【竜盤】ドワーフの誇りにかけて
紀藤トキ
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シナリオID:1343
オープニング
帝国、また辺境都市群へとつながる交易地でもあり、ドワーフ愛飲の火酒の醸造地としても知られる都市マミダを中心としたこの地域は、ドワーフ王国の玄関口として知られていた。
しかし、そこにドワーフ王国の宿敵たる邪竜が襲撃を行った。普段ならある程度奪いつくせば消えていく邪竜だが、邪竜バイアーディスとアイオーンの二体は、彼らを頭とする種族混成軍メルトウォールと共に包囲網を敷き、陥落させた都市を支配下に置くといった行動に出たのだ。
今までにない攻勢に対して大きな対抗策を持ち合わせていないマミダ各地域の都市群は、それでも命の為に、仲間の為に、家族の為に、明日の為に。
絶望の中にあっても防衛と抵抗を試みるのであった。
そんな戦塵立ち込める一角にて、ドワーフらしい頑固さを発揮した男がいる。
「おい、街の守りも長くは持たんぞ。早く逃げるんだ」
「うるせぇ! 俺はこの酒蔵を守って死ぬ! お前らにドワーフの誇りはないのか!」
ドワーフの誇りとは一体。ともあれ、一軒の酒屋の前で大の字になって駄々をこねているドワーフが居た。度数が高く無きゃ酒じゃないとか言うドワーフにも、味にとことん煩いドワーフにも、ひたすら量さえあれば満足なドワーフにも、とにかくドワーフにとって最高の店だと、男は自負していた。もちろん他の種族が来ても大丈夫。ドワーフの店に来て飲めない酒があったから帰りましたなどとエルフに馬鹿にされる事は誇りにかけても許されない。
「くそっ、てめぇ。お前だけに良い格好させるものかよ」
「ええ。この酒蔵を無駄にはできないわね。ドワーフの誇りにかけて、絶対に!」
「お前達……っ」
ドワーフの誇りとは一体。遠くで戦の喚声が聞こえる気がしたが、しかし戦闘員でもない彼らにはどうしようもない。戦いの場に駆けつけても足を引っ張るだけだ。だからここで死ぬしかないのだ。しかし、そう覚悟を決めたドワーフたちの前に、歴戦の勇者っぽいドワーフが現れた。
「待てよ。俺達ドワーフが誇りにかけて守るべきなのはこんな酒蔵か? 違うだろう? 死に時を間違えるな」
「なん……だと……」
「あなたに何がわかるというの! 一体何が!」
「俺達が守るべきは。命を懸けて救わねばならんのは建物なんかじゃねぇ! 酒だ! 酒なら飲み干せばいい!」
ドワーフの誇りとは一体。だが、老ドワーフの声は彼らの魂を揺さぶった。そうだ、飲めばいいんだ。飲んでいいんだ。
「よっしゃ、蔵を開けろ! つまみを作れ! 時間との勝負だ、遅れるな!」
「あいよ。あんたこそドジ踏むんじゃないわよ! 店長、あんたも!」
「ふっ……お前ら。なんて顔しやがるんだ。そんな顔されたらよお。ここで大の字になって駄々こねてたのが馬鹿みてぇだぜ」
馬鹿みたいなのではなく馬鹿まるだしだった。しかし、彼らドワーフたちはスイッチが入ってしまったらしい。戦火迫る街の一角で、命と誇りをかけたドワーフたちの戦いが今始まった。
「おう、そこのあんた。町の外から撤退してきただと? よっしゃ、気に入った! 一杯やってきな!」
疲労の色濃い兵がそのまま宴に加わる。
「つまみの持ち込みだって? 大歓迎だ!」
逃げ出しかけていたドワーフの料理人が、どうせ持ち出せないならと食材と己の腕を供出した。
「ハハハハハ! 飲み切れねぇほど、あるぞぉ! ドワーフ王国万歳ー!」
「ばんじゃーい!」
そんな混沌に満ちた一角の人々を避難させてほしいという依頼が、撤退支援にてんてこ舞いの冒険者ギルドに並ぶ。
「これは、我が支部の扱う最後の依頼だ……。皆、今までよくついて来てくれた」
支部長の言葉に、男泣きする職員達。彼らを脱出させるためなら手段は選ばない。そう、一緒になって酒蔵を空にしても良い。そう言い放ったギルドの支部長と配下たちはそのまま酒蔵のある一角へと走り出した。職員も冒険者も分け隔てなく、ドワーフたちを全員救い出すために全力を尽くす覚悟だ。
「いいか、タダ酒残したとありゃあドワーフの誇りが泣くぞ。一滴たりとも無駄にするんじゃねぇぞ!」
「おぉー!!」
ドワーフの誇りをかけた戦いが、今始まる!
解説
マスターより
リプレイ
ドワーフの誇りに真っ先に理解を示したのは、ドワーフよりもむしろ異種族であった。
「これが彼らの誇りであり信念ならば、ここは紛れもなく戦場だ! 全て飲み干してこそ真の勝利であると言えるだろう。かんぱーい!」
「ドワーフの誇りに敬意を表して、乾杯!」
ヒューマンであるヨル・スレイマンが勇ましく音頭を取ると、同じくヒューマンのヴァンゲルス・ロッドが杯を掲げて応じる。周囲のドワーフたちも話が分かるじゃねぇか! などとご機嫌だ。
「かんぱーい! あ、ナキル君はジュースですよ?」
「う……。ま、まあいい……」
なぜ自分は未成年なのか。悲しみつつもナキルはエフィルミアが目の前にいる事に安堵していた。彼女が手作り料理など振る舞い始めていたら大変だ。でもお酒をグイグイ飲んでいるエフィルミアは羨ましい。ちなみに、飲んでるエフィルミアはエルフである。ドワーフの誇りを守るドワーフは何処にいるのか。
「こ。この酒蔵は……。ロイ、今こそ森人の誇りを示す時だよっ!」
同じくエルフであるテス・クラルスも、ドワーフの覚悟を目の当たりにしてごくりと唾を呑んだ。これだけの逸品を並べられては、種族の差など如何ほどの物か。
「酒は、薄めず、豪快に、されど一滴も無駄にせず! ……が礼儀だよロイ! 分かったぁ?」
酒まっしぐらになりつつある恋人の教導を、ロイ・アウレアは若干の悪い予感と共に聞いていた。しかし、ロイは如何なる時もテスと共にあると決めている。覚悟は一瞬で決まった。
「大将! オレが運ぶんで、その樽貰っていいか?」
「あ? いや、飲めるんならいいが」
「了解、任せろ!」
蔵のドワーフから了解を得て、ゴロゴロ樽を転がして持ってくる。蓋を割って沈めたジョッキを一息に煽り、馥郁たる香りと喉を焼く熱さを味わった。負けじとテスも飲みに入る。まさかの樽から直飲みスタートを、エヴァン・ピオネロはぽかんと口を開けて眺めていた。
(お酒ってあんなに飲んで大丈夫なものなのですね?)
未成年の彼は飲酒の経験はない。が、父親が少し飲んだだけで酔っ払う様を見て来たので、ロイとテスが杯を干す速度に目を丸くする。
「おつまみを沢山、用意しないと間に合わないね?」
「あ。うん。そうですね」
見上げてくるアルマ・ヴァレンタインから、我に返って皿を受け取った。焙った干物を持って行けば、酔っ払いたちが待ってましたと奪っていく。顔を見合わせ、「急ごう!」と声を掛け合って、共同作業に取り掛かった。
「タダ酒を残しちゃいけないのがドワーフの誇りなのかぁ。不思議な種族だね!
