【FF】マザキヤ 秋のパンまつり 警備ヨウセイ

大和気 いぐる

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シナリオID:1464

オープニング

 真昼だというのに、広間は分厚いカーテンで閉め切られている。
 薄暗い中、ヒカリゴケのランタンが僅かに光を放っていた。
 それも西瓜の覆いのせいで、不気味に床板に影を投げかけるばかり。

 おおおぉぉ――という、うめき声にも似た、不気味な音。
 たぶん、隙間風か何かだろう。
 背筋から不快な冷気が這い昇ってくる。

 おかしい。この場所は、本来こうではないはずだ。

 警戒しつつ、広間のカウンターへと近づく。
 そこには、籠一杯に盛られた何かがある。

 手にとって、それと目があった。

 ――いや、違う。それに目はない。
 揺らめくランタンに照らされたそれらは――。

「――おわかりいただけたろうか」

 唐突に背後から聞こえた声に仰天し、冒険者は身構えた。

「おおっと、悪い悪い。驚かせてしまったな!
 テリーズ・トラ・トリュース!
 冒険者ギルド マザキヤ支部へようこそ!」

 そこには、怪しい男が立っていた。
 ――マザキヤ仮面。
 一部の冒険者にはおなじみの、支部長とは無関係の男である。
(称号にも、ちゃんとそう書いてある)

 いつもコックコートに仮面にマント。
 そんなツッコミどころ満載の彼だが、今日はとりわけ酷かった。

 いつもの仮面の上に重ねて、パンで出来た仮面を付けている。
 おまけに、斜めにかけたタスキには、ぶっとい文字で――。

『冒険者ギルド マザキヤ支部 一日受付嬢』

 などと書いてあった。とにかく情報量が多い。
 OPは三千字しか使えないんだぞ。

「このパンはサービスだから、まず食べて落ち着いて欲しい」

 マザキヤ仮面は、カウンターの籠を差し出した。
 彼がつけているような、パン仮面が山盛りになっている。
 よくよく見れば『私を食べて』などと札が下がっていた。

「――おかわりほしいのだろうか。

 あ? いらない?
 まあ、街にも凝ったの売ってるからな。

 え? 受付『嬢』じゃないだろうって?
 はっはっは。別にいいじゃないか。
 MSは誰だって、心に受付嬢を飼っているものサ。

 うん? ジェンダーレスはいいから、本題に入れ?
 まったく、せっかちさんだなあ」

●本題:『雪の妖精』のこと
 春の終わりのことである。
 マザキヤの外れには『雪の妖精』が居住地を作っていた。
 冒険者の仲介もあり、今のところ良好な関係を築けている。
 夏のパンまつりでは、『妖精の氷室』を利用した特産品が大好評だった。

 一部の冒険者たちは、『雪の妖精』との触れ合いそのものを喜んだ。
 その話は当然、冒険者から詩人や交易商へと伝わり――。

「何でも最近、妖精の居住地に近づく怪しい奴がいるらしい。」

 冒険者たちは、マザキヤ仮面を凝視した。

「なっ、何だね、その矢のような視線は! 失敬な! ぷんぷん!
 そいつら『半裸』らしいからね! 私とは関係ないからね!」

 マザキヤ仮面の憤慨はともかく、今の所実害はないらしい。

「まあ、噂の妖精と戯れたい、とかなら別にいいんだが……。
 妖精を捕まえて売ろうとか、氷室の中身を盗むとか。
 そういう邪な考えを持つ輩だと困るわけだ」

 なるほど確かに、どんな悪人か分からない。半裸だけど。

「妖精さんもなー。大半は人懐っこい連中なんだけどなー。
 『王様』が結構気にするみたいでなー。
 というか、気ィ使ってくれてんだろうな、アレは」

 妖精たちは、人を寒がらせるのが好きだという。
 過去には、一般のリザードマンを冬眠寸前にした事件もあった。
 相手が半裸なら、うっかり凍死してしまうかも知れない。
 『王』としては、人間に被害を出して波風を立てたくないのだろう。

「で、今の時期はアレだ。表見りゃ分かるだろうけど。
 秋のパンまつりが絶賛開催中だ。当然、人出も増える。
 一緒に怪しい奴の目撃報告も増えててな。
 ――そこで、この依頼ってわけだ」

 ところで口調、かなり戻って(変わって)ません?

「うぉっほん!! ――ま、まあ、そういうわけで。
 怪しい奴を見かけたら、注意するなり、追っ払うなりして欲しいのだ。
 具体的に被害があるわけではないから、報酬はさほど高くない。
 ま、でも、観光がてら、お小遣いが貰えると思ったら、お得だろ?
 ――じゃなかった、お得であろう?
 何か違うな……お得ですわよ! ホーッホッホッホ!」

 ツッコむのには、いい加減疲れていたので、誰も何も言わなかった。

●備考:『マザキヤ 秋のパンまつり』について
「うん? 秋のパンまつりが、どんな祭りか知りたいって?
 ――宜しい! 説明しようッ!」

 その昔、まだマザキヤが小さな村だった頃のこと。
 この地は呪いに悩まされていた。
 奇怪な病が大流行し、人は死に、家畜が狂い、死者がうろつく。

 もうダメだ……おしまいだぁ……。
 村は呪われた地として、終焉を迎えようとしていた。

 だがしかしッ! 神はこの地を見捨てなかった!
 いや、あんまりマザキヤの人、信心深くないけどね?

 ともかく、仮面の英雄(ヒーロー)が何故か現れた!
 そして彼が見事、呪いの原因を看破したのであった!

