interlude #122107
ムジカ・トラス
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シナリオID:1169
オープニング
【語らずの智者】エフレム、堕す。
エフレムの大逆無道は、瞬く間にロスガリア大陸に広まっていった。
事実を明らかにしたレイウェスト・バルダス自身が公表したためである。一騎当千の兵であり、レイウェストを支える忠臣であるとされていたエフレムの離脱と裏切りは、帝国兵や帝国の民に対して並々ならぬ衝撃を与えた。
同時に、レイウェストと触れる機会のあった者たちは、それでも帝国奪還を目指さんとするレイウェストの痛みを慮り、表面上は平静を保っている。
他国に目を向けると、もともと帝国に対して支持的であったエラトゥーン都市同盟とゴールディはレイウェスト支持を改めて声明した一方で、リーンエス王国の貴族たちからの風当たりは少しばかり強くなることとなった。『皇帝にならんとしたレイウェスト・バルダスこそがエフレムに命じたのだ』という声も聞かれるものの、想定されるよりも小さく、運用上、大きな問題とはなっていない。
「幸か不幸か、というべきでしょうか。我が国は現在、パンクリアース学園を中心に揉めていますから」
ウィリアム・リーンエスは現在王国に滞在中のため、ヴィントにはメルヴィン・トマス・アーチボルト辺境伯が参じていた。遺憾ながら彼自身、領内に問題を抱えながらの協働である。他国の事情に手をのばすことの難しさは、身にしみて解っている。
「――そうだな。そなたら王党派は、我らに助力していて良いのか?」
王国の内憂に触れたメルヴィンに対して、レイウェストは力なく苦笑を返した。将軍であるバルディオンの姿と、リザードマンの大酋長、アシムベート・グリオウの姿もその傍らにある。バルディオンはどこか張り詰めた気配を漂わせながらも静かに動向を見守っていた。一方で、アシムベートは腕を組みながらも、平静さを欠いているようだった。エフレムとアシムベートの関係性はメルヴィンも知る所だ。帝国の面々と同様に、その心中への負担は計り知れない。
負担をかけてはなるまいな、と。自然とそう思った。
「ええ」
言葉少なに留まった応答に、レイウェストはさらに苦笑を深める。
「……ですが、私も一度、領地に戻らねばなりません。なかなか、儘ならぬものです」
帝国の皇族が他にいないことが、レイウェストの政治的価値を確かなものにしているということだった。
エフレムが抜けたことは、彼が犯した罪や、エフレムと相対するであろう未来を含めても、リーンエス王国の利になるのだろう。
レイウェストには、武力的な支えがなくなったとも言えるのだから、都合はいい。
――エフレムの離脱は、確かな痛手となっていた。
シルトラース帝国にとっても。レイウェストにとっても。
●
レイウェストの心の裡では、未だに感情が吹き荒れている。
怒りが、ある。
帝国を失ったあの日の喪失感と無力感は、帝国のためにという衝動と表裏一体だった。
天霧りに消ゆる幽界樹の召喚をエフレムが成したという事実には、怒りを覚えていた。エフレムさえそれを成さなければ、帝国は――民は深い苦しみを抱くことなかった。エフレムに対して、帝国の破壊を願ったというイダ・バルダスに対しても同様だった。レイウェストの記憶にある母は、平和を願う為人であった。
なのに、と。
不安が、ある。
無力感は、レイウェストにとって親しいものとなっていた。故に、大陸で有数の勇武を有していたエフレムという支えが無くなったことに、レイウェストの裡なる弱さが痛みとして主張している。
ああ。そうとも。レイウェストが問い質さねば、エフレムは自らの所業を明かすことは無かっただろう。そうして、帝国奪還と、復興まで付き添っていたはずだ。
誰よりもエフレムの現状を理解しているからこそ、そう思う。
エフレムは、帝国崩壊よりも以前にこわれてしまっていた。
その後は、イダ・バルダスと、レイウェストの願いを叶えるために存在していたかのようだった。自我は希薄化し、自ら望むものも乏しく、請われたら応じざるを得なくなっていた。
哀惜が、あった。
――エフレムに、罪はあろう。
しかし、と。逆説してしまう。あんなにも空虚になってしまった心を前にして、その胸中を慮ってしまう。
頼っていた。信頼していた。言葉を――心を、交わしていたはずだった。
裏切りが、悲しいわけではない。レイウェストの想いを蔑ろにされたと、無駄だったと徒労を嘆いているわけでもない。
ただひたすらに、ヒトとして欠落してしまったエフレムが、悲しくて仕方がなかった。
為政者としての理性は、レイウェストがたどり着いた真実を黙したまま、エフレムを仕えさせることにも利を見出していた。それが可能だとも判じていた。
――ただ。心が、それを良しとしなかった。
たとえそれが致命的な痛手となろうとも。無力感に苛まれることになろうとも。先行きのない無明の中に、叩き落されることになろうとも。
ひび割れたエフレムを使う道を選ぶことなど、出来なかった。
『心のままに』と告げたエフレムを、私欲で穢すことは、出来なかった。
だからこそ。
レイウェスト・バルダスは、諦めてはいけないのだ。
●
ヴィントは広く、そして、破壊の爪痕は今なお大きく刻まれていた。
おそらくは幽界樹が生えた際の地震による建造物の倒壊や、クリーパーたちによる被害が大きい。拠点として、都市としての運用が可能になるのは、時間がかかるだろう。
ヴァイセントラフ砦や各地の拠点から兵を集めながら、一方でヴィント内部の調査も平行して行っている。糧食などは継続的な輸送が必要な状況でもあり、再建には時間がかかる見込みであった。冬までには、ヴィントを含め周辺都市の調査、平定を完了したい帝国は、冒険者たちを投入しながら、少しでも作業を進めようとしている。
身の回りのことができる程度に回復したレイウェストであったが、バルディオンやサチコら、将軍や長に留められており、それらの進捗を見守るに留めるほかなかった。
バルディオンを伴っているレイウェストのもとに、ドン・ゴーフルがヴィントへと足を運んできたのはそんな折のことであった。
「よゥ、殿下」
「……こんなところまで来て、良いのか」
「俺を狙いてェやつはこんなところまで来ねェよ。俺が此処に居たって役に立つわけじゃねェしな」
「私は反対したのですが」
同道するサチコの言葉に、ドン・ゴーフルは太く笑う。
「言ったろうが。殿下にはコイツの顔見せもしなくちゃなンねぇ。オイ。出てきな」
「――ハイ」
ぬらり、と気配が湧いた。警戒したバルディオンが間に入る中、ドン・ゴーフルの足元の影から、一人のゴブリンが姿を現す。
「初顔合わせだろ、オイ。自己紹介しとけ」
小さく頷いたゴブリン――少年、だろうか――の姿に、レイウェストの胸中を過るものがあった。
茫洋とした視線が、レイウェストに向けられる。
「アダム。ブラックデスで、ゴーフルの護衛。よろシク……」
「……ま、こンなもんか。殿下はしらねェだろうから付け加えるとだな」
「ナリは小せえが、こう見えてこいつァメドゥの指先のもと幹部だ。殿下。アンタも大変だろう? アンタが望むなら、コイツをアンタにつけてやってもいいぜ」
●
奪還を終えたとはいえ、ヴィントは未だ動乱の中にある。
――これは、そんな一日の物語。
解説
マスターより
リプレイ
夏の日差しと、草原から続く風がマレーネ・シェーンベルグの髪をさあと撫でた。ヴィントの外れを、ぽつぽつと歩く女は、崩れ果てた世界に引き出されるように言葉を紡ぐ。
「まあ、なつかしい。……なつ、かしい……」
はた、と。口元に触れた指が、震えている。
氷を差し込まれたような忌避感がその身を覆っていた。ヴィントという街に、しずかな畏れが際限なく湧き上がってくる。胸を抑えたマレーネは、眼前の光景をただただじっと見据え――じきに、震えが消えた。
胸のどこかで感じていた痛みも、また。
「……さようなら、ですわ」
振り切るように、目を瞑った。記憶にはなくても、覚えている。
ああ。善いものでは、なかった。
ならば。消えてしまった思い出を取り戻す必要はない。
「さようなら。なもしらぬひと」
呟くと、目の前に映るのはただの瓦礫の山となる。
女はその場を後にした。ただの一度も、振り返ることはなく。
●
レイウェスト・バルダスの顔に戸惑いが浮かんでいる。眼前にあるのは、予想外の臣下の礼であった。
アルベルト=V=シュタールシュヴェーアトとナハト・シュライバーの二人が、レイウェストに相対する形で膝を折る。
先ず、ナハトが口を開いた。
「僕は、殿下が為したいことを成せるよう尽力したいです。それが、殿下個人が為したいことであっても」
帝国のために研鑽を積んできた、帝国子爵の一子として。旗頭として苦境に立つレイウェストに、言葉と思いを捧げる。
その身は帝国兵ではなく、帝国貴族として立身できる足場もない。けれど、だからこそ。
「どうか、御心のまま恐れずご命じ下さい。俺は他の誰でもなく、貴方の力になりたいのです」
すぐに、アルベルトが続いた。
「殿下。私、アルベルト=V=シュタールシュヴェーアトは一命にかけて殿下を生涯お護りすることを誓います」
