当マスター:桃谷かな)
木々の間を走り、影を渡り、森の中を縦横無尽に進んでいく小柄なフードの少年を、森林迷彩を纏った男――キーゼが全速力で追いかける。
影から湧き出たアダムがようやく立ち止まったかと思えば、そこには一軒の石造りの建物が現れていた。
よく見れば随分と古く、過去に何者かが放棄した邸宅だろうと推測できる。
(……これ以上は行けませんか)
足を止め、邸宅の周囲を観察するキーゼ。何を勘違いしたのか玄関前で跪き、首を垂れたアダムの周囲には、物々しい装備の兵士たちが集まっている。
(身内の不始末のケリを自らつけるつもりですかね……彼は――)
キーゼは茂みに身を隠し、邸宅の中へと消えていくアダムを見送った。
●
「――レイウェストが余に謁見を求めておると申したが、用件はそれだけか」
「……ハイ」
教わった通りに、アダムの目線は皇帝ヨゼフ・バルダスの足元に固定されている。
邸宅内の広い一室。木椅子に身を預けたままのヨゼフが、無価値なものを見る目でアダムを見下ろしていた。
「ドンの手紙ノ通り……。レイウェスト皇子ハ、今や王国にモ、同盟にモ……世界各国から利用サレていル……」
顔を俯けたままのアダムが、笑んだ。
「寄る辺を失い王国に靡いたか。……して、その愚息と余を引き合わせようとは、小鬼共の王は何を企んでおる」
「……ゴブリンの、未来のたメ。帝国ノ君主は、一人でイイからナ……ヒヒヒ」
ヨゼフはドン・ゴーフルからの手紙をくしゃりと握り潰し、しばらく黙した。
アダムの懐でルチルの栗鼠がじっと耳をそばだてる中、ヨゼフが纏った征竜の具足が硬い音を立てる。
「……まあ良い。仮にも皇子の地位にある者からの正式な申し入れとあらば、拒む理由はなかろう」
「ヒヒヒ……承知しタ……」
目の前に投げ落とされた一枚の紙を掴んで、アダムは立ち上がる。
くるりと踵を返し、小走りに扉を目指した――その時。
窓から見える遠くの空が、白く光った。
「――!」
――我が領域を侵す者達よ。立ち去れ。
思念のような何かが聞こえて、アダムは思わず背後の皇帝を振り返る。
木椅子の前に佇む、壮年の偉丈夫。その眼前に、七色の光が渦を巻いて漂っていた。
世界樹か、と。
ヨゼフが口元を歪めた直後、光は見る間に膨れ上がり、部屋のすべてを呑み込んで――消えた。
(監修:アルパカコネクト運営)
●
トクン。トクン。トクン。
世界樹の内部は鼓動を打つように揺れていた。
「これが世界樹の中ですか……」
「明かりが必要でございましょう。どうぞ」
脈打つ不思議な感覚に、Re✕が見回す中、ハリーヌ・ヨツユビはランタンを掲げた。他にも用意していた明かりが灯され、脈打つ巨大な木の幹の姿が浮かび上がる。
天井も、壁も、床も。いかにも木の幹といった見た目でありながらも脈打つ、それは不思議な光景だった。
「どうやら、ルカンドラでも通れそうだな」
ヴァンゲルス・ロッドが振り返った先では、冒険者や護衛の兵士に囲まれた一頭のケンタウロス――ルカンドラが今まさに、世界樹内部へ入って来ようとしていた。
身長が三メートル程ある彼でも、世界樹の内部は屈む事なく通れる高さがある。あとは、十分に幅のある通路を確保しながら進むのが良いだろうと、ヴァンゲルスは偵察に向かう。
「ルカンドラさん、失礼しますね」
エルナ・クルプファルツは彼の肩にリスさんを乗せた。張りつめたこの空気の中で、小さなもふもふはちょっとした憩いになってくれるかもしれない。勿論、リスさんには上方の警戒役をお願いしてある。
「私は最後尾で後ろを見ます。左右と前方の警戒はお願いします!」
「了解!」
移動するエルナにアルバス・ロウル達が頷き返す。【白木蓮】と【睡狼】の合同チームは他の冒険者も交えながら、ルカンドラの周囲をしっかり固めていた。
「失礼。大事な物だからね、こうしておくのが良いと思うんだよ」
ルカンドラの一歩後ろ、彼が背負うエーテル石が入った麻袋に寄り添うハーヴィは、麻袋にしっかりマントを被せて漏れる光を覆い隠す。
(エーテル石を下ろす瞬間こそ、最も警戒すべきだよね)
そう判断していたハーヴィは、極力スキルを温存することを胸に留め置きながら、ルカンドラとエーテル石に寄り添った。
「ニルヴァーナ様にルカンドラ様……そしてエーテル石。今回の決戦の要ですし、しっかりお守りしないといけませんね」
その様子に、フェミナ・ノ・リビディーネが口にした言葉は、今ここにいる皆の気持ちを代弁するものだったに違いない。いくつもの頷きが返ってくる。
テス・アウレアも、そうした冒険者の一人だった。
「必ず護ります」
聖印を握りしめながら、テスはニルヴァーナとルカンドラ、そして世界樹へ深々と礼をしながら誓う――その髪は、ふわりと揺れながら発光し、世界樹の内部を照らしている。
(目立つテスさん……誘蛾灯みたい?)
そんな姿に、エルシー・サリバンはふと夜更けに灯す明かりを連想するが、この際それもアリだろうと思う。明かりに敵が寄って来るなら、それだけルカンドラは安全になるのだから。
(だったら私がテスさんも護衛するよ!)
そう気を引き締めるエルシーから、唇にさした茜狐の口紅の香りがふわりと漂う。まるでそれが大切な物を繋いでくれるかのように、別動隊からの情報が飛んだ。
「こっちのルートは敵の掃討が済んでいるそうだ。行こう!」
テレパスを受け取ったアルバスも頷き、皆を誘導するように前に立つ。
(ここ……ここも……あとここも、外れ……と)
「……二十三歩先、脇道が、あります……気を、付けてください」
「ありがとう」
エルは、テレパス等で皆から受け取った情報も反映しながら地図を作り上げ、一行のナビ役を担っていた。中枢と思われる方角へ進みながら、ふと想うのはハイアルヴ――いや、イダ・バルダスのことであった。
(ここなら、わたしにも聞こえる? ……あなたの望みは、何……?)
尋ねるように、求めるように想うエルだが、ハイアルヴの声は聞こえて、こない――。
「――いる」
セロンガード・シュタインドルフが短く告げる。何が、とは言わなかったが、この状況下でそれは一つしかない。
敵だ。
「ぼくが直接確認する、よ」
探知用のエーテルを走らせているセロンガードの脇を抜けて、ティトが進み出る。二十、二十一、二十二……三歩目。
脇道から飛び出してきたのは、槍のように鋭く刺突してくる蔦だった。その背後で蠢くのはキノコだろうか。その周囲を、ふよふよと浮遊するカビのような塊。あれもまたクリーパーだと直感する。
ティトはそのすべてをテレパスで共有しながら、短剣を素早く構えた。
(さあ、生きて帰りましょう、必ず――)
エデル=マグノリアが詠唱する。舞い狂う白花とともに、古き言葉で高らかに……それに鼓舞されながらカメリア・ローレンスは跳躍し、濃密な胞子の塊を避ける。その間にハリーヌは傍らに光の玉を形成し、辺りが良く見えない者の為に周囲を照らしていった。
「今だ、狙ってくれ」
両手を伸ばしたナタリア・フィッツジェラルドの指先から宿った、淡い透明な光で皆の力が強化されていく。アルバスは頷くと、一気にキノコ型クリーパーへの距離を詰め、振り上げた大剣で強打する。
「エーテル石を特別に狙っている、という訳では無さそうですか……?」
「そうね」
そんな敵の動きを確認しながら口にしたセロンガードに、頷き返したのはアウレーリア・フォン・ネーベルベルクだ。同時に緋の鳥籠が発動し、出現した幻影の火焔がクリーパー達の足を止める。
「……エーテル石、というよりは、わたし達が持つエーテルそのものを狙っているように感じられるわ」
ここにはエーテルを持つ者達が大勢集まっている。クリーパーにとって人の持つエーテルもエーテル石の持つエーテルも同じエーテル、わざわざ遠いエーテル石を狙う理由はなく、まずは手近な獲物から、ということなのだろう。
(それなら、エーテル石は護りやすい)
殿下の覚悟を、無駄にすることは許されない――セロンガードはティトの後ろから鋭く矢を放つ。
「あれは俺が引き付ける!」
そこにアルバスが言葉と共にエーテルを叩きつけ、自分の方へ引き付けた。クリーパーの反撃に、すぐさま駆け付けたのはナタリアだ。
「このクリーパーは回避能力を削いでくるようだな? だが……」
きちんと備えてあるぞ、とナタリアはアルバスのエーテルを活性化させ、抵抗力を増幅させる光を放つ。
「誰一人として死なせはしないわ」
的確に位置取ったエデルが更に治癒の祈りを捧げると、足元から光る花が舞い踊って傷口を優しく癒していく。その淡く光る白花は、瞬く間に傷を拭い去り、クリーパー達に付け入る隙を与えない。
その間に、ティトは蔦植物型クリーパーを切り裂き、そちら側の掃討を試みていた。
「加勢するよ」
敵の攻撃を回避しながら近付いたカメリアが剣を振るって不可視の衝撃を飛ばし、クリーパーの蔓部分を切り裂く。その一帯を、更にテスのフレイムゲイズが包む――。
「焼き払え!」
蠢いた炎は辺りに漂う菌糸ごと、クリーパーを燃やし尽くした。
「回復します、怪我のある方は、集まってください……」
フェミナは皆に声をかけると、今の戦闘で傷を負った皆をまとめてヒーリングオーラで回復していく。
「先の様子を見て来るよ」
たいまつを握ったエリザ・A・ミシャールは、一人で先行しての偵察に向かう。大勢で固まっての行動は、クリーパーを刺激することもあるかもしれない。だからこそ、あえて単独での行動を選んだ。
(――最後まで見届けることが、アタシの責任だろうからね)
エルフの一員として、あの場にいた者として……耳を澄ませ、探知用のエーテルを走らせながら進んだエリザは、敵との接触を回避しながら、上へと登っていく通路を確保する。
その先まで上がったところで、皆に一時停止を提案したのはアリア・ティーダだった。
「ここは少し開けているし、拠点に良いと思うんだ」
土木工事の時はこういうスペースを有効活用するんだよね~と笑うアリア。一旦ここで待機しつつ、その間に、先発組が先へ進むルートを選定するのが良いのではないかと考えたのだ。もちろん、その間に休息を取ったり、回復をすることも出来る。
「なるほど。エル、既に報告の来ているルートはありますか?」
「右は駄目、みたい……左か、中央の二本の道か、どちらか……」
リコリス・アデュラリアは返事を聞きながら閃光塗弾で目印を刻み、「手分けして最終確認しましょう」と呼びかける。頷いて素早く左のルートに向かったハリーヌは、しばらくして戻って来ると『×』を書いた。行き止まりだったようだ。
「中央の二本は……」
「左はちと狭そうだ、右から行くぞ」
ルカンドラの体躯を勘案して、ヴァンゲルスがちゃっちゃと判断するのに従って、一行はまた進み出す。
「ニルヴァーナ、知らせて」
前方を索敵していたシファーは、別の通路から回り込んで現れたらしいクリーパーを発見すると、視線を敵の方向に向けたまま告げた。すぐさまニルヴァーナがルカンドラにも敵の接近を知らせ、頷いたルカンドラが武器を構えて敵の接近に備える。
だが、ルカンドラの元まで寄せ付けないと言わんばかりに跳び上がったカメリアがシファーの元へ駆けつけ、巧みなステップで向かい合った敵の攻撃を躱し、反撃に出る。
「巻き込まれないでね」
短い忠告の後、アウレーリアの元から放たれたタイダルストリームが、そんなクリーパー達を纏めて飲み込んでいく。すかさず奔流が通り過ぎたそこへシファーが詰め寄り、暗針を素早く突き立てた。
「後ろからも来ます!」
エーテルの気配に惹かれてきたのだろう、新手の登場にエルナが杖を構えながら皆を呼ぶ。
「ここは通しません」
リコリスはクレネルウォールを召喚し、ルカンドラを護る防壁とする。その両脇から、ベルク・オスマットとヤウズ・オスマットが飛び出した。
「殿下の帰還を果たすため、ルカンドラ殿は死守するぞ」
「はい。帝国の臣として、ルカンドラ様をお守りいたします」
『狐爪』と『狐牙』を抜いたベルクの言葉に頷き、ヤウズは空間に不可視の波紋を走らせると、そこを起点に次の瞬間、爆発的に荒れ狂う衝撃波をクリーパー達に繰り出した。その中をベルクは駆け、対の刀で対峙したクリーパーを貫いて仕留める。
「お姉ちゃん」
「下がるぞ」
素早く壁の向こうへ戻っていくベルクと短く頷き合って、ヤウズは更に短杖を構える。
(これが殿下のため――だから!)
