【学乱】派閥に背を向けた舞踏会
紀藤トキ
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シナリオID:906
オープニング
「夜会当番だと? 私が?」
「はい。どうかお引き受け願えませんか」
パンクリアース学園では、貴族の子が学内の舞踏会場を借りて夜会の真似事をする事がある。会場が使える夜は限られているので、誰の名で主催するかは親の地位や学生自身の名声などが絡む可能性すらあった。少なくとも全く希望していないトマスにいきなり役が降ってくるようなものではない筈だ。おそらくはどこかの貴族のごり押しだろう。それを知っているのか、平民出の生徒は泣きそうな顔をしていた。
「面倒だな……、とはいえこうまで先に根回しされていると、断りようもあるまい」
「ありがとうございます!」
伝達に来た生徒にとりあえず言伝を返し、トマスは自分の取り巻き達を呼び出した。すなわちチー家の次男タイコモと、平民のシオンとカナン、いずれも授恵者でそこそこ優秀な四年生だ。派閥などと言うにもおこがましいが、彼が信頼できるのはこの面々までだった。
「というわけだ。とても面倒なことになった」
「そうですね……。書類も提出済みとか、依頼じゃなく事後承諾ですよ、これ」
「踊れと言われたら踊りますが、できれば寝て過ごしたいです」
「でも料理は食べたい」
頭を悩ます男性陣と、能天気なことを言う女性陣。模擬夜会はあくまで模擬で、飲食の準備はだいたい学園職員か学生がしているし、ダンスの時間にはプロの演奏の代わりに紋具が曲を奏でる。いわば学園でのみ通じるおままごとだ。しかし、そこでの振る舞いは大人の社会の縮図となる。招待客をどのようにさばいていくのか。席次や呼び出し順、控室の手配をどうするのか。誰から挨拶を受けるのか。誰に挨拶をするのか。それによって自家と他家の距離感が明らかになる。これはトマスに対してそろそろ立ち位置を明らかにせよという露骨な圧力だった。
「はぁ……。とりあえず無難にやり過ごせるよう頑張りましょうか。招待するのはダンテ家と似た家格から両派閥の数家づつ……」
「急に呼べるような伝はないぞ」
「私が何とかします」
学内で孤高を貫くには伯爵家と言うのはいささか立ち位置が弱い。四人の中で渉外担当のタイコモはそう判断した。こういう事もあろうかと、できる従者役の彼はそれなりに周囲に繋ぎを取っている。
「私達は給仕役をすればいいですか」
「私は裏方でもいい」
平民の2人はとりあえず表舞台から逃げ出した。しかし まわり込まれてしまった!
「そんな余裕はない。裏方の仕切りは最悪、学園のスタッフに代行を依頼する。お前たちは当日はドレス着用だ」
「私達が他家の女性をエスコートすればそれだけで派閥入りを噂されますからね。それは避けたいんですよ」
「下手をすればそれを機に婚約話だの持ち込まれかねん。冗談ではないぞ」
女子2人をまったく色気のない理由で引き止めつつ、男子2人はああでもないこうでもないと相談を進める。伯爵であるダンテ家に恥とならない程度のもてなしをしつつ、準備には他家の力を借りるわけには行かない。とても面倒な状況だった。奮闘する男性陣を見つつ、今ならば面倒な状況をどうにかする方法があるじゃないか、と平民のシオンは思う。
「冒険者……じゃなかった、聴講生の皆さんに頼んだらどうでしょうか」
「……その手があったか」
シオンがそう言うと、トマスはほっと息を吐いた。そういえば、今の学内にはどこの家の紐づきでもない者がそこそこの数いるのだった。派閥に取り込まれたくなければ、派閥に属さない者の力を借りればいい。簡単な……いや、実行するときにはそれほど簡単ではないかもしれないが、理屈の上では簡単っぽい話だった。
「いっそ招待するのも聴講生だけにしたらいい。楽」
「いやあ、さすがにそういう訳には……。ん? いかなくもない、か?」
カナンのざっくりした提案に、タイコモが考え込む。まともな夜会と言うのは招待状を送る段からその家の力量を問われるが、しょせんは学内でやる遊びの夜会だ。難しい事を考えずに、学校行事として考えれば。
「トマス様。貴族の社交場ではなく、オリエンテーリングと思えばいいんじゃないでしょうか。聴講生向けの」
「なるほど。派閥の垣根を無視するよりも、最初から無い状況を作れればその方が良いか」
まあ、聴講生に門戸を開いた時点で貴族派の中の強硬派は嫌な顔をするだろうが、それで王党派と見なすわけではないだろう。不偏不党でいることができるうちは、トマスはどちらに与そうとも思わない。
「スタッフも併せて募集しよう。裏方の方が、楽。楽なのは大事」
「確かに。そうしましょう、トマス様」
男性以上に社交などしたくない平民女性陣の押しにより、招待客以外に裏方として当日お手伝いも募集することになった。まあ、準備を手伝って、その後夜会に参加するのも自由だ。
「……だいぶ話が変わってしまいましたが、大丈夫ですかね」
「普通の夜会を期待する向きにはやりづらいかもしれんがな。嫌ならば来なければいい」
「なるほど」
そういう訳で。冒険者ギルド経由でダンテ家の主催するパンクリアース学園模擬夜会の手伝いと参加を求める依頼が出るのであった。
解説
マスターより
リプレイ
「ふむ……。造花が悪いとは言わないが、手を掛けられるならば生花が良かろう」
会場へ足を踏み入れたハッタ・ムラムラは、テーブルの上や壁際などに配された造花に思う所があったようだ。
「本式の舞踏会と言う訳ではないからな。学園の係りの者もそう多くない故、仕方がない」
そう答えるのは今日の依頼主のダンテ伯子トマス。貴族らしい貴族ではあるが、冒険者に幾度か接した経験からか、あまり礼儀に煩くはないらしい。
「これまでは手が足りなかったのだな。だが、今日はおれがいる。任せておくがいい」
溢れんばかりの自信は、ジャイアントパンダ教の祭祀で様々な場を整えてきた経験からか。今の季節に手に入る花を聞き、頭の中で色合いを計算していく。色彩といえば、舞踏会を彩るべきもう一つの華についても準備が必要だった。衣装室にも準備を手伝う冒険者たちが向かっている。
「本日はこのような機会を作って頂き、ありがとうございます」
「先日はお世話になりました」
リサ・ベイカーとゲルダ・クラインが丁寧に挨拶をすると、トマスは少し微妙そうな顔をする。
「手伝いを依頼しているのはこちらだ。我々にそうかしこまる事は無いのだが、気を張っておくのは悪くないな」
今日は給仕役としてやってきたのだと聞くと、成程と頷いた。今日は頼む、とだけ残して去っていった後を目で追いつつ、お互いトマスと知り合いだったことに驚く。
「リサちゃん、入学してから困ったことはない? 最近、少し雰囲気がおかしいから……」
「おかしな空気はあるわね。でも、ゲルダちゃんが学園にいるから心強いの」
にこやかに言うリサに、ゲルダはほっと息をつく。年上だけど下級生な彼女が楽しく過ごせていればよいな、と思った。さておき、今日の仕事の準備に取り掛かろう。
「給仕の方の服に決まりはあるの?」
「貸し出されるのは揃いの服のようです。サイズは揃っているから私とリサちゃんでも困らないと思います」
お揃いにちょっとうきうきしつつ、衣装室へと2人は向かう。
「ドレスを持ち込む方もおられるのですね。貸し出し希望の方には、私の作品もぜひ使って欲しい物ですが……」
衣装室では、自ら手掛けた衣装を数点持ち込んだマリイ・パルティスが考え込んでいた。帝国時代に師に習った裁縫の腕は鈍っていないが、それだけに並んでいる貸し出し用の衣装の質は良く分かる。係の職員がマリイのドレスを受け取りながらにっこり笑った。
「新品のご提供は喜ばれますよ。ここにあるのはOBOGが御結婚前に着ていた衣装がほとんどですからね」
「なるほど……、道理で良い物がある訳ですね」
手前に並ぶのは少し前のデザインでこそあるが、どれも一級品だ。奥の方にあるもの程古びている。貴族の顔を潰したくない平民は古い方を選ぶのだとか。マリイとしては一世一代の晴れ舞台だからこそ、そういった事に関係なく自分が好きな物を選んで欲しい。その一助になれるならば本望だった。
「こっ、このお衣装、僕が触っていいのかなっ!?」
特に知識がある訳ではないが、綺麗なものを好んで目にしてきたエリオン・ザ・スターシーカーの目は肥えている。彼から見ても、マリイの手になる色彩豊かなドレスは他の衣装に劣らず魅力的なようだ。が、冒険者たちが今宵の装束に選ぶのは、ドレスや礼服だけではない。
「似合うかな?」
「うん。とっても。ふふ、お揃いだね?」
「そうだね。あ、もちろんエルも可愛いよ」
そんな初々しいやり取りで頬を染めるハル・チフとエルシー・サリバンは、周囲からほんわかした視線を送られている。ハルはまかりなりにも貴族家の出なので給仕服が似合わないかと思ったようだが、メイド服姿のエルシーと並ぶと偉ぶった気配など欠片もない。かわいい新人召使の雰囲気だった。
