桜の街と願い事
崎田航輝
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シナリオID:1119
オープニング
初夏が夏本番へと移り変わり、陽光と風の爽やかさも増す季節。
鮮やかな夏の花と、瓦屋根と灯籠、石畳と風流な街並みのコントラストが美しい、そんな桜の街に――祭りの時期が訪れようとしていた。
倭桜ノ街。
シャルガネの一端にあるその地区は、平和でおおらかな空気に満ちている。
そんな中、この数日は和やかさに加えて――人々の期待と楽しみを含んだ、にわかな盛り上がりにも似たものがあった。
「皆さん、準備は問題なく進んでいるようですね」
時に町人に話しかけつつ、街並みを歩んでゆくのは倭桜ノ街の長。この時期に街を歩むのも、楽しみの一つだった。
というのも――眺めれば道々には種々の屋台が並び始めている。
この時期に合わせて軒に下げられる風鈴は、微風に揺れてきらきらと清涼な音色を奏でていて、耳にも心地良い。
そして何より――吹き流しや提灯による“七夕飾り”。それが今だけの趣きで街を彩っていて、眺めているだけでも笑顔が浮かんでくるのだ。
「とても良いものを作ってくれましたね」
「最近、外から街に来てくれる人も多いですから」
飾りを付けている町人も、どこかわくわくと応える。見回せば、多くの町人達が小さなものから大きなものまで、多様な飾りを携えているのが見えた。
この時期、倭桜ノ街で催されるのは――七夕祭り。
東方の風習に端を発するそれは、漂着民の時代に伝わった文化を継承しようと街で続けられてきたものだ。
祭り本番では各所に大きな笹が置かれ、そこに願い事を書いた短冊を結んでもらう。併せて屋台や神輿を出し、街を上げて楽しむのがここでの慣習となっていた。
「今年も楽しくなりそうだ」
町長はそう呟いて視線を巡らす。
いや、今年はいつも以上に楽しくなるかも知れない。例年以上の盛り上がりを感じるのは、街に観光客も増えてきたからだろう。
それも街の魅力を知って広めてくれた――冒険者達のおかげ。
故に、と町長は今回も決めていた事があった。
「この祭りも楽しんでほしいな」
そうして街の魅力をもっと知ってほしいから。
「是非、招かせてもらおう」
そして夏のある日、冒険者達は桜の街へ招かれた。
そこに広がるのは七夕飾りに彩られた祭りの景色。
今は明るく賑やかだけれど、夜もまた灯りに照らされた美しい時間を楽しめるだろう。
笹もさらさらと風に揺れ、人々の願いを待っている。
冒険者達はその中を――思い思いに歩み出した。
鮮やかな夏の花と、瓦屋根と灯籠、石畳と風流な街並みのコントラストが美しい、そんな桜の街に――祭りの時期が訪れようとしていた。
倭桜ノ街。
シャルガネの一端にあるその地区は、平和でおおらかな空気に満ちている。
そんな中、この数日は和やかさに加えて――人々の期待と楽しみを含んだ、にわかな盛り上がりにも似たものがあった。
「皆さん、準備は問題なく進んでいるようですね」
時に町人に話しかけつつ、街並みを歩んでゆくのは倭桜ノ街の長。この時期に街を歩むのも、楽しみの一つだった。
というのも――眺めれば道々には種々の屋台が並び始めている。
この時期に合わせて軒に下げられる風鈴は、微風に揺れてきらきらと清涼な音色を奏でていて、耳にも心地良い。
そして何より――吹き流しや提灯による“七夕飾り”。それが今だけの趣きで街を彩っていて、眺めているだけでも笑顔が浮かんでくるのだ。
「とても良いものを作ってくれましたね」
「最近、外から街に来てくれる人も多いですから」
飾りを付けている町人も、どこかわくわくと応える。見回せば、多くの町人達が小さなものから大きなものまで、多様な飾りを携えているのが見えた。
この時期、倭桜ノ街で催されるのは――七夕祭り。
東方の風習に端を発するそれは、漂着民の時代に伝わった文化を継承しようと街で続けられてきたものだ。
祭り本番では各所に大きな笹が置かれ、そこに願い事を書いた短冊を結んでもらう。併せて屋台や神輿を出し、街を上げて楽しむのがここでの慣習となっていた。
「今年も楽しくなりそうだ」
町長はそう呟いて視線を巡らす。
いや、今年はいつも以上に楽しくなるかも知れない。例年以上の盛り上がりを感じるのは、街に観光客も増えてきたからだろう。
それも街の魅力を知って広めてくれた――冒険者達のおかげ。
故に、と町長は今回も決めていた事があった。
「この祭りも楽しんでほしいな」
そうして街の魅力をもっと知ってほしいから。
「是非、招かせてもらおう」
そして夏のある日、冒険者達は桜の街へ招かれた。
そこに広がるのは七夕飾りに彩られた祭りの景色。
今は明るく賑やかだけれど、夜もまた灯りに照らされた美しい時間を楽しめるだろう。
笹もさらさらと風に揺れ、人々の願いを待っている。
冒険者達はその中を――思い思いに歩み出した。
解説
●概要
シャルガネにある「倭桜ノ街」へ、観光に招かれました。
祭りを自由に楽しんでゆく事が出来ます。
時間帯、訪れる場所などは自由です。
●倭桜ノ街について
シャルガネの一端にある街区。東方文化の色濃い街並みが特徴的。
今の時期は鮮やかな花と風鈴に彩られた街並みが風流です。また、祭り中という事もあり七夕飾りを各所で見る事が出来て華やかです。
長らく平和を保ってきた街だからか、雰囲気はやわらかで、おおらかな人々が多い印象です。
夜は灯籠、提灯に照らされます。
●行える事
街を自由に散策する事が出来ます。
以下、立ち寄れる場所などの例を示します。
1.店、屋台
出店の他、営業中の食事処、甘味処などに寄れます。
甘味処では団子や饅頭の他、水餅やくずきり、西瓜など清涼なお菓子や果物も楽しめます。
屋台は蜜をかけたかき氷や飴で固めた果物の他、焼きとうもろこしなど東方風の食事を楽しめます。
また、輪投げや金魚すくい、型抜きなどの遊戯もあります。
2.通りの観光
大通りを中心に七夕飾りが連なっています。
また、家並みの軒には風鈴が飾られています。風鈴は売られてもいるので、お土産にする事も出来ます。
夜には紋具による花火も打ち上げられます。
3.短冊
短冊に願い事を書いて、笹に結びます。
祭りの中のシンボリックな催しでもあるので、積極的に参加してあげると喜ばれるでしょう。
4.踊り
笛の音に併せて通りで七夕踊りが踊られます。
踊りは難しくない、参加の容易なものとなっています。
列に加わって踊る他、演奏隊に加わっても盛り上げる事が出来るでしょう。
5.神輿
神輿を担いで通りを巡ります。
夕刻頃に神社から始まりますが、途中参加・離脱も自由です。
神輿は最後に神社に戻ります。また、神輿に関わらず神社にて過ごす事も可能です。
6.翠の園
夏の花と小川が美しい公園です。
祭りの中心地とは少し違った、涼やかな静けさが楽しめます。
7.土産巡り
東方風の物品を求める事が出来ます。
また以前の依頼により、桜を使った様々な物を楽しめるようになりました。染め物に装飾品、飾り物、日用品、料理や調味料、酒類に飲料と、多様なものが売られ始めています。
マスターより
シャルガネの一地区で観光を楽しむシナリオとなります。
今回は七夕祭りに参加します。
祭りは午前中に始まり、夜にも続きます。
行わなければならない事などはないので、自由に過ごしてみて下さい。
また街には例として示した以外にも、普通の街にありそうな機能を持った施設なら存在します。
適宜過ごしたい場所を訪れてみると良いでしょう。
紋具の花火はいわゆる打ち上げ花火と同じような見た目です。
その他、屋台に射的はありません。
同行者がいらっしゃる場合は、お名前や共通のグループ名(人数なども併記して下されば確実です)などを記載して頂けると助かります。
皆様のプレイングを、心より楽しみにお待ちしております。
リプレイ
明るい賑わいに満ちる倭桜ノ街。
その一角、食事処にやってきたバクル・バスリーは――ふと見知った人影を見つけた。
「あ、リサさん。こんにちは」
「あら? バクルさん」
お久しぶりです、と微笑むのはリサ・ベイカー。
こちらも今から食事ということで――折角だからと同席する事にした。
「リサさんも祭りを楽しみに来たの?」
「ええ。別件での仕事の帰りで」
「ぼくと同じだね」
これから祭りを歩くので……二人とも食事は軽めのお刺身定食。新鮮で甘い白身と醤油の相性を楽しみつつ――バクルは提案する。
「もし良かったら一緒に回る?」
「良いのですか? では、お言葉に甘えさせて頂きます」
リサが応えると……お茶で小休止してから、共に大通りへ出た。
「バクルさん、最近はどうですか?」
「冒険は続けてるよ。迷宮にも潜ってるし」
近況を話しつつ歩んでいると、威勢のいい呼び声を響かせる屋台が見えてくる。
風情ある家並みと共に、リサは興味深げでもあった。
「素敵な街ですよね。異国情緒溢れると言うか、趣きがあって――何度か商会の仕事で来た事ありますが、その都度違う表情があるんですよね」
「うん。ぼくもそう思う。見慣れなくて……だから本当に面白いんだよね」
それに、とバクルは声を楽しげにして。
「武器も気になるんだよね。ロスガリア大陸以外の技術を使ったものもあって……」
今日もここに来る前、刀剣の店や護身用の武器を見てきた所なのだった。
リサはそれにくすりと笑みながら……焼きとうもろこしを見つける。
「美味しそうですね。買いましょう!」
というわけで早速調達。焦げた醤油の香ばしさに、二人で舌鼓。それから甘味の店で団子に饅頭、くずきりも楽しんで。
「次、何食べようか?」
「そうですね……あ、かき氷がありますよ」
見つけたそこで、蜜をたっぷりかけたかき氷を実食。きんと冷える冷たさを堪能する。
その後では輪投げの店に立ち寄って――
「えいっ……結構難しいね?」
「次は成功させますよ。……やったぁ!」
腹ごなしにと体を動かして――景品のお菓子もゲットしたのだった。
白妙の生地に、上品な赤の花。
そんな美しい柄の浴衣を着たコルネリウス・アーラと共に、イズレンディル・パラリムもまた優美な風合いの浴衣を纏い――共に道を歩みゆく。
「あ、これ……」
和の街はお土産一つとっても、心を惹く。
コルネリウスがふと店先に目を留めると、手を繋ぐイズレンディルも足を止めていた。
「これは髪留め……ではなく簪というのですね」
「初めて見ました……不思議な形ですね」
見ると並ぶ品はどれも精緻で魅力的で。
「飾りも様々で綺麗ですね。お互いのを選んでみましょうか?」
言ってイズレンディルが決めたのは――紺色の飾り石がついた二本足の簪。
その可憐さに瞳を細めるコルネリウスも、幾つかの中から少し悩んで――
「イズさんには、此方は如何でしょう?」
月と橙の石飾りがついた二足のものを選んだ。
「素敵ですね」
嬉しいです、と。応えるイズレンディルは――買ったものを手に微笑みかける。
「折角ですからここで付けましょうか。私が付けますね」
「良いんですか?」
「ええ」
言いながら、イズレンディルはその場でコルネリウスの髪をそっと纏めて、簪を挿す。すると清楚さに可憐さも加わって。
「とても似合っていますね! 落ち着いた華やかさで可愛らしいです」
「ありがとうございます――」
嬉しさに笑むコルネリウスは、自分も、と。
「わ、私も……イズさんに付けたいです」
そうしてイズレンディルの髪に触れ――静かに纏めて簪で飾った。
「イズさんも、とても素敵です!」
「ありがとうございます」
「……お揃い、ですね」
「ふふ、そうですね」
くるっと回って互いの姿を確認しながら、笑みを交わして。
気づけば日も落ちてきているから、イズレンディルは手をつなぎ直す。
「もうすぐ花火の時間ですね。行きましょう」
「はい、花火も楽しみですね」
コルネリウスも嬉しそうにはにかんで、ご機嫌な足取りで歩みを再開した。
そうして快い震動と共に、空が煌めくと……その美しさを、二人で暫くの間見つめていた。
浴衣の着付けを済ませたテス・クラルスとロイ・アウレアは、一緒に祭りへと歩み出す所だった。
「華やかなのが良く似合う……」
ロイが目を細めて眺めるテスのものは、白地に赤い金魚が艶やかに泳ぐ、涼し気な女性物。
「ふふ、ありがとう」
笑んでテスが見つめ返すロイは、暗緑色の縦縞のしじら織りに、角帯が上品なアクセント。
「キモノでワビサビ、これで完璧だね」
「成程、祭りをワビサビっていうのか……」
ロイが何やら間違って記憶しながらも――二人は風流な佇まいで早速屋台へ向かう。
笛の音に提灯と、開放的で楽し気な空気の中……テスはおっと何かを発見した。
「あれはマスケラかい? シャルガネも仮装するのかな」
「お面、か。確かに付けてる人が結構居るね」
という事で、テスは狐面を購入しご機嫌。
「どう?」
「似合うよ」
言いつつロイも黒狐を買って斜めに被り、腕組みポーズでおどけた笑み。それにテスも「とても似合う」と、楽しげなのだった。
そうして歩みを再開すると……テスは色に惹かれて林檎飴を購入し食べてみる、と。
「すっぱい!」
割と予想外を突かれた驚きと共に……それをロイへ差し出した。
「はい、あーん」
「こういう時は積極的にくれるね……」
ロイも笑いつつ、酸っぱそうにふざけつつ齧ってみたりする。
そんなやり取りをしつつ――
「逸れるぞ」
人の流れが増す中、ロイが手を繋ぎ、二人で花火へ。
「あんな魔法使ってみたいね」
夜空に浮かぶ光の筋、そして花開くような大輪の光。
テスは感嘆を覚えつつ、照らされたロイがキラキラと輝くのを見て。
「ロイ、少し屈んで?」
「――ん」
言うとおりにしたロイと、お面で口元を隠しながらキスをした。
最後は短冊に願い事を綴る。
テスが『2人の時間が末永く続きますように』と書いて結ぶのを見ると――ロイはそっとテスを抱き寄せて。
「オレが叶えるから祈らなくても大丈夫」
「ロイ……」
また、星空に花火が一つ。
大きな音と眩い光の下で――二人は寄り添い、ゆったりとした時間を送っていった。
賑やかな熱気に満ちる神社。
ルルト・アーキスとアルバス・ロウルは神輿担ぎに参加するところだ。
「わぁ、楽しそう」
漆と金の細工が美しい神輿には、既に鉢巻をした町人が集まっている。二人は早速担ぎ方を教えて貰い、皆で持ち上げるのに加わると――
「うわわ……」
ルルトは身長差で宙に浮いてしまうけれど。
それでもアルバスが当て木を持ってくると、何とか地面に足がついた。
「これで平気だな」
「ありがとう!」
そうして『神の霊威を高め、一層の泰平を願う』という心構えもしかと教わって――夕刻。十人を超える町人と共に神輿を上げ、本番が始まる。
道には既に人が詰めかけ、ひと目見ようと活気に溢れていた。その中を、ルルトとアルバスは担ぎ棒を支えて踏み出してゆく。
「わっしょい! わっしょーい!」
「わっしょい!」
タイミングを合わせ、曲がり角でも一生懸命ついていって。人々の喝采に送られながら――気づけば一巡りして神社へ帰ってきていた。
「無事か! 肩は痛くないか!?」
「うん! 疲れたけど楽しかったんだよ♪」
アルバスが配慮してくれていたからだと、ルルトは笑顔で応えた。
「ならばよし!」
アルバスも元気に笑顔を返すと……その後二人はかき氷を買って休憩へ。
甘くて冷たくて、ほわっと幸せな味で。
「んー……! おいしいっ♪」
「これはいいな」
火照った体に染みるから、アルバスも一気に口に流し込む……と、頭がキーンと痛くなった。
