聖なる日のメロディ
崎田航輝
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シナリオID:1751
オープニング
冬の匂いのする風に、優しいメロディが響いてくる。
見ると、道角で町人が蛇腹楽器を弾いていた。
それに合わせて歌う者もいれば、楽しげに踊りの真似事をする子供達もいる。
「この街も、少しずつ賑やかになってきたなぁ――」
そんな景色を目にしながら……青年町長サンドロは顔を穏やかにほころばせていた。
リーンエス王国西部の町、エルセント。
時に歌声、時に楽器の音が聞こえる……そんな町並みを持つそこは、かつて内戦と、それに伴う方策から音楽を禁止された町だ。
それが慣習として残り――つい最近までは、外で大きな音を出すのも邪険にされる風潮があった。
音の失われた町。
そこが昔通りの“音楽の町”としての姿を取り戻し始めたのは、他でもない冒険者の働きによるものである。
町の舞台を使った大きな演奏会――それが大成功に終わったのも過日の事。今では定期的に音楽会が開かれ、楽器職人も大手を振るって作品を作っていた。
それがサンドロには何より嬉しい。
これこそ、夢見た町の姿でもあったから。
ただ――
「もっと、盛り上がってくれたら良いんだけれど」
そんな思いも同居している。
音楽禁止も過去の話。今では町で音楽を奏で、唄い、踊る事が何より歓迎されているが……それでもまだまだ遠慮する者もいる。
音楽の町、というには閑静と言っても良く……単純に、サンドロは町人にもっと遠慮なく賑やかに過ごしてほしかった。
故に、ここ暫く考えていた事がある。
「辺境の方や他の地域では、聖霊節で盛り上がっているらしいし――」
ここエルセントにもこの時期、一層楽しい時間を訪れさせたい。
だから――お祭りを開こう、と。
そうして音楽の町として生まれ直したエルセントで――音楽祭が開かれる事になった。
メインは、町の中心に据えられた舞台での演奏会。楽器の演奏に唄に踊り、好きな演目で人々を楽しませ、楽しむ事が出来るようにする。
勿論、道角で演奏をして歩みゆく人々へ音楽を贈っても良い。自分で道を歩んでも、様々な音楽に出会えるだろう。
屋内でも、ホールで舞踏会を開き――踊りも演奏も楽しめるようにする。
「これも用意して、と」
サンドロは澄んだ音色が鳴るベルを幾つも職人に発注。お土産にする他、祭りに来た人々に町を巡りつつ、好きな所に飾り付けをしてもらえるようにした。
勿論、店々で食も楽しめるようにして。
「何より主役は、彼らかな――」
人々を楽しませ、そして祭りを楽しんでくれるだろうから、と。
サンドロが手配するのは――冒険者達を音楽祭へ招く事だった。
そうして音楽に彩られる町へ、冒険者達は訪れた。
そこで音楽を奏でても、耳で楽しんでも構わない。心得が無くとも、楽器作りや演奏の体験会に寄っていくのもいいだろう。
或いは音楽をテーマにしたグルメを楽しむのも、他と違った体験になるはずだ。
祭りは明るい時分から、夜にまで続いてゆく。
その中で、冒険者達は――
見ると、道角で町人が蛇腹楽器を弾いていた。
それに合わせて歌う者もいれば、楽しげに踊りの真似事をする子供達もいる。
「この街も、少しずつ賑やかになってきたなぁ――」
そんな景色を目にしながら……青年町長サンドロは顔を穏やかにほころばせていた。
リーンエス王国西部の町、エルセント。
時に歌声、時に楽器の音が聞こえる……そんな町並みを持つそこは、かつて内戦と、それに伴う方策から音楽を禁止された町だ。
それが慣習として残り――つい最近までは、外で大きな音を出すのも邪険にされる風潮があった。
音の失われた町。
そこが昔通りの“音楽の町”としての姿を取り戻し始めたのは、他でもない冒険者の働きによるものである。
町の舞台を使った大きな演奏会――それが大成功に終わったのも過日の事。今では定期的に音楽会が開かれ、楽器職人も大手を振るって作品を作っていた。
それがサンドロには何より嬉しい。
これこそ、夢見た町の姿でもあったから。
ただ――
「もっと、盛り上がってくれたら良いんだけれど」
そんな思いも同居している。
音楽禁止も過去の話。今では町で音楽を奏で、唄い、踊る事が何より歓迎されているが……それでもまだまだ遠慮する者もいる。
音楽の町、というには閑静と言っても良く……単純に、サンドロは町人にもっと遠慮なく賑やかに過ごしてほしかった。
故に、ここ暫く考えていた事がある。
「辺境の方や他の地域では、聖霊節で盛り上がっているらしいし――」
ここエルセントにもこの時期、一層楽しい時間を訪れさせたい。
だから――お祭りを開こう、と。
そうして音楽の町として生まれ直したエルセントで――音楽祭が開かれる事になった。
メインは、町の中心に据えられた舞台での演奏会。楽器の演奏に唄に踊り、好きな演目で人々を楽しませ、楽しむ事が出来るようにする。
勿論、道角で演奏をして歩みゆく人々へ音楽を贈っても良い。自分で道を歩んでも、様々な音楽に出会えるだろう。
屋内でも、ホールで舞踏会を開き――踊りも演奏も楽しめるようにする。
「これも用意して、と」
サンドロは澄んだ音色が鳴るベルを幾つも職人に発注。お土産にする他、祭りに来た人々に町を巡りつつ、好きな所に飾り付けをしてもらえるようにした。
勿論、店々で食も楽しめるようにして。
「何より主役は、彼らかな――」
人々を楽しませ、そして祭りを楽しんでくれるだろうから、と。
サンドロが手配するのは――冒険者達を音楽祭へ招く事だった。
そうして音楽に彩られる町へ、冒険者達は訪れた。
そこで音楽を奏でても、耳で楽しんでも構わない。心得が無くとも、楽器作りや演奏の体験会に寄っていくのもいいだろう。
或いは音楽をテーマにしたグルメを楽しむのも、他と違った体験になるはずだ。
祭りは明るい時分から、夜にまで続いてゆく。
その中で、冒険者達は――
解説
●概要
リーンエス王国の町エルセントへ、観光に招かれました。
音楽祭を自由に楽しんでゆく事が出来ます。
時間帯、訪れる場所などは自由です。
●エルセントについて
平和で、広めの敷地を有している町です。
音楽の町として、平時から街中で音楽の演奏をする人々に出会う事が出来ます。現在は祭りの最中で、一層楽器を持った人の姿が窺えます。
町の中心を大通りが通っており、その周辺を中心に賑わっています。
教会などの他、比較的閑静な水路沿いの道があります。
●行える事
祭りを自由に楽しむ事が出来ます。
以下、行える事などの例を示します。
1.音楽会
町の中心の舞台での演奏会です。
好きな演目を発表、または鑑賞する事が出来ます。
町人も参加しますが、町人は最近まで楽器に触れた事もない人々も多いです。盛り上げてあげたり、巧みな演奏をしてあげたりすると喜んで貰えるでしょう。
2.道角での演奏
大道芸、演奏、歌などを町の好きな場所で行います。
舞台には行かないけれど音楽に興味のある人々や、通りがかりの人々に音楽を楽しんで貰えると盛り上がるでしょう。
鑑賞に回る事も出来ます。
3.舞踏会
ホールにて開催されます。
基本はフォーマルな衣装になりそうですが、厳しいドレスコードなどはありません。楽しむ事が目的の催しになります。
踊りに参加する他、演奏側に回ったり、軽食を楽しんだりも出来ます。
4.グルメ
音楽をテーマにした食事が各所で楽しめます。
楽器を模したスイーツや、音符代わりのさくらんぼが沢山乗ったケーキなどがあります。
音楽が題材ならば多様なものがあるので、好きな物を探してみても良いかも知れません。
5.楽器作り体験
一般的なオーケストラ楽器の制作体験が出来ます。
デザインや組み立てから、心得があれば本格的な工程を学ぶ事も出来ます。
6.演奏体験
楽器初心者に向けて、演奏体験が催されます。
町人や子供達なども参加するので、共に楽しみながら学ぶ事も出来るでしょう。
7.散策
比較的閑静な場所を散策します。
水路沿いは町並みも明媚で、夜には美しい星空を望む事も出来ます。遠くで響く音楽を背景に、ゆったりした時間が過ごせます。
8.ベルの飾り付け
祭りに来た人へ大きめのベルがプレゼントされます。
街に飾り付ける用の他、お土産用にも貰えます。
マスターより
王国の一地区で音楽祭を楽しむシナリオとなります。
行わなければならない事などはないので、自由に過ごしてみて下さい。
街には例として示した以外にも、普通の街にありそうな機能を持った施設なら存在します。
適宜過ごしたい場所を訪れてみると良いでしょう。
同行者がいらっしゃる場合は、お名前や共通のグループ名(人数なども併記して下されば確実です)などを記載して頂けると助かります。
尚、エルセントは過去にシナリオ「再生のメロディ」にて登場した町になります(参照する必要はありません)。
皆様のプレイングを、心より楽しみにお待ちしております。
リプレイ
音の祝祭が始まりを告げる、その時。
街の中心に集まった人々は、舞台に期待の視線を向けていた。
どんな音楽を楽しむ事が出来るのだろうか、と。その思いに応えるように――ステージに立ったのがエルナ・クルプファルツだった。
「さあ、始めますよ!」
明るく言って手に取るのはフルート。
まずは優しい旋律を紡いでから……弾むメロディへ。思わず体を動かしたくなるような、そんな曲に合わせて――
(リスさん、お願いしますね!)
