【CP】それぞれの想い
東山秋治
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シナリオID:1068
オープニング
ここ数日は快晴続きで、今夜も満月が煌々と地上を照らす。
砦の広場では、冒険者や夜番の交代を終えた兵士たちが酒盛りや、歌、踊りに興じる喧騒が聞こえてくる。
そして臨時依頼斡旋所。
ルイウェン・ヴェーリンはここにほぼ常駐し、毎日のように冒険者達を依頼に送り出していた。今は夕方受けた依頼や報告の事務処理中である。
椅子に座ったまま伸びをして、処理の終わった書類の束に目をやる。
「……一時期に比べて数も落ち着いてきましたか……」
数日後に迫った帝国南部都市ヴィント及び帝国南部駐屯所の奪還作戦。まだ余裕はあるが、もう一日二日すれば慌ただしさはピークを迎える事だろう。おそらく、作戦前最後の静か(?)な夜かもしれない。
作戦が終わってヴィントのギルドが再稼働すれば、この斡旋所も規模を縮小することになるだろう。自分も元々の所属である辺境都市群の冒険者ギルドに戻るはず……多分。
仕事以外の思考で煮詰まり始めた頭をリセットすべく、斡旋所を出て夜の空気を肌に感じてふと思う。臨時でここに赴任したのは寒さが肌を刺す頃だったか……。既に夏を前にした草木の匂いが強い季節になった。
時々大きな仕事のために辺境都市群に戻ったこともあったが、数えるほどだ。
そこでもう一つの思考が頭をよぎる。ちょっとした疑問。
……大きな作戦直前である今、冒険者達は何を思っているのだろう、と。
今回の奪還作戦は規模も大きく、作戦に参加する種族も多様。そして、その全てに関わっているのが冒険者だ。
それぞれに親交のある者、敵として因縁のある者、様々なはず。
なんとなく、気になった。
「……私も森を出た頃に比べて感傷的になりましたね……」
頭を掻くと、残りの書類を片付けるために斡旋所に入っていく。
……誰かが酒肴でも作っているのだろうか、厨房の方から漂ってきた美味しそうな匂いに一瞬釣られそうになるが、踏み止まる。
その晩、月が大きく西に傾くまで彼女のデスクの灯りが消えることは無かった。
解説
マスターより
リプレイ
厨房から漂う食欲を誘う香り。仕事に戻るルイウェンが引きつけられたのもこの香りだろう。
厨房の中に目を移すと、リサ・ベイカーが、鼻歌など歌いながら鍋を振るっていた。
そして、新しい材料を鍋に投入するべく振り向いた視線の先には……。
既に料理の盛りつけられた皿に手を伸ばすアーシェル・G・クラインの姿があった。
「もぅ、ダメですよー?」
子供じゃないんだから、と釘を刺すも、どこ吹く風のアーシェルの手は止まらない。
盛られらていた揚げ物を一つ口に放り込む。
「すげぇ美味い」
俺の分も残しておいてくれ、そう言われればリサのふくれっ面もほころび……を通り越して照れる。
「ふふふ、ありがとうございます。もちろん! ちゃんと取って置きますよ」
だから、手伝いお願いね? と言われれば断る理由も無い。
その成果は、半刻ほど後、広場で騒いで酒盛りをしている皆にも振舞われることとなる。
●
広場の喧騒からは少し離れ、砦外縁に近い場所。先程まではハープと思しき楽器の音が聞こえていたが、今は静かになっている。
「……いよいよ、帰れるのですね。……あの地に」
夜空を見上げて呟くのはシルワ・カルブクルス。
あの地――帝国南部都市ヴィント、とその周辺――は彼女の故郷にも近い。
「奪還作戦、ですか」
聞こえた声にそちらを見やれば、そこに立っていたのは、少し尖った耳がエルフのようにも見える長身の男性。
イデアと名乗った彼は、シルワの隣までやってきて、先程まで彼女がそうしていたように空を見上げる。
「私も帝国出身なものでそちらへ参戦いたしますが、まあ、程々にやる所存です」
貴女は? と尋ねられるも、初対面の男性ということで少々緊張気味だったシルワ。同じ帝国出身ということで少し緊張が解けたのか、自身の過去も交えてぽつりぽつりと話し始める。
「奪還……そう、ですね。奪還です」
仇討ちではない。確かに彼女の故郷は壊滅し、彼女が授恵者となった際の逃避行に同道した者達以外の行方は知れていない。