「……大丈夫?」
「うむ……大、丈夫、だ……!」
言いつつ、アルバス暫し頭を押さえているのだった。
それから観光へ歩み出し――音に惹かれて風鈴を買う事にする。
「これは綺麗だな」
「こっちも可愛いよ?」
迷いつつ、ルルトが特に気に入ったのは花火柄。鮮やかで、優美で。
「ボクはこれにする♪」
「では、俺はこれにしよう」
と、アルバスが決めたのは金魚柄。透明な器に黒と赤の魚が描かれていて、吊るせば空に浮かぶ水槽の様で。
「睡狼の皆にも買っていこう」
二人で見せ合いながら、お土産にもまた綺麗なものを選んでゆくのだった。
「ひらひらしてて可愛いー!」
桜模様の浴衣姿で、くるくるくる。
エフィルミアは上機嫌な足取りで祭りに歩み出している。
「帯もリボンみたいで可愛いー! シャルガネ凄い!」
「うん……この服、柔らかくて寝心地よさそう」
と、隣のヘレン・ワーグナーは対照的に眠たげながら、その感触は悪くなさそうだ。
そんな二人を連れるのが、イズル・M・ヴォルゴール。屋台を見つけて前方を指していた。
「何か買っていこう」
「うん! ……わぁ、綺麗!」
と、エフィルミアは早速苺飴に惹かれて入手し、その甘酸っぱさに笑顔。
ヘレンも同じものをつまみつつ――物珍しげに視線を巡らせている。
「初めて見る食べ物ばっかり……。新鮮な魚も売ってるし」
「……あれはとって遊ぶものでは?」
金魚すくいの屋台をみとめて、イズルはつっこみを入れつつ――自身も暫し、風情ある景色を見回していた。
(東方の風習、母上はどれくらい知ってるんだろう)
思うのは故郷の事。
少しだけ、郷愁を感じながら……ふと笹を見つけて立ち止まる。
「書いていこうか」
「うん!」
と、エフィルミアが書いた願いは『最速最強になるぞ!』。この手で叶えるという、自身への誓いでもあった。
「んー……それじゃあ、これを」
言ってヘレンが『安眠祈願』と書いて結べば……イズルが綴るのは『領地の安寧』だ。
今は平和だが、各地で戦火が絶えないだけに未来は予想が出来ない。だからこそ――どうか変わらず平和でありますように、と。
その後はお土産選び。
「記念に皆でお揃いのアクセサリー買わない?」
「いいよ……どれにする?」
ヘレンの言葉にエフィルミアが選んだのは――透かし彫りで描かれた桜が美しい、革紐のシルバーネックレスだ。
「おー……いいんじゃないかな」
「じゃあ決定! ふっふっふー! 今の私はお金あるよ!」
という訳でエフィルミアが揃いで購入。
「ヘレンちゃんもイズルくんも似合うよー!」
「ありがとう。それじゃあこれも」
と、イズルはヘレンの誕生日プレゼントに桜模様のバングルも買うのだった。
そうして翠の園へ散策に向かうと――空に光。
大輪の花火だ。
「きれい!」
見上げるエフィルミアは、どこか楽しくも安らかな心地になる。
そしてふと過日を思い出した。
「前の事、思い出しちゃった。出会ったときの事」
「あの時はイズルが泊めてくれなかったら、道端で夜を明かすとこだったねー……」
「イズルくんに拾って貰ったから、毎日美味しいご飯と暖かい寝床があるんだもんね!」
「そうだったな」
二人の言葉に、イズルも思い出すように頷く。
それがどこか昨日の事のようで。不意に視線を下ろすと……いつの間にかヘレンが横になって寝息を立てていた。
イズルは起こさぬよう、背負って帰路へ歩む。
「あのまま野宿してたら、今頃ヘレンはどうしてたんだろうな」
最初はお金をろくに持たずに店に来て、散々な出会いだったけど。
でも、二人に手を差し伸べてよかったかも知れない。この温かな時間に、そんな思いも抱くのだった。
「はわぁ……風鈴と紫陽花が綺麗っ!」
短冊もまた風に舞って美しく。サフィラ・アズラク・ナハルハルアリーブは夏の和の景色に瞳を輝かせていた。
「風流だねっ!」
「そうだな」
と、隣で頷くのはハヤト=ガラン=ヴォルファング。景色を眺めながら――まず向かったのは神社だ。
「およ? ハヤト、お神輿参加するのっ?」
「シャルガネの祭りったらこれが醍醐味だからな!」
という訳でそのまま境内へ。
ならばとサフィラもやる気を見せ、法被にサラシ姿へと着替えてくる。
(っつーか、サフィラのサラシとかマジヤベェな……)
横目に思いながら、それでもハヤトはしっかり担ぎ方を教えてあげて。
「下手に担ぐと肩を痛めっからな。リズムに合わせて担ぐのがコツだ!」
「うん! こんな感じ?」
「おう!」
その内に本番が始まり、町人らと共に担いで通りへ。
「盛り上げてくよっ! わっしょーい!!」
「わっしょい!」
ハヤトも掛け声を響かせると、皆がそれにリズムを合わせ。人波の中を威勢よく進み――神社まで一周したのだった。
それからサフィラは軽く湯を浴びて汗を流し――薄い桜色に朝顔の柄が入った浴衣へと着替えてくる。
「おまたせっ! えへへ、どうかなっ? 似合ってるっ?」
「おお、勿論だ!」
そのまま二人は腹拵えにと屋台へ。
まずは焼きそばを見つけてハヤトが二人分購入。
「ん、おいしいっ!」
「なかなかだろ? これを食べさせてやりたかったんだよな♪」
更に甘い匂いに惹かれたサフィラが林檎飴を見つけて走り寄っていた。
「ねぇねぇ、いっしょに食べよっ!」
「いいぜ」
それも二人分買って、食べながら歩む。
途中で箸巻きがあれば、それも買って味わいつつ――サフィラはさりげなく腕を組んでいた。
ハヤトは無論気づいていながらも……気になる相手には逆に手が出せないタイプ。色々と我慢しつつもそのまま歩むのだった。
と、そこで空に眩い光。
「あ! 花火だ! ……一瞬で消えちゃうけど、すごく鮮烈だよね」
「そうだな。一緒に見られてよかったぜ」
見上げる空にまた光の花。美しく、楽しい煌めきを二人は見つめていた。
祭りに賑わう街。
ヴィナスは逸れないようにとカッシアの手をしっかりと握って歩みゆく。
「賑やかだな」
「――うん」
応えながら、カッシアはその手が気になって仕方なくて。
好きな相手と距離が近すぎるのも心臓によくない――かといって拒む気持ちはなく、自分もそうしたかったのだけれど。
「……」
そんな隣の緊張を、ヴィナスも鋭敏に感じ取っている。
勿論、言葉にはしない。自分だって――好意を持つ相手と手を繋いで緊張しない程、老成はしてないのだから。
「笹、あるね。寄っていこうか」
言って、葉の下で短冊を手にとった。そして何を書くか思案して……カッシアを見つめる。
カッシアの自分への好意は、気づいている。でもその種類が分からなくて、踏み込んでいいのかいけないのか、迷っていた。
だから願うことはひとつ。
『ハナミズキ』
いつか、この言葉と同じ未来があることを願って。
そんなヴィナスの様子に、カッシアもまた短冊に向き合う。
(といっても何書くか――)
正直今の生活に不満は無かった。種類は分からないけれど、ヴィナスがこちらをよく思っていくれているのは判るから。
――ヴィナとこうして出歩ける日々が楽しい。
(それで充分だ、きっと)
多分、それが今の精一杯。だからカッシアは『晴天祈願』と書いて結ぶ――出歩く口実に、「天気がいい」はきっと適しているから。
「花火、見に行こうか」
気づけば日が暮れていて、ヴィナスはまた手を握って歩み出す。カッシアも頷いて歩調を合わせ――空に開いた眩い光の花を仰いだ。
虹色に明滅する光。
「綺麗だよね」
「綺麗だな」
感想が重なって、カッシアは笑う。
だからヴィナスも表情を和らげて――こんな時間をカッシアと過ごせて良かったと心から思った。
好きだと今は言わないけれど……きっと、短冊の願いは叶うと信じて。
ヴィナスの笑みに、カッシアも幾分か、心を緩やかにしていた。
願わくば、次もヴィナスとこうして過ごしたい。晴れだったら、今度はこちらから誘ってもいい――そう思いながら。
時は僅かに遡り、ヴィナスとカッシアが街にやってくる頃。
ルーンス・ラグネルが建物の陰からその姿を捉えていた。
「来た来た……これはちゃんと見守らないと」
しっかりと、デバガメしてしまおうという魂胆である。
とはいえ一人では不審者だ。何かいい案はと、ルーンスは視線を巡らせ――そこにカイン・ステラを見つけた。
「ねーカインママ、付き合ってよ」
「誰がママだ」
解せぬ表情で応えたカインは、ルーンスと遠くのヴィナス達を交互に見て状況を飲み込む。
こっちは屋台で味の研究をしようと思っていた所だが――
「……不審者騒ぎになっても何だからな。仕方ない」
「やった! それじゃあレッツゴー」
という訳で二人の姿を見失わないようにしつつ、カモフラージュに屋台にも寄る事にした。
「お、これ、あるんだな」
と、見つけたのは魚の串焼き。カインの提案した桜塩が使われているのだ。
飲み物と共に買うと、その華やかな芳しさにルーンスも舌鼓。
「美味しいね」
「苺飴もあるぞ」
それは桜シロップを使っていて……香り高い甘味もまた共に楽しみつつ――カッシア達を追う形で笹にも辿り着く。
「短冊かぁ。カインだったら何を書く?」
「自分じゃどうにもできないこと願うかな。来年の今日も健康でいられますようにとかね」
カインが想起するのは過日の出来事。
(父さんも母さんも、じいちゃんもばあちゃんも――あの年から先、来年はなかった)
だから誰より、健康でいる事の重さを知っているから。
「ルーンスは?」
「僕は……未来が明るいものでありますように、かな!」
ルーンスはそう応えた。
(まーあの人らは僕の明るい未来には必要ないから退場してもらうけど……合法の範囲で)
ふと遠い家の事を思いつつ……次にはまた表情を明るくして。
「あ、花火!」
「すごいな」
カインは空の光に、瞳を細める。
「今日は幸せ貰ったなー!」
ルーンスが心から言えば、カインは目元を仄かに和らげる。
(ま、今は楽しむか)
折角の、美しく美味な時間なのだから、と。
夜風に花々がそよぐ。
翠の園へと、サマエラ=フォリウムは足を伸ばしていた。
「……ここは、落ち着くな」
少し休んでいこう、と。
東屋の一角に椅子を見つけて腰を下ろし、直ぐ側の川を眺める。
「良い小川だ。せせらぎが耳に心地好い……」
そうだ、と。そこでサマエラは買っていた風鈴を取り出した。
「耳にと言えば、これもそうか」
ちりん、と鳴らす。
それは高い音なのに澄んでいて優しくて。祭りの明るさの中でも良く映えるけれど――夜闇と、照る月光、その下で揺れる花、小川の流れ。
「ここの空気にも……また格別に、だ」
すると不意に別の明かりと音を感じる。
空を仰ぐと、光の大輪が開いていた。
「――ああ、花火か」
仄かな震動と眩さが、どこか遠かった喧騒を思い出させる。
「……しかし、静けさの中にあっても不快ではないな」
寧ろそれは快さを感じさせるようでもあって。
「一つ一つが、違う煌きなのだな」
涼しさの中、サマエラはその光の芸術を暫し見つめていた。
「ん、冷たくて……美味し」
ロゼットは屋台で買ったかき氷を食べつつ、道々を歩んでいた。
しゃくっとした歯ごたえとひんやり感、そして甘味が何とも快くて。
「これは、シグモルじゃ無理よねえ……」
呟きながら、今度は別の甘い芳香に惹かれて。
「こっちは飴で固めた……林檎かしら」
見つけた林檎飴を購入。
飴の甘さと果実の酸味が合ってて、こちらもまた美味だった。
食べ歩きを楽しみつつ、ロゼットは観光案内の冊子にも目を通している。
「『笹竹は天に向かってまっすぐ伸びる姿から、神様が宿る神聖なものとして――』……成程ね」
七夕の由来と共に、文化に根付いた信仰を学びながら……この独自の風合いを持った国と街を、紐解くように理解していった。
実際の笹を目にすれば、自身も短冊を手にとって。
『シグモル様のような、立派な神官になれますように』
真っ直ぐな思いを迷わず綴り、結ぶ。
「素敵な文化ね」
そうしてそよぐ短冊を仰ぎつつ――また食べ歩きへと向かった。
キーゼとネーヴェ・グラヌローザはまず貸衣装屋へ。それぞれに着付けを終えてから合流をしていた。
「とてもよくお似合いですよ」
と、キーゼが見つめるネーヴェの浴衣は生成り色地に、濃淡ピンクの大判芍薬柄。青い帯が清楚な色合いを際立たせている。
髪は結い上げて芍薬を飾り、私物の黒猫の髪飾りで留めて。美しさに可憐さを兼ねた装いだった。
「ふふ、キーゼさんも。いつも暗い色のお洋服だから、何だか新鮮ですね」
ネーヴェがはにかみつつ、見惚れるキーゼの姿は――白地の浴衣にこちらも青い帯。どこかネーヴェのイメージを思わせる清廉な色使いだ。
キーゼは礼を述べてから、ネーヴェの手を握って散策へ。ネーヴェも共に歩けるのが嬉しくて……共に風鈴に耳を傾けながら、宵空の下を歩み始める。
「それにしても、七夕、ですか」
キーゼは笹や七夕飾りに目を留め、呟く。
「確かあちらの伝承だと、遊びすぎが原因で年に一度の逢瀬しか出来ないよう罰せられた男女が始まりだとか……」
「罰とは言え、年に一度はあまりに酷ですね」
ネーヴェは顔を曇らせつつも、空を仰いだ。
「今頃は、想いを確かめ合っているでしょうか」
「かも知れませんね」
応えつつ、キーゼは屋台で適宜食事を買い、お土産も一緒に眺め……共に時間を過ごしてゆく。
そして人が増えてくれば改めて手を繋ぎ直して……人波から少し離れたタイミングで、丁度空に光が昇った。
花火だ。
「まぁ! 夜空に花が咲きましたわ。綺麗ですわね……!」
「ええ……綺麗ですね」
声に花咲かすネーヴェに、キーゼも頷いて見上げる。
光は次々に開き、多様な色彩と輝きで目を楽しませてくれる。それは無二の時間を祝福してくれているようで。
「……あなたと一緒に見られて、嬉しいです」
ネーヴェはキーゼに寄り添い、指を絡める。
キーゼもそっと頷いて、手にやわく力を込めていた。
「来年もまた、二人で伺うとしましょうか」
そしてまた美しい光を。思いと共に二人はまた、空を仰いでいた。
祭りの道は明るい賑わいに満ちている。
セロンガード・シュタインドルフとティトは、浴衣姿でその中へ歩み出していた。
「屋台、色々ありますね」
「ん……」
ティトは頷きながら、視線を右左。提灯の明かりと甘い匂いに誘われるように、ひとつひとつを見やっている。
「りんご飴ある、かな?」
「それなら、向こうに」
と、セロンガードが指す先に、綺麗な赤色があった。
早速二人で買って実食。甘酸っぱい美味にティトが瞳を細めていると、セロンガードもそれを微笑ましげに眺めつつ。
「おや、輪投げです」
やっていきましょうか、と。その屋台へ歩んで二人でチャレンジ。
「よっ……と、これは以外に難しいですね」
「でも、お菓子もらえるらしい、から」
頑張る、と気合を入れて、ティトは投擲。五本ほどの輪を全て入れて、見事景品のお菓子セットを手に入れたのだった。
「負けましたね。では次は金魚すくいで勝負は如何です?」
「うん。やってみる、ね」
と、その屋台でポイを片手に挑戦すれば、今度は二人で同じ数の金魚を手に入れて。
歩みを再開すると……今度はティトがあんず飴を見つけておねだり。
その甘味を楽しむと、次に苺飴も発見してお願いの視線。いっぱいのわがままに、セロンガードは「勿論」と応えて買ってあげて。祭りを存分に楽しみながら街を巡った。
そして一段落する頃には……ティトはベンチでうとうと。
「疲れてしまいましたか?」
「……ん」
ティトは手を伸ばして抱っこのリクエスト。
セロンガードは微笑んで、そっと抱え上げて。そのまま帰路へ向かう……と。
(……昔の浴衣って、確かきちんと着る時は下着をつけないのですよね?)
