【聖祭】蒼風の祭【蒼游】

崎田航輝

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シナリオID:410

オープニング

 ロスガリア大陸に住まうものたちにとって、12月は大きな意味を持つ。この時期に執り行われる祭りや催しを、聖霊節と呼ぶ。
 その由来はハーフリングの英雄、ジド・ルウがその身をエーテルと成して世界に穿たれた大穴を塞ぎ、彼に小さな神々が続いたことが今年までの平穏の礎を作った――という逸話に拠る。詳細な時期が定まっていないのは、この頃に暦が存在していなかったため、神代における『冬の時代』という比喩的表現を文字通りに解釈したためであるとされる。
 由来はともあれ、ジド・ルウの英雄的行為を称え、名を失った神々に祈りを捧げることから始まった聖霊節は、様々な土地の風習や営為と重なった結果、亡き祖先や近しい人々への思いを捧げることや、想い人と過ごす特別な時期――という習慣が定着して久しく、特別信仰心の無いものであっても神殿や家庭でモミの木や柊を飾り立てて祈りを捧げる。街をあげて催しを行い、厳しい冬の中でもとっておきのごちそうを食すこの時期は、収穫祭に続く特別な時節といえた。
 赤白の服装も今代まで続く伝統(テンプレート)の一つとなっており、そこかしこに仮装をした人物も目立つ。
 ――さて。今年も、各地で慰霊祭が執り行われようとしていた。

●蒼水の都
 優しいそよ風が吹いていた。
 冬の温度を抱いていても、それは優しく柔らかく。美しい水面を仄かに揺らして耀かせ、街の空気を彩ってくれているようだった。
 水上都市アキュアリスタの南東部。
 その外縁近くに位置する街はこの日、ひときわ盛り上がりを見せていた。
 幅広の道から繋がる入口には、色鮮やかなに飾られた入場門。そこから進んでいくと家並みまでもが華やかに彩られている。
 ジド・ルウをイメージさせる赤や白の花。緑の葉に、雪や水の流れをイメージした飾り物。
 橋や壁をカラフルにするガーランドは、高い支柱を持つ街灯の間にも巡らされ、美しくも愉しげな空気を演出するのに一役買っていた。
 楽器を模した金属の飾りも各所に飾られ、そこが音楽も楽しめる場所である事を表している。
 ――蒼水の都クリアウォート。
 冒険者達によって観光と祭りの計画が進められた街は――今やその開始を待つばかりとなっていた。

 街を見渡すと、各所に観光の為の船や案内が見られる。
 道沿いの水路に停まっているのは遊覧船。
 鮮やかに、そして綺羅びやかに飾られていて――これに乗って街を巡れば、美しい街並みを楽しみながらゆったりとした時間を過ごせるだろう。
 また、大きな船だけでなくガイドと共に水路を巡れる小型のゴンドラもある。水路から気軽に寄れる店も多く、客を歓迎していた。
 街を回る船ばかりでなく、船頭体験や音楽の楽しめる船、結婚式の催される船など用意された船は様々だ。
 更にボートレースも開催され、釣りが出来る店もあり――街の各所でのんびりと、或いは賑やかに時間を送る事が出来る。
 暗くなればトーチや花型のランタンで飾られた美しい水路を望める事になっており、歩いても船に乗っても、幻想的な景色を味わえるだろう。
 だけでなく、夜半には蒼水灯――慰霊の為に灯りを水に浮かべる催しも開かれる。楽しむばかりでなく、静かな時を、水の流れと共に過ごせるに違いない。
「これも冒険者の皆さんのお陰ですね。このお祭りにも招かせて貰ったし……最高の時間になりそうです!」
 街を眺めて声を明るくするのは若年実業家ダニエル・バーチ。冒険者達を心待ちにするように期待感を込めていた。
 そうして太陽も中天に昇る頃には、多くの観光客が訪れ……街が賑やかになってゆく。
 水の街の、観光と祭りの時間が――今始まろうとしていた。

解説

●概要  クリアウォートにて自由に過ごせます。  時間帯、参加するイベント含め自由です。  移動は徒歩の他、1~2人乗りのゴンドラを借りることも出来ます。 ●行えること 1.遊覧船観光  聖霊節スタイルに飾られた大きい船で街を巡ります。  雄大な水流や、祭りに彩られた家並みを楽しめます。夜間はランタンとトーチでライトアップされた幻想的な水路を巡れます。 2.お土産購入  波と船をモチーフにしたシンボルをあしらった、各種日用品やアクセサリ等。  他、小さなジド・ルウ人形など、慰霊祭らしいものや季節に合っているものも探せば見つかります。 3.音楽  歌と踊りと演奏を自由に楽しめる音楽船に乗れます。  また、各所で街の歌を唄う吟遊詩人と交流できます。 4.食事  揚げた魚を生地で包んだフィッシュクレープの店が人気です。花のソースや、限定のゲテモノ系トッピングもあります。  ジド・ルウカラーの苺+クリームや、各種フルーツのクレープも売出し中。  他デザート店も多く、ケーキや苺パイがあります。 5.ゴンドラ観光  少人数で、水路の出店に寄りつつ、ガイド有りの観光を楽しめます。 6.テーマ船  特定のサービスを行う船を楽しめます。 ・船頭体験  レクチャーを受けつつ操舵出来ます。人を乗せることも出来ます。 ・船上結婚式  結婚式が催されます。 ・ディナー船  夕陽を望む豪華な船にて、食事を供される船です。 ・演劇  船上でジド・ルウの伝説を劇にしたものが演じられます。  観劇の他、参加も可能。 7.ボートレース  小型船を操舵し街を巡る水路を競争します。多くの観客が押し寄せます。  参加及び観戦が可能。コースは広い水路や細い水路、曲がりくねった水路などを巡ります。  夜間も開催されます。 8.釣り  テラスのある店で釣りを楽しみ、釣った魚を料理してもらえます。釣れなかった時限定隠しメニュー有り。  また大きめの釣り船で釣り大会が催されます。 9.氷の小屋  氷で作った小屋に入れます。  温かい食事メニュー有り。 10.宝探し  水路に設置されたダミーを小型ゴンドラで探し、景品と交換する遊戯を楽しめます。 11.スタンプラリー  食事やお土産の店を徒歩や船でのんびり巡り、スタンプを集めます。 12.蒼水灯(慰霊)  亡くなった人や、今も生きる大切な人を想い、夜の水面へ灯りを浮かべる催しです。  自身でランタンにデザインを施したり、出来合いのものを使うことが出来ます。

マスターより

【聖祭】の後編です。【蒼游】としてもここで一段落という形になります。 今回は観光の準備が整ったクリアウォートにて、事業開始と共に慰霊祭を開いて盛り上がろうという催しです。 冒険者にも楽しんでもらおうと、招待されました。 お好きな場所、イベント、お店に足を運んで楽しんでみてください。 参加者同士で同行する場合は、相手のお名前や共通のグループ名などを記載して頂けると助かります。 イベントは幾つでも選ぶことが出来ます。 沢山選びすぎると描写が薄くなる可能性があるので、どれを楽しみたいか焦点を決めておくと良いかもしれません。 皆様のプレイングを、心より楽しみにお待ちしております。

リプレイ

 澄んだ風が優しく吹いて、水面を蒼に煌めかす。
 聖なる色に飾られた街並みが、笑顔と声で一層愉しげに彩られていく。
 蒼水の街クリアウォート。そこでは人波が連なり、老若男女が行き交って、賑やかな盛り上がりを見せていた。
 祭りの本番に、招かれた冒険者達もまた明るく、或いは静かに期待感を抱いたように。それぞれの時間へと歩き出して行く――

