【鉄鱗】新人探索者ミアちゃんと海の大探検!
紀藤トキ
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シナリオID:1189
オープニング
「このルート、ちょっと普段使いには厳しいわよね」
報告書を眺めていたエフィミア・リリック探索支援ギルド長は微妙な顔をしていた。派遣した銀級のパーティは、時間を最優先して進んでいたらしい。上層が適性狩場のパーティなら通りたくないような敵の溜まり場や、お手入れ不要の上級装備を持っていなければ行きたくないような泥湿地、挙句の果てには武器も振るえぬ深度の水中洞窟を通過するルートが記されている。
「短期の、調査の為や探索の為ならこれでもいいわ。でも、生活の為にダンジョンに挑む人にとってはこれじゃきつい。……再調査がいるわね」
エドゥノーグダンジョンの主幹路は安全だと言われるが、危険な場所が無いわけではない。長年の調査で、安全なルートが確立されているだけだ。枝と違って主幹路は滅多に変動しない為、さっさと一度調べておけば安心でもある。
「よし。じゃあ善は急げってことで……。依頼を出すわよ!」
依頼の内容は、ヴィントダンジョン上層主幹路の安全なルートの探索だ。手分けするなり集中するなりは好きにして良い。結果は全体の評価で判断する、という但し書き付きである。気を付けるべきことは安全性はもちろん、踏破の容易さも大事だ。浅い深度であれば授恵者にとっては(息継ぎさえ気にしていれば)さほどの障害ではないが、深い水中で敵にさらされる事は可能な限り避けたい。匂いがきつい所や気持ち悪い敵の出る場所なども迂回できるならその方がよい。迂回できないなら、簡単に突破できる方法が見つかれば良い。有望なルートであれば、予算を費やして道をつける事も考慮できる。作戦は人海戦術。当たって砕けてはいけないので安全第一で挑んでいただきたい。と言うあたりの注意書きは過保護気味のエフィミアらしい記述だった。
●
数日後。
「ここがヴィントのダンジョンですね」
燦燦と降り注ぐ陽光に目を細めた、ないすばでーのエルフが1人。新人探索者を自称するミアである。外套の下に身に着けた水着はヴィンダールヴルの手による最新式のスタイリッシュなものと違い、少々ワイルドな代物だった。
「本部の方から来ました。依頼のお知らせです。掲示をお願いしますね。あと、私も受注します、これ」
「あ、はい。あの、あなたはもしかしたら……」
「しーっ! 内緒です」
ヴィントの出張所の為に雇われたらしい職員は初々しくもそんな事を尋ねて、慌てたミアから思わせぶりな返事を返されていた。なお、歴が長い本部職員は今更何も聞かずに淡々と処理する。エフィミアが適当な偽名と雑な変装で現場に出没するのは稀によくある事象なのだ。仮面とかつけないだけましだと思いたい。どこかの支部長は仮面付けているらしいし。
「さあ、海の冒険の始まりです!」
解説
マスターより
リプレイ
ヴィントの新ダンジョン前に集結した一行は、はた目にも華やかな集団だった。あらかじめ水中が舞台になると想定されているせいか、3人に2人は水着に身を包んでいる。種族問わず、授恵者はだいたいカッコ良かったり美形だったり可愛かったりすることも多いので、眼福な光景だ。
「まあ、水着じゃなくても身動き取れないなんてことはないんだけどね」
それでも海水より重いというのは立ち回りに不利な事もあるだろう。逆にそれが価値を持つ場合もあるやもしれない。いずれにせよ、ミアと名乗っているエフィミアは満足げに同行者達を眺めていた。しかし、値踏みしているのはお互いさまではある。
「にゃ! 新人の子かなっ? ミアっちよろしくねっ!」
「は、はい! よろしくです!」
【四葉】を名乗る仲間たちと待ち合わせをしていたサフィラ・アズラク・ナハルハルアリーブに声を掛けられ、作った口調で返事をした。種族も様々な少女達の4人組は、仲の良い友人であるらしい。
「……実は、お友達と水着で海、憧れだったんです」
「じゃあ、思いっきり楽しもうね!」
「これで危険なダンジョンでなければ……、匂いも独特ですし。でも、皆さんが楽しそうで何よりです」
感慨深げに言うゲルダ・クラインはハーフリング。応じたリサ・ベイカーとはパンクリアース学園の先輩後輩の関係だ。どこか不安げに耳を動かすリディリディ・トゥラ・イェレミースはサフィラと同じくエルフである。何をとは言わないがチームで大小取り交ぜていた。