顔は上げぬまま、その双眸に煌々たる光を湛え、告げる。
「私は、殿下の為ならどの様な苦労も厭いません。殿下の為なら何でもする覚悟です。何でもお命じになってください」
時が積もる。言葉と想いの熱に打たれたように、レイウェストは瞑目している。やがて、
「そなたらは……」
レイウェストは応じかけて、後方を振り返った。
「アシムベート殿。立会人になってくださるか」
「勿論」
首肯にレイウェストは剣を抜いた。
「そなたらの忠心、たしかに受け取った。略式ではあるが、そなたらを我らが帝国の――」
僅かに言葉を留め――続ける。
「我が剣とし、騎士に任じる。奪還が成った暁には、不肖の身を支えてくれ」
「「はっ」」
異口同音に応じたアルベルトとナハトは、そのまま護衛としてレイウェストに同道することとなった。アシムベートはそんな光景を、興味深げに見つめている。
そこに。
「此方に居られましたか」
ハーフビーストのベルク・オスマットが、小走りに駆けてきた。復興作業の前にと、レイウェストを探していたのだ。
殿下、と告げ、膝を折る。
「北壁が防人の一壁。狐の半獣が一尾、オスマットのベルクにございます」
朗々たる名乗りを受けて、レイウェストは不意に――本当に不意に、望郷の念を覚えていた。
此処にも、シルトラースがある。あったのだと。
「帝国が臣の一人にして牙たるこの身。殿下と皇室への忠を持って、必要とされる折に御身のもとに馳せ参じることを偉大なる首刈帝陛下の名のもとにお誓いいたします」。
「……ありがとう」
ベルクにとっては至極あたりまえの宣誓であったがゆえに、沁みる。
「オスマットの勇武は私も知るところだ。頼りにしているとも、ベルク」
「はっ」
ベルクはそのまま復興の手伝いへと向かう前に、レイウェストは言葉をかける。ベルクだけではない。その場に在る者たちにだ。
「兵たちしか寄る辺はないと思っていたが……もう、違うのだな。感謝するよ」
―・―
トーラの想い人の身に起こったことは、あまりにも重たかった。弱みに付け入るようで――何よりも、その心身が心配で。
だから。普通に声をかけようと。
思っていた。
彼女のことを覚えていたレイウェストに、迷宮都市でのことを謝った上、名乗る。
「レイウェストだ。助力、感謝する」
と差し出された手を握り返しているうちに、緊張が振り切れてしまった。
「あ、あの! ここにはレイウェストさまの力になりたいという人が沢山居ます!」
向けられた顔が眩し過ぎるし握られた手が熱い。
「だっ、だから一人で抱え込んで欲しくないというか、自分を大事にして欲しくて、その、無理は、なさらないで……わ、」
「わ?」
「わ、わわわたしも、お手伝いしますから、お、ソバニ、イ…や、やっぱりいいですー!」
だっと駆けていくハーフリングの少女の背を見送るしかなかったレイウェストは、
「何か、失礼を……してしまっただろうか」
と、呟いた。期せずして同席することになったアシムベートとアルベルト、ナハトは、何かを悟ったような顔で押し黙っていた。
●
「測量、やらないか?」
何故か青いツナギ姿のサフィラ・アズラク・ナハルハルアリーブが、その胸元からチョコを取り出して告げる。
スヴァン=ウォルフ=ユーウェンは――、
―・―
「お前らもチョコか?」
合流した面々に対して開口一番告げたスヴァンに対し、リディリディ・トゥラ・イェレミースとギャメルとルベア・ベルニの三者三様の視線が返る。
何を言っているんだこいつは? という無言の疑念は、じきに「スヴァンの言うことだしな」と霧消した。
「話には聞いていたけど……実際に目にするとちょっときついものがあるわね」
「ああ……ここを歩く機会など一生ないだろうと思っていたんだが、こんな形になるとはな」
無人の廃都を前にしたルベアの言に、スヴァンの呟きが足元へと落ちた。
―・―
「よし! これも壊すぞ!」
「はい……」
地図と建物両方に印をつけて回っていたギャメルに続いて、リディリディが魔法を放つ。廃墟のなかでも倒壊寸前のものや再利用が困難なものを破壊しているのだ。やり取りの軽妙さに比して重い破壊の音が響く。
「こちらの地図で×がついている場所も破壊してもらえる?」
ルベアの呼びかけに二人が応じるのを確認して眼前の土地に向き直る。此処までの経路や、破壊したあとの瓦礫を退けた後、どのぐらいのスペースが確保できるかを測量して地図に反映する作業がある。もらった地図が正確とも限らず、ここでの測量はできるだけ正確にしておきたかった。
今後のことを思えば、できるだけ大きなスペースを確保できるほうがいいかもしれない。
皇子や将校が目にするはずの資料で、復興の助けになることはルベアにだって解っていた。
眼前の光景には、彼女の裡にも疼くものがある。必死の思いで取り返した土地がこんな有様だった。そしてそれは、これからも続くに違いないもので。
「……これで皇子の心労が少しでも和らげばいいんだけど、ね」
一日でも早く復興を成すための手助けだ。手を抜くつもりは、無かった。
―・―
「ドン・ゴーフルは話が解る奴だ」
「何の話?」
「俺のチョコを絶賛していた。あれほど喜ぶ奴は珍しい」
「そっか~」
通りすがりのアダム(達)にチョコを上げた時のことを話しながらも、測量を続けるスヴァンとサフィラ。
「地形自体に大きな変化はなさそうだねっ。ダンジョンの水が海水じゃなかったら、生活用水も手に入れやすかったんだろうけどねー」
「そうだな。建物も……まあ、補修はしやすいものも少なくないな」
建物はボロボロなものが多い中、幸い大通りの多くは比較的マシだった。二人は知識と技能を総動員して、効率的に確認作業を進めていく。
ふと。スヴァンが手を止めた。朽ちた光景を茫洋と眺めながら、
「サフィラ」
と、名を呼んだ。
「んっ? にゃににゃに~?」
振り返ったサフィラを見やるでもなく、告げた。
「伝えたいことがあるなら、伝えておけ」
「……」
瞠目するサフィラを横目に続ける。
「いつまでも相手が傍にいるとは限らないぞ」
それが、誰を指してのことか分からないわけもなかった。
「……にゃ、つい『エルフの感覚』で物事考えちゃうから」
所在なげに襟足を指に絡ませるサフィラの横顔には、苦笑。
「いつか居なくなると分かってても。先延ばしにしちゃうんだよね」
「誰でも同じだ」
「ほ?」
「エルフだろうが、ヒューマンだろうが、ゴブリンだろうが、関係ない。誰だって同じだ」
「――にゃは。そうかな。……そうかも」
自分よりもずっと年下なはずのハーフビーストの言葉に、自然と笑みがこぼれた。
●
アウレーリア・フォン・ネーベルベルクとナタリア・フィッツジェラルドは兵舎移設先の候補を探していた。ヴィントは今後、最重要拠点となる。破壊されたこの街での活動の中で活動を続けることになる兵士たちと、殿下の住環境を改善し、兵士たちの士気を高めたいという狙いもあった。
――それほどに、事態は残酷に過ぎる。アウレーリアが忸怩たる思いを抱くには十分なほどに。これほどの破壊。これだけの別離を、自身が信を置いていたものが為したとすれば、と。傍らで伴を務めるナタリアを見やり、思う。皇子の胸中は、察するに余りあった。
だからこそ、彼女たち崩れるわけにはいかないとも言える。
「宿場街ね。……使えるものを見繕いましょう。建物が無理でも、調度品が使えるなら用は足せるわ」
「ああ」
応じたナタリアの声には、翳りがあった。粉塵に汚れた建物は、この地を蹂躙した災禍を如実にあらわしている。
「目処が立てば兵を呼びましょう。じゃあ、私はあちらに」
アウレーリアはそう言ってナタリアと分かれると、視線を巡らせた。
「……語らずの智者。その真意は、どこにあったのだろうな」
ぽつりと独語するナタリアの言葉が、背を打つ。アウレーリアは言葉を返せなかった。飲み込みきれていないのは、彼女も同じだった。
きっと、問い続けることになるだろうな、と。そんなことを思いながら、廃墟へと足を踏み入れていく。
頭を振ったナタリアもまた、衛生面での働きを果たそうと歩を進めた。
―・―
「これは……酷いですね」
ヴィントに用意された兵たちの居住区を確認したガルシアの直截な意見に、海神・江流は苦笑した。交通や運輸の便利を考慮したうえでの再利用なのだろう。質は二の次らしいとひと目でわかる。
ガルシアはまず水をいれた瓶を持ち出して、床の平衡度合いを図っている。傍らにはいくつかの目方が記された紐がある。そういった細かな見立ては江流にはない技術だった。そちらはガルシアに任せ、江流は兵舎を見て回る。
「風通しが良いのは好都合かな」
「その分、やることは多そうです。底板から細工が要る部屋も多いですし……寝具周りだけは、優先して対応したいですね」
「了解」
そこから二、三打ち合わせをした上で、江流とガルシアは二手に分かれた。
資材を集めてきた江流は、既に作業に取り掛かっているガルシアの手元を見る。これから床板の作業に入るらしい。帝国の冬に備えるとなると他にも手がいりそうだが、今は風通しを重視することに異論はない。
「平衡を確認したいので、手伝ってもらえますか?」
「勿論」
