【帝国】ロモズ、それぞれの未来

革酎

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シナリオID:2304

オープニング

●次なる一歩に向けて
 シルトラース帝国とリーンエス王国の国境に位置する、帝国領山岳集落群カルケルーア・ロモズ。
 ここに本拠を置くロモズ歩兵団はもとはといえば、帝国崩壊時にエスタル~ヴィント間から王国方面に流れてきた難民達が、自らの身を守り、そして帝国奪還という強い意志を具現化する為に民兵集団として発足させたという経緯がある。
 そして、現在。
 既にヴィントは昨秋には奪還が達成され、徐々にではあるが復興も進んでいる。
 ヴェルターゼンやダルトートといった小都市、或いは中都市も次々と人間の手に還され、帝国南東部の版図は再び人類の生活圏の中へと戻りつつあった。
 最後の懸念材料であったエスタルも無事に幽界樹打倒が成り、漸く帝国南東部は、少なくとも都市部や人類の生活圏内では最低限の安全が確保される様になってきたと目されている。
 つまり、ロモズ歩兵団結成当初の目的はそのおおよそに於いて、達成されたといって良い。
 ロモズ歩兵団長リーヴァー・シュランドルはこの状況を鑑み、最早自分がこれ以上ロモズ歩兵団の長に留まる理由は無いと考えた。
 これから先は歩兵団員ひとりひとりが自分自身の考えで、自らの人生の行く末を決めてくれればそれで良い。ロモズ歩兵団長による指導は、既に無用の長物――リーヴァーは、その様に考えていた。

 カルケルーア・ロモズ南集落に位置する、ロモズ歩兵団事務棟。
 その日、リーヴァーはひとりの客人を団長専用執務室に迎え入れていた。
 全身黒ずくめのその男、クライス・アクバーは久々にエスタル以外の地に足を運び、帝国崩壊以降の変遷を漸くその肌で感じることが出来た様子であった。
「いらっしゃい、先生……なぁに? そんなにここ、珍しい?」
「いや、大昔に一度だけ、カルケル集落群と呼ばれていた頃に来たことがあったが……随分と様変わりしたものだな」
 黒眼鏡の奥で、微かに笑みを滲ませるクライス。自分自身でもこれ程に穏やかな気分になることが出来たのはいつ以来だろうかと、クライスは内心で自嘲する思いだった。
 クライスがカルケルーア・ロモズを訪れたのは、エスタル及びその近郊出身である歩兵団員に対し、彼らの故郷周辺の最新状況を伝える為である。
 エスタル自体は戦闘の爪痕が激しく、居住可能な状態に戻るまでには今少し時間がかかるだろうが、その周辺から南東方面に向かっては比較的安全と目されており、徐々に帝国民が戻り始めているのだという。であれば、ロモズ歩兵団の中からも地元に戻りたいという声が出てきても、おかしくはない。
 リーヴァーは全ての歩兵団員に、地元へ戻るか、それともここカルケルーア・ロモズを第二の故郷として引き続き留まるかの選択肢を与えたいと考えていた。
 そこでクライスに連絡し、エスタル周辺の近況を説明して貰えないかと頼み込んだ訳である。
 クライスは、ふたつ返事で応諾した。
 そしてリーヴァーはクライスがカルケルーア・ロモズを出る際に、自身もロモズ歩兵団長を辞して、クライスと共にこの地を去ろうとしていた。
 どうやらクライスはしばらくエスタルから離れ、帝国内外を中心としてロスガリア大陸全土を広く見て廻ろうと考えているらしい。リーヴァーとしては恩師クライスに再び師事し、冒険者として更なる高みを目指したいと願っていた。
「後任人事は、考えてあるのか?」
「うん、大体はね……でも最後の選考は、まだこれから」
 今日明日の内に、次期歩兵団長と重兵総長、遊兵総長、弓兵総長の全役職を決めてしまうつもりだと、リーヴァーは静かに語った。

