【帝国】決戦の身支度

七海真砂

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シナリオID:3325

オープニング

「宝剣マフダルが折れた~~~!!!?」
「うん。という訳で、ちょっとオルセンに行ってくる」
 顔見知りの兵士達に、先端が真っ二つに折れてしまった宝剣マフダルを見せながら、クーネさんはそう言った。

 征竜の屍から作られた巨大な骨剣、宝剣マフダル。
 頑強なこの宝剣は、北部鎮守都市オルセンの太守を代々務めてきたマフダル家に伝わる宝剣であり、クーネさんはこれを借りている身である。
 折れてしまったことを報告するにしても、これを直すにしても、オルセンに行くのは妥当な事のように思われた。

「有難いことに、オルセンには腕のいい鍛冶師がいるという。征竜との戦いも近そうだし、武器を整えたい者がいたら一緒に行かないか?」
 宝剣の手入れを担当するために腕を磨いてきた鍛冶師は、授恵者の装備を取り扱うこともできるという。オルセンが独自の戦いを繰り広げている間、武装の手入れを担当してきた者達だ、その実力は確かだろう。
「もちろん、武器だけでなく防具の方も整えられるだろう。その他にちょっとした身の回りの品を整えたい者にも、オルセン行きは悪くないと思うぞ」
 帝都奪還作戦にはオルセンも兵を出すことになっているし、その作戦に携わる冒険者の装備を整えることは名誉だ、と考える者は少なからずいるだろう。そうした職人たちと、一緒に身支度を整えて決戦に備える――。
 なるほど、悪くない機会かもしれない。

「クーネさん、クーネさん。防具も整えるのでしたら、このお姿にしません?」
「いやそれは……あー、うん、考えておくけど……」
 事務官のアンゼリカが、先日やってきた妖精ジュールの化けていた『首刈帝』クジンリーネ・バルダスの姿絵を取り出しつつ真摯に訴えかけるのを受け流しつつ、「まあ武器はあるから防具を整えるのはアリかもな」と呟いた。

解説

 決戦の前に、身支度を整えませんか!  アイテムの配布などが行われる訳ではありませんので、フレーバー的なシナリオと申しますか、皆さんが装備したりプレイングに書いたり、あるいはイラストになっている姿などに合わせてクライマックスの姿を描写するよ! というシナリオになります。「おまかせ」とか「何かコーデして」とか書いて頂けたら「こんな装備どうですか」とご提案もしますのでよろしければ。  その他、決戦前の準備として、やりたいことがありましたらどうぞ。  場所は、マフダル一族が管理するお屋敷の一つ。各分野の職人さんが集まっておりますので、店を一軒一軒移動しなくても一気に装備を整えることが可能です。 ●クーネさん  宝剣マフダルというつよつよな剣を持っていたけど、折ってしまったダメダメな人。  武器がきちんと直るのか心配になりそうなものだが、なぜか何の心配もしているように見えない。  宝剣マフダルが折れた経緯は「【幻秋】神石と英雄」など、首刈帝の服装を勧められてる理由は「【幻秋】妖精ジュールとお茶会」にありますが読まなくても大丈夫。

マスターより

 こんにちは、七海真砂です。  今回のシナリオは、決戦に向けての身支度。しっかり整えて決戦に挑みませんか?  クーネさんも武器を新しくしつつ、防具をどうしようか、と考えているようです。  それでは、ご参加、お待ちしております。