「故郷への想いが強いのですね」
その言葉に彼女が首を傾げ、「イデアさんは違うんですか?」と尋ねられれば顎に手を当て。
「思い入れが全く無いという訳でもないですし。しかし有るとも言えない」
いろいろと思い出せないもので、と肩を竦める。
彼自身、思い出せないという不快感がある訳ではなく、失った虚無感も喪失感もある訳でもない。
ただ、あるのは自身の存在を支えるあらゆる縁の記憶が存在しないが故の停滞。
忘れる、振り出しに戻る。それを繰り返す。
そう言えば、忘れ去られてしまった時こそ人は死ぬのだと言う。
「誰かの記憶に残るように動くべきなのでしょうか」
無意識に口に出た言葉。
「みんなきっと、一緒に戦った仲間の事は忘れません。だから、必ず勝利を掴み取って、生きて帰ってきましょう」
イデアの心底はシルワにも理解っていないだろう。でも、隣でそんな言葉を言う少女を見ていると、それも悪くないと思えてしまう。
自分の障害の事を言って、彼女の決意に水を差すことも無いだろう。
「ええ、そうですね」
イデアは短く同意の言葉を伝え、二人は決戦前とは思えないほどよく晴れた夜空を再び見上げる。
「ほーん」
見張り櫓の中腹、交代の兵士がすれ違うスペースだろうか。サイラスはそこにいた。傍らには、何やら妙な雰囲気を醸している水袋。
ここからは広場で騒ぐ連中も見えるし、近くでは男女二人組が何やら話していたようだ。
つまりは、そういうのも肴にしつつ酒をやれるというわけだ。
傍らのチョコを口に放り込みつつ、ワインを一口。
「決戦と言ってもな」
いつも通り死なないようにやるだけ。それに尽きる。
死んだら? まあ、自分に竜になる資格が無いってだけの話。
「でもなぁ……」
相手が面倒くさい。あの吸血鬼の姉妹だ。真面目に殺しにいかないとこっちがやられかねない。
特に妹の方だ。能力的に残しておくと厄介な上に……あの能力は欲しい。そのための研究素材を頂く必要がある。
「指や心臓が確保できれば言うことないんだが」
ぼそっと。
姉の方は内蔵拾ってる。でもまあ。
「取れるものなら奪うとしよう」
傍らの水袋ちらり。先程から手を付けていない中身、それは……。
あぁ……それにしても鉄龍……(遠い目)。
●
喧騒の中心から少し離れたところ。誰がしつらえたのか、イスとテーブルが置かれていた。
ゼラルム・エルホワイトとサニー・フォン・オルライトは差し向かいで座って何やら話し込んでいた。
その内容は討論のようにも聞こえる。
「バカ言え。最も基本的な事を忘れたのか?」
「わかってるよ。何回聞いたと思ってるの?」
「民衆とは――」
「理性とは無縁の獣である」
その点においての見解は一致している。
その上で、彼女は思う。その中に自分も含まれていて、だからこそ理解できてしまうから尚の事質が悪い。
帝国奪還という共通目的のある今はまだ良い。しかるに、それが為された後にさてどうなるか。
授恵者は爆発的に数を増やし、力も存在感も以前とは比較にならない。
事が終われば、自分も含め彼らは野に放たれ、各国は囲い込みに躍起になる……そう思う。
「面倒なことが増えるのは目に見えてるさ」
彼は続ける。
他の事でもそうでなかった事なんて殆ど無い。
『人間の大多数は論理的に生きる事ができない』
そう断じれてしまう程度には感情で動くのが人間という生き物である。と昔から聞かされていた。
「危険がある、というだけで騒ぐ輩はいる。だろ?」
そう、いつの世も。どんな時代も。厄介事とは大抵そういう所から生まれてくるものだ。
それによって世界のパワーバランスが崩れたとしたらどうだろうか。
もしくは、冒険者ギルドという一つの組織が国をも超え得る戦力を保持する事を恐れる国が在れば……?
「……否定できないね。全く」
彼女が思い起こすのは、レイウェスト皇子が暗殺者に襲撃された一件。
根拠のない噂を信じた難民たちが大挙して押し寄せたとか。
あの時はキャンプという極小規模だからまだよかった。
しかし、地域、国、あるいは世界がそうならないと誰が保証できるのか。
……或いは、「力を得た市民やら」によって国家自体の崩壊もあり得るか……?