いつもセンシティブな辺りいつも攻めてくるのに、その辺り無意識だから小悪魔なものだ――と、少しだけ意識してから緩く首を振って、人波を進む。
「セロン……だいすき……」
喧騒の中で、そんなティトの寝言は聞こえたろうか。セロンガードはお姫様抱っこをしたまま――鮮やかな花と風鈴に彩られた道を歩んでいった。
「よーし、食べ歩きするぜ!!」
意気込みと共に、ナキルは賑わう屋台通りを歩んでいた。
賑やかな呼び声に、立ち昇る良い香りの煙。それに誘われるように――早速、焼きそばを見つけて購入。
「ん、これは美味いな!」
濃いめのソースに、刻み海苔に鰹節。旨味と香ばしさを堪能すると……次は苺飴を見つけて。
「塩気の後には甘いものだな!」
あむりと糖分を補給して、満足気に呟きながら――まだまだ新しい発見を求めて行脚。杏飴や林檎飴も味わいつつ、イカ焼きの芳しさやじゃがバターのまろやかさも楽しんだ。
「……ん? これが短冊か」
途中、笹を見つけて立ち止まる。
「んー」
願いが叶うと言われれば勿論、惹かれる……けれど。『背が伸びる』――それは少なくとも自分の中では確定事項なので。
「特に願いはねぇな……お、あそこにも珍しいモン売ってるな?」
と、すぐに屋台へ。
買った揚げ餅をはふはふと味わって……満足げに歩んでゆくのだった。
「これでいっそう、お祭りの気分なのですよ!」
神社にて、ハル・チフは法被に鉢巻、草履と粋な装い。
エルシー・サリバンもまた同じ格好で、嬉しげにクルクルと回っていた。
「この衣装、可愛いよね」
「うん……!」
頷くハルは、お揃いなのが嬉しくて……エルシーの姿も魅力的だったから。
「とっても可愛くて、似合ってるよ」
「ん……ハルも似合う……とっても格好良い」
エルシーが頬を染めると、ハルもまたそれが恥ずかしくも嬉しいのだった。
その内に町人達が神輿の準備を始めてゆく。神が乗る事で、地域の災厄や穢れを清めてゆく――そう聞いてエルシーは感心の面持ちだ。
「神様の乗り物だから華やかなんだねー……でも、神様って忙しいね」
その言葉にハルが頷いていると――町人達が神輿を担ぎ上げる。
ハルが驚いたのは、その威勢の良さと――
「めっちゃ揺れてるんですよ!? 神様大丈夫ですか!?」
ただ、沢山揺らした方が良いのだと聞けば、すぐに納得して。二人もそこに加わって街を巡り始めた。
「わっしょい!」
「ワッショイ!」
ハルが頑張って支えれば、エルシーも息を合わせて――人々の喝采にも送られ、神社まで一周を果たした。
神輿を下ろすと、エルシーは「見回り、ありがとうございました」と神輿の中の神様へ合掌。
ハルも倣ってから、エルシーと笑み合う。と、後ろの男性が微笑ましげに「青春だねぇ」と一言。
「? 祭りは青春なんですかね?」
「青春? ……うんっ、楽しいよ!」
それにはまだぴんと来ずとも、エルシーは明るく笑って。改めて一緒に祭りへと繰り出し、笹を見つけた。
「わぁ」
風に波打つ笹と、沢山の短冊。人々の想いを託されたそれは壮大で。
「……お願いを天へ届ける係なんだね」
「僕達も書いて行きましょう!」
言ってハルが綴るのは――『エルとずっと一緒にいられますように! ハル』。
「僕の一番のお願いごとなんですよ」
「それじゃあ、私は――」
と、エルシーはそこに書き添えた。
するとそれは……『ハル・エルとずっと一緒にいられますように! ハル&エルシー』となって。
二人は笑みを交わして願いを結ぶ。それを見守るように、美しい星が空に煌めき始めていた。
「また来ちゃったわねーこの街」
エミリア・シバは賑やかな通りをゆく。
段々と慣れ親しみつつある景色、だからこそ一層盛り上がっていると判るから。
「さぁて、楽しみましょ」
まずは笹へ歩み、短冊に筆を奔らせた。
綴った願いは『美味しいお酒と沢山出会えますように!!』。
「これでよしっと!」
後はそれを実現させるよう、店々を散策。
炭酸を混ぜた和酒で、澄んだ味と刺激的な舌触りを楽しむと――商品化されていた桜のロゼワインも賞味。何とも華やかな味わいに――
「ん~、美味しい!」
早くも頬も少々桜色。そのまま上機嫌に、花柄の風鈴を見つけて自身と知り合いの子たちへ購入した。
「あら、この笛の音は……?」
見ると七夕踊が始まっている。
時に粋に、時に玄妙に、趣深い踊りにエミリアも興味津々。
「少し覚えていこうかしら?」
微酔いでも、踊りの腕は一級品。列に加わったエミリアは、鮮やかな身のこなしで人目を惹き――和の踊りをものにしてゆくのだった。
「二人共とても綺麗だ」
街へ歩み出しながら、アーシェル・G・クラインが視線を向けるのはアンネエルカとクレア・エクレール。
二人は着付けを済ませていて――
「ほんと? ありがとう!」
応えてくるりとクレアが棚引かす浴衣は、白地に赤い椿柄。
アンネエルカのものは、白地にカラフルな紫陽花が映えていて――アンネエルカ自身も華やかな笑顔をは見せていた。
大好きな皆とだから、気合を入れてオシャレした甲斐があったと。
「ふふ、とっても嬉しいわ!」
「ナンパされねぇように俺達から離れんなよ」
「転ばない様にも気をつけてね。せっかく素晴らしく素敵な装いなのだから」
と、言うアーシェルとセヴラン・クアルト自身もまた、黒地に縦縞の浴衣と、藍色のシンプルな浴衣姿。
そのまま四人が皆風情ある趣きで――まずは屋台巡りへと繰り出してゆく。
「良い匂い~」
クレアは見回しつつ、一角にきらりと輝く色を見つけた。
「見て見てこの飴すっごく綺麗な赤! 林檎飴っていうんだ~」
「まあ、とっても可愛いわ!」
「果物は色々あるみたい。皆はどれが良い?」
クレアが言うと……アーシェルは葡萄を選ぶ。セヴランも同じものにして、アンネエルカとクレアは苺と林檎を選択。
艶めく色と果実の甘酸っぱさを楽しみつつ――次の屋台へ向かった。
「東方の調味料はとても芳しいね。焼きとうもろこしか――」
セヴランが購入して食べると、香ばしい風味に、ん、と頷き一つ。皆にも分けて、一緒に堪能した。
傍らではアーシェルがかき氷を買っている。
「口の中で溶けて消えたぞ。食ってみろよ、セヴラン」
「手ずから食べさせてくれるのかい? じゃぁ遠慮なく――」
アーシェルのお言葉に甘え、セヴランは一口。しゃくっとした食感と快い冷たさを味わう。
女子達にも分けてあげると、二人はそのひんやり加減に笑顔を浮かべるのだった。
それからまた歩むと――金魚すくいを発見。
泳ぐ小さな魚達を、クレアは覗き込む。
「わ、かわいー!」
「金魚ってこんなに個性豊かなのね」
と、アンネエルカも思わず夢中だ。
「頬がふくふくなこの子も、お目目くりくりのこの子も――みんな可愛いわ!」
「じゃ、セヴランと俺で取ってやるよ」
言ってお金を支払い、ポイを受け取るのはアーシェルだ。
セヴランも頷いて続いていた。
「少々大人げないけれど――ここは狩人の意地を見せてあげようか」
「どの金魚が欲しいんだ?」
アーシェルが言うと、二人はそれぞれ可愛いと思った金魚を指す。
よし、と頷くアーシェルは早速始めて……ばりっ。いきなり破られた。
「これは……」
「中々難しいようだね」
セヴランも初回は敗戦。ポイをまじまじ見つめていた。
「がんばって!」
女子達が微笑ましく応援してくれると……二人は見合ってから再挑戦。
「水の中で優雅に衣をひらめかせるお嬢さん――僕の手に堕ちてくれるかい?」
と、セヴランが華麗にゲットすると、アーシェルも今度は成功。
「ありがとー! 大切にするね」
「私も、大事に大事に育てるわね……!」
そんな二人の笑顔が何より嬉しいから……アーシェル達も満足の心持ちだった。
その後皆でお願い事へ。
「形に記し、燃やして天に届ける、か。正に言の葉だね」
短冊を手にとりセヴランは少々思案。
「さて、何を書こうか」
「ボクは……ふふー、内緒!」
クレアがそっと、『皆とこれからも沢山素敵な時間を過ごせますように』と記して結ぶと、ならばとアンネエルカもこっそりと。
――皆の夢と笑顔が輝きますように!