―・―
「貴族の夜会か。貴族はチョコ慣れしているだろうが、それに呼ばれた者達はどうだか知らんからな」
サマエラが手伝いに訪れた厨房では、先客のスヴァン=ウォルフ=ユーウェンがそう呟いていた。自前のバーテン風の衣装は整った容姿と合わせれば全く舞台負けしていない。知る人ぞ知るチョコフリークの彼の今日の目的は、チョコ普及活動だ。
「ふむ。私もカカオにも最近縁があったことだしな……」
「なるほど、チョコケーキか。これを使うと良い」
「助かる」
腕まくりをすると、サマエラはチョコレートケーキの制作に取り掛かった。主な材料は厨房にあるし、上質のチョコレートはスヴァンがさっと用意した。阿吽の呼吸の冒険者を見て、軽食を用意していた女性職員が不思議そうに尋ねる。
「どうしてチョコレートを? 確かに最近入手が容易にはなりましたが……」
「俺がチョコの素晴らしさを語るとすぐには終わらないが、……一晩つきあうか?」
「……チョコレートはただ甘く華やかなだけではない。舞踏会には陰謀や策略、隠れた苦さもある。それを表現するには良いだろう?」
「はっ! なるほど、確かにそうですね」
スヴァンの色っぽい流し目にノンケの職員もぐらっと来たようだが、サマエラの言葉に職務を思い出したらしい。慌てて手元に注意を戻した。
―・―
「問題をおこしそうな参加者はいないようですね」
参加予定者の名簿を見ていたイヴェール・イリュジオンは、安堵の声を漏らす。今宵、手を取りたいと思う相手がいないので彼女自身は踊る気はないが、望んで踊る者達の幸せを邪魔する要素はない方が良い。同様に下準備をしていたチー家子息のタイコモが意を得たりと笑った。
「まあ、ダンテ家より上の家格の連中は、得体のしれない条件の場所に顔を出す気にはならないでしょうから……」
貴族同士の顔合わせは話しかける順番から服装からルールが決まっているものだ。身分差を無視した今回の模擬夜会の趣向は、いわば異種格闘技戦。その場のルールに適応できずに恥をかかされることを懸念すれば、上位貴族はそもそも足を運ばないだろう。
「例えはどうかと思いますが、理由は分かりました」
同様の理由で、イヴェールが危惧していた反対勢力の妨害も、見てわかる形ではまず起きない筈だ、とタイコモは言う。
「実のある貴族は名を重視するので、家名が落ちるような嫌がらせはしませんよ」
「名誉こそ大事ですか。……そうでしょうね」
喧嘩別れした家族を思い浮かべれば、貴族がどれほど名誉に固執するかは分かろうという物だ。没落し田舎の農家となってなお、彼らはイリュジオン家の名を上げることを第一の目的にしている。それこそ、手段を選ばず実を得ようとすれば商売でも冒険者でも手はあるであろうに。
「あ、タイコモさん。相談があるんですけど」
と、横から尋ねに来たエルゼリオ・レイノーラはれっきとした男性なのだが、ちょっと綺麗な服に興味がある。しかも女性物が似合う容姿なので興が乗れば女装もためらわない。最初はトマスに尋ねに行ったがたらいまわしにされたらしい彼の願いはあっさり叶った。
「メイド服、ボクも着ていいって~」
「あ、似合いそう。いいね!」
傍から見ると女性同士で着付けしてるようにも見えるが。エリオンも男性だ。給仕は踊る人たちほど整える必要がないので、袖を通したらすぐ、持ち場へ案内される。エルゼリオはイヴェールから受付名簿と注意事項を確認し、厨房側でスヴァンからチョコ系のメニュー説明を受けた。
「チョコ以外は?」
「知らないな」
「あ、私が説明いたします」
在学生で頼りになるゲルダがフォローして準備万端。
「私はこのまま食事の準備を手伝うつもりだ。貸し出し服を覚えて、似合う物を薦める役は任せたい」
「もちろん。任せてよ!」
後から着付けの手伝いに入る予定のサマエラ=フォリウムが言う。エリオンはドンと胸を叩いて見せた。
●
舞踏会の出席者は大きく分けて、衣装を持ち込む者と借りる者がいる。着付けや化粧は会場で完成させても良いし、来た時のままでも見苦しくなければ問題は無い。と、この段階でトラブルが一つ。
「え、僕は着付けの手伝いをしようと思ったんだけど……」
「男性は女性の肌をみだりに見てはいけません」
勤続40年程のベテランメイドが女性向けの服をまとったエリオンの性別を見破った。「そうかあ、エルフとは違うんだね」などと言っているが、エルフの間でも駄目なものは駄目。コルセットを締めて見たかったのに、とドレスの構造に興味津々だったエリオンはがっかりしつつ男性の衣装室へ。
「いや、男性向けの着付けの人少ないからね! 助かる」
と、大歓迎されるのであった。ハッタを手伝い、最後は総出で花飾りを整えていく。気の早い参加者はボチボチ会場入りしているようだ。
「そろそろ時間だわ。それじゃリサ、悪いけどここ、お願いするわ」
「いってらっしゃい。楽しみにしてるわね」
空いた時間で準備を手伝っていたロゼットだが、本番では演奏に回る予定だ。立ち去る級友を、リサは手を振り見送った。
―・―
「いらっしゃいませ、ご案内します」
到着したテス・クラルスとロイ・アウレアを、ハルが控室へと案内する。【睡狼】の面々は人数が多かったため、待合わせに大きな控室を宛がわれていた。もとは学内で結婚式を挙げる人が居た際の家族の控室だとか。
「こちらになります」
「ありがとう頑張れよ」
ロイの激励に笑顔を返し、ハルが扉を開ける。中にいたのは見知った面々と、初めて見る子が1人。どうやら仲間内ではロイたちが最後だったようだ。
「ルルトだよ、よろしくね!」
「入り口でびっくりしたように止まってたから、誘ったんだ」
「だって、すごく豪華な建物だったから……」
立ち上がって挨拶するルルト・アーキスと、ルルトが一緒にいる理由を説明するライオネル・ギシュム。既に仲が良くなっているようで微笑ましい。
「僕はハルですよ、よろしくなのです」
「ルルトさん初めまして、お会いできて嬉しいよ」
ハルが一礼し、テスが微笑みかけたところで、可愛くおめかししたアルマ・ヴァレンタインがやってきた。
「ルルトさんも、服を選ぼうよ!」
「え、あの。ボクどうしたらいいか」
「大丈夫、ボクが選んであげる!」
あわあわしながらも、小さなアルマに引っ張られていく。男性陣は、自分で服を選びに行ってね、と言い残されたのでルルトは男性扱いされなかったらしい。あるいは【睡狼】が男性ばかりでせっかくのアルマのおしゃれさんを活かす場が欲しかったのか。
「礼服か、私にはどんな服が似合うかい?」
「おや、試されているのかな? これは」
そんな事を言いながら更衣室へ向かうテスとロイ。着替え終わっていたライオネルとエヴァン・ピオネロはお留守番だ。
「さっき、ルルト君が困ってそうだった時、エヴァが助けてくれたことを思い出したんだ」
「それで声を掛けたんですか。何だか嬉しいですね」
仲良くして欲しいとエヴァンが伝えた時のルルトの嬉しそうな顔を思い出す。
「待合の間は何を話題にしましょう」
「ルルトは【睡狼】の事を聞きたいようだった」
ならば、これまで皆で行動した時の事を話そうか、と相談した。ルルトが戻ってきたら、迷宮でオークと戦った話をしよう。それとも大湿地帯や大樹林の激しい決戦がいいか。夜は長いのだから、会場へ移ってからみんなで少しづつ話せばいい、と帰ってきたロイが言い、そういう事になった。
―・―
エルゼリオに案内されてきたのは、憂い顔のアルト=ミルドレッド=バ・ロッサとハーヴィのペアだ。
「……こんなところパパに見られたら何言われるか……」
「ふふっ、アルトのドレス、フリル沢山で可愛いね」
少しブルーなアルトへ、ハーヴィが曇りない笑顔を向ける。多分、彼には貴族家の跡継ぎだなんだという悩みはわからないのだ。だからこそアルトを遠慮なく誘ってくれるのかもしれない。
「良く似合ってる」
「こっ、これは、別に……うちのメイドさんたちに着せられた、だけで……!」
ドレスを選ぶ際にメイドからあれこれ言われたような気もするが、ハーヴィと舞踏会に来るからこのドレスにしたわけではないのだ。ハーヴィがどう思うか考えたりしたけれど、それは同行者への単なる礼儀であって……。つまり、そういうことなのだ。
「まぁいーわ、今日は楽しみましょう」
つん、と顎を上げたアルトの頬は赤く染まっていた。
―・―
【綺譚】の4人も、ひとまとまりで控室を手配されている。案内された後は各自衣装室へ行き、着つけて帰ってきた。スタイルを整えた男性陣もいつも通りカッコいいが、今宵の主役は女子2人だ。
「……二人共とても綺麗だ」
一瞬言葉を失うも、そんな間など無かったように、アーシェル・G・クラインは賞賛の言葉を紡ぐ。アンネエルカは花のような笑顔で頷いた。
「そうでしょう? ママ特製のドレスだもの。ふわふわしていて、薄桃色は私にぴったりだって。ねぇ?」
