【黄金像】魅惑のコスプレパーティ~異性装ともふもふ
おおくまねこ
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シナリオID:2857
オープニング
●出資者は無理難題をおっしゃる?
「よしよし、黄金像も完成間近ですわ……当選から半年……あっという間でしたわね」
生徒会長室の窓(嵌め殺しではなくなった)から外の景色を眺め、パーシアはぽつりと呟いた。いよいよ来月で五年生も終わり、来月は入学式。新しく入学してくる新入生たちはきっとウィリアム黄金像の荘厳さに涙するだろう(個人の感想です)。
「パーシア様、そろそろ面会の時間です」
「あら、ラズリー。もうそんな時間ですの」
今日は黄金像に多額の寄付をしてくれた貴族である、ラーザニア子爵夫人とマッキンガー伯爵夫人との面会の日だ。パーシアの方から出向いても良かったのだが、学生であるパーシアに気を使ってくれたらしく、向こうからわざわざ学園にまで出向いてくれたのだ。
(さて、何を頼まれるのやら)
パーシアは高確率で夫人達から何か頼まれるのではないかと予想していた。寄付自体はもちろん無償だが、貴族社会において、「貸し借り」というのはメンツを保つ上で重要な要素である。いずれ何らかの形でリターンを求められることは予想していた。断れば家名に傷がつく。さすがにどこぞの悪趣味な成金のごとく、命がけのギャンブルをやらされることはないだろうが。ただ、二人は王国貴族の中ではやり手で勇名……というか、夫を陰で操っている「強い女」で有名なコンビだ。一体何を頼まれるのだろうか……。
「まあ、お二人とは気は合うかもしれませんね、パーシア様なら」
パーシアの秘書、ラズリーは戸棚にあった最高級のお茶菓子を用意しながらコメントした。
「何言ってやがる。アタシは夫はちゃんと立てる奥ゆかしいタイプだぞ」
「それ、ウィリアム王子と結婚する前提で語ってません? 婚約者をシメて、婚約破棄されたのはどこのどなたです?」
「……そんな昔の話は忘れちまったよ」
●
「この度はわざわざお越しいただきましてありがとうございます、マッキンガー伯爵夫人、ラーザニア子爵夫人」
「お久しぶりですわね、アイオーラ生徒会長」
「お顔を合わせるのは初めてですわね。私も一度あなたとお話したいと思っておりましたの」
淑女二人との面談は雑談から始まり、なごやかな雰囲気で進んだ。
「――ところで、パーシア様にお願いがありまして。実はわたくしたち、王都でこのようなパーティを企画しておりますの」
(来た!)
貴婦人達が取り出したのは王都で開催予定の仮装パーティの企画書だった。
「「テーマは異性装ともふもふですわ」」
「なるほど、異性装と……もふもふ?」
「ええ、モフモフです。私、こう見えて可愛らしい生き物が大好きですの。できればこのイベントにもハーフビーストをたくさん招きたいと思っておりますが、私が声をかけてもあまり平民は集まりそうにないので、顔の広い生徒会長さんにぜひお力添えをいただきたいの」
ラーザニア子爵夫人は少女のようなピュアな瞳でパーシアを見つめてきた。
「授恵者の方々はなぜか男女共に見目麗しい方が多いと聞きます。アイオーラさんは冒険者のお知り合いも多いでしょう。大きな声では言えませんが、私、異性装は素材の良さにもこだわりたいのです」
マッキンガー伯爵夫人は熱く拳を握る。パーシアは知らなかったが、マッキンガー伯爵夫人は冒険者を自身の主催する異性装コンテストに引っ張り出す為に、狂言の怪盗事件まででっち上げたことがある女だった。
「「生徒会長、どうか私達に協力して下さいませんか?」」
(まあ、こないだのアレと比べりゃあ、全然楽勝だな)
「ええ、もちろん協力させていただきますわ」
パーシアは満面の営業スマイルを浮かべた。
●
「なんかパーシアの取り巻きが変なビラ配ってたわよ、校門の前で」
「ええ、知っておりますわ。仮装パーティのお知らせですわね」
マリリンは噂のチラシを机の上に置いた。ちなみにマリリンが通りかかった際、パーシアの手下はわざとらしく彼女を無視したのだが、マリリンは頑張ってチラシをむしり取った、というしょうもない一幕もあった。第二演劇部と第三演劇部はとにかく仲が悪いのだ。
「パーティ、マリリンも行く?」
「ええ。あの●●縦ロール(淑女イメージ補正の為、一部伏字)はともかく、パーティ自体はとても楽しそうですものね!」
「よしよし、黄金像も完成間近ですわ……当選から半年……あっという間でしたわね」
生徒会長室の窓(嵌め殺しではなくなった)から外の景色を眺め、パーシアはぽつりと呟いた。いよいよ来月で五年生も終わり、来月は入学式。新しく入学してくる新入生たちはきっとウィリアム黄金像の荘厳さに涙するだろう(個人の感想です)。
「パーシア様、そろそろ面会の時間です」
「あら、ラズリー。もうそんな時間ですの」
今日は黄金像に多額の寄付をしてくれた貴族である、ラーザニア子爵夫人とマッキンガー伯爵夫人との面会の日だ。パーシアの方から出向いても良かったのだが、学生であるパーシアに気を使ってくれたらしく、向こうからわざわざ学園にまで出向いてくれたのだ。
(さて、何を頼まれるのやら)
パーシアは高確率で夫人達から何か頼まれるのではないかと予想していた。寄付自体はもちろん無償だが、貴族社会において、「貸し借り」というのはメンツを保つ上で重要な要素である。いずれ何らかの形でリターンを求められることは予想していた。断れば家名に傷がつく。さすがにどこぞの悪趣味な成金のごとく、命がけのギャンブルをやらされることはないだろうが。ただ、二人は王国貴族の中ではやり手で勇名……というか、夫を陰で操っている「強い女」で有名なコンビだ。一体何を頼まれるのだろうか……。
「まあ、お二人とは気は合うかもしれませんね、パーシア様なら」
パーシアの秘書、ラズリーは戸棚にあった最高級のお茶菓子を用意しながらコメントした。
「何言ってやがる。アタシは夫はちゃんと立てる奥ゆかしいタイプだぞ」
「それ、ウィリアム王子と結婚する前提で語ってません? 婚約者をシメて、婚約破棄されたのはどこのどなたです?」
「……そんな昔の話は忘れちまったよ」
●
「この度はわざわざお越しいただきましてありがとうございます、マッキンガー伯爵夫人、ラーザニア子爵夫人」
「お久しぶりですわね、アイオーラ生徒会長」
「お顔を合わせるのは初めてですわね。私も一度あなたとお話したいと思っておりましたの」
淑女二人との面談は雑談から始まり、なごやかな雰囲気で進んだ。
「――ところで、パーシア様にお願いがありまして。実はわたくしたち、王都でこのようなパーティを企画しておりますの」
(来た!)
貴婦人達が取り出したのは王都で開催予定の仮装パーティの企画書だった。
「「テーマは異性装ともふもふですわ」」
「なるほど、異性装と……もふもふ?」
「ええ、モフモフです。私、こう見えて可愛らしい生き物が大好きですの。できればこのイベントにもハーフビーストをたくさん招きたいと思っておりますが、私が声をかけてもあまり平民は集まりそうにないので、顔の広い生徒会長さんにぜひお力添えをいただきたいの」
ラーザニア子爵夫人は少女のようなピュアな瞳でパーシアを見つめてきた。
「授恵者の方々はなぜか男女共に見目麗しい方が多いと聞きます。アイオーラさんは冒険者のお知り合いも多いでしょう。大きな声では言えませんが、私、異性装は素材の良さにもこだわりたいのです」
マッキンガー伯爵夫人は熱く拳を握る。パーシアは知らなかったが、マッキンガー伯爵夫人は冒険者を自身の主催する異性装コンテストに引っ張り出す為に、狂言の怪盗事件まででっち上げたことがある女だった。
「「生徒会長、どうか私達に協力して下さいませんか?」」
(まあ、こないだのアレと比べりゃあ、全然楽勝だな)
「ええ、もちろん協力させていただきますわ」
パーシアは満面の営業スマイルを浮かべた。
●
「なんかパーシアの取り巻きが変なビラ配ってたわよ、校門の前で」
「ええ、知っておりますわ。仮装パーティのお知らせですわね」
マリリンは噂のチラシを机の上に置いた。ちなみにマリリンが通りかかった際、パーシアの手下はわざとらしく彼女を無視したのだが、マリリンは頑張ってチラシをむしり取った、というしょうもない一幕もあった。第二演劇部と第三演劇部はとにかく仲が悪いのだ。
「パーティ、マリリンも行く?」
「ええ。あの●●縦ロール(淑女イメージ補正の為、一部伏字)はともかく、パーティ自体はとても楽しそうですものね!」
解説
舞台:リーンエス王国王都グランスパーダ・大きな洋館
目標:グランスパーダで行われる仮装パーティに参加する。
状況:
ウィリアム黄金像事業に出資した貴婦人たちが生徒会長パーシアに、自身が主催する仮装パーティへの協力を呼び掛けてきました。パーシアは義理やら貴族のメンツやらで夫人への協力を受諾し、大々的に学園生や冒険者達にパーティ参加を呼び掛けています。
●仮装パーティについて
王都内の大きな屋敷で開催されるパーティです。参加費無料。ドレスコードは種族が獣人であるか、「動物テーマか異性装テーマの仮装をしていること」です。衣装の貸し出しはないです。
●登場NPC
パーシア
生徒会長。異性装コーナでウィリアム王子のコスプレをしている。ウィリアムの武勇伝(前回の吸血鬼退治でも、それ以外でも)を聞きたがっている。第二演劇部部長なので頼めば衣装の用立ても可能。
マリリン
先代の生徒会会計。執事コスでパーティに参加。基本常識人だが今回はちょっと羽目を外し気味(後述)。第三演劇部員なので頼めば衣装の用立ても可能。
過去登場シナリオ:
「【謀都】謀略のマスカレード」ほか多数
ユリア・ロイヤルホスト
学園の一年生。都市伝説研究部所属。学園のトイレに出るという噂の幽霊のコスプレをしている。
マリリンと誘拐被害談義(二人共トラウマではなく持ちネタになった模様)で盛り上がっている。
過去登場シナリオ:
「ローザリカのドキドキ★バニー大作戦」
アリエス・クレスト
新米王国騎士。有事の保険として送り込まれた。客に紛れてこっそり会場内をパトロールしている。男装しているので分かりづらい。なお、実際に有事が起こることはない。
過去登場シナリオ:
「【怨都】没落貴族アリエス、王国騎士を志す」 ほか
マッキンガー伯爵夫人
ホストその一。異性装マニアの貴婦人。本人も男装している。ちなみに護衛として連れている男装の少女はかつて「怪盗チョモランマ」と呼ばれた者である。
過去登場シナリオ:
「怪盗チョモランマの挑戦! 男装女装コンテスト!?」
ラーザニア子爵夫人
ホストその二。ハーフビーストマニアの貴族。モフモフしている生き物が大好き。「夜のマナズィール」などの異種族恋愛もののドゥジンシにも理解がある。
過去登場シナリオ:
「【西局】モフモフ民族に迫る死霊の影」
※その他のおおくまねこの過去シナリオに登場した学園所属NPCもプレイングの内容次第で登場する可能性があります。
マスターより
こんにちは。おおくまねこです。黄金像はもう完成間近となっておりますが、今回は出資者への義理立てということで、コスプレパーティへの参加を生徒会長が広く呼びかけています。報酬も出てないので今回は完全にオフです!