リプレイ

 そうして、一同はオルセンの街を歩いていた。マフダル一族が管理する屋敷の一つに職人を集めて貰ったのは、クーネさんが帰って来たと騒ぎになるのを避ける狙いもあったのだが、「あっ、クーネさんだ」と早々に見つかり「決戦に行くんですよね? 頑張ってください」などと手を振って応援されたのはご愛嬌だろうか。
「ありがとう」
 手を挙げて応えるクーネさん。冒険者達にも応援の声が飛び、ハヤト=ガラン=ヴォルファングらは一緒になって手を振り返す。
 そんな一行の中ほどを歩きつつ、イズレンディル・パラリムは傍らのシルヴィア・A・カペルに語りかけていた。
「――負けた場合の事はあまり考えていません」
 決して、楽観的だから出た言葉ではない。敗北すれば、やれる事などほとんど無いだろうと悟っているからこその言葉だ。
 だからこそ、勝利した先を見据えているイズレンディルの様子に、そうだね、とシルヴィアも頷く。
 決戦は、あくまでも通過点に過ぎないと……。
「各国内部にも問題は多い。それに……帝国崩壊に関わる諸問題が解決すれば『協定』が終わる。どの国も人材の確保に動くだろう」
 そうなった時に、どうなるか。
 故郷を守りたいと願うシルヴィアにとっては、祖国の動きも含めて気に掛かる所だ。
「確かに。決戦の後は大変かもしれません。……でも」
 フィルエス大森林とて蚊帳の外では無いかもしれない。……だが、それ以上にやり甲斐がありそうで、イズレンディルの顔には自然と笑みが浮かんだ。
「以前よりも、国家間も個人間も交流が進んでいますから。特産品を売り出すのも良いですね」
「ふふ。君らしいね」
 そんなイズレンディルの姿にシルヴィアもまた微笑む。
「そうですか? でも森のワインは本当に美味しいんですよ。遊びに来て下さい。ワインと葡萄をご馳走しますよ」
「いいね! うちの名産品もワインなんだ。互いのワインの作り方を比べたり、醸造所を見学し合ったりするのも魅力的じゃないいか」
 森の葡萄も是非味わってみたいと、シルヴィアは声を弾ませる。
 彼女達に気に入って貰えたら、大森林の葡萄をカペル領でワインにして貰う……そんな未来だってあるかもしれないと、イズレンディルも楽しげに頷き返す。
「カペル領のワインも楽しみです。飲み比べしましょうね」
「ああ。楽しみにしているよ」
 あえて、決戦の後で――互いに生き残ろうと願いを込めて――イズレンディルとシルヴィアは約束を交わす。

「お待ちしておりました。準備は整っております」
 細長い木箱を背負って皆を出迎えたハーフリングは、ヘルムート・マフダルと名乗ると、一行を広間へ案内する。そこにはマフダル一族がこの日の為にと招いた職人たちが集まっていた。
「おおーっ。これは何でも揃いそうですねっ」
「ほっほっ、勿論ですとも。お嬢さんは何がご入用ですかな?」
「ギュンタはですねー、今の武器が気に入ってはいるのです。でもでも、ギュンタにはもっとぴったりなべりべりキュートな武器があるよな気がするのですよねっ」
