【黄金像】華やかなるかな、芸術祭(表)
おおくまねこ
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シナリオID:2961
オープニング
●黄金像、完成
「ウィリアム王子……なんとお美しい……」
中庭のベンチに腰掛けたパーシアはうっとりと呟いた。中庭には、今、彼女が恋焦がれた英雄の像が立っている。そう、パーシアが選挙公約として掲げた「ウィリアム黄金巨大像」がついに今月完成したのだ。
真鍮製の王子の像は剣と書物を掲げ、青い宝石の瞳で勉学に励む学園生達を見守っている。
ちゃちゃちゃーんちゃーんちゃーん。ちゃちゃちゃちゃーん。
中庭にある時計の針が15時を示すと、時計の中に仕込まれた紋具によって王国でポピュラーな音楽が奏でられた。その音楽のリズムに合わせ、ウィリアム黄金像の腕がガコン、ガコン、と動きだした。これぞ、黄金像の目玉ギミック、ドワーフの職人さん渾身の腕稼働機能である。他にも、ウィリアム黄金像には目からビームが出る機能や、地下シェルター機能など、さまざまな凝った仕掛けが施されているのだ。
「パーシア様、ここにいましたか」
「ラズリー」
懐刀の少女に声をかけられ、パーシアはそちらの方を向いた。
「そろそろ、完成祝いの芸術祭の打ち合わせの時間ですよ」
「ええ、すぐ行きますわ」
パーシアはラズリーの後を追い、職員室へと向かった。
来週には、ウィリアム黄金像の完成を祝し、芸術祭が開催される。入学式直後の時期だけあり、登校する学園生の数はそれなりの規模にはなるだろうが、学園の文科系クラブの活動を見学する良い機会にもなるだろう。
●来訪者達
芸術祭当日。パンクリアース学園の中庭では黄金像の周りにいくつものブースが作られ、文化系クラブや、ドワーフの名工、ヴェルクリエの芸術家などの作品が展示されていた。学園には完成した黄金像を一目見ようと、多くの来訪者が駆けつけている。
「ここが王都の誇る学び舎、パンクリアース学園か……まるでダンジョンのようだな……」
蒼炎の魔女ラピスラズリは学園の威容に圧倒されていた。彼女は冒険者ギルドに籍を持っているため、聴講生として学園にやってきたのだ。もっとも、学園に足を踏み入れるのは今回が初めてなので、なんちゃって聴講生だが。
「神に近いというウィリアム王子の顔を見に来たのだが……中庭は一体どこだ?」
ラピスラズリは初めて来る巨大施設で道に迷ってしまい、すっかり迷子になっていた……。
「ふむ、完成したんだね、ウィリアム黄金像。モデルとなった奴はともかく、巨大建造物というのはやはりそれだけで芸術的な趣がある。ボクも欲しくなってきたな……」
黄金像に多額の出資を行った美術商、ベリアルはウィリアム黄金像を正面から眺め、うんうんと頷いた。
「いらっしゃませー! 新刊あります! どうぞ見てってくださいませ!」
「お、あれはドゥジンサークルだな」
ベリアルの視線の先には、声を張り上げているドゥジケット準備会の売り子の姿があった。
「さて、せっかく王都まで足を運んだんだ。めぼしい作品がないか、しっかりチェックしておこう。才能ある作家はしっかり買い支えないと」
ベリアルの背中には、なんでも入りそうなやたらでかいバックパックが背負われていた。
「ウィリアム王子……なんとお美しい……」
中庭のベンチに腰掛けたパーシアはうっとりと呟いた。中庭には、今、彼女が恋焦がれた英雄の像が立っている。そう、パーシアが選挙公約として掲げた「ウィリアム黄金巨大像」がついに今月完成したのだ。
真鍮製の王子の像は剣と書物を掲げ、青い宝石の瞳で勉学に励む学園生達を見守っている。
ちゃちゃちゃーんちゃーんちゃーん。ちゃちゃちゃちゃーん。
中庭にある時計の針が15時を示すと、時計の中に仕込まれた紋具によって王国でポピュラーな音楽が奏でられた。その音楽のリズムに合わせ、ウィリアム黄金像の腕がガコン、ガコン、と動きだした。これぞ、黄金像の目玉ギミック、ドワーフの職人さん渾身の腕稼働機能である。他にも、ウィリアム黄金像には目からビームが出る機能や、地下シェルター機能など、さまざまな凝った仕掛けが施されているのだ。
「パーシア様、ここにいましたか」
「ラズリー」
懐刀の少女に声をかけられ、パーシアはそちらの方を向いた。
「そろそろ、完成祝いの芸術祭の打ち合わせの時間ですよ」
「ええ、すぐ行きますわ」
パーシアはラズリーの後を追い、職員室へと向かった。
来週には、ウィリアム黄金像の完成を祝し、芸術祭が開催される。入学式直後の時期だけあり、登校する学園生の数はそれなりの規模にはなるだろうが、学園の文科系クラブの活動を見学する良い機会にもなるだろう。
●来訪者達
芸術祭当日。パンクリアース学園の中庭では黄金像の周りにいくつものブースが作られ、文化系クラブや、ドワーフの名工、ヴェルクリエの芸術家などの作品が展示されていた。学園には完成した黄金像を一目見ようと、多くの来訪者が駆けつけている。
「ここが王都の誇る学び舎、パンクリアース学園か……まるでダンジョンのようだな……」
蒼炎の魔女ラピスラズリは学園の威容に圧倒されていた。彼女は冒険者ギルドに籍を持っているため、聴講生として学園にやってきたのだ。もっとも、学園に足を踏み入れるのは今回が初めてなので、なんちゃって聴講生だが。
「神に近いというウィリアム王子の顔を見に来たのだが……中庭は一体どこだ?」
ラピスラズリは初めて来る巨大施設で道に迷ってしまい、すっかり迷子になっていた……。
「ふむ、完成したんだね、ウィリアム黄金像。モデルとなった奴はともかく、巨大建造物というのはやはりそれだけで芸術的な趣がある。ボクも欲しくなってきたな……」
黄金像に多額の出資を行った美術商、ベリアルはウィリアム黄金像を正面から眺め、うんうんと頷いた。
「いらっしゃませー! 新刊あります! どうぞ見てってくださいませ!」
「お、あれはドゥジンサークルだな」
ベリアルの視線の先には、声を張り上げているドゥジケット準備会の売り子の姿があった。
「さて、せっかく王都まで足を運んだんだ。めぼしい作品がないか、しっかりチェックしておこう。才能ある作家はしっかり買い支えないと」
ベリアルの背中には、なんでも入りそうなやたらでかいバックパックが背負われていた。
解説
舞台:パンクリアース学園の中庭
目的:ウィリアム黄金像完成祝いの芸術祭を楽しむ。
来客として芸術祭を楽しんだり、出展者側として芸術関係(文科系作品の展示・発表、ドゥジンシ即売会、文科系クラブの新人勧誘など。料理なども含まれる)の活動を行いましょう。文科系クラブにとっては活動を内外にアピールするチャンスでもあります。
●ウィリアム黄金像
学園の中庭に設置された台座抜きで全長十メートルを誇る「冒険者ウィル」の巨大像。芸術祭の間は台座から入れる地下避難所も解禁されており、また、近くにベンチもある(祭の間は順番待ち状態)。1時間ごとに時報に合わせて両腕が稼働する。また、夜間は目から光線が放たれ、周囲を照らす。
●主な登場NPC
パーシア
公約でウィリアム黄金像を作った1222年度生徒会長。翌日に王子とのデートを控えており、とてもご機嫌。今なら無茶なお願いも安請け合いしてくれるかもしれない。
美術商ベリアル
パーシアとの賭けに敗れ、ウィリアム黄金像に出資した王国在住の異種族美術商。熱心に芸術祭を見学している。また、ドゥジンシにも理解があり、目に留まれば3冊ずつ購入して帰る。
機嫌さえ損ねなければ金払いのいい良客。
ラピスラズリ
非常に高い実力を持つエルフ・キャスター。『神に近い』と噂のウィリアム王子の顔見がてら、王国に遊びに来た。『鬼哭』の騒動で名前が世界中に知れ渡ってしまった為、冒険者ギルドに所属することで各国からのスカウトを躱しているらしい。ちなみに今回初めて学園に来たので、迷子になっている模様。
職人・芸術家達
黄金像建造に携わったヴェルクリエやドワーフ王国・その他の土地の職人達。本人不在で作品だけ展示されている者も多いが、王国の芸術を見学に来た者もいる。
※ラミアス、ウィーズル、アルベルティ―ヌ(ドゥジケット準備会の部長)、アリエスなどのおおくまねこ担当のリーンエス王国所属NPC(学園生でなくても、友人であれば招待可能)もお声がかかればリプレイに登場します。
マスターより
こんにちは。おおくまねこです。いよいよ黄金像連作も今月で完結となります。ミッション達成系の「裏」も同時に出ておりますが、こちらは芸術祭を楽しむ日常シナリオとなります。ご興味がありましたらよろしくお願いいたします。芸術祭を楽しみましょう!
