桜の街と新年の風
崎田航輝
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シナリオID:2730
オープニング
桜の木々は葉がなくなり、蕾をつける日を待ち始める。代わりに冬の花が旺盛を迎えるこの時節……桜の街に訪れるのは、華やかで明るい新年のお祭りだった。
琴や三味線の音色に、鹿威しが小気味よく響く。
――倭桜ノ街。
シャルガネの一端に位置するそこは、東方文化の色濃い景色の中……新年もまた平和でおおらかな空気に満ちていた。
ただ、それだけでなく――
「今年もまた賑やかになりそうだ」
言いながら街を眺めるのは町長。
その視線の先、街の中心部は……平素よりも活発な賑わいに満ちている。
というのも、神社は初詣に向かう人々が列を成し、屋台にも多様な食べ物が並ぶ。広場では餅つき大会、会館では食事会の準備も進められて……皆が期待の笑顔だった。
そう、街では新年の祭りが開かれる所。
街を知る人にも、新たに訪れる人にも……心から楽しんで、この一年への英気を養って貰いたい、そんな思いで皆が準備を進めてきたものだ。
勿論、食べ物だけでなく……書き初めや東方の遊びが楽しめる所もある。
故にこそ――
「やはり、彼らを招かなくては始まらないな」
町長はそう心から声を零す。
それは他でもない、街の活気の立役者でもある……冒険者達の事。
祝いの祭りなら、彼らを招待しないわけにはいかないのだ、と。町長は早速その手配の為に歩みだしていた。
そして新しい年のその日、冒険者達は桜の街へ招かれた。
風流な眺めの中、人々は新年の祝福に沸いている。
そんな中で冒険者達は――
解説
マスターより
リプレイ
街の一角にある料亭。
広々としたそこでは――これから新年会が開かれる所だ。
皆を案内するのは幹事として音頭を取ったロゼット。着物姿で――訪れる面々と新年の挨拶を交わしていた。
「明けましておめでとう」
「おめでとうございます。ロゼットさん、お誘いありがとうございます」
今年も宜しくお願いしますね、と。
微笑むのはリサ・ベイカー。ぺこりと頭を下げ、挨拶を返す。
更にイヴェール・イリュジオンが「お邪魔いたしますね」と歩み入れば――後にギャメルも続いて。
「やあ、来たよ」
「ええ」
教会でも顔を合わす姿にロゼットも笑みを返す。
と、そこへアリッグ・レイダーもまた顔を出して。
「俺も邪魔するよ。まあ、今年もよろしく頼むぜ」
ざっくばらんに挨拶すれば、ロゼットとギャメルも「宜しく」言葉を返すのだった。
段々と賑わいを増す場に……着付けを終えたレピド・クロサイトもやってくる。
その姿は、藍をベースに、流れるような白の文様の入った着流し。風流な召し物に、本人はまだ少々慣れないまま――見回す。
楽しげな雰囲気に釣られて参加はしたけれど、と。
「これは祭の一種か……?」
「そのようなものだと思ってもらって構わないわ。食事を楽しみましょ」
ロゼットが答えていると、残る面々も列席する。
庭園と座敷内を見渡すのは、黄の紋付きに緑の袴を着付けたジュスト・ヴェルジー。
「華やかな場だね」
「ああ」
と、ローザリカ・L・ディオールも隣で頷いていた。
こちらは赤と黄の糸で織られた生地に、緑の差し色を加えた振袖姿。髪も丸みを帯びた形に結い込んで東方風に纏めている。
ずっと欲しかった振袖を仕立てたばかりだから、着る機会が得られて嬉しい、ばかりではない。
新年に冒険者仲間が集まった事にも、表情を和らげて。
「楽しくなりそうだ」
「ええ、そうでございますね」
そっと頷くのは、清雅な着物に身を包むレティシア・レインフィール。
皆へと新年の挨拶を交わしつつ、ロゼットにも声をかけて。
「招いて頂きありがとうございます」
「こちらこそ、来てくれてありがとう」
ロゼットが応えていると……早速料理が供されてくる。
その華やかな見目に、リディリディ・トゥラ・イェレミースは興味深げに視線を落とす。
「おせち料理、ですね……」
「ええ、とても綺麗で」
それに美味しそう、と。
コルネリウス・アーラも笑みを見せると――ロゼットも頷いて、皆へ改めて挨拶を述べた。
「本年も良い冒険がありますように」
そう謹賀を告げると……早速皆で食事を頂く事となった。
「これがシャルガネのおせち、なんですね」
伊達巻に数の子、黒豆。
リサは並ぶ品々を見つめて興味の声を零す。
「ちゃんと食べるのは初めてかもしれません」
「私も初めてです。新年に頂くものなんですね?」
コルネリウスの言葉に、ロゼットが「ええ」と頷いた。
「具材はそれぞれ、祈願の詰合せみたい。全部に意味があるのね」
言って見つめるのはお品書きに書かれている説明だ。
伊達巻は学業成就、栗きんとんは金運。おせちそのものの謂れも含め……皆はそんな異文化にも感心の面持ちだった。
「レンコンは見通しの良い未来、なんて意味があんのか」
ギャメルはその穴から先を見通しつつ呟く。
