【CP】新たな旅立ちと、晩夏の厄介事と……。
菊華 伴
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シナリオID:1337
オープニング
●旅立つ者達
帝国の南部開放。その知らせは、エルフの里に避難していた人々にも伝わっていた。そして、帝国に戻る事を選んだ者もちらほらと……。
「なるほど……。それで、警護を頼みたい、と」
「南部の住人が多かったようで、特に家族単位で避難している人たちが帝国に戻る事を望んでいる、ぞ。けが人病人はもうちょっと体調が戻ってから改めて希望者を南部に……という予定だ」
ハートの里に立ち寄ったナバルジャと話しているのは、狼のハーフビーストの男、バラク。彼はエルフの里の民にかなり迷惑をかけてしまった為、現在4つの里での奉仕活動を言いつけられている。今回は、ハートの里の族長である女性・ハイドのお供としてここにきていた。
彼の傍らに座っていた赤毛のエルフ、ハイドが申し訳なさそうにナバルジャを見る。
「それで、ついでなのだが……この男、バラクも連れて行ってもらえぬだろうか?」
「「?!」」
これには、ナバルジャだけではなく、バラクも驚いていた。ハイドはバラクをちらりと見、静かに口を開く。
「彼は帝国南部を取り戻したと聞いて以来、どんな状況か気になっているようだったからな」
しかし彼は『帝国南部に行きたい』という気持ちを隠していた、と。決して追い出したい、というわけではないのだ、とハイドは心配そうにバラクを見ながら言った。
「なんだかんだ言って、4つの里の者達も案外真面目に働くバラクを気に入ってな。彼が望むならどこかの里で受け入れる所存だ。……バラク、君が決めなさい。帝国へ戻るか、我々の仲間になるか……」
その言葉を受け、バラクはしばし考え……「ありがとうございます」と深々と頭を下げた。
「ハイド様、貴方さまの気持ちは受け取ります。ただ、少し時間が欲しい。帝国は祖国だが、崩壊以前の記憶が曖昧で……少し不安なんです」
ともかく、帝国へ戻る者達の警護に冒険者たちを雇うことが決まった。ナバルジャは、少し心配そうにバラクを見つめた。
●風邪のうわさと勲章と
――難民キャンプ。
「少しずつ人が減ってきてるのか? ちょいと寂しいな」
そういいながら辺りを見回すは、獅子のハーフビーストで新米帝国兵のユジンである。彼は、先輩の兵士と共にキャンプの見回りをしていた。そして、人々から困った事などを聞きまわっているのだ。
すると、リザードマンの老女が悩み顔でやってきた。
「ん? おばあさん、どうしたんだ?」
「実は……、ここ最近、子供達に風邪が流行っているみたいなんです。咳や鼻水とかならどうにかしてますが、特に小さい子が熱を出しているようで……」
「それはちょっと心配だな」
難民キャンプの一部ではやったこの風邪。主な症状は高熱と咳、鼻水。3歳から10歳ぐらいの子供が特に熱を出しており、大人もしつこい鼻水や鼻づまりに悩まされている、と。
ユジンは先輩方と相談し、すぐに医者が手配できないか上層部に相談することになった。
――ヴァイセントラフ砦。
難民キャンプ内の一部で質の悪い風邪が流行っている。その話を聞いたレイウェストは、有能な薬師や医師たちに対応に当たるよう指示を出した。
そして、もう一人にも……。
「……と、言う事なのだが……、レビジュ。この症状を聞いてどう考える?」
バルディオンから病人の症状をまとめた紙を貰ったレビジュ・バトーは内容を読み、暫く考える。そして、真面目な顔でこういった。
「風土病ではない、と思いたいけど……。特に子供たちの熱と大人たちの鼻づまりが厄介かなぁ。ちょっとまってて」
と、彼は与えられた書物を素早くめくると、数種類の薬草が必要だとバルディオンに話す。在庫を問うと、バルディオンは少し頭を悩ませた。
「先ほど、薬草の管理をしている者から聞いたのだが、風邪に効く薬草の在庫が心もとないらしい」
「それじゃあ、僕が取りに行くよ。逃亡を危惧しているならば見張りをつければいいじゃない」
レビジュが軽やかに言うが、バルディオンは首を振る。レビジュ一人では集めきれない、と。そして、こうも言う。
「お前には製薬の方でも奮闘して欲しい。薬師としての腕を見たい、と殿下も仰せだ」
「黒曜石の君の? なら猶更頑張らなきゃね」
その言葉に、レビジュはにこり、と笑った。
その同時刻。とある冒険者が難民キャンプの住人からこんなお願いをされていた。ドワーフの若者が、頭を下げ頼み込む。
「実は、兵隊さんに何か勲章を贈りたいんだ。それで、木材を腐りにくくする染料で染めたいと思っているんだが、今弟や妹が風邪をひいて寝込んでいて動けないんだ」
だから、代わりに取ってきてほしい、と。その染料というのは、鼻づまりに聞くという薬草の蔓だった。
その後、レイウェストからの依頼の話を聞き、ちょうどいいと考える。風邪に効く薬の材料も、勲章に必要な材料も、どっちも手に入れて見せよう。冒険者たちは意気込んだ。
これは、秋が始まろうとしたある日の話……。
貴方はどうする?
帝国の南部開放。その知らせは、エルフの里に避難していた人々にも伝わっていた。そして、帝国に戻る事を選んだ者もちらほらと……。
「なるほど……。それで、警護を頼みたい、と」
「南部の住人が多かったようで、特に家族単位で避難している人たちが帝国に戻る事を望んでいる、ぞ。けが人病人はもうちょっと体調が戻ってから改めて希望者を南部に……という予定だ」
ハートの里に立ち寄ったナバルジャと話しているのは、狼のハーフビーストの男、バラク。彼はエルフの里の民にかなり迷惑をかけてしまった為、現在4つの里での奉仕活動を言いつけられている。今回は、ハートの里の族長である女性・ハイドのお供としてここにきていた。
彼の傍らに座っていた赤毛のエルフ、ハイドが申し訳なさそうにナバルジャを見る。
「それで、ついでなのだが……この男、バラクも連れて行ってもらえぬだろうか?」
「「?!」」
これには、ナバルジャだけではなく、バラクも驚いていた。ハイドはバラクをちらりと見、静かに口を開く。
「彼は帝国南部を取り戻したと聞いて以来、どんな状況か気になっているようだったからな」
しかし彼は『帝国南部に行きたい』という気持ちを隠していた、と。決して追い出したい、というわけではないのだ、とハイドは心配そうにバラクを見ながら言った。
「なんだかんだ言って、4つの里の者達も案外真面目に働くバラクを気に入ってな。彼が望むならどこかの里で受け入れる所存だ。……バラク、君が決めなさい。帝国へ戻るか、我々の仲間になるか……」
その言葉を受け、バラクはしばし考え……「ありがとうございます」と深々と頭を下げた。
「ハイド様、貴方さまの気持ちは受け取ります。ただ、少し時間が欲しい。帝国は祖国だが、崩壊以前の記憶が曖昧で……少し不安なんです」
ともかく、帝国へ戻る者達の警護に冒険者たちを雇うことが決まった。ナバルジャは、少し心配そうにバラクを見つめた。
●風邪のうわさと勲章と
――難民キャンプ。
「少しずつ人が減ってきてるのか? ちょいと寂しいな」
そういいながら辺りを見回すは、獅子のハーフビーストで新米帝国兵のユジンである。彼は、先輩の兵士と共にキャンプの見回りをしていた。そして、人々から困った事などを聞きまわっているのだ。
すると、リザードマンの老女が悩み顔でやってきた。
「ん? おばあさん、どうしたんだ?」
「実は……、ここ最近、子供達に風邪が流行っているみたいなんです。咳や鼻水とかならどうにかしてますが、特に小さい子が熱を出しているようで……」
「それはちょっと心配だな」
難民キャンプの一部ではやったこの風邪。主な症状は高熱と咳、鼻水。3歳から10歳ぐらいの子供が特に熱を出しており、大人もしつこい鼻水や鼻づまりに悩まされている、と。
ユジンは先輩方と相談し、すぐに医者が手配できないか上層部に相談することになった。
――ヴァイセントラフ砦。
難民キャンプ内の一部で質の悪い風邪が流行っている。その話を聞いたレイウェストは、有能な薬師や医師たちに対応に当たるよう指示を出した。
そして、もう一人にも……。
「……と、言う事なのだが……、レビジュ。この症状を聞いてどう考える?」
バルディオンから病人の症状をまとめた紙を貰ったレビジュ・バトーは内容を読み、暫く考える。そして、真面目な顔でこういった。
「風土病ではない、と思いたいけど……。特に子供たちの熱と大人たちの鼻づまりが厄介かなぁ。ちょっとまってて」
と、彼は与えられた書物を素早くめくると、数種類の薬草が必要だとバルディオンに話す。在庫を問うと、バルディオンは少し頭を悩ませた。
「先ほど、薬草の管理をしている者から聞いたのだが、風邪に効く薬草の在庫が心もとないらしい」
「それじゃあ、僕が取りに行くよ。逃亡を危惧しているならば見張りをつければいいじゃない」
レビジュが軽やかに言うが、バルディオンは首を振る。レビジュ一人では集めきれない、と。そして、こうも言う。
「お前には製薬の方でも奮闘して欲しい。薬師としての腕を見たい、と殿下も仰せだ」
「黒曜石の君の? なら猶更頑張らなきゃね」
その言葉に、レビジュはにこり、と笑った。
その同時刻。とある冒険者が難民キャンプの住人からこんなお願いをされていた。ドワーフの若者が、頭を下げ頼み込む。
「実は、兵隊さんに何か勲章を贈りたいんだ。それで、木材を腐りにくくする染料で染めたいと思っているんだが、今弟や妹が風邪をひいて寝込んでいて動けないんだ」
だから、代わりに取ってきてほしい、と。その染料というのは、鼻づまりに聞くという薬草の蔓だった。
その後、レイウェストからの依頼の話を聞き、ちょうどいいと考える。風邪に効く薬の材料も、勲章に必要な材料も、どっちも手に入れて見せよう。冒険者たちは意気込んだ。
これは、秋が始まろうとしたある日の話……。
貴方はどうする?