●蒼の街
「行くぞおらぁ!」
 ナハシュはヨル・スレイマンを引っぱって、賑わいの只中へとやってきたところ。先日のパンクリアース学園の意趣返しという訳じゃないけれど。
「急ぐぞ、今度こそ飯を食うんだよぉ!!」
「判った判った。あの辺りを見ていこうか」
 と、引き摺られながらもヨルが道の先を指す。そこには食事の店だけでなく、小物屋を始め種々の店が並んでいて。
「よし、何かおもしれえもんは、と――」
 ナハシュが言って物色し始めた。
 するとヨルがそこで服飾の店を見つけて……手をさっと広げる。
「ナハシュ君良い? えーと、はいオーケイ」
 そのまま肩幅を測り、シャツとセーターを買ってナハシュへ渡した。
「何だこれ?」
「服だよ。良いかい、大人しく着るんだ。君に合わせたサイズだからね」
「いや、着ねえけど?」
 ナハシュは半裸のまま、きょとん。
「……本当に着ないのかい」
「ああ」
 ナハシュがそれを畳んで袋に仕舞うと、ヨルはそうか、と少々残念そうにしつつ……それでも別に買ったキャスケットを被せる。
「これならゴワゴワしないだろ。ほら、メリーユールフェス」
「おお、まあこれなら」
 と、そのまま歩き出したのだった。
 そうして一通り見て回った後、ナハシュの楽しみにしていた氷の小屋へ。
「すっげぇなー……マジで氷だけでできてんの?」
「これは確かに、すごいな……」
 透明な色、巧みに彫られた椅子と卓。その造形に二人で感心しつつ……食事を注文。
「折角だから全メニュー頼もう。ユールフェスは酒飲んで飯食う祭なんだろ?」
「おし、望むところだ」
 ナハシュも応え、共に鍋、焼き魚、スープ、赤白のワインに舌鼓を打ち始める。その美味と、小屋自体の快適さにもナハシュは満足の吐息。
「どれもうまいな!」
「ねえねえ、それより酒は飲んでる?」
 と、ヨルは上機嫌に酒坏を勧めてくる。
「飲んでるよ」
「そう? いっぱい飲んでいいよ、酒はまだあるからね!」
「お前って絡み酒だよな……まあいい、ヨルも好きだなけ飲めよ。ここは奢りだ、良いもん観たからな!!」
 ナハシュもまた陽気に返して。二人の楽しい時間は、続いてゆく。

「まあ。どこもかしこも綺麗で――!」
 スィーリーンは仄かに踊るような足取りで、街をくるりと見回していた。
 綺羅びやかで可愛らしくて、どこを見るかと迷ってしまう。それでもまずはお土産をと、店を巡ると――
「波と船をモチーフにした物が多いのですね。とても綺麗……」
 蒼が印象的で、見れば街の事を思い出せるだろう。そんな思いと共に、精緻に石が嵌められたブローチを購入した。
 その後は食べ物の店へ。
「食べ物も色々揃っているのですね……!」
 声を華やがせ、まずはフィッシュクレープを入手。
 食べるとさくっとした感触が快く、美味で。スイーツも欲しいけれど、フルーツクレープとパイ、どちらも美味しそうだから。
「迷う時は両方との格言もありますけれど……」
 食べきれるでしょうかと悩ましげ。
 けれど実際に買ってしまうと、クレープはたっぷりのクリームがなめらかで、パイも軽い食感が魅力的で……どちらも完食出来てしまうのだった。

 ライル・クライブスは食べ物の店を巡っていた。
 というのも、最近料理に凝っている為。全部が自分で再現出来ないにしても――
「何か参考になるものはあるでしょうかね……」
 呟きつつ食べ歩き。
 すると人気の品はすぐ目について。
「このフィッシュクレープは良いですね。簡単お手頃、材料の入手難度も低くて――」
 さくさくと食べながら、飾らない見た目と味にも感心を覚えていた。
「これならアレンジもしやすいし……」
 野菜を挟む、別の肉を挟む、ソースの種類を複数にしてみる――アイデアは尽きず、後で自分でも作ってみる事を決めていた。
 それから勿論、デザートも実食。
「クリーム系の冒涜的おいしさも悪くはないですが――」
 自分で作るとなると色々と難しい。
 そこでと、気に入ったのは苺パイだ。生地を焼く技術と、果物との調和に重きを置かれたそれは――
「ん、美味しいです」
 確かな匠の技を感じる美味。
 そうして一通り巡り、美食を楽しんだ後は――日が落ちると共に蒼水灯の儀式へ。その幽玄な光を見に歩んでいった。

 ゆったりと歩幅を合わせ――ロイ・アウレアはテス・クラルスの手を取って歩き始めていた。
「普段は合わせてくれてるだろう? 今日はテスの好きに回ろう」
「これでも、結構好きに動いているんだよ」
 少し照れながら、テスは温もりに幸せを感じて握り返す。そうかな、とロイは笑みながらも――鮮やかに飾られた通りへ。
「綺麗だな」
 紅や白、緑に蒼。 
 全てがテスと共に見ると輝いて見えて。うん、と、テスも心同じく頷いていた。
「ロイ、あっちが見たい」
 と、そこでランプの店を見つけて、美しい品々を見始める。
 時と共に嗜好は変わる。テスが何を選ぶか、ロイはその“今”を見るのが楽しかった。
 そうして選ばれたのは波と光の模様が優美な逸品。買ったテスは嬉しさに、それを大事に抱えていた。
 お次は釣りへ。広いテラスの店で挑戦すると、テスは小物が数匹。ロイも引き上げるけれど……ぷつんと糸が切れて釣果なしだ。
「惜しかったね……」
「うん……」
 ロイは凹むけれど――案内された店内で隠しメニュー、魚介スープとデザートのセットをサービスされると、ぱぁ、と笑み。
「おぁ! ありがとう!」
「良かったね」
 頷くロイはテスと共にミードで軽く乾杯。
 ホロ酔いになった頃、テスはあーんと口を開けた。
「私にも一口」
「はい、どうぞ」
「ん、美味しい……こういうのも悪くないね」
 そうして食事を楽しみ、暗くなった頃――二人はゴンドラで静かな水面へ。テスは改めて、ロイを見つめた。
「ロイも楽しめている?」
「もちろん。テスがオレを見て微笑んでくれたらそれがご褒美だからね」
 ロイは即答。笑顔で言い切ると、次には少しふざけたように。
「世界はテス中心に回ってます」
「ふぅん。私の世界の中心も君なのに、気付いているのかな?」
 テスがふふっと笑って返すと、ロイはその不意打ちに口元を抑え、「くぅっ……」と照れを浮かべざるを得なくて。
 そんな顔も見つつ、テスは買ったランプを灯した。
 川面のランタンの幻想的な光の中で、輝く特別な金と青の光。それをうっとりと見つめて――
「君の色に似てとても美しいよね」
「そのまま……返すよ」
 水面の反射に照らされた横顔に見惚れ――ロイは影を寄せる。
 テスもまた青の瞳に惹かれ、口づけを。水の揺蕩う音だけが、静謐の中に響いていた。

「あちらこちらで楽しそうなイベントやってるー……」
 人波の間をとてとてと縫いながら、アルマ・ヴァレンタインは道を進んでいた。
 色々気になるものはある。
 けれど、今日の目的は――
「おじさん、このチャレンジメニューを」
 指差すのは屋台にあるゲテモノ系トッピングのクレープ。それがアルマにとっての目玉なのだった。
 あいさ、と店主が生地に挟んだのは異形の鳥肉。
「こいつはコカトリスの変種でさ!」
「わぁ、すごい!」
 脚の一部も飛び出ているそれを、アルマはがぶり。ばきばきとした歯ごたえと得も言われぬ肉感を楽しんだ。
「もっとちょうだい!」
「なら次は魚、と見せかけた魔獣! こっちはデロデロのスライム! こっちはヒドラ! あと水路にいたトカゲの化け物!」
「どれも美味しい!」
 もちもち、ぐにゅぐにゅ、べきべき。アルマは帽子の猫耳が動いているように見える程、上機嫌に平らげてゆく。
 勿論、普通のクレープやスイーツも頂いて……氷の小屋で鍋も実食。
「キンキンに冷えた氷の小屋でアツアツのご飯、貴重な体験だね!」
 つゆを啜りながら……ほう、と満足の吐息を昇らせるのだった。