見つめた一点に向かって流れる奔流が一気にクリーパー達を押し流す。その一撃を耐え凌いだクリーパー達も、動きが鈍い。それはハーヴィが作り上げたグラビティフィールドによるものだ。そんなクリーパー達に向かって、リコリスは小さな光弾を無数に出現させると次々に降らせた。
「回復はお任せください」
「助かります!」
その間にミィアが放った癒しの光を受け、今はルカンドラの護衛についている帝国兵がそんなクリーパーを仕留めに掛かる。
(――レイウェストさん。レイウェストさんと私の答えは違うようです)
対価では贖えない重さに対して、レイウェストは自らが人質になるという覚悟を見せた。
でも。
(『命が必要』なら、それを覆して死なせません!)
この兵士達も、自分達を信じてくれたルカンドラも――もちろん、レイウェストも。
だから、その為にエーテルを紡ぐ。紡いで、紡いで……届けてみせる。
「行きましょう! ルートは確保してありますので!」
先駆けの皆と協力して、ルカンドラ達が進みやすいであろう経路を確保してきたトーラが皆を呼ぶ。
多くの冒険者が世界樹の内部に入り、『核』を探し、そこまで無事に辿り着けるようにと手を尽くしている。
何としても、成し遂げなければ――その決意と共に冒険者達は更に歩みを進めていく。
(人間達は、ただ本当に真実を語っていたのかもしれんな。世界樹……いや、世界の危機……。ジド・ルウが成し遂げた奇跡の鍵が、この神石であると……)
皆に護られながら進むルカンドラはこの時、冒険者達が語っていた言葉を、信用しつつあった。それは、数多の冒険者達が見せた様々な姿が、言葉は通じなくともルカンドラの胸に、響いたからに他ならなかった。
【1】世界樹内部迷宮攻略・エーテル石の安置 後編(担当マスター:狐野径)
ルカンドラたちより先を行く冒険者たち。彼らの持つ明かりが、世界樹内部を照らし出す。
核の部分はどこかエルフに知るものはいない。
一方で、ララベル・サン・ディーベルやルルト・アーキスが植物共感で確認をしようとする。
世界樹は植物ではないのだが、小さき者たちから何か求められているという感覚を得る。
そのため、意図を探り「核がどこにあるかは時間をかけて探せ」という事を伝えた。
それは接触を試みた者にはイメージとして伝わる。
「これはお告げ!」
ルルトは驚く。
結局は世界樹自身にも内部のことはわからないのだから、実際見られる冒険者たちが探すしかないのだ。
迷宮と化している世界樹の内部。迷わず進むためには記憶し、地図を作り、連携をしていくしかあるまい。
イヴェール・イリュジオンは「露払いをしていきましょう」と迷宮の先へと足を進める。
エミリア・シバも「無駄な時間を減らすためにさっと見てくるわね」とふらりと闇に消えた。
それに続くように、アステルとキオルティスが駆けていく。
「僕達も行こう」
ララベルが【ふしぎ亭】のメンバーに声を掛けた。
ヒロ・テスタロッサは今にも駆け出しそうにステップを踏む。
「迷宮探検! 【ふしぎ亭】ご一行の十八番だね♪」
迷わない。
中には「混沌の残滓たる大腐樹」の眷属だったと思われるクリーパーがいるだろうから、対応を迫られる。
【ふしぎ亭】が出発し、それに続き、他の班の者たちも奥へと進むことになる。
イヴェールやエミリアは暗視をもって調査を進める。
イヴェールはできる限り敵を発見し、討伐はしたい。さらに言えば、後続の人たちに不意打ちを避けてもらったり、必要なら迂回を促したい。
クリーパーは天井に張り付くツタや食虫植物、動くキノコなど植物に由来するものが見られる。
「大腐樹の眷属ということですね」
特に横穴や出入り口など死角になるところ、隠蔽される空間は注意を払う。
一方、エミリアは双波で確認し、行き止まりや注意事項は閃光塗弾やレターセットなどでメモを残す。調査で来た他の人が同じものを見ないで済むように。
「時間はいくらあっても足りないわね」
エミリアが双波で状況を把握すると、敵らしい反応はあるが今一つわかりづらい。
回避してやり過ごそうとしていたところ、イヴェールが来る道と合流していた。
「クリーパーが来るわよ」
「わかりました。ここは任せてください」
イヴェールはそれがいる場所を看破し、手にした剣をたたきつけた。
ルイドは丹念に通路を確認していく。
進むのが難しいと見える場所、見通しが悪いところは、何か見落としがある場合もある。さらにはそういうところに核があるかもしれないため、看破は欠かせない。
ランタンを手に足下に注意を払う。必要ならばロープで体を支え、側面の確認をした。
「次はこっちだな……ん?」
一体敵がいることに気付いたと同時に、それはこちらに来る。
討伐し、先に進むのだった。
【白杖白盾】のライナ・フレイヴァルツとフロマーシュ・ダイヤドロップは先に進む者たちや組織立って動く者たちの隙間を縫う形で行動する。何かあっても補完しあえれば、守るべき人たちも守りやすくなる。
ライナは通路にある印を見て、進む道を考える。
すでに先に向かう道として定着している部分もある。
進む中、印ではなく、閃光塗弾の塗料がこぼれているのに気づいた。
誰かに何かあったのかもしれないと、二人は確認に向かった。
そこにはキノコのようなクリーパーが複数いた。
すぐに臨戦態勢をとり、フロマーシュが、
「任せてください!」
と、盾を構える。さらに、複数敵がいるため、殺界改で足止めを図る。
ライナがその背後で風凛新星でエーテルを高め、月下燦爛を放つ。
連携をして敵を討伐した。
「誰かいますか?」
フロマーシュが声を掛ける。
ツィーラ・イェレミースが角から現れた。
「何か大きな音がしたよね?」
「ケガはないか? クリーパーがいたし、塗料を撒いたような跡があったが」
ライナに問われツィーラは「クリーパーには遭遇していないよ」と告げる。
塗料を撒いた理由が身の危険による物ではないことに、ライナとフロマーシュはホッとした。
「印をつけるといい」
ライナが説明する。
その横で、フロマーシュが「ここで交戦あり」と告げるような印を書いた。
「そっか」
ツィーラは広大な迷宮探索に魅力を感じて参加するということで、少し気持ちが先走っていた。
暗視があるし、位置感覚を生かして進めるから一人でもよいかもしれないが。
「一緒にいってもいい?」
その問いかけに【白杖白盾】は断る理由もなかった。
●
【月陽】のゼラルム・エルホワイトとサニー・フォン・オルライトは迷宮内部の状況把握に力を注ぐ。地図を作製することで、敵からの奇襲を避けやすくなり、探索不足があれば戻りやすくなる。
サニーが地図作成を中心に、ゼラルムが護る。
サニーは双波を用い、視覚情報を得ていく。また、仲間が残している跡やテレパスでもたらされる情報も吸収していく。
ふと、サニーが地図作りを止め「来たみたいだよ」とクリーパーの襲来を警告する。
ゼラルムは指摘された方向を見て「数は?」と問う。答えを得て【氷嵐】を放った。
頭上からツタを伸ばしていたクリーパーたちは巻き込まれて消えた。
「紙は足りてるか?」
「あ、そろそろもらっていい?」
ゼラルムから紙をもらい、サニーは地図作りを再開した。情報を後続に共有する事で、助けになるだろう。
●
ロイ・アウレアたち【睡狼】は班を三つに分け捜索や護衛に当たる。捜索に当たるのはそのうち二つの班だ。
なお、エーテルリンクできるペットは互いの状況を補うため、他の班に預けるという形をとっていた。
ロイは「道の太さにかかわらず進もう」と告げる。
「あとは進みやすい道をそこから見つける必要があるよな」
アルマ・ヴァレンタインは「そうだね」とうなずく。
冒険者だけ通れればいいわけではなく、エーテル石を持つルカンドラが通れないと困るのだ。
ライオネル・ギシュムは迷宮に足を踏み入れた時、
「世界樹探検……わくわくする!」
と明るい声で告げていた。閉塞空間の妙な緊張感をやわらげる効果はあった。
なお、ライオネルはバンダナで口と鼻を覆っていた。クリーパーに胞子やカビに似た雰囲気のものがいるため、防げればよいと考えたからだ。
アルマはエンライトの明かりの下、位置感覚と記憶力を生かしマッピングをしていく。
「核はどういうところにあるのかな」
ロイは「地道に探すしかないのだろうな」と返す。
時折、耳を澄ませ、人間でいうならば脈のような音や流れがないか確認するが、普通の生物とは異なるのかよく分からなかった。
ハル・チフは双波や看破で迷宮の把握に努める。
一方で、他の班とのラッパによる連絡手段構築もしてあるため、そちらも意識していた。
普通の閃光塗弾や「強制♪桃色弾」での印付けは調査中、完了、そして、危険ありなど分けることでまとまっている。
ふと、妙な場所を発見した。
「ここ、おかしいですよ?」
薄い壁の向こうに別の通路が見えるため「ここ壊す?」とライオネルが問う。
「何か来てるな」
ロイが耳を澄ませた。
アルマは地図を見て「回り込んだ先で合流します」という。
ここで倒さなくても先で合流する。
近くにいる人には注意を促す連絡をしておくのだった。
【睡狼】のもう一班、梅・雨陽、サシャ・テーリング、ルルト、そしてエヴァン・ピオネロが進む。
ルルトは核の位置を推測する。
「エーテルがかかわるなら、核の近くだと敵が多いとかあるのかな?」
サシャは「そうなのかも?」とうなずく。
「太陽の光が届くところかなと思うのですよね」
「結局、地道に探すしかないんだよね」
ルルトは気合を入れなおし、捜波で何か近づいてくるものはないかなど、確認をしていく。
雨陽はペットの芍薬を他の人に預けているため、
「芍薬ちゃんは自由なイノシシだけど、みんなを守ってネ」
と心配もしていた。
「核探しはライオネルちゃんの案で幸運の星を持ってるし、イケる!」
そのおかげか、敵との遭遇は少ないかもしれない?
