【竜盤】戦勝の宴
紀藤トキ
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シナリオID:1781
オープニング
「という訳で、目下の問題は酒だ」
「おう……。メルトウォールの連中が酒に興味が無かったのは、良かったのか悪かったのか」
理想を掲げて戦う連中だけに現世の快楽に興味がないのか、あるいはドワーフの酒が他種族にはきつすぎたのか。占領下でも酒蔵の多くは略奪に遭う事は無かった、のが良かった点。悪かった点は、酒蔵の保全が成されていなかった事だ。放置されていた樽は運が良ければ熟成を続けられるだろうが、駄目そうなら諦めて消費に回すしかない。マミダ市内にある大小の酒蔵全てを見渡せば、結構な量の酒が早めに飲んだ方が良い枠に分類されている。来年以降の為に早めの消費で樽を開け、空いた場所を仕込みから再開しないとならぬ。
「という訳で。解放と戦勝を祝して、あと年越しも祝おう」
「ついでにユールもか?」
「わはは! ついでにシグルランの奴の誕生日でも祝ってやるか!」
なお、シグルランの誕生日は4月である。
●
とりあえず飲めれば良い、とばかりに盛り上がる界隈もあるが、ドワーフとて人の子である。失われた命を悼む心情はある。マミダ市の一角には身元の分からぬ武具や遺品を積み上げた場所があった。罪人であるメルトウォールもドワーフ王国の兵士も、ここでは区別がない。
「わんわんさん。ありがとうございました」
「……複雑だけど、あの日うちの子を助けてくれたのは確かだし。それは感謝しとくよ」
ドワーフの母子が、手にした酒瓶を傾ける。彼らの慰霊の気持ちは分かりやすくシンプルで、辺りには酒精の香りが昼夜絶える事は無い。復興が進めばいずれ整理されてしまうのだろうが、今はここが死者と生者の対面の場ではあった。無論、幸運にも引き受け手のあった死者は墓地に適切に葬られている。そこはそこで、遺族と故人の別れが行われているのだろう。
●
「我々は間違っていたのだ……。いや、ついていく相手を誤ったのだな」
粛々と処刑の時を待つメルトウォールの者たちへ、マミダのドワーフ達は石を投げるような事は無かった。最後の戦いで味方となった事もあるだろう。直接言葉を交わし、本性が悪ではないと見た相手もいたのだろう。あるいは、ドワーフ王国の手で裁かれるのならばそれで良いと考えているのかもしれない。だが、少数とはいえ憤りを抑えられぬ者がいないではない。
「死んじゃえ! お前たちが来なければ、お父さんは元気だったのに! お父さんを返せ! 返せよ!」
「……」
収容区画の外から響く声に、項垂れる者もいる。メルトウォール全体を見れば悪びれず胸を張る者も、虚勢を張る者も皆無とは言えないが、マミダに捕虜として拘留されているのはバイアーディスの行いに反旗を翻した面々であり、良心の呵責を少なからず感じていた。そんな者達にも、酒の御裾分けはあるらしい。
「末期の酒って事かい? ありがたい事だ」
「フン。腐らせるより飲める口に突っ込んだ方がマシってことだ」
酒をふるまわれるのは市民たちと同じ場所で、彼らは移送用の馬車の檻の中。宴が終われば彼らはそのまま刑場に引き出されるか、未開の地へ島流しになる事が決まっている。市民から生卵などが飛んでくる可能性もあるだろうが、それも贖罪と受け入れてはいた。
●
「こういうお仕事は、いいわよねー!」
はるばるエドゥノーグから支援物資を運んできた一団の中、エフィミア・リリックはにっこにこである。今年の書類仕事は概ね片付けて来たので、気分はバカンスだ。今は冬でここは山だがそこは問題ではない。
「おお、色々ありますな。砂糖が大量にあるのはありがたい。しかし、この鉱物は見たことがありませんぞ」
ダンジョン産の食材や妖精から貰った砂糖などもさることながら、余った場所に詰め込まれたおまけに目が行くのはドワーフの性か。支援の礼代わりに宴会に参加していく許可を貰い、エフィミアはドワーフ達に絡んでいく。
「何じゃ、エルフの癖にワシらの酒が分かるんかい!」
「私の昔の仲間にもドワーフいたけど、種族で酒の味は変わらぬ! って言ってたわよ? あ、これ好みだわね。おつまみまだかしら」
今日は特に身分偽装していないのだが、今の彼女を見て他国の要人だと思う市民はあまりいないのではなかろうか。
●
「その時シグルラン王は! 向かってくるワイバーンをちぎっては投げ、ちぎっては投げ」
「いや、さすがにそれは盛り過ぎじゃろ」
酒に任せて適当な事をがなりたてる即席吟遊詩人が大量にいる一角。良く見れば決戦に参加したドワーフ兵たちであった。当人たちは仲間内で騒いでいるだけのつもりなのだが、何分声がでかい。近場で飲んでいる他の市民はそれに突っ込みを入れる者もあり、さらに尾鰭をつけて語りだす者もある混沌である。このあたりの面々が一番酒が進んでいるように見えるのは、やはり戦いが終わった安堵からだろうか。
「そういえばのう。シグルラン王が危ないときに割って入った甲冑の戦士! ありゃー誰じゃ?」
「知らんが、ありゃー間違いなく惚れたじゃろ。ようやく婿を取る日が来たんじゃないかの」
「でも随分背が高かったらしいじゃねぇか。エルフだったら嫌じゃなあ」
本人不在と思って勝手なことを言っている連中もいる。
「おら、追加の酒だぞ。本当ならお前らに出すのは惜しい高級品じゃあ! 味わって飲め!」
「うぇーい!」
既に味が分かっているのか怪しい連中が杯を挙げる。隣では、素面の連中が粛々とジュースや料理の準備を進めていた。ドワーフ王国はもしかしたら彼ら彼女らの力で回っているのかもしれない。
解説
マスターより
リプレイ
「第二回マミダ酒飲み大会の開催を宣言する。前回は有耶無耶に終わったが、今度こそ。初の王者の名を欲しい者は此処へ」
会場中央でルチル・プルメリア・グレイハーツがそう宣言する。この場のドワーフは前回の存在を知らない物も多く、「第二回だと?」と首を傾げつつも、深く考える事はなく杯を干した。大酒のみとしてのドワーフの矜持を揺るがす事態が発生していたからである。
「はい、タルごと持ってきてくださって大丈夫ですので」
「うわぁ……、マジかよ。こいつ味分かってるのか?」
リディリディ・トゥラ・イェレミースは、その細い胴体部のどこに入っているのか分からぬ速度で酒を干していた。ほんのり耳先まで桜色に染まり、酔っている風情はあれど潰れる様子は見えない。周りではエルフ風情と甘く見たドワーフが幾人も鼾をかいていた。
「おう、もっともってこい! 次はエルフ殺しを飲ませてやれ!」
などと一握りの猛者ドワーフ達が楽し気に笑っている。
「エルフを酔い潰すのでしょう。酔いぶれますので早く持ってきてください。早く早く!」
このエルフ、ノリノリである。なにせ酒を飲むと宣言さえすれば、あっちから飲み物もつまみも持って来てくれるのだ。お肉多めでと注文しても気を利かせてくれる。実はドワーフって良い種族では? と、自分のこれまでの常識を書き換えかねない程度に、リディリディは幸福だった。
「羊肉の香草焼きができましたよー!」
厨房から響くトーラの声に、肉食エルフの目がギラリと輝く。酒を片手に周囲の猛者ドワーフに目配せすると、彼らも得たりと笑って若いドワーフをパシらせた。
「おら、客人の箸を止めるな! 次の皿持ってこい!」
「次の次のその次のお皿くらいまで持ってきていただいても、構わないですよ」
普段のおどおどした喋りはどこにいったのか、遠慮の欠片もない。トーラの作った香草焼きは香草や香辛料で羊の臭みを消し、塩と醤油で味付けした酒が進む一品である。手を付けたドワーフ達のピッチもあがっていた。
「大会か。体に悪い程に過ごさねば良い事だが」
「彼らは宴でも苦境でも呑まなきゃやってられんのか?」
厨房では、フェイサル・セイフとナタリア・フィッツジェラルドが医療に携わる者として懸念を表明している。酒は百薬の長かもしれないが、過ぎれば毒になるのも薬と同じだ。ナタリアは既に、酒量をわきまえずにひっくり返った若いドワーフを数人介抱している。
