【祝祭】冬来たりなば、春遠からじ

弓月 蒼

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シナリオID:3447

オープニング

●凱旋

 『帝都奪還』遠征、『幽界樹』大征伐、討竜戦役、神話と人類の戦い……
 或いは――――ロスガリア大陸史上の歴史的分岐点(ターニングポイント)。

 後に様々な呼称で呼ばれる戦いを経て、実に二百以上の授恵者が犠牲となった王国遠征軍。
 文字通り精も根も尽き果てた兵達は、それでも。まさしく大勢の歓声と共に迎えられた。

 彼らが為した歴史的難事が。これから始まる帝国の復興が。それに伴う王国の発展が。
 その先に華々しい未来が在ると信ずる者達にとって、彼らは文字通りの英雄であったからだ。

 北方辺境伯領――――『城塞都市』ノストガルデン。
 中央通りを凱旋した北方辺境騎士団の面々が、先ず最初に取り掛かったのは戦後処理である。
 
 かつてない数の犠牲が出た。彼らは北境鎮守を担う精兵達であり、直ぐ代用の効く存在ではない。
 北境に婚約者を残し遠征に赴いた者も居る。騎士としての俸禄に頼り家族を養っていた者も少なくない。

 十分な戦後補償を広く、確実に行き渡らせる事が領主として。指揮官としての最低限の役割であると。
 『アーチボルト辺境伯』メルヴィン・トマス・アーチボルトは帰還後も精力的に、自己犠牲的に働いた。

 それが命を棄てる事を命じ、結果命を拾った者に課せられた責任であり、誠意だった。
 騎士団もまた、あまりに多い戦没者の身元照合と遺留品の親族への返却。大葬儀の準備に手を割かれ。

 全てが漸く一区切り付いた頃には、既に凱旋から半月以上の時が経過しようとしていた。
 突然の訪問者が、先触れ(アポイントメント)も無く訪れたのは、丁度そんな折のこと。

 ――――北方辺境伯領執政府内。二階、執務室。

「やあメルヴィン。調子はどうかな? そろそろ時間が出来た頃かと思ったんだけど」

「……ウィリアム王子。訪領の際は事前に一報入れて欲しいと、何度伝えれば分かって貰えるのだろう」

 誰ならぬ。『放蕩第二王子』ことウィリアム・リーンエスその人が片手を挙げていた。
 放蕩生活には区切りを付けた、と称しているらしいが。人の心性と言うのはそう変わる物でもないのか。

 次期公爵ともなれば執務も多忙だろうに、こうして時間を作ってやって来たとなれば無碍にも出来ない。

「いや、こっちも別に暇な訳ではないよ? けれど我が親友殿との約束は、流石に守らないといけないだろう」

「なるほど、それでこの時期か……全く、律儀なのか耳が良いのか」

 戦後処理は王都へ上がり自ら王に報告するのが、アーチボルト辺境伯家では慣例となっているが。
 本来なら、臣籍降下し“異なる家の領主”となる予定のウィリアムに報告内容が伝わる事はない。
 
 加えて言えば。領内での祭事などは然程詳しく伝達するような事でも無い為、最小限に留めた筈だ。
 それでいて確り開催前日の夜に合わせてやって来る当たり、故意犯と判断する他はない。

「そう、僕は良い"耳"を持っているからね」

「恐れながら、王族特権の濫用も程々にするのが宜しいかと」

 呆れたように応じるメルヴィンと、ウィリアム。両者の元へ家令長が果実酒を持って来る。
 本来執務中の飲酒など断じて忌むべき風紀の乱れだが、この時ばかりは止むを得まい。

「この勝利と無事での再会に」

「王国の繁栄と絶えぬ友情に」

 打ち合わされる酒杯(グラス)の澄んだ音が響く。
 これはきっとそういう日であり、だからこれはきっと――――そういう一日の物語だ。

 ■

「さーてさてさて、参ったねこれは」

 そんな執務室の下。執政府1階の事務室では北方辺境騎士団事務方のトップ。文官長を拝命し(させられ)た。
 序列第二位、『隠者』ノイマン・アガスティアが団内の人事資料を並べて胡乱げな眼差しを浮かべていた。

 組織再編に当たりどう足掻いても正規騎士が足りない。盾持ち(スクワイア)から何人か昇格させても、尚。
 これは少しばかり困った事態だ。何せこれから先当分。最低十数年は一度亡国と化した帝国の復興が続く。

 直近ですら王国へ避難していた旧帝国難民の帰還と、それに伴う流通が発生することはほぼ確実である。
 そして王国北境は国境。つまり今後国内から復興支援に出稼ぎに行く者達にとって最大規模の出入口だ。

 戦後特需によって、同都市の商業的発展はほぼ約束されていると言って良いが。
 それは同時に。そして完全に同期して、同都市の治安維持に過負荷が掛かる事もまた約束されている。

「もう嫌だ。何で僕がこんなどーでも良い国の為にここまで労力を割かないと行けないんだ。旅に出たい……」

 冒険者の勧誘を縛る盟約が解かれ、各地で青田買いが進んでいるとは聞いているが。
 かなり早い段階から独自に人材選定を進めていた北方辺境伯領では、既に内定者も幾らか出している。

 そろそろそれらの内、どの程度の人間が本当に騎士団へ帰属する意志が在るかの確認を。
 並行して――――今後絶対に必要になる事務仕事の専任文官採用を進めなければならない。

 幸い、王家より此度の遠征の報奨と、慰労報酬が出ている為幾らか余裕はある。
 負荷分散するならば今より他にはない。いつ予算が融けて消えるかなど知れた物ではないのだ。