それはギャメルにとっては一層意識せざるをえない事。
何故なら今年は自分達ゴブリンにとって……波乱万丈の一年になる予感するから。
「ゴブリンって種族の明るい未来への願いを込めて、いただくとするか」
先への不安はあれど、今は宴を十二分に楽しむように。ギャメルはそれを食べて、また別の具材も味わっていく。
「ん、どれも中々旨いな」
「ええ、そうですね」
仄かに笑んで頷くのはレティシアだ。
レティシアもまた、シャルガネの料理をきちんと頂く機会は無かった。
故に王国ではあまり見かけない食材に、最初は恐る恐るだったけれど……たたきごぼうやごまめを口に運ぶと、一つ一つが丁寧に作られ、味付けされていると判る。
それだけではない。
去年から心労も重なった故だろうか、余り食欲も無かったけれど。ここに並ぶものはどれも味付けが濃くなくて食べやすくもあった。
皆が賑わう中、レピドも食事を始めていたが――
「箸……中々難しいな……」
ナイフやフォークとは使い勝手が違うそれに少々苦戦している。
とは言え持ち前の器用さですぐに慣れてくると……料理を味わう余裕も出てきた。見た目にも物珍しいから、一つ二つと気になったものを食べる。
「成程、これは……」
数の子はぷちぷちとした食感が良く、黒豆は甘さが程よく、どれも美味だ。
ただ、一見には材料が判らないものもあって。
「これは何だ……?」
「それは蒲鉾、というらしいですよ。魚のすり身だとか」
と、答えるのはコルネリウス。
物珍しい料理の数々には、コルネリウスも興味と驚きを覚えていて……蒲鉾もまたその一つであったのだ。
するとレピドは少々口を開く。
「これが……魚だと……?」
材料から想像できない感触に、驚愕を思えながら――それでも食べてみると、確かに特有の旨味は感じるのだった。
「そうだ、魚ならショウガも食えるか」
と、柔くて淡い味付けの蒲鉾があれば、それを傍らの猫へ。はむはむと食べる様子を眺めつつ、レピドは野菜も幾つか見繕って与えていった。
「魚ならこちらにもありますよ」
と、声をかけるのは配膳も行うアリッグだ。
大皿で出された鯛の姿焼きは、小分けにする必要もあったので……それも手伝って皆へと配っている。
「済まないな」
「いえいえ」
レピドにアリッグは首を振り、周りの手伝いを続けていく。
それは単なる親切心というよりは、好印象を持ってもらうための営業でもあったが……それ故に態度は勤勉。
ただ、ギャメルを見つけると少々悪戯心が働いて――
(よし。この唐辛子をっと……)
ばれにくいよう、切り身の裏に山ほどふりかけてから、そっとお皿を置いた。
「これも食べなよ」
「ああ、悪いな」
ギャメルは言いつつ受け取る。
が、他のものを食べている間に、そのお皿が少しずつ追いやられて……忘れた頃にギャメルはそれを見つけて。
「……これ食べたっけな? まあいいや。アリッグ、これやるよ」
「え? ああ」
と、アリッグは特に考えもせずそれをぱくり。
「~~!!」
食べてから悪戯を仕掛けた皿だと気づいて、辛さに身悶えてのたうち回るのだった。
そんな近くでは、リディリディがおせちをつまみながらもキョロキョロしている。
というのも――
(お肉はないのでしょうか)
全体的にヘルシー気味な料理に、そんな思いを抱いたからだ。
おせちは美味だけれど、やはりがっつりとしたもの食べたい。それは理屈を越えた本能的な感情であった。
ただ、分かりやすい肉料理は見つからなくて。
「……あまりないですね。ふむー」
何とはなしにはんぺんをはもはもと齧りつつ。
「シャルガネの料理にはお肉が少ないのかもしれませんね……」
口寂しい思いで呟く。
と、隣のレピドが目を向ける。
「肉料理か? 筑前煮なら、鶏肉が入っていたはずだが……」
と、供されている煮物を差す。レピドも肉料理が好物な為、見つけて味わっていたのだ。
見てみると、根菜の多い煮込みだが……確かに鶏肉もたっぷりと使われていて、食欲をそそる香りを放っている。
「成程、これは……」
リディリディは早速山盛りで準備してもらい、実食。
じっくりと煮えた鶏肉は、出汁が染みて味わい深く……噛むとほろりとほぐれる柔らかさ。
脂の旨味もあって――リディリディはおかわりしては、またおかわり。余人には食べた量が想像出来ぬ程の鉄の胃袋っぷりを披露するのだった。
そんな姿に驚嘆しつつ、リサは筑前煮も他の料理も味わっている。
「しかし、どれも素敵な料理ですね」
伊達巻は、優しい柔らかさと甘みが何とも風雅。
焼いた鯛は味付けもシンプルだけれど、ふんわりとした身が活きていて美味。
黒豆はしっとりとしていながらも快い歯ごたえがあって……一つ一つに、他の地の食べ物にはない特有の風情を感じるから。
「他にはない味に、見た目……シャルガネの歴史が作ったものでもあるのでしょうね――」
食べ進めつつ、そこに匠の技術も感じないではいられなくて。
(今度……自分でも作ってみましょうか?)
