【緑陰】集え! 迷宮料理への挑戦者
炙りとろ左門
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オープニング
神代、一柱の神がとある男へかけた試練のために作った巨大な地下迷宮。それを中心に栄えてきた都市である。
この都市周辺は極めてエーテル環境が不安定であり、迷宮はその形を絶えず変え、生態系はクリーパーや異形の者たちによって構成される。またそれだけに留まらず、都市に住む人間でさえ時折迷宮に飲み込まれてしまい、行方不明になることもある——など、とにかく危険の多い地域である。
そのような場所になぜ、人が集まっているのか?
そのような危険と引き換えにしても、迷宮に眠る富は莫大なものであると周知されているからだ。迷宮から得られる生物、素材、その他様々なアイテムの中には高値で取引されるものもあり、一攫千金を狙って「一攫千金だって!?」ちょっと今説明してる途中ですよ!
● 迷宮都市エドゥノーグ
「は〜。ナルシルさんは人の話を最後まで聞く癖をつけてくださいよ」
『エドゥノーグガイド』を読み上げていたリディルは、呆れた顔でナルシルを睨む。
「ナルシルさんは弟妹さんたちのためにお金を稼ぎたいんでしたっけ。でも、冒険者がしょっちゅう出入りしてるから感覚麻痺しがちですけど、むちゃくちゃ危険な場所なんですよ」
リディルとナルシルが言葉を交わす横で、「ひよこ隊」の頭目であるミュルグレスは迷宮サンドイッチを食む。迷宮産の謎めいた野菜や肉や卵をはさんだサンドイッチだ。なんか端からうねうねしてるものが飛び出してるけど、何?
そう、リディルとナルシルが迷宮の話で盛り上がっているところ、実際ひよこ隊はすでにエドゥノーグ入りしているのである。どうして今更このような話が持ち上がるのかといえば、ミュルグレスが類稀なる方向音痴を発揮して、辿り着いた先がエドゥノーグであったわけで、今の状況はほとんど事故のようなものなのだ。
「だけど、ここからシャルガネに向かうにはちょっと路銀が心もとないね」
ひよこ隊の財布を預かっているドゥリンが帳簿をペン先で叩く。そして金貨袋を覗き込んで、小さくため息をついた。
「そこのフェレット娘がスリに遭わなきゃなあ」
「不可抗力じゃないですか!? ボクはちゃんと警戒してましたしッ! 相手のスリ技術の方が高かっただけですしッ! 盗むやつが悪いんであって盗まれる方は悪くないッ!」
言い切ってからリディルはめそめそと机に突っ伏す。結構気にしていたらしい。
「まあまあ、ナル、過ぎたことを言ってもね。リディ、今回はたまたま運が悪かっただけだよ」
「そうそう、過ぎたこと言ってもしゃーねーし、エドゥノーグについた以上迷宮で稼ぐしかねーって」
ドゥリンの言葉を調子よく辿りながら、ナルシルは探索者ギルドの掲示板を指差す。
「ちょうど『準備会』っていう、探索初心者向けの講習があるらしいぜ?」
それは、迷宮探索者が新人探索者に迷宮探索のいろはを教えるという交流会も兼ねたものらしい。参加費は無料で、軽食が出る。迷宮食であることが最大の特色だ。ちなみに迷宮食を食べて腹をくだす者には銅級すら与えられないとかいう真偽の怪しい噂がある。
「んー……どうする? ミュー」
ドゥリンはミュルグレスに裁可を仰ぐ。
一党頭目として、ミュルグレスが頷くことで旅程が決まる。ミュルグレスは迷宮サンドイッチを咀嚼した後、迷宮ジュースを飲み干した。
「とりあえず、帝国入りできるくらいのお金は欲しい……かも」
「そうだね。じゃあしばらくこの街でお金を貯めていこうか」
解説
マスターより
リプレイ
エドゥノーグの隠れた名店、〈駒鳥の留木亭〉に集った一行は、ストレガ・L・リベルガストラの手際の良さに見惚れていた。
「魔獣食に慣れておくこと。獣の解体術を身につけること。このふたつは欠かせない。迷宮ガイドを買うことを勧めるのだ」
ストレガが捌いているのは迷宮に棲まう一角兎である。一角獣のような角が額に生えていることからこの名で呼ばれており、浅層でよくみる魔獣である。
日帰りならともかくも、何日もかけて迷宮を探索するのであれば、相応に荷物も増える。現地調達をアテにしていては最悪の事態への対応は難しくなるだろう。
「水と調味料は必ず用意すること。肉もそうだが、野菜が大事なのだ」
そう言いながら、ストレガは内臓を取り除いた一角兎の腹に、香草を揉み込んだ肉を詰めていく。
「植物系の魔獣には毒持ちも多いし、何より生態も植生も謎が多いからな。保存食と一緒に何種類かまとめて持っておくといいぞ」
サマエラ=フォリウムは向かいに座っているリディルにそうアドバイスしつつ、自分の持っている薬草を一と束ずつ並べて解説を付していく。
