【呑竜】決戦:眠れる竜は王国を呑むか

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シナリオID:3240

オープニング

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「久しぶりだね、名もなき剣士。いや、聖剣様とお呼びした方が?」
(何を考えて、このようなことをしたんだ。君とは良き友人だったと思っていたのに)
「嬉しいなあ。君もそう思ってくれていたとは。……ねぇ、あの時の君は人として、人の仲間と共に『竜喰らい』に挑み、力及ばずに仲間を失った。結局、最期は自分が神と化して封じることになった、よね」
(そんな結末になるのならば、最初に君の力を借りるべきだった、と?)
「そういう過去もアリだったかもしれないね。でも、君はあの時、『吸血鬼の創造神』である僕の助力を断り、人として戦い敗れた。その過去はもう変わらない。……でも、君が寝ている間に、世界は変わったよ。今なら、僕も君も神としての力を貸さずとも、あるいは新たな神を生まずとも、人は『竜喰らい』を倒せるかもしれない」
(……何だって?)
「僕はねえ。今こそ君の望みを叶えたいと思ったんだよ。……僕の望みはもう叶わないけど、君の望みくらいは叶えたいから」
「……迷惑極まりないですわね」

 二人、いや『二柱の神』の会話を聞いていたメアリーは王女が、と言うより女子がしてはならない表情でそう吐き捨てた。自分勝手に世界に迷惑を掛ける組織の大幹部である右腕はへらりと笑いを返すだけだったが、聖剣――伝説に残る名もなき剣士からは申し訳なさそうな思念が漂ってくる。そんな会話の間、そして冒険者達が駆けつけるまでの間、飛んでくる瓦礫や触手をジュールが打ち落とす。『竜喰らい』本体の動きを食い止めていたのは、荒れ狂うメドゥの左腕であった。

「潰れなさい!! 潰れてよ、征竜!!!!」

 周囲の触手を見えざる手で粉々に吹き飛ばす。飢えに任せてむさぼり喰らっていた『竜喰らい』が、さすがに無視しきれなくなったのか空中に浮かぶ女を睨み付けた。槍のように伸びた触手が左腕に迫り、彼女が張った障壁を苦も無く叩き割る。単身で超大型クリーパーと『戦闘』になっている事は驚くべき事だが、さすがに神代から生きる怪物相手では力負けするようだ。

「僕にはもう戦えるような力は残っていないけどね。左腕ちゃんは悪い子じゃないし『神』でもないから、できれば人同士仲良くやって欲しいんだけど」
「……敵の敵は味方という程度で宜しければ、利用して差し上げますわ」

 破壊の渦の中心を目指してきた冒険者にも聞こえるように、右腕が声を上げ、同じく大きな声で王女が応じる。冒険者達が見たのは、地面ごとひっくり返されたような中庭の惨状と、地下より這い出て全身を露わにした『竜喰らい』の見上げんばかりの巨躯であった。最初は地下から槍のように突き出ていた触手の群れは、いまや頭上や横から縦横無尽に振り回されている。左腕に食らいつこうと巨大な首を伸ばし、空ぶった勢いで土砂が舞った。

(済まない、王家の娘(我が子孫)よ。今の私は君に振るわれねば力を出せないのだ。かの『竜喰らい』を共に討とう)
「言われるまでもありません。冒険者の皆様もいれば、勝てない相手ではありませんわよ、ジュール!」
「……は。ご下命に従いましょう、王女殿下」

 もとより『竜喰らい』に加えて左腕まで敵に回せるような状態でも無い。狂乱した左腕が最大級の火力で有るのも確かだ。この場ではメアリーを守り切ることが自身の役目と、ジュールは杖を握りしめた。

●
 待ち合わせの指定は、学園中庭のウィリアム像の前であった。周辺からは既に人払いを済ませてある。中庭に立つのはウィリアムと介添え役の近衛騎士ハスラム・レイノーラ、列席者枠で集められた冒険者達。木立に囲まれた広場で、巨大なウィリアムの黄金像に見下ろされながら待つことしばし。乾いた腐臭を強い香水で打ち消したような独特の匂いが漂いだした。

「やるか?」
「いや、ここで確実にケリを付けたい。グリゼルダが逃げられない距離に近づくまで、話を合わせよう。冒険者諸君も、それで頼むよ」

 小声でハスラムにそう答え、手で冒険者を制したウィリアムは、ぞろぞろと現れるキメラゾンビの列を静かに見守る。その最後尾に、ヴェールで顔を隠したグリゼルダを騎乗させた人馬(ケンタウロス)ベースのキメラ(レミーラ)ゾンビの姿が現れた。本来の頭部を失い、代わりに馬の頭を乗せているが行動に支障は無いようだ。

「ウィリアム(アラン)。待った?」
「いや、全然」

 実際には大分早めに着いていても、反射的にそう答えてしまうのがウィリアムという男だった。背中に第三の腕を生やした異形のグリゼルダのとなりには、乗騎であったレミーラゾンビがそのまま立つ。その後ろに留まる雑多な継ぎ接ぎゾンビの群れがグリゼルダ側の列席者ということか。

「これから私達の結婚式が始まるのね。黄金像に愛を誓って、それから誓いの眼球抉り。永久にアランと私の愛は続くのよ」
「眼球はちょっと勘弁して欲しいかな。それにもう、僕の身は僕だけのものじゃないんだ。素敵な婚約者達がいるんでね」

 これに先立つグリゼルダの襲撃で、婚約者の身は無事だったが無関係の令嬢と警備員に死者が出た。ウィリアムがこの待ち合わせに応じ、因縁をここで必ず絶たねばならぬと決意したのは、その為でもある。

「まあ、そんなこと? 大丈夫、私は心が広いの。後で全員殺すから問題ないわ」
「……なあ、聞きしに勝るやべぇ女だな……」

 交わされる言葉は狂気を孕み、男女の機微に無縁ではない色男ハスラムですら、完璧に未知の世界であった。

「それでは、私とウィリアム(アラン)の結婚式を始めましょう。大丈夫、痛くしないわ」
「……そうだね、始めようか」

 もはや、ここに至っては他に道もない。新郎新婦、介添えに列席者の全員が得物を抜き放つ。最後に立つ者はグリゼルダか、ウィリアムか。二人が共に天を仰ぐことはもう無い。

●
「幽界樹が複数、並んで生えている……。このような光景がこの世にあるとは」
「吐き出した霧同士は干渉していない。なるほど、これは面白い。それに、周囲のクリーパーの姿はエスタルの草人に似ているな」
「出現して間もないだろうに、この濃さか。クライス、凝黒紋具の準備を頼む」

 凝黒紋具は、起動に莫大なエーテルを要する『征竜の虹宝剣』に代わる新たな『黒い霧』対策として、クライス・アクバーが冒険者や協力者の助力の元で作り上げた装置だ。完全に『黒い霧』を除去できるわけでは無いから一般人への影響は出るにせよ、力ある授恵者であれば多少の不調程度に抑えられる。ヴィントにいたマクシミリアン・ミルドが『万が一』に備えて追加で王国へ護送してきたのは、数日前のことだった。

「あの様子では、生き残りはいないだろう。王国騎士諸卿は、私の指揮下ということで良いか」
「……は」

 双方思うところが無いではないだろうが、この場の指揮は『婚約者メアリーの代行として』レイウェストに委任されている。素直に頷く騎士と、若き黒曜子を値踏みするような騎士の双方へ、レイウェストは声を張った。

「授恵者の騎士は、冒険者と共に前衛を排除の上、幽界樹を伐採する。クライス、私が前へ出た後の凝黒紋具の指揮を任せる。マクシミリアンは彼と凝黒紋具の護衛を頼む」
「了解した」
「……わかりましたよ」

 実力的にも立場的にも、本来は皇子は後方に控え、元近衛のクライスやマクシミリアンが前線に立つ方が常道ではあろう。が、ここは世界の敵たるクリーパーを取り除く戦場であると共に、帝国と王国の綱引きの場でもあった。『レイウェスト皇子』の威を、王国騎士達へ実際以上に印象づけるまたとない好機を、彼は逃がさない。

「黒い霧を除去する力は使えずとも、この『征竜の虹宝剣』はクリーパーから見れば目障りだろう。凝黒紋具から注意を逸らせればそれで良い」
「皇子も突撃されるのですか?」
「……いや、それは王国騎士諸卿と冒険者の皆に任せる。私は自分の実力を理解しているし、この場で倒れてはならない身である事も分かっている」

 その返事に、授恵者の王国騎士は静かに頷いた。確かに、『征竜の虹宝剣』を所持するレイウェストが前線にいれば、幽界分樹は凝黒紋具の存在すら忘れるかもしれない。しかし、万が一彼が敵の攻撃に倒れれば、戦況は一気に反転する。レイウェストが前に出るべき時は、戦いの勝利が確定した後か、――あるいは、敗勢に転じた時のいずれかであろう。