雨陽自身は暗視を駆使し、警戒する。
世界樹のためにも、敵と遭遇するなら掃除してあげたいところだった。
エヴァンは地面が不安定だろうということであらかじめ滑り止めの靴など準備はしていた。
「中がこんな風になっていれば、迷子が続出する危険があることは納得です」
だからこそ、位置感覚を駆使し、進行方向や他の班の位置は察知していきたい。
それと同時に閃光塗弾と「強制♪桃色弾」で色を区別し、印もつける。目に見えるものは重要だ。
サシャがテレパスで受けた他の班からの連絡で、敵の位置も把握できた。必要なら、討伐は惜しまないが、スキルには限りがあるため、戦闘回避もある程度求められる。
順調に迷宮を上がっていくけれども、上層部に行くにつれ、やや狭い場所が散見された。
「ルカンドラさんが通れるか……ですね」
他の班からの連絡もあり、迂回路がないか一行は確認した。
「壊してしまいますね」
「反対側は誰もいないと思いますが、連絡入れますね。あと、ルカンドラさんたちがいる方……にもでしょうか?」
サシャがエヴァンが魔法を使う前に各方面に連絡を入れた。
そして、エヴァンは「世界樹さん、ごめんなさい」とダイダルストリームでたまたま出くわした魔物ともども壁に穴をあけるのだった。
世界樹からは文句は言われなかった。
●
ララベルたち【ふしぎ亭】は最短で奥を目指すため、粛々と前に進んでいく。
ヒロとララベルは暗視で視界を確保し、捜波や双波で地形および敵の把握に努める。
手がかりはないに等しいが、中にそれはあるという事はわかっているのだ。
だから、進むことがゴールに向かう近道だ。
進むのに問題はないが、時折、足場が悪いところも出てくる。
段差があっても、不安定な足場でも、進むつもりはある。
「で、どっちいこうか? 足場悪くてもぐんぐん行くよ!」
ヒロは促した。
アリエッタはそのあとに続く。
「何階層あるのかな」
「わからないというのが本音かもね」
ララベルは苦笑したが、何があっても踏破するという意志は揺らがない。
楓月・千弦はララベル達の後ろにつき、敵の状況などに意識を配った。
背中にペットの栗鼠・クノキを張り付かせ、後方の視界も確保した。
核を置くべき場所は、樹形という事を考えると、根や枝、先端にかかわる部分にあるのではと考える。
通路の状況、周囲の風景には気を配り、戦術眼を以て観察をする。
また、通り過ぎたところは、閃光塗弾で印をつけていった。
「敵です!」
その声に反応し、ゴルバルティアはチャージングで接敵する。すぐさま盾を構え、ドラゴンチャリオッツで吹き飛ばした。
テュリン・ヴィングはヒロやララベルの背を追いながら、周囲の観察を怠らない。
核があるならば、入り口である根本からは離れていそうだし、力の源と考えるならば、どのあたりだろうかなどダンジョン知識を生かし推測する。世界樹の中はダンジョンと言う訳ではないのだが、参考になる部分はあった。
「幹というより、木の最上部当たりかしらね」
世界樹の中がどう変化していくか、そこで魔物の出現は変わるかも重要だ。
先に先にと進む中、ふと、空気が変わった気がする。
先に進み、階層が変わっていく。
徐々に敵の数が変わるような気がした。
テュリンはピリリとした妙な気配を空気に感じた。
「この階層は特に注意して見た方がいいわ」
「手がかりがありそう?」
ララベルの問いかけにテュリンはうなずいた。
クリーパーの数が増えたようだった。ゴルバティアがすぐさま敵との間に割って入る。
「手ごたえが違う感じがするな」
あくまで気持ちかもしれないが、何かが違うという意識を保つことは必要だ。
クリーパーを倒し、前に進むと、角を曲がった先にその場所は現れた。
ララベルが「一番乗りだ!」と声をあげた。テュリンがテレパスで後続の仲間たちへ連絡を入れる。
【イメージノベル】(執筆担当マスター:桃谷かな)
探し求めていたそれは、地上から数えて十五階層も上がった所で見つかった。
脈打つ壁の表面にあいた、まるで樹洞のような見た目の穴。直径でいえば大人二人分ほどもある空洞の中には眩い七色の光が満ち、渦を巻くようにゆっくりと回り続けている。
「こちらですわ」
冒険者たちに導かれて核の前に到達したニルヴァーナが振り返り、ルカンドラを呼んだ。背に掛けられたマントを外し、光が漏れ出る麻袋を手に歩を進めた人馬の青年は、眼前に在る不思議な光景に圧倒されているようにも見える。
「……ルカンドラ様。お願いいたします」
人語で、そして亜人の言葉で、ニルヴァーナはルカンドラの背中を押した。
ルカンドラは一瞬の逡巡の後、麻袋の口を開け、虹の渦巻く穴の前へと立つ。
冒険者と湖水の巫女、帝国兵が見守る中で。
光輝く聖なる石が、核の中へと捧げられた。
【2】世界樹防衛・帝国過激派アンデッド軍の迎撃 前編(担当マスター:岩岡志摩)
●遊撃開始
フィルエス大森林中北部にそびえる大樹――『世界樹』東側では、エルフの戦士達とアシムベート・グリオウ率いるリザードマンの戦士達、そして冒険者達が敵軍を待ち構えていた。
やがて木々の向こうから屍の大群――帝国過激派ザフィーア・ハイセン率いるアンデッド軍が姿を見せ始める。
まるで屍で形成される濁流が押し寄せてきたような光景だが、【華組】所属のクレア・エクレールは双波を駆使して敵群の中継役の位置や周囲の地形と言った必要な情報を探り、同じ【華組】や周囲の仲間達へ報せていく。
「派手にいこうか」
同じ【華組】のジュスト・ヴェルジーは、クレアからの情報を受け取ると自身の戦略眼に従って立ち位置と角度を調整し、詠唱する。
「呼び掛けに応え、至れ。至りて流れよ、地の果てと。海の果てまで流れ、我らの敵を貫き運べ――大飛燕」
無数の花弁を思わせる青いエーテル光波が轟音と共に放たれ、ジュストの正面にいたアンデッド群を薙ぎ払い、一筋の道を開く。
「さーて、期待に応えるかな」
【華組】のローザリカ・L・ディオールは、眼前の大群を指揮する死霊術師や中継役となるアンデッドと思しき個体を倒すため、敵群の中央へと攻め入る。
「さて、派手に行こうじゃないか!」
叫びと共にローザリカは炎を孕んだ棘の槍を顕現して振り下ろし、その先にある地面より湧き出た幻影の棘が炎を纏ってアンデッド達の身を突き通し、仮の生命を断っていく。
こじ開けた道を突く形でクレアとミレイユ・ヴェルジーが突き進む。
「目潰しはアンデッドには無効でも死霊術師には有効のはずだよね」
ミレイユが翠光塗弾の塗料を中継役と思しきゾンビへ投擲する様子を見つつ、クレアも自身の閃光塗弾を死霊術師を発見した時に備えて準備した。
「中継役を撃破しますわ!」
ミレイユは竜鱗の盾を構え、エーテル光で全身を包むと、塗料をぶちまけた中継役のゾンビに向け突撃する。
衝突の瞬間、ドラゴンチャリオッツによって発生した衝撃が中継役の身を跳ね飛ばす。
「いつだって、無い道は切り拓けばいいだけよ」
アンネエルカもエーテル光を全身に纏うと綺槍「夢飾る夜空」を構え、起き上がったスケルトンへ突撃した。
衝突の瞬間、強烈な衝撃が巻き起こり、アンネエルカの一撃を浴びたスケルトンの体がさらに宙を舞う。
中継役の1体が配置をずらされたことで、アンデッド達の動きに一部乱れが生じた。周囲の群れの数か所が、欠落をカバーするように向きを変える。
それまで味方のテレパスを中継していたペルゼィックは、その兆候を見逃さない。
(【華組】さん達が切り込んだ場所からそれほど離れていない位置に、死霊術師とその中継役が複数潜んでいるはずです)
丁寧な口調を頑張って維持しながら、ペルゼィックはテレパスをフル活用して中継役や死霊術師がいると思しき位置を仲間やテレパスを使用するエルフ、リザードマン達にも報せていく。
「単身ではザフィーアに到達するのは困難ということでしょうか」
母蜘蛛糸のロープを頭上に飛ばし、立木の枝に絡ませて高い位置へ飛び上がったヴィルヘルミナは、超視覚を駆使してザフィーアがいると思しき場所を調べていた。
しかし遮蔽するものや敵が多く、実現は不可能と判断したヴィルヘルミナは、眼下にいるアンデッド達への射撃に切り替え、エーテルを籠めた光の矢を撃ち放つ。
放たれた一射は敵群のただ中で炸裂し、撒かれた光の破片がアンデッド達を切り裂き、屠っていく。
マトンも天眼を駆使して敵群の真ん中がどのあたりにあるのか、おおよその見当をつけると魔導の潮流を使い、自身のエーテルを燃やして魔力を増幅させる。
「ドッカンドッカンするだけの簡単なお仕事っスー!」
そしてマトンは巨大な炎弾を敵群中央に向け撃ち放つと、着弾した箇所に焔の花が咲き、周囲の敵を薙ぎ払っていった。範囲に中継役も含まれていたらしく、周囲の敵の動きが曖昧になる。
●防戦
遊撃に回る冒険者達がアンデッド達を削り続ける中、残る敵群は南北へと広がりながら進撃を続ける。
これに対しエルフの戦士達もその戦力を南北に広げ、冒険者達と共に迎え撃つ。
「敵が押し寄せてくる形か。アイアンウォールを足止めに使い、敵を密集させるような形を作りたいところだな」
ロドリック・アルカインは自身の傍にアイアンウォールを構築すると、アンデッド群の進撃を塞ぎにかかる。
(帝国過激派……?)
