【学祭】生徒会総選挙、開始!!
弓月 蒼
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シナリオID:2473
オープニング
●黒竜の後継者
パンクリアース学園内特別棟、大会議室。
「――――昨年、一敗地に塗れたことは卿らの記憶にも新しいことだろう」
朗々とした声が室内に響く。『貴族派』学園生の決起集会。中央で声を上げるのは黒い外套を羽織った金髪の少年。
無感情な風貌にそぐわない朗々とした弁舌を振るうのは、『黒の後継』アルベイル・ライゼンナクト。
「昨今、『学園派』を中心に纏まった新生徒会の活動は確かに目覚ましい物がある。
彼らの行動により窮地を救われた同胞も居よう。新入生、第二学年などは特に変化の風を感じた者も少なくあるまい」
去年入学の第二学年とは到底思えない。それ程に、彼の周囲を囲む『貴族派』生徒は既に。
彼がいずれ『竜』を継ぎ、『貴族派』と言う派閥の先導者として振る舞う未来をその振る舞いの先に見ている。
「だがこの半年。庶民を見て来た卿らは理解した筈だ。彼らの生活習慣。立場。知性。経歴。いずれを取っても。
卿らと同じ目線に立つには余りに成熟が不足している。ただ受け入れるだけの姿勢は“全き時間の無駄だ”――――と」
盲目とは呼ぶまい。『王国』とは古来より同じことを正確に繰り返して来た。それによって安定を得て来た国だ。
眼前の少年がまさか、彼らの考えとは微塵も接点がない存在だとは考えもしない。“国政を拓く”などと言う大それた。
――――或いは、帝国をも含む世の“貴族”が聞いたら激怒する様な野心を抱えているなど。一切理解していない訳だが。
「庶民には庶民の是非があり。貴族には貴族の是非がある。これらは断じて混同されてはならない。
互いが対話の舞台に立つ為には、路傍の石と磨かれた輝石を同じ卓で混ぜる様な行いは愚の骨頂である」
掲げた掌が虚空を握る。例え其処に感情は無くとも。声音と振る舞いを曲解し人は熱狂する。
扇動だ。帝王学を仕込む際嫌と言う程教え込まれた手腕が、学園生と言う幼い感性に狂熱を植え付ける。
「今こそ、学園を正しい姿へ戻す時だ。違うか諸兄。無知なる『庶民』を導くが選ばれし『貴族』の本懐。
なればこそ、学園生徒の代表たるは我ら『貴族派』こそが相応しい。立ち上がれその血脈に青き誇りを刻む者達よ!」
具体性など必要ない。彼らはただ、聞きたい言葉を聞き、自分に都合の良い様に解釈する。
『王国派』に対する悪感情など無く、或いは恩義すらあったとしても。彼らを敵に設定せねばと立場と感情に絆される。
「我らの手に――――『学園』を取り戻す!!」
この一年で積もった『貴族派』の、何となく漠然と気に入らないと言う現環境へ向いた不定形の不平不満。
それらを逆転の勝機と定義付けることで方向性を指し示す。そんな手練手管に酔う者が見る幻想を――――偶像、と呼ぶのだ。
●変わり行く学園
学園生徒会総選挙。去年は大荒れに荒れたパンクリアース学園ではあるが。
今年は例年通り学園祭準備期間に立候補が行われ、祭典中に投開票と言う形で実施される運びとなっている。
となれば、今は最も情勢が読めない時期であり、夏季休暇明けに学園へ戻って来た学園生徒達にとって。
今年の選挙の流れは最も注目度の高い風説ゴシップと言える――――訳だが。
「……どうだった?」
特別教室棟、生徒会室。『学園派』の一員であり主に同教室に屯している事が多いペンテルシア商会の一人娘。
アンネローズ・ペンテルシアの問に、そんな多文化クラスの動向を探って来た幼馴染。
セクエンス子爵家令息、ステファン・セクエンスは眼鏡を曇らせて言いようのない困惑の色を浮かべていた。
「どうにも厳しいですね。やはり多文化クラスは『貴族』に対する偏見が激しく、多くは投票を拒否しそうな姿勢です」
「まぁ……そうよね。商家の私だって何となく嫌だもの」
「最近『貴族派』がとみに勢い付いているのも気になります。恐らく去年同様『黒の後継』の仕込みでしょうし」
うーん、と揃って眉根を寄せざるを得ない。何せ昨年も大概に接戦だったと聞いている。
直前に明らかな過失を積み上げてすら、第一学年でそれだけ支持者が居たと言う事だ。それから、更に一年と考えると。
「あれ、そういえばオルファレナ様は?」
「え。知りませんよ。アンネこそ今日は一緒じゃないんですか?」
昨年、『王党派』の旗印となるべきとされていた『白銀の薔薇』オルファレナ・アルヴァ・クラティアスは。
彼女を守る為に急遽集った『学園派』の支援に全力を尽くし、遂に選挙への立候補は行われなかった。
勿論、今年も同様に『学園派』支援に回るのだろうと思っていたが。居れば殊更目を惹く彼女の姿はない。
『白銀』本家への帰省からはもう戻っている筈……と、生徒会室を見回しても伝言などは何も無く。
「まあさしあたり、そろそろ選挙の応援活動を始めないとよね。今年は誰が立候補するのかしら?」
とは言え、『学園派』と言う派閥が広く学園内に浸透した、と言う事に2人が何ら不思議を感じていないこと。
それこそは新生徒会の尽力の結果であり、学園が少しずつ変わりつつある証左であるとして。
勿論そんな事態の当事者は、自分達が長きに渡る学園の歴史の過渡期に居る事など感知し得ないものなのである。
●白銀の姫君
パンクリアース学園内教室棟、2学年第3教室。
最近殊更に憂う事が増えたと言う『白銀の薔薇』オルファレナ・アルヴァ・クラティアスは独り悩み続けていた。
学園は今、過渡期にある。彼女が応援する『学園派』がどれほど力を尽くしそんな変革の反動と戦っているか。
彼女は良く知っている。これまで幾度も助けられ、彼女もまたそれに報いられる様尽力してきたのだから。
だから――――もし。今、『学園派』から梯子を外すようなことをすれば。
それは言い訳のしようもない裏切りだろうと。分かっている。誰より、彼女自身がその様な不義理は赦せない。
“もし、貴女が在るべき『白銀』の立場を弁えるのであれば――――”
過日、彼女が自らの祖母に呼び出しを受けていた事を。彼女の友人は愚か、最も親しい冒険者の仲間すら知らない。
……心配をかけたくなかった、と言うのは言い訳だろう。恐かった。糾弾される事がではない。
それでも――――“応援”されてしまうことが。甘えてしまいそうになる自分の弱さが。
(お祖母様は……私がもし、ほんの少しでも弱音を吐いたら。それを見逃しはしない)
『王国』の。貴族の社会はゆとりや自由とは対極にある。それは、冒険者が最も失くしてはならない物だ。
雁字搦めにされて、後悔何てさせてはならない。無力に泣いた事がある彼女にとって、其処だけは踏み越えてはいけない。
「……冒険、もう一度くらい行きたかったな」
――――自分の夢と、大切な家族の未来。2つの内どちらかしか掬い上げられないのだとすれば。
彼女の手元にはずっと、仮初であれ自由に良く似た物があった。甘やかされ、見過ごされ、許されてきた。
貴族の。それも侯爵家の令嬢としては稀有な事だ。魔法の様な話だ。けれど夢物語は、そろそろ終わりにしないといけない。
「……お嬢様、御主人様がお呼びです」
『白銀』家令長エドワーズの声。ずっと彼女を護って、導いて、我儘を聞いてくれた声。だから――――
「はい……今、参ります」
1222年パンクリアース学園生徒会選挙。『王党派』よりオルファレナの立候補が決まったのは。その、翌日の事。
パンクリアース学園内特別棟、大会議室。
「――――昨年、一敗地に塗れたことは卿らの記憶にも新しいことだろう」
朗々とした声が室内に響く。『貴族派』学園生の決起集会。中央で声を上げるのは黒い外套を羽織った金髪の少年。
無感情な風貌にそぐわない朗々とした弁舌を振るうのは、『黒の後継』アルベイル・ライゼンナクト。
「昨今、『学園派』を中心に纏まった新生徒会の活動は確かに目覚ましい物がある。
彼らの行動により窮地を救われた同胞も居よう。新入生、第二学年などは特に変化の風を感じた者も少なくあるまい」
去年入学の第二学年とは到底思えない。それ程に、彼の周囲を囲む『貴族派』生徒は既に。
彼がいずれ『竜』を継ぎ、『貴族派』と言う派閥の先導者として振る舞う未来をその振る舞いの先に見ている。
「だがこの半年。庶民を見て来た卿らは理解した筈だ。彼らの生活習慣。立場。知性。経歴。いずれを取っても。
卿らと同じ目線に立つには余りに成熟が不足している。ただ受け入れるだけの姿勢は“全き時間の無駄だ”――――と」
盲目とは呼ぶまい。『王国』とは古来より同じことを正確に繰り返して来た。それによって安定を得て来た国だ。
眼前の少年がまさか、彼らの考えとは微塵も接点がない存在だとは考えもしない。“国政を拓く”などと言う大それた。
――――或いは、帝国をも含む世の“貴族”が聞いたら激怒する様な野心を抱えているなど。一切理解していない訳だが。
「庶民には庶民の是非があり。貴族には貴族の是非がある。これらは断じて混同されてはならない。
互いが対話の舞台に立つ為には、路傍の石と磨かれた輝石を同じ卓で混ぜる様な行いは愚の骨頂である」
掲げた掌が虚空を握る。例え其処に感情は無くとも。声音と振る舞いを曲解し人は熱狂する。
扇動だ。帝王学を仕込む際嫌と言う程教え込まれた手腕が、学園生と言う幼い感性に狂熱を植え付ける。
「今こそ、学園を正しい姿へ戻す時だ。違うか諸兄。無知なる『庶民』を導くが選ばれし『貴族』の本懐。