解説

■連動特設ページ・イメージノベル https://alpaca-connect.com/world/world0/event/event40_top4 ■相談場所について このシナリオの相談スレッドのみの運用ですと、閲覧に際し非常に重くなる可能性があることや、戦域が多岐にわたるため、別個相談用のコミュニティを用意いたしました。 【呑竜】決戦シナリオ相談場 https://alpaca-connect.com/world/world0/community/HOXd9E63k4QRPyH5rEOL ・戦域単位での募集や挨拶 ・パーティの募集・案内 ・【タグ】説明スレッド また、パーティ内での個別の相談については、上記コミュニティ以外を使用してくださってもかまいません。 ■【重要】プレイングの書き方 ・今回参加する戦域を選択肢からお選びください。:【1】【2】【3】 ・パーティや協調行動を示すタグは【一行目に】指定してください。タグでの指定は必ず【一つまで】となります:【幽界樹の仔対応】【皇子護衛隊】など  例   【幽界樹の仔対応】   (プレイング本文) ・【タグ】とは、「パーティの集まり」がどういった行動指針をとるのか、ということを示す表記です。お友達同士の参加や、特定の目的の行動をする場合、同じ【タグ】を表記していることで判定に用いられます。 ・同じ【タグ】で戦域が分かれることは問題ありません。 ・【タグ】内容の説明(何を目的とするか、運用方針など)については、「相談用コミュニティ」の専用スレッドに【200文字以内】で記載ください。200字を越えた場合はタグそのものを無効といたします。 【1】リーンエス王国 パンクリアース学園 ▼状況 時刻は日中であり、視界に不安は無い。 パンクリアース学園の中庭にて、グリゼルダとその一党を迎え撃ち、逃さずこの場で撃破する事が目的となる。 周辺から学園関係者の避難は完了しており、寮など離れた位置に居る者が巻き込まれる心配はしなくても構わない。 戦場となる『中庭』は全体で50×50mほどの区画であり、中央に身長10mのウィリアム黄金像が立っている。黄金像の周囲30m×30m程の区画は平地であり、地面と石畳が混在する。その周囲には程よく木陰を作る程度に木々が生えている。 近隣に存在する食堂やダンスホールと言った施設へ逃がさぬよう、中庭での封殺が望まれる。 中庭の設備の破損は許容範囲だが、黄金像が破壊された場合には二度と再建出来ない可能性がある。 初期配置は、黄金像を正面にグリゼルダ、ウィリアムが向かい合い、その隣にレミーラゾンビとハスラムが立つ状況となる。 冒険者とグリゼルダのゾンビは彼らから10m程下がって参列しており、双方の距離は20m程離れている。 ▼味方戦力 ・ウィリアム・リーンエス リーンエス王国第二王子。臣籍降下に際して政略で多くの婚姻関係を結ぼうとしていたが、グリゼルダの襲撃によって一般からの犠牲者が出たことを気にしており、此度こそ決着を付けようと意気込む。大陸有数の強力なウォーリアだが、以前グリゼルダに一対一で敗北したことがある。武器は『名もなき剣士が用いたとされる剣』。 ・ハスラム・レイノーラ(EXC) https://alpaca-connect.com/world/world0/?cId=0000005027 王国騎士団近衛隊のうち一隊の隊長を務める騎士。ウィリアム王子の介添え役として、配下は王城に残し単身で参戦している。 ▼敵戦力 ・グリゼルダ メドゥの指先幹部『青の親指』であり、卓越した能力を持つ死霊術師。頑丈かつパンチが強力。大鎌も操る背中の第三の腕(アランの腕)には本人曰く「アランが憑いている」そうで、弱点でもあるが死角は無い。かねてよりウィリアムの眼球に執着しており、彼をラブレターで呼び出してその場で結婚式を挙げ、眼球を手に入れようと目論んでいる。見ての通り行動に脈絡は無く、話はまったく通じない。 ・レミーラゾンビ 聖地に住むケンタウロス部族の大族長であったレミーラの遺体を素体としたキメラゾンビ。グリゼルダの最高傑作であるらしく、空も飛べ走攻守と隙が無い。 ・キメラゾンビ×20 グリゼルダが操るクリーパーの死体を繋ぎ合わせたゾンビ。異常な長身だったり横に太かったり手足が武器だったり長かったりと異形感が激しいが、グリゼルダが参列者枠と言うことで気を遣ったのかいずれも人型の個体である。 【2】リーンエス王国 王城中庭(危険) ▼状況 時刻は日中であるが、竜喰らいが巻き上げた砂が大量に舞っており、視界は不良。 復活した超大型クリーパー『竜喰らい』を討滅することが目的となる。 王都側で有事に備えていた冒険者達が駆けつける頃には、出現地点の中庭を含む王城の半分ほどが崩壊し瓦礫と砂と化している。足場はあまり良くはない。戦う力の無い王城関係者は避難しているが、重体で動けない近衛騎士が10名現地に存在する。メアリーは無傷だが、近衛騎士ジュールはスキルの殆どを消費している。 メドゥの右腕はボロボロに崩れかけており、追撃すれば倒せるだろう。メドゥの左腕は単独で竜喰らいに真っ向から戦闘を挑み、その移動を阻止していたが疲労の色が濃い。 『竜喰らい』は左腕と交戦しつつも、中庭をはじめ王城周辺の土地そのもののエーテルを喰らい、徐々に力を増しつつある。 また、『竜喰らい』の出現の余波でこちらの世界に転げ出た中小のクリーパーが『竜喰らい』から逃げだそうとしており、市街などに向かわぬよう余裕があれば殲滅することが望ましい。 国王らとその近衛は半壊した城内に閉じ込められており、この戦場での戦力には数えられない。 ▼味方戦力 ・メアリー・リーンエス リーンエス王家の末っ子にして唯一の王女。シーフの授恵者でもあるが、実力は並の冒険者レベル。本来の武器は2本の短剣だが、今回は当たれば強力な聖剣を所持している。 ・ジュール・J・ヴェルジー(EXC) https://alpaca-connect.com/world/world0/?cId=0000005030 王国騎士団近衛隊の老魔術師。経験豊かなキャスターであるが、ここまでメアリーを護っていたのでスキルはほぼ打ち止めのようだ。 ▼その他 ・近衛騎士 右腕配下の吸血鬼と交戦し、重体となった近衛騎士がまだ10名生きている。 ・メドゥの左腕 メドゥの指先の大幹部。飛行術を用い、また世界の障壁の裂け目を広げる儀式なども知っている無感情な女性。攻撃と防御に強力な念動力を使う。周囲が見えない様子で、竜喰らいへ狂ったように猛攻を仕掛けていたが、そろそろ限界が近そうである。 ▼敵戦力 ・超大型クリーパー『竜喰らい』 リーンエス王城の地下に封じられていた超大型クリーパーで、現在にリーンエス王国が占める広大な土地の砂漠化の元凶とも言われる。リーンエス王国初代王の父である『名もなき剣士』が打倒したと言われていたが、当時は殺されることなくしぶとき生き続けていた。 亀のような図体に、異常に長い無数の触腕を持ち、伝承では空を飛ぶ竜すら拘束し地に落としたと言われている。 攻撃手段はその触腕を用いた締め付けやエーテル吸収、巨大な口を用いた噛みつき、巨体を用い轢き潰し。伝承によればブレスも吐けるらしい。 ・クリーパー×多数 竜喰らいの復活の余波で出来た障壁の隙間から入り込んだクリーパー達。中型が数体、小型が数十体ほどおり、竜喰らいに喰われぬよう大慌てで逃げ出している。 【3】リーンエス王国 首都グランスパーダ近傍の村 ▼状況 時刻は日中であり、視界に不安は無い。 周囲に徘徊する幽界樹の仔らを退けつつ、連携する4本の幽界分樹を伐採する事が目的となる。 住民は全て幽界樹の餌となっており、また『龍逓架』を持ち込んだメドゥの手先らも制御を誤り食い殺されているため、生存者はいない。 戦場となる王都郊外の名もなき村に、幽界分樹は20m間隔で正方形に生えている。村の敷地は南北に延びる道に沿って50m×300m程であり、建物はその範囲に10軒ほどが点在している。 村の周囲には簡単な獣除けの木柵が存在するが、障害物としては機能しない。 初期配置は、幽界分樹四本を中心に幽界樹の仔(新型)らが周囲を均等に警戒している。 友軍はレイウェストと授恵者の騎士20名が冒険者と共に前衛となり、クライス・アクバーの指揮のもとで村の敷地の南側入り口で10名の術士が大型凝黒装置の作動を開始。作動後は装置の防衛に回る。戦場は全て効果範囲内であり、黒い霧の弱体効果は授恵者には及ばない。幽界分樹からの葉や実は届かないが根の攻撃は彼らの元へ届く。 ▼味方戦力 ・王国騎士団 王国騎士団の授恵者隊30名。授恵者は各クラス6名ずつ。実力は中堅~高レベルPC以上でまちまちである。今回は王家の名代として(王女の配偶者候補としての)レイウェストに指揮権を委ねられている。 ・レイウェスト・バルダス シルトラース帝国の第八皇子であり唯一と思われていた皇位継承権者で、クラスはシーフ。リザードマンとヒューマンのハーフである事が最近判明した。メアリー王女の婚約者でもあり、この機に王国からの借りを少しでも返そうと考えている。『征竜の虹宝剣』の契約者であり、幽界樹の注意を引く囮となる。 ・クライス・アクバー シルトラース帝国近衛連隊出身の元軍人で帝国魔導院エスタル支部長を務めていた。強力な授恵者であり、幽界樹に関する問題の専門家でもある。大型の凝黒紋具とその作動に必要な人員を率いているが、彼らは授恵者ではあるが戦闘向きでは無い。クライス自身は元近衛隊長マクシミリアン・ミルドと共にその護衛に回るようだ。 ▼敵戦力 ・幽界分樹×4 『龍逓架』により出現してさほど間の無い幽界樹の分樹。自身を呼び出した者や準備されていた生け贄を吸収し、大型クリーパー並の耐久力を持つが、攻撃力はやや劣る。最大の武器である黒い霧による広範囲の妨害効果は封じられている。 広範囲へ樹の根を生やして地下から攻撃を行うほか、葉をカッターのように広範囲にばら撒いたり、爆裂する実を枝から投下したりする。 ・幽界樹の仔(新型)×小型多数、中型6 東部鎮守都市エスタルにて目撃された「草人」同様、幽界樹に生み出されたクリーパー。「草人」同様に人を模した形をしているがそのサイズは人間同様の小型サイズから巨人並の中型サイズまで存在する。小型には頑丈な近距離型、投石を行う遠距離型の区分が存在し、中型は近距離型のようだ。幽界樹の端末の役目も果たしており、通常の五感も存在はするが、エーテル知覚に多くを頼る。相互の探知情報を共有するために死角が少ない。 ■決戦シナリオについて ・参加者にはこのシナリオでの働きに応じた褒章が付与されます。将来的にPCの皆さんの功績を表す重要なアイテムになりますので、大切に保管してくださいね!

マスターより

決戦シナリオのリプレイ執筆は複数のマスターが担当いたしますが、基本的な判定は運営サイドで行います。

リプレイ

【1】リーンエス王国 パンクリアース学園(担当マスター:おおくまねこ)

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「以前は後れを取ったが、僕は第二王子ウィリアム・リーンエスとしてここで君を討つ!」
 ウィリアムは静かに告げると、リーンエス王国の至宝たる『名もなき剣士の剣』を構えた。

「嬉しいわ、アラン(ウィリアム)! そんな真剣な眼で私を見てくれるなんて! いいわ、あなたがそれを望むのなら、もう一度、貴方と勝負をしましょう!」
 グリゼルダは超人的な脚力で距離を詰め、ウィリアムの首を刎ねんと襲い掛かった。ウィリアムはエーテルの盾でグリゼルダを受け止め、力任せに鎌の軌道を逸らすと、後ろに飛び、彼女から距離を取った。

「ウィリアム王子を援護するわよ!」
 その瞬間、ファヌの祭刀が眩い輝きを放ち、六角形の光の柱(光縛封)がグリゼルダを封じこめた。それを号砲代わりに、他の冒険者達もウィリアムを援護すべく動き出す。だが、ウィリアムとグリゼルダの逢瀬(たたかい)のジャマをさせまいと、参列していたキメラゾンビ達も動き出した。最速の動きで冒険者達に突進してきたのは、『最強』のキメラゾンビ・レミーラだ。

「王子のジャマは誰にもさせねえよ!」
 割って入ったのは、ウィリアムの介添えとして参戦した王国騎士ハスラムだった。ハスラムは雷の如き速度で放たれたレミーラの突撃槍(ランス)の一撃を剣で受け止め、衝撃を見事に殺してのけた。ハスラムは返す刀でレミーラへと斬りかかるが、レミーラは鎧に覆われた脚で剣を蹴りつけ、最小のダメ―ジで攻撃を凌いだ。

「この程度の魔術で、私を封じ込めたつもり!?」
 グリゼルダはヒステリックに叫ぶと、無数の黒い鎖を地面から呼び出し、光縛封を内側から粉砕した。ファヌの光縛封がグリゼルダを封じていたのは僅か数秒。しかし、その数秒の間にすでに冒険者達はグリゼルダとの距離を詰めていた。