「そうだね。アンネのお母さんは凄いよ。この服はボクの髪の色に合わせてくれたんだと思う。素敵だよね!」
クレア・エクレールがそう応じれば、詩人にあらざるアーシェルは助けを求めるようにセヴラン・クアルトを見た。
「いや、ドレスもそりゃ確かに良いけど……。そうじゃねぇって。なあ、セヴラン」
「ああ。クレアさんもアンネさんも麗しい令嬢だよ。色香が滲む瑞々しい真紅の薔薇と、可憐で弾む初々しさが眩しい薄桃の芍薬だね」
さらりと述べられるセヴランの麗句は2人もそこそこ聞きなれている気もするが、今夜は格別に嬉しかったようだ。紅も鮮やかな唇でクレアが笑む。
「へへ、お化粧もバッチリでしょ。母さんに教わったんだ」
反らした胸元にはやはり鮮やかな深紅の宝石が輝いた。このネックレスもクレアの母の見立てだという。
「大好きな皆に褒めて貰ったら、自信が湧いてきたわ。さっきまでちょっぴり緊張してたのだけど」
今は、開場が待ち遠しいの、と笑うアンネエルカに友人たちも頷いた。
―・―
マリイの持ち込んだ服の中で、最初に手に取られたのは男性物だった。帝国で店を出していた時に師匠は男性向けの礼装を仕立てる事もあり、それを思い出しながら作った物だ。
「黒地に赤の差し色の服。こちらでは珍しいですね、帝国とご縁が?」
「ええ、はい」
セロンガード・シュタインドルフとマリイはずいぶん前にゴブリン退治で同行した程度の縁で、その時にはお互いの出身の話などしていない。懐かし気に色合いを見ていたセロンガードはその礼装に決めたようだ。
「ティトのドレスも選んでもらったら」
「……白と、青の。この国の色が、いい」
自分を待たせたくせに知らない人と話しているセロンガードに、ティトは少々お冠だった。彼が帝国カラーなら自分は王国カラー、というわけではないけれど。
「それでしたら、これはどうでしょう」
マリイが選んだドレスは白を基調にやや明るい青をアクセントにしたスタンダードなもの。合わせるアクセサリは黒真珠が二粒輝いていて、それは少し気に入った。
「並ぶときっと、お似合いですよ。それから、その刺繍飾りの意味は……」
「え。うん。ありがと……?」
何やら小声で伝えられ、口元をもにょもにょさせながら会場へと向かう。聞くともなしに聞いていたナハト・シュライバーが、マリイへと声を掛けた。
「僕も帝国の出です。学園に通って数年だから、王国の色にも慣れましたが……」
今宵は王国の学生ではなく、レイウェスト殿下の御為に繋ぎを作ろうという意図だ。相応の色の衣装をまといたい。そう言えば、マリイはセロンガードが選んだのと同系の服を取り出した。帝国軍に制服はないが、推奨される色はある。軍人が礼装を注文することもよくあったのだろう。その後も、衣装室では元帝国や旧帝国の男性が案内されてきた。
「女性のドレスも見て欲しいのですけれど、帝国の方向けと思われてしまったのでしょうか?」
帝国以外で流行らない在庫が掃けるのはありがたい反面、せっかくなので独自のデザインを見て欲しい気もする。と、考え込んでいたところで。
「帝国の方なのですか」
さっきまでぼんやりと立っていたイデアがそう尋ねた。また男性だなあ、と思いつつもマリイが頷く。聞けば、イデアは別に黒と赤の帝国風礼装に興味がある訳ではないらしい。ただ、帝国と言う言葉が聞こえたので声を掛けたのだ、と。
「それとも、今の服で無礼になりますか?」
イデアが首を傾げるので、マリイも見てみたが。王国の流行りの礼装ではないけれど、冒険者が纏う礼装としては十分礼儀に叶っていると思う。そう答えれば、生気の無い感じで「そうですか」と返した。
―・―
一方、自分で購入や、自作のドレスを持ち込んでいた冒険者も多い。
「ヴィルヘルミナさん、自分で作ったんですか?」
「これでもドワーフの端くれ。生地と時間があればこれくらいは……。鍛冶ほど得手ではないですが」
級友のリサの驚く様子に、ヴィルヘルミナは淡々と返す。若草色のシンプルなデザインは自身の髪色に合わせたのだろう。貸衣装に並ぶ一級品には及ばずとも、彼女にとっては自ら作るという行為が大事だった。化粧は任せたい、と言うとケーキ作りが一段落したらしいサマエラが通りがかる。
「いや、着付けの手伝いならまだしも化粧は私も得手ではない」
「どなたがお得意でしょうね……?」
最終的にはルルトの衣装選びを終えたアルマが呼ばれてきて、おしゃれさんな所を存分に活かしたのだった。
●
リディリディ・トゥラ・イェレミースの今日の目的は踊りではなく飲食である。その為ならばドレスコードも渋々受け入れはする。でも、コルセットを締められるのは断固としてお断りした。
「給仕を呼んで欲しい料理を言えば適当に持って来てくれる。自分で行っても良い」
迷宮で見た顔の案内役から雑な説明を受けた。人任せにするより好みで選びたいし、沢山よそいたい。でも知らない人に話しかけられたらどうしよう。憂い顔でそんな事を考えていたら。
「こんばんは、リディリディさん。よろしければこちらのお料理をどうぞ」
挨拶と共に置かれた皿はまさに彼女好みの盛り付けだった。
「ベイカーさん……。ありがとうございます」
キラキラした笑顔に、リサは同性ながらも見とれてしまう。「どうぞ、楽しんで行ってくださいね」と挨拶を残すと、言われるまでもないとリディリディは頷いた。
―・―
会が正式に始まれば、主催には挨拶を受ける仕事がある。今回はトマスも一人の学園生の立場で主催した事にしたので、招待への礼として軽く会釈をするだけでも十分だ。ロイやテスが一礼すると、後に続いていた【睡狼】の面々も真似をする。貴族子女としての挨拶をしていく参加者もいるようだ。
「お初にお目にかかります。私はレティシア・レインフィールと申します」
「レインフィール家の。白百合の君のお噂はかねがね」
トマスは第四学年なので、噂を聞いたというなら彼が入学してすぐ位の話だろうか。深い青のドレスを涼やかに着こなしたレティシアは学園を卒業した貴族令嬢の手本というべき所作を見せる。
「この度はお招き下さり、誠に感謝を致します。……本当に、災難でございましたね」
「我が家も、あるいはレインフィールもそうでしょうが、中立には中立であるべき理由があるのだと理解して欲しいものです」
少し口調が気安いのは、双方の家柄が中立を標榜している点で共通しているからだろう。派閥を名乗るほどに数がいるわけでも無く、まとめる頭がいるわけでもないのに中立と呼ばれるのは笑わせるとも、彼は思うのだが。
「今しばらくの辛抱でしょう。生徒会選挙が終われば、数合わせを欲する声が掛かる事も減るでしょうから」
「そうだと良いのですが。正直に言えば、どちらの派閥が勝っても学園は変わらないと思います」
応じるトマスの声には年齢に似合わない達観した響きがあった。現在のパンクリアース学園には、王党派・貴族派双方の公爵家の子女が在学している。当人が望もうが望むまいが、彼らは個人ではなく公爵家の、更には派閥の代表として振る舞う必要がある。目立つ地位につけば、相応の言動を強制されるだろう。
「立場を気にせず、ただ皆様が学園生活を楽しめればよろしいのに。……なんて」
「全くその通りと個人的には思いますが。あの方々の立場的にままならぬ事でしょう」
「ふふ、先程の言葉は、秘密にして下さいませね?」
「いっそ冒険者が生徒会長に立候補するのも面白い。……この言葉もできればご内密にお願いします」
2人は小さく笑ってから、すぐに離れた。少しの個人的な同情と、策略を気にする必要性が少ない間柄ゆえの今日の顔合わせは、いつか双方に活きる布石となるかもしれない。あるいは無為に終わるやも。こういった積み重ねの必要性は、どちらも熟知していた。
―・―
久しぶりの母校は、以前よりも空気が悪くなったとシャルロット・ド・オーシュは感じた。
「あ、シャルロット様。いらっしゃいませ」
「踊る気はないから衣装はこのままでいいわ」
見知った後輩のゲルダに一声かけて、会場へ入る。目を集めるなら身を飾る必要もあるが、今日はそのつもりはない。
「派閥争いなんてどうせ大人になったら嫌でも関わるんだから、それまで楽しく青春してれば良いでしょうに……」
今日の主催も、年齢に見合わぬ大人びた振る舞いは彼女の目から見ればいっそ痛々しい。早々に辞去しようと思ったが、会場内へ走らせていた目が知った顔に留まる。
「こちら、相席いいかしら」
「むぐむぐ。……あ、はい。どうぞ」
口の中の物を飲み込んでから、リディリディは控えめに頷いた。
―・―
次の客を案内しようとしたエルシーは二重の意味で喜んだ。一つは知り合いだったからで、もう一つは。
「ネーヴェ、綺麗だね」
「ありがとうございます」
ネーヴェ・グラヌローザが美しく装っていたからだ。薄い青の濃淡で飾られたイブニングドレスは彼女に普段と違う落ち着きを演出している。気がする。
「キーゼさんはいつも前髪を下ろしてらっしゃるから、何だか新鮮ですね。……素敵ですわ、とても」