※「表」が土曜日、「裏」が日曜日の出来事となるので、重複参加もOKです。
リプレイ
●
「おおー。立派な像ができましたね! しかし、このセンスはどうなんでしょう……?」
パンクリアース学園に登校してきたトーラは黄金像を見上げ、首を捻った。十メートル規模の立像は立派ではあるのだが、全身が金ぴかというのはなんか成金っぽい。あと、今は光っていないが、夜には目玉がぴかぴか光るとも聞いた。
「噂ではこの隣にレイウェスト様の像を作るという案もあったと聞きましたが……」
ト―ラはレイウェストの巨大像を想像してみた。
(赤く眼が光るレイウェスト様の巨大像……いや、さすがに無いですね。そもそも、今の帝国にそんな余裕は無いですし、そんなものを作る費用があるなら臣民のために使う方ですから……)
「王国のお金持ちすごい。こんなものを建てる生徒会長さんが居るなんて、凄いところに入学しちゃいましたね………」
ガコンガコンと腕を動かしている黄金像を遠目に見たトーラ(一年生)は、ため息をついた。
●
「造園も無論やったが……今日ばかりは僕の主担当はこの催事の方だ!」
ローザリカ・L・ディオールは今日は生徒会役員ではなく、ガーデニング愛好会の一員として行動していた。
(皆で作ったものを手に取って貰えるのは嬉しいし加工品だってガーデニングの副産物。入口は様々、花々に興味を持ってもらえるように力を尽くそう)
購買意欲に新入生の興味、予算に繋がるパトロン。欲しいものは山ほどあるローザリカである。ブースでは愛好会で作ったハーブや花を使った茶葉や茶菓子、ポプリの入ったぬいぐるみの販売と、喫茶室を展開している。貴族は造園や珍しい品種の花、平民は販売物と喫茶室で興味関心を惹く、というジュスト・ヴェルジーと考えた戦略だ。ちなみにローザリカのお気に入りの商品はなんといってもぬいぐるみである。
(手放すのが寂しくもあるが可愛がって貰えるといい)
ブースの近くを通りがかった客が足を止め、花の解説カードを読んでいる。読まれているカードは中庭に植えた花の開花時期や、花言葉について記載したローザリカ特製カードだ。
「いらっしゃい。ゆっくり見ていってくれると嬉しいな」
相方のジュスト・ジェルジーはローザリカと共に、来客達に声をかけた。彼は広い中庭の一画の造園も手掛けている。今日は薔薇を主とした華やかな中庭を愛好会の作品として公開しているのだ。愛好会の活動を説明がてらブースに誘導してガーデニング愛好会の広報をするのがジュストの役目である。
(土弄りをする貴族は少数だろうけれど、手入れの行き届いた庭や花、お茶に香りが良い物を好む貴族は派閥問わず多いからね)
「喫茶もあるんだ。花を見ながら、ぜひゆっくりしていってくれ」
ローザリカは茶葉に興味を持った来客を速やかに誘導していく。やはりというべきか、男性客はローザリカに引き寄せられている。ローザリカが思わせぶりな接客をしていることもあるが……。
「さて、と」
それについてはジュストも思う所もあるのか、暇になったタイミングでローザリカに後ろから抱き着き、声をかけた。
「ところで俺以外の男を誘惑するなんて、わざとかな? ロゼ」
●
「こんにちは、アルフィーさん。入部後初の活動は順調ですか?」
「やあ、ネーヴェ。来てくれたのか」
ネーヴェ・グラヌローザはガーデニング愛好会に入部したアルフィー・リッパーの様子を見に来ていた。アルフィーはすぐに紅茶を用意し、ネーヴェを出迎える。ジュストとローザリカは二人に気を遣い、さりげなくその場を離れた。
「ネーヴェのおかげで楽しい部活を行えているぞ、ほら、ローザリカ先輩おすすめのハーブティーだ」
「ありがとうございます」
花の香りに癒されながら、アルフィーのもてなしを受け、ネーヴェの胸が暖かくなる。
「そろそろ休憩時間に入るから、一緒に回らないか?」
「まぁ、でしたら是非。私も色々見て回りたいと思っておりましたの」
アルフィーがネーヴェを誘うと、ネーヴェはにっこりと笑った。
●
「この間、途中で逸れてしまいましたよね。それで、今日も人出が多いようですから……あの、良かったら、繋ぎませんか」
「も、もちろんだ!またはぐれたら困るからな」
そう言って彼女の手を取り、アルフィーは照れくさそうにした。
散策中、どこかのサークルのドゥジン即売会が目に入ったネーヴェは一冊手に取ってみた。
「これは実在の方々をモデルにした創作物語なんですね。……? レイウェスト様がウィリアム王子と……? 王女は……?」
ドゥジンシの表紙では、なぜかウィリアムが花嫁衣裳の皇子を抱き上げ、悪者っぽい笑みを浮かべていた。
「内容はさておき、書き手の夢が本の中では叶えられるのは幸せなことだな」
……。
「ネーヴェと一緒に過ごしていると胸が暖かくなる。またこうやって色々見ような」
「自分の想いを叶える……確かに、素敵な事ですわね。アルフィーさんが主役の物語、読んでみたいです」
「た、楽しくもなんもない物語だぞ! 俺なんかより……いや、ネーヴェと一緒に冒険している話とか楽しいかもしれないな!」
自分が主役の話と言われて顔を真っ赤にするアルフィー。
「はい。今度、物語だけでなく現実でも、一緒に冒険致しましょうか」
●
「ウィリアム像、完成したのですね……!」
コルネリウス・アーラは完成した黄金像を見上げ、目も丸くした。
(最初は信じられませんでしたけれど、こうして実物を見るとなんだが感慨深いですね)
コルネリウスはパーシアにも声をかけ、ガーデニング愛好会のブースでお茶を飲みながら、像の完成を共に祝うことにした。
「パーシアさんも、公約の達成と像の完成、おめでとうございます。なんだかとてもご機嫌ですね?」
「ありがとうございます。コルネリウスさん。ええ、実は明日の式典の後、私が! 王子に学園を案内するのです!」
つまり、デートをするということらしい。ちょっとテンションがおかしいが、これは仕方ないだろう。
「憧れの人とのデート、素敵ですね。応援しています」
「ありがとうございます。ウィリアム王子を落とせるように頑張りますわ!」
(だ、大丈夫かな?)
●
「さて、私は新聞部の新人勧誘をさせて頂きましょう」
パーシアと別れた後、コルネリウスは新聞部のブースで新人勧誘に励んでいた。顧問の許可ももちろん取っている。壁新聞の最新号は黄金像特集だが、せっかくなので過去の記事も全部持ってきた。そしてさりげなく、入部届も置いてある。
「こんにちは。これ、お一人で作ったんですか?」
「こんにちは! まさか。他にも部員はいますよ。みんなで作りました」
新聞に興味をもってくれた生徒がいれば、コルネリウスは新聞作成の手順や学園のイベント告知などやりがいや楽しさがある事を伝えた。そんな広報活動の甲斐あってか、男女三人組の学園生が後日入部してくれた。
●
(芸術祭……私、学園生じゃないですけど、一応黄金像建立にちょっとだけ、たぶん0.0001%くらいは協力もしましたし……一応、いても大丈夫ですよね……? 場違いじゃないですよね……?)