「エドゥノーグ外のダンジョン! 楽しみだよね!」
自他ともに認めるダンジョン好きなバクル・バスリーはテンション高く、打ち寄せる波を見つめている。リザードマンとしては小柄な体を包む全身甲冑は、彼が可愛いだけの少年ではなく手慣れた探索者である事を示していた。誰か知り合いがいれば同行しようと思っていた彼だが、友人や知り合いのいる【四葉】は水着の女性ばかりで、二重の意味で二の足を踏んだ。
「バクルさん、久しぶりです。今日はお一人ですか?」
「うん。良ければどこか一緒させてもらおうかと思ってたんだけど……」
声を掛けてきたトーラに頷き返すが、彼女もお洒落な水着に身を包んでいる。【海路】チームで一緒のテテリカとAlexandra・Hexe・Claudiaも同様だ。
「私達は脅威を避けて進もうと思うのですが……、その装備だと隠れるには不向きそうですよね」
「一緒に行くのは構わないけど、確かに足並みを揃えられるかは心配だな」
「あ。それはそうだね。ここは別々で頑張ろう!」
言いにくいことを年長のAlexandraが告げると、心配性のテテリカも考え込む。バクルとて相手の作戦を乱してまで同行を考えているわけではないので笑って別れた。顔の広いバクルの知り合いは他にもいる。ちょうど、誰かと待ち合わせをしているらしいララベル・サン・ディーベルの姿が見えた。
「アリエッタ! こっち!」
「ごめんね、ララベル、テュリンも。待った?」
「それ程でもないわよ」
駆け寄ってくるアリエッタを、ララベルとテュリン・ヴィングが迎えている。【ふしぎ亭】の面々にも聞いてみた所、なるべく危険を避けて進もうとしているようで、完全装備で目立つバクルとは相性が悪い。これはもう1人で行くしかないかな、と考えていた所で。
「私も一人なんですが、よければ一緒に行動しますか?」
実は誘われ待ちだったが誰にも声を掛けられなかったミアがおずおずと声を掛けた。他のチーム同様、水着で軽装のミアとは動きが合わないのでは、とバクルは危惧するも、ミアは今日は短杖も持っているから後衛もできると主張する。ぶっちゃけ変装などしていなければむしろそっちが本職ではあるだろう。他に現地で仲間を探そうという者もいなかったので、バクルとミアの実は迷宮めっちゃ詳しいコンビがここに誕生した。
●海中ダンジョンを行く!
その後は特に号令がある訳でもなく、三々五々冒険者たちは探索に入った。【海遊】の2名が踏み込んだのは、その名の通り海で遊べそうな水中へ続くルートだ。
「……この先はちょっと長いな。息継ぎがやばい」
「とすると、安全なルートというには面倒かな」
ぷはっ、と息を吐いたナハシュに、陸でロープを持っていたヨル・スレイマンが応じて手元にメモを取る。
「ロープを外して見に行くかあ?」
「いや、そうもいかないようだ。お客さんだよ」
探索の為に動いていたナハシュに興味を引かれたのか、波間に立つ背びれが一つ。どうする? という顔のナハシュに、ヨルは戦闘を選んだ。相手が一匹なら、倒して先へ進みたい。
「陸から一方的にやれりゃあいいんだが」
ナハシュが上がってからも引き返す様子が無いという事はそういうことだろう。ヨルが魔矢を撃ち込みつつ前へ出た。
「来るよ。……うわ、何だろう、あれ」
「四つ足のサメ……か?」
奇妙な造形の敵に首を傾げつつも、2人は戦闘を開始する。
▼
「日陰に入ったし、返すよ。ありがと」
「ん? ……ああ」
クレア・エクレールがそう言うと、アーシェル・G・クラインは少し逡巡してから頷いた。さっきの待ち合わせ場所で彼女に上着を貸した理由の、日焼けしないようにというのも嘘ではない。が、自分と仲間のセヴラン・クアルト以外の男に彼女の水着姿を見せたくなかったというのが本当の所だ。今は【綺譚】の仲間と、行動を共にしている【四葉】の4人しかいないので気にはならない。
「綺麗な花が咲くには虫よけも大事だね。さしずめ、庭師の愛情は何よりの栄養……ってところかな?」
「ちぇ……」
余裕の様子のセヴランがクスリと笑い、アーシェルは短く息を吐く。良く知らぬ相手に揶揄われたなら過保護で何が悪いと言い返したかもしれない。セヴランが広い視野で見守っている安心感があればこそ、アーシェルは感情に忠実に動けるところはある。実年齢はさほど離れていないのだが、【綺譚】の長男は文句なしにセヴランだろう。