●おっさん共、恋バナに熱狂す
 同じ頃、ロモズ歩兵団専用食堂のロビーでは重兵1番隊長ホレイス・ゼイロノフ、重兵2番隊長アーギス・マーレイ、重兵20番隊長ジェイソン・ジュピター、遊兵1番隊長ディーグ・ディオロン、更にはホムンクルスの新住民オノショタといった面々が、団長付け秘書のカレンディアを交えて、何故か額を突き合わせる格好でひそひそと語り合っていた。
「やっぱアレかな……団長とクライス支部長って、デキてんのかな」
 アーギスの凄まじく野暮なひと言に、しかしその場の全員は誰も彼を諫めようとはせず、寧ろ半数以上が興味津々といった様子で目をギラつかせている。
 これまでただの一度も耳にしたことが無かった、リーヴァー個人の色恋沙汰。それがクライスという恩師出現によって、何故か変な方向に色めき立っているのである。
「結婚するとなれば、矢張り団長職を辞して、他の誰かに職を譲るということになるのだろうか」
 微妙に興奮気味のホレイス。
 しかし他の面々は、間違ってもあんたが次期団長になることはないとつれない反応だった。
 ただひとり、ジェイソンだけは、リーヴァーとクライスがくっつくということは無いんじゃないかと疑問を呈した。
 クライスの亡き妻と娘への愛情は噂にもよく聞こえており、年が倍程も離れているリーヴァーを後妻に迎えるというのは、幾ら何でも無いんじゃないか、というのがジェイソンの意見であった。
「少なくとも、まだちょっと早過ぎるだろう。クライス支部長は奥さんと娘さんの思い出をそう簡単に捨てるとは、とても思えない」
「しかし、悲しみを拭い去るにはひとの温もりや人情、ということもあるしなぁ」
 真っ向から否定するジェイソンに対し、ディーグですら、人間の感情の機微は分からんぞと変な方向に期待めいた意見をぶつけた。
 するとカレンディアが、それまでの意見を180度転換し、ジェイソンの言葉に一票を入れた。
「私も、団長はやっぱり師弟関係のままでクライス支部長についていくんじゃないかと思います。そのぅ……男と女の仲になることを望んで、というのは団長の性格からは少し、考えにくいかな、と」
 尚、オノショタはどちらの側にも賛同せず、棄権した。
 そもそも彼には、色恋沙汰の話はとんと分からないのである。何故この場に自分が招かれたのかも、全く分かっていなかった。
「……っていうかね、いい年したおっさんが恋バナに夢中になる図って、どうなのかなぁ」
 やたらと冷静なオノショタが、物凄く現実的な意見を口にした。その瞬間ホレイスもアーギスもディーグも、はっとした表情で互いの顔を見合わせる。
 どう見ても、恋に恋する乙女とは無関係のむさくるしいおっさんばかりであった。
 この場では唯一の女性であるカレンディアも、リーヴァーの恋愛事情に関しては否定派に転換した。おっさん共が上司の色恋沙汰にはしゃぎたてるのは、見苦しいにも程がある。
「……もう、やめとこうか。情けなくなってきた」
 アーギスのひと言で、ひとまずこの場は解散となった。
 しかし彼らには、まだ仕事が残されている。リーヴァーが去った後のロモズ歩兵団再編事務と、ロモズ歩兵団を去る者達の移送計画の立ち上げを話し合わなければならない。
 リーヴァーが長として在籍するロモズ歩兵団としては、これが最後の仕事になるだろう。

解説

状況:  PCの皆様はロモズ歩兵団の再編作業とカルケルーア・ロモズの今後の生活に向けての支援、更にはエスタル方面へと帰還する歩兵団員の移送計画立案及び実行等に助力して頂きます。  今後、ロモズ歩兵団員は最前線で戦う兵士としてではなく、カルケルーア・ロモズに残って自警団的組織の一員として活動するか、それぞれの故郷に戻り、各地で自警団の主力としてひとり立ちするかの、いずれかの道を歩んでいくことになります。  その為には各歩兵団員に対する聞き取り調査や、故郷への帰還を希望する歩兵団員の数を正確に把握するなどの作業が必要となるでしょう。  またカルケルーア・ロモズを離れる者達へのお別れの宴を催したり、エスタル方面への護送部隊を編成する作業に着手することも出来ます。  カルケルーア・ロモズに残る者達の為に、農作業や土木作業の指導を行ったりしても良いでしょう。  シナリオとしてロモズ歩兵団に関わることが出来るのは、事実上これが最後となります。平和を迎えたロモズ歩兵団の今後に繋がる様な指針を示してあげて下さい。 NPC:  OP本文に登場したNPC以外にも、ロモズ歩兵団に関係するNPCが登場する可能性があります。  最低限、リーヴァー・シュランドルとクライス・アクバーは登場します。  その他、諸々の協力者達も顔を見せるかも知れません。

マスターより

 皆様、こんにちは。  連動『帝国奪還連動 叢とみる夢』での事後シナリオをご提供致します。  今回を以って、ロモズ歩兵団関係のシナリオは最後となります。  発足から一年以上、色々な連動やロモズ歩兵団独自のシナリオに、多くの皆様方にご参加頂きまして誠に感謝の極みです。  今後はロモズ歩兵団が危険を伴う任務に就くシナリオをリリースすることはありませんので、最後まで心残りの無きよう、彼らの為にしてあげられることは全部やり切るつもりでご参加をご検討頂ければ幸いです。  尚、本シナリオでは二代目ロモズ歩兵団長、重兵総長、弓兵総長、遊兵総長の選抜も行われます。  これらの称号は完全にリーヴァー自身の判断による選抜であり、協議等は一切発生しません。その為、称号付与をご希望なされない場合は、その旨をプレイングにお書き添え下さい。  得られた称号は責任を伴うものばかりですが、今後はロモズ歩兵団での戦闘・冒険・調査シナリオはリリースされませんので、最終回を迎えた記念称号的な意味合いのものと思って頂ければ結構です。