解説
どうも、菊華です。
今回は
・エルフの里に避難していた人々を帝国南部へ連れて行く
・難民キャンプに流行した風邪への対策として薬草を採取する
(同時に染料の材料も採取する)
の2つが主な行動となります。どちらかを選んで行動してください。
ただし、そのほかの行動も歓迎します。
このリプレイは、8月の終わり頃の話になります。
【1】帝国南部へ向かう人々の護衛
ルートはエルフたちの里から一路難民キャンプ付近まで出、そこから街道を行くものとなっております。
(PL:特に危険もなく、難民との交流やバラクとの交流がメインです)
また、バラクはまだ償いが終わっていないと考えている為帝国南部へ行くのを躊躇っています。彼の相談に乗ってくれる方がいると喜びます。
エルフの皆さんは、寂しいようですが彼らの決断を後押ししたいようです。
【2】レイウェストからの依頼で薬草採取に向かう
調べた所、ヴァイセントラフ砦周辺の茂みなどで比較的採れることが判明しましたがそこだけだと足りない可能性があります。今回はヴァイセントラフ砦周辺と、少し離れた林での薬草採取となります(冬に備え、少し多めに薬を作っておきたいようです)。
また、バルディオンとユジンもたまたま時間があり、騎士と共に薬草採取を手伝います。
レビジュは製作途中で足りなくなった分を砦周辺で採取しているようです。
(PL情報:レビジュに関わりたい方は砦周辺、バルディオンやユジンに関わりたい方は林での採取がいいでしょう。レイウェストはリプレイに登場しません)
レイウェストから冒険者たちに齎されたのは以下の3つ。
・熱さましに効く薬草
キクに似た黄色い花を咲かせる。花びらと葉が解熱に効果あり。
特に子供用の解熱剤として花びらが有効(体に負担がかかりにくい)。
・鼻づまりに効く薬草
薄青色の小さな花を咲かせるつる草。これの根っこが鼻づまりに、蔓は染料に使える。蔓で作った染料は、染めた物を腐りにくくする。また根っこをすりおろして乾燥させると飲みやすい薬になる。
・滋養強壮に効く薬草
ニンジンのような葉を持つ根菜っぽい薬草。葉は意外と甘く、子供用にする。大人用には白い根の部分をすりおろして使う。
ヴァイセントラフ砦周辺に蔓草が多く、林に滋養強壮に効く薬草が多いようです(熱さましは双方にあるようです)。
【3】その他
上記2つの他にやりたいことがある方は、こちらを選び自由に書いてください。
マスターより
どうも、平和なイベシナをお届けします。
難民と交流するもよし、薬草を採るもよし、他の行動しちゃうも良し。
みなさま、よろしくお願いします。
因みにレビジュ・バトーが紐づけされておりますが今回質疑応答はありません。
それではよろしくお願いします。
リプレイ
●帝国南部へ
「め、めめめ目一杯!頑張るます!」
と、緊張気味なのは新米冒険者のエクレア。彼は初めての『危険がある(かもしれない)任務』におどおどしているようだ。傍らではゴブリンの女性、ガルシアが大丈夫、と励ますように見守っている。
「こちらこそ、よろしくお願いします」
と難民の代表たるゴブリンロードらしき男性が一礼し、子どもや病み上がり、お年寄りから馬車に乗り込む。体力に自信がある者は歩くらしく、馬車に荷物を預けていた。
その様子を見ながら、アウレーリア・フォン・ネーベルベルクは静かに考えていた。
(所詮私達は余所者、居残りが長引けば悲劇を招くという事は知っていたわ)
恙なく帰国させる事が、民を守る事にも繋がると考えたアウレーリアは明るく接しようと考えた。
(私以上に不安が無い筈ないんだもの)
それとなく馬車に乗る子供を手伝うアウレーリア。幼い少女は、満面の笑顔で「ありがとう、おねえちゃま」と頭を下げる。アウレーリアは少し照れつつも「奥から座ってね」と伝えるのだった。
そうしながらもすこし気がかりな事がある。それは、バラクの事である。
(そういえば、彼は帝国に戻るか、エルフの里に残るか迷っているそうね)
記憶が曖昧だとも聞いた彼女はガルシアや他の冒険者に事情を話し、バラクの元へ行くことに。それを聞いたエクレアも、「気になる」という事で共に行くことになった。
二人は、他にもバラクを気にかけていた冒険者と共に彼を訪ねる。と、狼のハーフビースト、バラクは難民の荷物を馬車に積む手伝いをしていた。
「あぁ、こんにちは」
ヨル・スレイマンはエデル=マグノリア、リディリディ・トゥラ・イェレミースと共にバラクを訪ねていた。族長から話に聞いていた冒険者であると考えた彼は、笑顔で一礼した。
「今回は、族長から手伝うようにと言われて、いる。何でも言って欲しい」
と穏やかに言うバラクだが、ちょっと顔が曇っている気がする。
(少し、表情が曇ってますわね……)
エデルは彼の事情をよく知らない。だが、悩んでいるならば話を聞きたいと思う。少し話しましょう、と彼を少し離れた場所に案内した。
ヨルはナバルジャの話を思い出し、つとめて明るく声をかけた。
「なんだかうかない顔をしてるね。どうしたんだい?」
「うーん、これは冒険者さんに話したほうが、いいのかな……」
「話すだけでも、楽になる事はあるわよ」
良かったら聞かせて、と優しくエデルは促す。彼女のお陰で表情を和らげたバラクは、しばし考え
「本当は、解放された帝国南部に行ってみたいんだ」
と小さな声で答える。そこに悩みがあるのだろう、とエデルは考え、静かに相槌を打つとバラクが絞り出すように言葉を続けた。
「でも、まだ、俺は……行ってはいけないような気がするんだ。ハートの里の族長は許可をくれたけれど……」
バラクは表情を曇らせ、耳を伏せる。その視線の先にはリディリディがいた。
「そちらの、エルフさんは、俺がやらかした事を知ってるだろ? その償いがまだ終わっていないんだ」
「償い……? あぁ……」
バラクは、過去に求婚を断られた腹いせに、特異個体コボルトに変装し里の人々に嫌がらせをした事がある。冒険者たちにきつくお灸を据えられた後、被害に遭った里の長達から奉仕作業をするよう言われ、バラクは今日まで働いていた。
当時、リディリディは事件解決の為に里へ赴いていた。その事を思い出し……その時よりもバラクの顔が幾分か穏やかになったように思えた。
「ハートの里の人たちが許してくれたのですから、帰っても良いんじゃないでしょうか? ……違うとは思いますが、まさかまだロゼさんに未練が……」
「ロゼさんについては、もう諦めてるよ」
苦笑しながらバラクはいい、嘘ではないな、とリディリディはなんとなく感じた。
ヨルは、話を聞きながら頷き、穏やかに言う。
「償いはねえ、難しいんだよな。人間は生きる程に綺麗では居られないものだ。
何かをやり遂げるには、一人の一生は短いよ」
俺達は特にだろ? と笑えば、バラクも頷く。ヨルは経歴的に「罪」に対して考え方が軽い。その為、バラクの『償いたい』という気持ちを尊重して考えたいようだ。
「確かに、そうだ。けど……帝国の崩壊以前の記憶が酷く曖昧で……」
バラクが不安げにそう言うと、今まで様子を見ていたエクレアが彼を見上げる。
「そっか、それは寂しいし不安だな……。でも、一先ず一緒に見に行ってみようぜ」
「帝国の記憶が曖昧なら、それこそ一度戻っても良いのかも。両方を見比べて考えて、なおも里が良いと思えばまた戻ればいいわ」
アウレーリアは一方だけ見て決めたらきっと後悔する、とアドバイスをしながら考える。
(王国であれエルフの里であれ、帝国民が暮らすのは楽じゃない)
彼女は頷き、バラクの目を見て再び穏やかに口を開く。
「どんなに溶け込んでも、ふとした時「余所者」扱いが頭を擡げるわ。けれどバラク、貴方がその覚悟で願うなら、私は応援したい」
私は気長に付き合いますよ、とそっと目を細めるアウレーリア。
「私も……崩壊後である今の状態の帝国を見て決めた方が良いかと思います~」
リディリディもまた、考えながら言葉を続ける。
「帝国へは私たち授恵者が護衛をしないといけないくらいなので、もし帝国に住むとなれば気軽にエルフの里とは交流できないでしょう。迷う気持ちは解らないでもないです」
確かに、とバラクは相槌を打つ。ヨルはそんな彼の肩を軽く叩いた。
「踏み出してみるのもいいんじゃないかな! 君が帝国でできる事が増えれば、エルフの里に何かを還元する事もできるかもしれない」
こうも思うんだ、とエクレアがヨルに続けて話す。
「一旦離れても、バラクがこの里で過ごした時間も無くならないし、帝国への気持ちが一段落したら、またここに来てお礼すれば良いんじゃないか? きっとエルフの人達も土産話を喜んでくれるよ」
「だと……いいな」
バラクが少し表情を緩ませる。あと少しで何かが変わる、と思ったエデルは、そっと頷いた。
「帰る事が出来る場所は、一つだけに絞らなくてもいいのではないかしら?」
「え?」
エデルの一言に、バラクは思わず目をきょとん、とさせる。だが、少し考えると「族長と話してくる」とその場を後にした。