「この先、岩場が滑ってすっごく歩きにくいし、深そうな水場があったよ。ただ、敵は少なそう」
年齢と言えば、隠れて先行偵察していたサフィラが【四葉】の側の長女である。心のメモに調べた内容を記憶しつつ、仲間にも報告していた。
「今日は無理せず楽しくがテーマだし、止めとく?」
「そう、ですね。両方見てから考えたいです。サフィラさんにはお手間を掛けますけど」
「なんのなんの。じゃあ、あっちも見てくるね」
リサとゲルダが意見を言い、サフィラがもう一つのルートを調べに行く。リディリディは待機場所の周りをエーテルを使って警戒していたが、特に罠や隠し通路の類はないようだ。
(この先でも、このような広場があればいいのですけれど)
彼女の願いとは裏腹に、もう一つのルートはすぐに水没して海中へ一直線だった。波は穏やかだが、人間サイズの魚魔獣が泳いでいたらしい。
「先の岩場の方の敵はどんなでした?」
「ええと、大きなイソギンチャク? にょろにょろした感じの」
「うひゃ~、ボクそーいうのダメ!」
リサとサフィラの会話を聞いていたクレアがとても嫌そうに両手で×を作った。敵と移動、両方を勘案した障害としてはどちらのルートも大差なさそうだし、任務は調査だ。【綺譚】が水中ルートを、【四葉】が洞窟ルートを手分けして調査し、必要ならばもう一度合流することになった。
▼
グループで挑んでいた者ばかりではない。あえて、単独での行動を選んだトゥーリは、ほどほどに良い道を見つけてご機嫌だった。先発のパーティの足跡が無い場所を選んだので、彼女が行くのはどこかしら面倒くさい要素がある道筋だ。険しい段差に出くわしたりもしたが、彼女1人ならバランス感覚を駆使して進めないほどでもない。
「こういうのって実はワタシ、結構得意なのかも?」
今いる洞窟は狭く、同時に出てくる敵の数は多くない。回避に集中して逃げ出せば、住処を離れてまで追いかけてくる敵はいなかった。逃げるだけではなく、倒せそうなら倒してもいる。避ける事と、回復力に秀でているトゥーリだが、攻撃や隠蔽は新米冒険者でも装備やクラス次第で追いつける程度だ。なればこそ、自分でも通れる程度の道というのも意味がある情報だと考えた。
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「くふ、攻略自体は他の連中に任せるとするかの……」
同じく単独行動の夕霧は、トゥーリ以上に割り切っていた。なにせ、レベルは今回の参加者で最も低い。ならばと装備を減らし、隠れて動く事に全力を尽くしている。味方のグループのあとを付かず離れず進みながら、自分でもエーテルで進路の敵や地形を調べていく。
「わらわで行ける場所がどの程度か、調べるのも大事であろう?」
目標は、自分ひとりで帰れる深度の調査だ。とはいえ、同行しているわけではないのでトラブルが起きれば前を行く味方との距離は離れる。ふと気づくと、探れる範囲から先行グループは消えていた。
「……そろそろ戻ろうかのう」
ここまでの敵は(先発隊が)大体倒していたし、単独であれば自分にも手に負えるものだった。細かい特徴などを記していけば役に立つ情報となろう。それも良し、と一つ頷くと夕霧は退却の途についた。
▼
【風尾花】は探索を重視したバランスの良い3人だった。コハクを真ん中に、ララノアとエミリア・シバが油断なく辺りを探りながら前へ進む。進路は浅瀬から狭い洞窟へ入り、小柄なララノアですら背中を丸めて進んでいた。
「少し段差あるわよ。気を付けて」
エミリアが注意を促してから、先を伺う。敵の気配はない。垂らしてもらったロープを頼りに続くララノアは、不思議なほどに平静な自分を自覚していた。なにせ、普段は元気なコハクの様子が頼りない。水に濡れたくない系ハーフビーストである彼女の耳は垂れ尻尾もへたっている。
「コハクは水が嫌いだけど海水は水ではないのでだいじょうぶだいじょうぶぜんぜんもんだいな……あびゃあ!」
フードに弾かれた水滴が腕を伝っただけなのだが、思わず背筋が伸びてしまう。天井に頭を強打し、そのままつんのめったコハクは水たまりにハマった。
「コハク様、だだ大丈夫でしか?」
大声に驚いたララノアが声を掛けたが、見るからに大丈夫ではない。主に精神的ショックに置いて。エミリアが助け起こすと、茫然と見開かれた目に大粒の涙が盛り上がった。
「コハクはもうダメ。2人とも今までありがとう」