「殿下、お気をつけて!」
 レティシア・レインフィールはウィリアムに声をかけ、黄金色の波動(ウェイブ・オブ・インフィニティロア)を周囲に拡散させる。レティシアの放ったエーテルはウィリアム当人と、彼を援護すべくグリゼルダへと接近していた【勇牙】や【兵】の前衛達に加護を与えた。

「父上! ウィリアム王子殿下の援護はボク達が努めます!」
【兵】のエルゼリオ・レイノーラがウィリアムに【堅甲】を付与しながら、父(ハスラム)へと叫ぶ。
「頭数がいる方が良いな。分かった! 俺は露払いをしてやる! 絶対に王子を死なせるなよ!」
「はい、父上!」
 ハスラムはグリゼルダを【兵】に任せ、自分は取り巻きのキメラゾンビ達を迎え撃つべく、身を翻した。

「ギュンタも加勢します! 仲間も、黄金像も守るですよー!」
 レラ・F・ギュンターも飛び出し、キメラゾンビの軍勢へと斬りかかった。【重点硬化】でキメラゾンビの攻撃を受け止め、【闘気槌】を群れの真ん中に叩きこみ、レラは奮闘する。
「王子には近づかせないッスよ! 任されたッスから!」
 マトンは稲妻の奔流(アーケイン)を放ち、グリゼルダに加勢しようとして突進してきたキメラゾンビ達を拘束した。しかし、キメラゾンビは数が多く、数体がハスラムとレラの脇をすり抜け、ウィリアムやレミーラの元まで迫ろうとしている。

「キシャァアアアアア!」
 人型だったキメラゾンビの顔面が変形し、キリンのように伸びた首がウィリアムに背後から襲い掛かろうとした。しかし、敵の動きを注視し割って入っていたケン・Z・ブラッドリーが、ウィリアムの代わりに肩の肉をごっそりと食い千切られた。
「おっと、ウィリアムには傷つけさせんぞ!」
 痛覚を遮断しているケンは不敵に笑い、ヒールで自身の傷を癒した。

「こっちだ、グリゼルダ! 僕の眼が欲しいんだろう!?」
「捕まえて欲しいのね! ウィリアム(アラン)!」
 今がグリゼルダを孤立させる好機と見たウィリアムはグリゼルダを挑発し、黄金像から全速力で離れていく。グリゼルダも彼を追いかける。キメラゾンビ達もグリゼルダを援護しようと、彼を追ったが、それを許す冒険者達ではない。

「さて、ここが勝負所じゃぞ。わしらは王子の露払いを務めるとしようかの」
「王子のジャマをさせるわけには行きません、行きますよ、グレイ(愛狼)!」
【兵】のグレイ・ナックラーが放った魔力の稲妻(アーケインテンペスト)が壁となって立ち塞がる。シャーリー・ブラウンとその愛狼(グレイ)、セリオス・オーガスト、キリアン・フィッツジェラルドも王子とキメラゾンビを分断させるべく、激闘を開始した。

●
「レミーラ婆さん! もうお休みの時間だ。アンタはオレ達が止める!」
【天葬】と【喫茶】の全員から、ギャメルが付与した青い炎が立ち上っている。さらにギャメルは効果範囲を拡大した【輝刃】を【喫茶】へと付与した。

 ヒヒーン!!
 冒険者達が散開するよりも早く、レミーラのゾンビは槍を振り上げ、猛スピードでギャメルに向かって突進してきた。レミーラの槍はギャメルを刺し貫き、ギャメルは校舎の壁まで吹き飛ばされた。だが、防御に意識を集中していたギャメルはなんとか意識を保っていた。

「レミーラさん、お覚悟!」
 エルナ・クルプファルツはレミーラに密着する距離まで踏み込むと、【重撃射】の零距離射撃を敢行した。顔の下の死角から放たれた矢はレミーラを見事捉え、馬の下半身に深々と突き刺さったが、矢に籠めた重圧の呪いは弾き飛ばされてしまった。

「人馬のキメラゾンビ……雑魚もろともまとめて焼き払う!」
 アウレーリア・フォン・ネーベルベルクは籠手に包まれた左腕をレミーラへと突き出した。その瞬間、レミーラの頭上で太陽の如き熱量を持つ火球が生まれ、周辺のゾンビをも巻き込んで大爆発した。中庭に巨大なクレーターが形成され、土煙が立ち込める中、焼け焦げたレミーラが上空へと飛び出してくるのが見えた。

「偉大な人馬の亡骸をこれ以上冒涜させてなるものか」
 テテリカは空から急降下してくるレミーラに狙いを定め、矢を放つ。だが、レミーラはテテリカの矢を難なく躱した。しかし、レミーラの回避先に回り込むように青白い光の槍が地上から投げつけられ、レミーラの脚を刺し貫き、しっかりと食い込んだ。

「よし、このままグリゼルダと合流させずに叩くのだ」
 ラケルの攻撃が効果を見せたのを確認し、ストレガ・L・リベルガストラはレミーラに【魔蝕】を浴びせた。ストレガのエーテルによりレミーラが身に纏うエーテルは不安定となり、所々に虫食いのような穴が空いた。

 ヒヒーン!
 レミーラは馬のように嘶くと、ラケルに向かって急降下した。ラケルはレミーラの突撃槍に刺し貫かれたが、サポートについていたナタリア・フィッツジェラルドが【スケープセイント】を発動し、ダメージを肩代わりした。
「いいぞ、ラケル。移動力が鈍った分、明らかに突進の威力が落ちている」
 ナタリアは苦痛に顔を歪めながら、自身にヒールをかけた。

●
「ここから先には進ませないよ」
「ウホウホ!」
 サロは何となく着いてきたペットのゴリラに応援されながら、中庭に植えられていた木の上からキメラゾンビを狙撃していた。(特別製であるレミーラ以外の)知能がないキメラゾンビ達は近くにあるものにしか反応できないらしく、サロの【見えない死神】は面白いようにキメラゾンビに突き刺さった。

「ほんの少しだけとはいえ建立(こんりゅう)に協力した黄金像が、なんだか大変な戦場になってしまいましたね……」
 ラティア・ミゼリアはぼそりと呟きながら、人型のキメラゾンビの一体に狙いを定め、長弓を放つ。ラティアの放った矢はキメラゾンビの頭に命中し、頭をリンゴのように粉砕した。ゾンビなので、それでもキメラゾンビは元気に動いていたが。
「いい腕だな、お嬢ちゃん」
「えっ!? は、はい」
 キメラゾンビを一人で何体も切り伏せていたハスラムにいきなり話しかけられ、ラティアは裏返った声で返事をした。

「客の手に渡れば基本作品は客の自由にしてもいいもんだが……この壊され方はなんか納得いかねえ!」
 ペルゼィックは自分の作品でもある黄金像を守るため、メテオライトでキメラゾンビ達を撃ち抜いていた。ウィリアムがグリゼルダを黄金像から引き離してくれたため、戦場は黄金像からは離れつつあるが、さっさと戦闘を終わらせないと、いつ流れ弾が黄金像に命中するか分かったものではない。実際に、黄金像こそ無事だが、この中庭は双方の攻撃の余波ですでに無茶苦茶だし、校舎の壁にも流れ弾でヒビが入っている。
「来いよ、コラ! こっから先は立ち入り禁止だ!」

 遠距離攻撃は一方的に撃てる代わりに、足止めは難しい。さすがにこの人数で20体ものキメラゾンビを完全に食い止めることは難しく、何体かは防衛網をすり抜け、グリゼルダの加勢に向かうことを許してしまった。

●
【喫茶】や【天葬】達がレミーラを、ハスラム達がキメラゾンビ達の群れを必死に食い止めている頃、自分達へ支援を掛けつつ機をうかがっていた【勇牙】達が、一斉にグリゼルダに向かってなだれ込んできた。

(彼女の弱点であるという第三の腕、正攻法では難儀しそうですが必中するアレならば……?)
 東雲(シノノメ)・更紗(サラサ)はグリゼルダを起点に【グラビティフィールド】を放った。ウィリアムも巻き込まれているが、これは味方に影響を与えない魔法なので問題はない。グリゼルダは体重が何倍にもなったような重圧を受け、動きにくそうにしている。

「神の祝福があらんことを」
 シルク・メイプルリーフが神に祈りを捧げると、聖なる輝き(ホーリーリチュアル)が中庭の一画を包み込んだ。あまりにも効果範囲が広すぎてグリゼルダまで回復の恩恵を預かることになったが、こっちの方がはるかに人数が多いので、シルク的にはオッケーと判断したらしい。愛は無差別で無償なのだ。
「それはそれとしてグリゼルダさんにはここで果てていただきますが」

「にゃ! 今日と言う今日は引導渡してやるんだからっ!」
「お前さんは暴れすぎだ。恨みはないが死んでもらうぜ」
 サフィラ・アズラク・ナハルハルアリーブとブレイドが左右から飛びかかり、【破脚砕】を叩きこまんと短剣を振るう。サフィラのエーテルは弾き飛ばされたが、グリゼルダはブレイドのエーテルまでは受け切ることができず、鉛のような重みを片足に感じた。

「今ですぅ!」
 ネフリティス=N=クリスタロスは【魔矢】を放ち、グリゼルダの注意を逸らそうとした。破砕脚で動きが鈍っていたグリゼルダはこの攻撃を避けきれず、腹で光弾を受け止めた。

「今度こそ、そのおっぱいを揉ませてもらうぜ!」
 その瞬間、ハヤト=ガラン=ヴォルファングが中庭を凄まじい速度で駆け抜け、後ろからグリゼルダへと飛びかかった。咄嗟にグリゼルダはハヤトを叩き落とさんと鎌を引く。ハヤトの狙いは今回はグリゼルダの胸ではなく、鎌を持つ第三の腕そのものだった。だが、グリゼルダに近づいた瞬間、彼女が呼び出した黒い鎖がハヤトの腰に絡みつき、その脚を縛り上げようとした。

(死ぬなよ! ハヤト!)
 クラルスはハヤトを援護するべく、グリゼルダへと【魔弾】を放つ。背中に気を取られていたグリゼルダはモロに魔弾を受け、一瞬動きが止まった。

「うおおおおお!」
 鎖に縛られながらも飛びあがったハヤトは渾身の力で太い腕に抱き着き、背中から腕を引っこ抜こうとした!
「汚らわしい手でアランに触るなぁあああ!!」
 激昂したグリゼルダはハヤトを滅殺せんと、背中から黒炎を吐き出した。しがみついた状態では回避行動がとれなかったハヤトは、無惨にもゴブリンロードの姿焼きになったが、絶命するよりも早くハヤトの全身が光り輝き、黒焦げになった肉体が再生されていった。

「ハヤト、炎に死す! なんてさせないよ!」
 アルマ・ヴァレンタインは【ライフアンカー】をハヤトへと放ち、もう一度ハヤトが致命傷を負った時の保険をかけた。

「うがらぁああ!」
 事前にかけてもらっていたアルマのライフアンカーで黒炎を凌いだハヤトはグリゼルダを掴んだまま、ルアンナ・ミュラーへと視線を送る。次の瞬間、ハヤトと入れ替わる形で、ルアンナがグリゼルダの背後に出現した。

「ハヤトさんの犠牲は無駄にしません!! 『コモンブレイク』!」
 ルアンナはグリゼルダの第三の腕目掛けて杖をフルスイングした。ルアンナの魔力を限界まで吸っていた杖はグリゼルダの第三の腕にジャストミートし、グリゼルダの第三の腕は木っ端微塵に吹き飛んだ!