 防具もかーいらしーのが無いか見に来たのですっ! とレラ・F・ギュンターが口にすると、すすすっと進み出る鍛冶職人たち。
「なるほど! うちの店は『うさちゃんハンマー』をご提案しますよ!」
「うさちゃん!」
「でしたら鎧もふわもこのケープで包んで愛らしく!」
「きゃわわわ!」
 うさぎの刻印が刻まれた、ポップなカラーのハンマーを差し出す武器職人を見て、防具職人が手早くラフを書き始める。暖色系が好きなのだろうと見抜いた職人は、白いポンポンのついた赤いリボンのケープで鎧を包み、お揃いの赤い籠手状のグローブを添えた。
「盾もこのように、うさぎの刻印を入れてキュートな感じに纏めますと……」
「とーたるこーで、とゆーやつですね?」
「はい!」
 どうでしょう、とオススメされたコーディネートをふむふむと見つめるレラである。
「クーネさん、宝剣マフダルは修理できそう?」
「おっと。そうだった」
 エルゼリオ・レイノーラの声にクーネさんが包みを解くと、折れた宝剣マフダルが姿を現す。
「ほ、本当に……折れてる……帝国の至宝が……!」
 頭を抱えるベルク・オスマットの隣で、ハヤトが折れるモンなんだなぁと苦笑する。ヴィルヘルミナも、意外そうな顔で見つめていた。
「私達の使う武器も大分進歩しましたけど、それでも比較ならないくらいに馬鹿みたいな量のエーテルが込められている感じなのですが」
「まあ……征竜装備としての格は、それほど高くありませんからな」
「格?」
「簡単に言うと、どこの骨を使っているかですなあ。『征竜の虹宝剣』などは頭骨を使っておられるが、うちの剣は足の骨だと聞いております」
 要となる部位か否かによって性能差があるらしい。ヘルムート曰く「同じ『宝剣』と呼ばれていても、ものすご~く頑丈な剣、以上の物では無いのですよ」とのことだった。
 勿論、そこら辺にある剣とは比べ物にならないほどの頑丈さなのは間違い無いだろうが。
「この壊れ方なら、直すというよりは、この状態から再び削り出す方がよろしいかと」
「ふむ。儂らハーフリングには少々大きすぎる剣でしたからな、却って丁度良いサイズになるやもしれませんな」
 マフダル家の面々は前向きに捉えているようだった。
「で、どの位で直りそうだ?」
「そうですね、三ヶ月もあれば」
 さらりと口にする職人だったが、ヴィルヘルミナは思わず瞬きする。
「……結構、掛かるのですね」
「征竜の骨は頑強で、削り出すと言っても、本当に少しずつになりますから」
 更にそれを磨き、研いで作り上げるとなれば容易では無いのだろう。成程、とヴィルヘルミナは呟いた。
「道具自体は普段と同じなの?」
「そうですね。元々、代々伝わって来た鍛冶道具ではあるのですが」
 エルゼリオの問いに、使い込まれた品々を見せる職人。このような感じで、と試しに見せる様子を、興味深く覗き込む。
(でも……)
 三ヶ月。それは、つまり、帝都での決戦までに修理が間に合わない事を意味している。
(クーネさん、どうするつもりなんだろ……?)
 特にこれといって心配していなさそうなクーネさんの様子に、こてん、とエルゼリオは首を傾げていた。