リリアンがアンデッドの群れに向ける視線は冷えている。
(「ボク」を殺したやつらの仲間、だよね……)
帝国過激派を仇と定めるリリアンは、鋼の槍にエーテル光を纏わせ形成した刃をさらに伸ばし、周囲に向け不可視のエーテルを張り巡らせて、範囲内にいたゾンビ達の移動を妨げる。
やがて槍の刺突が肉や骨を穿つ異音が幾重にも重なり、ゾンビ達の生命を削ったところで、ロドリックより射出された水の奔流めいた一撃が追撃となって襲いかかる。
直撃を浴びたゾンビ達は仮の生命が尽きて倒れ、骸に戻り沈黙する。
エルフ達からの射撃や攻撃魔法も加わり、攻撃を浴びたゾンビやスケルトン達が仮の生命を失い倒れていくが、アンデッド群は次から次へとやってくる。
「死者の不協和音などに屈してなるものか」
アルエット・アステールはノービスセイバーを構えると、アンデッド達を迎撃するエルフ達に向け、守護の力を秘めた光を放つ。
アルエットが発する歌声と共にエルフ達は淡い光の膜に包まれ、守りを強化された状態でアンデッド達と激突する。
アンデッド達が倒される中、味方の負傷者も増えていくが、駆けつけたアンジェが癒しの力を秘めた光球を飛ばして負傷者の治療にあたる。
「……アンジェ、にも、できることがあれば……」
さらにアンジェは自分の周囲に負傷者を集めると、光輝くエーテルの波動を放ち、エルフ達の傷を癒し活力を与え、戦闘を支援する。
――現世の先を決めるのはあくまで今を生きるもの。
その信念をもとに、グレイブ・ヤードはスケープ・セイントで危うい味方を庇い、周囲にいる負傷者達に向け光輝くエーテルの波動を解き放つ。
「所詮、従うだけの死人の数でどうにかなるほど、本当の戦争は甘くはないということでしょう?」
グレイブの呟きと共に放たれたヒーリングオーラは負傷者達を包み込み、その傷を癒していく。
「早急に、指揮系統を潰すべきだろうが……その間の守りも、必要か」
そんな判断のもと、これまでサイドヒールやヒール3を駆使して味方の治療に当たっていたサマエラ=フォリウムは、自身の戦術眼をもとにタイミングを見極め、ジャマーによる妨害を実行する。
サマエラの読み通り、包囲にかかろうとしていた死霊術師達からの指示がアンデッド達に届く前に阻害される。
それまで透視を駆使して木々の向こうを見据えていたユークリア・フィナンシェは、周囲にいるエルフ達を呼び集めると、自身の術が届く範囲を説明してエーテルの波動を開放し、能力を向上させる効果を付与していく。
「押されている箇所の出鼻を削ります!」
そしてユークリアもサマエラに続いてジャマーを展開し、宣言通り死霊術師の出鼻をくじく。
味方のジャマーによってアンデッド達がゆらぎを見せ、あちこちに隙間が生じていく。
それまで高所より超視力を駆使して敵陣の動向を探っていた【攻壁】のエルケ・シャルフはそれを察知すると、即座に同じ【攻壁】所属のトゥーリへと伝達する。
「包囲にかかろうとした敵に乱れが生じたみたいなの。方角は――」
エルケからの連絡を受けたトゥーリも、自身の天眼や五感を駆使して状況を把握すると、予め周囲にいる味方に周知していたサウンドボマーを放つ。
――今が敵を押し返す絶好の機会だよ。
爆音のような響きが周囲にいる味方の鼓膜を震わせ、トゥーリの意図を伝達すると共に、それまで仲間と共に状況把握に努めていた同じ【攻壁】所属のハリス・アル・ターミルも、攻めこむために最適な場所へと移動すると、発光スキルでその体を光らせる。
――私のいる場所が、範囲攻撃の起点として最適です。
事前にハリスは自身の光が意図するものを周囲の仲間達に伝えており、トゥーリの『合図』とハリスの光に導かれた冒険者やエルフ達が、アンデッド達を押し返す。
「攻撃仕掛けるよ!」
ラーナフは前方にいる友軍に向け警告を発し、エルフや冒険者達がタイミングを合わせようと構える。
入れ違いに召喚された稲妻めいた光が敵群のただ中に顕現してアンデッド達に絡みつき、その移動を阻害すると、続けて叩き込まれたフレイムゲイズがアンデッド達を押し包み、まとめて打ち砕く。
数の優位があるアンデッド軍は一瞬生じた空隙を埋め戻すも、トゥーリより放たれた大量の小光弾がその頭上より降り注ぐ。
アンデッド群はゾンビやスケルトンといった種を問わず小光弾の乱打を浴びて仮の生命を失い、倒れていく中、生じた空隙の中へハリスが突っ込んだ。
巨大な光塊を纏う開墾の竜爪が勢いよく振り下ろされ、打撃音と共に頭蓋を叩き潰されたアンデッド群が地面に叩きつけられ、沈黙する。
さらに疾風足を駆使して最適な位置に着いたエルケもダマスカス鋼の短弓より矢の飛翔音を響かせ、ゾンビの1体を射抜き、敵の行動阻害に尽力する。
「重傷者と同行者は絶対に死なせないことが最重要項目だ」
同じ【攻壁】に属するフェイサル・セイフは自身の役割をそう定め、ヒーリングオーラを駆使して味方の治療に当たっていたが、アンデッド群の接近を察知すると天へと祈りを捧げ、アンデッド群のただ中に霧を伴う雷の嵐を顕現する。
霧の中で雷の嵐はアンデッド達を薙ぎ払い、仮の生命を断って骸に戻していく。
ここでレティシア・レインフィールが笛を吹き鳴らし、予めその意図を聞いていたエルフ達が隊列を入れ替える。
「前衛は足止めに専念して下さい。中衛や後衛の方は遠距離攻撃で確実に敵の数を減らし、敵の集団を逆に包囲する形で近接戦を行う敵の数を制限しましょう」
天眼で敵の動向を把握しながら、レティシアはエルフ達にそんな戦術案を提示し、賛同を受けていた。
レティシアは太陽光に似た温かい癒しの光でエルフ達の負傷を癒すと、連携を重視した指示を出してアンデッド達を削っていく。
それまでは後方にて指揮を執るグレイオンスに対し、何らかの提案を行っていたイズレンディル・パラリムも、今が反攻の時だと察知して前に出る。
「中央付近にいる敵がやや厚いようですね」
天眼を駆使して戦況をある程度把握したイズレンディルは、その方面に味方がいないことを確認し、不可視の波紋を走らせる。
イズレンディルが起点と定めた場所一帯に不可視の衝撃波がぶちまけられ、周囲のアンデッド達を引き裂き、まとめて葬った。
●遊撃2
エルフや守りを担う冒険者達が構築する防壁に沿って移動する東雲・更紗は、ブレイドの発したエーテルの波動で探知できたアンデッド群の情報をもとに、共同でその群れを捕捉する。
「それでは共同作業と参りましょうか、ブレイドさん?」
「随分と色気のない共同作業もあったものだな……」
短いやり取りの後、更紗とブレイドが使用したジャマーによって、効果範囲内にいるアンデッド達の動きが乱れていく。
ブレイドはジャマーの効果を確認すると、敵群の中でも機動力の高い動物ゾンビや武装したゾンビに狙いを定め、巧みな身のこなしでその1体へと肉薄し、竜爪の籠手と竜爪の短剣による高速三段連撃を叩き込む。
肉がひしゃげ、骨が穿たれる異音が連続で響き渡り、仮の生命を断たれた動物ゾンビがその場に倒れ、骸に戻る。
更紗も残る動物ゾンビや武装ゾンビ達に向け、天地のエーテルをかき集めて自身の魔法力を高めた状態から、無数の小光弾を顕現して浴びせかけ、全身を穿たれたアンデッド群は仮の生命を根こそぎ奪われて倒れ伏し、沈黙する。
「ゾンビに近づかれ過ぎないように気を付けて、負傷者にヒールをかけるわね」
それまで堅甲や輝刃、ヒールを駆使して味方の支援に当たっていたファヌが、アシムベート率いるリザードマンの戦士達への防衛に回る。
「祈雷で一網打尽にするわよ」
ファヌが呟きと共に祈りを捧げると、ゾンビ達がいる一帯を霧が包み、次いで現れた雷の嵐が周囲を席巻する。
まともにその威力を浴びたゾンビ達は仮の生命を刈り取られ、打ち倒される。
「アシムベート様やディズルの同胞たちを援護します!」
レイヤ・ダライ=カホールも自身の火力をもって、アシムベート達の援護に加わる。
「進路を切り開きます!」
レイヤの叫びと共に、光で構成される小鳥の群れが顕現してアンデッド達に群がると、その身ごと仮の生命を削り、屠っていく。
「援護感謝する」
アシムベートはファヌやレイヤ、冒険者達に感謝を述べると、リザードマンの戦士達と共にアンデッド群へ切り込んでいく。
その間にも【流空】のサラ、だわの2人は、アンデッド群を動かしている死霊術師の探索を続けていた。
「このあたりにはテレパス使用者が少ないのか? では積極的に死霊術の指揮系統を断つぞ」
だわは、サラからの連絡と自らの看破スキルで把握した情報をもとに、アンデッド群に向けジャマーを使用すると、予想通りアンデッド群の動きに乱れが生じ始める。
それまでエーテルの波動を走らせ、常にアンデッド達の位置情報を把握していたサラは、ホークアイや看破、超視覚スキルをフル活用し、敵群の中より死霊術師と思しき個体を探り当てていた。
「あれが死霊術師なのかな? 倒しやすくなるよう死霊術師への道を切り拓くつもりだよ」
サラはだわ、そして周囲にいる味方に死霊術師らしき個体の位置や特徴を伝えると、ダマスカス鋼の短弓Reの弦を引き絞り、矢の飛翔音を鳴らす。
エーテルを籠めた鋭い一射が宙で破裂して衝撃波を放ち、巻き込まれたアンデッド達は薙ぎ倒される。
だわも剣 -復元調律に纏わせたエーテル光より長大な刃を形成し、周囲に不可視のエーテルを張り巡らせて、範囲内にいたゾンビやスケルトン達の移動を阻止する。
やがて肉や骨を断つ斬撃音が幾重にも響き、ゾンビやスケルトン達は倒れていく。
そしてサラからの情報を受けた【豹狼】のパルドとウォーゼルが周囲にある木々の間に身を隠しつつ、死霊術師に迫る。
「あの死霊術師以外にも、中継役のアンデッドの位置がわかったよ」
ウォーゼルは周囲へ走らせたエーテルの波動によって把握できた情報をパルドに伝え、パルドは頷きで応じる。
「了解だ。死霊術師には念のため印をつけてから倒すぞ」
そう言うとパルドはエーテルを噴出して空中を駆け、閃光塗弾の内袋を投擲して死霊術師に塗料をぶちまける。
パルドの動きに死霊術師が気を取られている間に、疾風足で一気に加速したウォーゼルが死霊術師の懐へ飛び込むと、己を軸にして旋回するなり、強力な一撃と化した竜爪の剣が振り抜かれ、死霊術師の胴を裂く。
さらに死霊術師の頭上より降下に転じたパルドが竜爪の短剣とダマスカス鋼の短剣を交互に放ち、3度死霊術師を貫いた。
頭上と前方からの同時攻撃を受けた死霊術師は血煙を噴いて絶命し、倒れた傍にパルドが着地する。
それまでフェイクウッドによって、ある程度アンデッド達をやり過ごしていたアルシエラ・ライゼルは、ウォーゼルやサラ達からの情報をもとに近くの木に登る。
「あれが死霊術師なのかな? このまま狙い撃ちさせてもらうよ」
そしてアルシエラはホークアイで発見できた死霊術師に向け、白鞭を振るう。
直後白い光めいたエーテル波が顕現して宙を奔り、不意打ちに等しい一撃を浴びた死霊術師はその身より血を噴いて倒れ、沈黙する。