キーゼは髪型をオールバックに決めていた。普段よりも男性的に見えるのは髪のせいだけではないのかもしれないと、見とれてしまう。キーゼも言葉を返そうと視線を合わせた。
「ネーヴェ氏……とても、お似合い……。いえ、お似合いでは不十分ですね。まるで御伽話に出てくる妖精のようです」
「……相変わらず口がお上手ですのね」
会場の照明で改めて見れば、今宵のネーヴェにはキーゼの言葉が一瞬止まる位の破壊力があった。後半は舌の周りも元通り、らしくない慌て方には気づかれなかったようだが。少しばかり、今宵は色男も勝手が違うようだ。
―・―
会場に足を運んだのは、踊る事を楽しむ目的の者ばかりではない。
「流石、模擬とはいえ夜会だ。美味しそうなものが沢山ある」
ヨル・スレイマンは、青系の黒い礼装に身を包んでいる。場に合わせて、普段なら被っている頭蓋骨も置いてきたらしい。一緒にテーブルについているナハシュともども、着なれない様子がありありだった。
「なんだか、居心地悪そうだなぁ?」
「雰囲気は悪くないんだが……」
ナハシュの言葉に、言葉を濁しつつヨルが視線を向けたのは数名の貴族がトマスに挨拶をしている様子だった。何を話しているのかはわからないが、どちらも笑顔だというのに空気が固い。
「やっぱ嫌いなんじゃねえか、貴族」
「嫌いと言う訳ではないよ。ただ、苦手ではある」
「そうかぁ? ま、今日はたらふく食べさせてもらおうぜ」
辛気臭い空気は御免だ、とばかりにナハシュが料理を取りに立ち、ヨルもどこかほっとしたように貴族たちのいる一角に背を向けた。向かうは料理の並ぶテーブルだ。心なしか肉料理の皿の減りが速い。
「お好みのお料理をお取りいたします。お申し付けください」
「おっと。いや……自分で取るからいいよ」
ゲルダが控えめに声を掛けると、ヨルは慌てたように首を振った。同じ人間なのに、貴族と元剣奴では生きる世界が違うと感じる。同じ冒険者なのに、客と給仕で立場が異なっているのは今日だけの話だろうけれど。
―・―
コルネリウス・アーラとイズレンディル・パラリムは目を引くペアだった。
「ドレス姿も似合ってらっしゃいますね。とても綺麗で可愛らしいです」
「ふふ、嬉しいです。イズさんも、とても素敵ですよ」
薄く柔らかな布地の淡い色合いのドレスがコルネリウスの身を包み、イズレンディルはグレーの礼装にリボンタイ。服装は派手ではないし、美形ではあれど魔性と言うほどでもない。しかし、幸せそうなオーラは知人たちを否応なしに微笑ませる。先に会場入りしていたサフィラ・アズラク・ナハルハルアリーブが2人を呼び止めた。
「二人とも大人っぽくて素敵な正装だねっ! 似合ってるよ!」
「サフィラさんもお綺麗です。今夜は楽しみましょうね」
軽く挨拶を交わすサフィラの隣で、一礼していたシルヴィア・A・カペルが知り合いにだけ分かる程度に表情を緩める。褒められたサフィラのドレスは彼女の見立てによる物なのだ。しかし、ドレスを贈りあったと公言するとこういった場の認識として誤解を招く、と言う理解が堂々と自慢するのを邪魔していた。夜の空のような上品な青は、明るい青のサフィラの瞳を引き立たせる。大きく見せた肩と体に沿ったデザインはサフィラのスタイルを否応なしに引き立てていた。
「お2人とも素敵なドレスですね。互いに素敵な夜を過ごしましょうね」
コルネリウスがそう言えば、今度はサフィラが嬉しそうに笑った。サフィラが選んだ赤系はシルヴィアが普段選ばない色だが、凛々しい麗人である彼女に合わない筈も無い。葡萄酒色に黒の差し色が入ったドレスは肩を見せたデザインがサフィラとお揃いだ。腰から下は、サフィラがシンプルに裾へ流れるのに対してシルヴィアはフリルで飾られている。細身を補うように、胸元には大きな薔薇の飾りがあしらわれていた。
(薔薇、か……。ばれるかな?)
デザインは気に入っているのだが、目を引かないかとちょっと周囲を警戒する。王党派である実家絡みで変に絡まれても困るし、個人としては中立でいたい気分なのだ。とはいえ、家を出ていない貴族令嬢としては至極当然の意匠ではあり、調べてくれたのなら嬉しくもあり。学園の今の状況に思う所がないでもないが、そんな事はサフィラに知る由もない。シルヴィアは頭を振って、今日の所は忘れることにした。
―・―
「トマス様、帝国のシュライバー子爵家のナハト様がご挨拶を、と」
軽い挨拶が終わった後で、タイコモを通じて訪いを入れてくる相手はややこしい話を希望しているのだろう、とトマスは考えた。であるならば、学園生ではなく伯子として返答せねばならない。儀礼に乗っ取った名乗りと挨拶を終えて、グラスを手に向き直る。
「我が家は帝国奪還には関りがないのですが、どのようなお話でしょう?」
「失礼しました。僕はダンテ家の在り方が気になったのです」
今まで派閥から距離を置いてきた家が、今後もどう立ち回るつもりなのか。明け透けに聞いたわけではないのだが、トマスはすぐにナハトの聞きたい事を理解した。
「ダンテ家は代々法曹に関わる家です。その意味では帝国の官僚に近いのかもしれません。玉座に忠誠を誓い、王が裁きを恙なく下せるように心を砕くのが我が家の代々の職務なのです」
「王党派でも貴族派でもない、けれども中立派を為す訳でもない、と?」
「派閥に関わってしまえば裁きは公正から遠くなる、というのが我が家の家訓でして」
帝国は政治的意味では貴族制が廃されて久しいが、代わりに軍や都市に紐づいた派閥争いがあるともいう。どこの国でも結局、政治は人の集まりだ。
「それで、我が家と私の見定めは出来ましたか?」
「……それはもう」
最後に軽く釘を刺されはしたが、知りたいことは知れた。ダンテ家とトマスの扱いをどうするかは、ナハトがこれから考えればよい事だ。
●
会場には演奏紋具もあるが、生演奏には生演奏にしかない味がある。鍵盤楽器の前に立つロゼットが青いドレスの裾を摘まんで膝を曲げ、その横では竪琴を抱えたキオルティスが一礼した。
「立派な楽器を貸してくれたから、少し緊張するわね」
と言うロゼットは携帯できるサイズの楽器を自分で持ち込んでいたのだが、ホールに備えつけの物の方が大きい。単に大きければ良いという物ではないのだが、広い会場に響かせるにはその方が良い場合もあろう。キオルティスを挟んで反対側には、やはり大型の弦楽器を構えたノックス・マグナが姿勢良く腰掛けている。
「ロゼットさん、曲目はどうしましょうか?」
「そうね……」
会場の係りに普段の曲目を尋ねていたロゼットが、その中から幾つか名前を上げる。王国の舞踏会ではよく掛かる定番であるらしい。合わせての演奏は初めてのトリオだけに、まずはキオルティスもノックスも知っている数曲を選んだ。
「皆の素敵で華麗なる舞踏に、魂の音色を贈ろうか」
「そうですね……。皆様の楽しいひと時の一助となれれば」
音楽で楽しい空気を作ろうと願うキオルティスの言葉と、あくまでも裏方として支えようというノックスと。2人の準備も整ったとみて、ロゼットが会場へ目を向ける。
(……あ、コルネリウスだわ。やっぱりエルフの2人は絵になるわね)
見知った顔に微笑を浮かべてから、鍵盤へ指を走らせた。ファーストダンスの相手としてトマスが手を取ったのは、ドレスアップしたシオンで、給仕の傍らでそれを見たサマエラが微笑を浮かべる。最初はむずがっていたが、シオンも内心では踊ってみたかったのだろう。トマスの方も、他家の令嬢と踊らずに済んで助かったはずだ。
―・―
「コルネさん、私と踊って頂けますか?」
「はい……勿論です、喜んで」
森を出て80年のイズレンディルはこういった場にも慣れているが、コルネリウスの動きは初々しい。それでもイズレンディルのリードに任せていれば、徐々に緊張が解けて楽しむ余裕もできてくる。
「足は気にせず、私の方を向いて?」
「はい!」
幸せそうに返す表情に笑顔を返しつつ、曲調に合わせステップを少し速くする。先ほど2人に挨拶をしていたシルヴィアとサフィラも、踊りに加わろうとしていた。
「お手をどうぞ、お姫様」
「ありがとう。改めて、今日はよろしくねっ!」
シルヴィアがサフィラの手を取り、エスコートして会場の中心へと。サフィラは初めての緊張感も感じつつ、周りの華やかなペアへ視線をやっては楽しむ程度の余裕はあった。シルヴィアのリードがそれだけ上手だということでもある。
(家と関係なく、友達になってくれて……。愛称で呼んで、呼ばれるのは初めてだよ)
「こういう雰囲気も悪くないねっ♪」
そういうサフィラに頷き返して、まずは一曲。あちらのイズレンディルとコルネリウスも一曲で終えるつもりは無いようだ。踊りに加わる人が少しづつ増えてくる。
「私も夜会を楽しませていただきましょうか」
記憶は遠いが、身体が音楽を覚えているのか。イデアは「良く分からないけど多分踊れる」という不思議な確信を覚える。しかし、ダンスは1人で踊るものではない。周りを見回すと、ヴィルヘルミナと目が合った。