なればこそ、学園生徒の代表たるは我ら『貴族派』こそが相応しい。立ち上がれその血脈に青き誇りを刻む者達よ!」
具体性など必要ない。彼らはただ、聞きたい言葉を聞き、自分に都合の良い様に解釈する。
『王国派』に対する悪感情など無く、或いは恩義すらあったとしても。彼らを敵に設定せねばと立場と感情に絆される。
「我らの手に――――『学園』を取り戻す!!」
この一年で積もった『貴族派』の、何となく漠然と気に入らないと言う現環境へ向いた不定形の不平不満。
それらを逆転の勝機と定義付けることで方向性を指し示す。そんな手練手管に酔う者が見る幻想を――――偶像、と呼ぶのだ。
●変わり行く学園
学園生徒会総選挙。去年は大荒れに荒れたパンクリアース学園ではあるが。
今年は例年通り学園祭準備期間に立候補が行われ、祭典中に投開票と言う形で実施される運びとなっている。
となれば、今は最も情勢が読めない時期であり、夏季休暇明けに学園へ戻って来た学園生徒達にとって。
今年の選挙の流れは最も注目度の高い風説ゴシップと言える――――訳だが。
「……どうだった?」
特別教室棟、生徒会室。『学園派』の一員であり主に同教室に屯している事が多いペンテルシア商会の一人娘。
アンネローズ・ペンテルシアの問に、そんな多文化クラスの動向を探って来た幼馴染。
セクエンス子爵家令息、ステファン・セクエンスは眼鏡を曇らせて言いようのない困惑の色を浮かべていた。
「どうにも厳しいですね。やはり多文化クラスは『貴族』に対する偏見が激しく、多くは投票を拒否しそうな姿勢です」
「まぁ……そうよね。商家の私だって何となく嫌だもの」
「最近『貴族派』がとみに勢い付いているのも気になります。恐らく去年同様『黒の後継』の仕込みでしょうし」
うーん、と揃って眉根を寄せざるを得ない。何せ昨年も大概に接戦だったと聞いている。
直前に明らかな過失を積み上げてすら、第一学年でそれだけ支持者が居たと言う事だ。それから、更に一年と考えると。
「あれ、そういえばオルファレナ様は?」
「え。知りませんよ。アンネこそ今日は一緒じゃないんですか?」
昨年、『王党派』の旗印となるべきとされていた『白銀の薔薇』オルファレナ・アルヴァ・クラティアスは。
彼女を守る為に急遽集った『学園派』の支援に全力を尽くし、遂に選挙への立候補は行われなかった。
勿論、今年も同様に『学園派』支援に回るのだろうと思っていたが。居れば殊更目を惹く彼女の姿はない。
『白銀』本家への帰省からはもう戻っている筈……と、生徒会室を見回しても伝言などは何も無く。
「まあさしあたり、そろそろ選挙の応援活動を始めないとよね。今年は誰が立候補するのかしら?」
とは言え、『学園派』と言う派閥が広く学園内に浸透した、と言う事に2人が何ら不思議を感じていないこと。
それこそは新生徒会の尽力の結果であり、学園が少しずつ変わりつつある証左であるとして。
勿論そんな事態の当事者は、自分達が長きに渡る学園の歴史の過渡期に居る事など感知し得ないものなのである。
●白銀の姫君
パンクリアース学園内教室棟、2学年第3教室。
最近殊更に憂う事が増えたと言う『白銀の薔薇』オルファレナ・アルヴァ・クラティアスは独り悩み続けていた。
学園は今、過渡期にある。彼女が応援する『学園派』がどれほど力を尽くしそんな変革の反動と戦っているか。
彼女は良く知っている。これまで幾度も助けられ、彼女もまたそれに報いられる様尽力してきたのだから。
だから――――もし。今、『学園派』から梯子を外すようなことをすれば。
それは言い訳のしようもない裏切りだろうと。分かっている。誰より、彼女自身がその様な不義理は赦せない。
“もし、貴女が在るべき『白銀』の立場を弁えるのであれば――――”
過日、彼女が自らの祖母に呼び出しを受けていた事を。彼女の友人は愚か、最も親しい冒険者の仲間すら知らない。
……心配をかけたくなかった、と言うのは言い訳だろう。恐かった。糾弾される事がではない。
それでも――――“応援”されてしまうことが。甘えてしまいそうになる自分の弱さが。
(お祖母様は……私がもし、ほんの少しでも弱音を吐いたら。それを見逃しはしない)
『王国』の。貴族の社会はゆとりや自由とは対極にある。それは、冒険者が最も失くしてはならない物だ。
雁字搦めにされて、後悔何てさせてはならない。無力に泣いた事がある彼女にとって、其処だけは踏み越えてはいけない。
「……冒険、もう一度くらい行きたかったな」
――――自分の夢と、大切な家族の未来。2つの内どちらかしか掬い上げられないのだとすれば。
彼女の手元にはずっと、仮初であれ自由に良く似た物があった。甘やかされ、見過ごされ、許されてきた。
貴族の。それも侯爵家の令嬢としては稀有な事だ。魔法の様な話だ。けれど夢物語は、そろそろ終わりにしないといけない。
「……お嬢様、御主人様がお呼びです」
『白銀』家令長エドワーズの声。ずっと彼女を護って、導いて、我儘を聞いてくれた声。だから――――
「はい……今、参ります」
1222年パンクリアース学園生徒会選挙。『王党派』よりオルファレナの立候補が決まったのは。その、翌日の事。
解説
パンクリアース学園生徒会総選挙.1222、はっじまっるよー☆
●成功条件
パンクリアース学園での何気ない1日が恙無く経過する。
●失敗条件
聴講生主導で何がしかのトラブルが発生する。
●行動範囲
※ワールドガイド⇒都市や地域について⇒リーンエス王国⇒パンクリアース学園⇒学園施設案内参照。
・貴族寮は学園教師、学園生以外立ち入り禁止。
・野外施設は安全性の問題から全般的に立ち入り禁止。
・校舎屋上、廃校舎、禁断の倉庫は立ち入り禁止。特に禁書庫は王命で侵入が禁じられている。
原則、上記以外のパンクリアース学園内であれば何処へ向かっても構わない。
ただし、進入禁止と思われる地形への強行侵入は"トラブル"に含まるものとする。
●主だった人の所在
◆学園派
『学園派』所属の第2学年3教室幼馴染四人組。
及び『生徒会付き教員』シメオン・ロッドウェル老教師は生徒会室。
『第一剣術部部長』シルヴァン・ローライトは第一訓練場。
主だった『学園派』派閥の共同体:『第一剣術部』
◆貴族派
『黒の後継』アルベイル・ライゼンナクトは第2学年1教室。放課後は特別教室の会議室。
『夜鷹の雛』ジーベック・ファルゲンは第1学年2教室。放課後は大図書館。
『次代の黒槍』アルガス・コーニッシュは第6学年第5教室。放課後は大図書館。
『紫の君』クリスタリア・ラズベリルは諸々あって帰省中の名目でお休み。
『パンクリアース学園校長』ジルワード・ファルゲンはアポイントメントが取れない。
主だった『貴族派』派閥の共同体:穏健派:『第一文芸部』 過激派:『貴血連盟』
貴族のお嬢様の秘密のお茶会『百合園会』は派閥を問わず、貴族子女の入会募集中。
◆王党派
『白銀の薔薇』オルファレナ・アルヴァ・クラティアスは第2学年3教室。放課後は学園内の何処か。
『白銀家令長』エドワーズは学園長室前で待機。
『パンクリアース学園長』フォルトゥナ・アルヴァ・クラティアスはアポイントメントが取れない。
◆その他
食堂や購買、空き教室などは聴講生も学園事務に申請の上、自由に利用して良い。
●注意事項
・入学資格を取得済で所属クラスを指定したい場合自己申告制です。
・久々にゆるふわです。大抵のことは受け入れます。
・自由度全開放で行きますのでしたいように行動して頂いて構いません。
・独自にクラブの発足等したい場合は拙作「パンクリアース学園の入学式」内のルールをご参照下さい。
マスターより
75度目まして。とっても明るく楽しいパンクリアースの学園生活へようこそ☆
OPがこんなじゃなければ騙せた。血で血を洗う総選挙と言えばゆるふわ。弓月蒼です。
学園祭直前進行です。選挙活動をしても良し。学園生活を楽しんでも良し。
自由とは即ちそういうことに今なったのです。割とご自由に羽目を外してOKです。
例えば買い食いとかしたい場合、大抵の物はあります。王立学園なので。貴族なので。とても凄いので。
名有りかつ学園所属のNPCに突貫しても構いません。それぞれ何かしらしています。
ということで、折角の学園での一日どうぞお楽しみ下さい。
リプレイ
●天に挑む者たち
「立候補したぁ!? そったらおめえ、じゃけんど亜人じゃろ!?」
「この国で亜人が当選したら面白ぇだろ?」
ラドラム・ドルダームは蜥蜴人である。
『学園』多文化クラス。所謂"庶民"が集められた教室でも唯人以外の異種族はある程度、浮く。
それは『王国』である以上必然であり、『風吹かぬ渡り鳥』ナハシュも勿論例外ではない。筈だが……
「君立候補してるじゃないか! 選挙活動しにいくよ!」
「いや、何で俺よりヨルが張り切ってるんだよ」
『扇動のピカロ』ヨル・スレイマンは庶民ではあれ唯人である。
少なくとも、亜人よりは偏見に晒される事は少ない。が、今回の場合そういう問題ではない。
多文化クラスの仲間が。それも、良く知るナハシュが学園の厚い壁に風穴を開けようとしているのだ。
「皆、良かったら、少し時間を貰えないかな?」
普段から雑多、と言う他無い多文化クラスで自ら好んで壇上に上がる人間などそうは居ない。
そうして注目だけ集めておいてナハシュを引っ張り出した。ここまで完全アドリブだ。酷い話である。
「あー、何だ。学内政策が強化されたとして、現状の役員構成で俺達の意見や立場は通りやすいか?