リプレイ

●新たな門出を迎える者達の為に
 シルトラース帝国南部山岳の集落群カルケルーア・ロモズ。
 その中でも最も大きい南集落に、ロモズ歩兵団専用食堂がどっしりとした佇まいを構えている。
 この専用食堂の調理場で遊兵9番隊副長エル=バ=ノイアン、同隊長シルヴィア・A・カペル、アルフィー・リッパー、グレイ・ナックラー、そしてサイラスといった面々が、今夜行われる歓送会の為に、それぞれが自慢とする料理の腕を振るっていた。
「それは、何を作っているんだ?」
 グレイと並んで取れたての野菜を桶で洗っていたノイアンは、サイラスが液体を逆流させる生活紋具を仕込んだ塔型の大型食器に、溶かしたチョコレートを流し込んでいるのを、不思議そうに眺めた。
「あー、こりゃあチョコレートファウンテンってやつだな」
「好きな食材にチョコを絡めることが出来るんだ……面白そうだね」
 シルヴィアも興味津々の様子で、ジャガイモの皮を剥く手を止めて覗き込む。今宵の宴はいつもとは違う、少し特別な催しだ。サイラスの一風変わった趣向は皆も喜んでくれるだろう。
「なあ、肉、あるか?」
 直前まで大きな川魚を捌いていたアルフィーが訊いた。ロモズ歩兵団では炊事主任を担当していることもあって、バランスの取れた食材と、量を満足させる食材の双方に思考を巡らせていたアルフィー。
 矢張り腹を膨らませるのは肉に限る。量は、少しでも多い方が良い。
「おー、あるよー」
 サイラスが持参した麻袋から種々様々な肉を取り出す。よくぞこれだけ集めてきたものだと、アルフィーは少し感心した。
(あいつら……上手くやってんのかな)
 大量の肉をサイラスから受け取り、調理台の上へと並べていきながら、アルフィーは重兵11番隊を預かる隊長と副長の顔を、ふと脳裏に思い浮かべた。
 特に隊長の方は、変なところで涙脆い。副長が上手く尻を叩いてくれれば良いのだが。
「どうした? 何か気になることが?」
 ノイアンに問われ、手が止まってしまっていたことに気付いたアルフィー。何でもないとかぶりを振り、サイラスから貰った肉をこれまた手際良く捌いてゆく。
 一方、野菜の仕込みにある程度の目処がついたところで、シルヴィアはエプロンを外した。自身が指揮する遊兵9番隊の面々に対して聞き取り調査を進めなければならない。
「では、また後で」
 調理場を出てゆくシルヴィアを、残った三人が目で追った。
 リーヴァー・シュランドル帝国子爵が団長として過ごす、最後の一日。皆、一見するといつも通りの表情ではあるが、その胸の内では特別な思いを抱いていることだろう。

●与えるつもりが、与えられて
 シルヴィアが向かった先は、同じ南集落内に建つロモズ歩兵団事務棟の大会議室である。
 そこに一部の団員が隊毎にスペースを区切って、集まっている。各隊の隊長や副長が、自隊のメンバーと一対一での面談を執り行い、団員ひとりひとりの今後の希望を聞き出していた。
 大会議室に隣接する小会議室は休憩用スペースとして割り当てられていたが、そこに遊兵2番隊長のトゥーリが何ともいえない表情で姿を見せた。
「どうした? 何か意外なことでもあったか?」
 既に自隊員の聞き取り調査を終えていた重兵10番隊長サマエラ=フォリウムが、木椅子に腰かけたままトゥーリに面を巡らせる。
 トゥーリは腕を組んで低く唸りながら、サマエラの隣りに腰を下ろした。
「ロモズを出るひとって、帝国以外に興味が無いのかな?」
 曰く、トゥーリは歩兵団を出る意思を持つ者に対してリーンエス王国の北方辺境伯や西方辺境伯、或いは征竜の巫女への紹介状を書いてやると申し出たのだが、誰も応じようとしなかったらしい。
 それはそうだろう、とサマエラは苦笑を返した。
「歩兵団員は皆、帝国民だ。折角帰還の目処がある故郷を態々蹴ってまで、かつての仮想敵国に住みたいとは思わないだろう。もっといえば、征竜は帝国政府が宿敵としていた存在。余計に誰も行きたがらないだろうな」
「ああ、そうか……いわれてみれば、そうだね」
 歩兵団発足から、余り隊長らしいことが出来ていなかったトゥーリとしてはせめて最後くらいは、と気合を入れて臨んでいたが、その方向性を少々読み違えていた様だ。
「じゃ……残る皆に、色んな技術を伝える方向に頭を切り替えようかな」
「その方が良いだろうな」
 と、そこへ同じく聞き取りを終えた遊兵4番隊長ロイ・アウレアが、大きく背伸びしながら小会議室に足を踏み入れてきた。
「やぁ御同輩。聞き取りはもう済んだのか?」
 ロイの問いかけにサマエラは頷き返したが、トゥーリはまだまだこれからだと気合を入れ直して、ロイと入れ替わる格好で小会議室を飛び出していった。
 そのトゥーリを見送ってから、サマエラは幾分真剣な眼差しをロイに送る。
「で、例の副長殿とは話せたのか?」
「……まぁね」
 ロイは卓を挟んだ反対側に腰を下ろし、二度三度、自身を納得させる様に頷いた。
 昨年、帝国過激派に拉致された挙句、ホムンクルスに仕立て上げられた副長ジリアン・コルヴァ。再び生を得たものの、一度は死を経験した彼女が今、どの様な状態なのか――ロイはその点が気がかりだった。
 ジリアンはロイや彼の妻のことは何も覚えていなかった。だが記憶が無いなら無いなりで、今後の人生を一から出直すと前向きに捉えている。その竹を割った様な性格は生前のままだった。
「出来れば式にも呼んで、ちゃんと報告したかったが……」
 唇を噛むロイ。過ぎたことは、最早どうしようもない。頭では分かっているが、中々割り切れるものではなかった。
 幸い、ジリアンは自らの意思で副長に復帰した。何も分からないながら、隊員達と仲良くやっている様だ。
 遊兵4番隊全員が歩兵団に残る意思を示したのは、ジリアンの存在があったからかも知れない。
「オレも、振り返ってばかりじゃあ駄目か」
 自分自身も前を向かなければならない。ロイは寧ろ、今のジリアンから多くを学んだ様な気がした。