 クレープの店で一つ、お土産の店でまた一つ。
 ニール・ロブラリアは昼前から街を巡り、スタンプラリーを進めていた。
「結構、たまって来たね――」
 これなら充分に全部集めきれそうだ。
 と、歩いていると――目の前の水路で船頭体験が催されていた。
 折角の水上都市でもあるし、と。
「ちょっと、やってみようかな」
 早速参加して、教えられつつ小型の船に乗ってみると――
「……あ、船の上で立つのだけでも結構、大変」
 水の上は抵抗がなく不安定。ただ櫂を動かすだけでは、その場で揺れるばかりだ。
「……体全体でバランス取って、と」
 それでも何とか水を掴まえて、蛇行して前進。すぐに助けを借りたけれど少しの時間、一人で操舵出来た。
「ここから見える水路の景色、新鮮だな」
 眠たげな瞳を少し開く。自身が雄大な蒼色の一部になったようだった。
 そして満足の心持ちで――スタンプ集めを再開。
 店先を表したスタンプに、時計台を表したスタンプ。台紙が賑やかになるのが楽しくて。
「あと少し……」
 日暮れ頃には終わりが見えて、ニールは少しだけ上機嫌に歩みを速めていた。

「やっぱりこういうところにきてやることといえば……食べ物!」
 マーハ・アセトシソンは店の並ぶ一角を訪れていた。
 既に鼻先を良い匂いがくすぐっている。それに惹かれて、最初に足を止めた店舗は――
「クレープ。まず名前の響きが良いよね」
 というわけで一人分買って、実食。
 生地はもっちりしていて快い噛みごたえ。そして揚げた魚はざくっと衣が鳴って、熱々の脂が溶け出してきて。
「穀物と揚げ物の組み合わせはやっぱり最高!」
 さらにトッピングメニューを見つければ――
「ここで行かないでいつ行くっていうんだっ」
 迷わず注文。
 花のソースは上品な芳香と風味。限定トッピングはトカゲや少々不気味な甲殻類を使ったもので――
「まあ、これはこれで……!」
 味は悪くないので許容。
 更にケーキ屋で苺ケーキやパイを食べれば、ふんわり、そしてさくさく生地と果実のハーモニーが楽しめて。
「はーやっぱり世界は広い、こういうところで出会う食べ物は勉強になるなー。そして美味しい」
 是非またこよう、と。
 お腹をさすりつつ、満足げに呟いていた。

「よし、回るぞ!」
 バクル・バスリーは台紙を手にスタンプラリーを始める所。早速、近くの雑貨屋に入っていた。
「わぁ……!」
 小物に食器、飾り物。見えるのは可愛らしく綺麗な品々だ。
 感心の心でバクルが店内を歩いていると――そこで行き会ったのが、雑貨を見ていたエヴァ・パルリエ。
 同じ冒険者で、また同じ台紙を手にしていると気づいたバクルは笑みかける。
「スタンプラリー、やってるの?」
「ん……今始めた所」
「ぼくもなんだ! ここ、色んなものがあって迷っちゃうよね」
 バクルの言葉にエヴァもこくりと頷く。
 とはいえ、日常使い出来るカップを見つけると、バクルはそれをお土産に決めた。シンボルが刻まれていて、爽やかな印象の品だ。
「沢山買うんだ、ね」
「冒険者仲間もだけど、今度地元に帰った時に家族や知り合いに渡すんだ」
 バクルの言葉にエヴァは成程、と納得。
「ボクも折角だからなにか買おうか、な」
 と、食器から幾つか選び……更に実用品として、街の布で作られた道具袋も購入した。
 その後、こんな機会だからと食事も同道。
 水路の見える店のカフェテラスに共に座った。
「おススメの料理、お願いするよ!」
「ボクも同じもの、を」
 するとやってきたのは魚介のパスタ。新鮮な貝と白身が柔らかで、また共に供されたマリネも美味だった。
「……うん、美味しい」
 堪能すると、エヴァは小さく伸びをする。
 水面は煌めき、街並みは色鮮やかで。ここだと喧騒からも距離があり、ゆるりと寛げた。
(こうやってのんびりと過ごせるのは久しぶりな気がする、な)
 日々、死線をくぐっている。
 故にこそこんな時間が貴重に思えて。
「たまにはこういうのも良いかも、ね」
「うん!」
 バクルもまた頷く。こうして遊ぶと、また次の冒険にはずみがつく気もしたから。
 それからまたスタンプ巡りへ。
「えっと、ここからさっきの店が見えるから……」
「あそこの店、かも」
 時に回り道して、時に細道を行きつつ。休日の探検を楽しんでいった。

「わぁ……!」
 船の置物に、ジド・ルウカラーの飴玉、マグカップ。
 スタンプラリーの道中。土産物店にならぶ品々に瞳を燦めかせ、アルカンジュ・クリアハートはちょこちょこと歩き回っている。
「これと、あっ、これも可愛い、ね!」
「ええ。どれも良い物ばかりで」
 共に回るアルム=ラントももっふりと笑んで、品を選んでいた。
 中でも気になった、シンボル入り木製ジョッキを自分用にと購入すると――アルカンジュはその間にこっそりとマフラーを買っている。
 シンボル入りで柔らかな逸品で、それを後ろ手に隠すと――
「高い所にある物が見たいです……!」
「では、肩車を」
 と、アルムがしゃがんだ所で、アルカンジュはその首にふわりと巻いてあげた。
「えへへ……メリーユールフェス、だよ!」
「これは、何とも素敵な贈り物ですね」
 明るい笑顔でお礼を言ったアルムは、自分もまた買っておいた赤白のリボンをプレゼント。
 端にふわふわのぽんぽんがついた物で……その可愛さにアルカンジュはありがとう! と華やかな笑みを浮かべていた。
 それから、アルムの物と似たカップを買おうと本当に肩車して貰う過程で、うっかり天井に頭を打ち付けたりしつつ――水路に出ると前に落ちないよう、アルムから気遣われもしながら共に食事へ。
 アルカンジュが苺たっぷりクレープを頼むと、アルムは真剣な眼差しで。
「挑戦しましょう――ゲテモノに」
「が、頑張って……!」
 頷くアルムは虫の翅っぽい何かが大量に入った翅クレープを注文。一部本体まで入っていて、アルムは尻尾を足に挟んでひぃ……と寒気を催すけれど。
「大丈夫……! キラキラしてるし、カエル料理より可愛いよ……! 多分……!」
「そ、そうですね……!」
 儘(まま)よ、とばかりにアルムはばりばりと実食。調味料じゃない辛味と苦味があったけれど、不味くはなく意外といけた。
 アルカンジュは甘味を存分に楽しんで。
「それじゃあ次、行こう?」
「ええ、全種類集めたいですよね」
 スタンプはまだまだ残っているからと、二人で蒼の街を歩み出す。

 レオネベルとファイサル・アル=ファルドは、船頭の漕ぐゴンドラに揺られていた。
「おぉ、すいすい進むなぁ……」
 滑るような心地と、頬を撫ぜる風の快さにファイサルは感心の声音。
 レオネベルもまた「うわー……すげぇなぁ」と流れる景色を眺めて。おっと気付くとファイサルの腕をくいくいと引く。
「ほら、ファイサル! 花のランタンもある!」
「うん? あ、本当だ。花が咲いているようでかわいいですね」
 まるで水上の花園。光が映る水面も美しく……レオネベルはこくこく頷いてごきげんだ。
 仰げば柱や壁にガーランドが飾られていて、色彩で互いを結び合っている。遠くでは釣り船や船頭体験が盛り上がっていて。
「催しも賑やかですね。あそこ、時計台もありますよ」
「おお、大きいな!」
 レオネベルが見上げると、一際高い建物。そこからまた周囲にガーランドと彩り豊かな飾りが連なって、歓迎の旗も揺らめいていた。
 道中には円を描く優美な水路もあって、レオネベルはそんな美観に目を輝かせ、尻尾も愉しげにゆらゆら揺らし。
 何より楽しみなのは、ガイドが手で示す出店の数々。
「目指すは出店制覇だな!」
「ええ」
 レオネベルの笑みにファイサルも応え、停まると早速メニュー選び。
「オススメはフィッシュクレープだってさ、ファイサルはどれにする?」
「ではまずプレーンを。レオさんは?」
「オレは……色々あるもんなー」
 悩みつつ、花のソースを選択。色合いも可愛かったから、とは言わないけれど……食べると芳香が華やかで美味。
 プレーンの物もシェアして、魚本来の旨味も二人で堪能する。
「どっちも美味いな!」
「ええ、本当に」
 その後レオネベルは更にフルーツのクレープを買い――ファイサルはジド・ルウカラーの限定品を。
 白のクリームと、紅の苺が何とも甘やかで。
「レオさんこれも一口……あ、両手塞がってますね」
 と、クレープを持つレオネベルの、口元へ差し出して。
「はい、あーん」
「あむ……ん~! 美味い! じゃあオレのもどうぞ」
「では遠慮なく」
 はむりと食べて、ファイサルは微笑んだ。するとファイサルもまた笑って……楽しく優しい時間が流れてゆく。