「これだけ大きい戦勝祭だと流石に主も出なきゃ不味いし……露店の申請も極力分散させないと……あ゛ー」

 人手 が 足りない。そう、ヒューマンパゥワ―が。現在の北方辺境伯領中枢はこれに尽きる。
 帝都奪還で死んだ正騎士は総数の1割程だが、たかが1割。されど1割なのだ。

 或いは来賓として訪れた。と言う名目のウィリアム・リーンエスにした所で。
 まさかただ友誼を温めに来た。だけの理由で態々中央から北境まで遠征してきたりするまい。
 
 其処には中央では中々し難い。『集権派』への冒険者の取り込みなども考えられている筈だ。
 同じ勧誘(フロント)活動を行うとならば、バデーニ公爵家は限られたパイを奪い合う相手(競合他家)となる。

「……面倒くさい……定時終業して許されるかなぁ……無理かなぁ」

 嘆息した所で扉が開く。戻って来たのはアーチボルト辺境伯家家令長アルバートである。

「これはお疲れさまですノイマン殿。今日はお帰りですかな?」

「ふふ……帰りたいなあ、って思ってた所だけどえぇなぁにその何かドサ、って奴ぅ……」
 
「メルヴィン様も、そろそろ身を固める時であろうかと思いまして」

「おやおやおやおや、何それ面白そう」

 其処に並ぶのは、幾つかの貴族家から送られて来た見合い用の絵画の類だ。
 遠征で多忙な主に代わり、こういった領主家としての雑務諸々は同家家臣団が担っており。

 責任者であるアルバートが差配する部分も多い。主の婚姻話などその最たる物の1つである。

「でも、あの我が主が見初める姫君とか想像付かないなぁ」

「左様でございますね。とは言え、そろそろ御世継ぎについて考えない訳にもいきませんので」

 髭を撫でるアルバートに、ノイマンが何か思いついた様ににんまり笑った
 折角の戦勝祭、少し位はっちゃけても許されるのではないか。何事も思い立ったが吉日である、と。

 ■ 

 ――――哀しみの先に、喜びが待っていなければ人は戦えない。
 何時でも、死地に於いて背を押すのは自分が誰かの未来を護っているという実感に他ならない。

 であればこそ。幾多の犠牲の。大勢の死の。それらから生まれる哀しみをも呑み下して。
 未来(あす)を見る為顔を上げる。これからも生きていく人々には、その区切りが必要なのだ。

 かくて、戦の勝利を晴れやかに祝う祭典。北境祝勝祭は華々しくその幕を上げる。

解説

 論功行賞の、じっかんーだよ― ●成功条件  北境祝勝祭を恙無く過ごす ●失敗条件  北境祝勝祭を恙無く過ごせない  (刃傷沙汰以上の揉め事厳禁) ●北境祝勝祭 2日に渡って行われる祝勝を兼ねる祭典。 膨大な数出店する露店は日付と時間で切り換わる。冒険者の出店も歓迎。  【主な催し】 ・1日目/午前  露店属性:【飲食系】  催し:【大就職展】      ・1日目/午後  露店属性:【お洒落雑貨】  催し:【ドゥジンシ市(全年齢層向け)】  裏催し:【闇のドゥジンシ市】 ・2日目/午前  露店属性:【手作り小物】  催し:【お見合い会】 ・2日目/午後  露店属性:【紋具、武具】  催し:【光花砲演三十連発】 ●イベント説明 【大就職展】  北方辺境騎士団の補充要員及び外交・事務官を募集。  功績:決戦功績の勲章を一律金を6、銀を3、銅を1と換算。  あくまで"応募"条件の為、審査有り。  正騎士 >> 応募条件:功績6以上  従騎士 >> 応募条件:功績3以上  外交武官      >> 応募条件:功績4以上 + 礼儀作法Lv3以上       + 交渉 or 話術 or 弁論術 or 政治知識いずれかLv6以上  事務官 >> 応募条件:功績3以上 + 資料検索 or 文芸Lv3以上  『集権派』所属志願(第二王子担当)      >> 応募条件:貴族家当主かそれに準ずる者(要公認設定) 《※過去内定が出ている者は上記条件は除外》 【ドゥジンシ市】  自ら作成したドゥジンシの交換会。在庫がある露店も有るが、過半が一点物。  「全年齢層向け」表記が外れた闇のドゥジンシ市も外周地区で秘密裏に同時開催。 【お見合い会】  北方辺境伯のお見合い会。お見合いらしく自己PRを推奨。  辺境伯も良いお年頃なので。という名目で、何故か『隠者』が旗を振っている。 【光花砲演三十連発】  いわゆる"空の花"を実現する非常にお高い紋具『光花砲』の実演会。  騎士団全面協力による怒涛の30連発。無数の閃光花が北境の夜空に咲く。 ●選択肢タグ  時間指定。指定が無い場合任意で決定。後夜祭に露店は開いていない。  【1】1日目/午前  【2】1日目/午後  【3】2日目/午前  【4】2日目/午後  【5】2日目/後夜祭 ●注意事項 ・功績勲章は要装備。未装備だと自称扱いとなります。 ・騎士団内定済かつ就職希望者は大就職展へご参加下さい。 ・本作では所属に至る経緯の描写に留まり、『集権派』所属は公認設定のみで解決されます。 ・『城塞都市』内なら場所は何処へ赴いても描写を保証します。