ペットのプリニウスを飛び出させる。
テーマは楽しい森の音楽会。ぴょんと跳ねて人々の目を引いたプリニウスは……可愛らしいダンスで観衆を一際盛り上げる。
だけでなく――曲の半ばに差し掛かるとエーテル分身。
ぽんっ、ともうひとつ現れた同じ姿に……人々は驚きつつも歓声。分身が本体に合わせて更に賑やかに舞ってゆくと、熱狂も一層強まった。
エルナ自身も加わってくるくる回ると、盛り上がりは最高潮。終わりを迎えると拍手喝采、人々は曲だけでない演出の楽しさに大満足の様子だった。
「ありがとうございました!」
エルナはプリニウスと共に一礼。
客席に戻って、次の出番の者達の盛り上げに回り――最高の開幕を演出した。
あの時はありがとうございました、と。
礼を言ってくれる住人達と挨拶を交わしながら、テス・クラルスは街の入口にロイ・アウレアの用意してくれた馬車を乗り入れる。
「感慨深いねぇ――」
そう言ってテスが張り切っているのが、ロイには納得出来る。自分も以前の話をテスに聞かせてもらっていたから。
故にこそ、と。
「昔には戻れないと感じる程に、楽しい時間を過ごして欲しいね」
「ロイ、私達も楽しもうね」
言ってテスがキスをすると、ロイもそれに応えながら「既に楽しいよと」と返して。馬車で外縁を回るように出発してゆく。
「よろしくね」
と、愛馬のウィクを撫でるテスは白い踊子衣装。
幌を外すと、手にはベル、足首には鈴をつけて。
蜘蛛のロープで腰と手綱、荷車も繋ぎ――操車しながらも軽やかな音色を鳴らし、踊ってみせるのだった。
街をぐるりと巡る形で、踏み出せない人にもお祭りを楽しんで貰う心持ちだ。
(器用だな……)
と、巧みな綱捌きに見入るロイは、おしゃれで鮮やかな軍服姿。
人形を演出するように真顔を保ちつつ、蛇腹楽器で伸びやかな音を聞かせ――同時にステップを踏んで明るい雰囲気を。
それに惹かれて子供達が集まってくる中……テスは更に舞踏。馬車から落ちそうになりつつも、しっかり体勢を保つ。
合わせてロイはお道化た仕草で慌てた振りと、安堵の笑み。子供達の興味と笑いを誘うのだった。
そんな盛り上がりに、更に観客が増えれば――
「さあ、行くよ」
テスはひらりと荷台から飛び出して、今度は道を舞台にしてくるくると踊る。
ロイも慌てて追うように飛び降りて……「間に合ったー」と仕草で表し、再び音を合わせて奏で始めた。
そのリズムに皆が乗ると、テスはベルを持っている人に促して。
「一緒に鳴らそう!」
――1、2、3、シャン♪
「さぁさぁ絶好調!」
ロイとステップを合わせて踏んで。見学者も促して踊りに引き込んで。皆で奏でて舞えば、賑やかな笑顔が溢れた。
そうして馬車に飛び乗り、街を巡った後で――
夕刻、ウィクを休ませて二人で水路沿いを歩む。
「音が溢れる一日だったね」
「うん」
楽しかった、と。
ロイに応えてテスが言えば、また笑み合って。遠くの音楽を背景に、二人の時間がゆるりと過ぎてゆく。
こんな機会だし、食事も楽しめるらしいから、と。
ヨル・スレイマンとナハシュは連れ立って舞踏会へ向かう所だった。
ただ、同じく会場に向かうらしい人々を目撃したヨルは、途中で立ち止まって――
「君、また女装して行かない? ああいう場所だしさ」
「女装?」
向けられた視線にナハシュは着の身着のままで答える。
「別にこのままでもいいんじゃねえか」
「聖霊節はカップルが多いんだよ! 若い君にはわからないだろうけど、39歳独身には辛いんだ。色々とね」
ヨルは首を振った。
「ほら、一緒に踊ってくれたら食事も奢るから……」
「お、本当か? なら構わねえよ」
ナハシュはそれなら迷う理由もないと、快諾。
「それじゃあ飯と酒全部奢り、プラス500Gな!」
「判ったよ」
そう返すヨルも、それくらいなら安いもの。
早速調達して、ナハシュが着替えてきたのは……上品なフォーマルドレス。歩んだ時に覗くヒールと足元が妖艶で、メイクも完璧だ。
「よく似合うじゃないか」
そう言うヨルも、骨は脱いで貴族服。並ぶと雰囲気のある連れ合いという風情になった。
ナハシュはくるりと回って見下ろす。正直自身では何がいいのか判っていないけれど……ヨルは満足げらしいから。
(多分、趣味だな)
そんな事を思っていると、ヨルが会場内へ手を取ってエスコート。
「レディ・ナジュム、足元気をつけてね」
「ああ」
ナハシュは言いつつ、一応淑女らしく従ってゆく。
ホールでは既に雅な弦楽が響き、多くの参加者がダンスを楽しんでいた。
ヨルはそのままナハシュを導き、踊り始める。
数をこなしてきた事もあって……ステップに、ターン。惑わずにナハシュをリードしていった。
「……前よりは上手くなっただろ?」
「そうだな」
ナハシュもそんなヨルに緩やか所作で合わせ――暫し踊りを続ける。
そんな時間がヨルには快い。
ちゃっかり報酬は要求するけれど、ノリよく付き合ってくれるのは嬉しい。それに気負いも無くてよいし――
(あと普通に美人だし)
そうして踊りを終えると、フロアを出て。
「休憩しようか。あっちに肉料理があったよ」
「お、じゃあ行くか」
ナハシュは上機嫌にそちらへ。
しっとりと肉汁滴るローストビーフに……野菜が瑞々しいサンドイッチを楽しんで――またダンスへ向かった。
「イュン、見て! 音と音楽で溢れてるさぁ♪」
時に独奏で、時に重奏で。
人々が音楽で彩る景色を、フリューリングスルフト=ティエラは仔兎のイュンと共に歩んで回っていた。
メロディとリズムが耳朶を打てば、心が楽しくて。フリューの足取りも段々と、ステップを踏むようになってゆく。
そうして音に酔えば――美しい歌声を紡ぎ。足を止めて興味を示す人々へ、手を差し伸べていた。
「さあ、音を楽しもうさぁ♪」
応じて踏み出した者達と共に、フリューは踊り出す。
――ワン・ツー、ステップ刻み、踊ろう。
『難しいことは何もない、手を鳴らし、飛び跳ねて、くるり回ればそれでOK』
――ラ・ル・ラ、声高らかに歌おう。
『簡単なことさ、手を繋ぎ、音を楽しもう』
それを聞いて集まる人々もまた、魅了されて歌い、踊り始めて。
――ラ・ル・ラ、音紡げばそれが歌になる。
そこは音楽の街。それをフリュー達は確かに、謳歌し楽しんでいった。
その後、フリューはグルメ散策。
「わ、音符のケーキ!」
さくらんぼとクリームの甘みを堪能し……イュンへは弦楽器を模した野菜チップスを入手。かりかりと味わうイュンと共に、祭りを最後まで満喫した。
「素敵ですね……!」
華やぐ声で見渡して、シェルリア・リトヴァールは音楽の街をゆく。
演奏は嗜んでいないので、聴く側に回って楽しみつつ……グルメ探訪へ。テラスのあるカフェに立ち寄ると――
「わあ、可愛い~!」
おすすめのケーキは、大粒のさくらんぼがぽんぽんぽんと乗っていて、鮮やかで目を引く。食べるともちろん、果実の甘酸っぱさが何とも美味で。
「こっちも綺麗……!」
小さなタルトには、飴細工のハープが乗っている。ドリンクは、ストローにも音符らしいハタがついていて遊び心も満載だ。
「ん、美味しい!」
味ももちろん良く、タルトは深い甘みが無二の美味しさで。
マーチングドラムのようなマカロンも頼むと……丁度近くの道端で、楽しげな音楽が響いてくるから。
「聴きながら、頂きましょう――!」
それに耳を傾けながら、マカロンを実食。さっくりとした生地と中のチョコクリームが相性抜群だ。