中庭にのすみっこに現れたラティア・ミゼリアは大型の弦楽器を手に、挙動不審な動きを披露していた。
「大丈夫ですよね……事前にちゃんと許可はもらったし……つまみだされたりしませんよね……?」
ラティアは学園生ではないが、中庭のすみっこで演奏してもいいか生徒会経由で学園に尋ねてみたところ、OKがもらえた。そして今、中庭のすみっこに自分のスペースを確保しているわけである。
「演奏するなら、やっぱり王国で親しまれているような曲の方がいいんでしょうか。むしろ、みんな聞きなれているから、他にした方がいいのかしら……? うーん……」
悩んだが、結局自分が一番得意な故郷の音楽にした。
「おお……この見事な演奏は、あのエルフの女性が……?」
「でかい……」
本人の自信の無さとは裏腹に、卓越したラティアの演奏力(+α)は道行く人たちを魅了した。
「素晴らしい演奏でしたわね、ラティアさん」
「あっ……生徒会長さんも聞いてたんですね。ありがとうございます」
パーシアや聴衆達に拍手され、ラティアはおどおどと頭を下げた。
●
「本当にできたんだなぁ」
そびえ立つ黄金像を見上げ、ストレガ・L・リベルガストラは感嘆の声を上げた。
「まさか機械像とは思わなんだが。これも歴史資料になるのだ」
ひとしきり黄金像を見た後、ストレガはドゥジンシ即売会に出店側として参加することにした。ストレガが書いたものは娯楽作品ではなく、資料集的なものだ。魔獣とその料理のイラスト、レシピと味のコメント付きの、ストレガがこれまで討伐・解体・調理した魔獣について纏めた資料だ。
「ほう、これはなかなか……」
「実に貴重な資料じゃないか!」
ストレガのドゥジンシは学園生にはあまりウケなかったが、教師や、芸術祭を見学にきた学者には高く評価され、見事完売となった。変わった客といえば、黒い竜人らしき人物だろうか。
「めでたく売り切れになったことだし、私も買う側に回るのだ」
ストレガは食やヒトの生活に関係するものや歴史資料をできるかぎり購入した。
●
「芸術祭となれば、ドゥジン教徒としてやる事は決まってます! 新刊を! 出さなければ!」
シェルリア・リトヴァールはコスプレ衣装に身を包み、ドゥジケット準備会の模擬店の売り子をしていた。
「あ、今回は学園での活動なので健全本です大丈夫です」
学園生はほとんどが未成年だ。過激なドゥジン本など販売していては、教師のガサ入れで御用となってしまう。というわけで、シェルリアが今回書いたのは黄金像のモデルであるウィリアム王子と、学友のラミアスのハートフルな学生生活を描いたほのぼの本だ。
――ウィリアム。あそこでお弁当を食べましょう。
――ありがとうラミ。君が作ってくれたのかい?
――ええ、貴方の好きなタコさんウィンナーですよ(ニコッ)
「うん、健全ですね! ご学友のラミアス先生との楽しい学園生活を描きつつ学園の紹介や案内にもなる構成にすれば先生も文句は言わな……じゃない、学園の益にもなるでしょう! 今までの鍛練の成果を御覧じろです!」
シェルリアの画力は神がかっており、新刊は女性学園生を中心に飛ぶように売れた。
「ベリアルさんも私の新刊買っていってくれたのはちょっと意外でしたね。まさか同志だったとは!」
●
ギギギ……がしょん。中庭の時報に合わせ、ウィリアム黄金像の腕がゆっくりと稼働する。その姿を、黄金像建造の立役者であるナハシュとヨル・スレイマンが見守っている。
「へえ、良い動きするじゃねえか!」
ウィリアム黄金像を見上げ、ナハシュはご満悦だった。
「ついに完成したね。本当にできるとは思わなかった。最高にかっこいい」
ヨルも黄金に輝く像を見上げ、感慨深げに呟いた。
(これを礎にいつか必ず乗り込める人工ゴーレムとかできるはずだ。未来は明るい)
「……でも何でウィルの巨大像なんだ。ウィリアムの巨大像だろ?」
「ああ、なんか政治的理由だっけ? 君にとってはウィリアムもウィルも変わらなそうだが」
「ふーん、なんかよくわからねえけど、まあいいか!」
ナハシュは、ヨルの予想通り、適当に返事をした。
「さて、少し付き合ってくれよ、ナハシュ。とりあえずこれにサインしてくれ」
「なんだ、これ? ここに名前を書けばいいのか?」
ヨルがナハシュに渡した紙には、「ドゥジケット準備会入部届」と書かれていた。
●
そして式典終了後。二人は新入部員として、シェルリアや他のドゥジケット準備会部員と共に中庭でドゥジンシ即売会の売り子をしていた。
「へい、らっしゃい!」
ナハシュはヨルに流されるままに入部届にサインし、ついでに手渡されたメイド服に着替えていた。なんでも、ヨルによれば、ドゥジンシの売り子と言えばメイド服らしい。
(相変わらずよくわからない本売ってんなあ。なんで男二人でマッパなんだ?)
「小説ばっかだな。レシピ本とかねえの? 肉のがいい」
「ああ、それなら、他のサークルが出していたよ。魔獣のレシピ本」
「お、マジか! あとで俺買ってくる! ……あ、そういえばヨル。なんで入部したんだ?」
「せっかくだから一作書いてみたいと思って。ナハシュも何か書けばいいのに。君はこういうの結構上手くやると思う」
「俺も書く? 何で?」
●
「こんなに凄い物が……人の手で作れるんだな……」
黄金像を見上げたレピド・クロサイトは感嘆の声を漏らした。巨大黄金像をじっくりと眺めた後、レピドも中庭巡りモードに入る。
「さて、『救世主伝説フォルトゥナ』の新刊はあるだろうか……」
新作への期待に胸を膨らませつつ、レピドは以前立ち寄ったドゥジンサークルにふらふらと近づいていく。
――シラー砂漠、クリエスター山脈、ディズル大湿地帯。激戦の地を着々と平定し、学園の分校を増やしていくフォルトゥナ。そんな彼女に「ゴールディにも分校を作るべし」という王命が下る。学びたいもの全てに教育を……。気高き理想を胸に秘め、ブラックデスの用心棒となったフォルトゥナはゴールディの浄化(物理)に挑む。
「今度はゴールディが舞台なのか……楽しみだ」
レピドは迷わずに新刊を購入した後、サークルの売り子を手伝うことにした。しばらく猫耳メイドをしていると、見覚えのある男が店にやってきた。
「……ベリアル?」
「やあ。前にどこかで会ったかな?」
「アンタとエドゥノーグに潜った」
「ああ、なるほど」
(祭にいるのは解るが、まさかここに来るとは)
「アンタはどんな本が好みなんだ?」
レピドは興味本位で聞いてみた。するとベリアルは、
「作品としての完成度が高いものだね。あと単純にレアな物も収集対象だ。ドゥジンシに限った話ではないが。ジャンルにはあまり拘りはない」と答えた。
「なるほど。……それでアンタは何を買う?」
「フォルトゥナの新刊を三冊くれ」
「分かった」
レピドはくるりとベリアルに背中を向けると、奥にしまってあった新刊を持ってきた。
「おまちどう」
「……ああ、どうも」
ベリアルを見送った後、レピドはぽつりと呟く。
「彼もこの作品のファンだったのか……なぜ三冊なんだ?」
●
「ついに完成したのか、黄金像……」
ルイドは聴講生として芸術祭を見学に来ていた。
「これはドワーフ王国、こっちはヴェルクリエの芸術品か」
壺や陶器に始まり、ガラス細工や絡繰り仕掛けの置物など、多様な作品が展示されている。ルイドは一つ一つ足を止めながら、ゆっくりと展示物を見て回った。
「絵ってのも悪くねぇもんだな……特に風景画が気に入った」
(印象深かった景色を絵にして残しておけたら、後で振り返る助けになりそうだわ)
ルイドが特に心を惹かれたのはヴェルクリエの画家が描いた風景画であった。
「まだまだこの人生、先に進めば初めて見るものばかりだろうし、今のうちに練習してみるか……ん?」
絵画を眺めていると、見覚えのある男が黄金像に見入っているのが目に入った。
(ベリアル……確か、あいつは美術商だったか。そういや前に何度か目が合った気がするな)
無視をするのも悪いと思い、ルイドは挨拶をしておくことにした。
「よう。久しぶりだな、ベリアル。あー……覚えてるか分からねぇが、中層ボスの際に参加してた冒険者の一人だ。あん時は出資どうもな」
「! ああ、確かにその顔には見覚えがある。ルイド君だったかな」
「おう」
(名前も覚えられてたのか……意外だな)
ルイドは軽く会釈をし、中庭の散策に戻った。
●
「会長は公約を果たして立派だね。芸術祭も盛り上がってるみたいで何よりだ」
ルーンス・ラグネルは活気ある中庭の様子に満足げに頷いた。ひとしきり黄金像を見た後、ルーンスはドゥジケット準備会に顔を出した。今日はシェルリアや学園生の部員達、そして新入部員のナハシュとヨルがブースでコスプレ衣装で接客をしていた。
「やあ、みんな」
「あ、ルーンスさん」
「マリリン、これ、差し入れ。後で皆で飲んで」
「ありがとうございます、ルーンスさん」
ルーンスは代表として、親しいマリリンに差し入れの茶葉を渡した。
「全部一冊ずつもらえるかな。従業員に頼まれてるんだ」
「お買い上げありがとうございます!」
ルーンスは買った本は鞄に纏め、輸送箱へ収納した。
(この職人は優秀そうだから名前を控えておこう。後で生徒会長にも紹介してもらえないか聞いてみようかな)