「まあ、邪竜討伐が無事に為された事を祝いたい気持ちは私も分かるよ」
呆れた声を出しつつも、面倒見は良いナタリアは鮭と茸のバター炒めを仕上げていた。隣の鍋では、サマエラ=フォリウムが味見をしている。豚肉、大根、卵を時間をかけてコトコトと。味付けには醤油と茸の出汁を合わせ、砂糖とシャルガネの酒を少量混ぜたそれは、シャルガネ風の煮込みだった。この戦いでシャルガネとの縁も深くなったドワーフ達にも好評なようだ。
「残りは適当に出して欲しい。私はこれだけ貰って行こう」
一人で食べるには多すぎる量を中鍋に分け、サマエラは捕虜たちの一角へ目を向けた。自分も虜囚へ差し入れをと考えたフェイサルがハリス・アル・ターミルの元へ行くと、ちょうど酒飲みを焚きつけ終えたルチルと一緒になる。酒宴の様子をルチルから聞いたハリスは豪快に笑って鍋を振った。
「つまみの用意はお任せ下さい。はは、腕が鳴りますとも!」
「ああ、早くも凄まじい勢いで消費されているから急いだ方がいいかもしれないよ」
ルチルに頷き返し、ハリスは何やら頼みがある様子のフェイサルへ向きなおる。
「少し筋を通すべき相手に餞別を送りたい。お前の作る物なら間違いは無いだろう、ハリス」
神妙な様子で言う友に、察したハリスも重々しく頷いた。
「……勿論。私も彼らには世話になりました、どうかこれを」
「感謝する」
「あたいも少し聞きたい事がある。途中まで一緒に行かせてもらうよ」
大皿に盛った料理を受け取り、フェイサルはルチルを伴い厨房を後にする。先刻ルチルが盛り上げた一角の程近くに虜囚の馬車がとまっていた。フェイサルと同様の事を考えた者は他にもいたようで、リサ・ベイカーも差し入れを持ってきている。
「最後の晩餐か。ドワーフの奴らも気が利くじゃないか」
などと強がりを言う男の肩には新しい傷口がある。近くに転がっている石ころを見るに、投げつけられてできたのだろう。
「傷、治しても良いですか」
「……物好きだな。同情されるような身分じゃねぇが。好きにしろ」
「では、私も好きにさせてもらおう」
ヒールを掛けようとするリサの隣に、フェイサルがどっかりとしゃがみ込んだ。今できた怪我もあれば、おそらく攻防戦で負ったままの怪我もある。手当もされずほったらかしの様子にフェイサルはため息をついた。そうする理由も分からぬでもないが。
「受け入れて貰えるなら、ボクも君達に出来る限りのことをしたい。最後には一緒に戦ってくれた皆に」
やはり様子を見に来ていたエルゼリオ・レイノーラがそう申し出た。治療などしても、すぐに死ぬ身だと笑う相手にも、少しでも長く生きればチャンスがあると言う。行きたいと願って欲しいと言われれば、諦めたように両手を挙げた。
「……あんたもか。冒険者ってのはお節介だな」
「私は、手の届く範囲の怪我人や病人を捨て置けん性分でな。人助けと思って受け入れてくれ」
治療用の道具を取り出したフェイサルは、呆れたような声にも動じない。その様子に気が付いたドワーフ達も、特に制止する様子は見せなかった。
●
テーブルをくっつけて盛り上がっている一団がある。シルヴィア・A・カペルが自分の知り合いを紹介していたのだが、顔の広い彼女の知り合いはそこそこ大所帯。それなら合わせて飲んでしまえとなったようだ。
「飲み干すのが任務。それ以前に蔵人への礼儀だ。感謝して頂こう」
酒飲みの鏡のようなロイ・アウレアの音頭は、周囲のドワーフからも拍手が零れる。
「二人とお酒を飲み交わせる日が来るとは思わなかったな。これからも先達として頼りにさせて貰うよ、お兄様達」
ヒューマンであるシルヴィアにとって幼少期の10年は長い。護衛として勤めたロイとテス・クラルスにとっても、可愛い妹分でもあり心強い仲間でもある。過ぎた歳月にも変わらぬ2人と大きく花開いた1人でひとしきり言葉を交わしてから、居住まいを正して友人たちについて言及する。中の一人、エル=バ=ノイアンが最近付き合うようになった恋人故に、伝えるシルヴィアに珍しく照れがあるのも年長者には微笑ましい。
「紹介ありがとうねシルヴィ。ふふ、嬉しいよ」
「ロイもテスもあまり依頼以外では話すことがなかった。シルヴィアと関わりが深い相手だったのか……」
テスの気安い様子から、自分の知らない過去のシルヴィアを知る相手へ思う所も少し。しかし、ノイアンはそこで嫉妬に悶えるタイプではない。過去は過去で未来はこれから。2人で過ごす時間は自分達だけのものと思えば、残るはかつてのシルヴィアを守ってくれたことへの感謝だけだ。
「ノイアンさんこれ凄く美味しいね!」
つまみとして提供したのは焼き枝豆と秋野菜。工夫と言えば秋の味覚、木の実のドレッシングで和えた事と、野菜は軽く揚げて触感を強くしたくらいか。目を丸くするロイにそう解説すると、「ロモズでは同期だけど、こうして話すのは初めてだ」と言葉が返る。
「……ロモズでもよろしく頼む」
「もちろん。料理が得意、って覚えておこう」
「ロイさんとは何度か依頼で世話になってるよな。シルヴィやエフィと縁があるとは知らなかった。改めて宜しく頼む……。そちらはお連れさん?」
ノイアンとロイの会話に、海神・江流がふらりと混ざる。
「……あ、俺も。ロイ兄ちゃんは知ってるけど、そっちの銀の兄ちゃんは知らないな」
「ナキルくんは正座を崩さない!」
エフィルミアから今までの無茶をお叱り中のナキルは、シルヴィアを通さなくともロイと会ったことはあるらしい。エフィルミアがロイやテスと同郷だという話には、紹介しようとしたシルヴィアの方が驚いていた。
「もー! シルヴィ姉様は私の姉様ですし、ロイさんとテスさんは私の憧れの先輩達ですからね!」
「ほら、水を飲んで。エフィは本当に可愛らしいね」
「ああ、可愛いだろう?」
大好きな知り合い同士が仲良くなるのに、置いて行かれるように感じて、しゃー! と威嚇するエフィルミアをネタに、2人もニコニコ。そんな様子を愛でていたギーゼラも、話題の中に入ってくる。
「あ、……せっかくですから僕の事も、紹介してもらえますか? ふふふ」
「ああ、他の方達も紹介してもらえるかい、シルヴィ。それと……(恋人の紹介、ありがとう。応援しているよ)」
そっとテスが耳元で囁き、シルヴィアを赤面させる。思わずにんまりしたギーゼラと目が合い、2人は紹介前からどこか通じ合う気がした。冒険者だという事もあり、信頼する者の友と言う事もあり、打ち解けるのは早い。
●
「折角の機会ですから、ドワーフ王国のお酒を頂いてみましょうか?」
「はい、普段中々頂けないお酒も楽しみたいです」
誘ったイズレンディル・パラリムはそれでも、コルネリウス・アーラへ、飲み過ぎに注意と一言。
「なんだぁ? エルフも儂らの酒を飲むのかい」
「普段はあまり飲まないのですが、私も皆さんが好きなお酒を味わってみたいですから」
冒険者のエルフっていうのは、どこか違うのかね、などと首を傾げるドワーフへ礼を言い、イズレンディルは酒杯を干す。ガツンとした酒精の衝撃の後で、香しい匂いが嗅覚を埋め尽くした。なるほど、これは初めてだと目を丸くすると、恋人のそんな様子を珍しげに見ていたコルネリウスも一口。舐めるように飲んでから目を開いた。
「おやまあ、無理するんじゃないよ。旦那もしっかり奥さんの事見ときな!」
「あ、はい」
ドワーフの肝っ玉母さんの言葉が、アルコールでふわっと浮いた頭を通り過ぎていく。何か凄い事を言われたような気がしたが、イズレンディルはニコニコしたまま何も言わないのできっと変な事は無かったのだろう。
「エルフ森の連中は、酒の席でもドワーフと言えば森を傷つけるの何のと煩いからなあ」
「それはいけませんね。お酒は美味しくいただきたいものです」
「私は、いえ。彼と私は、種族が違うからという理由である垣根を低くしたい、と思っているんです」
「ははあ。あいつらもそんな事を言っていたが……」
「あいつらは儂らの酒を飲みもせんかったぞ。ありゃあダメだ」