 たまには気晴らしも必要、と。
 テラスの店に、オゴスはギャメルを連れてきていた。
「釣りは得意ですから教えてあげます」
「うん」
 こくりと頷くギャメル。オゴスはその様子を見ながら……店員に説明を聞いて張り切っている。
 心には嬉しさがあった。父が息子に釣りを教える――そんな物語の定番に、憧れてもいたから。
「俺達、傍目には親子に見えるんでしょうか」
 言いつつ、竿を手に取る。
 けれど糸を垂らすのも上手くいかず、手こずる。
 ギャメルはそれを少しだけ見つめている。
「……」
 釣りが得意だというのが嘘だとは、判っていた。元々、オゴスが家族の愛と無縁の男だったろうとも察している。
 今も物語を頼りに父親風に振舞ってくれてはいるけれど、慣れない不器用さが滲み出ていて。そこに優しさと、悲しさも感じて複雑な思いだった。
「……」
 それでもギャメルは、下手な芝居を続けてほしいとも思う。今なら虚勢はなしで、子供っぽいところを隠さなくてもいいから。
「中々、難しいですね……」
「じゃあ、オレにやらせてー!」
 ギャメルは手を出して竿を操り、すぐに魚を釣り上げる。
「これで合ってる?」
「……、ええ!」
 オゴスは嬉しそうに頷いて。釣り上げた魚を料理してもらい、共に美味を楽しんだ。
 そうして夜には、蒼水灯へ。
 水面が幾つもの灯りに照らされる中、オゴスも光を浮かべる。
「――」
 ギャメルの母は命の恩人だったが、充分に恩返しをする前に亡くなった。
 子供もいる人の妻だと知って恋心は秘めていた。なのに、今自分は彼女の息子の父親を演じている。
(俺は、何を……)
 抱くのは自己嫌悪。
 けれど傍らで――ギャメルが白いカーネーションの灯りを母さんに、と捧げていた。
「周りに支えられてオレたち九人、元気にやってるよ」
 実の親父、アイツは父親らしいことなんて何もしなかったから、とオゴスを見上げて。
「オゴスのおかげで今日は楽しかったよ」
「……、良かったです」
 オゴスは頷いて目を閉じる――少しは救われた気持ちで。
(俺は所詮他人だ)
 それでも、彼女が愛した九人の子供達を守り抜きたい。
 生きていけるように、笑顔が曇らぬように、ゴールディという街に染まらぬように。
「宿もあるようですから。今日はゆっくりしていきましょう」
 優しい夜風の中、ギャメルを連れてまた歩み出す。

●風雅の刻
「水の都が、ここまで華やかに……!」
 自分達が助力した街の、その晴れ舞台に――フロマーシュ・ダイヤドロップは視線を巡らせながら声を明るくしていた。
 共に訪れたアルフレッド・ラ・ギも頷く。
「あれから中々賑やかな街になったものだ」
 だからこそ、と。
「今日は派手に遊んで気分も上げていこう」
「ああ、沢山楽しんでいこう!」
 応えるのはライナ・フレイヴァルツ。平素はクールな表情に今は期待感を含んで……三人で歩き出していた。
 アルフレッドは両手に花であるが故、喜びを隠しえない。楽しい気持ちのまま道を進み――ボートレース会場まで移動した。
 丁度開始前のそこは、人波と賑わいに満ちている。
 三人も水路沿いで観戦。水飛沫を上げつつ、思った以上の速度で走る船が軽快で。
「水の上で踊る白鳥のようだ。あれほどまでに操舵できるものなのだなぁ」
「でも、ま、周りの人たちも熱いです……!」
 響くのは地鳴りのような歓声。
「賭けをしている人間のさがだな」
 と、アルフレッドも舟券を手にしながら眼差しに熱を込めていた。
 同時に、フロマーシュが怪我をしないように「さぁお嬢さん、お手をどうぞ」と周りから引き離してもいる。
 それに微笑みつつ、ライナもまた船に視線を戻し。
「賭け事に熱中する気持ちがよくわかる」
 実感に呟くのだった。
 その後、勝ちに終わったレースを後にして食事へ。店にフルーツのクレープが並んでいるのを見たライナは意気込んだ。
「新作もあるのか。どんどん行くぞ!」
「ふむ、こうなったら食べ比べといこうじゃないか」
 と、実は甘いもの好きのアルフレッドも参戦。
 フロマーシュも勿論加わって、甘い柑橘のオレンジクレープ、蕩けるピーチクレープ、さくさくのアップルクレープを楽しんでゆく。
「ジド・ルウカラーのクレープもありますよ」
「本当か? では私も……うむ、美味しい……」
 ライナが目を輝かせてそれを食べている、その姿を……フロマーシュはまたほわほわとした気持ちで微笑ましげに見つめているのだった。
 それから街を巡り美観を存分に眺めて――日暮れ頃、ディナー船へ。
 ライナがシックなドレスに着替えてくると、フロマーシュもまた青の可愛らしいドレスに身を包んで乗船し――アルフレッドは拍手喝采。
「とても美しいよ」
「ありがとう。では食事を始めよう」
「はい……!」
 フロマーシュも頷くと、皆でテーブルにつく。
 供されるのは前菜にスープ、魚のソテーに甘く煮た果実のデザートまで。ゆったりと美味を楽しむと、陽も沈み……水に揺れる夜景をライナは儚げに眺めた。
「楽しい時間はあっという間に過ぎていくものだ……」
「うん。けれどこれで終わりではないよ」
 アルフレッドは言うとエーテルの光を放射状に輝かせ、辺りを眩く照らして――手を差し出す。
「私と踊ってくれますか?」
「ふふ、演出家なのだな、私で良ければお相手しよう」
 そっと手を取るライナは、暫し緩やかなステップを楽しんでいた。フロマーシュはわぁ、とときめくように。
「ふたりとも、素敵です……!」
「ならばマーシュも、踊ろうか」
「い、良いんですか……?」
 勿論、ライナが手を取ると、フロマーシュはどきどきしっぱなしで。同時にそのドレス姿にうっとりもしながら――夢見心地の一時を楽しんだのだった。