と、首を傾げるライオネル・ギシュムはまだ酒の味も知らないハーフビーストの少年だ。しかし、リザードマンに育てられた彼は、一族の戦いにかける誇りを受け継いでいる。顔見知りのロイやテスが楽しそうな飲みっぷりなのも羨ましい。
「それが誇りを守る戦いであるなら、戦士としてやらないわけにいかない! 俺も……」
「あ、ライオネル。こちらで楽しんでいるんだが、君も一緒にどうだい?」
お酒飲みたい! と思ったところで、シルヴィア・A・カペルがジュースを注いできた。隠れてこっそり飲むのと、知人と楽しく過ごすのとだと、後者を選ぶ良い子のライオネルである。ロイ達へ手を振ってシルヴィアについていくと。
「……先日、晴れて、お酒が外でも飲める年齢となりこの依頼ではお酒の飲み放題……」
何だか羨まし気な事をいっているガルシアがいた。その向こうでは、「ドワーフの酒を……飲み干す……?」と、状況の困難さにまだ困惑しているエル=バ=ノイアンがいる。それでも、シルヴィアが楽しそうなのでそれはそれで良いと思った。
「テーブルが埋まったね。それじゃあ、乾杯といこうか」
「ああ、乾杯……って、ガルシアは初めてなのだろう? まずはお腹に乳製品を入れるんだ」
下戸故の配慮を見せたノイアンは、簡単に作れるつまみの用意を始める。乾杯寸止めを受けたガルシアは、「お肉食べよう、お肉!」と山盛り焼き肉を持ってきたライオネルに触発されてフォークを手に取った。
「お肉を食べ、お酒を飲み、そしてお肉を食べるのです。大人っぽい……」
「酒だけではなくジュースも飲むと良い」
「む、そうですか? では、ジュースも頂きますね……?」
成人した筈なのにまだジュースを勧められることに首を傾げつつも、素直に注がれるガルシア。初の酒席に舞い上がった様子の彼女を、周囲は少し心配げに見ているようだ。
「戦場から帰ってみれば、なんだこの浮かれポンチは! 最高だねえ、ご相伴に一杯あずかろう」
「は? 酒飲み干すまで撤退しない? バカじゃねーーーの!」
今しも戦場から駆け付けたモネタ・シャローニャにペコラが混沌の渦を前にして目を輝かせる。
「これも、……おしごと……?」
首を傾げたアリア・ティーダへ、まあまあ駆けつけ一杯とばかりにジョッキを手渡し。
「美味い酒は何処でどんな状況でも美味しいモンだよ、レディ! これは真理さ!」
嫌味のない気障っぽさでキオルティスが片目をつぶって、もう幾度目かになる乾杯を告げた。
「ひゅーーー最高じゃねえか!!! 最後まで飲み散らかすじゃなかった倒しまくってやるよ」
「確かに最高だね」
酒とつまみを強敵に見立てた冗談が随分ツボに刺さったらしい。テンション高くぐいぐい飲み始めたナハシュに、音頭を取ってから静かに着実に飲み始めたヨルが頷く。仕事中に飲酒は避けようと思っていたヨルだが、しかし今は飲酒こそが仕事な訳で。先におっぱじめたドワーフの輪に2人で混ざって彼らと十年来の友のように飲みまくるのも悪くない。そんな飲んだくれがいるかと思えば、しっとり飲み始める顔触れもあった。
「ね、キーゼさん、演奏して下さいませんか? 折角ですもの、あなたの奏でる音で踊りたいんです」
酒の余興にと九日してから、ネーヴェ・グラヌローザは座したキーゼへと声を落とす。表情はいつもながら愛想が無いが、キーゼの口調はやや前向きだった。
「確かに、こうして合わせる機会もありませんからね……」
でしょう? と嬉し気に言われれば、特に否やはないのか楽器へ手を伸ばしつつ頷き返す。
「亡国の舞、ではありませんが、一曲合わせましょうか」
「ふふ、ありがとうございます」
皮肉気な言葉もふんわり微笑が受け止めて、キーゼが古ぼけたハモニカを口に当てるや、テンポの速い曲を奏でだした。もとより座の盛り上げを意図しただけの選曲だったが、陽気な曲を吹き出してみればキーゼ自身も悪くない気分を自覚する。
(美女の踊りを特等席で見ているのですから、当然ではありますか)
そう理由が思いつけば、納得もいった。向こうでは、ふわり舞い始めるネーヴェを肴に、ロイがそっと杯を傾けている。
●
士気は未だ旺盛。なれど敵の尽きる様子は未だに無い。
「まさか、もう飲めないと言う訳ではあるまいね? 諸君」
ルチル・プルメリア・グレイハーツはともすれば長期戦の構えになりそうな宴会に喝を入れるべく、周囲を煽る。ドワーフの誇りが、もうこれで死んでも良いなどという後ろ向きな理由に使われてはならない。その為に用意したイベントとは。
「さかもりといえば……のみくらべ、ですわ」
マレーネ・シェーンベルグがふわふわとその単語を口にすると、酒飲み共の間にピリリとした緊張感が走った。腕を振り上げたルチルの声が静かに響く。
「誰が一番の酒豪か、決定戦だ。酒飲み大会の開催をここに宣言する」
「うおおおおお!」
「受けて立つぜ! 俺はペコラ、乳の代わりに酒で育ったひつぢ……!」
乗りの良いドワーフが空樽をガンガン叩き、先陣を切ったペコラに、我も我もと酔っ払いどもが続いた。
「あら、お姉さん飲む事には少し自信があるわよ?」
エミリア・シバがゆらりと立ち上がれば、ヒューマンが儂らにかなうとでも? とドワーフが首を傾げる。しかし、エミリアは鉄の肝臓を持っていた。
「もしお姉さんが負けたらいつか別の機会に一さし舞ってあげるわ」
「ぐはは! そりゃあええ! 酒のつまみにさせてもらおうか!」
ドワーフどもは勝つ気満々。豪快に並べられたジョッキをぶつけて乾杯し、一息で飲み干しては笑い合う。そこまでいかずとも、目と目が合った相手で勝負を始めている者もいた。
「うふふ、まけませんわよ」
「つ、つぇぇ……」
マレーネが傾けているのは甘さの割に酒精のきつい果実酒の類で、それなら勝てると勘違いした若造が沈んでいく。そんな勝負の気配にまた一人、挑戦者が立ち上がった。その視線が指すのは暫定チャンピオン(多分)のエミリアだ。
「……シバ氏は強敵だよ。しかし! 今日のボクは一味違う……」
しかし、とろんとした目のアリアはまだ一杯も飲み干せていない。では何を持って勝負するつもりなのか。
「どうした姉ちゃん! ぐいっといかんかー!」
(どうしよう。勢いで立ち上がったけど何も考えてない!)
