【黄金像】巨大像職人を求めて【聖祭】
おおくまねこ
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シナリオID:2684
オープニング
●ウィリアム巨大像建造計画、その二
「修正は何度か入りましたが、皆様のおかげで無事ウィリアム王子の巨大像建造プロジェクトは学園から承認を頂けました。今後とも、志を同じくする皆様のご助力いただければ幸いです」
冒険者ギルドにやってきたパーシアは、集まった冒険者達の前で一礼した。この場には学園生の冒険者達もたくさん集まっている。今日は黄金像の建設に関連する新しい依頼がパーシアから出るらしいのだ。噂では、巨大像建造の為の職人探しの依頼だとか。先日の公聴会の内容を考慮すれば、場所は恐らくドワーフ王国のどこかか、辺境都市群の学術都市ヴェルクリエあたりだろう。
聖霊節シーズンに大陸随一のお洒落な街に旅行に行け、しかも報酬まで頂けるとなれば、人が集まるのも自然の摂理である。
「さて、わたくしは巨大像の建設の為、優秀な彫像職人や装飾品の職人を集め、チームを作りたいと考えておりますの。そこで、皆様には優秀な職人が集まる街にスカウトに行っていただきたいのです。幸い、世間は聖霊節シーズンです。お祭りムードで芸術祭や露店なども多く出ているでしょう。というわけで、肝心の行先ですが……」
冒険者達は息を吞む。行先はドワーフ王国か、ヴェルクリエか。
「ドワーフ王国の『芸術の都エピュタ』と、『学術都市ヴェルクリエ』の二手に分かれてスカウトをお願いします。わたくしは学術都市ヴェルクリエの方に同行しますわ」
なんと両方であった。その瞬間、酒場は歓声に包まれる。思わず拍手を送る冒険者達もいた。
「旅費についてはこちらで持ちますのでご安心下さいませ。さあ、我はと思わん方から、どうぞ参加申し込み書にサインをお願いいたします!」
なお、冒険者達の旅費を学園に経費として請求したところ、けんもほろろに書類を突き返され、パーシアのお財布が亡きものとなってしまうのは、彼女がヴェルクリエから帰還した後のことであった。
●芸術の都、エピュタ
「ここも随分復興が進んだなー。メルトウォールとの戦争から一年でよくここまで戻ったもんだ。やっぱりドワーフ王国の職人は世界一って感じ?」
聖霊節の雰囲気に包まれたエピュタにて。匠王シグルランは酒瓶を持ちながらふらふらと街を練り歩いていた。一国の王とは思えぬフリーダムなスタイルだが、これでも彼女はドワーフ王国の王様だ。ドワーフ王国の『王』とは最高の鍛冶師に与えられる称号であるので、こんなでも文句は言われないのである。
「それに、これは一応視察だし? 今日のアタシは王様としての仕事してるんだよ! えらいっしょ?」
誰に言い訳しているのか、いかにも酔っ払いっぽく虚空に叫びながら、シグルランはふらふらとエピュタの街を練り歩く。まだところどころ破壊の爪痕は残っているが、エピュタの人々は聖霊節を祝える程度には活気を取り戻していた。
「うーん、平和だね♪ 今日は一日ここで過っごそ♪ 友達にも会えたらいいんだけどなぁ……誰かヒマな奴おらんもんかね?」
ゴキゲンなシグルランは職人ギルドで世間話をしたり、珍妙な工芸品を探したり、若者の喧嘩に乱入して両成敗したり、と平和を満喫するのだった。
「修正は何度か入りましたが、皆様のおかげで無事ウィリアム王子の巨大像建造プロジェクトは学園から承認を頂けました。今後とも、志を同じくする皆様のご助力いただければ幸いです」
冒険者ギルドにやってきたパーシアは、集まった冒険者達の前で一礼した。この場には学園生の冒険者達もたくさん集まっている。今日は黄金像の建設に関連する新しい依頼がパーシアから出るらしいのだ。噂では、巨大像建造の為の職人探しの依頼だとか。先日の公聴会の内容を考慮すれば、場所は恐らくドワーフ王国のどこかか、辺境都市群の学術都市ヴェルクリエあたりだろう。
聖霊節シーズンに大陸随一のお洒落な街に旅行に行け、しかも報酬まで頂けるとなれば、人が集まるのも自然の摂理である。
「さて、わたくしは巨大像の建設の為、優秀な彫像職人や装飾品の職人を集め、チームを作りたいと考えておりますの。そこで、皆様には優秀な職人が集まる街にスカウトに行っていただきたいのです。幸い、世間は聖霊節シーズンです。お祭りムードで芸術祭や露店なども多く出ているでしょう。というわけで、肝心の行先ですが……」
冒険者達は息を吞む。行先はドワーフ王国か、ヴェルクリエか。
「ドワーフ王国の『芸術の都エピュタ』と、『学術都市ヴェルクリエ』の二手に分かれてスカウトをお願いします。わたくしは学術都市ヴェルクリエの方に同行しますわ」
なんと両方であった。その瞬間、酒場は歓声に包まれる。思わず拍手を送る冒険者達もいた。
「旅費についてはこちらで持ちますのでご安心下さいませ。さあ、我はと思わん方から、どうぞ参加申し込み書にサインをお願いいたします!」
なお、冒険者達の旅費を学園に経費として請求したところ、けんもほろろに書類を突き返され、パーシアのお財布が亡きものとなってしまうのは、彼女がヴェルクリエから帰還した後のことであった。
●芸術の都、エピュタ
「ここも随分復興が進んだなー。メルトウォールとの戦争から一年でよくここまで戻ったもんだ。やっぱりドワーフ王国の職人は世界一って感じ?」
聖霊節の雰囲気に包まれたエピュタにて。匠王シグルランは酒瓶を持ちながらふらふらと街を練り歩いていた。一国の王とは思えぬフリーダムなスタイルだが、これでも彼女はドワーフ王国の王様だ。ドワーフ王国の『王』とは最高の鍛冶師に与えられる称号であるので、こんなでも文句は言われないのである。
「それに、これは一応視察だし? 今日のアタシは王様としての仕事してるんだよ! えらいっしょ?」
誰に言い訳しているのか、いかにも酔っ払いっぽく虚空に叫びながら、シグルランはふらふらとエピュタの街を練り歩く。まだところどころ破壊の爪痕は残っているが、エピュタの人々は聖霊節を祝える程度には活気を取り戻していた。
「うーん、平和だね♪ 今日は一日ここで過っごそ♪ 友達にも会えたらいいんだけどなぁ……誰かヒマな奴おらんもんかね?」
ゴキゲンなシグルランは職人ギルドで世間話をしたり、珍妙な工芸品を探したり、若者の喧嘩に乱入して両成敗したり、と平和を満喫するのだった。
解説
目標:ウィリアム巨大像建造の為、腕のいい職人を見つける。彫像職人がメインで、装飾品関係の職人も必要。
舞台:芸術の都エピュタ又は学術都市ヴェルクリエのどちらかを選択
※聖霊節のシーズンの為、どちらの街でもたくさん露店が出ていたり、様々なジャンルのコンテストが開催されています。
●学術都市ヴェルクリエ
辺境都市群に存在する都市の一つ。種類を問わず優れた製作物や技術を輸出することで都市国家として発展してきた。
歴史的に実力主義の風潮が根強く、「優れた製作者であること」や「優れた能力を有していること」が重要で、種族に対する軋轢はほとんど存在していない。
特筆すべきはその景観で、職人や芸術家が有する工房とアトリエはどれも個性豊かで彩りにあふれている。ヴェルクリエを訪れた人びと――特に職人・芸術家――を魅了してやまないのだとか。
●芸術の都エピュタ
ドワーフ王国の都市。一年前に多種族混成軍メルトウォールの侵攻を受け、壊滅的な被害を受けたが、ドワーフ王国が誇る職人パワーにより現在は聖霊節を祝える程度には復興している。ドワーフ王国は国全体に武器職人や彫像職人、宝石細工職人、大工など様々な職人のギルドがある為人材は豊富。
※個人的に職人に伝手がある場合、ヴェルクリエやエピュタの職人でなくともパーシアに紹介することが可能。
●ウィリアム黄金巨大像について
ポーズ:右手に聖剣、左手に本を持った冒険者ウィル
大きさ:像本体が10メートル、台座あり。
メイン素材は青銅または真鍮。眼球は青色の宝石を使用。
像の近くに休憩用のベンチを設置。台座にも避難所搭載。
というところまでは決まっている。その他の細かいギミックが盛り込めるかは職人の腕次第。
●登場NPC
パーシア
生徒会長。学術都市の方に行き、職人を探す予定。また、巨大像とは別に生徒会室に置く為の『等身大ウィリアム像』(自腹)も発注しようと画策している。
授恵者だが実戦経験は無い為護衛も必要。ただし、ナチュラルに人使いが荒い為、護衛はお茶を買いに行かされたり、大量のお土産入りの鞄を預けられたりする可能性あり。
ラズリー
第二演劇部副部長。4年生。秘書としてパーシアについて回る。
シグルラン
王。エピュタの街で聖霊節を楽しんでいる。ドワーフ王国の頂点に立つ鍛冶師だが、彫像は専門外なのでウィリアム巨大像は作ってくれない。様々な職人ギルドに顔が利く。
マスターより
こんにちは。おおくまねこです。ウィリアム巨大像建造計画の第二フェーズ。今回はエピュタとヴェルクリエにて、職人探しをします。大人数のプロジェクトチームを組織する予定の為、人数はいっぱいいた方がいいです。
エピュタとヴェルクリエはかなり距離があるので、行けるのはどちらか一か所のみとなります。ヴェルクリエには依頼人のパーシアがおり、エピュタにはたまたま遊びに来ていたドワーフ王のシグルランがおります。
ご興味がありましたらよろしくお願いいたします。
リプレイ
●一章 エピュタ編
「やほやほ~! 冒険者諸君、おいでませ、芸術の都エピュタへ! 歓迎するよん♪」
なぜかエピュタをほっつき歩いていたドワーフ王、シグルランは門の前で朗らかに冒険者達に挨拶をした。彼女がドワーフ王であることを知っているかはさておき、シグルランの顔を知る冒険者は多い。冒険者本部のあるリブラネスタの職人通りや飲み屋に出没するからだ。
「あれ、シグちゃん?」
「貴殿はドワーフの王シグルラン! なぜここに?」
ヴィルヘルミナとベルク・オスマットは目を丸くする。他の冒険者達も幽霊を見たような顔だ。
「んー、査察ってヤツ? ほら、アタシこの国の王様だしさ」
とりあえずシグルランはヴィルヘルミナと再会のハイタッチを交わしつつ、ウインクした。
「君達こそどしたん? いっぱい遊びに来てるみたいだけど。もしかして邪竜でも退治しに来てくれた?」
「やあ、久しぶり。今回は別の仕事でね。パンクリアース学園にウィリアム王子の巨大像を作ることになったんだ」
柔和な微笑みを浮かべ、シルヴィア・A・カペルもシグルランとハイタッチした。ぱんぱんぱんぱん。顔見知りの冒険者もそうでない冒険者にもとりあえずシグルランにハイタッチされ、エピュタの西門はシグルラン握手会状態だ。
「ヤバ! あの公約マジになったってコト!? ウケる! アタシのも作っちゃおうかなー。50メートルぐらいのやつ! 公費で……」
シグルランが酔っ払いらしいでかい声でそう口にすると、立ち聞きしていたドワーフ達がたちまち大ブーイングを始めた。
「圧政者は帰れー!」
「下らねえこと言ってねえで、帰って仕事しろー!」
「てめえが借金して作れや、シグルラン!」
「あちゃー、やっぱしダメかー」
どこかフレンドリーな罵声を浴びせられ、シグルランは頭を掻いた。その時、真面目そうなドワーフがシグルランに声をかける。
「おい王。友と騒ぐのもいいが、そろそろうちの太守との面会時間じゃねえか?」
「あ、いけね。忘れてた。ま、職人探しなら好きなだけしていってよ。アタシらドワーフは腕は世界一だからさ。アタシも明日の夕方ぐらいまではこの街にいるから、時間が空いたらアタシとも遊ぼ♪ じゃ、またあとでねー」
シグルランは空になった酒瓶をひょいと上げ、エピュタの奥へと引っ込んでいった。
●
公務が終わって暇になっていたシグルランを見つけたシルヴィアは、シグルランと一緒に街をぶらぶらしていた。
「此処も順調に復興しているようで何よりだ」
「でしょ? すごくね? 国中の職人が頑張ってくれたんだよ」
「私の故郷も芸術にはうるさい場所でね。音楽や演劇、絵画がメインだから、この街とは少々趣きが異なるけど」
「ふむふむ」
「せっかくだ。君にもこれを渡しておこう。私の故郷の地酒だよ。ドワーフの口にも合うといいな」
「マジか! あ、これワインじゃん! あざす!」
シルヴィアからお土産をもらったシグルランはゴキゲンになった。シルヴィアはシグルランにもウィリアム巨大像の企画書を見てもらい、二人で歩きながら巨大像建造に必要そうな職人について相談に乗って貰った。
「今度、私の故郷のお酒でもどうかな? 今年も良いワインが出来たんだよ」
「マジ? 次いつ王国行けんだろ。また学園とか呼ばれたら寄りたいな~」
「ふふ。ぜひ来てくれ。賓客として歓迎しよう」
「うし! でもアタシはお酒にはちょっとうるさいぞ?」
「安心してくれ。私の故郷の酒はリーンエス王国でも一級品だと自負している」
●
「ほぉ……シグルランの紹介かい」
シグルランから優秀な彫像や装飾品の職人達を紹介してもらったシルヴィアは職人の店を訪れていた。
「リーンエス王都のパンクリアース学園に立てる像だ。彫像技術は学園生、ひいては王国に宣伝されるだろう。何より、後世まで伝わっていく像を作る一大事業。職人として腕が鳴らないかい?」
「いいだろう。この腕、貸してやろうじゃねえか」
●
「シグルラン殿。これはヴェラワインという都市同盟産の赤ワインだ。手土産である」
「え、マジ!? いいの、サンキュー! ベルっち!」
シグルランのベルクへの好感度がぐぐーんと上がった!
