イメージノベル『シルトラース帝国崩壊』6

レイウェスト・バルダス

帝都の崩壊。それに引き続いた、帝国の崩壊について。あくまでも、私が目にしたものに限るが……。
できる限り、詳細に話すつもりだ。長くなるかもしれない。それでもよければ……

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「この状況で、おそらく帝都から現れたであろう貴方たちの身の潔白を信じることができなかったのさ」

 そう――やけくそ気味に――言い放ったウィリアムは、両手を掲げて害意が無いことを示したまま、続ける。
「僕としては、内部の情報は喉から手が出るほど欲しい……のだけれども、まずは、レイウェスト殿下。貴方が気にしているであろうことを、先に話すよ。少しは心証がよくなると良いのだが……」
 レイウェストは緊張とともに、言葉を待つ。ようやくだ。ようやく――手が届く。光無き混迷の中にあったレイウェストが、渇望していたといってもいい、この災禍の中での、新しい情報が。

「ヴァイセントラフ砦は、未だ健在だ」


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 その言葉を聞いて、レイウェストは安堵から崩れ落ちそうになった。緊張と過労。まともな睡眠も取れていない状況で得た、唯一の光明だった。けれど――まだだ。まだ、駆け引きを止めてはいけないと、皇族の感性が訴えている。平静を装って続きを待っていると、ウィリアムは我が意を得たとばかりに、にこやかに続けた。

「帝国南方の都市を中心に無数の難民が押し寄せていて、彼らを追うクリーパーへの対応、難民の救助と受け容れで、すでに砦としての機能は破綻しきっているけど……やはり、帝国士官は優秀だね。王国側にはそうと気付かれないように、総力をあげて対応にあたっているよ」

 ――民が、生きていた……!
 その事実が、レイウェストの裡(うち)に焔を宿した。枯れ枝のような、拠り所のない使命感だけに突き動かされていたレイウェストにとって、目も眩むほどの、熱。まだ、往ける。彷徨い歩いていたこの道程に続きが在るのだと知って、レイウェストの瞳に爛々たる意思の光が宿る。
 ただし。急速にめぐり始めたレイウェストの思考のなかで、疑問が生じた。
 難民の規模は、ここまでの道程で理解ができるところだ。しかし、

「……では何故、ウィリアム殿下と部下たちが今、ここに居るのですか?」
 ウィリアムたちの浸透が、早すぎること。その問いに、ウィリアムは快活な笑みを浮かべた。悪戯な、とも言うべきだが。
「うん、良い質問だね。これは、できればあまり漏らして欲しくないのだけど……」


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「……ヴァイセントラフ砦に、潜入した!?」
「ああ。ヴァイセントラフ砦に不穏な動きがある、というのを察知したからね。たまたま、アーチボルト辺境伯とお茶をしていた僕は、調査に乗り出したのさ」
 レイウェストの驚嘆に、ウィリアムは得意げに応じる。本当に内密にしてほしいのか疑わしくなるような、会心の笑みだった。
「で、まあ、こっそりと侵入してみたらすさまじい状態だった。突如街に表れたクリーパーたちに追われ、砦まで逃げ込んだヴィントの難民たちは怯えきっているし、数が多いから砦中に犇(ひし)めいている。ヴァイセントラフ砦の兵士たちは、王国側への哨戒を強めつつも、同時に彼ら難民の受け容れのためのクリーパー掃討と救助、受け容れ準備を進めていた。王国(僕たち)に気づかれないように平時通りを装いながら、ね。ただ――平原は兵と民の血で染まり、辛酸極まる戦場そのものと言っていい光景だったよ。実際に入り込むまで予想もしていなかったから、このあたりにも、指揮官であるバルディオン殿の優秀さは伺えるけれど」

 ヴィント、とは、ヴァイセントラフ砦にもっとも近い都市の名だ。ウィリアムはそのまま、それでね、と。軽い調子で、こう言った。
「王国側からは山脈が邪魔して見えなかったけれど、ヴァイセントラフ砦にたどり着いたら事態の異質さがひと目でわかった。ヴァイセントラフ砦から向こう、大平原には、紫雲が巻き上がっていた。あるいは――霧、というべき、かな」
「霧……」
 そんなもの、どこに、と言おうとして、レイウェストは目を見開いた。
 粘質な、風。帝都に異変が生じたあの時から、レイウェストの身に張り付いている、この感触。
「帝都の方角から迫ってくる霧は、災禍に襲われたヴィントの民たちにとって不吉の象徴だった。クリーパーの出現とほぼ同時期に湧き上がり――ヴィントまで迫ってこようとする暗雲を避けるように、彼らはヴァイセントラフ砦まで逃げ込んだのさ。『僕たち』は彼らと逆行する形で霧の中に入り、ヴィント以外からも押し寄せる難民たちと――彼らを追うクリーパーたちの対応をしながら、内部の探索をしていたんだ。この霧は妙な特性があるようだから、授恵者ならぬ彼らには、辛い道程だっただろうけど……ともあれ、そこで、貴方たちと出会った。帝都にいたであろう、レイウェスト・バルダス殿下とエフレム殿とね」
「……それは、」
 そこで、レイウェストの理解が追いついた。ウィリアムのこれまでの言葉に、こちらへの疑念。彼らにとって、自分たちは。

「ああ。この霧の中、帝都からここまでたどり着いた貴方たちは、この事態の被疑者でもあったのさ」
 気を悪くしないでくれよ、と。ウィリアムの言葉に、レイウェストはしばしの間、言葉を継げずにいた。
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アーカイブ生成日時 2026年08月05日 14時56分25秒 ・ world0