「あああああああああ!!! アラン! アラン!」
 鬼女の如き絶叫と共に、グリゼルダはぐりんと後ろを振り向き、ルアンナに掌底を叩きこんだ。吹き飛ばされたルアンナは学園の校舎の窓を突き破り、無人の教室に突っ込んだ。

「今だ! ナハシュ!」
「おっしゃあ!」
【猫騙】のナハシュは、グリゼルダ目掛けて中庭を疾走し、彼女の眼前まで辿り着いた。ハヤトの時と同じように、グリゼルダの鎖がナハシュを縛り上げるが、ナハシュは構わず、【プリズムシャドウ】を発動した。

「隙だらけだ、グリゼルダ!」
 ナハシュと入れ替わる形で眼前に出現したヨル・スレイマンは、この瞬間の為に自分にありったけの強化魔法をかけて準備をしていた。
「喰らえ!」
 無防備なグリゼルダに膨大な魔力を湛(たた)えた祭刀が命中し、烈光(アークインパルス)が炸裂した。その瞬間、放心状態だったグリゼルダが再び黒い炎を全身に纏い、動き出す。

「許さない! 全ての死霊(リソース)を使い切ってでも、ここでお前たちを皆殺しにしてやるわ!」

●
 冒険者達たちは、中庭に凄まじい邪気が立ち込めつつあることを感じていた。グリゼルダが、連れてきていた全ての死魂を解き放ったのだ。その怨念に当てられたのか、レミーラと、キメラゾンビ達がグリゼルダの元へと向かう勢いが増す。

「もう眠れ、レミーラ。故郷でランランも待っている」
 テテリカの放ったバスターアローがレミーラに直撃し、胴体に風穴を開けた。レミーラゾンビは拘束により、機動力を完全に殺されていた。こうなれば、いかに強力なキメラゾンビと言えども、数の差を覆すことは叶わない。冒険者達の集中攻撃に晒されたレミーラは、みるみる内に崩壊に追い込まれていく。

「ここは通さん!」
「ウィリアムの所には行かせねえぞ!」
「グリゼルダが孤立しているこのチャンスを逃すわけにはいかないからね」
 セリオス・オーガストの放った炸光矢が数体のキメラゾンビを巻き込んで炸裂した後、グリゼルダに一撃与えるや、さっさと舞い戻ってきていたナハシュとヨルがキメラゾンビに追い打ちし、トドメを刺した。

「この中庭からグリゼルダを出すわけには行きませんからね」
 ゴリラの剛腕が唸り、キメラゾンビの顎をかち上げた直後、キリアンの放った矢がキメラゾンビの視界の外から回り込むように飛来し、片腕を吹き飛ばした。
 キリアンはペットのゴリラと息を合わせ、キメラゾンビの一体を食い止めていた。ウィリアムはグリゼルダの意識を自分に引き付けることに全霊を注いでいる。一体でもキメラゾンビをウィリアムの元まで行かせて気を散らせてしまえば、彼が殺されかねない。

「くたばれえええええええ!!!」
 ウィリアム目掛け、グリゼルダの巨大な黒炎の拳が振り下ろされる。その凄まじい威力に中庭に植えられていた多数の樹木と花壇が地面ごと抉れ、ウィリアムの近くにいた前衛達も巻き込まれた。だが、ウィリアム自身はフリーダが身を挺して庇ったおかげで、無傷でグリゼルダの最終奥義(身を焦がすほどの愛)を凌いでいた。

「後はお任せします……」
 ぶすぶすと焦げ臭い匂いを発しながら、破壊された中庭に崩れ落ちるフリーダ=ブロムヴィスト。咄嗟に体をエーテルで硬化させたが、それでもなお戦闘続行は不可能なほどのダメージを受けたのだ。
「フリーダさん、しっかりして!」
 エルゼリオはすぐさまフリーダに駆け寄り、リヴァーオブヴァイタルで意識を失った彼女の蘇生を試みた。

「誰一人脱落なんてさせません!」
 フェミナ・ノ・リビディーネはヒーリングオーラを放ち、グリゼルダの火球に巻き込まれた者の治癒を急いだ。王子の近くにいたレティシアもヒールを飛ばし、戦線の立て直しを図っている。【兵】のグレイも、倒れ伏したリーダーのケンへとヒールを飛ばしていた。

「あの時、俺の前で、一般人を殺したな――許さねぇ」
 すぐに立ち上がることの叶わぬ前衛陣の中、ただ一人炎のようなエーテルを纏い、死の淵から立ち上がったルイドは大技を放って疲弊しているグリゼルダの背後に忍び寄っていた。グリゼルダは動物めいた勘の良さで振り向くが、ルイドは既に渾身の力で剣を振り下ろしていた。
「あぐっ!」
 神速で放たれた黒水晶のような剣がグリゼルダを袈裟懸けに切り裂いた。強靭なエーテルの守りを貫かれ、派手に出血したグリゼルダはここにきて、ようやく自分が死の淵にいることを理解した。

●
「レミーラ! 何をしているの! 私を守りなさい!」
 ヒヒーン!
 レミーラゾンビはグリゼルダの呼び声に応えるかのように、ラケルの拘束を弾き飛ばした。本来の速力を取り戻したレミーラは空へと舞い上がり、ストレガの雷蛇大禍を飛び越えてグリゼルダの元に馳せ参じようとした。

「そこまでよ」
 しかし、空中に飛び出した瞬間、ザザ=ステルヴィナの放った束縛の鎖(スペルバインド)がレミーラへと絡みつき、身動きが取れなくなった。その瞬間、セリオスの放ったハイパーバスターアローがレミーラを飲み込み、背中に大きな損傷を受けたレミーラはバランスを崩して地上へと落下した。

「天に帰るがいい、レミーラ」
【エリアサイレンス】で音を消し、ずっと気配を断っていたナハティガル=ラーはレミーラに駆け寄ると、燃え盛る炎を纏った双剣をレミーラへと振り下ろした。
 ナハティガルの放った斬撃はレミーラの二本の前脚を切断し、彼女から立ち上がる力を奪った。直後、冒険者達の遠距離攻撃がレミーラへと叩きこまれ、ついにレミーラゾンビは機能を停止した。

 距離を取って戦っていた面々がグリゼルダへ猛攻を加え、倒れた前衛へと回復を飛ばす。
「覚悟するですぅ! グリゼルダ!」
【武神憑装】を身に纏ったネフリティスは果敢にグリゼルダに接近し、祭刀でグリゼルダを思い切り殴りつけた。
「零距離……とったぞ……!」
「破ぁ!」
 ブレイドと位置を交代した更紗も渾身の魔力を籠め、零距離で【ノヴァクラスター】を解き放つ。後頭部に痛烈な一撃を受けたグリゼルダは、口から血を吐いた。

「メテオライト、どかーん!」
 アルマは渾身の魔力を籠めたメテオライトを放ち、グリゼルダを撃ち抜いた。普段なら余裕で躱せていたであろうアルマの攻撃すら、グリゼルダは避け切れずに穴だらけになる。彼女の死はもう目前だった。

「どうしてなの!? ウィリアム(アラン)!!」
 血まみれになったグリゼルダはなおもウィリアムの眼球を求め、彼の顔へと手を伸ばした。
「僕はアランじゃない」
 ウィリアムは容赦なくグリゼルダの腹を刺し貫いた。

「アラン……私は……もう一度、貴方に……」
「いい加減、あの世で待ってるアランの所に逝っちまいな!!」
 グリゼルダの背後でケンの大太刀が水平に閃く。雷光の速度で離れた一閃は、グリゼルダの首を斬り飛ばしていた。

 ――伸ばした手は想い人に触れることなく。首を失った女は地面へと崩れ落ちる。ほどなく、残ったキメラゾンビ達の掃討も完了し、中庭の戦いは終結した。

「みんな、力を貸してくれてありがとう。これで彼女に殺された人たちや、ゾンビにされた人たちもゆっくり眠れるだろう」

 返り血で汚れたウィリアムはいつものように爽やかに笑い、撤収の準備を始めた。



【3】リーンエス王国 首都グランスパーダ近傍の村(担当マスター:革酎)

●
 空が、見える。
 つい数刻前まで周辺一帯を覆っていた黒い霧はその多くが振り払われ、四体の幽界分樹と、その配下たるクリーパー共の姿が白日の下に晒されていた。
 黒い霧という絶対防御が失われたことで、露骨に警戒し、人類側に対抗する格好で分厚い防御陣形を組んだ怪物達。
 それら獰猛なる化け物共に、リーンエス王国騎士団の精兵30名と、彼らを支援する冒険者達が怒涛の勢いで突撃を仕掛けてゆく。
「五感の共有が厄介だ……気付いたら囲まれたってことがねぇよう監視する。攻撃は任せたぜ」
 仲間達の肉体が淡い光に包まれたのを見て、たった今術を仕掛け終えた【赤翼】エイル・ビュセファスがほっとひと息入れた。
 そのエイルからの支援を受けて、同じく【赤翼】のシャルロット・エクレールとフリューリングスルフト=ティエラが王国騎士団兵達と共に群がり来る仔クリーパー共に攻撃を仕掛けた。
「村人を餌に……許せない。最初から容赦しない」
 罪無きひとびとを食い殺した化け物共は、絶対に駆逐するとの強い決意で臨むシャルロット。虚空に何かを描く様な素早い所作が完成すると同時に、ほとんど一瞬で頭上に現れた光弾の群れが、雨あられとなって仔クリーパー共の先頭集団を一気に叩いた。
「赤翼一番風、参るさぁ!」
 フリューリングスルフトが、出鼻を挫かれて最前線が総崩れになっているクリーパー目掛けて一気に駆け抜けてゆく。
 その圧倒的な機動力に敵が翻弄されている間に、騎士団の烈火の如き攻撃力が津波を思わせる勢いで押し寄せていった。
 この【赤翼】と騎士団による正面からの激突で敵正面兵力の大半を足止めすることが出来たといって良い。
 その恩恵を受けたのが、幽界分樹攻撃部隊だろう。
「皆さん、僕が援護します! さぁ今の内に!」
 ダニエル・ヘリントンが、自らが所属するチーム【雷鎚】の面々に呼び掛けた。
 そのダニエルからの支援魔法の恩恵を受けた【雷鎚】のアルベルト・V・シュタールシュヴェーアト、ロゼット、ライナ・フレイヴァルツ、フロマーシュ・ダイヤドロップ、そしてトーラといった対幽界分樹攻撃兵力が、一点突破の速度で左手前方の幽界分樹との間合いを詰めてゆく。
「レイウェスト殿下の為に幽界分樹は全て伐採するぜ! どうぞご覧下さい!」
 アルベルトは標的たる幽界分樹へと肉迫。必殺の千鳥雷切斬が炸裂し、割り込んで盾となった中型クリーパーをものともせずに初手で痛烈な一撃を浴びせた。
「根が来ます!」
 直後、鋭い警告を発したのはフロマーシュだった。彼女は得意の硬い防御力を発揮して、地中から飛び出してくる槍と鞭の性質を併せ持った様な根の攻撃を見事に捌き切った。
「気付いていないとでも思ったか? 所詮は生まれたばかり、読みが浅い」
 同様に根の動きを読んでいたライナが暗黒障壁を設置し、夢幻の連環による束縛を狙った。根の群れは、ライナの戒めを逃れることが出来なかった。
「これ以上、大きく育つ前に倒すわよ!」
 その一方で、ロゼットが漂う白霧を見据えて気合の咆哮を放つ。アルベルトが一太刀浴びせた幽界分樹の太い幹に、雷の衝撃が襲い掛かった。
 動けない敵には、祈雷は極めて有効な武器と化す。
 勿論、敵もロゼットが厄介な相手だと認識したのは間違いが無く、数体の仔クリーパーが迫ってきた。が、それよりも早く敵の動きを読んでいたトーラがクリーパー側の戦術を瞬間的に見抜き、ロゼットへの進路を全て潰す形でクリーパー共を次々と薙ぎ倒す。その縦横無尽の機動力に、敵はまともに対応することが出来ない。
「レイウェストさまのお姿はあなた達には勿体ないです!」
 そのトーラの宣言通り、本来なら囮役として動く筈のレイウェスト・バルダスは未だ、後方から動いてはいない。動く必要が無かったからだ。
「殿下の手を煩わせるまでも無いわね!」
 ロゼットの必殺の一撃が、アルベルトの剣戟に続いて幽界分樹の巨躯に炸裂した。
 その間も仔クリーパー共は【雷鎚】に迫ろうとするが、トーラの先読みとフロマーシュの堅い守り、更にはライナの攻撃魔法とダニエルの回復支援が威力を発揮して悉く押し返していた。