再び戻ってきた彼は、幾つかの荷物を持っていた。
難民たちを乗せた馬車は、のんびりと帝国南部へ向かう。
その途中は特に異変もなく、実に平和な旅路だった。
「一旦、帝国の現状を見てから決断するんだって?」
ヨルの問いに、バラクは頷いた。彼は狼の尻尾を揺らし、少し遠くを見ながら彼らに頷く。
「ああ。まずは、見ないとはじまらない……よな?」
「バラク様……」
記憶についても何か思い出すかもしれない、と笑う彼の横顔が、エデルには優しく見えた。
エクレアは当初ガチガチに緊張していたものの、護衛の仕事が始まれば周囲を警戒し、解らないことがあれば先輩冒険者たちに確認していた。
(先輩がいるのは、心強いな)
その事にちょっと安心したエクレアは、少しずつ護衛のコツを覚えていく。
「もうすぐ到着ね」
アウレーリアの声がする。彼女の視線の先、帝国南部に築かれた復興中の街が見える。冒険者たちは、最後まで気を引き締めて送ろうと気合を入れたのだった。
●薬草をさがそう 砦周辺編
――ヴァイセントラフ砦周辺。
そこにはレイウェストからの依頼で、冒険者たちが薬草採取に訪れていた。
レティシア・レインフィールもまた、薬草採取の依頼を受けていた一人だ。彼女はヒーラーの心得として医療や薬学の知識を持っている。だが、今回はそれを活かしたり深めたりするいい機会になるだろう、と参加しているようだ。
(お邪魔にならない範囲内でお勉強をさせて頂きます)
作業の前に見本を見ようとしてると、偶然ロバ耳の少年と出くわした。薬の材料を補充するためにやってきたレビジュである。
採取する薬草の特徴や、似ている毒草などないかレティシアが問えば、レビジュは見本を見せてくれた。
「先日材料を取りに来た時に見た限り、似ている草はあるけど毒がある物はないよ」
と、今回集める薬草と、似ているが違う効果の薬草について説明してくれた。そして、どんな場所に群生しやすいかもアドバイスしてくれる。
レビジュは、帝国の薬師として働くことに決めた。ならば、もう子供扱いせず自立した一人の人として接しよう、とレティシアは考える。
(それに子供でなくとも、正しく在ろうと努力する方を応援するのは当然でございますから)
レティシアは、先日よりも明るい顔のレビジュに、そっと微笑んだ。
「レビジュ様……よい、輝きになられましたね」
そう、声をかけたのは、ララノアだった。レビジュは少し恥ずかしそうにしていたが、ぺこっと頭を下げる。ララノアが外の生活はどうですか、と問うと、レビジュは「案外悪くないよ」と悪戯っ子の顔になる。
思わずくすっ、と笑ってしまったララノアは、次は何をやりたいかと問えば、レビジュは少し考える。
「この世界にはまだ僕が知らない薬草があるだろうから、もっと薬草の勉強がしたいかな。そしたら、もっと役に立てると思うし」
レビジュは少しだけはにかむように笑い、ララノアは表情を緩める。
「お元気そうで、安心致しました。これから先も、たくさんの事があるでしょうけれど……、えと……えっおー! でございましっ」
ララノアは、少しでも少年がよい方向へいけるよう、心を込めてエールを送る。レビジュは、不思議そうな顔をするも、擽ったそうに「ありがと」と頭を下げた。
冒険者たちは、砦周辺に散らばり採取をはじめる。
この辺りでは鼻づまりに効く蔓草(根を使用)と、熱さましに効くキクのような花(葉と花を使用)を中心に採る事になっていた。
「来ていたんだね」
「薬を作っていたら、材料が足りなくなっちゃてね」
エリザ・A・ミシャールは、一人採取をしていたレビジュと出くわし、しばし一緒に採取を行う。
レビジュは慣れた様子で薬草を見分け、丁寧に採取していく。その様子を見ながら、エリザは1つ提案する。
「思ったんだけど、少し多めに採取して、押し花やドライフラワーとして取っておくのはどうだ?」
「薬、じゃなくて……? どうして?」
不思議そうに首を傾げるレビジュに、エリザは採取した薬草を見ながら
「いつまでもこの場所に居る訳じゃないだろう。けれど、知識は引き継いでいくことが出来るぞ」
と語る。と、レビジュは左目を僅かに見開いた。とても興味を引いたらしく、左目がキラキラしている。
「薬としての正しい扱い方や、採取上の注意。それに製剤や投薬の上での注意点を文字と現物を……あと、できれば口上も記録しておくんだ」
「そしたら、他の人も見ることができるね」
ぽん、と手を打つレビジュにエリザは頷く。
「アンタに求められてるのは、きっとそういう事さ」
経験を自分の中に貯めず、活用していく事がレビジュ自身の価値を高める事になるんじゃないか、とそっとアドバイス。
レビジュは興味を持ったのだろう。彼女に感謝を述べると別の所でも採取してくる、と言って奥へ行く。その背中を、エリザは優しい眼差しで見送った。
(……毒を悪用する者は個人的に好きではないのですが、被害者である皇子が薬師として使うと決めたのならば私が口を挟む余地はありませんね)
リコリス・アデュラリアは、依頼された薬草を手際よく採取しながら少し離れた所でレビジュを見ていた。
それにエルフである彼女からみたら、幼児のような者に腹を立てても仕方がない……らしい。
リコリスは依頼された薬草の実物を見ると、己が持つ知識を使って薬草の成長条件を満たす群生地となりそうな物を推測し、採りすぎないように注意しながら作業していた。
慣れていない者がいれば、また採取出来るようにその場の薬草全てを採取しないよう、と注意喚起しておく。
(確かに、そうですね……)
それに耳を澄まし、ノックス・マグナはその事を頭に入れて採取を続ける。
(殿下からの依頼という事もあり気乗りしませんでしたが……、難民の為と思えば)
こうして作業に没頭するのは、たまにはいいかもしれないな、とノックスは考える。
ノックスは、少し離れた所にレビジュを見かけ、少年の視界にそれとなく入らぬよう動いた。それは、レビジュの処遇をどうするか話し合った際に苛烈な案を出した、と考えるからだろうか。
(彼は、これからどう変わっていくのでしょうね)
ちらり、とレビジュを見……ノックスは僅かに瞳を細めた。
「気になるのですか?」
「いえ、彼も少しずつ馴染んできているように思いまして」
リコリスが何気なく言えば、ノックスは静かに首を振った。
「この辺りは、蔓草が多いですね」
レビジュから特徴を聞いていたレティシアが蔓草を採取をしていると、
「理由があっても乱獲、ダメ! ゼッタイ!! 来年も採取できた方がいいからな」
と、慣れない者へイズル・M・ヴォルゴールがアドバイスしていた。
「乱獲されると、次に繋がらないからね……。程々がいいんだよ」
薬草が入った籠をもったレビジュが、彼の言葉に頷いていた。イズルはレビジュに手を振り、元気そうな様子に安堵する。が、レティシアには気がかりな事があった。
「レビジュ様、お水は飲んでいますか?」
「えっ?! あ……忘れてたかも! 教えてくれてありがとう」
こちらを、とレティシアはレビジュに水を飲ませ、他の人にも水分補給を促した。
「そういえば、レビジュは来年もここに居るのか?」
イズルが何気なく問いかければレビジュはうーん、と首をひねる。
「今の所解らないな。当分はこことか帝国南部に出向いたりかな?」
「そっか。もしここから移動することになったら連絡してくれよ?」
彼はそう、軽い様子で返す。真面目な言葉は他の仲間に任せ、自分は兄弟や友達のように接してみようと考えたらしい。
「その時は、伝えられたらいいな」
レビジュが擽ったそうに笑う。そんな顔が、自然なものに感じるレティシアとイズルだった。
「この辺りは解熱効果のある薬草が群生してるんだな」
「向こうは足場が悪いみたいだ。気を付けるんだぞ」
ハヤト=ガラン=ヴォルファングは、一面に咲くキクのような花に息を飲む。そんな彼に、辺りの様子を見てきたエリザが注意を促した。
(すげぇな、これは……)
その花を丁寧に採取しながら、彼は出立前の事を考えていた。
出立前、タイミングよくバルディオンと会えたハヤト。彼は、砦奪還の際、自分は仇討の役に立てたのか、と将軍に聞いていた。
「その節は、大変世話になった。ティオルの仇を取る事が出来たのは皆のお陰だ」
勿論、君の力も有難かった、とバルディオンはハヤトに言った。
父の事を聞くことはできなかったが、彼の息子へ供えて欲しい、とチョコレートを渡すことはできた。
(Jrは、喜んでくれっかな……)
ふと、将軍の息子へと想いを馳せていると……、足音がする。その方向へ目をやると、ロバ耳が見えていた。どうやら、レビジュもこの辺りに来ていたらしい。
「おう。元気そうじゃねーか」
「ハヤト、さん……?」
ハヤトは、心情的にレビジュの生い立ちやこれまでの境遇に同情していた。それ故に、気にしていたのだが、少年は思った以上にいい顔をしていた。
「折角拾った命だ。これからどう生きていくかは見えてきたか?」