床板の調整を終えるとその後は早かった。柱を入れて、その支えを整える。天幕をかければ完成だ。軽く息をついたガルシアの目にとまったのは、いくつもの木細工だった。床板作業の際の端材だろう。
「海神様、そちらは……?」
「帝国とかヴィント、部隊章……とかだね。適当に見かけたものを作ってるんだけど」
そういって紐を回して、部屋の入り口に一つ吊りかける。
「廃墟ばかりだと、気が滅入るだろう。此処がちゃんと帝国で、第一歩がたしかに刻まれたと実感できるといいな……とね」
郷愁の想いは、彼とて理解していた。だからこそ、今彼らが感じているであろう痛みが少しでも和らげば――と、心を尽くして、細工を作るのだった。
アウレーリアとナタリアが確保してきた寝具(と新たな兵舎候補)に加え、ガルシアたちの居住区の改装は兵たちに深く感謝されたが、この細工もまた、兵士たちに非常に好評を博すこととなった。
―・―
トゥーリが申し出たリヤカーの拠出は帝国兵たちから非常に物悲しげな目で固辞された。
冒険者たちの要請には可能な限り答えたいが、この茫漠な瓦礫の処理にこそ荷台が必要だった。水や食材を携え、現地で調理を可能とするために大量の「炊事用リヤカー」を量産するには物がなく、また都市内での運搬要項があまりに多い現状では受け入れられなかったのだ。
「それならそれで、やりようはある……んですが…・…」
ならば、と、廃材を利用してのリヤカーの量産に取り組む。もともと、トゥーリとしても再利用可能な形で組むつもりだったので、水瓶や食料品用のスペース、調理用の簡単な台座と火を焚べるスペースを後付できるように分離しておくことで、両用可能な形で仕上げることとする。実際、その申し出は非常に喜ばれた。
しかし。
「やることが多いですね……!」
廃屋を周り、木材を集め、製材し、それを組み上げ、テストする。水瓶や細かな台座周りを組もうと思うとなかなか手が回らない。
サイラスが現れたのは、そんな時のことだった。
「これも使う?」
サイラスがリヤカーに積んだ手頃そうな木材を見て、トゥーリは思わず喝采をあげてしまった。
建材として石材や、再利用可能そうな家事道具などを中心に回収していたサイラスであったが、適当に余っていた木材の引き受け手が出来て、サイラスとしても望ましいところだった。サイラス自身は兵士たちにも手伝って貰っており余裕もあったので、これぞ両得というものだ。
ガラガラと荷台を押しながら、思う。
「オカアサマ、ねえ」
どんなヒトだろうな、と。
事実として能力を有し、志もあったであろうエフレムを壊したのがイダ・バルダスであったのであれば。
一体、どういう人物であればそれが可能だったのだろうな、とぼんやりと。
「ま。会えばわかるかな?」
そう言いながら、サイラスは次の廃屋へと向かっていった。
●
セロンガード・シュタインドルフと、ティトの二人は額に汗を流しながら働いていた。
目的に適いそうな大型な建物を絞るところまではよかった。ところどころの補修も、まだなんとかなった。
セロンガードが苦心したのは、温泉そのものの作成だった。
雨風を凌げる場所があるなら、次は風呂だと取り組んだが、それだけの水回りの仕組みを整えることは苦労した。石材を集めて泥と合わせて貯水槽を作る段からは兵たちにも手伝ってもらっての大仕事である。協力が得られたことは、兵たちの期待の現れとも言えよう。
ティトも、励んでくれている。この真夏日の中、火を起こして湯加減の調整をしていた。サーマルアイで確認しながら、どのぐらいの加減であれば適温になるか。沸かした湯と普通の湯を混ぜる具合を調整しながら、ティトたちがいない状態でも運用できるように工夫している。汗だくだが、直向きに取り組んでくれているティトの横顔に何ともなく目を奪われていると、
「……嬉しい、ね。セロン」
「な、何がですか?」
「たくさん、手伝ってくれてる、よ?」
「――そうですね」
今、自分たちに出来るかぎりのことをと思ったとき、思いついたのが風呂作りだった。心身のメンテナンスは、兵たちの励みになると。
「……こうして、尽くしてもらえるのは、嬉しいですね」
誰に向けるでもなく、呟いた。その言葉を、傍らの少女はどう受け止めたか。
「うん。ティトも……嬉しい、な」
とても穏やかに、笑ったのだった。
二人は沸かした湯を浴槽へと流し始める。
別ルートで流れる水とまじり、適温になるのを確認してほっとするティトを他所に、兵たちの間から喜びの喝采が上がる。水は生活魔法ができるものが合間合間に貯水していく方針らしい。
こうしてヴィントの兵たちの憩いの場として、湯場ができた。決して大きいものでは無いが、精神的な拠り所の一つとして、活用されることとなる。
●
瓦礫が特に多く、通行上も重要ではない。そんな場所を墓地としたいというテス・クラルスをはじめとした冒険者たちの提案は問題なく受け入れられた。いつかヴィントが復興した時に閑静な場所であるようにという意図も汲み取られた結果である。
死者のためでもあり、今を生きる生者のための領域を形つくる。両者のための、安息の場所を用意したい。
茫漠な被害の爪痕に、テスの心は確かに乱れていた。その心を、鎮めるためでもあった。
そんな中、一人の少女が穴の中に身を下ろす。ひと一人を埋めるのにちょうど良い空間に収まりながら、エーテルを練り上げる。傍らには相棒たる狼――コルデラを連れ、魔弓を引く。
「行きます……!」
土壁に向かい、気勢と共に放ったのは、流星射。全力の一射に、マリイの前方、100メートルの土がめくれ上がる。
「で、できましたか……?」
土砂を浴びる形になってしまったが、それ以上にエーテルの奔流により満身創痍となったマリイを、コルデラが支える。
「こんなやり方があったんですのね……」
と感嘆して呟くネーヴェ・グラヌローザに、一同から苦笑がこぼれた。
マリイには休憩して貰っている間に、他の面々――テス、ネーヴェの他、ロイ・アウレアやアルマ・ヴァレンタインらは穴の周囲を整地を行った。その後、一同は各地へと散っていった。遺品や遺体を探しに往ったのだ。
不衛生区域に足を踏み入れたアルマは、既に乾燥した遺体――遺骨に近いものが多かった――を運び、クリーパーの遺骸が残っていればそれも運び出す。
――一年も経っているもんね。
密室でもなければ、遺体が変質するには十分な時間だった。一方で、腐敗の過程で害獣が増えてきたのであろう区域も目につく。このあたりは後で整備と管理の提案がいるかな、と心に留めておく。
眼前、合流したネーヴェが麻袋を抱えていることに気づく。
「それは……?」
「ご遺体の近くにあった遺品……です。どんな方だったか、解るかもしれないと思いましたので」
ネーヴェは、一つひとつを整理して括って麻袋に入れていた。あとで軍に持ち込んで、遺品管理に役立ててもらおうとしていたのだった。
二人が戻ると、ヴィントの外から木材を回収してきたロイが、大穴に木材を組み入れていた。
100メートルにも及ぶ大穴を埋める木材を用意するのは困難だったため、段階的に準備をすすめている。それでも、結構な作業量だったとみえ、ロイの額には汗が浮いていた。片端のルプスも舌を垂らして、主の作業を見守っている。
ロイはついと、アルマとネーヴェが並べる遺体を確認した。
――ほとんどが骨ばかり、か。
マリイらはまだ戻っていないが、おそらく同じような状況だろうと考え、用意した木材を検める。もう少し枠組みを小さくしたほうがよいかもしれない。
できることならば、一人ひとり弔いたかった。今後利用する兵士たちのためにも、備蓄として用意しておこうと決めた。
―・―
一人ひとり、丁寧に埋葬を終えると、テスは持ってきた大樹の木芽を墓地の一角に植えた。
テスは、その芽の浅い緑を目にした時、心に落ちた嘆きが僅かに薄まった気がした。
「――穏やかなエーテルと、ならんことを」
テスの祈りに引き出されるように、一人、また一人と祈りを捧げる。アルマは聖印を手に跪く。雨風に晒されていた彼らの無念を思い、自ら埋葬した彼らの姿を思い浮かべながら、呟いた。
「今はただ、安らかに……」
「どうか、安らかに……エーテルとして還りますよう」
ネーヴェもまた、同様に祈りを捧げた。手に、彼ら一人ひとりを拭き清めた感触が残っている。また、ネーヴェが回収した遺品を軍に届けたところ大層喜ばれたことも少女の心に響いていた。
そういう思いが、断たれた場所なのだと思った。
――師を、見つけることができるでしょうか。
祈りを捧げつつ、マリイは思う。コルデラと二人で探し回った街は、どこも崩れきっていて。マリイ自身が体験した別離やこの崩壊が、誰かの手によるものだと聞いた。その痛みと、再会への不安は綯い交ぜになり、彼女自身も結論をだせなくなっている。
けれど。
「……いつか、石碑を作りたいですね。彼らの証になるようなものを」
生まれたマリイの呟きに、誰ともなく頷きを返していた。
「これが……墓地、か」
彼らの背に、声が落ちた。冒険者たちを伴った、レイウェストの声であった。
ヴィントの中でも、此処は僻地である。噂を聞きつけて、足を運んだのかもしれない。
「ありがとう。……きっと、兵たちも喜ぶだろう。ヴィントに縁がある者たちが多かったから」
「殿下――」