●
 仔クリーパーの群れは、クライス・アクバーが指揮を執る凝黒装置操作班へも迫ろうとしていた。
 その接近ルートは主に前方だが、左右や背後から襲い来る個体も少なくない。
「マクシミリアンさん、支援は完了ですよぉ」
 少し間延びした様な調子の、【花鳥】の治癒師ディレイン・オールドケイジからの呼びかけに、マクシミリアン・ミルドは苦笑を返した。
「長ったらしいからマックスで良いよ、情報参謀殿」
 その直後に振るわれたマクシミリアンの剣は、流石の破壊力だ。そんな彼に負けじと、【花鳥】リディリディ・トゥラ・イェレミースの範囲攻撃魔法が、文字通り怒涛の勢いで前後左右の敵を次々と呑み込んでゆく。
「後でミルド家秘伝のタレで味付けした焼肉弁当が待っています。こんなところでのんびりやっている場合ではありません」
 リディリディのモチベーションは飽くまでも、肉。
 彼女のどこまでもブレない一貫性には、同じく【花鳥】のコルネリウス・アーラなどは呆れるよりも寧ろ、感心した。
 今、コルネリウスが振るう刃は【花鳥】フクシア・S・シュルツの手による輝刃で、攻撃力が増している。その破壊力を、迫り来る仔クリーパーを相手に廻して存分に発揮していた。
「敵も中々連携が上手いですね。遠隔からの投石と、それを援護に加えた接近戦。動きが単調な分、読み易いので助かりましたが」
 担当防衛線内を縦横に走り回っていたコルネリウスが引き返すと、フクシアはクライスと何やら話し込んでいた。光縛封で凝黒装置の守りを固めるかどうかを検討していたらしい。
「周りを完全に囲まれ、どうにも動きが取れなくなった時の最終手段という扱いが良いだろうな」
「承知致しました。動けるうちは移動での回避を優先、で御座いますね」
 クライスに頷き返してから、フクシアは全身至る所に傷を負っているコルネリウスに気付き、すぐさま治癒術を施術した。
 その間、コルネリウスは周囲を軽く見渡した。どうやら凝黒装置防衛線が破られる心配は、当面のところは考えなくて良さそうだ。防衛兵力は十分に機能している。
 その防衛兵力の一角を担う【火消し】のロッカード=キリヤは、マクシミリアンと肩を並べて半ば遊撃的に周辺の仔クリーパー共を討伐している。
 主にマクシミリアンが群れを纏めて始末し、脇をすり抜けようとする個体をキリヤが仕留めるという戦術だった。
「そうはいかないさ」
 凝黒装置に向かおうとする敵の正面に廻り込み、同じく【火消し】のヴォーレリアが掛けてくれた輝刃で威力を増した刃を振るう。
 一方、ヴォーレリアは後方からの治癒支援に徹していたが、味方が大きく崩れることも無く、時折王国騎士団の負傷者が彼女の治癒術を求めて退がってくる程度だった。
「大丈夫ですか?」
 ヴォーレリアの治癒を受けて、回復した王国騎士は再び前線へと飛び出してゆく。地味な作業の繰り返しの様にも見えるが、治癒師の支援が無ければ戦線の維持は出来ない。
「おぉい、リディちゃん! こっちに一発、何か適当にブチかましてくれぇ!」
 マクシミリアンが大雑把な要請を出してきた。
 丼勘定過ぎると渋い表情を浮かべるクライスだったが、その直後には光弾の雨がキリヤとマクシミリアンの目の前で盛大に降り注いでいた。

●
 幽界分樹は全部で四体。
 冒険者達から見て左右にそれぞれ二体ずつ配置されている格好だ。そのうちの右側の一体に、【ふしぎ亭】のララベル・サン・ディーベル、ヒロ・テスタロッサ、テュリン・ヴィング、ゴルバルティア、楓月・千弦、そしてアルラ・ニグラスの六人が討伐戦を仕掛けていた。
「ここからなら、敵の動きがよく見えるわね」
 廃村と化した一角、建物の屋根の上から、テュリンは仔クリーパー共の動きと木の葉状の遠隔攻撃軌道、地下に伸びた根の密度を何度も見比べ、地上を走る仲間達に最も安全な経路を何度も呼びかけていた。
 そのテュリンからの状況分析を受けて、ララベルは敵陣形の最も薄い位置を的確に突破してゆく。
「喰らえ、旋風三連撃だ!」
 超人的な機動力で槍状の根を躱し、手近の仔クリーパー数体を一気に斬り伏せた。
 そのララベルの背後に別個体が迫るが、すかさずゴルバルティアがカバーに入り、盾を構えて弾丸の如き勢いで弾き飛ばした。
「数は多いし、幽界分樹とも連携は取ってるみたいだけど、動きそのものは単純だな」
 ゴルバルティアがそう評する様に、仔クリーパーの陣形や攻撃連携はじっくり観察すれば、然程の脅威ではない。が、気を抜けば足元を掬われる可能性もある。
「油断さえしなければ、斃せる相手ということですね」
 相棒の狼ハヤテが敵陣を引っ掻き回して陣形を崩したところに文字通り矢継ぎ早に鏃を叩き込んでいた千弦だったが、次第に幽界分樹本体が視界に入る様になってきた。
 まずは目の前の一体。これを【ふしぎ亭】の面々だけで仕留め切るのは、簡単ではないが、しかし不可能でもない。
「それにしても、黒霧をこんなに楽にしてくれるなんて、帝国皇子もやるねぇ」
 ヒロは機嫌良さそうに、仔クリーパー共の隙間を掻い潜って一気に幽界分樹本体へと肉迫した。愛用の短剣を目にも留まらぬ早業で撃ち込んだ直後には、早々に距離を取って槍状の根や木の葉の刃の間合いから離脱。
「そこが薄いわ」
 それまで仲間達の支援に専念していたアルラが呼びかけると、その声に応じてヒロがすかさず距離を詰めてゆく。そのヒロにはゴルバルティアによる堅い守りと、千弦の援護射撃が支援に廻る。
 一方でララベルとテュリンは左右から迫る敵勢力の切り崩しにかかっていた。
(お色気も周りが元気になるなら、まぁ良いかな)
 などと苦笑を漏らしたアルラだが、今のところそっち方面の出番は無さそうだった。
「サウンドボマーは、あんまり効いてなさそうだな」
 ヒロをカバーしながら、ゴルバルティアが小さめにぼやいた。一度戦闘が開始すればサウンドボマーを使えるタイミングは中々無い上、幽界分樹にも仔クリーパーにも、残念ながら耳は無かった。

 後方に陣取っていたレイウェストは、四体の幽界分樹のうちの二体が【雷鎚】と【ふしぎ亭】によって攻略されつつある現状を加味した上で、今から第二波を仕掛けると護衛の冒険者達に告げた。
 傍らに侍していた【皇子の影】のセロンガード・シュタインドルフとティトが、それぞれの得物を手に、レイウェストの後に続く。
「敵も中々、しぶといですね」
 セロンガードが指摘する通り、幽界分樹は攻め込まれつつも決定打を許していない。一体の生物の様な連携を見せる幽界分樹共は、槍状の根に気を取られた冒険者や王国騎士団に頭上から葉や実を投下する爆撃という、いわば上下挟撃策を取り、人類側に対してそれなりの損害を出さしめている。
 また防御に於いても極大打撃を受ける前に中型の仔クリーパーを盾代わりに用いるなど、意外にしぶとい。
「このまま、だと、持久戦になる、かも」
 ティトの指摘にレイウェストは若干の危機感を募らせて頷いた。
 味方の治癒師の数は十分だが、膠着状態に陥れば回復の手数が途切れ、状況が一変しかねない。そうなる前に一気に決着へと持ってゆく必要があった。
 このレイウェストの意向を受けて、セロンガードは先行して進路上の敵を殲滅しにかかった。逆にティトはそのまま残り、レイウェストの護衛に徹する。
 と、そこへ周辺警戒に当たっていた【親衛】のベルク・オスマットとヤウズ・オスマットの両名も、レイウェストの動きに呼応して引き返してきた。
「我らは御身のお傍に、この身に代えてもお守り致します」
「先だって、殿下の命を狙う王国貴族が帝国兵を騙る偽兵を用いたとか。王国騎士や冒険者の多くは信用出来ましょう。ですが不埒な輩が紛れ込まぬとも限りませぬ故、攻撃のみならず、ひとと会う際にも、我らをお傍にお連れ下さい」
 ベルクとヤウズに、レイウェストは静かに頷き返した。勿論、警戒はしている。だがここに居る王国騎士達は信頼するに足るだろう。それはベルクも十分に確認していた。
「では、参ろう」
 レイウェストは、征竜の虹宝剣を鞘から引き抜いた。