そんな思いも抱きつつ、料理を堪能していった。
ジュストもローザリカと隣り合っておせちを味わっている。
「見慣れない料理が多いけど……王国でも使う食材もあるね」
言ってお箸でそっと取ってみるのは焼き物の鯛。
口に運んでみると、シンプルな味付けだけれど……仄かにかけられたかぼすの香りが、やはり他にはない風味と風情を感じさせた。
ジュストは更に、紅白なますも気に入って。
「この根菜のマリネもいいね。それに、これも中々」
「それは錦玉子、か。ん、確かに」
と、ローザリカも味わってみて頷く。口当たりが良く、色味も美しくて惹かれる。
ローザリカは他にも黒豆や栗きんとんも気に入った。
「丁度良い甘みがあって良いぞ」
「では食べてみよう。……成程、これは美味だね」
黒豆は優しい歯ごたえが、栗きんとんはほろりと崩れる柔さが快く……その上品な味にもジュストは満足の心持ち。
ローザリカはその様子に微笑みつつ、煮物も味わう。
「これも良いな。筍の食感も面白い」
さくっとしながらも、出汁の染みたしっとりさもあって、小気味好かった。
「ふむ、おせち。興味深いものだな」
縁起を担ぐという風習も趣深いが、料理自体、多くの品があって見栄えも良い。確かにおめでたいというのも判る気がする。
ジュストも頷きながら、一層満悦の心持ち。
というのも、料理の美味しさとは別に――今日はロゼの振袖姿を見る事が出来たから。
「? 何を見ている?」
ローザリカがふと視線に気づくと、ジュストは言った。
「今年も君は綺麗だなと思って」
振袖も綺麗だけれど――それを着ているロゼが美しいから、と。
言葉に、ローザリカは一瞬だけ目を見開き、顔の熱さを自覚する。
「……当然だ!」
そして何でもないように返しながら、視線を前に戻した。
(君の、婚約者なのだから)
心の中で、そう一言だけ添えながら。
「これは、オトソというのですか」
リディリディはお酒も味わい始めている。
ロゼットは頷く。
「普通の米のお酒じゃなくて身体に良い薬草酒らしいわ」
「確かに、お酒に強くない私でも飲みやすいですね」
実際はただ、リディリディ自身がお酒に強いだけなのだが……リディリディは自覚もなく、くいくいと酒坏を空にしていた。
周りでもお酒は進み始めていて――
「ん~、寒いよぉ……」
辛さをお酒で誤魔化そうとしていたアリッグは、既に酔いつぶれの様子。ごろごろと寝転がり子供のような甘えん坊になっている。
「お水、飲みますか?」
そこへコルネリウスが介抱に向かうと、ギャメルもやってきた。
「オレがやっておくよ。……全く、しょーがねぇなぁ」
ギャメルが受け取った水を飲ますと、アリッグはようやく大人しくなる。ギャメルは一息ついて、再度座ろうとして――
「ぬぁ!」
と、悶絶する。風習に倣って正座していたから、ここに来て痺れが出たのだった。
「平気かい?」
「あ、あぁ」
ジュストの言葉にギャメルが返すと……ジュストは「なら良かった」と頷いて、酒の代わりに盃に入った桜湯を戴く。
皆と良き年を送れますように、と。
思いと共に、皆を楽しげに眺める。
レティシアもまた、弱めの酒を頂きながら……賑やかな皆を微笑ましげに見つめていた。
王国を始め、混乱が続く各地でもこのような平和な光景を見る事が出来るように、と。
(――今年も力を尽くさなければ)
決意を新たに、思いを込める。
庭園を見れば、新年の風に草花が優しくそよいでいる。そんな景色も眺めながら――レティシアはまた宴を楽しんでいった。
広場にて――ヨル・スレイマンとナハシュは餅つき大会に訪れた所。