酔いが進んだコルネリウスが、内心の想いを吐き出す。同席してみれば、マミダのドワーフ達は案外オープンだった。元々交易地で異種族ともある程度馴染んでいた事もあろうし、自分たちの土地を守ってくれた感謝もあるのだろう。話は通じる者も多い。無論、狷介な者もいるのだろうが。
「次の機会では酔い潰れるまで飲みましょう」
「次の機会にも、是非ご一緒させてください」
同時にそう言って、顔を見合わせる2人にドワーフ達はゲラゲラと笑い、連れに無茶させるような飲み方はしない方が良いと言った。飲みたい量を飲みたいだけ愉しむのがドワーフ流。馴染んだならまた来ると良いと言われて、思わず笑顔になった。
●
「お酒、美味しいですわ。お料理も美味しいですわね。悪くはありませんわ。でも……」
品のある所作なのに何故か残念な風情で卓に着くリリリリスは、程々に酔っぱらっていた。美食家たる彼女の目から見ても、出てくる料理も酒も良い物だ。しかし、悪食家としてのリリリリスを唸らせるには少々物足りない。というか満足させるような料理が並ぶ方が問題ではあった。
「おーい、つまみが切れたぞ!」
「こっちもだー」
そんな声が諸所のテーブルから聞こえだすと、リリリリスはきりりとした目で立ち上がる。
「確かにもっと酒の肴が必要ですわね、私の腕の見せ所ですわ!」
(ハッ! 何か悪寒が……)
厨房では、真っ当な味覚の持ち主であるトーラが護身開眼しようとしていた。しかし、普段なら加害者の側であるリリリリスとて、いつも都合よくいくわけでもない。
「あら、とても良い野菜もありますわね! これなら私の至高の皿に相応しいですわ……。ハッ!」
「その野菜を、どうされるおつもりですかな?」
色艶の良い野菜に手を伸ばしたリリリリスの背後に、仁王の如きオーラを纏ったハリスが立った。
「帝国焼きをアレンジした帝国焼きサラダバーガーを作ろうと思いますの!」
「帝国焼き……? ああ、回転焼きの事ですね! でも、サラダ……?」
不穏な気配を感じて聞き耳を立てていたトーラが首を傾げる。時と場合によっては争いを生みそうな名称を口にしていたが、この場に名前にこだわりがある者はいなかった。
「このドレッシング替わりの香水と肉と野菜と元々の餡の味が……」
「そこまで。それは食材に対する冒涜という物です。良いですか。野菜はそれ自体の香りを楽しんでこそで……」
「アレンジするなら、こういう感じはどうでしょう?」
香水を取り上げ、お説教モードに入ったハリスと「きっと美味しいですわ!」と味見の概念を消失している癖に自信に満ち溢れたリリリリスの間に入って、何とか食べられるものを提案するトーラ。「あんた達! 遊んでるんじゃないよ!」とドワーフの奥様の雷が落ちる。厨房の混迷は深まるばかりであった。
●
宴が本格化する前に、慰霊の場を訪れた冒険者達がいる。
(邪竜の魂って、もうひとかけらも残ってないもんかね? 残骸はまあ、残ってなかったみたいだけど)
宴会に顔を出す前に、決戦の場所に赴いてきたサイラスだったが、バイアーディスの遺体は鱗1枚に至るまで回収されていた。そこで気になったのが魂である。危険な死霊術師も多い昨今、あんな怪物が利用されたとしたらたまったものではない。
(まあ、そんなこんなで霊体で慰霊に来たわけだけど? 霊的な何かって奴はわからないな)
生霊として辺りを漂うサイラスは、授恵者からは不審な目で見られているものの一般ドワーフには見えていない。アイオーンもバイアーディスも、成仏したか既に誰かに捕まったか、少なくともこの辺には漂っていないようだ。
「――死んだら敵も味方もないよね。だから……」
エルゼリオも、同じ場所で邪竜達の安らぎを祈っていた。彼らとて安住の地が欲しかっただけなのだ、とも思う。邪竜が口にしたのはより強くなるという即物的な願いだったが、それが平穏の為ではないとは限らない。途中で斃れた者へ、より良い世界を築く事を誓って手向けの言葉にした。
「……戦いに果てた皆様の、ご冥福を……」
祈りながらも、レティシア・レインフィールの頭にあったのは別の戦いで討った女の顔だった。王国貴族の家に生まれたがゆえに人としての扱いを受けず、それ故にメドゥの指先に利用され、手先として果てたのちは利用した者からすら顧みられることも無かった彼女の事を想えば、犯した罪を知ってもなお悲しみがぬぐえない。この場に眠る者たちと、彼女が似ているのは罪人である事位かもしれないが……。
(せめて私は、彼女の事を覚えていましょう)
いずこに眠っているのかすら定かならぬ人を想い、レティシアは頭を垂れる。願わくばその次の世に平穏を、と心より願った。
「……わたしの、同胞。もしかしたら、となりにいたかもしれない、ひとたち」
ぽつぽつと、遺品へ向けて言葉を零すサラは、貴重な蒸留酒を傾けた。宴の熱気に夜風が心地良い。
「このような戦いの後というものは……勝っても負けても、傷跡が残るものなのですね……」
ララノアは悲し気な瞳で、遺品の山を見つめている。誰かが身内の遺品を探してひっくり返した跡があり、滴るほどに酒を掛けられた一角もある。人が人としてある限り、譲れぬ信念や願いの為に戦う事はなくならないのだろう。それでも。
「いつか、いつか……。本当に誰もが悲しまなくていい世界になればいいと思います……」
そう、願いを込めて鎮魂の歌をささげた。その旋律を耳に、サラは暗い空を見上げる。
「……おそらは、きれい? どうか、道にまよわないで、いけますよう、に」
たどたどしく祈りの言葉を述べたサラの隣では、大福も頭を垂れていた。助ける事が出来た人、出来なかった人。後ろ側の人々がここに、これだけの数眠っている。あるいはもっとたくさんいたのだろう。全てを救えるなどと思い上がってはいないけれど。
「粽、本当に大福たち役に立てたのだ……?」
つぶやきに、狼は言葉を返さない。ただ寄り添う温かさに涙腺が緩みかけ、大福は慌てて首を振った。
●
「にゃ! ドワーフのみんな! 今回の戦争はお疲れ様!いっぱい飲んで食べて歌って騒いで、しょんぼりした空気を吹き飛ばそー!! カンパーイ!」
テーブルの上でサフィラ・アズラク・ナハルハルアリーブが音頭を取ると、方々でジョッキが打ち鳴らされる。兵士達と冒険者達は肩を並べて戦っただけあって気安いようだ。
「ふふーん! 今回は新技の蒼穹雷閃がバーディアスにバッチリキマまったから超サイコーな気分っ!」
「あんた達もいい所でぶち込んでたよなあ。太矢だの大石だの喰らった奴の顔と来たら」
サフィラが御機嫌で自分たちの活躍を語り、ハヤト=ガラン=ヴォルファングはドワーフ達の健闘をたたえている。
「それを言うならバイアーディスなのだ。シグルラン王はワイバーンをちぎっては投げはしていないが、自ら囮になってバイアーディスを引きつける大活躍だったのだ」
「邪竜といっても、所詮は獣でございましたね!目の色を変えてワタクシとシグルラン様のほうへ誘き寄せられたでございます!」
ストレガ・L・リベルガストラは肉を甘辛く煮た皿を置くついでに、王の活躍を修正していた。すかさずハリーヌ・ヨツユビが自分の活躍をアピールしていく。
「あ、授恵者ではないドワーフ兵の皆様も、危険を顧みず戦われていたでございます」
ドワーフ達の活躍も如才なく褒め称え、酒の席でよいしょしていく姿は熟練の営業マンのようである。とはいえ、こういう繋がりが何かの役に立つこともあるかもしれない。聞いている連中の顔を見ると、明日になれば忘れている公算も高そうだが。
「現世こそ夢、夢こそ真。今宵は夢か現か。――ご照覧あれ…!」
興が乗って来たザザ=ステルヴィナの踊りを肴に、ドワーフも冒険者も酒が進む。衣装については、あっちで正座させられているナキル少年の繋がりで、仕立て屋だというエルフのマリイ・パルティスの手を借りた。その辺のドワーフに任せるよりは美麗な物になったはずである。
「お酒が駄目になってしまうなら、ボクも消費に協力します!」