若者たちの議論は、月が中天を超えてもなお続く。
議論を続ける若者二人の横を一人のゴブリンが通り抜ける。
やがて彼――ギャメル――は寝床としてあてがわれているテントの一角に腰を下ろす。
寝床に足を投げ出して見上げる天井。
「一年前のオレが今のオレを見たらたまげるだろうなぁ」
働く予定だった帝国は既に無い。旅立つ日が1日ずれていたら、彼は帝国崩壊に巻き込まれていたのだ。
当日、俺は仲間達とヴィント市に乗り込む。
「クソ臆病なオレがだぜ」
皮肉気に呟く。危険地帯に行く重圧で耳がヘタるってモンだ。
ポケットから取り出したシガーチョコを咥え、齧って一息。
思いを馳せるのは、弟妹や幼い子供たちの事。彼自身は11歳。人間の基準からはまだまだ子供だが、ゴブリンの世界では大人だ。
ギャメルは思う。
帝国難民やゴールディの子供たちに明るい未来を届けたい。
帝国崩壊で喪われた命に弔いの祈りを捧げたい。
もう少しで、きっとそれが出来る。ヴィントの奪還はそのための一歩。
「よし、そろそろ寝っか」
改めて自身の決意を確認した後は、不思議と穏やかな気持ちだ。そのまま寝床に潜り込み……気づく。
「やっべ、歯磨きしてねぇ!」
大事な事に気づいたギャメルは飛び起き、水場目指してテントを飛び出していった。
●
砦の外。
月の光を反射した剣が振り下ろされる。続いて倒れる獣型の魔獣。
乱れた前髪をかき上げ、息をつくサマエラ=フォリウム。
――剣が、やや重くなった。しかし……。
「悪くない」
手に馴染むような重さ。
「我が神からの祝福だろうか」
その手にある朱殷の剣。『開』と銘されたそれは、以前よりも彼女の思うように振るえている……彼女はそう感じていた。
さらにも一匹、魔獣を屠ったところで、魔獣の血に染まった刀身を見つめる。
彼女の信仰している神は、小さき神々と呼ばれる神の一人。
闇に沈み、血に浸り、されども邪神に非ず、安寧を齎す神
「随分と、逃げ続ける私を助けてくれた神……」
間も無く始まる奪還作戦。また、力を借りることになる。
「貴女に、何を返してやれるか分からぬまま、此度も力を借りることになるのだな」
すまなそうに呟くと、剣に一日を拭い、砦への帰路につく。
済まない
だが、どうか、見ていて欲しい
何時か貴女に届く何かを捧ぐためにも、私は生き残るから
――どうか
同じ頃。
刃が3度、月明かりを反射して翻る。
荒い呼吸、意識は目の前で倒れた魔獣に向けられている。
しかし、ナハティガル=ラーの思考は、かつて「ティオル」と呼ばれていた少年――バルディオンJr――に向けられていた。
過日、調査のため、ヴィント南の駐屯地に潜入した。
その時遭遇した彼……バルディオンJrの変わり果てた姿を思い出す。
あのような冒涜としか言えない姿に仕立て上げたヤコブへの怒りにギリッと奥歯を噛む。
そして、ヤコブへの怒りに滾る血を抑えるかのように太刀を振い続けていく。
死霊術によって操られている者の魂の在処は一体何処なのだろうか……?
術者の命に従っているのは肉体のみで、魂は既に別の場所にあるのだろうか?
それとも――
「未だに肉体共々捕らわれているのか……!!」
叫びと共に振るわれる太刀が、更に一体の魔獣を切り捨てる。
しかし、だとすれば、解放するにはヤコブを倒す以外に道は無し
「”その刻”は間近に迫っている。――待って居ろ、ティオル……」
少年の魂を解放する。決意を胸に決戦に向け、男は覚悟と刃を研ぎ続ける。
●
月明かりの下、砦の中庭を歩く男女二人。
コルネリウス・アーラとイズレンディル・パラリムの二人は手を繋いで散策していた。
どうやら、今は砦の防衛戦時の話になっているようだ。
「大きな戦いでしたね。多くの方を護れて良かったです」
「本当に…ひとつ戦いを終える度、ほっとします」
ほぅ、と息を吐いてイズレンディルの言葉に頷くコルネリウス。
他にもいくつか防衛戦時の話題の後。
「次の戦いもまた、護るために戦いたいと思います」
「はい、また一緒に頑張りましょう」
しばしの沈黙。