「しかし、まさかエドゥノーグで相見えるとは。北を目指していると聞いたが……」
「それがぁ……あはは……」
へらっと笑って目を泳がせ、言い淀むリディルの様子に、サマエラは事情を察した。
「そうだな。旅費稼ぎに寄るということもあろう。……ともあれ、しばらくは滞在するのだろう?」
サマエラもまた肉の下拵えを行なっていた。香草や謎のペーストを揉み込んだ肉を鉄串に通している。
「私も良くここには滞在しているからな。依頼なり、迷宮内で出くわすことがあれば、よろしく頼む」
「それは頼りになります! いやーほんと」
リディルはもぎゃもぎゃと喚いていたギェンゴラをわっしと掴むサマエラの手元を見つめ、うんうんと頷いた。
「おっ、何やらいい匂いがするぞ〜」
そこへ、ロベリアが軽い足取りで加わった。
「参加費無料で軽食も出ると聞いてね。しかも迷宮食だそうじゃないか。もう食べたかい?」
「ボクは、これからですねェ……ストレガさんやサマエラさんが調理してくれるものなら平気かなって!」
むしろリディルはそれに一縷の希望を託しているようだった。しかしそこへ、ナハティガル=ラーが大皿を持って通りかかる。
「ここにいたのか、ひよこ隊」
「ナハティガルさんだ! 嫌な予感!!」
リディルが叫ぶ。試練と称して水着で川のヌシに挑んだことは記憶に新しい。ナハティガルは「嫌な予感とは失礼な」といいつつ、机の上に迷宮料理がどっさり載った大皿を置く。
「多少グロテスクだが——」
「多少……?」
「俺が暗黒街で生き抜く為に喰っていたブツに比べれば、倫理面・安全面においては遥かにマシと思われる。……だから臆せずに食え」
「ゴールディの暗黒街怖過ぎるが〜?」
迷宮料理よりヤバいもんが出回っている暗黒街こわ。リディルはサンドイッチの端からはみ出ているうねうねしたものを薄目で見た。
「ミューさんも食べてましたけど……これなんなんですか?」
「知らん。が、ジュワッと口内に広がる得体の知れん肉汁の風味が癖になるな」
「得体の知れん肉汁にもっと警戒心持ってくれるか〜?」
すでに食っとるし。リディルがツッコミを入れているそばから、ナハティガルは何やらギラギラした色合いのスープが注がれたカップを手に取る。
「……そのスープ、中から何かうめき声が聞こえないかい? 聞こえるというか、怨念めいたものを感じるんだけど」
ロベリアが恐る恐るといった様子でスープを覗き込む。確かに何か、ギェェェン……という声が聞こえてきそうだ。
「ギェンゴラを使った迷宮スープらしい。飲むと呪いBSと引き換えに頭が冴える」
「それなんかヤバい成分滲み出てません?」
リディルがうっと身を引く。迷宮料理怖い。と、そのリディルの前に、ストレガが一角兎肉の香草焼きを差し出した。
「できたのだ。こっちの皿は内臓である。内臓は癖があるし足も早いが滋養になるから、食べ慣れておくといいのだ」
「生命は余さず戴く……大事だな。ほら、串焼きと……スープもできそうだ。初めはうるさかったが、煮込んでしまえばおとなしいものだな」
台詞がなんだか物騒だが、サマエラも調理を終えたようだ。リディルは目を輝かせ、「ありがとうございます!」と2人を拝む。
「ボクも何か作ってみようかな?」
2人の調理の様子を見ていて、ロベリアも何か創作意欲を刺激されたらしい。しかし、ロベリアの料理スキルについて知るものは表情をこわばらせ、そっと席を立った。
人の波がさっと引いたところへ、タイミングよくアルト=ミルドレッド=バ・ロッサがやってきた。遠目にひよこ隊の面々を見つけ、足を向けたわけだ。
「あ、アルト」
ミュルグレスが串焼きを咀嚼しながら、アルトに軽く手を振る。
「…………あんたたち……」
机の上にある迷宮料理の数々。なんかうごうご蠢いているのもある。アルトは初めて見る迷宮料理に気圧されつつ、ふんすと腕を組む。
「よくわからない物は口にしないってのは常識でしょ! お腹壊しても知らないわよっ!! 私ちゃんと注意したからね!!!」
「……でも、このお店では迷宮食しかないよ?」
ほら、とミュルグレスがメニューを指し示す。
「迷宮サンドイッチ」
「……ミックスサンドとして食べれば、まあ……目を瞑らないといけないのがちょっと惜しいわね」
「こっちは迷宮パンケーキ」
「……ベリーのつもりなのかしらこれ……大丈夫、これはベリー……パンの部分はいたって普通だから、普通のパンケーキ……」
「それからこれ」
そう、ミュルグレスが差し出したのは、グラスに注がれた迷宮ジュース。なんか黒くて丸いつぶつぶが沈澱しているが。
「飲むと楽しい気分になる」
「ぜ、絶対イヤ!!」
なんか文言が怪しい。つぶつぶもカエルの卵みたいだし。もしかして本当に迷宮カエルの卵じゃなかろうか?