と言うのは、ドワーフ達の噂の的の、シグルランを助けた甲冑戦士の中の人ことハルハン・ツァガーンナル。噂は耳に聞こえているが、鎧を脱いでいれば分かるまいと思っている。実際、ドワーフと飲み交わしていても誰も気づいた様子はなかった。
「シグルラン王が危ないときに割って入った甲冑の戦士さんの素性は分かっているのかしら? 実は密かに捜してる最中とか?」
「いやー、そういう話は別に聞かんのう」
踊り終えたザザの興味本位の問いに、ドワーフ兵が残念そうに答える。
「実際の所、シグちゃんはどう考えているのでしょうね」
「王は鍛冶脳じゃから、素材を前に色恋は二の次じゃろうて」
知り合いなのか、厨房から料理を持ってきたヴィルヘルミナが気楽な感じで王の事を語れば、別のドワーフが憶測を述べる。たいがい、王と国民の距離が近い国であった。ザザは、シグルラン本人がこの席に居れば、色々弄って反応を見て、聞き出せることは聞いてしまおうと思っていたのだが、シグルランは邪竜の遺骸と共にさっさと帰ってしまったらしい。
「シグルラン、邪竜の前に立つ姿は格好良かったですし、ほっとした顔は可愛らしい人ですよね」
「まあ、面白い王だよなあ。可愛いかどうかはともかく」
「なかなか格好は良かったな。可愛いかどうかはともかく」
ふわふわしてきたツァガーンナルがそう言うと、ドワーフ兵たちは口々に王を褒め称えた。何か語尾についてる気もするが、ドワーフ兵的にはギャルはアリなのかナシなのか。案外誰かに見て貰いたいのでは、とザザが妄想を口にすれば、それはないないと兵士が揃って首を振る。
「本当に、守れてよかったです!」
「まったくだ。あの鎧の戦士には感謝せねばな! 会えたら奢ってやろうぞ! 王と戦士に乾杯じゃ!」
うっかり漏らした一言だが、ドワーフ達はまさか彼女が鎧の戦士だとは思わなかったらしい。何度目か分からない自分に掲げられた乾杯の声を子守唄に、うとうとしはじめたツァガーンナル。
(守れて……? まさか、よね)
ちょっと首を傾げたザザだったが、別の席から踊りをリクエストされて立ち上がった。
●
宴が進んだ頃合いに、虜囚達のいる一角へ足を運ぶ者もいる。
「……ゴブリンってだけで小突き回されてな。そんな時に、ちょっと優しい客が居てよお。着いてったらそれが悪い奴だったのさ」
「流されちまったんだな、アンタ」
自分達に下る沙汰を理解しているのかどうか、ギャメルより幾分年長の女ゴブリンは、あっけらかんと語る。頭が道を間違えば配下も道連れで納得してしまう辺り、ゴールディを離れたゴブリンにもなおファミリー気質があるのかもしれない。あるいはそれをおかしいと思えるのが教育というものなのだろうか。ギャメルは彼女の行く末を想い頭を垂れた。
(――ほんの少し立場が違えば、俺もメルトウォールだったかもしれない)
虜囚の元を訪れたナハティガル=ラーは、同族のゴブリンを見つけてそう感じた。自分には手を差し伸べてくれる者がいた。彼らには寄る辺が無かった。それを一言に運と表して良い物かは分からないが、ナハティガルにとってそれは運だ。出会えたか出会えないかは、自分の努力によるものではない。
(虐げられた者の怒りと哀しみを。安住の地を欲したお前達の事を。俺は心に刻み付けよう)
せめてもの、残された者の責務として。この宴にもしシグルランが来ていたのなら、頭を地に擦り付けてでも、彼らの恩赦を願う心算だった。しかし、多忙な国主は羽を伸ばす暇もないらしい。参戦していたドワーフ兵達に頼んで見るのも、悪くはないかもしれないが。
「しんみりしすぎても良くないしな。行こうぜ、ナハティガル」
「……ああ」
ひとしきり同胞と言葉を交わしてから、2人は宴の会場へと向かう。参戦していたドワーフ兵達に頼んで見るのも、悪くはないかもしれない、とも思った。
●
適切な手当てを施され、包帯が巻かれると捕虜たちの様子も変わって見えた。薄く漂う血と膿の匂いは、消毒の薬剤や薬草のツンと来る匂いに置き換わり、それを差し入れられた食料のかぐわしい匂いが上書きしていく。
「騙される方が悪いのでございます。ただ……、誰でもそうなる可能性があるということは、肝に銘じておきたいでございます」
戦話で盛り上がる一角、ハリーヌが呟いた言葉に、項垂れていた大福は背筋を伸ばした。彼の小さな手に乗った料理は冷めきっている。マミダの解放戦の最中、無我夢中でドワーフを助けるために戦った。魔獣使い達と言葉を交わした際には、野生の狼と心を通じた大福に彼らも思う所があったのか、長年の戦友のように一つの目的の為に動いた。けれども、彼らは今檻の中なのだ。
「誰でも、そうなるのだ……? 大福も、そうなのだ?」
確かに彼らと自分達は、大福の目にはさほど異なって思えなかった。途方に暮れた様子の大福を、粽は静かに見守っている。
「……大福さん?」
「えばん、なのだ? こ、これは泣いてないのだ。水が出ただけなのだ」
掛けられた声に振り返れば、旧知のエヴァン・ピオネロがアルマ・ヴァレンタインと共にいた。どうしてここに、と問えば一緒に戦ってくれた戦友へ挨拶に、と言う。大福のように悩む様子は一見すると見えなかったが、よく見れば組んだ腕に指先が食い込んでいた。アルマに心配かけぬよう、声だけでも落ち着いて見せようとしているのだ。
「……大福も、一緒に行っていい、のだ?」
「大丈夫だよ、エヴァン君」
心細げに言う大福に、一瞬迷ったエヴァンの背中をアルマが押した。2人きりの時間は惜しくもあるが、友人を見捨てては甘い物も甘くなくなる。連れだって檻馬車の一角に辿り着けば、思っていたよりも静かな場所だった。大福が気に掛けていた魔獣使い達は諦観した表情だが、魔獣たちの行く末に話が及ぶと悲しみを見せる。情状酌量があっても同じ人間までで、わざわざ魔獣を生かすことはないだろう。
「ドワーフさん達を助けられてよかったのだ。でも、助けてくれた魔獣使いさんや相棒さん達にも無事にいて欲しかったのだ」
ぽつり、と大福が呟いた。
「一緒に戦って邪竜もやっつけたっていうのに、こんな形になっちゃうなんて残念だなって……」
「もっと違う方法が無いか一緒に考えましょう。……難しいですがアルマが笑ってくれる為なら……頑張れます」
悲し気に項垂れるアルマを、エヴァンが自然に抱き上げる。大福には自分が居るぞ、というように粽が鼻を擦りつけた。ぐいぐい押してくる粽に戸惑いつつも身を任せた大福は、額を合わせて見つめ合うカップルから離れていく。空気を読む狼であった。
「それは『小さき神々』に引離される時まで変わらないです……。アルマ、その日までぼくと共に生きてくれませんか?」
「ボクはきっとエヴァくんを残して先に旅立つだろうけど……」
残される相手を想えば僅かに躊躇いもあったが、気持ちがそれを上回る。照れて視線をずらし肩に顔を埋めて、アルマは小さく言葉を続けた。
「その日の来るまで、一緒に……」
恥ずかしいので顔は伏せたまま、挙げた指先に光る指輪の模様を向ける。察したエヴァンもそっと指を添えた。
「アルマと離れてからの200年は…考えるだけで怖いですね……。でもそれ以上に一緒に居られる80年が欲しいです」
指輪を合わせ、生まれた四葉の指し示すは希望、愛情、幸福、そして信頼。柔らかな時間が流れ、火照りが収まった顔を少し上向けると、ずっと待っていた真摯な瞳に絡めとられた。
●
さて、探せばドワーフ王国にもゴブリンはいたようで、彼らが固まっているテーブルでは、慰霊碑から戻ったギャメルがナハティガルの活躍を熱の入った様子で語っている。
「華麗な身のこなしで邪竜と戦ったんだ。アダムとの連携もバッチリ決まったな!」
「……さっきから俺の事ばかりだな」
困惑した様子だが、不快ではない。こういった席と自分が相性が良いとは思ったことが無かった、とナハティガルは考える。居心地が良いのは、この少年がいるからだろうか。普段よりも食事も味がする気がした。と、注意が逸れた間に何か話があったらしい。
「ナハティガルにはこれをやるぜ。花だ」
(……俺に花束? 何故だ…?)