 なんかこー、灰色っぽいヘンな麦あったべ?
 あれヤバいんだわー。食べると死んじゃうよ?
 えっ、撒いちゃったの? ダメよー、ダメダメ。
 早く燃やして! 畑を燃やしてー!

「そんなわけで、呪いは消え、マザキヤは救われたのであった。
 ――ダイジェスト版、おわり」

 語りのいい加減さは、ともかくとして。

「この時期、この街の住人は『灰色の麦』を血眼になって探す。
 そうして一粒もないのを確認してから、麦蒔きするのさ。
 世間は『収穫祭』だが、ここでは麦の成長を祈る祭りってわけだ。
 同時に、かつて街を救った恩人へ捧げる感謝祭でもある。」

 そう言ってマザキヤ仮面は、籠から一つ、パンを取り出した。

「こうやって仮面の形のパンを焼いて、昔を忘れないようにしてるのさ。
 ――ん? 私と何か関係があるのか、だって?
 ハハハ、まさか! 何年前の人物だと思っているんだね?
 まあ、私の格好はただのオマージュだよ!」

解説

 マザキヤ近郊の『雪の妖精』居住地付近を警備してください。  ――とはいっても、特に現段階で被害は発生していません。  冒険者であることを明かして歩き回る程度で、依頼としては十分です。  実質、観光するだけでお小遣いが貰えちゃう。  ついでにカワイイ妖精さんと戯れてもよし!  ダンジョンにも潜らない! 頭を使わないシナリオです。  息抜きにいかがでしょう? ・行動例1:警備  居住地付近を警戒し、真面目に妖精さんをガードします。  あるいは怪しい人物を|保護《連行》します。  現地は寒いので、ある程度対策を立てたほうがいいでしょう。  おそらく戦闘らしい戦闘は発生しないと思います。  前述のとおり、選択しなくても別に依頼は失敗しません。 ・行動例2:妖精との交流  妖精たちは『寒がってくれる人』が好きです。  でも、季節が秋だということはお忘れなく! ・行動例3:観光  街には沢山の「パン仮面」が売っています。  冒険者ギルドでタダのものを貰うこともできます。  特に防御力はありませんが、被って遊べます。  例のごとく、沢山パンを買ってポイントを集めれば、お皿が貰えます。  秋ですが、まだ冷たい飲み物や食べ物も売っています。  主に街から居住地までの間あたりに、そういった出店が集中しています。 ・行動例4:NPCをいじる  わざわざ貴重な字数を割いてまで呼べば、マザキヤ仮面が来ます。  何ができるってワケでもないでしょうが、力を貸してくれるでしょう。  あんまり無茶ぶりはしないでね!  その他、ご自由な発想で楽しんでみてください。  ▼NPC ・雪の妖精  今回の護衛対象。街はずれのエーテルだまり付近に生息しています。  我々の世界の「シマエナガ」を少し大きくしたような外見です。  【動物交感】であいまいな意思疎通が可能。  普通の動物相手よりは精度が落ちます。  【テレパス】を持っている場合は、群れの王とのみ会話が可能。  ※連れて帰らないでください。 ・マザキヤ仮面  掲示板で質問等にお答えします。指名の上ご質問ください。  即レスとはいかないのでご了承ください。  前述のとおり、呼べば本編に登場します。 ・冒険者ギルド マザキヤ支部長  留守です。留守だったら、留守です。

マスターより

 お世話になっております。  大和気(おおわけ) いぐるです。    これで四季コンプリートとなります、マザキヤの奇祭シリーズです。  なお、OPで語られたマザキヤの民話については、 「【帝国】灰色麦の呪い」OPに、マトモなバージョンがあります。  興味があれば、是非読んでみてください。  また「マザキヤ」でシナリオ検索すると、過去のアレコレがわかります。  とはいえ、近所に妖精が住んでいる、平和でヘンな街の認識で十分です。  あまり気にせず、初見の方も気楽にどうぞ。  難易度も「易しい」なので、初心者の方も気楽にどうぞ。  なお、連動でアイテムが配られる予定です。  加えて何らかの思い出の品を称号でお配りします。

リプレイ

 冒険者ギルド受付前には二人の冒険者の姿があった。
 ルルト・アーキスとアルバス・ロウルである。

「せっかくだし、一ついただけるだろうか?」
 アルバスが籠の中の仮面パンを指し、声をかける。

「どうぞ。楽しんでくれたまえ!」
 胸を張るマザキヤ仮面。
 恐ろしげな仮面パンのせいで、どうにも表情は読めない。

「……呪われてないよね?」
 ルルトはしげしげとパンを眺め、恐々(こわごわ)言った。
「むしろ縁起物だぞ」

「固そうだが、いい食べ方はあるのか?」
「牛乳と卵に浸して焼くとか?」
 あまり馴染みのないパンに二人は首を捻った。

「固さが気になるなら、野菜スープに入れるのが手軽だな。
 麦酒を水代わりにすると、なお美味い」

「野営に向きそうだな。そういえば、麦酒も特産だったか」
「パンも買いたい! オススメの店、教えて?」

 二人の問いに、マザキヤ仮面は小さな蝋板を取り出した。
「実は、そういう質問は想定してある」
『冒ギル支部長おすすめの店ガイド』とある。

「これは、ありがたい。
 支部長ともいつか飲み交わしたい、と伝えてくれ」

 アルバスがそう言うと、「うぉっほん」と咳払いが返ってきた。
「伝えておくとも! 蝋板(ガイド)は帰る時返してね!」

●
 次にギルドを訪れたのはギャメルだった。
 闇堕ちしたかのようなマザキヤ仮面の格好に――。

「ひぇっ!?」

 ――最近の彼はゆーしゅーな冒険者なのだ(大きな依頼をそれなりに、成功させている)。
 だから大抵のことにはビビらない。いいね?