そんな二人に微笑みながら、セヴランもさらさらと綴る。『この先も皆の願い事が叶うのを、心穏やかに見守れますように』と。
「まあ、まだ若いんだけどね僕も」
と、呟きも零しながら。
アルフィー・リッパーも笹のもとで願い事。
筆をとって、『自分の身近な人を護れるだけの力が欲しい』と記していた。
「ま、自分自身でも努力しなきゃいけないんだけどな――」
そう独りごちながら……近くにアーシェルを見つけて軽く手を上げた。
「あんたも来てたんだな。短冊、書いたのか」
「ああ」
アーシェルは応えつつ、「見せねぇぞ」と、照れたように微かに赤い頬でそれを笹に結んでいる。
それでもちらりと見えたそれは――『大切な奴等と1秒でも長く一緒にいたい』。胸に秘めた、飾らぬ願いだった。
(良い願いだな)
アルフィーは思いながら、自分のものも笹に結ぶ。
「俺も書いたぜ。教えねーけど」
言いつつも……風に揺れるそれがひらひらと見えてはいたけれど。
アルフィーはそうだ、と思い立つ。
「出店回ってきたなら、なんか美味しい店教えてくれよ」
「屋台の食い物は全部美味かったな。特にかき氷。あれは食っとけ」
応えるアーシェルは、わしゃっと頭を撫でた。
「ここで待ってる。ゆっくりして来いよ」
「待っててくれなくて良いけど――」
返しつつも、アルフィーはそれが嬉しくて。
早速歩み出して、美しい風鈴をお土産にと購入。かき氷も食べながら――空に上がる花火を眺めた。
「昔はこんな景色があるなんてこと知らなかったな」
出来れば、一緒に見たかったと。
亡き友の事を思いながら――アルフィーは暫し光を見つめていた。
折角だから現地での装いにしよう、と。
そんな総意によって、ふしぎ亭の一行は祭りの前に貸衣装屋へ訪れていた。
「この浴衣? ってお祭り行くのにも着るんだね~」
中に並ぶ和装の涼やかな美しさに、アルラ・ニグラスは楽しげな笑み。イル・シャーリィも始めてチャレンジする浴衣に興味深げだ。
「アリィはどれにする?」
「んー、じゃあ、これ」
と、薄緑の風流な一枚を指すのアリエッタ。頷くイルは、自身は上品な白を選び、着付けを手伝い合おうと奥の更衣室へ歩んでゆく。
そこへ同道するテュリン・ヴィングは、橙色の暖かみのある浴衣を選んでいた。
「みんな可愛いわね」
「楽しみだね!」
と、赤色の浴衣を手にしているのはヒロ・テスタロッサ。翡翠色を選んだアルラも加わって、早速着替えようと皆で服を脱ぎ始めていた。
そんなふうに皆が奥でわいわいとする中……店の方できょろきょろしているのはララベル・サン・ディーベル。
自身のものを選ぶのに夢中で……ふと皆が近くにいない事に気づく。
「あれ? 皆……あっ、向こうか」
そうして奥にいるらしいと知ると、そちらに歩んで――よく確認せずにがらり。
「みんな、もう準備できたの……って」
見えるのは勿論、着替え中の女子達。
丁度皆が下着になっていたところで……イルは一瞬驚いてから、こめかみを引きつらせた。
「なんでここで入ってくるのかしら……?」
「はわわわ、ごめん――!」
顔を真っ赤にしながらも、わたわたと惑うばかりのララベル。
そんな姿に微笑みを返したアルラは、下着のまま歩み寄って――
「まだダ~メ」
優しく言ってから扉をぴしゃりと閉める。
浴衣を羽織りながら、テュリンは軽くため息をつくのだった。
「ベルはいつもどおりね」
「……これだから油断出来ないのよ、気をつけてねアリィ」
イルは呆れつつ、アリエッタに浴衣を着せて帯を締めてあげる。後ろを向いていたアリエッタは「?」と小首を傾げているのだった。
「じゃーん、どうだ?」
着替え終わった皆は外へ。ヒロはくるりと回って、鮮やかな色合いの装いを改めてララベルに見せていた。
「皆、とっても似合ってるよ!」
その可愛さに、ララベルは素直に応えつつ――共に通りへ出発。
「お祭りお祭りー♪」
下駄のカラカラという音が楽しくて、アリエッタは音を立てながら歩む。
「でもでも、七夕って私は聞いたことないんだけど、どういうの?」
「願いを書いて結ぶんだって。シャルガネには風流なイベントがあるんだね♪」
ヒロも上機嫌に続きつつ――見えてくるのは提灯の灯る屋台。テュリンは興味深げに視線を巡らせていた。
「何か買っていきましょうよ」
「じゃあ、あれはどうかしら」
と、イルが杏飴を見つければ皆で買って。甘味を楽しみつつ、更に焼きそばや焼きとうもろこしの香ばしさも堪能して。
苺飴が気に入ったアリエッタはそれをララベルへ差し出す。
「ララベルも食べる? はい、あーん」
「いいの? ……あーん」
少し照れつつララベルが受け取ると、アリエッタもふと遅れて意識して……顔を真っ赤にして視線を下げる。
そんな様子も見つつ、アルラも杏飴を食べて……祭りの空気故か、いつもよりも美味しく感じて笑みを零していた。
と、ヒロが金魚すくいの屋台を見つける。
「ん? これは食べもの?」
「とって飼うんだって。勝負する?」
勝ったら何でも一つお願い聞いちゃうよ、と。
ララベルが言えば皆もそれならばと頷いて、全員でチャレンジ。
「よーし、たくさんゲットしちゃうよー♪」
と、まずはヒロがポイを手にして……慎重に水に入れると、金魚の動きよく見てすくい上げて一匹をゲット。
「上手ね」
それを横目にイルもまた、上手くポイの角度を浅くして――そっと乗せるように一匹、二匹ととってゆく。
「アリィはどう?」
「難しいけど、でも面白いね」
アリエッタも言いつつも優しく導くように数匹をポイに導いてすくっていた。
「わぁ、皆すごい……」
感心の面持ちのララベルもまた、何とかすくいつつ――ふと逆側を見やると、そちらを泳ぐ金魚は他より活発なようで。
「中々元気な子ね」
「ええ」
そちらでポイを動かすアルラとテュリンは中々に苦戦。
それでも次々に桶に入れてゆくけれど……それぞれにポイに乗せていた、特に元気な金魚が同時に――ぴょん。二人の浴衣の間に滑り込んだ。
「きゃっ?」
「ちょ、ちょっとこれは色々とマズイわよおおおっ」
テュリンは取ろうとじたばたするが、それで逆に浴衣がはだけてゆく。
アルラの浴衣もまた「いっ、今取るから」とララベルが手を入れるが……窮屈だからと胸元を緩くしていた為か、こちらもあれよと言う間にほどけていって――暫し対決どころではなくなるのだった。
それでも何とか再開して勝負を終えると――僅差だが、ララベル一人が横並びの皆に負けるという結果に。
「やった、出店で何かおごってね?」
アリエッタの言葉に、ララベルは勿論と頷くのだった。
「金魚はふしぎ亭で飼おう!」
ヒロはとった金魚を大事に提げ――その後皆で散策を再開。
「外国の踊りは少し毛色が違うのね」
趣きある七夕踊にイルが参加するのを、皆で眺めたりしながら……賑やかな時間を楽しんでゆく。
最後に皆は短冊を書いてゆく事にした。
「ここに結ぶんだ。ロマンチックだねー♪」
「ええ」
筆をとるヒロに応えつつ、アルラが綴ったのは『ベルやみんなと楽しく過ごせますように』。
アリエッタも『みんなで楽しく過ごせますように』と書くと……ヒロは少々迷ってから、『皆の願い事が叶いますように』としたためて。
ララベルはその傍らでこっそりと『みんなと今以上の仲になれます様に』と綴っていた。
「これでよしっと」
「楽しかったわね」
いつもの如くトラブルはあったけれど、と。
テュリンが星の見え始めた空を仰ぐと、ララベルも頷く。
「うん。――そうだ。皆へプレゼント」
と、買ってあった風鈴を皆へ贈る。今年の夏はふしぎ亭に涼しい音が響くように、と。
イルはありがとう、と大事に受け取る。
「素敵ね」
「わぁ、きれい」
アリエッタは何度も鳴らしてみながら、その音色に耳を澄ませて笑顔。
「ありがとう」
「喜んで貰えてよかった」
それが何よりだから、と。ララベルもまた笑みを返し……皆とまた祭りへ歩み出す。
「ま、形から入るのも悪くないだろ」
という海神・江流の提案により、同道する一行はまず貸衣装屋に寄っていた。
「これがシャルガネ名産のユカタか……色々な柄があるな」
と、店内に並ぶ多様な柄を眺めるのはスヴァン=ウォルフ=ユーウェン。浴衣の数々に視線を迷わせている。
「どれにしようか――」
「俺はこれを」
言って隣でエル=バ=ノイアンが選んだのは、藍色が上品な浴衣。更衣室で着付けてくると――髪をざっくりと編んだ風流な装いとなっていた。
「成程、良く合っている」
呟いたスヴァンは、暗めの臙脂色を選択。落ち着いた優美さと雅さを兼ねた見目となる。
江流は感心の面持ちだ。
「良いじゃないか」
「……あ、あの」
と、そこにかろりと下駄を鳴らしてくるのが……ガルシア。
その浴衣は可憐な牡丹の柄。何気なく、一番に江流に見せるように軽く袖を持ち上げる。
「……ど、どうでしょうか? おかしなところは、ありませんか?」
「とても良く似合ってるよ」
江流が素直に言うと、ガルシアは少しほっとして。それから後に続いて、ルベア・ベルニも歩み出てきた。
「涼しくていいわね」
言ってさらりと撫ぜる生地は乱菊柄。華やかながら淑やかで、人目を惹いている。
「そちらも綺麗ね」
「ありがとう」
応えて笑むのはシルヴィア・A・カペル。
その浴衣は桜文で、淡い桃色が趣深い。花の主張は強すぎず、嫋やかな見栄えで……品のある佇まいと合っていた。
「皆さん、いい感じですねえ」
と、最後に合流したのはギーゼラ。
こちらは椿をあしらった、あでやかな女性物の浴衣。
「フフフフフ、華やかでいいでしょう?」
「現地人が着るのとはまた違った趣があっていいな」
皆の姿に江流が実感していると、シルヴィアは江流を見返す。
「江流はやっぱり街の雰囲気に馴染んでるね」
江流の格好は紺の甚平だった。楽だからという理由だが、実際、江流の容姿と相まって違和感がなかった。
江流はありがとう、と歩み出す。
「じゃ、行こうか」
「……そういえば、タナボタとは、食べ物の事なんだろうか……?」
「七夕は節日の事だね」
と、スヴァンに応えつつ、江流は皆を案内し始めていた。
目的地は屋台だ。賑やかさと、漂う良い匂いの中で……まずはシルヴィアが林檎飴に興味を惹かれて、ルベアと共に購入。ガルシアにも勧める。
ガルシアは早速頂いて……その甘さに少し目を見開いた。
「甘い!」
「……美味しい」
ルベアも少々感嘆を零す。仄かにぱりっとした飴と、果実の瑞々しさが魅力的で……シルヴィアも味わって頷く。
「飴とりんごの食感の違いが良いね」
「ええ。1つで2度味わえるってこのことよね」
ルベアも同意していると、シルヴィアはガルシアへも笑みかける。
「お菓子もたまには良いだろう?」
「……そう……ですね。ありがとうございます、シルヴィア様」
ガルシアはそれに少し表情を和らげていた。
「確かに美味しいですね。おや?」
と、同じく林檎飴を舐めていたギーゼラは、傍に湯気の上がる屋台を発見。
「じゃがバターですか」
「蒸したじゃがいもにバターと……この茶色いものは、ミソ?」
ノイアンも覗き込む。とりあえず買ってみて、はふりと食べてみると……何ともまろやかな旨味が広がって。
「ほう、これはなかなか……塩気が癖になる」
「甘いものとループ出来ますねえ」
ギーゼラもほふほふと味わいつつ、更に焼きとうもろこしも購入。ノイアンも同じものを買って、香ばしい風味に物珍しげだ。
「この甘辛いタレは一体……」
「醤油だね。砂糖も入ってて焦げ目が美味しくなってる」
江流も説明しつつ、馴染み深い味わいを楽しんでいた。
スヴァンも食べながら……ふと隣の屋台に甘い匂いを察知して振り向く。
「これは、チョコレートの香り……」
「バナナにチョコを塗っているのか」
ノイアンもそちらに目をやっていると……スヴァンは迅速に動いて購入。厳粛な面持ちで、もぐもぐとチョコバナナを堪能するのだった。
「……うむ。美味だ」
「チョコもバナナも甘い、のに、しつこくはない……?」
ルベアも買って実食し、初めての味わいに何とも不思議な表情なのだった。
江流は玩具のハッカパイプで、仄かな甘味を楽しみつつ……皆の案内を続ける。
と、不意にギーゼラが横の屋台に反応した。
「あれは――」
「ん? ああ、金魚すくいか。いいね」
「金魚救い!! これはやらないわけにはいきませんねぇ!」
江流の言葉にも嬉しげに、ギーゼラは屋台に走って説明を聞き始める。
「ふむふむ、救った後にだぁいじに育てないとすぐ死んでしまう……あぁ素晴らしい!!」
「何か勘違いしてそうな……まあいいか」
江流が呟きつつそこへ歩むと、皆も暫し寄っていく事になった。
「紙ですくうのか。面白い遊びだね」
シルヴィアはポイを受け取り気合を入れる。遊びは全力でやるからこそ面白いのだと。
「折角だ。競わせて貰おう」
「じゃ、俺も本気で」
と、江流も水平に水を切るようにポイを入れ、金魚をすくい始める。
ノイアンも挑戦。不規則に動く金魚を観察し、破けぬように慎重にすくおうとして――
「あっ」
「……かなり難易度は高いようだな」
それを横目に、スヴァンも精神統一。
「金魚をRescueするなら、もっと慈悲が必要という事か」
呟くと力を出来る限り調整し、上手く金魚をポイに乗せて……何とか桶に一匹入れるのだった。
「成程」
ノイアンはそれを見つつ再チャレンジ。今度は上手くすくってゆく。
そんなやり取りを微笑ましげに眺めつつ、シルヴィアも挑戦する、けれど。
「……あ、破れた」
こちらもまた少々苦戦しつつ、それでも徐々に慣れてゆくのだった。
一方ルベアは器用さを発揮して一匹、二匹とゲットしている。
「中々楽しいわね」
ただ、その横では……ギーゼラが何度やってもポイが破けてしまっていた。
「手掴みじゃ駄目ですか? 駄目? はぁ、ヒールが通用しない救いは難しいですねぇ」
少々しょぼんとする。
と――シルヴィアが自身の金魚をギーゼラへ贈る。
「君の方が育てるのが上手そうだ」
「……いいんですか?」
「私も、沢山とれましたので」
と、差し出すのはガルシア。江流やノイアンもまた金魚をあげて……ギーゼラは満足げに笑んでいた。
「ありがとうございます! 僕がちゃぁんと可愛がってあげますねぇ!」
そうしてギラギラとした瞳で、金魚を見つめているのだった。
ふと、そんな中に吹く夏風が爽やかで。
(……こうして大勢と一緒に祭りを楽しむのも、悪くないな)
ノイアンは実感を心に抱いていた。