「何だか贅沢な時間ですね」
美味しいスイーツに綺麗な音楽。
それを楽しめる事にうっとりとしながら、シェルリアは緩やかな時間を送っていった。
「ふふ、街中もすっかり音楽に溢れて……」
これが本来の街の姿なのでしょうね、と。
ネーヴェ・グラヌローザは以前よりも生き生きとした空気に、そっと笑みを浮かべていた。
だからこそ舞台に上がっても良いけれど……ネーヴェが得意なのは舞踏だから。
「あちらで、始めましょうか」
道角で遠慮がちにしている人々を見つけると――その視線の集まる場所へ出て、パフォーマンスを始める合図に手拍子をしてもらう。
自然と楽しげな雰囲気が出来上がると……ネーヴェは歌を歌った。
『――』
美しく、同時に明るい旋律を響かせて。
場が温まってくれば――そこで初めて、見ている人々へ手を差し伸べる。
「さ、一緒に踊りましょう?」
その一人は、始め迷うけれど――
「慣れていなくても大丈夫、私がリード致しますわ」
このひと時を楽しみましょう、と。
共に踊るように促して……流麗に廻り、弾むようにステップし。その一人が真似るように踊れば、そこから楽しいダンスが人々へ波及した。
それが終われば、改めて街の散策。
「まぁ、大きなベル。私も飾り付けて宜しいんですの?」
ではお言葉に甘えまして、と。
綺麗なベルを、街の塔に飾り付け……その音色に耳を澄ませていた。
「音楽のモチーフはいっぱいあるのに――中でも、これなんだ」
イズル・M・ヴォルゴールは街の入口で受け取ったベルを眺めながら、そんな笑みを零していた。
他でもない、鐘で街に音楽を取り戻させる事に貢献したのはイズル。だからベルが街のシンボルの様になっている事には……少々のくすぐったさもあるのだ。
だけに、今回は改めて街巡り。
ベルを掛ける場所を探しつつ――教会にも寄ってゆく。
「お世話になりました」
と、こちらを覚えている教会の管理者や、近所の人々が集まってくると……イズルは近況について尋ねる。
すると毎日、朝を告げる時に鳴らし――結婚式などの祝い事があれば、その時にもその音色で街を彩るのだと、人々は喜ばしげに言った。
「そうですか」
鐘が鳴らされると、イズルは改めてそれを見上げる。
この優しくも美しい音色が、人々の生活に根付いてきているのだ。
「今の街、前と比べて楽しいですか?」
『うん!』
と、イズルの問に真っ先に答えたのは子供達。
歌うのも踊るのも、奏でるのも自由。それが何より喜ばしいようで。
「良かった」
あの日を境に街は変わった。それを大人達もまた同じだけ喜んでいるから、それがイズルにも嬉しかった。
「あの演奏会から随分、賑やかになったわね」
道々に響く明るい旋律を聴きながら、ロゼットは街を歩んでいた。
ここから更に、住人達が音楽に触れていけばいい――そう思うから、ロゼットは広場へ。演奏体験の場で手伝いをする事に決める。
するとロゼットを覚えている者も多く……子供や大人達が集まってきた。
ロゼットはそこへ弦楽器と鍵盤楽器を用意。
「弾きたい人はいるかしら?」
『はい!』
応えた子供を中心に――丁寧に教えてゆく。
「じゃあこの曲は知ってるかしら。弾いてみると、難しくないのよ」
弦楽器をじゃん、と鳴らすと……見様見真似に子供達も演奏。いくつかのパターンをすぐに習得して、曲を楽しみ始める。
幾人かの大人は、遠慮がちにしていたけれど――ロゼットは彼らも誘って。
「楽器は運動と違って、歳を重ねても長く続けられる趣味よ」
ひとりでも楽しめるし、仲間と合わせるともっと楽しいから、と。
「それなら……」
と、一人が練習に加わると、周りの大人達も続いて鍵盤楽器を鳴らし始める。
いつしか合奏となり、皆で朗らかな曲を鳴らす。ロゼットは自身も演奏しながら……微笑んで皆を眺めていた。
人々が緩やかに踊り、歓談する舞踏会。
そこへカッシアと共に訪れたヴィナスは――折角だからと、楽隊に加わって演奏する事を申し出た。
「演奏できるのか?」
「久しぶりだから、結構自信ないけど」
カッシアにそう柔く笑んで、ハーディングフェーレを手に取るヴィナスは……しかし弓をそっと弦に当てて動かすと、優美な音色を紡ぎ出す。
それが明るくも叙情的な旋律を生み出して、人々の踊りに華を添えるから。カッシアは感心の思いで呟いた。
「様になってる」
「ありがとう」
ヴィナスが返すと、カッシアも仄かに表情を和らげて――自身はリュートを爪弾いて、抑揚とハーモニーを加えてゆく。
カッシアは舞踏会に楽しいイメージは特に無かったけれど。
「今日はいい気分だ」
思いと共に、時にメロディで寄り添って。二人は美しい音楽を編んでいった。
ルーンス・ラグネルは、時折そんな楽隊の様子を視界の端に留めながら――トレンチにワインを載せて歩んでいる。
この会場にはスタッフとして参加している形だった。
と、丁度会場内に町長のサンドロが歩んできたので……ルーンスは挨拶をする。
サンドロは礼を言いつつ続けた。
「演奏や、踊りを楽しんで下さっても良かったんですよ」
「うん。でも今回は大丈夫」
ルーンスが言って断るのは他でもない――ヴィナスとカッシアのデバガメに影響が出るからだ。
町長が去ってゆくと、入れ替わりに歩んできたのがダリア。
サンドイッチを配膳するこちらもまた、カッシア達が舞踏会に行くと知ってやってきた形。
けれど――
「お二人は演奏側ですか……」
仕事は真面目にこなしつつ呟く。
見た所、あのままでは進展のなさそうな状況だったからだが――
「でもロマンスはいつ訪れるか分かりませんので!」
「うんうん」
ルーンスも頷いて、気を抜かず……バレないように見守りつつ、しっかりと二人の会話を拾ってその内容をダリアに伝えてゆく。
ダリアは成程と頷きながら、期待の心。
この舞踏会は皆楽しそうでいい雰囲気だ。こんな場所なら、二人も楽しんでいるに違いないと判るから。
と、ルーンスが何かに気づいた。
「あっ、二人が動くよ」
「えっ、本当――!?」
曲が一段落した、演奏の合間。
休憩していたヴィナスは、カッシアに言葉をかけた。
「カッシア、一曲踊らない?」
そうして、ゆっくりと手を引いて人目のない場所へ導いてゆく。この方がきっと、カッシアにはいいと思ったから。
「――ああ」
誘われたカッシアは、抵抗なく応じていた。
進んで踊ろうなんて思った事はなかったけれど。
「楽しむことが大事の舞踏会なんだからいいじゃない」
ヴィナスが言って、静かな一角でステップを踏み始める。
それに、カッシアは頷いていた。
舞踏会のイメージを最初から最後まで全部、ヴィナスに塗り替えてほしいと思っていたのは……むしろ自分の方だったから。
「しっかりリードしろよ」
素直になんて言えないから、そう言ってしまうけれど。
ヴィナスはそれでもうん、と応えて――穏やかにターン。手を握り、カッシアと共に美しい曲を踊ってゆく。
それからふと零す。
「楽器は7歳で母が死ぬまでしか習ってなかったんだ。結構覚えてるものだね」
「7歳? それじゃルーンスは……」
カッシアが言うと、ヴィナスはささやくように続けた。
「ルーンは異母弟だよ。俺には唯一の家族。だけど――同じ緑の目でも星を見るのは俺だけにしてほしいな」
今は自分と踊っているのだから、と。
「俺は結構嫉妬深い」
「――」
カッシアは少し目を見開いた。
――ねえ、その言葉、どういうつもりなの?