「……なんかゴメンね」

 その謝罪は聞かなかったことにして、質問する。
「そ、そりゃアレか? 灰色麦の話の、仮面の男か?
 想像してたより怖……いや呪(まじな)いじみてるな」

「英雄(仮面の男)の素顔は、怖かったらしいぞ。
 まあ、店ならもっとマイルドなのもあるから、安心するといい」

 それを聞いて、ギャメルはホッとした。
 これ(仮面パン)は、流石に弟妹への土産向きではないだろう。
(タダだから貰っておいたけど)

●
『シェアの民、募集!』
 そう書かれた札を手に、エルシー・サリバンは立っていた。
 ギルドに出入りしている冒険者に熱い視線を送る。

 過去の経験から、彼女はマザキヤのまつりを制すのは『人手』だと知っていた。
 日持ちするパンを選べば、一人でも皿を貰うことは可能だろう。
 だが、それはそれ。乳脂(クリーム)たっぷりのや熱々のだって食べたいではないか。
 皆で食べれば楽しい。種類だって倍々だ。

 なお、ギルドで人集めをしても良かったのだが。
 ……なんか中が暗いし、邪魔になりそうなので遠慮した次第だ。

「……少食でもへいき?」
「俺も参加するよ! 皆で楽しもー!」
「助かるわ。私もいい?」
「じゃ、ボクも!」

 ユズ、ライオネル・ギシュム、サシャ・テーリング、アルマ・ヴァレンタイン。
 四人の冒険者が、話に乗ってくれた。

「わあっ、ありがとう!」
「結構集まったね」
「どうしよ、人数いるから……手分けしていろんなお店から買ってこよっか!」

 幸いギルドで蝋板(ガイド)も貰った。
 もちろん街で出くわしたら一緒に選んだっていい。

「じゃ、買い物終わったらここで。
 誰の選んだパンが一番おいしいか、競争ね!」

 5人はパンの香りの満ちる街へ、意気揚々と飛び込んでいった。

●
「……なんか不気味ですね」
 ギルドで貰ったパン仮面を眺め、シャロン・ラ・モリエールは唸った。
 名物というからには、味わってみたい気もするのだが。

「すごいパンだな……」
 傍らの婚約者(こんにゃくしゃ)、悠人・ラドルファスも引いてるし。
 いや、でも……。

「逆に考えるんだ、食べちゃってもいいさ」
 結局、シャロンは仮面パンにかぶりついた。
 物怖じしないのはいいが、それは流石にどうなのか。
 というか画風まで変わってないか……?
 あっけに取られ、悠人はツッコむ機会を逸した。

「ンまぁーい!!」
 突如奇声を上げ始めるシャロン。

「私はダイエットをやめるぞ! 悠人ォーッ!」
 彼女は猛然と仮面パンを平らげはじめた。
 ダイエットどころか、人間までやめそうだ。

 さすがにこの暴食っぷりはマズいのでは――?
 仕方なく、悠人は奥義を開放することにした。

「ダイエットオーバードライブ!!(君がッ 落ち着くまで 尻尾の付け根トントンをやめないッ!)」

 ――だって止めないと、後で凹むでしょ?

●
「……うわぁ」

 買い物をしていたアルマは声をあげた。
 街で盛大に何かを疾走させる二人連れに、過去(春のパンまつり)を思い出したのだ。

 同程度の(と思いたい)大騒ぎ(パロディ披露)を繰り広げた黒歴史。

 あの仮面パン、一人で食べるのが正解かもしれない。
 ゲテモノじみた見た目だし、味はとても気になるのだが。

「やあ、お嬢ちゃん! 今日は皿割りはないぞ?」

 そしてマザキヤの住人は、まだソレを覚えていたようだった。
 ――不覚。

●
 荷物(マジカルポケット)を確認する。
 戦果は上々。ギャメルの気分も上々だ。
 秋の恵み(カボチャや栗)が沢山(ゴロゴロ)入ったパンは、弟妹も喜ぶだろう。
 もちろんピカピカのお皿もゲットした。

 お腹も減ってきたし、何か食べようか。
 少し贅沢できる程度の懐具合だ。
 あそこで売ってる、腸詰を挟んだパンはどうだろう。
 リンゴジュースも美味そうだ。デザートは果物のパンかな――。

●
 広場のベンチで、ルルトとアルバスはパンの山を睨んでいた。

 雪の妖精を模した小さな白パン。
 実物(一口)サイズに油断したが最後。
 商売上手な店主は「20個で丁度皿が一枚貰える」と勧めてきたのだ。

「そんな餌に釣られ――」
「って、言いながら何で2セットも!?」
「誘惑に抗えなかった!」
 まあ、大体そんな経緯である。

「こんなこともあろうかと! マジカルポケット!」
「ふふ、食べきらない分はお土産だね」

 気を取り直し、ルルトは別のパンの包みを取り出した。
 腸詰を挟んだパンだ。
 さっきゴブリンの冒険者が美味そうに食べているのを見た。
 蝋板(ガイド)にもあるし、間違いないやつだろう。