●去り行く者は心置きなく
 カルケルーア・ロモズ内には何箇所か、大小幾つかの練兵場が点在している。
 そのうちのひとつで、重兵4番隊長ケン・Z・ブラッドリーは部下達相手に汗を流していた。
「んじゃあ、最後だ。お前らの成長を俺に見せてくれよ」
 既に全員の聞き取りを終えたケンは、歩兵団を去る者、残る者を問わず、彼ら全員と手合わせすることで各員の成長を見極めてやろうと考えた。
 自慢の隊員達だから、歩兵団を去ったとしても十分通用すると信じているケンだが、こうして一緒に訓練や手合わせが出来るのは、これが最後だ。悔いが無い様に、思い切ってぶつかってやりたい。
「精が出るな、ケン隊長」
 ひと息入れたところで、いつの間にか近くで見学していたリーヴァーが声をかけてきた。今日が最後だというのに、特にこれといった感慨を面には滲ませていないリーヴァー。ケンも変に湿っぽい空気は苦手だから、リーヴァーが見せるいつもの調子は却って有り難かった。
「後で話せるか? 卿に頼みたいことがあってな」
 それだけいい置いて、リーヴァーは練兵場を去っていった。
 何事かと小首を傾げたケンだが、部下達が手合わせの続きを待っている。頭を切り替え、再び戦闘モードに入ったケンは気合の雄叫びを上げながら、次の相手を正面に迎えていた。
 一方、練兵場を出たリーヴァーは西集落の歩兵団作戦司令棟へと足を向けた。司令棟前広場では遊兵7番隊長ティトと同副長セロンガード・シュタインドルフが、東部鎮守都市エスタルに向けた護送部隊の編制作業に入っていた。
 ティトとセロンガードの傍らには、帝国魔導院エスタル支部の元支部長クライス・アクバーの姿もあった。
 既にクライスは昨日までにエスタル周辺の状況説明を終えており、ここカルケルーア・ロモズでの仕事はひと通り終えた格好となっている。後はエスタルへの護送部隊に対するアドバイスや、エスタル方面への帰還を決めた歩兵団員達の相談を受け付ける為に、まだ少しばかり腰を据えていた。
「あ、リーヴァー団長。護送部隊の準備は、もう間も無く完了します」
「うちの、隊は、全員、護送に加わってくれる、よ」
 セロンガードとティトからの報告を受け、リーヴァーは軽く頷き返した。
 ふたりが率いる遊兵7番隊は、全員がカルケルーア・ロモズに残ることを選択した。どうやらこの隊長と副長と一緒に居れば、色々楽しい毎日が過ごせそうだということで、このまま残ることを決意したらしい。
「ほう……何かレクリエーション的な催しなどが、あったのかな?」
 リーヴァーに問われ、セロンガードは幾分引きつった笑みを返した。一方のティトは、何故かその一瞬だけ変に鬼気迫る凄みを込めた笑みを浮かべた。
 しかし妙な空気が流れたのはその一瞬だけで、クライスがエスタルまでの安全な移動経路の説明を始めると、ふたりはすぐに面を引き締めて傾聴する姿勢を見せた。
 この分なら、大丈夫だ――翌日までには歩兵団を去るリーヴァーだが、自分が居なくとも、残る面々がしっかり支えてくれるということを、ここで改めて確信した。