(ドワーフ王国ということで賄賂を用意しておいて正解だったな)
シグルランと共に適当な酒場に入ったベルクは、彼女と職人探しの相談をしていた。
(ウィリアム殿下への嫌がらせ、っと行きたいがさすがにこの段階で嫌がらせを仕込むのはやりすぎだからな、真面目に探すとしよう)
ウィリアムへの意趣返しはもうそれなりにやって留飲は下がったので、ベルクは今回は真面目に依頼人の要望をこなしている。前回の座談会とは異なり、旅費やお賃金も出ていることだし。
「我は木像職人を探しているのだ。シグルラン殿は優秀な職人に心あたりがあれば教えてほしい」
ベルクは自分で調べてリストアップした木像職人のリストをシグルランに見せた。
「え、木像? 金属で作るんじゃないの?」
「そうなのだが、モックアップ用の像も必要かと思ってな。我はそちらを探しているのだ」
「にゃるほど」
シグルランはベルクから受け取ったリストをしげしげと眺める。このリストはベルクがシグルランと合流する前に自ら職人の工房を訪れて調べあげた優秀そうな職人のリストである。
「ふむ……このリストの中だとアタシのイチオシはユグドラさんかなー。腕は確かだし、洒落も通じるから頼んだらイケると思うよん」
「そうか! 良いことを教えてもらった。その御仁は有力候補だな」
ベルクは組合の評価リストと自身の評価リスト、シグルランの評価リストの3点を作成し、依頼人のパーシアに提出した。
●
「シグルラン王、お会いできて光栄だ。俺の名はシャドウという」
「おっす、シャドウ! アンタは初めましてだね。アタシは有名人だから自己紹介はいらない感じ? よろしく!」
街の人々にシグルランの居場所を聞き出したシャドウは腕の立つ職人を紹介してもらうべく、シグルランと面会をしていた。
「あんたならギルドにも顔が利くはずだ。どうか、腕の立つ職人を紹介してもらえないか?」
「いいよ。でも一つ条件がある。アタシの質問に答えられたら紹介してあげる」
「ふむ」
まさかの試練だった。ドワーフ王からの問い。戦士としての心構えなどを問われるのだろうか? シャドウが身構えていると、シグルランは意外な問いを発した。
「アタシ、いくつに見える?」
悪戯っぽい表情で笑うシグルラン。
「……」
シャドウは考える。見た所、シグルランの年齢は20前後だ。だが、彼女は人間ではなくドワーフである。
「……人間で言うと20歳前後に見える」
シャドウは正直に答えた。
「あはは、そっか。まあそうだよねー。ちなみにアタシ今年で60才な」
「そうか。ドワーフは長命なのだったな」
「そういうこと。まー酒飲まなきゃエルフ並に長生きするらしいよ? だいたい酒とか食い過ぎで内臓やられてもっと早く死ぬんだけど」
「……そうなのか。それで、職人の紹介はしてもらえるのだろうか?」
「うん、いいよ! 合格! 正直に答えてくれたしね。他の冒険者にも紹介してるから、もし被っちゃったらごめんね」
「構わない。雇い主は同じだしな」
こうしてシグルランの試験(?)を突破したシャドウはシグルランから優秀な職人を紹介してもらえたのだった。
●
ヨル・スレイマンとナハシュはシグルランを口説いていた。と言っても、ナンパではない。ウィリアム巨大像に二人のイチオシ機能であるビーム機能、そして変形ギミックを搭載する為に彼女の知恵を借りたいのだ。
「シグルラン君、ビーム職人に心当たりはないかな?」
「びーむ?」
ヨルの問いにシグルランは首を傾げた。
「そう、ビーム。ウィリアム王子の像の目からこう、ピーッと光線が出るようにしたいんだ」
「ふむふむ。……うーん、灯台みたいな感じってことでいい?
「ああ」
ヨルは頷く。
「あと、ウィリアム巨大像の腕を動かせるようにしたい。剣を持ってる方の手を、ジャキーン、と!」
続いてナハシュは関節稼働についての要望を伝えた。
「なるほど! それめっちゃ面白そうじゃん! なかなかハイレベルな要求だけどさ。10メートルの立像っしょ?」
ちょっと想像してみたシグルランは苦笑する。
「ああ。けどこのままじゃ唯の冒険者ウィルだ。ウィリアムらしさを出さなきゃならねえ。そこで! 光り輝くオーラ的ライト! 目からビーム!!極めつけに剣を構える可動式!! どうだテンション上がるだろうが!」
ヨルとナハシュはシグルランへと、少年のようにキラキラした瞳でウィリアム巨大像への意気込みを語る。
「確かに! 目立ちたがりのウィルっちだしな! うーん、ビームは紋具でなんとかするとして……腕の稼働か……腕と胴体を別々に作って人形みたいな構造にすれば……できなくはないかな?」
「「よっしゃ!」」
シグルランの返答にヨルとナハシュは拳をぐっと握った。いけるぞ、ウィリアム巨大像からビーム! そして腕関節稼働!
「シグルラン。なんとか実現できそうな、腕の良い人を紹介してくれたら嬉しいな。お礼に酒は奢るからさ」
「頼むぜ! 飲み放題でいいからよ!」
「よし、乗った! アタシもアンタ達にウチの国の職人が協力するよう一筆書こう!」
シグルランはタダ酒に釣られ、二人とがしっとシェイクハンドした。
●
「こちらも復興が進んで何よりですね。冬は寒いので備えも必要ですし」
「でしょ? 国中の職人が気合入れて直したんだ」
シグルランを呼び出したヴィルヘルミナはシグルランと一緒に街を歩いていた。シグルランは公務はすでに終え、漫遊モード中である。ヴィルヘルミナも久々の祖国への帰郷なので、せっかくなのでシグルランと一緒に観光することにした。もちろん、職人探しもシグルランに相談しながら、ぼちぼち進めていくつもりだ。
「時間があればまた刀でも一緒に打ちたいものですが」
「お、いいね! 一本打っとく? アタシはまた腕を上げたぜ! こないだ王国に遊びに行ったとき、フォルっちに図書館見せてもらったんだ。鍛冶の資料もあったからさ」
「そういえば、シグちゃんも何度か学園に顔を出していましたね」
二人は屋台で買ったつまみをかじり、世間話をしながら、エピュタの街を歩いていく。
「さて、ウィリアム像というトンチキに興味を持ってくれる職人がどれだけいるやら。むしろ面白いと乗ってくれる方がいればいいですけど。金払いは学園側がどれだけ出すのか良くわかりませんし」
「うーん、面白そうなんだけどねー。アタシは彫刻は専門外だからなー。剣も飾りっしょ?」
「ええ。もちろん。まさか、本物の巨大剣を持たせるわけにもいきませんしね」
……。
ヴィルヘルミナはシグルランと別れた後、残りの蒸留酒の数を確認した。
「さて、頑張りましょうか。といっても、相手がドワーフなら大体はコレで何とかなる気もします」
●
「すごい……。復興、無事に進んでいるみたいでよかったです」
ゲルダ・クラインはエピュタの復興が進んでいることにほっとしていた。ゲルダは昨年マミダ地域の洞窟都市コシュカでの復興を手伝った経験があるため、メルトウォールの侵攻を受けた街の惨状についてはよく知っていたのだ。
「これなら職人探しもうまくいきそうです」
聖霊節の雰囲気に包まれ、活気のあるエピュタの風景に安堵しながらゲルダは仕事に勤しむ。彼女が探そうとしているのは、巨大像の建造に欠かせない彫刻職人だ。商家出身のゲルダは豊富な商業知識を生かし、芸術品の店や露店の店先などに出ている商品や見本を確認し、彫刻の質や価格帯を確認していく。
(このお店の方は腕は確かなようですね……お値段も法外と言うわけではなさそうです……)
「すみません、少しだけお時間をいただけますか?。あ、こちらは手土産です」
ゲルダはこれはと決めた職人に酒とつまみ用の干物を渡し、交渉に入る。
「……なるほど、分かった。俺で良ければ力を貸すぜ。春までに仕上げればいいんだな?」
「ありがとうございます!」
ゲルダの真摯な交渉はドワーフ達の心に響き、優秀な職人達数名の協力を取り付けることができた。
●
海神 江流はエピュタへと出発前にウィリアム巨大像の仕様を確認していた。変形ギミックやビーム搭載の可否など、まだ実現可能か不明な点は幾つかあるが、パーツごとに別々に鋳造することや、ウィリアムのポーズなどの大枠はもう決まっている。江流は像のデータをしっかり頭に入れ、エピュタへと向かった。
「職人を探してるんだ。俺の自作品より上等な物を作れる職人、それと並んで見劣りしない腕前の職人を紹介して貰えないだろうか」
彫金師のギルドに赴いた江流は受付のドワーフに自身の持ち物である指輪を渡した。指輪には紫百合をモチーフとした精巧な彫金が施されている。これは一流の彫金師である江流自身が彫金したものである。
「ほう……これは授恵者の彫金師の仕事か? 相当な腕前だな。これ以上の腕前となると……三人とおらんな。で、一体何を作るつもりだ?」
(二人はいるのか。さすがはドワーフ王国にして、芸術の街と言われるだけはあるね)
最悪自分で名乗りをあげようかと思っていた江流はニヤリとしつつ、ドワーフに頼みたい仕事の内容を告げる。
「リーンエス王国のパンクリアース学園に第二王子の立像を作るってお話があってね。貴族の酔狂と言えばそれまでなんだけれど、乙女の恋心(誇張あり)が絡んでるとなれば、手助けしてやりたくてね。請けてもらえるなら、作品は学園で永く保存されるだろうから、出来栄え次第では永く名を残す事も出来ると思うよ」
「ふむ。大きさは?」
「十メートルの立像。台座もある」
「デカいな。確かにその大きさになると、並の腕前じゃ無理だ。……報酬は十分に貰えるんだろうな?」
「作るのはリーンエス王国の貴族だ。腕に見合った適正価格が貰えると思うよ」
「分かった、その条件なら二人とも引き受けてくれるだろう。住所を教えてやるよ」
「ありがとう」
こうして、彫金師ギルドから優秀な彫金師を紹介してもらった江流は、優秀な彫金師のスカウトに成功したのだった。
●
「結構キレイになったモンだな」
「やっぱりドワーフの技術とガッツは凄い! これは優秀な職人さんが見つかりそう!」
エフィルミアとナキルはエピュタが復興しつつあることに感動していた。二人は以前メルトウォールの侵略からエピュタを守るため、ここで戦ったことがある。あの時はいかにも戦禍の街、といった有様だが、ドワーフ達が相当頑張ったのか、戦いの爪痕は半ばまで消えつつあった。聖霊節を祝える余裕があるほどに。
(エピュタ、あん時すげぇボロボロになっちまったが……あの頃は色々あったな。そして、ミアが居てくれたからオレは道を違えずに済んだ……)
「なあ、ミア?」
「そーですね!」
ナキルが問いかけると、エフィルミアはなぜかキレ気味に返答した。
「……ミア、いきなりなんでそんなに不機嫌なんだよ」
困惑するナキル。表情がころころ変わるのはいつものことだが、これはちょっと理不尽すぎやしないか。
「私まだ怒ってるんだけど?」
ナキルの中ではエピュタで大怪我をしたのは昔話になっていたが、エフィルミアの中では今も陸続きだった。ナキルが大怪我をしたのはエピュタの戦いに限ったことではない。彼はしょっちゅう無茶をして大怪我をする。
(この間大怪我した事なんてケロッと忘れて誘ってきてるけどさ! 無茶して突っ込んだナキルくんが悪いってちゃんと分かってるのかな!?)