●釣果良好!
「噂には聞いていたけど良い街だね」
 爽やかな風の中、フィーレン・ステオラーズは並ぶ店々を眺めている。
 折角だから何か買いたいと思っている所で――
「そういえばこの前、マグカップにヒビを入れてしまったんだっけ……よし、じゃあこれで」
 雑貨屋で見つけると、早速購入。手頃な大きさの品で、シンボルがあしらわれて見た目にも良い品だった。
 お土産は満足すると――
「ん? 釣った魚を食べられる店だって?」
 水辺のテラスの店を見つけると興味津々。面白そうだからやってみるかと早速釣具を借りることにした。
 と、同じタイミングでそこへやってきたのはエンデ・エトル・シャリオン。魅力的な催しに迷いつつ、釣りをしようと決めて来たところ。
「今からか?」
「ああ」
 これから暫し同じ釣り仲間になるからと、フィーレンが声をかけると……エンデも頷いて。
「まあ、のんびりやろう」
 他に客もいないしと、店員にやり方と簡単なコツを教わって――お茶とビスケットなどのお菓子を注文し、ゆるりと糸を垂らした。
「よし、大物を釣り上げてやるぞー!」
 と、フィーレンも釣り竿を手に、仕掛けた餌を適度に動かして獲物を狙う。
 そんな様子を見ながら、エンデも水面を窺いつつ――街並みにも目をやっていた。
 自身もまた力を貸したクリアウォートの観光事業。それが上手くいっているようで何よりだと、実感を得ながら。
 視線を戻すと竿に変化はないが、焦らない。
 元々、水辺での釣りは経験がないから、やっておけば冒険の役にも立つかもという思いがあっての事だし――
「こういうのは狩りと同じで、気合を込めすぎると警戒されるものだろうしな……」
 また自分が率先してやる事で、実益を兼ねた客引きにもなる……くらいの心境。或いは、その心構えが功を奏したか。
 ぱしゃりと、美しい鱗の魚がかかる。
「こっちも来たぞ!」
 フィーレンも銀に輝く魚をゲット。大物故に喜びも一入(ひとしお)に、早速煮込みにしてもらい――
「これは美味しいな!」
「ん、確かに」
 共に食べながら、エンデもそれには頷くのだった。

 釣り人が時を過ごす中、キーゼもまたテラスにて糸を垂らしていた。
「こうやって何も考えず釣りを出来るというのも、冒険者様様ですね……」
 波紋を見つめて静かに呟く。
 こんな時間を送る事が、嘗ての自分では考えられなかった。
 だから獲物を求めるよりは、ただ釣りを楽しむようにのんびりと、息抜きをする心持ちで。
「……」
 緩やかな風の中で――魚がかかれば、心が赴くまま適度に釣り上げて。バターで焼いてもらい、酒と共に味わった。
「成程、美味ですね」
 寛いだ吐息と共に、ふと遠くを見る。
 ここは賑わいからも距離があって静かだ。だからそのまま、聖霊節と慰霊祭の盛り上がりを一歩引いて眺めるように。
「……まあ、こういうのどかなひと時、というのは恐らく小休止のようなものでしょうね」
 だから今のうちに存分に楽しんでおいたほうがいいのだろう、と。
 過るのは激動の予感。
 故に今はゆったりと、一時の休息を過ごしていく。

 出店に飾り付けにイベント。
 ストレガ・L・リベルガストラは街を巡って、話も聞きながらレポートを執筆していた。
「観光事業はうまくいっているみたいなのだ。よいよい」
 結果は上々。
 更に水棲生物調査と、釣り人向けのレポートも兼ねて――テラスのある店へ。
「おお、沢山釣れるのだ」
 早速釣具を借りてトライすると、短時間で釣果は良好。バケツに入れて姿形をメモして、食べるものは残して子魚は還した。
「白身魚が多くて、細身から太った魚まで揃ってて――ん、味も良いのだ!」
 フライにしてもらったそれを楽しむと……次に釣り船へ。丁度大会が開かれる所に参加して、ロッドをゆらゆらさせてマイペースに釣っていく。
 といっても、目当ては競争より全体の釣果。
「釣れた魚記録させるのだー」
 周りに大物がかかれば手伝いに行って、都度記録。
「種類は多いけど、どれも隔たらずに共存してて良い環境なのだ」
 資料を漁って種別も特定し、レポートへ。観光ガイドと研究資料になるだろうと、詳細な情報を纏めていくのだった。

 盛り上がる釣り大会に、シャロン・ラ・モリエールも参加していた。
「重量と数、二つの部門があるのね」
 ならば両方狙いたいと、不安定な船上でも悠々と移動して糸を垂らす。
 小物にしてもまずは釣らねばと、狙いは悪食で数の多い物。捕まえてきた虫を多めに括りつけ、大胆に釣り竿を操り――二匹程を揚げる。
「良い感じ……このままたくさん釣って、数日分のおかずに!」
 釣った物は持ち帰り可能だからと、やる気も充分。
 食費を浮かせる気満々に、小魚を餌に更に大物を狙い――
「き、来たっ……!」
 強く糸が引かれる感覚。
 おおっと周りも注目する中、シャロンは焦らず、それでいて拳法で鍛えた体幹を活かすようにして。
「ここですっ――!」
 ばしゃあ、と釣れたのは身の丈を越える巨大魚。
 それを網で捕らえ、一緒に釣れて船上に滑った小魚も、平気でむんずと掴んでゲットして。
「優勝!? やりました!」
 最終的には二部門制覇で、トロフィーと沢山の魚を得たのだった。

●旋律の中で
「やっぱり音楽は良いね」
 優しい水音を背景に弦の音色が響く。
 ゆったりと航行する音楽船に、キオルティスは乗っていた。
 舞台上では吟遊詩人が楽器を爪弾き、歌声を昇らせている。やわい風に髪を揺らしながら、キオルティスはそれを心地良く聴く――ばかりではなく。
「では、俺も」
 竪琴に指をかけ、旋律に愉しげな彩りを加えて。足につけた鈴も鳴らして明るくリズムを取り、曲をより鮮やかに美しく飾ってゆく。
 更に、自身も歌を紡いで。
「溢れる笑顔 そうこっち向いて
 輝く瞳 そうずっと其の儘で
 光り輝くこの日に魅せたその顔を
 ずっとずっと永遠に」
 何処までも響くように、声音は優しく暖かく。
「街が躍る心も躍る
 星が歌う君も歌う
 星降るこの日 2人一緒に
 メリーユールフェス」
 そして楽し気に。
 鈴は軽快に、竪琴は流れるように。アップテンポのメロディーを奏で、唄い――終われば仰々しく一礼して見せ、華やかに笑んだ。
「さぁ、次は誰が素敵な物語を紡いでくれるのかな?」
 それに拍手で応えた詩人達が、ならば自分が、と旋律を繋げてゆく。

「それにしても改めて見ると素晴らしい都市ですね」
 これは観光しがいがありそう、と。
 色味豊かに飾られた街を、フリーダ=ブロムヴィストも見回している。
「啓示では『たまには休むのも良いよね』とありますし――」
 巡ってみましょうか、と。瞳を閉じて呟くと、そのまま歩み始めた。
 その途中で見つけたのが音楽船。明快で愉しげなメロディーに惹かれて乗ってみると――皆が楽しく唄い奏で、踊っている。
「成程……啓示でも『BGMに合わせて踊る……オ=トゲーの時間だオラァン!』との事ですし――折角ですから」
 フリーダも合わせて踊り始めた。
 速めのテンポに合わせてステップを踏み、時に踊り子達とついては離れ、くるりと回ってみせながら。
「さあ皆様も一緒に楽しく踊りましょう!」
 見ていた住人にも誘いかけ、一層愉快にダンスを続けていく。
 大分体も温まって来たけれど。
「これからが本番ですよ?」
 まだまだ楽しもう、と。
 熱を帯びた視線を浴びながら、フリーダはリズムをとっていった。

「ふふ、こうして始まると感慨深いわね」
 船から望む景色は、聖なる彩り。
 リノアは流れる街並みを瞳に映し、穏やかな声音で呟いていた。
 何よりも――
「こうして音楽を楽しめる事が、素敵ね」
 視線を戻すそこは、音楽船。今は明朗なメロディーと歌が響き渡り、皆が軽やかなステップで踊りを披露している。
 だからそれが終わると、リノアも拍手を送り――自分に回ってくると、また少し雰囲気を変えるように。
「リノアよ。宜しくね」
 嫋やかに言ってから、バイオリンで艷やかな音色を生み出した。
 水が揺蕩う音と調和を作るように、優しくも伸びやかで、上品ながらも鮮やかに。自身が広めた街の歌を奏でつつ、皆の紡いできたメロディーも織り交ぜる。
 そうして楽しみながらも皆と共に景色を眺めた。
(曲に合わせて航路を変える、なんて良いかも知れないわね)
 思いつけば、後で報告しようとも決めて。
 日暮れに、船から降りる頃には――
「楽しかったわ。また来年ね。蒼風の祭ははじまったばかりだもの」
 そう微笑んで、街の未来を祈っていた。