「これらの調整をお願いできますか?」
 ゲルダ・クラインが持参したのは、天剣『ペルセイド』と天弓『トクソーティス』。状況に応じて武器を持ち換えているゲルダにとっては、天槍『アルクトス』と同様に大事な武器だ。
「剣は扱いやすさを、弓は威力を重視した形で仕上げたいのですが」
「わかりました。ディラ!」
「はい、お任せを」
 呼ばれた職人が剣を手にして研ぎ、小柄なゲルダでも取り回しやすいように細身の騎士剣を仕上げていく一方で、親方が弓の強度を高めていく。
「矢も羽根飾りの付いた物と無い物など、色々と用意しておきましょう。状況に応じて使い分けていらっしゃるのでしたら、その方が扱いやすいでしょうから」
「ありがとうございます」
 更に、ゲルダの身体に合わせて細かい調整を入れつつ、矢の方も整えられていく。
「零距離戦で活用できそうな、頑丈な矢もお願いできますか?」
 セロンガード・シュタインドルフのオーダーにも、職人はすぐ頷いて。一束ほど確保しておきたいと言うセロンガードの為に矢を用意し始める。
「特注の矢は、それだけで……いいの?」
「ええ。ここの矢でしたら、強敵が相手でも不足はありませんから」
 ティトの問いかけにセロンガードは頷いて、矢をたっぷり補充した矢筒を見せる。癖の無いオーソドックスな矢から、威力を重視した矢まで、十分に揃えられたのは助かった。
「じゃあ、今度は……ぼくの、いい?」
「勿論です。ティトは、あとは防具でしたね」
「うん……それと、ブーツも……最近、身長が伸びて、今までのだと小さくなっちゃった……から」
 刀の方は、すでに手入れを頼んである。あとは今までの衣類に代わる新しい装備を整えたいというティトに、セロンガードは付き添う。
「シャルガネ風の装束を作れる方はいらっしゃいますか?」
「ふむ。どういう感じだい?」
「え……っと……」
 希望を告げるティトの言葉を踏まえ、デザイン画が仕上げられていく。今までの服装と大きくイメージが変わらないようにしつつも、成長分をしっかりと反映させた内容だ。
「ブーツはこういうのか、こういうのが似合いそうかな。どっちか好みはあるかい?」
「……セロン、どう思、う?」
「こちらはどうですか? シンプルですが、ティトにはきっと、こちらの方が似合……コホン」
「ふふ。そうする」
 これでお願い……ね、とオーダーするティトに、職人は「任せて!」と胸を張る。
「二人は仕立てないのか?」
「ああ、俺達は必要ない。あくまでも……」
「僕達はママの付き添いだからね!」
 椅子にカイン・ステラを座らせて、その両脇に立ったヴィナスとルーンス・ラグネルが笑う。
「いやだから俺はママじゃねぇって」
「やだなカイン、僕達がカインをママっていうのはお約束……定番のネタみたいなものでしょ」
 18のママがいてたまるかとルーンスを見やるカインだが、「ほらママちゃんと前見て」と頭を職人の方へ向けられつつそう言われると、「うぐぐ」と歯噛みするしかない。
「俺達は自分の商会の広告塔でもあるし、取引先の紹介とかあるんで、ここでは仕立てない。その分カインを完璧に仕上げるから」
「そーゆーこと!」
 この兄弟の間では「二人でカインをコーデする」という事で、すっかり話が付いてしまっているようだ。弓職人と防具職人のコンビを前に、二人は早速プランを練り始める。
「カインは目の色が緑だし、緑中心に合わせよう」
「じゃあにいさま、弓も緑で考えた方がいいかな」
「そうだね、そうしよう」
 頷いたヴィナスは、黒やダークブラウンといった生地にも手を伸ばし「こうした色も挿して、落ち着いた印象にしたい」と要望する。それに合わせて防具職人がラフを描き始めると、「弓を引く動作を邪魔しない形がいいね」と付け加え、腕回りをスッキリとした物に纏めて貰う。
「腕回りから手指にかけては、特に細かく採寸してください」
 ルーンスは握りやすい弓にすることを念頭に置きつつ、カインの身体をしっかり測って貰う。カインが使うのは短弓だけれど、身体に合わせたサイズでしっかりと作り上げたいからだ。身長、腕の長さ、手の大きさ……それぞれを踏まえた設計を頼む。
「本人の使い勝手が一番重要なので、よく馴染むように作っていただければ」
「はい」
 頷いた弓職人はカインの体に馴染みそうな素材を選んでいく。
(ルーンスは勿論、ヴィナも商人だと言っていただけあって手際がいい)
 思わず、そんな二人のスマートさに目が行く。手慣れていると感心してしまうのと同時に、
(……なんか気を遣ってもらってるような気がして、いたたまれねぇというか……)
 身の置き場が無いような居心地の悪さに身をよじった瞬間、相棒のファが頬に向かって頭突きをしてくる。
「あたっ。いや、その、なんか、ご……」
「キーッ!」
「わ、悪かったってば」
 耳元で思いっきり鳴くファの様子に、苦笑しながら謝るカイン。そんな一人と一匹のやり取りを見て、ヴィナスは「大事なことを忘れていたね」と呟く。
「マントはフード付きで。裏地は白がいいな、取り外し可能にしてあげてください」
 ファ達のことを考えるとフードがあった方がいい。ここは機能性優先で、でもダサくならないように……カインの格好良さが引き立つよう、デザインして貰う。
「どう?」
「……その……」
 二人の監修だし、良い出来なのは間違いない。ここまでして貰って、申し訳ないという気持ちもあるけれど、でも――嬉しい。
「ありがとう」
 そう告げると、どこか満足げにファが鳴き、ヴィナスとルーンスが視線を交わして笑った。