レイウェストの声に、ロイとテスが膝を折って応じていた。
「殿下のお心と思いに沿いたい者は大勢おります。私どもも、そうです。決して独りにさせません。ですから、ご無理はなさらぬように」
「……ありがとう」
レイウェストは応じつ、墓地へと足を踏み入れ、膝を折る。
「私も、祈らせてもらっても良いかな」
「もちろんです」
祈りの句が、新たに生まれた墓地へと染み込んでゆく――。
●
黙々と復興作業に従事していたエル=バ=ノイアンは、シルヴィア・A・カペルに声をかけられた。近くにレイウェスト殿下がいるらしいよ、と。そうして向かった先では、祈りを捧げたレイウェストが立ち去るところだった。
「もう良いのか?」
「ノイアンは相変わらず、直截だね」
シルヴィアは優美な礼を一つ。そうして、レイウェストとアシムベートに向き直る。
「二人とも、エフレムの事好きだよね」
と、シルヴィアが言うと、レイウェストは苦笑を返した。
「ああ……そうだな。だが、アシムベート殿は」
「――」
煮え切らぬものがあるらしいと、ひと目で解る顔つきであった。
エフレムは、レイウェストを通じて母を見ていたのだろうか。だとしても、それだけでは解せないとシルヴィアは思う。だから、だろうか。自身の裡に宿るものが微かに揺れていた。
「君達が彼を追いかけるのであれば……帝国を奪還するのであれば、必ず何時かまた出会うことになるよ。その時、彼の心を掬い上げると良い。君達なら出来ると信じている」
レイウェストは遠くを見た。帝都へと続く空を。
「その時までに、探さなくてはならないな」
声には、何れ来る別離への覚悟があった。その上で、知らねばならないと告げたのだと解る。
「俺にはあんた達の事情は解らないが」
ノイアンの目には、二人は同根のように見えた。
「一人は楽だ。だが……人が強く生きられるのは、何かを信じることができるゆえ……と思う」
男はレイウェストだけでなく、シルヴィアにも視線を巡らせた。ノイアンはこれまで痛みを覚えるような人間関係など無縁だった。だが、眼前には己にはないものが当たり前のように息づいている。
「だから、信じてやれ。自分と、自分の大切な存在を」
ノイアン自身、どの口でとも思うが。言うべきだと思ったのだ。対してレイウェストは寂寞とした笑みを零した。
「ああ。……信じているとも」
●
イデアの胸中に、不意に落ちるものがあった。
「エフレム様は――ああ、なるほど。そうでしたか」
壊れていたというエフレムは、それでも忠節の中で動いていた。罅割れながらも、エフレムとレイウェストの進んだ後には確かな轍があった。そのことが、イデアの壊れた心に響いている。
「……久々に、心が揺らいだ気がします」
魔術を紡ぐ。奔るエーテルの光が、眼前、イヴェール・イリュジオンが引きつけるクリーパーの側面を撃つ。不意打ちに体勢を崩したところに、更に兵たちが殺到する。そのさまを茫と眺めながら、思う。壊れてしまった誰かでも。確かに残せるものがある。
エフレムが去った今、傷ついているものたちがいることが、それを逆説していた。
――ならば。少しだけ。
少しだけ、人生を紡いでもいいのかもしれない、と。そう思った。
―・―
――動きは、悪くないですね。
イデアの援護もあったが、非授恵者の兵士たちの攻勢は目を見張るものがあった。同道している兵たちは、精兵ではあるのだろう。一方で、戦闘が終わって廃墟を往く姿は精彩を欠いている。これでは前衛が抜けたあとが怖い。
「私とて、彼の離脱に思うところはあります」
ぽつりと言うと、兵たちの足が止まった。
「許されるものではないでしょう。ですが、何の大義があって民を苦しめたのか、知るためには前に進むしか無いでしょう」
イヴェールは一人ひとりを見渡しながら、告げる。
「貴方達の主は傷つき一度は倒れもしました。それでも前を向いて歩いています。割り切れるものではないでしょうが、あなた達が今すべき事は下を向く事ではないのでは?」
「……」
皇子の名は、何よりも重く響く手応えがあった。
今は、いい。だが、復興は今日一日では成らないのだ。
「奮起を!」
「「応!」」
イヴェールの叱咤に、確かな熱が返る。兵たちの力ある声に、イヴェールに断り――勿論、その由が無いことは解ってもいるのだが――もなく帰った誰かへの溜飲も、少しだけ下がったような気がした。
少しだけ、ではあるが。
―・―
「――ふう」
「おつかれさまです。前衛、ありがとうございます」
ヴィルヘルミナの吐息に、リサ・ベイカーが応じた。
自身を強化したヴィルヘルミナが前衛に立つ形で、リサと二人で協働して都市の最外部の探索を進めていた。
小型ではあるがクリーパーの戦闘が立て続けとなっており、未介入地域であるということが伺えた。
「このあたりの破壊具合は、特に酷いですね」
リサの見立てでは最外部のほうが被害が大きく見えた。大動脈ともいうべき大通りから外れたあたりでは、もともと民家などが密集していたのだろう。崩落は連鎖したと見え、入り組んだ建物たちは被害をさらに増悪させていたように見受けられる。
――下町の復興は時間がかかりそうですね。
商売人の感覚としては、天秤は損の方へと傾いている。それだけに、ここの評価自体は早期に完了しておくことが望ましい。
けれど、その前に。
周囲を警戒しているヴィルヘルミナを見やり、言葉を投げる。
「心配ですか?」
「え?」
「いえ、皇太子さまです。彼を気にしておられるようだったので」
「まあ……縁がありましたから」
涼し気な横顔に微かに朱が差しているように見えたのは、リサの気のせいかもしれない。微かに笑みを浮かべたリサは、周囲を見渡しながらこう結んだ。
「この一帯はもう少しで精査できますから、それが終われば休憩しましょうか」
●
レイウェストはヴィント内を歩きながら回想に耽っていた。
白い仮面を被った、一人の冒険者の問いである。
―・―
『グロムレイの平原帝国は征竜に滅ぼされ、バルダスのシルトラースも一人のリザードマンに滅ぼされた。君はどう考える、バルダスの裔』
『ここまで帝国が潰されなければならない理由とは』
―・―
レイウェストは、逡巡の後、こう答えた。
『征竜の心は、解らない。エフレムも帝国憎しと破壊したわけではない。帝国が幾度も破壊の対象となったことに理由があるのかは――これも、解らない』
グレイブは鷹揚に頷くと、
『彼は貴方を生き残らせた。それだけは変わらない純粋な事実です』
と、告げた。その言葉には同意をしつつも――回顧しているのは、帝国が崩壊した理由への問いであった。
国を滅ぼす手段を有していた個と竜。
何らかの一片が此処に眠っているという予感があったが――此のことは暫しの間、課題として思索の種となった。
レイウェストとて、気になっていたのだ。
エフレムは、こわれたのか。こわされたのか。
それを知らずに――レイウェストは、エフレムを裁いても良いのだろうか、と。
●
これが、帝国奪還の光景か。呟いて、フリックは首を振る。
「……しっかりしろ、オレ」
フリックが優先的に回った地域は害獣が多く、匂いも酷い。見れば、下水道が崩落していた。そこから湧いた獣たちにとって、地上には食べ物があって困らなかったのだろうか。
――クリーパーが下水道に入り込んでたら手間だな。
後で報告をと胸に留めつつ、目についた遺体――骨ばかりである――を回収していく。その手付きには、確かな労りがあった。いつか此処に来る兵士たちにとって、ヴィントの死者は澱となってしまうだろう。その時のために――あるいは、自分自身のためにも、丁寧に亡骸を弔っていく。
つと、背後から声がした。
「おや、先客か」
白い髪を結い上げたギド・フェルミである。
「……弔いか」
「ああ。そっちもか?」
「そんなところだね」
言いつつ、ギドはフリックが探っていた遺体の周囲で身の証になりそうなものを回収していく。
「遺品か?」
「ああ……兵士たちが、とても喜んでたんでね」
ギドが想起するのはヴァイセントラフの兵たちの姿である。未調査区域でギド・フェルミが掘り当てた遺品や私物は、ヴィントに縁のあるものが多かったヴァイセントラフ砦の面々にとって、本当に価値があるものだった。しかし、兵士たちには他に優先すべきものがあったため、そこまで手が回せなかったのだ。
――そして、今後もないだろうと告げた兵士たちの姿が、目に焼きついている。
やれることをやろうと思っていたギドだったが、あまりに大きな感情のうねりを目の当たりにした。時間の限り務めようかと思う程度には、印象強く残っている。
「そうか」
ギドの言葉と表情から経緯を察したフリックは渋い表情のまま、こう言った。
「オレからも、礼を言うよ」
「はは、ありがとう」
●
仮に精神が壊れていたとしても、エフレムはレイウェストを重んじていたはずだ。ゲルトは、そう思う。エフレムは窮地に陥った皇子を救うために尽力していたのは、確かだったからだ。ゲルト自身も、その助けとなった。
一方で。
「――元々メドゥの指先だった奴がドンの部下? 一体どんなものを使ったんだ?」
こちらは、どうだろうか。
何らかの毒か――はたまた術か。奇しくも、授恵者である皇子を侵し、殺し得る毒を見たばかりだ。
こちらもまた、こわれたのか……?