ドワーフとエルフは種族レベルであまり仲がよろしくない。エルフであるエフィルミアが交渉する際にはそこをハーフリングである自分がフォローしようと思っていたナキルだったが、肝心のエフィルミアはとても機嫌が悪かった。
(あ、こないだの怪我のせいか)
「……心配掛けて悪かった。以後気を付ける」
「以後気を付けるも何度も聞いたし!」
ぷんすこ怒るエフィルミア。
「新しい生徒会の手伝いだしな、しっかりやろうぜ、ミア」
「むー……」
ナキルの言葉に唇を尖らせるエフィルミア。先代の生徒会長として、後輩の足を引っ張るのは本意ではない。そもそもパーシアを手伝う為にここに来たのだから。エフィルミアはナキルが差し出した手をぐいっと握り返す。怒りがあるが、この白亜の美しい街を一緒に回りたいという欲が勝ったようだ。
「よし、行こうぜ、ミア」
二人が探しているのは宝石職人だった。ウィリアムの瞳や、剣の装飾を担当してもらうピンポイントながらも重要な役割である。
「むむ、ピーンときた! あの人をスカウトしよう!」
びしっとエフィルミアが指を突き付けたのは、宝石細工の露店を営んでいたドワーフの少女だった。普段からお洒落のエフィルミアは、装飾品の類にはかなりうるさい。
「待った、俺が交渉してくるよ、相手はドワーフだしさ。エフィルミアは俺の側にいてくれ」
「分かった」
……。
「ええと……お嬢さん、俺達は優秀な宝石職人を探しています。王国の歴史に残る仕事に挑戦してみませんか?」
エフィルミアと打ち合わせした通りの台詞でドワーフの少女に声をかけるナキル。
「え、私ですか?」
「はい。貴方の宝石がこの街で一番素敵だと思いました」
……。
交渉はうまくいき、二人は優秀な宝石細工職人のスカウトに成功した。
●
「芸術の都エピュタで職人を探してみよう。とは言え、僕以外にもエピュタに行く人はいるだろうし、僕はサポートで動こうかな」
ルーンス・ラグネルは石切り職人や宝石職人、金蔵細工師などの各ギルドへ今回の依頼の概要を伝え、スカウトする職人の人物紹介を依頼することにした。ルーンスのやりたいことは主に採用有力者の素性の裏取りである。
(口だけ上手くても困るけど、喧嘩ばかりされてるといいことにはならないし、今現在ある仕事を放ってくるような職人こそ信用できない……人柄・現在の仕事の状況がどうなのかを照会できるようにしとこう)
「欲を言えば、調整役に向いた職人が欲しいんだけど……そういう人いる?」
ウィリアム巨大黄金像の製作は大人数の職人によるチームプロジェクトだ。さらに、この街のドワーフ達だけでなく、ヴェルクリエの職人とも共同作業になる。ただでさえ職人という人種は個人主義思想が強い人が多い為、チームメンバー間のコミュニケーションを円滑に行えるような調整役は絶対に必要になるはずだ。
ルーンスはついでに、腕のよい仕事をする職人については、巨大像とは関係ない職人(大工など)でも個人的にギルドで紹介状貰って帰った。普段ドワーフ王国に来る機会など、あまりないことだし。
「僕の商会と取引するかどうかはこの場では決めなくとも選択肢は持っておきたいからね、グフフ」
巨大像完成の暁には完成祝いの芸術祭も開催される。ルーンスはちゃっかり自分個人の利益も確保しておくのだった。
●二章 ヴェルクリエ編
「ここがヴェルクリエ……グランスパーダほどではありませんが、美しい街ですわね。さあ、腕のいい職人を探しましょうか」
今期生徒会長パーシアはヴェルクリエにやってきていた。彼女の近くには十名近い冒険者達が周囲を固めている。厳密には全員が護衛というわけではないが、これだけの数の授恵者達に包囲されたパーシアは鉄壁の安全地帯にいると言えるだろう。
「……てわけだ。考えてもらえないか」
パーシアの側では、ペルゼィックが熱心に地元の職人を宣伝していた。
(題材がちとアレだが、ウィリアム巨大黄金像は今後の流れ次第じゃ、大陸の歴史に残る建造物になる可能性もある。なんとしても俺の故郷の職人達にも一枚噛ませてやりてえ。街の商工会の連中からも「仕事取ってこい」と念押しされたしな)
「職人がいても使う道具…たとえば釘一本だって作る奴がいねぇと仕事にはなんねぇだろ? 銅像自体は、銅像の原型を作る職人は正直いねぇ。でも、鋳造なら出来る」
ペルゼィックの故郷は辺境都市群にある工業都市である。彫刻とはあまり縁がないのだが、釘や質の高い工業資材の生産は得意とするところだ。
(商談の代表としてここで簡単に引き下がる訳にはいかねぇ)
「サイズがサイズだしな。職人が一流でも部品の質が悪けりゃ、根本からボッキリ折れねえとも限らねえ。その点、俺の地元の職人の鋳造品なら損はさせねえぜ」
そう言うと、ペルゼィックは自分の愛剣レディングをパーシアに手渡した。パーシアはゆっくりとレディングを鞘から抜く。すると、フルタング(刃の部分が柄の先端まで貫通している構造)仕様のロングソードの刃が姿を現した。
「この剣は街最高の鍛冶師である親父殿と母親が作った剣。柄頭に嵌ってるのは俺の作ったガラスだ。巨大像の本の表紙の装飾には、宝石に負けねぇガラスを出してやる」
「へえ」
パーシアは剣をしげしげと見つめた後剣をペルゼィックに返し、彼の顔をじっと見つめた。
「……」
「正直、私に剣の良し悪しは分からないのですが……貴方が嘘をついていないことは分かりますわ。貴方は故郷の職人に誇りを感じていらっしゃるようですわね。よろしいでしょう。では、ガラスや建築材については、貴方の故郷の商品も見せてもらいましょう」
その後、ペルゼィックの熱心な交渉が功を奏し、ガラスや資材の一部はペルゼィックの故郷で生産されたものが使用されることとなった。
●
「旅費を出してくれるということは、食事代もですよね? ありがとうございます」
ヴェルクリエに着いた日のお昼時のこと。『宇宙の胃袋』リディリディ・トゥラ・イェレミースの言葉にパーシアは戦慄した。
(こ、このエルフは確か……)
その時、パーシアの脳裏に数か月前の記憶が蘇ってきた。そう、あれはちょうど今年の選挙の頃だったか。パーシアは選挙とは全く関係のない別件で、冒険者ギルドに依頼を出していたことがある。
その際、リディリディは飲食店で聞き込み調査を行ったのだが……。ステーキハウスでの聞き込みの際の昼食費を丸々経費として請求してきたのである。さすがに貴族であるパーシアが払えない金額ではなかったが、パーシアは庶民向けの店で食事をした金額とは思えぬその額に面食らった。なお、惜しくも落選してしまったものの、会計職に立候補していただけあり、請求書のフォーマットは無駄に整っていた。
(こいつの食費は馬鹿にならねえ……だが、仮にも貴族であるアタシが経費をセコく値切ってると思われるわけにも……)
「少々お待ち下さいませ」
パーシアは優雅に微笑み、秘書のラズリーに確認する。
「なあ、契約書で食費の扱いってどうしてたっけ」
「『食費支給』と書いてますね。上限の記載はないですよ」
「クソっ! 詰んでるじゃねえか!」
パーシアは天を仰ぐ。今度から冒険者を雇う時には食費に上限を設けようと誓った瞬間である。
「ええ、食費も支給いたしますわ。アイオーラ伯爵家の長女たるもの、庶民の食費を出し渋ったりはいたりません」(次から渋るけど)
「ありがとうございます! それでは遠慮なく、メニューの端から端まで頂きます」
(よし、ちょっと節約しよう。第二演劇部員達のお土産はワンランク落とすか……すまぬ)
もりもり料理を貪るリディリディの隣で、パーシアの瞳は遥か遠いグランスパーダを見つめていた。
「こんな感じの巨大像を作りたいんですけど……」
パーシアの心配をよそに、リディリディは完成イメージ図の絵を見せながら、職人の勧誘に励んでいた。
●
「大きい像ですから、職人さんもパーツなど分担しつつの作業になりますよね。私は装飾が上手な方を探しましょうか」
ウィリアム巨大像は巨大な為、パーツごとに鋳造し、後から組み立てる構造となる予定である。それを考慮し、コルネリウス・アーラは彫金や装飾品の製造が得意な職人を探すことにした。
ところで、コルネリウスはエラトゥーン都市同盟のベールコートで『花鳥園』という花屋を経営している。そこで、コルネリウスは花鳥園に行商が来た際、装飾品を専門とする職人を知らないか聞いておくようお手伝いさんにお願いしておいた。
「……というわけで、都市同盟に腕のいい彫金師さんがいらっしゃるようです。左右対称で同じ装飾品を作ったりする時とかに活躍しそうな方なんですが……どうでしょう、パーシアさん」
「なるほど。優秀な人材が多いに越したことはありません。来年の入学式まであまり時間もありませんし……その方にも声をかけておいて下さい」
「了解です!」
ヴェルクリエではコルネリウスはパーシアの護衛の仕事を中心として活動していた。というよりも、パーシアが割と道楽貴族で、ぽんぽんお土産を買ったり、観光地で遊んだりしていたため、パーシアの遊び相手で忙しかったのだ。
「あら……人込みで前が見えませんわ。どこかに梯子はないかしら」
「とう!」
コルネリウスは溢れるパワーでパーシアを軽々とリフトアップした。
「あら? ありがとうコルネリウスさん。以外と腕力がおありですわね」
「はい、ウォーリアですので!」
下手に筋力アピールをしたのが悪かったのか、コルネリウスはパーシアが買いこんだお土産をたくさん持たされた。副会長&会計コンビにウィリアム等身大彫像の購入が阻止されたのは僥倖だったと言えるだろう。さすがのコルネリウスでも、100キロ超の金属の塊を背負って移動するのは難しい。あと恥ずかしい。
「……思っていたよりも人使いが荒いですけど……『護衛』とは……?」
「え……ごえいって、こういうおしごとじゃ、ないんですか……?」
「荷物持ちになるのは……仕方ないね」
コルネリウスはパシリ仲間のミゼリア・L・ステュクスとダニエル・ヘリントンも大荷物を持たされているのを見て訝しんだ。
●
(アイオーラ部長が満足するような巨大像を作成できるように腕の彫刻職人をスカウトするぞ!)