んなことねえよな。何故なら俺らには明確な伝手がない」
語り出したナハシュに、何だ何だと視線が集まる。雑多であったクラスが徐々に沈黙に呑まれ出す。
「だが多文化から一人送れば生徒会に一発で直訴できんのさ。そう、俺を使ってな!」
自らを親指でさし、ナハシュはそう言い切った。その様を見てヨルが口元を笑みに歪めた。
「投票をしないというのは勿体ないよ。それは学園を変える力そのものだからね。
確かに、僕らは少数派だ。けれど、だからこそ少しだけ彼への一票を検討して欲しい」
ラドラム・ドルダームは蜥蜴人である。多文化クラスの何でも無い一生徒だ。
けれど、彼は彼の同級生が立ち上がると決めた時。その友が彼の背を大きく推した時。
「来期が、今期よりさらに面白くなるのは違いないよ。その未来を一緒に見られたら俺は嬉しい」
自分も投票して良いのだと言う事に初めて気が付いた。それは――――ある種決定的な、気付きだった。
■
(「急速な革命は拙速に過ぎる」というのは賛成なんですよね)
貴族派、から立候補した森人と言うのは、普通に考えて奇異の視線に晒される。
『金糸雀の魔女』リディリディ・トゥラ・イェレミースはそんな例外的立ち位置に居る為とかく目立つ。
「難しい顔をしているな。何か質問があったか?」
「その、貴族主導による見極めが必要……までは分かりました。でも、その先はどう考えているのか……」
人見知りする割にはきはきツッコミを入れながら、リディリディは主催者が連れて来た好機の視線が不満だった。
興味が無いなら放っておいて欲しい……そんな、立候補者が抱くべきでない感情が先立つも。
「究極的には、能力がある者が評され認められる学園になれば良い。が、それすら未だ過程に過ぎない」
旧帝国的な"能力主義"への移行を『黒の後継』は想定している様だが、その裁定役が貴族である以上。
"貴族である"と言うだけで能力に下駄が履ける。本来は、そういう時代が当分続く筈だ。
「気の長い話ですね」
結局周囲の目に耐えかねたリディリディは歓談も程々に言いたい事だけ言って脱兎の如く場を去った。
「……何故身を隠す」
そうして会議室を出ると。扉の影に隠れていた『気高き白』コルネリウス・アーラがおず、と顔を出す。
「その……先日は、驚かせてしまって申し訳なく……」
最近の森人は曖昧な語尾が流行でもしているのだろうか、と一瞬首を傾げたものの。
僅かに瞳を細め頷く。確かに驚きはしたものの、さりとて悪意が有った訳でもないだろうと。
「もっと貴方の力になりたいと思ったんです。それは貴方が描く未来がどんな形でも……」
「それが、コルネリウス。貴公の理想を阻む物であってもか」
「――――貴方は、この国を悪くはしないでしょう?」
ひとりのヒトとしての信を受け。揶揄する様な問を投げた事を恥じる様に彼が瞳を閉じると。
コルネリウスもまた。この一年でその在り様を、好意的に受け止められる様になった自分に気付く。
同時に、彼我の立場の大きな差に。何故か不意に胸をちくりと刺されたような痛みを憶えて。
「そういえば、学園祭ももうすぐですね! 息抜きに、当日は一時、学園祭巡りでも如何ですか?」
誤魔化す様に口走ったそれは唯の思い付き。拒否されて当たり前。冗談めかし、少し無茶を言ってみただけ。
「そうだな。試すような真似をした。付添えは礼になるだろうか」
でも。その言い訳が果たして何処まで本気だったのか――――今はもう、分からない。
■
「ローザリカお姉様と共に百合園会に入会したく!」
「――――と、言うことで。どうぞ宜しくお願い致しますわ」
『鷹雛の大敵』ミレイユ・ヴェルジーと『リベラの天秤』ローザリカ・L・ディオール。
此度『百合園会』へ新規入会を果たした2人の令嬢に、先輩たる御姉様方は大層お喜びあそばした。
普段から話題を追い求める『百合園会』が彼女らを歓迎しない筈も無いのである。
「お菓子は如何かしら」「お茶をどうぞ?」「わ、第一学年ね! 可愛いー!」
えとせとらえとせとら。1つ応じると3つ返るという有様に、10人の言葉を聞き分ける耳が必要である。
「そう言えば、ミレイユ様は生徒会立候補者のお兄様がいらっしゃるのね?」
「はい! 女性を尊重する兄のこと。皆様のようなご令嬢方が憂いなく過ごせるように尽力してくれるはずですわ」
「ですって?」「でもあの浮名を馳せるジュスト様ですわよ?」「ねえ」「ねぇーえ?」
何故か話が進むに従いローザリカの眼差しが冷え行くのは何故だろう。尚、ミレイユは気付いていない物とする。
「こほん、立候補と言えば……かくいう私も、微力ながら皆様の為に尽力させて貰いたいと思っています」
「あ、私ローザリカ様の応援します!」「では公約についてお伺いしても宜しいかしら?」
打てば響くが如く反応が返るのは助かる物の、令嬢たちの勢いにさしものローザリカがたじろぐが。
「そう……ですわね。人の才を商品に例えますと。私は品を並べる店が必要だと感じましたの。
多様化した品の中から欲しい色柄を探せる専門店が。つまり、青田買いの場としての先鋭化」
「面白い発想ですわね」「紫水姉様なんかお好きではないかしら」
一所に留まらぬ会話は淑女の嗜みである。或いは、その流動性も含め『百合園会』の強みと言えるのかもしれない。
然して――――実の所。『黒の試金石』アウレーリア・フォン・ネーベルベルクもまた、お茶会にしれっと混ざっていた。
彼女は貴族令嬢であり、"紫の君"との縁故も深い。即ち、コネとはこう言う時の為にある。
「上手く紛れ込んだな、ネーベルベルクの主従」
「利害の一致でも、共闘理由になるなら有用です。ライゼンナクト卿」
ローザリカの公約話に紛れて場を辞した『雪薔薇の魔女の友』ナタリア・フィッツジェラルドが一礼して応じると。
アウレーリアも文字通り、そろそろ中庭を通るかと"待ち構えていた"『黒の後継』の赤い瞳を見詰め問い掛ける。
「今から能力主義に方針を転換しても、弱者否定の選民思想とは決別し得ない。
両国とも、今のままでは爛熟し堕ちる時を待つばかり。そうですよね、アルベイル様」
「……なるほど。実際に能力主義の世界で生きて来た者は、そう容易には納得しないか」
「実力ある優良種が選ばれし者、当人の力量こそ総て……というのは結局。
現貴族層が能力主義に保護された"新たな貴族"に駆逐され、横行するに相違ありません」
主の言を継ぐようにナタリアが見解を述べると。アルベイルは理解する様に頷いてみせる。が――――
「ですが、"其処で終わり"……に、する気はない様に見えます」
だからこそ、アウレーリアはもう一歩踏み込んだ。彼女は貴族派属として立候補しているが。
さりとてあくまで帝国民。過干渉は良い結果にはならないとしても――――足掻く価値は、あると。
「そうだな。"其処で終わり"にする気はない。次の百年……その為に、今がある」
「では……この『学園』で、正攻法で以て生徒会選挙に立候補するのもその為、と?」
「ああ、是非もない」
しかし、相手は次代とて『竜』の仔だ。真正面から問い掛けて解が得られる程浅くはない。
ナタリアの問に首肯する辺りを見るに。彼女の発想は当たらずしも遠からず……ではあった様だが。
「……貴方は、この世界に何を示すの?」
「――――いずれ王無き未来の標を」
その言には"熱"がある。故に確信せざるを得ない。
それが"何"なのかを暴くことは――――きっと、祖国の選択肢を増やす事になるだろうと。
■
「中々、興味深い事になっているな。ラー」
「……何故、貴族派以外の票を斬り捨てる選択をした? 彼女の出馬を予測できなかった訳ではあるまい」
学園正門への道程。声を上げたアルベイルに応じたのは『銀の双刃鬼』ナハティガル=ラーだ。
影の如く付き従う『黒の後継』の懐刀は、此度の総選挙中、拭いきれなかった疑問を率直に投げた。
「――――不満か?」
「奇妙、と言うべきか。必勝を旨とする『竜』とは思えん。オルファレナには地盤……いや。華がある」
『白銀の薔薇』は愛情に愛情で返す、貴族には稀有な人間だ。その明朗さを好ましく思う者は少なく無い。
「まさか……貴族派の象徴として負けるつもりなのか?」
未だ納得し難いと言うナハティガルの眼差しを受け、アルベイルが彼にのみ見せる僅かな微笑を口元に浮かべた。
「強いて言えば、俺が象徴する者は――――王だ」
「……王?」
「ああ、無論、勝てば父に名目が立つ。
だが、戦乙女が民衆の支持を受け王を討つならば……その経験は、致命的になるだろう」
以前。彼が溢した言葉。"議会制"――――なる、未だ影も形も無い政治概念。
それがどういったものなのか。ナハティガルには良く分からない。けれど幾つか言える事はある。
――――これは『メドゥの指先』をすら凌駕し得る、『王国』の社会的危機その物だ。
●学園生の日常
「……もう、そんなシーズンなのね」
教室棟1階――――『鋭剣の淑女』ルベア・ベルニが広報掲示板を見ていた。
掲載されているのは現時点における生徒会立候補者の一覧だ。『王国』の人材発掘は順調な様だった。
少なくとも、政治に疎いルベアですら自然と"学内派閥"を認知する程度には、この場に馴染んで来ている。
(私みたいな無党派層は簡単に取り込まれそう。気を付けないと……――――?)