ギャメルが差し出すのは、俯き加減に咲く白い造花の束。炎のように赤い実の模造品が添えられていた。自分に似合うと思ったと言われ、戸惑いつつも礼を述べる。同じゴブリンと言う事で、ストレガも誘われて同族と話に花が咲いていた。
「私は竜殺酒作る為の薬草酒を発注してたのだ。シャルガネの職人さん『毒酒を造るとは何事だ』とブチギレてたのだ」
「それは怒る」
真顔で頷くゴブリン達は、ドワーフ王国にだいぶ染められているようだ。「感謝を込めてシャルガネの薬草酒も買い付けると良いのだ」と言うと、「ここにあるぞ!」とドワーフ達の席から声が上がる。酒と名の付く物は大体手に入るのがドワーフ王国らしい。煎餅をつまみに飲んでみれば、確かに旨いと膝を叩いた。
「……いや、酒は遠慮しておく。ジュースでも貰えるか」
戦闘の話と、竜の動きについて尋ねていただわに、ドワーフ達の口は重い。飲むも飲まぬも自由と言えど、素面が混じれば白けるのが飲んべというもの。それでもあれこれ話していれば、分かる事もある。
「飛んでいる竜に煙幕は、あまり役に立たなかったのか。翼を破って落としてから。なるほど、急所は喉、か」
とはいえ、ワイバーンとドラゴン、邪竜でもまた違う。研究は奥が深くなりそうだった。
「ふにゃ……ハヤトぉ、なんかちょっと火照ってきたかも……」
勢いよく飲み過ぎたのか、はしゃぎすぎたせいか。サフィラはすぐにとろんとした目になった。甘えてくる様子はハヤトにズシンと響く。どの辺に響いたのかは置いておく。
「ねぇ……二人っきりで、ゆっくりしたいなぁ」
ズグン。2コンボヒットである。すごく良い笑顔でハヤトは立ち上がり、周囲へ片手で拝むように中座を詫びた。
「……それじゃあ、ちょっと失礼して」
ドワーフ兵達はまだまだこれからのようだが、若い2人を引き留めるような野暮な真似はせず。盛大な口笛と野次で見送る。
「爆発しろー!」
「爆発するでございます!」
意味を分かっているのか否か、声はハリネズミの獣人がひと際大きかったような気もする。こんなこともあろうかと宴会場の2階は宿になっていたようで、そこでどんな甘い一時が過ごされたかは、恋人達だけの秘密である。
●
「焚火を囲み、糧を分け合う。それだけで心は繋げるもの。さあ、どうぞお食べください!」
厨房を離れたハリスは、自慢の料理を手にドワーフ達へ積極的に声をかけていた。ドワーフと言えば、邪竜に対する敵意からリザードマンへ隔意を持つという。邪竜などと一緒にされる事にはいささか思う所があったのだが、実際に邪竜の脅威を目の当たりにして、考えを改めたようだ。難敵たる竜を屠り、共に明日を迎える喜びを忌憚なく分かち合う。
「酒だ! 宴会だ!! ひゅーーー!!」
「今回の戦は酒に始まり酒に終わるって感じだね」
はしゃぐナハシュに、ヨル・スレイマンが笑みを向ける。手伝いを少しと厨房へ向かいながら、何か思いついたように振り返った。
「最近どうも酒飲んだあと面倒みてもらってばかりだからね。ナハシュ、たまには君が気にせず飲むといいよ。帰りは連れて帰るから」
「ん、んん? 珍しいじゃねぇか、どうした、腹痛いのか?」
ナハシュにとっては酒絡みで相方が潰れるのもいつもの事で、特に負担には思っていなかった。とはいえ、ヨルがそう決めたのならとやかく言う程の事ではない。今回は急いで消費しないと味が変わると聞いて、普段以上にやる気である。
「ん、サラ。お前も来ていたのか」
「あ、だわおにいちゃん」
ドワーフ兵たちのたまり場と、慰霊碑と。それぞれの目的地を巡ってから、宴会場にやってきただわとサラが会ったのは偶然。兄妹のような2人だけに、同じテーブルについて話を始めた。何をしていたのか、と問われてだわはてらいなく答える。
「俺はここで戦話を聞いていた。こういう機会は貴重だからな」
「……そうなん、だ。お勉強、熱心、だね」
サラは何をしていたのか、と尋ねる様子が無いのは少し寂しい気もした。けれども、だわが甲斐甲斐しく肉を勧めてくると、そんな事はどうでもよくなる。
「ああ、何か飲み物を貰えるか」
「えっとね、これ、あまくて、おいしい、よ」
「じゃあ、サラと同じものをくれ」
注文しようとしていただわに教えると、同じ物を頼んでくれたのが少しうれしい。だが、それはだわにとって罠だった。彼は酒に弱い。とても弱い。
「……まさか、酒……、……ぐぅ」
「あれ、どうしたの? だわおにいちゃん、大丈夫?」
疲れてもいたのか、冗談のような速度で突っ伏しただわから反応はない。揺さぶっても起きる様子もない。
「ど、どうしよ……えっと、ブランケット、掛けて……」
持っていた毛布を掛け、少しでも寝心地が良いように整えた。ふと、だわの無防備な寝顔に視線が吸い寄せられる。初めて見る気がするそれに、頬を染めつつしばらく見入ってしまうサラであった。
●
「大きな戦いって終わった後に大体こうやって騒いでるけど、今回はいつにも増して賑やかね」
「タダ酒は美味い。これは真理だからな」
賑やかな飲みの場は居心地が悪く、ルベア・ベルニは人の輪を少し外れて静かに飲んでいた。たまたま近くに座っていたヴァンゲルス・ロッドの言葉に、そんなものかと首を傾げる。
「うむ。戦勝の祝い酒! ただ酒と相まってなおさら美味い! そう言う事だな!」
酒飲み大会で敗れ、流れてきたベルク・オスマットがそう嘯く。歴々たる手練れ共に無手では抗すべくもなかったらしいが、途中でピッチを人並みに舵を切ってこの荒波を乗り切る構えのようだ。
「……今回はお疲れ様ね」
「ああ。お疲れ様だ」
何となく集まってしまった面々に言うともなくルベアが言うと、ヴァンゲルスがグラスを上げた。拠点を確保したベルクは新たな酒とつまみを求めて中央へ彷徨っていく。
「酒もってこい! もちろん樽で!」
「うるせぇ! 飲めねぇ量を持ってこうとするんじゃねぇ。酒に失礼だろうが!」
「……すまん」
ガチギレのドワーフに怒られ、しゅんとして戻ってくるベルクとルベアを見比べて、ヴァンゲルスが「親戚か?」とつぶやく。見ればどちらも狐の系統のハーフビーストで、しかし姉妹というには纏っている空気が違い過ぎた。
「ほうほう。我は北壁のたもと、オスマットの一族の出だが、我が血族は消息不明だ。いずれ同胞に繋がる者なら歓迎したいが」
「違う、と思うけど」
とうとうと自己紹介を受けたが、ルベアの記憶に類するものはない。家族を探しているなら、力になれず申し訳ないと思えば、なんのと笑って首を振られた。幼少時に別れ、探したが見つからず、今ではそれはそれで割り切っているというベルクは、タダの酔っぱらい狐という訳ではないのだろう。
「ふーむ、お前さんの一族か……。俺にも思い当たる話はないが、何か分かれば知らせるか」
「うむ。期待して待っておるぞ」
情報屋を営むヴァンゲルスにそう頷き、懲りずに新たな酒を求めて歩き出すベルク。したたかな強さは、ルベアに無いものだった。欲しいかどうかと言われれば難しい所だが。ちびりちびりと飲んでいるうちに、普段よりも酔いが回っているらしい。
「少しですが、力作のおつまみを置いておきますわ! ぜひご賞味くださいませ!」