「搗き立てを食べられるのは運がいいよ」
「じゃ、早速やろうぜ!」
ヨルの言葉にナハシュは頷いて……大きな臼に人が集まる場所に参加。見様見真似しつつ、順番についていく。
それで勝手を覚えたら、今度は二人で小さな臼を準備。
ナハシュは合いの手で返す方に立候補した。
「こういうのは力がある奴が叩いた方が美味いんだろ? ヨルの方がパワーがあるし、やってくれよ」
「任せておいてくれ」
頷くヨルは杵を軽々と持ち上げる。
大剣の鍛錬は毎日しているから、これくらいは造作もなく。ナハシュと息を合わせ、素早く叩いて餅を仕上げた。
大きな臼の方と合わせ、沢山の餅を手にすると――
「それじゃあ、味わおうか」
ナハシュは醤油と海苔、大根おろしに出汁、きな粉は砂糖なしで用意する。
早速それを共に実食すると――
「ん、旨い!」
醤油と海苔は芳しさが相性抜群で、出汁は優しい風味。
きな粉は香り高く……美味しそうに食べているナハシュを微笑ましく見ながら、ヨルも味わって頷いていた。
「良い出来だ。やっぱり搗き立ては美味しいね」
「油で揚げた奴も旨いんだろ! 食いてえ! 揚げ餅だっけか?」
「良さそうだね。やってみよう」
と、ヨルは更に鍋で揚げ餅も調理。
かりっとした食感を楽しみ、更に雑煮も作って……二人で存分に堪能していく。
その後は初詣へ。
ヨルが『ナハシュの質屋が今年も安泰でありますように』と願い――
「甘酒の前にお守りを買っておこう。君のも買ってあげるよ」
言ってお守りを選びに向かった。
拝殿でもとりあえずという調子で手を合わせていたナハシュは……その間、手持ち無沙汰。
少々見回して、七草粥を見つけて食す事にした。
すると――
「へえ、こいつは中々」
仄かな塩味と香りが、ナハシュの舌には意外と合う。
と、そこでヨルが戻り、厄除けのお守りをナハシュへ渡した。
「ゴブリンは今いろいろあるしな。このくらいあっていいはずだ」
「ああ、貰っとくぜ」
代わりに、と。
ナハシュは七草粥を一杯、ヨルに提供した。
「お守り代にはなるだろ。美味ぇぞ」
「君の奢りか。確かにお守りと同じくらいご利益がありそうだ」
ヨルは頷いて口に運ぶ。
温かくて穏やかな味わい。奢って貰った嬉しさが、一層の美味を感じさせて……ヨルは暫しそれを味わっていた。
鶯色の生地に牡丹柄の振袖。
そこにファーショールを合わせた、雅で可憐な見目で……ゲルダ・クラインはぺこりと頭を下げていた。
「あけましておめでとうございます」
「ああ」
応えて頷くのは、ナハティガル=ラー。
こちらは羽織に着流し。髪は緋色の組紐で結い――美丈夫に一層の上品さを添えている。
「今年も、よろしくお願いしますね」
「こちらもだ」
ゲルダの笑顔に、ナハティガルも返して……二人は庭園の散策に出た。
そこに咲く冬の花は素朴ながら、鮮やかで。歩めば心も風流になる思い、だけれど――ナハティガルの表情は物憂い。
胸中にあるのは他でもない……ゴブリンを取り巻く現状だ。
ドンの意識は戻ったが、依然『イダの刻印』によって魂を縛られている事実は変わらない。
「俺もいつ刻印に意思を奪われるか分からん」
ナハティガルは飾らず、現実を口にする。
「ゲルダ、アンタに刃を向ける事もあるかも知れん」
「……ナハティガル様。わたしは――」
「その可能性は、考えておいてくれ」
ナハティガルはそうとだけ続ける。
起こりうる事に対して、繕いはしたくなかった。
「……」
だからこそ尚更、ナハティガルは自分が自分でなくなる恐怖を自覚する。
――魂の瑕疵。
(それを克服するにはどうすれば良い?)