心から、そんな声が突いて出そうになったから。
一瞬、それを飲み込むけれど……逡巡してから、それでも言った。
「君以外のを見たいと思った事、ないよ」
これだけは、素直な思いだったから。
「さあ、急いで」
ルーンスが小走りに動くと、ダリアもついて行く。
二人はヴィナスとカッシアの後をこっそりと追ってきていた。
そうして物陰に隠れつつ、一部始終を窺い始める、と――
ずびっ、と。
会話を伝え聞いていたダリアは鼻をすすっていた。
「素直に言えたわね、カッシアっ」
ちゃんと自分の幸せを追いかけようとしている。
それがダリアにはとても嬉しかったから。
「おねえちゃん、応援してるから」
そう心に呟いて、感慨を噛み締めていた。
ルーンスも、改めて二人の姿を見つめながら……ニッコリとした笑みを零している。
「僕を使ったのはチャラにしておくよ」
しっかりと、独占欲を見せたから。
これで全部とは、まだまだ行かないだろうけれど――ヴィナスの気持ちの一端は、しっかりと伝わっただろうから、と。
「自分だけの好きを示してね、にいさま」
そう心に呟いて……ダリアと二人、その様子を暫し眺めていた。
「わぁ、楽しそうだね……!」
舞踏会場にやってきたララベル・サン・ディーベルは、優雅に踊る人々を見て期待を浮かべている。
隣のテュリン・ヴィングも、感心の面持ちだ。
「こういうのに参加する機会ってなかったけど――」
楽しげに踊る人々に、その心が少し判った。
ヒロ・テスタロッサもわくわくとした面持ち。音楽もダンスも、故郷のものしか知識はないけれど……それ故に期待の心もある。
「うまく、踊れるかな……?」
「エスコートするから、心配しないで。さ、踊ろう?」
ララベルは微笑んで、まずはヒロの手を取ってフロアへ。優美な三拍子が響き始めると――リードしてダンスを始めてゆく。
「次はターンだよ」
「ん、判った」
手は頭上で軽く触れ合ったまま、ヒロは回転。再びララベルの元へ戻って腰を支えて貰う。
「上手く出来たかな」
「とっても綺麗だったよ」
ララベルは言いつつも、足を滑らせてしまってヒロを押し倒そうになる……が。ヒロは音に合わせて横にステップ。知らず接触を回避しているのだった。
そうして一曲を終えると、次はララベルとテュリンでダンス。
情熱的な曲となったので、ララベルは少し激しめにテュリンを引き寄せ、時に離し、こちらも上手くリードしてゆく。
テュリンとしても慣れた体験ではないけれど――しっかりこなしてゆく。
「こういうのは楽しんだもの勝ちよね」
動きを合わせるだけならば難しくはない。ララベルの振り付けに応じ、時に抱きしめ合いながら……美しい舞踏を作り上げていった。
「こういう場所もいいものね」
「でしょ? そうしたら、また一緒に……わっ!」
と、そこでララベルが後ろのカップルと軽く衝突。真っ直ぐテュリンに倒れ込んだ。
ララベルに合わせる形だったテュリンは、とっさに避けられない。そのままララベルが胸に沈み込んでくる形で押し倒された。
わぷっと顔を上げたララベルは、赤面して慌てる。
「はわわわ……だ、大丈夫?」
「……ええ、まあ。何だかこうなるかもって思ってたし」
起き上がったテュリンは、呆れ顔で返すのだった。
その後は三人で外へ。
「あ、この曲なら知ってる! ちょっと見てて♪」
道角での演奏に出会うと、ヒロがそれに合わせて石段の上へ。ヒロには馴染み深い、砂漠の民族舞踊を披露してみせた。
快活で、優美。懐かしい気持ちで踊るそれは人目を惹き……終わる頃には人だかりが出来ていて拍手喝采。
ヒロは一礼して応えた。
「ありがとう!」
「凄いよ、ヒロ!」
「ええ、綺麗だったわよ」
そう労った二人と共に、その後は食べ歩きへ。
「色んなスイーツがあるのね」
カフェで悩みつつ、テュリンはケーキを注文。その美味と共に、さくらんぼの飾り付けに興味をもって眺める。
「これ、何かの楽譜がモデルなのかしら?」
「あ、舞踏会の時のじゃない? よく演奏されてるのかも」
覗き込んでくるララベルの言葉に「確かに」と頷くテュリンは……何となくララベルへ、さくらんぼをあーん。
「はい」
「ん……美味しい」
照れつつも応じるララベルに、それなら、とヒロもカルテットを模したチョコレートを一口分、あーん。
「ほら、こっちも」
「あーん……ありがとう」
受け取るララベルは、その美味と共に幸せを楽しんで。
その後もテュリンが先導する形で街のスイーツを全制覇してゆくと――夕刻、静かな水路に差し掛かって。
「今日はありがとう」
お返しと思い出の証に、ララベルは二人に口づけを。
優しい音楽と、その余韻のひとときを過ごした。
「……この街のお菓子は、美味しい」
右手にカスタネット型のマカロン。
左手に音符型のチョコチップが散りばめられたクレープ。
お祭りといえば“食べ歩き”なコハクは……今日も今日とて両手の食べ物をもしゃもしゃと味わいながら歩んでいた。
と、その道角で――
「あら?」
「まあ」
「――おや」
不意に見知った三人と出会う。
共に歩んでいたルベア・ベルニとミア=リゼル、そして……通りがかったシルヴィア・A・カペルである。
「奇遇ね」
ルベアは言いながらも、ふとミアの視線を辿る。
それはシルヴィアに向いていて――ほぼ初対面だったと思い至ったルベアは、この機に改めてシルヴィアを紹介する事に決めた。
(やっぱり綺麗な人……)
と、そんな風にシルヴィアを眺めていたミアは……その話を聞くに連れ、『えっ!?』と驚きを浮かべて。
「侯爵令嬢!? はわわ……」
それから改めて失礼のないように礼をする。
ルベアはそれに苦笑を零していた。
「最初はビックリするわよね」
「今の私はただの冒険者だ。どうか気にせず話しかけて欲しい」
シルヴィアのそんな言葉に、コハクもちょこんと頭を下げて挨拶。シルヴィアは頷きを返し、二人に改めて「よろしくね、楽しい一日にしよう」と告げる。
ルベアは音楽に溢れる景色へ視線を巡らせていた。
「折角だから、私達も何か演奏して行かない?」
「いいね」
シルヴィアは顔をほころばす。
故郷のカペル領も芸術が盛んな所。音楽の町で演奏出来るなら、それはシルヴィアにとっても喜ばしい事だった。
「……コハクさん、ルベアさんにシルヴィアさん! よろしくお願いしますね」
と、ミアももちろん賛成。
それにコハクは何となく同行する事になったけれど……楽しそうだから良しとするのだった。
街角の一段高くなった場所。
気取らぬ小さな舞台のようなそこで、シルヴィアが手にとったのはリュート。ぽろん、と軽く爪弾きながら三人に視線を送った。
「曲はこれでいいかな?」
「ええ。それならミアさんに教えてもらったから」
応えてルベアが用意するのは横笛。音の粒を試しに響かせてみると……その通りの良い音色に道行く人々が目を留め始めていた。
「では、私はおうたを歌いますね。コハクさんは――」
「ん、一緒に歌う」
ミアの言葉に、コハクはそう応えて横に立っている。
コハクとしては楽器も用意していないし、そうする他ないという側面もあるのだけれど――
「それじゃあ、始めようか」
言ってシルヴィアがゆるりと前奏を奏で、歌が始まると……コハクの歌声に、振り返る人々が次々に現れる。
それは単純に、コハクの紡ぐ歌が上手であったからだ。
風に乗る声音は美しく透き通っていて、時に力強くもあって。それは確かに人を惹き付けるだけの魅力を持った歌声。
(わぁ、すごい……!)