「踊りに自信があるとは言えませんが、身体に染み付いている筈です。踊ろうと思えば、踊れるでしょう」
と、元学園生の経歴のイデアが言うと、ヴィルヘルミナも気兼ねなく笑う。
「私も授業で学んだくらいです。よろしくお願いします」
ゆったりした曲に身を任せて、足を進める。意外と上手かったイデアにリードを任せればさらに楽に体が動いた。そんな様子を見つつ、苦い顔をしている男が一人。
「見立てが甘すぎた」
エル=バ=ノイアンに社交界の心得はないのだが、誰かの代理で出席せざるを得なかった。しょうがないので従者のような服を借りて小綺麗に髪を編み、空気のように場に溶け込もうとしていたのだがなかなかうまくいかない。
「こういう場では、男性から声を掛けるのが礼儀だよ、ノイアン」
そういえば、こんな場所に遭遇するといつもシルヴィアに手を引かれていた気がする。周囲を見て、真似をするように腰を折り。
「一曲、踊って貰えるか」
と請えば、もちろん、と笑顔が返った。それにホッとしている間に、主導権をあっさり取り返したシルヴィアに輪の中へと引き込まれる。冒険者の酒場と、彼女の故郷と、踊るのはこれで幾度目だろう。
「前よりは、ましか?」
「きっとすぐ抜かされちゃうね」
次の約束とも取れる言葉にノイアンは気づく余裕もなく、普段にもまして硬い表情で踊り続けていた。うっかりぶつからぬよう気を付けつつ、キーゼがネーヴェの手を引き踊りの輪へ加わる。
「どうぞ、宜しくお願い致します」
「こちらこそ」
一礼を交わしてステップを踏み出せば、主導権はネーヴェへ移った。リードするネーヴェはキーゼを気遣い、キーゼはネーヴェに合わせていく。不思議なほど動きが軽く感じた。
「貴女が記憶を取り戻すまで、ではありますが……。このポジションを他人に渡したくはないですね?」
くるり、顔と顔が近づいたときにキーゼが囁く。
「……私が記憶を取り戻した後も、そうしては下さらないの?」
受けたネーヴェも挑むように囁き返した。他の踊り手には聞こえぬよう、2人だけの駆け引きが続く。そして、駆け引きと言えばもう一組。
「……怒っていますか?」
「うん」
仮面越しに気遣うような目を向けるセロンガードへ、ティトはそう答えた。なにせ、言葉を濁しても彼にはお見通しなのだろうから。事実上国が滅んだとはいえ、2人はまだ帝国の諜報部の一員だ。少なくとも、そのつもりではある。今回の舞踏会参加も、王国の重要機関である学園への調査任務の一環なのだ。だというのに。
「……もしも、セロンがあのまま来なかったら。ぼくは他の人と踊った、よ?」
「そう、なのですか?」
任務だからそれは当然ですね、などと言わなかった事にティトは機嫌を少しだけ直した。セロンガードはその心の動きに気づいたのかどうか。腰に当てた手を引き、身体を密着させる。ふわ、と口元が緩みかけて結び直した。まだまだ、許さない。
「ティトを不安にさせてしまったようですからね」
「うん、ちょっぴり。ううん、結構、不安だった、かも」
任務の内容ゆえなのか、潜入するときの立場も違う。セロンガードは貴族派、ティトは王党派の学生を演じていた。もっとも、平民学生の立場ではそこまで縛りはきつくない。一挙手一投足に意図を勘繰られる貴族とは違い、こんな風に踊っていても誰も気には留めないのだが、ティトにはそれは分からなかったのかもしれない。
「これまで不安になっていた分だけ、今日は甘やかしましょうか?」
「え? あ、わっ」
空を飛ぶようにリフト、くるりとターン。しっかり結んでいた筈の口はパクパク動いて、仕方がないなあ、というような微笑へ変わった。
―・―
「愛らしいお嬢さん、宜しければ僕と一曲、踊りませんか?」
キリリとした顔で気取った言葉を発したハーヴィに、アルトは一瞬ドキリとする。すぐに彼はふにゃりと笑った。頬は赤かっただろうが、見惚れた様子は気づかれずに済んだろうか。2人とも、ダンスの勉強はしたことがある。初めてとは思えないほどに足取りは確かで、でも気持ちはふわふわと浮き上がっていた。
「ありがとう、楽しかった!」
「またいつでも誘ってちょうだいね」
満面の笑顔のハーヴィに引きずられず、アルトは優雅に返事する。
「勿論。何ならこれからもう一曲踊る?」
などと更に明るく言われては、その優雅さも崩れてしまうのだけれど。
「っか、勘違いしないでよね、こういうのも悪くないってだけだからねっ!!」
口調は崩れないのだから、彼の事が好みと言う訳ではない筈なのだ。そう、だから勘違いされては困る。言い張るアルトの姿はどこか微笑ましい物だった。
―・―
「さて、お手をどうぞ。お姫様?」
「ちゃんとエスコートしてよね、騎士クン?」
慣れた様子でそう言い交わし、手を取るゼラルム・エルホワイトとサニー・フォン・オルライトは自信に満ちた足取りでホールを行く。幼馴染である2人はダンスの練習も幾度もしているのだから、他の初々しいペアのように今更どぎまぎはしない。
「ま、この方が気は楽っちゃ楽だよね。変に気をつかう必要もないし」
白いドレスを翻してサニーが言えば。
「……まあ、羽虫共だけじゃないだけマシか」
他に対するよりも幾分遠慮のない口調でゼラルムが返した。サニーのオルライト家は確かに貴族と言う程の貴族でもない家柄だが、そういう事を言っているわけではないのだろう。会場を等しく無関心に撫でるゼラルムの視線が、サニーへ向く間だけは色づく。恋や愛ではないかもしれず、友情とも言い切れぬ。2人にしか分からない機微がそこには確かに通っていた。
―・―
「さぁクレア嬢、アンネ嬢。僕と一曲踊って頂けますか?」
「いやいや、両手に華は贅沢すぎるだろ」
セヴランが冗談めかして手を伸べると、アーシェルが苦笑する。【綺譚】の4人は大切な友達同士で、だからこそ皆とそれぞれ踊りたいとアンネエルカは望んでいた。その気持ちは他の面々も同じで、だからまずは一曲。
「今日のボクはとびきりイイ女だからね!」
「ああ、お前はいい女だ」
陽光のように鮮やかな笑みを浮かべるクレアに、アーシェルはさらりと頷く。ハーフビーストの2人へは王国貴族の蔑視が刺さるのではないかと危惧していたのだが、今夜の客はそこまで無遠慮では無いようだ。(ならば良い)と肯じてから声を張る。
「よし、ホール中にクレア・エクレールを見せつけてやろうぜ」
「かっこいいね、それ!」
荒々しくなる半歩手前の強引なステップも、身の軽いクレアは難なく追いついてくる。煽るように、艶やかに、ホールを裂くは黒と赤。そして柔らかな金色は緩やかに舞う。
「足元は気にせず、僕の目を見て? そう、いいね」
「ありがとう。まだ少し、動きが固いかしら? こう、で。こうね?」
緊張が取れてもアンネエルカはスロースターターのようだ。セヴランのゆったりとしたリードに身を任せるうちに、ふわりふわり、少しづつ動きが軽やかになる。彼女がダンスに集中できるよう、セヴランは周りへ気配りを欠かさない。
「おっと、失礼」
(悪意を持っている人はいないようだけど……)
普段はこういった場に来ないような面々も踊っているせいで、別の意味で邪魔が入りそうになることはある。誰かにぶつかってしまえば、きっとアンネエルカは申し訳なく思うだろうから。そんな機会は作らない。
「楽しかったわ! ありがとう、セヴランさん」
「じゃ、次は俺だな、お姫様」
アンネエルカの手を委ねられたアーシェルは、先ほどの勇壮な踊り方が嘘のように優しく手を引いた。セヴランと踊って慣れた少女は伸びやかに、可憐に。
「お前の笑顔を見てると幸せになる。……だから、もっと笑ってくれ」
「私も、大好きな皆と一緒で幸せよ! ありがとう、アーシェルさん」
願えば、アンネエルカは満開の花のように笑った。セヴランのリードは、パートナーがクレアに変わっても変わらず優しい。
「踊りやすい曲を選んでくれてるのかな」
「そうかもしれないね。生演奏だから」
流れる楽の音に耳を傾けつつ、お互いの目と手は離さずにゆったりと踊る。
●
中盤まで来ると、給仕役も役割分担がはっきりしてきた。数少ない貴族客の案内はハル、酔っ払いの応対はイヴェール。エルゼリオやエルシー、ゲルダは全体のバランスを見ており、リディリディへのお肉の補充はリサ、チョコの補充はスヴァンと言った感じだ。
「……あの。え、えと……その、黒いの、……何?」
チョコ各種をトレイに載せてさっそうと歩くスヴァンを、足元からのユズの声が引き留めた。
「……どうした、迷子か?」
「……迷子、違う。ボク、一応、大人……」
たどたどしく答えるユズに、スヴァンは首を傾げる。一応ドレスアップはしているのだが、何故か被っている猫耳フードのせいで、間違って迷い込んだお子様感が半端ない。おどおどした様子からは人見知りの気が強いのだろうと理解できる。その時、スヴァンに電撃が走った。
(つまり、人見知りのこの子はチョコの為に勇気を振り絞って声を掛けたのでは?)