その後自由行動に移ると、ルベアは装飾品店へ。
「これ、綺麗ね」
と、桜をモチーフにした簪を見つけて、買う事にしていた。
そんな時間も楽しくて。
冒険者になりたての頃は気持ちに余裕は無かったけど。最近少し、周りが見えるようになった気がする。
これはそうして見えた日常の象徴として……大事にしようと、そう思った。
一方、ガルシアは笹のもとへ歩み、短冊に願いを綴っていた。
それは――『彼と仲良くなりたい』。
「……いつか、きっと」
胸の中にある思い。
それを星へ託すように、そっと笹に掛けていた。
「えへへ、またきちゃったさぁ♪ ふーりん、綺麗……」
祭りの賑わいに、響く風鈴の音が魅力的で――フリューリングスルフト=ティエラは笑顔で歩みゆく。
「ひとつ下さいさぁ♪」
勿論、自分でも入手し音を楽しんで。お土産にもまた美しい風鈴を購入して上機嫌。
――りんりんりーん、ちりりんりーん、吹く風鳴らす澄んだ音、君に告げる言葉の代わり、りんりんちりりん。
――りんりんちりりん、一緒に歌おう、鳴らす君と歌うあたし、りんりんりーん、ちりりんりーん。
歌を口遊み、宣伝にもなればと人々の耳を楽しませていた。
それから、屋台を見つければ――
「ひゃぁーー! 全部おいしそうっ……! 今回も全部食べ尽くしてやるさぁ!」
お財布は散財する為にあるのだとばかり、早速走り出す。
と、同じ店にて丁度行き合ったのが――ベアトリーチェ・カロッサ。
「かき氷食べるの?」
「うん!」
「アタシもなんだ。やっぱり夏は冷たーいものが美味しいよねー♪」
言ってベアトリーチェが笑顔でかき氷を買うと、頷くフリューも同じく購入。快いひんやり感と、強めの甘味を共に堪能した。
次に焼きとうもろこしの店に寄ると、同時に訪れたのが――ヴィルヘルミナ。家並みを眺めながら、屋台へ食べ物を探しに来ていたのだ。
「焼きとうもろこし、ですか」
「一緒に食べようよ!」
ベアトリーチェの言葉に、ヴィルヘルミナは頷く。
シャルガネは初めてであるし、現地らしい味を求めてもいた所。それを共に買うと……醤油の香ばしさに、とうもろこしの甘さがよくマッチしていた。
「美味ですね」
それからも苺飴など幾つかを食べながら……皆と暫し歩んでゆく。
ヨル・スレイマンは屋台に見て回りながら――笹のある場所へ。
飲食より、今日はそれが目当てでもあった。
「アミュレットとしては随分大きいな」
なるほどこういう願掛けもある、と。異郷の神事をしかと心に留めておこうと仰いでいると……町人に「如何ですか?」と短冊を渡される。
「短冊、か」
「――これに願いを書いて吊るせばいいのですね!」
と、すぐ隣。明るい声音で受け取っているのは――エルナ・クルプファルツ。筆も手にとり、少々思案していた。
更にそこにヴィルヘルミナやフリュー、ベアトリーチェもやってきて。
「願い事を書くん? やるさぁ!」
フリューが大事な友人二人を思い浮かべ『三人で元気に沢山冒険できますように』と綴ると――ベアトリーチェは『たくさんの人とお友達になりたい!』と書いて結ぶ。
ヴィルヘルミナも『健やかでありますように』としたためて。
「何事も健康な体ありきですからね」
「ではでは、私は――」
と、エルナは『ドキドキワクワクな冒険が沢山できますように!』と書いて吊るしていた。
そんな皆を見つつ、ヨルは――
(意外と何かはあるような気がしていたけど)
どうしても書く事が出来なかった。
(……そうだな。わざわざ神に聞いてもらうようなことは、もう)
思うと、そっと手を伸ばし……何も書かずに笹に結ぶ。もし願いが叶うなら、自分の分を他に回してくれたらいい、と。
そうして皆がそれぞれに歩み出す。
ヴィルヘルミナは翠の園へ。静けさを楽しみつつ――
「風が気持ちいいですね」
それに鳴き声を返す、ペットのカカポと暫し戯れて過ごすのだった。
軽やかな囃子に乗せて、七夕踊が始まる。
「わぁ、面白そう!」
と、ベアトリーチェはそこに参加していた。
振り付けは難しくないけれどリズミカルで。鼓と笛の音に合わせ、粋な踊りを踊ってゆく。
「そろそろ神輿っていうのも始まるかな」
言ってベアトリーチェが視線を向ける通りの向こう。
その神社に――エルナが訪れていた。
「これがシャルガネの神殿なのですね!」
以前、東の遠洋で見たものと似ている気もして、その拝殿を見つめる。
ここに伝わったのはそこで祀られていた藍海尊とは違う、泰平の神だけれど……人々から敬われているのは同じだと判るから。
エルナはしっかりと参拝してから……丁度準備の始まる神輿にも興味津々。
「これがお神輿ですか! なんだか楽しそうです!」
皆で担いで練り歩くと聞いて、すぐに参加を決意。法被に鉢巻も身につけて。
「ワッショイ! ワッショイ!」
町人らと共に楽しく、威勢良く――街を巡ってゆくのだった。
宵の頃になると、どん、どんと空に光の花が咲く。
それをヨルは仰いでいた。
「はー、見事だな」
花火は初めて。星とは違う鮮やかさに、暫し茫然となっていた。
「これはすごいな」
「綺麗なだけの魔術、これはこれでいいものだな」
そうして夜風の中、それが終わるまで空を見つめていた。
ヴィルヘルミナもまた最後の花火が消えゆく所を眺めていた。
「綺麗でしたね」
カカポに話しかけていると……遠い人々の喝采が徐々に収まり、静かになってゆく。
祭りもそろそろ、終わりに向かい始めるだろうか。
「何か、お土産でも見ていきましょうか」
和菓子に工芸品、日用品。
まだまだ見るべき所はありそうだから、と。ヴィルヘルミナはそれを楽しみに、ゆっくりと歩んでいった。
その一角、食事処にやってきたバクル・バスリーは――ふと見知った人影を見つけた。
「あ、リサさん。こんにちは」
「あら? バクルさん」
お久しぶりです、と微笑むのはリサ・ベイカー。
こちらも今から食事ということで――折角だからと同席する事にした。
「リサさんも祭りを楽しみに来たの?」
「ええ。別件での仕事の帰りで」
「ぼくと同じだね」
これから祭りを歩くので……二人とも食事は軽めのお刺身定食。新鮮で甘い白身と醤油の相性を楽しみつつ――バクルは提案する。
「もし良かったら一緒に回る?」
「良いのですか? では、お言葉に甘えさせて頂きます」
リサが応えると……お茶で小休止してから、共に大通りへ出た。
「バクルさん、最近はどうですか?」
「冒険は続けてるよ。迷宮にも潜ってるし」
近況を話しつつ歩んでいると、威勢のいい呼び声を響かせる屋台が見えてくる。
風情ある家並みと共に、リサは興味深げでもあった。
「素敵な街ですよね。異国情緒溢れると言うか、趣きがあって――何度か商会の仕事で来た事ありますが、その都度違う表情があるんですよね」
「うん。ぼくもそう思う。見慣れなくて……だから本当に面白いんだよね」
それに、とバクルは声を楽しげにして。
「武器も気になるんだよね。ロスガリア大陸以外の技術を使ったものもあって……」
今日もここに来る前、刀剣の店や護身用の武器を見てきた所なのだった。
リサはそれにくすりと笑みながら……焼きとうもろこしを見つける。
「美味しそうですね。買いましょう!」
というわけで早速調達。焦げた醤油の香ばしさに、二人で舌鼓。それから甘味の店で団子に饅頭、くずきりも楽しんで。
「次、何食べようか?」
「そうですね……あ、かき氷がありますよ」
見つけたそこで、蜜をたっぷりかけたかき氷を実食。きんと冷える冷たさを堪能する。
その後では輪投げの店に立ち寄って――
「えいっ……結構難しいね?」
「次は成功させますよ。……やったぁ!」
腹ごなしにと体を動かして――景品のお菓子もゲットしたのだった。
白妙の生地に、上品な赤の花。
そんな美しい柄の浴衣を着たコルネリウス・アーラと共に、イズレンディル・パラリムもまた優美な風合いの浴衣を纏い――共に道を歩みゆく。
「あ、これ……」
和の街はお土産一つとっても、心を惹く。
コルネリウスがふと店先に目を留めると、手を繋ぐイズレンディルも足を止めていた。
「これは髪留め……ではなく簪というのですね」
「初めて見ました……不思議な形ですね」
見ると並ぶ品はどれも精緻で魅力的で。
「飾りも様々で綺麗ですね。お互いのを選んでみましょうか?」
言ってイズレンディルが決めたのは――紺色の飾り石がついた二本足の簪。
その可憐さに瞳を細めるコルネリウスも、幾つかの中から少し悩んで――
「イズさんには、此方は如何でしょう?」
月と橙の石飾りがついた二足のものを選んだ。
「素敵ですね」
嬉しいです、と。応えるイズレンディルは――買ったものを手に微笑みかける。
「折角ですからここで付けましょうか。私が付けますね」
「良いんですか?」
「ええ」
言いながら、イズレンディルはその場でコルネリウスの髪をそっと纏めて、簪を挿す。すると清楚さに可憐さも加わって。
「とても似合っていますね! 落ち着いた華やかさで可愛らしいです」
「ありがとうございます――」
嬉しさに笑むコルネリウスは、自分も、と。
「わ、私も……イズさんに付けたいです」
そうしてイズレンディルの髪に触れ――静かに纏めて簪で飾った。
「イズさんも、とても素敵です!」
「ありがとうございます」
「……お揃い、ですね」
「ふふ、そうですね」
くるっと回って互いの姿を確認しながら、笑みを交わして。
気づけば日も落ちてきているから、イズレンディルは手をつなぎ直す。
「もうすぐ花火の時間ですね。行きましょう」
「はい、花火も楽しみですね」
コルネリウスも嬉しそうにはにかんで、ご機嫌な足取りで歩みを再開した。
そうして快い震動と共に、空が煌めくと……その美しさを、二人で暫くの間見つめていた。
浴衣の着付けを済ませたテス・クラルスとロイ・アウレアは、一緒に祭りへと歩み出す所だった。
「華やかなのが良く似合う……」
ロイが目を細めて眺めるテスのものは、白地に赤い金魚が艶やかに泳ぐ、涼し気な女性物。
「ふふ、ありがとう」
笑んでテスが見つめ返すロイは、暗緑色の縦縞のしじら織りに、角帯が上品なアクセント。
「キモノでワビサビ、これで完璧だね」
「成程、祭りをワビサビっていうのか……」
ロイが何やら間違って記憶しながらも――二人は風流な佇まいで早速屋台へ向かう。
笛の音に提灯と、開放的で楽し気な空気の中……テスはおっと何かを発見した。
「あれはマスケラかい? シャルガネも仮装するのかな」
「お面、か。確かに付けてる人が結構居るね」
という事で、テスは狐面を購入しご機嫌。
「どう?」
「似合うよ」
言いつつロイも黒狐を買って斜めに被り、腕組みポーズでおどけた笑み。それにテスも「とても似合う」と、楽しげなのだった。
そうして歩みを再開すると……テスは色に惹かれて林檎飴を購入し食べてみる、と。
「すっぱい!」
割と予想外を突かれた驚きと共に……それをロイへ差し出した。
「はい、あーん」
「こういう時は積極的にくれるね……」
ロイも笑いつつ、酸っぱそうにふざけつつ齧ってみたりする。
そんなやり取りをしつつ――
「逸れるぞ」
人の流れが増す中、ロイが手を繋ぎ、二人で花火へ。
「あんな魔法使ってみたいね」
夜空に浮かぶ光の筋、そして花開くような大輪の光。
テスは感嘆を覚えつつ、照らされたロイがキラキラと輝くのを見て。
「ロイ、少し屈んで?」
「――ん」
言うとおりにしたロイと、お面で口元を隠しながらキスをした。
最後は短冊に願い事を綴る。
テスが『2人の時間が末永く続きますように』と書いて結ぶのを見ると――ロイはそっとテスを抱き寄せて。
「オレが叶えるから祈らなくても大丈夫」
「ロイ……」
また、星空に花火が一つ。
大きな音と眩い光の下で――二人は寄り添い、ゆったりとした時間を送っていった。
賑やかな熱気に満ちる神社。
ルルト・アーキスとアルバス・ロウルは神輿担ぎに参加するところだ。
「わぁ、楽しそう」
漆と金の細工が美しい神輿には、既に鉢巻をした町人が集まっている。二人は早速担ぎ方を教えて貰い、皆で持ち上げるのに加わると――
「うわわ……」
ルルトは身長差で宙に浮いてしまうけれど。
それでもアルバスが当て木を持ってくると、何とか地面に足がついた。
「これで平気だな」
「ありがとう!」
そうして『神の霊威を高め、一層の泰平を願う』という心構えもしかと教わって――夕刻。十人を超える町人と共に神輿を上げ、本番が始まる。
道には既に人が詰めかけ、ひと目見ようと活気に溢れていた。その中を、ルルトとアルバスは担ぎ棒を支えて踏み出してゆく。
「わっしょい! わっしょーい!」
「わっしょい!」
タイミングを合わせ、曲がり角でも一生懸命ついていって。人々の喝采に送られながら――気づけば一巡りして神社へ帰ってきていた。
「無事か! 肩は痛くないか!?」
「うん! 疲れたけど楽しかったんだよ♪」
アルバスが配慮してくれていたからだと、ルルトは笑顔で応えた。
「ならばよし!」
アルバスも元気に笑顔を返すと……その後二人はかき氷を買って休憩へ。
甘くて冷たくて、ほわっと幸せな味で。
「んー……! おいしいっ♪」
「これはいいな」
火照った体に染みるから、アルバスも一気に口に流し込む……と、頭がキーンと痛くなった。
「……大丈夫?」
「うむ……大、丈夫、だ……!」
言いつつ、アルバス暫し頭を押さえているのだった。
それから観光へ歩み出し――音に惹かれて風鈴を買う事にする。
「これは綺麗だな」
「こっちも可愛いよ?」
迷いつつ、ルルトが特に気に入ったのは花火柄。鮮やかで、優美で。
「ボクはこれにする♪」
「では、俺はこれにしよう」
と、アルバスが決めたのは金魚柄。透明な器に黒と赤の魚が描かれていて、吊るせば空に浮かぶ水槽の様で。
「睡狼の皆にも買っていこう」
二人で見せ合いながら、お土産にもまた綺麗なものを選んでゆくのだった。
「ひらひらしてて可愛いー!」
桜模様の浴衣姿で、くるくるくる。
エフィルミアは上機嫌な足取りで祭りに歩み出している。
「帯もリボンみたいで可愛いー! シャルガネ凄い!」
「うん……この服、柔らかくて寝心地よさそう」
と、隣のヘレン・ワーグナーは対照的に眠たげながら、その感触は悪くなさそうだ。
そんな二人を連れるのが、イズル・M・ヴォルゴール。屋台を見つけて前方を指していた。
「何か買っていこう」
「うん! ……わぁ、綺麗!」