「イズさん……少し、屈んでください」
「? ……わかりました」
コルネリウスに言われたとおりに身を屈めるイズレンディル。
すると、彼の頬に添えられる両手。こつんと額が触れ合う。
「お……っと」
「……おまじないです」
驚くイズレンディルに、優しく笑って告げるコルネリウス。
愛する貴方が、どんな時も、いつでも心が穏やかに、健勝であるように。
そういう願いを込めたおまじない。
コルネリウスのおまじないと気持ち、心遣いに、イズレンディルも自然と優しい笑みをこぼす。
「では、私はコルネさんを護ります」
愛しい人に笑顔でいて欲しい、共に居たい。お互いにそれは同じ想いで。
「コルネさんが笑顔で居られるように。共に居て頂ける心を護ります」
イズレンディルの頬から手を放し、離れるコルネリウス。
引き留めるように手を取り、離れるのを惜しむように己の腕の中に抱き寄せるイズレンディル。
一瞬きょとんとするコルネリウスに囁くように告げる。
「もう少し、このままで良いですか?暫くコルネさんを感じさせてください」
「勿論です……私も、もっとイズさんと触れていたいので」
幸せそうに笑うコルネリウス。イズレンディルも同じ想いだと言いたげに、幸せそうな笑顔を返す。
今度は彼から彼女の頬に手を触れ、額を合わせる。
そして、コルネリウスは自分の頬に触れた手に、愛おしそうに自分の手を重ねる。
そして、月の見守る中、愛する者同士の影はしばしの間重なり合っていた。
●
レラ・シュマリは、空を見上げていた。
彼女にとっては、今回のヴィント奪還作戦は初めて参加する大規模な戦闘。
目が冴えて眠れないというのもむべなるかな。
満天の星、彼女はこの空が気に入ったようで。
「満月もですが、素晴らしい景色です……。森の中ではなかなか拝めませんし」
この満月と星空を再び見る為に生き残らなければと。ぐ、と無意識に拳を握って。
そんな彼女の傍らには、彼女の相棒である灰色の毛並みを持つ狼。
森にいた頃からの仲良しだ。
匂いにいち早く気づいたのはクラウド。
「クラウド? どうし……美味しそうな匂いですね」
……これは眠るためにお腹一杯食べた方が良いという啓示でしょうか? そんな思いがよぎる。
ならば……。
「気合い入れて食べに行きましょう。勿論、お残しなどしません」
寝る前の一戦が、始まる。
戦いの中に決意を見出す者、愛する者同士の逢瀬。今夜は枚挙に暇が無い。
そんな中でも、広場で火を囲んで談笑、酒盛りする者たちは特に多い。
待ち受けるのは危険な任務だ。飲まなければやっていられない者もいれば、絆を深める為とする者たちもいるだろう。
しかし、酒の肴も有限。周囲の皿に物資が乏しくなってきた。そんな折……。
「お料理追加だよー! 遠慮しないでどんどん食べてね」
リサがアーシェルを伴い、大皿を持ってやって来た。つい先ほど、レラがその鼻に捉えた匂いの元である。
ほぼ肴専用となっているテーブルに料理が山盛りになった大皿を置く。
魚の揚げ物、見た目は辛そうだが美味そうな香りの山鳥の炒め物、更には大きな木のボウルに山盛りのサラダ。
待ってましたとばかりに、手を伸ばす酒盛り参加者たち。
「また一緒に酒を飲もうぜ。絶対に死ぬんじゃねぇぞ」
そんなことを言いながら、アーシェルは兵士たちと杯を交わす。
その傍らでは、更に料理を盛ったレラが手を合わせている。
「いただきます」
シルヴィア・A・カペルも料理を摘まんだ一人だ。
彼女は皿に料理をそれぞれ取ると、リサに笑顔を向ける。
「美味しい料理をありがとう。仲間達と美味い酒が飲めるよ」
料理の感想に照れ笑いするリサや、礼儀正しく手を合わせて食べ始めたレラを見て微笑ましく笑うと、既に飲み始めている仲間の所に戻っていく。
そして、時間は少し戻る。
「この間20歳になりましたー! ついにお酒が飲めますよー!」
並べられた酒を前に、エフィルミアが嬉しそうに声を上げる。
「シルヴィアだ。江流の友人だと聞いている。先日は世話になったね。これからよろしく」