ドゥジケット準備会のドゥジンシを買った後は、他のサークルのドゥジンシや木や銅、樹脂、硝子製の芸術作品などを見て回った。買い物していると、途中でベリアルともバッタリ遭い、せっかくなので名刺交換をした。
●
「改めて見ると凄いですね黄金像………! 稼働機能やビームをここまで実現出来るとはっ」
エフィルミアは感激していた。
「地下シェルターもあって実用性もバッチリ! 目からビームも暗闇を明るく照らすので防犯効果もありそう! さすがパーシアさん!」
公約を見事実現した後継者を手放しで褒めるエフィルミア。その近くでは、海神 江流が墨と筆で熱心にイベントの記録を付けていた。すぐ近くには元副会長のシルヴィア・A・カペルもいる。
(書紀として、この一大イベントの記録を残さないとな)
「エルさん、お疲れ様です! チョコ饅頭持ってきましたよ!」
「ああ、ありがとうエフィ。……うん、甘い」
エフィに差し出されたお菓子を口に放り込み、江流は微笑む。
「シルヴィお姉様もこんにちは!」
「やあ。流石、エフィは気が利くね。せっかくだから一緒に回るかい?」
にっこりとシルヴィが笑いかけると、エフィはぶんぶんと首を縦に振った。
●
「さて、せっかくだし何か買っていこう。東方のお菓子を頂く機会が多いから、私は菓子皿が欲しいな」
「シルヴィ姉様が菓子皿を欲しがる理由は分かりますよ。彼の手作りお菓子は美味しいですからね!」
にんまりエフィルミアが笑うと、シルヴィアは照れくさそうに頷いた。
「これは、なかなか趣があるな。竹細工というやつかい?」
辺境都市群の作家の展示コーナーにて、竹で編まれた菓子器に目を奪われたシルヴィアは江流に尋ねた。
「そうか、竹籠とか竹ざるとか珍しいのか。竹って素材自体がこっちじゃ珍しいからな」
「エフィはどれか気になるものはあった?」
「私が気になるのはくす玉花入れですかね! 丸くて可愛い! お花貰う事が多いから特別な花入れに飾りたいな……なんて」
「くす玉花入れ……とても美しい花器だね」
照れた様子のエフィルミアに、今度はシルヴィアがにやりとした。
「江流もあの子に何かプレゼントしてみるのはどうかな」
「あっちは貰い慣れてるだろうからな。ちゃんと印象に残る物を、ってなら自分で作るのがいいだろうか」
「器用だな……そんなものまで作れるのか」
自分で作るという江流に驚くシルヴィア。
「試作品でよければ二人にもやろうか?」
「良いのかい? 是非よろしく頼むよ」
「私もぜひシルヴィお姉様とお揃いでお願いします!」
●
「前に聞きそびれたけれど、(像への)会長の想いなど聞きに来たよ。像ともども学園の記録に残したいからね」
シルヴィア達と別れた後、江流はパーシアに会いに行った。
「まあ。書記さんったら。ならば、私もお答えしましょう。私のウィリアム王子への熱い想いを……」
今回はパーシアは江流のインタビューに答えてくれた。ほぼウィリアム王子へのラブレターみたいな内容になったが、ちゃんと像への想いも入っていたので、とりあえずよしとした。
「ありがとう、パーシア会長」
(この形での記録ってだけでも学園史では目立ちそうだが……これ、残していいのかな……)
後々、ウィリアム以外と結婚することになったりしたら黒歴史間違いなしである。江流おじさんはちょっとパーシアの将来が心配になった。
「さて、自分もやり遂げなければ、ね」
「ええ。書記さんと庶務さんの公約の実現も楽しみにしていますわ」
●
「皆さん。立ち止まらないでゆっくりと前進してください」
今日はたくさんのお客さんで混雑すると考えたダニエル・ヘリントンは、ウィリアム黄金像の前で交通整理をしていた。
「アイオーラ会長、本日はおめでとうございます!」
「ええ、ダニエル、あなたもありがとう。なかなか様になっていますわよ」
「ありがとうございます!」
通りがかったパーシアから最大級の賛辞を受け取り、ダニエルは満面の笑みを浮かべた。ダニエルのウィリアム衣装は本物そっくりだった。元々ダニエルは手先が器用なことに加え、何度もウィリアムのコスプレをしているので、段々クオリティも上がっているのだ。
……。
「そこ! どさくさに紛れての万引きなどという『だらし無ぇ真似』はするんじゃない!」
警備中に不審な男を発見したダニエルは叫んだ。
「捕まってたまるか!」
男は全力疾走で逃走を図った。しかし、授恵者であるダニエルのスタミナは底なしだ。中庭から出る前に男は追いつかれ、ダニエルに取り押さえられた。
「待ってくれ。俺は万引きじゃなく、痴漢を……」
「だからだよ。貴族に痴漢なんてしたら、腕を切り落とされてもゆがみねぇんだぞ」
フォールした男の耳元でダニエルが囁くと、男は大人しくなった。
●
「色々あったけどちゃんと完成したんだな」
イズル・M・ヴォルゴールはペルゼィックと中庭のベンチに腰掛け、黄金像を見上げていた。
「おう。本の装飾は俺の故郷の職人の仕事なんだぜ。……あと剣の束の硝子は俺が作った。あの硝子のカットに色艶、宝石に負けねぇだろ?」(題材的に迷いが凄かったが……)
「おおー、そりゃすごい」
二人がベンチで仲睦まじく過ごしている姿は、中庭にいっぱいいたドゥジン教徒達にも天啓を与えたというが、それはまた別の話である。
「これがジークの重要な功績になればいいな……もしかしたら代表作になったりして」
「おう。まあ歴史に残る建造物になるのは間違いねえからな。この仕事がピークってことにならねえように頑張ろうと思う」
「結構難しくない?」
「かもな。けど……」
ペルゼィックは自分で作った黄金像を剣の柄を見上げている。
「そういえばジークも他の展示も出してるんでしょ? 見せてよ」
「ああ、構わねえが……」
今回のペルゼィックの作品はガチめの硝子作品で、貴族を意識した展示だった。
「あれは辺境の荒野の砂を……色付は迷宮で取れる鉱石が……」
ペルゼィックが作品について饒舌に話すのを、イズルはにこにこと聞いていた。
「そういえば、うちの玄関のシャンデリアもジークが作ってくれたやつだったね」
すると、ペルゼィックは顔色を変えた。
「オイ、玄関に飾ってんのか!? てめぇの部屋で飾るって言うから格安で譲ったんだろ!? 恥ずかしいわ!」
「見習い初期の作品と思えないし、客人も褒めてくれてるぞ」
多分それはガラスが高級品な事もあるだろう。人の目には権力や財力、求心力の象徴として見えるのだろう。
「ホールから降ろせ!」
「でも、入口はあれがいいんだ。見てもらいたいんだよ。俺が見せびらかしたいの」
(俺の親友を自慢できるから)
「ぐぬぬ……」
●
「いい加減何としても殿下の風評被害の抹殺とウィリアムの尊厳失墜をなさねば!」
ベルク・オスマットの目的はウィル×レイネタをドゥジン界隈から駆逐することであった。
「ここは毒を以て毒を制そう。つまり、新しいドゥジンネタを提供するのだ」
変装し、一般学生のフリをして学園に潜入したベルクは、中庭でウィリアムの噂を流すことにした。
「ウィリアム殿下は幼女趣味である」
「殿下は愛しい者がおり、そのものが安全に学園で働けるよう口利きした」
「30過ぎても一向に結婚しようとしないのは、特殊な性癖の持ち主だからである」
モブパワーで気配を隠し、あることないこと吹聴して回るベルク。参考資料にウィル×ウィーズル本(男性向け)も買った。
「これでウィル×ウィーズルのドゥジンがトレンドになればよいのだが。さて、一仕事終えた後は焼き鳥でも食うか」
●
「パーシア様、おめでとうございます。こんなに早く公約を達成されるとは思いませんでした」
レティシア・レインフィールはパーシアに会いに行き、祝辞を述べた。
「ええ、力添えをしていただいた皆様のおかげです」
パーシアはとてもご機嫌だ。そこですかさず、レティシアはパーシアに頼み事をしてみた。
「優秀でお優しい生徒会長のパーシア様でしたら他の生徒会役員の皆様の公約達成の為にも尽力して頂けると信じております」
「えっ。……ええ、もちろんですわ!」
(もうやりきった感があったんだが。そうか、まだ任期は半年あったな……)
パーシアはニッコリと微笑んだ。
「パーシア様は明日は殿下と学園を回られるのですか?」
「ええ、王子に学園を案内するのです」
(当日興奮しすぎたり、逆に緊張してしまわれないといいのですけど……)
パーシアはウィリアムの熱狂的なファンだ。デート中に感極まって卒倒したり、ガチガチになってしまうことは十分考えられる。
「案内スケジュール等のご用意はお済みでしょうか」
(スケジュールについても確認しておきましょう)
「ええ。ご覧になられますか」
(これは、過密スケジュール過ぎるのでは……?)
「パーシア様、申し上げにくいのですが、もう少し余裕を持たせた方が……」
●
「やけに今日は人が多いと思えば、今日は芸術祭でしたか」
リコリス・アデュラリアは今日は学園が妙に騒がしいことに気付いた。普段は聴講生として興味のある授業に出る時以外大図書館に籠って読書をしているのだが、今日は休日だというのに、やけに人が多い。そういえば、今日は黄金像の完成祝いのお祭りを中庭でやっているのだと思い出した。
(人が少なそう時があれば少し見に行ってみましょうか。おや?)