ゲルトの視線の先。折よくギャメルがドンたちに話しかけようとしていた。
―・―
「もうアダムと仲良しなのか。ドンは相手の心を開く達人だな!」
キラキラな笑顔で言うギャメルは、アダムに対して向き直ると、
「ゴールディの生活にゃなれたか?」
「普通」
oh……と呻いたギャメルはごそごそとビスケットを取り出した。
「んじゃ、これどーぞ! 色々有ったけど水に流そうな!」
ビスケットをアダムに手渡しつつ――ちょっとだけ、いたずらな心の虫が働いた。触れた手に、軽い気持ちでエンパシーを通わせる。
――それが、過ちだった。
ドンへの忠誠以外何も、返ってこない。
「……!」
慌てて、ドンを見る。笑みが返った。バレている――と背筋が凍った、そこに。
「ドン・ゴーフル、少々お話よろしいでしょうか?」
視線に怒気を滲ませたギーゼラが、詰め寄っていた。助かった――と安堵するギャメルを他所に、ギーゼラは言い募る。
「貴方は何を考えて敵の元幹部を殿下の側に置こうと思っているのですか?」
「ハン。二心はねェよ。だいたい、殿下にだって駒がねェンだ。コイツは結構ヤるぜ?」
「だからこそ、です。殿下を失ったら、帝国はお終いなのですよ?」
「俺だってそう思ってるさ」
ドンの様子に、ギーゼラは赫怒の息を吐いた。
「……貴方は信用ならない。ゴブリンの利ばかりを考えている貴方の息がかかったものを、殿下の側に置くことなど、帝国民としてできません」
「ハ。狂った忠犬は嫌いじゃねェが――」
片頬を釣り上げるように笑ったドンは、
「コイツは俺達にゃ逆らわねェよ。なんなら、土産に此処で殺してもいい」
「ええ。ええ。そうですね――」
売り言葉に買い言葉、か。ギーゼラが応じようとしたところに、
「ちょっと待て!」
ハヤト=ガラン=ヴォルファングが割って入った。
異常事態に、団員であるスィーリーンのことが気がかりで静観しているうちに、事態がヒートアップしていた。
「その辺にしとけ。懸念は皇子に伝えようぜ」
「あの人は……甘そうですから」
言い募るギーゼラには十割賛成できたハヤトだったが、視線を切る。
「あんだけアンタを憎んでたアダムを手懐けるなんざいったい何をしたんだ?」
「素直なもんだろ?」
どう考えてもまっとうな手段じゃないが、答える気もないらしい。視線をアダムへと転じる。
「俺の事覚えてるか。えらい改心ぶりじゃねぇか。一体何が――」
「間違ってた。ドンは、ゴブリンのこと、考えてる。お前も、従うべき」
「……おい」
変節ぶりに、悍けが勝った。
――これが、ドンの能力か?
武力を持たないドンは、かわりに意思疎通を可能としていた。これが、その一端だとするならば。
「……そうかよ」
今、深追いは厳禁か。視線を感じたハヤトはゲルトを見やるが首を振られた。この段階では、怪しい素振りは無いらしい。ハヤトはドンに視線を合わせ、不満げに零す。
「いつか、事情を聞かせろよ」
「おゥ、気が向けばな」
とことん答える気がない様子であった。商売上良くないとしても、舌打ちを零してしまったことくらいは許してほしい。
●
「土俵!!」「土俵だ!!」「廻しとってこい! 急げ!」
兵たちの熱狂を目に、コルネリウス・アーラは微笑を浮かべた。残念ながら、イズレンディル・パラリムの魔法では氷を用意できなかったが、とても喜んでいる。それだけでも、甲斐があったというものだ。聞けば、寒中に限らなくとも奉納相撲はあるらしい。
通りがかりの兵や、休憩中のゴールディの面々が喝采に引き寄せられて来たところに、
「少し身体を動かしてみませんか」
とコルネリウスは声を掛けていく。既に土俵を囲むように人だかりができており、肌や体毛の成分が多く見えた。
「随分と集まりましたね……お手伝いありがとうございます!」
イズレンディルの声に、コルネリウスは華やかな笑みを浮かべた。
「少しでもお力になれれば嬉しいです」
「皆さんを想う気持ちは、同じですからね。私たちなりに出来る事をしましょう」
「……ええ。私なりに皆さんを元気づけられるよう、頑張ります」
コルネリウスと言葉と視線を交わすイズレンディルは、廻しを締めていた。その上に羽織ったローブと肌色の眩さに、コルネリウスの頬が少しだけ、赤く染まる。
土俵へと向かうイズレンディルの背に、言葉を添えた。
「……勝利を、信じてます」
―・―
ぐいと廻しの位置を正す姿は古兵の如し。しかして美しい肌は陽光に映える。
イズレンディルの眼前では、ハーフビーストの兵士が四股を踏む。
『強兵こそが国を作る、そうですね。さて、帝国の強兵とはエフレムさんだけでしょうか』
急所を踏み抜くイズレンディルの言葉に、対戦相手のみならず、居並ぶ兵たちにも火がついたようだった。立ち会いに臨む土俵を取り巻くように濛々と覇気が満ちる。単なる息抜きに、道筋がたった手応えがあった。
――仕掛けは上々、ですが。
頑然たる気配のなか、イズレンディル自身も刺激を受けているのも事実で。
今日、この取り組みを行ってよかったと思いつつ迎えた――、
「ノコッタ!」
立ち会い一発目。イズレンディルのタイダルストリームが対戦相手を吹き飛ばした。
――この日、イズレンディルは立ち会いの呪い師の称号を得ることとなる。
●
エミリア・シバとララノアが用意した休憩所には、多くの兵たちが詰め寄っていた。休憩を挟まないと効率が落ちる――という考えのもとであったが、結果的に質の高い休憩所が提供されている。
「ふふ。だいぶお尻に根が生えちゃったみたいね」
やんわりとエミリアが告げると、相手の兵士は恥ずかしげに笑った。しばらく名残惜しそうにしていたが、最終的には
「気が晴れたよ。ありがとう」
と言って、その場を後にした。エミリアは先程聞き出した愚痴や懸念などを胸中で整理する。先行きの見えない不安や、広大な廃墟と化しているヴィントによる精神的負担は大きいようだった。対応は難しいかもしれないが、資本が入れば変わるところかもしれない。帝国上層部への具申――というには大げさかもしれないが、指標にはなるだろう。
そうして、ララノアが用意した茶を一口味わう。鼻腔に満ちる香りと、舌に残る甘みが心地よい。あちらはどうだろうかと見やると、給仕をしているララノアは、テーブルへとカップを並べながらたどたどしく口を開いていた。
「私、一生懸命にお茶を淹れましで……ひととき、安らいで頂けたら……」
トレーで顔を隠す少女の言葉には、直向きさがあった。
「今皆様が……暗い顔をしていれば……支えてくれた人々も悲しくなってしまいまし……」
その言葉を聞いていた兵士のなかで、表情を強張らせる者もいた。
――少女は、俯くなと告げていた。
「目の前のできる事を……一つ一つ。ずっと……しょ、そうしてきたのではございませんでしか?」
言葉は、杭のようだった。
「目的があるのなら……進むのみでしゅ……そうでございましょう?」
それでも彼らは兵士だった。沁み入る茶と言葉を、静かに飲み込むための時間も用意されていた。
どこまでも、少女の言う通りだったのだ。
●
淡い香りが、大気を満たす。ざぶざぶと水音が揺れる中、腕まくりをしたアンネエルカが大量の洗濯物と向き合っていた。
「心のお洗濯ってよく言うでしょう?」
シーツ。隊服。包帯に掃除用品。数多に及ぶ洗濯物を一気に集め、授恵者の体力と膂力でガツガツもみ洗う。照れくさそうな兵士たちの視線はなんのその。洗濯槽の汚れた水をざあっと流し、新しい水に入れ替える。
「アンネ……ははっ、鼻んとこに泡ついてんぞ」