「気、気を確かにでし!?」
「ちょっとここは動きづらいし、別のルートを行くのが良いかしら」
不幸な事故の結果、3人はもう少し広くて明るく足場の広いルートを探す事にした。ちょっとばかり敵が多くても、多分その方がコハクを幸せにしてくれるだろう。
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「……このルートは敵が隠れる場所はなさそうですが。少々、起伏が多いですね」
「さすがにもう少し条件を緩くしたら? 戦わないで済むならその方が良いのはそうだけど」
上層から続くルートは数多い。幾度目かの観察を終えて引き揚げてきたノックス・マグナに、シャトン・アルジェントが言う。お互い単独で動いていたのだが、ルート選びでハズレを引いて戻るたびにばったり出会っているのだ。なお、ノックスは安全第一で進路を絞っていたせいで、シャトンは滅茶苦茶運が悪かっただけである。
「それもそうですね。多少歩きにくそうでしたが、先ほどみつけた進路なら許容範囲でしょうか」
ノックスが選んだのは、岩場の道だった。そのまま捜波を放ち、敵の少ない位置を行く。滑りやすい所ではシャトンが先行して危なげなく次のルートへ辿り着いた。
「足場が悪いトコは割と得意よ」
「助かります。……この先は厳しそうですね」
同じ岩場のルートを先へ向かってみようとしたのだが、思ったよりも敵が多い。ならばと迂回した先の水中洞窟で、ロイ・アウレアを見つけた。よく見れば1人ではなく、小柄なアルマ・ヴァレンタインが彼の脇で何やらしているようだ。
「この先にちょっと面倒な場所があるんだ。協力して貰えるならありがたい」
「面倒な場所、ですか?」
水没した通路で、ウツボのような敵が徘徊しているのだという。一匹なのか、複数いるのかは分からない。倒して進むか引き返すか休憩しながら悩んでいたらしい。
「そうですか。私は良いと思いますが……」
シャトンとノックスはチームと言う訳でもない。意見を伺うようにそちらを見る。
「私も行きあぐねていたから、協力に異存は無いわ」
「それはそうとして、美味しく焼けたけど、食べない?」
「何を焼いていたのよ」
胡乱な目で見るシャトンにアルマが勧めていたのは、少し前にアルマ達が倒したイカ魔獣の足。毒見も済ませているというし、食べても害はないのかもしれないが。とりあえず、軽く休憩しつつここまでの情報を交換した結果、この先のウツボ退治は共闘することにした。戻ってもあまり良いルートが無さそうな辺り、運の悪い集団ではある。
▼
「エドゥノーグにはこういう場所はあまりなかったなあ」
行き止まりの水面を見下ろしつつ、バクルが言った。同行者のミアは水着姿だが、バクルは全身甲冑なので進むならば泳ぐというより海底を歩く感じになるだろう。一般人なら身動きすら取れないところだが、授恵者は光が辛うじて届く程度の水中まで、問題なく戦闘をこなす能力がある。
「せっかくだし、行ってみようか」
「わかりました。じゃあ、先の様子を見てきますね」
新人であるミアは先輩のバクルを立てているのか、偵察を買って出たようだ。戻ってきた彼女から魚型の敵がいると聞き、バクルは気を引き締める。
「じゃあ、進もう。ぼくのあとについてきて」
水中では声が出せないので、前後のフォーメーションと、あとは引き返す場合や緊急の場合の合図だけ決めて先へ進んでいく。その辺りのやり取りはエドゥノーグでやるのと大差ない。
(このミアさんって人、エドゥノーグに慣れてるのかな? でも、あまり見た事はないけれど)
バクルは内心で首を傾げつつ、進み始めた。
▼
岩礁の上で、【ふしぎ亭】の3人がカニ型魔獣と戦っている時に事件は起きた。ぬめる足場、鋭いハサミとくれば何も起きないわけもなく。
「行けるよ、アリエッタ! っと、わ。危ないテュリン姉……!」
アリエッタと連携したところでうっかり足を滑らし、それでもバランスを取ったところでテュリンの胸元へ。それ自体は案外よくある事だ。が、本日のララベルを受け止めたのは柔らかくも豊かなお胸ではなく、それを包む鋼の冷たい魔甲であった。
「ぶっ! い、いたひ……」
「まあ、たまにはこういう事もあるわよね」
テュリンが苦笑しつつララベルの赤くなった鼻を撫でている。昔のように子ども扱いされているようで、それはそれで顔が赤くなるのだが、これはラッキースケベと言えるのか。