「……ライナ様……?」
 万全の態勢を整えておきませんと! と手入れに精を出していたフロマーシュ・ダイヤドロップは、漆黒のナイフを見つめながら、どこか物憂げな様子に見えるライナ・フレイヴァルツの顔を覗き込んだ。
「ん、あぁ……すまないな。武器は、問題ない」
 顔を上げて、首を振る。
 幻影のナイフの方もしっかり確認しておかなくては、と手を伸ばそうとしたライナの、その手首の上にフロマーシュはそっと触れる。
「大丈夫、ですか?」
 ただ静かに己の武器を見つめていた、ただそれだけなのかもしれない。
 けれど――。
 フロマーシュは、それでも、ライナのことを案じた。何を、どう言うべきか迷って、まっすぐにライナを見る。
「相手は強大ですし、不安になるのも無理はないですっ。そこは私もですし……。でも! 私がいます! ライナ様のこと、いっぱい支えますから……!」
「マーシュ……」
 ふ、っと。
 力が抜けたように、口元が緩むのを感じる。
(私がここまで歩んできた道が正しかったのか、それはわからないけれど)
 大丈夫。
 大丈夫だ、と思えるものが、ここにはある。
「ありがとう。マーシュがいるからこそ、私は私でいれる」
「い、いえ! お礼のお言葉、ありがとうございます!」
 ピシッと背筋を伸ばすフロマーシュの姿を見つめていると、『自分』がどんどん戻って来るのを感じる。
(この先、何が起きるかは誰にも分からない。だが、互いが信じられるものを信じて戦えば、きっと踏み外さないはずだ)
 そう立ち上がったライナは、いつも通りの自分を取り戻してフロマーシュを振り返る。
「さぁ、行こう!」
「はい!」
 一緒に、笑顔でいられるように……その為にも全力を尽くすと決意しながら、フロマーシュは大きく頷き返す。
「せっかくだし、ワタシも装備新調しよっかな! ね、ハリスさん!」
「トゥーリも盾を拵えていきますか? トゥーリなら、できるだけ軽い物が良さそうですね」
 せっかくの機会だからと、見本として展示されている装備を眺めるトゥーリを見つめつつ、ハリス・アル・ターミルは仕上がったばかりの盾を手に取った。
 象られたレリーフは以前のような征竜のものではなく、未来を目指すリザードマンの姿である。
 それは、世界の変化を拒む竜を討ち、未来を守ると――ハリスが選び取った道を表すものでもあった。
(……二人は、やはりこうしているのが一番良いな)
 フェイサル・セイフは親友二人が和気藹々と過ごす姿を前に、小さく一つ頷いて。念入りに装備の点検を行う。
 仕事道具を詰めている鞄には、最高品質の医薬品を補充した。これだけは出し惜しみをしないと揃えた品の数々は、手によく馴染んだ器具と共に、きっと良い仕事をしてくれるだろう。
「――トゥーリ、それにフェイサル殿。二人に、一つ頼み事をしても良いですか?」
「? なになに?」
 ハリスの改まった声に首を傾げるトゥーリ。フェイサルは、それが何かを聞く前に頷き返した。
「友の助けになるのであれば、何でもやろう」
「ありがとう。……この盾の『仕上げ』を頼みたいのです」
 この盾を、大切な二人に見て貰いたかった。
 だが、それでだけでなく。
「これに最初に刻まれるのは、敵の爪痕ではなく、大切な名であって欲しいのです。それを背負えば、決して倒れずに戦えます」
 盾の裏に二人の名を彫って欲しいのだ、と頼むハリスに、トゥーリはすぐさま道具を借りると、
「ワタシがここ、フェイサルさんがここでどうかな?」
「そうしよう」
 瞬く間に、二人の名が刻まれる。その部分をハリスは指でなぞりながら、グッと気合を入れた。
「じゃあ、ワタシからも提案! ねえ二人共、あれ良くない?」
 色々な装備のサンプルを眺めていたトゥーリが指差したのは、アクセサリーのコーナーだった。濃緑と灰白、そして銀の三色の糸を取ると、ささっと編んで組み紐状にする。
「アンクレットにしたら、どうかなって。お揃い!」
「右に付けると力を高める効果があると言われ、左に付けるとお守りになる……ですか」
「なるほど」
 三人でお揃いのアンクレットを身に着ける……普段通りの装備で戦いへ臨むつもりであったフェイサルも、そんな『特別』な物があっても良いなと微笑む。
「でしょ? すぐに編むね!」
 トゥーリが手早く仕上げた組み紐を受け取り、ハリスも笑う。
「……未来を掴みましょう、必ず」
「ああ。必ず、帰ろう」
 フェイサルもまた、誓いの言葉を返す。
 ――今なら何者にも負けない。そんな気がした。