洗濯物を籠にいれて運んできたアーシェル・G・クラインは、アンネエルカの鼻先を撫で拭う。
「……うう、失敗失敗」
「頑張ってる証だ。疲れてないか?」
「大丈夫、元気いっぱい頑張るわ! ……皆の様子は、どう?」
元気いっぱいな様子のアンネエルカが、最後だけは表情を曇らせてアーシェルに尋ねる。兵たちとやり取りをする彼は苦笑して答える。
「表向きは、大丈夫そうだ」
「そう……」
ざぶ、ざぶと。洗濯の音が響く。洗い終えたものを干すアーシェルは、白白と輝く布を眺めながら、エフレムの件に思いを馳せる。
絆は、あったのだろう。だが、それだけだったとも思わない。
「……自分の心に嘘をついてしまったら、大好きなお友達の顔を見上げることが出来なくなってしまうわ」
同じことを、考えていたのだろう彼女のことを、アーシェルは眩しげに見つめた。
「大切なものを手放さないでいられるように。後悔のないように貫き通せたらいいなって思うのよ。私も……皆も」
そんな直向きな妹は、仮にそこが茨の道であろうとも、恐れることはないのだろう。
――アンネ、俺は何があろうと絶対にお前の味方だ。
傷つくこともあろう。けれども、その道をともに進むことを誓う。それが地獄だろうとも。共に、と。
尤も、そんなことを起こさせるつもりも、無いのだが。
「……それでこそ天下無敵のアンネだな」
「もう!」
アーシェルの微笑と稚気に、アンネエルカの可愛らしい文句の声が響いた。
●
「アンタはよくやっていると思うよ」
ルチル・プルメリア・グレイハーツの言葉には、常にない情感が籠もっていた。ことの重大さを認識している彼女だからこそ、レイウェストの決断と現状には感嘆を抱いている。
「エフレムがいなくなったとて……皇子、アンタは客人だ。手は尽くさせてもらうよ。アンタも此処で止まるつもりは無いんだろう?」
「ああ。……止まるわけには、いかぬからな」
「その意気だ。エフレムの裏切りは、単なる内々の事情とも思い難い。……アタイのほうでも、調べてみるよ」
「……助かる」
そうして、ルチルはアシムベートを見やる。「フィラムのことだけど」と、二三言葉をかわしていると、
「殿下ァ!!」
駆け寄るハリス・アル・ターミルに、ルチルは苦笑を零した。相手は皇族なのに、相変わらずだと。
「農用地の候補を調べて来ましたが……やはり、簡単ではなさそうですな」
「厳しい冬が地力を奪う。麦や芋が辛うじて、といったところだからな……やらないわけにもいかないが、苦労はあろうな」
レイウェストの応答に、ハリスの目が光る。
(この皇族、話せるのでは……?)
「……ええ。事実、土地は痩せております。転作に輪作、大量の肥料の準備……工夫は必要でしょうな。できれば早めに、家畜も集めたい。無いものばかりですが――」
しかし! と、拳を握りしめる。
「必ずや難民達が飢えず、怯えずして暮らせる場所にしましょう! 今できるのは荒れ果てた地を耕すことだけ。ですがそれすら行わねば実りは確実に無くなります」
たとえ、どれだけ辛かろうと。
――現状を匂わせる言葉に、レイウェストが頷きを返そうとしたとき。
歌声が、響いた。
―・―
声の主は、リディリディだった。
遠くにレイウェストを眺めた少女は、澄んだ歌声を紡ぐ。
草原を舞台にした騎兵の歌だ。愛馬との日々と、別れを描く歌。
彼女の家庭教師が、過去に教えてくれたもののひとつだった。
長音を基調とした優しい旋律は、彼女の声音によく馴染む。
――関わらない方が……良いでしょうし……あの、別に元気づけるつもりはないのですが……。
ただ、歌いたくなった。人前で歌うことなど、滅多にしないのだが。
ルチルと話しているレイウェストの目が、あまりに寂しそうで。
できることを思った時、それが、この地の歌だった。
―・―
「知らなければならない。例えどんなに我々にとって受け入れ難い事でも……」
歌声を聞きながら、ルチルは不意に呟いていた。
「ルチル殿……?」
「いや、気にしないでくれ」
張り詰めた様を見下ろしながら、ハリスは嘆息した。他ならぬルチルの懸念に、この様子だ。ハリスには及びもつかぬことに取り組もうとしているのだろう。
「止めることはできますまい。……どうか、無理だけはなさらぬよう」
差し出口とは思いつつも、不安はあった。そんなハリスの言葉に、ルチルは表情を伺わせぬまま笑みを零した。
「……ハ。アタイは勝手にやってるんで、アンタも好きにやりな」
●
負傷兵たちの間を周りながらヨル・スレイマンは彼らに落ちる影を思う。
――エフレムが、ねえ。
壊れたのであれば、殺してあげればよかっただろうに。そう思いもするのだが。
けれど……ヨルは、見てしまった。立ち寄った皇子の顔を。
『あの、無理はしないでね。ちゃんと寝て。……諦めない限り、君は一人では無い、から』
思わずそう告げて、逃げ出してしまった。
ヨルの生い立ちは、貴人との付き合いを受け入れ難いものとしていた。その彼が――そう言わずにはいられなかった。
苦しんでいた。痛みを、抱えていた。
「同じだった」
同じ、だった。
そのことを知ってしまったヨルは、どうすべきだろうか。答えはまだ、見つからない。
今は、と。負傷した兵たちの間を周りながら、一人ひとり、治療を施していく。
「……小さな怪我も化膿するとまずいし、病は怖いよ。神威届かないからね」
そうしている間は、この動揺が晴れる気がしたのだ。
―・―
サマエラ=フォリウムが帝国兵たちに食事の提供をしていた。ロモズ兵団の隊員たちに聴取したうえで、馴染みの料理として夏は乳製品が多いと聞き、料った品を並べている。
野外の会場には、濃厚なチーズの香りの中に、淹れた茶の匂いが立つ。そんな中を、ノックス・マグナが奏でる弦独奏曲が彩っていた。奏でるのは、草原の民の耳に馴染む、望郷の歌だった。故郷を離れ遠くを旅する騎手が、夜毎に紡いだ詩歌に因む。低音で基音を弾むように奏でながら旋律を進めていくノックスの技量はたしかなものがあった。ホールでもない居住区が、奏楽堂のように感じられるほどだ。
その音に引き出されるように、帝国兵士たちの表情に翳りが生まれた。
――その様に、サマエラ自身の心が動いた。
「大変なことがあった、信じ難いこと、嘆くに値することがあった」
呟きは。
「何を信じるべきか、不安に苛まれる日々もあろう、だからこそ言う」
強く、
「ヴィント奪還は、成った」
――耳を打ち。
「何が起きようとも、変わらない――この地は、取り戻されたのだ。意味はあるのだ、これまでにも、これからにも。ならば振り返るのは、まだまだ先で良いと……私は、思う」
心を、優しく押し開いた。ノックスの奏でる音がサマエラの言葉を包み込むなか、兵たちの胸中はかき乱されていた。
彼らが目にするヴィントの光景は、いつだって苦さを伴う。本当に救うことが出来たとは、思えなかった。
けれどここは、たしかに帝国なのだ。気づけば兵士は、澎湃と涙を零していた。
レティシア・レインフィールが俯きがちに呆然としている兵の元に赴き、言葉を投げた。
「よろしければ、お話くらいなら聞けますよ」
此の地は、彼女にとっても縁のある土地だ。少しでも助けになるのならば、力を尽くすことに否やはない。
一人、一人と。兵たちの胸中を解きほぐす手助けをするのだった。
アウレーリアは彼らの様子を眺めながら、頃合いと見え、一人ずつ声を掛けていく。
「……どうかしら。手伝ってほしいことがあるの」
ナタリアを伴ったアウレーリアは、目的としていた兵舎周りの作業が一段落していたところで、ある準備を進めていた。