リコリスが窓から外を眺めると、見覚えのある同族が廊下をうろうろしているのが目に入った。
「あれは、ラピスラズリ?」
●
リコリスは迷子のラピスラズリを保護し、食堂で一緒に食事をした後、学園内の地図を書いて渡した。
「助かった。まったくここは森より厄介だな……広すぎる」
「初めて来た者はそう感じるでしょう。そうそう、戦いに巻き込まれたくないのなら暫くリブラネスタとエスト・ポーラには近付かない方が良いですよ」
「ふむ、そうなのか。どこもかしこも最近は物騒だな」
ぼやくラピスラズリを見送った後、リコリスは中庭に行ってみた。
「……ヒューマンの考える事は、やはりよく分かりませんね」
黄金像を見上げ、リコリスはぽつりとつぶやいた。
●
「おかしいな。地図の通りなら、この場所のはずなのだが……」
ラピスラズリはまた迷っていた。ラピスラズリは地図の読めないエルフであった。
「あれは……ラピスラズリ様?」
レティシアは迷子に気付き、声をかけた。
「ラピスラズリ様、大図書館への本の寄贈ありがとうございました」
「ああ、そういえばうちの本はここに行ったのか。その大図書館を探しているのだが、地図が古いのだろうか?」
「いえ、この地図はとても正確な物ですが……もしよろしければ、ご案内を致しましょうか」
「助かる」
レティシアに連れられ、ラピスラズリは無事に図書館にたどり着いたのだった。
●
「これが芸術祭かー。ゴールディだとこういう教養的な場所って少ないし、新鮮!」
聴講生ギャメルは芸術祭に顔を出していた。
(黄金像、技術力と財力を感じる立派な像だとは思う……でもそのギミックはなんだよ!? 腕が動いたり、夜のビームってさぁ!?)
腕がガコンガコンと動くウィリアム像にギャメルは猛烈にツッコミを入れたくなった。
(ツッコミてえが、みんな喜んでるしな……)
周りの空気を気にし、ツッコむか否か葛藤するギャメルであった。とりあえず上からも眺めてみるかと、校舎に移動しようとした時、ギャメルは見覚えのある人物の姿に気が付いた。
「あれ、あのエルフはラピスラズリか? あんなとこで何してんだ?」
●
本日三度目の迷子になっていたラピスラズリは、ギャメルに保護された。
「あの時は本当にありがとう。ゴブリンの未来を左右する大事件だったもんな。少しうろ覚えなトコもあるけど……」
「礼には及ばん。お前達には以前世話になったからな……帝国の人使いの荒さには驚いたが」
「そこは勘弁してやってくれ。で、こんなとこで何してるんだ? 迷子か?」
「迷子ではない。現在地がわからんだけだ」
「迷子じゃねえか」
「む……で、ここはどこなんだ」
ラピスラズリは唇を尖らせた。
「わりぃ、オレも学園に詳しくなくて。詳しそうな人……あ、あいつなら詳しそうだな。おーい!」
「あら? あれは、ギャメル様とラピスラズリ様?」
ゲルダ・クラインは見覚えのあるゴブリンが自分を呼んでいることに気が付いた。
「実は俺達、迷子なんだ」
「もしよければ、ご案内しましょうか? わたしはここの生徒でもありますので」
「助かる」
●
「中庭でしたら、こちらになります」
「ありがとう。なるほど、大きいな……」
ラピスラズリは黄金像を興味深そうに眺めていた。
「この像、色々な仕掛けがあるんですよ。腕が動くんです」
「なんだと。ゴーレムなのか?」
「そういうわけではないんですが……」
ゲルダはラピスラズリに黄金像の仕掛けや、建造の経緯について解説した。
「世話になったな」
「こちらこそ先日はご協力ありがとうございました。お困りのことがあれば、できる限りでお力になります」
「ありがとう。しばらくは本でも読みながらゆっくりするつもりだ」
ラピスラズリを見送った後、ゲルダは完成した黄金像を感慨深そうに眺める。
(文字通り様々な方が力を合わせて作り上げたこの像は、学園の変化の象徴にもなるのでしょうか……)
「おおー。立派な像ができましたね! しかし、このセンスはどうなんでしょう……?」
パンクリアース学園に登校してきたトーラは黄金像を見上げ、首を捻った。十メートル規模の立像は立派ではあるのだが、全身が金ぴかというのはなんか成金っぽい。あと、今は光っていないが、夜には目玉がぴかぴか光るとも聞いた。
「噂ではこの隣にレイウェスト様の像を作るという案もあったと聞きましたが……」
ト―ラはレイウェストの巨大像を想像してみた。
(赤く眼が光るレイウェスト様の巨大像……いや、さすがに無いですね。そもそも、今の帝国にそんな余裕は無いですし、そんなものを作る費用があるなら臣民のために使う方ですから……)
「王国のお金持ちすごい。こんなものを建てる生徒会長さんが居るなんて、凄いところに入学しちゃいましたね………」
ガコンガコンと腕を動かしている黄金像を遠目に見たトーラ(一年生)は、ため息をついた。
●
「造園も無論やったが……今日ばかりは僕の主担当はこの催事の方だ!」
ローザリカ・L・ディオールは今日は生徒会役員ではなく、ガーデニング愛好会の一員として行動していた。
(皆で作ったものを手に取って貰えるのは嬉しいし加工品だってガーデニングの副産物。入口は様々、花々に興味を持ってもらえるように力を尽くそう)
購買意欲に新入生の興味、予算に繋がるパトロン。欲しいものは山ほどあるローザリカである。ブースでは愛好会で作ったハーブや花を使った茶葉や茶菓子、ポプリの入ったぬいぐるみの販売と、喫茶室を展開している。貴族は造園や珍しい品種の花、平民は販売物と喫茶室で興味関心を惹く、というジュスト・ヴェルジーと考えた戦略だ。ちなみにローザリカのお気に入りの商品はなんといってもぬいぐるみである。
(手放すのが寂しくもあるが可愛がって貰えるといい)
ブースの近くを通りがかった客が足を止め、花の解説カードを読んでいる。読まれているカードは中庭に植えた花の開花時期や、花言葉について記載したローザリカ特製カードだ。
「いらっしゃい。ゆっくり見ていってくれると嬉しいな」
相方のジュスト・ジェルジーはローザリカと共に、来客達に声をかけた。彼は広い中庭の一画の造園も手掛けている。今日は薔薇を主とした華やかな中庭を愛好会の作品として公開しているのだ。愛好会の活動を説明がてらブースに誘導してガーデニング愛好会の広報をするのがジュストの役目である。
(土弄りをする貴族は少数だろうけれど、手入れの行き届いた庭や花、お茶に香りが良い物を好む貴族は派閥問わず多いからね)
「喫茶もあるんだ。花を見ながら、ぜひゆっくりしていってくれ」
ローザリカは茶葉に興味を持った来客を速やかに誘導していく。やはりというべきか、男性客はローザリカに引き寄せられている。ローザリカが思わせぶりな接客をしていることもあるが……。
「さて、と」
それについてはジュストも思う所もあるのか、暇になったタイミングでローザリカに後ろから抱き着き、声をかけた。
「ところで俺以外の男を誘惑するなんて、わざとかな? ロゼ」
●
「こんにちは、アルフィーさん。入部後初の活動は順調ですか?」
「やあ、ネーヴェ。来てくれたのか」
ネーヴェ・グラヌローザはガーデニング愛好会に入部したアルフィー・リッパーの様子を見に来ていた。アルフィーはすぐに紅茶を用意し、ネーヴェを出迎える。ジュストとローザリカは二人に気を遣い、さりげなくその場を離れた。
「ネーヴェのおかげで楽しい部活を行えているぞ、ほら、ローザリカ先輩おすすめのハーブティーだ」
「ありがとうございます」
花の香りに癒されながら、アルフィーのもてなしを受け、ネーヴェの胸が暖かくなる。
「そろそろ休憩時間に入るから、一緒に回らないか?」
「まぁ、でしたら是非。私も色々見て回りたいと思っておりましたの」
アルフィーがネーヴェを誘うと、ネーヴェはにっこりと笑った。
●
「この間、途中で逸れてしまいましたよね。それで、今日も人出が多いようですから……あの、良かったら、繋ぎませんか」
「も、もちろんだ!またはぐれたら困るからな」
そう言って彼女の手を取り、アルフィーは照れくさそうにした。
散策中、どこかのサークルのドゥジン即売会が目に入ったネーヴェは一冊手に取ってみた。
「これは実在の方々をモデルにした創作物語なんですね。……? レイウェスト様がウィリアム王子と……? 王女は……?」
ドゥジンシの表紙では、なぜかウィリアムが花嫁衣裳の皇子を抱き上げ、悪者っぽい笑みを浮かべていた。
「内容はさておき、書き手の夢が本の中では叶えられるのは幸せなことだな」
……。
「ネーヴェと一緒に過ごしていると胸が暖かくなる。またこうやって色々見ような」
「自分の想いを叶える……確かに、素敵な事ですわね。アルフィーさんが主役の物語、読んでみたいです」
「た、楽しくもなんもない物語だぞ! 俺なんかより……いや、ネーヴェと一緒に冒険している話とか楽しいかもしれないな!」
自分が主役の話と言われて顔を真っ赤にするアルフィー。
「はい。今度、物語だけでなく現実でも、一緒に冒険致しましょうか」
●
「ウィリアム像、完成したのですね……!」
コルネリウス・アーラは完成した黄金像を見上げ、目も丸くした。
(最初は信じられませんでしたけれど、こうして実物を見るとなんだが感慨深いですね)
コルネリウスはパーシアにも声をかけ、ガーデニング愛好会のブースでお茶を飲みながら、像の完成を共に祝うことにした。
「パーシアさんも、公約の達成と像の完成、おめでとうございます。なんだかとてもご機嫌ですね?」
「ありがとうございます。コルネリウスさん。ええ、実は明日の式典の後、私が! 王子に学園を案内するのです!」
つまり、デートをするということらしい。ちょっとテンションがおかしいが、これは仕方ないだろう。
「憧れの人とのデート、素敵ですね。応援しています」
「ありがとうございます。ウィリアム王子を落とせるように頑張りますわ!」
(だ、大丈夫かな?)