マスターより

 99度目まして。シリアス&ダーク展開担当兼、時々トンチキ職人弓月 蒼と申します。  エピローグ期間突入!という事で、これよりは皆様の未来の水先案内人を務めさせて頂きます。  という事で一番手。王国北方辺境より、帝都奪還遠征祝勝祭をお送りします。  お祭り、と言う事もあり制限はゆるゆる参りますので、お好きな楽しみ方をして頂ければ幸いの限り。  必ず誰かと一緒に行動したい場合は、行動案冒頭に【】付きでのタグ利用を推奨しております。    尚、北方辺境への臣従が内定している冒険者は、エピローグ期間に了承しない限り本就職に至りません。  北方辺境に焦点が当たるのは最大であと1回の見込みです。どうぞ、皆様の未来に悔い無き選択を。

リプレイ


●時代は進む

「よぉーそこ行くお嬢ちゃん。この辺じゃ珍しい南方の果実酒だ、さあ一杯どうだい!」

「王都で人気のお菓子は如何? 今なら2個買うともう1つおまけで付けちゃう!」

「祭りって言ったら丸焼きだ。そこの良い体格の兄さん1頭買いならサービスしちゃうよ!」

 方々から声。『城塞都市』ノストガルデン中央通りは、今が盛りとばかりに騒がしさの坩堝だ。
 道を犇めく店、店、店、様々な酒と調味料の香りで悪酔いしそうである。

「流石に……これだけ並んでると壮観ね……」

「そうですね。明日は私も出店予定なので、店の出し方を見ておかないと」

 偶々行きあった2人、『北方辺境伯領正騎士』デイジー・ロックウェルと『烈光』ヴィルヘルミナは。
 左右をこれでもかと埋め尽くす店の多さに圧倒されつつも、改めて道を確認する。

 2日続けての祭典だけあって、『城塞都市』内の風景は大いに様変わりしていた。
 慣れているデイジーすら執政府への道を見失うほど。あまり慣れぬヴィルヘルミナは尚更だろう。

「へえ、武器店? 面白そうね、時間があったら見に行っても良い?」

「ええ、お眼鏡に適う物があるかは分かりませんが」

 そんな言葉を交わしながら、中央へ向かう十字路で別れたデイジーは。
 執政府への道に並ぶ行列に気付いて数度目を瞬かせた。何か揉め事だろうか。

「あの、これなにが起きてるの……って、ザザ!?」

「うん? あらデイジーさん。見ての通りよ、これ全員志願者なんですって」

 "流石メルヴィン様、人望があるわ……"と、大いに頷くのは『蒼騎士』ザザ=ステルヴィナ。
 良く見ればその隣には最後尾札を掲げた騎士が立っていた。つまり――――……つまりだ。

 その光景にデイジーは大いに戦慄する。自らが既に勝ち取った"立場の重み"に。
 それは仕官者の――――即ち、此度の戦いを経て、騎士を志すと決めた者の行列だったのだから。

 執政府1階、祝勝会様に設えられた特別面談室、室内――――。

「ご無沙汰しております。随分と間が空いてしまいましたが、またお会い出来て嬉しいです」

「君が来てくれた喜びが果たして言葉で伝わるだろうか、いや、難しいだろうね。
 ようこそご同輩! やった! これで僕の担当範囲が減る! ばんざーいばんざーいばんざーいっ!」

 『北方辺境伯領外交官』イズレンディル・パラリムの外交官就任に『隠者』は文字通り万歳三唱した。
 それは未だ嘗て無いほどの喜び様だったが、騎士団の幹部と文官長と外交官を併任する。

 ……と、いう状況がそもそも狂気の産物なのである。彼の喜びようもこれは流石に当然と言えよう。

「ところで、事務官の採用は進んでいますか?」

「ふふ、ふふふ……進んでいるように見えるかな?」

「でしょうね。外交関係は急務も無さそうですから、明日からでも仕事の手順を――――」

「それは嬉しい。凄く嬉しいけれどあるんだよ。あるんだよ外交系の仕事!
 さあ、引ーき継ぎーだ引き継ぎだ! はい。同期も居るし3ヶ月もすれば君も立派な外交官だね」

「同期……?」

 えげつない速度で埋められる予定(スケジュール)にイズレンディルが言葉を失っている最中も。
 ノイマンは書類を揃えて手元で鈴を鳴らす。待つこと1分足らず、扉が開いた。

「……何ですか『隠者』。面談は終わった筈です……が」

 呼ばれたのはやはり森人(エルフ)の『北方辺境伯領従騎士』リコリス・アデュラリアである。
 同一室内に森人(エルフ)が3人。『王国』ではかなり珍しい光景ではあるが。
 
 顔を見合わせるイズレンディルとリコリスに、ノイマンは満足そうに頷いて告げた。

「外交武官採用は君達2人。責任者兼監督官として僕も同行するけれど。
 この3人で祭が終わり次第復興中の帝都に向かう。当分は所謂戦後外交だよ、やったね!」

 往路帰路共に帝国国境(ヴァイセントラフ)砦にも立ち寄ると聞けば、長期出張待ったなしである。
 呆気に取られる2人を他所に、ノイマンは大層満足げであったと言う。

 ■

「まだまだ未熟だけど、予定通り北方辺境伯領で働かせてほしいわ」

「勿論歓迎するよ。昨今まともに戦える騎士は貴重だからね」

 デイジーの申し出は一瞬で受理された。それもその筈、彼女は元々正騎士内定者である。
 加えてある程度の実戦経験を積んでおり子爵家の末娘とは言え貴族の血筋。

 これだけ身元が確かで、唯人(ヒューマン)で、能力が有れば断る理由を探す方が難しい。

「大した功績は上げていないし、他の人と比べるとまだまだだけど、これから努力するわね!!」

「いや、自己評価は君の自由だけれど、それ外であまり言わないようにね?」

 落ち込む人も居るだろうから、とのノイマンからの念押しを。
 デイジーは不思議な事を言われたように首を傾げ、けれど一応理解したように頷いた。
 
 絶対分かってない素振りだったと、後に『隠者』は語る。

「『白騎士(あの人)』が死んだ後も、各国放浪しながら研鑽した結果が――――《これ》」

 机に並べられた計6つの勲章は、各国からの感謝の証であり彼女らの冒険者としての力量を意味する。
 『北方辺境伯領正騎士』トゥーリの訴えに、面白い物を見る目でノイマンは笑った。