その近くではナキルもサーマルアイによって冷たい死者の中の死霊術師を発見し、一足で一気に距離を詰め躍り込む。
「ヒトの実家に迷惑掛けんじゃねェ!」
――将来的にはそうだからな。
幾分私情を含む叫びと共に、ナキルの蒼剣アルサリアが翠星のごとき一撃と化して繰り出され、まともに斬撃を浴びた死霊術師は斬られた箇所から血を噴出して横転し、骸の仲間入りを果たした。
●優勢
その後も【流空】、【華組】や【豹狼】ら冒険者達がそれまで潜んでいた死霊術師達を次々と発見し、戦場は指揮系統を崩された死霊術師側からエルフとリザードマン、そして冒険者側の優位に傾いていった。
【2】世界樹防衛・帝国過激派アンデッド軍の迎撃 後編(担当マスター:革酎)
●
フィルエス大森林内、世界樹の東側。
帝国過激派のアンデッド軍団は南北に広がる長大な戦線を西進させ、エルフ達が構築する防衛線に圧力をかけつつある。
そんな中、ゾンビに扮したハッタ・ムラムラが帝国過激派側の司令官ザフィーア・ハイセン撃破に動いた。
(こう見えて、おれはゾンビには詳しいからな)
だが、現実は厳しかった。ゾンビは生者たるハッタを早々に見抜いたらしく、あっという間に彼を包囲。とてもではないがザフィーアまで辿り着けない。
しかし他の冒険者達はリザードマン戦士達と協力し、死者の群れを押し返しながら東進を続けている。
中でもアンデッドの密度が濃いと判明した敵軍中央方向を進む【戦誼】の面々は、死霊術師や中継役ゾンビの位置を的確に見抜きながら、敵の組織力を徹底して破壊していった。
「おっと、あそこで慌ててる奴……ありゃ死霊術師だな」
前衛ながら弓での広い攻撃範囲で死者を次々と討ち斃しているサイラス。全身に大小無数の傷を負いつつ、それでもジャマーで屍共の組織的な動きを阻害しながら前へ前へと出続ける。
そのサイラスをカバーする様に、リリリリスが盾役として更に前方へと押し出していた。
「憐れなアンデッドの皆様。私が優雅で華麗な戦い方というものを教えて差し上げますわ!」
サイラス以上に生傷の多いリリリリスだが、【戦誼】の盾役としては十分以上にその役割を果たしている。そして彼女も死霊術師や中継役ゾンビの位置を戦闘の中で次第に見抜き始めており、手当たり次第ではなく、目標を絞り込んだ上で前進を続けていた。
このふたりが深手を負わずに済んでいるのは、そのすぐ後ろにギーゼラが控えていたからだ。
ギーゼラは前衛達の傷を癒しつつ、大体の居場所が判明した死霊術師に対しては炸光矢を叩き込む。
「ちょっと大きいのを撃ち込みますから、射線からどいて下さいね。出来なければ気合で避けて下さい」
中々無茶な要求だが、それでもサイラスやリリリリスは上手く射線を空けてくれていた。
そのギーゼラの傍らへ、アンデッドに対し果敢に足止めと接近戦を交互に仕掛けていたガルシアが全身傷だらけで引き返してきた。
「テレパス持ちが我がチームには他に居なくて、少し困りました」
などとぼやいていたが、リザードマン戦士が孤立しかかったガルシアを助けてくれたから、何とか治療の為に引き返すことが出来たらしい。
それでもガルシアは決してめげず、治癒術を受けた後には再びジャマー要員として前線へ繰り出してゆく。
だが矢張り、これだけの数を一気に押し返すのは中々骨が折れる。そういう意味では敵をまとめて薙ぎ倒す術を持つユズの存在は大きい。
「見えた。あそこ……死霊術師。皆、すこし退がってて」
それまでゾンビ共の足止めに専念していたユズは魔力を破壊の奔流に変えて、遠目に発見した死霊術師までの間に居る全ての敵を片っ端から薙ぎ倒した。
●
進撃を続ける【戦誼】に続く形でイズル・M・ヴォルゴール、ヘレン・ワーグナー、そしてエフィルミア達のチーム【雀】も、同じくアンデッドの密度が濃いポイントを進み続けていた。
途中、撃破した死霊術師からローブを奪い、敵に扮して動いていたイズルはヘレンとエフィルミアの両名と合流し、ザフィーアの居る大体の方角をふたりに伝えた。
「矢張り、後ろに居たんですね」
既にエフィルミアはザフィーアの位置を大方で予測していたが、イズルからの情報で間違い無いと確信。
「兄上と同名で悪事を働く奴は放っておけない。早く見つけ出そう」
イズルの言葉を号令として、三人は森に蠢くアンデッドを撃破し、時に回避しながら急ぎ、敵後方へと廻り込んでゆく。
エフィルミアは樹上を素早く移動し、敵軍後方を目指す。
そして、見つけた。
「こんな大自然の中で不自然な良い匂い……それに、あの甲高い声」
ヘレンも気づいた。アンデッドや死霊術師との激闘の中でも、これ程に目立つ存在感を漂わせる者は、ひとりしか居ないだろう。
エフィルミアは、ザフィーア発見を知らせる閃光塗弾を上空高くに放り投げた。
ザフィーア発見を受けて、戦局は一気に動き始めた。
それまでジャマーを有効に活用して死霊術師を炙り出していた【戦誼】の海神・江流は、サポート役として樹上を移動していたルベア・ベルニに手信号で合図を出した。
ここまでは主に江流が死霊術師を発見し、ルベアがその死霊術師を樹上からの奇襲で撃破してきたが、ザフィーアが見つかったとなれば、そちらに重点を置き換えるべきであろう。
それは地上を進んでいたエル=バ=ノイアンとシルヴィア・A・カペルにも同じことがいえた。
「ここから先は、ザフィーアまでの道を作ることに専念する。治療は任せた」
「よし行こう……絶対に辿り着いてみせるよ」
ノイアンとシルヴィアは頷き合い、より一層分厚くなってくる敵の守りに決死の突入を仕掛けた。
樹上のルベアも、傷だらけの江流に声をかける。
「まだ、行ける? かなり負傷が重なっているようだけど」
「大丈夫。あのふたりだけに負担を負わせる訳にはいかない」
江流は静かに笑みを返す。
シルヴィアが居れば、回復担当としては十分だ。寧ろ下手に距離を取ってしまう方が危ない。
江流の応えを聞いて、ルベアもこのままザフィーアを目指す腹を固めた。
既に【雀】の三人がザフィーア周辺の護衛アンデッドに対して攻撃を仕掛け始めている。ここで【戦誼】も参戦し、ザフィーアの守りを一気に崩さなければ、戦闘は膠着状態へと陥るだろう。
突進力に富むノイアンが敵陣深くで、そして手広く敵の位置を探り出す江流がやや後方で、それぞれジャマーを発動してゾンビ共の動きを攪乱した。
後は友軍が辿り着くまで、少しでもザフィーアの護衛を削り続けるだけだ。
●
ザフィーアの位置がはっきりしたことで、【パン屋】の面々も動き易くなった。
「今一度、守りを固め直す。全員、集まってくれるか」
チームの回復役と防御支援を担当するゲルトが、仲間達に声をかけた。
ルアンナ・ミュラー、キリク、クローリカ、ベアトリーチェ・カロッサの四人は周辺のアンデッドをあらかた片付けてから、ゲルトの支援魔術範囲内へと急ぎ、駆け寄ってきた。
「もう始まっているようですね。私達も急がなければ」
ゲルトによる防御向上を受けてから、ルアンナは杖を握り直した。遥か樹々の向こうの戦場から、激しい戦闘音が流れてくる。
「よし、行こう。中継役も大体仕留め終えたし、後はザフィーアの守りを削るだけだ」
キリクも弓を構え直した。
ここまでの戦闘で合体魔法なども駆使して効果的に敵を蹴散らしてきた五人だが、対ザフィーア戦の為に、まだ幾らか余力は残してある。
ここでベアトリーチェが樹上へと駆け登った。
ザフィーア周辺までの道のりを確認する為、先行して戦場を見て廻る腹積もりだった。
「すぐに戻ってくるから、それまで少しずつ、接近を始めてて頂戴!」
それだけいい残し、ベアトリーチェは樹上と地上を交互に行き交いながら、ザフィーア護衛部隊方面へと足早に駆けていった。
残った四人は、【戦誼】のジャマー戦術で統率が失われた屍の群れを各個撃破しつつ、敵戦線の最後方を目指す。
「これまでと同じく、私が前に出ます。皆さんは余り突出しない様にお願いします」
得物を構えたクローリカがルアンナ、キリク、ゲルトの三人を守る様にして前へと出た。
動く物を本能的に襲うゾンビやスケルトンに対し、積極的に仕掛けて盾となるクローリカ。敵の注意が彼女に集まったところで、キリクが威力の高い鏃を叩き込んでゆく。数が纏まっていれば、ルアンナの光弾の雨で蹴散らしていった。
やがて、遠くからヒステリックな甲高い声が響き渡ってきた。ザフィーアであろう。
ほぼ同時にベアトリーチェも引き返してきた。既に【戦誼】と【雀】がザフィーア護衛部隊と熾烈な戦闘に突入している旨を報告すると、【パン屋】の一同は気合を入れ直す様に表情を厳しくした。
クローリカが猛然と、ザフィーア護衛部隊の一角へと斬り込んでゆく。
そこにキリクとベアトリーチェの矢が援護射撃を仕掛け、左右から群がる屍に対してはルアンナの魔力が破壊波となって襲い掛かった。
●
ザフィーア・ハイセンは、怒り心頭だった。
何故、自分の居場所がこうも簡単に判明したのか。本人の派手な外観や、キツ過ぎる香水などには全く思考が及んでいない彼女は、ひたすら側近の死霊術師や守りを固めるゾンビ達に八つ当たりの甲高い声を叩きつけるばかりである。
その間も冒険者達は続々とザフィーア護衛部隊に挑み続けていた。新たに【勇牙】のメンバーもザフィーア攻略に加わり、周辺のゾンビ共を徐々に仕留め始める。
「森の野人とはよくいってくれたものですね。その野人に追い立てられる貴女は何でしょうね?」
圧倒的な高火力魔術をゾンビ共に叩き込んでいるリディリディ・トゥラ・イェレミース。その口調は静かだったが、周囲がドン引きする程の怒りの念が滲み出ている。
ザフィーアの姿が見えれば、即座に極大の一撃をぶつけてやる腹積もりだった。
一方、スィーリーンはリディリディとは異なる気分で、目の前の屍達を範囲攻撃魔法で蹴散らしていた。
(皇帝陛下もイダ様も何を考えておられるのでしょう……エフレム様も、与していらっしゃるのでしょうか)
だが今は、ザフィーア討伐に集中しなければならない。その後のことは、また改めて考えれば良い。
時折、ふたりの火力を抜けて数体のアンデッドが接近してくるが、シルク・メイプルリーフの回復支援を受けつつ、リザードマン戦士達のカバーもあって事無きを得た。
そんな中で、カイン・ステラは体のあちこちに妙な火傷を負って引き返してきた。
シルクとスィーリーンがどうしたのかと訊くと、
「いや、少し声真似を……」
と、何とも微妙な回答が返ってきた。
カインはザフィーアに肉迫したところで、死霊術師の声を真似て彼女を中傷する台詞を近くで放ってみたのだが、ザフィーアはお構いなしに火炎魔術を叩き込んできたのだ。戦闘中に無駄話をする部下を偽物と見破ったのか、あるいは本物であってもそんな部下は不要ということか。
「とんでもない上司ですねぇ。まぁ、だからメドゥの指先にも見切られるんでしょうけどぉ」