アウレーリアの視線の先、ナタリアが抱える壺には、いくつもの花が咲いていた。また、彼女が生活魔法で用意した水もある。
「花壇や庭園を、作りましょう」
「共に、な」
ナタリアが、言葉を継ぐ。彼らの道行きに、ささやかな彩りを添えられるように、という配慮はーー快く、受け入れられることとなった。
●
氣が乱れている。そう告げたGP教の僧侶が、何やら儀式を行うらしい。
そうして、レイウェストを始めとして、人々が集められた。物珍しさから休憩中の兵たちもやってくる。
開けた土地の中心には短い笹が突き立てられており、紐を通して絵パンダが吊るされている。風が、カラカラと絵パンダを揺らす。
ハッタ・ムラムラは瞑目しつつ、何事かを呟いている。
ーーまずは、この土地そのものの流れを整える必要があるだろう。
呪文を区切ったハッタは、レイウェストらに向き直ると、恭しく礼をする。
「ここに安鎮の結界を敷き、ジャイアントパンダ神の加護を与えよう」
「……うむ」
若干の動揺を滲ませ、物問いたげなレイウェストを無視して広場に向き直ったハッタは、塩を一つまみしてぺろりと舐める。
しょっぱい。
続いて、水を掬ってぺろりと舐める。少ししょっぱい。もう一度舐めた。よし。
中庸だ。
「かーーーーーーーーーーーーっ!」
凄まじい大音声があたりに響く。一見すると、何も起こらなかった。
ただ、さあっと風が流れ、静寂が落ちる。
中庸だった。
そのまま、何ともなくお開きとなった。
―・―
スィーリーンはレイウェストの眼前へと歩み出た。
「殿下、この時期にこの様な事を伺う無礼をお許し下さい」
切々とした声が彼女の胸中を表すかのように揺れる。
「エフレム様は何をしに、帝都のどこに向かったのでしょうか。お心当たりはありませんか?」
エフレムを信じていた。だからこその問いで、
「こわれたとしても、元通りではなくとも、治せるかも知れません。エフレム様にこれ以上罪を重ねてほしくないのです。私は、」
言葉で、
「エフレム様を追いたいです」
――願いだった。言葉に籠められた万感を、レイウェストは固く目を瞑って受け止める。
「……今は、追ってはならぬ」
「殿下――」
「私とて追いたいとも。だが、追いついたとて問うことしか出来ぬ。問うだけで、エフレムに……何を、してやれる」
「……」
「私こそ、そなたに頼みたい。帝都にはエフレムが居よう。あえてエフレムが向かったのだ。そこには、母上も居るかもしれない。私は……その時にこそ、答えが要ると思う。そのためにも、エフレムがこわれてしまった……本当の理由を、知っておきたい」
レイウェストはスィーリーンの手を取り、視線を交わした。
「共に往こう。スィーリーン。そなたにも、答えを探してほしい」
―・―
スィーリーンと言葉をかわすレイウェストを眺めながら、ヴィルヘルミナは胸中で呟いた。
――少しからかって、肩の力を抜いてもらうつもりでしたが……。
雰囲気的にはやめておいたほうが良さそうだ。以前皇子に膝枕をキメた手前ではあるが、それはさておき皇子はもう少し甘えることを覚えたほうが良いのではないか、とも思う。張り詰めた糸は、いつか切れる。
――弱音を吐ける相手でも、いればいいのですけどね。
傍ら、リサの意味ありげな視線には気づかないフリをして、そっと息をつく。
―・―
キーゼは、そんな様子を茫と眺めて、杯を傾ける。チーズをつまみに、酒を嘗め、居並ぶ兵たちやレイウェストらを伺っている。兵たちの士気は万全とはいい難いが、底はついたのだろう。冒険者たちの仕事ぶりに乾杯といこう。
――帝国奪還の第一歩の後に残ったのは、操者の消えた操り人形が一体……さて、今度は誰がその糸を持つのでしょうね。
同盟か。はたまた。彼方から伸びるモノか。
今後の動向次第では、人形の立場も変わり得る。眼前の光景は、見るものによって評価は変わる。エフレムを切った潔癖を受け入れる指し手が、果たしてどの程度いるだろうか。
それにしたって一つの絵図に過ぎない。帝国崩壊の真相はどうあれ、現状は大陸を巻き込んでの権力ゲームだ。
「かくして、哀れな亡国の皇子は全てを奪われ捨てられました。めでたしめでたし……にならないといいですね」
鍵は、何故帝国が滅びることになったのかにこそ、あるのだろう。そこに、皇子の主張の余地はない。
キーゼは美徳を嘗めながら、杯を掲げる。視線の先で、レティシアがレイウェストらの前で礼をしていた。
「お初にお目にかかります、殿下。私はレティシア・レインフィールと申します……大酋長様も、ご無沙汰しております」
丁寧なレティシアの立ち居振る舞いに、レイウェストは目礼で応じた。対して、アシムベートには些かの動揺が見える。
「よろしければ、こちらをと……」
「これは――」
彼女が差し出したのは、黒地の手巾。花薄雪草の刺繍を施したものだった。
「その、今月は殿下の誕生日であると伺いましたので……殿下が生まれ、今此処に居て下さる事に、心から感謝を
お誕生日、おめでとう存じます」
「誕生日……」
目をしばたたかせたレイウェストは、微かな笑みを零した。刺繍をしばし見つめたのち、目を閉じる。
「そうか。私の誕生日……だったか」
次いで、レイウェストはレティシアへと微笑を落とした。それまでの影が抜けた、年相応の姿で――最後に、こう結んだ。
「ありがとう。大事にするよ」
●
征歴1227年7月。
ヴィント奪還を成し遂げたレイウェストらを支える冒険者たちの働きぶりは特筆すべきものがあった。
未だ物も足りず、人も足りず。
しかし、ヴィントを帝国奪還に向けた足がかりとするための弾みがついたのは明らかであった。
――シルトラース帝国が新たな転機を迎えるまで、暫し。
マスターコメント
イベントシナリオ(50人)易しい 報酬:標準50 / 4〜50人
2021年07月28日 19時28分27秒 公開
参加者
トゥーリ
ハッタ・ムラムラ
イヴェール・アーチボルト
ヨル・スレイマン
コルネリウス・アーラ
アンネエルカ
- サイラス
アルベルト・V・シュタールシュヴェーアト
スィーリーン
リサ・ベイカー
テス・アウレア
ベルク・オスマット
ヴィルヘルミナ
ハリス・アル・ターミル
ルチル・プルメリア・グレイハーツ
レティシア・R・クラティアス
- イェレミース トゥラ リディリディ
グレイブ・ヤード
ギド・フェルミ
イズレンディル・パラリム
ノックス・マグナ
ギャメル
マリイ・パルティス
サフィラ・アズラク・ヴォルファング
ロイ・アウレア
ギーゼラ
ハヤト=ガラン=ヴォルファング
アルマ・ヴァレンタイン
ゲルト
海神 江流
サマエラ=フォリウム
- キーゼ
トーラ
セロンガード・シュタインドルフ
アーシェル・G・クライン
ララノア・グラヌローザ
マレーネ・シェーンベルグ
ナハト・シュライバー
エミリア・シバ
ネーヴェ・グラヌローザ
ガルシア
ティト
アウレーリア・フォン・ネーベルベルク
ナタリア・フィッツジェラルド
- スヴァン=ウォルフ=ユーウェン
エル=バ=ノイアン
ルベア・ベルニ
シルヴィア・A・カペル
- イデア
フリック
相談掲示板
ギャメルだ! よろしくな。 オレは建物調査でウロチョロしてるぜ。 インクとペン持っていて、入口付近の目立つ場所に再利用可能な建物は〇、危険な建物には×を書いていこうと思ってる。 ドン・ゴーフルを見かけたら挨拶しねぇとな。 しっかし、敵だったアダムを自分の護衛にするなんて、ドンのカリスマはさすがだぜ!