何か、酒席には警戒すべき事があったはずなのだが思い出せない。食休めにと、ルベアは机の上に置かれたものに手を伸ばし……、倒れた。
「お、おい? 嬢ちゃん、どうした!?」
慌てたヴァンゲルスが、ルベアの様子を見る。苦しそうだが、毒物ではない。たぶん。こないだはすぐ脱ぐ酔っ払いの相手をしたが、それに比べれば大した事ではない。が、平穏無事な飲み会は今回もお預けのようだ。
●
厨房からヨルが持ってきたのは、挙げたジャガイモにハーブと塩で味付けしただけのシンプルな物と、いつ作ったのか確り煮込んだテールスープ。スープは時間がかかる料理だが、仕込んでおいて厨房へ預けていた。
「君、テールスープ好きだったろう? ってもう始めているのか。乾杯! 戦勝祝いの酒は格段に美味いな!」
「っはーー!! うめえ! 酒とテールスープお代わり!!」
既にいいペースで飲み進めているナハシュにジョッキを掲げ、ヨルはちびちびと飲んでいく。酔いは進まないが、今回の戦いには思う所もあったようだ。
「君は割と無茶するから毎回ちょっとひやっとするけど……」
「暴走邪竜観光してえっつったのはお前だろ?良いもん見れたじゃねえか。俺も登って楽しかった」
そう返されると、言葉もない。大概無茶を言う相手に付き合うのはお互い様ということか。
「楽しそうに戦ってる君を見るのは気持ちいいけどね……。まあ生きて帰ったから良しだ。いっぱい食べてね、こっちも」
「おう。あ、その揚げたやつくれ! なんか美味そう!!」
反省もそこそこに、享楽的に今を生きるのが自分達には似合っている。いまさら言葉にするわけもないし、しなくても通じている関係性が心地よかった。
●
「いやあ、お酒、よいですね。タダでいただくお酒は美味しい」
などと誰かと同じようなようなセリフを幸せそうに言うラモン、通称モンチョ。その左右に、ジュスト・ヴェルジーをローザリカ・L・ディオールが着座していた。
(この卓、凄く嫌な予感しかしない)
ジュストは嘆く。何せ、この2人の酒癖の悪さは身に染みている。できることなら逃げ出したいが、さりとて潰れた後の2人の面倒を見れるのは自分しかいないだろうという諦観が足を引く。
「ジュスト様、どうもお酒が進んでいないようですが。はて」
「僕たちの酒が飲めないとでも?」
「正直君達の酒だからこそ飲みたくない」
ジュストの苦悩など知った事かと息の合ったコンビネーションを見せるラモンとローザリカ。どちらも美形なだけに圧が強い。
「従弟殿は酒の席でも軟弱だった、などと語らねばならない僕の身にもなってくれたまえよ」
「美女からの申し出を断るのは男の恥ですよ。さあさあ、いっきに、ぐいっと、ひとおもいに」
上気した頬で肩をすくめて見せる従姉は少々色気が強い。ラモンは品の良い顔で質の悪さを披露している。騒ぎを耳にした周囲のドワーフは「おい、どうした」「あそこのヒューマンが酒が飲めないと」「なるほど、餓鬼のようじゃな」「毛も生え取らんのではないか? がはは」などと言い出しており、正直従姉の耳を塞ぎたい。
「……良いだろう、そこまで言うのなら飲んであげるよ」
かくて、事態を収拾すべくジュストは酒杯を呷るのであった。
●
いわゆるいつメンで飲む者もいれば、この戦いを通じて繋がった縁もある。
「そんな暗い顔してないで一緒に飲みましょうよ。お酒嫌いじゃないでしょう?」
「暗い顔は生まれつきですよ……多分」
普段は見ないような珍しい酒とつまみ。うきうきした様子を隠さぬマリイに、苦笑交じりにウィレムが応じる。が、マリイも手当たり次第に飲み食いする訳ではないようで、何をしているのか疑問に思いつつもついて歩いた。しばらく気ままに動き回ってから、ウィレムの疑問に気づいたマリイの説明が返る。
「……なるほど、料理の研究ですか」
「お手伝いしているバーの、新メニューの開発に役立つと思いまして」
それはいいのだが、妙な人へは絡まないで欲しいと思うウィレムである。料理人にとってのレシピ、ドワーフにとっての酒は魂。聞こうとするだけで喧嘩腰になりそうな者もいるのだ。それに、聞き出すのがメインでも出された酒は断らないスタンスならいずれ酔いが回ってくる。はらはら見ている間にマリイはすっかり酔っぱらいに。
「こんなうまい酒、次いつ飲めるか分からないんだから今飲まないとー!」
「それは分かりますが、限度は考えて……ああ、もう」
これは駄目だ、と諦めが頭をよぎる。結局ふらふらし始めた所で止めて、危なげなところを宿へ送り届けた。特に妙な事は考えていなかったのだが、宴を後にするときに口笛やら野次が飛んだのがウィレムには不思議である。
●
一方、虜囚達の心の平穏を気に掛けた者もいた。信ずる神は違えども、神官として懺悔を聞きに来たロゼットと、神官でこそないが祈りの言葉を捧げに来たララノア。彼らの事を知り、覚えていたいというミア=リゼル。
「貴方たちは手段を誤ったかもしれない。けれど共に生きていこうとした理想すべてが間違いだったとは思わないわ」
「今更だな……。俺たちは戦う事しか思いつかなかったんだ。それが全てさ」
酒を勧めるロゼットに、頑なな口も少し緩む。彼女も無理に聞き出そうとはせず、話したいものだけが話せばよい、というスタンスだった。今この時に語り合えずとも、いずれ死せば同じエーテルに還る。その時に思う存分聞きましょう、と彼女が言えば、男は何とも言えぬ顔で俯いた。もしもバイアーディスの贄としてエーテルごと喰われていれば、彼らにはその来世すらなかったかもしれないのだ。
「宴が終わるまでは、まだ長いわ。戦った理由、忘れられない記憶、伝えたい言葉、何かを話したくなったら言ってちょうだい。私が……。いえ、私達が聞くわ」
もちろん、ただ酒を飲むだけでも構わないけれど、と微笑むロゼットに、訳が分からんと苦笑を返す男。杯を干す間に、ぽつりぽつりと言葉が返りだす。
「何が正しいなど……私には分かりません……」
ララノアはそう寂しげに言う。メルトウォールの理念を聞いて、その正邪をはかる事は自分にはできないと思う。ただ、彼らの決起の結果亡くなった人は多い。埋まれた悲しみも多い。この場にいる人たちの幾ばくかは刑場の露と消え、またそこに虚しさが生まれるのだ。そう思えば、目尻に涙の滴が溜まる。
「私とあなた方は立場が少し違っただけ、でも、敗者は歴史を紡げない。……だから、私にお話ししてください。皆さんの事を」
ミアには語るべき過去はない。思うべき理念もない。だから、辛い過去を背負って理想の為に立ち上がった彼らの姿を記憶にとどめたいと思った。そしてそれを誰かに語り継ぎ、伝えていこうと思う。そうすればいずれ、どこかで実る事もあるだろう。
「……儂が、お前のような娘っ子じゃった頃の話だ」
彼女の思いを汲んだのか、隅で石のように気配を消していた老婆が、昔語りを始めた。
(遺恨、憎悪、後悔、苦痛……後に残る全てをひっくるめての、戦争。どちらが正しいか、なども……。もはや、意味も持たぬ話、か)