「これ、麦酒に合いそうだなって」
「おお、それでは君にはジュースを」

 二人はにっこり笑い、大口をあけてパンにかぶりついた。

●
 この街は、夏以来だ。
 ヴィルヘルミナは、感慨深げに街を眺めた。
 見れば、あちこちで雪の妖精をモチーフにしたパンが売られていた。

 妖精出現の報に大騒ぎしていた街の人々は、今やすっかり馴染んだようだ。
 交渉に望んだ者としては喜ばしい限りだ。

 懐かしい面々も何人か見かけたので、軽く挨拶を交わしておく。
 アルマは相変わらず元気そうだった。
 ストレガ・L・リベルガストラからは、灰色麦の事件の話を聞いた。
 エミリア・シバは、居住地で酒を飲むのだという。

 お酒は嫌いではなかったが、この街ならやっぱりパンと皿だろう。
 そういえば、皿を焼く窯というのは、鍛冶の炉とはやはり違うのだろうか。
 あまり部族の村では陶器職人に馴染みはなかった。
 不審者の実害はないというから、観光に出てみるものいいか。

 ヴィルヘルミナは陶工組合の近くへと歩みを進め――。

「……何故か色々とオチを察しました」

 急に踵をかえして、パンの買い物へと観光プランを変更した。

●
「はっ! あれは!」
「まさか……」

 シャロンと悠人は、買い物途中でそれを見かけた。
 パン仮面をつけた半裸の男だ。
 そうだ、一応警備の仕事を請けていた。
 街にも出没するとは。おのれ、不審者。

「すみません、お話いいですかー?」
 シャロンは仕事モードに戻り、声をかける。
 悠人も後ろで、いつでも取り押さえられるように身構えた。

「うん? おお、春の冒険者の方!」

 ひょいと外したパン仮面の下からは、実直そうな青年の顔。
 シャロンはキョトンとしていたが――。

「あ、あー!」
 確か、春に皿割りの説明をしていた陶工だ。

「以前は良い皿(もの)をいただきまして――」
「知り合い?」
「ええ。陶工組合の方で――あの、何故そんな格好を?」
「ああ、失礼。窯の面倒を見た後なので」

 ずらりと並ぶ窯の小窓からは赤々とした火が。
 照り返しの熱は、かなり強かった。確かに暑かろう。
 仮面は縁起物ゆえつけていたのだろうが。
 ――まぎらわしい。

「……これは(不審者)見つけるの、大変そうだな」
「うん……」

●
「これに決めた!」

 とあるパン屋の店先で、ナハシュは陽気に叫んだ。
 いそいそとお会計を済ませ、紙袋からパン仮面を取り出す。
 別にギルドで貰える物でも良かったのだが――。

「ほーらテリーズ・トラ・トリュースだ!」

 上機嫌で連れのヨル・スレイマンに仮面姿を披露する。
 どうせなら額の角を邪魔しないデザインが欲しかったのだ。
 ついでに、おそろいの仮面をヨルにも押し付ける。

「テリーズ・トラ・トリュース……って、折角顔を出したのに隠すの」
 釈然としなくはあったが、ヨルは拒否もしなかった。
「まあいいか。君が楽しそうで何よりだよ」

 ナハシュは日頃から笑顔を絶やさぬ男だ。
 だが処世術(おあいそ)という事もそれなりに多い。
 祭りの空気のせいか、少なくとも今日は違うようだ。

「仮面(これ)だけで仮装みたいだよな!」
「確かに。気分は変わるね」
「なあ、他の店も回ってみよう!」

 考えてみれば、マザキヤの街をゆっくりと回るのは初めてだ。
 夏にはあまり見なかった、温かいメニューも沢山あるようだ。

「沢山買うと皿が貰えるんだと。数日分買ってこうぜ」
「そのルール、お得感あるね。買いだめもいいか」

 良い匂いでいっぱいの通りを歩けば、誘惑が沢山。
 5種類のジャムが味わえるという、花形の連結パン。
 シャルガネ風の甘い豆ペーストの入ったパン。
 二人連れがかぶりついていた、腸詰を挟んだパン。
 パリパリに焼いた、羽根つきチーズパン。

「チーズの買おうか。君の好みそう」
「おっ、美味そうだな! となれば……麦酒がいるよな、当然!」

 当然そちらの誘惑も山ほど。
 白いの、黒いの、金色の。
 夏に飲んだ冷えたものも、温めたものも、常温のものも。

「なあ、もう禁酒だなんて言わないだろ?」
「まあ、今更だしね……それに」

 ヨルは少しだけ迷ってから、言った。
「……君と交わす杯は、格別だからね」

●
「やることが多いのだ」
 ストレガは忙殺されていた。

 まずは警備。
 雪の妖精とは縁もある。不審者は捨て置けぬ。

 だが祭りなのだし、楽しむ事もしたい。
 あと皿も欲しい。それには沢山パンを買わなくては。

 おかげで居住地と街を何度も往復する羽目になった。
 その間も怪しい輩のチェック。
 パン仮面の人物だらけなので実に骨が折れた。

 それだけではない。
 ストレガが懸念するのは少し前の「灰色麦」の件だ。
 あれが単なる伝承でない事は、是非伝えておかなければ。

(一日受付(マザキヤ仮面)にも話しておいたが……不安が残るのだ)

 だからストレガは、知人初見を問わず、様々な人々に話をした。
 授恵者の冒険譚は、それなりに聞きたがる者も多い。
 とある酒場では、パン仮面をつけた旅人が興味深げに耳を傾けていた。

「へえ……そんな事が。私も気をつけます」
「そうしてほしいのだ。君はここの住人なのだ?」
「いいえ。でもこの街は大好きで。秋には毎年来てるんです」
「丁度いい、他の土地でも灰色麦の話をしてほしいのだ」

 旅人は「喜んで」と微笑んだ。

●
「おまたせーっ!」
「あらライオネルさん、その仮面……」
 サシャは目を丸くした。
 ギルド前広場に戻って来たライオネルは仮面姿だった。

「街の人、結構コレつけて歩いてるからさ」
「まつりのしきたりらしいですね。変わってますけど」
「なんか、テンションあがるらしいよ。そんな人みかけたし」

「いや、どうかなぁ……」
 微妙な顔で合流してきたのはアルマだ。
 確かに見かけたが、あれは食べたからじゃないのか?