じりじりと迷宮ジュース片手にアルトに迫るミュルグレス。アルトの悲鳴が響くのを横目に、アリオン・リューはドゥリンと一緒に一角兎の香草焼きを切り分けていた。
「普通の兎肉より味が淡白だ。味を濃くしやすいし、現地調理に向いてるね」
「浅層でよく見かける魔獣、でしたっけ。捌き方も覚えておかなくちゃ」
旅を始めた頃は捕まえた兎を捌くのに気絶していたドゥリンも、今や解体技術を進んで学びにいく逞しさを身につけている。
「ひよこ隊は北へ向かうって、さっきも聞いたけど……」
「はい。僕たちは極北に用事はないけど……ミューを1人で向かわせるのは少し、不安っていうか」
それだけじゃなくて、とドゥリンは声を潜める。
「僕、ずっと一党の面倒は自分が見なきゃ、って思ってたけど。でもちょっと冷静になってみると、いろんな場面でみんなを支えてくれてるのは、ミューなんだなって」
だから、今まで助けられた分、彼女の力になりたい。そう呟くドゥリンに、アリオンはちょっとはにかんだ。
「いいと思う。僕もね、極北を目指しているから……話ができると嬉しい」
自分が所属している騎士団の話や、征竜についての話。ドゥリンはそれに、興味深そうに相槌を打つ。
「ミュルグレスさぁん!」
と、卓の端から呂律の回っていない声が上がる。トーラだ。
「そのふともも! ふ・と・も・も! 見せつけているんれすかっ!?」
トーラの手には迷宮ジュースが注がれていた空のグラスがある。おめめぐるぐる、どう見ても状態異常を起こしているが。
ミュルグレスはトーラを見つめた後、おもむろに腰布をぴらりとたくし上げ——。
「はいはい教育に悪い仕草はしないように。いや、俺は大変よろしいと思うがね、一応」
駆けつけたヴァンゲルス・ロッドの手によってガードされる。パカ倫☆
「そんな綺麗な足してるのずーるーいー! ずるいれすーー! ていうかなんですかその服ッ」
「族長がくれたの」
「いい趣味してんな、あんたの氏族の長は……」
暴れるトーラを宥めつつ、ヴァンゲルスはミュルグレスと挨拶を交わす。
「よ。嬢ちゃん、俺のこと覚えてるか?」
「うん。また、会ったね」
ミュルグレスとヴァンゲルスは、ドワーフ王国で飲み比べた仲だ。ミュルグレスは酩酊していたが、記憶は残るタイプらしい。
「そりゃ嬉しいね。同じ冒険者として、改めて宜しく頼むぜ。……で、アルトの嬢ちゃんが倒れてたり、トーラの嬢ちゃんが混乱してたりするのは、この飲み物が原因か?」
ヴァンゲルスはミュルグレスが持っている飲み物に顔を近づけ、それを受け取って一口飲む。
「んむ……酒、とは少し違うのかね。酸味があって、ぱちぱち弾けて……ああ、このもちもちした黒い……粉練り物か? これがアレなんだな、いわゆるハッピーな粉で出来てるってわけだ」
合法です、ご安心ください。
「まあ他にも使いようがあるかもしれねえな……」
実戦において、恐怖を打ち消す食べ物としては有効かもしれない。合法だし。
「わ〜! ここに美味しそうなスープがあります〜きれいななないろ〜」
「おっトーラ君お目が高いね、これはボクが作った魔女の特製迷宮スープさ!」
ん? とヴァンゲルス含め、冒険者たちはその会話に首を巡らせる。誰が何を作ったって?