「ご指名のお品、持って来たぞ」
「ありがとう。……さすがジーク、綺麗だな」
 中身の詰まった袋と小箱を受け取ったイズル・M・ヴォルゴールは、早速その中身を取り出した。青いシラーが浮かぶ真紅の玻璃硝子は、ガラス職人を生業とするペルゼィック自慢の逸品だ。
「これを武器に……なぁ」
 普段は貴族の装束や装飾品を彩っている玻璃硝子を、この幼馴染は武器に使おうとしているらしい。一つ一つ硝子の粒を手に取りながら、どれを使おうか吟味するイズルの脇には、武器のデザインが描かれた申請書がある。
(これに、お守りのような役目も持たせようと思ったのは、どのタイミングだっけ?)
 あれこれ考えている間に、きっとその役目に相応しいのはジークの硝子細工だって、そう閃いた瞬間の胸の高鳴りをイズルは思い出す。
「きっと、いい武器になるはずだ」
「そりゃ光栄だが。……間に合うのかよ?」
「うっ。――大丈夫、間に合うと思う……間に合わせるっ」
 まだ今から一から作るのでも何とかなりますよね!? と思わず近くにいる職人に尋ねたイズルに、職人は「勿論です!」「こんな時ですから、どの職人も間に合うように全力を尽くしますよ」と笑顔で応えてくれたのでホッとする。
「ジークは? 武器を新調とかしないのか?」
「俺はいい。いくら強力でも、慣れない武器にわざわざ変える必要は感じねえな」
 いつもの武器が一番だと首を振るペルゼィック。その動きに合わせて、タッセルが揺れる。
「……それに俺はこの間、新調したばっかりだからな」
 新しい物は、これだけで。十分だというペルゼィックの言葉に、イズルは朗らかに笑う。
「それ、持ってくれるなら勝手に死なないでくれよ? 将来の側近候補さん」
「側近にも護衛にもならねえって言ってんだろ!?」
 強い口調で言い返しつつ、それでも、ペルゼィックはタッセルを手放さない。
「うーん……」
 そんな中、難しい顔をして悩みながら歩くエルフが一人。
 サフィラ・アズラク・ナハルハルアリーブである。
「ええっと……サフィラさん、どうしました……?」
「あっリディ! いい所にっ」
 それに気付いたリディリディ・トゥラ・イェレミースの声を聞き、サフィラは縋るように駆け寄った。
「今のガントレット、悪くないんだけどイマイチ火力ノらないってゆーか……でも何をどう調整? して貰ったらいいのかサッパリでェ……」
 武具に関しては素人のサフィラ、試しに展示されている様々なサンプルを眺めながら広間をぐーるぐるしてみたけれど、やっぱり何をどうしたらいいのか頭がぐーるぐる。今にも煙を噴き上げそうな勢いなのだった。
「え、と……」
 リディリディはサフィラの言葉に糸口を探す。イマイチ火力がノらない、つまりそこに不満があるわけで……?
「……ぷしゅーん」
「あー! リディ置いてかないでー!」
 真面目に応えようとしたものの、許容量を超えたリディリディが先に煙を吹いた。
「リディさん、サフィラさん、これは……」
「コルネーっ!」
 二人の声を聞きつけて、やってきたコルネリウス・アーラに縋ろうとして、サフィラはふと、その胸元に見慣れないブローチがあることに気付いた。
「もしかして、新しいやつ?」
「あ、はい」
 アクセサリーを見ていたコルネリウスが選んだのは、蝶をモチーフにしたブローチだった。雨花石、というメノウの一種を用いて、羽化したばかりの蝶の姿を作り上げているという、言葉遊びのようなデザインなのだが、
「素敵な謂われのあるお守りでしたので、身に着けてみようかと思いまして……」
「へえ、どんな?」
「それは……内緒なんですけど」
 えー! と不満げなサフィラだが、その後ろから覗き込んだリディリディが「謂われはともかく……綺麗な蝶ですね」と褒める言葉には素直に頷いた。
(――何度でも繰り返し復活するという伝説がある蝶と、調和を司るメノウを組み合わせることで、繰り返し周囲の人との絆を深めてくれるお守りになっている……なんて)
 まさに、その絆を大切にしたいと思っている人達の前では言えませんね、とコルネリウスは密かに笑う。家族との絆になっている大切な白い鳥の羽達とは、また少し違う羽の重みが、なんだか心地良い気がした。
「それで、何を悩んでいたんですか?」
「あ! あのね……」
 サフィラ達から話を聞いたコルネリウスは、まず希望を整理してみてはどうでしょうとアドバイスする。
「希望かあ。なんかこう魔法でばーん! って派手にボカン! って殴れる感じにしたいよねぇ」