交わされる言葉を耳にしつつ、サマエラは争いの虚しさを思う。一度抜かれた剣が鞘に戻ったとしても、振るわれた結果は厳然として残るのだ。たとえ理念が正しくとも武力に訴えた時点で、分かりあう道は途絶えるのかもしれない。食事を運んでいたリサも、今回の件に思いを深くしていた。今回の自分はドワーフ王国にも彼らの理念にも重ならぬ、第三者として関わった。もしも当事者であった場合に、どうある事ができるだろう。信じる理想と世界の正義が相容れなかったときに。
「……もし、罪を償って、やり直せるのであれば、今度は、自分では無く誰かを守る為に戦って下さい」
「ハハ、アタシが守りたい子はもういなくなっちまったよ。忌み子とか言われて王国を追われ、何とか辿り着いたココで邪竜に食われたのさ。この世のどこにも、安寧の場所なんて無かったんだねぇ……」
彼らに先があって欲しいと願って綺麗事を口にすれば、全て諦めたような苦笑が返った。誰かの守りたいがために戦った結果、誰かの守りたいものを奪う。それが戦争なのだろう。そして目の前の女性のように、後には何も残らぬのだ。ただ目の前の相手を護れる人になりたいと、純粋に願える友人が恋しくなった。
(彼らは信じた夢物語の為に多くの悲劇を生みだした侵略者です。そこにどのような理由があろうと、同情の余地などない)
イヴェール・イリュジオンは冷めた目で虜囚達を見ている。最後の最後でこちらについたのも、信じた相手が信じた姿で無かったから寝返っただけの裏切り行為だ。彼女の信じる清廉な騎士道からは遠く離れた醜い生き方に共感などできようはずもない。それでも、一つだけ聞きたい事があったのでこの場に足を運んだ。
「……何故、全てが共に過ごせる理想郷などと言う夢を追いかけたのです?」
「あ? そりゃあ、そうなればいいって思ったからだよ」
当たり前のことを聞く、といった表情で首を振ったのは、どこにでもいそうな朴訥な農夫と言った男だった。ヒトだけでなく亜人、果ては魔獣や動物までも共に過ごす理想郷など、破綻する未来しか見えないとイヴェールは思う。
(言われなき差別を受け、虐げられ、辛酸をなめてメルトウォールに辿り着いたのでしょう。なぜ、共存などという絵空事を願ったのか)
当人達も分かってはいない。醜くあるはずの彼らがなぜ醜くありきらなかったのか。イヴェールの心に残った僅かな棘だった。
「誰もが平等で幸福な理想郷……か」
ルチルも、それは夢物語だと思う。邪竜の甘言に乗せられ、しかし夢は夢のままに潰えた。ただ、夢ではない物がある。邪竜が行った儀式は、奴らが独自に考えたとは思えなかった。何故邪竜が人を騙して戦争モドキを始めたのか。生き残りに話を聞いても、判然とはしない。
「アイオーン様が、あの方と呼ぶ誰か。そこから先は分からないか」
いや、誰かがそのポジションにいたという証言が得られただけでも、前進であろう。ルチルは地道な情報集めを続けていく。
●
「無色透明……米酒に似ているけど度数は桁違いだね。江流、君はこの酒をどこで?」
「シャルガネ出はドワーフ王国とは縁深いんだよ。キツい酒ばかり飲んでるから100年程度で死んじまうんだ」
シルヴィアと江流は、ドワーフ王国の火酒に挑むようだ。それを見ているエフィルミアがまたもぐぬぬと歯噛みする。
「ぐぬぬ。エルさんだって私の兄の様な人なんですから!」
「あの、エフィルミアさーん……、ちょっと飲み過ぎでは……?」
掛けられた声に振り向けば正座中のナキル。情けない格好に嫉妬を忘れて笑ってしまった。その笑顔に、禊の終わりを予感したナキルが恐る恐るお伺いを立てる。
「あの、オレの飯とか酒は……」
「は?」
許しを得るにはまだ反省が足りなかったようだ。というか、あのペースで飲めば確実にエフィルミアは潰れそうだし、とナキルは肩を落とした。
(まあ、あんなに楽しそうだし……、俺が背負って帰ればいいか。合格したって報告はまた今度だな)
正座反省の図にしては、気合に満ちた目のナキルに、ロイは昔日の自分を思い出し杯を呷った。全てにおいて対等以上に成りたいと願い、研鑽の果てに掴んだ今がある。
(頑張れ、ナキル)
一方、酒を楽しむシルヴィアと江流。口に含めば鼻に香りがつんと抜ける。なるほど、慣れないと強いと思えば、ノイアンが枝豆の皿を前に回してくれた。
「お酒によく合うよ。ありがとう」
「うまいか? それはよかった」
微笑み合う2人にエフィルミアがまた威嚇をしようかと構えたが、2人の関係性を想って手控えた。そんなカップルを肴にテスは酒が旨い。そしてギーゼラは戦闘でもないのにテンションが上がっているようだ。
「フフフフフ、カップルが多くてドゥジンのネタには困らないですねぇ!」
「ああ、ドゥジン神に感謝しないとね……。んん?」
さっきの感覚は間違いではなかった。テスとギーゼラはがっしりと手を取り合う。新作が出来たらぜひ、と言うギーゼラに喜んで、とテス。「ん? ネタが必要なのか?」と諸肌を脱ぎ掛けるロイはだいぶ酔っていた。その酔っ払いの前に、劇物が差し出される。
「帝国焼きをアレンジした帝国焼きサラダバーガー、完成ですわ!」
ハリスに叱られ、トーラに窘められても懲りなかったリリリリスである。が、入手できた食材が足りなかったのか作られたのは僅か。その貴重な皿にうっかり手を伸ばしてしまったルベアは、居合わせたヴァンゲルスに介抱されていた。エフィルミアとの付き合いで危険感知が麻痺してしまったロイも、ためらわずに手を。
「そこまで! またですか。またあなたですかリース!」
べしょ、と自らの料理に顔を突っ込むようにリリリリスを踏み付け、そのまま流れるように床に転がすギーゼラ。大概慣れてしまったのはギーゼラも、周囲で見る面々もで「あー、いつものあれか」「あんたも大変だな」と、動じず流されている。慣れている癖に犠牲者はちょくちょく出るのが不思議ではあったが。今回は水際で食い止められたようだ。ロイ君3秒ルールはその皿には通用しないでよいです。
「ギーゼラちゃんは毎度のお勤めお疲れ。酒だとよろしくないよな、ジュース探してくるから待ってな」
「ドレッシングで、塩気が調節できる。ジュースなら少な目が良いかもしれない。枝豆ならそのままで合う」
立ち上がる江流と、世話を焼くノイアンを微笑まし気に見贈るテス。ノイアンと江流の事を、誠実な仕事仲間だが少し不器用な所もあるとロイが言えば、なるほどと頷いた。
「お酒の良さは、まだ分かりませんけど。僕もいつか皆さんと楽しんでみたいものです」
慣れてきた火酒と枝豆を交互に楽しむシルヴィアにそう言葉を投げる。戻ってきた江流は別の場所でもエルフの知人を見かけたらしく、「しかし、ここのエルフは酒飲みばっかだな」などと口にした。
「エルフも呑むさ! ……まぁ程々にしとくよ」
「ほどほど、か?」
苦笑するロイを、いたずらっぽく見てから「だって、ロイが介抱してくれるんだろ?」とテス。昔は酒に弱かったロイは、「俺がテスを介抱するんだ」と根性を見せて酒に強くなったと聞けば、ギーゼラがにんまり微笑んだ。ナキルはそんな兄貴分の様子をうらやまし気に見ている。
「お、そこの坊主……。無茶言ってきた奴じゃねぇか。また何かやらかしたか?」
「あんたは!」
ドワーフの隊長が、正座のナキルを呆れたように見ている。事情を話がてら、作戦失敗の愚痴を話せば苦笑が返った。