「ちょっとー! まだ敵がいたんだからね!」
過去形なのはアリエッタが仕留めたからである。何だか食べられそうなカニ魔獣だし、この後の休憩でララベルが腕を振るうのもありか? と思っていたところで、水中からナハシュが、ついでロープの先からヨルが飛び出してきた。
「おっと……、これは別の入り口から繋がっている場所だったという事かな?」
「この先も道だったの?」
ララベル達も探っていれば気が付いただろうが、ついさっきまでカニと戦っていたので水辺の先はまだ未確認だった。言われてのぞき込んでみれば、遠くの方にキラキラ光る鱗が見える。そこそこ美味しそうな魚の群れなのだが、迷宮にいる以上はアレも魔獣なのだろう。
「こっちは一応先があるのだけど……。止めといた方がいいかな。面倒だからね」
ある程度潜ったところで、魚の群れで水流を作ってきたという。流れるプール(人力)に似たやつだ。ナハシュはともかく、まだ泳ぎに慣れてはいないヨルは肝が冷えたらしい。一匹や二匹倒しても切りがないので、泳いで振り切ったのだそうだ。
「水に入らなければ大丈夫みたいだぜ。魚を釣りに来るならいい場所かもなあ」
「こっちには蟹もいたわね。そういう意味で美味しい狩場ってことなの?」
ナハシュの言葉を聞いて、テュリンが興味深げに言う。駆け出しや一般人でも釣り道具さえあれば稼げる場所になるかもしれない。ただ、通路として使うには嫌な仕掛けだった。情報を交換してから手を振って別れ、まだ見ぬルートの先へ向かう。
▼
「案外、水上歩行も便利なものですね」
「本当ですよ! 狭い場所なら走り抜けれますし」
Alexandraが用意したウォーターウォークは、水面下でゆらゆら動く謎の海藻の脅威を無き物としていた。トーラが水面を走り回るのにも反応する様子が無い。
「楽な方法はわかったが。それはそれとして戦ってどうなるかも調べるぞ」
「わかりました。では……」
テテリカのペットの大鼬、ベニテングがAlexandraの肩へ乗る。相棒を安全な場所に委ねたテテリカは、息を吸って水中へと潜った。トーラも後に続く。
(動きました!)
(やっぱりだな」
まとわりついてくる海藻は、ダメージを与えてくるというよりは行動を阻害してくるようだ。銛を振り回せば簡単に振りほどけるが、数も多い。授恵者でない探索者には厳しいルートかもしれない。
▼
【綺譚】が向かった先の海中は比較的安全だったが、ルートが一つしかない。次も同じく水中だった事を確認してから、一度情報共有の為に後退した。
「息継ぎが一番大事な感じだったかな?」
「流れが無かったせいもあるが、他に特に厄介な事は無かったな」
クレアもアーシェルも、大魚魔獣には手こずらなかった。見た目こそ怖いが弱い敵のようだ。それなりに数がいるのでアレがエドゥノーグのカエルポジションなのかもしれない。
「と言う訳でお土産です。クレアさんが仕留めてくださったものなので、私は運んだだけですが」
と、最後に陸に上がってきたセヴランの手には、普通に海で釣ろうと思ったら大変そうなサイズの魚があった。銛や釣り針を使ったわけでもないので全部が全部食べておいしそうに倒せたわけではない。なかでもマシな奴を選んだものである。
「ありがとうございます。こちらはルートは悪くなかったのですけど……」
「一応捕まえたけど、コレは食べられない気がするよね」
ゲルダが嘆息し、サフィラが指さすのはにょろっとした紫色の触手的な何か。【四葉】の行く手を阻んだイソギンチャク魔獣は隠れ上手ではなかったのでリディリディの火力で遠くから倒されてしまい、苦戦らしい苦戦はしていない。水着とにょろにょろの組み合わせと言えど、勝てない時はあるのだ。
「そちらの魚はもちろんですが……。これも試してみないと分からない気はしま、す?」
戦闘中は先手必勝な指示をリディリディに出していたリサは、今回もチャレンジャー精神を表に出す。が、見た目からしてちょっと自信はないのか首をかしげていた。
「いや。案外ああいうのがいけるんじゃないか?」
「えー……。アーシェル君、ちょっと離れて座ってくれるかな?」
ゲテモノ食いに一票を投じたアーシェルが、クレアに冷たくあしらわれるのをセヴランはスルーしている。じゃれているようなものだと分かっているのだろう。それよりも、濡れ鼠ならぬ濡れリスになってしまったララを乾かしてあげる方が大事だ。
「お肉の火加減は、良いです」