勢い任せのただの酔っぱらいであった。あわあわしている様子に、エミリアがあらあらと笑い。
「別の日って言ったけど、せっかくだから一緒に飲んで踊りましょうか。アリアちゃん?」
手を取り引っ張ると、ふらふらついてくる。足取り怪しいアリアの怪しい魅力へ目が向くものもいた。色っぽいおねーちゃんでお酒が上手い。
「よっ! いいぞいいぞー!」
などとはやしているヴァンゲルスは盛り上げ役の務めを果たしているだけで、目は酔っていなかった。酒に弱い訳ではないが、自ら騒ぎの中心へ躍り込むのはスタンスに反する。適当に煽った後のルチルも、胴元っぽい仕事をほどほどにちびりちびりと飲みだしていた。マレーネが労うように目礼する。
「おつかれさまですわ」
「やれやれ、多少の余禄もなければ、こんな事やっていられないよ」
と、掲げたグラスが余禄と言うなら控えめなものだ。
「本当にお疲れ様だな。少し手伝うか?」
「本気で儲けるつもりでもないし。場が動けばそれで充分さね」
賭けの帳票に気づいたヴァンゲルスが小声で問えば、肩をすくめてからルチルは彼と目を合わせる。どこか似たような立ち位置で喧騒を見るのは、同業者の匂い。お互いその場では何も言わずとも、顔は覚えた。
「さ、もう一杯行くぞー!」
「うふふ、まけませんわよ」
頭の中は別の桃源郷でいっぱいのペコラとのんびりマレーネがそれぞれのペースで酒を楽しんでいる。最初からペースが速かったヨルは酒瓶を抱えてへたり込んでいた。いつもの事と相棒のナハシュが笑い飛ばす。
「もう酔ってんのかよ。はえーなー!!」
「まだ酔ってないから。ナハシュは飲んでる? 注ぐ?」
おう、と突き出された杯へ注ぐ手は案外しっかり……、しているかと思えばそうでもない。こぼれそうな滴に慌てて口を寄せ。
「酔っぱらってるじゃねーか!」
「まだへーき」
ふらふらと揺れる視線は、本格的に酔いだしている様子。周りに人が居て、それでも酔えるくらいには安心で。
「ねえナハシュ」
「聞いてる聞いてる。……じゃあ次コッチの火酒飲もうぜ」
「君と一緒に飲む酒が美味くて俺は」
かくん、と言葉の途中で首が落ちたのを見て、ナハシュは手にしたきつい酒を懐へちょろまかし、マイルドなものを手に取りなおした。
「兄ちゃん、まだいけそうじゃねぇの?」
「まあな」
と返すも、2人揃って酔い潰れては不味かろうと思う。2人1組で考えるのも何だか当たり前になったなあ、と感慨深く酒を煽った。
●
「はい、おつまみです。お酒はこちらに置きますよ」
「ありがとう! 何だか普段と逆で何か不思議だね」
ジャガイモとチーズのカリカリ焼き、ベーコンチーズのカリカリ焼き。大正義のおつまみ皿を運んできた楓月・千弦へ、ララベル・サン・ディーベルが笑顔を向ける。いつもならば千弦は宿泊客でララベルは宿の主の関係性ゆえ、確かに不思議と言えば不思議な状況だ。
「少し休憩すれば? ずっと働いてばかりだけど、飲んで食べるのもお仕事よ~?」
「こんなことしている場合ではないのですけど」
一息つきがてら千弦が周りを見ると、だいぶつまみも行きわたったようではある。アルラ・ニグラスにそう言われると、少しくらいなら、と席へ着いた。テュリン・ヴィングも含めた4人は【ふしぎ亭】のいつもの馴染なだけに、会話も気やすい。飲み食いするだけの依頼というのも変な感じだが、たくましい女性陣はすっかり順応している。
「ちょっとベル、そこの瓶取ってくれる?」
「テュリン姉。わかった。……と」
「ゃん」
と、手を伸ばした時に肘がアルラの胸に触った。偶然なのか、当ててるのか。触られたアルラよりもララベルの方がどぎまぎ赤面するのもいつもの事だ。が、普段ならもっとオーバーリアクションを取るララベルが小さくなっているのでは、とテュリンは思った。他の席との距離が近いせいで周りの目が気になるとでもいうのだろうか。いや、最近ララベルの元気がない事が多いような気もした。
「ん~、ちょっと体が火照ってきたし、酔い覚ましに踊ってこようかしら~」
「ぁ。ぁぅぁぅ……」
アルラがちらりと視線を向け、ちらりと裾を揺らして見せるとララベルの頭が軽く沸騰しかかっている。
(あらあら。そんな事じゃあせっかくの席が余り楽しめないわよ。よろしい、ここは姉として一肌脱ぐしかないわね)
そんな判断に至るあたり、テュリンもほどほど酔っぱらっていた。事実はもう少し単純で、未成年故に飲めないララベルが、依頼で普段以上に酒量を増した色っぽいおねーさん達にあてられているだけである。つまりだいたいいつも通りだった。
「ほらベル、こういう時こそ何時もみたいにガバッとやっちゃいなさい。ベルの十八番でしょ?」
「はわわわ、いつもより絡み酒きつい、きついよ、そんなに近づいたら」
ご機嫌のテュリンが腕を回すと頭を包んだ温かい感触がララベルを夢の世界へといざなう。あわあわと首を振って逃れようとすれば柔らかさがより強調されて体温が2度くらい上昇した。
「テュリンさん、ちょっと酔いすぎでは……」
「……千弦、一緒に、一緒に巻き込まれて!」
水でもどうぞ、と伸べた手をララベルががしっと掴んで引っ張る。水がこぼれる。顔に張り付いてるあたりが透ける。予期せぬ濡れ透けに手を振り回すと、それがまた別の柔らかい何かに当たった。
「んー? 楽しそうなことになってるけど、どうせならしっかり見てから触って貰った方がいいかな?」
「あ、ごめん! アルラ」
ララベルも男の子なのでテュリンとアルラの感触の違いを脳内に反芻せずにはいられないがそれはそれ。反射的に謝罪したところでアルラにじっとり見つめられる。そういう趣味があれば最高の視線だったが、ララベルは健全な青少年なので当惑してしまった。
「謝る位なら、責任とってもらいたいんだけど?」
「せ。せきにんっ」
真面目なおつきあいをしていれば避けて通れぬ単語に、ララベルの背筋もちょっと伸びる。責任と言えば結婚、子供もできて、生活の事もあって、息子ができたら一緒に冒険したいし、娘ができたらお前にはやらん! と、思考が未来を目指して羽ばたきすぎていたのだが、アルラが言っているのはそういう事ではない。
「そういう気分にさせられてお預けなの、ちょっと……ねぇ?」
胸に当たったララベルの手をそっと包むように押し当ててしどけなく微笑む、と。
「はぅ……」
限界点を迎えたララベルが沈んだ。ララベルの両手を預かったままのテュリンとアルラが顔を見合わせてあらあらと笑う。
「ここでの経験は、ベルの宿屋でも活かせそうね」
何に活かすつもりなのか、アルラが妖しく笑っていた。
「……お2人とも、お酒が止まってますよ」
「あら? 千弦怒ってたり?」
「怒ってはいませんけど、お酒を片付けるのも早くしないと、依頼ですからね?」
この2人が思ったより質の悪い酔っ払いなのか、ララベル君が大概なのでしょうか、などと内心で考えつつ、千弦はにっこり微笑む。どうやらこの4人、今回は彼女が頑張らないとダメなようだ。
●
そんな会場の様子に、避難補助の依頼と聞いて駆け付けたレティシア・レインフィールは困惑していた。まあ、駆け付けたまじめな冒険者が最初に通る道ではある。
(まさか、この生命の危機に、お酒を?)
周囲を見れば、出来上がった酒飲みがゴロゴロしていた。あまつさえ、ルチルが賭けの胴元を始めるとさすがに一言物申さずにはいられない。
「ルチル様、流石にこの状況で賭け事はあまりよろしくないのでは……?」
「いや、事はドワーフの誇りに関わる緊急事態。一滴も余さず飲み干さねば名工達に申し訳ないだろう。その為に手段は選ぶべきじゃない」
などと言い包められ、収益は酒蔵再建に寄贈するとまで言われると、何だかそれが最善な気がしてきた。お嬢様ちょろい。
「レティシア先輩も、どうぞ」
「いえ、私はお酒は……」
ではジュースなどもありますから、とリサ・ベイカーに言われて我に返りつつ。今自分にできる事はと考えて。貴族令嬢の彼女には、ここで厨房に向かうような女子力はない。依頼の方向性的に、酔っ払いを説き伏せるべきだろうか。
「そ、それでは一献……」
説得に行くにも酒席になじまねばなるまい。まずは飲んでいる顔見知りを見つけてお酌に向かう。
「なるほど、それで私達の席に?」
「ええ、はい……。選り好みは良くないとは思うのですが。皆様も避難の際に支障がございませんよう、お気をつけ下さいませ」
シルヴィアの盃へ酒を注ぎつつ、レティシアは周囲を見回した。冒険者として活動しているのだから別に嫌悪感は無いのだが、ドワーフ連中の飲み方はとにかくうるさい。というか酒量が進むと種族に関わらずうるさい。