「なるほど。君は君という存在に戦果と名声(これら)を上乗せしようと言う訳だ。そちらも同意見かな?」

「ええ、トゥーリならば必ずやこの「夫(ハリス)も功績は十分なはず。手元に置いて損は無いと思うよ」」

「……――――えっ!?」

 トゥーリの後押しをしようとやって来た筈の『双思の絆』ハリス・アル・ターミルが一人驚いていた。
 最初に勲章を並べた時点で、トゥーリにはその狙いが有ったのだろうが。
 
 騎士団幹部としては確かに。金位勲章を3つ並べられる冒険者などそれほど居ない。
 他国に雇われる前に纏めて囲っておいた方が良い、と言うトゥーリの言い分には一理ある。  

「逃す魚は大きいと」

「そう。そしてワタシはアナタが掛け金(投資)を見誤りはしない人だと思ってる」

「うん、なるほどなるほど……ハリス君の意見はどうかな」

「手前は、やはり"農民"であり、あくまで農地を耕す者です。なので……」

「……なら、トゥーリ君を守る為なら戦える?」

 その問を聞いて。ハリスは眼前の森人(エルフ)がどういう人種であるのかを薄っすら理解した。
 彼やその妻が護る者であるとするなら、彼は謀る者だ。弱みを点く事に特化した人間。

 冒険者として活動する中で、そういった者が存在する事は知っていた。余り関わりたいタイプではない。
 けれど。――――そう、けれど。問われているのが"戦う力"でなく"覚悟"であるならば。

「……戦え、ます」

「はい、大変結構」

 ハリスにとってトゥーリの夢を応援し、支える事は生きる上での最優先事項の一つだ。
 護る為に戦えるのか、と聞かれて"無い"と言えるほど、腑抜けてはいない。

 例えそれが、相手の目論見通りであったとしても。自らの芯を偽ることは出来ない。

「希望は聞いたよ。沙汰は我が主と検討次第、追って通達するね」

 片目を閉じて応じた胡散臭い森人(エルフ)を、ターミル夫妻は今は未だ見送るしか出来ないのだった。

●それぞれの今

 貴族とは王家を範とする者であり、王家とは貴族を従える者である。
 それは『王国』に於ける常識でありながらあくまで規範的な。様式的な物として扱われて来た。

 一時期確かに拮抗していた権威の天秤は、しかし此度の騒乱によって大きな革新を遂げる。
 時代の勝者となった王家の中央集権化の流れは、最早止める事は出来ないだろう所まで来ている。

 その象徴たる貴族派閥。『集権派』へ臣従を望む者は多い。『蒼玉(カペル)』もまたそんな家の一つだ。

「今ここにあるものを当然だと信じ、愛するものの為に戦い、守らねばならない時はあるもの。
 ……殿下は、以前そう仰いました」

 執政府2階、談話室。ウィリアム・リーンエスの元には、既に何組かの貴族が訪問している。
 膝を付く『リーンエス王国の彩』シルヴィア・A・カペルの言に、彼は静かに首肯し言葉を促す。

「私にとってそれは王家であり、カペルの、ひいては全ての王国の民です。
 『蒼玉』は今後も王家の剣であると誓いましょう」 

「歓迎するよ、『蒼玉(カペル)』と盟を結ぶことが適うなら心強い。
 ただ、一つだけ確認させて欲しい。『集権派』はあくまで、貴族の存続を企図する物じゃない」

 元より『集権派』の理念は中央。即ち王家への権威の集約に在り。
 それは直接的に、貴族の権威の減衰を意味する。少なくともこれまでと同じ権威の維持は期待出来ない。

「それは承知の上での決断と受け取って、構わないね」

「王家に忠を尽くす『蒼玉』の誇りを以て、『集権派』が王国のより良い未来に繋がると信じています」

「分かった。御父上に宜しくと伝えて欲しい」

 それは形式であり、けれどこの国では時に。形式をこそ優先すべき場面という物が度々存在する。
 特に、社交界に在ってはこういった明確な意思表示が後々響いて来る物だ。

 部屋を辞したシルヴィアと入れ替わる様に王子の元へ訪れた2人も。その意図する所は同様である。

「俺は……ん゛ん゛……私は、英傑達とは程遠い非力さ故出来ることは限られますが
 王国の繁栄、良き未来を築く為に尽力し、ウィリアム様に御力添え出来れば幸いです」

「おや、面白い事を言うね。ヴェルジーにせよケレスにせよ、"非力"とは程遠い筈だけれど。
 そうは思わないかい、そちらのディオールの姫君は」

 話を振られた付添い。『小鳥の薔薇園』ローザリカ・L・ディオールは余裕で未来の夫を売った。 

「はい、幾ら何でも謙遜が過ぎるのではないかと存じます」

「――――ん゛ん゛ん゛ッ」

「少なくとも当分、法衣貴族にはこれまで以上に働いて貰うことになるだろう。
 帝国再興の支援と貴族社会の改革。双方を並行する以上『王国』に見た目程のゆとりはないからね」