権謀術数渦巻くのは『学園』も同じ――――と。移す視線の先。何か見知った少年が追加掲載されていた。
同期入学の同級生だ。立候補したんだ。凄いな……その胆力に感心する他無い。
と。そんな事を考えていたら進路上に当人が見知らぬ先輩と共に居た。あれは確か多文化クラスの筈。
まさか突入……と。そんな、観客の存在など露知らず。その当人。
『青天の騎士』ナキルと、見知らぬ先輩こと『指し手』ジュスト・ヴェルジー、両名が恐れ知らずの突撃を果たす。
「――――突然で悪いが、みんな聞いてくれ!!」
先手必勝で動いたヨルとナハシュのお陰というべきか。多文化クラスの面々も2度目なので慣れた物だ。
「例えばこのクラス。みんなも知ってる通り、去年には無かった。
こう言う場所や機会を作る為に頑張ってくれた人達がいるんだ。それを思い出してみて欲しい」
「生まれた家も、種族も、育った世界も違う。それでもオレ達が持つ一票は平等だ。使わなくちゃ勿体無いぜ!!」
ナキルの訴えは、選挙から逃げ腰な多文化クラスを鼓舞する物だった。
それはヨルの言葉を裏付ける物であり。彼らの手を引く物でもある。けれどそれだけでは動けない者も居る。
「でも、庶民じゃどうせ貴族様には敵わない」「この『学園』じゃ貴族に睨まれたら終わりだ。皆知ってる……」
同級生には言えなかった弱音が幾らか漏れるのを見て。正に貴族であるジュストが進み出た。
「そうだね。確かに今、ここは君達が生き易い場ではないかもしれない。
けれど、それは最初から分かっていた筈。では、皆は何故この『学園』へ来たのか」
その言に、困惑が滲むのが分かった。其処に明確な意思は無い。けれど――――希望は、在った筈だ。
「君達は努力の末、学園生と言う立場と権利を得た。けれどその権利を十分に享受しているか」
「んなこたわあっとる! じゃけんど貴族に頭抑えられたら、どもこもならんじゃろうが!」
「其処が不安なら、俺達は君達の盾となり追風になろう」
彼らには迷いがあり、弱気があり、けれど希望があり、理想がある。或いはこの『学園』の誰よりも。
ジュストとナキルがその芽を伸ばす為に発破を掛ける様を覗き見て、ルベアは大きく嘆息した。
取り込まれそうと不安を憶えた癖に、少し手伝ってあげようか等と。当てられていては世話が無い。
■
『学園』は既に選挙一色。それは『白銀に煌めく』ネーヴェ・グラヌローザも例外で居させてはくれない。
廊下を歩くだけで、選挙活動の熱が伝わって来る。しかし彼女は未だ、各派閥を上手く咀嚼し切れていない。
中でも新興と言える『学園派』には『学園』の歴史に根付いた土壌が無い分、思想の把握が難しい。
「とは言え。私を含めこの第一剣術部に集う者は皆。自らを『剣』と定義していますので」
「では、主義主張と言った物は無いのかしら」
「それは我らを佩く方が見定め示す物。……とは言え丁度折良く、そう言った話に向く方がいらっしゃる」
門を叩いた第一剣術部部長。シルヴァン・ローライトはネーヴェの問に丁寧に応対してくれたが。
そう言って連れられて来た相手を見て、彼女は納得と共に思わず笑む。何せ見知った顔だ。
「まあ、シルヴィアさん……!」
「やあ、ネーヴェ。こういうのも奇縁と言うべきかな。どうも、私にも未だすべき仕事が残っていたらしい」
『1221年度パンクリアース学園生徒会 副会長』シルヴィア・A・カペルが困った様に微笑んだ。
"――――私が頑張れたのは、優しい友人達と信頼出来る“剣”がいてくれたからだ。
君達が私の剣であってくれた事を誇りに思う。本当にありがとう"
"勿体ないお言葉。とは言え、我々は剣。
我らが良き剣であったと仰られるのであれば。それは貴女が良き主であったからでしょう"
"……重い事を言う。剣は主の判断次第でどうとでもなる……とは君達の主義だったな。
“剣の主”であった事は忘れない。その未来が良いものでありますように"
"――――であれば、今しばらく此方でお待ち頂けませんでしょうか"
"ん、勿論構わないけれど……何故だい?"
"本日当部に相談者がいらっしゃる事になっています。然るに事情を聞く限り、我々では不適切かと"
"うん???"
――――結果、現在に至る。
「彼にも伝えたが……此処から先の学園の良し悪しは後世の人々が評価する、としか今の私には言えない」
「ですが、シルヴィアさんは勿論良い事だと思って生徒会で活動して来たんですわよね?」
「勿論だ。けれど何かを変えると言う事は軋みや歪みを生む事でもある。
私はこの学園をより良い物に変えて行きたいと思った。"いずれ全ての学園生が笑える"空間を作りたいと」
「それが『学園派』ですの?」
「少なくとも、私はそうしたかったし、その為に行動して来たつもりだよ」
友人に、これほど詳らかに自らの内心を吐露する事もそうはない。面映い気持ちを押し殺し語ったシルヴィアに。
けれど、そこからこの『学園』への確かな愛着と愛情を汲み取り。ネーヴェは大きく頷いた。
和を以て尊しとす。それが聞けただけで十分価値は有ったに違いない。
■
「あれ……ジーベック様?
あ、え、何で逃げようとなされるんですか!? え!? ジーベック様ですよね!?」
「良いかゲルダ・クライン! 常々言いたかったが今日こそ言わせて貰う!
僕とお前は他人同士だ。顔を見たら追う様な関係じゃ――――」
「あのっ、図書館ではお静かに……えっと、司書の先生が見てらっしゃいます……」
「~~~~ッッッ!!!」
『豆ゴリラ』ゲルダ・クラインの隣で古く分厚い本を開きつつ『夜鷹の雛』ジーベック・ファルゲンは遠い目をした。
概ね、腐れ縁。と言う評が最も合致するだろうが。彼の認識では変に距離感の近い"天敵"である。
「学園は、どうですか?」「……どう見える」
片頬を膨ましたジーベックは、小人であるゲルダに比べ遥かに『学園』に馴染む条件は整っている。
けれどであれば何故。こんな図書館で1人読書に耽っているのだろう。新入生であれば尚更……友達、とか。
「勉学、作法、武術、馬術辺りは楽勝だよ。"貴族の"『学園』なんて言っても大した事無いね」
それにしては覇気の無い表情に、彼も何かしら抱えている事が見て取れて。
「なにかあれば、……きっと、力になります。わたしは、ジーベック様のお力になれたらとっても嬉しいです」
「僕は良い加減、お前が僕の話を聞いていないんじゃないか……って疑問が確信になりつあるよ」
ゲルダは彼に感謝と恩義を感じている様だが。ジーベックは当然そんな心情、微塵も気取る気はない。
一片たりと双方向に向いていない関係を、果たして人間関係と呼んで良い物なのだろうか……?
――――そんな、図書館の更に奥。
『誓約の剣』Alexandra・Hexe・Claudiaは書の貢を読むでも無く虚空に視線を向けていた。
(……貴血連盟内での一件は、私の内面を改めて照らしてくれた)
深く、深く、自らの内に没入する。冷徹な目で組織を見る"私"と、私情で以て人を見る"わたし"
自分の内で、必然的に分たれた自分自身の二面性。それらが対面するには、静寂が最も望ましかった。
(幼いなあ、"わたし")
組織の歯車であることに慣れ切っているAlexandraは、利害に注視しさえすれば自分の行動を制御出来る。
けれど、其処に感情が混ざると途端に論理が破綻する事に、彼女は漸く最近気付いて来ていた。
(……暫くは"私"に任せて貰おうことにしよう)
利害に優先する程に強く何かを想うと言う経験に乏しい"わたし"の情緒は、客観的に子供のそれで。
「ああ、此処に居たかクラウディア」
思索に沈んでいた意識が急激に浮上し、眼前に見知った――――『学園』でも特別良く知った青年が。
近付いて来る事に気付く。果たして、此度は顔を合わせる心算も無かった訳だが逃げる訳にも行かず。
「事前に聞いておこうと思ったんだが、俺は今年卒業だ。お前、伯爵家に来る気はあるか?」
――――ああ全く。心身の成長と言うのは、本当に難しい。
●白銀逃走中
学園最上階空き教室。最初に見つけたのは、『ブレイブファング傭兵団団長』ハヤト=ガラン=ヴォルファング。
「ハヤト」
振り返ったその瞬間。ハヤトは手にした手土産を落としそうになった。
それは彼の知っている快活な少女では無く。冷えた冬空の様な空気を纏い其処に居た。
「……まさか、王党派で立候補するとはな。生き方に、腹ぁ括ったてわけか?」
「どうかな。分からない」
瞳を伏せる様には隔絶の感すらある。が、無理矢理振り切って彼は告げた。
「今、うちの傭兵団でお前の義兄貴の身柄を預かってる」「……え?」
沈黙があった。数度瞳を瞬かせ、言われている事が分からないと首を振る。仕草はまるで物語の姫君だ。
「何で、お兄様がそんな……」
「それは言えない事になってる。けどな、あいつがオーロラの幸せを願っている事は本当だ」
「でもだって! 傭兵なんてそんな、危ないこと……! 止めさせなきゃ」
「後悔の無ぇ生き方が出来る奴なんざこの世にはいねぇ」
「!」
だから、後悔しない様に。そう告げようとしたハヤトが、大粒の涙を溜めた眼差しに気付き声を止める。
いや、違う。誤解だ。責めようとした訳じゃないと遮る暇もあればこそ。
「そんなこと、分かってる! だから! 私は、私にしか出来ないことを、するの……!」
血を吐く様に――――話はおしまいとばかりにハヤトの隣をすり抜けようとした彼女の肩を掴もうとして。
余りの細さに。脆さに。貴族特有の真っ白な肌に。一瞬より短く過ぎった逡巡。結局それが、正否を分ける。
■
「あれは……」
階段を駆け下りる様を見て『銀涙の縁』ヴィルヘルミナは声を掛けようか迷い、止めた。
彼女は総選挙の立候補者だ。"貴族"であるオルファレナに過度に肩入れする訳にもいかない。
それもまた、ヴィルヘルミナならではの結論だったのだろう。代わりに、その爪先を当初の予定通り向ける。
「学友の、此度の一件についてお聞きしたい事が有ります」
「さて……私から、お嬢様についてお話出来る事は多く有りませんが――――」
他方階段を駆け下りたオルファレナはと言えば。その先であっさりと捕捉されていた。
まあ、盗賊の技巧全開で迫る相手に土台隠れ切れる筈も無く。
「つ――――かまえたっ!」
『1221年度パンクリアース学園生徒会 生徒会長』エフィルミアに見られた時点で。限界だったと言える。
それでも、普段であれば抱き返すだろう彼女の手は上がる事無く。視線もまた俯いたまま。
けれどエフィルミアはそれを許す心算は無かった。無理矢理にでも目線を上げさせようと両手で頬を支えると。
涙に煙った青い瞳に、桜色の妖精が確かに映っていた。
「私は嬉しいんだよ。去年は諦めてた王党派からこんなに立候補が出てくれて」
何時もなら騒がし過ぎる程騒がしい白銀の姫君が、声も無く傷付いた様な眼差しを向ける。
そんな自分に気付いているだろうか。そんな姿が――――彼女が望んだ彼女だろうか。
「今の王党派は去年と全然違う。オーロラさんが生徒会長になったら、学園派+王党派って感じで最強だよ!」
「でも、エフィ。私は、エフィに相談もせずに、勝手に決めて……勝手に出て行って」
「良いんだよそんなの。だからオーロラさんも今出来る事を、選んだ道を胸を張って進んでみせてよ」
――――首を振るオルファレナを。子供を宥める様に背を撫でた。酷い運命だと、そう思った。
けれど、今のエフィルミアに出来る事は無い。だからせめて――――
「前を向いて、強く生きてやろう」
精一杯の発破は、何処まで届いたろう。
■
結局のところ何と言っても『学園』は広い。
「オルファレナさん……いいえ、オーロラさん」
『青燕兵曹』トーラもまた、独自にその所在を探していたが。教室にその姿を見つけたのは完全に偶然の産物だった。
「トーラ。……トーラも来て、くれたのね」
普段が破天荒なので気付き難いが、彼女は確かに貴族のお姫様なのだ。けれど、トーラは強いてそれを一端忘れる。
「勿論です。オーロラさん、立候補されたんですよね」
「うん……酷いよね。皆で頑張って学園を変えて行こうって、そう約束したのに」
「事情は分かって貰えますよ。その上で、正々堂々戦ってはっきりさせれば良いんです!」
それでも駄目ならわたしが相手しますよ、と拳を振るトーラを見て。漸く、オルファレナの瞳に僅か笑みが滲む。
「駄目よ甘やかしたら。私、弱いから。助けて欲しくなっちゃう」
「わたしに出来ることなら、お手伝いしますよ」
「……なんで」
瞳の奥に溶け込むのは、怯え、怖れ、ほんの少しの期待。こわいのだ、突き放されるのが。
そうと分かって、トーラは自然と一歩踏み込み震える手を握った。いつもなら、きっと真逆だったろうに。
「お友達を助けるのに、理由が必要ですか?