●再編に向けて
 東集落にある歩兵団専用宿舎のロビーでは、軽いざわめきが起きている。
 遊兵6番隊長を務めてきたナハティガル=ラーが、隊長を辞任する旨を部下達に伝えたからだ。
「最近は隊長とは名ばかりの状態となってしまい、6番隊員の皆には大変申し訳無く思っていた。俺は今回の歩兵団再編を機に、遊兵6番隊長の職を辞すと同時に歩兵団からも去る」
 その理由は至極単純で、リーンエス王国の黒鋼竜公爵家への臣従が内定したからである。二足のわらじは歩兵団に対しても礼を失すると判断したらしい。
 そして後任の隊長には、現副長の卑華王を指名した。
「ヴィヴィヴィィィハァァァ(ははぁ、わたくしが、でございますか)」
「無論、卑華王の意思を尊重する。俺と同じく歩兵団を辞し、以前の様に商人として自由に生きるのも良いだろう」
 しかし卑華王は難色ひとつ示さず、そのいかつい顔に満面の笑みを浮かべて快諾した。本人曰く、副長はしばらく置かず、全員の適性を見た上で改めて任命したいとの由。
 遊兵6番隊からは僅かに二名だけが故郷への帰還を希望しており、他は全員が残る。ナハティガルが示してきた意思は、間違い無く彼らに引き継がれてゆくことだろう。
 一方、同じ宿舎内の別室では遊兵8番隊長アウレーリア・フォン・ネーベルベルク、重兵2番隊長アーギス・マーレイ、同副長ナタリア・フィッツジェラルドの三人が額を付き合わせて、歩兵団再編後の名簿作成に取り掛かっていた。
「長い様で、短い一年半だったわね」
 ある程度書類が纏まったところで、アウレーリアはほっとひと息入れた。故郷の復興も始まり、住民の再定住準備も着々と進んでいる。
 このロモズ歩兵団からも十数名が、アウレーリアの故郷への移住を希望していた。
 遊兵8番隊長として、そして故郷での復興を進める者として、二重の責任がアウレーリアの肩に圧し掛かろうとしている。しかし決して、重圧ではなかった。心地の良い責任感とでもいえば良いだろうか。
 それにしても、とアウレーリアは意外そうな視線をアーギスに送った。戦斧を振り回す現場主義の戦士かと思ったら、意外や意外、こういう書類作業が得意だったとは。
「アーギス隊長、もうこれで最後ですね」
「あぁご苦労さん。後は俺がやるよ」
 ナタリアから最後の一枚を受け取ったアーギスは、手際良く再編後の人事表をチェックしてゆく。
 そんなアーギスを横から覗き込むナタリアの瞳には、感謝の色が見て取れた。戦い慣れない歩兵団員の為に、先頭に立って切り込んでいったアーギスの姿を、ナタリアは間近で見続けてきた。やや昼行燈な性格の隊長ではあったが、これ程の人物が自分を手元に置いてくれたことには、本当に感謝の想いしかない。
 今回の再編名簿の作成時には、ナタリアは医療担当としての目線で作業に加わっている。過去の任務で負傷が多かった団員は、サポートが利く隊への再配置が有効だとして、諸々の助言を加えていた。
 そうして出来上がったのが、今アーギスが手にしている分厚い再編後名簿である。
「んで、あんたはしばらく故郷に戻るのかい?」
 チェックを終えたアーギスが、アウレーリアに水を向けた。
「復興がこれから本格化するので……勿論、ここカルケルーア・ロモズとの地縁もあるし、地元からの援助は絶やさず続けるつもりです」
 その若さで大したモンだと称賛の笑みを返すアーギス。
 しかし、漸く訪れた平穏な日々も、努力無くして維持は出来ない。アウレーリアもナタリアも、寧ろこれからが大変だと改めて気を引き締めた。
「アーギス隊長は、このまま歩兵団に?」
「うん、あんたも偶には顔出してくれよ。俺ひとりじゃ、手が回らん」
 問いかけるナタリアに、アーギスはからりと笑った。

●伝えて、残して
 東集落の土木作業場で、遊兵5番隊長アルマ・ヴァレンタインによる土木建築講座が開催されていた。
 職人道具を駆使して様々な技術習得に励む隊員達を、アルマは色々な思い出を脳裏に浮かべながら眺めた。
 副長のカミール以下、大半の者がカルケルーア・ロモズに残ることとなったが、一部はエスタル方面の故郷へと戻る選択を取った。クライスの説明によれば、エスタル方面は危機こそ去ったものの、復興には多くの技術が必要になるだろうとの話であり、そういう意味ではアルマが伝授した諸々の土木建築技術は、きっと大いに役立つことだろう。
 と、そこへ大型の手押し車を押したアーシェル・G・クラインが土木作業場脇の小道を通りかかった。
 手押し車には大量の武具が積み込まれている。今の今までアーシェルがひとりで修繕していたものらしい。
「うわっ、それ全部ひとりでやったの?」
「まあ、な……俺がしてやれるのは、今はこれぐらいしか無いしな」
 自身が隊長を務める重兵11番隊の面々に対する聞き取りは、副長のクレア・エクレールが東集落の歩兵団専用宿舎内で進めてくれている。クレアの方が気兼ねなく発言が出来るだろうというアーシェルの気遣いを受けて、クレアが聞き取り役を引き受けた格好だった。
「後でお別れの宴をやろうと思うんだけど、一緒にどう? お肉と干物とお酒持ってきたし」
「そう……だな。じゃあ、後でお邪魔させて貰うよ」
 だが兎も角はこの大量の武具を倉庫に戻さなければということで、アーシェルは土木作業場から宿舎へと足を向けた。
 そのアーシェルが宿舎に姿を現すと、聞き取りを終えたクレアがメモを手に出迎えた。
「お帰り。これ、皆から聞き取った希望の結果だよ」
 クレアが差し出したメモに視線を落とすアーシェル。そこには、全員残留希望の文字が。
「そうか……皆、ここに残るのか」
「何だかねー、皆、泣き虫隊長が心配だから離れる気にならないんだって」
 笑いながらクレアは、隊員達が集まっている第二ロビーへとアーシェルの手を引いてゆく。
 アーシェルは改めて全員の顔を見渡してから、オキザリスの彫刻のペンダントを手渡していった。その花言葉は、『あなたを決して捨てません』だ。
 スラム出身の隊員達にとって、故郷など在って無い様なものだ。
 そしてホムンクルスと化したマイジェロ・フェルーダに至っては一度命を落とし、その人生さえも失った。
 そのマイジェロにペンダントをかけてやった時、不意に涙が溢れてきた。泣き笑いから零れ落ちる涙を拭おうともせず、アーシェルはいった。
「お前は死ぬまで一緒だ、マイジェロ……嫌だっていっても、離れてやんねぇぞ」
「はは……そりゃ大変な宣告ですよ、隊長」
 その瞬間アーシェルのみならず、クレアも、そして他の隊員達も思わず目を見張った。そこに居たのはホムンクルスのマイジェロではなく、間違い無く、副長マイジェロだった。
「まさか……お前、記憶が」
「えぇ、まだぼんやりしてますけど、色々思い出してきてますよ」
 膝から崩れ落ちそうになったアーシェルだが、懸命に耐えた。耐えて、そうか、良かったと、笑顔のまま涙を溢れさせ続けた。
「よぉっし……湿っぽい話はまた後で。誰か、ボクの技を伝授して欲しいひとは居るかな?」
 クレアがぱんぱんと手を叩いて場の空気を変えた。実戦面では斥候や暗殺といった技術に偏ってしまうが、日常生活面なら化粧やお洒落について色々教えてやれる。
 隊員達は荒くれ者が多いが、クレアの呼びかけには意外と興味深げに食いついてきた。