(……生きろ、ジュスト。僕には君を救う術は無いが君の帰りはいつでも待っていてやる)

 ウィリアムの目が、"非力"なんて理由で力量以下の仕事しかしない等赦さない、と告げていた。
 表情は笑っているのに全然笑っていない。王家や貴族なんて輩は大体こんなのばっかりである。

 項垂れたジュスト・ヴェルジーを、原因の半分であるローザリカが良い笑顔で見ているのを察し。
 ウィリアムはふと良いことを思いついた体でローザリカへ視線を向け直す。

「そういえばディオールは商売に強いのだったね。
 どうだろう。いっそ彼に王室の財務管理職を目指して貰うと言うのは」

「!?」

「大変素晴らしい御提案かと存じます」

「―――――ッ!?!?!?」

 尚、財務は汚職と直結する事が多い部署であり、背信行為があれば即首が飛び得る職分である。
 これならジュストの負担を共に分かち合えるのではないか、と前向きなローザリカに対し。

 唯でさえ慣れぬ事務方の、それも数字と無限格闘する部署への進路提案をされたジュストは。
 読めない王子の本気度合いを戦々恐々としながら、心身ともに疲弊して談話室を後にしたのだった。

 ■

「やっと見つけたわ――――……!」

「馬鹿な、お昼休みに格好付けて後処理全部ぶん投げようとした僕の策が破れただって……!?」

 お昼過ぎ。執政府から逃げ出そうとしていた『隠者』がザザに捕捉される。
 尚、当人が自白した様な事情を知って探していた訳ではない。が、結果オーライではあった。

「今日こそ弟子入りさせて貰うわよ、具体的に何をするのかとか全く分からないけれど!」

「そんな曖昧もこもこしてるなら別に弟子とかならなくたって良いじゃん!」

 丁々発止、ともまた少し違うやや熟れたやり取りには互いの立場も滲む訳だが。
 ともあれ両者は今後同僚となる訳で、同時に上司と部下という関係性でもある。

 ノイマンは公私は分ける主義だが、相互理解が深いに越したことはないのは事実であり。
 究極、"これ以上教える事はない"とか何とか言って放り出せば良いという打算もあった。

「まあ良いよ。分かった分かった君の熱意には負けたよ。認めてあげようじゃないか。
 では我が弟子よ、君にはまず1つ大切な役割を任せよう。これは他では代わりの効かないものじゃ」

「まあ何かしら。絶対厄介事の類だと思うけれど」

「明日から暫く外交武官の皆を連れて帝国方面ぐるりと巡って来るから、騎士団の管理を宜しく」

「流石に無茶が過ぎるでしょ――――!?」

「大丈夫、君にも後輩を用意しておくから!」

 北方辺境騎士団は、幹部の皆様の血と汗と涙の上に運営されております。
 ――――例えば、執政府でそんなやりとりがされていた頃。――――辺境騎士団共同墓地。

 連理草(スイートピー)の花束が添えられた墓標。酒の半分を注ぎ、残った分は自分で呑んだ。
 墓前への報告はすぐに終わった。力を望み、力を信じ、力に溺れた暴君。

 帝国の皇帝をその手で討った事。武を誇るに、これほどの勲しはそうは無い。
 そしてそれほどの戦果を上げようとも。"勝ち逃げ"を許した相手との決着は、未だ付いていない。

「結局生き延びちまった……再戦は、まだ先だな」

 苦く笑う『ブレイブファング傭兵団団長』ハヤト=ガラン=ヴォルファングが踵を返す、その背後。
 隠れていた『気高き白(エーデルワイス)』コルネリウス・アーラが別の墓標の陰から顔を出す。

(ハヤトさん……)

 辺境騎士団の共同墓地は、『帝都奪還』遠征よりの凱旋後一気に墓標の数を増やしていた。
 『白騎士』のそれも、もう決して目立たない。多くの犠牲が出た。余りに多くを、喪い過ぎた。

 いつも明るく笑っているハヤトにすら、きっと。少なからず思う所はあるのだろう。
 
「以前お花を供えてから、そんなに経っていない筈なのに……時間が過ぎるのが早く感じます」

 冒険者になってより3年。長いようで、短いようで。そんな時間で沢山の物を得た。
 北方辺境の思い出も少なくない。此処に拠を構える事で学べる事も、きっと多いだろう。

「でも、私もやりたい事や居たい場所を決めたんですよ。だから――――」

 これからきっと忙しくなる。今までほど墓前に手を合わせに来る事も、そうそう適わないだろう。
 それでも忘れないと想う。これから先、どれだけ年月が経とうとも。

 森人(エルフ)の生は長く。3年など、寿命と比すれば五十分の一にも満たない。
 けれどそこ刻まれた煌めくような軌跡は。きっと、彼女の生き方にすら影響するものだから。

 忘れないと刻む。ずっとずっと。確かに結んだ縁と、楽しかった日の事を。
 
「だから良かったら、ひっそりと見守っていて下さいね」  
 
 連理草(スイートピー)の花言葉は、門出、優しい思い出、永遠の喜び。
 そして、"別離"であると言う。

●『王国』の在り方
 
 『城塞都市』ノストガルデン――――中央道の半ば辺り。

(やはり、オレのレイ×エフを王国内で出すのは今は厳しいか……)

 『ドゥジンシの師匠』レタラ・スマリは辺りを見回しそう結論する。
 何と言っても"帝国人×帝国人"ネタは未だ王国では親しみが薄くハードルが高い。
 
 近場の店舗を軽く巡ってみても、ウィリアム単。メアリー単。レイ×メアのNLが主流である。
 時折ニッチな癖の。或いは恐れを知らぬ執筆者からウィル×メルの健全本なども出ているが。
 