王国在住のNPCがなんかたくさん会場におりますが、懐かしい顔ぶれも混ざっており、全員を知ってる方は恐らくおりませんので、思い思いの時間を過ごしていただければ。
リプレイ
●
「異性装ですか。義兄様の服、はサイズが合わないでしょうね……」
パーティの招待状をもらったレティシア・レインフィールは着ていく服装について思案していた。家族の服を借りられれば一番てっとり早いのだが、淑女として無断で拝借するのはよろしくない。何より、レティシアのグラマラスな母性の象徴がそれを許さないのであった。
「ここは、パーシア様にご相談してみましょうか。彼女なら男装の方法もご存じでしょうし」
パーシアに相談したところ、第二演劇部の部長でもある彼女はやはり胸に負担をかけない巨乳の隠し方についても秘術を習得していた。パーシアに手伝ってもらい、パーシア式の隠し方をやってみたところ、レティシアの大きな胸もそれなりに平面に見えるようになった。肩の方から厚みを出すことで、段差をなくすのがコツらしい。
……。
パーティ会場でパーシアと再会したレティシアは、衣装のお礼にパーシアにウィリアム王子の武勇伝を語り聞かせることにした。
「パーシア様。そういえば、先日(仕事で)ウィリアム王子殿下とご一緒したのですが……」
「ご、ごごごごごご一緒したのですか!? どこへ!?」(ガシッ)
「い、いえ。その、吸血鬼の屋敷に……冒険者としてのお仕事です」
「ああ、そうなのですね。レインフィール先輩、脅かさないでくださいませ。そのお話、ぜひ詳しく」
「あの、パーシア様、お顔が近いのですが……」
レティシアは食い気味のパーシアに困惑しつつ、ウィリアムと吸血鬼の戦いの際の様子を話した。
「黄金像への寄付については、自身の像なら手を貸すのは当然と仰られておりました」
「ああ、ウィリアム王子……! なんと謙虚な……!」
(……謙虚、なのでしょうか? あの殿下が?)
「ウィリアム王子のお話、ありがとうございます。やはり王子は輝ける星のようなお方なのですね」
「将来、パーシア様がもし殿下のお力になりたいと願うのでしたら、ヒーラーとしての力を磨かれるのもよろしいかもしれません。勿論、本来の貴族としての務めを果たすのも重要ではございますけれど」
●
「貴族の方の主催のパーティは少し緊張しますね……」
パーティ会場にやってきたゲルダ・クラインは豪華絢爛なパーティ会場の雰囲気に少々固くなりつつも、しっかりとした礼儀作法でパーティに溶け込んでいた。なお、服装は動物テーマの方を採用し、猫さんのつけ耳とつけ尻尾である。ちなみに身長が小さいため、一般参加者や使用人には子供だと思われているようだ。
「パーシア様はどちらにいるのでしょう……仮装パーティなので探すのは難しいかも……あ、いましたね」
ゲルダが生徒会長パーシアを探すと、彼女はすぐ見つかった。パーシアはぶかぶかの鎧を着て、ウィリアム王子になりきっていた。
「パーシア様、ごきげんよう」
「あら、クラインさん。ごきげんよう」
スカートをつまみ、ゲルダが丁重に挨拶すると、パーシアは貴族男性式の優雅な挨拶を返してくれた。
「黄金像の建造のお手伝いできて光栄でした。最初は戸惑いもあったけれど、いろんな障害を乗り越えて、いろんな方々と力を合わせて作り上げた黄金像を誇らしく思っています」
「ありがとうございます。クラインさん。約半年、色々なことがありましたわね。ここまで来れたのは、皆様のお陰ですわ」
ゲルダの言葉に、パーシアは淑女らしい微笑みを浮かべた。
「よろしければ、ウィリアム王子のお話を聞かせてくれませんか? 好きな人のお話、好きなんです」
「ええ、もちろんよろしいですわ。でも、そのお話は長くなりますわよ?」
ゲルダはパーティがお開きになるまでの間、パーシアと恋バナを語らったのであった……。
●
「愛猫とお揃いにしたくて作った物がまさかこんなところで役に立つとは」
ニャピド……じゃなかった、レピド・クロサイトは愛猫ショウガを模した秘蔵の着ぐるみ「まるごとショウガ」を着込んでパーティに参加していた。
「……とはいえ、さて何をすれば良い物か」
レピドは以前にも仮装パーティに参加したことがあるが、その際は仕事であり、メドゥの指先との関与が疑われる者の調査が目的だった。しかし、今回はいたって平和なパーティのようだ。仮に犯罪者が混ざっていたとしても、確実に王国にマークはされているであろう、このパーティで事件など起こさないだろう。
「私の時はバニーの妖精さん達が助けに……」
「まあ、バニーの妖精さん。もしかして、私もその方達を知っているかもしれません!」
「おや……あれは、マリリンに……ユリア、だったか。元気そうだな」
レピドは見知った顔を発見し、安堵の表情をした。あの二人は奇しくも誘拐被害者だ。この場で楽しそうに談笑しているということは、心に傷が残ったりもしていないのだろう。レピドは友達と話している所に割り込むのも気が引けたので黙ってその場を離れたが、レティシアが静かに彼女たちに歩み寄り、二人に何事かを囁いているのが見えた。
「凄いな……さすが王都のパーティだ」
参加者の中にはカカポや馬など、人間離れした仮装を披露している者もいた。
「俺も何か芸でもしてみようか。主催者に確認してみよう」
レピドが主催者の夫人達を探していると、 貴婦人がレピドに笑いかけてきた。ちょうど、探していた主催者の一人である女性だった。
「素敵な着ぐるみですわね。どちらのお店でお買いに?」
「ラーザニア子爵夫人……これは、店で買ったものではないんだ。この衣装は『まるごとショウガ』と言って、俺の飼い猫のキジトラが……」
「まあ、飼い猫ちゃんがモチーフですのね! 素敵ですわ。今日は飼い猫ちゃんは連れてきておりませんの?」
「こういうパーティでは動物はダメだと思っていた」
「そういえば、『アリ』とも招待状には書いておりませんでしたわね。次回からペットOKも記載するようにいたしましょう。ところで、着ぐるみの背中はどうなっているのかしら? もっとよく見せてくださいな……」
ラーザニア子爵夫人に掴まったレピドは、貴婦人とのもふもふ談義に花を咲かせた後、横笛の演奏を披露した。
●
「これで良かったのでしょうか……」
執事服に身を包んだリディリディ・トゥラ・イェレミースはため息を吐いた。この衣装は知人の演劇部員、マリリンに借りたものであるが、リディリディの豊かなバストのせいで胸元はぱつんぱつんになっており、「男装」というにはかなり無理のある感じになっていた。それはリディリディ自身もわかっており、すれ違うヒューマン達(主に男性)もリディリディをじろじろと見てきたので、リディリディも何度もため息をこぼすのであった(衣装を貸してくれたマリリンも「いいなあ……」とため息をついていた)。会場に来ている胸の大きな知り合いは割といるのだが、パーシアやレティシアはいかなる秘術を駆使したのか、しっかり男装ができていた。
「あ、リディリディさん。ご機嫌うるわしゅう」
「あ、マリリンさん。えっと……ご機嫌うるわしゅう」
会場でばったりマリリンと会ったリディリディはマリリンの仕草を真似、執事風の挨拶を返した。礼と共に胸が揺れ。会場の視線が集まる。
(やっぱり変ですよね……)
「そういえばリディリディさん、あっちで豚の丸焼きがテーブルに出てましたよ。取材に行かれては?」
「確かにそれは取材が必要ですね。ありがとうございます」
覇気を取り戻したリディリディは、ふらふらとおいしそうな料理を乗ったテーブルへと吸い寄せられていった。その後、会場では一心不乱に肉を貪り食う執事服を着た胸の大きなエルフが目撃されたそうである。
●
ベルク・オスマットは招待客だったが、なぜか給仕に紛れ、スタッフとして活動していた。理由は単に華やかなパーティーに参加する側に慣れていなくて給仕する側が性に合っているからである。つまりは、単なる趣味と本能だ。幸い、主催者のラーザニア子爵夫人はハーフビースト贔屓だったので、臨時スタッフとして鶴の一声で採用されてしまった。その代わり、採用試験になぜかボディタッチがあり、尻尾と耳をもふもふされてしまったが。
「ベルクさん、お肉、お代わりお願いします」
「はいはい、ただいま」
投げやりな口調で変わりの皿を運んでくるベルク。それというのも、この執事服のエルフはもう十皿以上食っているからである。このパーティは客の中にも執事服やメイドが一定数混ざっているのでややこしいが、さすがにこのエルフは客の方でいいのだろう。というか、何度も見たことあるし。
「ベルク、この『お父さんのパイ』のお代わりをもらいたいのだが……」
「了解だ」
今度はキジトラマンの要請に応え、ベルクは厨房へと駆けて行った。
「ふう。ちょっと落ち着いてきたな」
一仕事終え、汗をぬぐうベルク。その時、彼女の視界を決して捨て置けないものが通過した。
艶のある長い髪に、帝国皇族の衣装。レイウェスト・バルダスのコスプレイヤーだ。それはまあ、別によい。瞳の色や大陸一とも謳われる顔の造形は再現できなかったようだが、そこは仕方ないだろう。衣装の再現度は高く、むしろよく勉強しているしている方だ。だが、ベルクが流せないのは、レイウェストのコスプレをしている者の性別だ。ベルクの目には、元々の性別は男性に見える。
「ふふふ……あれが女装なのか男装なのか、あの者に確かめねばなるまいよ」
ベルクは狂気を孕んだ笑みを浮かべ、コスプレイヤーへと突撃していった。
●
「まぁ、これが無難だよな」
タヌキの耳カチューシャと尻尾で仮装したナキルは、トコトコとパーティ会場を歩いていた。
「知り合いもいそうだな。学園でチラシ配ってたし……誰かいねえかな?」
ナキルがきょろきょろと周囲を見回すと、見知った顔の二人が視界に入った。
「最初に好きになったのはあの方のどこですか?」
「実は……顔なんです。不純だとお思いになられますか?」
「いいえ! 人それぞれだと思います! 正直ですね、パーシア様」
「お、ゲルダ姉ちゃんと新生徒会長だ。そういえば、就任してからちゃんと挨拶してなかった気がするな。せっかくだし、挨拶しとくか」
ゲルダと何やら盛り上がっているパーシアを発見したナキルは、二人へと近づいていく。代替わりの前にナキルは先代生徒会長と共にパーシアと少し話したことがあるが、その際はかなり特殊なシチュエーションだったため、まともな会話だったとはいい難い。というか、無礼打ちレベルのすごい失礼なことを言ってしまったような気もする。
「あ、ナキル様。こんにちは」
「あら、全力失……じゃなかったナキルさん。今日はお一人?」
「おう、ゲルダ姉ちゃん、パーシア、こんにちは。……今なんか変な名前で呼ぼうとしなかったか?」
ナキルは首を傾げた。ゲルダはともかく、意外なことにパーシアはナキルの顔と名前を憶えていたようだ。先代とセットで覚えているのかもしれないが。ナキルは二人に混ざり、学園トークに花を咲かせた。
「何か手伝えることがあれば、手伝うぜ、よろしくな」
「ええ、冒険者の方のお力を借りることがあれば、またお願いしますわ」
しばらく雑談した後、ナキルはその場を後にした。
「お、あれはマリリンだな」
ナキルは今度はマリリンを発見した。今日はマリリンはナキルが見たことのない少女と話をしていた。身長がナキルと同じぐらい(マリリンはナキルより背が高い)なので、だいぶ年下だろうか?