答えは見えない。
だが、ナハティガルは自身の拳を握る。
一つだけ、断言出来る事はあった。
「俺達の魂を縛り、意志を奪って辱める権利は何者にもない」
――無論イダ妃にも、と。
(俺達を『解放』するだと? ……笑わせてくれる。俺達を家畜程度にしか思っていないのが透けてみえるぞ、イダ・バルダス)
そこにあるのは、真っ向から運命に抗う反抗心だった。
言葉にゲルダも呟きを零す。
「イダ様……」
彼女はきっと災害のようなもので、自分達が理解出来る存在ではないのかも知れない。
それでも……抗えるのがヒトだと、ゲルダも思うから。
「――頑張りましょうね」
そう声音に思いを込める。
刻印を克服できた者達がいたように。
「ナハティガル様も他のゴブリンの方々も、わたし達と同じヒトだと信じています」
だから理不尽に負けないように、絶望に飲まれないように。ナハティガルの力に慣れたらいいと、そう願うからと。
「……ああ」
ナハティガルも頷く。
悲運を、座して受け入れるつもりはない。
思いを胸に……二人は並んで、新たな風の中を歩んでゆく。
「新年最初のお祭り――楽しみです!」
振り袖姿のエルナ・クルプファルツは、軽やかに歩み出していた。
何処も楽しそうだけれど、まずは参拝へ。
参道を進みつつ、拝殿に手を合わせると願い事。今年もワクワクな冒険に出会えるように、そして皆と楽しく過ごせるようにと祈った。
それからおみくじを引くと――
「大吉です!」
旅の運が良好という事で、幸先の良さを喜びながら……近くで七草粥も頂き、温かな美味に寛いだ。
食欲も増してくると、匂いと湯気に誘われて広場へ。
催しを見つけて――
「オモチツキ! 知ってます! カガミビラキというものですね!」
笑顔で言うと、町人に「それはまた別」と教えられつつ。
「……え? 違うのですか……! とにかく、参加します!」
言うと「よいしょ!」「はい!」と掛け声も出して元気に餅つき。
完成した餅は、きなこと餡子で実食。きなこの芳しさと、餡子はまろやかで穏やかな甘味を十二分に楽しんだ。
「お雑煮、揚げ餅――色々な食べ方が在るんですね!」
と、更に雑煮で出汁の旨味を味わい、揚げ餅は歯ごたえも楽しんで。
新たな冒険の為に、エルナはもりもり食べて元気を回復していくのだった。
「うん、良いな」
イズル・M・ヴォルゴールは着付けを済ませ、散策を始めていた。
身に纏ったのは着物。華やかながら目立ち過ぎはしない色合いで……行き交う人波に溶け込む見目だった。
意識するのも時折だが、イズルの母はシャルガネの民族に流れを汲んでいる。
イズル自身もその血を継いでいるから――
(俺、馴染んでるかな? この場所に)
歩むたびに、気になってしまう。
水辺に自分の姿が映れば、街の景観や過ぎゆく人々と自分を見比べて。そして違和感が無いと、どこか安堵を覚えもした。
(母上が父上の元にこなければ、俺は純粋なシャルガネ人だったのかな?)
いや、と首を振る。
そうであればそもそも自分では無いだろう、と。
自分は今の自分でしか無い。
だからイズルは歩みを続け――遊具店や土産物を眺めた。
母がとても大事にしているおはじきがあったと、ふと思い出したのだ。
父の元に来る時に母の母……つまり祖母から貰ったものらしく、イズルも幼い頃におはじき遊びを教わった。
それを想起しながら、澄んだ色合いが美しい、一揃いのおはじきを購入。
「もう少し、歩くか」
それを手にまたゆるりとそぞろ歩いていった。
「お、イュン見て! お餅つきさぁ♪」
フリューリングスルフト=ティエラは、仔兎のイュンと共に餅つき大会へやってきていた。
イュンも興味深げに耳を動かすから――フリューは早速参加。
「ぺったん、ぺったん、ついてこねてのばせやお餅、変幻自在おいしいお餅~♪」
リズムに乗って、人々を歌で楽しませながら餅を仕上げていく。
完成した餅は磯辺焼きと雑煮で実食。
「ん、美味しいさぁ♪」
出来立ての美味を味わって、満足の面持ちだった。
その後は遊びへ。
「うーちもまーぜて!」
広場で賑わう子供達に交ざり、羽子板を手に取る。
すると子供が高く羽根を打つから……フリューは跳び上がって一回転。アクロバティックに打ち返し、歓声を誘った。
凧を見つければ、自分も制作して。
「――出来た! イュン凧!」
言って広げたのは、和紙で可愛い耳を付けた凧。
「たーかく、たかく飛べ。風にのってゆったりと、空を泳ぐはイュン凧~♪」