どうせ立候補するなら、誰にも口を出せないくらい偉くなっちゃいましょう」
たった一歩。されど一歩。目線を合わせ笑い合えば――――震えは、止まってくれた様だった。
「見つけた」
「……エルゼリオ様?」
『春燈の朋』エルゼリオ・レイノーラとオルファレナの縁は其処まで深くない。
何故探されていたのか分からず不思議そうに首を傾げたものの。けれど、彼の側には理由が有った。
それは彼の友人のこと。そしてその友人から聞いた家族構成。今の、貴族然と振る舞う時の。
陰の射した瞳の色――――黒にこそ近い青紺。様々な破片が噛み合って。
彼に、決定的な問いを投げさせる。
「"ガレス・コーニッシュ"って名前に聞き覚えは無い?」
「……ガレス……"ガレシウス・アルヴァ・クラティアス"……そう、そういうこと」
「……え?」
「エルゼリオ様。例え王党派とて私は『白銀』。
他家の方にはお話出来ない事情もございます。レイノーラ一党の御方であれば、御理解頂ける物と」
会話の筋が分からないトーラを守る様に、手を翳し首を振る。物事には、知って良い事といけない事が有る。
そして彼女に対し、貴族が、彼女の護るべき者の素性を問うとは。正にその一線そのものだと言えた。
「どうしてもそれ以上をお知りになりたいのであれば。祖母を通し正式にお尋ね下さい」
まるで透明な壁に拒絶されるように、両者の対話は其処で止まざるを、得ない。
■
特別教室棟の一角。ある教師の研究室。
「一年お疲れ様でした、『学園派』はうまく踊ってくれたようで」
「あまりそう露悪的に言う物ではない。……良くやってくれた。それで良いと思うがね」
望む望まざると、幾度か顔を合わせ言葉を交わせば人となりも分かって来る。
『暗者』キーゼの言に、老教師シメオン・ロッドウェルは手づから淹れた茶杯を置く。
「『新学園長』と言う立場を考えれば、貴族派、王党派、いずれが勝利してもやり難くなる。
それでも、当初は貴族派教師を抑える為に生徒会は"貴族派に渡す"つもりだったのでしょうが……」
「辣腕、と言うのだろうね。恐ろしい話だ」
『学園派』の台頭は想定外だったが、その影響を学園長は――或いは竜の仔も――正確に読んでいた。
其処に来て、『白銀の薔薇』が動いた場合に備えて置いておいた布石を動かし盤面を整えた。
それでいて当人は一切矢面に上がらない。策士としてまさに手本の様な動きは"見事"と言う他無いだろう。
「良い性格をしておられる」
「君の人の評価の仕方も大概だと思うがね。まあ、"上"に報告だけはしておこう。これも自ら買った立場だ」
老教師の嘆息がそっと落ち、窓の外は夕暮れ。『学園』は斜陽の時を迎えつつあるも――――
――――同時刻。学園長室前
『白銀の薔薇』を探す面々の一人。『夜に咲く白月』レティシア・レインフィールには元々一つの推理があった。
確かめる為に第一学年の教室へ向かった結果、其処でエルゼリオとオルファレナのやり取りを聞いてしまった事。
果たしてそれが幸か不幸かはともかくとして、推測は確信となり。彼女は混乱の只中に在った。
("ガレシウス・アルヴァ・クラティアス"……"ガレス・コーニッシュ"……つまり)
白薔薇直系第一家『白銀』には嫡男が居ない。それは確か『白薔薇』にも。
であれば何か歯車が狂えば、"彼"は白の公爵に最も近い立場に居た筈で――――
「―――――っ」
口元を抑え、ふらふらとした足取りで。けれど先に『白銀』家令長エドワーズに渡した手紙を回収しないと。
そこへ先客……家令長当人と対するヴィルヘルミナの声が届く。
「どういう事ですか。だとすると、それはオルファ当人の戦いじゃ――――」
「お嬢様は、坊ちゃまを守る為に"『白銀』の義務"に殉ずる事を決められました」
「詭弁です。家族を盾に取って犠牲を強いるなんて、それが家族のする事ですか」
「失礼ながらヴィルヘルミナ様。国によって、立場によって、物の道理は異なります。
この『王国』では、青き血の義務は"自らを殺す覚悟"無しには務まらないのです」
――――そうして遂に。レティシアは膝から崩れてへたり込んだ。彼の妹はもう、自らを賭して戦っていた。
だとすれば。掬い上げ切れなくなった罪は。一体どうしたら、償えるのだろう。
●My Dear.
「――――! 居ました、ロゼットさん!」
「……オーロラ、やっと会えた」
『学園』裏門。こっそり帰る筈だったそんな場所で2人に囲まれたのは。果たして罰でも当たったか。
そんな事を思いながら、オルファレナは振り返った。あの日は、この3倍は人が居たけれど。
「見つかっちゃった。ご機嫌よう。リサ、ロゼット」
『学園派』は彼女達から始まったのだから――――きっと。こうして巡り合わせたのは運命だった。
沢山の人に、声を掛けて貰った。応援された。頑張ってと背を押された。だから、もう逃げない。
「探しまわって時間も無いし、伝えたいことだけ言うわ。
――――貴方の背負うものがどんなに重くても、夢や憧れは捨てないで欲しい」
「駄目よロゼット。そんなの、我儘にしかならない。きっと誰も幸せになれないよ」
「我儘じゃない。貴方の未来のために、それは必要なものだと思う」
それを無責任とは思わなかった。彼女が畏れに足を取られているなら、導くのが神官の。
――――いや。今すべき事だと信じ、自負した。彼女に名を贈ったのは、自分なのだから。
「わたしが去年立候補したのは……立ち竦む貴女を、護りたかったから」
「うん、ごめんねリサ。私も、皆を。私の代わりになってくれた貴女を護りたかった」
「でも――――今は、曲がりなりにも覚悟を決めたのでしょ?
なら、胸を張りなさい。負けたって死ぬわけじゃない。ハッタリ上等です!」
その問に。確かに一呼吸間を空けて。『白銀の薔薇』は目を逸らさず頷いた。
「眺めるだけの世界に歩み出すことは、きっと貴女と言う人間を豊かに、強くしてくれる。
初めて渾名で呼ばれた、あの時の気持ちを大事にして欲しいの」
――――夢見る事を愛し、冒険を愛し、外の世界に憧れた少女が居た。
けれど、彼女の世界でそれは赦されないのだとして。
そんな少女が紡いだ絆は、彼女がそれらを捨て去ろうとした時大勢で以て背を押した。
まるで冒険譚の一節の様に。優しく、厳しく、力強く。憧れた時は、無駄じゃなかった。
「うん。私頑張る。2人共、一緒に居られなくてごめんなさい……大好きよ」
泣き笑いにくしゃくしゃになった白い薔薇の姫は強く、鮮やかに咲く。
それは――――きっと。友情の否定にはならないと信じられたから。
「立候補したぁ!? そったらおめえ、じゃけんど亜人じゃろ!?」
「この国で亜人が当選したら面白ぇだろ?」
ラドラム・ドルダームは蜥蜴人である。
『学園』多文化クラス。所謂"庶民"が集められた教室でも唯人以外の異種族はある程度、浮く。
それは『王国』である以上必然であり、『風吹かぬ渡り鳥』ナハシュも勿論例外ではない。筈だが……
「君立候補してるじゃないか! 選挙活動しにいくよ!」
「いや、何で俺よりヨルが張り切ってるんだよ」
『扇動のピカロ』ヨル・スレイマンは庶民ではあれ唯人である。
少なくとも、亜人よりは偏見に晒される事は少ない。が、今回の場合そういう問題ではない。
多文化クラスの仲間が。それも、良く知るナハシュが学園の厚い壁に風穴を開けようとしているのだ。
「皆、良かったら、少し時間を貰えないかな?」
普段から雑多、と言う他無い多文化クラスで自ら好んで壇上に上がる人間などそうは居ない。
そうして注目だけ集めておいてナハシュを引っ張り出した。ここまで完全アドリブだ。酷い話である。
「あー、何だ。学内政策が強化されたとして、現状の役員構成で俺達の意見や立場は通りやすいか?