パーシアの護衛役に志願したダニエルは張り切っていた。日頃鍛えた肉体を生かすチャンスでもある。
「ところでアイオーラ部長、ウィリアム王子のパンツはビキニパンツでよろしかったでしょうか?」
ダニエルの爆弾発言に、パーシアや周りの冒険者達はずるっと滑った。
「へリントンさん、い、いきなりあなたは何をおっしゃっていますの!? ウ、ウィリアム王子の下着とは! 不敬ですわよ!」
パーシアは顔を真っ赤にして怒鳴る。
「あれ? 確か像のポーズは『ガチムチボディでパンツ一丁のウィリアム王子が爽やかな笑顔でサイドチェストをする』じゃなかったでしたっけ? ならパンツのデザインは必須だと思うのですが」
「……なるほど、そういうことでしたのね。へリントンさん。残念ながらその案は学園サイドから却下されてしまいましたのよ。恐らく、王家の権威を疎ましく思う貴族派が圧力をかけてきたのでしょう。セオドア校長あたりが学園長に働きかけたのではないかと私は見ています」
パーシアは溜息を吐いた。実際にはその時の巨大像の企画書を見せられたフォルトゥナ学園長(目が死んでいた)がその場で却下したので、貴族派学園職員の元までは企画書は届いていない。
「そうですか……それは残念ですね」
ダニエルは肩を落とした。が、周りの冒険者達は心の中で「学園グッジョブ」と安堵していた。
「今回の巨大像建造にご協力いただけませんか? 僕も一応、彫刻作成の知識は少々ありまして、貴方の彫刻がとても素晴らしい物であることがわかります。ぜひあなたにもウィリアム巨大像の建築に協力していただきたい」
なにげに自分自身が達人級の彫刻技術を有していたダニエルは、優れた鑑識眼で逸材彫刻家を数名発掘し、パーシアに貢献することができた。
「ぬおお……重い……だが歪み無い心があればこれだけに荷物も重く感じない……はず」
パーシア達のヴェルクリエでの滞在時間が伸びるにつれ、ダニエルの荷物はどんどん増えていった。だが、ダニエルは鍛え抜いた肉体のおかげで、物凄い荷物を持ったままパーシアの集団についていった。
●
(すごい……こんなにがくえんせいの、ぼうけんしゃが……)
ミゼリアは群れを成している学園生冒険者達に感嘆していた。今回ミゼリアは冒険者として生徒会長護衛を引き受け、パーシアに随伴している。
「これが、べるくりえ……げいじゅつの、まち……」
白く美しい街並み。モミの木に吊るされた精巧なジド・ルウ人形。そしてヴェルクリエの名所の1つたる花時計。学術都市に来るのが初めてのミゼリアにとっては見る物全てが新鮮に見えた。
「てきがきたら……はいじょ、します」
ミゼリアは人形の如く寡黙な風情で淡々と護衛をしているが、内心では周囲の全てに興味津々で、静かにテンションが上がっていた。周りの冒険者達がそれに気付くことはなかったが。
「ミゼリアさん、あそこのパンフレットをとってきてくださるかしら?」
「そろそろ歩き疲れてきましたわ。この鞄、持ってて下さる?」
ミゼリアはパーシアさんに従順に付き従い、買出しや鞄持ちも黙々淡々と機械人形のように粛々とこなしていた。見た目は華奢な細腕だが、人造授恵者化された際に肉体が強化されているため、重たい荷物も平然と持てる。護衛というよりも雑用扱いだったが、ミゼリアは一般常識に乏しく、護衛の仕事はこういうものと思い込んでるので不満は皆無だった。
「あのクローゼット、お洒落ですわね……買って帰りましょうか。ミゼリアさん、あれは持てますか?」
「はい」
「はい、じゃありません! 家具は配送業者にご自宅に郵送してもらいましょう!」
さすがに見かねたコルネリウスが突っ込みを入れた。
●
「まるで学園の校外学習ですね。ふふ。在学時代を思い出します。ですが、仕事はきちんと果たすとしましょう」
レティシア・レインフィールはウィリアム像作成に必要な技術を持った職人を捜索していた。彼女が特に重点を置いているのは、台座や、地下室を作れる職人である。
(避難所搭載の台座関係は特に責任をもって見付けなければ……)
レティシアは使命感に燃えていた。ものが避難所なだけに、いい加減な出来栄えでは後輩の命に関わる。もっとも、台座が避難所として使用される日が来ないに越したことはないが……。
レティシアは出発前に学園の図書館で読み漁った文献の情報や、通行人から聞き出した情報、そしてエピュタで今月開催されている芸術関係のコンテストの参加者名簿などを駆使し、スカウト候補に当たりを付けていた。
「パーシア様、あの通りの角に高名な建築家がいらっしゃるようです。一緒に交渉に参りましょう」
「あら、そうでしたの。助かりましたわ、レインフィール先輩。ではご一緒に交渉に参りましょう」
(パーシア様が職人の方にあまりご無理を仰られないよう注意しないと……)
レティシアはパーシアが職人に無茶ぶりをしたり、失礼なことを言わないか秘かに心配していた。あとは職人が「ウィリアム? 誰それ」とかうっかり口を滑らせれば、パーシアが激昂する可能性もあると見ていた。
が、実際にはパーシアはあまりしゃべらず、秘書であるラズリーが冒険者達と共に交渉をしたので、その心配は杞憂に終わった。
「避難所にもなる巨大像の作成依頼は恐らく滅多にない物でございますし、あまり前例が無い作品こそ、職人の皆様の腕の見せ所であり挑戦しがいのあるものなのではないかと存じます。ドワーフ王国の職人の皆様との共同作業も良い経験になるかと」
「ふむ。よかろう。アンタの言う通り、滅多にない大仕事みたいだしな。儂らの匠の業をリーンエス王国の連中にも見せてやろう。冒険者ウィルはうちの国でも有名だしな」
レティシアの言葉に建築家は頷いた。最後の言葉にはパーシアもニッコリだ。ウィリアムは戦士として知る人ぞ知る有名人なため、他国でもそれなりに尊敬されているらしい。
(ふう。ここもうまくいきましたね……)
店を出てからハンカチで汗を拭うレティシア。ラズリーはレティシアの思惑に気付いてたのか、ぺこりと小さくレティシアにお辞儀をしてきた。
●
ジュスト・ヴェルジーとローザリカ・L・ディオールはパーシアの護衛チームの一員となっていた。割と変人であるパーシアだが、生徒会役員であるジュストとローザリカは比較的パーシアと一緒に行動する機会が多い。二人はパーシアの行動を予測し、場合によっては軌道修正を行うべく、列の後方にいた。
(ジュストと共に行動を、と思っていたが……我らが生徒会長殿が変なことをしないかも気に掛かるため同行しよう)
ローザリカはジュストとのデートプランをうっちゃり、パーシアの護衛役を務めることにした。なぜならば、パーシアが生徒会室に等身大ウィリアム超合金像を置こうとしているという、不穏な噂をキャッチしたからである。とはいえ、ヴェルクリエまでやってきてパーシアの見張りだけに留まるつもりはない。ちゃんと本来の職人スカウトの仕事もこなすつもりであった。
(リベラ商会仕込みの商業知識と交渉術、職人という技術の塊を買い上げることこそ僕の領分だ)
ジュストは事前にヴェルクリエで注目を集めている彫刻職人をピックアップしていた。
「あとは……人柄だな。チームでの作業だけど、職人は気難しい人が多そうだから、あまりに協調性がない人は避けたいな」
ジュストはスカウトに際し、実際に職人の人となりを見て判断することにした。
「おお、ねえちゃんたちべっぴんさんやのう! 儂の作品じっくり見ていってくれや!」
(女性陣の顔と胸元ばかり見ている……学園で問題を起こされても困るし、この人は不採用だな)
「いらっしゃいませ。どうぞごゆるりと」
(紳士的な人だ。商品のセンスもいい。この人はスカウトしたいな。ロゼ、よろしく)
「素晴らしい品々だな。その腕を見込んで、貴殿にしか成し得ない仕事を頼みたい」
ジュストとアイコンタクトを取ったローザリカは、職人の勧誘を始めた。
●
「!? ディオールさんは等身大ウィリアム像を生徒会室に置くなと言うのですか!?」
「ポスターですら気が散って仕方ないのに等身大の像? 実現させてたまるかそんなもの!」
ローザリカはパーシアと口論していた。ローザリカは等身大ウィリアム像が生徒会室に置かれることに断固反対の立場である。というか、諸手を上げて歓迎するような役員はパーシアを除いて誰もいないだろう。邪魔だし。
「此方の身になって考えてもみて欲しい。例えばそう、僕が等身大ジュスト像を自室に置いていたらどう思う!」
「それは、ウザ……いえ、微笑ましいですわね。ご自宅のお部屋に置かれる分には、私は生暖かく見守りますが……」
「なんだその慈しみに満ちた目は!? そうではなく……」
ヒートアップするローザリカ。その時、二人のやり取りを見守っていたジュストがそっと背後からローザリカへと近づいてきた。
(早めに仕事を終わらせてデートでもと思って頑張っていたけれど、ロゼがやけに会長に絡んで自身は放置されているせいで少し複雑というか、寂しいというか)
ローザリカをパーシアに取られて寂しさを持て余していたジュストは、自分の名前が出たタイミングでふと悪戯を思いついてしまった。
「……そろそろ俺の相手もして欲しいんだけれど?」
ジュストはローザリカの耳元で囁いた。
「……!ッ」
ローザリカはばっと耳を押さえ赤く茹った顔で犯人を振り返る。そこには、拗ねた様子のジュストが立っていた。
(……拗ねた様子も可愛いなんて、気の迷いがすぎるかな)
ローザリカはジュストの表情を見て、そんな風に思うのだった。
●
「俺はヴェルクリエやな、ドワーフ王国で竜人がうろついとったら最悪殺し合いになりかねんし」
サイラスはヴェルクリエ行きを選択した。エピュタは邪竜の侵攻(直接手を下したのはコボルトなのだが)で壊滅した街だ。元々ドワーフ王国では竜人の風当たりが大陸で最悪ということもあり、この選択は妥当だろう。
「知り合いが生徒会役員で大掛かりなものに関わるしなぁ……さて、どんな職人を探すか。像に柔らかくてバリ出易く、溶接キツい奴か」
黄金像はパーツごとに鋳造し、材料は金属。大きさは10メートル。それらの条件を勘案し、サイラスは実現するにはどんな職人に声をかけるべきか、頭をひねる。
「実際に組み立てるのはリーンエス王国になるやろうし……まあ『腕が良い』以上の『人間やな』……熟練者ほど交渉は大変になるやろうが、わざわざ差別されそうな種族を送り込むほど冷血ではないつもりやし」
サイラスは自身のスカウト方針をそう決め、ヴェルクリエの街を彷徨い始めた。
●
(お、おい、いつの間にうぃりあむ王子サマの巨大像建てる事になってる? 俺ぁ、聞いてねぇぞ? は、はは……。お偉いさんの考える事が、ちいっとわかんねぇ……)
パンクリアース学園の校庭にそびえ立つウィリアム王子の巨大像を想像し、パヴェル・A・サムルガチェフは困惑していた。とはいえ、ヴェルクリエで仕事ができるのは悪くない。パヴェルは友人のスー・ルーと共に依頼に申し込み、旅支度をした。
「ま、用事はさくっと終わらせて、スーとの観光を楽しもうか」
筋トレの研究施設、合唱団、行きつけの飯屋。何度かギルドの仕事でヴェルクリエを訪れたことのあるパヴェルには知り合いはそれなりにいた。彫像関係の職人とは少々縁遠い気はするが、地元の人なら、芸術関係のイベントの開催場所を知っている人がいてもおかしくはない。
「俺は冒険者活動に必要な店には訪れたことがあるが、街自体にはそれ程詳しくない。パヴェル、お前が案内してくれ」
「ああ、了解だぁ」
スー・ルーはパヴェルと共にウィリアム黄金巨大像の製造の依頼を受けた身ではあるがウィリアム王子についてはよく知らなかった。せいぜい「ウィリアム王子の事はよく知らないがでかい像が立つぐらいの奴だからかなり強いんだろうな」程度の認識であった(実際、ウィリアムは大陸最強クラスのウォーリアだと言われており、その推測は当たっていた)。
「あそこに公園には公衆トイレがある。あそこのはすげぇぞぉ。便器に紋具が仕込んであって、ケツを水で綺麗にしてくれるんだぁ」
「ほう、そいつは凄いな。学術都市というだけのことはある……」
「あっちに通りにはめちゃくちゃでけぇ楽器屋がある。で、だ。楽器屋の裏にはハーフビースト用の化粧品屋があってな。とにかくオイルの種類が多いんだぁ」
「へぇ、流石にこうでかい街だと色んな店があんだな」
(これだけの規模の街だ。武器屋や防具屋も探せばあるんだろうな。そろそろ狩り用のナイフを新調したいんだが……先に仕事をしよう)
「おや、久しぶりだね、パヴェルさん。北区のあたりでバザーをやってるからそこで聞いてみたらどうだい。アクセサリー商人とか彫刻家の露店も出てるはずだから」
「大将、ありがとなぁ。晩飯の時間にまた来るぞぉ」
「おう、待ってるよ」
行きつけのレストランの店主から有力な情報を聞くことに成功したパヴェルは礼を言い、外で待っていたスーと合流した。
「スー、待たせたなぁ」
「問題ないさ。旧交は十分に暖められたか?」
「ああ。あそこのオムライスはすげぇ美味いんだ。後でまた一緒に来よう」
「そうか。それは楽しみだ」
……。