と、問いかけると、レビジュは少しだけ苦笑する。
「少しずつ、かな」
その言葉からは嘘を感じず、手探り状態でも少しずつ進んで行っているんだな、とハヤトは相槌を打つ。彼はチョコレートを取り出すとレビジュに手渡した。
「! ……いいの?」
ハヤトは、「ああ」と笑顔で頷き、改めて己の金色の目とレビジュの青い眼を重ねる。
「お前のこれからの生き方次第じゃ、離れ離れになったガキ共にもそいつを食わせてやる事も出来んじゃねーか?」
そう言って、彼はぽん、とレビジュの頭を撫でる。しばらくきょとん、としていた少年であったが、暫くして力強く頷いた。
「チョコ、ありがとね。それにしても、これって流行ってるの? この間もチョコレートバーをくれた人がいたけど……」
少年の問いかけに、ハヤトは少し考え「多分」とちょっとだけ苦笑した。
●おいしい(?)勉強会
――難民キャンプのとある場所。
コルネリウス・アーラは、難民たちの中から希望者を募り、キノコや薬草の見分け方などを教えていた。
「これから先も、様々な薬草が必要になるでしょう。秋になれば様々な森の実りが手に入りますよ」
彼女は薬用に使えるキノコや木の実、ハーブ類について資料に纏め、使い方を記していた。今回の勉強会の資料である。
「文字が読めない人は手伝うのだ」
ストレガ・L・リベルガストラが難民たちの間に入り、資料の読み方などを教えていく。
「ハーブは眠りに導く物や、スッキリした気分になる物など、お茶として飲めば直接的な薬効はなくとも心の調子を整える役割を持つ物も沢山あります」
コルネリウスの穏やかな声は聴きやすく、集中しやすかったのだろう。ストレガのフォローもあり、皆楽しく学んでいるようだった。
「次は実践なのだ。今回はさっきコルネリウス殿が教えてくれた物を探すのだ」
ストレガは、コルネリウスと難民達と共にキャンプ地近くの林へ。ストレガは特に滋養強壮に効く薬草を集めていく。
群生している物は意図的に残したものが十分に成長できるよう、間引くように採っていく。不思議そうにしている子供に
「来年も採れるように残しておくのだ。これは恵みであるのだ」
採り過ぎに注意するのだ、と説明すれば子供は1つ頷いた。
ある程度薬草などが集まった所で、今度は調理。今回は、薬草粥を作って、皆で食べる。因みに、彼女のレシピはコルネリウスが作った資料に追加されていた。
「薬を飲むのが苦手な者がいるだろうから料理に混ぜてしまえばよいのだ。食べねば元気が出ないのだ。胃が弱い者は汁だけでもいいのだ」
「これからの季節にいいレシピですね」
脳内でレシピを振り返り、薬草の下拵えをしながらコリネリウスが口元を綻ばせる。
皮を取った鶏肉を、塊のまま入れ出汁を取る。そのスープで米と薬草を煮、味付けする。肉は後ほど取り出して刻んだり解したりして粥に混ぜても良いし、食べる際乗せても良い。
ストレガはコルネリウスを助手に、穏やかボイスでお手本を見せる。
「味を調えたら、玉子を解いてかけ……一煮立ちなのだ」
ふんわり玉子入りの薬草粥ができると、みんなで試食。その素朴だが旨味がしっかりついた粥に、参加者の口から「おいしい」と幾つも漏れる。
「今日の事も思い出になれば、いいですね」
ほのぼのと皆で薬草粥に舌鼓を打つ光景を見つめながら、コルネリウスはストレガと頷き合い、目を細めて呟いた。
●薬草を探そう 林編
「まだ、気温は高い。水分補給を怠らないよう、気を付けながら採取をしよう」
と、バルディオンが兵士たちに指示を出す。林では、丁度時間のあった帝国の兵士たちが、薬草を採取していた。
元帝国の従軍治癒士のナタリア・フィッツジェラルドは、その力量を以ってバルディオン将軍に売り込みを図りたいと考えていた。と同時に……、ユジンにも覚えてもらいたい、とも考えていた。
(彼と同じくハーフビーストとなれば、今は新兵でも如何なる武勲をあげるのかが見物だ)
ナタリアは的確なアドバイスでもって兵士たちが効率よく採取できるようにし、採取する際は量にも気を付けるよう伝えておく。
水分補給を怠りそうな者にも声をかけていっていると……ユジンが獅子の耳をぴくぴくさせながらニンジンの葉にちかい薬草を採取していた。
「これ以上取ったらいけないか?」
「目安としてはそうだな……。移動した方がいいだろう」
それとなくアドバイスすると、ユジンはぱっ、と顔を輝かせた。
「ありがとな。……って、あん時の教官殿!!」
「きょ、教官……?」
あの時というのは、難民キャンプで行われた帝国兵の選考会である。ナタリアは試験官の一人として参加したが、ユジン曰く多くの者が彼女を教官と呼んでいたらしい。
「教官殿のお陰で目安もわかった。仲間にも教えられる。ありがとうございます」
ユジンはぺこっ、と頭を下げる。と、視線を感じ振り返ると……バルディオンが優しい眼差しでナタリアを見ていた……気がした。
そのナタリアから少々離れた場所。バルディオンの傍にナハシュはいた。
「ガキは大人に比べて抵抗力が低い。冬に備えて沢山あった方がいいだろう、多分」
と、薬草の採取に勤しんでいた彼。来年も採りに来られるよう全て摘まず、1株につき8割位に留めて採取していた。
「なぁ、ニンジンのような葉っぱの奴は、幾らかお土産に貰っていいか?」
少しで構わないから、とバルディオンに問うと、彼は少し考える。
「まぁ、少しぐらいならいいだろう」
「よかった。うちにも小さいのが2人ほどいるから……」
それ故に土産に適するかもしれない、と考えたらしい。そんなナハシュに、バルディオンは「それなら尚更だな」と優しい顔で頷いた。
「実技試験ぶりか……。息災だったか?」
「! お久しぶりです!」
サマエラ=フォリウムは帝国兵の選考会の際に出会ったユジンと再会していた。サマエラは医学や薬学の知識で目的の薬草か否かをしっかり確認し、慣れた手つきで薬草採取を行っていた。
ユジンは南部解放の戦いの際奮闘したわりに怪我はなく、調子がいいらしい。それはよかった、とサマエラは笑顔で頷いた。
狭い範囲での取りすぎに気を付けるよう言おうと思ったが、ユジンは気を付けているように思えた。それとなく問えば、先ほどナタリアからアドバイスを貰ったのだ、と笑顔で言う。
「滋養強壮のを今、集めてるんだ。たしかこの葉っぱか?」
「あぁ。間違いない。症状の改善も勿論だが、滋養強壮も大事だものな」
ユジンとサマエラが頷き合う。そうしながらも、サマエラは穏やかに言う。
「流行り風邪、子だけでなく大人にも広まり得るなら私達も、気を付けて過ごさねばな」
気休め程度にサルベーションを送れば、ユジンは「ありがとう」と嬉しそうに耳を動かした。
「さて、冬越えの薬の備蓄は幼子の命運を握るからな。できるだけ根こそぎにせんように集めねば」
雪がちな北壁山脈出の人間として備蓄の大切さはよく知っているベルク・オスマットは、軽く体を伸ばすと薬草採取に励んだ。
勿論、翌年以降のことも考えて根こそぎ取ってしまわないよう気を付けて採取しているあたり慣れているようだ。
こういったことに慣れない兵士にはアドバイスしつつ、彼女は僅かに瞳を細める。
(この辺りは、密集している。間引くように採取するとして……、なるだけ多く準備しておいた方が良いだろう)
今年の冬は厳しくなる可能性もある。なるだけ多く採取できれば、と彼女は手際よく採取し続ける。
「あまり採りすぎてはいけないのじゃ。来年も採取できるようせねば」
と、声がするほうを見れば、華奢なエルフの女性が兵士に声をかけていた。ラシェルである。
(我の他にも、アドバイスできる者はいたか)
心強いな、とベルクが思っていると彼女は兵士達と別れ、一人で作業していた。
「そろそろ移動するべきかの。取りすぎてはならぬ」
ラシェルは籠を手に、次はどこで採取しようかと辺りを見渡す。ベルクは先程通った場所を思い出しそれとなくラシェルに近づいた。
「共に行かぬか? あちらにまだ蔓草があるが、量が多くて一人では荷が重いのだ」
「そう言う事なら、同行しようかの」
ベルクとラシェルはそろって歩き出した。
その頃、ナタリアは、鼻づまりによく効くという薬草を探していた。
(子供の免疫力はそれ程でも無いから、時間は余りかけられんか……)
あくまで薬草の調合や処方箋を作る事が得意な彼女。採集はどれ程出来るか分からなかったが、足手纏いにはなりたくない一心で採取に励む。
(勲章に使う材料としてそれをも用いるなら好都合だし、その謝意があるから我々は戦える。彼らの為の、祖国奪還のモチベーションに繋がろう)
脳裏に過ったもう一つの依頼の話の事も考えると、もう少し多めの方がいいだろうか? とナタリアが考えながら辺りを見渡していると……群生地を見つけた。
「こ、これはかなりあるな。一人では荷が重い……」
思わず呟いたその時、足音がした。振り返るとコハクの姿が。
何の依頼を受けようか掲示板を眺めていた際に見つけたこの依頼を(これも何かの縁か)と思い受けたコハクは、護衛を他の仲間へ任せて採取にやってきていた。