 やはり土地柄、最低限右か左に王国人。それも出来れば王族が絡んでいないと始まらない。
 其処に来て、レタラの審美眼は正鵠を射ていた。持って来たのは渾身のメアリー単。

 念の為、辺境伯絡みの恋愛本も展示してはみているが。あくまで主戦力は新刊である。

「何と、これは……この、輝きは……!」

「ほう……分かるか。現在多忙を極める彼女の日常をコミカルに描いたものだ。
 王女の魅力たる有能さと愛らしさを、存分に引き出せたと自負している」

「オゥ素晴らしい(エクセレン)ッ……政治喜劇を描いた戯画調の娯楽絵物語とはさぞ名のある画伯の作。
 一体、これほどの書物を何処で入手なされたのですかな……!」

「オレが描いた」

「何と、貴・方・が・神(ドゥジン)か……!」

 偶々通りかかった特徴的な(カイゼル)髭と眼鏡の山人(ドワーフ)が絶賛してくれたお陰で。
 集まって来た客が殺到したレタラの店はちょっとした繁盛店として戦勝祭に名を刻んだ。

 ――――一方、同時刻。城塞都市の外れ。

「……何コレ」

 『血塗られた歴史の真実を知る』エルゼリオ・レイノーラは新たな真実と直面していた。
 其処はドゥジンシ作家の隠れ里。通称"闇のドゥジン市"である。彼の地ではいわゆるご禁制の。

 所有する事が時に罪に問われる×××な書籍が交換、販売されていると言われている。
 例えばエルゼリオが"一度行ってみたかったんだよねー"という気楽さで手にした書物。

 【成人向け】ウィル×レイ本:堕ちた皇子Ⅴ。なる禁書もその一冊だと言えよう。

(美化されすぎて誰か分からないけれど。この人達の台詞回しには覚えがある気が……する……)

 特に、"おっ! やあ、奇遇だね。僕かい? 僕は今から君の私室で~"とか言う(定番の)奴だ。
 うっ、頭が痛い。何か気付いてはいけない何かに思い切り抵触している気がするっ……!

 でも何だか興味を引かれるので、金貨1枚とか妙に高価だったけれどⅠ巻を購入してみることにする。

(まあ、お祭りの露店で売っている様な物だし、余程危ない物とかではないよね)

「いや、メアリー姫ってのはこんなボン、キュ、ボン、の舞台女優みてえな見た目じゃねえぞ。
 どっちかってーと綺麗系っつーより可愛い系っつーか……あ、でもこれはこれで……ぐふふふふ」

 視線の先では絶対見覚えのあるブレイブファング傭兵団長まで何か買っているのだから間違いない。
 瞬く間に場所に順応している顔見知りの振る舞いに、いっそ一周回って関心しつつ。

 思えば白筆の姫君が検閲とか言って踏み込んで来た場所に雰囲気が似てるな……等と思ったのだが。 
 深く考えると怖い話になりそうだったので、エルゼリオは(禁書を手に)それ以上考えるのを止めた。

 ■

 2日目午前。辺境伯領執政府、執務室。

「彼の素性も互いの罪も知った上で共に生きる事を、辺境伯様に許して頂きたいのです」

「……少なくとも。私には自分が、それを認める権利を有するという程には厚顔になれません」

 そう言って頭を振る北方辺境伯には、苦笑いの様なものが浮かんでいた。

「何故でしょうか辺境伯様は、彼にとって――――」

「例えば家族であれば。罪は共に背負う物でしょう」

 けれどそれが笑みではないことが、『夜に咲く白月』レティシア・レインフィールには分かった。

「であれば、私にも。我儘で彼に黒槍の力を使わせず、多くの命を失わせた罪があります」

「彼は傭兵だ。あの死地で対価に相応しい以上の働きをした。
 それ以上誰に何の権利があって、それを責められましょう。無論、貴女のこともです」

 メルヴィンは公平だ。それは自他共に厳しく、けれど正しい。
 一拍。それで漸く答えが見つかったと、メルヴィンはレティシアへと向き直る。

「幸せになりなさい。レインフィールの姫。貴女の幸せを、私も。アストも。きっと願っている」
 
 例え彼について言及出来ずとも。戦友の幸福を祈ることならば出来ると。
 それは余りにも不器用に過ぎる……けれど、彼の贈れる最上級の祝福であり。

 部屋を辞したレティシアは、一つの覚悟を決めて顔を上げる。
 例えこの場で出来る事がもうないとしても。未だ、自分にも出来る事がある筈だ――――と。

「また、背負うべきでないことを背負っていらっしゃるのですね」

 まさか、そんな経緯を知っている訳でもないだろうが。
 『ネーベルベルク伯爵』アウレーリア・フォン・ネーベルベルクは、開口一番そう告げた。

「そうかもしれません。ようこそ、ネーベルベルクの姫君」

「はい。本日は"当家を代表して"ご挨拶に罷り越しました」

 一礼にも少なからず戯れが滲む。家門を背負ってとは言え帝国は未だ復興の最中。
 家格の面でも実情の面でも、今は未だ両家は並び立てる立場に無い。それは承知の上のこと。