●
 敵の動きに、変化が生じた。
 それまで凝黒装置の防衛に当たっていた【豹狼】のルルト・アーキスは、細かな戦況分析を続けるうちに、仔クリーパー共の配置と攻撃軌道に明らかな違いが生じていることに気付いた。
「皇子が、動いたんだね」
 凝黒装置に対する集中攻撃が弱まり、別方面へ兵力を割いた理由は、それ以外に考えられない。
 広範囲の周辺敵を駆逐していた【豹狼】のパルドとウォーゼルも引き返してきて、状況を整理する為にルルトの戦況分析に耳を傾けた。
「成程……征竜の虹宝剣に敵も釣り出されたって訳か」
 仔クリーパー共を絶対村の外には逃さぬという決意で駆け回っていたバルドだが、敵の矛先に変化が生じたならば、こちらも戦術を変える必要があるかも知れないと低く唸った。
「敵の位置と根っこの軌道はもう大体見抜いたのですが、皇子が動くならもう一度、目付を変えた方が良さそうですね」
 とは、ウォーゼルの弁。
 戦況は常に変化するものである。柔軟な対応が出来なれば、敗退に繋がる恐れもあった。
 そんな中、同じく【豹狼】のアルバス・ロウルが幾分疲れた様子で引き返してきた。彼だけは積極防衛という発想で幽界分樹にも攻撃を仕掛けていたのだが、どうにも手応えがイマイチだった様だ。
「植物に近ければ伐採知識が役に立つかもと思ったが、ありゃ全然別物だな。見た目が植物ってなだけで」
 しかしアルバス自身の攻撃力は仔クリーパー共を討伐するには十分な火力を発揮していた。そういう意味では凝黒装置防衛には一役買っていたといって良い。
「で、どうする? 配置変えか?」
 アルバスの問いにルルトはしばし考え込んだが、結論は否だった。【豹狼】が凝黒装置周辺を離れるのは戦術的に拙守となろう。それよりもクライスやマクシミリアンに動いて貰う方が良さそうである。
「じゃ、そのことを伝えれば良いんだな?」
 パルドの問いに、ルルトは小さく頷き返した。
 走り出すパルドに、ウォーゼルも続いた。クライスの元へ行くならば、彼の索敵能力が大いに助けとなるだろう。

 相棒のゴリラが屋根の上で、何かしらの発見を得たらしい。
 ハリーヌ・ヨツユビはテレパス持ちが他には居なかった為に連絡要員としては機能しなかったものの、単純に仔クリーパーを討伐する火力としては十分な活躍を見せていた。
 そのハリーヌの背後で、光り輝く柱が突如として出現した。
「大地の法に仇なす者よ。消え去りなさい!」
 アルフィンレーヌがハリーヌの死角から迫ろうとしていた敵複数を一度にまとめて、光縛封で戒めた。ハリーヌ自身も索敵能力はそれなりに高いが、こう数が多いと索敵だけではどうにもならない。
「大変助かったでございます。ところで、敵の動きが変わった様にお思いでございませんか?」
「そうね。凝黒装置よりも別の方面にクリーパーが集まっているみたい……」
 ハリーヌに応じかけた時、アルフィンレーヌはレイウェストとその護衛戦力が前線へ押し出してゆく姿を視界に収め、納得した様子で頷いた。
 そのレイウェスト班には、新たにネーヴェ・グラヌローザが回復担当として加わった。
「微力ながら、お力添えを」
 彼女の治癒師としての力量は、レイウェストにとっては非常に心強かっただろう。事実、レイウェスト班には治癒師はそれまで皆無だったのだから。
 そして幽界分樹の側も、レイウェストの接近をただ黙って許している訳ではない。
 槍状の根と葉や実の爆弾を次々と仕掛けてくる。
「ボクは弱いけど、一度死んでるから怖くないよ」
 などと呟きながら、リリアンがレイウェストを守る位置に身を移し、槍状の根の一撃を捌いた。
 一方、頭上から降りかかる葉や実の爆弾に対しては、
(レイウェスト皇子の無事をこそエフレム様はお望みでしょうから……)
 スィーリーンが光弾の雨を叩きつけて迎撃した。ふたりはつい今の今まで王国騎士達と共に幽界分樹との死闘を繰り広げていたが、レイウェストが前に出るならばと戦域を移動してきたのである。

●
 レイウェストの参戦によって、戦局は大きく動いた。
 征竜の虹宝剣に意識が向き過ぎたのか、守りが薄くなった幽界分樹共はまず二体が【雷鎚】と【ふしぎ亭】によって撃破された。
 これで形勢は人類の側に一気に傾いた。
 王国騎士団も勢いに乗って更に苛烈な攻撃を加え、冒険者達も全ての戦力が攻勢へと転じた。
「もう十分だ。行け」
 凝黒装置の守備に当たっていた冒険者達に、クライスがGOサインを出した。その指示を受けて【豹狼】、【花鳥】、【火消し】の各面々も残る二体の幽界分樹へと一斉に突撃を仕掛けてゆく。
 王国騎士団と共に正面の敵の足止めに奮戦していた【赤翼】も、幽界分樹撃破へと舵を切った。
 そして、それから数分後――冒険者と王国騎士団は、鬨の声を上げた。
 四体の幽界分樹はいずれも斃れ、その周囲に蔓延っていた仔クリーパー共が、次々と生気を失って崩れ落ちていったのである。
 ここでレイウェストが【親衛】と【皇子の影】の面々に左右を支えられた格好で、征竜の虹宝剣を高々と掲げた。
「ねぇクライス、これ、使えるかしら?」
 仲間達が勝利の歓喜に沸く中で、ロゼットが幾つかの部品をクライスに差し出した。幽界分樹出現に際して破壊された龍逓架の部品だった。
「無いよりはマシという程度だろうな」
 ロゼットから受け取りながら、クライスはレイウェストを肩の上に担ぎ上げて雄叫びを上げているマクシミリアンをちらりと見た。
 冒険者達も王国騎士達も、皆同様に歓喜の輪を描いていた。
 クライスの中には、もしかすると語らずの智者が助力に現れるかもという推測もあったが、かの賢者は遂に姿を見せなかった。
 現れる必要も無かったのだろう。それ程の、完璧な勝利だった。



【2】リーンエス王国 王城中庭(担当マスター:馬車猪)

●
 崩れていく建物を跳び越え、大火事の煙じみて立ち上る濃い粉塵の下を潜ってエフィルミアがたどり着く。
 近衛騎士(とても強い授恵者)達が死体じみた有様で中庭だったものに転がり、ぴくりとも動かない。
「あぶ……ないっ」
 呼吸をする余裕もなく武器で薙ぎ払う。
 攻撃ではなく捕食のため騎士達(総勢10名)に文字通り手を伸ばしていた複数の触腕が、明確な敵意と鋭い痛みを感じて一旦手を引く。貴重な戦力を救う大戦果だ。
「イズルはなんか他にしたいことあるんだよねー……知ってる」
 過酷すぎる戦場でも、エフィルミアも属する【雀】のヘレン・ワーグナーは平静な態度を保っている。
 ホライゾナルジャンプと機敏さ(高いINI)で先行したエフィルミアを目印に進路を切り開く。
 本当に敵がいないことを目視確認するのも、王城に何の縁もないはずのクリーパーを食い止めるのも非常に重要だ。
(逃げてる?)
 もとより追撃するつもりはなかったが、全身が岩でできたクリーパーが戦場から遠ざかるため必死に体をよじらせヘレンの横を通り過ぎていく。
「アンジェ、にも、できることがあれば……」
 言動は気弱でもアンジェの腕は確かだ。
 装甲ごと歪んだ近衛騎士の体を楽にさせ、命を繋ぐためにスキル(ハイパーヒーリングオーラ)を使う。
 イズル・M・ヴォルゴールもまとめて数人の面倒を見ている。
「治療は間に合う。命を使うことは考えるな」
 勇気づけるためだけの言葉ではない。そうしている間に、【羊竜陣】ら後続の冒険者たちも戦場へ展開する。
「ハリスさん! 何か音が!」
 トゥーリの声をハリス・アル・ターミルが聞き逃すことはあり得ない。
(粉塵の奥に光が……そこです!)
 ハリスは予測した方向から来るだろう攻撃の軌跡に割り込んで、反応できていない王女(メアリー)を庇う。
 状況に気づいた近衛騎士達が、文字通りの全速である這うような速度で手近な障害物の後ろへ隠れる。トゥーリの言葉がなければ危なかった。
 近衛騎士ジュールも魔力を絞り出すようにして杖に集めて光の壁を出現させる。
 その直後、粉塵が予兆なく消滅する。
 ドラゴンの物にも勝る息(ブレス)が、光の壁を砕いてハリスへ殺到した。
(だいじょうぶ。ハリスさんは大丈夫!)
 想い人を信頼し、トゥーリはハリスへの支援(ヒール)に専念する。
 フェイサル・セイフは無言のまま癒やしの術に集中する。
 ハウリング・オブ・ブルーフレアは事前に友へ使っている。
(二人が皆を守るなら、二人が共に歩む幸せを私が守る)
 今、自身がやるべきはこれだけだ。
「正面以外の警戒を頼む。余裕がない」
 フェイサルの言葉に、癒やしの手が届いてもなお死体じみた状態の近衛騎士が真剣な表情でうなずく。
(彼女が気づいた音は……。ブレス、だけでなく大きく力を振るうのには予備動作が必要かもしれません)
 優れた戦術眼を持つハリスは重要なことに気付き、即座にテレパスで伝達した。戦線を王女から押し上げるべく、前に向かうトゥーリを見送り王女の直衛を固める。

●
 生き物としての上限を超え、吸血鬼の神となったはずの男がゴミのように粉塵にまみれている。
「傍迷惑なジジイ共だ」
 ルチル・プルメリア・グレイハーツは捜波を使って粉塵を見通し、サーマルアイで感知できる温度変化も加味して敵の動きを味方に知らせる。
「まあ……少しは付き合ってやる。ただし簡単に死ねると思うなよ」
 右腕の気配が弱まり体が端から崩れていっているのに気付いた上で、そう伝えた。
「あぁ」
 崩壊が内側にまで進行しているようで、右腕の声はぼやけている。
「神である僕はこの戦いに手を出さないよ。名もなき剣士くん達の願いを叶えられなくなるからね」
 右腕がへらりと笑う。
 グレイブ・ヤードの強烈な治癒能力とホーリー・リチュアル(1度の行使で広範囲で十数秒持続)の組み合わせは極めて強力で、近衛騎士達を効率よく治療する。
「右腕、『左腕が人同士仲良くやる』のが今の望みの一つで間違いないな? ……アンタの望み、一つくらいは叶ったっていいだろ。そう思うのも俺が半分そっち(アンデッド)側だからかもだが」
 左腕を注視するレピド・クロサイトは最初から返事を期待していない。
 レピドに知られることもなく、右腕は微かに口元を柔らかくする。
(そうだねぇ。竜喰らいは強いし、左腕ちゃんが心配だし)
 音になっているかも、もう分からない。
「プリズムシャドウは効果なしか」
 レピドが周囲に知らせるため発言する。
 冒険者を味方とは認識していない左腕は術へ反射的に抵抗しているようだ。
 竜喰らいの頭部へ攻撃を加えていたイヴェール・イリュジオンの金の瞳に傷だらけの左腕の姿が映った。後退を呼び掛けたが、声に応じる様子はない。
(ひょっとして)
 竜喰らい本体には届かないとはいえ、触腕相手には終始有利に戦っているように見えた左腕の下へ駆け寄る。
 触腕の一部がイヴェールに向かって来て浅くない傷を負わされるが、『ひょっとして』は確信に変わる。
 至近距離で見た左腕は目は虚ろで、肌の色は死体じみて酷い。精神面でも肉体面でも生きているのが不思議なほどだ。
 家伝の宝剣(神材で強化済み)を使った強制引き寄せ(バーバリアンデスチェーン)を敢行。引き寄せられた左腕から、ぐったりと力が抜けた。