直前までゾンビの群れを薙ぎ払っていたネフリティス=N=クリスタロスが、笑いながらカインに治癒術を使用してくれた。
頭悪そうに見えても、矢張り宮廷女官長。正攻法で叩くしか無さそうだ。
そのネフリティスからの治療を受けて、カインは再び戦線に引き返していった。
ザフィーア護衛部隊の居る帝国過激派側最後方は、次第に乱戦の様相を見せ始めていた。
ジャマーの連打で統制が取れなくなっているゾンビ共は完全に陣形が崩壊し、無数の野良ゾンビに近しい状況に陥っている。
そこへ、チーム【兵】が到着した。彼らもまたザフィーアの首を狙うことに力を注いでいる。
しかし未だ、ザフィーアの間合いに至る経路は切り開かれていない。今しばらく、周囲の護衛部隊の数を削り続ける必要がありそうだ。
「やれやれ……本当に傍迷惑な連中じゃわい」
グレイ・ナックラーはまず、どの位置の敵を斃せば効率的にザフィーアへの距離が縮まるかを検討した。その上でキリアン・フィッツジェラルドと示し合わせ、最短距離上のアンデッド共に狙いを定める。
「ゾンビの数と位置は大体、把握しました。後は手分けして、掃除していきましょう」
グレイは魔術で、キリアンは強力な矢の攻撃でそれぞれの敵を討ち斃してゆく。狙うべき敵を重複させないことで、ふたりは効率的にザフィーアと冒険者達の間の敵を手早く仕留めていった。
そして徐々に、ザフィーアの姿が冒険者達の視界の中に見え隠れし始めてきた。
●
見えた――そう思った瞬間には、【勇牙】の突撃が始まった。
リザードマン戦士達に突撃経路左右のゾンビを抑えさせつつ、ハヤト=ガラン=ヴォルファングが一気に駆けた。それでもザフィーア周辺にはまだ分厚い守りが残っている。
「ボクが露払いします!」
後方の仲間達の配置に危険が無いと悟ったハルハン・ツァガーンナルが、巨大な光塊を振るってハヤトの邪魔になりそうな敵を片っ端から薙ぎ倒した。
そして遂にハヤトがザフィーアに肉迫する。
「テメェがパワハラ女か。引導渡してやんぜ!」
「なっ……!?」
ところがハヤトはザフィーアの隙を狙って刃を入れる、のではなく、その豊満な乳房を盛大に揉みしだいた。これでザフィーアの怒りが頂点に達し、次にハヤトが刃を振るうよりも早く、反撃の劫火が彼の全身に襲い掛かった。
「な、なんって下品な……!! 無礼者が!! この代償は高くつきますわよ!!!」
流石にこれは拙いとツァガーンナルがハヤトを守る位置に割り込み、ヴィナスとルーンス・ラグネルが慌ててハヤトを敵陣内から引きずり出してゆく。
「全く、何やってんだか……」
「ナルが居なかったら、丸焼けにされてたよ」
呆れるヴィナスとルーンスに、ハヤトは引きずられながら申し訳ないと両手で拝む仕草を見せた。
しかしハヤトの乳揉み奇襲は功を奏した。怒り心頭のザフィーアは極大火力魔法を咄嗟に放った為、次なる攻撃魔法の準備に多少の時間を要してしまったのである。
この僅かな隙を衝いて【兵】のフリーダ=ブロムヴィストが別方向からザフィーアへと迫った。そのすぐ後ろにケン・Z・ブラッドリーとアルベルト・V・シュタールシュヴェーアトが続く。
「啓示にも、おばさん滅びるべしとあります。さぁ、参りましょう」
得物を振り回しながら迫るフリーダの圧力に、護衛部隊のゾンビは次々と蹴散らされてゆく。一方のザフィーアは甲高い声で激しくののしりながら、次なる攻撃魔法の術式発動態勢が何とか間に合った格好である。
「ザフィーアさんよぉ! 懐ががら空きだぞ!」
「帝国の面汚しが! 俺が貴様を討つ!」
ケンとアルベルトが左右に分かれて刃を振るう。ザフィーアはケンに意識を取られそうになったが、それでも辛うじて防護魔法で身を固めたのは流石というべきか。
ならばと、後方で死霊術師に狙いを定めていたセリオス・オーガストが標的をザフィーアに切り替えた。
「往生際が悪いな……ここで死に絶えろ」
強烈な鏃が、セリオスの手元を離れてザフィーアへと殺到する。ザフィーアはこれも辛うじて防ぎ切ったが、セリオスからの鋭い射撃に防御意識を向け過ぎた為、それ以外が幾分、疎かとなった。
●
ここでケンが再び、吠えた。
ザフィーアは思わずケンの咆哮に意識が奪われ、その隙にアルベルトとフリーダの接近を許してしまった。ふたりの振るう刃がそれぞれ、ザフィーアの肩口と脇腹へと突き刺さる。
魔力の防御で致命傷は免れたものの、その豪奢な衣装は瞬く間に鮮血で紅く染まった。
「ま、待ちなさい! 森の野人共の倍額の報酬を支払いますわ! だから、わたくしにつきなさい!」
この期に及んでザフィーアは、冒険者達を買収しようと必死になった。
だが、その言葉は誰の心にも響かない。この場に居る冒険者達は、ザフィーアに対して然程の好感を抱いていなかったのだ。メドゥの指先にすら見捨てられる程の高慢で我儘な性格は、ここぞという時に最大の災いとなって自身に降りかかったのである。
ツァガーンナルがその自慢の耐久力を活かして再び、ザフィーアの正面に迫った。ザフィーアの攻撃魔法はこのツァガーンナルとフリーダで徹底的に凌ぎ切る。どんどん消耗してゆくふたりの体力は、ルーンスが手早く回復していった。
そしてヴィナスが斬り込むと同時にセリオスが別方向から鏃を撃ち込み、ザフィーアの攻撃への集中力を削いでゆく。この時点で最早、勝負はついていた。
ザフィーアは尚も何かを声高に喚いているが、ケンの突き立てた刃がザフィーアの心臓を貫き、アルベルトの振り下ろした一撃が憐れな宮廷女官長の脳天を叩き割った。
焦点が定まらない両眼をかっと見開いたままのザフィーアは、その場でぐらりとよろめき、そしてゆっくりと崩れ落ちた。
遂に、ザフィーアは死んだ。
だが勝負は終わっていない。死霊術師はまだ数人が残っているであろうし、野良ゾンビと化したアンデッドの大群が周囲にうようよと居る。
これらを全て平らげなければ、フィルエス大森林の危機が去ったとはいえないのだ。
エフィルミアが、ザフィーア討伐成功を意味する閃光塗弾を天高く放り上げた。
普通ならこの一報で帝国過激派は総崩れになるところであろうが、今回の主力はアンデッドだ。首領が斃されたからといって、撤退してゆくものは皆無である。
「負傷者は回収だ、急げ!」
ヴィナスの号令に応じて、リザードマン戦士達が傷ついた友軍兵を次々と後方へと移送してゆく。
一方で【パン屋】、【戦誼】、【兵】、【勇牙】、【雀】をはじめとする面々は残敵掃討へと着手した。
「ザフィーア・ハイセン……振られた上に、買収にも失敗か……あんな人物が部下では、皇帝も大変だ」
野良ゾンビ掃討戦に入ったところで、シルヴィアは小さく肩を竦めた。
しかし後で捕縛された死霊術師から聞いた話だが、どうやらザフィーアは恐れ多くも皇帝の正室の座を狙っていたらしい。そんなことを皇子レイウェスト・バルダスが知ったら、どう思うだろうか。
「考えただけで、空恐ろしいですね」
圧倒的な魔力でアンデッド共を焼いているルアンナも、背筋が寒くなった。
そんな中でただひとり、リディリディだけはとどめを刺し損ねたとぼやいていた。
【3】エルフ集落防衛・避難民の保護(担当マスター:おおくまねこ)
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「跪き首を垂れ、臣下の礼を示し前口上の挨拶を経て許しを賜らなければ皇帝陛下からお言葉すら頂けません。許しを賜った後も目線は足元以上に上げない事が望ましく、要件を終えた後も目前で起立しない様に」
「ヒヒヒ、承知しタ……」
エルフの集落に向かう道中、エイル・アーティライトはアダムに礼儀作法の指導をしていた。何せ相手は帝国皇帝だ。他国からの使者とはいえ、無礼者であれば即座に排除されてもおかしくはない。アダムはエイルの指導を真面目に聞き、礼儀作法の身振りを真似ていた。
「アダム、ドンからの大森林の地図と手紙を見せてもらいたいのだけど」
ザザ=ステルヴィナはアダムに頼んでみた。手紙に残留思念感知を使えば、ドンの真意を知ることができるかもしれないという狙いだ。
「地図ハいい。ダガ手紙はダメだ」
しかし、アダムは手紙を見せることを拒否した。無理強いできる状況ではなかったので、ザザは引き下がった。ザザが地図を手に取り残留思念感応をかけると、アダムのただならぬ使命感が伝わってきた。さすがにドンの思念は残っていなかったらしい。
「アダム、栗鼠を会談に同行させてもらいたい。いいかい?」
ルチル・プルメリア・グレイハーツはペットのラトを掌に載せ、アダムに聞いてみた。
「ヒヒヒ、イイだろう」
アダムは頷き、ルチルのペットの同行を受け入れた。
「サチコ、アンタにもこいつを連れて行ってもらいたいんだがいいか? エーテルリンクしてるからアンタの居場所が他の班にも分かる」
「そういうことでしたら問題ありません」
ナハティガル=ラーがナハト・シュライバーの肩の上にいる栗鼠を指差して尋ねると、サチコはコクリと頷いた。
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世界樹から南東方向にある『聖鳥』氏族の集落へ向かった冒険者達は、ブラックデスのゴブリン部隊と共に集落の西側のやや開けた場所にビッグオウムで降下した。ここから徒歩で300mほど進んだ森の中に聖鳥の集落はある。
一方、馬や熊、狼などの足の早い魔獣に騎乗した帝国過激派の授恵者と死霊術師達が、北側から聖鳥の集落へと向かっていた。数はおよそ百。このまま進めば、冒険者達が集落の西に到着するのとほぼ同時に集落に到着するだろう。
「行くぞ、栄光ある帝国の兵達よ。皇帝陛下の露払い、しかと果たして見せよ!」
ゴブリン・ロードのアルヴァスは襲撃部隊の最後尾から、魔獣のゾンビに騎乗した授恵者と死霊術師からなる襲撃部隊に突撃を命じた。
●
「急いでこの村を出るんだ! 帝国の死霊術師達がこの集落を襲いにやってくるぞ!」
ビッグオウムに取り付けた籠で運んできた愛馬で森を駆け抜け、敵より先に集落へと辿り着いたアリオン・リューは大声を張り上げた。避難民達はまだ帝国過激派達の接近に気付いていない。突然現れた騎馬の戦士の警告に、危険を知ったエルフ達が慌て始める。
「キューキュキュー!」
サロのペットの大鼬も大声で鳴きながら集落を駆け回り、エルフ達に注意を促している。その背中には『敵が北から接近中。西側から避難と防衛援助の為向かっている。退避のための準備を。冒険者ギルド所属サロ』と書かれた手紙が貼り付けられており、それに気付いた者は顔色を変えた。
「悪い奴らが来るよ! 急いで逃げて!」
【花鳥】から先行したサフィラ・アズラク・ナハルハルアリーブもアリオンと手分けして集落を駆け回り、まだ敵に気付かず避難生活を送っていた避難民と世話係の住民達へ警告を発していた。
(まだ敵は来てないよ! この人達を安全な場所に逃がす班の準備をお願い!)