●歩兵団長執務室にて
 南集落のロモズ歩兵団事務棟のロビー。
 そこに、弓兵2番隊長ジェフ・ディアーと、同副長リディリディ・トゥラ・イェレミースの姿があった。
 ふたりは手分けしての自隊員達からの聞き取り調査を終え、それぞれの結果を付き合わせていた。弓兵2番隊員はいずれも優秀な弓の使い手として成長し、どこへ行っても自警団としての活躍の場が見出せるだろう。
 彼らの成長は嬉しくもあり、同時に故郷へと帰る者達とはこれでお別れとも思うと、少し寂しいという部分もある。
 だが本人達の意思を尊重するのは、当然の話だ。リディリディはこれまで支えてくれた隊員達に感謝の想いを伝える為に、後で歓送会を開催しましょうとディアー隊長に打診し、応諾を貰っていた。
 するとそこへ、何故か妙な面持ちの女性三人が階段を下りてきた。
 重兵3番隊長コルネリウス・アーラ、遊兵3番隊長サフィラ・アズラク・ナハルハルアリーブ、弓兵1番隊副長ルチル・プルメリア・グレイハーツはいずれも、自隊の聞き取り調査を終えたところでリーヴァーから呼び出しを喰らい、今の今まで団長専用執務室に足を運んでいたのである。
 三人が余りに緊張した様子を見せていた為、リディリディは思わず作業の手を止めて訊いた。
「あの……何か、あったんですか?」
「えぇと……あったといえば、あったんだけど」
 いつも快活なサフィラが、今日は珍しく口ぶりが重い。矢張り、何か変だ。
「あ、そうだ……引き継ぎ書の続きを作るんだった……じゃあ、また後で」
 ルチルは頭蓋面の奥で乾いた笑いを漏らしながら、そそくさとその場を去ってゆく。後で、というのは、歓送会を開催するから一緒にやろうという話をしていたことを指している様だ。
 リーヴァーに呼び出される前は、
「そろそろ彼らも独り立ちの時期が来たという訳か。情勢が落ち着いてきたのはいいことだが、やや寂しいものだ」
 などと、いつもの調子で淡々と語っていたのだが、ロビーを去ってゆく今のルチルは明らかにおかしい。
 ならばと今度はサフィラに水を向けようとしたリディリディだが、サフィラも何故か急に何かを思い出した様な調子で変な笑い声をあげた。
「あー、そうだそうだ。お世話になったフランクス商会のひと達も呼んで、ぱぁーっと盛大にやるんだった。あー忙しいなー、あー忙しい忙しい」
 ホットパンツから伸びる健康的な脚も、変にぎくしゃくした歩き方になっていて、まるでアンデッドだ。
 サフィラもまた、リーヴァーに呼び出される前は色々あったと懐かしむ表情を見せていたが、呼出し後はまるで別人の様な不自然さである。一体、何があったのか。
 ともあれ、リディリディとディアー隊長の前に残ったのは、コルネリウスひとりである。ところがコルネリウスはその美貌を物凄い強面に変え、何も訊くなといわんばかりの凄まじい形相で、矢張り同じくロビーを出ていってしまった。
 何があったのかと、不思議そうに視線を交わすリディリディとディアー隊長。ふたりが事実を知ったのは、それからもう少し後の話であった。
 その頃、三人が去っていったリーヴァーの執務室には半ば入れ替わる様な形で、弓兵5番隊長キーゼが持参したワインを手土産に姿を見せていた。
「こういう機会は、中々持てませんでしたからね。飲めずとも、雰囲気だけでも」
「何をいっているんだ。私は下戸ではないぞ」
 自らふたり分のグラスを用意しながら、リーヴァーはキーゼに椅子を勧めた。
「まずはお疲れ様でした、というべきでしょうか」
「今後も何かと忙しいが……その労いの言葉は素直に受け取るとしよう」
 ワインを注いだグラスを交わし、香りと味を楽しむ。
 しかしグラス一杯で済まそうというのは、この後、各隊で開催する宴にて、リーヴァーもそれぞれの場に少しずつ顔を出す為であった。つまり、ここで酔っぱらう訳にはいかないという訳だ。
「弓兵5番隊の今後については?」
「聞き取りの方はもう終わりました。一部は故郷へ、残る者は護送部隊の護衛兵として引き続き任務を」
 成程、と頷き返すリーヴァー。少しずつ、団長としての責務も終わりに近づいてきていることを実感している様だ。
 それにしても、本当に色々あった。集落群奪還から開発等、キーゼも少なからず関わってきたロモズ。歩兵団は自警組織として残るが、矢張り一抹の寂しさは拭えない。
「ヨゼフ皇帝に弓引いたとはいえ、ここは帝国領であり構成も帝国難民。これだけの規模と構造は、本来ならばレイウェスト殿下が封ずるべきですが……帝国の為に動ける後継が必要ですね」
 キーゼの言葉は、帝国貴族たるリーヴァーには中々耳に痛い話ではあるが、しかし事実でもある。
 そしてその後継については、既にリーヴァーの中では顔ぶれが決まっていた。

