【鉄鱗】鉄と血と龍殺し

エヴァン・ピオネロ
……海アルパカ……巨大真珠……イカ祭り。
海での冒険も、楽しかった、です。
格好いい大人の男に、少し……近づいたでしょうか。
サマエラ=フォリウム
荒廃したヴィント復興、のみならず、さらなる帝国奪還作戦の兵站も、充実するだろう。
シグルランは、ずいぶん羽目を外していたようだが……ドワーフ王国の後援は、今後も期待できそうだ。
ヴィントの奪還から、はやひと月が経過。その後に発生した蟹にまみれた乱痴気騒ぎも鎮静の兆しを見せ始めた。
鍛冶のみならず木工、裁縫、彫金など様々な分野に精通し、授恵者たちの武具の作成を一手に担う『神匠』ヴィンダールヴルは、机に突っ伏して寝落ちしていた。
すでに日は落ち、窓からは月明かりが差す時間帯。
机の上だけが明るいのは、夜煌石とヒカリゴケのためである。
机の上には失敗作の、あるいは作りかけの戦闘用水着が散らばっている。
Tバック。貝殻ビキニ。スリングショット。
いささか先鋭的なデザインのものが混じっているのは「ちょっとした遊び心」であろう。
それら水着の山からやや離れたところに、差し入れられたマザキヤのパンの食べかけが、白い皿に載せられて放置されていた。
その食べ残しを、どこからか入り込んだヤシガニがついばむ。
ヴィンダールヴルの工房には、ヴィント迷宮から上がった様々な素材が届けられていた。
海アルパカなる、尋常ならざるモフモフ度を誇る魔獣の毛。その感触はまさに空を飛んでいるかのようで、織るか編むか、それともフェルトにするかと、ヴィンダールヴルをいい意味で悩ませた。
輝く虹色の巨大真珠は、使うか売って金にしてヴィント復興資金に充てるか議論がなされている。
主幹路の探索ルートがいくつか発見されたという報告が上がるやいなや、とある探索者パーティーが上層ボスに遭遇したという。
その上層ボスは冒険者の加勢により討ち取られ、素材は今はヴィンダールヴルの手元にある。
――余談ではあるが、その過程で『ミア』と名乗る謎の新人探索者の存在が報告されていた。エドゥノーグから派遣された者たちの名簿の中にはそれらしい人物はいなかったらしい。
チャラい見せかけとは裏腹に失われた刀の製法を現代に蘇らせた功績をもってドワーフ王に選ばれた才媛『匠王』シグルランは、ベッドにひっくり返っていた。
大工仕事に鍛冶仕事。書類とにらめっこするような地味な仕事。その合間に襲ってくるヴィンダールヴルのレッスン。
ビーチは楽しいが、疲労は確実に彼女のトランジスタグラマーな体に蓄積していた。
「あ〜〜だるい〜しんど〜い! 刀打ちたーい!」
手足をジタバタさせてつぶやいても、聞いているのは筏の下のカブトガニのみ。
「せっかく知り合った冒険者のコいるのに〜! 全然遊び足りね〜!」
ヴィントに物資を送りたいという、マザキヤ支部からのしえんようせいに応えた冒険者たちには、白い皿などが配られたらしい。
「くっそ~、アタシも飲みたかったナ~~! キンキンに冷えたあれ!!」
迷宮でとれた素材の中に、イカとタコのおいしいとこ取りの、大変美味な食材があったというではないか。
シグルランはそれを口にする機会にまだ恵まれてはいなかった。
「タコパ! アタシ、まだタコパやってない!!」
とある私設兵団が泳げない子供たちを連れて水練に来ていたという話もあった。
冒険者たちが楽しく、あるいは根気強く泳ぎを教えた結果、子供たちはカナヅチを克服したという。そのあとはともに美味しい海の幸に舌つづみをうち、海のよさを体験してもらったということだが……。
「楽しかったのはいいケド、アレに遭遇してたら性癖歪んでたんじゃないカナ~~?」
アレとは、執拗に着衣を狙うセクハラロブスター魔獣のことである。
ソレがいる枝場で、冒険者たちは珊瑚や真珠といった貴重な素材を得ることに成功していたのだが、素材よりもある意味貴重な収穫は情報であった――『冒険者たちはポロリしても隠さない傾向にある』。
ロスガリア大陸では、先人の経験則などから覚えやすく体系化された異能『スキル』のノウハウを販売している。
その中に『ラッキースケベ』『アンラッキースケベ』というものもあり……それも買えてしまうのである。
「ま、それも夏の風物詩ってヤツぅ~? 被害が及ばない範囲で見てるぶんにはウケるし?」
この夏のヴィントダンジョンでも、それはそれは大人気だったとかなかったとか?