(少し前、興味本位で調べた薬学と昔から山の中で暮らしていた経験が活かせる)
コハクはひょいひょいと頼まれた薬草を採取しながらここへ来たのだが、量の多さに息をのんでいた。そんなところにナタリアと出くわしたのである。
「……どう思う?」
「流石に、2人でも辛かろう」
ナタリアとコハクが顔を見合わせていると、ちょうどいい具合にベルクとラシェルが来た。
「どうした?」
「おお! これは沢山あるのじゃ!」
悩んでいるように見えた2人に目が言ったベルクは、ラシェルの声で状況を把握する。彼女はぽん、と手を打つと
「この人数ならいいじゃろう」
と、協力し合おうと提案した。
途中、ノックスも手を貸してくれ、かなりの量の蔓草を入手する事ができた。
「すげぇな!」
運ぶのを手伝いに来たナハシュは目を点にする。これなら、沢山の人が助かりそうだな、と言えば、
「多くの難民が助かるでしょうね」
とノックスは柔らかい表情で頷いた。
海神・江流は、出立前に依頼の品の見本を見せてもらったお陰でスムーズに見つけることが出来ていた。傍らでは友達のシルヴィア・A・カペルも採取をがんばっていた。
(この機会に薬草について学びたいな。きっとロモズ歩兵団でも役に立つからね。薬の作り方も後で教えて貰いたいな)
生き生きしているのは、そう考えているからだろうか。それとも……? 元気がある事はいいことだ、と江流は微笑むが心配な一面もある。
(貴族で、歩兵団で、冒険者で。やれやれ、忙しい奴だ。そういう真面目は嫌いじゃない、が……)
彼は、それとなくシルヴィアに釘を刺しておく。
「何でもかんでも自分でやろうとし過ぎるなよ。人1人で出来る事なんてたかがしれてるんだ」
「人を使う、か……そうだね」
貴族で、団長なのだから同じぐらい人を使う事を覚えないと……、と江流に言われシルヴィアは苦笑しつつも「ありがとう」と素直に頷く。気負わせず気遣ってくれるそんな彼を、シルヴィアは「やはり人格者だ」と尊敬する。
だが、次に江流の口から出た言葉には、目を思わず見開いた。
「それはそうと、最近、浮いた顔してたからな」
何かいい事でもあったか? と問う江流。シルヴィアは自分の頬が熱くなるのを感じた。
「良い事、というか、何というか……!」
あたふたする彼女だが、ややあって
「先日、ナイトパーティで髪一房に口付けを落とされて」
と相談した。立場上、手の甲にキスされることならある彼女だが、その相手の事を想うと鼓動が跳ねる。
貴族故顔には出さない彼女だが実は初心なようで、友人である江流には素が出るようだ。
「これは、彼もそういう想いを持ってくれているのだろうか?」
「少なくとも、彼はシルヴィに自分を見て欲しいと思ってるって事じゃないのか?」
キスの場所に意味があったのか、と感心しつつも肝要と思う事を口にすれば、シルヴィアは頬を朱に染め、「それなら、嬉しいけれど」と呟いた。
●繋ぐ為に、明日の為に
冒険者と帝国兵の努力が実り、沢山の薬草が集まった。
「これで、どうだ?」
「冬の備蓄だけじゃなくて、薬草が足りない村への配布もできるかも」
集まった薬草を見たバルディオンの問いにレビジュが目を輝かせて答える。他の薬師や医師も喜んでいるようだった。
ふと、バルディオンがレビジュをみると、愛らしい花の冠がレビジュの頭に乗っている。これはイズルが「お前の門出を祝って」とくれた物である。
視線に気づいたレビジュが、説明しながら少し恥ずかしそうにしていると、バルディオンは子供らしい一面もあるのだな、と穏やかな眼で頷いた。
「これでどうだろうか?」
「足りるか?」
ナタリアとナハシュがドワーフの若者へ蔓草を渡しに行くと、彼は笑顔で感謝を述べた。
「勲章をいい色に染められそうだ。本当に助かったよ! ありがとう!」
こうして感謝されるのは、ちょっとくすぐったいが、依頼人の笑顔でこの仕事も頑張れる気がする2人だった。
――作業室。
早速薬づくりの作業に入ったレビジュの様子を、見学する者たちがいた。リコリスとイズルである。
(手際はよさそうですね)
リコリスは、今日収穫した薬草を手際よく干すレビジュの姿を見ながら、その顔がどことなく楽しそうである事に気付いた。
「花びらの方は、どうするのですか?」
「この花びらは乾燥させる前に潰して団子状にするよ。新鮮なうちにやらなくちゃ」
彼女の問いに答えながら、レビジュは手を休めず花びらを乳鉢で擦り潰す。
「こっちのは何に使うんだ?」
「この薬草は切り傷に効くんだ。乾かした後粉にして……」
イズルが花冠に使った薬草について問えば、レビジュは簡単に説明する。その様子を見ながら、リコリスの表情が少々穏やかになる。
「沢山あるから、冬への備えも十分蓄えられるかも」
ありがと、というレビジュに、リコリスとイズルは、頑張った甲斐があった、と思うのだった。
この調子なら、晩夏の厄介事は解決に向かいそうだ。
(終)
「め、めめめ目一杯!頑張るます!」
と、緊張気味なのは新米冒険者のエクレア。彼は初めての『危険がある(かもしれない)任務』におどおどしているようだ。傍らではゴブリンの女性、ガルシアが大丈夫、と励ますように見守っている。
「こちらこそ、よろしくお願いします」
と難民の代表たるゴブリンロードらしき男性が一礼し、子どもや病み上がり、お年寄りから馬車に乗り込む。体力に自信がある者は歩くらしく、馬車に荷物を預けていた。
その様子を見ながら、アウレーリア・フォン・ネーベルベルクは静かに考えていた。
(所詮私達は余所者、居残りが長引けば悲劇を招くという事は知っていたわ)
恙なく帰国させる事が、民を守る事にも繋がると考えたアウレーリアは明るく接しようと考えた。
(私以上に不安が無い筈ないんだもの)
それとなく馬車に乗る子供を手伝うアウレーリア。幼い少女は、満面の笑顔で「ありがとう、おねえちゃま」と頭を下げる。アウレーリアは少し照れつつも「奥から座ってね」と伝えるのだった。
そうしながらもすこし気がかりな事がある。それは、バラクの事である。
(そういえば、彼は帝国に戻るか、エルフの里に残るか迷っているそうね)
記憶が曖昧だとも聞いた彼女はガルシアや他の冒険者に事情を話し、バラクの元へ行くことに。それを聞いたエクレアも、「気になる」という事で共に行くことになった。
二人は、他にもバラクを気にかけていた冒険者と共に彼を訪ねる。と、狼のハーフビースト、バラクは難民の荷物を馬車に積む手伝いをしていた。
「あぁ、こんにちは」
ヨル・スレイマンはエデル=マグノリア、リディリディ・トゥラ・イェレミースと共にバラクを訪ねていた。族長から話に聞いていた冒険者であると考えた彼は、笑顔で一礼した。
「今回は、族長から手伝うようにと言われて、いる。何でも言って欲しい」
と穏やかに言うバラクだが、ちょっと顔が曇っている気がする。
(少し、表情が曇ってますわね……)
エデルは彼の事情をよく知らない。だが、悩んでいるならば話を聞きたいと思う。少し話しましょう、と彼を少し離れた場所に案内した。
ヨルはナバルジャの話を思い出し、つとめて明るく声をかけた。
「なんだかうかない顔をしてるね。どうしたんだい?」
「うーん、これは冒険者さんに話したほうが、いいのかな……」
「話すだけでも、楽になる事はあるわよ」
良かったら聞かせて、と優しくエデルは促す。彼女のお陰で表情を和らげたバラクは、しばし考え
「本当は、解放された帝国南部に行ってみたいんだ」
と小さな声で答える。そこに悩みがあるのだろう、とエデルは考え、静かに相槌を打つとバラクが絞り出すように言葉を続けた。
「でも、まだ、俺は……行ってはいけないような気がするんだ。ハートの里の族長は許可をくれたけれど……」
バラクは表情を曇らせ、耳を伏せる。その視線の先にはリディリディがいた。
「そちらの、エルフさんは、俺がやらかした事を知ってるだろ? その償いがまだ終わっていないんだ」
「償い……? あぁ……」
バラクは、過去に求婚を断られた腹いせに、特異個体コボルトに変装し里の人々に嫌がらせをした事がある。冒険者たちにきつくお灸を据えられた後、被害に遭った里の長達から奉仕作業をするよう言われ、バラクは今日まで働いていた。
当時、リディリディは事件解決の為に里へ赴いていた。その事を思い出し……その時よりもバラクの顔が幾分か穏やかになったように思えた。
「ハートの里の人たちが許してくれたのですから、帰っても良いんじゃないでしょうか? ……違うとは思いますが、まさかまだロゼさんに未練が……」
「ロゼさんについては、もう諦めてるよ」
苦笑しながらバラクはいい、嘘ではないな、とリディリディはなんとなく感じた。
ヨルは、話を聞きながら頷き、穏やかに言う。
「償いはねえ、難しいんだよな。人間は生きる程に綺麗では居られないものだ。
何かをやり遂げるには、一人の一生は短いよ」