「よう、マリリン」
「あら、ナキル君」
「初めまして。ユリアと申します」
「おう。そっちの子は初めましてだな。もしかして学園生か?」
「ええ。新二年生ですわ。ナキル君は新三年生なので、ユリアの先輩ですわね」
「そっか、よろしくな」
「はい、よろしくお願いします! 都市伝説研究部もよろしくお願いします!」
「ちなみにずいぶん盛り上がってたみたいだけど、何の話をしてたんだ?」
「はい、私達が誘拐された時の話です。私が誘拐された時はバニーの妖精さん達が……」
「ダメですよ! それ以上はいけません! レティシア先輩に怒られてしまいます!」
「?」
(珍しくテンション高いな……。誘拐された時の話で盛り上がるのか……演劇部だし、ヒロインへの憧れでもあんのかな?)
ナキルは不思議な話題に、首を捻ったのだった。
●
「王国でこのような催しが……獣人優遇のイベントとは珍しいですね」
パーティの参加客として訪れた獣人のクローリカは感心していた。仮装パーティらしいが、奇妙なことに獣人は仮装無しでもOKという特別条項があったのだ。最初は何らかの差別的な意図があるのかと勘繰ったが、主催者の名前には以前クロ―リカが依頼を受けたことのあるマッキンガー伯爵夫人の名もあった。なら単純に好意的な意味での条項だと解釈し、せっかくなので参加することを決めたのであった。
「私も仮装自体は好きですしね」
クロ―リカの衣装は黒のタキシード・マント・シルクハットに白いマスクという仮面の怪人風の衣装であった。予告状を出して宝石とか盗みに入るような、演劇とかで出てくるアレである。怪人に扮したクロ―リカが会場を練り歩いていると、見知った顔がいた。第三演劇部員のマリリンだ。いたずら心を起こしたクロ―リカは、仮面をつけたまま挨拶してみた。
「こんにちは、マリリンさん。執事服、よくお似合いですよ」
「あら、仮面の怪盗様、ありがとうございます。私のお知り合いでしょうか?」
「はい」
クロ―リカは微笑み、仮面を取る。
「ああ! お久しぶりですわ、クローリカさん」
「ええ、お久しぶりです」
けっこう久々の再会だったが、マリリンはちゃんとクローリカのことを覚えていた。
(さすがは商家のご息女ですね)
「マリリン先輩、お知り合いの方ですか?」
「ええ、ユリアちゃん。こちらのクローリカさんは冒険者の方で、以前第三演劇部の劇に……」
「ふふ、懐かしいですね。あれはちょうど一年ほど前でしたか……」
しばらくマリリンと後輩のユリアと話した後、クロ―リカは主催者のマッキンガー伯爵夫人に挨拶しに行った。
「まあ、クロ―リカさん、お久しぶり。相変わらず素敵な男装ですわね!」
「マッキンガー伯爵夫人。こちらの女性はもしかして獣人の方でなくて!?」
主催者である伯爵夫人二人はハイテンションだ。
(なるほど、参加条項に獣人特別項目があったのはこちらの子爵夫人の方の趣味だからですか……)
「ところで貴方……その帽子の下には耳があるのではなくて?」
ラーザニア子爵夫人の目がキラリと光る。
「ええ、その通りですが……私も獣人ですので」
「失礼でなければ、帽子を取って見せていただけないかしら!」
「えっと。あの。はい」
夫人の有無を言わせぬ圧に負けたクロ―リカは帽子を取り、獣耳をピコピコさせた。
「さ、触ってもいいかしら!?」
(マッキンガー伯爵夫人といい、この方といい、変わった貴族もいるものですね……)
●
ダニエル・ヘリントンはコスプレパーティを盛り上げるために気合を入れた服装を着ていた。
ざわ……ざわ……。
ダニエルの「女装」姿に来客達がざわめく。なぜならば、ダニエルは上方はツインテールにまとめており、その服装はメアリー王女が人前に出てくる際によく来ている、鮮やかなオレンジ色のドレスだったのだ! 身長180cmの筋肉質の男がメアリー王女のコスプレをしている……。会場がざわめくのも無理はない。というか、よく入り口ではねられなかったな。
「生徒会長、ごきげんよう」
「ごきげんよう、初めてお会いした方」
(あれ?)
パーシアはダニエルからそっと目を逸らし、他人のフリをした。たまたま近くにいた主催者の貴婦人二人もさすがにショッキングだったのか、笑顔が引き攣っている。
「そこの方、ちょっとよろしいでしょうか? 私はこういう者です」
「あら、王国騎士の方ですか」(裏声)
ダニエルは笑顔で額に青筋を立てている赤毛の女性に話しかけられた。彼女の名はアリエス・クレスト。このパーティで有事が起こった時に備えて潜入していた新米王国騎士だ。つまりは――職務質問というやつである。
「マッキンガー伯爵夫人、空き室をお借りしたいのですが?」
「ええ、どうぞ」
「仕方ないね」
ダニエルはアリエスに連行されていった。
「その服装はメアリー・リーンエス王女のコスプレですか?」
「何をおっしゃっているのか分かりませんよぉ(棒読み)。これはドゥジケット準備会の影のドン、メイさんのコスプレです」
「なるほど、ドゥジケット準備会というのは?」
「学園にあるドゥジンシを書くクラブですわ!」(裏声)
「では、あなたはそのクラブに属する少女の服装を真似ただけだと」
「その通りですわ!」(裏声)
「そんなわけあるかぁ! メアリー王女のコスプレなんだろ!!」
結局、ダニエルは衣装を没収されたが、証拠不十分により釈放された。
●
数日前。パンクリアース学園にて。
「サイズだいぶ困るだろ、ごめんね?」
「確かに大きいサイズですが、布面積が少ないので、なんとか!」
ヨル・スレイマンは第三演劇部の部室を訪れ、パーティ用の衣装を仕立ててもらっていた。マリリンに「190cmサイズのダンサードレスはないか」と無茶ぶりをしてみたところ、やっぱり無かったが、裁縫が得意な部員に声をかけ、用意してくれたのだ。
「あとは、ここをつなげて……マリリン、そっち持って」
「はい」
「よし、できた!」
完成したビッグサイズのドレスをヨルに手渡し、裁縫少女は微笑む。
「ありがとう、二人とも」
ヨルはにっこりと微笑む。
(マリリンは誘拐があった後だが、元気そうでよかった)
●
そしてパーティ当日。
「ナハシュ……仮装パーティなのにどうして女装をしていないんだ!?」
ヨルは待ち合わせ場所に現れたナハシュの姿を見てガッカリした。ナハシュの姿はモフモフの巨大なモルモット獣人に変身した姿で現れたのだ。パーティのドレスコードの二種類のうち、ナハシュは「動物の衣装」の方を選んだのであった。ちなみに再現度がやけに高い毛皮は、フェイクカバーで用意したらしい。
「色々でけぇなー!!! よくその恰好にしたもんだ」
「コスプレパーティなんだからドレスコードはこうだろ。それより一応仮装だけど、全裸の獣人ってアリなの?」
「この毛が服だ! つまりこれでOK!! 主催側もモフモフがいいならこれでいい筈だ」
「腹を冷やしても知らないぞ。入り口ではねられたら上着は貸す」
「俺よりテメエの腹を心配しろよ。そういえば、あいつ、その恰好好きだぞ」
「知り合いなの?」
「おう。前にちょっとな」
「こう、貴族もいろいろだよな……」
「あの……全裸の獣人は流石にアウトですので、ズボンは履いてください」
やっぱりダメでした。後で聞いた話によると、主催者は「獣人は全裸OK」にしようとしたらしいが、(良識ある)王家と法衣貴族達に阻止されてしまったのだとか。主催者はOKでも、王家的にNGだったようだ……。
「しかしよく出来てるね。ちょっとモフモフしてもいい……?」
「いいぞ」
もふもふ。もふもふ。2メートル近い大男がダンサードレス姿で半裸のモルモットマンにすりすりしている姿は、とてもシュールな光景であった。
「うん、モフモフだね」
「ははは、くすぐったいな!」
(いや、毛が服代わりってことは今ある意味半裸なのでは⋯⋯?)