「目先の欲に眩まず、撤退を判断する事——」
ストレガの呟きは重々しかった。
「生きる事が最優先なのだ」
「総員退避ーーーーッ!!」
ナハティガルが倒れたままのアルトを担ぎ上げて叫んだ。
なお七色に光るスープはその後、スタッフが美味しくいただきました。
● 歓談を交えて
エドゥノーグといえば迷宮。ララノアとエミリア・シバ、そしてラティア・ミゼリアは、久方ぶりのエドゥノーグの空気に懐かしさを覚えていた。
「おねえさんこう見えて、ここの鉄級を随分前に取ってるのよねぇ」
迷宮探索者に与えられる級章——エミリアは鉄級探索者だ。もっとも、その取得には一悶着あったのだが。
「合格したのに、うっかり申請を忘れて2回も試験を受けてね……」
今となっては笑い話だが、という内容を、エミリアはひよこ隊の面々に話して聞かせる。その間、エミリアが何か作業をしているのを、ナルシルは見咎めた。
「なんかはじめるのか?」
「お料理よ。ラティアちゃんが迷宮レシピと迷宮産のお肉セットを持ってきてくれたから」
エミリアの美しい指の合間でうごめくものに、ナルシルと、そしてララノアは表情をこわばらせる。
「あ、あわ……! いいい生きたものは……私、捌けませんので!? さ、捌けませんで……ッ! ぇとぇと……ではお茶を! お茶を淹れさせて頂きましっ」
清涼感のあるものがいいだろう、とララノアはハーブティーの準備を始める。一方、ラティアはまな板の上でうごめく謎肉を前に目を細めた。
「貴方はあの触手ではないかもしれない。でも、うねうねしたものは私の敵です……!」
迷宮探索をするたびにうねうねした触手に襲われて服を溶かされた。装備もおしゃれも安くないんだぞ!
謎のうねうね肉を鬼気迫る様相で細切れにしていくラティア。その横で、エミリアは丁寧にスープの出汁を取る。
「お料理がおいしくないと、元気が出ないものね。こういう技術は身につけておいた方がいいわ」
何日も迷宮に潜ることになれば、気力も体力も削られる。食材をうまく調理できれば、精神面でも健康面でもかなり安定するだろう。
「なるほどねぇ……肉なんて焼いて食うくらいしか思いつかねえし、料理はあいつに任せっきりだからさ。でも、勉強しておいたほうがいいだろうな」
「よかったらおねえさんが教えるわよ?」
肉をただ焼くといっても、タレにつけたり香辛料を加えたり、一手間で味も食感も変わる。エミリアは迷宮飯レシピ集をぱらぱらめくりながら、ナルシルにいくつか簡単な料理をレクチャーしていく。
「ここここちら、お茶が入りましたでしっ」
エミリアとラティアがコンソメスープを仕上げている間に、ララノアはハーブティーを配る。
「あんたはあいつと同じエルフなのに、全然雰囲気違うな。なんつかエルフっていうと、やたら居丈高か何考えてんだかよくわかんねーのとか……そういう印象なんだけど」
「そ、そうでしかっ?」
「十人十色、と申しますから……」
国民性ならぬ種族性、というものはあるかもしれないが、細かく見ていけば皆それぞれ個性が立つものだ。ラティアが苦笑しつつ、スープをカップに移す。
「……迷宮肉から出汁をとったスープです。これで野菜や、穀物を煮込むと美味しいですよ」
温かい汁物は体があたたまるし、栄養も行き渡りやすい。固形物が食べられそうならこのスープで煮込んで柔らかくすればいい。ナルシルは頷きながらメモをとりつつ、しかししばらくした後に困ったように頭をかいた。
「じっくり煮込む……か。待てるようになんないとな」
「そ……その間、仲間とおしゃべりする、とか。それも迷宮探索の、楽しみかとっ、思いまし!」
「あら、じゃあせっかくだし、ちょっと潜ってみる?」
ひよこ隊ちゃんたちも認定試験を受けてみても良いかもしれないわね、と頼れる先輩は微笑んだ。
「や。お久しぶり」
ひよこ隊のドゥリンを見つけ、海神・江流は声をかける。
「エドゥノーグで見かけることになるとはね。これも何かの縁かな?」
「いえーい! ドゥリンさーん! ちゃんと飲んでるかーい?」
江流の小脇には、何やら様子のおかしいライオネル・ギシュムが抱えられている。
「……迷宮ジュースを飲んでからこうで。ちょっと診てくれない?」
「ああ、あの……特に依存性はなくて、軽く酔った状態になるという感じで……お水をできるだけ飲ませてあげてください」
「ん、ありがとね」
ドゥリンの指示に従い、江流はライオネルを近くのベンチに座らせる。ドゥリンはまだ口をつけていない水の入ったグラスを手に取ると、ライオネルに差し出した。
「はい、どうぞ——」