リサが持ち込んだ野営セットで、ゲルダが持ち込んだお肉が焼かれている。リディリディは少し前まで(水着では焼けるお肉の前で待つのに不向きです。脂が飛んで辛い……)などと憂い顔でいたのだが、焼けた肉の串を渡してもらうと悲しみを忘れたらしい。
「次はお魚と……、あのにょろにょろですね」
「お肉も必要です。お肉です」
「は、はい。焼きますね」
「ここでは野菜が取れそうにないね。次があれば野菜を持ち込むことを考えようか」
リサが決然とした顔でにょろにょろを串に刺す横で、リディリディはもぐもぐしながらお代わりを注文している。火の番についたゲルダが小さな手で串を回すのを見ながら、セヴランが冷静に栄養バランスを考慮していた。
▼
アルマとロイのコンビと共にウツボ魔獣のルートをクリアした後、ノックスとシャトンは幾つかの道をつまみ食いしてから撤退することにした。この2人、特に示し合わせたわけでもないのだが、選ぶ道筋がたまたま一緒だったのだ。
「最初からチームを組んでいたら良かったかも、と思うくらいにかぶったわね……」
「というよりは、選択肢がほとんど無かったですよね」
シャトンが苦笑を見せれば、ノックスが淡々とそう返す。二股、三股に分かれている場所もあったのだが、今回の任務は楽なルートの開拓だ。その目的から考えると、他の分岐路は選ぶ気になれないような物ばかりだった。彼らに限らず、他のチームもしばしば仲間に出くわしているのは、ルート選択の理由が似通っていたのが理由の一つである。しかし、帰路において事件が無いわけではない。
「……何かが戦っているようですね」
「急ぎましょう!」
あと少しで浅層にたどり着く辺りで、前方から喧騒が聞こえてきた。駆けだした先にいたのは。
「あと少しだからね!」
「すまぬのである……」
にょろにょろした奴に囲まれてしまった夕霧と、槍を振るうトゥーリの姿があった。浅い場所にいる魔獣ゆえに大した攻撃力もないにょろにょろは水着姿の夕霧にすら大したダメージを与えられないようだ。
「ヒール! うーん。これって、モンスターハウスって奴かな?」
トゥーリの用意した回復手段もまだまだ尽きない。いつかは勝てるだろう。しかし、2人とも範囲攻撃が無いのが長引く要因だった。そこへ、新手が駆け込んでくる。
「援護します!」
「私は奥の……ええと、ウナギっぽいのを撃つわよ!」
「え、これってヘビじゃなかったのであるか?」
ノックスが銛を突き刺して一匹のにょろにょろを刺し殺した。シャトンが順番待ちをしている(ように見える)敵目掛けて矢を撃ち込む。にょろにょろに纏わりつかれた夕霧は結構色っぽい事になってしまっていたとはいえ、不思議な能力で水着を溶かすとか、切り裂くとかいうわけではないので口調自体は余裕があった。そのまま授恵者達は一気に敵を圧し切った。
「感謝するのである。あと少しで出口という所であんな群れに出会ってしまって困っていたのである」
「そうだねー。逃げようと思えばいつでも逃げれたと思うけど……」
疲れた様子の夕霧とトゥーリに事情を聞けば、撤退中に夕霧が運悪く敵の群れに出会ったのが発端。快速に物を言わせて逃げ出したのだが、困ったことに仲間を呼ぶ奴だったらしい。仕方がないので反撃に転じたが、殲滅力不足であんな感じになっていたのだそうな。
「つまり、最後に良い情報が採れたという事ですね」
「そうね。戦っておいてよかったわ」
念のために持ち帰ってみたところ、このヘビだかウナギだからわからない生き物も、そこそこ食べれる食材枠だったらしい。ヴィント新迷宮のカエル枠をめぐる争いは熾烈になりそうだ。ライバルは道中アルマに喰われていたイカ、【海遊】の2人が出くわしたお魚軍団、【四葉】がチャレンジしたにょろ触手と【綺譚】が倒した巨大魚、それ以外に蟹もいた。たぶん海老やタコもいるのだろう。
●ゴールにて
結局、時間の差はあれ冒険者たちの過半数は上層を踏破した。途中で引き返した者も、余力は残して情報を持ち帰っている。繋ぎ合わせれば、幾つかのマシなルートが見つかるだろう。上層ボスの部屋の前では、到着した面々が情報を交換していた。
「びっくしりたのはサメだね。ぼくと同じくらい大きかったよ」
「なるほどな。俺達の方は敵はエビみたいな奴だ。弱いけど数が多かったな。罠みたいなのはあまり見当たらなかった」
バクルの感想に、大鼬のベニテングの毛を梳いていたテテリカが応じる。もともと水には強い生き物ではあるしお風呂も好きな子だ。息を止めるのも主と同様に頑張れるのだが、海水は少し心配だったのだろう。