「俺たちにも作戦がある。邪竜の隙をついて近づいて一発ぶち込んでさっさと逃げる……、って作戦に坊主を混ぜる余裕なんざねぇよ」
「あー……。頼まれる側の都合ってのもあるよな」
ドワーフ達もギリギリで戦っていたのだと知り、ナキルは頭をかいてから、心配をかけた相手へ目を向ける。
「エフィは大丈夫なのか? 疲れてるなら寝ててもいいんだぞ」
心配する江流の目の前で、エフィルミアは船をこいでいた。
「もー……、本当馬鹿なんだから……。正座ですよ、正座……」
「夢の中でまで怒らなくてもいいのにな」
苦笑しつつ、ナキルはドワーフ兵に別れを告げる。「あんたも頑張れよ」と声を掛け合い、明日へ向けて歩き出した。
●
「楽しめたか」
「ああ、ありがとう」
ノイアンの言葉に、シルヴィアが頷く。「何か、気がかりでもあるのかい?」と尋ねられると、顔に出ていたのかと困惑しつつ。自分の中では解消したのだ、と伝えた。話に聞く師と言い、シルヴィアの周りにはエルフが多い。その理由や訳は分からないが、もしも気がかりな事があるならばどうしたら良いかは分かっている。
「……まだまだ知らないことばかりだが、これからもっと知っていけたらとおもう」
「私にも、まだ知らないノイアンを教えてくれなくては駄目だよ?」
ノイアンに、シルヴィアは笑って頭を凭せ掛けた。
「……ところで、この場所はいつの間にぐるぐると回るようになったのでしょうか」
「なぁ、モンチョ君ならわかってくれるだろう? こういう場でくらい酔い潰れてしまえばいいのに、と思う私の気持ちも」
ラモンは身体をゆらゆらと揺らしながら定まらぬ視線でへらへら笑っており、ローザリカは空いた皿に向かって話しかけていた。ジュストはまだ正気を保っている物の、別に余裕がある訳でもないので耳に入る言葉を解釈できているのかどうか。
「そろそろ仕舞おうじゃないか。2人とも、部屋までは送っていくよ」
送る所までは何とか意地を見せたいジュストと、何とか酔い潰したいローザリカ、楽しい今が幸せそうなラモン。3人の飲み会はもうしばらく続き、潰れた二人を何とか宿に送り届けたジュストは、自分の部屋に何とか辿り着いたらしいが記憶は定かでない。
「お2人のダンス、いやあ、ゆらゆら揺れたり消えたり分身したり実に楽しそうでした。王国貴族とは実に大したものですなあ」
「待ってくれ。昨夜、俺とロゼが踊っていたのかい?」
「ええ、確かにこの目で見ましたとも!」
「僕がそんな事をするとでも? 何かの間違いじゃないかい?」
翌朝、渋面で頭痛に耐えていた2人は朝食の席で持ち込まれた爆弾に少しならず驚かされる事になるが、それはまた別のお話。
●
「皆さんのお名前を、教えていただけませんか」
最後にそう願ったミアの手元には、あの場にいた虜囚の名を連ねた紙片が在る。そのうち半ば程とは2度と言葉を交わす事はない。
「あなた方の魂が、迷わずに向かうべきところへ辿り着けますように」
祈りの言葉を捧げるミアの隣りで、ロゼットも頭を垂れている。朝日がうっすらと東の空を染め、終わりのない宴もようやく一区切りつこうとしていた。
マスターコメント
イベントシナリオ(50人)普通 報酬:標準50 / 10〜50人
2022年01月09日 16時34分35秒 公開
参加者
イヴェール・アーチボルト
ヨル・スレイマン
コルネリウス・アーラ
- サイラス
エルゼリオ・レイノーラ
ナハシュ
リサ・ベイカー
テス・アウレア
リリリリス
ザザ=ステルヴィナ
ベルク・オスマット
ヴィルヘルミナ
ハリス・アル・ターミル
ルチル・プルメリア・グレイハーツ
レティシア・R・クラティアス
- イェレミース トゥラ リディリディ
ストレガ・L・リベルガストラ
イズレンディル・パラリム
ギャメル
マリイ・パルティス
エフィルミア
サフィラ・アズラク・ヴォルファング
ロイ・アウレア
ギーゼラ
ハヤト=ガラン=ヴォルファング
アルマ・ヴァレンタイン
フェイサル・セイフ
海神 江流
サマエラ=フォリウム
ロゼット
トーラ
ナハティガル=ラー
ナキル
ララノア・グラヌローザ
エヴァン・ピオネロ
ハルハン・ツァガーンナル
ハリーヌ・ヨツユビ
ナタリア・フィッツジェラルド
大福
エル=バ=ノイアン
ルベア・ベルニ
シルヴィア・A・カペル
ヴァンゲルス・ロッド
ミア=リゼル
ジュスト・V・ケレス
だわ
サラ
ラモン
ローザリカ・D・ケレス
- ウィレム
相談掲示板
私(ワタクシ)、リリリリスですわ!!! 【宴会】でお酒が飲める上に 【調理】も楽しめるという事ですわね!これは折角ですから帝国焼き(申請完了したら三段構え)も持参いたしますわね!! あ、ちょっとわき腹が…(うずくまる)…
No.2
サイラスだ、よろしくなー 【慰霊】で、邪竜の慰霊やるわ。他の人の邪魔になる事はない予定だから気にせんでなー。
ハリスと申します。どうぞ宜しく。 私も調理に当たらせて頂きましょう。 つまみといえば肉や魚ばかりになりがちですが、もちろん野菜も摂らねばなりません!
ヒーラーのナタリア・フィッツジェラルドだ。宜しく。 邪竜からの撤退戦にあたっても酒が絡んだのだが、宴でも苦境でも関係なく呑まなきゃやってられん種族なのか?( それはそうと、ここでも医療・薬学を活かして、出来上がったりぶっ倒れた連中の介抱といこう。 胃に優しいものも作るぞ。
情報屋のルチルだ。 ここに第二回マミダ酒飲み大会の開催を宣言する。 以上、よろしく。
ヴァンゲルスだ。酒は良いモンだな。 相席になればそんときゃ宜しく頼む。
ロイ・アウレアです。よろしく! 【宴会】で保存が難しくなったのを中心に頂く予定です。
「ナキルだ!よろしくなっ! 祝勝会と言えば酒だな!美味い飯も食えるなら遠慮なく… つっても、今回の決戦は目論見外れて良いトコなk………(あれ、悪寒が)…。」
ヴィルヘルミナです。よろしくお願いしますね。 私は【調理】に。 砂糖がいっぱいあるみたいですし、皆が皆酒を飲む訳でもないでしょうし。 何かお菓子でも作っていると思います。
ツァガーンナルです! 何か噂されている気もしますが、【宴会】あたりで行動しようかな、と考えています!
No.11
ようやく辿り着きました。 お肉食べ放題会場はここですね? あ、その・・・。 リディリディです。 よ、よろしく・・・、お願いします・・・。 【宴会】に参加したいです。
リサです。 わたしは、【虜囚】にしようかなと。 具体的にはこれから考えます
ロゼットよ。よろしくね。 【虜囚】でお話してくるわ。お酒、頂いていくわね。
ミア=リゼルです。私も、行動自体は別となるかと思いますが、【虜囚】でお話を。 よろしくお願いしますね。
ギーゼラです。よろしくお願いします。 被害者が出ない様にリースを床にしてから宴会を楽しみましょう。 今なら脇腹を狙えばトドメをさせそうです!!
海神江流だよ。 【宴会】の方に参加して知人と飲むかなと。 今回はよろしくね。
シーフのトーラです。 【調理】でお酒の消費を進めようと思います。 …何だか不穏な気配が?
エフィルミアです!よろしくお願いしますっ。 友達と【宴会】に参加します! お酒がいっぱい飲める!やったー!