無事に職人の勧誘に成功した後、二人が街をゆっくり一周した頃には、既に夕日が沈みかけていた。
「今日はお前と一緒で良かった」
「おう、この街の観光案内、うまくできたならよかったなぁ」
「ああ」
スーは街の色々な場所が知れた事が嬉しい、というよりは彼がこの街で過ごして感じた事を共有してくれたという事が嬉しかったのだが、うまく言葉にはできなかった。
●
「ウィリアム王子の巨大像、いよいよ建設に向けて動き出すんですね! より良い像の為に頑張りましょう! どうにかしてラミアス先生の像も紛れ込ませたいですね!」
ヴェルクリエにやってきたシェルリア・リトヴァールは天に向かって拳を突き出した。ラミアス先生に直々に叱られてもドゥジン常習犯は懲りてない様子だ。
「でもどうやって職人さんを探しましょう。街を歩いてみて、出来の良い品物を見つけて作者を聞いてみればいいんですかね……?」
シェルリアは貴族令嬢なので世間知らずであった。
「お祭りをやっているシーズンですから、職人はそこら中にいるのでは? 有名な観光地ですし。適当にお店の人を捕まえて『至高の芸術(注:ウィリアム像のこと)に興味はありませんか?』と尋ねればよろしいのです。ウィリアム王子の巨大像は王国のみならず大陸の歴史に残る建造物となるでしょうから、名誉を求める職人であれば、きっと一も二もなく頷くはずですわ」
「あ、なるほどです!」
パーシアも特にツテがあってきたわけではなく、御都合主義のプランしか持っていない様子だったが、彼女の言う通り、今は聖霊節シーズン。そこいらじゅうに芸術的な雰囲気の屋台がたくさん出ていた。確かに職人探しにはさほど困らなそうである。引き受けてくれるかどうかはともかく。
「ハッ、あれは、もしや、ドゥジンシ屋さんでは!?」
しばらくパーシアに同行していたシェルリアだったが、よく訓練されたドゥジン教徒であるシェルリアは、ドゥジンシ独特のインクと紙の香りをかぎ分けていた。
「すみません、ちょっとあそこのお店を見て来ます! 先に行ってて下さい!」
シェルリアはシーフもかくやという超ダッシュでドゥジンの屋台に突っ込んでいった。
●恒例のアレ~あり日の帝国
「エフレムよ、この度の蛮族討伐、大儀であった。さすがは大陸に名を轟かせし最強の召喚士よ」
「お褒めに預かり、ありがたき幸せです、皇帝閣下」
「褒美を取らす。そなたの望むものをなんでも与えよう。さあ、申してみるがよい」
「何でも、よろしいのでしょうか」
「うむ、土地でも宝でも、女でも構わんぞ。余の妻はやらんがな、ハハハハ」
「では陛下。拙の望みをお聞きいただきたい」
「申してみよ」
エフレムは息を吸い込み、皇帝を真っすぐに見てこう口にした。
「お義父さん、レイウェスト殿下を拙に下さい」
……。
「ならぬ、ならぬぞ、エフレム! よりにもよって余の息子を妻に娶ろうとは! 血迷ったか!?」
わなわなと震えだすヨゼフ皇帝。
「なぜ認めてくれないのですか、ヨゼフ皇帝! 拙がヒトではなくリザードマンだからですか? たとえ『殻付き』であろうとも、拙は殿下との子を立派に育ててみせます! だからどうかお義父さん!」
「そういう問題ではない! あとお義父さん言うでない!」
●
「こ、これは……エフレム×レイ本……! なるほど、ヴェルクリエではこのような解釈が……! お友達のお土産に3冊ほど買って帰りましょう! はっ! こっちの表紙に描かれているロリロリメイドさんはもしやウィーズル先生では!? そして踏まれて喜んでいるのは恐らくウィリアム王子……! これは幻の下克上本!? あっ、でもこれ、男性向けですね。中身は過激なのかも……ど、どうしましょう!?」
シェルリアは頬を染めた。
……。
「シェルリアさんも何かいいものが買えまして?」
「はい! まさかの掘り出しものでした! でもせっかく色々回るんですし、もっとお土産買いたいです! あと美味しい物食べ歩き!」
学術都市の深淵を覗いたシェルリアはゴキゲンだった。
●最終章 スカウトの成果
「なんか……高くね?」
冒険者達がスカウトした優秀な職人達で構成されたドリームチームから提出された黄金像の見積もりを見て、パーシアは訝しんだ。職人達の得意分野の傾向から結局ベースは真鍮製になったのだが、パーシアの予想よりも大幅にコストは高騰していた。理由としてはサイズの割に納期が春まで短いので特急料金になっていることと、ナハシュとヨル……そして二人に職人を紹介したシグルランの肝煎りギミックである、剣を持っている方の腕が動く機能のせいである。その高騰ぶりたるや、リディリディのヴェルクリエでの食費やパーシアのお土産での散財が可愛く見えるほどだった。
「言うまでもなく、学園からもらえる予算の額はオーバーしました。パーシア様、お父様に相談するしかありませんね」
秘書のラズリーは淡々と告げる。その声に同情の色は微塵もない。
(旅先でも冒険者達にかなり甘やかされていましたし……パーシア様はもう少し苦労をされるべきです)
「アイオーラ領の税金3倍ぐらいにすればなんとかならねえかな……お父様に頼んでみるか……」
無論、パーシアのおねだりは一蹴され、パーシアは父から個人名義の多額の借金を背負うことになった。こうして、聖霊節の終わり頃に黄金像の建築は開始され、パーシアは借金の返済方法について煩悶することになったのだった。
「やほやほ~! 冒険者諸君、おいでませ、芸術の都エピュタへ! 歓迎するよん♪」
なぜかエピュタをほっつき歩いていたドワーフ王、シグルランは門の前で朗らかに冒険者達に挨拶をした。彼女がドワーフ王であることを知っているかはさておき、シグルランの顔を知る冒険者は多い。冒険者本部のあるリブラネスタの職人通りや飲み屋に出没するからだ。
「あれ、シグちゃん?」
「貴殿はドワーフの王シグルラン! なぜここに?」
ヴィルヘルミナとベルク・オスマットは目を丸くする。他の冒険者達も幽霊を見たような顔だ。
「んー、査察ってヤツ? ほら、アタシこの国の王様だしさ」
とりあえずシグルランはヴィルヘルミナと再会のハイタッチを交わしつつ、ウインクした。
「君達こそどしたん? いっぱい遊びに来てるみたいだけど。もしかして邪竜でも退治しに来てくれた?」
「やあ、久しぶり。今回は別の仕事でね。パンクリアース学園にウィリアム王子の巨大像を作ることになったんだ」
柔和な微笑みを浮かべ、シルヴィア・A・カペルもシグルランとハイタッチした。ぱんぱんぱんぱん。顔見知りの冒険者もそうでない冒険者にもとりあえずシグルランにハイタッチされ、エピュタの西門はシグルラン握手会状態だ。
「ヤバ! あの公約マジになったってコト!? ウケる! アタシのも作っちゃおうかなー。50メートルぐらいのやつ! 公費で……」
シグルランが酔っ払いらしいでかい声でそう口にすると、立ち聞きしていたドワーフ達がたちまち大ブーイングを始めた。
「圧政者は帰れー!」
「下らねえこと言ってねえで、帰って仕事しろー!」
「てめえが借金して作れや、シグルラン!」
「あちゃー、やっぱしダメかー」
どこかフレンドリーな罵声を浴びせられ、シグルランは頭を掻いた。その時、真面目そうなドワーフがシグルランに声をかける。
「おい王。友と騒ぐのもいいが、そろそろうちの太守との面会時間じゃねえか?」
「あ、いけね。忘れてた。ま、職人探しなら好きなだけしていってよ。アタシらドワーフは腕は世界一だからさ。アタシも明日の夕方ぐらいまではこの街にいるから、時間が空いたらアタシとも遊ぼ♪ じゃ、またあとでねー」
シグルランは空になった酒瓶をひょいと上げ、エピュタの奥へと引っ込んでいった。
●
公務が終わって暇になっていたシグルランを見つけたシルヴィアは、シグルランと一緒に街をぶらぶらしていた。
「此処も順調に復興しているようで何よりだ」
「でしょ? すごくね? 国中の職人が頑張ってくれたんだよ」
「私の故郷も芸術にはうるさい場所でね。音楽や演劇、絵画がメインだから、この街とは少々趣きが異なるけど」
「ふむふむ」
「せっかくだ。君にもこれを渡しておこう。私の故郷の地酒だよ。ドワーフの口にも合うといいな」
「マジか! あ、これワインじゃん! あざす!」
シルヴィアからお土産をもらったシグルランはゴキゲンになった。シルヴィアはシグルランにもウィリアム巨大像の企画書を見てもらい、二人で歩きながら巨大像建造に必要そうな職人について相談に乗って貰った。
「今度、私の故郷のお酒でもどうかな? 今年も良いワインが出来たんだよ」
「マジ? 次いつ王国行けんだろ。また学園とか呼ばれたら寄りたいな~」
「ふふ。ぜひ来てくれ。賓客として歓迎しよう」
「うし! でもアタシはお酒にはちょっとうるさいぞ?」
「安心してくれ。私の故郷の酒はリーンエス王国でも一級品だと自負している」
●
「ほぉ……シグルランの紹介かい」
シグルランから優秀な彫像や装飾品の職人達を紹介してもらったシルヴィアは職人の店を訪れていた。
「リーンエス王都のパンクリアース学園に立てる像だ。彫像技術は学園生、ひいては王国に宣伝されるだろう。何より、後世まで伝わっていく像を作る一大事業。職人として腕が鳴らないかい?」
「いいだろう。この腕、貸してやろうじゃねえか」
●
「シグルラン殿。これはヴェラワインという都市同盟産の赤ワインだ。手土産である」
「え、マジ!? いいの、サンキュー! ベルっち!」
シグルランのベルクへの好感度がぐぐーんと上がった!
(ドワーフ王国ということで賄賂を用意しておいて正解だったな)
シグルランと共に適当な酒場に入ったベルクは、彼女と職人探しの相談をしていた。
(ウィリアム殿下への嫌がらせ、っと行きたいがさすがにこの段階で嫌がらせを仕込むのはやりすぎだからな、真面目に探すとしよう)
ウィリアムへの意趣返しはもうそれなりにやって留飲は下がったので、ベルクは今回は真面目に依頼人の要望をこなしている。前回の座談会とは異なり、旅費やお賃金も出ていることだし。
「我は木像職人を探しているのだ。シグルラン殿は優秀な職人に心あたりがあれば教えてほしい」
ベルクは自分で調べてリストアップした木像職人のリストをシグルランに見せた。
「え、木像? 金属で作るんじゃないの?」
「そうなのだが、モックアップ用の像も必要かと思ってな。我はそちらを探しているのだ」
「にゃるほど」
シグルランはベルクから受け取ったリストをしげしげと眺める。このリストはベルクがシグルランと合流する前に自ら職人の工房を訪れて調べあげた優秀そうな職人のリストである。
「ふむ……このリストの中だとアタシのイチオシはユグドラさんかなー。腕は確かだし、洒落も通じるから頼んだらイケると思うよん」
「そうか! 良いことを教えてもらった。その御仁は有力候補だな」
ベルクは組合の評価リストと自身の評価リスト、シグルランの評価リストの3点を作成し、依頼人のパーシアに提出した。
●
「シグルラン王、お会いできて光栄だ。俺の名はシャドウという」
「おっす、シャドウ! アンタは初めましてだね。アタシは有名人だから自己紹介はいらない感じ? よろしく!」
街の人々にシグルランの居場所を聞き出したシャドウは腕の立つ職人を紹介してもらうべく、シグルランと面会をしていた。
「あんたならギルドにも顔が利くはずだ。どうか、腕の立つ職人を紹介してもらえないか?」
「いいよ。でも一つ条件がある。アタシの質問に答えられたら紹介してあげる」
「ふむ」
まさかの試練だった。ドワーフ王からの問い。戦士としての心構えなどを問われるのだろうか? シャドウが身構えていると、シグルランは意外な問いを発した。
「アタシ、いくつに見える?」
悪戯っぽい表情で笑うシグルラン。
「……」
シャドウは考える。見た所、シグルランの年齢は20前後だ。だが、彼女は人間ではなくドワーフである。
「……人間で言うと20歳前後に見える」
シャドウは正直に答えた。
「あはは、そっか。まあそうだよねー。ちなみにアタシ今年で60才な」
「そうか。ドワーフは長命なのだったな」
「そういうこと。まー酒飲まなきゃエルフ並に長生きするらしいよ? だいたい酒とか食い過ぎで内臓やられてもっと早く死ぬんだけど」
「……そうなのか。それで、職人の紹介はしてもらえるのだろうか?」
「うん、いいよ! 合格! 正直に答えてくれたしね。他の冒険者にも紹介してるから、もし被っちゃったらごめんね」
「構わない。雇い主は同じだしな」
こうしてシグルランの試験(?)を突破したシャドウはシグルランから優秀な職人を紹介してもらえたのだった。
●
ヨル・スレイマンとナハシュはシグルランを口説いていた。と言っても、ナンパではない。ウィリアム巨大像に二人のイチオシ機能であるビーム機能、そして変形ギミックを搭載する為に彼女の知恵を借りたいのだ。
「シグルラン君、ビーム職人に心当たりはないかな?」
「びーむ?」
ヨルの問いにシグルランは首を傾げた。
「そう、ビーム。ウィリアム王子の像の目からこう、ピーッと光線が出るようにしたいんだ」
「ふむふむ。……うーん、灯台みたいな感じってことでいい?