それに感慨を覚えつつ、ミアもまた歌を合わせてゆく。
ミアは、お世話になっている病院で子供達によく歌ってあげていた。そのミアの歌声は優しく、穏やかで、撫ぜるような心地良さがあって。
コハクとユニゾンする事で、魅力が互いに増したように……人々の心に響いてゆく。
ルベアはその歌声の邪魔をしないように、リュートと共にハーモニーを作っていた。
時に低めの音で重みを出し、時に高い音で歌を支えるように。複旋律となって歌と共にメロディを彩りもして。
(少し、間違えたかしら?)
きちんと習った訳じゃないから、巧みとまでは言わないけれど……それでも無二のアンサンブルを作ってゆく。
シルヴィアはそんな皆の後ろで、曲の背景を描き出す。
三つの旋律が踊り、触れ合い、戯れる――その様をコードと低音で支え、街の人々が楽しむ一助となるように。
実際、演奏が進む頃には人が集まり……皆が曲に心を委ねているようだった。
コハクはそんな人々へ、ついでとばかりに手品も披露。コインが消えたり、カードの模様が変わったり……多芸ぶりを発揮して盛り上げる。
歌が終われば、拍手喝采。
シルヴィアは音楽の余韻が残る快い感覚の中、三人へ向いた。
「素敵な演奏だった」
「ん、楽しかった」
コハクが言えば、二人も頷いて同意を示す。
それからミアは聞いてくれた人々へ、籠に詰めた花を配っていった。
「今宵は特別、みんなのお願いが叶う日ですよ」
言葉と共に……女の子には白い花、男の子には赤い花を。
(願いが叶う日、か)
ルベアは一度空を見上げてから、また三人へ視線を。
「こんな楽しい日が続くよう、って、願いたいところね」
「そうだね」
シルヴィアも頷いた。
――この日々が続きますように。
願いも音色と共に、空に高く昇ってゆく気がした。
「お、これ良さそうだな」
楽器を模ったジンジャーブレッドに、音符型のブレデル。
良いお土産を見つけて買いつつ、カイン・ステラは街を巡っていた。
どこでも音楽が聞こえるから、道を進むだけでも楽しめる。
自分用にもノンアルコールのホットサングリアとローストポークのサンドイッチを買っているから……温かな美味としっとりとした食べごたえを堪能し、満足の心持ちだ。
けれど――
「ま、折角だしな」
カインは画材を用意し、演奏する者達を見て絵を描こうと決めた。
丁度、歩んだ先に……祝歌を奏で歌うシルヴィア達の姿。
シルヴィアが見つけて合図を送ってくれると――それに軽く返しながら、カインは筆を動かし始めた。
とは言っても写実ではなく、描くのは曲のイメージ。
(全体の印象は――)
優しく、穏やかな曲想だ。
それでいて楽しく、希望と願いに溢れている。
そこから感じ取るのは、美しい自然や生き物、人の営み――そんな景色に始まる、人々の前向きな心象だ。
カインはその中から描く題材を選び――
「このくらいか」
一応の完成を見ると、頷いて。後で見せるのもいいかなと、そう心に呟いていた。
「わぁ、星空がこんなに綺麗に……!」
手が届きそうな夜天を仰ぎながら、アンネエルカはゆっくりと道をゆく。
あんまりにも楽しい音楽が聞こえるものだから――お星さまもお祭りが気になってしまったのかも、と。
「きっと、そうだよ」
そう返しながら並ぶクレア・エクレールも、くるりと回って。遠い音楽に合わせるように、軽やかなステップを踏んでいた。
そんな二人の姿に、少し離れた位置から――アーシェル・G・クラインは優しい眼差しを向けている。
(どんな景色を見るかじゃない、誰と見るかが大事……とはよく言ったもんだな)
今日も一日楽しかったー! とクレアが言えば、アンネエルカも華やかに頷いていて。
幸せそうな笑顔。明るく可愛らしい笑い声。
この世のどんな景色よりも美しく愛しいものが、すぐ側にある――アーシェルは純粋な心でそう感じる。
「アンネ、クレア」
終わりを惜しむような足取りのアンネエルカと、上機嫌に歩むクレア。
名を呼べば振り返り微笑みをくれる双華を、見つめながら――愛でるだけで手折ってはならぬと、己に言い聞かせて。
「これでも飲みながら歩こうぜ」
歩み寄って、用意していた温かな飲み物を渡す。
「ありがとう!」
笑顔で受け取るアンネエルカは、その美味に思い出すように笑んだ。
「音楽モチーフのグルメ、すごかったわよね。聴くだけじゃなく、見ても食べても楽しめるだなんて本当に素敵」
たくさん買い込んでしまった荷物も示しつつ言うと……笑みを返すクレアも頷く。
「そうだね。お菓子、可愛かったし。音楽も素敵だったねー」
「ええ、本当に……!」
それからね、と。
アンネエルカは別にしていた包みを取り出していた。
「二人にプレゼントがあるの」
自分用に金色のリボンが付いたベルを買っていたけれど――その色違い。
今日の楽しかった思い出を込めて、と。クレアには赤色で……アーシェルには赤色に金フチのリボンのものを。
「私とクレアを合わせた色になっているのよ」
「ああ」
ありがとな、と。
アーシェルが照れくさそうに受け取ると、クレアも「ありがとうー!」と明るい笑みを浮かべて……自身も二人を見た。
「ならボクも。実は二人にプレゼントがあるんだー。じゃーん!」
言って見せたのは、星と月の飾りがついたウインドチャイムだ。
アンネエルカの方はピンクゴールド調の可憐なものを、アーシェルにはレッドゴールドの色合いが美しいものを。
「アーシェル君は歩兵団の執務室、アンネはお宿に飾ってくれると嬉しいな♪」
「ありがとな。大事に飾るし、音も楽しませてもらう」
「私も、本当に嬉しいわ!」
アーシェルが言えば、アンネエルカも笑顔に花咲かす。
それに嬉しげなクレアの顔を見て……アーシェルもまた、二人へ贈り物を渡した。
それは今宵聴いた曲のオルゴール。
アンネエルカには、夜空のような装飾のものを。
クレアには、舞い飛ぶ蝶の装飾のものを。
「まあ綺麗……!」
「わ、素敵なプレゼント、ありがとう!」
二人の笑みに、アーシェルは「ああ」と静かに応えて表情を和らげる。
そのオルゴールについた共通の装飾は可憐な白い花――ブライダルベール。その花言葉と同じ思いを自身も抱きながら。
「去年の今頃も三人で一緒にいたけど、毎年違う場所で遊ぶのも良いね」
クレアの言葉にアンネエルカが頷くと、アーシェルも「そうだな」と応える。またそんな日が来ればいい――そう思いながら、未来に少しだけ思いを馳せた。
街の中心に集まった人々は、舞台に期待の視線を向けていた。
どんな音楽を楽しむ事が出来るのだろうか、と。その思いに応えるように――ステージに立ったのがエルナ・クルプファルツだった。
「さあ、始めますよ!」
明るく言って手に取るのはフルート。
まずは優しい旋律を紡いでから……弾むメロディへ。思わず体を動かしたくなるような、そんな曲に合わせて――
(リスさん、お願いしますね!)