「俺とドゥリンさんは同じおっぱいにうもれた仲、つまりぱい友」
いきなり何か言い出した。唐突なぱい友認定に、2人は固まる。それを偶然聞いてしまった通りがかりのだわとカミンル・マオも、思わず足を止めてしまった。
「おっぱいに埋もれたい! 癒されたい!」
「らららライオネルさんっ! ち、違うんですこれは迷宮ジュースのせいでこうなってるだけで!」
ライオネルの名誉を守ろうと、ドゥリンはだわとカミンルに慌てて弁明する。だわはちらりと、片手に持った迷宮ジュースを見やり——ソッ……と横のカミンルに差し出した。
「え!? こ、これは僕は一緒にハッピーになりたいという意味ですか!? そ、そんな……こんなイケメンから突然……」
「いや、違う」
即座にだわは否定する。そんなやりとりもお構いなしに、ライオネルはにへらと笑う。
「で、どうなの! ドゥリンさんは! 平野と山なら山がいいでしょ! 今日こそ白状してもらうからね!」
「うーんカオス」
江流は迷宮サンドイッチを齧りつつ、遠くに視線を投げる。ドゥリンもドゥリンで真面目なため、うまくかわせずに狼狽える。
「え、ぼ、僕は……その」
「ちなみにアルトもなかなか良いおっぱいだったよ!」
ぐっと指を立てるライオネルに、ドゥリンは思わずアルトの姿を探した。
「い、今のは聞かなかったことに……」
「……俺は何も聞いていない」
「うんうん、乙女の秘密は守らないとだよね!」
いきなり個人的なことを暴露されてしまったアルトのため、だわとカミンルは頷く。
「それにしても右を見ても左を見てもイケメン……」
カミンルはそのまま江流に視線を移す。言及されたらしいことに気づいた江流は、小さく苦笑した。
「俺には気にかかる子がいてさ」
「むむっ! それは残念。ではそこのキミは!?」
カミンルはドゥリンにロックオンする。どうやらカミンルのイケメンセンサーに引っかかったらしい。頼りなさげな姿勢も、旅を続けるにつれて逞しさへと変わっていったせいだろうか。しかしドゥリンは慌てて目の前で手をぶんぶんと振る。
「ぼ、僕はそういうのは……まだ、早いかなって!」
「イケメンで初心! いいですね!」
「モテてる! ドゥリンさんモテてる! ずるい!」
顔を真っ赤にして俯くドゥリンに、目を輝かせるカミンルとずるいと駄々をこねるライオネル。江流とだわは空いたベンチに座って迷宮ハンバーグを分け合っていた。
「平和だね……」
「平和だな……」
あ、そうそう、と江流は切り出す。
「青銅級だけど俺も認定は受けてるから、手伝いが必要な時は呼んでくれな。おにぎり持って駆けつけるから」
「今! 今助けが必要だと思いませんか!?」
サイラスは貨幣袋の中身を数えていた。それぞれの国や地域でダンジョンに挑んだ際に渡された褒章の一部だ。エドゥノーグ迷宮探索時のものもあるが——。
「なんか引き替えてもらうには足りないか。いつまた増やせるかねえ」
今は帝国復興に皆精を出している。褒章は換金もでき、交換リストにはスキルを覚えるためのアイテムもあるということで、とにかくあって困ることはない。
「サイラスは青銅級の探索者だったかな。ひとつ上の鉄級認定試験に挑戦してみてもいいんじゃない?」
サイラスにそう勧めるのは、シルヴィア・A・カペルだ。彼女はサイラスと同じく冒険者であり、鉄級探索者でもある。
「特に君は、迷宮料理にも抵抗がないようだし……」
サイラスの前に並べられている料理は、パンケーキと串焼きとパンケーキとサンドイッチとスープとパンケーキ。むっちゃパンケーキ推すなこの蜥蜴人。
「……パンケーキ、好きだったっけ?」
目玉にしか見えないものが載っているが、それ以外は普通のおいしそうなパンケーキではある。しかしシルヴィアはなんとなく、串焼きにしか手が出せないでいた。
「迷宮で好き嫌いしてるわけにもいかんでしょ」
「それはもちろんだけど、好き嫌い、というか……」
もくもくもくもくとパンケーキを頬張る友人を見つつ、シルヴィアは串から肉を外す。くっお貴族様は串焼きすら上品に食べる。
そこへ、追加の料理が運ばれてきた。
「ん? サイラス、また何か頼んだ?」
「いや?」
2人が首を傾げていると、料理を運んできたナキルがふふんと得意げに胸を張った。
「これはサービス! ナキル特製の迷宮フリットだ!」
小麦粉と卵黄、そしてメレンゲを用いた軽い食感の揚げ物。ナキルの後ではスフィカとナルシルが同様に胸を張っている。
「おや、もしかして3人で作ったのかな?」