●ふしぎ亭の聖祭
「メリー・ユールフェス!」
 エーデルワイス・エンゲルは仲間達と共に改めて祝いの言葉を交わす。
 今年も訪れた、楽しくも厳かな季節。この街を見渡せば、明るく和やかな空気に包まれているから。
「皆、楽しんでいこうさね♪」
「うん。色んな場所をめぐれそうだし」
 と、台紙に視線を落としているのはヒロ・テスタロッサ。そこに連ねられた景色や店の名前に期待感を抱いていた。
 頷くララベル・サン・ディーベルも悩ましげ。見ればここから近い店も多いから。
「色んな店や施設があって、目移りしちゃうね。どこから行きたいとか、ある?」
「ボクとしては、やはり料理は気になるところだから――食べ物、かな?」
 既に漂ってきている良い匂いに、視線を巡らすのはルーシカだ。
 皆もそれには賛成。
 ということでテュリン・ヴィングは早速そちらを目指す。
「それじゃ、行こう?」
「ええ」
 皆を静かに、けれど微笑ましげに見ていたイル・シャーリィもそっと頷いて。仲間達が歩み出すのについて行く。

「ほえー、沢山あるのね」
 そこに軒を連ねるのはクレープ店。
 アリエッタは感心の声音で端から見渡していた。
「どこから行こう?」
「ま、とりあえず、あの辺でいいんじゃないか?」
 と、直ぐ側の一軒に目を向けるのはゴルバルティア。皆の荷物を一人で抱えながらも顔色一つ変えず、軽々とした様子で歩んでいく。
 皆もそこへ集まると……まずはアリエッタが素のフィッシュクレープを注文。しゃくっとした軽い食感に、耳をぴこぴこ動かした。
「ん、美味しい~♪」
「こちらも素敵よ?」
 と、アルラ・ニグラスがほんわりと笑んで食べているのは花のソースの一品。優しい香りと風味で、心まで華やぐようだ。
 フルーツのクレープを食べていたヒロは、それも購入してあむり。
「確かに美味しいね。……あ、向こうにも別のがある。それも買おっと」
「ふふ、沢山食べるのね?」
 大丈夫? と微笑むアルラに、ヒロは朗らかに笑み返して。
「大丈夫、多少食べ過ぎても太んないから♪」
「それにしても、調理時間は短く、味は多様で……人気になるのも判るね」
 ルーシカはプレーンな一品から各種ソースも試して、納得の心持ち。高級さよりも手軽さが庶民に受ける理由だろうと理解していた。
「ここで使われている、鮮やかな色が出る花は面白いね。それと……ゲテモノ系トッピングもあるのか。誰か、味見してみる気はない?」
「なら、私が頂いてみるわね」
 と、注文するのはイルだ。
 謎の爬虫類の体が飛び出しているクレープが出てきたけれど――イルは表情も崩さずぱりぱりと実食。
 平素の静やかな面持ちのまま食べきったのだった。
「見た目は奇抜だけれど、味は良いと思うわ」
「そうなんだ。じゃあボクも試そうかな――」
 と、ルーシカもそれを食べ始める。それを横目にしつつ、エーデルワイスはジド・ルウカラーの苺を買っていた。
 なめらかなクリームに、苺の果実とピューレが鮮やかで。はむはむと食べると、その甘酸っぱさに瞳を細め、うん、と頷いていた。
「やっぱり甘いものは良いね」
「ええ」
 アルラもそれを頂きながら、両手が塞がっているララベルにも差し出す。
「一口どうぞ」
「う、うん」
 ララベルはちょっと照れつつはむり。美味しい、と声を返していると……アルラはそこで少々悪戯心。
 もう一口分差し出しつつ、少し前傾になって自慢の谷間を見せてみた。
「……!」
 ララベルは赤くなって反射的に後退。すると今度は真後ろにいたアリエッタの胸元に倒れ込み。
「あら?」
「わっ、ご、ごめん!」
 びっくりしてまた、今度はアルラに跳び込んで、また謝って……そんな眺めを慣れたもののように、皆は生温かく見ているのだった。
 そうしてララベルが落ち着くと、アルラはまた店々を見て。
「もう少し、寄っていきましょ?」
 寒い時期に、お祭りで友達と一緒に食べ歩き。その美味しさは何にも代えがたいものがあるのだから、と。

「さて、次の目的地はどこさね?」
 お腹一杯の満足感と共に、エーデルワイスは台紙を広げている。
 イルも店の位置を確認しつつ、遠くを指して。
「次は水路の向こうの通りね。せっかくだから土産物屋でみんなでお揃いのアクセサリーでも買ってみない?」
「良いね。ここじゃなきゃ手に入らないようなものも、ほしいし」
 ヒロも乗り気に頷くと――全員で船へ乗り込む事となった。
 けれど流石に少なくない人数。皆が乗船した所で均衡がくずれ、ぐわんぐわんと船体が大きく揺れて――
「はわわわっ……!」
 ララベルは顔がくっつくくらいにイルと密着。左腕にアリエッタ、右腕にアルラ、さらにゴルバルティアやエーデルワイスまで巻き込んでばたーんと押し倒す。
「ご、ごめんっ……!」
「……」
 間近で目を合わせながら、イルはそれでも冷静。半目でツッコんでいた。
「さっきのじゃ、足りなかったということかしら……」
「そ、そうじゃなくて! 本当にごめんっ……!」
「大丈夫よ。ままある事だし」
 アルラも言って起き上がれば、そうだね、とエーデルワイスも無我モード。
「ベルと歩くなら、このくらいは織り込み済みだし」
 頷く皆も「いつもの事だよね」という調子なのだった。
 一方、身軽に躱していた事なきを得ていたヒロは――進み出した船の先で指差す。
「あれじゃない?」
 見えてくるのは雑貨屋や装飾品店だ。
「じゃ、行くかな」
 と、ゴルバルティアは皆の荷物を持ったままひらりと道へ。重さも感じさせぬ身動きで、皆を招いた。
「ほら、すぐそこだぞ」
 頷く皆も降りて店内へ。日用品から置物、飾り物まで並ぶ棚を愉しげに眺めていく。
 中でもアリエッタは色々惹かれてあっちへふらふら、こっちへふらふら。
「このブローチ綺麗ね。あ、こっちの帽子も可愛い。皆、この辺の、どれも素敵よ?」
「これだけあると迷うなー」
 ヒロは見回しつつ、悩ましげ。ゴルバルティアはそんな皆へ声をかけていた。
「荷物は全部持ってやるから、好きに買いな」
「じゃあ、ボクはこれと、これと……」
 と、ルーシカは調理に使えそうな品々を手にとってゆく。
「美容系はつい釣られちゃうわね~」
 アルラは言いつつ、化粧品や香水を購入。ここにしかないもので、満足の面持ちだ。
 するとヒロも街のシンボルが入った日用品を選択。皆もそれぞれ、他では入手出来ないものを土産にするのだった。