「アルマさんは何買ったんです?」
「……って、何かスゴいのばっか!?」

 アルマの持ち寄り品は個性的な見た目のモノばかりだった。
 まさか分け合うのにゲテモノ(材料が個性的なの)は選べまい。
 そう思っての選択(チョイス)だ。

「あ、そっちのは別枠(お土産用)だよ」
「しまった、忘れてた。俺もお土産買おう!」
「それなら、ここで味見してから選べますね」

「ごめーん、迷っちゃって、遅くなった!」
 次にやって来たのはエルシーだ。

「何買ったの?」
「フルーツのと、セサミのと、薄焼きパンと……いろいろ!」
「おっ、美味そう」
「たしかに、目移りしちゃうよねー」
「……いい街ですよね。街中がパンの香りと笑顔で一杯で」

 そうこうするうち、ユズも戻ってきた。
「おまたせ……待った?」
「いや、そんなに長くはないから平気だよ!」

「じゃ、皆そろったし、はじめよっか!」
 テーブルつきのベンチを確保し、エルシーが言った。

「おー!」
 めいめいが購入したパンを広げ始める。

 そんな中、ふとギルドの方を見ていたライオネルが言った。
「そうだ、せっかくだしマザキヤ仮面も呼んでみよ!」

「えっ、えっ、えっ……」
 ユズが慌てだす。
「あ、ゴメン、イヤだったかな」
「あっ、あの……その、とてもいい、と思う」

 と、なれば話は早かった。
『マ・ザ・キ・ヤ・仮面ーー!』

 5人の大音声が広場いっぱいに響き渡り――。

 パァ――z____ン!! と、冒険者ギルドの扉が開く。

「やあ、冒険者諸君! 何か御用かね!」
「えっ、えと、その……じゃあ、サイン、下さい」
 よほど慌てたのか、当初の目的を忘れるユズ。

「お安い御用!」
 マザキヤ仮面は懐から取り出したテーブルナプキンに、さらさらと署名する。
 なお筆跡については、あえて誰もツッコまなかった。

「今なら、握手もつけちゃうぞ!」
「それは……恥ずかしい」
 サシャの後ろにユズは隠れてしまった。

「……なあ、今のマズかったりした? 主にコンプラ的に」
「多分恥ずかしがり屋さんなだけだと思いますけど……」
「こんぷら、って何か知らないけど、ギリセーフじゃないかな」
「ええ、ギリなんだ……」
 何となく複雑そうな顔をしていそうな、マザキヤ仮面であった。

「なあ、もうすぐお昼だろ? 一緒に食べてかないか?」
 ライオネルが当初の目的を話すと、マザキヤ仮面は面食らったようだった。

「えっ、マジ? 今から加われる昼ご飯があるんですか?
 書類に囲まれながら、ぼっち飯とか食べなくていいんだ?」

「……一日受付って大変なんだね」
「うん……あ、いや! ご厚意には、もちろん甘えさせて貰おう!
 ゴメンね、こう、ご飯誘うために呼ばれるとか想定してなくて。
 おじさん、ちょっとジーンときちゃったよ……」

(口調、安定しないなあ……)
 というツッコミは、やっぱり誰も口にしなかった。

 こうして、マザキヤ仮面を加えた6人のシェア食事会が始まった。

「見た目怪しいけど、味は美味しい……さすがマザキヤ……」
「あっ、パイもいけるんだ!?」
「……りんごの、居住地に持っていこう」
「居住地に? お弟子さんが? ご一緒してもいいですか?」
「ねえ、この肉団子入ってるやつ、どこに売ってたの?」
「それなら、そこの角を曲がった店だ。最近店主が肉屋の娘を貰ってな」