そうに違いない。ならばチョコの魅力を伝えて虜にすべき、そうすべき。そこに一片の迷いもあろうはずがない。
「これはチョコレートという食べ物だ。たくさん食べろ」
「ちょこれーと。甘い、の? ……ひとつ、ボクも、欲しい」
こちらがたくさんと言っているのに1つとは、子供ながらにチョコの貴重さを知っているのだろう。しかし幼子よ、たくさん食べるが良い。スヴァンは暖かな気持ちでチョコを差し出した。
「……美味しい」
素直な子だ。なんか撫で心地が良い気がするので頭を撫でつつ、流れで互いに自己紹介をする。そうすればもうチョコ友だ。よしよしもっと食べて良いのだぞ。
「……ボク、大人……」
撫でられるユズは少し複雑そうな顔をしていたが、二口目のチョコに表情を緩めた。
―・―
やがておちついた音から風情が変わり、明るく跳ねるような曲が流れだす。合わせてキオルティスがステップを踏めば、足首の鈴がシャンシャンと音を立てた。しっとりした優雅なダンスから、瑞々しい健康的なダンスへ。
(あ、この曲なら知ってます)
待っていた機会にゴクリと唾を呑むも、ここで躊躇うような弱虫ではもうない。森を出た時から心はきっとたくましくなった。行ってきます、と仲間に言えば、頑張れよ、と笑って返され。
「アルマさん。ぼくと一曲お願いします」
「……ボクでよければ喜んで」
普段と違う、少し大人びた……、もしかしたら背伸びしたのかもしれない振る舞いにドキリとしつつ。それが自分の為だと思うと頬が赤くなる。背が低く華奢なエヴァンと、もっと小さなアルマの2人だが、巧みな足さばきとリードでそれを感じさせない。
「ふふ……」
こぼれた笑みはどちらのものか。エヴァンにそっと持ち上げられ、ふわりとおろされる。見上げるアルマの顔は花のようで、翻るスカートは花びらで。
「……ねぇ、ボク達も踊ろうよ!」
エヴァンとアルマを見ていたルルトが、ライオネルの手を引く。
「俺、踊った事なんてないよ!?」
慌てながら引っ張られたライオネルだが、皆も踊ってたんだし、と思えば緊張は薄れてきた。2人で手を取ってクルクル回り、誰かにぶつからないように向きを変えてまたくるくる。ルルトの裾がふわりふわりと広がって、支えるライオネルがぐっと力を籠める。
「はは、確かに楽しければいいかも!」
「だよね!」
技量よりもバランス感覚に物を言わせてくるりくるり。仲間たちを見ていたテスが、不意にロイの手を取る。
「ロイ、私と踊らないかい?」
「喜んで」
一見唐突であっても、彼の心の動きは分かる。楽しくなってきたので、自分も……、と言った感じだろう。手を引かれ、踊りの輪に入る時に腰へ手を回す。リード役は譲らない、と言いたげな動きにテスは面白そうな顔をしてから、女性側のステップを踏んだ。
「ロイ、上手になったね」
と囁かれれば、当然の顔で頷く。エスコートに乗れば翼が生えたように足が動き、テスの長い髪がドレスの裾の代わりに弧を描く。引き寄せられ、回転し、また足を運ぶ。
「……昔はワタワタしてて可愛かったのだけど」
「昔のままでは居られないさ。隣を誰にも渡したくなかったからね」
頑張るしかないだろう? と微笑む姿には頼もしさと可愛さを共に感じた。曲の終わりに足を止めると、息を弾ませたテスが口を開く。
「楽しかった」
心から出た言葉に、当然だと胸を張ろうか、それは良かったと余裕ぶって返そうか。少し迷ってから。
「オレもだよ」
背伸びの無い言葉を返す事にした。
―・―
近くで踊っていたララベル・サン・ディーベルとアリエッタは、テスやロイのように恋人同士と言う訳ではない。けれども、互いに少し気になる間柄だった。アリエッタの今日の装いは黒いドレスと黒いリボン。普段より少し大人っぽく見えるかな、と思う。一緒に来たゴルバルティアも褒めてくれていた。
「ドレス、良く似合ってるね」
「ありがと。ララベルもかっこいいよ」
一番聞きたい相手から期待していた言葉が聞けて、アリエッタの表情がほころんだ。普段は中性的なララベルも、今宵はスーツ姿が男らしい。真剣に自分を見つめる瞳も、踊る最中に引く手の強さも、腰を支える腕の力も、普段と違ってドキドキするし、ドキドキさせられる。
(そういえば、ララベルを女の子と勘違いしてる人がいるんだって……?)
大きな目に細い手足を見れば、確かに分からないでもない。けれども、自分がこんなにドキドキさせられるくらいには男の子なララベルがそう言う目で見られるのは、少し業腹だった。その子がどこかで見ているのかどうか、わからないけれど。
(こうすれば、誤解も解けるかな?)
ダンスで顔が近づいたときに、アリエッタは背伸びしてみた。唇と唇が軽く触れて、離れる。
「え? わっ……」
びっくりしたララベルの目が開き、足元がもつれた。アリエッタを巻き込んで倒れかけて、何とか踏みとどまったのはシーフゆえの身軽さか。
「だっ、大丈夫?」
「うん。ありがと……。でも、ちょっと苦しいな」
抱きしめられたことに驚いたけれど、嫌な感じはしない。気づいたララベルが真っ赤な顔をしているのを見て、いつも通りだなとアリエッタは微笑んだ。
―・―
【綺譚】の4人は男女2組。皆で組み合わせて踊ろうと言えば、同性同士の時もある。
「アーシェルさんとセヴランさんも二人で照れずに踊ってちょうだいな?」
クレアに手を引かれたアンネエルカはそう言い残して舞台へ戻っていく。
「男同士踊るなんて初めてだ。楽しもうぜ、セヴラン」
「君の魅惑的なリードを堪能したいね?」
ご指名の2人も、ニッと笑いあって後に続いた。しかし、世に光があれば影がある。リア充の影には涙がある。
「再び学園に関わることになるとは……。卒業式以来だ、どこか懐かしいな」
依頼にかこつけて母校に足を運んだリヴィエラ=ディ=ヴェローナは、皆が作る楽し気な踊りの輪を一人、遠くから見ていた。卒業式のダンスパーティの事は、もう吹っ切れたと思っていたのだが。
(もうなんとも思わない……というわけでもないのだな)
婚約者との間には、愛と言うほどではない淡い想いがあった。あの夜、顧みられることもなく打ち捨てられたリヴィエラの想いはいまどこにあるのだろうか。黄昏ていた彼女に、すっと手が伸べられる。彼女が一人で居る理由を知らないのだろうと顔を上げれば、シルヴィアが涼やかな目を向けていた。
「君は……」
在学中から、同格の侯爵家の令嬢と知ってはいた。つまり、彼女の事情も知っていよう。あとは友人の友人か。さっきまで楽し気に踊っていた姿を見た気がする。余計なお世話だ、とばかりにリヴィエラは手を振り払ったが、シルヴィアはめげずに手を差し伸べ続け。本当に仕方がないと言わんばかりに受けたリヴィエラの表情は、ほんの少しだけ緩んでいた。
―・―