 陽が落ちて、夜景が煌めく。
 スタンプラリーを終えた皆は、記念品にシンボルが入った硬貨を貰っていた。ルーシカはその精緻な細工を眺めている。
「こういうのが貰えると、達成感あるね」
「うん。全部回れて良かったね」
 エーデルワイスが言えば、ええ、とアルラも頷いてほわりと笑みを浮かべていた。
「お祭りをこんな人数で楽しめるなんて、貴重な経験ができたわ~」
「ああ。こーやってみんなで旅行するの……やっぱりいいな♪」
 ゴルバルティアも上機嫌に笑めば、イルもそっと首肯している。今日一日で皆と少しは近づけたと、そんな風に思えたから。
「今日はわざわざ誘ってくれてありがとう」
「こちらこそ」
 ララベルは花のように笑んで、それから少し頬を染める。
「僕、もっと皆と仲良くなりたくて。だから……皆と過ごせて、嬉しいよ」
 そうしてこっそり買っておいた錨の髪飾りを皆に贈った。
「楽しかったね。ありがとう――だからその、記念にお揃いのこれ、良かったら」
「良いの?」
 ヒロが言うとララベルは勿論、と応える。
 だからヒロはそっと手のひらに乗せて、大切に受け取った。
「ありがとう」
「とっても、いい思い出になるわ」
 アリエッタも早速つけてみて、くるりと回ってみせる。夜景にきらりと反射して、可憐ながらも美しかった。
 ゴルバルティアもまた、買っておいた可愛らしいペンを皆に配る。
「これからもよろしくってな♪」
「わぁっ、ありがとう!」
 ララベルはまた、笑顔を浮かべて。皆と心温かな時間を送れた嬉しさを、胸の中に強く抱いていた。

●激走!
「おー、賑わってる賑わってる。正に水の都だね!」
 エルゼリオ・レイノーラは人波の行き交う街並みを歩みゆく。
 眺めるだけでも楽しめる盛り上がり。けれど今日のお目当てはボートレースだから、そちらへ向かおうとして――
「っと。腹が減っては戦は出来ぬ、ってね」
 コースを下見しつつフィッシュクレープをあむり。ざくっとした衣ともっちりの生地が相性抜群で美味だった。
 エネルギーも補給できれば――レースへエントリー。夜の部でボートへ乗り込んだ。
 と、その隣に位置する走者はカルミー。
「ついにこの時が来たっす! やってやんすよー!」
 気合十分にオールを握り、これまで協力してきた住民や仲間、そして実業家ダニエルの姿も見つけて。
「みんなー! ダニエルの旦那ー! あたしの雄姿を刮目するっす!」
「頑張ってください!」
 ダニエルが応えれば、そちらにも手をぶんぶん振ってから準備に入っていた。
 コース沿いは人で埋まる程の盛況。
 熱気の中で、通りかかったゼラルム・エルホワイトも足を止めている。
「盛り上がっていますね」
「うん、少し見ていこうかな?」
 言って、サニー・フォン・オルライトも水路に注目していた。
 そんな観衆の目を浴びながら、船上のエルゼリオはカルミーに向いて。
「負けないよ!」
「うっす! 全力っす!」
 そしてカウントダウンの後、号砲。走者達が一斉に漕ぎ出した。
 エルゼリオはオールを操り、着水位置と面積を確認。腕を大きく前へ伸ばし、背を仰け反らせつつオールを手前に引く。
 ぐいっと進む中、慣性に揺らがず速度を上げた。
「次はコーナーか……!」
「うおおおお! あたしも何度も来て練習したっすからね! そう簡単には負けねっす!」
 カルミーも上達した手腕で上手く曲がり、細道も越えて。
 他の走者が焦って落水する中、エルゼリオと共に段差水路を降りながら――
「スパートっす!」
「はぁ、はぁっ……まだまだ!」
 エルゼリオも置いていかれず加速。一直線を駆け抜けて――二人が同着優勝。
 白熱した勝負に、大きな歓声と拍手が響き渡った。
「お疲れ様」
「ナイスファイトっす!」
 そうして二人は握手し、健闘を称え合い……トロフィーを一つずつ獲得したのだった。

●幸せの式で
 結婚式が始まろうとする船へ、フィリスティアも乗っていた。
 自身の立案したその催しが、華やかに行われる事に嬉しさを覚えながら。
「――とってもお綺麗ですわ」
 主役となる若き花嫁に蒼水色(クリアウォート・ブルー)のウェディングドレスを着せる手伝いをして、美しく変身させてあげている。
「花婿さんは惚れ直してしまいますわね」
 花婿にも微笑むと、彼は照れながらお礼を言って――程なく式が始まる。
 フィリスティアの祝福の歌が響く中……その一角に、ノノアも乗船してきていた。
「とても綺麗に飾られているのね――」
 そっと見回すノノアの服は、黒のドレス。
 大人びた美しいデザインで――御粧しもしたノノアは普段と少しだけ雰囲気の違う、艷やかな印象だ。
 結婚式を見た事がないからと来てみたけれど……いざ間近にしてみると、厳かながらも和やかな雰囲気に満ちていて。
(――幸せそうね)
 祭壇の前で見つめ合う二人に、ノノアは純粋な心でそう感じる。
 ただ、その二人が口づけをすると……仕事一筋のノノアには少し恥ずかしく、頬を仄かに赤らめたけれど。
 それでも最後には、作っておいた花輪を夫婦に贈って。
「おめでとう」
「ありがとうございます!」
 笑顔でお礼を言った花嫁が、終わりにブーケトス。何の気なしに、飛んできたそれを……ノノアが受け取っていた。
「取ると何かあるのかしら……?」
 ノノアは周りのおめでとう、という言葉に少々小首を傾げつつ――
「何にせよ……刺激のある体験だったわ」
 きっと無二の思い出になる。そんな気持ちを抱きながら、夫婦を見送った。

 夜になると、フィリスティアは蒼水灯の儀へ。
 浮かぶ灯りを見つめ、亡くなった人々の冥福と残された人達の幸せを祈った。
 そうして夜景と人々を眺めているダニエルの元へ。
「あっ、お疲れさまです!」
 そう微笑むダニエルに、ええ、と頷いて――蒼水色の花がモチーフのブローチを。
「メリー・ユールフェス。誰よりもクリアウォートを愛しているダニエルさんに、感謝の気持ちを込めた贈り物ですわ」
「良いんですか……?」
「これからもお力にならせて下さいませね」
 賑わう街、溢れる笑顔。街興しを始めてくれた彼に感謝を込めて。
 言葉とそのプレゼントに、ダニエルは少し感極まったように。同時に朗らかな笑顔で、ありがとうございます、と言葉を返したのだった。

●夜の灯
 光に想いを託す、蒼水灯の儀。
 コルネリウス・アーラも静かにそこへ加わっている。
「……」
 ランタンは花を象ったもの。
 それをそっと浮かべて、想うのは――家族の事だった。
 今は亡きヒューマンの兄へ。
「依頼で剣を振るい言葉を紡ぐ度、まだ兄さんのように上手く出来ない事ばかりだと感じて……貴方の強さに気付きました」
 歩んで来たからこそ、抱く心と共に。
 ハーフリングの姉へ。
「大切な友人の涙を見て、笑っていて欲しいと思ってから。姉さんが私にいつも「笑って」と言っていた意味と優しさを知りました」
 悲しかったからこそ、気づいた心と共に。
 そして、今も故郷で過ごす、エルフの父へ。
「家を出る時に辛い言葉をぶつけてしまったけれど、私に自分の力で学ぶ機会をくれて感謝しています」
 いつかこの想いは言葉にして、直接伝えます、と。
 ずっと思っていたけれど、今、改めて強く思う。
 ――私の生きる道は、血よりも深い絆と愛情を持った家族が作ってくれた。
 ありがとうと感謝を籠めて。
 流す光は、暖かな色をしていた。

 どこからか聞こえて来る祭りの音楽。
 遠くに見える賑やかな明かり。
 目と耳にそれを収めながら――ノックス・マグナは水路の傍で淡い光を灯している。
「――」
 思いを馳せるのは沢山の死者達へ。
 希望に溢れる場所があれば、悲しみが重なってゆく場所もある。
 帝国の崩壊による混乱はまだ収まっていない。死者の把握もまだ、十分でないだろう。
「弔われることなく、その身を野に晒している者もいるでしょう。誰かを救うために犠牲になった人がいるでしょう」
 それはきっと無念だろう。
 己でその道を選んでいたとしても、それは望む幸せではなかったはずだ。
 それが哀しくて、そして悔しくて。嘗ては離れた祖国に対する、ノックスの思いを日に日に募らせてゆく。
 けれどあるのは単なる後悔や、諦念ではない。
 今この時、その人達を想っている自分がここにいるからこそ。
「帝国崩壊の謎を解き明かしてみせます」
 誓いと共に――追悼だけではない、希望と展望の光を水へと浮かべていた。