んなことねえよな。何故なら俺らには明確な伝手がない」
語り出したナハシュに、何だ何だと視線が集まる。雑多であったクラスが徐々に沈黙に呑まれ出す。
「だが多文化から一人送れば生徒会に一発で直訴できんのさ。そう、俺を使ってな!」
自らを親指でさし、ナハシュはそう言い切った。その様を見てヨルが口元を笑みに歪めた。
「投票をしないというのは勿体ないよ。それは学園を変える力そのものだからね。
確かに、僕らは少数派だ。けれど、だからこそ少しだけ彼への一票を検討して欲しい」
ラドラム・ドルダームは蜥蜴人である。多文化クラスの何でも無い一生徒だ。
けれど、彼は彼の同級生が立ち上がると決めた時。その友が彼の背を大きく推した時。
「来期が、今期よりさらに面白くなるのは違いないよ。その未来を一緒に見られたら俺は嬉しい」
自分も投票して良いのだと言う事に初めて気が付いた。それは――――ある種決定的な、気付きだった。
■
(「急速な革命は拙速に過ぎる」というのは賛成なんですよね)
貴族派、から立候補した森人と言うのは、普通に考えて奇異の視線に晒される。
『金糸雀の魔女』リディリディ・トゥラ・イェレミースはそんな例外的立ち位置に居る為とかく目立つ。
「難しい顔をしているな。何か質問があったか?」
「その、貴族主導による見極めが必要……までは分かりました。でも、その先はどう考えているのか……」
人見知りする割にはきはきツッコミを入れながら、リディリディは主催者が連れて来た好機の視線が不満だった。
興味が無いなら放っておいて欲しい……そんな、立候補者が抱くべきでない感情が先立つも。
「究極的には、能力がある者が評され認められる学園になれば良い。が、それすら未だ過程に過ぎない」
旧帝国的な"能力主義"への移行を『黒の後継』は想定している様だが、その裁定役が貴族である以上。
"貴族である"と言うだけで能力に下駄が履ける。本来は、そういう時代が当分続く筈だ。
「気の長い話ですね」
結局周囲の目に耐えかねたリディリディは歓談も程々に言いたい事だけ言って脱兎の如く場を去った。
「……何故身を隠す」
そうして会議室を出ると。扉の影に隠れていた『気高き白』コルネリウス・アーラがおず、と顔を出す。
「その……先日は、驚かせてしまって申し訳なく……」
最近の森人は曖昧な語尾が流行でもしているのだろうか、と一瞬首を傾げたものの。
僅かに瞳を細め頷く。確かに驚きはしたものの、さりとて悪意が有った訳でもないだろうと。
「もっと貴方の力になりたいと思ったんです。それは貴方が描く未来がどんな形でも……」
「それが、コルネリウス。貴公の理想を阻む物であってもか」
「――――貴方は、この国を悪くはしないでしょう?」
ひとりのヒトとしての信を受け。揶揄する様な問を投げた事を恥じる様に彼が瞳を閉じると。
コルネリウスもまた。この一年でその在り様を、好意的に受け止められる様になった自分に気付く。
同時に、彼我の立場の大きな差に。何故か不意に胸をちくりと刺されたような痛みを憶えて。
「そういえば、学園祭ももうすぐですね! 息抜きに、当日は一時、学園祭巡りでも如何ですか?」
誤魔化す様に口走ったそれは唯の思い付き。拒否されて当たり前。冗談めかし、少し無茶を言ってみただけ。
「そうだな。試すような真似をした。付添えは礼になるだろうか」
でも。その言い訳が果たして何処まで本気だったのか――――今はもう、分からない。
■
「ローザリカお姉様と共に百合園会に入会したく!」
「――――と、言うことで。どうぞ宜しくお願い致しますわ」
『鷹雛の大敵』ミレイユ・ヴェルジーと『リベラの天秤』ローザリカ・L・ディオール。
此度『百合園会』へ新規入会を果たした2人の令嬢に、先輩たる御姉様方は大層お喜びあそばした。
普段から話題を追い求める『百合園会』が彼女らを歓迎しない筈も無いのである。
「お菓子は如何かしら」「お茶をどうぞ?」「わ、第一学年ね! 可愛いー!」
えとせとらえとせとら。1つ応じると3つ返るという有様に、10人の言葉を聞き分ける耳が必要である。
「そう言えば、ミレイユ様は生徒会立候補者のお兄様がいらっしゃるのね?」
「はい! 女性を尊重する兄のこと。皆様のようなご令嬢方が憂いなく過ごせるように尽力してくれるはずですわ」
「ですって?」「でもあの浮名を馳せるジュスト様ですわよ?」「ねえ」「ねぇーえ?」
何故か話が進むに従いローザリカの眼差しが冷え行くのは何故だろう。尚、ミレイユは気付いていない物とする。
「こほん、立候補と言えば……かくいう私も、微力ながら皆様の為に尽力させて貰いたいと思っています」
「あ、私ローザリカ様の応援します!」「では公約についてお伺いしても宜しいかしら?」
打てば響くが如く反応が返るのは助かる物の、令嬢たちの勢いにさしものローザリカがたじろぐが。
「そう……ですわね。人の才を商品に例えますと。私は品を並べる店が必要だと感じましたの。
多様化した品の中から欲しい色柄を探せる専門店が。つまり、青田買いの場としての先鋭化」
「面白い発想ですわね」「紫水姉様なんかお好きではないかしら」
一所に留まらぬ会話は淑女の嗜みである。或いは、その流動性も含め『百合園会』の強みと言えるのかもしれない。
然して――――実の所。『黒の試金石』アウレーリア・フォン・ネーベルベルクもまた、お茶会にしれっと混ざっていた。
彼女は貴族令嬢であり、"紫の君"との縁故も深い。即ち、コネとはこう言う時の為にある。
「上手く紛れ込んだな、ネーベルベルクの主従」
「利害の一致でも、共闘理由になるなら有用です。ライゼンナクト卿」
ローザリカの公約話に紛れて場を辞した『雪薔薇の魔女の友』ナタリア・フィッツジェラルドが一礼して応じると。
アウレーリアも文字通り、そろそろ中庭を通るかと"待ち構えていた"『黒の後継』の赤い瞳を見詰め問い掛ける。
「今から能力主義に方針を転換しても、弱者否定の選民思想とは決別し得ない。
両国とも、今のままでは爛熟し堕ちる時を待つばかり。そうですよね、アルベイル様」
「……なるほど。実際に能力主義の世界で生きて来た者は、そう容易には納得しないか」
「実力ある優良種が選ばれし者、当人の力量こそ総て……というのは結局。
現貴族層が能力主義に保護された"新たな貴族"に駆逐され、横行するに相違ありません」
主の言を継ぐようにナタリアが見解を述べると。アルベイルは理解する様に頷いてみせる。が――――
「ですが、"其処で終わり"……に、する気はない様に見えます」
だからこそ、アウレーリアはもう一歩踏み込んだ。彼女は貴族派属として立候補しているが。
さりとてあくまで帝国民。過干渉は良い結果にはならないとしても――――足掻く価値は、あると。
「そうだな。"其処で終わり"にする気はない。次の百年……その為に、今がある」
「では……この『学園』で、正攻法で以て生徒会選挙に立候補するのもその為、と?」
「ああ、是非もない」
しかし、相手は次代とて『竜』の仔だ。真正面から問い掛けて解が得られる程浅くはない。
ナタリアの問に首肯する辺りを見るに。彼女の発想は当たらずしも遠からず……ではあった様だが。
「……貴方は、この世界に何を示すの?」
「――――いずれ王無き未来の標を」
その言には"熱"がある。故に確信せざるを得ない。
それが"何"なのかを暴くことは――――きっと、祖国の選択肢を増やす事になるだろうと。
■
「中々、興味深い事になっているな。ラー」
「……何故、貴族派以外の票を斬り捨てる選択をした? 彼女の出馬を予測できなかった訳ではあるまい」
学園正門への道程。声を上げたアルベイルに応じたのは『銀の双刃鬼』ナハティガル=ラーだ。
影の如く付き従う『黒の後継』の懐刀は、此度の総選挙中、拭いきれなかった疑問を率直に投げた。
「――――不満か?」
「奇妙、と言うべきか。必勝を旨とする『竜』とは思えん。オルファレナには地盤……いや。華がある」
『白銀の薔薇』は愛情に愛情で返す、貴族には稀有な人間だ。その明朗さを好ましく思う者は少なく無い。
「まさか……貴族派の象徴として負けるつもりなのか?」
未だ納得し難いと言うナハティガルの眼差しを受け、アルベイルが彼にのみ見せる僅かな微笑を口元に浮かべた。
「強いて言えば、俺が象徴する者は――――王だ」
「……王?」
「ああ、無論、勝てば父に名目が立つ。
だが、戦乙女が民衆の支持を受け王を討つならば……その経験は、致命的になるだろう」
以前。彼が溢した言葉。"議会制"――――なる、未だ影も形も無い政治概念。
それがどういったものなのか。ナハティガルには良く分からない。けれど幾つか言える事はある。
――――これは『メドゥの指先』をすら凌駕し得る、『王国』の社会的危機その物だ。
●学園生の日常
「……もう、そんなシーズンなのね」
教室棟1階――――『鋭剣の淑女』ルベア・ベルニが広報掲示板を見ていた。
掲載されているのは現時点における生徒会立候補者の一覧だ。『王国』の人材発掘は順調な様だった。
少なくとも、政治に疎いルベアですら自然と"学内派閥"を認知する程度には、この場に馴染んで来ている。
(私みたいな無党派層は簡単に取り込まれそう。気を付けないと……――――?)