●飲んで歌って騒げ
 歓送会の宴は当初、各隊毎に実施する運びで進められていたが、食材の都合や段取り、時間配分等の問題で結局、歩兵団専用食堂にて合同で開催するということで落ち着いた。
 アルフィーの供する料理は歩兵団員達には相変わらず好評だったし、サイラスが用意したチョコレートファウンテンは団員達からは物珍しいと大人気だった。
 皆の楽しげな笑顔を見ると、アルフィーは頑張った甲斐があったと報われる気分だ。
「さぁ今日は好きなだけ飲み食いしなさい。僕のおごりです!」
 重兵9番隊長ギーゼラは山盛りの料理の皿が次々に卓へと運び出されてくると、音頭を取って宴開始を宣言した。場所は全隊で共通となったものの、宴そのものの進行は各隊毎で独自にやろう、ということになっていたのである。
 日中は隊員達の聞き取り調査や、彼らの今後の為に編成やら何やらで忙しく走り回っていたギーゼラも、今はやっとひと息つける時間だ。この場だけは、好きな様にやりたい。
 隣のテーブルでは、遊兵10番隊副長エミリア・シバが底無しの酒飲み体質を発揮し、隊員達と盃を酌み交わしながらの聞き取り調査を、今更ながらに開始していた。
「おねえさん、ちょっと心残りがあるのよねぇ」
 当初、エミリアは自隊を完璧な諜報部隊に仕上げるつもりだった。しかし今はまだ志半ばであり、自身の技術を全て伝授し切れたとはいい難い。
 話術や情報の抜き方、化粧や衣装の着こなしも含めた変装術等々、もっと色々伝えたかったのが本音である。だがそれも最早叶わなくなった。
 ならばせめて、女性団員に化粧やお洒落な着こなしだけでもレクチャーせねば、と変な使命感を抱いている。しかしそれは、また後日。今日のところは飲みに飲んで、話を聞く方向に舵を切らねばならない。
 すると突然、食堂南側の演台付近が急に騒がしくなった。
 重兵20番隊長ジェイソン・ジュピターが鍵盤楽器前に腰を下ろし、軽く調律を始めたのである。
 傍らにはフィドルを手にしたシルヴィア、更にはカスタネットを両手に携えたノイアンの姿もある。
 この直前まで、シルヴィアとノイアンは遊兵9番隊の面々が座るテーブルで、副長ウーリバー・マグスも交えての挨拶を口上に上らせていた。
「皆、今まで本当にありがとう。皆のお陰で私は頑張れた。どうか9番隊のペンダントはこれからも持っていて欲しい。私達の絆の証として」
「んんっと、そうだな……伝えたいことはあるんだが……ウーリバーが先に……」
 などとやっていたところへ、ジェイソンが飛び込んできて曰く。
「折角マッチョ・プリンセスが揃ったんだ。ここで歌わなくて、いつ歌うんだ?」
 本音をいえば、ジェイソンはギーゼラも巻き込みたかったらしいが、ギーゼラは今、自隊の面々と大いに盛り上がっている。あの空気感を邪魔するのは野暮だと諦めたとの由。
 尚、ロモズ歩兵団員の大半はジェイソンの出自を知らない。
 ジェイソンはかつて、リーンエス王国諜報組織『青薔薇』に所属していたが、芸能集団でもある青薔薇では演劇や音楽の才能も必要とされる。
 そんな中でジェイソンは伝統音楽ではなく、ロックの道を選んだ。彼がかつて率いていたロックバンド『マッチョ・プリンセス』は一部のロック好きから熱狂的な支持を受けたのだという。
 残念ながらマッチョ・プリンセスは諸般の事情で解散したが、昨今、フィドルのシルヴィアとカスタネットのノイアンという新たなメンバーを得て再出発した、ということらしい。
 更にはジェイソンは、竪琴を用意していたサイラスをも引っ張り込んだ。丁度弦楽器がもうひとり欲しい、と思っていたところらしい。
 かくして、本来ならばしんみりとする筈のお別れの会が、ジェイソンの驚く程に伸びのある豊かな声量で、場の空気が一気に弾けた。
 と、そこへジェイソンが呼びかけを遠慮したギーゼラも飛び込んできた。
「やだなぁ。ひとりだけ、のけ者にしないで下さいよ」
「オーケー! ユーもマッチョだ! エヴバデワンモアタァァァイム!」
 食堂内は、盛大なライブ会場と化した。
 ギーゼラは、ホムンクルス化した副長ジャルーハ・フェッソのことを思いながら、それでもこの場は努めて明るく振る舞った。
 ジャルーハのことを思うと、後で必ず心が落ち込む。だからこそ今は、この明るい空気を味わおう。
 そのジャルーハは、重兵9番隊の皆と一緒に、楽しそうに手拍子を叩いていた。