「魔法……エーテルの流れを生かして、ブーストをかける、ような……?」
「そうした設計が得意そうな職人さんを紹介して貰いましょう」
 素材が持つエーテルとの相性の差などを生かして設計して貰えば、イメージに近い武器が作れるかもしれない。三人は職人達へ相談を持ち掛け、腕の動きに合わせてガントレットに込めたエーテルが爆発的に弾けるような仕組みを作って貰う。
「レギンスも、もっとクリティカルに蹴れる感じにできる?」
 同じようにレギンスの方も相談に乗って貰いながら設計を進めて貰い、今まで以上に鋭い動きに馴染んでくれそうな物を仕上げて貰うと、実際に身に着けてみたサフィラがポーズを決める。
「ね、どうかな?」
「すげー似合ってんじゃねーか♪ 絶対ぇその方がいいぜ!」
「ハヤト!?」
 いつの間にか近付いていたハヤトが、サフィラのすぐ傍で笑う。体をしっかりと覆うガントレットとレギンスの向こう側から伝わって来る身体のラインの美しさを眺めつつ、うんうんと頷いている彼もまた、仕上げて貰った装備を身に着けている。
 軽さと鋭さが同居する装備の数々は、実にハヤトらしいと言えるだろう。頸部と心臓部、重要な急所を保護しただけの身体に刻まれた傷跡は、これまでの日々の積み重ねでもあり――。これまでに歩んできた道のりを、思わず皆の脳裏に想起させた。
(ふむ。新しい装備という物は、それほど気合いが入るものなのだろうか?)
 新しい装備に身を包む皆の様子を見つめ、ナハティガル=ラーは思わず小首を傾げていた。いつも通りに黒のロングコート風の鎧を纏ったナハティガルは、職人から受け取った短剣を握り、いつもと変わらず手に馴染むことを確かめている。
「お。ナハティガルは……何も変わっちゃいねーな」
「ああ。手入れだけ依頼したからな」
 丁度良い機会だと手入れを頼み、どれも丁寧に仕上げて貰ってはいるものの、新調した装備は一つもない。どの装備も、これまでに愛用してきた物ばかりだ。
「……普段通りが一番だと思うのだが」
「そうか? やってみると結構テンション上がるぜ」
 とはいえナハティガルが急にイメチェンしたら、それはそれで驚くだろうけどな、とは思うハヤトである。
「リディさんも、新調というよりは調整程度ですよね」
「はい、防具だけ……」
 白金は重たいけれどしっかりとした鎧で、それと一緒に誂えた白葉の盾は小さいながらもしっかりと攻撃を打ち逸らしてくれる優秀な装備だ。それを、セットで一緒に調整して貰った。今度の戦いでも、きっとリディリディを守る役に立ってくれるだろう。
(でも、杖は……)
 生まれ育ったフィルエス大森林で使っていた大切な杖は、だからこそ他人に預ける気持ちになれなくて。自分自身の手で整えるに留めた。
 普段通りの装備、といえば――。
「これを見て頂けないでしょうか」
 真剣な眼差しでトーラが出したセルリアンエッジとシアンブレードを、職人達が囲んでいた。
「性能は充分満足しています。ですが、わたしにこれを使いこなせているか自信が無いんです」
 どちらも、エーテルを通わせることで様々な近接武器の形を取る武器だ。けれども……。
「いざという時は、短剣になってしまって。この武器の真価を発揮できていないのでは、と、思ってしまって……」
 武器に関する悩みだからこそ、何か助言が貰えるのではないかという期待。冒険者と鍛冶職人という立場の違いがあるからこそ、異なる目線からの助言が聞けるかもしれないという期待――それを滲ませるトーラに、職人達は顔を見合わせつつ言った。
「我々が、スペシャリストとジェネラリストの狭間で悩むのに似ていますね」
「そうだね。お嬢さんはきっと、ジェネラリストとして道を究めるイメージをお持ちなんでしょう」
「けど、まあ、人それぞれ向いている間合いというものがあるし」
「そうねえ。それが結果的に『短剣の形状』になっているんだわ」
「ハーフリングなら珍しいことじゃない」
「うん……これは『武器を扱いこなせていない』のではなく、『得意分野が出てしまっている』のではないかな?」
 職人達の意見はそこに落ち着いたようだ。うんうん、と頷き合っている。
「得意分野……わたしの……」
 素直に得意分野を伸ばしても良いだろう。あえて他を伸ばすために努力するのも良いだろう。いずれにせよ、武器を可哀想な目に遭わせている訳では無さそうで、トーラはホッと胸を撫で下ろす。