ハッタだ、世話になる。
ヒーラーのギーゼラです。 僕はドン・ゴーフルをきつぅく叱りに行こうかと思います。 エルレム様が居なくなった殿下に、力のある護衛が必要なのはわかりますが 何故そこで出てくるのが元メドゥの指先のアダムなのか! そんな危険人物を殿下のお傍に置こうなんて、ふざけないでください!! ドン・ゴフールは、殿下の側近にゴブリンを置く事で ゴブリンの地位向上を図りたいのでしょうが、何かあったらどうするつもりなんでしょうか? 殿下のお傍に置くなら帝国の信頼出来る兵から選出するのが良いでしょう。
ウォーリアのアルベルト=V=シュタールシュヴェーアトだ。 よろしくな。 俺は、レイウェスト殿下の護衛をする予定だ。
ヒーラーのリサ・ベイカーです。 わたしは…そうですね、ヴィントの現状の見取図を作成しつつ、 クリーパーや敵性亜人が居ないか、 居たら排除をしたいと思っています。 が、わたし一人じゃ攻撃力に心許ないので、同行して頂けるかた募集中です。
エルフのイズレンディル・パラリムと申します。 帝国兵の士気の低下に対して何かできないかなと思っております。 とはいえエフレムさんが抜けた影響は言葉程度で埋まるものではなく…… あれこれと悩んだのですが、エフレムさん以上に影響が大きい、帝国の原点ともいえる象徴に改めて目を向けて頂く事が良いかと思いました。 帝国の象徴と言えばクジンリーネ帝。 クジンリーネ帝に纏わる催しといえば、私が知るのは帝に捧げるSUMOのみ。 …若干何を言っているのかと自分でも思うのですが、はい。SUMOをやりましょう。 ひとまずレイウェストさんに実施の許可を頂いて、言い出した責任として私も参加しますね。 もし良ければ、どなたか一緒にされませんか?
No.7
キャスター、イデアと申します 私は不衛生区域……の遺体の処理や清掃手伝い、 (居れば)クリーパーなど敵性存在の排除などをしようかと考えております
にゃ!サフィラだよっ! まだ何するか決めてないけど、カルケル集落群復興でもやった測量でもしよっかな?
ロイ・アウレアです。 『各種遺体など不衛生区域の存在』に向かいます。 兵や一般人の遺体を集め遺品整理と荼毘、敵も埋葬したい。 同行してくれる方が居ればタグを作ろうと思うのでお知らせください。
テス・クラルスです ロイと共に埋葬をしようと思うよ 衛生は大事だし、何より野ざらしというのは心が痛む 墓地を設けたいな
ネーヴェ・グラヌローザと申します。 ロイ様、テス様、宜しければ私も御同行させて頂きとう御座います。 きっと人手が必要に御座いましょうから。
コルネリウスです、宜しくお願いします。 身体を動かしたり、気持ちを前に向けるためにも士気上げは必要だと思いますので、SUMOなどのお手伝いが出来たらと思っています。
No.13
サイラスだ、よろしくなー とりあえず建物関係行くわ。瓦礫撤去とかあるし
ハリスと申します、どうぞ宜しく。 ――エフレム殿の一件は本人並びに帝国と関わりのない私ですら苦しい所。 帝国臣民並びにレイウェスト殿下、兄であるアシムベート殿のご心痛は如何ばかりか。 過酷な最前線にある兵士の方々の士気が落ちるのも無理からぬ事と思われます。 ……しかしそれでも、何もせず立ち止まれば枯れ果てるばかりです。 私はヴィントが将来的に自活可能なだけの下地を作れるよう、農地復興のための視察や 新たな候補地などを見繕いましょう。残存するクリーパーの排除も平行致します。
アルマだよ、どーぞよろしくねー。 不衛生区域をどうにかしようかなと思ってるよ 各種っていうから人間以外(魔獣とかクリーパー?)のもあるってことなのかな? タグもあったら参加させてねー
ネーヴェさん、申し出ありがとうございます。 ―― 【弔】 兵・一般人の遺体を集め遺品整理と荼毘、墓標を建て クリーパー等の遺骸は別場所で燃やし衛生状態を改善 ―― タグと内容はこう言う形で考えてます。 イデアさんも宜しければご利用ください。 他の同じ目的の方も、利用して下されば字数が少し節約できると思いますのでどうぞ。 アルマさん、タグあるよー
シルヴィアだ。今回はよろしくね。 ……大切な人がいなくなると、辛い。アシムベートとレイウェストを励ませたらと思う。具体的な言葉は考え中だけどね。
スィーリーンと申します。 よろしくお願いします。
ヴィルヘルミナです。よろしくお願いします。 色々あったみたいですね。本当に。 >リサさん 宜しければ私が同行しましょうか?
ロイさん【弔】タグどうもありがとー! ありがたく使わせてもらうねー
No.21
リディリディです。 その・・・、今回はよろしくお願いします。 私は・・・、再利用可能な建物調査に回ろうかと思います。
マリイと申します。よろしくお願いします。 私も亡くなった方の埋葬を手伝えたらなと思っておりましたので、【弔】に参加させていただいてもよろしいでしょうか?
ルベアよ、宜しく。 行動は建物関係、かな。 再利用可能な……建物もそうだけど、 瓦礫を撤去することで使えそうな土地がないかとかも調査してみるつもり。
マリィさん是非に参加ください。一緒に犠牲者の冥福を祈りましょう。 アルマさん、ヨロシクー。
はっ!ヴィルさん、ありがとうございますー ぜひよろしくお願いします!
アウレーリアです。宜しく。 埋葬の方は手が足りていそうなので、私は生きている人の対応をしましょう。 住環境をどうにかしないと、身体を休めることも出来ないもの……。
>ルベアっち、ギャメルん、リディ にゃ!もし良かったら測量に同行してくれないかなっ! 地図を借りて使える建物をメモしながら ヴィントの復興計画案をまとめてみよっかなって考えてるのっ!
情報屋のルチルだ。よろしく。 ヴィント奪還は成ったが一難去ってまた一難、って所か。 気になる事は多々あるがエフレムの離脱による波及が最も気がかりかね。 レイウェスト、とその横に居るであろうアシムベートと話すつもりだ。 後は士気向上辺りで考えているよ。
スヴァンだ、よろしく頼む。 後始末にエフレムの離脱に問題は山積みだな…… サフィラの測量に同行しつつ、後は士気向上について考えている。
おーっす! ブレイブファング傭兵団のハヤト=ヴォルファングだ、よろしくな!! エフレムが大災害を巻き起こした張本人だってのは驚いたが… 本人がいねぇことにはぶっ飛ばす事も出来ねぇしな… 俺はドンがどんな手を使ってアダムを飼い慣らしたのか気になるんでドンとアダムあたりを中心に話しを聞いてみるつもりだぜ。
アダム、本当にどうしちまったんだろうな。 エーテルの力で心を覗くのは身勝手かとは思うけど、様子をうかがいながらエンパシー使ってみるか……。 >サフィラ 声かけてくれてサンキュー! 情報はまとめたり管理してこそ他の人も使いやすくなるもんな。サフィラやスヴァンと協力できるなら、オレ一人でやるより良さげ!! ただオレ、ドンやアダムとも接触したいと思ってるんで、ちょいと薄めの行動になってもOKなら参加できるぜ。 問題なけりゃ、後でグループのタグとか教えてくれ。よろしくなー!
ロイ、タグをありがとう! ネーヴェさん、アルマさん、マリイさん 同道感謝だよ、一緒に頑張ろうね!
No.33
>サフィラさん 測量ですね。 は、はい。役に立てるかはわかりませんが・・・。 その・・・、よ、よろしくお願いします。
にゃ!測量に参加(or同行)してくれる子は タグ【測量】を書いて参加してねっ! >ギャメルん、リディ 借りれたら二人にもヴィントの地図を渡すから、使用可能な建物を書き込んでくれるとありがたいかなっ! もし、手が空いてたら魔法で崩れそうな建物をドカーン!と解体して貰えると手間が省けるかなぁ?
アーシェルだ。よろしく頼む。 ……殿下とエフレムの絆は断ち切れていないと信じたい。 それが綺麗なだけじゃなくても……な。 アンネと一緒に兵士達の居住空間の改善に当たろうと思ってる。 シンプルに洗濯とか、可能なら簡易の風呂(大きなタライ等)を用意したりだな。
>サフィラさん 声がけありがとう。【測量】に参加させてもらうわね。
ノックスです。よろしくお願いします。 私は帝国の曲を演奏することで兵士達の慰撫をしようと思います。
《各種遺体など不衛生区域の存在》での 遺体の供養で、荼毘としましたが 何名かから宗教的に土葬が良いかもとご提案を頂いたのと 個人観点で資材不足=火葬燃料不足も考えられるので下記のようにタグを変更しました。 出発当日の変更で申し訳ありませんが、ご了承いただけると幸いです。 ――― タグ【弔】 兵・一般人の遺体を集め遺品整理と荼毘、墓標を建て クリーパー等の遺骸は別場所で燃やし衛生状態を改善 宗教等で土葬も検討
>ルベアっち にゃ!ルベアっちも参加者ありがと! っとタグの詳細貼っとくねっ! 【測量】 帝国軍より以下を拝借 ・ヴィントの地図の写し(複数)→参加者に配布 ・測量の道具 測量の情報、再利用可能な建物 地形の変化、空地を地図にメモ 再開発の資料として編纂
遅くなったが、ナタリア・フィッツジェラルドだ。 建造物が必要最低限という程度なら、それに伴う健康被害を憂慮し、肉体面のケアをしに来た。
ロイさん、テスさん。ありがとうございます。 他の皆さんもよろしくお願いしますね。精一杯頑張ります(ふんす