「お前ももう少し器用なら今頃あっち側でレディと楽しく踊ってたろうになぁ?」
「さあ、どうかな」
楽しい席の筈なのに、今日は少しばかり沈んでいるヨルへ、ナハシュがそう声を掛ける。友人に少し気を遣わせているかと少し思った。フルーツを狙ってくるのを身体を盾にしつつ完食し、ごくんと飲み込む。そういえば、今夜は話を振って貰ってばかりだ、とも考えた。何か気分を変える事はないだろうか。
「……食べたら体を動かしたくなったな。ナハシュ君踊れる? 少し付き合ってよ」
「ん。腹ごなし程度なら付き合ってやる。脚踏むなよ」
ヨルがそう手を伸べると、二っと笑ってナハシュが手を取った。やはり、こういう気楽な距離感が良い。
―・―
「リディリディとこういう堅苦しそうな所で会うなんてね」
シャルロットが言い、リディリディはふと考え込む。貴族は苦手だったが、トマスは今やお肉を奢ってくれる人枠だ。彼女の中では特に問題は無かった。
「つまりお肉の力です」
「そ、そう」
結論づけると、もう一切れ口へ運ぶ。もう入らないシャルロットはお茶のカップを手に話を振った。
「そういえば、貴方の出身はフィルエス大森林で良いのよね? 私まだ行ったことが無いんだけど、どんな所なの?」
「はい。……故郷での食事は木の実や野菜が主だったので、それらはもう飽きました」
それは見ればわかるわよ、と苦笑しつつ。でも甘味には興味が向かないのね、と疑問符を乗せれば、そういえばそうですね、と相槌を打ち。2人は時間一杯食事と交流を楽しむのだった。
―・―
キーゼとネーヴェはあれから数曲踊って、今は乾いた喉を潤している。疲れを自覚しなかったのではないが、この瞬間を終わらせたくないと感じていた。
「勘違い、してしまってもよろしいので?」
キーゼがふと囁く。それが先ほどの問いの答えだと、ネーヴェには理解できた。どのように応じられるのか、聞かなかった事にでもされるのか、あの後もずっと気に掛けていたのだから。
「あなたが私のことを、大切に想って下さるのなら」
グラスを掲げて2人は微笑を交わす。
●
「そろそろ終わりの時間かな。楽しい時間は過ぎるのが速いね」
竪琴をつま弾く手を休めたキオルティスが言う。早めに帰ったものもあり、まだ話したりないものもいるようだが。本物の夜会と違って夜遅くまで開くわけには行かない。なにせ、明日は普通に授業もあるのだから。
「次が最後になるかしら」
「ふむ、最後はどんな曲が良いかな……?」
「でしたら、一つお願いがあるのですが」
ロゼットとキオルティスの2人に、ノックスがそう述べた。今日は王国の学園での舞踏会だから、彼は故郷の楽曲を引こうとはしなかった。けれども、会場を見れば同郷の者も幾分かいる。まだ故国は失われていない。忘れるなと、そこにいる同胞にも、そして他の者にも知らしめたい。
「……なので、故国の曲を弾きたいのです。無論、私一人で構いません」
厄介な事になるかもしれないと思いそう告げた。が、今宵の演奏者たちはシグモル火山の神官と流浪の詩人。帝国と王国の壁をさほど気にしなかった。同郷でない者の手を借りる事に多少の気おくれは感じるが、大勢へ届けるためには合奏する方が良い。
「では、この曲を」
在りし日の帝国でよく聞かれた勇壮な曲が流れると、場内のざわめきが一瞬だけ途切れた。その一瞬にそれぞれが何を思ったかは壇上からでは分からないが、その音は確かに届いたのだ。
―・―
「皆、今日は良く働いてくれた。舞踏会の成功は君たちの尽力によるものだ。礼を言う」
招待客が去り、後片付けに残る裏方へトマスが言葉を掛けた。自分も一緒に手伝うと言い出さない程度には偉そうなのだが、謝意を示す程度には偉ぶらない微妙な塩梅だった。
「本当に平和で何よりでした」
最後まで気を抜かなかったイヴェールがようやく一息入れている。準備があれば片付けがあるのがバランスだ、などとハッタは飾られていた生花をまとめて花束にしているようだ。最後まで残って作業する皆へは、綺麗な花の余録があってもよいだろう。
「これは美味しいや。ダンスとかは全然だけど、食事のためだけに行きたいくらい」
エルゼリオが手付かずの残りを賄い代わりにつまんでいると、エルシーもチョコをひとつ手に取り。
「お腹空いたよね? あーん」
「ん。ありがとです」
食べさせてもらったハルが八重歯を見せた。片付けに手を貸さない癖に残っているトマスへエリオンが近づいていく。
「あの、トマスはフォルジェ家って知ってる? ……あ、ううん、何でもないんだ」
「失礼した。我が家の歴史にも関わる名前故につい、な」
その家名を聞いたトマスが顔を顰めるので取り消そうとしたが、トマスの方が詫びを入れた。ダンテ家に咎があったかは定かではないのだが、誰かが責任を問われねばならない事件だったそうだ。
―・―
なお、最後になるが。アリエッタの覚悟にもかかわらず、カナンは「今日のララベル、男装してる? 仲の良い姉妹みたい」などと勘違いしたままだった。業を煮やしたアリエッタに「ララベルとあたしは女性同士じゃないからね!」とはっきり言われるまで誤解は解けなかったことを記しておこう。
マスターコメント
イベントシナリオ(50人)普通 報酬:標準50 / 20〜50人
2021年05月29日 01時45分11秒 公開
参加者
ハッタ・ムラムラ
イヴェール・アーチボルト
ヨル・スレイマン
ゲルダ・クライン
コルネリウス・アーラ
アンネエルカ
ゼラルム・エルホワイト
サニー・フォン・オルライト
エルゼリオ・レイノーラ
ナハシュ
リサ・ベイカー
テス・アウレア
ヴィルヘルミナ
ルルト・アーキス
レティシア・R・クラティアス
- イェレミース トゥラ リディリディ
イズレンディル・パラリム
ノックス・マグナ
マリイ・パルティス
サフィラ・アズラク・ヴォルファング
ロイ・アウレア
セヴラン・クアルト
アルマ・ヴァレンタイン
ララベル・サン・ディーベル
ゴルバルティア
サマエラ=フォリウム
ロゼット
- キーゼ
シャルロット・ド・オーシュ
クレア・エクレール
キオルティス
セロンガード・シュタインドルフ
アルト=ミルドレッド=バ・ロッサ
アーシェル・G・クライン
アリエッタ
ナハト・シュライバー
エルシー・サリバン
ハル・チフ
エヴァン・ピオネロ
ネーヴェ・グラヌローザ
ティト
- スヴァン=ウォルフ=ユーウェン
エル=バ=ノイアン
シルヴィア・A・カペル
ハーヴィ
エリオン・ザ・スターシーカー
ユズ
ライオネル・ギシュム
- イデア
- ヴェローナ ディ リヴィエラ
相談掲示板
アルトよ ………誰か一緒になにかしよ()
ハーヴィだよ、宜しくね。 あっ、アルトだ! ね、良かったら一緒に何かしよ!