真実に気付いてしまい、勝手に照れてそわそわするヨルであった。
「マニアってのは何処の界隈も変わらねえよなー! おかげで美味い思いが出来て万々歳ってなもんだぜ」
「うん、これはラッキーだ」
無事に会場入りできた二人は、料理の乗ったテーブルに張り付き、腹いっぱい豪勢なご飯を食べたのだった。
●
「ルベアは立ち姿がすらっとしているからその服がよく似合うね」
「シルヴィアさんこそ、凛々しいと思うわ」
姿見の前に立っていたシルヴィア・A・カペルが微笑むと、ルベア・ベルニは戸惑いながらも、はにかんだ。二人の衣装は色違いでお揃いのデザインの執事服だ。シルヴィアが第三演劇部のマリリンに頼んでみたところ、喜んで二着貸してくれた。タイは色違いで、シルヴィアが紺色で、ルベアは黒色だった。
「ファッションショーの時のワンピースも似合っていた。凛々しい服も可憐な服も着こなせる……色々な服をお勧めしたくなるよ」
「そ、そう? ……色々着るようになったのは冒険者になってからだから、自分に似合ってるのか不安だったりもしたのよね……。シルヴィアさんにそう言われると、自信もつきそう」
(学園内だと耳や尻尾は目立つからフードは外せないけど……これも、異種族が増えたら変わるかしら)
少しずつだが、パンクリアース学園の雰囲気は変わりつつある。シルヴィアはもう卒業してしまうが、来年になればきっとまた、新しい冒険者達が――貴族でも豪商の子でもない、様々な出自の者達が入学してくるだろう。
(ルベアは学園ではよくフードを着けているから久しぶりに彼女の表情をしっかり見た気がするな)
「君の髪の長さならポニーテールも良いんじゃないかな」
「え」
学園の未来に思いを馳せていた所に思いもよらぬ提案をされ、ルベアは変な声が出た。
「ポニーテール……やったことないかも。お願いして、いい?」
「あ、もちろん」
シルヴィアは微笑み、持参していた黒のリボンを手に取った。
「……」
変わった自分の姿にびっくりするルベア。
(髪型を変えるだけで、こんなにも印象が変わるのね……)
「どうかな? マリリン」
「変じゃないかしら?」
「ええ、二人ともよくお似合いですわ」
同じく執事服に着替えたマリリンはにっこりと微笑んだ。
●
「やあ、アリエス。王国騎士登用おめでとう」
男装しているアリエス・クレストを発見したシルヴィアは、笑顔で祝辞を述べた。
「ありがとうございます、シルヴィアさん。おかげ様で、なんとか夢の続きを見ることができるようになりました」
アリエスは恭しく頭を下げ、丁重に礼を述べた。
「そうか、それは良かった。配属先はもう決まったのかい?」
「いいえ、まだ研修期間中ですので、正式には。希望は六番隊で出しています」
「そうか、希望が叶うといいね」
「お、シルヴィア。それにルベア」
「やあ、ナキル」
「こんにちは」
アリエスと別れた後、シルヴィアはナキルと遭遇した。
「二人はお揃いの衣装なんだな。ルベアは髪型変えたのか? なんか…いつもより大人っぽい気がする」
「そうだね。あの子に羨ましがられてしまうかな?」
「ええ。ちょっとね。自分でもびっくりしているのだけど……。今度、あの子にも見てもらいたいわ」
●
「何事も、参加するからには全力だ」
ローザリカ・L・ディオールはドレスコードを守り、華麗に男装をしていた。彼女の服装は白い制服に金縁の刺繍の騎士風。羽織ったマントの裏地はジュストに合わせてシャルガネ風だ。色味は深い緑でジュストの赤が映えるように(そして互いのイメージ色になるように)していた。共に歩くならその方が雰囲気が出るだろう、という工夫である。髪はポニーテールに結い上げ、化粧も目元を凛々しく見せるように拘った。普段の男性的な言葉遣いもあり、ローザリカには適性があったのだろう。その立ち居振る舞いは実に堂々としたものだった。もしかすると、こっそり練習もしたのかもしれない。
(歩き方や所作、それらひとつで雰囲気はガラッと変わる。なよなよしていては折角の男装も水の泡というものだろう)
一方、彼女の婚約者のジュスト・ヴェルジーの方はと言うと……。
(結構色物な趣向だし、あまり乗り気ではなかったんだけれど……ロゼが参加するならエスコートしないわけにはいかない)
ジュストの方は奥ゆかしく、シャルガネの狐を模した目元を隠すタイプのマスクをつけ、男女兼用のデザインのシャルガネの着物を着用していた。シックな黒い着物に黄色い帯、その上に女性物の艶やかで華やかな羽織(色味は赤系)に袖を通し、小物は黒いレースの手袋と扇子。果たして「異性装」なのかと言われると微妙なラインだが、ふさふさの狐の尻尾を模した飾りを帯から提げ、狐の獣人の衣装ということでドレスコードをクリアしているつもりである。
「ふふ……その衣装には東方の神秘を感じるね。さあお手をどうぞ、僕のお姫様」
(今日ばかりはエスコートするのは此方の役目だろう)
ローザリカはさも当然のようにジュストへと手のひらを上に向けて差し出してきた。ジュストはローザリカが差し出してきた手に己の手を乗せ、扇子の下で笑う。
「全く困った騎士様だ」
(どちらが化かされてるのか解らないね)
「さながら僕は彼の従者か、化生に誑かされた騎士か……どちらだろうね?」
●
「ぼおおぉ! ぼおおぉ!」
コルネリウス・アーラは荒ぶっていた。彼女の衣装は火を吹く馬の着ぐるみだ。姿勢を低くし、ダイナミックに暴れ馬のモーションをするコルネリウスの迫真の演技には、他の参加者達も驚きを隠せなかった。ちなみにこの衣装は以前ベビーシッターを務めた際の経験から着想を得たようだ。
(そういえば、収穫祭以外で仮想をするのは初めてですね)
「おかあさん、おうまさんがいるー」
「あら、本当。とてもリアルなおうまさんね」
「おうまさん、尻尾撫でていい?」
「ぼぉおお! ぼぉおお! ……はい、いいですよ♪」
「やったー!」
ちびっこが着ぐるみの尻尾を撫でると、手触りは意外ともふもふだった。
「パーシアさん、ウィリアム王子の衣装、とても良くお似合いです」
馬の頭部からにゅっと顔を出したコルネリウスが挨拶すると、パーシアはぎょっと固まった。
「誰!? ……ああ、アーラさんでしたの。てっきり不審者かと」
「ひどい!? 今日は仮装パーティですよ!」
「あら、失礼。そうでしたわね。それにしても、思い切った格好をしましたわね……カカポとか、モルモットとか、珍妙な恰好をした方は他にもいらっしゃいましたが……」
上から下までコルネリウスの姿を眺め、パーシアは感慨深そうに言った。
「ふふ、これはちょっとした自信作です」
コルネリウスは胸を張った。
(もしかして、自分で作ったのか?)
●
「マリリンさん、こんばんは」
「!? ……ああ! 噂の荒ぶるお馬さんの正体はコルネリウスさんでしたのね」
ちょっとびっくりした様子だったがマリリンはすぐにコルネリウスだと気づいてくれた。
「ちょうど、私が誘拐された時のことを話していたんです。こっちのユリアちゃんもこないだ誘拐されたけど、冒険者さんに救出されたんですよ」
「はじめまして、ユリアと申します。一年生です!」
元気な後輩たちの姿に、コルネリウスは微笑んだ。
「マリリンさんもとても楽しそうで……あぁ、色々と大変なことも沢山ありましたね」
(トラウマになってなくてよかったです。そういえば、私もあの時は大変な目に……)
コルネリウスの脳裏に、ニコラ侯爵夫人との闘いの記憶が蘇る。
「ちょっと無茶をしすぎて、お腹に穴を開けられたのも良い想い出です」(お腹のあたりを擦りながら)
「その節はお世話に……傷とか残ってないんですか?」
「はい。腕のいい王国騎士のヒーラーが治療してくださいましたので。授恵者って頑丈で助かります」
コルネリウスはペロリと舌を出した。
●
「ヴィナとルーンとこいよ……」
ダークグリーンのレースハイネック&長袖Aラインマキシレングスのドレスで見事に着飾られたカイン・ステラはベンチでうつむきながら呟いた。彼は今回のパーティの衣装についてギルド職員に意見を求めたところ、嬉々として貸衣装屋に連行され、気づいたらこうなっていたのだ。その職員は過激派のドゥジン教徒か何かだったのだろう。あるいは、主催者であるマッキンガー伯爵夫人の息がかかった者だったのかもしれない。怖すぎる。そして、肝心の女装の完成度だが……見るも無残ではないが男だと確実に判るレベル。カインは男の娘になれないし、なりたくもないお年頃であった。
「あ、いたいた、カインだ」
「やあ、カイン」
ヴィナスとルーンス・ラグネルが手を振りながら近づいてきた。兄弟揃って男だと判るが、見られる類の女装であった。二人は恥ずかしげもなくドレスを着こなし、堂に入ったモデル歩きで近づいてくる。
(あいつら平然としすぎじゃね)
カインはげんなりした。兄のヴィナスはピンクの芍薬が咲き誇る赤の着物だ。芍薬の花飾りで髪型をカバーしている。弟のルーンスは藤が咲き誇る着物をアレンジしたストレートラインのドレスを着ており、藤をあしらった花飾りで髪型をカバーしていた。さらに二人とも、顔にはしっかりと化粧が施されていた。
「俺がこういう格好してもあんま面白くねぇと思うんだよなぁ」
「背の高い男の異性装だと、着るものに難儀するよね」
「これ? パーティードレスの広告にいいかなって」
カインを左右から挟んだルーンスとヴィナスは、カインの肩にポンを手を置いた。聞くところによると、兄弟が着ているドレスはどちらも商会の新作らしい。商魂たくましいというか、図太い兄弟であった。二人は罰ゲーム状態のカインがかわいそうだったので、一緒にいてあげることにした。
「あ、マリリンだ。ちょっと挨拶してくる」
「ルーンはドゥジン関係でマリリンと知己を得ていたのだっけか。内々とは言え、商人として復帰を決めたし、俺もゆるっと挨拶しておこう」
ヴィナスとルーンスは優雅な足取りで執事服を着た少女へと近づいていった。
「皆よく転ばねぇよなぁ……」
なんとなくシルヴィアの声真似をしながら、一人になってしまったカインはぼそりと呟いた。
「やあ、マリリン」
「あら、ルーンスさん。ごきげんよう。そちらの綺麗な方はお姉さんですか?」
ルーンスが挨拶すると、マリリンは微笑んだ。
「ははは、残念ながら兄だよ。ヴィナスだ、弟が世話になっているね」
(弟が広告料金タダで報酬なし帳消しって喜んでた件はマリリンには黙っておこう)
マリリンと少し雑談や商業トークを交わした後、ヴィナスとルーンスは生徒会長パーシアにも挨拶しにいった。
「ご機嫌麗しゅう。先日は素晴らしい資料をありがとうございました、ラグネルさん」
「あれぐらいお安い御用ですよ、生徒会長」
先日の吸血鬼との戦いの報告書を貰っていたパーシアはニコニコと二人に微笑んだ。
「殿下は大変立派でいらっしゃいました」
(ドゥジン関係者へも送ったことは言わず、だな。夢女と腐女子は違う信仰だ)
(そうだね。解釈違いで戦争になってしまう。ラミアス先生のことも伏せておこう)
二人はハンドサインとアイコンタクトだけでテレパスばりの意思疎通を行った。
「やあ、カイン。……なかなか堂に入った姿じゃないか」
カインが一人でヴィナスを眺めていると、シルヴィアが声をかけてきた。
「シルヴィアか。なかなか動きづらい恰好だな、ドレス。歩くたびに裾を踏んづけちまう。あと、ちょっと声をお借りしています」
「……まあ、構わないが。姉弟にも見えないだろうし。ドレスの歩き方を少しレクチャーしようか」
「それは、助かる」
かくして、執事服のシルヴィアがカインにドレスでの作法を指南するという、ちょっと珍妙な絵面が展開されたのだった……。
●
「仮装パーティですか。あまり変わった格好は持ってませんし……作りますか」
ヴィルヘルミナは仮装パーティに参加するため、衣装を自作することことにした。
……。
完成したのは立派なカカポ(フクロウオウム)の着ぐるみであった。レピドの『まるごとショウガ』とは異なり、顔がすっぽり隠れるフルフェイスモデルの着ぐるみである。羽根の一本一本までも再現した、製作協力してくれたドワーフの職人さん入魂の逸品である。
(『誰がここまでやれと言った』みたいな事態も想定されますが、授恵者の方は割とぶっ飛んでいる方も多いので多分大丈夫でしょう)
ざわざわ……。
「まあ、わたくし、ビッグオウム初めて見ましたわ。可愛らしい生き物ですのね」
「いやいや、ビッグオウムはもっと大きい生き物だよ。あれはきっとオウムの獣人さんだよ」
「え、羽根の生えた獣人なんていたっけ?」
「そういえば、空を飛べる獣人はいないはずだな……いたら、運送方面とかで活躍してるはずだ」
「ということは、あれは着ぐるみ?」
「馬鹿な! あんなリアルな着ぐるみがあるものか!」
ヴィルヘルミナのやけにリアルなカカポは大好評だった。
(フッ……)
ちょっと調子に乗ったヴィルヘルミナはドワーフの職人魂を示すべく、両腕を雄々しく広げた。そのままおもむろにステップを刻み、炎のようなキレッキレの激しいダンスを披露する。
(ドワーフ職人の技術力を見よ! 関節の可動域も凄いのです!)