「そう! 手持ちの迷宮産お肉セットの料理法を習おうと思ってきたんだけど……ナキルさんがおいしくしてくれましたー!」
「衣付けはスフィカが、めれんげとかいうのはあたしが頑張ったぞ」
得意げにVサインを作るナルシルに、シルヴィアはふっとはにかむ。
「それはお疲れ様。ありがたくいただこう」
迷宮産の何の肉かは聞かないでおこう。スフィカの話では褒章で交換できるアイテムであるはずだし、ナキルの指導のもと調理されたものであれば問題ないはずだ。
「いやー結構調理には勇気いるから、ほったらかしになってたんだよね、お肉セット。むしろ消費してくれたほうがありがたいっていうか……」
そういうスフィカも恐る恐るとフリットに手を伸ば——したところで、シルヴィアの胸元に釘付けになる。
「ん?」
「あ、いや」
そしてナルシルを軽く小突いて背を向ける。
「どうしよう、胸おっきい!」
「いやどうしようって別に胸が襲ってくるわけじゃなし」
「そうだけど! どうしてあんなに育つんだと思う!? 美人なのにスタイルもいいなんて!」
「胸の大きさが女の価値じゃねえ……スフィカ、強さってのはパワーだ」
「強さとはパワー」
「そうだ。最後に立ってたやつが勝者だ」
スフィカとナルシルの胸は平坦であった。2人はひそひそと胸豊満族への闘志を燃やす。
「よく分からんけど、食べていいんだよね?」
小首をかしげるサイラスに、おうとナキルは答える。
「ソースとかも作れるとよかったんだけどな。まあ下味はついてるし、塩でもいけるけど」
あとは飲み物だな! とナキルはピッチャーから迷宮ジュースをグラスに注ぐ。
「このしゅわしゅわっとした感じが揚げ物に合う気がする!」
「ふんふん、いい匂いがするのう」
と、そこへベルク・オスマットが通りがかった。
「ナキル、それは危ないかもしれないよ」
シルヴィアは嫌な予感に従い慌てて止めるが、ベルクもグラスにジュースを注ぎ始め——。
「飲むとハッピーになるジュース? 酒か薬物の類か? とりあえず飲んでみるか」
「どうしてそうなるんだい!? そこはやめておこうとなるべきでは」
「かんぱーい!」
制止もあえなくナキルとベルクがグラスをかち合わせてぐびっといく。はらはらとシルヴィアが見守る中、2人は一気にグラスを空にした。
「ぷはーっ」
「んまぁい!」
「あれ? 俺なんで花畑にいんだ?」
「星が綺麗じゃのー!」
「うわあ……2人とも、水を飲むんだ!」
片や花畑で、片や星空の下、見えてはいけないものが見えてしまったり、聞こえてはいけないものが聞こえてしまっている。
「迷宮は常識が通じないかんね、お風呂から美女が出てくることもある」
「迷宮の話だよな……?」
一方サイラスとナルシルは、潜ったことのあるダンジョンの話に花を咲かせていた。もちろん女性相手ということもありラキスケな内容を詳しく解説することはないが、ほんとにダンジョン摩訶不思議。
「そういや、なんか新しく見つかったダンジョンは、いつもとちょっと違う編成で攻略するって募集かけてるやつがいたぞ」
アラなんとか、とナルシルが首を捻る。
「エドゥノーグ全体で取り組むようなものじゃなくて、個人的な計画らしいけど……初心者向きって言ってたから、ダンジョンツアーみたいな感じなのかね」
「ツアー、ね」
ピクニックではすまないのが迷宮探索ではあるが……新たな冒険の機会とあらば、聞き逃す理由もない。サイラスは新しいパンケーキを切り分けながら、耳を傾けた。
食事目当てでやってきたナハシュと、それについてきたヨル・スレイマン。ヨルの方はメモをとりながら熱心に先輩探索者の話を聞いているが、ナハシュの方は食事に夢中だ。
「は〜どれもこれも美味え! とくにサンドイッチ、焼いてあるパンにバターがたっぷり塗ってあってよ」
ナハシュの皿にはそこかしこから集めた迷宮料理がそれぞれひとつずつ。迷宮ジュースも置かれているが、まだ手はつけられていない。
「えらく美味しそうに食べてるけど、どれが美味しかった?」
講習が終わり、休憩時間に入る頃、ヨルはナハシュに聞いてみた。単純に興味があるのもそうだが、ナハシュの味の好みを押さえておきたいという気持ちもある。
「串焼きとスープ! やっぱ肉だな、うめえし!! お前ダンジョン肉とってたろ、今度作れよ」
「はは……そうだね、君は肉が好きだ。今度似たようなものを作ってみよう。自分だとスープとか焼くだけになりがちだけど……そういうのを極めてみるのもいいかもしれない」
前のめりな返答に、ナハシュは眩しげに目を細める。
「このホットケーキの上のやつはなんだろ」