「あ、はい! エフィルミアです! よろしくお願いしますー! 食べるのは得意です!」
エフィルミアが初めてのお酒だと聞き、ならばとシルヴィアが取り出したのは、彼女の故郷カペル領の赤ワイン。
そして、エフィルミアの隣にいた海神・江流にワインの瓶を見せつけながら
「江流、酒盛りに付き合ってよ」
酒盛りの開幕である。
シルヴィアが厨房で作った料理に舌鼓。
フードファイトかのような勢いで肉、肉、更に肉を口に運ぶガルシア。
お酒……を飲もうとしたところではたと動きが止まり。
「ジュースを頂けますか……」
シルヴィアからは桃ジュース、江流からはホットチョコを貰って、肉を再開……肉の間にシルヴィアの料理が口にはいる様を見ていると、彼女の料理は別腹のようだ。
「これは……東方の料理ですか? あ、この香草炒めも美味しいです」
油揚げのチーズ乗せ焼きや茄子の香草炒めが肉ばかりにいいアクセント。
「これがワイン……おいしい! こっちのおつまみも美味しいですー!」
そんなガルシアの横では、初めてのお酒で美味しいものを飲んでしまった者の常。エフィルミアがえらいペースでグラスを空けていた。
「エフィ、そのペースはマズい。ワインは少しやめて水飲んで」
ペースに気づいた江流がさりげなくフォロー。
4人で始めたはずの酒盛りは、いつの間にか兵士や他の冒険者達も加わって賑やかな酒宴となっていた。
「一曲やろうか。誰か踊ってくれないか? 合いの手も欲しいね」
「前にシルヴィに習ってステップは覚えたし、身体を動かしておくのも悪くないか」
シルヴィアの呼びかけに、江流を始め、宴会仲間たちが俺も私もと立ち上がる。
そして、シルヴィアの演奏するフィドルに合わせて踊り始める。中には調子っぱずれの歌を歌い出す者も。
「お? エルさんが踊って体を動かすなら付き合いますよー!」
「……さすがにその状態で踊るのは危ないと思うんですが……」
ふらふらと立ち上がり、おぼつかない足取りで踊りの輪に入ろうとするエフィルミアにガルシアが声をかけるが、耳に届いているのかすら怪しい。
楽器の演奏は、他にも持ち込んでいた連中が引き継いだ。
持参のつまみが無くなり始めたところにタイミングよく追加が来たようで、シルヴィアが見てくるよと腰を上げる。
どんちゃん騒ぎの喧騒の中、素面を保っている江流は、片手に地図を持ち奪還作戦の行動確認をしていた。
大規模な作戦だけに自分が活躍できるかは怪しい。危険もそれなりにあろう。
さりとて、期待も無いわけでもなく……。
「エルさん!」
思考の沈黙は破られた。
「活躍できるか危ういなんて随分弱気ですね?」
「エフィ?」
「ここは俺が敵の首を取って来てやるぜ! くらい男前に言ってくれないと!」
くすくす笑いながら言うエフィルミアに苦笑いする江流。
その様子を見ながら、ガルシアはもやもやしたものを感じていた。
戦いばかりで宴会のようなものはあまりしてこなかったからこういう空気は不慣れなのはわかっている。しかし、周りを見ていて面白いから悪くない、と思っていた。
さっきまでは。
江流がエフィルミアを始め、何人かの女性と踊っているのを見たあたりから、イライラ、もやもやし始めて妙に面白くない。
自分でも理由はわからない。彼が楽しそうにしてるのはきっといいことなのに……。
だから、その視線は無意識。ガルシア自身気付かないうちに、自然と彼を遠くから睨みつけてしまっていた。
そんな様子を、料理を取って戻ってきたシルヴィアが遠巻きに見ていた。
3人の微妙な関係を微笑ましく見ながら、「追加だよ。摘まんだけど美味しかった」とリサの料理を皆に勧める。
「いい時間だな。無事に帰ったら、続きをしよう」
江流の一言で、彼等4人のひと時はひとまず終わりの時間がやってくる。
「寝酒ってのは本当はあまり良くないらしいから程々にな」
と付け加えることは忘れずに。
きっと、作戦終了後もこうして飲んで食べて、楽しもうと約束して。
リサが料理を振舞って、アーシェルも兵士たちと酌み交わし、一息つけそうだと思った頃。