●新たな門出
 翌朝。
 大騒ぎとなった大食堂は、大勢の二日酔い団員達で埋め尽くされていた。
 アウレーリアやナタリア、或いはクレアといった面々が苦笑しながら、頭痛に悩まされている団員達を介抱してゆく。
 そんな中、エミリアはけろっとした表情で目を覚ましたが、すぐ近くで床に直接寝転がっていたロイとアルマは、少し揺すった程度では起きる気配も無い。
(あ……そういえばリーヴァーちゃん、もう出ていくんだったかしら)
 朝陽が射し込む窓の外へ視線を送るエミリア。
 今から見送りに行っても、間に合うだろうか。

 東からの陽光が眩しい、西集落の歩兵団作戦司令棟前広場。
 そこにティトとセロンガードが護衛するエスタルへの護送部隊と、リーヴァー、クライスといった面々が集まっていた。
 だがそれ以外にも、大勢の人影があった。コルネリウスとサフィラの隊が全員、そこに居た。他にはトゥーリやリディリディ、サマエラ、ナハティガルといった顔ぶれも。
「ロモズ歩兵団の総指揮お疲れ様でしたっ! 旅先で困ったことがあったら、いつでもギルドを通してあたし達に頼ってね!」
 最初にサフィラが大きな花束をリーヴァーに手渡す。次いでコルネリウスも、サフィラのものよりは幾分控え目ながら、美しくアレンジされた花束を差し出した。
「ロモズ歩兵団の一員となれて、幸せでした。縁はこれからも続きますから、また必ずお逢いしましょう」
 穏やかな笑みを湛えて、サフィラとコルネリウスからの花束を受け取るリーヴァー。
 見送りの各隊長や副長達が拍手する中、コルネリウスとサフィラは自隊員に向けて凛とした声を放った。
「遊兵3番隊整列!」
「重兵3番隊整列!」
 両隊長の号令を受けて一糸乱れぬ動きで整列を果たす両隊。更に――。
「リーヴァー・シュランドル閣下に!」
「捧げ! 剣!」
 シルトラース帝国軍式の捧剣の礼を取る両隊。リーヴァーも帝国式の返礼で応えた。
 そうしてエスタル護衛部隊と共に、カルケルーア・ロモズを去るリーヴァーと、その恩師クライス。
 ロモズ歩兵団が、ひとつの区切りを迎えた瞬間だった。

「んじゃあ……今日の指示をお願いします、団長」
 呼びかけたのは新たに重兵3番隊長に就任したホムンクルス、オノショタである。背後にはこれまでと変わらず班長を務めるローデス・プレクターとケルフィス・ディクロンの、妙に嬉しそうな顔が見えた。
 団長と呼ばれたのは他ならぬ、コルネリウスであった。
「本日の予定はこちらです、団長」
 コルネリウスの専属秘書となったカレンディアが、予定表を掲げた。
 昨日、リーヴァーに呼ばれたケン、サフィラ、ルチルはそれぞれ重兵総長、遊兵総長、弓兵総長の任を与えられ、コルネリウスと共に新生ロモズ歩兵団を率いてゆくこととなった。
「でも何で、弓兵総長がアタイなんだろうね? 弓兵ならキーゼが隊長やってんだから、あっちにお鉢が回りそうな気がしたんだけど」
「ああそれなら、理由は単純です。キーゼさん、王国の北方辺境伯正騎士に内定してるから、駄目だったそうですよ。そういうのも適性のひとつとして考慮されたそうです」
 不思議そうに小首を傾げるルチルに、コルネリウスは穏やかに笑った。
 成程、色々政治的な配慮があるのか――ルチルはやっと腑に落ちたと、目線だけで笑いながら肩を竦めた。

 道中、リーヴァーとクライスはエスタル護送部隊と別れ、西へと進路を向けた。
「で、先生。これからどこ行くの?」
「まずはダルトートだ。幽界樹がどこから現れたのか、その痕跡を探る」
 ふたりの視線の先には明るい未来など、どこにも横たわっていない。
 再び激闘の日々へ――幽界樹打倒に向けての第一歩が刻まれた瞬間だった。

マスターコメント

 長い様で短かかった一年半、ありがとうございました。
イベントシナリオ

イベントシナリオ易しい 報酬:少ない24 / 4〜25人

2022年07月15日 23時45分30秒 公開

大成功

相談掲示板

  1. ギーゼラ

    ロモズ歩兵団重兵9番隊長、ギーゼラです。 こう挨拶するのも最後だと思うと感慨深いですねぇ。 さて、らしくない事を言いますが、最後という事でご容赦を。 僕は歩兵団として皆さんと戦えた事を誇らしく思います。 皆さん最後の時を悔いなく過ごせますように。

アーカイブ生成日時 2026年08月05日 14時56分25秒 ・ world0