ペットのプリニウスを飛び出させる。
テーマは楽しい森の音楽会。ぴょんと跳ねて人々の目を引いたプリニウスは……可愛らしいダンスで観衆を一際盛り上げる。
だけでなく――曲の半ばに差し掛かるとエーテル分身。
ぽんっ、ともうひとつ現れた同じ姿に……人々は驚きつつも歓声。分身が本体に合わせて更に賑やかに舞ってゆくと、熱狂も一層強まった。
エルナ自身も加わってくるくる回ると、盛り上がりは最高潮。終わりを迎えると拍手喝采、人々は曲だけでない演出の楽しさに大満足の様子だった。
「ありがとうございました!」
エルナはプリニウスと共に一礼。
客席に戻って、次の出番の者達の盛り上げに回り――最高の開幕を演出した。
あの時はありがとうございました、と。
礼を言ってくれる住人達と挨拶を交わしながら、テス・クラルスは街の入口にロイ・アウレアの用意してくれた馬車を乗り入れる。
「感慨深いねぇ――」
そう言ってテスが張り切っているのが、ロイには納得出来る。自分も以前の話をテスに聞かせてもらっていたから。
故にこそ、と。
「昔には戻れないと感じる程に、楽しい時間を過ごして欲しいね」
「ロイ、私達も楽しもうね」
言ってテスがキスをすると、ロイもそれに応えながら「既に楽しいよと」と返して。馬車で外縁を回るように出発してゆく。
「よろしくね」
と、愛馬のウィクを撫でるテスは白い踊子衣装。
幌を外すと、手にはベル、足首には鈴をつけて。
蜘蛛のロープで腰と手綱、荷車も繋ぎ――操車しながらも軽やかな音色を鳴らし、踊ってみせるのだった。
街をぐるりと巡る形で、踏み出せない人にもお祭りを楽しんで貰う心持ちだ。
(器用だな……)
と、巧みな綱捌きに見入るロイは、おしゃれで鮮やかな軍服姿。
人形を演出するように真顔を保ちつつ、蛇腹楽器で伸びやかな音を聞かせ――同時にステップを踏んで明るい雰囲気を。
それに惹かれて子供達が集まってくる中……テスは更に舞踏。馬車から落ちそうになりつつも、しっかり体勢を保つ。
合わせてロイはお道化た仕草で慌てた振りと、安堵の笑み。子供達の興味と笑いを誘うのだった。
そんな盛り上がりに、更に観客が増えれば――
「さあ、行くよ」
テスはひらりと荷台から飛び出して、今度は道を舞台にしてくるくると踊る。
ロイも慌てて追うように飛び降りて……「間に合ったー」と仕草で表し、再び音を合わせて奏で始めた。
そのリズムに皆が乗ると、テスはベルを持っている人に促して。
「一緒に鳴らそう!」
――1、2、3、シャン♪
「さぁさぁ絶好調!」
ロイとステップを合わせて踏んで。見学者も促して踊りに引き込んで。皆で奏でて舞えば、賑やかな笑顔が溢れた。
そうして馬車に飛び乗り、街を巡った後で――
夕刻、ウィクを休ませて二人で水路沿いを歩む。
「音が溢れる一日だったね」
「うん」
楽しかった、と。
ロイに応えてテスが言えば、また笑み合って。遠くの音楽を背景に、二人の時間がゆるりと過ぎてゆく。
こんな機会だし、食事も楽しめるらしいから、と。
ヨル・スレイマンとナハシュは連れ立って舞踏会へ向かう所だった。
ただ、同じく会場に向かうらしい人々を目撃したヨルは、途中で立ち止まって――
「君、また女装して行かない? ああいう場所だしさ」
「女装?」
向けられた視線にナハシュは着の身着のままで答える。
「別にこのままでもいいんじゃねえか」
「聖霊節はカップルが多いんだよ! 若い君にはわからないだろうけど、39歳独身には辛いんだ。色々とね」
ヨルは首を振った。
「ほら、一緒に踊ってくれたら食事も奢るから……」
「お、本当か? なら構わねえよ」
ナハシュはそれなら迷う理由もないと、快諾。
「それじゃあ飯と酒全部奢り、プラス500Gな!」
「判ったよ」
そう返すヨルも、それくらいなら安いもの。
早速調達して、ナハシュが着替えてきたのは……上品なフォーマルドレス。歩んだ時に覗くヒールと足元が妖艶で、メイクも完璧だ。
「よく似合うじゃないか」
そう言うヨルも、骨は脱いで貴族服。並ぶと雰囲気のある連れ合いという風情になった。
ナハシュはくるりと回って見下ろす。正直自身では何がいいのか判っていないけれど……ヨルは満足げらしいから。
(多分、趣味だな)
そんな事を思っていると、ヨルが会場内へ手を取ってエスコート。
「レディ・ナジュム、足元気をつけてね」
「ああ」
ナハシュは言いつつ、一応淑女らしく従ってゆく。
ホールでは既に雅な弦楽が響き、多くの参加者がダンスを楽しんでいた。
ヨルはそのままナハシュを導き、踊り始める。
数をこなしてきた事もあって……ステップに、ターン。惑わずにナハシュをリードしていった。
「……前よりは上手くなっただろ?」
「そうだな」
ナハシュもそんなヨルに緩やか所作で合わせ――暫し踊りを続ける。
そんな時間がヨルには快い。
ちゃっかり報酬は要求するけれど、ノリよく付き合ってくれるのは嬉しい。それに気負いも無くてよいし――
(あと普通に美人だし)
そうして踊りを終えると、フロアを出て。
「休憩しようか。あっちに肉料理があったよ」
「お、じゃあ行くか」
ナハシュは上機嫌にそちらへ。
しっとりと肉汁滴るローストビーフに……野菜が瑞々しいサンドイッチを楽しんで――またダンスへ向かった。
「イュン、見て! 音と音楽で溢れてるさぁ♪」
時に独奏で、時に重奏で。
人々が音楽で彩る景色を、フリューリングスルフト=ティエラは仔兎のイュンと共に歩んで回っていた。
メロディとリズムが耳朶を打てば、心が楽しくて。フリューの足取りも段々と、ステップを踏むようになってゆく。
そうして音に酔えば――美しい歌声を紡ぎ。足を止めて興味を示す人々へ、手を差し伸べていた。
「さあ、音を楽しもうさぁ♪」
応じて踏み出した者達と共に、フリューは踊り出す。
――ワン・ツー、ステップ刻み、踊ろう。
『難しいことは何もない、手を鳴らし、飛び跳ねて、くるり回ればそれでOK』
――ラ・ル・ラ、声高らかに歌おう。
『簡単なことさ、手を繋ぎ、音を楽しもう』
それを聞いて集まる人々もまた、魅了されて歌い、踊り始めて。
――ラ・ル・ラ、音紡げばそれが歌になる。
そこは音楽の街。それをフリュー達は確かに、謳歌し楽しんでいった。
その後、フリューはグルメ散策。
「わ、音符のケーキ!」
さくらんぼとクリームの甘みを堪能し……イュンへは弦楽器を模した野菜チップスを入手。かりかりと味わうイュンと共に、祭りを最後まで満喫した。
「素敵ですね……!」
華やぐ声で見渡して、シェルリア・リトヴァールは音楽の街をゆく。
演奏は嗜んでいないので、聴く側に回って楽しみつつ……グルメ探訪へ。テラスのあるカフェに立ち寄ると――
「わあ、可愛い~!」
おすすめのケーキは、大粒のさくらんぼがぽんぽんぽんと乗っていて、鮮やかで目を引く。食べるともちろん、果実の甘酸っぱさが何とも美味で。
「こっちも綺麗……!」
小さなタルトには、飴細工のハープが乗っている。ドリンクは、ストローにも音符らしいハタがついていて遊び心も満載だ。
「ん、美味しい!」
味ももちろん良く、タルトは深い甘みが無二の美味しさで。
マーチングドラムのようなマカロンも頼むと……丁度近くの道端で、楽しげな音楽が響いてくるから。
「聴きながら、頂きましょう――!」
それに耳を傾けながら、マカロンを実食。さっくりとした生地と中のチョコクリームが相性抜群だ。