「なるほど、主幹路だからでしょうね……」
察したようにミアが頷いた。エドゥノーグの迷宮でも、上層主幹路の殺意は低い。今回潜っている授恵者の平均的な能力であれば、単独であっても危険に陥る事はまずないだろう。
「ミアさん、新人と思えない判断力だし知識もありますね。よろしければ青銅級探索者記章を推薦しましょうか?」
トーラが感心したように言葉を投げた。
「確かに。ミアさんはしっかり動けてたと思うよ」
「へあ!? あ、いえ。お気持ちだけ頂きます。ちょっと知人がおりますので」
同意するバクルへ慌てたように首を振りつつ、ミアは内心冷や汗を流していた。
(誰かと貸し借りの繋がりが出来ちゃうと、せっかく変装してるのに無駄になっちゃうものね)
バレているとは思っていないらしい。そして、テテリカはここがエドゥノーグ同様の難易度と聞いて溜息を吐いていた。
「ここも観光に使われるようだと、うちの商売あがったりだな」
世界は狭くなったが、その分競争も激しくなったのだ。
▼
「水着も良いですが、防水用の鞄があると助かります」
と、Alexandraが言う。水中を行く際には水袋を裏返し、紙などの濡らしたくない物を運ぶ工夫をしていた彼女としても、最初から防水の背負い袋などあれば助かる。授恵者ならマジカルポケットを使うという手がありはするが、探索で使える手を一つ潰してしまう事はデメリットでもある。
「結局、持ち帰るのはこれにしましたでし……」
マジカルポケット持ちのララノアが手にしていたのは、擬態が上手かったウミウシ魔獣の死骸と、それを包むメモ用紙。本当ならもっと沢山のサンプルを持って帰りたかったのだが、マジカルポケットの仕様上持ち帰れるのは1つだけで、悩みに悩んでそれに決めた。覚えている知識と合わせれば戦果は十分だろう。
「結果的にはだいぶ戦っちゃったけど、ゴールまで来れて良かったわよ」
「うむ。水に入らずにここまで来れるならコハクは勝つ」
エミリアの言葉に、コハクはきりりと頷いた。水に潜らない事を最優先でルートを選んだ【風尾花】は、何とかゴールまでたどり着いている。視覚聴覚嗅覚にエーテル探知も分担して、面倒な中でもマシな場所を縫うように動けた事が勝因だろう。他のチームも、それぞれの選んだルートを使って踏破している。
「どこかに海鳥みたいな敵がいれば、よかったんだがな」
「たまたま会わなかっただけかもしれませんよ!」
道中で得られる素材なども気にしていたテテリカに、トーラがそう返事をしていた。鳥の糞の山に貝殻などもあれば良さそうなのだが、今回辿れたルートでは拾えなかったのが残念だ。
「つまり。依頼は既に成功な訳だ。じゃあ、海底魔獣とか見たいよな?」
「どんなのがいるのかな?」
好奇心に目を輝かせるロイと、三大欲求の一つに口元を緩ませるアルマ。勢いに任せて危ない事を考えているだけかと思えば、さにあらず。様子を見るだけで光縛封で防いで逃げ出してくるだけという事なので、滅多な事はない、だろう。周囲は同調する様子もないが、止める様子もない。
「エドゥノーグの迷宮と同じなら、ボス部屋からは逃げ出せる筈だし」
「それが違うかどうかは確かめる意味があるよ!」
新人であるミアも注目はしているだけで、目立つような動きは見せなかった。先着していたサフィラやリサが外から調べていた情報を聞いてもいるようだ。
(無茶をしている訳ではないようだし。怪我をしなければ良いでしょう)
ある程度は授恵者達の実力を把握しているギルド長としてのエフィミアは、多少は過保護ぶりを改めたのかもしれない。ボス部屋にさっと入ってから無傷で出てきた2人は、中にいたらしいアホロートル型魔獣が食べて美味しいかどうかを熱く語っていた。
マスターコメント
イベントシナリオ普通 報酬:標準25 / 10〜25人
2021年07月29日 20時27分42秒 公開
参加者
相談掲示板
依頼を受けてくれてありがとう。エフィミア・リリックです。 相談掲示板が混雑するといけないので、ギルドの方に相談場所を用意しました。 よければチーム募集や合流につかってね! https://alpaca-connect.com/world/world0/community/SQyMT2H7ijcfpQMvnjWe
シーフのトーラてす。 ダンジョン探索頑張りましょう!