と、エフィルミアは早速苺飴に惹かれて入手し、その甘酸っぱさに笑顔。
ヘレンも同じものをつまみつつ――物珍しげに視線を巡らせている。
「初めて見る食べ物ばっかり……。新鮮な魚も売ってるし」
「……あれはとって遊ぶものでは?」
金魚すくいの屋台をみとめて、イズルはつっこみを入れつつ――自身も暫し、風情ある景色を見回していた。
(東方の風習、母上はどれくらい知ってるんだろう)
思うのは故郷の事。
少しだけ、郷愁を感じながら……ふと笹を見つけて立ち止まる。
「書いていこうか」
「うん!」
と、エフィルミアが書いた願いは『最速最強になるぞ!』。この手で叶えるという、自身への誓いでもあった。
「んー……それじゃあ、これを」
言ってヘレンが『安眠祈願』と書いて結べば……イズルが綴るのは『領地の安寧』だ。
今は平和だが、各地で戦火が絶えないだけに未来は予想が出来ない。だからこそ――どうか変わらず平和でありますように、と。
その後はお土産選び。
「記念に皆でお揃いのアクセサリー買わない?」
「いいよ……どれにする?」
ヘレンの言葉にエフィルミアが選んだのは――透かし彫りで描かれた桜が美しい、革紐のシルバーネックレスだ。
「おー……いいんじゃないかな」
「じゃあ決定! ふっふっふー! 今の私はお金あるよ!」
という訳でエフィルミアが揃いで購入。
「ヘレンちゃんもイズルくんも似合うよー!」
「ありがとう。それじゃあこれも」
と、イズルはヘレンの誕生日プレゼントに桜模様のバングルも買うのだった。
そうして翠の園へ散策に向かうと――空に光。
大輪の花火だ。
「きれい!」
見上げるエフィルミアは、どこか楽しくも安らかな心地になる。
そしてふと過日を思い出した。
「前の事、思い出しちゃった。出会ったときの事」
「あの時はイズルが泊めてくれなかったら、道端で夜を明かすとこだったねー……」
「イズルくんに拾って貰ったから、毎日美味しいご飯と暖かい寝床があるんだもんね!」
「そうだったな」
二人の言葉に、イズルも思い出すように頷く。
それがどこか昨日の事のようで。不意に視線を下ろすと……いつの間にかヘレンが横になって寝息を立てていた。
イズルは起こさぬよう、背負って帰路へ歩む。
「あのまま野宿してたら、今頃ヘレンはどうしてたんだろうな」
最初はお金をろくに持たずに店に来て、散々な出会いだったけど。
でも、二人に手を差し伸べてよかったかも知れない。この温かな時間に、そんな思いも抱くのだった。
「はわぁ……風鈴と紫陽花が綺麗っ!」
短冊もまた風に舞って美しく。サフィラ・アズラク・ナハルハルアリーブは夏の和の景色に瞳を輝かせていた。
「風流だねっ!」
「そうだな」
と、隣で頷くのはハヤト=ガラン=ヴォルファング。景色を眺めながら――まず向かったのは神社だ。
「およ? ハヤト、お神輿参加するのっ?」
「シャルガネの祭りったらこれが醍醐味だからな!」
という訳でそのまま境内へ。
ならばとサフィラもやる気を見せ、法被にサラシ姿へと着替えてくる。
(っつーか、サフィラのサラシとかマジヤベェな……)
横目に思いながら、それでもハヤトはしっかり担ぎ方を教えてあげて。
「下手に担ぐと肩を痛めっからな。リズムに合わせて担ぐのがコツだ!」
「うん! こんな感じ?」
「おう!」
その内に本番が始まり、町人らと共に担いで通りへ。
「盛り上げてくよっ! わっしょーい!!」
「わっしょい!」
ハヤトも掛け声を響かせると、皆がそれにリズムを合わせ。人波の中を威勢よく進み――神社まで一周したのだった。
それからサフィラは軽く湯を浴びて汗を流し――薄い桜色に朝顔の柄が入った浴衣へと着替えてくる。
「おまたせっ! えへへ、どうかなっ? 似合ってるっ?」
「おお、勿論だ!」
そのまま二人は腹拵えにと屋台へ。
まずは焼きそばを見つけてハヤトが二人分購入。
「ん、おいしいっ!」
「なかなかだろ? これを食べさせてやりたかったんだよな♪」
更に甘い匂いに惹かれたサフィラが林檎飴を見つけて走り寄っていた。
「ねぇねぇ、いっしょに食べよっ!」
「いいぜ」
それも二人分買って、食べながら歩む。
途中で箸巻きがあれば、それも買って味わいつつ――サフィラはさりげなく腕を組んでいた。
ハヤトは無論気づいていながらも……気になる相手には逆に手が出せないタイプ。色々と我慢しつつもそのまま歩むのだった。
と、そこで空に眩い光。
「あ! 花火だ! ……一瞬で消えちゃうけど、すごく鮮烈だよね」
「そうだな。一緒に見られてよかったぜ」
見上げる空にまた光の花。美しく、楽しい煌めきを二人は見つめていた。
祭りに賑わう街。
ヴィナスは逸れないようにとカッシアの手をしっかりと握って歩みゆく。
「賑やかだな」
「――うん」
応えながら、カッシアはその手が気になって仕方なくて。
好きな相手と距離が近すぎるのも心臓によくない――かといって拒む気持ちはなく、自分もそうしたかったのだけれど。
「……」
そんな隣の緊張を、ヴィナスも鋭敏に感じ取っている。
勿論、言葉にはしない。自分だって――好意を持つ相手と手を繋いで緊張しない程、老成はしてないのだから。
「笹、あるね。寄っていこうか」
言って、葉の下で短冊を手にとった。そして何を書くか思案して……カッシアを見つめる。
カッシアの自分への好意は、気づいている。でもその種類が分からなくて、踏み込んでいいのかいけないのか、迷っていた。
だから願うことはひとつ。
『ハナミズキ』
いつか、この言葉と同じ未来があることを願って。
そんなヴィナスの様子に、カッシアもまた短冊に向き合う。
(といっても何書くか――)
正直今の生活に不満は無かった。種類は分からないけれど、ヴィナスがこちらをよく思っていくれているのは判るから。
――ヴィナとこうして出歩ける日々が楽しい。
(それで充分だ、きっと)
多分、それが今の精一杯。だからカッシアは『晴天祈願』と書いて結ぶ――出歩く口実に、「天気がいい」はきっと適しているから。
「花火、見に行こうか」
気づけば日が暮れていて、ヴィナスはまた手を握って歩み出す。カッシアも頷いて歩調を合わせ――空に開いた眩い光の花を仰いだ。
虹色に明滅する光。
「綺麗だよね」
「綺麗だな」
感想が重なって、カッシアは笑う。
だからヴィナスも表情を和らげて――こんな時間をカッシアと過ごせて良かったと心から思った。
好きだと今は言わないけれど……きっと、短冊の願いは叶うと信じて。
ヴィナスの笑みに、カッシアも幾分か、心を緩やかにしていた。
願わくば、次もヴィナスとこうして過ごしたい。晴れだったら、今度はこちらから誘ってもいい――そう思いながら。
時は僅かに遡り、ヴィナスとカッシアが街にやってくる頃。
ルーンス・ラグネルが建物の陰からその姿を捉えていた。
「来た来た……これはちゃんと見守らないと」
しっかりと、デバガメしてしまおうという魂胆である。
とはいえ一人では不審者だ。何かいい案はと、ルーンスは視線を巡らせ――そこにカイン・ステラを見つけた。
「ねーカインママ、付き合ってよ」
「誰がママだ」
解せぬ表情で応えたカインは、ルーンスと遠くのヴィナス達を交互に見て状況を飲み込む。
こっちは屋台で味の研究をしようと思っていた所だが――
「……不審者騒ぎになっても何だからな。仕方ない」
「やった! それじゃあレッツゴー」
という訳で二人の姿を見失わないようにしつつ、カモフラージュに屋台にも寄る事にした。
「お、これ、あるんだな」
と、見つけたのは魚の串焼き。カインの提案した桜塩が使われているのだ。
飲み物と共に買うと、その華やかな芳しさにルーンスも舌鼓。
「美味しいね」
「苺飴もあるぞ」
それは桜シロップを使っていて……香り高い甘味もまた共に楽しみつつ――カッシア達を追う形で笹にも辿り着く。
「短冊かぁ。カインだったら何を書く?」
「自分じゃどうにもできないこと願うかな。来年の今日も健康でいられますようにとかね」
カインが想起するのは過日の出来事。
(父さんも母さんも、じいちゃんもばあちゃんも――あの年から先、来年はなかった)
だから誰より、健康でいる事の重さを知っているから。
「ルーンスは?」
「僕は……未来が明るいものでありますように、かな!」
ルーンスはそう応えた。
(まーあの人らは僕の明るい未来には必要ないから退場してもらうけど……合法の範囲で)
ふと遠い家の事を思いつつ……次にはまた表情を明るくして。
「あ、花火!」
「すごいな」
カインは空の光に、瞳を細める。
「今日は幸せ貰ったなー!」
ルーンスが心から言えば、カインは目元を仄かに和らげる。
(ま、今は楽しむか)
折角の、美しく美味な時間なのだから、と。
夜風に花々がそよぐ。
翠の園へと、サマエラ=フォリウムは足を伸ばしていた。
「……ここは、落ち着くな」
少し休んでいこう、と。
東屋の一角に椅子を見つけて腰を下ろし、直ぐ側の川を眺める。
「良い小川だ。せせらぎが耳に心地好い……」
そうだ、と。そこでサマエラは買っていた風鈴を取り出した。
「耳にと言えば、これもそうか」
ちりん、と鳴らす。
それは高い音なのに澄んでいて優しくて。祭りの明るさの中でも良く映えるけれど――夜闇と、照る月光、その下で揺れる花、小川の流れ。
「ここの空気にも……また格別に、だ」
すると不意に別の明かりと音を感じる。
空を仰ぐと、光の大輪が開いていた。
「――ああ、花火か」
仄かな震動と眩さが、どこか遠かった喧騒を思い出させる。
「……しかし、静けさの中にあっても不快ではないな」
寧ろそれは快さを感じさせるようでもあって。
「一つ一つが、違う煌きなのだな」
涼しさの中、サマエラはその光の芸術を暫し見つめていた。
「ん、冷たくて……美味し」
ロゼットは屋台で買ったかき氷を食べつつ、道々を歩んでいた。
しゃくっとした歯ごたえとひんやり感、そして甘味が何とも快くて。
「これは、シグモルじゃ無理よねえ……」
呟きながら、今度は別の甘い芳香に惹かれて。
「こっちは飴で固めた……林檎かしら」
見つけた林檎飴を購入。
飴の甘さと果実の酸味が合ってて、こちらもまた美味だった。
食べ歩きを楽しみつつ、ロゼットは観光案内の冊子にも目を通している。
「『笹竹は天に向かってまっすぐ伸びる姿から、神様が宿る神聖なものとして――』……成程ね」
七夕の由来と共に、文化に根付いた信仰を学びながら……この独自の風合いを持った国と街を、紐解くように理解していった。
実際の笹を目にすれば、自身も短冊を手にとって。
『シグモル様のような、立派な神官になれますように』
真っ直ぐな思いを迷わず綴り、結ぶ。
「素敵な文化ね」
そうしてそよぐ短冊を仰ぎつつ――また食べ歩きへと向かった。
キーゼとネーヴェ・グラヌローザはまず貸衣装屋へ。それぞれに着付けを終えてから合流をしていた。
「とてもよくお似合いですよ」
と、キーゼが見つめるネーヴェの浴衣は生成り色地に、濃淡ピンクの大判芍薬柄。青い帯が清楚な色合いを際立たせている。
髪は結い上げて芍薬を飾り、私物の黒猫の髪飾りで留めて。美しさに可憐さを兼ねた装いだった。
「ふふ、キーゼさんも。いつも暗い色のお洋服だから、何だか新鮮ですね」
ネーヴェがはにかみつつ、見惚れるキーゼの姿は――白地の浴衣にこちらも青い帯。どこかネーヴェのイメージを思わせる清廉な色使いだ。
キーゼは礼を述べてから、ネーヴェの手を握って散策へ。ネーヴェも共に歩けるのが嬉しくて……共に風鈴に耳を傾けながら、宵空の下を歩み始める。
「それにしても、七夕、ですか」
キーゼは笹や七夕飾りに目を留め、呟く。
「確かあちらの伝承だと、遊びすぎが原因で年に一度の逢瀬しか出来ないよう罰せられた男女が始まりだとか……」
「罰とは言え、年に一度はあまりに酷ですね」
ネーヴェは顔を曇らせつつも、空を仰いだ。
「今頃は、想いを確かめ合っているでしょうか」
「かも知れませんね」
応えつつ、キーゼは屋台で適宜食事を買い、お土産も一緒に眺め……共に時間を過ごしてゆく。
そして人が増えてくれば改めて手を繋ぎ直して……人波から少し離れたタイミングで、丁度空に光が昇った。
花火だ。
「まぁ! 夜空に花が咲きましたわ。綺麗ですわね……!」
「ええ……綺麗ですね」
声に花咲かすネーヴェに、キーゼも頷いて見上げる。
光は次々に開き、多様な色彩と輝きで目を楽しませてくれる。それは無二の時間を祝福してくれているようで。
「……あなたと一緒に見られて、嬉しいです」
ネーヴェはキーゼに寄り添い、指を絡める。
キーゼもそっと頷いて、手にやわく力を込めていた。
「来年もまた、二人で伺うとしましょうか」
そしてまた美しい光を。思いと共に二人はまた、空を仰いでいた。
祭りの道は明るい賑わいに満ちている。
セロンガード・シュタインドルフとティトは、浴衣姿でその中へ歩み出していた。
「屋台、色々ありますね」
「ん……」
ティトは頷きながら、視線を右左。提灯の明かりと甘い匂いに誘われるように、ひとつひとつを見やっている。
「りんご飴ある、かな?」
「それなら、向こうに」
と、セロンガードが指す先に、綺麗な赤色があった。
早速二人で買って実食。甘酸っぱい美味にティトが瞳を細めていると、セロンガードもそれを微笑ましげに眺めつつ。
「おや、輪投げです」
やっていきましょうか、と。その屋台へ歩んで二人でチャレンジ。
「よっ……と、これは以外に難しいですね」
「でも、お菓子もらえるらしい、から」
頑張る、と気合を入れて、ティトは投擲。五本ほどの輪を全て入れて、見事景品のお菓子セットを手に入れたのだった。
「負けましたね。では次は金魚すくいで勝負は如何です?」
「うん。やってみる、ね」
と、その屋台でポイを片手に挑戦すれば、今度は二人で同じ数の金魚を手に入れて。
歩みを再開すると……今度はティトがあんず飴を見つけておねだり。
その甘味を楽しむと、次に苺飴も発見してお願いの視線。いっぱいのわがままに、セロンガードは「勿論」と応えて買ってあげて。祭りを存分に楽しみながら街を巡った。
そして一段落する頃には……ティトはベンチでうとうと。
「疲れてしまいましたか?」
「……ん」
ティトは手を伸ばして抱っこのリクエスト。
セロンガードは微笑んで、そっと抱え上げて。そのまま帰路へ向かう……と。
(……昔の浴衣って、確かきちんと着る時は下着をつけないのですよね?)