 イヴェールは触腕相手に左腕を庇い、酷い傷を負いながらヒーラー陣の元へ向かった。
「色々と思う所はありますが、あれ(竜喰らい)を倒すための人員はいるに越したことはありません」
 グレイブによるリヴァーオブヴァイタルは左腕の肉体を完治させるも、まだ意識は朦朧としているようだ。
 レピドはあと少しの時間を稼ぐため竜喰らいへ向かって行く。
(コレ(竜喰らい)、が、聖剣、の、秘密……? ……エーテル、に、関係、は、してた、かも)
 孤軍奮闘の左腕を狙う触腕を狙い、攻撃を行っていたのがエルだ。
 エルの奮闘がなければ左腕は捕獲される前に撃墜されていたかもしれない。
「ハウリング・オブ・ブルーフレアを今から使います。受け入れて下さい」
 アンジェによるバフを施された左腕の目に力が戻るも、まだ動き出せる様子はない。
 エル達は左腕の手札(スキル)は残り少ないのではないかと感じていた。

「貴方はヒトと交わした『約束』を果たそうとした。ヒトが滅ぶ以外で貴方が残したい約束はない?」
「今は無いよ。……僕はヒトに滅べなんて考えない。救うために神に成ったんだから。それで吸血鬼って種族が生まれるなんて思わなかったけど」
 騎士の治療を続けながらイズルが問うと、右腕は笑みを浮かべたまま目を閉じる。
 崩壊が急速に進行する。
 形が崩れ、残ったものは平凡な灰と区別がつかない。
(アンタの言葉通りなら我々蜥蜴人の信仰は何の為に……)
 ルチルは数秒だけ手を止めて、灰が風にさらわれ散っていくのを見つめていた。

●
 サララ ココノカは速い(移動6)。
 限界まで伸ばされた触腕に追いつかれるギリギリのところを駆け抜ける。
 サララはエーテル波による調査と看破技術に加えて耳からの情報をもとに、竜喰らいから逃げるクリーパーの位置をおおよそ把握する。
「こちらです!」
 指差すのは高速で回数は2回。
 王城は優美であると同時に戦の備えもある。敵の動きを制限する地形も当然のように用意されていた。
「お客さんだね。あそこで食い止めようか」
 サララの指示から敵の動向を判断し、キオルティスは瓦礫と瓦礫の隙間の出口に陣取る。引き撃ちでここまで誘導した甲斐はあり、敵は狭い場所で窮屈そうだ。
 エイル・アーティライトはアーケインテンペストを使用する。
 目標はもちろんキオルティスが指定した場所だ。
 多数のクリーパーが前後左右でぶつかり合い、速度を失い命を削られる。
 そこに氷嵐を叩き込む。
 攻撃集中での(十分狙ってからの)一撃は、もともと格(レベル)の強力なエイルに巨大な打撃力を与えていた。
 次に仕掛けたのはアステルだ。
 まず殺界を展開し、エイルの妨害を迂回してきたクリーパーを足止めする。
 根性で前進してくるものは少なく、その少ない個体もアステル本人を突破できない。
 そこへキオルティスが闘気槌を叩き込む。
 特別高い威力ではないが敵の密度が尋常ではない。1度に与えたダメージの合計は凄まじい。
「逃がさない!」
 さらにアステルの殺界の〆である長大な刃(エーテル)による蹂躙。
 クリーパーの群れが様々に悲鳴をあげる。
 しかしクリーパーは多く王城の敷地は広い。
 トカゲの形をしたクリーパーなどは、普通の人間では移動も困難な壁を伝い恐怖(竜喰らい)から逃げる。
「クリーパー達を市街には抜けさせない」
 そんな相手を阻止しているのがリューイ=ヴァレンゴルトだ。
 戦術眼で敵の狙いを読んで待ち構えて衝撃波を打ち、バランス感覚を活かして瓦礫によじ登り一太刀浴びせることもある。
「こいつは厄介か」
 雷神剣を繰り出しても仕留め切れない場合もあるが、【黒猫】キオルティス達も【操蝶】サララもリューイと支援しあえる距離にいる。
 多数のクリーパーを、市街へ逃がすことなく食い止めることができていた。

●
 度重なる妨害。竜喰らいと呼ばれてきた超大型クリーパーは、邪魔をする生き物(冒険者達)を剣の生き物(名もなき剣士)や白い生き物(メドゥの左腕)と同じく、単なる障害物ではなく敵と見なすことに決めた。
「殺意が……」
 一瞥されただけで体が悲鳴をあげる。
 それでもリコリス・アデュラリアは気合いで術を発動させ、粉塵の切れ目に見えた巨大な顔に魔弾をぶちかます。タイダルストリームで粉塵を落ち着かせる策は味方を巻き込む恐れが強く、いまだ視界は劣悪。ブレスの邪魔をできるほどのタイミングを選ぶ余裕はない。
 それを眺めるルベア・ベルニの表情は厳しい。
 視界が悪い状況でも宗波と読み(戦術眼)の組み合わせは有効で、先程の一撃もルベアが位置情報提供に協力していた。
「覚悟はしていたけど」
 【戦誼】の方針通りに、仲間や友軍(聖剣王女)が竜喰らいに集中できる状況を維持するため、ルベアは己の力と技術を最大限まで酷使する。
 リコリスの光弾群(メテオライト)は十分に強力で、しかし触腕の群れを倒して本体の皮膚や甲羅を貫くにはこれでも足りない。
 待つことにも耐えることにも慣れた王女(メアリー)も、神話じみた戦いを目の前にして平静で居続けることは難しい。
(駄目だ)
 聖剣が強く制止する。
 己を使い潰しても今の竜喰らいには届かない。
 冒険者を信じて待つしかない。

「こっちを見てください!」
 幾度目かの試行で、ゲルダ・クラインの気合い(シーザーロア)が竜喰らいを上回る。
 それは幸運ではあるが奇跡ではない。
 神材を与えられるほど己の力を高めても研鑽を止めないゲルダの、実力で掴んだ成果だ。
 触腕も本体も全てがゲルダ1人に向き直る。その瞬間を狙い、磨き抜いた殺意と技で以てヴァンゲルス・ロッドが刃を差し込む。
 生え際に刺激を受けた触腕がまた1つ、内側から命を削られ正面からの攻めに耐える力も失っていく。
(届いたぞ)
 ゲルダを狙った触腕は長く大きく、彼女が注意を引いていてもなお、他の冒険者にも当たりかねない。
 そんな状況でヴァンゲルス達【四葉】は最前線を維持し続けている。
(ゲルダちゃん!)
 リサ・ベイカーは歯を食いしばって支援(ヒール)をゲルダに集中する。
 予めかけられるだけの支援(バフ)はしているが相手が強すぎる。
 招いた幸運は彼女の体力が尽きるまで。長くは続かない。
 だからその長くはない時間、幸運の女神を実力で魅了し続けるのだ。
 竜喰らいの間合いを考えると至近距離ともいえるような位置で、ローザリカ・L・ディオールが不安定な足場をものともせず術に(攻撃)集中する。
 1度目。発動および命中に成功するも対象の核に触れることに失敗。
 2度目。触れられかけたことに気付いた対象が意識的な抵抗を試み、しかし今度は普段よりもうまくいった。
 招霊呪怨縛で呼び出された光は、ゲルダによる執着(シーザーロア)の固定を完了(自然回復は不可能)した。
「見事」
(見事な)
 ジュールと聖剣が驚愕している間も激闘は続く。
「行くわよ!」
 デイジー・ロックウェルが振り回す巨大光塊が恐るべき効率で敵を痛めつける。
 触腕が押し寄せるということは範囲攻撃に巻き込みやすいということだ。
 ヴァンゲルスもデイジーも、ローザリカも、ゲルダ狙いの範囲攻撃に巻き込まれることは避けられず、幾らかは回避に成功しても味方からの支援(ヒール)が命綱だ。
 そこまでしても、すべての攻撃を食い止めることはできない。ゲルダ周辺の触腕密度が限界に達し、あぶれた僅かな触腕が旨そうな聖剣を持つ王女へ向かう。
「レイウェスト殿下と共に歩んでくれる御方だ。触腕一本触れさせてなるものか」
 ナハト・シュライバーは触腕に貫通衝撃射を決めながら観察を行っている。
(また粉塵か。本体の位置は……そこか?)
 交戦開始寸前に双波で集めた情報と五感で集めた情報から推測を行い、伝達する。
「了解だよ、ナハト君!」
 クレア・エクレールはテレパスでは返信しない。時間が惜しいからだ(テレパスは送信にメイン行動が必要)。
 ブレスや触腕が味方後衛を狙うなら邪魔になる場所(死地)へ飛び込み、回避の技と一撃離脱を駆使して邪魔をする。ハリスが伝えた情報も合わせ、大技の気配にも警戒していた。

 戦場全体が見えているような戦闘行動は、竜喰らいを苛立たせ冒険者へ有利な状況を提供する。
 イズレンディル・パラリムは高速多段式超魔法で集めたエーテルを己の魔力に上乗せして破壊の力に変える。
 衝撃が爆発的に広がり、直径約25メートルの範囲の敵だけを激しく揺らす。
 狭い範囲に殺到し、既に傷を負っていた触腕が次々に機能を停止してだらりと垂れ下がり、生き残った触手も傷が目立つ。
(メアリー王女に攻撃に参加してもらうのは……まだ難しいですか)
 健在な本体(竜喰らい)と余裕のない王女を見比べ、優れた魔力を再び攻撃に使う。
「竜喰らい、テメェもオレ達の武勇伝にしてやるぜ!」
 竜喰らいの前が開いた好機を見て、大胆に突き進んだナキルが、当人いわくデッカメの甲羅に一撃を叩き込む。
「この一撃がオレの全力全開だッ!!」
 蒼い刀身がイズレンディルの攻撃で焼けた甲羅を切り裂くが、まだ浅い。
「……少しヒビ、入った?」
 トゥーリが閃光塗弾の内袋を叩きつけ、光る印をつけてから後退する。物理攻撃に優れたナキルが攻撃に集中してもうっすらしか傷がつかないほど、相手(竜喰らい)が硬いのだ。他の面々もそれぞれに手いっぱいで、好機にタイミングを合わせられるほどの余裕は、都合よく現れはしない。
「悔しいけど、無理は禁物だ。とっさにナキル君ほどうまくやるのは難しいからね」
 ジュスト・ヴェルジーが飄々とした態度で指示を飛ばし士気も維持する。
 触腕はかなり減ったが、冒険者側もスキルをかなり使ってしまった。
 ジュスト自身、触腕と本体を巻き込む強力な範囲攻撃を幾度も放っている。
(そろそろ動いて欲しいものだが……。いや、どうやら間に合ったかな)
 竜喰らいへの警戒は緩めないまま、ちらりと視線と意識をメドゥの左腕に向ける。