権謀術数渦巻くのは『学園』も同じ――――と。移す視線の先。何か見知った少年が追加掲載されていた。
同期入学の同級生だ。立候補したんだ。凄いな……その胆力に感心する他無い。
と。そんな事を考えていたら進路上に当人が見知らぬ先輩と共に居た。あれは確か多文化クラスの筈。
まさか突入……と。そんな、観客の存在など露知らず。その当人。
『青天の騎士』ナキルと、見知らぬ先輩こと『指し手』ジュスト・ヴェルジー、両名が恐れ知らずの突撃を果たす。
「――――突然で悪いが、みんな聞いてくれ!!」
先手必勝で動いたヨルとナハシュのお陰というべきか。多文化クラスの面々も2度目なので慣れた物だ。
「例えばこのクラス。みんなも知ってる通り、去年には無かった。
こう言う場所や機会を作る為に頑張ってくれた人達がいるんだ。それを思い出してみて欲しい」
「生まれた家も、種族も、育った世界も違う。それでもオレ達が持つ一票は平等だ。使わなくちゃ勿体無いぜ!!」
ナキルの訴えは、選挙から逃げ腰な多文化クラスを鼓舞する物だった。
それはヨルの言葉を裏付ける物であり。彼らの手を引く物でもある。けれどそれだけでは動けない者も居る。
「でも、庶民じゃどうせ貴族様には敵わない」「この『学園』じゃ貴族に睨まれたら終わりだ。皆知ってる……」
同級生には言えなかった弱音が幾らか漏れるのを見て。正に貴族であるジュストが進み出た。
「そうだね。確かに今、ここは君達が生き易い場ではないかもしれない。
けれど、それは最初から分かっていた筈。では、皆は何故この『学園』へ来たのか」
その言に、困惑が滲むのが分かった。其処に明確な意思は無い。けれど――――希望は、在った筈だ。
「君達は努力の末、学園生と言う立場と権利を得た。けれどその権利を十分に享受しているか」
「んなこたわあっとる! じゃけんど貴族に頭抑えられたら、どもこもならんじゃろうが!」
「其処が不安なら、俺達は君達の盾となり追風になろう」
彼らには迷いがあり、弱気があり、けれど希望があり、理想がある。或いはこの『学園』の誰よりも。
ジュストとナキルがその芽を伸ばす為に発破を掛ける様を覗き見て、ルベアは大きく嘆息した。
取り込まれそうと不安を憶えた癖に、少し手伝ってあげようか等と。当てられていては世話が無い。
■
『学園』は既に選挙一色。それは『白銀に煌めく』ネーヴェ・グラヌローザも例外で居させてはくれない。
廊下を歩くだけで、選挙活動の熱が伝わって来る。しかし彼女は未だ、各派閥を上手く咀嚼し切れていない。
中でも新興と言える『学園派』には『学園』の歴史に根付いた土壌が無い分、思想の把握が難しい。
「とは言え。私を含めこの第一剣術部に集う者は皆。自らを『剣』と定義していますので」
「では、主義主張と言った物は無いのかしら」
「それは我らを佩く方が見定め示す物。……とは言え丁度折良く、そう言った話に向く方がいらっしゃる」
門を叩いた第一剣術部部長。シルヴァン・ローライトはネーヴェの問に丁寧に応対してくれたが。
そう言って連れられて来た相手を見て、彼女は納得と共に思わず笑む。何せ見知った顔だ。
「まあ、シルヴィアさん……!」
「やあ、ネーヴェ。こういうのも奇縁と言うべきかな。どうも、私にも未だすべき仕事が残っていたらしい」
『1221年度パンクリアース学園生徒会 副会長』シルヴィア・A・カペルが困った様に微笑んだ。
"――――私が頑張れたのは、優しい友人達と信頼出来る“剣”がいてくれたからだ。
君達が私の剣であってくれた事を誇りに思う。本当にありがとう"
"勿体ないお言葉。とは言え、我々は剣。
我らが良き剣であったと仰られるのであれば。それは貴女が良き主であったからでしょう"
"……重い事を言う。剣は主の判断次第でどうとでもなる……とは君達の主義だったな。
“剣の主”であった事は忘れない。その未来が良いものでありますように"
"――――であれば、今しばらく此方でお待ち頂けませんでしょうか"
"ん、勿論構わないけれど……何故だい?"
"本日当部に相談者がいらっしゃる事になっています。然るに事情を聞く限り、我々では不適切かと"
"うん???"
――――結果、現在に至る。
「彼にも伝えたが……此処から先の学園の良し悪しは後世の人々が評価する、としか今の私には言えない」
「ですが、シルヴィアさんは勿論良い事だと思って生徒会で活動して来たんですわよね?」
「勿論だ。けれど何かを変えると言う事は軋みや歪みを生む事でもある。
私はこの学園をより良い物に変えて行きたいと思った。"いずれ全ての学園生が笑える"空間を作りたいと」
「それが『学園派』ですの?」
「少なくとも、私はそうしたかったし、その為に行動して来たつもりだよ」
友人に、これほど詳らかに自らの内心を吐露する事もそうはない。面映い気持ちを押し殺し語ったシルヴィアに。
けれど、そこからこの『学園』への確かな愛着と愛情を汲み取り。ネーヴェは大きく頷いた。
和を以て尊しとす。それが聞けただけで十分価値は有ったに違いない。
■
「あれ……ジーベック様?
あ、え、何で逃げようとなされるんですか!? え!? ジーベック様ですよね!?」
「良いかゲルダ・クライン! 常々言いたかったが今日こそ言わせて貰う!
僕とお前は他人同士だ。顔を見たら追う様な関係じゃ――――」
「あのっ、図書館ではお静かに……えっと、司書の先生が見てらっしゃいます……」
「~~~~ッッッ!!!」
『豆ゴリラ』ゲルダ・クラインの隣で古く分厚い本を開きつつ『夜鷹の雛』ジーベック・ファルゲンは遠い目をした。
概ね、腐れ縁。と言う評が最も合致するだろうが。彼の認識では変に距離感の近い"天敵"である。
「学園は、どうですか?」「……どう見える」
片頬を膨ましたジーベックは、小人であるゲルダに比べ遥かに『学園』に馴染む条件は整っている。
けれどであれば何故。こんな図書館で1人読書に耽っているのだろう。新入生であれば尚更……友達、とか。
「勉学、作法、武術、馬術辺りは楽勝だよ。"貴族の"『学園』なんて言っても大した事無いね」
それにしては覇気の無い表情に、彼も何かしら抱えている事が見て取れて。
「なにかあれば、……きっと、力になります。わたしは、ジーベック様のお力になれたらとっても嬉しいです」
「僕は良い加減、お前が僕の話を聞いていないんじゃないか……って疑問が確信になりつあるよ」
ゲルダは彼に感謝と恩義を感じている様だが。ジーベックは当然そんな心情、微塵も気取る気はない。
一片たりと双方向に向いていない関係を、果たして人間関係と呼んで良い物なのだろうか……?
――――そんな、図書館の更に奥。
『誓約の剣』Alexandra・Hexe・Claudiaは書の貢を読むでも無く虚空に視線を向けていた。
(……貴血連盟内での一件は、私の内面を改めて照らしてくれた)
深く、深く、自らの内に没入する。冷徹な目で組織を見る"私"と、私情で以て人を見る"わたし"
自分の内で、必然的に分たれた自分自身の二面性。それらが対面するには、静寂が最も望ましかった。
(幼いなあ、"わたし")
組織の歯車であることに慣れ切っているAlexandraは、利害に注視しさえすれば自分の行動を制御出来る。
けれど、其処に感情が混ざると途端に論理が破綻する事に、彼女は漸く最近気付いて来ていた。
(……暫くは"私"に任せて貰おうことにしよう)
利害に優先する程に強く何かを想うと言う経験に乏しい"わたし"の情緒は、客観的に子供のそれで。
「ああ、此処に居たかクラウディア」
思索に沈んでいた意識が急激に浮上し、眼前に見知った――――『学園』でも特別良く知った青年が。
近付いて来る事に気付く。果たして、此度は顔を合わせる心算も無かった訳だが逃げる訳にも行かず。
「事前に聞いておこうと思ったんだが、俺は今年卒業だ。お前、伯爵家に来る気はあるか?」
――――ああ全く。心身の成長と言うのは、本当に難しい。
●白銀逃走中
学園最上階空き教室。最初に見つけたのは、『ブレイブファング傭兵団団長』ハヤト=ガラン=ヴォルファング。
「ハヤト」
振り返ったその瞬間。ハヤトは手にした手土産を落としそうになった。
それは彼の知っている快活な少女では無く。冷えた冬空の様な空気を纏い其処に居た。
「……まさか、王党派で立候補するとはな。生き方に、腹ぁ括ったてわけか?」
「どうかな。分からない」
瞳を伏せる様には隔絶の感すらある。が、無理矢理振り切って彼は告げた。
「今、うちの傭兵団でお前の義兄貴の身柄を預かってる」「……え?」
沈黙があった。数度瞳を瞬かせ、言われている事が分からないと首を振る。仕草はまるで物語の姫君だ。
「何で、お兄様がそんな……」
「それは言えない事になってる。けどな、あいつがオーロラの幸せを願っている事は本当だ」
「でもだって! 傭兵なんてそんな、危ないこと……! 止めさせなきゃ」
「後悔の無ぇ生き方が出来る奴なんざこの世にはいねぇ」
「!」
だから、後悔しない様に。そう告げようとしたハヤトが、大粒の涙を溜めた眼差しに気付き声を止める。
いや、違う。誤解だ。責めようとした訳じゃないと遮る暇もあればこそ。
「そんなこと、分かってる! だから! 私は、私にしか出来ないことを、するの……!」
血を吐く様に――――話はおしまいとばかりにハヤトの隣をすり抜けようとした彼女の肩を掴もうとして。
余りの細さに。脆さに。貴族特有の真っ白な肌に。一瞬より短く過ぎった逡巡。結局それが、正否を分ける。
■
「あれは……」
階段を駆け下りる様を見て『銀涙の縁』ヴィルヘルミナは声を掛けようか迷い、止めた。
彼女は総選挙の立候補者だ。"貴族"であるオルファレナに過度に肩入れする訳にもいかない。
それもまた、ヴィルヘルミナならではの結論だったのだろう。代わりに、その爪先を当初の予定通り向ける。
「学友の、此度の一件についてお聞きしたい事が有ります」
「さて……私から、お嬢様についてお話出来る事は多く有りませんが――――」
他方階段を駆け下りたオルファレナはと言えば。その先であっさりと捕捉されていた。
まあ、盗賊の技巧全開で迫る相手に土台隠れ切れる筈も無く。
「つ――――かまえたっ!」
『1221年度パンクリアース学園生徒会 生徒会長』エフィルミアに見られた時点で。限界だったと言える。
それでも、普段であれば抱き返すだろう彼女の手は上がる事無く。視線もまた俯いたまま。
けれどエフィルミアはそれを許す心算は無かった。無理矢理にでも目線を上げさせようと両手で頬を支えると。
涙に煙った青い瞳に、桜色の妖精が確かに映っていた。
「私は嬉しいんだよ。去年は諦めてた王党派からこんなに立候補が出てくれて」
何時もなら騒がし過ぎる程騒がしい白銀の姫君が、声も無く傷付いた様な眼差しを向ける。
そんな自分に気付いているだろうか。そんな姿が――――彼女が望んだ彼女だろうか。
「今の王党派は去年と全然違う。オーロラさんが生徒会長になったら、学園派+王党派って感じで最強だよ!」
「でも、エフィ。私は、エフィに相談もせずに、勝手に決めて……勝手に出て行って」
「良いんだよそんなの。だからオーロラさんも今出来る事を、選んだ道を胸を張って進んでみせてよ」
――――首を振るオルファレナを。子供を宥める様に背を撫でた。酷い運命だと、そう思った。
けれど、今のエフィルミアに出来る事は無い。だからせめて――――
「前を向いて、強く生きてやろう」
精一杯の発破は、何処まで届いたろう。
■
結局のところ何と言っても『学園』は広い。
「オルファレナさん……いいえ、オーロラさん」
『青燕兵曹』トーラもまた、独自にその所在を探していたが。教室にその姿を見つけたのは完全に偶然の産物だった。
「トーラ。……トーラも来て、くれたのね」
普段が破天荒なので気付き難いが、彼女は確かに貴族のお姫様なのだ。けれど、トーラは強いてそれを一端忘れる。
「勿論です。オーロラさん、立候補されたんですよね」
「うん……酷いよね。皆で頑張って学園を変えて行こうって、そう約束したのに」
「事情は分かって貰えますよ。その上で、正々堂々戦ってはっきりさせれば良いんです!」
それでも駄目ならわたしが相手しますよ、と拳を振るトーラを見て。漸く、オルファレナの瞳に僅か笑みが滲む。
「駄目よ甘やかしたら。私、弱いから。助けて欲しくなっちゃう」
「わたしに出来ることなら、お手伝いしますよ」
「……なんで」
瞳の奥に溶け込むのは、怯え、怖れ、ほんの少しの期待。こわいのだ、突き放されるのが。
そうと分かって、トーラは自然と一歩踏み込み震える手を握った。いつもなら、きっと真逆だったろうに。
「お友達を助けるのに、理由が必要ですか?