いつもセンシティブな辺りいつも攻めてくるのに、その辺り無意識だから小悪魔なものだ――と、少しだけ意識してから緩く首を振って、人波を進む。
「セロン……だいすき……」
喧騒の中で、そんなティトの寝言は聞こえたろうか。セロンガードはお姫様抱っこをしたまま――鮮やかな花と風鈴に彩られた道を歩んでいった。
「よーし、食べ歩きするぜ!!」
意気込みと共に、ナキルは賑わう屋台通りを歩んでいた。
賑やかな呼び声に、立ち昇る良い香りの煙。それに誘われるように――早速、焼きそばを見つけて購入。
「ん、これは美味いな!」
濃いめのソースに、刻み海苔に鰹節。旨味と香ばしさを堪能すると……次は苺飴を見つけて。
「塩気の後には甘いものだな!」
あむりと糖分を補給して、満足気に呟きながら――まだまだ新しい発見を求めて行脚。杏飴や林檎飴も味わいつつ、イカ焼きの芳しさやじゃがバターのまろやかさも楽しんだ。
「……ん? これが短冊か」
途中、笹を見つけて立ち止まる。
「んー」
願いが叶うと言われれば勿論、惹かれる……けれど。『背が伸びる』――それは少なくとも自分の中では確定事項なので。
「特に願いはねぇな……お、あそこにも珍しいモン売ってるな?」
と、すぐに屋台へ。
買った揚げ餅をはふはふと味わって……満足げに歩んでゆくのだった。
「これでいっそう、お祭りの気分なのですよ!」
神社にて、ハル・チフは法被に鉢巻、草履と粋な装い。
エルシー・サリバンもまた同じ格好で、嬉しげにクルクルと回っていた。
「この衣装、可愛いよね」
「うん……!」
頷くハルは、お揃いなのが嬉しくて……エルシーの姿も魅力的だったから。
「とっても可愛くて、似合ってるよ」
「ん……ハルも似合う……とっても格好良い」
エルシーが頬を染めると、ハルもまたそれが恥ずかしくも嬉しいのだった。
その内に町人達が神輿の準備を始めてゆく。神が乗る事で、地域の災厄や穢れを清めてゆく――そう聞いてエルシーは感心の面持ちだ。
「神様の乗り物だから華やかなんだねー……でも、神様って忙しいね」
その言葉にハルが頷いていると――町人達が神輿を担ぎ上げる。
ハルが驚いたのは、その威勢の良さと――
「めっちゃ揺れてるんですよ!? 神様大丈夫ですか!?」
ただ、沢山揺らした方が良いのだと聞けば、すぐに納得して。二人もそこに加わって街を巡り始めた。
「わっしょい!」
「ワッショイ!」
ハルが頑張って支えれば、エルシーも息を合わせて――人々の喝采にも送られ、神社まで一周を果たした。
神輿を下ろすと、エルシーは「見回り、ありがとうございました」と神輿の中の神様へ合掌。
ハルも倣ってから、エルシーと笑み合う。と、後ろの男性が微笑ましげに「青春だねぇ」と一言。
「? 祭りは青春なんですかね?」
「青春? ……うんっ、楽しいよ!」
それにはまだぴんと来ずとも、エルシーは明るく笑って。改めて一緒に祭りへと繰り出し、笹を見つけた。
「わぁ」
風に波打つ笹と、沢山の短冊。人々の想いを託されたそれは壮大で。
「……お願いを天へ届ける係なんだね」
「僕達も書いて行きましょう!」
言ってハルが綴るのは――『エルとずっと一緒にいられますように! ハル』。
「僕の一番のお願いごとなんですよ」
「それじゃあ、私は――」
と、エルシーはそこに書き添えた。
するとそれは……『ハル・エルとずっと一緒にいられますように! ハル&エルシー』となって。
二人は笑みを交わして願いを結ぶ。それを見守るように、美しい星が空に煌めき始めていた。
「また来ちゃったわねーこの街」
エミリア・シバは賑やかな通りをゆく。
段々と慣れ親しみつつある景色、だからこそ一層盛り上がっていると判るから。
「さぁて、楽しみましょ」
まずは笹へ歩み、短冊に筆を奔らせた。
綴った願いは『美味しいお酒と沢山出会えますように!!』。
「これでよしっと!」
後はそれを実現させるよう、店々を散策。
炭酸を混ぜた和酒で、澄んだ味と刺激的な舌触りを楽しむと――商品化されていた桜のロゼワインも賞味。何とも華やかな味わいに――
「ん~、美味しい!」
早くも頬も少々桜色。そのまま上機嫌に、花柄の風鈴を見つけて自身と知り合いの子たちへ購入した。
「あら、この笛の音は……?」
見ると七夕踊が始まっている。
時に粋に、時に玄妙に、趣深い踊りにエミリアも興味津々。
「少し覚えていこうかしら?」
微酔いでも、踊りの腕は一級品。列に加わったエミリアは、鮮やかな身のこなしで人目を惹き――和の踊りをものにしてゆくのだった。
「二人共とても綺麗だ」
街へ歩み出しながら、アーシェル・G・クラインが視線を向けるのはアンネエルカとクレア・エクレール。
二人は着付けを済ませていて――
「ほんと? ありがとう!」
応えてくるりとクレアが棚引かす浴衣は、白地に赤い椿柄。
アンネエルカのものは、白地にカラフルな紫陽花が映えていて――アンネエルカ自身も華やかな笑顔をは見せていた。
大好きな皆とだから、気合を入れてオシャレした甲斐があったと。
「ふふ、とっても嬉しいわ!」
「ナンパされねぇように俺達から離れんなよ」
「転ばない様にも気をつけてね。せっかく素晴らしく素敵な装いなのだから」
と、言うアーシェルとセヴラン・クアルト自身もまた、黒地に縦縞の浴衣と、藍色のシンプルな浴衣姿。
そのまま四人が皆風情ある趣きで――まずは屋台巡りへと繰り出してゆく。
「良い匂い~」
クレアは見回しつつ、一角にきらりと輝く色を見つけた。
「見て見てこの飴すっごく綺麗な赤! 林檎飴っていうんだ~」
「まあ、とっても可愛いわ!」
「果物は色々あるみたい。皆はどれが良い?」
クレアが言うと……アーシェルは葡萄を選ぶ。セヴランも同じものにして、アンネエルカとクレアは苺と林檎を選択。
艶めく色と果実の甘酸っぱさを楽しみつつ――次の屋台へ向かった。
「東方の調味料はとても芳しいね。焼きとうもろこしか――」
セヴランが購入して食べると、香ばしい風味に、ん、と頷き一つ。皆にも分けて、一緒に堪能した。
傍らではアーシェルがかき氷を買っている。
「口の中で溶けて消えたぞ。食ってみろよ、セヴラン」
「手ずから食べさせてくれるのかい? じゃぁ遠慮なく――」
アーシェルのお言葉に甘え、セヴランは一口。しゃくっとした食感と快い冷たさを味わう。
女子達にも分けてあげると、二人はそのひんやり加減に笑顔を浮かべるのだった。
それからまた歩むと――金魚すくいを発見。
泳ぐ小さな魚達を、クレアは覗き込む。
「わ、かわいー!」
「金魚ってこんなに個性豊かなのね」
と、アンネエルカも思わず夢中だ。
「頬がふくふくなこの子も、お目目くりくりのこの子も――みんな可愛いわ!」
「じゃ、セヴランと俺で取ってやるよ」
言ってお金を支払い、ポイを受け取るのはアーシェルだ。
セヴランも頷いて続いていた。
「少々大人げないけれど――ここは狩人の意地を見せてあげようか」
「どの金魚が欲しいんだ?」
アーシェルが言うと、二人はそれぞれ可愛いと思った金魚を指す。
よし、と頷くアーシェルは早速始めて……ばりっ。いきなり破られた。
「これは……」
「中々難しいようだね」
セヴランも初回は敗戦。ポイをまじまじ見つめていた。
「がんばって!」
女子達が微笑ましく応援してくれると……二人は見合ってから再挑戦。
「水の中で優雅に衣をひらめかせるお嬢さん――僕の手に堕ちてくれるかい?」
と、セヴランが華麗にゲットすると、アーシェルも今度は成功。
「ありがとー! 大切にするね」
「私も、大事に大事に育てるわね……!」
そんな二人の笑顔が何より嬉しいから……アーシェル達も満足の心持ちだった。
その後皆でお願い事へ。
「形に記し、燃やして天に届ける、か。正に言の葉だね」
短冊を手にとりセヴランは少々思案。
「さて、何を書こうか」
「ボクは……ふふー、内緒!」
クレアがそっと、『皆とこれからも沢山素敵な時間を過ごせますように』と記して結ぶと、ならばとアンネエルカもこっそりと。
――皆の夢と笑顔が輝きますように!
そんな二人に微笑みながら、セヴランもさらさらと綴る。『この先も皆の願い事が叶うのを、心穏やかに見守れますように』と。
「まあ、まだ若いんだけどね僕も」
と、呟きも零しながら。
アルフィー・リッパーも笹のもとで願い事。
筆をとって、『自分の身近な人を護れるだけの力が欲しい』と記していた。
「ま、自分自身でも努力しなきゃいけないんだけどな――」
そう独りごちながら……近くにアーシェルを見つけて軽く手を上げた。
「あんたも来てたんだな。短冊、書いたのか」
「ああ」
アーシェルは応えつつ、「見せねぇぞ」と、照れたように微かに赤い頬でそれを笹に結んでいる。
それでもちらりと見えたそれは――『大切な奴等と1秒でも長く一緒にいたい』。胸に秘めた、飾らぬ願いだった。
(良い願いだな)
アルフィーは思いながら、自分のものも笹に結ぶ。
「俺も書いたぜ。教えねーけど」
言いつつも……風に揺れるそれがひらひらと見えてはいたけれど。
アルフィーはそうだ、と思い立つ。
「出店回ってきたなら、なんか美味しい店教えてくれよ」
「屋台の食い物は全部美味かったな。特にかき氷。あれは食っとけ」
応えるアーシェルは、わしゃっと頭を撫でた。
「ここで待ってる。ゆっくりして来いよ」
「待っててくれなくて良いけど――」
返しつつも、アルフィーはそれが嬉しくて。
早速歩み出して、美しい風鈴をお土産にと購入。かき氷も食べながら――空に上がる花火を眺めた。
「昔はこんな景色があるなんてこと知らなかったな」
出来れば、一緒に見たかったと。
亡き友の事を思いながら――アルフィーは暫し光を見つめていた。
折角だから現地での装いにしよう、と。
そんな総意によって、ふしぎ亭の一行は祭りの前に貸衣装屋へ訪れていた。
「この浴衣? ってお祭り行くのにも着るんだね~」
中に並ぶ和装の涼やかな美しさに、アルラ・ニグラスは楽しげな笑み。イル・シャーリィも始めてチャレンジする浴衣に興味深げだ。
「アリィはどれにする?」
「んー、じゃあ、これ」
と、薄緑の風流な一枚を指すのアリエッタ。頷くイルは、自身は上品な白を選び、着付けを手伝い合おうと奥の更衣室へ歩んでゆく。
そこへ同道するテュリン・ヴィングは、橙色の暖かみのある浴衣を選んでいた。
「みんな可愛いわね」
「楽しみだね!」
と、赤色の浴衣を手にしているのはヒロ・テスタロッサ。翡翠色を選んだアルラも加わって、早速着替えようと皆で服を脱ぎ始めていた。
そんなふうに皆が奥でわいわいとする中……店の方できょろきょろしているのはララベル・サン・ディーベル。
自身のものを選ぶのに夢中で……ふと皆が近くにいない事に気づく。
「あれ? 皆……あっ、向こうか」
そうして奥にいるらしいと知ると、そちらに歩んで――よく確認せずにがらり。
「みんな、もう準備できたの……って」
見えるのは勿論、着替え中の女子達。
丁度皆が下着になっていたところで……イルは一瞬驚いてから、こめかみを引きつらせた。
「なんでここで入ってくるのかしら……?」
「はわわわ、ごめん――!」
顔を真っ赤にしながらも、わたわたと惑うばかりのララベル。
そんな姿に微笑みを返したアルラは、下着のまま歩み寄って――
「まだダ~メ」
優しく言ってから扉をぴしゃりと閉める。
浴衣を羽織りながら、テュリンは軽くため息をつくのだった。
「ベルはいつもどおりね」
「……これだから油断出来ないのよ、気をつけてねアリィ」
イルは呆れつつ、アリエッタに浴衣を着せて帯を締めてあげる。後ろを向いていたアリエッタは「?」と小首を傾げているのだった。
「じゃーん、どうだ?」
着替え終わった皆は外へ。ヒロはくるりと回って、鮮やかな色合いの装いを改めてララベルに見せていた。
「皆、とっても似合ってるよ!」
その可愛さに、ララベルは素直に応えつつ――共に通りへ出発。
「お祭りお祭りー♪」
下駄のカラカラという音が楽しくて、アリエッタは音を立てながら歩む。
「でもでも、七夕って私は聞いたことないんだけど、どういうの?」
「願いを書いて結ぶんだって。シャルガネには風流なイベントがあるんだね♪」
ヒロも上機嫌に続きつつ――見えてくるのは提灯の灯る屋台。テュリンは興味深げに視線を巡らせていた。
「何か買っていきましょうよ」
「じゃあ、あれはどうかしら」
と、イルが杏飴を見つければ皆で買って。甘味を楽しみつつ、更に焼きそばや焼きとうもろこしの香ばしさも堪能して。
苺飴が気に入ったアリエッタはそれをララベルへ差し出す。
「ララベルも食べる? はい、あーん」
「いいの? ……あーん」
少し照れつつララベルが受け取ると、アリエッタもふと遅れて意識して……顔を真っ赤にして視線を下げる。
そんな様子も見つつ、アルラも杏飴を食べて……祭りの空気故か、いつもよりも美味しく感じて笑みを零していた。
と、ヒロが金魚すくいの屋台を見つける。
「ん? これは食べもの?」
「とって飼うんだって。勝負する?」
勝ったら何でも一つお願い聞いちゃうよ、と。
ララベルが言えば皆もそれならばと頷いて、全員でチャレンジ。
「よーし、たくさんゲットしちゃうよー♪」
と、まずはヒロがポイを手にして……慎重に水に入れると、金魚の動きよく見てすくい上げて一匹をゲット。
「上手ね」
それを横目にイルもまた、上手くポイの角度を浅くして――そっと乗せるように一匹、二匹ととってゆく。
「アリィはどう?」
「難しいけど、でも面白いね」
アリエッタも言いつつも優しく導くように数匹をポイに導いてすくっていた。
「わぁ、皆すごい……」
感心の面持ちのララベルもまた、何とかすくいつつ――ふと逆側を見やると、そちらを泳ぐ金魚は他より活発なようで。
「中々元気な子ね」
「ええ」
そちらでポイを動かすアルラとテュリンは中々に苦戦。
それでも次々に桶に入れてゆくけれど……それぞれにポイに乗せていた、特に元気な金魚が同時に――ぴょん。二人の浴衣の間に滑り込んだ。
「きゃっ?」
「ちょ、ちょっとこれは色々とマズイわよおおおっ」
テュリンは取ろうとじたばたするが、それで逆に浴衣がはだけてゆく。
アルラの浴衣もまた「いっ、今取るから」とララベルが手を入れるが……窮屈だからと胸元を緩くしていた為か、こちらもあれよと言う間にほどけていって――暫し対決どころではなくなるのだった。
それでも何とか再開して勝負を終えると――僅差だが、ララベル一人が横並びの皆に負けるという結果に。
「やった、出店で何かおごってね?」
アリエッタの言葉に、ララベルは勿論と頷くのだった。
「金魚はふしぎ亭で飼おう!」
ヒロはとった金魚を大事に提げ――その後皆で散策を再開。
「外国の踊りは少し毛色が違うのね」
趣きある七夕踊にイルが参加するのを、皆で眺めたりしながら……賑やかな時間を楽しんでゆく。
最後に皆は短冊を書いてゆく事にした。
「ここに結ぶんだ。ロマンチックだねー♪」
「ええ」
筆をとるヒロに応えつつ、アルラが綴ったのは『ベルやみんなと楽しく過ごせますように』。
アリエッタも『みんなで楽しく過ごせますように』と書くと……ヒロは少々迷ってから、『皆の願い事が叶いますように』としたためて。
ララベルはその傍らでこっそりと『みんなと今以上の仲になれます様に』と綴っていた。
「これでよしっと」
「楽しかったわね」
いつもの如くトラブルはあったけれど、と。