蒼空を飛ぶそれを、イュンと共に仰ぎつつ……フリューはふと物思う。
あと何回、来れるだろう。
誰と来れるだろうか、と。
「……また、来年」
ひとまず、次の楽しみにして。フリューはまた遊びに勤しんでゆく。
酔いに夜風が、快い。
屋台に寄った後、ルイドは腹ごなしも兼ねて散歩に興じていた。
風流な景色は、見るだけでも退屈しない。中でも……ルイドは人通りの多い道の先、自然豊かな景色を目に留める。
「お、庭園か……」
静かで、落ち着くには良いだろう。
思って入ると、そこは確かに穏やかなしじまに満ちていた。
寒さがじんわりと染み込むようにも感じるけれど――同時に酔いが押し出されていくようで。
(こういう場所も悪くない)
ゆっくりと歩むルイドは、この空気が嫌いではなかった。
「……しっかし、新年か」
夜空を少しばかり仰ぐ。
(まだ実感も何もねぇっつーか)
今の暮らしが始まってから、激動の日々が続いてきたから……時間の感覚を掴みかねている部分もあった。
「これを何度も繰り返すんだと思えば、やっぱ大変なもんだな。人生ってのは」
今に至ったからこそ、そう思う。
まぁでも、と。
(生きるのが大変なのは人に限った話でもねぇか)
視線を下ろせば、厳しい冬にも咲く花々。
それは夜にも映える程色彩豊かで。
ならば自分も、と。ルイドは思い直して――程よく酔いが抜けるまで、そこでゆるりと休んでいった。
ハヤト=ガラン=ヴォルファングとサフィラ・アズラク・ナハルハルアリーブは、共に着付けを終えて出てきたところ。
「やっぱ似合ってるぜ♪」
言ってハヤトが見つめるサフィラは、蒼の着物。
ハヤトが選んだもので……清廉さが良く合っている。
「にゃ! ハヤトもキリッとしててカッコイイよっ!」
サフィラが笑み返すハヤトは、黒の紋付袴。
髪も後ろに纏め、きりっとした精悍な見目だった。
サンキュ、と応えつつ、ハヤトは共に歩み出して。
「なんか、こーしてゆっくりデートすんのも久しぶりだよな♪」
「にゃ、色んな所よってこっ♪」
という事で、まずは初詣へ向かった。
ハヤトに教えて貰いながら、サフィラは作法通りにお参り。
(今年も一年、ハヤトと一緒に健康に楽しく過ごせますよーにっ!)
そう願うと――隣ではハヤトも目を閉じて。今年一年も生き延びて、恋人を幸せに出来る様にと祈りを込めた。
その後は餅つき大会へ。
賑わう中で、サフィラは高速餅つきを披露。ハヤトも豪快に合いの手を挟んで――歓声を浴びながら餅を仕上げる。
出来た餅はきな粉や醤油で実食。サフィラがあーんしてあげて。
「ん、やっぱつきたては美味ぇや!」
「慌てて食べると詰まらせちゃうよっ」
味わうハヤトに、サフィラもお茶も用意してあげて共に美味を楽しんだ。
更に屋台を見つければ、ハヤトは片っ端から食べ歩き。焼きそばに鯛焼き、蕎麦に寿司も味わって。
「やっぱシャルガネならではの味が堪んねぇな!」
「ほんとだね!」
サフィラは少々お腹の帯も気にしつつ……しっかり堪能する。
そして最後はお土産探しへ。
「良さそうなのは、っと」
と、ハヤトが真剣に探すのはサフィラへの贈り物。
その内に見つけたのは組紐。髪に結んだり、腕輪にも出来るもので……蒼と金、白で編み込まれた美しい逸品だった。
「これにするか」
「あたしはこれ!」
サフィラが選んだのは根付け。
白と赤の兎を象ったもので……ナイフの柄に付けられるようにと、ハヤトに贈る。
「えっと、今年のエト? だっけ? 大きく跳躍できるよーに願いも込めてね!」
「ありがとな。じゃあ、これを」
言ってハヤトも組紐を贈った。
「わぁ、ありがと!」
「これからもずっと愛してるぜ」
ハヤトのその思いに、サフィラも笑顔で頷く。
そうしてまた二人は並んで歩み出す。新年の快い風が、撫ぜるように吹いていた。
「まずは土産物を見に行きたいけどいいかな」
そのヴィナスの言葉に「ああ」と頷いて――カイン・ステラは共に散策を始めるところ。
ヴィナスは夜空色の袷の着物に、羽織。
カインも深緑の袷に、羽織を合わせて……並んで歩めば雅で風流。そんな風情も楽しみつつ、寄ったのは小物や素材が並ぶ店だ。
「この辺りも綺麗だね」
言ってヴィナスが買い付けるのは、桜をモチーフにした細工が精緻な、黄楊櫛。
「体験型もいいね……」
呟きつつ、草木染された生糸も選んで……買わないものもメモを取る。
それは、またあの郷へ訪れた時の為の事。
「……」
と、そんな熱心な姿を、カインは横目に見ていた。
(もう何度か訪れてるよな?)