よろしくお願いします。 キャスター、クラウディアです。 ―さて、折角ですし探索に向けパーティーの募集をば。 クラスなどは特に制限を設けません。…どのみちヴィントダンジョンは特殊地形の嵐でしょうから。 …あ、私は今回超聴覚+位置感覚での測量重視となりそうなので、情報までに。
>クラウディアさん わたしも今のところ一人なので、よろしければご一緒しませんか? シーフなので探波や捜波での安全確認が出来るのと、一般スキルは水泳と暗視辺りを持っていく予定です。 ただ、釣竿と水着で行く予定なのでトリプルファングやシーフ鎧が条件のフェザーステップや疾風足が使えませんし、戦闘ではあまりお役にたてないかもです。
はい、是非とも。 よろしくお願いします、トーラさん。 こちらはいくつか攻撃手段を持ち込む予定です。 クラスの都合前衛はお任せする形となりますが、撃滅についてはこちらで対応することとなりましょうか。
シューターのテテリカ。よろしく頼む。 エフィミアの案内してくれたギルドの方にいたが、さみしさに耐え兼ねてこちらに来た……。 まだパーティが決まっていないため、クラウディアのパーティに参加させてもらえるとありがたい。
テテリカさんですね、もちろん。 ご参加いただき感謝します。 ―そちらは、テテリカさんのパートナーでしょうか。 今回、私は海中ゾーンを除いておよそ水上での活動となると思います。 必要であれば、私自身を止まり木代わりにでも使っていただければ。 尤も、イタチは一般に水辺を好み、かつ得手とするものと聞きますから、滅多なことは無いと思いますが。
遅くなってゴメン。 キャスターのテュリン・ヴィングよ。今回はよろしくね。
>クラウディア ありがとう。 クラウディアが水上にいる時に大鼬と一緒にいてくれると安心だ。 大鼬は背後の警戒などで恩に報いようと思う。 基本的に敵を避けつつルート探し、必要時のみ交戦という方針で問題ないだろうか? 今のメンバーなら、俺は戦闘時には前衛に出て守り重視で動くつもりだ。 パーティのタグはどんなものが良いだろうか。
クラウディアさんありがとうございます! テテリカさんもよろしくお願いしますね。 安全なルートの探索ですし、方針はテテリカさんの言っているものでいいと思います。 あとは、戦闘外の危険が少ない安全なルートの開拓でしょうか。 タグは良いのが思い付かないですね…。 考えてみますけど、良い案があったらそちらで決めてもらえたらと思います。
大筋の方針はテテリカさんのそれで良いと思います。 索敵に関しては、比較的近距離の潜伏ケースにはトーラさんの捜波。 開けた場所での遠方索敵はテテリカさんの視覚とリンク。 どちらにも掛からない、入り組んだ場所の遠方索敵は私から聴覚+攻撃術によるアクティブソナーで。 ―加えて、これは余裕があればなのですが。 中継地点を設けられると、後塵の憂いを断つ上で役に立ちそうです。 …トーラさんの腕を振るえるような、休息に向いた場所を探すのもよいかもしれませんね。 パーティータグは…こちらも考えあぐねていたところで。追って決める必要がありますね。
シューターのロイ・アウレアです。宜しくお願いします。 >少人数にし過ぎると途中で力尽きて撤退 ここが怖いですが…メンバーを集める間が無かったので アルマさんを道連れに、地道に回れるだけ回ってきます。 (運に恵まれて)何かしら良い結果を出せると良いな。皆さまもご武運を!
>ロイ ありがとう。ロイとアルマの冒険も上手くいくように。 >トーラ、クラウディア 海中のルート探索なので【海路】とでもしておくか? 俺はエンライトを用意したが、暗所や水中で戦闘が発生した際の緊急攪乱用を想定している。 通常時はトーラの暗視が頼りだ。
ヒーラーのアルマだよ、どーぞよろしくねー。 ロイさんの道連れで行けるところまで頑張ってくるよー でも力尽き撤退だとギルド長サマから正座でお説教とかあるのかなー…? フフフ、怖い…! そして応援どうもありがとー テテリカさんもみんなも良い発見がありますようにー
残り12時間あまり と… 【海路】…ふむ。ストレートにこれで統一しますか。 基本指針(敵を避けつつ安全ルート探し)はこちらで組み込むことで共通項としますので、個人行動(プレイング)は具体策や希望などへ存分に振っていただければ。
【海路】了解です! 基本方針もありがとうございます。わたしは探索や索敵メインで行動を出させて貰いますね。 攻略頑張りましょう!
出発間近の挨拶になっちまって悪ぃな。 ウォーリアのアーシェルだ。よろしく頼む。 【綺譚】3人で行動予定だ。 安全なルートを見つけられるよう力を尽くす。 合流出来た時はよろしくな。