テュリンが星の見え始めた空を仰ぐと、ララベルも頷く。
「うん。――そうだ。皆へプレゼント」
と、買ってあった風鈴を皆へ贈る。今年の夏はふしぎ亭に涼しい音が響くように、と。
イルはありがとう、と大事に受け取る。
「素敵ね」
「わぁ、きれい」
アリエッタは何度も鳴らしてみながら、その音色に耳を澄ませて笑顔。
「ありがとう」
「喜んで貰えてよかった」
それが何よりだから、と。ララベルもまた笑みを返し……皆とまた祭りへ歩み出す。
「ま、形から入るのも悪くないだろ」
という海神・江流の提案により、同道する一行はまず貸衣装屋に寄っていた。
「これがシャルガネ名産のユカタか……色々な柄があるな」
と、店内に並ぶ多様な柄を眺めるのはスヴァン=ウォルフ=ユーウェン。浴衣の数々に視線を迷わせている。
「どれにしようか――」
「俺はこれを」
言って隣でエル=バ=ノイアンが選んだのは、藍色が上品な浴衣。更衣室で着付けてくると――髪をざっくりと編んだ風流な装いとなっていた。
「成程、良く合っている」
呟いたスヴァンは、暗めの臙脂色を選択。落ち着いた優美さと雅さを兼ねた見目となる。
江流は感心の面持ちだ。
「良いじゃないか」
「……あ、あの」
と、そこにかろりと下駄を鳴らしてくるのが……ガルシア。
その浴衣は可憐な牡丹の柄。何気なく、一番に江流に見せるように軽く袖を持ち上げる。
「……ど、どうでしょうか? おかしなところは、ありませんか?」
「とても良く似合ってるよ」
江流が素直に言うと、ガルシアは少しほっとして。それから後に続いて、ルベア・ベルニも歩み出てきた。
「涼しくていいわね」
言ってさらりと撫ぜる生地は乱菊柄。華やかながら淑やかで、人目を惹いている。
「そちらも綺麗ね」
「ありがとう」
応えて笑むのはシルヴィア・A・カペル。
その浴衣は桜文で、淡い桃色が趣深い。花の主張は強すぎず、嫋やかな見栄えで……品のある佇まいと合っていた。
「皆さん、いい感じですねえ」
と、最後に合流したのはギーゼラ。
こちらは椿をあしらった、あでやかな女性物の浴衣。
「フフフフフ、華やかでいいでしょう?」
「現地人が着るのとはまた違った趣があっていいな」
皆の姿に江流が実感していると、シルヴィアは江流を見返す。
「江流はやっぱり街の雰囲気に馴染んでるね」
江流の格好は紺の甚平だった。楽だからという理由だが、実際、江流の容姿と相まって違和感がなかった。
江流はありがとう、と歩み出す。
「じゃ、行こうか」
「……そういえば、タナボタとは、食べ物の事なんだろうか……?」
「七夕は節日の事だね」
と、スヴァンに応えつつ、江流は皆を案内し始めていた。
目的地は屋台だ。賑やかさと、漂う良い匂いの中で……まずはシルヴィアが林檎飴に興味を惹かれて、ルベアと共に購入。ガルシアにも勧める。
ガルシアは早速頂いて……その甘さに少し目を見開いた。
「甘い!」
「……美味しい」
ルベアも少々感嘆を零す。仄かにぱりっとした飴と、果実の瑞々しさが魅力的で……シルヴィアも味わって頷く。
「飴とりんごの食感の違いが良いね」
「ええ。1つで2度味わえるってこのことよね」
ルベアも同意していると、シルヴィアはガルシアへも笑みかける。
「お菓子もたまには良いだろう?」
「……そう……ですね。ありがとうございます、シルヴィア様」
ガルシアはそれに少し表情を和らげていた。
「確かに美味しいですね。おや?」
と、同じく林檎飴を舐めていたギーゼラは、傍に湯気の上がる屋台を発見。
「じゃがバターですか」
「蒸したじゃがいもにバターと……この茶色いものは、ミソ?」
ノイアンも覗き込む。とりあえず買ってみて、はふりと食べてみると……何ともまろやかな旨味が広がって。
「ほう、これはなかなか……塩気が癖になる」
「甘いものとループ出来ますねえ」
ギーゼラもほふほふと味わいつつ、更に焼きとうもろこしも購入。ノイアンも同じものを買って、香ばしい風味に物珍しげだ。
「この甘辛いタレは一体……」
「醤油だね。砂糖も入ってて焦げ目が美味しくなってる」
江流も説明しつつ、馴染み深い味わいを楽しんでいた。
スヴァンも食べながら……ふと隣の屋台に甘い匂いを察知して振り向く。
「これは、チョコレートの香り……」
「バナナにチョコを塗っているのか」
ノイアンもそちらに目をやっていると……スヴァンは迅速に動いて購入。厳粛な面持ちで、もぐもぐとチョコバナナを堪能するのだった。
「……うむ。美味だ」
「チョコもバナナも甘い、のに、しつこくはない……?」
ルベアも買って実食し、初めての味わいに何とも不思議な表情なのだった。
江流は玩具のハッカパイプで、仄かな甘味を楽しみつつ……皆の案内を続ける。
と、不意にギーゼラが横の屋台に反応した。
「あれは――」
「ん? ああ、金魚すくいか。いいね」
「金魚救い!! これはやらないわけにはいきませんねぇ!」
江流の言葉にも嬉しげに、ギーゼラは屋台に走って説明を聞き始める。
「ふむふむ、救った後にだぁいじに育てないとすぐ死んでしまう……あぁ素晴らしい!!」
「何か勘違いしてそうな……まあいいか」
江流が呟きつつそこへ歩むと、皆も暫し寄っていく事になった。
「紙ですくうのか。面白い遊びだね」
シルヴィアはポイを受け取り気合を入れる。遊びは全力でやるからこそ面白いのだと。
「折角だ。競わせて貰おう」
「じゃ、俺も本気で」
と、江流も水平に水を切るようにポイを入れ、金魚をすくい始める。
ノイアンも挑戦。不規則に動く金魚を観察し、破けぬように慎重にすくおうとして――
「あっ」
「……かなり難易度は高いようだな」
それを横目に、スヴァンも精神統一。
「金魚をRescueするなら、もっと慈悲が必要という事か」
呟くと力を出来る限り調整し、上手く金魚をポイに乗せて……何とか桶に一匹入れるのだった。
「成程」
ノイアンはそれを見つつ再チャレンジ。今度は上手くすくってゆく。
そんなやり取りを微笑ましげに眺めつつ、シルヴィアも挑戦する、けれど。
「……あ、破れた」
こちらもまた少々苦戦しつつ、それでも徐々に慣れてゆくのだった。
一方ルベアは器用さを発揮して一匹、二匹とゲットしている。
「中々楽しいわね」
ただ、その横では……ギーゼラが何度やってもポイが破けてしまっていた。
「手掴みじゃ駄目ですか? 駄目? はぁ、ヒールが通用しない救いは難しいですねぇ」
少々しょぼんとする。
と――シルヴィアが自身の金魚をギーゼラへ贈る。
「君の方が育てるのが上手そうだ」
「……いいんですか?」
「私も、沢山とれましたので」
と、差し出すのはガルシア。江流やノイアンもまた金魚をあげて……ギーゼラは満足げに笑んでいた。
「ありがとうございます! 僕がちゃぁんと可愛がってあげますねぇ!」
そうしてギラギラとした瞳で、金魚を見つめているのだった。
ふと、そんな中に吹く夏風が爽やかで。
(……こうして大勢と一緒に祭りを楽しむのも、悪くないな)
ノイアンは実感を心に抱いていた。
その後自由行動に移ると、ルベアは装飾品店へ。
「これ、綺麗ね」
と、桜をモチーフにした簪を見つけて、買う事にしていた。
そんな時間も楽しくて。
冒険者になりたての頃は気持ちに余裕は無かったけど。最近少し、周りが見えるようになった気がする。
これはそうして見えた日常の象徴として……大事にしようと、そう思った。
一方、ガルシアは笹のもとへ歩み、短冊に願いを綴っていた。
それは――『彼と仲良くなりたい』。
「……いつか、きっと」
胸の中にある思い。
それを星へ託すように、そっと笹に掛けていた。
「えへへ、またきちゃったさぁ♪ ふーりん、綺麗……」
祭りの賑わいに、響く風鈴の音が魅力的で――フリューリングスルフト=ティエラは笑顔で歩みゆく。
「ひとつ下さいさぁ♪」
勿論、自分でも入手し音を楽しんで。お土産にもまた美しい風鈴を購入して上機嫌。
――りんりんりーん、ちりりんりーん、吹く風鳴らす澄んだ音、君に告げる言葉の代わり、りんりんちりりん。
――りんりんちりりん、一緒に歌おう、鳴らす君と歌うあたし、りんりんりーん、ちりりんりーん。
歌を口遊み、宣伝にもなればと人々の耳を楽しませていた。
それから、屋台を見つければ――
「ひゃぁーー! 全部おいしそうっ……! 今回も全部食べ尽くしてやるさぁ!」
お財布は散財する為にあるのだとばかり、早速走り出す。
と、同じ店にて丁度行き合ったのが――ベアトリーチェ・カロッサ。
「かき氷食べるの?」
「うん!」
「アタシもなんだ。やっぱり夏は冷たーいものが美味しいよねー♪」
言ってベアトリーチェが笑顔でかき氷を買うと、頷くフリューも同じく購入。快いひんやり感と、強めの甘味を共に堪能した。
次に焼きとうもろこしの店に寄ると、同時に訪れたのが――ヴィルヘルミナ。家並みを眺めながら、屋台へ食べ物を探しに来ていたのだ。
「焼きとうもろこし、ですか」
「一緒に食べようよ!」
ベアトリーチェの言葉に、ヴィルヘルミナは頷く。
シャルガネは初めてであるし、現地らしい味を求めてもいた所。それを共に買うと……醤油の香ばしさに、とうもろこしの甘さがよくマッチしていた。
「美味ですね」
それからも苺飴など幾つかを食べながら……皆と暫し歩んでゆく。
ヨル・スレイマンは屋台に見て回りながら――笹のある場所へ。
飲食より、今日はそれが目当てでもあった。
「アミュレットとしては随分大きいな」
なるほどこういう願掛けもある、と。異郷の神事をしかと心に留めておこうと仰いでいると……町人に「如何ですか?」と短冊を渡される。
「短冊、か」
「――これに願いを書いて吊るせばいいのですね!」
と、すぐ隣。明るい声音で受け取っているのは――エルナ・クルプファルツ。筆も手にとり、少々思案していた。
更にそこにヴィルヘルミナやフリュー、ベアトリーチェもやってきて。
「願い事を書くん? やるさぁ!」
フリューが大事な友人二人を思い浮かべ『三人で元気に沢山冒険できますように』と綴ると――ベアトリーチェは『たくさんの人とお友達になりたい!』と書いて結ぶ。
ヴィルヘルミナも『健やかでありますように』としたためて。
「何事も健康な体ありきですからね」
「ではでは、私は――」
と、エルナは『ドキドキワクワクな冒険が沢山できますように!』と書いて吊るしていた。
そんな皆を見つつ、ヨルは――
(意外と何かはあるような気がしていたけど)
どうしても書く事が出来なかった。
(……そうだな。わざわざ神に聞いてもらうようなことは、もう)
思うと、そっと手を伸ばし……何も書かずに笹に結ぶ。もし願いが叶うなら、自分の分を他に回してくれたらいい、と。
そうして皆がそれぞれに歩み出す。
ヴィルヘルミナは翠の園へ。静けさを楽しみつつ――
「風が気持ちいいですね」
それに鳴き声を返す、ペットのカカポと暫し戯れて過ごすのだった。
軽やかな囃子に乗せて、七夕踊が始まる。
「わぁ、面白そう!」
と、ベアトリーチェはそこに参加していた。
振り付けは難しくないけれどリズミカルで。鼓と笛の音に合わせ、粋な踊りを踊ってゆく。
「そろそろ神輿っていうのも始まるかな」
言ってベアトリーチェが視線を向ける通りの向こう。
その神社に――エルナが訪れていた。
「これがシャルガネの神殿なのですね!」
以前、東の遠洋で見たものと似ている気もして、その拝殿を見つめる。
ここに伝わったのはそこで祀られていた藍海尊とは違う、泰平の神だけれど……人々から敬われているのは同じだと判るから。
エルナはしっかりと参拝してから……丁度準備の始まる神輿にも興味津々。
「これがお神輿ですか! なんだか楽しそうです!」
皆で担いで練り歩くと聞いて、すぐに参加を決意。法被に鉢巻も身につけて。
「ワッショイ! ワッショイ!」
町人らと共に楽しく、威勢良く――街を巡ってゆくのだった。
宵の頃になると、どん、どんと空に光の花が咲く。
それをヨルは仰いでいた。
「はー、見事だな」
花火は初めて。星とは違う鮮やかさに、暫し茫然となっていた。
「これはすごいな」
「綺麗なだけの魔術、これはこれでいいものだな」
そうして夜風の中、それが終わるまで空を見つめていた。
ヴィルヘルミナもまた最後の花火が消えゆく所を眺めていた。
「綺麗でしたね」
カカポに話しかけていると……遠い人々の喝采が徐々に収まり、静かになってゆく。
祭りもそろそろ、終わりに向かい始めるだろうか。
「何か、お土産でも見ていきましょうか」
和菓子に工芸品、日用品。
まだまだ見るべき所はありそうだから、と。ヴィルヘルミナはそれを楽しみに、ゆっくりと歩んでいった。
マスターコメント
お疲れさまでした。
祭りを大いに楽しんだ事で、街の盛り上がりも一層増しました。評判も広まってゆく事が予想されるので、町長にとっても喜ばしい結果となりました。
イベントシナリオ(50人)易しい 報酬:標準50 / 4〜50人
2021年07月18日 23時24分50秒 公開
大成功
参加者
バクル・バスリー
ヨル・スレイマン
コルネリウス・アーラ
アンネエルカ
エルナ・クルプファルツ
リサ・ベイカー
テス・アウレア
ヴィルヘルミナ
ルルト・アーキス
イル・シャーリィ
イズレンディル・パラリム
エフィルミア
サフィラ・アズラク・ヴォルファング
ロイ・アウレア
セヴラン・クアルト
ヘレン・ワーグナー
ギーゼラ
ヴィナス
ヒロ・テスタロッサ
イズル・M・ヴォルゴール
ハヤト=ガラン=ヴォルファング
アルラ・ニグラス
ララベル・サン・ディーベル
カイン・ステラ
フリューリングスルフト=ティエラ
海神 江流
サマエラ=フォリウム
カッシア
テュリン・ヴィング
ロゼット
- キーゼ
クレア・エクレール
セロンガード・シュタインドルフ
ナキル
アーシェル・G・クライン
アリエッタ
エルシー・サリバン
ハル・チフ
エミリア・シバ
ネーヴェ・グラヌローザ
ガルシア
ベアトリーチェ・カロッサ
ティト
- スヴァン=ウォルフ=ユーウェン
エル=バ=ノイアン
ルベア・ベルニ
シルヴィア・A・カペル
アルフィー・リッパー
ルーンス・ラグネル
アルバス・ロウル
相談掲示板
エルシー・サリバンだよ。ヨロシク。 初めての七夕に浮かれてるよ。どこも素敵だから何をしても楽しい日になるね。 皆さまも良い1日をお過ごしくださいませ。
アルフィー・リッパーだ。よろしくな。 ……願い事、か(短冊を見ながら)
セヴラン・クアルトだよ またこの街を歩けるのは嬉しいね。 ふらっと友人達と歩けるの・・・かな? 宜しくね。
ロゼットよ。 ここまで東方の雰囲気が濃い街に来るのは初めてだわ。 まだどこに行くかは決めかねてるけど、楽しみたいな。
ヴィルヘルミナです。 シャルガネは初めてなので、色々見て回ろうかなと思います。
スヴァンだ。 屋台巡りでもしようかと考えているが… タナボタ…………食べ物だろうか……
シルヴィアだ。今回はよろしくね。 友人達と屋台に行くつもりだ。浴衣も着たいと思ってるよ。 皆が良い時間を過ごせますように。
「ナキルだ! テキトーに美味いモン食べ歩く予定だぜ よろしくなー!」
コルネリウスです、宜しくお願いします。 七夕の催しは私も初めてで、お土産巡りの予定です。 皆さん良い時間が過ごせますように。
アーシェルだ。よろしくな。 友人達と屋台を楽しんだ後は七夕の短冊を吊るす予定だ。 皆の願いも叶うといいな。