生ぬるい空気は加工室にある魚介の臭いを拡散させ、砂と塩分は足の裏に張り付く。
しかし打ち寄せる波の単調な音とゆりかごのような上下運動はシグルランを眠りに誘う。
(帰るまでに遊べるだけ遊ぶんだから。明日は何をしようかな)
夢はぷかぷかと吐き出す蟹の泡のごとし。
すっかり日焼けした腕がベッドからぶら下がった。
(執筆:九蓮宝燈)
assignment鉄と血と龍殺し(と海) 特設ページ
【鉄鱗】連動は『神匠』ヴィンダールヴル……に替わって、『匠王』シグルランより発注された一連の依頼である。
帝国南部の都市ヴィントに生えた|天霧りに消ゆる幽界樹《ミスティアニ・アストラキル》の分樹の跡の大穴は、なんとダンジョンと化していた。
しかも自然発生ダンジョンとは法則が異なっており、エドゥノーグのそれに酷似しているらしい。
冒険者各位はこのダンジョンを調査し、素材を持ち帰られたし。それはさらなる帝国奪還作戦のための備えとなるだろう。
assignmentここまでの流れ
奪還されたヴィントにいち早く乗り込んだシグルランが見たのは、大穴に発生したダンジョンと無残に壊れたヴィントの街。
ドワーフ王国と帝国の今後を考えて行動した彼女であるが、目の前に広がるものを見て考えを変えた。
新しい素材があれば、何かを作りたい。
壊れた街があれば、前より素敵に直したい。
それがあらがえないドワーフとしての本能なのだ。レッツパーティー!!
assignment結果
person_pin関連NPC
刀の製法を再発見し、その功績を持って若くして匠王の座に就いたドワーフ。性格のチャラさは生まれつきだが、鍛冶への情熱は深い。
《本連動での動き》
ドワーフ王国と帝国の今後のためを考えて奪還直後のヴィントに乗り込んだ。しかしそんな先の話よりも、もっと急ぎの用事が出来たようで……?
《授恵者》たちが振るう特殊な武器の作成を一手に担う鍛冶師。扱いの難しい《授恵者》の武器や防具の製作・調整に人生を捧げた結果、鍛冶のみならず、木工、裁縫、彫金など様々な分野に精通し、それぞれの分野の高弟を多数抱えている。
《本連動での動き》
冒険者用水中装備を開発したばかり。ヴィントダンジョンの探索のためにその装備の供与、入手した素材での強化など、さまざまな面で冒険者たちをサポートしてくれる。
人命第一主義の探索者支援ギルド長。書類仕事より現場に出るのが好き。探索者をとても可愛がっている。自身はたたき上げなのだが、後輩たちに対しては時折過保護ともいえる対応を見せることも。
《本連動での動き》
(2021/8/11更新)
ヴィントダンジョンの調査のために探索者や学者をエドゥノーグから派遣した。本人はエドゥノーグから離れられない筈である。
ところでまったく話は変わるのだがヴィントダンジョンには新人探索者のミアと名乗る女性エルフが現れているらしい。
探索者パーティー【挑戦者】リーダー。
蛮勇から敬意と皮肉を込めて『勇者』と呼ばれている。
なのでパーティー名も正式名称ではなく『勇者パーティー』と呼ばれることが多い。
《本連動での動き》
エドゥノーグから派遣された探索者の一人。故郷への仕送りのために、この危険な任務へ志願した。
探索者パーティー【|挑戦者《チャレンジャー》】メンバー。
戦闘においては中々の手練れであり、一対の曲刀を得物とする。
他人のキモチがわからない・人の顔覚えられない・説明下手の三重苦のコミュ障。
《本連動での動き》
エドゥノーグから派遣された探索者の一人。志願の理由は「そこに迷宮があるから」。あきれた純正迷宮中毒者である。
menu_book関連用語・情報
ヴィントダンジョン
帝国南部の都市ヴィントに生えた|天霧りに消ゆる幽界樹《ミスティアニ・アストラキル》の分樹の跡の大穴に発生したダンジョン。
このダンジョン内部の様相は通常のダンジョンと異なり、奇妙な法則はむしろエドゥノーグのダンジョンに酷似していた。
内部は海。最初の階層には海岸があり、また階を下れば海蝕洞や海中すら存在する。メインの通路の先にはボスもいた。
どうやらヴィントのダンジョンは、エドゥノーグダンジョンの主幹路の一つがヴィントの裂け目を埋める形で伸びたもののようだ。物凄く下層で繋がっていると思われる……。初期に行われた調査依頼の結果、エドゥーノーグの学者がそう仮説を立てた。
見える範囲ではだいたい法則性が同じなので、上層や中層、主幹路や枝場と言った用語は統一することとなる。
探索支援ギルド帝国支部仮設本部
『匠王』シグルランにより急遽建造された水上拠点。ヴィントダンジョンの第一層の海岸に設置されている。
筏に浮かべた箱状の建築物。ある程度の完成度のあるユニットを後方にて制作し、現地で組み立てることで迅速に拠点等を設置することができる、ドワーフ王国の新技術が採用されている。
情報の集積と開示、取引、犯罪の取締というエドゥノーグ探索支援ギルドの役割をこちらでも機能させる他、獲物の解体や素材の加工を行うための工房を兼ねている。
また、空き船室が簡易的な宿舎として探索者に提供されている。地上まで帰る暇が惜しい迷宮中毒者達が大部屋で雑魚寝している様子は早くも日常の風景となりつつある。
ドワーフ王国の介入
ロスガリア大陸東部の要衝、クリエスター山脈の「地下」に渡り広く広がる、ドワーフ王国。ドワーフ王国はヴィント奪還作戦において、物資を送るという形で協力していた。
ドワーフ王国から見て、ヴィントから東の帝国領土は自国と国境を接するという意味で重要な地域だ。将来、帝国が復興を果たしたとすれば、そこはドワーフ王国との交易地点となり得る。
ドワーフ王国とヴィントの二面から攻略すれば、この勝ちの勢いに乗って帝国東部の奪還も遠からず成しえるのではないか?
ヴィントに乗り込んだシグルランの思惑は、少なくとも当初はこのようなものであった。