ヴィルヘルミナが踊り狂っていると、シュババッ! と人影から不思議なシルエットが姿を現した。それは、口から炎(っぽいテープ)を吐いている赤い馬であった。
「……」
「……」
威嚇するようにヴィルヘルミナが翼を広げると、馬の方も蹄をカツンカツン、床で擦る。一色即発の雰囲気だ。
がしっ。そして、どちらからとも二人はお互いの凝った衣装を称え、力強くシェイクハンドした。
●
「黄金像に出資して下さった方に頼まれたなら否とは言えませんよね! ドゥジンにご理解がお有りならお近づきになるのも良いかもです!」
シェルリア・リトヴァールは張り切っていた。そんな彼女の衣装は学園生のドゥジン界隈では根強い人気を誇るカップリングであるラミ×ウィルの攻める方(攻め方には諸説あり)、ラミアス・クルスロードのコスプレであった。ドレスコード的には男装だけで既にクリアしているが、シェルリアはさらにその上に、もふもふうさ耳カチューシャを上乗せしていた。その結果、パーティ会場にはうさ耳を付けたパンクリアース学園の教務主任のそっくりさんが出没する不思議空間となった。服装を似せ、伊達眼鏡(ガラスは高級品)をかけ、ウィッグを被ったシェルリアのコスプレは、それなりにラミアスの特徴を捉えていた。さすがに身長は誤魔化せなかったので、本当に間違える人はいないだろうが。
「異性装の美男美女や可愛いもふもふを堪能出来る幸せ……」
シェルリアは(ラミアスの扮装で)、参加者達の豪華なラインナップを見てよだれを垂らしていた。執事服に身を包んだ男装の麗人達。お洒落なドレスや着物に身を包んだ女装トリオ。白い騎士に手を引かれている狐面の獣人。ちびっこに囲まれて高笑いをしている仮面の怪盗。ケモミミカチューシャと付け尻尾を付けた可愛い子供達。執事服で一心不乱に肉を貪り食うエルフ。横笛を吹き、優しげな音楽を奏でるキジトラマン。きびきびとテーブルに追加の料理を運ぶケモミミ獣人メイド。情熱的な2メートルの女装ダンサーと、半裸のモルモットマン。そして、真っ白に燃え尽きた感じで休憩している赤い馬娘と、やりきった感を出して壁際に佇む巨大カカポ。なんか王国騎士に連行され、別室に連行されて行くメアリー王女っぽい衣装のマッチョマンなんかもいたりしたが、実に見ごたえのある光景であった。
「ご機嫌麗しゅう。このような楽しい催しにお招きいただきましてありがとうございます。それに、我が校の黄金像出資にも感謝を。マッキンガー伯爵夫人、ラーザニア子爵夫人」
「ご機嫌麗しゅう。ラミアス先生の衣装、よくお似合いですわ、レディ」
「うさ耳着用とは、わかっていらっしゃるわね、貴方」
「光栄です、マダム」
シェルリアはにこやかに微笑み、二人に紳士的な礼をした。
こうして、王都で開かれた楽しい仮装パーティの夜は更けていくのであった……。
「異性装ですか。義兄様の服、はサイズが合わないでしょうね……」
パーティの招待状をもらったレティシア・レインフィールは着ていく服装について思案していた。家族の服を借りられれば一番てっとり早いのだが、淑女として無断で拝借するのはよろしくない。何より、レティシアのグラマラスな母性の象徴がそれを許さないのであった。
「ここは、パーシア様にご相談してみましょうか。彼女なら男装の方法もご存じでしょうし」
パーシアに相談したところ、第二演劇部の部長でもある彼女はやはり胸に負担をかけない巨乳の隠し方についても秘術を習得していた。パーシアに手伝ってもらい、パーシア式の隠し方をやってみたところ、レティシアの大きな胸もそれなりに平面に見えるようになった。肩の方から厚みを出すことで、段差をなくすのがコツらしい。
……。
パーティ会場でパーシアと再会したレティシアは、衣装のお礼にパーシアにウィリアム王子の武勇伝を語り聞かせることにした。
「パーシア様。そういえば、先日(仕事で)ウィリアム王子殿下とご一緒したのですが……」
「ご、ごごごごごご一緒したのですか!? どこへ!?」(ガシッ)
「い、いえ。その、吸血鬼の屋敷に……冒険者としてのお仕事です」
「ああ、そうなのですね。レインフィール先輩、脅かさないでくださいませ。そのお話、ぜひ詳しく」
「あの、パーシア様、お顔が近いのですが……」
レティシアは食い気味のパーシアに困惑しつつ、ウィリアムと吸血鬼の戦いの際の様子を話した。
「黄金像への寄付については、自身の像なら手を貸すのは当然と仰られておりました」
「ああ、ウィリアム王子……! なんと謙虚な……!」
(……謙虚、なのでしょうか? あの殿下が?)