 回復も追いつかず、立っているだけで精一杯となったゲルダへ触腕が急接近。
 血に濡れた肌に触れる前に、極めて強力な念動力が触腕複数をまとめて捉えて引きちぎる。左腕の再起動とともに、もう一つの戦力が戦場に加わった。
「殿下! 行って参ります!!」
 数分前までは死体同然だった近衛騎士を代表して髭面の騎士が挨拶する。
 体は冒険者に治してもらっても血は足りず、疲労も抜けていないはずなのに士気は最高潮だ。
 王女(メアリー)が気遣いの言葉を我慢し王族としての態度で許可を与える。
 ウィリアムのような例外中の例外を除けば、今の所は王国所属授恵者の中の最精鋭達だ。
「ここまでか。皆はゲルダ君を支えて下がってくれ。支援する」
 彼らの参戦まで持ちこたえ、ついに崩れ落ちるゲルダとともに満身創痍の【四葉】が後退。ジュストが最後に放った大魔術が、ゲルダを追う触腕数本を粉砕した。

 王女の守りを冒険者とジュールに任せた近衛の勢いは凄まじく、本体(巨大亀)と衝突する。
 だが重量差はどうにもならない。
 互いに打撃を与えはしても、近衛騎士が明らかに押し負けて押し戻されていく。
 騎士達よりも前から前線に立ち、情報収集(敵の弱みを探って)いた【戦誼】の海神 江流が最初に気付く。
「竜喰らいが出血し始めた。……まさか、これまで自己回復がダメージと拮抗していたのか?」
 近衛騎士が数人がかりで触腕を切断する(全部通常攻撃)たびに本体や触腕の切断面からの出血量が増え、左腕が衝撃波で数本まとめて叩き潰すと冒険者がつけた傷から勢いよく出血し始める。
 ヴィルヘルミナは薄くなった防衛網(触腕の群れ)を突破し太刀を振り上げる。
 竜喰らいからのリアクションスキル(攻撃に対して即座に反撃)。
 体をわずかに揺らして甲羅をぶつけるだけの行動だが、人間1人を挽肉にするには十分な威力がある。
 ヴィルヘルミナは根性(4桁生命)で耐え、触れ合うような至近距離で刃を振り下ろす。イズレンディルやジュストら魔術師が焼き、ナキルがつけた傷跡に刃が埋まった。
 割れるはずのないもの(甲羅の核)が切断され、半呼吸遅れてそれまでとは桁違いに大きな亀裂が甲羅全体に広がった。

●
「ここで決めるぞ」
 江流は、本命である王女と聖剣を隠すため大声を出した。竜喰らいに自分達を見せつけるように派手に【戦誼】全員で一斉攻撃を開始する。シルヴィア・A・カペルが、すぐ後ろのメアリーへ声を出さずに合図を送った。
 ここまで温存してきた【戦誼】の覚悟と気合いは尋常ではない。
「ぺったんこにして貰えるだなんてご褒美ですわね?」
 骨と肉がまとめて圧縮され煎餅になりそうな竜喰らいの体当たりにリリリリスが耐える。
「もっとですわ!」
 後方(ヒーラー)から高度な癒やしと一緒に『ちょっとは加減しろ』という声が飛んでくるが、リリリリスは退かない。
 合法的かつ社会的に称賛される形で盾になる(欲求を満たす)機会は滅多にないのだ。
「一番危険な戦場! つまり一番皆が僕の愛(回復)を求めてくれる場所!」
 気合いの入りっぷりならギーゼラも負けていない。
 もっとも回復が必要そうだった近衛や左腕を癒し終え、今度は【戦誼】の一員として最前線にいる。触腕の攻撃がかすめただけで死にそうな江流にヒールを叩き込み、触腕でぐるぐるにされた笑顔のリリリリスにリジェネを付与する。
 そうしている間に竜喰らいの周辺に稲光に似た光(アーケイン)が現れる。
 キャスターの基本的なスキルであり、どんな相手にも効果はある重要な技だ。
 これまで肉弾や戦術で足止めされてきた竜喰らいは、これまでとは異なる種類の足止めに反応するのが遅れた。
「ハーヴィ、行くよ……!」
「はい師匠!」
 2人でそれを為したユズが自らの力を貸し、ハーヴィが超魔法でエーテルをかき集める。
「いっけー!」
 格(レベル)も高く魔力(魔法攻撃)が特に優れたハーヴィの、さらに強化された魔弾が甲羅のひび割れを押し広げて奥へと届く。
 まだ幾分はゲルダの方へ注意を割いていた竜喰らいの殺意が新手に向くには十分な攻撃だった。
(殿下は……)
 輝刃と風神の譚詩曲(ウェイブ・オブ・インフィニティロア)でハーヴィの後押しをしていたシルヴィアが、視線を向けずに友軍の動きを探る。
 竜喰らいの意識と敵意が【戦誼】に完全に向いたタイミングで、メアリーは息を止めて前進を開始していた。
 メアリーは緊張で頭がほとんど真っ白なのに、聖剣の柄の感触がこれ以上なくはっきりと伝わってくる。亀裂が最大まで広がり甲羅が剥がれ落ちた部分、そこに付着した砂の1粒に至るまで明瞭に見えた気がした。
 何かに導かれるように、実際は本人なりに頑張って身につけた剣技で、聖剣を剥き出しの肉に届ける(突き刺す)。
 聖剣からの声はない。
 その全ての意思と力が怨敵(竜喰らい)を討つ刃として使われる。
 竜喰らいの絶叫がメアリーの意識を現実に引き戻す。
 聖剣は己の手にあり、底が見えない穴が剥き出しの肉にぽっかりと開いていた。
 そこ以外からも間欠泉じみた熱い血が次々と噴き出す。
 わずかに残った触腕から力が抜け、本体(巨大亀)が地面にめり込むように倒れた。
「殿下ぁっ!!」
 近衛騎士の大声がメアリーの耳に届くも手に力が入らない。もう一撃を放つ余裕はないようだ。
 竜喰らいの絶叫の質が変わる。
 傷みの絶叫から怒りの咆哮に。
 そして殺意とエーテルと吸い込まれ圧縮された空気が加わり、ブレスとして地上を薙ぎ払う。今度こそ、とタイミングを合わせたリコリスの魔弾が軸を逸らしたが、それでも被害は甚大。
 【戦誼】の前衛は完全に力尽きて倒れ、後衛もエーテルバリアが間に合ったユズとハーヴィは辛うじて無事だが回復が間に合わない。
「あとすこし、だから」
 ユズは倒れて、でも諦めはしない。
 戦前に占った未来はすぐそこにある。
 痛みで痙攣する体に鞭打ち、ハーヴィとともに竜喰らいの攻撃範囲から逃れる。
 ミレイユ・ヴェルジーは王女(メアリー)をブレスから庇って全身薄ら焦げている。
「お兄様! 今が根性の見せどきですわよ!」
 まだ動けるはずの兄に呼びかけつつ視線は竜喰らいに向けたままだ。
 触腕が鋭角の機動で後ろ(メアリー)を襲うが防ぎきる。
(お兄様は本当にモヤ……ごほん、討たれ弱くあらせられますけど実力はありますから)
 耐えればなんとかしてくれると信じ、倒れるまで時間を稼ごうとする。その彼女の期待に応えたのはスキルを撃ち尽くした兄ではなく、エーテルバリアでギリギリ耐えていたイズレンディルやハーヴィ、ユズの魔法攻撃であった。その彼らも、長くはもたないだろう。
 竜喰らいが咳き込む。
 再度ブレスを放とうとして体が耐えきれなかったのだ。
 だがまだ触腕がある。そこからエーテルを得れば回復が叶う。メアリーの手にする聖剣が蓄えた莫大なエーテルがすぐ手の届く場所にある。
 数が少なくなくなった分、狙いが非常に正確になった触腕が、必死に走るメアリーに届く。
「狙いがあからさま過ぎます」
 リサが微笑んだ直後、鮮血が口から溢れる。
 膨大な生命力を持つリサでも、スケープセイントで一撃引き受けるだけでこれだ。
 死の際にあっても竜喰らいの脅威は健在だ。
 膝をついたリサを癒やすヒールは、どこにも残っていない。
(竜喰らいはカペルにも因縁の敵。その最期に立ち会うことになるとはね)
 シルヴィアは後退(サブ行動)しながら魔矢を放って牽制し王女達の後退を支援すると同時に、ライフアンカーで王女に対する新たな被弾に備えてもいる。
 不意に、メドゥの左腕が動きを止める。
 地面から2メートルほど浮き上がったまま、竜喰らいに斬りつける血まみれ(英雄再起使用済)のヴィルヘルミナと近衛騎士達を眺めている。

 触腕は全て力を失いだらりと伸びて、巨体を支える脚から力が抜けて巨体が瓦礫を押し潰す。
 それは破壊であるが攻撃ではなく、竜喰らいの意思はどこにもない。
 いつの間にか粉塵は薄れ、青空が見えていた。

マスターコメント

「【呑竜】決戦:眠れる竜は王国を呑むか」へのご参加ありがとうございました。お疲れさまでした! 皆様から頂いた沢山のプレイングの結果、竜喰らい、グリゼルダ、幽界分樹の討伐に成功いたしました。 ご参加いただきました皆様に感謝申し上げます。 「特別褒賞・負傷者一覧」とエピローグノベルも更新しておりますので、TOPまたは連動特設ページからご確認くださいませ!
決戦シナリオ

決戦シナリオ非常に難しい 報酬:多い107 / 1〜9999人

2023年10月16日 12時03分22秒 公開

大成功

参加者

相談掲示板

  1. トーラ

    シーフのトーラです。 よろしくお願いします! 今回は【3】で幽界分樹の討伐に行く予定です。

  2. ディレイン・オールドケイジ

    ヒーラーのディレイン・オールドケイジ、よろしく。 3で、クライスさんとマクシミリアンさんのサポートにまわるつもりだよ。

  3. ヴィルヘルミナ

    ウォーリアのヴィルヘルミナです。今回はよろしくお願いします。 私は【2】で『竜喰らい』の対応に回ろうかと。

  4. ロゼット

    ヒーラーのロゼットよ。よろしくね。 どこも大変そうだけど【3】で幽界分樹の撃破に参加するつもりよ。

  5. ハヤト=ガラン=ヴォルファング

    おーっす! ブレイブファング傭兵団のハヤト=ヴォルファングだ、よろしくな!! 俺は【1】で因縁のグリゼリダに今度こそ引導(意味深)を渡してやるつもりでいんぜ!! 何をするにも邪魔な背中の第三の腕を叩っ斬るのを優先目標でうごくつもりだが、手伝ってくれる奴がいたら大歓迎だぜ!! 【勇牙】でチーム募って動く予定なんでよろしくな!!

  6. エルナ・クルプファルツ

    エルヴンシューターのエルナです!みなさまよろしくお願いしますね! 私は【喫茶】として【1】でレミーラゾンビさんの対応に当たる予定です!

  7. グレイブ・ヤード

    【2】に向かう予定です

  8. イズレンディル・パラリム

    大変ご無沙汰しております。 【2】でエーテル吸収の妨害を目的に触腕破壊で動く予定です。 竜喰らいは左腕の方と交戦しながらでも回復しているようなので恐ろしい吸収力ですね。 少しでも妨害できるよう頑張ります。

アーカイブ生成日時 2026年08月05日 14時56分25秒 ・ world0