「疲れただろ。飯食いながら休まないか?」
んーっ、と伸びをしているリサにアーシェルからの誘い。彼女も断る理由は無く。
喧騒の中心からは少し離れて、賑やかなのは伝わるが、やかましくは無いといった席を確保して座る二人。
確保していた料理を前に、アーシェル提供の果実水で乾杯。
少し食べて飲んで、落ち着いた頃。
「……厳しい戦いになるな。怖くないか?」
アーシェルからの問いに、リサは少し考える素振り見せ、話を始める。
「そうですね、怖いです」
でも、一番怖いのは……。と少し下向き加減で。
「怖さに、戦う事に慣れて来ている自分、でしょうか……。力が当たり前になって来ている事が良い事なのか……」
彼女の話に静かに耳を傾けるアーシェル。しばしの沈黙。
「すみません、変なこと言ってますね。わたし」
沈黙を破るようにパタパタ手を振って苦笑するリサ。
「そんなことねぇよ。……戦いに慣れてくのが怖い、か……」
そこで一旦言葉を切り、少し優しげに笑みを浮かべて。
「全然変な事じゃねぇよ、大丈夫だ」
そして、そう思った理由を彼女に告げる。
「確かに優しさだけじゃ人を守れねぇが、リサは違う。癒して、戦局を冷静に見極めて、的確な指示を出せる。こんなに献身的に振るう力が間違ってる訳ねぇよ」
リサはアーシェルの一言一言に耳を傾け、最後に……「ありがとう」と呟く。
「あの……アーシェルさんは、怖く無いですか? その……帝国は……」
そこまで言ったところで、立ち入り過ぎかと言い淀む。
「ああ、故郷だからな。戦い自体は怖くねぇ。怖いのは……兵士達を守れずに死なせちまう事だ」
誰も、何も怖くないなんてことは無い。彼の言葉はそんなニュアンスを含んでいるようにも聞こえた。
●
砦の中は、冒険者と砦の兵だけでは無い。
一角には、他と違う空気を持つ者たちもいた。
ロモズ歩兵団遊兵7番隊と呼ばれる一団。彼等もまた、仲間達と酒を酌み交わしていた。
「セロン!」
セロンガード・シュタインドルフの名を呼びながら、タックル気味に抱きつく少女。
彼女の名はティト、こう見えても元は帝国の諜報部門に属していた元帝国軍人だ。
セロンガードも然り。所属機関こそ違うが、彼も元帝国軍人だった。
ティトのタックルを慣れたものとばかりに受け止め、抱え上げ、その場でぐるりと一回りし……しりもちを突くような形で座り込む。
ティトはしれっと膝の上に。
「ティト、今回の輸送作戦は素晴らしい働きだったそうですね」
「うん、ぼく頑張ったよ」
褒めてと言わんばかりに、彼女のふわふわの白い尻尾が左右に大きく振れる。
「ええ、本当によくやってくれました。おかげで私たちが無事に荷を届けられたのだから」
わしゃわしゃとティトの頭を撫でるセロンガード。あとで、少し乱れた髪を手櫛で整えることも忘れない。
傍を通る兵士や冒険者が微笑ましそうに見ていくが、(多分)気にしない。
「セロン、ご飯食べよ?」
ひとしきり、満足するまで甘え倒したティトが顔を上げる。
「そうですね。ちょうど遊兵7番隊が宴会をしてますし、その末席にでも入りましょうか」
ティトを立たせ、自分も腰を上げるセロンガード。手を繋いで7番隊の仲間達の宴会に参加する。
そこで二人の仲が弄りの対象になったかどうかは……また別のお話。
●
喧騒から外れたところ。広場でも人気の少ない場所。
ヨル・スレイマンとナハシュは酌み交わしていた。
……主に肉と肉料理を。
「戦前だ、沢山食べるといい。特に君は細い。もっと肉をつけるべきだ」
そう言ったヨルは、簡易的な竈をしつらえて料理を始める。
串焼き、蒸して塩を振る、ローストビーフ、ワイン煮、テールスープ等々。
試合前は豪華な食事を沢山食べるという、剣奴の頃からの習慣。それは冒険者となった今でも変わらない。
やたらみっちり詰まったリュックの中が全て肉だった時の俺の心境を答えよ。
回答:最高。知人が10人前の肉を持ってきた。何を思ったのか、それはいい、そんなことより一人5人前食えるってよ。テンション上がるな!