え、ハーヴィ いいの?私はいーけど…
ふふっ、実は君がいるのを見て、もし予定が無ければ声を掛けたいなって思ってたんだ。 君さえ良ければ僕は喜んで! 後でお手紙送るね。
昼に出たのにあっという間に埋まってしまった…すごいな ウォーリアのノイアンだ。まあ適当にフラフラしているので相手が見つからないといった場合に声をかけてくれ
シルヴィアだ。今宵は楽しもう。 「【2】夜会 舞踏」でサフィラをエスコートさせて貰う予定だ。 もし一緒に踊ってくれる人がいたら是非踊って欲しい。 折角の夜会、皆で踊った方が楽しいからね(サフィラも了解してくれてるよ)。 ただ……実は、私の実家は王党派なんだ。 だからといって依頼で何かするつもりは全く無いんだけど、プレイングには書くつもり。 今回の依頼なら特に問題はないとは思うけど、一緒に踊ってくれる人の不都合になると 悪いから先に書かせてもらった。それでも良ければ是非一緒に楽しもう。 タグは【踊星】にするよ。 >ノイアン 連続でお誘いするのは申し訳ないかなぁと思いつつ。 青い瞳の君、良ければ一緒に夜会を楽しみませんか?(少しおどけて←) 難しい場合は遠慮なく言ってね。
派閥か…大変そうだな >シルヴィア いいのか? 嬉しいし、ありがたいことだ。 子熊亭、祝祭とあんたのおかげで踊りの練習もつめたし、舞踏スキルでもつけていこうか… ともあれ、他の参加者も集まれるようにしてくれるのは助かる。お邪魔させてもらおう。
ヴィルヘルミナです。今回はよろしくお願いします。 今のところ予定は未定ですね。どうしようかなと。踊るか裏方か。 私自身は派閥とかはあまり関係ないと思っているのですが、ただの平民ですしね。 友人が王党派筆頭の家柄なのでそちら寄りに見られてはいそうな気はします。
>ノイアン 快諾ありがとう。また一緒に踊れるのが嬉しいよ、改めてよろしくね。 子熊亭の依頼は間を空けてまたお願いしたいなぁ……カペル領の依頼も← そしてこれはノイアンに踊りの上手さで抜かれるパターン(楽しそうに笑いながら) >ヴィルヘルミナ もし踊る場合は是非来てくれると嬉しいな。 気が向いたらよろしく頼むよ。
No.10
シーフのリヴィエラだ。 とりあえず勢いで入ったので予定が未定だが… 同じような状況で、かつ誰かと行動したいという者は遠慮なく声をかけてくれ。
エルフのイズレンディル・パラリムと申します。 宜しくお願い致します。 コルネさんと夜会の舞踏に参加する予定です。 踊られる方は沢山いらっしゃるようで楽しみです。 【踊星】も素敵な舞踏になりそうで楽しみにしておりますね。
折角の夜会だからね。積極的に誘わせて貰うよ← >リヴィエラ 初めまして。もしまだ予定が決まっていないなら、良かったら一緒に踊らないかい? ただ同じような状況という訳ではないし、ペアで踊りたいという事もあると思う。 その時は遠慮なく断ってね。 >イズレンディル 久しぶりだね。なるほど、君はコルネリウスとデートか。 ふふ、絵になる二人じゃないか。甘い物語になりそうだね(にやりと笑いながら←) リプレイを楽しみにしているよ。お互いこの機会を楽しもう。
さて、今回はよろしくお願い致します。 僕は今回ネーヴェ氏のエスコートになりますので。 恐らく【2】ですかね
ハッタだ。 世話になる。
No.15
>シルヴィア ありがとう。本当に無計画できてしまってね…凄い勢いで埋まっていったから背後が慌てていて。 そうだな…であれば、出発前日の夜までに相手が見つからなければお邪魔させていただこう。 特にペアで過ごすこだわりはないんだが、ああ言った手前、な( 感謝する。
リサ・ベイカーです。 お友達と、【4】で、給仕をさせて頂きますね。 よろしくお願いします。
ロゼットよ。よろしく。雰囲気につられて参加してしまったわ。 【4】でお手伝いを考えているけど、演奏を考えてる人は居ないかな。 生演奏の方が雰囲気が…とも思うけど、ひとりでは難しそうだし。
にゃ!サフィラだよっ! シルヴィが表明してくれた通り、あたしは【2】でシルヴィにエスコートしてもらうよっ! あ、【踊星】タグに参加したい子はいっしょにおどろー♪
No.19
リディリディと言います。 よろしくお願いします・・・。 踊ることもできないですし、給仕などもしたことがないので・・・。 あの・・・、【1】でお料理を頂いていると思います。
リサさんとロゼットさんは給仕の予定なのですね。 当日お世話になりそうですね。お会いできるのを楽しみにしております。 >シルヴィアさん お久しぶりですね。歩兵団の初陣以来です。 ふふ、ありがとうございます。折角の舞踏会ですからね。私も楽しませて頂く予定です。 お互いに良い時間となる事を願っておりますね。
キオルティス。キオでもルティスお好きに。今回は宜しくね。 >ロゼットさん 俺は演奏を予定してるよ。折角なら一緒に生演奏、どうかな?
コルネリウスです、よろしくお願いします。 イズさんとご一緒に、夜会に参加する予定です。 皆さんも素敵な時間が過ごせますように。
>キオルティス あ、居た。やってみましょうか。楽器は別々にしたいのだけど、 希望はある?私はできたら鍵盤、同じならまた考えるわ。 >イズレンディル こちらこそ。ふたりの様子、楽しみにさせてもらうわ。
>ロゼットさん では、ご一緒のほど、宜しくお願いするね、レディ(微笑 因みに俺は竪琴(弦楽器)と鈴(打楽器)になる…かな。 いつものスタイルだと…だけれど。 鈴は足首に付けて舞うんだよ(にっこり ロゼットさんの鍵盤楽器は何になるのかな?
盛り上がってきたね。皆が楽しい時間を過ごせますように。 >リヴィエラ 本当にすごい勢いで埋まったよね(苦笑 大歓迎だよ。気軽に参加してくれると嬉しい。よろしくね。 >サフィ サフィ、一緒に遊んでくれてありがとう。 楽しくエスコートさせてもらおう。当日はよろしく頼むよ。 >共通プレイング --- 【踊星】 アドリブと絡み歓迎 【2】に参加。衣装については各自のプレ参照 皆で舞踏を楽しむ --- 今の所、必要な部分だけ書いた感じになってるよ。 何かあれば遠慮なく言ってね。
物凄い人数だな…… (チョコを用意 俺は主に【3】で、程々に【1】をする予定でいる。
>シルヴィ えへへ、こちらこそよろしくねっ! お誘い受けてくれて嬉しいよっ! >コルネ&イズ にゃ!二人も舞踏会に参加してたんだねっ! お互い楽しい時間になるといいねっ!
ゲルダと申します。よろしくお願いしますね。 ええと、リサちゃんと一緒に【4】の給仕のお手伝いをする予定です。 皆様が楽しく夜会に参加できるように、頑張りますね。
No.29
イデアと申します。よろしくお願いいたします お相手は居りませんが……せっかくですから【1】か、【2】で舞踏を シルヴィア様の提案なされた【踊星】タグを使用させていただこうかと
>キオルティス 鍵盤(大型)の予定だから…ピアノっぽい楽器ね。 まだピアノは無いかもしれないから、マスターにお任せするわ。 それじゃダンスの18時から、よろしくね。
こういう所に参加する機会自体珍しいですし、折角ですから踊ってみますか。 【踊星】に参加される方はよろしくお願いしますね。
エヴァン・ピオネロです。よろしく…お願いします。 睡狼の皆さんと【1】か【2】へ行きますが まだ決まってない人が多いので…先に決まったぼくだけ…挨拶に来ました。 アルマさんと【2】へ行きますね。 身長差48㎝あるので…小柄なぼくでも大人気分になれます! どうやって踊るかを考えるのが楽しいです。
ヴィルヘルミナ、【踊星】に来てくれてありがとう。 一緒に踊れて嬉しいよ。改めてよろしくね。 イデアも是非来て欲しいな。勿論イデアの都合次第だけど、 【踊星】に踊りに来てくれるようこっそり願ってるよ← エヴァンも久しぶり。子熊亭の依頼ではお世話になったね。 君達のダンスも楽しみにしてるよ。
イヴェール・イリュジオンです。 【3】か【4】で検討してますので関わる事がありましたらどうぞよろしくお願いいたします(ぺこり)
オーシュ家のシャルロットよ。 多分【1】で程々に雑談でもしてるかなー、もし会ったらよろしく。
シルヴィアさん、声掛け…ありがとうございます。 子熊亭は…ぼくもとても楽しかったです。改めて発案ありがとうございました。 今回は会場に沢山の花が開くのだろうな…って【踊星】の方々の踊りも楽しみです。 絡み自由とするので、皆さんとの関わり合いも出来たら良いな…その時はどうぞヨロシクです。
>ロゼットさん 了解。ピアノにもハープシコードにもなり得るワケだね。 俺は手持ちの竪琴でロゼットさんの鍵盤楽器とのハーモニーや 足首の鈴での軽やかさを出せたらな…と思ってるよ。 曲調だけでも決めておいた方が良いかな?普通にワルツだけじゃ つまんないよね!ちょっと色々探してみようかな。 それじゃ時間厳守でレディと共に魂の音色を奏でよう。
アルマだよ、どーぞよろしくー 【2】でエヴァさんと踊ろうかなと 夜会で踊る機会なんてなかなかないから緊張するー… その前に着られるドレスのサイズ…あるかな…
>エヴァン こちらこそ反応ありがとう。子熊亭の依頼、楽しんで貰えたなら幸いだ。またリクエストをしてみたいと思ったよ。 本当かい? 【踊星】も絡み自由になっているから、君達とも関われたら良いなぁ。エヴァンもアルマもその時はよろしくね。
えと、ボク、ユズ。……ヒト、多い、……緊張……。でも、頑張る……。 【1】の、予定。……会場で会ったら、宜しく。
アーシェルだ。よろしく頼む。 楽しい夜になるといいな。 友人達と【2】でダンスを楽しもうと思ってる。 社交ダンスは久しぶりだが、体が覚えてるだろうしなんとかなんだろ(
ゴブリン、サマエラだ。よろしく頼む。 私は【3】で、事前準備を手伝おう。 軽食の用意中心にしようかと思うが……他でも何かできることはないかと、考え中だ。
リザードマンのライオネルだよ。よろしくね。 チョコが用意されてる?やったー!(なぜか置いてあるチョコをもぐもぐ) 俺は友達と【1】で楽しむ予定! 皆で思いっきり楽しんじゃおうなー!
⋯⋯ヒューマンのヨル。 いい夜になるといいね。 知り合いと【1】に行く予定だ。 こういう会食ってどんなものが出るんだろうな。楽しみ。
もうすぐ出発になりますね。 皆さんとのアドリブや絡みは歓迎としておりますので、何らか接点があると嬉しいなと思っております。 いいヨル…ヨルさんだけにでしょうか? ふふ、勿論冗談です。当日は皆さんとお会い出来るのを楽しみにしておりますね。 >サフィラさん 直前になってしまってすみません、こちらからご挨拶だけ入れさせて頂きました。 お会いできるのを楽しみにしておりますね。
>イズ君 (ババっと骨頭を被る)そういうつもりのあれではないが!!!? ちょっと気にしてたのになんで拾う⋯⋯!() はいはい、せっかくの楽しい夜会だからね。 皆にとっていい日になるよう神に願っておこう。当日はよろしく。