「ああ」
ヨルは頷く。
「あと、ウィリアム巨大像の腕を動かせるようにしたい。剣を持ってる方の手を、ジャキーン、と!」
続いてナハシュは関節稼働についての要望を伝えた。
「なるほど! それめっちゃ面白そうじゃん! なかなかハイレベルな要求だけどさ。10メートルの立像っしょ?」
ちょっと想像してみたシグルランは苦笑する。
「ああ。けどこのままじゃ唯の冒険者ウィルだ。ウィリアムらしさを出さなきゃならねえ。そこで! 光り輝くオーラ的ライト! 目からビーム!!極めつけに剣を構える可動式!! どうだテンション上がるだろうが!」
ヨルとナハシュはシグルランへと、少年のようにキラキラした瞳でウィリアム巨大像への意気込みを語る。
「確かに! 目立ちたがりのウィルっちだしな! うーん、ビームは紋具でなんとかするとして……腕の稼働か……腕と胴体を別々に作って人形みたいな構造にすれば……できなくはないかな?」
「「よっしゃ!」」
シグルランの返答にヨルとナハシュは拳をぐっと握った。いけるぞ、ウィリアム巨大像からビーム! そして腕関節稼働!
「シグルラン。なんとか実現できそうな、腕の良い人を紹介してくれたら嬉しいな。お礼に酒は奢るからさ」
「頼むぜ! 飲み放題でいいからよ!」
「よし、乗った! アタシもアンタ達にウチの国の職人が協力するよう一筆書こう!」
シグルランはタダ酒に釣られ、二人とがしっとシェイクハンドした。
●
「こちらも復興が進んで何よりですね。冬は寒いので備えも必要ですし」
「でしょ? 国中の職人が気合入れて直したんだ」
シグルランを呼び出したヴィルヘルミナはシグルランと一緒に街を歩いていた。シグルランは公務はすでに終え、漫遊モード中である。ヴィルヘルミナも久々の祖国への帰郷なので、せっかくなのでシグルランと一緒に観光することにした。もちろん、職人探しもシグルランに相談しながら、ぼちぼち進めていくつもりだ。
「時間があればまた刀でも一緒に打ちたいものですが」
「お、いいね! 一本打っとく? アタシはまた腕を上げたぜ! こないだ王国に遊びに行ったとき、フォルっちに図書館見せてもらったんだ。鍛冶の資料もあったからさ」
「そういえば、シグちゃんも何度か学園に顔を出していましたね」
二人は屋台で買ったつまみをかじり、世間話をしながら、エピュタの街を歩いていく。
「さて、ウィリアム像というトンチキに興味を持ってくれる職人がどれだけいるやら。むしろ面白いと乗ってくれる方がいればいいですけど。金払いは学園側がどれだけ出すのか良くわかりませんし」
「うーん、面白そうなんだけどねー。アタシは彫刻は専門外だからなー。剣も飾りっしょ?」
「ええ。もちろん。まさか、本物の巨大剣を持たせるわけにもいきませんしね」
……。
ヴィルヘルミナはシグルランと別れた後、残りの蒸留酒の数を確認した。
「さて、頑張りましょうか。といっても、相手がドワーフなら大体はコレで何とかなる気もします」
●
「すごい……。復興、無事に進んでいるみたいでよかったです」
ゲルダ・クラインはエピュタの復興が進んでいることにほっとしていた。ゲルダは昨年マミダ地域の洞窟都市コシュカでの復興を手伝った経験があるため、メルトウォールの侵攻を受けた街の惨状についてはよく知っていたのだ。
「これなら職人探しもうまくいきそうです」
聖霊節の雰囲気に包まれ、活気のあるエピュタの風景に安堵しながらゲルダは仕事に勤しむ。彼女が探そうとしているのは、巨大像の建造に欠かせない彫刻職人だ。商家出身のゲルダは豊富な商業知識を生かし、芸術品の店や露店の店先などに出ている商品や見本を確認し、彫刻の質や価格帯を確認していく。
(このお店の方は腕は確かなようですね……お値段も法外と言うわけではなさそうです……)
「すみません、少しだけお時間をいただけますか?。あ、こちらは手土産です」
ゲルダはこれはと決めた職人に酒とつまみ用の干物を渡し、交渉に入る。
「……なるほど、分かった。俺で良ければ力を貸すぜ。春までに仕上げればいいんだな?」
「ありがとうございます!」
ゲルダの真摯な交渉はドワーフ達の心に響き、優秀な職人達数名の協力を取り付けることができた。
●
海神 江流はエピュタへと出発前にウィリアム巨大像の仕様を確認していた。変形ギミックやビーム搭載の可否など、まだ実現可能か不明な点は幾つかあるが、パーツごとに別々に鋳造することや、ウィリアムのポーズなどの大枠はもう決まっている。江流は像のデータをしっかり頭に入れ、エピュタへと向かった。
「職人を探してるんだ。俺の自作品より上等な物を作れる職人、それと並んで見劣りしない腕前の職人を紹介して貰えないだろうか」
彫金師のギルドに赴いた江流は受付のドワーフに自身の持ち物である指輪を渡した。指輪には紫百合をモチーフとした精巧な彫金が施されている。これは一流の彫金師である江流自身が彫金したものである。
「ほう……これは授恵者の彫金師の仕事か? 相当な腕前だな。これ以上の腕前となると……三人とおらんな。で、一体何を作るつもりだ?」
(二人はいるのか。さすがはドワーフ王国にして、芸術の街と言われるだけはあるね)
最悪自分で名乗りをあげようかと思っていた江流はニヤリとしつつ、ドワーフに頼みたい仕事の内容を告げる。
「リーンエス王国のパンクリアース学園に第二王子の立像を作るってお話があってね。貴族の酔狂と言えばそれまでなんだけれど、乙女の恋心(誇張あり)が絡んでるとなれば、手助けしてやりたくてね。請けてもらえるなら、作品は学園で永く保存されるだろうから、出来栄え次第では永く名を残す事も出来ると思うよ」
「ふむ。大きさは?」
「十メートルの立像。台座もある」
「デカいな。確かにその大きさになると、並の腕前じゃ無理だ。……報酬は十分に貰えるんだろうな?」
「作るのはリーンエス王国の貴族だ。腕に見合った適正価格が貰えると思うよ」
「分かった、その条件なら二人とも引き受けてくれるだろう。住所を教えてやるよ」
「ありがとう」
こうして、彫金師ギルドから優秀な彫金師を紹介してもらった江流は、優秀な彫金師のスカウトに成功したのだった。
●
「結構キレイになったモンだな」
「やっぱりドワーフの技術とガッツは凄い! これは優秀な職人さんが見つかりそう!」
エフィルミアとナキルはエピュタが復興しつつあることに感動していた。二人は以前メルトウォールの侵略からエピュタを守るため、ここで戦ったことがある。あの時はいかにも戦禍の街、といった有様だが、ドワーフ達が相当頑張ったのか、戦いの爪痕は半ばまで消えつつあった。聖霊節を祝える余裕があるほどに。
(エピュタ、あん時すげぇボロボロになっちまったが……あの頃は色々あったな。そして、ミアが居てくれたからオレは道を違えずに済んだ……)
「なあ、ミア?」
「そーですね!」
ナキルが問いかけると、エフィルミアはなぜかキレ気味に返答した。
「……ミア、いきなりなんでそんなに不機嫌なんだよ」
困惑するナキル。表情がころころ変わるのはいつものことだが、これはちょっと理不尽すぎやしないか。
「私まだ怒ってるんだけど?」
ナキルの中ではエピュタで大怪我をしたのは昔話になっていたが、エフィルミアの中では今も陸続きだった。ナキルが大怪我をしたのはエピュタの戦いに限ったことではない。彼はしょっちゅう無茶をして大怪我をする。
(この間大怪我した事なんてケロッと忘れて誘ってきてるけどさ! 無茶して突っ込んだナキルくんが悪いってちゃんと分かってるのかな!?)
ドワーフとエルフは種族レベルであまり仲がよろしくない。エルフであるエフィルミアが交渉する際にはそこをハーフリングである自分がフォローしようと思っていたナキルだったが、肝心のエフィルミアはとても機嫌が悪かった。
(あ、こないだの怪我のせいか)
「……心配掛けて悪かった。以後気を付ける」
「以後気を付けるも何度も聞いたし!」
ぷんすこ怒るエフィルミア。
「新しい生徒会の手伝いだしな、しっかりやろうぜ、ミア」
「むー……」
ナキルの言葉に唇を尖らせるエフィルミア。先代の生徒会長として、後輩の足を引っ張るのは本意ではない。そもそもパーシアを手伝う為にここに来たのだから。エフィルミアはナキルが差し出した手をぐいっと握り返す。怒りがあるが、この白亜の美しい街を一緒に回りたいという欲が勝ったようだ。
「よし、行こうぜ、ミア」
二人が探しているのは宝石職人だった。ウィリアムの瞳や、剣の装飾を担当してもらうピンポイントながらも重要な役割である。
「むむ、ピーンときた! あの人をスカウトしよう!」
びしっとエフィルミアが指を突き付けたのは、宝石細工の露店を営んでいたドワーフの少女だった。普段からお洒落のエフィルミアは、装飾品の類にはかなりうるさい。
「待った、俺が交渉してくるよ、相手はドワーフだしさ。エフィルミアは俺の側にいてくれ」
「分かった」
……。
「ええと……お嬢さん、俺達は優秀な宝石職人を探しています。王国の歴史に残る仕事に挑戦してみませんか?」
エフィルミアと打ち合わせした通りの台詞でドワーフの少女に声をかけるナキル。
「え、私ですか?」
「はい。貴方の宝石がこの街で一番素敵だと思いました」
……。
交渉はうまくいき、二人は優秀な宝石細工職人のスカウトに成功した。
●
「芸術の都エピュタで職人を探してみよう。とは言え、僕以外にもエピュタに行く人はいるだろうし、僕はサポートで動こうかな」
ルーンス・ラグネルは石切り職人や宝石職人、金蔵細工師などの各ギルドへ今回の依頼の概要を伝え、スカウトする職人の人物紹介を依頼することにした。ルーンスのやりたいことは主に採用有力者の素性の裏取りである。
(口だけ上手くても困るけど、喧嘩ばかりされてるといいことにはならないし、今現在ある仕事を放ってくるような職人こそ信用できない……人柄・現在の仕事の状況がどうなのかを照会できるようにしとこう)
「欲を言えば、調整役に向いた職人が欲しいんだけど……そういう人いる?」
ウィリアム巨大黄金像の製作は大人数の職人によるチームプロジェクトだ。さらに、この街のドワーフ達だけでなく、ヴェルクリエの職人とも共同作業になる。ただでさえ職人という人種は個人主義思想が強い人が多い為、チームメンバー間のコミュニケーションを円滑に行えるような調整役は絶対に必要になるはずだ。
ルーンスはついでに、腕のよい仕事をする職人については、巨大像とは関係ない職人(大工など)でも個人的にギルドで紹介状貰って帰った。普段ドワーフ王国に来る機会など、あまりないことだし。
「僕の商会と取引するかどうかはこの場では決めなくとも選択肢は持っておきたいからね、グフフ」
巨大像完成の暁には完成祝いの芸術祭も開催される。ルーンスはちゃっかり自分個人の利益も確保しておくのだった。
●二章 ヴェルクリエ編
「ここがヴェルクリエ……グランスパーダほどではありませんが、美しい街ですわね。さあ、腕のいい職人を探しましょうか」
今期生徒会長パーシアはヴェルクリエにやってきていた。彼女の近くには十名近い冒険者達が周囲を固めている。厳密には全員が護衛というわけではないが、これだけの数の授恵者達に包囲されたパーシアは鉄壁の安全地帯にいると言えるだろう。
「……てわけだ。考えてもらえないか」
パーシアの側では、ペルゼィックが熱心に地元の職人を宣伝していた。
(題材がちとアレだが、ウィリアム巨大黄金像は今後の流れ次第じゃ、大陸の歴史に残る建造物になる可能性もある。なんとしても俺の故郷の職人達にも一枚噛ませてやりてえ。街の商工会の連中からも「仕事取ってこい」と念押しされたしな)
「職人がいても使う道具…たとえば釘一本だって作る奴がいねぇと仕事にはなんねぇだろ? 銅像自体は、銅像の原型を作る職人は正直いねぇ。でも、鋳造なら出来る」
ペルゼィックの故郷は辺境都市群にある工業都市である。彫刻とはあまり縁がないのだが、釘や質の高い工業資材の生産は得意とするところだ。
(商談の代表としてここで簡単に引き下がる訳にはいかねぇ)
「サイズがサイズだしな。職人が一流でも部品の質が悪けりゃ、根本からボッキリ折れねえとも限らねえ。その点、俺の地元の職人の鋳造品なら損はさせねえぜ」