「いかがでしょう?」
「……良く出来ている、これで頼む」
 デザインを丁寧に細部まで確認し、ベルクは頷くと装束を発注した。
 ただの装束ではない。戦場でもしっかり立ち続けられるように急所を装甲化し、鉄板で補強した物だ。
(だが、私はそれ以前に殿下の従者だ。見窄らしい格好をする訳にはいかん)
 その意識があるベルクは、従者としての立ち居振る舞いに相応しい格好であることを大前提に、デザインを依頼していた。今のメイド服もなかなかな物だが、それ以上に良い物が仕上がってくれそうだ。
「クーネさん、結局どんな装備にするの?」
 エルゼリオは磨いて貰った装備を纏うと、ふわりと毛皮付きのマントを翻した。暖かく整えたこの出で立ちならば、帝国の冬の寒さにも負けはしないだろう。
「やっぱり首刈帝ルック?」
「士気高揚も兼ねて、首刈帝のもので良いのではないでしょうかっ!?」
 エルゼリオの言葉に、トーラも見てみたいと声を弾ませる。
「鍛冶師の端くれとしては、防具は本人の戦闘スタイルで結構変わりますので……自身にあった造りが一番、とは思いますが」
 ここまで、職人達の仕事を見学させて貰っていたヴィルヘルミナが、二人とは違う視点から意見する。と、マフダル一族の代表っぽい顔をして話を聞いていたヘルムートが愉快そうに笑った。
「解っている者も、そうでない者も、皆が揃って同じことを言う! これはもう決まりでしょうなあ!」
 ――支度は、出来ております、と。
 ピタリと笑うのを止めたヘルムートが恭しく一礼すると、クーネさんの元に一着の装束が運ばれてくる。王侯風のその装束にトーラやヴィルヘルミナは見覚えがあった。つい先日見た……妖精ジュールの服装と、同じ。
「首刈帝の衣装か。作っておいたのか?」
 ナハティガルもまた、それに気付く。だがクーネさんは苦笑しながら首を振った。
 と……。
「あれ、クーネさんが幽界樹を倒した時に着けていた防具じゃないですか」
「長老達が仕舞い込んで見せてくれなかったやつだ!」
 口々に言い合う職人達の声に、今度は冒険者達が顔を見合わせる。
 ――かつてオルセンの幽界樹は、生えかけた所をクーネさんによって粉砕された。その時の格好が、なぜ、首刈帝と同じなのだろうか。
 そして――。
「武器は? 武器の方も見せて下さいよ」
 ザワつく職人たちを無視して、ヘルムートはずっと背負っていた木箱を下ろす。中から出てきたのは赤い天鵞絨に包まれた、一振りの剣であった。
(征竜の虹宝剣? いや違う……これは、なんだ?)
 ベルクは思わず瞬いた。主君たるレイウェスト・バルダスが持つ、帝国皇家に伝わる『征竜の虹宝剣』と似て非なる剣。これもまた、宝剣の一つだろうとは容易に予測できるものの、しかし。
「首刈宝剣【零の剣:姫妖】、当主に代わり、お返し致します」
「うむ」
 至極当然であるかのように、クーネさんに宝剣が捧げられ、クーネさんがそれを受け取る。その光景に、くらりと眩暈がするのをベルクはこらえた。
「そんな顔をせずとも良いぞ。これは征竜を斬る為の剣。それ以上の意味など何一つとして無いのだから」
 レイウェストを脅かす物ではないと暗に告げながら「まあ、これまで色々と嘘を付いていたのは謝った方が良さそうだな」と、何も悪びれない顔をしてクーネさんは笑う。
「クーネさん、キミって……」
「うん、クーネさんだ。大嘘つきの。――本当の名前は、クジンリーネという」
 頭としっぽをくっつけてクーネさんだ! と相も変わらず笑い続けているクジンリーネ。その名が帝国でどのような意味を持つのか、知らない者はいないだろう。
 大平原を統一し、帝国を大きく発展させた『首刈帝』。およそ600年も昔の世に生きていたはずのクジンリーネ・バルダスを名乗る女が、冒険者達の前にいる。
「特技は首刈り。趣味は相撲。将来の夢は征竜を殺すこと。よろしく」

マスターコメント

 決戦前のひとときが、皆さんにとって良き物になっていたら幸いです。  ご参加、ありがとうございました。
イベントシナリオ

イベントシナリオ易しい 報酬:標準25 / 4〜25人

2023年11月24日 11時06分31秒 公開

大成功

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アーカイブ生成日時 2026年08月05日 14時56分25秒 ・ world0