「何だか贅沢な時間ですね」
美味しいスイーツに綺麗な音楽。
それを楽しめる事にうっとりとしながら、シェルリアは緩やかな時間を送っていった。
「ふふ、街中もすっかり音楽に溢れて……」
これが本来の街の姿なのでしょうね、と。
ネーヴェ・グラヌローザは以前よりも生き生きとした空気に、そっと笑みを浮かべていた。
だからこそ舞台に上がっても良いけれど……ネーヴェが得意なのは舞踏だから。
「あちらで、始めましょうか」
道角で遠慮がちにしている人々を見つけると――その視線の集まる場所へ出て、パフォーマンスを始める合図に手拍子をしてもらう。
自然と楽しげな雰囲気が出来上がると……ネーヴェは歌を歌った。
『――』
美しく、同時に明るい旋律を響かせて。
場が温まってくれば――そこで初めて、見ている人々へ手を差し伸べる。
「さ、一緒に踊りましょう?」
その一人は、始め迷うけれど――
「慣れていなくても大丈夫、私がリード致しますわ」
このひと時を楽しみましょう、と。
共に踊るように促して……流麗に廻り、弾むようにステップし。その一人が真似るように踊れば、そこから楽しいダンスが人々へ波及した。
それが終われば、改めて街の散策。
「まぁ、大きなベル。私も飾り付けて宜しいんですの?」
ではお言葉に甘えまして、と。
綺麗なベルを、街の塔に飾り付け……その音色に耳を澄ませていた。
「音楽のモチーフはいっぱいあるのに――中でも、これなんだ」
イズル・M・ヴォルゴールは街の入口で受け取ったベルを眺めながら、そんな笑みを零していた。
他でもない、鐘で街に音楽を取り戻させる事に貢献したのはイズル。だからベルが街のシンボルの様になっている事には……少々のくすぐったさもあるのだ。
だけに、今回は改めて街巡り。
ベルを掛ける場所を探しつつ――教会にも寄ってゆく。
「お世話になりました」
と、こちらを覚えている教会の管理者や、近所の人々が集まってくると……イズルは近況について尋ねる。
すると毎日、朝を告げる時に鳴らし――結婚式などの祝い事があれば、その時にもその音色で街を彩るのだと、人々は喜ばしげに言った。
「そうですか」
鐘が鳴らされると、イズルは改めてそれを見上げる。
この優しくも美しい音色が、人々の生活に根付いてきているのだ。
「今の街、前と比べて楽しいですか?」
『うん!』
と、イズルの問に真っ先に答えたのは子供達。
歌うのも踊るのも、奏でるのも自由。それが何より喜ばしいようで。
「良かった」
あの日を境に街は変わった。それを大人達もまた同じだけ喜んでいるから、それがイズルにも嬉しかった。
「あの演奏会から随分、賑やかになったわね」
道々に響く明るい旋律を聴きながら、ロゼットは街を歩んでいた。
ここから更に、住人達が音楽に触れていけばいい――そう思うから、ロゼットは広場へ。演奏体験の場で手伝いをする事に決める。
するとロゼットを覚えている者も多く……子供や大人達が集まってきた。
ロゼットはそこへ弦楽器と鍵盤楽器を用意。
「弾きたい人はいるかしら?」
『はい!』
応えた子供を中心に――丁寧に教えてゆく。
「じゃあこの曲は知ってるかしら。弾いてみると、難しくないのよ」
弦楽器をじゃん、と鳴らすと……見様見真似に子供達も演奏。いくつかのパターンをすぐに習得して、曲を楽しみ始める。
幾人かの大人は、遠慮がちにしていたけれど――ロゼットは彼らも誘って。
「楽器は運動と違って、歳を重ねても長く続けられる趣味よ」
ひとりでも楽しめるし、仲間と合わせるともっと楽しいから、と。
「それなら……」
と、一人が練習に加わると、周りの大人達も続いて鍵盤楽器を鳴らし始める。
いつしか合奏となり、皆で朗らかな曲を鳴らす。ロゼットは自身も演奏しながら……微笑んで皆を眺めていた。
人々が緩やかに踊り、歓談する舞踏会。
そこへカッシアと共に訪れたヴィナスは――折角だからと、楽隊に加わって演奏する事を申し出た。
「演奏できるのか?」
「久しぶりだから、結構自信ないけど」
カッシアにそう柔く笑んで、ハーディングフェーレを手に取るヴィナスは……しかし弓をそっと弦に当てて動かすと、優美な音色を紡ぎ出す。
それが明るくも叙情的な旋律を生み出して、人々の踊りに華を添えるから。カッシアは感心の思いで呟いた。
「様になってる」
「ありがとう」
ヴィナスが返すと、カッシアも仄かに表情を和らげて――自身はリュートを爪弾いて、抑揚とハーモニーを加えてゆく。
カッシアは舞踏会に楽しいイメージは特に無かったけれど。
「今日はいい気分だ」
思いと共に、時にメロディで寄り添って。二人は美しい音楽を編んでいった。
ルーンス・ラグネルは、時折そんな楽隊の様子を視界の端に留めながら――トレンチにワインを載せて歩んでいる。
この会場にはスタッフとして参加している形だった。
と、丁度会場内に町長のサンドロが歩んできたので……ルーンスは挨拶をする。
サンドロは礼を言いつつ続けた。
「演奏や、踊りを楽しんで下さっても良かったんですよ」
「うん。でも今回は大丈夫」
ルーンスが言って断るのは他でもない――ヴィナスとカッシアのデバガメに影響が出るからだ。
町長が去ってゆくと、入れ替わりに歩んできたのがダリア。
サンドイッチを配膳するこちらもまた、カッシア達が舞踏会に行くと知ってやってきた形。
けれど――
「お二人は演奏側ですか……」
仕事は真面目にこなしつつ呟く。
見た所、あのままでは進展のなさそうな状況だったからだが――
「でもロマンスはいつ訪れるか分かりませんので!」
「うんうん」
ルーンスも頷いて、気を抜かず……バレないように見守りつつ、しっかりと二人の会話を拾ってその内容をダリアに伝えてゆく。
ダリアは成程と頷きながら、期待の心。
この舞踏会は皆楽しそうでいい雰囲気だ。こんな場所なら、二人も楽しんでいるに違いないと判るから。
と、ルーンスが何かに気づいた。
「あっ、二人が動くよ」
「えっ、本当――!?」
曲が一段落した、演奏の合間。
休憩していたヴィナスは、カッシアに言葉をかけた。
「カッシア、一曲踊らない?」
そうして、ゆっくりと手を引いて人目のない場所へ導いてゆく。この方がきっと、カッシアにはいいと思ったから。
「――ああ」
誘われたカッシアは、抵抗なく応じていた。
進んで踊ろうなんて思った事はなかったけれど。
「楽しむことが大事の舞踏会なんだからいいじゃない」
ヴィナスが言って、静かな一角でステップを踏み始める。
それに、カッシアは頷いていた。
舞踏会のイメージを最初から最後まで全部、ヴィナスに塗り替えてほしいと思っていたのは……むしろ自分の方だったから。
「しっかりリードしろよ」
素直になんて言えないから、そう言ってしまうけれど。
ヴィナスはそれでもうん、と応えて――穏やかにターン。手を握り、カッシアと共に美しい曲を踊ってゆく。
それからふと零す。
「楽器は7歳で母が死ぬまでしか習ってなかったんだ。結構覚えてるものだね」
「7歳? それじゃルーンスは……」
カッシアが言うと、ヴィナスはささやくように続けた。
「ルーンは異母弟だよ。俺には唯一の家族。だけど――同じ緑の目でも星を見るのは俺だけにしてほしいな」
今は自分と踊っているのだから、と。
「俺は結構嫉妬深い」
「――」
カッシアは少し目を見開いた。
――ねえ、その言葉、どういうつもりなの?