やたらつぶらな瞳が載っているが。見るものによっては忌避感を覚えかねない飾りだが、ナハシュは気にした風もなく口の中に放り込む。
「いちごみたいな味する」
「ふうん。さしずめ迷宮苺、か」
少なくとも授恵者が腹を壊したという話は聞かないし、おそらく食べて大丈夫なものだろう——とあたりをつけて、ヨルも串焼きをひとつ手にとる。ナハシュのお気に入りの味だ、覚えておきたい。
「手に持てない分はマジカルポケットに入れるか……」
「マジカルポケットを使うなら、袋か籠にまとめるといいよ」
とにかく串焼きを持ち帰りたいというナハシュに苦笑しつつ、ヨルはメニューを広げる。
「あ、ねえねえ、迷宮鍋だって。ひとりじゃ食べ切れないだろうし付き合ってよ」
「肉が入ってるならいいぞ」
「えーとなになに、……開けてみるまで中身がわからない……え?」
「肉じゃねえかもってことか?」
「やっぱり肉基準なんだね……」
メニューをめくる。次のページには一体どんな料理が並んでいるのだろう。
そしてそれを共に楽しめる相手がいるということに、ヨルは小さく笑みをこぼすのだった。
迷宮サンドイッチを片手に、ハルハン・ツァガーンナルはキリアン・フィッツジェラルドの話を聞いていた。
「肉の迷宮では鹿の魔獣を狩ったとか。鹿肉も、サンドイッチに合うんでしょうか」
迷宮サンドイッチに用いられている肉の質は、豚に近い気がする。このうねうね飛び出しているものはよくわからないが。ドレッシングもなんだか不思議な味だ。
「キリアンなら、どういうサンドイッチにしてみますか?」
「そうですね……」
ツァガーンナルの問いに、キリアンは少し考えこむ。
「サンドイッチの具は、コンビーフでも卵でもいいですが、チーズが好きなので……ふむ。そういえば、迷宮にも牛系の魔獣が居るというのなら、乳製品やそれを基にした発酵食品も期待出来るものでしょうか?」
流石に探索中に作り上げるのは難しいだろうが、あってもおかしくはない。ここはエドゥノーグなのだから。
「なるほどなるほど。つまり迷宮牛乳プリン……」
「迷宮牛乳プリン……」
2人は想像を巡らせる。迷宮の屈強な牛頭とやたら獰猛な鶏の卵で作った迷宮牛乳プリン。
「探せばありそうなところがまた」
食材さえ揃えば作ってみてもいいかもしれない。と、話は再び肉に戻る。
「迷宮産のお肉セットというものもあるらしいですね。串焼きも美味しそうです!」
迷宮内で凝った料理を作る余裕があるかもわからない場合には、調理の手軽さもまた重要である。ツァガーンナルが手に取った串焼きを眺め、キリアンはあっと思い出したように声を上げる。
「調達できるなら、野菜を刺してもいいかもしれませんね。野菜といえば、迷宮スープの主な材料となっているギェンゴラですが」
「向こうで鍋の火にかけられてすごい叫び声でした! ……ふふ。次、迷宮に来る時は、キリアンの手料理にも期待したいですね。あ、ボクもお手伝いしますよ!」
冒険とは、危険と隣り合わせといえども、やはりその道程には、人を魅了する体験がある。次なる冒険に想いを馳せるツァガーンナルに、キリアンはふっと微笑んだ。
「そこまで言われては、狩猟の腕も磨いておかねばなりませんね」
キリアンとツァガーンナルは、迷宮ジュースが注がれたグラスをこつんと軽く合わせた。
「冒険と栄誉に」
「乾杯!」
喧騒の中、Alexandra・Hexe・Claudiaはその人物と食事を共にしていた。
フィルエス大森林から、星に導かれて旅を続けるエルフ。通称『ひよこ隊』の頭目、ミュルグレス。
Alexandraの観測している範囲内で——これといった感情の機微を見出すのが難しく感じる人物である。
あまり喋らないが、石のように固く近寄り難いわけでもなく。では風に己が身を任せる木々のように伸びやかかというと、少し違う。
ドワーフ王国でのちょっとした騒ぎのきっかけを聞く限りでは、彼女は仲間とドワーフ王国の民が口論になっていたところへ出てきて、ということだった。
ふらふらとどこかへ行っていたかと思えば、必要な時には矢面に立ち。思惟に耽る姿も、人とは異なる視座で、より多くのことを考えているからなのか。
凪いだ湖面の星、というべきか——。
なんとなく、ひよこ隊が彼女を頭目としていることに、納得がいった。
「……どうかした?」
「いえ……」
少し長く、見つめてしまっていたらしい。Alexandraはふと手を伸ばして、ミュルグレスの頭を撫でた。不思議そうに小首を傾げるミュルグレスに、Alexandraは「つい」と短く返した。
● ハッピー?