 自分でランタンをデザインし、夜に輝かす事の出来るイベント――だからこそわくわくと参加したけれど。
「け、結構難しいぃ……!」
 深まってゆく夜の中、彫刻と彩色の道具を手に、エフィルミアはほんのり涙目。形も色も中々思い通りにならず四苦八苦していた。
 と、そこではっと気付くのは――
「何やら器用そうなイケメンが……! こんにちはお兄さん!」
 ぱたぱたと駆けていく先にいる、海神・江流。こちらは巧みに作業を進めている所で……エフィルミアに気づいて手を止める。
「メリーユールフェス。どうしたんだい?」
「それがその、つまり……私にもランタンの作り方教えてくださいー!」
 言って示すエフィルミアのランタンを見て、あぁそういう事かと得心していた。
「勿論、俺で良ければ手伝うよ。やっぱり自分なりに手を入れたいよな。えっと――」
「エフィルミアです。お気軽にエフィと呼んでください!」
「了解、エフィ」
 笑顔を浮かべるエフィルミアに、江流も一つ微笑んで。それじゃあ始めようかと彫刻を手伝った。
 エフィルミアは最初は上手く行かなかったけれど、手ほどきで段々とイメージを形にする。最後には色も綺麗に仕上げて――水面へ浮かべた。
 すると春めいた色の光が煌めいて。苦労して作った灯りが流れる様子を見ると、心に満足感が訪れる。
「綺麗ですね! 私のが一際輝いてます!」
「ああ」
 頷いて、江流も自分の灯りを浮かべる。
 想うのは亡き妹の事だった。
「水路のライトアップは俺も手伝わせて貰ったからね。成果が見えると嬉しいもんだ」
 言いながら、灯りに照らされた水路、そして街並みを見つめる。
 ――この世界にはこんな綺麗な街もあるんだ。
「あいつにもこの景色が届いてるといいな」
「……」
 その表情には愛情と、そして仄かな寂しさがあって。
 エフィルミアは敢えて明るく笑いかけた。
「私お腹空いちゃいました! 屋台に行きましょ! 教えてくれたお礼に私が奢ってあげますっ」
「屋台、か、そうだな」
 江流は一度目を閉じてから、微笑み返す。
「よし、それじゃ流れるランタンを眺めながら屋台飯でも行くか。それともスイーツの方がいいかい?」
「どちらでも、お供します!」
「なら、前に教えてもらった苺タルトの美味しい店があるんだ。そこ行ってみようか」
 歩き出し、言葉を交わす。
 江流はそこで初めてエフィルミアをギルドの冒険者だと知って。
「それじゃ今後とも宜しくだね」
「はいっ! よろしくおねがいしますっ!」
 エフィルミアも朗らかに応えて――二人で美しい夜と美味を楽しんでゆく。

「……慰霊のための灯り、か」
 サマエラ=フォリウムは、蒼水灯が行われる水辺へやってきている。
 そして自分もまたそこに光を加えよう、と。そっと歩み、自由に細工を施せるまっさらなランタンを手にする。
「デザインは、そうだな――」
 目を閉じて、想うのは亡くなった母の事。
 巡るその記憶と共に、選ぶのは明るい黄色だった。
(……ああ、日の光が好きな人、だった)
 それには及ばずとも――どうかこの光が貴女を照らす、温もりとなるように。
 ランタンに太陽のようなシンボルをひとつ、描いて。それ以上の余分な装飾は施さずに……夜の中、そっと水の前に立つ。
 そしてじっと祈ってから、他の灯りに続けて送り出した。
 やわく揺れる光達。それは時に淡く、時に眩く輝いて。
「……この幾つもの光は全て、人の想いの形、なのだな」
 流した灯りが温もりになるようにと、自分はそういう気持ちでいたかもしれない。
 けれどサマエラは、どこかこの光景そのものに、温かさを感じるようにも思うから。
「――良い、夜だ」
 小さく紡ぎ、光を見つめる。それは優しく、穏やかに揺蕩っていた。

「ここは、少し静かですね」
「……ん。そう、だね」
 セロンガード・シュタインドルフと共に、水路へ歩んできたティトは言葉に頷く。
 その水面には光が浮かべられ始めていて――人々は想いを込めるように、その光を見つめていた。
 だから二人もそれぞれランタンを手にとっている。
「装飾は……任せて、いい?」
「ええ」
 セロンガードはそっと頷き、丁寧に作業を始めていた。
 ティトはそれを少し眺める。
 セロンガードとは祖父の下で諜報員として働いてた時に知り合っていた、らしい。
 というのは、当時はあまり面識もなく――冒険者になってから共通の知り合い越しに、互いが意外と身近だったことを知った為だ。
 だから互いの多くを知っているわけではない。
 けれど、灯りに込める思いは同じだろうと判った。
 表舞台に出ない過去の任務や、帝国崩壊の際に逝ってしまった仲間達。
 普段から素性を偽装していた身分でもあるが故、自分の事をあまり話しはしなかった。それでも彼らは確かに戦友に違いなく。
「出来ました」
 セロンガードは灯りをティトへ渡す。
 それは決して華美じゃなく、大仰じゃなく。ただ深い心だけを込めて、淡い色合いに仕上げられたもの。
 灯した光は静かで優しく、そして温かく。
「浮かべましょうか」
「うん」
 頷くティトはそれを、そっと水面へ下ろす。
 戦友達の事をゆっくりと、脳裏に思い描きながら。逝ってしまったみんなの為に、今の温もりを忘れない為に。
 セロンガードもその灯りを水へ浮かべた。
 ヴァイセントラフ砦防衛戦で、「群れ」の中に見知った顔を見た事。その事実を、その感情を忘れる事はないだろう。
 けれど同時に、心が前に向くように切り替えて――今も生きている人の為に頑張れるように。昔の事を、これからの事を思いながら。
 ティトはそんなセロンガードの横顔を見てから、また光を見つめる。
「綺麗、だね」
「ええ、本当に」
 その声音に少しだけ、穏やかな色を含めるように。セロンガードもいつまでも、その輝きを眺めていた。

マスターコメント

お疲れさまでした。 祭りは大いに盛り上がり、イベントは成功に終わりました。冒険者の皆様が充分に満喫したことで、主催側としても喜ばしい結果となったでしょう。
イベントシナリオ(50人)

イベントシナリオ(50人)易しい 報酬:標準50 / 4〜50人

2021年01月08日 12時26分24秒 公開

大成功

相談掲示板

  1. リノア

    吟遊詩人のリノアよ。 よろしく。 準備から関わったけど、こうして開催されるとなると感慨深いわね… 3.音楽で参加予定。

  2. シャロン・ラ・モリエール

    シャロンです。よろしくお願いいたします。 8.釣りで参加予定です。

  3. エヴァ・パルリエ

    エヴァ、だよ。 11.で参加予定なんでよろしく、ね。

  4. ノノア

    ノノアよ。 行き先はまだ未定なので考えているわ。

  5. ロイ・アウレア

    ロイ・アウレアです。 詳細未定ですが、テスとのんびり過ごすつもりです。 よろしくお願いします。

  6. テス・アウレア

    よろしくお願いします。 ロイと一緒に楽しませていただくよ。 さて、何しようか? どれも楽しそうで迷うね。

  7. スィーリーン

    スィーリーンと申します。 よろしくお願いします。 2と4で楽しもうと思います。

  8. エンデ・エトル・シャリオン

    エンデ。よろしく。 釣りか宝探しの予定だ。

  9. アルマ・ヴァレンタイン

    アルマだよ、どーぞよろしく。 他にも回るかもだけど、まずはゲテモノのある4番に突撃かな。

  10. ニール・ロブラリア

    ニール・ロブラリア。よろしくね。 目移りしていたら、こんな時間……船頭体験とか、挑戦してみようかな。 皆も楽しい時間が、過ごせますように。

アーカイブ生成日時 2026年08月05日 14時56分25秒 ・ world0