「ウィリアム王子のお話、ありがとうございます。やはり王子は輝ける星のようなお方なのですね」
「将来、パーシア様がもし殿下のお力になりたいと願うのでしたら、ヒーラーとしての力を磨かれるのもよろしいかもしれません。勿論、本来の貴族としての務めを果たすのも重要ではございますけれど」
●
「貴族の方の主催のパーティは少し緊張しますね……」
パーティ会場にやってきたゲルダ・クラインは豪華絢爛なパーティ会場の雰囲気に少々固くなりつつも、しっかりとした礼儀作法でパーティに溶け込んでいた。なお、服装は動物テーマの方を採用し、猫さんのつけ耳とつけ尻尾である。ちなみに身長が小さいため、一般参加者や使用人には子供だと思われているようだ。
「パーシア様はどちらにいるのでしょう……仮装パーティなので探すのは難しいかも……あ、いましたね」
ゲルダが生徒会長パーシアを探すと、彼女はすぐ見つかった。パーシアはぶかぶかの鎧を着て、ウィリアム王子になりきっていた。
「パーシア様、ごきげんよう」
「あら、クラインさん。ごきげんよう」
スカートをつまみ、ゲルダが丁重に挨拶すると、パーシアは貴族男性式の優雅な挨拶を返してくれた。
「黄金像の建造のお手伝いできて光栄でした。最初は戸惑いもあったけれど、いろんな障害を乗り越えて、いろんな方々と力を合わせて作り上げた黄金像を誇らしく思っています」
「ありがとうございます。クラインさん。約半年、色々なことがありましたわね。ここまで来れたのは、皆様のお陰ですわ」
ゲルダの言葉に、パーシアは淑女らしい微笑みを浮かべた。
「よろしければ、ウィリアム王子のお話を聞かせてくれませんか? 好きな人のお話、好きなんです」
「ええ、もちろんよろしいですわ。でも、そのお話は長くなりますわよ?」
ゲルダはパーティがお開きになるまでの間、パーシアと恋バナを語らったのであった……。
●
「愛猫とお揃いにしたくて作った物がまさかこんなところで役に立つとは」
ニャピド……じゃなかった、レピド・クロサイトは愛猫ショウガを模した秘蔵の着ぐるみ「まるごとショウガ」を着込んでパーティに参加していた。
「……とはいえ、さて何をすれば良い物か」
レピドは以前にも仮装パーティに参加したことがあるが、その際は仕事であり、メドゥの指先との関与が疑われる者の調査が目的だった。しかし、今回はいたって平和なパーティのようだ。仮に犯罪者が混ざっていたとしても、確実に王国にマークはされているであろう、このパーティで事件など起こさないだろう。
「私の時はバニーの妖精さん達が助けに……」
「まあ、バニーの妖精さん。もしかして、私もその方達を知っているかもしれません!」
「おや……あれは、マリリンに……ユリア、だったか。元気そうだな」
レピドは見知った顔を発見し、安堵の表情をした。あの二人は奇しくも誘拐被害者だ。この場で楽しそうに談笑しているということは、心に傷が残ったりもしていないのだろう。レピドは友達と話している所に割り込むのも気が引けたので黙ってその場を離れたが、レティシアが静かに彼女たちに歩み寄り、二人に何事かを囁いているのが見えた。
「凄いな……さすが王都のパーティだ」
参加者の中にはカカポや馬など、人間離れした仮装を披露している者もいた。
「俺も何か芸でもしてみようか。主催者に確認してみよう」
レピドが主催者の夫人達を探していると、 貴婦人がレピドに笑いかけてきた。ちょうど、探していた主催者の一人である女性だった。
「素敵な着ぐるみですわね。どちらのお店でお買いに?」
「ラーザニア子爵夫人……これは、店で買ったものではないんだ。この衣装は『まるごとショウガ』と言って、俺の飼い猫のキジトラが……」
「まあ、飼い猫ちゃんがモチーフですのね! 素敵ですわ。今日は飼い猫ちゃんは連れてきておりませんの?」
「こういうパーティでは動物はダメだと思っていた」
「そういえば、『アリ』とも招待状には書いておりませんでしたわね。次回からペットOKも記載するようにいたしましょう。ところで、着ぐるみの背中はどうなっているのかしら? もっとよく見せてくださいな……」
ラーザニア子爵夫人に掴まったレピドは、貴婦人とのもふもふ談義に花を咲かせた後、横笛の演奏を披露した。
●
「これで良かったのでしょうか……」
執事服に身を包んだリディリディ・トゥラ・イェレミースはため息を吐いた。この衣装は知人の演劇部員、マリリンに借りたものであるが、リディリディの豊かなバストのせいで胸元はぱつんぱつんになっており、「男装」というにはかなり無理のある感じになっていた。それはリディリディ自身もわかっており、すれ違うヒューマン達(主に男性)もリディリディをじろじろと見てきたので、リディリディも何度もため息をこぼすのであった(衣装を貸してくれたマリリンも「いいなあ……」とため息をついていた)。会場に来ている胸の大きな知り合いは割といるのだが、パーシアやレティシアはいかなる秘術を駆使したのか、しっかり男装ができていた。
「あ、リディリディさん。ご機嫌うるわしゅう」
「あ、マリリンさん。えっと……ご機嫌うるわしゅう」
会場でばったりマリリンと会ったリディリディはマリリンの仕草を真似、執事風の挨拶を返した。礼と共に胸が揺れ。会場の視線が集まる。
(やっぱり変ですよね……)
「そういえばリディリディさん、あっちで豚の丸焼きがテーブルに出てましたよ。取材に行かれては?」
「確かにそれは取材が必要ですね。ありがとうございます」
覇気を取り戻したリディリディは、ふらふらとおいしそうな料理を乗ったテーブルへと吸い寄せられていった。その後、会場では一心不乱に肉を貪り食う執事服を着た胸の大きなエルフが目撃されたそうである。
●
ベルク・オスマットは招待客だったが、なぜか給仕に紛れ、スタッフとして活動していた。理由は単に華やかなパーティーに参加する側に慣れていなくて給仕する側が性に合っているからである。つまりは、単なる趣味と本能だ。幸い、主催者のラーザニア子爵夫人はハーフビースト贔屓だったので、臨時スタッフとして鶴の一声で採用されてしまった。その代わり、採用試験になぜかボディタッチがあり、尻尾と耳をもふもふされてしまったが。
「ベルクさん、お肉、お代わりお願いします」
「はいはい、ただいま」
投げやりな口調で変わりの皿を運んでくるベルク。それというのも、この執事服のエルフはもう十皿以上食っているからである。このパーティは客の中にも執事服やメイドが一定数混ざっているのでややこしいが、さすがにこのエルフは客の方でいいのだろう。というか、何度も見たことあるし。
「ベルク、この『お父さんのパイ』のお代わりをもらいたいのだが……」
「了解だ」
今度はキジトラマンの要請に応え、ベルクは厨房へと駆けて行った。
「ふう。ちょっと落ち着いてきたな」
一仕事終え、汗をぬぐうベルク。その時、彼女の視界を決して捨て置けないものが通過した。
艶のある長い髪に、帝国皇族の衣装。レイウェスト・バルダスのコスプレイヤーだ。それはまあ、別によい。瞳の色や大陸一とも謳われる顔の造形は再現できなかったようだが、そこは仕方ないだろう。衣装の再現度は高く、むしろよく勉強しているしている方だ。だが、ベルクが流せないのは、レイウェストのコスプレをしている者の性別だ。ベルクの目には、元々の性別は男性に見える。
「ふふふ……あれが女装なのか男装なのか、あの者に確かめねばなるまいよ」
ベルクは狂気を孕んだ笑みを浮かべ、コスプレイヤーへと突撃していった。
●
「まぁ、これが無難だよな」
タヌキの耳カチューシャと尻尾で仮装したナキルは、トコトコとパーティ会場を歩いていた。
「知り合いもいそうだな。学園でチラシ配ってたし……誰かいねえかな?」
ナキルがきょろきょろと周囲を見回すと、見知った顔の二人が視界に入った。
「最初に好きになったのはあの方のどこですか?」
「実は……顔なんです。不純だとお思いになられますか?」
「いいえ! 人それぞれだと思います! 正直ですね、パーシア様」
「お、ゲルダ姉ちゃんと新生徒会長だ。そういえば、就任してからちゃんと挨拶してなかった気がするな。せっかくだし、挨拶しとくか」
ゲルダと何やら盛り上がっているパーシアを発見したナキルは、二人へと近づいていく。代替わりの前にナキルは先代生徒会長と共にパーシアと少し話したことがあるが、その際はかなり特殊なシチュエーションだったため、まともな会話だったとはいい難い。というか、無礼打ちレベルのすごい失礼なことを言ってしまったような気もする。
「あ、ナキル様。こんにちは」
「あら、全力失……じゃなかったナキルさん。今日はお一人?」
「おう、ゲルダ姉ちゃん、パーシア、こんにちは。……今なんか変な名前で呼ぼうとしなかったか?」
ナキルは首を傾げた。ゲルダはともかく、意外なことにパーシアはナキルの顔と名前を憶えていたようだ。先代とセットで覚えているのかもしれないが。ナキルは二人に混ざり、学園トークに花を咲かせた。
「何か手伝えることがあれば、手伝うぜ、よろしくな」
「ええ、冒険者の方のお力を借りることがあれば、またお願いしますわ」
しばらく雑談した後、ナキルはその場を後にした。
「お、あれはマリリンだな」
ナキルは今度はマリリンを発見した。今日はマリリンはナキルが見たことのない少女と話をしていた。身長がナキルと同じぐらい(マリリンはナキルより背が高い)なので、だいぶ年下だろうか?
「よう、マリリン」
「あら、ナキル君」
「初めまして。ユリアと申します」
「おう。そっちの子は初めましてだな。もしかして学園生か?」
「ええ。新二年生ですわ。ナキル君は新三年生なので、ユリアの先輩ですわね」
「そっか、よろしくな」
「はい、よろしくお願いします! 都市伝説研究部もよろしくお願いします!」
「ちなみにずいぶん盛り上がってたみたいだけど、何の話をしてたんだ?」
「はい、私達が誘拐された時の話です。私が誘拐された時はバニーの妖精さん達が……」
「ダメですよ! それ以上はいけません! レティシア先輩に怒られてしまいます!」
「?」
(珍しくテンション高いな……。誘拐された時の話で盛り上がるのか……演劇部だし、ヒロインへの憧れでもあんのかな?)
ナキルは不思議な話題に、首を捻ったのだった。
●
「王国でこのような催しが……獣人優遇のイベントとは珍しいですね」
パーティの参加客として訪れた獣人のクローリカは感心していた。仮装パーティらしいが、奇妙なことに獣人は仮装無しでもOKという特別条項があったのだ。最初は何らかの差別的な意図があるのかと勘繰ったが、主催者の名前には以前クロ―リカが依頼を受けたことのあるマッキンガー伯爵夫人の名もあった。なら単純に好意的な意味での条項だと解釈し、せっかくなので参加することを決めたのであった。
「私も仮装自体は好きですしね」
クロ―リカの衣装は黒のタキシード・マント・シルクハットに白いマスクという仮面の怪人風の衣装であった。予告状を出して宝石とか盗みに入るような、演劇とかで出てくるアレである。怪人に扮したクロ―リカが会場を練り歩いていると、見知った顔がいた。第三演劇部員のマリリンだ。いたずら心を起こしたクロ―リカは、仮面をつけたまま挨拶してみた。
「こんにちは、マリリンさん。執事服、よくお似合いですよ」
「あら、仮面の怪盗様、ありがとうございます。私のお知り合いでしょうか?」
「はい」
クロ―リカは微笑み、仮面を取る。
「ああ! お久しぶりですわ、クローリカさん」
「ええ、お久しぶりです」
けっこう久々の再会だったが、マリリンはちゃんとクローリカのことを覚えていた。
(さすがは商家のご息女ですね)
「マリリン先輩、お知り合いの方ですか?」
「ええ、ユリアちゃん。こちらのクローリカさんは冒険者の方で、以前第三演劇部の劇に……」
「ふふ、懐かしいですね。あれはちょうど一年ほど前でしたか……」
しばらくマリリンと後輩のユリアと話した後、クロ―リカは主催者のマッキンガー伯爵夫人に挨拶しに行った。
「まあ、クロ―リカさん、お久しぶり。相変わらず素敵な男装ですわね!」
「マッキンガー伯爵夫人。こちらの女性はもしかして獣人の方でなくて!?」
主催者である伯爵夫人二人はハイテンションだ。
(なるほど、参加条項に獣人特別項目があったのはこちらの子爵夫人の方の趣味だからですか……)
「ところで貴方……その帽子の下には耳があるのではなくて?」
ラーザニア子爵夫人の目がキラリと光る。
「ええ、その通りですが……私も獣人ですので」
「失礼でなければ、帽子を取って見せていただけないかしら!」
「えっと。あの。はい」
夫人の有無を言わせぬ圧に負けたクロ―リカは帽子を取り、獣耳をピコピコさせた。
「さ、触ってもいいかしら!?」
(マッキンガー伯爵夫人といい、この方といい、変わった貴族もいるものですね……)
●
ダニエル・ヘリントンはコスプレパーティを盛り上げるために気合を入れた服装を着ていた。
ざわ……ざわ……。
ダニエルの「女装」姿に来客達がざわめく。なぜならば、ダニエルは上方はツインテールにまとめており、その服装はメアリー王女が人前に出てくる際によく来ている、鮮やかなオレンジ色のドレスだったのだ! 身長180cmの筋肉質の男がメアリー王女のコスプレをしている……。会場がざわめくのも無理はない。というか、よく入り口ではねられなかったな。
「生徒会長、ごきげんよう」
「ごきげんよう、初めてお会いした方」
(あれ?)