「そうか……。大変だったな。む。ガルシア、野菜も食べるといい」
「エル様が作ってくれた御摘みは……、美味しいから。良いのですが……、むう」
「オシャレだし凄いよね! 美味しい!」
ちびちび飲みつつコップ半分で目が泳ぎ出しているガルシアと、まだまだ元気なライオネルの賞賛を耳にして、ノイアンは口をもぞもぞさせている。満更でもない気分なのだが、嬉しくとも表情に出ない難儀な青年だった。
「エールに枝豆はやはり良いね。ああ、どこかで誰かとそんな話もしたような気がするが……」
記憶をたどるように宙を見るシルヴィアはまだまだ酔いの様子はないが、ガルシアの手からコップが滑り落ちた。危うげに見守っていたレティシアがさっと受け止めて卓へ戻す。もたれ掛かってきたガルシアに、ライオネルの尻尾がぴょこりと立った。
「あれ? ガルシア寝ちゃったのか。寝かせてあげないとね!」
「君もお酒に弱いタイプだったか」
シルヴィアがブランケットを掛けるとすうすうと寝息を立て始める。気が付いたライオネルの頭を一撫ですると、スキンシップは嬉しいものの、子ども扱いは嫌な少年心。すぐに大きくなると言ってみれば、それは楽しみと返された。なお、レティシアのように言葉を選んで説得する育ちの良い者ばかりではない。冒険者など、口をつぐまず正論をぶっ放す者の方が多いのだ。
「ドワーフの国が大変だって言うから来てみたんだけど、なんで宴会なんてしてんのよっ!?」
「大変だから飲むんじゃねぇか!」
駆けつけたベアトリーチェ・カロッサもプンスカ怒るも、覚悟の決まったドワーフどもは全く動じない。
「こんな事してる場合じゃないでしょ!さっさと逃げてってば!!」
「ドワーフ全体をどうこう言うつもりはないけどさぁ! 時と場合というものを! もう少し考えてもらえるかなぁ!」
ベアトリーチェに同意しつつ、シェオルも大きな声をかけていくのだが酒樽抱えた連中は立ち上がる様子もない。というか冒険者達も一緒に楽しんでいる。
「逃げなくていいの? もう近くまで敵が来てるよ?」
困惑した様子で肩を叩くトゥーリにも、むにゃむにゃもう一杯、などという睦言が返ってくる始末。困った顔で眉を垂れつつも、話を聞いてくれない分には仕方がない。
「もう。しょうがないなあ。気が済んだら呼んでね」
「酔い覚ましでも作っとくかなあ……」
すぐに動かすのは無理と踏んだトゥーリは、人数を数えたり放り出されている貴重品をまとめたりと理性的な行動を始めた。シェオルはいざ動こうという時に困らぬよう、薬草を手に取る。むむむ、と唸ったベアトリーチェも諦めたように厨房へ向かった。
「アタシはおつまみでも作って来るわ……。さっさとお酒を消費してもらいましょう」
「その通り! 敵にくれてやる酒なんてないですし、捨てるのはもってのほか。とあれば旨い肴で頂くしかないでしょう」
「手早く撤退するには満足させてから説得するのが効率良いのだ。効率重視でつまみを作るのだ」
ベアトリーチェと入れ替わるように厨房から出てきたヴィルヘルミナとストレガ・L・リベルガストラの手には、おつまみ皿が乗っていた。
●
「しょうがない、ボクもおつまみを作りにいくかぁ」
未成年ながらドワーフであるミーミル・ロッポラも、同朋の大人たちにはあきれた様子。とはいえ、美味しそうにぐびぐびやる様子にちょっと興味はないわけではない。どう飲むのが良いか。お腹いっぱいになったらお酒が入らないのではないか。
「うむ。塩気の強い味付けで酒を進ませるのが良いのだ」
「おつまみなんかなくてもお酒が飲めるのが真のドワーフ! って聞いたことがあるけど?」
戻ってきたストレガにそんな話を聞きながら、ミーミルは首を傾げる。ヴィルヘルミナは自分で持って行った料理を並べてそのまま飲む側に加わったようだ。
「いらっしゃいませ。どれくらいおつぎしましょうか?」
「嗜む位です、がぶ飲みする方ではありませんので……」
ゆったり飲んでいたマレーネに果実酒を注がれ、鮮やかな色合いにヴィルヘルミナは目を瞬かせる。こんなきれいなお酒なら、もう少し風情がある酒席で飲めれば良かったかも、と思いつつもコクリと飲めば、やはりドワーフがため込んだ一級品。純粋に美味い。
「まだまだありますので、どうぞ」
杯を干したところでリサが別の果実酒のボトルを置いていく。つまみも酒も、客の趣向を見て回していくあたりは、商売と似た所があった。しかし、結構飲まれたはずなのに、まだ手付かずの樽もごろごろしている。
「酒飲みは死んでも酒を手放さず、死んでも酒を追っかける。経験上はそうだ。というわけで、ここで一番いい酒はどれだい?」
ほどほどに楽しんだモネタは、そろそろお開きの時間にすべきと考えた。ここは戦場、今は大丈夫でも一寸先は闇なのだ。逃すなら機を逸しないよう、早いうちが良い。良い酒を奪って誘導すれば、意地汚い酔っ払いは釣れるのではないか。そう思って蔵までやってきたのだが。
「酒に飢えた酔っ払いを動かす最大の力は……、私も酒しか無いと思います。良いアイデアですね。ただ、まだ少し早いかもしれませんが……」
Alexandra・Hexe・Claudiaが、シャルガネ風暖簾の向こうを透かし見れば宴はまだ大盛り上がりだ。あれでは目の前の酒にしか目が行っていない可能性は高い。ちょっとやそっとの酒を持って走っても、目に入らないだろう。
「じゃあ、機が来るまでもう少し飲んでるかい?」
「いえ、酒の絶対量を減らしていくのは有効な手立てでしょう。協力してください」
困ったように言うモネタに、Alexandraは持ち込んだバックパックを広げて見せた。割れないように毛布でくるんで詰め込み、裏口からこっそり運び出していく。外にいるゴリラとも手分けして、少し遠いが街の外の集合地点までもっていけば安心だ。
「今日は死ぬには善い日だ、って言葉もあるが酒盛りにしても溜め込み過ぎだろうよ……」
酒蔵は、2人が少し運び出してもさほど減った様子も見えない。ナタリア・フィッツジェラルドは呆れたようにそう漏らした。しかし呆れてばかりもいられない。いくらドワーフとはいえ、あれだけの量を飲み干せば内臓に堪えるのではないか。大事なのは水分と栄養。となれば、汁物と豆料理が最適だろう、などと考えながら厨房へ足を踏み入れる。
「というわけで手伝いに来たのだが」
「ちょうど良いのである。枝豆の番を頼んだのだ」
飲む方に回ったドワーフの親方に代わり、ストレガが厨房を仕切っている。蓄えたレシピも磨いた腕も、使うために研鑽したものだ。小柄なゴブリンが右へ左へ、簡単な料理から少し時間を要する煮物、火加減大事な焼き物などを差配していく。料理にも酒を進んで使うように変えてから、つまみの味も上がったし酒の消費もあがる一石二鳥の状態となっていた。
「まさに戦争中と言う感じだが。大した量の枝豆だな、やはり」
ナタリアが枝豆の鍋を前に腕まくりする。大体の酒には合うし、邪魔にならない良いつまみだ。他に酒のつまみの王者と言えば、芋であろうか。むろん、厨房はその点も抜かりはない。
「お芋、揚がったわよ! ちょっと多いから誰か手伝って!」
「はい、配膳入ります! ……そろそろ、逃げないとまずいんじゃないかな?」
ベアトリーチェとポテト系の大皿を手分けしつつ、リサが市外の様子を窺うように遠くを見た。と、それにタイミングを合わせるように新手の冒険者がやってくる。戦場帰りの一団は、この戦況には心強い援軍だ。
「おいおい、こちとら何とか撤退する時間を稼いで来たっつーのに何だよこのドンチャン騒ぎは!?」
「せ、戦場から必死こいて戻ってきたら酒盛りをしているだと、ふざけおってから」
ハヤト=ガラン=ヴォルファングにベルク・オスマットの2人は驚きの声をあげたが、話を聞けばなるほどと膝を叩き。
「そーいうことかよ♪ ドワーフらしいっちゃらしいよな!」
「そんな楽しいこと我抜きで始めるな! 混ぜろ!!」
と車座の中へ駆け込んでいく。良い冒険者とは事態に動じず臨機応変に動ける者なのだ。たぶん。
「ま、張り詰めてばっかりじゃ持たないし息抜きは大事だよな」
とドワーフらしい理解を示したケン・Z・ブラッドリーは、無理せずじっくり楽しむ構えのようだ。防衛に忙しいばかりでは身も持たないし、一休み取るのも悪くはない。むろん、エンジン全開の冒険者ももちろん多かった。
「はははっ、これは俺も頑張らねぇとなぁ!! 付き合うぜ……って言っても俺は飲めねーからな」