 卓の上のパンはあっという間に減り、楽しい時はあっという間に過ぎ去る。
 なお「誰の選んだパンが一番おいしいか」は、結局うやむやとなった。

●
「賑やかなのもええけど、こういうトコもええな」
「いいですね♪ ゆっくり食事ができそうです」

 湖畔のテラスに佇む冒険者が二人。
 エリック・ハルトマンとルーカ・ルンガルディエールだ。

 静かで景色が良いこと、ある程度持ち込みが認められていること。
 それから「南瓜(パンプキン)パイが美味しい」という評判が、店選びの決め手になった。

「やっぱり、収穫祭いうたらコレよな」
 運ばれてきたパイを前に、舌なめずり。

「いただきまー……」
「ふふ、まだですよ♪」
 悪戯っぽく笑ったルーカに制されて、エリックは少しだけ驚いた。
 どうやら今日は、随分とはしゃいでいるらしい。

「テリーズ・トラ・トリュース♪
 お菓子をあげるときに言う言葉ですよ♪」
 ルーカが歌うようにパイを切り分けて、エリックの前に差し出す。

「エリック、あーん♪」
 なるほど、これがやりたかったのか。
 幸い、テラスに他の人影はない。

「むぐむぐ。……テリーズ・トラ・トリュース♪
 はい、あーんやで、ルーカ♪」
「ん♪ あまぁーい♪ ですね」

 店の人間も気をきかせたのか、姿を現す様子もない。

「なあ、こういうん、ルーカも作れるか?」
「うーん……どうでしょう。全く同じ味にはならないでしょうけど……」

 言いかけて、ルーカはエリックの言いたい事に気がついた。
 つまりは、また二人の家でも……。

「頑張って、二人だけの味を作らないといけませんね♪」
「へへっ、ごちそうになるで」

「ほかにリクエストはありますか?」
「せやなー……露店で色々買うたろ? ええもんあったか?」

 惣菜パンと菓子パンがいくつかと、ジャム。良質の小麦粉。

「持ち込みOKだそうですし、どれが食べたいか言ってくださいよ」
 意図を察して、エリックは苦笑した。
「ほな……」

 材料は、もう少し買い足したほうがいいかも知れない。
 ルーカはパンの甘さを堪能しながら、そう思った。

●
 パルドとウォーゼルの二人組は、荷物を確認し、妖精の居住地へ向かった。

 各種防寒着を着込み、温かいスープやパンも買い込んだ。
 居住地からの風は冷たいが、二人で毛布に包まれば凌げそうだ。

「きちんと準備してよかったね」
「そうだな……お、あれかな?」

 パルドの指差す木の上に幾つかの小さな影。
 あれが妖精だろうか?

『こんにちはーっ!』
『……よく来た』

 パルドのテレパスに尊大そうに応えたのが、多分『王』だ。
 一斉に妖精たちが飛び立ち、二人の所にやって来た。

「うわぁ……可愛い」
「思ってたより全然小っこいんだな……まるで小鳥だ」
『失敬な』

 王の抗議に、パルドは肩をすくめた。
 その様を寒がっていると思ったのか、妖精たちが飛び跳ねる。
 頭の上から冷気とともに喜びが伝わり、ウォーゼルは思わず微笑んだ。

「ねえ、妖精さん達、パンは食べるかな」
「ん。聞いてみるか……」

「丁度いい、私も混ぜてもらっていいだろうか」
 王に質問しようとすると、一人の女性冒険者が声をかけてきた。
 ナタリア・フィッツジェラルドだ。

「……へえ、学者さんなんですか」
「以前にもここには来たんだが、妖精の生態が興味深くてね」
「あんたも王様と話せるか?」
「少しだけ」

『また質問攻めか?』
 王の雰囲気は無駄に尊大だが、実のところさほど嫌味でもない。
 底冷えする空気に、少しばかり肩を擦ってみせる。
 それだけで、尾羽根が嬉しそうにピョコピョコしている。

『君らは主に何を食しているんだ?』
『別に何も食さずとも、泉の側におれば飢えたりはせぬ』
 泉とは、近くのエーテル溜まりの事だろう。
「不思議だな。食べなくても大丈夫だそうだ」

「じゃあ、パンは食べないかな?」
『いらないか?』
 パルドが聞くと、王はわずかに身じろぎした。

『食べられるし、少しの糧にはなる。娯楽にもな』
 気を使ったのかも知れなかった。

「食うってさ。念のため熱いのは、やめとくか」
「そうだね……はい、どうぞ」

 妖精と戯れる二人を、ナタリアは目を細めて眺めた。
 怜悧な容貌も今日は緩みがちのようだ。

『そうだ、不審者については何か知ってるか? 困ってるんだろ』
 パルドが本題を切り出すと、王の体の揺れは大きくなった。

『不審者のほうが困るだろう』
「何だって?」
「……そういえばギルドでもそんな話してたな」

 王はむしろ不審者の遭難を心配しているという。

「えーと、それじゃあ不審者は保護?」
「『皆が喜びすぎて凍えさせるようなら止めてくれ』ってさ」

 なんとも奇妙なことになったものだ。
 パルドとウォーゼルは顔を見合わせた。

●
 巡回に出た二人と別れ、ナタリアはさらに王に質問を重ねた。

『随分と人間に気を使う。争いは好まない?』
『それもあるが、何より泉が好まぬ』
『泉に意思が?』
『ない。ただ、この地と人間を慈しむように願われている』
『誰から?』
『知らぬ』

 テレパスは知らない概念や知識までは補完しない。
 不思議な物言いに、ナタリアの知的好奇心は、さらに刺激されるのだった。

●
 ハーヴィは、深まる寒さに身を震わせた。
 目一杯の厚着はしたつもりだ。装備も万全。……のはずなのだが。

「ひゃー、でも寒いーっ!」

 あたりは秋を通り越して、冬を先取りだ。
 そうして震えていると、噂の妖精たちがやってきた。

「こんにちは! どうぞよろしくね」
 指先に止まってくれた個体に、語りかける。
 具体的な返事があったわけではないが、嬉しがってくれているのが伝わる。

 それにしても、この可愛さはどうだろう。まるで、ぬいぐるみ……。

「そうだ、君たちのぬいぐるみを作ってみてもいい?」
 少なくとも嫌がられてはいないようだった。

 手袋を外せば指はかじかんだが、そこは技術でカバーだ。
 白いハンカチを材料に器用に目や嘴を刺繍する。

「じゃん! どうかな、似てる?」

 妖精たちは興味深げに覗き込んだり、同じポーズをとったりしている。
 どうやら評判は上々のようだ。

「かわいい……ね」

 聞き慣れた声にハーヴィは振り向いた。

「あ、師匠!」
 袋を抱えたユズ(占いの師匠)が手を振っている。
 隣には銀髪の女性。
「サシャです。ぬいぐるみ、とても素敵」
「みんなで一緒に、ご飯食べたの……ハーヴィにもおみやげ」

 ユズが手渡してくれた包みの中身は、大好物(アップルパイ)だった。
 しかもホールだ!