今になって新しい驚きを得ている訳でも無いだろうから――少し疑問に思ったのだ。
ただ、理由は考えれば思い当たる。
その後食事処に入り……注文を済ませた所で、カインはストレートに聞いてみた。
「ヴィナって商人?」
それにヴィナスは少々目を見開く。
思った以上に真っ直ぐに尋ねられたので、逆に驚いたのだ。
だからという訳ではないけれど……頷く。家庭事情は気を遣うだろうから言わないけれど、素性は隠さずに。
「そうだよ。俺も商人」
そこで注文した品がやってくる。
カインはすき焼きで、ヴィナスは紅葉鍋だ。
ヴィナスの方は虹鱒の炊き込みご飯もつけていたので、カインにシェアもしてあげながら……かいつまんで商会の話もした。
「次期会頭は弟に譲ってるんだけどね」
「へえ。それは理由が?」
「まあ、幾つか。俺が企画開発に勝る分、弟は俺より経営に強い、っていう面もあるし」
営業の腕に関しては、どうかな、と考えつつ……「負ける気はないけど」と続けて。
「今の所は見聞広めてる最中だから、基本内緒ね」
言いながら、ヴィナスは自身の変化も自覚している。
戻ろうと思えた事。それはきっと、臥魅郷やエルムポートで“商売”に関わる事柄に触れてきたからかも知れない、と。
(手紙を出してもいいかもね)
思うヴィナスの顔を見ながら……カインは「了解」と頷いている。
そしてそれ以上、多くは尋ねない。
ヴィナスは商人というものに、物思う所が多くある。それが判ったからだ。
食を進めると……すき焼きは肉が柔らかく、卵が絡んで美味。炊き込みごはんも味が染みて無二の味だった。
「美味いな」
「こっちも美味しいよ」
ヴィナスの紅葉鍋も、出汁を吸った肉が濃厚な味わい。ネギや豆腐もまた良いアクセントだ。
だけでなく、すき焼きは締めに餅が出て。
「これ、いいな」
カインは旨味を吸った餅を味わい、感心。
お雑煮とはまた印象が違って、餅の懐の深さを実感できる。
そんな学びも得ていると……店の人にすき焼きの作り方も二種類あるのだと教えて貰えた。
「今回は肉を焼いたのか。そうじゃない場合もあると――」
シャルガネ、奥深ぇ、と。
食文化へのこだわりに、それを一層実感する思いで……カインはまた餅を口に運ぶのだった。
「まずは初詣に行こう!」
「はい!」
アルマ・ヴァレンタインとエヴァン・ピオネロは――神社へお参りに訪れていた。
――今年もエヴァくんと楽しくすごせますよーに!