「我まで巻き込むな! ガキではない成人だ!」
同じくドワーフとはいえ未成年のカズマ クレセントブラッドはミルクを注文。危うく一緒にされそうだったベルクは憤然と成人済みであることを主張した。
「あ、はい。お酒と。キミは未成年? だったら仕方がないよね。……うん、仕方がない」
配膳しに来たミーミルがカズマにミルクを出してから、成人済みドワーフたちをうらやまし気に見やる。と、目の合ったおっさんがグラス片手に手招きした。なんだなんだと寄っていくと。
「つまみが切れた? もう! おつまみがないとお酒が飲めないの? ドワーフの風上にも置けないね!」
「ハハハハ! 言われちまったな、おっさん!」
ミーミルはおつまみのおかわりを取りに席を立ち、カズマは酔っ払いの肩をバシバシ叩く。酒は飲めずとも、酔っ払いの距離感は知っていた。
「はい、おつまみ。時間無いんだから、お酒もたくさん飲んでよね!」
「嬢ちゃん、さっきの良い啖呵だったじゃねぇか。気にいった!」
「うちの娘も小さいころは可愛くてなあ」
「おいおい、おっさん達。泣き上戸かよ」
ミーミルとおっさんとカズマのドワーフ区画は酒臭さでむせる。疲労困憊するまで戦っていたノックス・マグナはといえば、あまりの様子にじっとりとした目で座り込んだ。
「私は寝ます。酒蔵が空になったら起こして下さい」
後はもう知らぬとばかりに酒を抱え込む。
「疲れた時のお休みは大事。コハクもそう思う」
戦場帰りの皆が皆元気ではない。方々飛び回って疲れたのか、普段は元気なコハクも低速モードのようだ。顔の広い彼女だけに、幾人も知った顔がいるのだけれど、挨拶そこそこにうとうとしていた。もう休め、お前は良く戦った……! と思ったのかどうかはわからないが、2人の前にナタリアが健康によさげなお椀を置いていった。
●
「お疲れ様でした。お陰で楽しく踊れましたわ」
弾んだ息を整えながら、ネーヴェはキーゼの隣へと戻る。後はゆっくり酒を楽しもうと思い、ふと気になった。
「演奏、お上手ですよね。どこかで習っていらっしゃいましたの?」
「嗜み、というほどでもないですが……まあ覚える機会がありましたからね、昔」
このように、なんでも問えば答えるかに見えるキーゼが、自らの過去を語りたいと思う時も来るだろうか。そしてネーヴェはいつか、自分の過去を思う事ができるのだろうか。今は言葉よりも杯が重ねられ。
「酔って頂いても大丈夫ですよ? しっかり朝まで介抱しますから」
「言いましたわね? ……責任、取って下さいね」
酔った風に笑みを向けたキーゼがそう言えば、見慣れぬ悪戯っぽい表情にネーヴェは頬を更に赤らめた。2人に代わってセヴラン・クアルトとアーシェル・G・クラインが宴を彩ろうと立ちあがる。
「どんな曲を演るんだ、セヴラン?」
「そうだねぇ。ソーセージと発泡酒が美味しい街でね、乾杯の歌って言うのがあるんだよ」
いつの思い出か、ふっとほほ笑むセヴランに頷くも、アーシェルは知らない曲だった。リードはセヴランへ任せて伴奏を担当するべく軽く打ち合わせる。
「簡単な曲だから、すぐ一緒に歌えるよ。聴衆の皆さんが知ってるかもしれないしね」
と、セヴランが言った通り、前奏を引き始めればドワーフの中からおう、とかああ、などと声が上がる。
さぁ 杯を交わせ 想いのごとく剣のごとく
笑いあって飲み干せば 湧き出ずる友誼の情よ
エルフの美声が朗々と響き、野太い声のドワーフたちが合間合間に掛け声と共にジョッキを打ち鳴らす。確かに節は短く、覚えやすい。二度、三度と繰り返せば場内の合いの手も盛り上がり、アーシェルも声を合わせて歌い出した。
さぁ 乾杯だ 今日出会っても友のごとく
笑いあって飲み干せよ 憂さは何処希望はそこに
「セヴラン、俺はお前の歌声も好きだ! 最高だったぜ!」
拍手喝さいの中、子供のように抱き着いてくるアーシェルの頭を撫でつつセヴランは一礼してステージを下りる。
「お疲れ様でした。お酒とおつまみ、置いていきますね」
様子を見ていたリサが2人のためにテーブルをセットしていき、次はシルヴィアがリュートを手に歌声を響かせ始めた。
(ノイアンは私の歌を悪くないと思ってくれているようだからね……)
少しくすぐったい思いをしつつ、目で青年を追う。演奏をしているシルヴィアの指先へ向いていた視線が、ふとライオネルの方へ向いた。さっきまで、少年の頭があの指先で撫でられていたと思うともやもやと気分が揺れる。
(相手は子供……。俺も大概大人げない……)
「深酒しすぎてはスマートではありません。節度を保って飲むのは大人の嗜みです」
歌声に交じって、そんな言葉が聞こえた。あっちの席でジョッキを勧めるドワーフ親父どもに対して、毅然と断り自分のペースで飲むヴィルヘルミナは外見以上に大人びて見える。つまりそう、シルヴィアに大人扱いされたいのであれば酒を飲めるようになるべきでは?
「大変! ノイアンさんが倒れちゃった!」
「え、どういうことだい?」
ライオネルの悲鳴に、慌てて手を止めたシルヴィアが駆け付けると、コップを手にしたノイアンが難しい顔のまま撃沈していた。案外落ち着いて飲んでいるはずのテーブルから、まさかの2人目の撃沈である。
(どうして急にお酒を飲もうと思ったんだろう……?)
水をとってくるのをライオネルに任せて、ノイアンの襟元を寛げ手のひらで顔を扇ぐ。ややこしくこんがらがったノイアンの男心はシルヴィアには少々難解なようだ。
「シルヴィさんは手を離せなくなったようだし、このあとは俺にお任せあれ」
キオルティスが弦をつま弾き足の鈴を鳴らせば陽気なリズムが宴を彩る。美女のしっとり歌謡も悪くはないが、おっさんドワーフの酒がガンガン進むのは勇壮な曲だ。鍛冶の相槌の如く合いの手を煽ればそこかしこでジョッキが打ち鳴らされ、そのまま飲み干されていく。
(吟遊詩人としては、自分の曲で皆のお酒が進むならそれに勝る賞賛はないよね!)
しかし歌いすぎて自分が飲めなくなっては逆効果。ほどほどに演奏したところでスローなバラードを一曲やっておしまいにしよう、と計算する辺りはステージ慣れを感じさせる。
「そういえば、どなたがいちばんになったのでしょう?」
「え、酒飲み大会とかしていたんですか?」
マレーネがふと思い出した言葉に、ヴィルヘルミナが目をぱちくり。彼女自身はそれほどガンガン飲む方ではないにせよ、催し物としては面白いのだろうな、と思う。攻め寄せてくる敵にくれてやる酒などないのだから、せめて楽しく美味しく消費して欲しいものだ。
●
その頃、厨房の奥では匂いの出る薬草類が煮だされていた。淡々としんどい仕事をしていたシェオルの横に、飲みを切り上げたエフィルミアが加わってからさらに匂いがきつくなる。知らぬ薬の配合か、と横をチラ見すれば何とも危険な感じに泡立つ紫の汁がゴポゴポと。
「薬草から毒ってこんなに簡単に作れるんだな……」
「え? 何かおっしゃいましたか!」
鼻歌交じりに鍋をかき混ぜるエフィルミアからそっと目を逸らして、シェオルは自分が制作済みの鍋を確認する。大丈夫、あの毒で倒れた奴も治療できるくらいの用意はある。多分。きっと。
「……っ! これは……素晴らしいですわ!」
ふと気づくと、毒々しい匂いに惹かれたリリリリスがスプーンを手に味見をしていた。優雅な手つきと薬草汁の取り合わせは世紀末芸術の如きマリアージュ。破滅のラッパはいま吹き鳴らされた。
「リリリリスさん、この鍋の良さが分かるなんて……!」
「是非コレを私の美食に!」
がしっと腕を組む2人を視界に入れないようにしつつ、シェオルは自分の仕事に注力する。
「なるほど、薬草の苦みを香水で抑えると! 勉強になります!」
「何度も言いますが香水は飲み物じゃ……あぁー!?」
悲痛な叫び声に思わず目を向けると、より混沌を増した錬成風景に果敢に突っ込みを入れるギーゼラの姿があった。エフィルミアが投入しようとしている薬草束を目に、さらなる悲鳴を上げる。
「薬草は体にいいですけど飲み合わせというものが……あぁー!?」
(頑張れ……頑張ってくれ……)
シェオルの心の中の応援もむなしく、ギーゼラの手を潜り抜けた薬草は鍋の中へと落着する。だが、常識人達が嘆く余裕など、ピンク髪の悪魔達は与えようとはしない。
「フランベは松明で行うのがリリリリス流ですわ! いい素材があると腕の振り甲斐がありますわね!」
「ピンク頭には碌な人がいないんですか!?」
(食用香水はともかく、調理用松明って何なのさぁ!?)