そう言うと、ペルゼィックは自分の愛剣レディングをパーシアに手渡した。パーシアはゆっくりとレディングを鞘から抜く。すると、フルタング(刃の部分が柄の先端まで貫通している構造)仕様のロングソードの刃が姿を現した。
「この剣は街最高の鍛冶師である親父殿と母親が作った剣。柄頭に嵌ってるのは俺の作ったガラスだ。巨大像の本の表紙の装飾には、宝石に負けねぇガラスを出してやる」
「へえ」
パーシアは剣をしげしげと見つめた後剣をペルゼィックに返し、彼の顔をじっと見つめた。
「……」
「正直、私に剣の良し悪しは分からないのですが……貴方が嘘をついていないことは分かりますわ。貴方は故郷の職人に誇りを感じていらっしゃるようですわね。よろしいでしょう。では、ガラスや建築材については、貴方の故郷の商品も見せてもらいましょう」
その後、ペルゼィックの熱心な交渉が功を奏し、ガラスや資材の一部はペルゼィックの故郷で生産されたものが使用されることとなった。
●
「旅費を出してくれるということは、食事代もですよね? ありがとうございます」
ヴェルクリエに着いた日のお昼時のこと。『宇宙の胃袋』リディリディ・トゥラ・イェレミースの言葉にパーシアは戦慄した。
(こ、このエルフは確か……)
その時、パーシアの脳裏に数か月前の記憶が蘇ってきた。そう、あれはちょうど今年の選挙の頃だったか。パーシアは選挙とは全く関係のない別件で、冒険者ギルドに依頼を出していたことがある。
その際、リディリディは飲食店で聞き込み調査を行ったのだが……。ステーキハウスでの聞き込みの際の昼食費を丸々経費として請求してきたのである。さすがに貴族であるパーシアが払えない金額ではなかったが、パーシアは庶民向けの店で食事をした金額とは思えぬその額に面食らった。なお、惜しくも落選してしまったものの、会計職に立候補していただけあり、請求書のフォーマットは無駄に整っていた。
(こいつの食費は馬鹿にならねえ……だが、仮にも貴族であるアタシが経費をセコく値切ってると思われるわけにも……)
「少々お待ち下さいませ」
パーシアは優雅に微笑み、秘書のラズリーに確認する。
「なあ、契約書で食費の扱いってどうしてたっけ」
「『食費支給』と書いてますね。上限の記載はないですよ」
「クソっ! 詰んでるじゃねえか!」
パーシアは天を仰ぐ。今度から冒険者を雇う時には食費に上限を設けようと誓った瞬間である。
「ええ、食費も支給いたしますわ。アイオーラ伯爵家の長女たるもの、庶民の食費を出し渋ったりはいたりません」(次から渋るけど)
「ありがとうございます! それでは遠慮なく、メニューの端から端まで頂きます」
(よし、ちょっと節約しよう。第二演劇部員達のお土産はワンランク落とすか……すまぬ)
もりもり料理を貪るリディリディの隣で、パーシアの瞳は遥か遠いグランスパーダを見つめていた。
「こんな感じの巨大像を作りたいんですけど……」
パーシアの心配をよそに、リディリディは完成イメージ図の絵を見せながら、職人の勧誘に励んでいた。
●
「大きい像ですから、職人さんもパーツなど分担しつつの作業になりますよね。私は装飾が上手な方を探しましょうか」
ウィリアム巨大像は巨大な為、パーツごとに鋳造し、後から組み立てる構造となる予定である。それを考慮し、コルネリウス・アーラは彫金や装飾品の製造が得意な職人を探すことにした。
ところで、コルネリウスはエラトゥーン都市同盟のベールコートで『花鳥園』という花屋を経営している。そこで、コルネリウスは花鳥園に行商が来た際、装飾品を専門とする職人を知らないか聞いておくようお手伝いさんにお願いしておいた。
「……というわけで、都市同盟に腕のいい彫金師さんがいらっしゃるようです。左右対称で同じ装飾品を作ったりする時とかに活躍しそうな方なんですが……どうでしょう、パーシアさん」
「なるほど。優秀な人材が多いに越したことはありません。来年の入学式まであまり時間もありませんし……その方にも声をかけておいて下さい」
「了解です!」
ヴェルクリエではコルネリウスはパーシアの護衛の仕事を中心として活動していた。というよりも、パーシアが割と道楽貴族で、ぽんぽんお土産を買ったり、観光地で遊んだりしていたため、パーシアの遊び相手で忙しかったのだ。
「あら……人込みで前が見えませんわ。どこかに梯子はないかしら」
「とう!」
コルネリウスは溢れるパワーでパーシアを軽々とリフトアップした。
「あら? ありがとうコルネリウスさん。以外と腕力がおありですわね」
「はい、ウォーリアですので!」
下手に筋力アピールをしたのが悪かったのか、コルネリウスはパーシアが買いこんだお土産をたくさん持たされた。副会長&会計コンビにウィリアム等身大彫像の購入が阻止されたのは僥倖だったと言えるだろう。さすがのコルネリウスでも、100キロ超の金属の塊を背負って移動するのは難しい。あと恥ずかしい。
「……思っていたよりも人使いが荒いですけど……『護衛』とは……?」
「え……ごえいって、こういうおしごとじゃ、ないんですか……?」
「荷物持ちになるのは……仕方ないね」
コルネリウスはパシリ仲間のミゼリア・L・ステュクスとダニエル・ヘリントンも大荷物を持たされているのを見て訝しんだ。
●
(アイオーラ部長が満足するような巨大像を作成できるように腕の彫刻職人をスカウトするぞ!)
パーシアの護衛役に志願したダニエルは張り切っていた。日頃鍛えた肉体を生かすチャンスでもある。
「ところでアイオーラ部長、ウィリアム王子のパンツはビキニパンツでよろしかったでしょうか?」
ダニエルの爆弾発言に、パーシアや周りの冒険者達はずるっと滑った。
「へリントンさん、い、いきなりあなたは何をおっしゃっていますの!? ウ、ウィリアム王子の下着とは! 不敬ですわよ!」
パーシアは顔を真っ赤にして怒鳴る。
「あれ? 確か像のポーズは『ガチムチボディでパンツ一丁のウィリアム王子が爽やかな笑顔でサイドチェストをする』じゃなかったでしたっけ? ならパンツのデザインは必須だと思うのですが」
「……なるほど、そういうことでしたのね。へリントンさん。残念ながらその案は学園サイドから却下されてしまいましたのよ。恐らく、王家の権威を疎ましく思う貴族派が圧力をかけてきたのでしょう。セオドア校長あたりが学園長に働きかけたのではないかと私は見ています」
パーシアは溜息を吐いた。実際にはその時の巨大像の企画書を見せられたフォルトゥナ学園長(目が死んでいた)がその場で却下したので、貴族派学園職員の元までは企画書は届いていない。
「そうですか……それは残念ですね」
ダニエルは肩を落とした。が、周りの冒険者達は心の中で「学園グッジョブ」と安堵していた。
「今回の巨大像建造にご協力いただけませんか? 僕も一応、彫刻作成の知識は少々ありまして、貴方の彫刻がとても素晴らしい物であることがわかります。ぜひあなたにもウィリアム巨大像の建築に協力していただきたい」
なにげに自分自身が達人級の彫刻技術を有していたダニエルは、優れた鑑識眼で逸材彫刻家を数名発掘し、パーシアに貢献することができた。
「ぬおお……重い……だが歪み無い心があればこれだけに荷物も重く感じない……はず」
パーシア達のヴェルクリエでの滞在時間が伸びるにつれ、ダニエルの荷物はどんどん増えていった。だが、ダニエルは鍛え抜いた肉体のおかげで、物凄い荷物を持ったままパーシアの集団についていった。
●
(すごい……こんなにがくえんせいの、ぼうけんしゃが……)
ミゼリアは群れを成している学園生冒険者達に感嘆していた。今回ミゼリアは冒険者として生徒会長護衛を引き受け、パーシアに随伴している。
「これが、べるくりえ……げいじゅつの、まち……」
白く美しい街並み。モミの木に吊るされた精巧なジド・ルウ人形。そしてヴェルクリエの名所の1つたる花時計。学術都市に来るのが初めてのミゼリアにとっては見る物全てが新鮮に見えた。
「てきがきたら……はいじょ、します」
ミゼリアは人形の如く寡黙な風情で淡々と護衛をしているが、内心では周囲の全てに興味津々で、静かにテンションが上がっていた。周りの冒険者達がそれに気付くことはなかったが。
「ミゼリアさん、あそこのパンフレットをとってきてくださるかしら?」
「そろそろ歩き疲れてきましたわ。この鞄、持ってて下さる?」
ミゼリアはパーシアさんに従順に付き従い、買出しや鞄持ちも黙々淡々と機械人形のように粛々とこなしていた。見た目は華奢な細腕だが、人造授恵者化された際に肉体が強化されているため、重たい荷物も平然と持てる。護衛というよりも雑用扱いだったが、ミゼリアは一般常識に乏しく、護衛の仕事はこういうものと思い込んでるので不満は皆無だった。
「あのクローゼット、お洒落ですわね……買って帰りましょうか。ミゼリアさん、あれは持てますか?」
「はい」
「はい、じゃありません! 家具は配送業者にご自宅に郵送してもらいましょう!」
さすがに見かねたコルネリウスが突っ込みを入れた。
●
「まるで学園の校外学習ですね。ふふ。在学時代を思い出します。ですが、仕事はきちんと果たすとしましょう」
レティシア・レインフィールはウィリアム像作成に必要な技術を持った職人を捜索していた。彼女が特に重点を置いているのは、台座や、地下室を作れる職人である。
(避難所搭載の台座関係は特に責任をもって見付けなければ……)
レティシアは使命感に燃えていた。ものが避難所なだけに、いい加減な出来栄えでは後輩の命に関わる。もっとも、台座が避難所として使用される日が来ないに越したことはないが……。
レティシアは出発前に学園の図書館で読み漁った文献の情報や、通行人から聞き出した情報、そしてエピュタで今月開催されている芸術関係のコンテストの参加者名簿などを駆使し、スカウト候補に当たりを付けていた。
「パーシア様、あの通りの角に高名な建築家がいらっしゃるようです。一緒に交渉に参りましょう」
「あら、そうでしたの。助かりましたわ、レインフィール先輩。ではご一緒に交渉に参りましょう」
(パーシア様が職人の方にあまりご無理を仰られないよう注意しないと……)
レティシアはパーシアが職人に無茶ぶりをしたり、失礼なことを言わないか秘かに心配していた。あとは職人が「ウィリアム? 誰それ」とかうっかり口を滑らせれば、パーシアが激昂する可能性もあると見ていた。
が、実際にはパーシアはあまりしゃべらず、秘書であるラズリーが冒険者達と共に交渉をしたので、その心配は杞憂に終わった。
「避難所にもなる巨大像の作成依頼は恐らく滅多にない物でございますし、あまり前例が無い作品こそ、職人の皆様の腕の見せ所であり挑戦しがいのあるものなのではないかと存じます。ドワーフ王国の職人の皆様との共同作業も良い経験になるかと」
「ふむ。よかろう。アンタの言う通り、滅多にない大仕事みたいだしな。儂らの匠の業をリーンエス王国の連中にも見せてやろう。冒険者ウィルはうちの国でも有名だしな」
レティシアの言葉に建築家は頷いた。最後の言葉にはパーシアもニッコリだ。ウィリアムは戦士として知る人ぞ知る有名人なため、他国でもそれなりに尊敬されているらしい。
(ふう。ここもうまくいきましたね……)
店を出てからハンカチで汗を拭うレティシア。ラズリーはレティシアの思惑に気付いてたのか、ぺこりと小さくレティシアにお辞儀をしてきた。
●
ジュスト・ヴェルジーとローザリカ・L・ディオールはパーシアの護衛チームの一員となっていた。割と変人であるパーシアだが、生徒会役員であるジュストとローザリカは比較的パーシアと一緒に行動する機会が多い。二人はパーシアの行動を予測し、場合によっては軌道修正を行うべく、列の後方にいた。
(ジュストと共に行動を、と思っていたが……我らが生徒会長殿が変なことをしないかも気に掛かるため同行しよう)
ローザリカはジュストとのデートプランをうっちゃり、パーシアの護衛役を務めることにした。なぜならば、パーシアが生徒会室に等身大ウィリアム超合金像を置こうとしているという、不穏な噂をキャッチしたからである。とはいえ、ヴェルクリエまでやってきてパーシアの見張りだけに留まるつもりはない。ちゃんと本来の職人スカウトの仕事もこなすつもりであった。