●
「さて、私は新聞部の新人勧誘をさせて頂きましょう」
パーシアと別れた後、コルネリウスは新聞部のブースで新人勧誘に励んでいた。顧問の許可ももちろん取っている。壁新聞の最新号は黄金像特集だが、せっかくなので過去の記事も全部持ってきた。そしてさりげなく、入部届も置いてある。
「こんにちは。これ、お一人で作ったんですか?」
「こんにちは! まさか。他にも部員はいますよ。みんなで作りました」
新聞に興味をもってくれた生徒がいれば、コルネリウスは新聞作成の手順や学園のイベント告知などやりがいや楽しさがある事を伝えた。そんな広報活動の甲斐あってか、男女三人組の学園生が後日入部してくれた。
●
(芸術祭……私、学園生じゃないですけど、一応黄金像建立にちょっとだけ、たぶん0.0001%くらいは協力もしましたし……一応、いても大丈夫ですよね……? 場違いじゃないですよね……?)
中庭にのすみっこに現れたラティア・ミゼリアは大型の弦楽器を手に、挙動不審な動きを披露していた。
「大丈夫ですよね……事前にちゃんと許可はもらったし……つまみだされたりしませんよね……?」
ラティアは学園生ではないが、中庭のすみっこで演奏してもいいか生徒会経由で学園に尋ねてみたところ、OKがもらえた。そして今、中庭のすみっこに自分のスペースを確保しているわけである。
「演奏するなら、やっぱり王国で親しまれているような曲の方がいいんでしょうか。むしろ、みんな聞きなれているから、他にした方がいいのかしら……? うーん……」
悩んだが、結局自分が一番得意な故郷の音楽にした。
「おお……この見事な演奏は、あのエルフの女性が……?」
「でかい……」
本人の自信の無さとは裏腹に、卓越したラティアの演奏力(+α)は道行く人たちを魅了した。
「素晴らしい演奏でしたわね、ラティアさん」
「あっ……生徒会長さんも聞いてたんですね。ありがとうございます」
パーシアや聴衆達に拍手され、ラティアはおどおどと頭を下げた。
●
「本当にできたんだなぁ」
そびえ立つ黄金像を見上げ、ストレガ・L・リベルガストラは感嘆の声を上げた。
「まさか機械像とは思わなんだが。これも歴史資料になるのだ」
ひとしきり黄金像を見た後、ストレガはドゥジンシ即売会に出店側として参加することにした。ストレガが書いたものは娯楽作品ではなく、資料集的なものだ。魔獣とその料理のイラスト、レシピと味のコメント付きの、ストレガがこれまで討伐・解体・調理した魔獣について纏めた資料だ。
「ほう、これはなかなか……」
「実に貴重な資料じゃないか!」
ストレガのドゥジンシは学園生にはあまりウケなかったが、教師や、芸術祭を見学にきた学者には高く評価され、見事完売となった。変わった客といえば、黒い竜人らしき人物だろうか。
「めでたく売り切れになったことだし、私も買う側に回るのだ」
ストレガは食やヒトの生活に関係するものや歴史資料をできるかぎり購入した。
●
「芸術祭となれば、ドゥジン教徒としてやる事は決まってます! 新刊を! 出さなければ!」
シェルリア・リトヴァールはコスプレ衣装に身を包み、ドゥジケット準備会の模擬店の売り子をしていた。
「あ、今回は学園での活動なので健全本です大丈夫です」
学園生はほとんどが未成年だ。過激なドゥジン本など販売していては、教師のガサ入れで御用となってしまう。というわけで、シェルリアが今回書いたのは黄金像のモデルであるウィリアム王子と、学友のラミアスのハートフルな学生生活を描いたほのぼの本だ。
――ウィリアム。あそこでお弁当を食べましょう。
――ありがとうラミ。君が作ってくれたのかい?
――ええ、貴方の好きなタコさんウィンナーですよ(ニコッ)
「うん、健全ですね! ご学友のラミアス先生との楽しい学園生活を描きつつ学園の紹介や案内にもなる構成にすれば先生も文句は言わな……じゃない、学園の益にもなるでしょう! 今までの鍛練の成果を御覧じろです!」
シェルリアの画力は神がかっており、新刊は女性学園生を中心に飛ぶように売れた。
「ベリアルさんも私の新刊買っていってくれたのはちょっと意外でしたね。まさか同志だったとは!」
●
ギギギ……がしょん。中庭の時報に合わせ、ウィリアム黄金像の腕がゆっくりと稼働する。その姿を、黄金像建造の立役者であるナハシュとヨル・スレイマンが見守っている。
「へえ、良い動きするじゃねえか!」
ウィリアム黄金像を見上げ、ナハシュはご満悦だった。
「ついに完成したね。本当にできるとは思わなかった。最高にかっこいい」
ヨルも黄金に輝く像を見上げ、感慨深げに呟いた。
(これを礎にいつか必ず乗り込める人工ゴーレムとかできるはずだ。未来は明るい)
「……でも何でウィルの巨大像なんだ。ウィリアムの巨大像だろ?」
「ああ、なんか政治的理由だっけ? 君にとってはウィリアムもウィルも変わらなそうだが」
「ふーん、なんかよくわからねえけど、まあいいか!」
ナハシュは、ヨルの予想通り、適当に返事をした。
「さて、少し付き合ってくれよ、ナハシュ。とりあえずこれにサインしてくれ」
「なんだ、これ? ここに名前を書けばいいのか?」
ヨルがナハシュに渡した紙には、「ドゥジケット準備会入部届」と書かれていた。
●
そして式典終了後。二人は新入部員として、シェルリアや他のドゥジケット準備会部員と共に中庭でドゥジンシ即売会の売り子をしていた。
「へい、らっしゃい!」
ナハシュはヨルに流されるままに入部届にサインし、ついでに手渡されたメイド服に着替えていた。なんでも、ヨルによれば、ドゥジンシの売り子と言えばメイド服らしい。
(相変わらずよくわからない本売ってんなあ。なんで男二人でマッパなんだ?)