ヨルの荷物がそうであったことを知ったナハシュの反応は概ねこうだった。
「一人5人前くらい? まあ少ないより全然良いから」
どんどん食おう、と、自分も食べつつナハシュにも振舞う。
「美味い??」
「お、この肉美味ぇ。あ、酒飲もうぜ」
ナハシュが差し出す酒瓶を軽く手で制し。
「俺は仕事前に酒は飲まないことにしてるの。飲めるのイイなぁ」
軽口叩きつつ、果実のジュース受け取り。
「乾杯。まあ程々に仕事しましょ」
「オウ、乾杯。お互い死なない程度にな」
「美味そうに食ってんな。その肉どれだ」
「ああ、これこれ。こっちのスープ」
ナハシュは好みの味の肉も探しつつ、酒を片手にモリモリ食べる。
「(そう簡単に死なせやしないし。大丈夫大丈夫)いっぱい食べてね。空腹だと本当に力出ないから」
「肉も美味いし酒も美味いし、焚き火も心地良い。今夜は良い夜だな」
二人からすれば、決戦が近いからとて何が変わるわけではない。
口にこそ出さないが、お互いに、きっと相手もそうだろうからと普段と変わらず、気負わぬ時間が過ぎていく。
●
サフィラ・アズラク・ナハルハルアリーブとハヤト=ガラン=ヴォルファング、二人は砦の中でも最も高い建物。その屋根の上にいた。
サフィラがハヤトを誘ったのだ。
「わぁ……星が綺麗っ……眺めサイコーだねっ!」
「だな。砦の中じゃ、ここが一番空に近いしな」
屋根の縁ギリギリに立って空や遠くを眺めるサフィラ。少し後ろに座ってそれを見ているハヤト。
「じゃ、乾杯」
「うんっ、あたしとハヤトの無事と、作戦成功も願ってね」
勝利と互いの無事と武運を祈念し、互いに酌をした杯を合わせる。
その後は、互いに参加した仕事の話や、仲間達の事、あとは今夜の酒や肴の出所等々……取り留めも無い話。
「何としても奪還しねぇとな。俺は将軍の仇討ちを助ける。いや、助けたいんだ」
ハヤトが語り始める。
半獣でありながら元帝国将軍だった父と、賢猪将軍を重ねて見てしまう。
ハヤトの父親が健在で、今回の作戦に参加しているならきっと手伝っただろう。しかし……。
「俺の両親は帝国の崩壊で行方知れずだ……。だから、尚の事そう見ちまうのかもしれない」
そして、ふと会話が途切れる。
静かに酒を飲むハヤトと、所在なさげに視線を彷徨わせるサフィラと対照的な二人。
しばらく、下の喧騒をよそに静かな時間が過ぎていく。
不意にサフィラが立ち上がり、屋根から足を踏み出す。
「!? おい! 何やって……」
驚くハヤト。しかし、サフィラは落ちることなく星空を背景に空中に浮いている。[エアーライド]によるものだ。
「脅かすなよ……」
「にゃはは、ゴメンゴメン。……ねぇ、ハヤト」
「なんだよ」
くるりと宙返りすると、おどけた様子で屋根に戻るサフィラ。
彼女越しに見上げた空は、月が煌々と輝き、星の輝きが先程よりも明るく見えた。
「あたしね、ハヤトに、この星空と一緒にあたしの事を覚えていて欲しいんだ」
「なんだそりゃ。空はともかくお前のこと忘れるわけないだろ」
「あたしの家に古くから伝わるおまじないでね。道に迷った時、困難にぶつかった時、星空と共に大事な人を思い浮かべると星空がその人の元へ導いてくれるの」
だから、と続け……。
「今度の作戦で困難に出くわしたら、この星空とあたしの事を思い出して。……星空がきっと、ハヤトを導いてくれるから……」
「……わかったよ。覚えとく」
「必ず……帰ってきて。また、一緒に星空を見ようね」
「おう、俺が簡単に死ぬワケねぇだろ。俺の心配ばっかりしてないで、お前も気をつけろよ?」
やっぱねー、という何とも言えない表情のサフィラ。男女の機微に敏感なものがいれば、鈍感、と評価しただろう。
「ま、いいか。星見はこのぐらいにして、下で宴会に乱入でもしようか?」
いい匂いしてきたし、と。
「それも悪くないな。行こうぜ」
そそくさと酒の瓶と肴のチョコを懐にしまい、二人は来た時と同じように並んで壁を降りて行った。
●
「折角ですから星でも見ながら少し話しませんか? いい場所見つけまして」
キーゼが、砦の窓から広場を眺めていたネーヴェ・グラヌローザにそう声をかけたのはつい先ほどの事。
運良く砦内で来客用のスペースが開放されており、窓からテラスに出ることが出来たのだ。
「星、ですか……良いですわね。決戦前だからでしょうか、少し落ち着かなくて」
テラスへ出る前に、さりげなくネーヴェに予備の外套を羽織らせるキーゼ。「ありがとう」と言われれば、フードの下でにこりと。
「下は大分賑やかですね。大きな作戦前というのが嘘のようです」
「皆、それだけリラックス出来ているということでしょう」
広場の喧騒に耳を傾けたネーヴェにキーゼが答える。
耳をそばだてれば、楽器を演奏する音、調子っぱずれの歌が聞こえてくる。
厨房の方も、煙突から煙が上がっている。誰かが料理をしているのだろう。