(リベラ商会仕込みの商業知識と交渉術、職人という技術の塊を買い上げることこそ僕の領分だ)
ジュストは事前にヴェルクリエで注目を集めている彫刻職人をピックアップしていた。
「あとは……人柄だな。チームでの作業だけど、職人は気難しい人が多そうだから、あまりに協調性がない人は避けたいな」
ジュストはスカウトに際し、実際に職人の人となりを見て判断することにした。
「おお、ねえちゃんたちべっぴんさんやのう! 儂の作品じっくり見ていってくれや!」
(女性陣の顔と胸元ばかり見ている……学園で問題を起こされても困るし、この人は不採用だな)
「いらっしゃいませ。どうぞごゆるりと」
(紳士的な人だ。商品のセンスもいい。この人はスカウトしたいな。ロゼ、よろしく)
「素晴らしい品々だな。その腕を見込んで、貴殿にしか成し得ない仕事を頼みたい」
ジュストとアイコンタクトを取ったローザリカは、職人の勧誘を始めた。
●
「!? ディオールさんは等身大ウィリアム像を生徒会室に置くなと言うのですか!?」
「ポスターですら気が散って仕方ないのに等身大の像? 実現させてたまるかそんなもの!」
ローザリカはパーシアと口論していた。ローザリカは等身大ウィリアム像が生徒会室に置かれることに断固反対の立場である。というか、諸手を上げて歓迎するような役員はパーシアを除いて誰もいないだろう。邪魔だし。
「此方の身になって考えてもみて欲しい。例えばそう、僕が等身大ジュスト像を自室に置いていたらどう思う!」
「それは、ウザ……いえ、微笑ましいですわね。ご自宅のお部屋に置かれる分には、私は生暖かく見守りますが……」
「なんだその慈しみに満ちた目は!? そうではなく……」
ヒートアップするローザリカ。その時、二人のやり取りを見守っていたジュストがそっと背後からローザリカへと近づいてきた。
(早めに仕事を終わらせてデートでもと思って頑張っていたけれど、ロゼがやけに会長に絡んで自身は放置されているせいで少し複雑というか、寂しいというか)
ローザリカをパーシアに取られて寂しさを持て余していたジュストは、自分の名前が出たタイミングでふと悪戯を思いついてしまった。
「……そろそろ俺の相手もして欲しいんだけれど?」
ジュストはローザリカの耳元で囁いた。
「……!ッ」
ローザリカはばっと耳を押さえ赤く茹った顔で犯人を振り返る。そこには、拗ねた様子のジュストが立っていた。
(……拗ねた様子も可愛いなんて、気の迷いがすぎるかな)
ローザリカはジュストの表情を見て、そんな風に思うのだった。
●
「俺はヴェルクリエやな、ドワーフ王国で竜人がうろついとったら最悪殺し合いになりかねんし」
サイラスはヴェルクリエ行きを選択した。エピュタは邪竜の侵攻(直接手を下したのはコボルトなのだが)で壊滅した街だ。元々ドワーフ王国では竜人の風当たりが大陸で最悪ということもあり、この選択は妥当だろう。
「知り合いが生徒会役員で大掛かりなものに関わるしなぁ……さて、どんな職人を探すか。像に柔らかくてバリ出易く、溶接キツい奴か」
黄金像はパーツごとに鋳造し、材料は金属。大きさは10メートル。それらの条件を勘案し、サイラスは実現するにはどんな職人に声をかけるべきか、頭をひねる。
「実際に組み立てるのはリーンエス王国になるやろうし……まあ『腕が良い』以上の『人間やな』……熟練者ほど交渉は大変になるやろうが、わざわざ差別されそうな種族を送り込むほど冷血ではないつもりやし」
サイラスは自身のスカウト方針をそう決め、ヴェルクリエの街を彷徨い始めた。
●
(お、おい、いつの間にうぃりあむ王子サマの巨大像建てる事になってる? 俺ぁ、聞いてねぇぞ? は、はは……。お偉いさんの考える事が、ちいっとわかんねぇ……)
パンクリアース学園の校庭にそびえ立つウィリアム王子の巨大像を想像し、パヴェル・A・サムルガチェフは困惑していた。とはいえ、ヴェルクリエで仕事ができるのは悪くない。パヴェルは友人のスー・ルーと共に依頼に申し込み、旅支度をした。
「ま、用事はさくっと終わらせて、スーとの観光を楽しもうか」
筋トレの研究施設、合唱団、行きつけの飯屋。何度かギルドの仕事でヴェルクリエを訪れたことのあるパヴェルには知り合いはそれなりにいた。彫像関係の職人とは少々縁遠い気はするが、地元の人なら、芸術関係のイベントの開催場所を知っている人がいてもおかしくはない。
「俺は冒険者活動に必要な店には訪れたことがあるが、街自体にはそれ程詳しくない。パヴェル、お前が案内してくれ」
「ああ、了解だぁ」
スー・ルーはパヴェルと共にウィリアム黄金巨大像の製造の依頼を受けた身ではあるがウィリアム王子についてはよく知らなかった。せいぜい「ウィリアム王子の事はよく知らないがでかい像が立つぐらいの奴だからかなり強いんだろうな」程度の認識であった(実際、ウィリアムは大陸最強クラスのウォーリアだと言われており、その推測は当たっていた)。
「あそこに公園には公衆トイレがある。あそこのはすげぇぞぉ。便器に紋具が仕込んであって、ケツを水で綺麗にしてくれるんだぁ」
「ほう、そいつは凄いな。学術都市というだけのことはある……」
「あっちに通りにはめちゃくちゃでけぇ楽器屋がある。で、だ。楽器屋の裏にはハーフビースト用の化粧品屋があってな。とにかくオイルの種類が多いんだぁ」
「へぇ、流石にこうでかい街だと色んな店があんだな」
(これだけの規模の街だ。武器屋や防具屋も探せばあるんだろうな。そろそろ狩り用のナイフを新調したいんだが……先に仕事をしよう)
「おや、久しぶりだね、パヴェルさん。北区のあたりでバザーをやってるからそこで聞いてみたらどうだい。アクセサリー商人とか彫刻家の露店も出てるはずだから」
「大将、ありがとなぁ。晩飯の時間にまた来るぞぉ」
「おう、待ってるよ」
行きつけのレストランの店主から有力な情報を聞くことに成功したパヴェルは礼を言い、外で待っていたスーと合流した。
「スー、待たせたなぁ」
「問題ないさ。旧交は十分に暖められたか?」
「ああ。あそこのオムライスはすげぇ美味いんだ。後でまた一緒に来よう」
「そうか。それは楽しみだ」
……。
無事に職人の勧誘に成功した後、二人が街をゆっくり一周した頃には、既に夕日が沈みかけていた。
「今日はお前と一緒で良かった」
「おう、この街の観光案内、うまくできたならよかったなぁ」
「ああ」
スーは街の色々な場所が知れた事が嬉しい、というよりは彼がこの街で過ごして感じた事を共有してくれたという事が嬉しかったのだが、うまく言葉にはできなかった。
●
「ウィリアム王子の巨大像、いよいよ建設に向けて動き出すんですね! より良い像の為に頑張りましょう! どうにかしてラミアス先生の像も紛れ込ませたいですね!」
ヴェルクリエにやってきたシェルリア・リトヴァールは天に向かって拳を突き出した。ラミアス先生に直々に叱られてもドゥジン常習犯は懲りてない様子だ。
「でもどうやって職人さんを探しましょう。街を歩いてみて、出来の良い品物を見つけて作者を聞いてみればいいんですかね……?」
シェルリアは貴族令嬢なので世間知らずであった。
「お祭りをやっているシーズンですから、職人はそこら中にいるのでは? 有名な観光地ですし。適当にお店の人を捕まえて『至高の芸術(注:ウィリアム像のこと)に興味はありませんか?』と尋ねればよろしいのです。ウィリアム王子の巨大像は王国のみならず大陸の歴史に残る建造物となるでしょうから、名誉を求める職人であれば、きっと一も二もなく頷くはずですわ」
「あ、なるほどです!」
パーシアも特にツテがあってきたわけではなく、御都合主義のプランしか持っていない様子だったが、彼女の言う通り、今は聖霊節シーズン。そこいらじゅうに芸術的な雰囲気の屋台がたくさん出ていた。確かに職人探しにはさほど困らなそうである。引き受けてくれるかどうかはともかく。
「ハッ、あれは、もしや、ドゥジンシ屋さんでは!?」
しばらくパーシアに同行していたシェルリアだったが、よく訓練されたドゥジン教徒であるシェルリアは、ドゥジンシ独特のインクと紙の香りをかぎ分けていた。
「すみません、ちょっとあそこのお店を見て来ます! 先に行ってて下さい!」
シェルリアはシーフもかくやという超ダッシュでドゥジンの屋台に突っ込んでいった。
●恒例のアレ~あり日の帝国
「エフレムよ、この度の蛮族討伐、大儀であった。さすがは大陸に名を轟かせし最強の召喚士よ」
「お褒めに預かり、ありがたき幸せです、皇帝閣下」
「褒美を取らす。そなたの望むものをなんでも与えよう。さあ、申してみるがよい」
「何でも、よろしいのでしょうか」
「うむ、土地でも宝でも、女でも構わんぞ。余の妻はやらんがな、ハハハハ」
「では陛下。拙の望みをお聞きいただきたい」
「申してみよ」
エフレムは息を吸い込み、皇帝を真っすぐに見てこう口にした。
「お義父さん、レイウェスト殿下を拙に下さい」
……。
「ならぬ、ならぬぞ、エフレム! よりにもよって余の息子を妻に娶ろうとは! 血迷ったか!?」
わなわなと震えだすヨゼフ皇帝。
「なぜ認めてくれないのですか、ヨゼフ皇帝! 拙がヒトではなくリザードマンだからですか? たとえ『殻付き』であろうとも、拙は殿下との子を立派に育ててみせます! だからどうかお義父さん!」
「そういう問題ではない! あとお義父さん言うでない!」
●
「こ、これは……エフレム×レイ本……! なるほど、ヴェルクリエではこのような解釈が……! お友達のお土産に3冊ほど買って帰りましょう! はっ! こっちの表紙に描かれているロリロリメイドさんはもしやウィーズル先生では!? そして踏まれて喜んでいるのは恐らくウィリアム王子……! これは幻の下克上本!? あっ、でもこれ、男性向けですね。中身は過激なのかも……ど、どうしましょう!?」
シェルリアは頬を染めた。
……。
「シェルリアさんも何かいいものが買えまして?」
「はい! まさかの掘り出しものでした! でもせっかく色々回るんですし、もっとお土産買いたいです! あと美味しい物食べ歩き!」
学術都市の深淵を覗いたシェルリアはゴキゲンだった。
●最終章 スカウトの成果
「なんか……高くね?」
冒険者達がスカウトした優秀な職人達で構成されたドリームチームから提出された黄金像の見積もりを見て、パーシアは訝しんだ。職人達の得意分野の傾向から結局ベースは真鍮製になったのだが、パーシアの予想よりも大幅にコストは高騰していた。理由としてはサイズの割に納期が春まで短いので特急料金になっていることと、ナハシュとヨル……そして二人に職人を紹介したシグルランの肝煎りギミックである、剣を持っている方の腕が動く機能のせいである。その高騰ぶりたるや、リディリディのヴェルクリエでの食費やパーシアのお土産での散財が可愛く見えるほどだった。
「言うまでもなく、学園からもらえる予算の額はオーバーしました。パーシア様、お父様に相談するしかありませんね」
秘書のラズリーは淡々と告げる。その声に同情の色は微塵もない。
(旅先でも冒険者達にかなり甘やかされていましたし……パーシア様はもう少し苦労をされるべきです)
「アイオーラ領の税金3倍ぐらいにすればなんとかならねえかな……お父様に頼んでみるか……」
無論、パーシアのおねだりは一蹴され、パーシアは父から個人名義の多額の借金を背負うことになった。こうして、聖霊節の終わり頃に黄金像の建築は開始され、パーシアは借金の返済方法について煩悶することになったのだった。
マスターコメント
お疲れ様でした。無事に職人を多数スカウトできましたので、結果は大成功とさせていただきます。予算高騰したけど腕が動くなら仕方ないですね。多分ウィリアム王子も動いた方が喜ぶでしょう。
次回は1月中にパーシアの小遣い稼ぎの話を挟み、2月にはウィリアム王子が登場するシナリオをリリース予定です。今後ともよろしくお願いします!
イベントシナリオ(50人)普通 報酬:多い23 / 4〜50人
2023年01月04日 13時17分18秒 公開
大成功
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