避難勧告をしつつ、合間にサフィラはテレパスで村に走ってきている仲間達へと連絡を送った。やがて、冒険者達の本隊が集落の西に到着したのとほぼ同時に、北側からエーテルの炸裂音と獣達の唸り声が聞こえた。
●
「来たな! 作戦開始だ!」
集落を突っ切り、草木に身を隠しながら北へと進軍していた【遠足】のナハシュは樹上から、ジャマーを発動した。何者かの妨害と察し、敵の授恵者達は周囲を探り始めるが。
「さて、それじゃ遊ぼうか」
ヨル・スレイマンはエーテルを込めた模造銀貨を射出し、魔獣の頭部を撃ち抜いた。
「魔獣の強さはバラバラだ! 背中に乗ってる授恵者にも気を付けろ!」
前髪で本能的に魔獣たちの強さを感じ取ったロウトフェダーが言った。ロウトフェダーは大地を駆け、煙幕弾でナハシュの隠れている樹も含めた一帯を覆い隠す。仲間の陽動を受けて、ナハシュは樹上をするすると駆けた。
「まだ避難が完了していない。敵を集落に近づかせるわけには行かんな」
【瑞雨】のカルフ・オルヴォは過激派授恵者達が騎乗している魔獣を狙い、足を狙って太刀を振るう。決して深追いはせず、攻撃と離脱を繰り返して敵の機動力を削ぐことに専念した。
「ええ、カフさん。エルフ達を守りましょう……あ、あそこの木の陰に授恵者が隠れています。気を付けて!」
セオ・ウルジオは察知した敵の存在を教えつつ、カルフが足を落とした魔獣にすかさず接近し、首を落としていく。ゾンビ達をコントロールしている術師達はかなり後ろの方に陣取っているようだ。前衛達を排除しなければ、術師の首は取れそうにない。
「首を落としても止まるか分かんねえから……足を狙うか」
ダムド・フィリスは木の上とツリーハウスの屋根の上を移動しながら、魔獣たちの死角から暗針で奇襲を仕掛けている。狙いはカルフと同じく、乗騎となっている魔獣の足だ。乗り物としては使い物にならなくなったと判断した授恵者達は、魔獣から降り、徒歩で冒険者達と交戦を始めた。
「やはり数が多いな。俺達は機動力の高い奴だけを優先的に狙おう」
「了解さぁ。まだ、村人らの避難が終わってないから、うちらが頑張って、時間を稼がんとさぁ」
【花鳥】と共に脱出していくエルフ達の護衛についていた【赤翼】のエイル・ビュセファスとフリューリングスルフト=ティエラは【瑞雨】の足止めをすり抜けてきた魔獣のゾンビ達の接近をフリューリングスルフトの超聴覚で察知し、カバーに入っていた。
【瑞雨】は奮戦したが、いかんせん数が少なく、嵐のように押し寄せて来る魔獣達の多くは彼らのいる場所を通過して村へと接近していく。だが、その一方で【瑞雨】と【赤翼】に守られた【花鳥】達はエルフの避難民たちを誘導し、西へと抜けることに成功していた。
「村の皆さんは我々と一緒に避難を! 二列になって移動して下さい!」
「西側の方が安全です。急ぎましょう」
冒険者達が来た西側へも敵が現れ始める中、コルネリウス・アーラとフクシア・S・シュルツはエルフ達を誘導し、敵が少ないルートへと先導している。全員がテレパス使いである【花鳥】を含め、テレパス使いはこの戦場に数多くいたため、情報の共有はスムーズに行えている。
「大丈夫だ、アンタ達は傷つけさせない」
【花鳥】に同行しているシグルド・オルセンは殿を務め、後方から追撃してくる魔獣達を槍で打ち払っていた。
「こっちの方が敵が少ないよ! 強行突破にゃー!」
先頭を行くサフィラは燕が滑空するような優雅な動きで大地を移動すると、側面から魔獣の群れに接近し闘気塊でまとめて叩き潰した。
「罠を仕掛ける暇は無さそうなのだ。護衛を頑張るのだ~!」
大福はペットの粽と手分けして安全地帯を探している。捜波と超聴覚、ホークアイを扱える大福は、【花鳥】のレーダー役だ。
「アルヴァスの位置は分かる? エルゼリオ」
「分からない。生い茂ってる木が邪魔で上からでも敵部隊の全貌は見えないから。でも多分後方だと思うよ」
ロゼットの言葉に、エルゼリオ・レイノーラは首を横に振った。彼女ら【雷槌】は押し寄せて来る魔獣のゾンビ達と交戦しつつ、アルヴァスの迎撃準備を整えている。
「姿を見せる前に罠を張っておきましょう。その間、護衛をお願いします」
アリッグ・レイダーは持参したロープを木の枝に引っ掛け、草色に塗装して偽装している。持参したロープは3本。全てセットするにはそれなりの時間がかかる。
「チッ」
樹上から帝国過激派の授恵者を不意討ちしようとしていたアーテミシアは、逆に魔矢で攻撃され、舌打ちしながら木から飛び降りた。
「テメエらを口車に乗せたやつがいるだろ。どこに行ったか吐きやがれ!」
アーテミシアはそのまま授恵者と交戦を開始する。魔矢を食らって流血しながらもまだ余力を残していたアーテミシアが戦槌を一閃すると、ひ弱なキャスターは一撃で背骨をへし折られ、魔獣ゾンビから墜落した。
「あそこだ」
超聴覚・超視覚・捜波を駆使し、敵の接近を予測していたレタラ・スマリは敵の乗るゾンビ馬に狙いを定め、風読みの矢で狙撃した。完全不意討ちを受けたゾンビ馬は走行中に前足を破壊され、後ろに詰めていた別の騎兵とクラッシュ事故を起こした。直後、サロがレタラが転倒させた魔獣ら目掛けて流星射を打ち込んだ。
「これだけいっぱいいると殺しがいがありますね。楽しいです」
セラフィナ・M・ベイリーはフレイムゲイズで魔獣の群れを焼き払いながら、にこにこしていた。セラフィナにとってはエルフの集落の安否はぶっちゃけどうでもいいのだが、敵を屠るのは胸が躍るのだ。
●
一方その頃、集落の東側では皇帝ヨゼフと交渉を試みるアダムのサポートの為、十数名の冒険者達が彼の護衛として同行していた。
(アダム、本当に大丈夫なのか……?)
マントを被り、偽アダムに変装した【影護】のギャメルはドン・ゴーフルの行為を黙認することに矛盾を感じつつも、自慢の嗅覚で索敵をしていた。しばらくすると、北西の方から風に乗ってすさまじい腐臭が漂ってきた。
(すげえ腐臭だ……! みんな、ゾンビが来るぞ!)
ギャメルはテレパスで味方に警告した。
「北西からですね。アダム、エリアサイレンスを使います。皆さんもどうぞ中へ」
オゴスはアダムに一声かけ、自分の周囲数メートルを静寂に包んだ。これで攻撃態勢に移行するまでのあいだは、音を完全に遮断したまま進むことができる。さらにオゴスは、敵の死霊術を妨害するため、ジャマーも発動した。
「アダムに敵を近づけさせるわけには行きません。陽動に行って来ます」
陽動に飛び出したのは、【影護】のナハトとザザ、アデッサ・ハーレイと【操蝶】の面々だ。ナハトが前列にいた魔獣のゾンビに矢を撃ち込むのに合わせ、ザザとアデッサはジャマーを発動した。すると、ゾンビ達が暴走を始め、制御が甘くなった。その隙を見逃さず、魔獣ゾンビの群れに飛び込んだアデッサの剣とナハトの矢が魔獣たちを次々と打ち倒していく。冒険者達の強烈な奇襲で敵の進軍は停止し、その場で乱戦となった。
「陽動、頑張ろう」
わざと目立つように全身を発光させているファム=ゴートはタイダルストリームを放った。エーテルの水流は60メートルほどの距離の地面を抉って即席の堀を作りつつ、敵の隊列に風穴を開けた。
「シエラ、ジャマーを頼む。死霊術に対してはジャマーが有効だ」
(アダム以外に懸念があるとすればシエラの地元が戦場である事か。集落から離れた場所にして良かったとも)
シエラ・フォン・リシェイラの隣にいたルチルは、傍らの彼女に声をかけた。
「はい」
(飛び出してきた森ではあるけど、大切な故郷だから。少し離れた位置に配置してくれたルチルさんには感謝しています。近いと感情的になってしまいそうで……)
シエラはすぐにジャマーを発動する。たちまち、二人の周囲にいた魔獣ゾンビ達が暴走を始めた。ルチルは炸光矢を放ち、魔獣達をまとめてバラバラにした。
「シャー!」
だが、暴走した魔獣ゾンビの一体が本能のままにファム達へと突進してきた。ファムの光っている体に惹きつけられたのだろう。ファムの前にいたシエラは刀を抜くと、襲い掛かってきたワニゾンビの突進を受け止め、返す刀で首を切り落した。
「やるじゃないか、シエラ」
「最近練習したんですよ!」
●
敵の陽動を仲間に任せ、アダムの護衛についていたナハティガルとオゴス、ネーヴェ・グラヌローザは、見事敵が途切れる所まで逃げおおせていた。
「ここカラは影移動を使う。足止めは頼ム」
「分かった。アダム、油断はするなよ」
「今更ですが、ヨゼフと対話できるんですか? くれぐれもおっ死なないでくださいよ」
「ヒヒ、アリガトウ」
ギリギリまでアダムの護衛についていたナハティガルとオゴスに見送られ、アダムは木の影の中に沈んでいった。
「……無事に行きましたね」
「いや、まだだ。アダムへの追撃を阻止しなければ」
「敵の足止めですね。お付き合いしますよ」
影から影へと瞬間移動していく能力を持つアダムだが、ナハティガルには彼の行方が追えていた。なぜなら、捜波で索敵を行っていた際、彼にもマーキングを施していたからだ。【影護】はそのまま、アダムに追いつきそうな敵の排除へと向かった。
●
「さて、ここからですね」
ネーヴェの手伝いも得て施した森林迷彩で見事に周囲の風景に溶け込んだキーゼは、協力者の隠れた援護もあり、他の冒険者達にも気づかれないままアダムについてきていたのだ。
「流石に速いですが……なんとか食らいつけそうです」
重たい装備を全て外し、武器すら携帯していないキーゼは、影移動で出たり入ったりしながら高速で森を移動するアダムに何とかついていった。
(キーゼさんは大丈夫でしょうか……)
自身も護衛に混ざりつつ、天眼でさりげなくキーゼに注意が向かないよう護衛の位置を誘導していたネーヴェは、彼の身を案じたのであった。
●
「まずいです、もうじき柵が破られます……!」
防衛柵近くの樹上から木で魔獣達を狙撃していたゲルダ・クラインは表情を歪ませた。真っ先に危急を知らせたアリオンをはじめ、数に劣る冒険者達は押し寄せて来る魔獣のゾンビや授恵者相手によく戦っていたが、ついに防御柵の一か所が破られようとしているのだ。
バキキキ! 木材がへし折れる鈍い音と共に、ついに村の防御柵は破られた。だがその時、ゲルダの後方から飛来した炸光矢が魔獣ゾンビの群れと激突して炸裂した。それに続くにように、十数本の矢が魔獣達へと浴びせかけられる。
「ゲルダちゃん! 村で戦える人達を集めて来たわ!」
「リサちゃん!」
炸光矢を放ったのはリサ・ベイカーだった。彼女の後ろにはリサと共に武器を取り戦う非授恵者のエルフ達が二十名ほど。防衛柵の内側から、矢を魔獣を射かけてくれるそうだ。
「『ストレガ』は同胞と共にあり。サチコ殿、私の後ろへ」
ストレガ・L・リベルガストラはブラックデスらと共に、集落の北側の柵の少し内側で敵を待ち構えていた。銃眼光壁を展開し、ストレガはサチコと共にその裏へと身を隠す。柵を破り、集落へと突撃してきた魔獣ゾンビ達は不可視の重力場によって足止めされ、動きを止めた。その隙に、銃眼光壁の裏から飛来した荒れ狂う光弾の雨とエーテルの暴風、そしてサチコの【消えない炎】が魔獣たちを貫き、吹き飛ばしていく。
「助かったよ。ありがとう。みんな、あと少しだ!」
アリオンが声を上げ、援護に乗じた冒険者達は敵を押し返していく。
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「ここか! 見つけたぜ、死霊術師共!」
冒険者達と帝国過激派達の死闘が続く中、ロウトフェダー、ヨルの援護を受けたナハシュは身を隠しながら魔獣ゾンビの群れを突破し、死霊術師達の待機していた後衛まで辿り着いていた。
「喰らえ!」