俺達は特にだろ? と笑えば、バラクも頷く。ヨルは経歴的に「罪」に対して考え方が軽い。その為、バラクの『償いたい』という気持ちを尊重して考えたいようだ。
「確かに、そうだ。けど……帝国の崩壊以前の記憶が酷く曖昧で……」
バラクが不安げにそう言うと、今まで様子を見ていたエクレアが彼を見上げる。
「そっか、それは寂しいし不安だな……。でも、一先ず一緒に見に行ってみようぜ」
「帝国の記憶が曖昧なら、それこそ一度戻っても良いのかも。両方を見比べて考えて、なおも里が良いと思えばまた戻ればいいわ」
アウレーリアは一方だけ見て決めたらきっと後悔する、とアドバイスをしながら考える。
(王国であれエルフの里であれ、帝国民が暮らすのは楽じゃない)
彼女は頷き、バラクの目を見て再び穏やかに口を開く。
「どんなに溶け込んでも、ふとした時「余所者」扱いが頭を擡げるわ。けれどバラク、貴方がその覚悟で願うなら、私は応援したい」
私は気長に付き合いますよ、とそっと目を細めるアウレーリア。
「私も……崩壊後である今の状態の帝国を見て決めた方が良いかと思います~」
リディリディもまた、考えながら言葉を続ける。
「帝国へは私たち授恵者が護衛をしないといけないくらいなので、もし帝国に住むとなれば気軽にエルフの里とは交流できないでしょう。迷う気持ちは解らないでもないです」
確かに、とバラクは相槌を打つ。ヨルはそんな彼の肩を軽く叩いた。
「踏み出してみるのもいいんじゃないかな! 君が帝国でできる事が増えれば、エルフの里に何かを還元する事もできるかもしれない」
こうも思うんだ、とエクレアがヨルに続けて話す。
「一旦離れても、バラクがこの里で過ごした時間も無くならないし、帝国への気持ちが一段落したら、またここに来てお礼すれば良いんじゃないか? きっとエルフの人達も土産話を喜んでくれるよ」
「だと……いいな」
バラクが少し表情を緩ませる。あと少しで何かが変わる、と思ったエデルは、そっと頷いた。
「帰る事が出来る場所は、一つだけに絞らなくてもいいのではないかしら?」
「え?」
エデルの一言に、バラクは思わず目をきょとん、とさせる。だが、少し考えると「族長と話してくる」とその場を後にした。
再び戻ってきた彼は、幾つかの荷物を持っていた。
難民たちを乗せた馬車は、のんびりと帝国南部へ向かう。
その途中は特に異変もなく、実に平和な旅路だった。
「一旦、帝国の現状を見てから決断するんだって?」
ヨルの問いに、バラクは頷いた。彼は狼の尻尾を揺らし、少し遠くを見ながら彼らに頷く。
「ああ。まずは、見ないとはじまらない……よな?」
「バラク様……」
記憶についても何か思い出すかもしれない、と笑う彼の横顔が、エデルには優しく見えた。
エクレアは当初ガチガチに緊張していたものの、護衛の仕事が始まれば周囲を警戒し、解らないことがあれば先輩冒険者たちに確認していた。
(先輩がいるのは、心強いな)
その事にちょっと安心したエクレアは、少しずつ護衛のコツを覚えていく。
「もうすぐ到着ね」
アウレーリアの声がする。彼女の視線の先、帝国南部に築かれた復興中の街が見える。冒険者たちは、最後まで気を引き締めて送ろうと気合を入れたのだった。
●薬草をさがそう 砦周辺編
――ヴァイセントラフ砦周辺。
そこにはレイウェストからの依頼で、冒険者たちが薬草採取に訪れていた。
レティシア・レインフィールもまた、薬草採取の依頼を受けていた一人だ。彼女はヒーラーの心得として医療や薬学の知識を持っている。だが、今回はそれを活かしたり深めたりするいい機会になるだろう、と参加しているようだ。
(お邪魔にならない範囲内でお勉強をさせて頂きます)
作業の前に見本を見ようとしてると、偶然ロバ耳の少年と出くわした。薬の材料を補充するためにやってきたレビジュである。
採取する薬草の特徴や、似ている毒草などないかレティシアが問えば、レビジュは見本を見せてくれた。
「先日材料を取りに来た時に見た限り、似ている草はあるけど毒がある物はないよ」
と、今回集める薬草と、似ているが違う効果の薬草について説明してくれた。そして、どんな場所に群生しやすいかもアドバイスしてくれる。
レビジュは、帝国の薬師として働くことに決めた。ならば、もう子供扱いせず自立した一人の人として接しよう、とレティシアは考える。
(それに子供でなくとも、正しく在ろうと努力する方を応援するのは当然でございますから)
レティシアは、先日よりも明るい顔のレビジュに、そっと微笑んだ。
「レビジュ様……よい、輝きになられましたね」
そう、声をかけたのは、ララノアだった。レビジュは少し恥ずかしそうにしていたが、ぺこっと頭を下げる。ララノアが外の生活はどうですか、と問うと、レビジュは「案外悪くないよ」と悪戯っ子の顔になる。
思わずくすっ、と笑ってしまったララノアは、次は何をやりたいかと問えば、レビジュは少し考える。
「この世界にはまだ僕が知らない薬草があるだろうから、もっと薬草の勉強がしたいかな。そしたら、もっと役に立てると思うし」
レビジュは少しだけはにかむように笑い、ララノアは表情を緩める。
「お元気そうで、安心致しました。これから先も、たくさんの事があるでしょうけれど……、えと……えっおー! でございましっ」
ララノアは、少しでも少年がよい方向へいけるよう、心を込めてエールを送る。レビジュは、不思議そうな顔をするも、擽ったそうに「ありがと」と頭を下げた。
冒険者たちは、砦周辺に散らばり採取をはじめる。
この辺りでは鼻づまりに効く蔓草(根を使用)と、熱さましに効くキクのような花(葉と花を使用)を中心に採る事になっていた。
「来ていたんだね」
「薬を作っていたら、材料が足りなくなっちゃてね」
エリザ・A・ミシャールは、一人採取をしていたレビジュと出くわし、しばし一緒に採取を行う。
レビジュは慣れた様子で薬草を見分け、丁寧に採取していく。その様子を見ながら、エリザは1つ提案する。
「思ったんだけど、少し多めに採取して、押し花やドライフラワーとして取っておくのはどうだ?」
「薬、じゃなくて……? どうして?」
不思議そうに首を傾げるレビジュに、エリザは採取した薬草を見ながら
「いつまでもこの場所に居る訳じゃないだろう。けれど、知識は引き継いでいくことが出来るぞ」
と語る。と、レビジュは左目を僅かに見開いた。とても興味を引いたらしく、左目がキラキラしている。
「薬としての正しい扱い方や、採取上の注意。それに製剤や投薬の上での注意点を文字と現物を……あと、できれば口上も記録しておくんだ」
「そしたら、他の人も見ることができるね」
ぽん、と手を打つレビジュにエリザは頷く。
「アンタに求められてるのは、きっとそういう事さ」
経験を自分の中に貯めず、活用していく事がレビジュ自身の価値を高める事になるんじゃないか、とそっとアドバイス。
レビジュは興味を持ったのだろう。彼女に感謝を述べると別の所でも採取してくる、と言って奥へ行く。その背中を、エリザは優しい眼差しで見送った。
(……毒を悪用する者は個人的に好きではないのですが、被害者である皇子が薬師として使うと決めたのならば私が口を挟む余地はありませんね)
リコリス・アデュラリアは、依頼された薬草を手際よく採取しながら少し離れた所でレビジュを見ていた。
それにエルフである彼女からみたら、幼児のような者に腹を立てても仕方がない……らしい。
リコリスは依頼された薬草の実物を見ると、己が持つ知識を使って薬草の成長条件を満たす群生地となりそうな物を推測し、採りすぎないように注意しながら作業していた。
慣れていない者がいれば、また採取出来るようにその場の薬草全てを採取しないよう、と注意喚起しておく。
(確かに、そうですね……)
それに耳を澄まし、ノックス・マグナはその事を頭に入れて採取を続ける。
(殿下からの依頼という事もあり気乗りしませんでしたが……、難民の為と思えば)
こうして作業に没頭するのは、たまにはいいかもしれないな、とノックスは考える。
ノックスは、少し離れた所にレビジュを見かけ、少年の視界にそれとなく入らぬよう動いた。それは、レビジュの処遇をどうするか話し合った際に苛烈な案を出した、と考えるからだろうか。
(彼は、これからどう変わっていくのでしょうね)
ちらり、とレビジュを見……ノックスは僅かに瞳を細めた。
「気になるのですか?」
「いえ、彼も少しずつ馴染んできているように思いまして」
リコリスが何気なく言えば、ノックスは静かに首を振った。
「この辺りは、蔓草が多いですね」
レビジュから特徴を聞いていたレティシアが蔓草を採取をしていると、
「理由があっても乱獲、ダメ! ゼッタイ!! 来年も採取できた方がいいからな」
と、慣れない者へイズル・M・ヴォルゴールがアドバイスしていた。
「乱獲されると、次に繋がらないからね……。程々がいいんだよ」