「小説ばっかだな。レシピ本とかねえの? 肉のがいい」
「ああ、それなら、他のサークルが出していたよ。魔獣のレシピ本」
「お、マジか! あとで俺買ってくる! ……あ、そういえばヨル。なんで入部したんだ?」
「せっかくだから一作書いてみたいと思って。ナハシュも何か書けばいいのに。君はこういうの結構上手くやると思う」
「俺も書く? 何で?」
●
「こんなに凄い物が……人の手で作れるんだな……」
黄金像を見上げたレピド・クロサイトは感嘆の声を漏らした。巨大黄金像をじっくりと眺めた後、レピドも中庭巡りモードに入る。
「さて、『救世主伝説フォルトゥナ』の新刊はあるだろうか……」
新作への期待に胸を膨らませつつ、レピドは以前立ち寄ったドゥジンサークルにふらふらと近づいていく。
――シラー砂漠、クリエスター山脈、ディズル大湿地帯。激戦の地を着々と平定し、学園の分校を増やしていくフォルトゥナ。そんな彼女に「ゴールディにも分校を作るべし」という王命が下る。学びたいもの全てに教育を……。気高き理想を胸に秘め、ブラックデスの用心棒となったフォルトゥナはゴールディの浄化(物理)に挑む。
「今度はゴールディが舞台なのか……楽しみだ」
レピドは迷わずに新刊を購入した後、サークルの売り子を手伝うことにした。しばらく猫耳メイドをしていると、見覚えのある男が店にやってきた。
「……ベリアル?」
「やあ。前にどこかで会ったかな?」
「アンタとエドゥノーグに潜った」
「ああ、なるほど」
(祭にいるのは解るが、まさかここに来るとは)
「アンタはどんな本が好みなんだ?」
レピドは興味本位で聞いてみた。するとベリアルは、
「作品としての完成度が高いものだね。あと単純にレアな物も収集対象だ。ドゥジンシに限った話ではないが。ジャンルにはあまり拘りはない」と答えた。
「なるほど。……それでアンタは何を買う?」
「フォルトゥナの新刊を三冊くれ」
「分かった」
レピドはくるりとベリアルに背中を向けると、奥にしまってあった新刊を持ってきた。
「おまちどう」
「……ああ、どうも」
ベリアルを見送った後、レピドはぽつりと呟く。
「彼もこの作品のファンだったのか……なぜ三冊なんだ?」
●
「ついに完成したのか、黄金像……」
ルイドは聴講生として芸術祭を見学に来ていた。
「これはドワーフ王国、こっちはヴェルクリエの芸術品か」
壺や陶器に始まり、ガラス細工や絡繰り仕掛けの置物など、多様な作品が展示されている。ルイドは一つ一つ足を止めながら、ゆっくりと展示物を見て回った。
「絵ってのも悪くねぇもんだな……特に風景画が気に入った」
(印象深かった景色を絵にして残しておけたら、後で振り返る助けになりそうだわ)
ルイドが特に心を惹かれたのはヴェルクリエの画家が描いた風景画であった。
「まだまだこの人生、先に進めば初めて見るものばかりだろうし、今のうちに練習してみるか……ん?」
絵画を眺めていると、見覚えのある男が黄金像に見入っているのが目に入った。
(ベリアル……確か、あいつは美術商だったか。そういや前に何度か目が合った気がするな)
無視をするのも悪いと思い、ルイドは挨拶をしておくことにした。
「よう。久しぶりだな、ベリアル。あー……覚えてるか分からねぇが、中層ボスの際に参加してた冒険者の一人だ。あん時は出資どうもな」
「! ああ、確かにその顔には見覚えがある。ルイド君だったかな」
「おう」
(名前も覚えられてたのか……意外だな)
ルイドは軽く会釈をし、中庭の散策に戻った。
●
「会長は公約を果たして立派だね。芸術祭も盛り上がってるみたいで何よりだ」
ルーンス・ラグネルは活気ある中庭の様子に満足げに頷いた。ひとしきり黄金像を見た後、ルーンスはドゥジケット準備会に顔を出した。今日はシェルリアや学園生の部員達、そして新入部員のナハシュとヨルがブースでコスプレ衣装で接客をしていた。
「やあ、みんな」
「あ、ルーンスさん」
「マリリン、これ、差し入れ。後で皆で飲んで」
「ありがとうございます、ルーンスさん」
ルーンスは代表として、親しいマリリンに差し入れの茶葉を渡した。
「全部一冊ずつもらえるかな。従業員に頼まれてるんだ」
「お買い上げありがとうございます!」
ルーンスは買った本は鞄に纏め、輸送箱へ収納した。
(この職人は優秀そうだから名前を控えておこう。後で生徒会長にも紹介してもらえないか聞いてみようかな)
ドゥジケット準備会のドゥジンシを買った後は、他のサークルのドゥジンシや木や銅、樹脂、硝子製の芸術作品などを見て回った。買い物していると、途中でベリアルともバッタリ遭い、せっかくなので名刺交換をした。
●
「改めて見ると凄いですね黄金像………! 稼働機能やビームをここまで実現出来るとはっ」
エフィルミアは感激していた。
「地下シェルターもあって実用性もバッチリ! 目からビームも暗闇を明るく照らすので防犯効果もありそう! さすがパーシアさん!」
公約を見事実現した後継者を手放しで褒めるエフィルミア。その近くでは、海神 江流が墨と筆で熱心にイベントの記録を付けていた。すぐ近くには元副会長のシルヴィア・A・カペルもいる。
(書紀として、この一大イベントの記録を残さないとな)
「エルさん、お疲れ様です! チョコ饅頭持ってきましたよ!」
「ああ、ありがとうエフィ。……うん、甘い」
エフィに差し出されたお菓子を口に放り込み、江流は微笑む。
「シルヴィお姉様もこんにちは!」
「やあ。流石、エフィは気が利くね。せっかくだから一緒に回るかい?」
にっこりとシルヴィが笑いかけると、エフィはぶんぶんと首を縦に振った。
●
「さて、せっかくだし何か買っていこう。東方のお菓子を頂く機会が多いから、私は菓子皿が欲しいな」
「シルヴィ姉様が菓子皿を欲しがる理由は分かりますよ。彼の手作りお菓子は美味しいですからね!」
にんまりエフィルミアが笑うと、シルヴィアは照れくさそうに頷いた。
「これは、なかなか趣があるな。竹細工というやつかい?」
辺境都市群の作家の展示コーナーにて、竹で編まれた菓子器に目を奪われたシルヴィアは江流に尋ねた。
「そうか、竹籠とか竹ざるとか珍しいのか。竹って素材自体がこっちじゃ珍しいからな」
「エフィはどれか気になるものはあった?」
「私が気になるのはくす玉花入れですかね! 丸くて可愛い! お花貰う事が多いから特別な花入れに飾りたいな……なんて」
「くす玉花入れ……とても美しい花器だね」
照れた様子のエフィルミアに、今度はシルヴィアがにやりとした。
「江流もあの子に何かプレゼントしてみるのはどうかな」
「あっちは貰い慣れてるだろうからな。ちゃんと印象に残る物を、ってなら自分で作るのがいいだろうか」
「器用だな……そんなものまで作れるのか」
自分で作るという江流に驚くシルヴィア。
「試作品でよければ二人にもやろうか?」
「良いのかい? 是非よろしく頼むよ」
「私もぜひシルヴィお姉様とお揃いでお願いします!」
●
「前に聞きそびれたけれど、(像への)会長の想いなど聞きに来たよ。像ともども学園の記録に残したいからね」
シルヴィア達と別れた後、江流はパーシアに会いに行った。
「まあ。書記さんったら。ならば、私もお答えしましょう。私のウィリアム王子への熱い想いを……」
今回はパーシアは江流のインタビューに答えてくれた。ほぼウィリアム王子へのラブレターみたいな内容になったが、ちゃんと像への想いも入っていたので、とりあえずよしとした。
「ありがとう、パーシア会長」
(この形での記録ってだけでも学園史では目立ちそうだが……これ、残していいのかな……)
後々、ウィリアム以外と結婚することになったりしたら黒歴史間違いなしである。江流おじさんはちょっとパーシアの将来が心配になった。
「さて、自分もやり遂げなければ、ね」
「ええ。書記さんと庶務さんの公約の実現も楽しみにしていますわ」
●
「皆さん。立ち止まらないでゆっくりと前進してください」
今日はたくさんのお客さんで混雑すると考えたダニエル・ヘリントンは、ウィリアム黄金像の前で交通整理をしていた。
「アイオーラ会長、本日はおめでとうございます!」
「ええ、ダニエル、あなたもありがとう。なかなか様になっていますわよ」
「ありがとうございます!」
通りがかったパーシアから最大級の賛辞を受け取り、ダニエルは満面の笑みを浮かべた。ダニエルのウィリアム衣装は本物そっくりだった。元々ダニエルは手先が器用なことに加え、何度もウィリアムのコスプレをしているので、段々クオリティも上がっているのだ。
……。
「そこ! どさくさに紛れての万引きなどという『だらし無ぇ真似』はするんじゃない!」
警備中に不審な男を発見したダニエルは叫んだ。
「捕まってたまるか!」
男は全力疾走で逃走を図った。しかし、授恵者であるダニエルのスタミナは底なしだ。中庭から出る前に男は追いつかれ、ダニエルに取り押さえられた。
「待ってくれ。俺は万引きじゃなく、痴漢を……」
「だからだよ。貴族に痴漢なんてしたら、腕を切り落とされてもゆがみねぇんだぞ」
フォールした男の耳元でダニエルが囁くと、男は大人しくなった。
●
「色々あったけどちゃんと完成したんだな」
イズル・M・ヴォルゴールはペルゼィックと中庭のベンチに腰掛け、黄金像を見上げていた。
「おう。本の装飾は俺の故郷の職人の仕事なんだぜ。……あと剣の束の硝子は俺が作った。あの硝子のカットに色艶、宝石に負けねぇだろ?」(題材的に迷いが凄かったが……)