どうせ立候補するなら、誰にも口を出せないくらい偉くなっちゃいましょう」
たった一歩。されど一歩。目線を合わせ笑い合えば――――震えは、止まってくれた様だった。
「見つけた」
「……エルゼリオ様?」
『春燈の朋』エルゼリオ・レイノーラとオルファレナの縁は其処まで深くない。
何故探されていたのか分からず不思議そうに首を傾げたものの。けれど、彼の側には理由が有った。
それは彼の友人のこと。そしてその友人から聞いた家族構成。今の、貴族然と振る舞う時の。
陰の射した瞳の色――――黒にこそ近い青紺。様々な破片が噛み合って。
彼に、決定的な問いを投げさせる。
「"ガレス・コーニッシュ"って名前に聞き覚えは無い?」
「……ガレス……"ガレシウス・アルヴァ・クラティアス"……そう、そういうこと」
「……え?」
「エルゼリオ様。例え王党派とて私は『白銀』。
他家の方にはお話出来ない事情もございます。レイノーラ一党の御方であれば、御理解頂ける物と」
会話の筋が分からないトーラを守る様に、手を翳し首を振る。物事には、知って良い事といけない事が有る。
そして彼女に対し、貴族が、彼女の護るべき者の素性を問うとは。正にその一線そのものだと言えた。
「どうしてもそれ以上をお知りになりたいのであれば。祖母を通し正式にお尋ね下さい」
まるで透明な壁に拒絶されるように、両者の対話は其処で止まざるを、得ない。
■
特別教室棟の一角。ある教師の研究室。
「一年お疲れ様でした、『学園派』はうまく踊ってくれたようで」
「あまりそう露悪的に言う物ではない。……良くやってくれた。それで良いと思うがね」
望む望まざると、幾度か顔を合わせ言葉を交わせば人となりも分かって来る。
『暗者』キーゼの言に、老教師シメオン・ロッドウェルは手づから淹れた茶杯を置く。
「『新学園長』と言う立場を考えれば、貴族派、王党派、いずれが勝利してもやり難くなる。
それでも、当初は貴族派教師を抑える為に生徒会は"貴族派に渡す"つもりだったのでしょうが……」
「辣腕、と言うのだろうね。恐ろしい話だ」
『学園派』の台頭は想定外だったが、その影響を学園長は――或いは竜の仔も――正確に読んでいた。
其処に来て、『白銀の薔薇』が動いた場合に備えて置いておいた布石を動かし盤面を整えた。
それでいて当人は一切矢面に上がらない。策士としてまさに手本の様な動きは"見事"と言う他無いだろう。
「良い性格をしておられる」
「君の人の評価の仕方も大概だと思うがね。まあ、"上"に報告だけはしておこう。これも自ら買った立場だ」
老教師の嘆息がそっと落ち、窓の外は夕暮れ。『学園』は斜陽の時を迎えつつあるも――――
――――同時刻。学園長室前
『白銀の薔薇』を探す面々の一人。『夜に咲く白月』レティシア・レインフィールには元々一つの推理があった。
確かめる為に第一学年の教室へ向かった結果、其処でエルゼリオとオルファレナのやり取りを聞いてしまった事。
果たしてそれが幸か不幸かはともかくとして、推測は確信となり。彼女は混乱の只中に在った。
("ガレシウス・アルヴァ・クラティアス"……"ガレス・コーニッシュ"……つまり)
白薔薇直系第一家『白銀』には嫡男が居ない。それは確か『白薔薇』にも。
であれば何か歯車が狂えば、"彼"は白の公爵に最も近い立場に居た筈で――――
「―――――っ」
口元を抑え、ふらふらとした足取りで。けれど先に『白銀』家令長エドワーズに渡した手紙を回収しないと。
そこへ先客……家令長当人と対するヴィルヘルミナの声が届く。
「どういう事ですか。だとすると、それはオルファ当人の戦いじゃ――――」
「お嬢様は、坊ちゃまを守る為に"『白銀』の義務"に殉ずる事を決められました」
「詭弁です。家族を盾に取って犠牲を強いるなんて、それが家族のする事ですか」
「失礼ながらヴィルヘルミナ様。国によって、立場によって、物の道理は異なります。
この『王国』では、青き血の義務は"自らを殺す覚悟"無しには務まらないのです」
――――そうして遂に。レティシアは膝から崩れてへたり込んだ。彼の妹はもう、自らを賭して戦っていた。
だとすれば。掬い上げ切れなくなった罪は。一体どうしたら、償えるのだろう。
●My Dear.
「――――! 居ました、ロゼットさん!」
「……オーロラ、やっと会えた」
『学園』裏門。こっそり帰る筈だったそんな場所で2人に囲まれたのは。果たして罰でも当たったか。
そんな事を思いながら、オルファレナは振り返った。あの日は、この3倍は人が居たけれど。
「見つかっちゃった。ご機嫌よう。リサ、ロゼット」
『学園派』は彼女達から始まったのだから――――きっと。こうして巡り合わせたのは運命だった。
沢山の人に、声を掛けて貰った。応援された。頑張ってと背を押された。だから、もう逃げない。
「探しまわって時間も無いし、伝えたいことだけ言うわ。
――――貴方の背負うものがどんなに重くても、夢や憧れは捨てないで欲しい」
「駄目よロゼット。そんなの、我儘にしかならない。きっと誰も幸せになれないよ」
「我儘じゃない。貴方の未来のために、それは必要なものだと思う」
それを無責任とは思わなかった。彼女が畏れに足を取られているなら、導くのが神官の。
――――いや。今すべき事だと信じ、自負した。彼女に名を贈ったのは、自分なのだから。
「わたしが去年立候補したのは……立ち竦む貴女を、護りたかったから」
「うん、ごめんねリサ。私も、皆を。私の代わりになってくれた貴女を護りたかった」
「でも――――今は、曲がりなりにも覚悟を決めたのでしょ?
なら、胸を張りなさい。負けたって死ぬわけじゃない。ハッタリ上等です!」
その問に。確かに一呼吸間を空けて。『白銀の薔薇』は目を逸らさず頷いた。
「眺めるだけの世界に歩み出すことは、きっと貴女と言う人間を豊かに、強くしてくれる。
初めて渾名で呼ばれた、あの時の気持ちを大事にして欲しいの」
――――夢見る事を愛し、冒険を愛し、外の世界に憧れた少女が居た。
けれど、彼女の世界でそれは赦されないのだとして。
そんな少女が紡いだ絆は、彼女がそれらを捨て去ろうとした時大勢で以て背を押した。
まるで冒険譚の一節の様に。優しく、厳しく、力強く。憧れた時は、無駄じゃなかった。
「うん。私頑張る。2人共、一緒に居られなくてごめんなさい……大好きよ」
泣き笑いにくしゃくしゃになった白い薔薇の姫は強く、鮮やかに咲く。
それは――――きっと。友情の否定にはならないと信じられたから。
マスターコメント
皆様お疲れさまでした。弓月 蒼と申します。
この度はご参加ありがとうございました。この様な結末に至りましたが如何でしたでしょうか。
判定は『大成功』。これと言った問題も無く恙無く選挙活動はひと段落を迎えました。
また、それぞれのNPC周りでも様々な状況変化が生じていますが、それはそれとして。
此処までの結実として、『白銀の薔薇』に関しては幾つか称号を発行してあります。
学園の生徒会選挙はいよいよ以て後半戦へ突入!
ということで、ご縁がありましたらまた次の機会にお会いしましょう。
イベントシナリオ易しい 報酬:無し25 / 15〜25人
2022年09月29日 22時43分14秒 公開
大成功
参加者
相談掲示板
ナキルだ、よろしくなっ っと、普段通りに言いつつ。 一応、ジュスト先輩と「投票拒否」しそうな学生達に 選挙に参加して貰えるように説得……いや、お願いでもしようと思ってるぜ。 せっかくの投票権を「使わない」のは勿体無いだろ? って、具体的な動きはこれから考えるけど。 とりあえず、挨拶ついでに。
ロゼットよ。よろしくね。 選挙絡みでなくて申し訳ないけど、オルファレナを探してみるわ。 見つからなかったら、まあその時は仕方ないけど。 立候補した人もいるみたいだし、選挙活動、頑張ってね。
ヴィルヘルミナです。宜しく。 いつもでしたらオルファと話でもという感じなのですが、今回は別の行動になりますね。 様子を見るくらいはするかもしれませんが。本格的な接触はロゼットさん他、関わられる方にお任せしようかと。
とりあえず、わたしも、オルファさんとお話かな。
エフィルミアです!よろしくお願いしますっ。 私もオーロラ(オルファレナ)さんを探してお話したいなって思ってます! 皆の言葉で少しでもオーロラさんの心が軽くなるといいなっ。