薬草が入った籠をもったレビジュが、彼の言葉に頷いていた。イズルはレビジュに手を振り、元気そうな様子に安堵する。が、レティシアには気がかりな事があった。
「レビジュ様、お水は飲んでいますか?」
「えっ?! あ……忘れてたかも! 教えてくれてありがとう」
こちらを、とレティシアはレビジュに水を飲ませ、他の人にも水分補給を促した。
「そういえば、レビジュは来年もここに居るのか?」
イズルが何気なく問いかければレビジュはうーん、と首をひねる。
「今の所解らないな。当分はこことか帝国南部に出向いたりかな?」
「そっか。もしここから移動することになったら連絡してくれよ?」
彼はそう、軽い様子で返す。真面目な言葉は他の仲間に任せ、自分は兄弟や友達のように接してみようと考えたらしい。
「その時は、伝えられたらいいな」
レビジュが擽ったそうに笑う。そんな顔が、自然なものに感じるレティシアとイズルだった。
「この辺りは解熱効果のある薬草が群生してるんだな」
「向こうは足場が悪いみたいだ。気を付けるんだぞ」
ハヤト=ガラン=ヴォルファングは、一面に咲くキクのような花に息を飲む。そんな彼に、辺りの様子を見てきたエリザが注意を促した。
(すげぇな、これは……)
その花を丁寧に採取しながら、彼は出立前の事を考えていた。
出立前、タイミングよくバルディオンと会えたハヤト。彼は、砦奪還の際、自分は仇討の役に立てたのか、と将軍に聞いていた。
「その節は、大変世話になった。ティオルの仇を取る事が出来たのは皆のお陰だ」
勿論、君の力も有難かった、とバルディオンはハヤトに言った。
父の事を聞くことはできなかったが、彼の息子へ供えて欲しい、とチョコレートを渡すことはできた。
(Jrは、喜んでくれっかな……)
ふと、将軍の息子へと想いを馳せていると……、足音がする。その方向へ目をやると、ロバ耳が見えていた。どうやら、レビジュもこの辺りに来ていたらしい。
「おう。元気そうじゃねーか」
「ハヤト、さん……?」
ハヤトは、心情的にレビジュの生い立ちやこれまでの境遇に同情していた。それ故に、気にしていたのだが、少年は思った以上にいい顔をしていた。
「折角拾った命だ。これからどう生きていくかは見えてきたか?」
と、問いかけると、レビジュは少しだけ苦笑する。
「少しずつ、かな」
その言葉からは嘘を感じず、手探り状態でも少しずつ進んで行っているんだな、とハヤトは相槌を打つ。彼はチョコレートを取り出すとレビジュに手渡した。
「! ……いいの?」
ハヤトは、「ああ」と笑顔で頷き、改めて己の金色の目とレビジュの青い眼を重ねる。
「お前のこれからの生き方次第じゃ、離れ離れになったガキ共にもそいつを食わせてやる事も出来んじゃねーか?」
そう言って、彼はぽん、とレビジュの頭を撫でる。しばらくきょとん、としていた少年であったが、暫くして力強く頷いた。
「チョコ、ありがとね。それにしても、これって流行ってるの? この間もチョコレートバーをくれた人がいたけど……」
少年の問いかけに、ハヤトは少し考え「多分」とちょっとだけ苦笑した。
●おいしい(?)勉強会
――難民キャンプのとある場所。
コルネリウス・アーラは、難民たちの中から希望者を募り、キノコや薬草の見分け方などを教えていた。
「これから先も、様々な薬草が必要になるでしょう。秋になれば様々な森の実りが手に入りますよ」
彼女は薬用に使えるキノコや木の実、ハーブ類について資料に纏め、使い方を記していた。今回の勉強会の資料である。
「文字が読めない人は手伝うのだ」
ストレガ・L・リベルガストラが難民たちの間に入り、資料の読み方などを教えていく。
「ハーブは眠りに導く物や、スッキリした気分になる物など、お茶として飲めば直接的な薬効はなくとも心の調子を整える役割を持つ物も沢山あります」
コルネリウスの穏やかな声は聴きやすく、集中しやすかったのだろう。ストレガのフォローもあり、皆楽しく学んでいるようだった。
「次は実践なのだ。今回はさっきコルネリウス殿が教えてくれた物を探すのだ」
ストレガは、コルネリウスと難民達と共にキャンプ地近くの林へ。ストレガは特に滋養強壮に効く薬草を集めていく。
群生している物は意図的に残したものが十分に成長できるよう、間引くように採っていく。不思議そうにしている子供に
「来年も採れるように残しておくのだ。これは恵みであるのだ」
採り過ぎに注意するのだ、と説明すれば子供は1つ頷いた。
ある程度薬草などが集まった所で、今度は調理。今回は、薬草粥を作って、皆で食べる。因みに、彼女のレシピはコルネリウスが作った資料に追加されていた。
「薬を飲むのが苦手な者がいるだろうから料理に混ぜてしまえばよいのだ。食べねば元気が出ないのだ。胃が弱い者は汁だけでもいいのだ」
「これからの季節にいいレシピですね」
脳内でレシピを振り返り、薬草の下拵えをしながらコリネリウスが口元を綻ばせる。
皮を取った鶏肉を、塊のまま入れ出汁を取る。そのスープで米と薬草を煮、味付けする。肉は後ほど取り出して刻んだり解したりして粥に混ぜても良いし、食べる際乗せても良い。
ストレガはコルネリウスを助手に、穏やかボイスでお手本を見せる。
「味を調えたら、玉子を解いてかけ……一煮立ちなのだ」
ふんわり玉子入りの薬草粥ができると、みんなで試食。その素朴だが旨味がしっかりついた粥に、参加者の口から「おいしい」と幾つも漏れる。
「今日の事も思い出になれば、いいですね」
ほのぼのと皆で薬草粥に舌鼓を打つ光景を見つめながら、コルネリウスはストレガと頷き合い、目を細めて呟いた。
●薬草を探そう 林編
「まだ、気温は高い。水分補給を怠らないよう、気を付けながら採取をしよう」
と、バルディオンが兵士たちに指示を出す。林では、丁度時間のあった帝国の兵士たちが、薬草を採取していた。
元帝国の従軍治癒士のナタリア・フィッツジェラルドは、その力量を以ってバルディオン将軍に売り込みを図りたいと考えていた。と同時に……、ユジンにも覚えてもらいたい、とも考えていた。
(彼と同じくハーフビーストとなれば、今は新兵でも如何なる武勲をあげるのかが見物だ)
ナタリアは的確なアドバイスでもって兵士たちが効率よく採取できるようにし、採取する際は量にも気を付けるよう伝えておく。
水分補給を怠りそうな者にも声をかけていっていると……ユジンが獅子の耳をぴくぴくさせながらニンジンの葉にちかい薬草を採取していた。
「これ以上取ったらいけないか?」
「目安としてはそうだな……。移動した方がいいだろう」
それとなくアドバイスすると、ユジンはぱっ、と顔を輝かせた。
「ありがとな。……って、あん時の教官殿!!」
「きょ、教官……?」
あの時というのは、難民キャンプで行われた帝国兵の選考会である。ナタリアは試験官の一人として参加したが、ユジン曰く多くの者が彼女を教官と呼んでいたらしい。
「教官殿のお陰で目安もわかった。仲間にも教えられる。ありがとうございます」
ユジンはぺこっ、と頭を下げる。と、視線を感じ振り返ると……バルディオンが優しい眼差しでナタリアを見ていた……気がした。
そのナタリアから少々離れた場所。バルディオンの傍にナハシュはいた。
「ガキは大人に比べて抵抗力が低い。冬に備えて沢山あった方がいいだろう、多分」
と、薬草の採取に勤しんでいた彼。来年も採りに来られるよう全て摘まず、1株につき8割位に留めて採取していた。
「なぁ、ニンジンのような葉っぱの奴は、幾らかお土産に貰っていいか?」
少しで構わないから、とバルディオンに問うと、彼は少し考える。
「まぁ、少しぐらいならいいだろう」
「よかった。うちにも小さいのが2人ほどいるから……」
それ故に土産に適するかもしれない、と考えたらしい。そんなナハシュに、バルディオンは「それなら尚更だな」と優しい顔で頷いた。
「実技試験ぶりか……。息災だったか?」
「! お久しぶりです!」
サマエラ=フォリウムは帝国兵の選考会の際に出会ったユジンと再会していた。サマエラは医学や薬学の知識で目的の薬草か否かをしっかり確認し、慣れた手つきで薬草採取を行っていた。
ユジンは南部解放の戦いの際奮闘したわりに怪我はなく、調子がいいらしい。それはよかった、とサマエラは笑顔で頷いた。
狭い範囲での取りすぎに気を付けるよう言おうと思ったが、ユジンは気を付けているように思えた。それとなく問えば、先ほどナタリアからアドバイスを貰ったのだ、と笑顔で言う。
「滋養強壮のを今、集めてるんだ。たしかこの葉っぱか?」
「あぁ。間違いない。症状の改善も勿論だが、滋養強壮も大事だものな」
ユジンとサマエラが頷き合う。そうしながらも、サマエラは穏やかに言う。
「流行り風邪、子だけでなく大人にも広まり得るなら私達も、気を付けて過ごさねばな」
気休め程度にサルベーションを送れば、ユジンは「ありがとう」と嬉しそうに耳を動かした。
「さて、冬越えの薬の備蓄は幼子の命運を握るからな。できるだけ根こそぎにせんように集めねば」