すでに、事態はギーゼラやシェオルの手に負える段階を超えていた。そしてうきうきした顔で鍋を手にピンク髪コンビが会場へ向かった頃。
「ん? ミアの奴どこへ……。まさか、調理場か!?」
ナキルは研ぎ澄まされた勘と経験から危険を察知し、冷や汗を拭った。
「まあ、やばいのはミアの煮汁だけだ。あれさえ気を付けていれば無事に……」
「お椀が空いていますわね。新たなステージに至った私特製スープをどうぞですわ!」
死亡フラグを雑に立てつつ、ごくりと一口。
(あれ? この味……知ってる……)
ナキルは死んだ。いや、よく見たらギリギリ死んでなかった。
「ふむ、この空気。わらわには中々心地良い……ふにゃあ……」
室内のアルコールに充てられたのか、ぺったんと女の子座りの夕霧の目つきは怪しい。気を利かせた店員がジュースを渡しているはずなのだがどういうことか。なお、今後の展開をなんとなく暗示するかのように、夕霧もピンク髪の少女であった。
「飲んでるか?」
「うむ、飲んでおるぞ!」
同じく酒精は入れていない筈なのにご機嫌なハヤトに、そう応じてぐいっと飲み干し。空になったジョッキをぶんぶん振ってベアトリーチェへ合図する。
「おかわりじゃー!」
「はーい!」
「俺もおかわりー……っと手がすべ……ったあ痛たたたぁっ!?」
配膳に来たベアトリーチェの足に伸ばした手が無造作に跨がれたかと思うとそのまま抱き捻じられ、ハヤトは天国から地獄へ一直線。見事な腕ひしぎ十字固めである。
「早く降参しないと折れちゃうよ?」
「なんじゃあ。お主、足に触りたかったのか。良いぞ、ほれほれ」
必死にタップしようとしたハヤトの手を自分の足に添わせる夕霧。降参の合図が聞こえないので力を加えていくベアトリーチェ。やんややんやと無責任にはやし立てる周囲の酔っぱらいたち。
「おや、楽しそうですね。では、おやすみなさい」
助けを求めるハヤトと目が合った寝起きノックスは悲鳴を耳に再び幸せな夢の中へと消えていく。
「もともと持ってるものが違うのは不公平だと思うんだよねー。色気が足りないのかな?」
「いや、お前さんも十分魅力的だぞ。自信を持て、な?」
なんだかんだでエミリアに負けたらしいアリアはそのまま管を巻き、ヴァンゲルスが愚痴を聞いていた。上手に宥めないと、時々暴発するので怖い。すぐに立ち上がっては大声であらぬことを喋り出す。
「ほらあ、これでもボク胸とか大きいし! 脱いだら凄いと思うんだよ!」
「落ち着け、わかった。お前さんは色っぽい。最高だ」
「えへへ、そう?」
アリア、着席。ヴァンゲルスは、近くで飲んでたはずなのにうまいこと逃げていったエミリアやルチルをうらやましく思った。が、できる男は表面上は落ち着いて、事故が起きないように対処する。ちなみにアリアは5分おき位で脱ごうとするので結構大変だった。
●
「これは……、一体どうしたらいいのでしょう」
コルネリウス・アーラとイズレンディル・パラリムがやってきた時には、宴は絶好調で意識を手放した酔漢がごろごろ転がっていた。
「走れないどころか、歩けない人がいるとは困りましたね……。撤退できなさそうな人から対処しましょうか」
「はい、イズさん…! 手伝います……!」
酒飲み空間に飲み込まれない救急要員の到着で、事態は次のステージへ動き出す。かと思ったがまだまだ飲み足りない止まらない。実はさっきから優しくレティシアが避難を勧めているのだが、聞く耳持つドワーフはほとんどいなかった。社会秩序の崩壊した場所では上流階層はかくも無力。労働者階級に拠るあらたなルールが敷かれている。
「酒持ってこい! オスマットは酒にはうるさき一族ぞ!」
「しっかり味わって飲み食いしろよ? 酒とつまみに失礼だからな」
ベルクが空ジョッキを宙に突き上げれば、マイペースに飲んでいたケンが苦笑を向けた。腰を落ち着けてみれば、案外腹がすいていたようでつまみも旨いし酒も進む。
「まだ全然減らないじゃないか……。しょうがない。私も飲み明かそう! ん? なんだ。私と手たまには飲みたい時くらいある」
おつまみ供給組だったナタリアもそろそろ飲む側に加わるようだ。意外そうな反応に周りを見てみれば、難しい防衛戦だけあって、ロモズ歩兵団の仲間が幾人も目に付いた。
「ん? アーラ、君までいるのか。せっかくだ、皆で乾杯しようじゃないか」
「え。あ、今はその……。少しだけですよ?」
酔漢に水を飲ませていたコルネリウスも、見知った顔に誘われては仕方なし。一口位は大丈夫だろうと口に含む。
「ロモズ歩兵団のために!」
「ん? そうだな。ロモズのために、だ」
「お姉さんも、乾杯するわよ!」
ニヤリと応じるケンと、ウインクしながら杯を掲げるエミリア。見えぬところにもまだまだいたのか、会場の方々から合いの手が上がった。ほとんど死んでいるノックスも片手だけ挙げている。というか、数えてみたら冒険者の3割くらいがロモズ関係者だった。ドワーフたちの間でロモズ歩兵団の名が別の意味で有名になったとしても仕方がない成り行きだろう。
「は! そうでしたわギーゼラ隊長! 隊長は私のお酒を飲めないんですの!」
「誰がリースの隊長ですか! そんなに飲みたければ一人で飲んでなさい、この脳みそお花畑!!」
ぎゃいぎゃい騒いでいたリリリリスの頭をギーゼラが掴み、エフィルミアが抱えていた危険物鍋へとぶち込んだ。
「ああ! 駄目ですよ! 食べ物を粗末にしては!」
「お前が言うなアホミアァァ!」
ギーゼラの介抱で半死位に戻っていたナキルが激しく突っ込む。その空いた口に、エフィルミアが薬草汁オリジナルを突っ込んだ。
「もぐぇ!?」
「最初に飲ませてあげるんですから、光栄に思ってくださいね! それじゃあ、他の方にもお配りしましょうか」
再び死んだナキルと、鍋に埋まったリリリリスをじっとりと見たギーゼラはとりあえずナキルの方から介抱した。このヤバい鍋を残すわけには行かないが、自分は食べたくないので代わりに食べる犠牲者を用意する。生死を見極めた冷酷な判断であった。
「テスさん、ロイさんも。薬草汁をどうぞ!」
「頂こうぼふぁ!?」
死の巡礼を続けるエフィルミアの薬草汁を躊躇なく口にしたテスが美形が出してはならない声を出す。しかし耐性ができていたのか辛うじてこの世に踏みとどまった。
「ぐ、ぐふぅ……」
死なば諸共、ぐいっといったロイもそのまま固まっている。
「大丈夫? ええと、……お酒、注ぐね?」
「何か、いい感じのおつまみを……枝豆! 貰ってきます!」
うつろな目をしたロイをアルマとエヴァンが甲斐甲斐しく世話する中、諸悪の根源はいずこへともなく消えていった。
(今日はずいぶん酒が進む。いい酒だな……)
アーシェルがすっかり上機嫌になった頃、クレア・エクレールが現場に到着した。周囲を見回して、呆れたように口をとがらせる。
「セヴランさんもアーシェルくんも何してるのさ……。外の状況解ってる!?」
「クレアさんはお疲れ様。どうだい一杯」
詰め寄るクレアに片目をつぶってセヴランは杯をあげた。彼にもたれ掛かっていたアーシェルが顔をあげ、とろりとした目でクレアに笑いかける。
「今あちこち大変なんだよーって、ダメだこりゃ」
「クレアは怒った顔も可愛いな……それに世話焼き女房みたいだぞ」
色気のある表情と仕草に鼓動が一瞬高まるも、状況を思えば流されるわけには行かない。というか、冷静になれば心ときめく場でも言葉でもなかった。クレアは首を振って煩悩を追い払う。ふにゃりと寄りかかり、抱き着こうとしてくるアーシェルの頭をぺちぺちたたくのは、夫婦というより世話の焼ける兄と妹のようだ。