「おおー、そりゃすごい」
二人がベンチで仲睦まじく過ごしている姿は、中庭にいっぱいいたドゥジン教徒達にも天啓を与えたというが、それはまた別の話である。
「これがジークの重要な功績になればいいな……もしかしたら代表作になったりして」
「おう。まあ歴史に残る建造物になるのは間違いねえからな。この仕事がピークってことにならねえように頑張ろうと思う」
「結構難しくない?」
「かもな。けど……」
ペルゼィックは自分で作った黄金像を剣の柄を見上げている。
「そういえばジークも他の展示も出してるんでしょ? 見せてよ」
「ああ、構わねえが……」
今回のペルゼィックの作品はガチめの硝子作品で、貴族を意識した展示だった。
「あれは辺境の荒野の砂を……色付は迷宮で取れる鉱石が……」
ペルゼィックが作品について饒舌に話すのを、イズルはにこにこと聞いていた。
「そういえば、うちの玄関のシャンデリアもジークが作ってくれたやつだったね」
すると、ペルゼィックは顔色を変えた。
「オイ、玄関に飾ってんのか!? てめぇの部屋で飾るって言うから格安で譲ったんだろ!? 恥ずかしいわ!」
「見習い初期の作品と思えないし、客人も褒めてくれてるぞ」
多分それはガラスが高級品な事もあるだろう。人の目には権力や財力、求心力の象徴として見えるのだろう。
「ホールから降ろせ!」
「でも、入口はあれがいいんだ。見てもらいたいんだよ。俺が見せびらかしたいの」
(俺の親友を自慢できるから)
「ぐぬぬ……」
●
「いい加減何としても殿下の風評被害の抹殺とウィリアムの尊厳失墜をなさねば!」
ベルク・オスマットの目的はウィル×レイネタをドゥジン界隈から駆逐することであった。
「ここは毒を以て毒を制そう。つまり、新しいドゥジンネタを提供するのだ」
変装し、一般学生のフリをして学園に潜入したベルクは、中庭でウィリアムの噂を流すことにした。
「ウィリアム殿下は幼女趣味である」
「殿下は愛しい者がおり、そのものが安全に学園で働けるよう口利きした」
「30過ぎても一向に結婚しようとしないのは、特殊な性癖の持ち主だからである」
モブパワーで気配を隠し、あることないこと吹聴して回るベルク。参考資料にウィル×ウィーズル本(男性向け)も買った。
「これでウィル×ウィーズルのドゥジンがトレンドになればよいのだが。さて、一仕事終えた後は焼き鳥でも食うか」
●
「パーシア様、おめでとうございます。こんなに早く公約を達成されるとは思いませんでした」
レティシア・レインフィールはパーシアに会いに行き、祝辞を述べた。
「ええ、力添えをしていただいた皆様のおかげです」
パーシアはとてもご機嫌だ。そこですかさず、レティシアはパーシアに頼み事をしてみた。
「優秀でお優しい生徒会長のパーシア様でしたら他の生徒会役員の皆様の公約達成の為にも尽力して頂けると信じております」
「えっ。……ええ、もちろんですわ!」
(もうやりきった感があったんだが。そうか、まだ任期は半年あったな……)
パーシアはニッコリと微笑んだ。
「パーシア様は明日は殿下と学園を回られるのですか?」
「ええ、王子に学園を案内するのです」
(当日興奮しすぎたり、逆に緊張してしまわれないといいのですけど……)
パーシアはウィリアムの熱狂的なファンだ。デート中に感極まって卒倒したり、ガチガチになってしまうことは十分考えられる。
「案内スケジュール等のご用意はお済みでしょうか」
(スケジュールについても確認しておきましょう)
「ええ。ご覧になられますか」
(これは、過密スケジュール過ぎるのでは……?)
「パーシア様、申し上げにくいのですが、もう少し余裕を持たせた方が……」
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「やけに今日は人が多いと思えば、今日は芸術祭でしたか」
リコリス・アデュラリアは今日は学園が妙に騒がしいことに気付いた。普段は聴講生として興味のある授業に出る時以外大図書館に籠って読書をしているのだが、今日は休日だというのに、やけに人が多い。そういえば、今日は黄金像の完成祝いのお祭りを中庭でやっているのだと思い出した。
(人が少なそう時があれば少し見に行ってみましょうか。おや?)
リコリスが窓から外を眺めると、見覚えのある同族が廊下をうろうろしているのが目に入った。
「あれは、ラピスラズリ?」
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リコリスは迷子のラピスラズリを保護し、食堂で一緒に食事をした後、学園内の地図を書いて渡した。
「助かった。まったくここは森より厄介だな……広すぎる」
「初めて来た者はそう感じるでしょう。そうそう、戦いに巻き込まれたくないのなら暫くリブラネスタとエスト・ポーラには近付かない方が良いですよ」
「ふむ、そうなのか。どこもかしこも最近は物騒だな」
ぼやくラピスラズリを見送った後、リコリスは中庭に行ってみた。
「……ヒューマンの考える事は、やはりよく分かりませんね」
黄金像を見上げ、リコリスはぽつりとつぶやいた。
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「おかしいな。地図の通りなら、この場所のはずなのだが……」
ラピスラズリはまた迷っていた。ラピスラズリは地図の読めないエルフであった。
「あれは……ラピスラズリ様?」
レティシアは迷子に気付き、声をかけた。
「ラピスラズリ様、大図書館への本の寄贈ありがとうございました」
「ああ、そういえばうちの本はここに行ったのか。その大図書館を探しているのだが、地図が古いのだろうか?」
「いえ、この地図はとても正確な物ですが……もしよろしければ、ご案内を致しましょうか」
「助かる」
レティシアに連れられ、ラピスラズリは無事に図書館にたどり着いたのだった。
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「これが芸術祭かー。ゴールディだとこういう教養的な場所って少ないし、新鮮!」
聴講生ギャメルは芸術祭に顔を出していた。
(黄金像、技術力と財力を感じる立派な像だとは思う……でもそのギミックはなんだよ!? 腕が動いたり、夜のビームってさぁ!?)
腕がガコンガコンと動くウィリアム像にギャメルは猛烈にツッコミを入れたくなった。
(ツッコミてえが、みんな喜んでるしな……)
周りの空気を気にし、ツッコむか否か葛藤するギャメルであった。とりあえず上からも眺めてみるかと、校舎に移動しようとした時、ギャメルは見覚えのある人物の姿に気が付いた。
「あれ、あのエルフはラピスラズリか? あんなとこで何してんだ?」
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本日三度目の迷子になっていたラピスラズリは、ギャメルに保護された。
「あの時は本当にありがとう。ゴブリンの未来を左右する大事件だったもんな。少しうろ覚えなトコもあるけど……」
「礼には及ばん。お前達には以前世話になったからな……帝国の人使いの荒さには驚いたが」
「そこは勘弁してやってくれ。で、こんなとこで何してるんだ? 迷子か?」
「迷子ではない。現在地がわからんだけだ」
「迷子じゃねえか」
「む……で、ここはどこなんだ」
ラピスラズリは唇を尖らせた。
「わりぃ、オレも学園に詳しくなくて。詳しそうな人……あ、あいつなら詳しそうだな。おーい!」
「あら? あれは、ギャメル様とラピスラズリ様?」
ゲルダ・クラインは見覚えのあるゴブリンが自分を呼んでいることに気が付いた。
「実は俺達、迷子なんだ」
「もしよければ、ご案内しましょうか? わたしはここの生徒でもありますので」
「助かる」
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「中庭でしたら、こちらになります」
「ありがとう。なるほど、大きいな……」
ラピスラズリは黄金像を興味深そうに眺めていた。
「この像、色々な仕掛けがあるんですよ。腕が動くんです」
「なんだと。ゴーレムなのか?」
「そういうわけではないんですが……」
ゲルダはラピスラズリに黄金像の仕掛けや、建造の経緯について解説した。
「世話になったな」
「こちらこそ先日はご協力ありがとうございました。お困りのことがあれば、できる限りでお力になります」
「ありがとう。しばらくは本でも読みながらゆっくりするつもりだ」
ラピスラズリを見送った後、ゲルダは完成した黄金像を感慨深そうに眺める。
(文字通り様々な方が力を合わせて作り上げたこの像は、学園の変化の象徴にもなるのでしょうか……)
マスターコメント
思い思いの時間を芸術祭で過ごされておりましたね。裏がまだ残ってますが、これにて『黄金像』連作は完結です! ご参加ありがとうございました!
イベントシナリオ易しい 報酬:無し25 / 4〜25人
2023年05月17日 09時09分40秒 公開
大成功
参加者
相談掲示板
皆様、ごきげんよう。出発は明日の朝8時となります。お忘れ物のないようにご注意下さいませ。
(すげえかおだ・・・・・)
(腹減ってんのか?????)
(寝不足かも…?)
(虫歯かもしれないよ?)