雪がちな北壁山脈出の人間として備蓄の大切さはよく知っているベルク・オスマットは、軽く体を伸ばすと薬草採取に励んだ。
勿論、翌年以降のことも考えて根こそぎ取ってしまわないよう気を付けて採取しているあたり慣れているようだ。
こういったことに慣れない兵士にはアドバイスしつつ、彼女は僅かに瞳を細める。
(この辺りは、密集している。間引くように採取するとして……、なるだけ多く準備しておいた方が良いだろう)
今年の冬は厳しくなる可能性もある。なるだけ多く採取できれば、と彼女は手際よく採取し続ける。
「あまり採りすぎてはいけないのじゃ。来年も採取できるようせねば」
と、声がするほうを見れば、華奢なエルフの女性が兵士に声をかけていた。ラシェルである。
(我の他にも、アドバイスできる者はいたか)
心強いな、とベルクが思っていると彼女は兵士達と別れ、一人で作業していた。
「そろそろ移動するべきかの。取りすぎてはならぬ」
ラシェルは籠を手に、次はどこで採取しようかと辺りを見渡す。ベルクは先程通った場所を思い出しそれとなくラシェルに近づいた。
「共に行かぬか? あちらにまだ蔓草があるが、量が多くて一人では荷が重いのだ」
「そう言う事なら、同行しようかの」
ベルクとラシェルはそろって歩き出した。
その頃、ナタリアは、鼻づまりによく効くという薬草を探していた。
(子供の免疫力はそれ程でも無いから、時間は余りかけられんか……)
あくまで薬草の調合や処方箋を作る事が得意な彼女。採集はどれ程出来るか分からなかったが、足手纏いにはなりたくない一心で採取に励む。
(勲章に使う材料としてそれをも用いるなら好都合だし、その謝意があるから我々は戦える。彼らの為の、祖国奪還のモチベーションに繋がろう)
脳裏に過ったもう一つの依頼の話の事も考えると、もう少し多めの方がいいだろうか? とナタリアが考えながら辺りを見渡していると……群生地を見つけた。
「こ、これはかなりあるな。一人では荷が重い……」
思わず呟いたその時、足音がした。振り返るとコハクの姿が。
何の依頼を受けようか掲示板を眺めていた際に見つけたこの依頼を(これも何かの縁か)と思い受けたコハクは、護衛を他の仲間へ任せて採取にやってきていた。
(少し前、興味本位で調べた薬学と昔から山の中で暮らしていた経験が活かせる)
コハクはひょいひょいと頼まれた薬草を採取しながらここへ来たのだが、量の多さに息をのんでいた。そんなところにナタリアと出くわしたのである。
「……どう思う?」
「流石に、2人でも辛かろう」
ナタリアとコハクが顔を見合わせていると、ちょうどいい具合にベルクとラシェルが来た。
「どうした?」
「おお! これは沢山あるのじゃ!」
悩んでいるように見えた2人に目が言ったベルクは、ラシェルの声で状況を把握する。彼女はぽん、と手を打つと
「この人数ならいいじゃろう」
と、協力し合おうと提案した。
途中、ノックスも手を貸してくれ、かなりの量の蔓草を入手する事ができた。
「すげぇな!」
運ぶのを手伝いに来たナハシュは目を点にする。これなら、沢山の人が助かりそうだな、と言えば、
「多くの難民が助かるでしょうね」
とノックスは柔らかい表情で頷いた。
海神・江流は、出立前に依頼の品の見本を見せてもらったお陰でスムーズに見つけることが出来ていた。傍らでは友達のシルヴィア・A・カペルも採取をがんばっていた。
(この機会に薬草について学びたいな。きっとロモズ歩兵団でも役に立つからね。薬の作り方も後で教えて貰いたいな)
生き生きしているのは、そう考えているからだろうか。それとも……? 元気がある事はいいことだ、と江流は微笑むが心配な一面もある。
(貴族で、歩兵団で、冒険者で。やれやれ、忙しい奴だ。そういう真面目は嫌いじゃない、が……)
彼は、それとなくシルヴィアに釘を刺しておく。
「何でもかんでも自分でやろうとし過ぎるなよ。人1人で出来る事なんてたかがしれてるんだ」
「人を使う、か……そうだね」
貴族で、団長なのだから同じぐらい人を使う事を覚えないと……、と江流に言われシルヴィアは苦笑しつつも「ありがとう」と素直に頷く。気負わせず気遣ってくれるそんな彼を、シルヴィアは「やはり人格者だ」と尊敬する。
だが、次に江流の口から出た言葉には、目を思わず見開いた。
「それはそうと、最近、浮いた顔してたからな」
何かいい事でもあったか? と問う江流。シルヴィアは自分の頬が熱くなるのを感じた。
「良い事、というか、何というか……!」
あたふたする彼女だが、ややあって
「先日、ナイトパーティで髪一房に口付けを落とされて」
と相談した。立場上、手の甲にキスされることならある彼女だが、その相手の事を想うと鼓動が跳ねる。
貴族故顔には出さない彼女だが実は初心なようで、友人である江流には素が出るようだ。
「これは、彼もそういう想いを持ってくれているのだろうか?」
「少なくとも、彼はシルヴィに自分を見て欲しいと思ってるって事じゃないのか?」
キスの場所に意味があったのか、と感心しつつも肝要と思う事を口にすれば、シルヴィアは頬を朱に染め、「それなら、嬉しいけれど」と呟いた。
●繋ぐ為に、明日の為に
冒険者と帝国兵の努力が実り、沢山の薬草が集まった。
「これで、どうだ?」
「冬の備蓄だけじゃなくて、薬草が足りない村への配布もできるかも」
集まった薬草を見たバルディオンの問いにレビジュが目を輝かせて答える。他の薬師や医師も喜んでいるようだった。
ふと、バルディオンがレビジュをみると、愛らしい花の冠がレビジュの頭に乗っている。これはイズルが「お前の門出を祝って」とくれた物である。
視線に気づいたレビジュが、説明しながら少し恥ずかしそうにしていると、バルディオンは子供らしい一面もあるのだな、と穏やかな眼で頷いた。
「これでどうだろうか?」
「足りるか?」
ナタリアとナハシュがドワーフの若者へ蔓草を渡しに行くと、彼は笑顔で感謝を述べた。
「勲章をいい色に染められそうだ。本当に助かったよ! ありがとう!」
こうして感謝されるのは、ちょっとくすぐったいが、依頼人の笑顔でこの仕事も頑張れる気がする2人だった。
――作業室。
早速薬づくりの作業に入ったレビジュの様子を、見学する者たちがいた。リコリスとイズルである。
(手際はよさそうですね)
リコリスは、今日収穫した薬草を手際よく干すレビジュの姿を見ながら、その顔がどことなく楽しそうである事に気付いた。
「花びらの方は、どうするのですか?」
「この花びらは乾燥させる前に潰して団子状にするよ。新鮮なうちにやらなくちゃ」
彼女の問いに答えながら、レビジュは手を休めず花びらを乳鉢で擦り潰す。
「こっちのは何に使うんだ?」
「この薬草は切り傷に効くんだ。乾かした後粉にして……」
イズルが花冠に使った薬草について問えば、レビジュは簡単に説明する。その様子を見ながら、リコリスの表情が少々穏やかになる。
「沢山あるから、冬への備えも十分蓄えられるかも」
ありがと、というレビジュに、リコリスとイズルは、頑張った甲斐があった、と思うのだった。
この調子なら、晩夏の厄介事は解決に向かいそうだ。
(終)
マスターコメント
菊華です。
今回は、あたたかなプレイングのお陰でこのようにほのぼのに仕上がりました。
帝国南部へ戻る難民たちだけではなく、レビジュやバラクにとっても新たな一歩を踏み出しました。
これからどうなるのかは、おたのしみに。
それでは今回はこの辺りで。
また縁がありましたらよろしくお願いします。
イベントシナリオ普通 報酬:多い23 / 5〜25人
2021年09月13日 15時31分12秒 公開
大成功
参加者
相談掲示板
シルヴィアだ。 友人と薬草採取に向かう予定。この機会に薬草について勉強出来たらと思うよ。現地で会ったらよろしくね。
ヒーラーのエデルよ、よろしくね。 そうね、薬草も気にはなるけれど……。 長がバラク様を気にかけていらっしゃるようだし、ちょっとバラク様とお話ししてみようと思うわ。 私は彼の事情はよく知らないから、話をただ聞くって言うのが主体になるけれど。
ヒーラーのナタリア・フィッツジェラルドだ。宜しく。 薬草採取にあたり、この機会にバルディオン将軍との親睦というか売り込みを図ろうと思っている。 あとは彼と同じハーフビーストで新兵でもあるユジンも気になるな。
ヒーラーのイズル、よろしく。 俺は薬草採取で、レビジュとちょっと話しながら砦周辺で採取の予定だ。
No.5
エクレアだ。よ、よろしく頼む! 護衛に採集も、自信は・・・ないが・・・。 護衛の方に、行く。・・・俺でも、何かできることが、あればいいんだけどな・・・。
シーフコハクよ、よろしく。 今回は薬草採取に向かうわ
報告書(プレイング)提出期限まで24時間を切ったよ。 難民たちの護衛につく人も、薬草採取の人も報告書の白紙提出に注意してね~。