「わあっ! ありがとうございますっ!
 そうだっ、妖精さんと一緒に食べましょうよ!」

 寒さには閉口したが、三人は妖精と共におやつタイムを楽しんだのだった。

●
「謎はすべて解けた」

 雪の妖精の居住地でひとり、ハッタ・ムラムラは呟いた。

 わざわざ秋に、半裸でここに来るとは。
 おそらく不審者たちは、あえて寒さを好む修行者なのだ。
 サウナで極限の熱に肌を晒した後、氷室で引き締める修行に違いない。
 そうして、またサウナへと戻るサウナーなのだ。

 実のところ、ハッタはその行為を好ましいとすら思った。
 GP教徒としては、素晴らしい(バランスが取れている)と認めざるを得ない。

「だがまだ早い!」

 どうせなら、真冬にやるべきではないか。
 ならば、おれが導いてやらねばなるまい。
 サウナで待てば、奴らは必ずや姿を現すはず――。

「すまん、サウナは何処にある?」
「おいおい。ここ(居住地)にサウナなんて、妖精さんに迷惑だろ」
「むう」

 ――結局。
 ハッタは「要は寒暖差のバランスだろう」と判断した。
 結果、彼は付近で一番暖かそうな場所を訪れた。
 すなわち冒険者ギルドが用意した仮設休憩所である。

「っかー!」
 そこで用意された温麦酒を痛飲した。
 ――なあに後で禁酒すれば問題ない(バランスはとれる)。

●
「かわいい妖精さんに何かあってはいけません!」
「はい、その通りです!」
 ララノアとラティア・ミゼリアは両拳を固め、気合を入れた。

「怪しい奴ねえ……」
 一方、エミリアの方はイマイチ懐疑的である。
 それより問題なのは……。

(この二人で、半裸の男の捕縛? まあ、全裸じゃないだけ……)

 とはいえ彼女もそれなりに真面目に警備をするつもりはある。
 足に自信はあるし、自分がフォローすればいいだろう。

「それじゃあ、おねえさんが高所から様子を見るから……」
「へ、わ……あ、あのあの、み、見ちゃ……」
 早速、ラティアの様子がおかしい。

「えっ、まさかもう!?」
 鷹のごとき射手の目は、予想より早く目標を見出してしまったらしい。

「ラティア様、一体どうし……イヤァァアッ!!」
 ララノアの方も、運悪く気づいてしまったようだ。

 木立の向こうの、半裸にパン仮面の男は三人。
 数は対等でも、こちらの二人は使い物にならない。

 エミリアは、プランBを発動することにした。
 ――すなわち。

「たすけてーマザキヤ仮面~~!」

「お呼びとあらば、即登場! マザキヤ仮面、見ッ参!!」
 シャキーンだかキュピーンだかのSE(効果音)と共に、援軍が降り立つ!

「マザキヤ仮面さああああん!」
「ふぇーん、マザキヤ仮面しゃまぁぁ!」
 ラティアとララノアは、涙目で駆け寄った。

「どうした、お嬢さんたち」
「不審者よッ! 捕まえるの手伝って!」
「むむっ」

 マザキヤ仮面は木立の向こうを見やり――。

「……ちょっ、何やってんですか!」
「おお、しぶちょ……いやマザキヤ仮面」
「アンタら雁首揃えて……いや予想はしてたけど!」
「不審者だと!? 一体どこに」「大変だ!」
「自覚ないのか! 何か着ろ! 風邪ひきますよ!」

 突然、ひそひそ話を始める仮面の男たち。
 エミリアは、それを半眼で眺めた。

「ふう……彼らは私が、小一時間ほど問い詰めておく!」
「うん。ご苦労様……」

「では、さらばッ!」
「あ、ちょっと待って下さいまし――」
 去ろうとした彼をララノアが呼び止める。

「て、テリーズ……とら、トリュース……なのでしゅっ」
 なんともいじらしい、乙女の挨拶ではないか。

「テリーズ・トラ・トリュース!
 見苦しいものを見せて済まなかった。お詫びにこれを」

 マザキヤ仮面は顔のパン仮面を外し、ララノアに渡した。
 ――まあ、下にはいつもの仮面もつけていたのだが。

「えっ、いいのでしゅか……」
「もちろ――」
 言いかけて視線を感じ、マザキヤ仮面は振り向いた。

「テリーズ・トラ・トリュース……」
 おずおずとラティアが言った。

「あ、いやちょっと待って」
 マザキヤ仮面は、もう一度パン仮面を手元に戻す。
 その後、器用にも膝蹴りでソレを真っ二つにした。

「やっぱり、仲良く分けないとな」
「いやそこは、もう一つ渡すとこじゃないの?」
「だって籠、忘れちゃって……」
 しまらない男である。

「……で、おねえさんには?」
「……後でなんか考えときます」

●
 サマエラ=フォリウムは油断なく見回りをしていた。
 動きやすさを重視し、防寒着は採用していない。

(今回は水着ではないし、平気だろう)
 フラグである。別の意味で油断だし。

 それはそれとして、サマエラは順調に不審者を発見した。

「なるほど……そうか……お前は『保護対象』だな、さぁこっちだ」
「ありがとう、寒くて死ぬとこだった……!」

 男は街の住人だった。というか、よくよく話を聞けば。
 氷室の利用割合を決めるために、各種組合が賭けをしたのだという。
『妖精ちゃんと、どこが一番仲良くなれるかで決めよう!』
 とまあ、そんな理由で妖精の気を引きたい半裸が量産されたらしい。