ナハシュがジャマーを発動したその瞬間、魔獣のゾンビ達が死霊術師達のコントロールを離れ、本能のままに暴走し始めた。不意を突かれた死霊術師達に動揺が走り、前線のゾンビ達も統制を失う。中には、自分に騎乗していた帝国過激派授恵者に襲い掛かる個体もいた。慌てて自分達の防御を固めようとする死霊術師達だが、真近でジャマーを受けているゾンビ達の動きは鈍い。さらに、ナハシュの後からついてきていたヨルも銀貨で死霊術師達を狙撃したことで、敵の戦線はさらに混乱した。ナハシュは敵が態勢を立て直す前に三人の死霊術師を切り伏せた。
「貴様ら、生かしては帰さぬぞ!」
「やばい! 気付かれた!」
アルヴァスが放った火炎を躱したナハシュは身を翻す。アルヴァスはなおも撤退していくナハシュらに追い縋り、ロウトフェダーに向けてメテオライトを放った。
「がはっ!」
降り注ぐ光弾に撃ち抜かれたロウトフェダーが口から血を吐く。ナハシュをここに送り込むまでの間、ダメージを受け続けていた彼女の体力は、ついに限界を迎えたのだ。
「これは奥の手だったが……!」
ヨルは光縛封を放ち、アルヴァスを光の結界の内へと閉じ込めた。
「おのれ、光縛封か! うっとおしい連中じゃ!」
アルヴァスは光の壁を魔法で破壊し、強引に結界を突破した。だが、彼が封鎖を脱した時、既にナハシュ達は姿を消していた。
「くそ、死ぬなよ、ロウトフェダー!」
ナハシュとヨルは重傷を負ったロウトフェダーを支え、全速力で後退していった。
●
「! ゾンビ共の統率が乱れた! 一気に攻撃を仕掛けるのだ!」
魔獣達のコントロールが甘くなっていることに気付いたストレガは大声で叫んだ。その事実はテレパス使いの冒険者達の間で素早く共有され、冒険者達は一気呵成に魔獣達を撃滅していく。
「今戻った! エルフの人達は安全な場所まで逃げたぞ!」
「おれ達も加勢する!」
西側から走ってきたエイルとカルフが言った。エルフ達の護衛の任務を終え、【赤翼】と【瑞雨】が帰還を果たしたことで、防衛柵付近の危険な戦局は冒険者側へと傾きつつある。
「ええい、もう我慢ならん、儂が冒険者共を焼き払ってくれる!」
とうとう痺れを切らしたアルヴァスは生き残っていた死霊術師の一人に指揮権を預け、集落へと突撃してきた。
「てめえが大将だな! 命取ったらぁ! ロードがナンボのもんじゃ!」
ブラックデスのゴブリン達はアルヴァスへと挑まんと気炎を上げる。
「やめなさい。あいつは危険です。冒険者に任せなさい」
「へい、サチコ姐さん」
が、サチコに制止され、ブラックデス達は魔獣ゾンビの生き残りの相手をすることにした。
「エルフさん達も下がって! こいつの相手は私達がします!」
リサに促され、エルフ達も後方へと下がる。
「こいつ、危険さぁ!」
フリューリングスルフトが叫んだ。冒険者達はアルヴァスを迎撃せんと、射撃攻撃を放ちながら老ゴブリンを包囲していく。しかし、アルヴァスは老人とは思えぬ動きで攻撃を回避し、高速で移動しながら辺りに爆炎を撒き散らした。
「出たな、アルヴァス! お前に殺されたケンタウロス達の恨み、ここで晴らしてやる!」
「人馬じゃと? 帝国を荒らす亜人共を殺して何が悪い! 逆に感謝してほしいくらいじゃ!」
アリッグはアルヴァスの名を呼び、アルヴァスの注意を引き付けた。同時に、アルヴァスの進行方向の樹上に潜んでいたダムドへと手信号を送る。
「今だ!」
ダムドはアリッグが仕掛けていたロープをぐいっと引いた。その瞬間、滑車の原理で持ちあがったロープにアルヴァスは足を引っかけられ、地面にすっ転ぶ。
「おのれ、小賢しい真似を……! ぐわっ」
「キミはもう、おしまいだよ!」
アルヴァスはすぐに起き上がろうとするが、タイミングを合わせたエルゼリオの強襲をまともに受け、再び地面に突っ伏す。
「このゴブリン、なんだか偉そうですね! 殺しましょう!」
「見つけたぞジジイ、往生しやがれ!」
「チィ!」
老ゴブリンが立ち直るより早く、セラフィナの魔法攻撃とアーテミシアの戦槌がアルヴァスへと襲い掛かる。アルヴァスはエーテルバリアでセラフィナの攻撃を防いだが、そこが限界だった。振り下ろされたアーテミシアの戦槌が肩にめり込み、アルヴァスは血へドを吐く。さらに、アーテミシアと対峙するアルヴァスの側面にロゼットが接近した。
「消えなさい、アルヴァス!」
己の死期を悟ったアルヴァスは、今わの際に怨敵の姿を幻視する。
「おのれ、イダ! お主さえいなければ帝国は……! ぎゃああああ!」
直後、光輝く祭刀に薙ぎ払われたアルヴァスの肉体は鮮血を噴き、それが老いたゴブリン・ロードの遺した最後の言葉となった。リーダーを失い、残る敵にもはや勢いはなく、様相は掃討戦に転じていく。
「もう大丈夫のようです。皆さん、村に戻りましょう」
戦いが終わってすぐ後、テレパスで敵を殲滅したという知らせを受け取ったコルネリウスは、保護していた避難民へと微笑んだ。
【イメージノベル】(執筆担当マスター:桃谷かな)
木々の間を走り、影を渡り、森の中を縦横無尽に進んでいく小柄なフードの少年を、森林迷彩を纏った男――キーゼが全速力で追いかける。
影から湧き出たアダムがようやく立ち止まったかと思えば、そこには一軒の石造りの建物が現れていた。
よく見れば随分と古く、過去に何者かが放棄した邸宅だろうと推測できる。
(……これ以上は行けませんか)
足を止め、邸宅の周囲を観察するキーゼ。何を勘違いしたのか玄関前で跪き、首を垂れたアダムの周囲には、物々しい装備の兵士たちが集まっている。
(身内の不始末のケリを自らつけるつもりですかね……彼は――)
キーゼは茂みに身を隠し、邸宅の中へと消えていくアダムを見送った。
●
「――レイウェストが余に謁見を求めておると申したが、用件はそれだけか」
「……ハイ」
教わった通りに、アダムの目線は皇帝ヨゼフ・バルダスの足元に固定されている。
邸宅内の広い一室。木椅子に身を預けたままのヨゼフが、無価値なものを見る目でアダムを見下ろしていた。
「ドンの手紙ノ通り……。レイウェスト皇子ハ、今や王国にモ、同盟にモ……世界各国から利用サレていル……」
顔を俯けたままのアダムが、笑んだ。
「寄る辺を失い王国に靡いたか。……して、その愚息と余を引き合わせようとは、小鬼共の王は何を企んでおる」
「……ゴブリンの、未来のたメ。帝国ノ君主は、一人でイイからナ……ヒヒヒ」
ヨゼフはドン・ゴーフルからの手紙をくしゃりと握り潰し、しばらく黙した。
アダムの懐でルチルの栗鼠がじっと耳をそばだてる中、ヨゼフが纏った征竜の具足が硬い音を立てる。
「……まあ良い。仮にも皇子の地位にある者からの正式な申し入れとあらば、拒む理由はなかろう」
「ヒヒヒ……承知しタ……」
目の前に投げ落とされた一枚の紙を掴んで、アダムは立ち上がる。
くるりと踵を返し、小走りに扉を目指した――その時。
窓から見える遠くの空が、白く光った。
「――!」
――我が領域を侵す者達よ。立ち去れ。
思念のような何かが聞こえて、アダムは思わず背後の皇帝を振り返る。
木椅子の前に佇む、壮年の偉丈夫。その眼前に、七色の光が渦を巻いて漂っていた。
世界樹か、と。
ヨゼフが口元を歪めた直後、光は見る間に膨れ上がり、部屋のすべてを呑み込んで――消えた。
(監修:アルパカコネクト運営)
マスターコメント
「【樹謂】決戦:見えない真実、護り手の声」ご参加ありがとうございました。お疲れさまでした!
巧みな連携やキラリと光るプレイングを多くいただき、世界樹も集落も無事に護られました。
ご参加いただきました皆様に感謝申し上げます。
「特別褒賞・負傷者一覧」とエピローグノベルも更新しておりますので、TOPまたは連動特設ページからご確認くださいませ!
決戦シナリオ非常に難しい 報酬:多い149 / 1〜9999人
2022年07月30日 14時05分03秒 公開
大成功
参加者
トゥーリ
ハッタ・ムラムラ
イヴェール・アーチボルト
- メイプルリーフ シルク
ヨル・スレイマン
エリザ・A・ミシャール
ゲルダ・クライン
コルネリウス・アーラ
アンネエルカ
エイル・アーティライト
ケン・Z・ブラッドリー
シエラ・フォン・リシェイラ
アデッサ・ハーレイ
ゼラルム・エルホワイト
サニー・フォン・オルライト
- サイラス
エルゼリオ・レイノーラ
ルアンナ・ミュラー
エルナ・クルプファルツ
ユークリア・フィナンシェ
ナハシュ
アルベルト・V・シュタールシュヴェーアト
アリア・ティーダ
スィーリーン
リサ・ベイカー
テス・アウレア
フリーダ=ブロムヴィスト
リリリリス
ザザ=ステルヴィナ
ベルク・オスマット
ヴィルヘルミナ
ハリス・アル・ターミル
ルチル・プルメリア・グレイハーツ
ルルト・アーキス
レティシア・R・クラティアス
カメリア・ローレンス
アーテミシア
- イェレミース トゥラ リディリディ
ストレガ・L・リベルガストラ
グレイブ・ヤード
イズレンディル・パラリム
ファム=ゴート
ギャメル
エフィルミア
サフィラ・アズラク・ヴォルファング
ロイ・アウレア
ヘレン・ワーグナー
リコリス・アデュラリア
ギーゼラ
ヴィナス
キリク
ヒロ・テスタロッサ
セリオス・オーガスト
イズル・M・ヴォルゴール
ハヤト=ガラン=ヴォルファング
アルマ・ヴァレンタイン
ララベル・サン・ディーベル
アリオン・リュー
ゲルト
ゴルバルティア
フェイサル・セイフ
カイン・ステラ
フリューリングスルフト=ティエラ
ミィア
レイヤ・ダライ=カホール
クローリカ
海神 江流
エイル・ビュセファス
サマエラ=フォリウム
エルケ・シャルフ
テュリン・ヴィング
ロゼット
- キーゼ
トーラ
ネフリティス=N=クリスタロス
ツィーラ・イェレミース
ライナ・フレイヴァルツ
- アステル
クレア・エクレール
キオルティス
梅・雨陽
セロンガード・シュタインドルフ
ロドリック・アルカイン
ナハティガル=ラー
ナキル
アリエッタ
フロマーシュ・ダイヤドロップ
ロウトフェダー
オゴス
ナハト・シュライバー
エルシー・サリバン
ハル・チフ
エヴァン・ピオネロ
楓月・千弦
エミリア・シバ
ネーヴェ・グラヌローザ
ハルハン・ツァガーンナル
- ラーナフ
ガルシア
ベアトリーチェ・カロッサ
ハリーヌ・ヨツユビ
ティト
サロ
グレイ・ナックラー
アウレーリア・フォン・ネーベルベルク
ナタリア・フィッツジェラルド
カルフ・オルヴォ
大福
エル=バ=ノイアン
ルベア・ベルニ
シルヴィア・A・カペル
ハーヴィ
ルーンス・ラグネル
エル
エデル=マグノリア
アルバス・ロウル
ユズ
ライオネル・ギシュム
- ファヌ
ヴァンゲルス・ロッド
キリアン・フィッツジェラルド
サシャ・テーリング
ダムド・フィリス
セオ・ウルジオ
パルド
ウォーゼル
シグルド・オルセン
ブレイド
- Re✕
ジュスト・V・ケレス
だわ
サラ
東雲・更紗
フェミナ・ノ・リビディーネ
ローザリカ・D・ケレス
アリッグ・レイダー
- シュルツ S フクシア
レタラ・スマリ
アルシエラ・ライゼル
ペルゼィック
ミレイユ・ヴェルジー
シファー
- リリアン
ヤウズ・オスマット
ルイド
マトン
アルエット・アステール
セラフィナ・M・ベイリー
アンジェ
相談掲示板
シーフのトーラです。 よろしくお願いします! 【1】でルカンドラさんの護衛か、ダンジョンの偵察をやっていると思います。
おーっす! ブレイブファング傭兵団のハヤト=ヴォルファングだ、よろしくな!! うちは【2】でアンデット共を操る死霊術師共を優先的に蹴散らしつつザフィーアを獲りに行くぜ!!
ヒーラーのロゼットよ。よろしくね。 【3】のエルフ集落防衛に参加しようと思っているわ。 主にゴブリンロード、アルヴァスへの対応に行こうかと 思うのだけど、誰か共闘できそうならチーム募集したいわ。 「ハウリングオブブルーフレア」で命中や回避、魔法防御を 強化するから、とりあえず強化だけ欲しいって人でも、良かったら 検討してみて欲しいわ。コミュニティで卓を作っているから。
ヴィルヘルミナです。よろしくお願いします。 今回は【2】で弓撃ってると思います。