「こんな手のかかる酔っ払いの嫁になった覚えはありませーん」
「……なあ、酔い潰れたら介抱してくれんだろ?」
聞いているのか聞いていないのか。崩れてきたアーシェルを受け止めると、膝の上に勝手に居心地の良い場所を見つけ、掠れ声で甘えてくる。クレアに頬を引っ張られても、満足げなのが腹立たしい。
「……おやおや今日のアーシェルは甘えん坊だ」
苦笑しつつ、セヴランはスローな子守唄をささやき始めた。最初は子ども扱いに抗議していたアーシェルも、ほどなくすやすやと寝息を立て始める。重いだろうというセヴランに、ちょっと考えてからクレアは首を振る。もう宴も終わりに近い。はずだ。そうであって欲しい。
「そろそろお酒も無くなってきたし、逃げませんか?」
「そうね。どこも人手が足りないんだから、起きなさーい!」
そう声を掛けに来たリサに頷き、寝起きの悪い駄々っ子を膝から落っことした。
●
いつの間にか、死屍累々の馴染の仲間達。鍋を完食したナキルはちょっと突いた位で起きるようには見えない。テスはまだ余裕もありそうだがロイは相手と杯しか目に入らない頃合いか。ドワーフと冒険者の変わらぬ喧騒を耳にしつつ、エヴァンはほっと息を吐いた。
「いつか、ぼく達が飲み歩ける日が楽しみですね」
耳にしたアルマが、少し前の約束を思い出して花のように笑う。果たせる時はまだまだ先だけれど、そんな事は気にもならず嬉しかった。あの時のふわふわした気持ちは、アルマの胸の中で今も灯っている。
「成人するまでもその先も、ずっと一緒にいようね!」
と、無邪気な満面の笑顔で口にしてから。ゆっくり3つ数えたあたりで、酔ったように顔が真っ赤に染まった。ばたばたと両手を振ってから顔を隠す。隠れてない。
「……あっ! 今のなし! なしじゃないけどなし!」
「ふふっ」
微笑してから、エヴァンは一歩近づいて耳元へ口を寄せた。
「大切な言葉は別の機会にぼくから伝えますね」
「……!!」
ぷしゅう、と湯気が出たようにフリーズするアルマとにこにこ笑顔のエヴァン。見てないふりでこそっと見ていたロイとテスが視線を交わして無言でグラスを打ち鳴らす。ごちそうさまでした。
「おや? そろそろお開きですか」
「うむ……。まだコハクはあまり食べていないけど、おわり」
撤収が近づき、ノックスやコハクは勝手に目を覚ました。撃沈していた者たちもあちらこちらで起こされていく。起きる事かなわぬ程に飲んでしまった者は、そういう事態に備えていた冒険者たちのお世話になった。
「コルネさん、この方を確保です! 手伝って下さい!
「はい。イズさん。担架広げました!」
息の合った手際で、容態の悪い泥酔者から救助していく。幸い、酔い覚ましの水や薬は幾人かに用意されていたし、担架を運ぶ手伝いをしてくれる程度に酔いが浅い者もそれなりにいた。具合が悪いというよりも幸せに眠りこけているだけの酔っ払いには、劇物が有効利用されるケースもある。そんな中には宴の混乱の中で大変なことになっていた者もいたようだ。
「うぬぬ、なんか腕が痛ぇ……って、何だぁ!?」
「うにゃむにゃ、寒いのう……。いつの間に脱いだのじゃろ」
気絶していたハヤトと寝相の悪かった夕霧ががっつり絡み合っていた。我関せずと放置していた皆さんの証言によれば2人の間に艶めくことは何もなかったらしいが、伝言ゲームの結果次第でハヤトの命運は尽きるかもしれない。彼女さんによろしくね。
「じゃあほら、お酒は置いて避難しよう避難……ああ、もう!」
「飲み切れ! 持ち帰れ! 以上!」
シェオルが意地汚い酔っ払いを相手に苦戦していた所に、ストレガの分かりやすい指示が飛んできた。なるほど、と相手の手から酒瓶を奪って一気飲みする。悲しそうな瞳で見てくる酔っ払いへ安全な薬草を投与してから外へ送り出し、次の酔っぱらいの瓶を奪い取った。
「さて、そろそろ最終作戦です。やるべき事は?」
「――この中で一番のお偉方の、もしくは一番いい酒を奪って、逃げる! だね!」
共同でお酒ちょっとずつ貰ってく作戦を展開していたAlexandraとモネタが頷きあう。これまでは隠れて減らしていたが、最後は目立つように酒を運び、理性の足りない酔っ払いを避難所まで釣ろうというのだ。
「そこの酔っていないお2人も、協力してくれますね?」
「俺か? まあ、確かにまだ素面だな」
「コハクはそもそもお酒を飲んではならぬ。飲むと良くないことが起こる。……たぶん」
酔ってなさそうな顔見知りを引っ掴まえて、Alexandraとモネタはまだ場に残る酒を回収に向かった。終わりの気配を感じたペコラも、自分達が飲んでいた樽を担ぎ上げる。そのまま、共に飲んでいたドワーフを一喝した。
「ここで飲み干して終わりか? これだけで満足か? 世界にドワーフの酒あり! って示さないのか?」
「ぐ、ぐぬぬ。まだ飲めるわい!」
ドワーフたちとペコラは、足腰に鞭打って立ち上がる。己の誇りたる胸毛と御髭に賭けて、生き残り明日へ新たな一歩を踏み出すことを誓ったのだ。なんとなく毛深くも良い話だったが、立ち上がって一歩踏み出しただけではどこにもいけない。
「ほら、立ち上がるのはいいから歩いて歩いてってば!」
「頼むぜ、おっさん。将来ドワーフ王国を背負って立つ勇士が背中を貸してやるんだからさ」
放っておくとあらぬ方向へ行きそうなドワーフどもを、ミーミルとカズマの未成年コンビが苦労しながら誘導していく。困ったものだがどこか憎めない気がするのは同じドワーフの血がなせる業だろうか。
「安全圏はあちらだ。きみたちが足が遅いのは気にしないでいいぞ。計算済みだからね」
「あの娘が持っとるの、わしゃまだ飲んどらんぞ!」
上物の酒瓶を手に先導するモネタを見て、奮起したドワーフの速度が少し上がった。ドワーフよりむしろ、酒慣れしていないのにはしゃいでしまった連中の方が厄介かもしれない。
「まとめてある皆の大事な荷物、運ぶの手伝ってー! 中身はここに書いてあるから!」
トゥーリがぶんぶん手を振って援護を求めると、酔ってない未成年や鉄の肝臓達が応じて手を挙げる。声に反応があるのはただの酔っぱらいだ。反応しないのは手遅れの泥酔者だ。レティシアら幾人かはスキルで酔いを醒ませないか試してみたのだが、効果はあるようなないような。どうも水をぶっかけた方が早い気もする。
「酔っちゃったらまずはお水! その後に大丈夫な方の薬草茶を飲んでね!」
幸い、医学・薬学の素養のある者はトゥーリ以外にも幾人かいたので、手分けして面倒を見に向かえていた。トゥーリは手元のメモを見ながら、逃げ遅れが無いように声を掛けていく。頑張って字を書けるようになったのが早速役に立っているのは嬉しい事だった。
「お酒はもう終わりましたから、お外にでましょうね」
「ありがとう、レディ。まだ酔ったというほどではない、つもりなんだけどね」
飲んだ量の割には足取りのしっかりしたキオルティスを、コルネリウスは優しく店外へと誘導した。むろん、彼のようにおとなしく従う酔客ばかりではない。コルネリウスが次に拾ったのは質の悪い酔っ払いだった。
「まだ飲み足りねーよ。お酌してくれ、お酌」
「はい、そこ。少し、頭を冷やしましょうか……?」
面倒くさく絡み始めたおっさんの頭上から水がぶちまけられる。水より冷えた微笑で酔客を見送ってから、イズレンディルはコルネリウスの顔をじっと見た。
「あの、ディリー……?」
「酔って……ますね? 大丈夫ですか? お水を飲みましょう」
「私ですか、酔ってないですよ……酔ってないです」