「違うんじゃこれは違うんじゃ、妾はあんなことしないのじゃ」
迷宮ジュースのハッピーな効果が切れたころ、ベルクは毛布にくるまって震えていた。ハッピーなままに笑い転げたり奇行を繰り返したり、しかしその全てを覚えているという不幸。羞恥でめそめそと毛布虫になっているベルクを、ミュルグレスが毛布の上からよしよしと撫でている。
「大丈夫、みんな、覚えてない」
「一番忘れたいのは妾じゃー!」
めそめそ。ベルクの悲痛な叫びがこだまするのだった。
マスターコメント
イベントシナリオ普通 報酬:標準25 / 4〜25人
2022年02月06日 21時26分35秒 公開
参加者
相談掲示板
おはよう……早速来てくれて、ありがと。ミュルグレスだよ。 今回は、迷宮料理を食べつつおしゃべりするみたいだけど、料理、作る側でももちろん歓迎、って。 迷宮のお肉セットを持ってる人は、活用してみてね。 質問は、【1月25日21:00】までの受付なの。それも、忘れないで…ね。
シーフのトーラです。 よろしくお願いしますね! エドゥノーグといえば蛙料理のイメージでしたけど、こういうものもあるんですね。 ハッピーになるジュース、お酒じゃないですよね…?
クラウディアです、よしなに。 ふむ、ハッピーになるジュース…、…。 ―彼女の素面はあまりあてにならない(※)のですよね。どうしたものか。 (一時ミュルグレスを凝視したのち、ため息) ※前依頼[【緑陰】集え! 酒豪うわばみ呑兵衛たち]より
「ナキルだ、よろしく頼むぜ! ハッピーになるジュース……酔わねェなら酒じゃねーな。うん。(確信) ここは串焼きとさk…ジュースかな…うん。」
No.5
サイラスだ、よろしくなー ハッピーになるジュースって言うけどさ お酒じゃない場合それはそれで怖い気がするんだけども?
カミンル・マオと申します!よろしくね! マオでもカミンルでもあだ名のかみるんでも好きお呼びを! ハッピーになれるジュース! 素敵な響きですね!誰か僕と一緒に飲んでハッピーな気持ちになりませんか! 素敵な殿方がいたらなー。一緒に飲みたいなー(ちらっちらっ
ヴァンゲルス・ロッドだ。宜しく頼む。 ハッピーになれるジュース、って字面がヤベェな。逆に興味はあるが。 他の奴らから感想聞きつつ、少しくらいは味見してみようかね。
海神江流だよ。今回は宜しくね。 砂糖と醤油混ぜたような味の粉末をハッピーパウダーと呼ぶと昔何処かで聞いたことが。 もしや何か関係が(ない 見た目を気にしなければ味はどれも良さそうだね。 俺も個人的に楽しませてもらおう。
ウォーリアのライオネルだよ。よろしくね! 無料で美味しいご飯とジュースが出るなんて最高だー! 迷宮料理は見た目に最初はビビるけど、慣れちゃうと普通に美味しいよね。 俺迷宮サンドイッチとか結構好き! 皆で楽しんでいこー!
お酒じゃないなら酔うことはありませんね。←フラグ ちょっと飲んでみましよう。 (酔ったようになってミュルグレスさんに絡んでいると思います)
全部うまそうだ!!全部食いてえ!!! あ、ナハシュだ。よろしく。