パーシアはダニエルからそっと目を逸らし、他人のフリをした。たまたま近くにいた主催者の貴婦人二人もさすがにショッキングだったのか、笑顔が引き攣っている。
「そこの方、ちょっとよろしいでしょうか? 私はこういう者です」
「あら、王国騎士の方ですか」(裏声)
ダニエルは笑顔で額に青筋を立てている赤毛の女性に話しかけられた。彼女の名はアリエス・クレスト。このパーティで有事が起こった時に備えて潜入していた新米王国騎士だ。つまりは――職務質問というやつである。
「マッキンガー伯爵夫人、空き室をお借りしたいのですが?」
「ええ、どうぞ」
「仕方ないね」
ダニエルはアリエスに連行されていった。
「その服装はメアリー・リーンエス王女のコスプレですか?」
「何をおっしゃっているのか分かりませんよぉ(棒読み)。これはドゥジケット準備会の影のドン、メイさんのコスプレです」
「なるほど、ドゥジケット準備会というのは?」
「学園にあるドゥジンシを書くクラブですわ!」(裏声)
「では、あなたはそのクラブに属する少女の服装を真似ただけだと」
「その通りですわ!」(裏声)
「そんなわけあるかぁ! メアリー王女のコスプレなんだろ!!」
結局、ダニエルは衣装を没収されたが、証拠不十分により釈放された。
●
数日前。パンクリアース学園にて。
「サイズだいぶ困るだろ、ごめんね?」
「確かに大きいサイズですが、布面積が少ないので、なんとか!」
ヨル・スレイマンは第三演劇部の部室を訪れ、パーティ用の衣装を仕立ててもらっていた。マリリンに「190cmサイズのダンサードレスはないか」と無茶ぶりをしてみたところ、やっぱり無かったが、裁縫が得意な部員に声をかけ、用意してくれたのだ。
「あとは、ここをつなげて……マリリン、そっち持って」
「はい」
「よし、できた!」
完成したビッグサイズのドレスをヨルに手渡し、裁縫少女は微笑む。
「ありがとう、二人とも」
ヨルはにっこりと微笑む。
(マリリンは誘拐があった後だが、元気そうでよかった)
●
そしてパーティ当日。
「ナハシュ……仮装パーティなのにどうして女装をしていないんだ!?」
ヨルは待ち合わせ場所に現れたナハシュの姿を見てガッカリした。ナハシュの姿はモフモフの巨大なモルモット獣人に変身した姿で現れたのだ。パーティのドレスコードの二種類のうち、ナハシュは「動物の衣装」の方を選んだのであった。ちなみに再現度がやけに高い毛皮は、フェイクカバーで用意したらしい。
「色々でけぇなー!!! よくその恰好にしたもんだ」
「コスプレパーティなんだからドレスコードはこうだろ。それより一応仮装だけど、全裸の獣人ってアリなの?」
「この毛が服だ! つまりこれでOK!! 主催側もモフモフがいいならこれでいい筈だ」
「腹を冷やしても知らないぞ。入り口ではねられたら上着は貸す」
「俺よりテメエの腹を心配しろよ。そういえば、あいつ、その恰好好きだぞ」
「知り合いなの?」
「おう。前にちょっとな」
「こう、貴族もいろいろだよな……」
「あの……全裸の獣人は流石にアウトですので、ズボンは履いてください」
やっぱりダメでした。後で聞いた話によると、主催者は「獣人は全裸OK」にしようとしたらしいが、(良識ある)王家と法衣貴族達に阻止されてしまったのだとか。主催者はOKでも、王家的にNGだったようだ……。
「しかしよく出来てるね。ちょっとモフモフしてもいい……?」
「いいぞ」
もふもふ。もふもふ。2メートル近い大男がダンサードレス姿で半裸のモルモットマンにすりすりしている姿は、とてもシュールな光景であった。
「うん、モフモフだね」
「ははは、くすぐったいな!」
(いや、毛が服代わりってことは今ある意味半裸なのでは⋯⋯?)
真実に気付いてしまい、勝手に照れてそわそわするヨルであった。
「マニアってのは何処の界隈も変わらねえよなー! おかげで美味い思いが出来て万々歳ってなもんだぜ」
「うん、これはラッキーだ」
無事に会場入りできた二人は、料理の乗ったテーブルに張り付き、腹いっぱい豪勢なご飯を食べたのだった。
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「ルベアは立ち姿がすらっとしているからその服がよく似合うね」
「シルヴィアさんこそ、凛々しいと思うわ」
姿見の前に立っていたシルヴィア・A・カペルが微笑むと、ルベア・ベルニは戸惑いながらも、はにかんだ。二人の衣装は色違いでお揃いのデザインの執事服だ。シルヴィアが第三演劇部のマリリンに頼んでみたところ、喜んで二着貸してくれた。タイは色違いで、シルヴィアが紺色で、ルベアは黒色だった。
「ファッションショーの時のワンピースも似合っていた。凛々しい服も可憐な服も着こなせる……色々な服をお勧めしたくなるよ」
「そ、そう? ……色々着るようになったのは冒険者になってからだから、自分に似合ってるのか不安だったりもしたのよね……。シルヴィアさんにそう言われると、自信もつきそう」
(学園内だと耳や尻尾は目立つからフードは外せないけど……これも、異種族が増えたら変わるかしら)
少しずつだが、パンクリアース学園の雰囲気は変わりつつある。シルヴィアはもう卒業してしまうが、来年になればきっとまた、新しい冒険者達が――貴族でも豪商の子でもない、様々な出自の者達が入学してくるだろう。
(ルベアは学園ではよくフードを着けているから久しぶりに彼女の表情をしっかり見た気がするな)
「君の髪の長さならポニーテールも良いんじゃないかな」
「え」
学園の未来に思いを馳せていた所に思いもよらぬ提案をされ、ルベアは変な声が出た。
「ポニーテール……やったことないかも。お願いして、いい?」
「あ、もちろん」
シルヴィアは微笑み、持参していた黒のリボンを手に取った。
「……」
変わった自分の姿にびっくりするルベア。
(髪型を変えるだけで、こんなにも印象が変わるのね……)
「どうかな? マリリン」
「変じゃないかしら?」
「ええ、二人ともよくお似合いですわ」
同じく執事服に着替えたマリリンはにっこりと微笑んだ。
●
「やあ、アリエス。王国騎士登用おめでとう」
男装しているアリエス・クレストを発見したシルヴィアは、笑顔で祝辞を述べた。
「ありがとうございます、シルヴィアさん。おかげ様で、なんとか夢の続きを見ることができるようになりました」
アリエスは恭しく頭を下げ、丁重に礼を述べた。
「そうか、それは良かった。配属先はもう決まったのかい?」
「いいえ、まだ研修期間中ですので、正式には。希望は六番隊で出しています」
「そうか、希望が叶うといいね」
「お、シルヴィア。それにルベア」
「やあ、ナキル」
「こんにちは」
アリエスと別れた後、シルヴィアはナキルと遭遇した。
「二人はお揃いの衣装なんだな。ルベアは髪型変えたのか? なんか…いつもより大人っぽい気がする」
「そうだね。あの子に羨ましがられてしまうかな?」
「ええ。ちょっとね。自分でもびっくりしているのだけど……。今度、あの子にも見てもらいたいわ」
●
「何事も、参加するからには全力だ」
ローザリカ・L・ディオールはドレスコードを守り、華麗に男装をしていた。彼女の服装は白い制服に金縁の刺繍の騎士風。羽織ったマントの裏地はジュストに合わせてシャルガネ風だ。色味は深い緑でジュストの赤が映えるように(そして互いのイメージ色になるように)していた。共に歩くならその方が雰囲気が出るだろう、という工夫である。髪はポニーテールに結い上げ、化粧も目元を凛々しく見せるように拘った。普段の男性的な言葉遣いもあり、ローザリカには適性があったのだろう。その立ち居振る舞いは実に堂々としたものだった。もしかすると、こっそり練習もしたのかもしれない。
(歩き方や所作、それらひとつで雰囲気はガラッと変わる。なよなよしていては折角の男装も水の泡というものだろう)
一方、彼女の婚約者のジュスト・ヴェルジーの方はと言うと……。
(結構色物な趣向だし、あまり乗り気ではなかったんだけれど……ロゼが参加するならエスコートしないわけにはいかない)
ジュストの方は奥ゆかしく、シャルガネの狐を模した目元を隠すタイプのマスクをつけ、男女兼用のデザインのシャルガネの着物を着用していた。シックな黒い着物に黄色い帯、その上に女性物の艶やかで華やかな羽織(色味は赤系)に袖を通し、小物は黒いレースの手袋と扇子。果たして「異性装」なのかと言われると微妙なラインだが、ふさふさの狐の尻尾を模した飾りを帯から提げ、狐の獣人の衣装ということでドレスコードをクリアしているつもりである。
「ふふ……その衣装には東方の神秘を感じるね。さあお手をどうぞ、僕のお姫様」
(今日ばかりはエスコートするのは此方の役目だろう)
ローザリカはさも当然のようにジュストへと手のひらを上に向けて差し出してきた。ジュストはローザリカが差し出してきた手に己の手を乗せ、扇子の下で笑う。
「全く困った騎士様だ」
(どちらが化かされてるのか解らないね)
「さながら僕は彼の従者か、化生に誑かされた騎士か……どちらだろうね?」
●
「ぼおおぉ! ぼおおぉ!」
コルネリウス・アーラは荒ぶっていた。彼女の衣装は火を吹く馬の着ぐるみだ。姿勢を低くし、ダイナミックに暴れ馬のモーションをするコルネリウスの迫真の演技には、他の参加者達も驚きを隠せなかった。ちなみにこの衣装は以前ベビーシッターを務めた際の経験から着想を得たようだ。
(そういえば、収穫祭以外で仮想をするのは初めてですね)
「おかあさん、おうまさんがいるー」
「あら、本当。とてもリアルなおうまさんね」
「おうまさん、尻尾撫でていい?」
「ぼぉおお! ぼぉおお! ……はい、いいですよ♪」
「やったー!」
ちびっこが着ぐるみの尻尾を撫でると、手触りは意外ともふもふだった。
「パーシアさん、ウィリアム王子の衣装、とても良くお似合いです」
馬の頭部からにゅっと顔を出したコルネリウスが挨拶すると、パーシアはぎょっと固まった。
「誰!? ……ああ、アーラさんでしたの。てっきり不審者かと」
「ひどい!? 今日は仮装パーティですよ!」
「あら、失礼。そうでしたわね。それにしても、思い切った格好をしましたわね……カカポとか、モルモットとか、珍妙な恰好をした方は他にもいらっしゃいましたが……」
上から下までコルネリウスの姿を眺め、パーシアは感慨深そうに言った。
「ふふ、これはちょっとした自信作です」
コルネリウスは胸を張った。
(もしかして、自分で作ったのか?)