などとコルネリウスは力なく答えるも、聞いてもらえることはない。さっきの乾杯でほんの一杯飲んだだけなのに、頬にはしっかり赤みが残っていた。水のジョッキを両手でこくこく飲むコルネリウスを脇に、イズレンディルは声を張る。
「飲み終わる事がゴールではなく街から逃げ切る所までがゴールです。最後まで頑張りましょう!」
「撤退? 任せてよ……」
ふらりと立ち上がったテスやロイをはじめ幾人かが、ぼちぼち突破してくるだろう敵を足止めしようと路上に向かい始めた。ドワーフ王国の誇りを守る酒宴は終わり、生き残りをかけた戦いがまた始まるのだ。もしかしたらその後に、残った酒でまたもおっぱじめるのかもしれないが、それはまた別のお話である。
マスターコメント
イベントシナリオ(50人)普通 報酬:標準50 / 10〜50人
2021年09月09日 10時37分40秒 公開
参加者
トゥーリ
ヨル・スレイマン
コルネリウス・アーラ
ケン・Z・ブラッドリー
ナハシュ
アリア・ティーダ
リサ・ベイカー
テス・アウレア
リリリリス
ベルク・オスマット
ヴィルヘルミナ
ルチル・プルメリア・グレイハーツ
レティシア・R・クラティアス
ストレガ・L・リベルガストラ
イズレンディル・パラリム
ノックス・マグナ
エフィルミア
ロイ・アウレア
セヴラン・クアルト
ギーゼラ
ハヤト=ガラン=ヴォルファング
アルマ・ヴァレンタイン
アルラ・ニグラス
ララベル・サン・ディーベル
テュリン・ヴィング
- キーゼ
クレア・エクレール
キオルティス
Alexandra・Hexe・Claudia
コハク
ナキル
アーシェル・G・クライン
マレーネ・シェーンベルグ
エヴァン・ピオネロ
楓月・千弦
エミリア・シバ
ネーヴェ・グラヌローザ
ミーミル・ロッポラ
ガルシア
ベアトリーチェ・カロッサ
カズマ クレセントブラッド
ナタリア・フィッツジェラルド
エル=バ=ノイアン
シルヴィア・A・カペル
モネタ・シャローニャ
ライオネル・ギシュム
ペコラ
ヴァンゲルス・ロッド
夕霧
シェオル
相談掲示板
ヒーラーのナタリア・フィッツジェラルドだ。宜しく。 今日は死ぬには善い日だとして酒盛りにしても、溜め込みやし過ぎじゃないかね……? ……てなわけで私からは無理やりにでもそれを為せるべく病院食でも作ったり、出来上がった連中を適切に診断して再び使えるようにするつもりだ。
ストレガなのだ。 補給が必要ときいて何かつまみ作るのだ。
タダ酒が飲めると聞いて!!!!!!! (勢いよくドアぶち開ける) 羊獣人のペコラだよお、キュートでふわふわ白いMUNAGEがチャームポイント☆ よっろしくー!
リサです。 とりあえず、残っている食材処分も含めて、おつまみ作りますね。
モネタだ。あ、これでも成人済みだからね? 5の戦場帰りなんだけど。まあ。 飲むかな?
私(ワタクシ)、リリリリスですわ! 【1】ご飯を頂けるのもとても唆られますが…【2】で、調理に勤しむのも…未知の食材が私の新たな美食への昇華を待ち望んでいるかも知れませんわ…(そわそわ)
ヴァンゲルスだ。守るべきは酒、ごもっともだ。早いとこ飲んじまわねぇとなぁ?
ヴィルヘルミナです。 ゆっくり飲めたら良かったのですが、そうも言ってられませんね。 まあ、作ったり飲んだりしていると思います。
ええ… ―と、失礼。キャスター、クラウディアです。 …呑んだくれるのは勝手ですが、その後の脱出強行軍。覚悟してくださいよ…。
エヴァン・ピオネロ…です。 【2】で色々とする予定です。未成年なのでジュースですね…(残念顔)
仕事中に酒は飲まない主義なんだけど、時には危険を冒してでも守るべき信念とかそういうのはあるよねきっとね。いえーいおさけだー。 ヨル・スレイマンだよ。よろしくね。
シルヴィアだ。 ドワーフ達を救う為にも任務を全うしないとね……! という訳で友人達と酒盛りする予定だ。現地で会ったらよろしく頼むよ。
エフィルミアです!よろしくお願いしますっ。 ドワーフの誇りのために私も(お酒と)戦いましょう! エルフは役立たずと言われないように全力を尽くします!(ぐっ) 【1】でお酒をいっぱい飲んだ後に、【2】で二日酔い予防に薬草を煮ましょう! 私はアフターケアも出来るエルフなのです!(どやぁ) ※酔っ払いの作る薬草汁です。お察しください。 ※コメディ的なオチです。かっこよく死にたい方はご自由にお飲みください。
シーフのエミリアよ。 【1】とか【3】ってところかしらね、飲み勝負とか仕掛けてみようかしらって思うわ。
ナキルだ、よろしくなー!! まぁ、今回は特に難しい事考えずに【1】でテキトーに飯と酒! みたいなカンジなんだろうけ…ど… >ミア ……アフターケアって毒殺って意味だったか……?
ドワーフのミーミルだよ! ボクは【2】でおつまみを作るくらいかな。 その後、【4】にも行くかもしれないけど。
アルマだよ、どーぞよろしくねー。 【2】おつまみ作りとかをする予定だよ。 お酒…
こんにちは、テス・クラルスです。 飲みます(キリッ)。 よろしくね。
情報屋のルチルだ。 確かにこれは一大事だね。ドワーフ達の命と誇りがかかった重大な戦いだ。 これを無理に投げ出させる事こそ、彼らの名誉に瑕を入れる行為となるだろう。 邪竜陣営との過酷な戦いの中心となる場所にいるわけだからね、非戦闘員であってもその誇りを尊重したいと思うよ。 というわけで飲む。【1】だ。
ロイ・アウレアです。宜しく! この状況なら、飲まない手はないね!迷わず【1】で。
タダ酒ときいて!!!!!! ナハシュだ。酒蔵を空にするまで帰らねえ。よろしくな。
【2】準備はよろしいですわ!!(メシマズ、セット、ヨシ!) 作ったあとはやはり【1】食べないといけませんわね!折角ですので、私の新たな美食を皆様にもお配りいたしますわね!!
圧倒的【4】【5】不足…っ!
エルフのシェオルだよ。 【4】で酔い潰れた人の口に酔い止めを押し込みつつ逃がすだけの簡単なお仕事でもしようかと! ……な、予定だったけど、たぶん思ったほど簡単じゃないなこれ。 まぁでも頑張ってみようか。どうぞよろしくね。
…………ヒーラーのギーゼラです。(めちゃくちゃ嫌そうに) リースがうっかり人を殺さないように駆り出されました。 えぇ不本意です。ものすごく不本意です!! 取り合えず致命傷の人をヒールと解呪で救援しましょう。 【4】で頑張りますので、よろしくお願いします。
ネーヴェ・グラヌローザと申します。 ひとまず【3】で余興として一曲踊るつもりです。 現地でお目にかかりました際にはどうぞ宜しくお願い致します。
食って飲んで騒げる依頼か、最高だな。 アーシェルだ。よろしく頼む。 俺はセヴランと【3】で演奏をした後に【1】で酒と食い物を楽しむ予定だ。 クレアに飲み過ぎだと叱られるかもしれねぇな(
ライオネルだよ!よろしくね。 友達と一緒に【1】で楽しむよー! お酒は飲めないけど、俺の分まできっとシルヴィアさんとガルシアさんが飲んでくれるから大丈夫!
エルフのイズレンディル・パラリムと申します。 宜しくお願い致します。 私は一応【5】になりますね。 皆さんが飲んだ後も走って逃げられるように状態確認に努めます。 どれほど泥酔しても構わないのですが、走れない程の飲酒になりそうでしたら止めますし、担架に縛り付けますね。
…いっそしこたま酔わせたほうが走る可能性もありそうに見えますね。 例えば、「とっておきのボトルを持っていかれた」とか… そういった仕掛けをとれば、飢えている酒飲み勢は移動誘導までできるやもですね…。 ―一応、私はこの手法を試してみてます。