二人は、星空と共に、そんな息遣いにしばし意識を向ける。ふと、「そういえば」とキーゼが切り出した。
「貴女とあって5ヶ月程でしたが、あっという間だった気がしますね」
ギルド依頼の鍋パーティに始まり、パンクリアース学園での舞踏会やアキュアリスタでのお祭り。
一緒に過ごしたことは、仕事としての依頼を含め枚挙に暇が無いだろう。
5か月、短いと思う者もいるかもしれないが、二人にとっては濃密な期間だった。
「ふふ、本当に。それだけ充実していたということなのでしょうね、きっと」
「随分と一緒に過ごしたものです。これほど濃密な時間は、なかなかなありませんでした」
しばし、訪れる沈黙。
「お待たせしても申し訳ないですから……はっきりさせておきましょうか」
キーゼはフードを取り、真正面からネーヴェを見つめる。
「愛してますよ、ネーヴェ氏……この命が尽きるまでの短い間ですが、貴女の隣を、貴女の時間を僕に下さい」
男は静かに告げる。
女は、真正面からの告白に息を呑み……頬を染め笑顔を向けて
「……はい、喜んで。いつ仰って下さるかと……この時を、心待ちにしておりました。……私も、あなたをお慕いしております」
返事を待っていたかのように、キーゼの手がそっとネーヴェの頬に添えられる。
目を閉じ、キーゼに身を任せるネーヴェ。
二人の唇が、そっと触れ合う。ネーヴェの手が、頬に触れる彼の手に愛おしそうに重ねられる。
月が作った二人の影は、しばしの間一つとなり……やがて名残惜しそうに離れる。
「人であるあなたにとっては決して短くない時間、私と共に在ることを望んで下さるのは……とても嬉しく、幸せなことだと思いますの」
ですから、と。
「あなたの最期の時まで、私はあなたの傍を離れることはありません」
二人が絆を確かめ合ったその時、中天の月が二人を祝福するように、その優しい光を強めたように見えた。
マスターコメント
イベントシナリオ易しい 報酬:標準25 / 4〜25人
2021年07月05日 20時36分42秒 公開
参加者
相談掲示板
さて、よろしくお願い致します 今回は個人や少数行動の趣きが強いでしょうね 何を考えているか、と言われたら、手早く終わらせて貰うもの貰って、適当に捕まえた美人隣に冷えたエールで1杯やりたいですね
わたしは、兵士さん達含め皆さんに、食堂で食事を振る舞う感じでしょうか。 お手伝い的な。
(こそこそと厨房に忍び込み銀蝿中←)
(同じように厨房に来て酒のつまみを物色中)
アーシェルだ。よろしく頼む。 ……サフィラとキーゼは早速つまみ食いしようとしてんのか( 見てたら俺も腹が減ってきたな。 当日はリサの料理の配膳を手伝いたいと思ってるんだが、構わないか? 後は皿洗いとか力仕事もしようと思う。
コルネリウスです、よろしくお願いします。 ふふ、つまみ食いって妙に美味しく感じますよね。 私もお腹空いてきちゃいますね…。 私はイズさんとお散歩をする予定です。 皆さん良い時間を過ごせますように。
シルヴィアだ。今回はよろしくね。 ふふ、つまみ食いは良いよね。楽しい気分になる。 江流とガルシアとエフィルミアと、広場の兵士達を巻き込んだ宴会予定だ。 歌や踊りに興じたり、肴を作って食べたり、かな。決戦への景気づけ。 皆、良い時間を過ごせますように。
エフィルミアです!よろしくお願いしますっ。 シルヴィアさんが美味しいおつまみを作ってくれるらしいので 私は美味しく頂きます! いっぱいご飯を食べて皆で決戦頑張りましょー!
ヨル・スレイマン。宜しくね。 連れと過ごす予定だよ。夜食を作るから少し台所も借りるつもりだけれど、邪魔にはならないように時間をずらすなりはするので心配なく。 料理する人が多いみたいだ。腹が減っては戦はできぬ、だものね。 良い時間になるといい。
(『私は厨房から食べ物をくすねようとしました』の札を首から下げて正座←) 見つからないと思ったのに…( あ、サフィラだよっ! 今回は何をするかまだナイショだよっ!
はっ、つまみ食い食い勢がこんなに。。。 もう、ダメですよー。ちゃんと出来上がるまで待ってて下さい! あ、アーシェルさん、お手伝い頂けるんですか?よろしくお願いします! シルヴィア先輩達にも料理出せるかもですね。時間帯が一緒になったならよろしくお願いしますー
サフィ、つまみ食いは見つかるまでがワンセットだよ← >エフィルミア 君が初めてお酒を飲む機会に立ち会うからね。気合を入れてプレを書こう。 料理にも力を尽くすよ。エフィルミア達の踊りも楽しみにしている……あ、ちゃんと水も用意するから安心して。 >リサ リサの料理が食べられるなら嬉しいな。字数が厳しくて少なくなってしまうけど、「リサの料理に喜びお礼を言う」と書かせてもらうよ。リサもアーシェルも、もし時間帯が一緒になったらよろしくね。