 同じ国境の盾を担う貴族同士。アウレーリアの方はメルヴィンに共感の様な物はある。
 けれどだからこそ。同じ死地を踏んだ"戦友"として振る舞えるのは、これが最後だ。
 
「お見合い会、とは随分苦労為されている様で。私が嫁げばどれ程楽になりましょう」

「全くです。恐らく、今の悩み事の幾許かは解消されることでしょう」

 気兼ねないやりとりは互いに家を背負えばこそ。私人であればまた異なるだろうけれど。
 アウレーリアにとって北方辺境伯、と言う貴族家の価値は決して無視出来ない程には大きい。

 例えば、復興直後の家の令嬢の1人位身売り同然で嫁がせても十分な益が見込める程度に。
 個人としても。貴族にしては善良に過ぎるきらいはあれ。その誠実さが嫌いなわけでもない。

 ただ。出会い方。時の重ね方。巡り合わせと言うのは、何にせよ有る物だ。

「「それでは、政務の話を始めるとしましょうか」」

 2人は戦友(とも)になることは出来ても、それ以上ではなかった。
 不運と言うべきではないだろう。互いに力量を認められる隣国の貴族家当主。

 それもまた、得難い存在であることに変わりはないのだから。

●祭りは踊る

 『城塞都市』街道の外れ。その薬屋には殆ど客が付いていなかった。

「面白えもんを売ってるな」

 『色の医道』エイル・アーティライトが顔を上げると。其処に居たのは白髪の老人である。
 どう見ても彼女が売っている様な、いわゆる"色事に用いる薬"の類に用が有る様には見えない。

 いや。或いは有るのだろうか。こう、男性的な自身の自信を取り戻す為、だとか。
 今までの彼女の購買戦歴としてあまり類例が無かった物だから一瞬戸惑ってしまったが――――

「辺境伯にも遡上した物です。薬効は実証されているので、安全です」

「ほう、そりゃ例えばああいうのにも効くのか?」

 老人が親指で指したのが、約束通り2人での露天巡りに辿り着いた碧と赤の貴族2人であること。
 その如何にも仲睦まじく見える両名が、別に若夫婦でないことなど、エイルは知らない。

 知らないながらに一瞥し。老人を見返すと大いに頷く。
 あれだけ若い男女で距離感が近ければ、余程に鋼鉄の自制心でも持たない限り覿面に効くに違いない。

「量を誤ると半日は薬効が続くので……安全とは、言い切れませんが」

「ほう、ちとこっちへ誘導してやる。上手く売れ」

 果たして。一体どんな手品を使ったのか、まるで道が割れるように左右に分かれると。
 其処に老人の姿はなく。両貴族とエイルの目が確と合ってしまったのは、一体どんな運命の悪戯か。

「……何とも悪趣味なことをしていますね」
 
「は。祭りなんてのは馬鹿やる位で丁度良いもんだろうが」

 それを、横目に眺めていたのは同様に街道外れに店を開いていたヴィルヘルミナ。
 どう考えても老人――――『北境の楔』などと称される凄腕の剣士の目的は此方だったが。

 一体何故その過程であんな行動に出たのか。愉快犯を地で行く老人の意図など分かった物ではない。
 ただ――――
 
「すみませんが……大切な人が居るので。以前のお話は辞退させて頂きます」

「手前なら神域の階梯を上がり得る、と言ってもか」

「はい。優先順位の問題です」

 店の武器は幾つか、目敏い辺境騎士の面々が買っていった。
 今のヴィルヘルミナの武匠としての知名度は良く行ってその程度だ。必要な研鑽はまだまだ多い。

 或いは、剣士として大成する道であれば。この老人に従えば大きく短縮するのかもしれない。
 けれど。彼女にそれを選ぶ気はなかった。選べない――――確たる理由が出来てしまった。

「ち、戦争は終わる。剣は錆びる。弟子には振られる。良い事って奴はそうそう無えな」

「少なくとも。貴方の腕なら候補は幾らも居るでしょう」

 背を向けた老人に、掛けた言葉は彼女なりの本音であり。
 それは彼女自身の自己評価の低さから来る物でもあったが――――『楔』は呆れた様に応じる。

「神がそうぽこぽこ産まれても困るだろうが」

 なるほど。言われてみればそれもその通り。
 男はあくまで――――"彼女"を指して。神に相応しい器と見込んだのだから。

 ■

「怒涛の30連発だぞ、見に行かない訳ねえだろが! 当然エールと火酒も用意した!!」

「空の花なんて、なかなか見られないからね」

 日が暮れ行くと、酒場がその門を開けていく。それはそうだろう、かきいれ時だ。
 『篝火の絆』ナハシュの言に『巡り逢う星、彼方に想う』ヨル・スレイマンが頷いた。

 もう少し時が過ぎれば空には無数の花が咲く。それを興じる為に遥々北境までやって来たのだ。
 楽しげに語るナハシュを眩しげに見つめたヨルは、続いた言葉に口へ含んだエールを吹き出した。

「フェイクカバーでお見合いに紛れてやろうかとも思ったんだけどな」

「なんで……!? 大体それ嫁に選ばれたらどうするつもり!??」

「ばーんと正体明かして場は大盛り上がりって寸法だ!」

「不敬罪で打ち首だよ! 君、さてはお見合いが何か分かってないだろ……」

 内心色々と落ち着かないヨルの切れ味鋭い諫言に、けれどナハシュはからりと笑う。

「ま、でもお前もいるならこっちで酒がいい。その方が楽しいからな!」

 様々苦言は浮かんでいた筈なのに。その一言で全て許せてしまうのは何と言うべきか。
 栓なき話なのだろう。ずるいと思う一方で、それも含めて。結局2人の思いは一致しているのだから。