●
「マリリンさん、こんばんは」
「!? ……ああ! 噂の荒ぶるお馬さんの正体はコルネリウスさんでしたのね」
ちょっとびっくりした様子だったがマリリンはすぐにコルネリウスだと気づいてくれた。
「ちょうど、私が誘拐された時のことを話していたんです。こっちのユリアちゃんもこないだ誘拐されたけど、冒険者さんに救出されたんですよ」
「はじめまして、ユリアと申します。一年生です!」
元気な後輩たちの姿に、コルネリウスは微笑んだ。
「マリリンさんもとても楽しそうで……あぁ、色々と大変なことも沢山ありましたね」
(トラウマになってなくてよかったです。そういえば、私もあの時は大変な目に……)
コルネリウスの脳裏に、ニコラ侯爵夫人との闘いの記憶が蘇る。
「ちょっと無茶をしすぎて、お腹に穴を開けられたのも良い想い出です」(お腹のあたりを擦りながら)
「その節はお世話に……傷とか残ってないんですか?」
「はい。腕のいい王国騎士のヒーラーが治療してくださいましたので。授恵者って頑丈で助かります」
コルネリウスはペロリと舌を出した。
●
「ヴィナとルーンとこいよ……」
ダークグリーンのレースハイネック&長袖Aラインマキシレングスのドレスで見事に着飾られたカイン・ステラはベンチでうつむきながら呟いた。彼は今回のパーティの衣装についてギルド職員に意見を求めたところ、嬉々として貸衣装屋に連行され、気づいたらこうなっていたのだ。その職員は過激派のドゥジン教徒か何かだったのだろう。あるいは、主催者であるマッキンガー伯爵夫人の息がかかった者だったのかもしれない。怖すぎる。そして、肝心の女装の完成度だが……見るも無残ではないが男だと確実に判るレベル。カインは男の娘になれないし、なりたくもないお年頃であった。
「あ、いたいた、カインだ」
「やあ、カイン」
ヴィナスとルーンス・ラグネルが手を振りながら近づいてきた。兄弟揃って男だと判るが、見られる類の女装であった。二人は恥ずかしげもなくドレスを着こなし、堂に入ったモデル歩きで近づいてくる。
(あいつら平然としすぎじゃね)
カインはげんなりした。兄のヴィナスはピンクの芍薬が咲き誇る赤の着物だ。芍薬の花飾りで髪型をカバーしている。弟のルーンスは藤が咲き誇る着物をアレンジしたストレートラインのドレスを着ており、藤をあしらった花飾りで髪型をカバーしていた。さらに二人とも、顔にはしっかりと化粧が施されていた。
「俺がこういう格好してもあんま面白くねぇと思うんだよなぁ」
「背の高い男の異性装だと、着るものに難儀するよね」
「これ? パーティードレスの広告にいいかなって」
カインを左右から挟んだルーンスとヴィナスは、カインの肩にポンを手を置いた。聞くところによると、兄弟が着ているドレスはどちらも商会の新作らしい。商魂たくましいというか、図太い兄弟であった。二人は罰ゲーム状態のカインがかわいそうだったので、一緒にいてあげることにした。
「あ、マリリンだ。ちょっと挨拶してくる」
「ルーンはドゥジン関係でマリリンと知己を得ていたのだっけか。内々とは言え、商人として復帰を決めたし、俺もゆるっと挨拶しておこう」
ヴィナスとルーンスは優雅な足取りで執事服を着た少女へと近づいていった。
「皆よく転ばねぇよなぁ……」
なんとなくシルヴィアの声真似をしながら、一人になってしまったカインはぼそりと呟いた。
「やあ、マリリン」
「あら、ルーンスさん。ごきげんよう。そちらの綺麗な方はお姉さんですか?」
ルーンスが挨拶すると、マリリンは微笑んだ。
「ははは、残念ながら兄だよ。ヴィナスだ、弟が世話になっているね」
(弟が広告料金タダで報酬なし帳消しって喜んでた件はマリリンには黙っておこう)
マリリンと少し雑談や商業トークを交わした後、ヴィナスとルーンスは生徒会長パーシアにも挨拶しにいった。
「ご機嫌麗しゅう。先日は素晴らしい資料をありがとうございました、ラグネルさん」
「あれぐらいお安い御用ですよ、生徒会長」
先日の吸血鬼との戦いの報告書を貰っていたパーシアはニコニコと二人に微笑んだ。
「殿下は大変立派でいらっしゃいました」
(ドゥジン関係者へも送ったことは言わず、だな。夢女と腐女子は違う信仰だ)
(そうだね。解釈違いで戦争になってしまう。ラミアス先生のことも伏せておこう)
二人はハンドサインとアイコンタクトだけでテレパスばりの意思疎通を行った。
「やあ、カイン。……なかなか堂に入った姿じゃないか」
カインが一人でヴィナスを眺めていると、シルヴィアが声をかけてきた。
「シルヴィアか。なかなか動きづらい恰好だな、ドレス。歩くたびに裾を踏んづけちまう。あと、ちょっと声をお借りしています」
「……まあ、構わないが。姉弟にも見えないだろうし。ドレスの歩き方を少しレクチャーしようか」
「それは、助かる」
かくして、執事服のシルヴィアがカインにドレスでの作法を指南するという、ちょっと珍妙な絵面が展開されたのだった……。
●
「仮装パーティですか。あまり変わった格好は持ってませんし……作りますか」
ヴィルヘルミナは仮装パーティに参加するため、衣装を自作することことにした。
……。
完成したのは立派なカカポ(フクロウオウム)の着ぐるみであった。レピドの『まるごとショウガ』とは異なり、顔がすっぽり隠れるフルフェイスモデルの着ぐるみである。羽根の一本一本までも再現した、製作協力してくれたドワーフの職人さん入魂の逸品である。
(『誰がここまでやれと言った』みたいな事態も想定されますが、授恵者の方は割とぶっ飛んでいる方も多いので多分大丈夫でしょう)
ざわざわ……。
「まあ、わたくし、ビッグオウム初めて見ましたわ。可愛らしい生き物ですのね」
「いやいや、ビッグオウムはもっと大きい生き物だよ。あれはきっとオウムの獣人さんだよ」
「え、羽根の生えた獣人なんていたっけ?」
「そういえば、空を飛べる獣人はいないはずだな……いたら、運送方面とかで活躍してるはずだ」
「ということは、あれは着ぐるみ?」
「馬鹿な! あんなリアルな着ぐるみがあるものか!」
ヴィルヘルミナのやけにリアルなカカポは大好評だった。
(フッ……)
ちょっと調子に乗ったヴィルヘルミナはドワーフの職人魂を示すべく、両腕を雄々しく広げた。そのままおもむろにステップを刻み、炎のようなキレッキレの激しいダンスを披露する。
(ドワーフ職人の技術力を見よ! 関節の可動域も凄いのです!)
ヴィルヘルミナが踊り狂っていると、シュババッ! と人影から不思議なシルエットが姿を現した。それは、口から炎(っぽいテープ)を吐いている赤い馬であった。
「……」
「……」
威嚇するようにヴィルヘルミナが翼を広げると、馬の方も蹄をカツンカツン、床で擦る。一色即発の雰囲気だ。
がしっ。そして、どちらからとも二人はお互いの凝った衣装を称え、力強くシェイクハンドした。
●
「黄金像に出資して下さった方に頼まれたなら否とは言えませんよね! ドゥジンにご理解がお有りならお近づきになるのも良いかもです!」
シェルリア・リトヴァールは張り切っていた。そんな彼女の衣装は学園生のドゥジン界隈では根強い人気を誇るカップリングであるラミ×ウィルの攻める方(攻め方には諸説あり)、ラミアス・クルスロードのコスプレであった。ドレスコード的には男装だけで既にクリアしているが、シェルリアはさらにその上に、もふもふうさ耳カチューシャを上乗せしていた。その結果、パーティ会場にはうさ耳を付けたパンクリアース学園の教務主任のそっくりさんが出没する不思議空間となった。服装を似せ、伊達眼鏡(ガラスは高級品)をかけ、ウィッグを被ったシェルリアのコスプレは、それなりにラミアスの特徴を捉えていた。さすがに身長は誤魔化せなかったので、本当に間違える人はいないだろうが。
「異性装の美男美女や可愛いもふもふを堪能出来る幸せ……」
シェルリアは(ラミアスの扮装で)、参加者達の豪華なラインナップを見てよだれを垂らしていた。執事服に身を包んだ男装の麗人達。お洒落なドレスや着物に身を包んだ女装トリオ。白い騎士に手を引かれている狐面の獣人。ちびっこに囲まれて高笑いをしている仮面の怪盗。ケモミミカチューシャと付け尻尾を付けた可愛い子供達。執事服で一心不乱に肉を貪り食うエルフ。横笛を吹き、優しげな音楽を奏でるキジトラマン。きびきびとテーブルに追加の料理を運ぶケモミミ獣人メイド。情熱的な2メートルの女装ダンサーと、半裸のモルモットマン。そして、真っ白に燃え尽きた感じで休憩している赤い馬娘と、やりきった感を出して壁際に佇む巨大カカポ。なんか王国騎士に連行され、別室に連行されて行くメアリー王女っぽい衣装のマッチョマンなんかもいたりしたが、実に見ごたえのある光景であった。
「ご機嫌麗しゅう。このような楽しい催しにお招きいただきましてありがとうございます。それに、我が校の黄金像出資にも感謝を。マッキンガー伯爵夫人、ラーザニア子爵夫人」
「ご機嫌麗しゅう。ラミアス先生の衣装、よくお似合いですわ、レディ」
「うさ耳着用とは、わかっていらっしゃるわね、貴方」
「光栄です、マダム」
シェルリアはにこやかに微笑み、二人に紳士的な礼をした。
こうして、王都で開かれた楽しい仮装パーティの夜は更けていくのであった……。
マスターコメント
それぞれパーティを楽しんでおられたかと思います。主催者たちも大満足でしょう! お疲れ様でした。
イベントシナリオ(50人)易しい 報酬:無し20 / 4〜50人
2023年03月28日 18時24分34秒 公開
大成功
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皆様、ようこそお集まりいただきました。出発は明日のお昼12時です。忘れ物にはご注意下さいませ。