アルマが祈れば、隣でエヴァンは何を願うかと思案して。
(神様の前って緊張しますね……)
思ってチラリと横を見れば、アルマの祈る様子に胸がキュンとするから。
――今年もアルマと穏やかに過ごせますように。
それが何より大切な願いだと、祈りを捧げた。
その後はおみくじを引いて――
「二人とも大吉だねー!」
「嬉しいです!」
と、善き日が続く兆しに、共に笑みを交わす。
そうして七草粥をはふはふと味わい、甘酒でも体を温めると――餅つき大会へ。
「楽しそうです……!」
賑やかさと昇る湯気に、エヴァンはワクワク。
普段から鈍器を取り回すアルマは、杵の扱いもお手の物で。
「いくよー!」
「はいっ!」
アルマが餅をつけば、応えるエヴァンは良いタイミングで餅を返す。
息もぴったりに、餅を完成させると……きな粉をたっぷりまぶして実食。
「つきたては柔らかで……こんなにも美味しいのですね」
「本当だねー」
アルマももちもちと食べて笑顔。
雑煮や磯辺焼きにしても美味しくて、エヴァンもまたつい沢山食べてしまうけれど――
「お節は別腹、ですよね」
「うん!」
笑み合う二人は、その足で宴へ。美しい重箱に詰まった、きれいなお節料理に暫し感嘆して……早速頂く事にした。
数の子はぷちぷち食感、伊達巻はしっとりさが上品で。
「ぁ、これも美味しいよ? あーん」
「あーん……」
アルマが差し出す栗きんとんに、エヴァンは少し気恥ずかしくも口を開いて。その穏やかな甘味を堪能してゆく。
おとそも出るというけれど……お酒は二人が大人になった時、一緒に頂く約束だから。
「またその時に、だねー」
「そうですね!」
それを楽しみに、二人はひとまず料理でお腹を満たすのだった。
宴が終われば、いつしか外は暮れていて。
帰り道、二人で歩み出すと……エヴァンはいつものようにアルマを抱っこ。
顔が近づくと、アルマは改めて笑顔で見つめて。
「今年もよろしくね」
頬にチュッと口づけ。
くすぐったさと嬉しさで、エヴァンは少し照れ顔になってしまうけれど。
「はい。よろしくお願いします、ね」
愛しさに、アルマを抱っこする腕に力が入る。
そうして二人は帰路へと歩みゆく。
風の心地よさに、明るい一年の幕開けを感じるようだった。
マスターコメント
イベントシナリオ易しい 報酬:標準25 / 4〜25人
2023年01月25日 11時30分39秒 公開
参加者
相談掲示板
あけましておめでとう。まだ言っても大丈夫かしら。 ロゼットよ。よろしくね。 この倭桜ノ街で、新年会みたいなことをできないかなと 思っているのだけど、良かったら、どうかしら。 あんまり、それらしい依頼(シナリオ)も見なかったから。 グループタグ【新年会】 料亭みたいな座敷の部屋で、おせちなど和風の正月料理を頂きます。 こんな感じで。「3.歓迎の宴」で似たような場所があるから、 問題はないかなと思うわ。個人参加でも、気にせずに。 反応が無かったら、気ままに個人行動に切り替えるから、 もし付き合ってやるよって人がいたら、検討してみてちょうだい。
ギャメルだぜ! みんな、よろしくな! ロゼットの【新年会】に参加希望だ。 シャルガネ風の新年の料理とか、食べてみてぇな。 色々と縁起や意味があるんだろ?
アリッグ・レイダーと申します。 皆様よろしくお願いしますね! 僕もロゼットさんの【新年会】に参加しようと思います! 祝いの席ですし、お酒なんかもいただきますよ!
コルネリウスです、よろしくお願いします。 ロゼットさんはお誘いありがとうございます。 私も【新年会】に参加させて頂きます。 ご一緒される方もお出かけされる方も、それぞれ良い時間を過ごせますように。
リサです。 ロゼットさん、お誘いありがとうございます。 【新年会】参加させて頂きますね! 皆さん、宜しくお願いします。
ロゼット殿はお声かけありがとう、俺も【新年会】に参加するよ。 折角なのでロゼも誘わせて貰った。 皆がそれぞれ良い時間を過ごせるように願っているよ。 それじゃあよろしくね。
間違って発言を消してしまったわ(汗 >【新年会】 参加してくれる人は、ありがとう。感謝するわ。 参加者は、プレイングの冒頭にタグ【新年会】の記載だけ、 お願いするわ。タグの主旨は私の方で書いておくから。
No.9
もぐもぐ・・・、皆でお酒やお肉を食べる会でしょうか。 もちろん私ももぐもぐ参加させてもらいまもぐもぐ・・・。
レピド・クロサイトだ、よろしく頼む。 むぐ……【新年会】、楽しそうだな。俺も良かったら参加させて欲しい……むぐむぐ
【新年会】に参加する人多いですね! 初めましての方もいらっしゃいますし、自己紹介も入れておこうかな。 お酒を飲まれる方にはお酌もしますね! (アリッグはお酒を飲み過ぎて甘えようとするので、転がしたり、3回回ってワンさせるなり、お好きに扱って下さい)
おや、もう宴が始まってしまっていたかな? ……遅ればせながら。ジュストがすでに表明してくれていたが、 僕も【新年会】にお邪魔したい。よろしく頼もう。
明日には出発ね。 >【新年会】 参加希望の人は、制限はないからどうぞ。 プレイング冒頭にタグ【】の記載だけ、お願いするわ。
出発間近の宣言となってしまいましたが…… レティシア・レインフィールと申します。 ロゼット様、此度は素敵なお誘いをして下さり 誠に感謝を致します。 僭越ながら私も【新年会】にご参加させて頂きますので 皆様、よろしくお願い致します。