「まったく世話のやける」
 サマエラはため息をついた。
 ――そして、ビシリという嫌な音を聞いた。

 ジュリリ。

 いつの間にか肩に、鈴なりに妖精たちが止まっている。
 その部分は既に真っ白に凍てついていた。

 無下に追い払うこともできず、みるみる体に冷気が凍みてくる。
 薄れるサマエラの意識に、なんだか偉そうな声が呼びかけてきた。

『まったく世話のやける』

 言い返したい気もしたが、そんな元気は残っていない。
 声に導かれ、ふらふら歩くうち、サマエラは妙なものを見た。

 女性と、もふもふのパンダが大酒をかっ食らっている。
 きっと、あれは温かいに違いない――。

●
 こうして密やかに、半裸の不審者たちは妖精の居住地から姿を消した。

「いーかげんにしてくださいよっ!? アホか、アンタら!!
 こんな事ばっかやってると、トンチキな街だって噂が立つじゃないですか!」

 留守だったはずの冒険者ギルド支部長がキレ散らかしている。
 その前に、毛布に包まったまま正座しているのは男性(オッサン)三人――。
 パン職人組合長、醸造組合長、狩猟ギルド長である。

「いやあ、たぶん今さらじゃないですかねえ」
「あとひと月もたてば、でっかいパンを引き回して大喜びする街ですよ」
「冒険者たちも沢山呼べて、まつりも盛り上がった。結果オーライじゃないですか」

「少しは、反省、しろっ!!」

 ツッコミを入れつつ、きっとまたロクでもない事がおきるんだろうなあ。
 ――そんな予感が拭えない支部長なのであった。

マスターコメント

 おまたせしました。  マザキヤ 秋のパンまつり、いかがでしたでしょうか?  楽しんでいただければ幸いです。  例のごとく字数の関係上、称号でさしあげたものを受け取るシーンがない方も多いのですが、そのあたりは脳内補完でよろしくお願いします。  あと、一部の方は物品じゃないものを受け取ってたりします。  コメディタグをつけつつ、色々と伝承方面に触ってくださった方には、あれこれをチラチラ出したりも。  そのへんにメインで触るシナリオも、また出したいですね!  別途、冬には二周目のパンまつりシナリオも出すと思いますので、どうぞよろしく!
イベントシナリオ

イベントシナリオ易しい 報酬:多い25 / 4〜25人

2021年11月05日 23時30分24秒 公開

大成功

相談掲示板

  1. マザキヤ仮面

    テリーズ・トラ・トリュース! 冒険者ギルド マザキヤ支部へようこそ! 心おきなく楽しんでいってくれたまえ! 一応言っとくけど、パン仮面をかぶっても人間やめれませんからね! ウリィィィィ! あと違うデザインのも街に売ってるから、ポイント稼ぎがてら買いに出るのもいいんじゃないかな!

  2. ギャメル

    ギャメルだ、よろしくな! 観光でパンを買うか、闇落ちしたかのようなマザキヤ仮面の姿を見て愕然としようと思ってるぜ。

  3. ユズ

    えと、ユズ。……よろしく。 マザキヤ仮面、……気になる。呼んでみたい、けど、ちょっと、怖い。 ……一緒に呼んでくれる同士、募集中。

  4. エルシー・サリバン

    エルシーだよ、よろしくねー。 ポイントを集めてお皿を貰うつもりだよ。 と言っても、狙いは美味しいパンの食べ歩きと、日持ちするタイプを手土産にするの。 ユズさん、良かったら 「マ・ザ・キ・ヤ・仮面さーーんっ!」って一緒に呼ぼうか?

  5. エルシー・サリバン

    連投ごめんよー。 食べ歩きでシェアしてくれる同行者を募集中だよ。 一人だと数個でお腹一杯に成っちゃうから……色々な種類を食べたいなって。 美味しさも分けて一緒に食べたら倍に成ると思うの、検討してねー。

  6. ユズ

    >エルシーさん ……いいの? 良かったら、お願い、したい。 シェアも……小食でも大丈夫、なら、混ざりたい、な。

  7. ハッタ・ムラムラ

    ハッタだ。世話になる。

  8. アルマ・ヴァレンタイン

    アルマだよ、どーぞよろしくねー 今回は観光にいくつもりだよ せっかくだから、エルシーさんの食べ歩きにご一緒させてもらっても大丈夫ー?

  9. エルシー・サリバン

    OK~、ユズさん一緒に叫ぼうねー!食べ歩きに参加もありがとう~。 アルマさんもありがとうだよー!3人でなら色々と食べられるねっ。 もっと増えたらもっと食べられるから、飛び入り歓迎、同行タグ【シェア】で それっぽい内容を考えるので、色々と食べたい方はご検討下さいな。 今のところこんな感じで考えてるよ。 《観光しながら多種パンを分けて味わうの、これで小さい胃も欲張りな胃も安心》

  10. ハーヴィ

    ハーヴィだよ、よろしくね! 雪の妖精さん達と交流したいなって思ってるよー。寒そうだからモコモコに着込んでかなくちゃ。

  11. アルマ・ヴァレンタイン

    エルシーさん【シェア】タグ準備もあわせてどうもありがとー ユズさんや飛び入りのひとも現地でよろしくねー

  12. マザキヤ仮面

    冒険者諸君! 今季も沢山のご参加ありがとう! ところで、そろそろ出発の準備はよろしいかな? 忘れ物のないように気をつけてくれたまえ!

  13. ライオネル・ギシュム

    ライオネルだよ!よろしくね。 エルシーさんタグありがとー! 俺も参加するよ!皆で楽しもー!

アーカイブ生成日時 2026年08月05日 14時56分25秒 ・ world0