 かくして、宴も酣。夜空に光の華が咲く。

「このまま黒鋼騎士団に臣従して良いものか、実は迷っている」

 幻想的とすら言える光景を見上げ、『無想の銀鬼』ナハティガル=ラーが溢した言葉に。
 彼にしては、珍しいとも言える弱音を聞いて。『天剣』ゲルダ・クラインは沈黙で応じた。

 帝都遠征で。竜の都での戦いで。零した物は少なくない。どちらも相応の傷と痛みを負った。
 それを忘れて良い訳はない。忘れないことしか、出来ない。だから、彼女は先ず知る事を選んだ。

「力不足だ。何も出来なかった。失態ならば幾らも浮かぶ。今の俺に『竜』を名乗る資格はない」

 自責は時に人を殺す。結果のみ尊んで来た銀鬼にとって、それは価値の喪失に等しい。
 否定するのは簡単だ。けれどゲルダはそれを否定したくはなかった。

「わたしたちは、間違えます。常に『正解』を引き続けられる人なんて、いません」
 
 気付けば、彼女(ゲルダ)は彼(ナハティガル)を見ていた。空の花などもう見えない。
 大切なものは、見つけたのだ。離すつもりも。見失うつもりも、無かった。

「でも、間違えることが怖いから選択しないことを……あの人は望まないと思います」

 『竜』とは痛みを負って尚進む者のことを言う。それは誰より彼が一番良く知っていること。
 その痛みを分かち合うことを。ナハティガルは既に選んだのでは無かったか。

 手段とは目的ではない。手段が見付からないと目的を手放すのでは、本末転倒だ。

「一緒に考えましょう。あなたが望む選択肢を見つけられるまで」

「……ああ。そうだな……そうだった」

 共に背負うと誓ったのだ。その重荷を今更降ろして、そんな半端者に一体何が残るだろう。
 屍と血を踏み越える覚悟とは、断じて目的を手放さないという矜持そのものを指す。

 揺らいだなら土台から見直すだけの事。その程度の遠回り(リスク)を恐れ――――何が『竜』か。

「ひゅ――――!! すっげえな! たーまやー! だっけか?」

「いや、本当にすごいねこれは。星が落ちてきたみたいだ……」

 何処からか聞こえてきた声に。互いにしか目を向けていなかった2人が思わず空を仰ぐ。
 星々が爆ぜるように、空を花が彩る。人が手にするには過ぎた奇跡が、其処には確かに咲いていた。

「……今こうして、君とこれを見れて良かった」

 ――――それは、漸く得られた実感だった。
 長いようで短い時の果て。一つの大きな戦いが終わった。そして歴史は、ここからも続く。

●Last Wish

 祭りが終わりを迎えた頃。辺境伯領執政府、執務室。
 2人の男女が向き合っていた。片や部屋の主。片や『魔女の騎士』イヴェール・イリュジオン。

 両者には因縁があり。後者は、或いは前者の腹心の仇と言っても決して過言ではない。
 灰色の雌猫が、イヴェールが連れて来た黒猫と並んでにゃあと鳴いた。

「お会いして3年、思い返せば色々ありましたが……」

 別れを告げに来た。それだけだった。その筈だった。本当は都市に踏み入るにも抵抗があった。

 "もう私に呆れてしまったとしても。後悔だけは、して欲しくないんです!"

 けれど命の恩人(レティシア)に対面する事を強いられ断り来れなかった。いや、それも言い訳だ。
 不実だ。と思ったのだ。自分の言葉で、伝えなければいけないと。

「私の血は呪われています。もう、十年は生きられないでしょう」

 応えは無かった。視線を逸らすこと無く、男は一歩だけ距離を詰めた。
 剣の間合いだ。イヴェールはそれを悟って呆れたような想いを抱いた。

 多分。ここで殺されても恨みはしない。そう想えたことに驚きはなかった。
 秘めた想いを漸くきちんと直視出来た。十分だった。それで――――十分だった。

「お別れです。私の事は忘れて、幸せに――――」

「――――待っている。いつになろうと」

 息が止まる。数度瞬いても、それは夢ではなかった。
 身分の違う。立場の違う。"傍に居てはいけない人"が。気付けばすぐ前に居た。

「後悔も。呪いも。失望も。全て背負う。それでも、貴女の手を離す気は無い」

 手を引かれ抱かれる。彼我の力は大差ない。振り解けた筈だ、本気で抗えば。

「……う、して」
 
「貴女と家族になりたいと願う。それでは足りないか」
  
 彼女が伝えた。彼にとって特別な。彼女が忘れて欲しかったこと。彼が忘れなかったこと。
 例えば家族であれば、罪は共に背負う物だから。

 ――――翌朝旅立った彼女の行方は知れぬまま。
 けれど長く厳しい冬が過ぎ去れば――――いずれ。春がやってくる。

マスターコメント

 皆様お疲れさまでした。弓月 蒼と申します。  この度はご参加ありがとうございました。この様な結末に至りましたが如何でしたでしょうか。  皆様それぞれに、戦いの終わった後の時代を楽しんで頂けたようで何よりです。  就職を決めた方々には、合致する称号を配布してありますのでお使い下さい。  尚、就職称号は内定称号と重複している場合がありますので、予めご了承下さい。  また、戦勝祭で某かの名声を得た場合。何かを購入した場合も称号が発行されています。  使い道は分かりませんが、お受け取り頂けますと幸いです。  後夜祭の時代はまだまだ続きます。ご縁がありましたら、また次の機会にお会いしましょう。
イベントシナリオ

イベントシナリオ易しい 報酬:無し22 / 15〜25人

2024年02月13日 13時35分25秒 公開

成功

相談掲示板

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アーカイブ生成日時 2026年08月05日 14時56分25秒 ・ world0