心から、そんな声が突いて出そうになったから。
一瞬、それを飲み込むけれど……逡巡してから、それでも言った。
「君以外のを見たいと思った事、ないよ」
これだけは、素直な思いだったから。
「さあ、急いで」
ルーンスが小走りに動くと、ダリアもついて行く。
二人はヴィナスとカッシアの後をこっそりと追ってきていた。
そうして物陰に隠れつつ、一部始終を窺い始める、と――
ずびっ、と。
会話を伝え聞いていたダリアは鼻をすすっていた。
「素直に言えたわね、カッシアっ」
ちゃんと自分の幸せを追いかけようとしている。
それがダリアにはとても嬉しかったから。
「おねえちゃん、応援してるから」
そう心に呟いて、感慨を噛み締めていた。
ルーンスも、改めて二人の姿を見つめながら……ニッコリとした笑みを零している。
「僕を使ったのはチャラにしておくよ」
しっかりと、独占欲を見せたから。
これで全部とは、まだまだ行かないだろうけれど――ヴィナスの気持ちの一端は、しっかりと伝わっただろうから、と。
「自分だけの好きを示してね、にいさま」
そう心に呟いて……ダリアと二人、その様子を暫し眺めていた。
「わぁ、楽しそうだね……!」
舞踏会場にやってきたララベル・サン・ディーベルは、優雅に踊る人々を見て期待を浮かべている。
隣のテュリン・ヴィングも、感心の面持ちだ。
「こういうのに参加する機会ってなかったけど――」
楽しげに踊る人々に、その心が少し判った。
ヒロ・テスタロッサもわくわくとした面持ち。音楽もダンスも、故郷のものしか知識はないけれど……それ故に期待の心もある。
「うまく、踊れるかな……?」
「エスコートするから、心配しないで。さ、踊ろう?」
ララベルは微笑んで、まずはヒロの手を取ってフロアへ。優美な三拍子が響き始めると――リードしてダンスを始めてゆく。
「次はターンだよ」
「ん、判った」
手は頭上で軽く触れ合ったまま、ヒロは回転。再びララベルの元へ戻って腰を支えて貰う。
「上手く出来たかな」
「とっても綺麗だったよ」
ララベルは言いつつも、足を滑らせてしまってヒロを押し倒そうになる……が。ヒロは音に合わせて横にステップ。知らず接触を回避しているのだった。
そうして一曲を終えると、次はララベルとテュリンでダンス。
情熱的な曲となったので、ララベルは少し激しめにテュリンを引き寄せ、時に離し、こちらも上手くリードしてゆく。
テュリンとしても慣れた体験ではないけれど――しっかりこなしてゆく。
「こういうのは楽しんだもの勝ちよね」
動きを合わせるだけならば難しくはない。ララベルの振り付けに応じ、時に抱きしめ合いながら……美しい舞踏を作り上げていった。
「こういう場所もいいものね」
「でしょ? そうしたら、また一緒に……わっ!」
と、そこでララベルが後ろのカップルと軽く衝突。真っ直ぐテュリンに倒れ込んだ。
ララベルに合わせる形だったテュリンは、とっさに避けられない。そのままララベルが胸に沈み込んでくる形で押し倒された。
わぷっと顔を上げたララベルは、赤面して慌てる。
「はわわわ……だ、大丈夫?」
「……ええ、まあ。何だかこうなるかもって思ってたし」
起き上がったテュリンは、呆れ顔で返すのだった。
その後は三人で外へ。
「あ、この曲なら知ってる! ちょっと見てて♪」
道角での演奏に出会うと、ヒロがそれに合わせて石段の上へ。ヒロには馴染み深い、砂漠の民族舞踊を披露してみせた。
快活で、優美。懐かしい気持ちで踊るそれは人目を惹き……終わる頃には人だかりが出来ていて拍手喝采。
ヒロは一礼して応えた。
「ありがとう!」
「凄いよ、ヒロ!」
「ええ、綺麗だったわよ」
そう労った二人と共に、その後は食べ歩きへ。
「色んなスイーツがあるのね」
カフェで悩みつつ、テュリンはケーキを注文。その美味と共に、さくらんぼの飾り付けに興味をもって眺める。
「これ、何かの楽譜がモデルなのかしら?」
「あ、舞踏会の時のじゃない? よく演奏されてるのかも」
覗き込んでくるララベルの言葉に「確かに」と頷くテュリンは……何となくララベルへ、さくらんぼをあーん。
「はい」
「ん……美味しい」
照れつつも応じるララベルに、それなら、とヒロもカルテットを模したチョコレートを一口分、あーん。
「ほら、こっちも」
「あーん……ありがとう」
受け取るララベルは、その美味と共に幸せを楽しんで。
その後もテュリンが先導する形で街のスイーツを全制覇してゆくと――夕刻、静かな水路に差し掛かって。
「今日はありがとう」
お返しと思い出の証に、ララベルは二人に口づけを。
優しい音楽と、その余韻のひとときを過ごした。
「……この街のお菓子は、美味しい」
右手にカスタネット型のマカロン。
左手に音符型のチョコチップが散りばめられたクレープ。
お祭りといえば“食べ歩き”なコハクは……今日も今日とて両手の食べ物をもしゃもしゃと味わいながら歩んでいた。
と、その道角で――
「あら?」
「まあ」
「――おや」
不意に見知った三人と出会う。
共に歩んでいたルベア・ベルニとミア=リゼル、そして……通りがかったシルヴィア・A・カペルである。
「奇遇ね」
ルベアは言いながらも、ふとミアの視線を辿る。
それはシルヴィアに向いていて――ほぼ初対面だったと思い至ったルベアは、この機に改めてシルヴィアを紹介する事に決めた。
(やっぱり綺麗な人……)
と、そんな風にシルヴィアを眺めていたミアは……その話を聞くに連れ、『えっ!?』と驚きを浮かべて。
「侯爵令嬢!? はわわ……」
それから改めて失礼のないように礼をする。
ルベアはそれに苦笑を零していた。
「最初はビックリするわよね」
「今の私はただの冒険者だ。どうか気にせず話しかけて欲しい」
シルヴィアのそんな言葉に、コハクもちょこんと頭を下げて挨拶。シルヴィアは頷きを返し、二人に改めて「よろしくね、楽しい一日にしよう」と告げる。
ルベアは音楽に溢れる景色へ視線を巡らせていた。
「折角だから、私達も何か演奏して行かない?」
「いいね」
シルヴィアは顔をほころばす。
故郷のカペル領も芸術が盛んな所。音楽の町で演奏出来るなら、それはシルヴィアにとっても喜ばしい事だった。
「……コハクさん、ルベアさんにシルヴィアさん! よろしくお願いしますね」
と、ミアももちろん賛成。
それにコハクは何となく同行する事になったけれど……楽しそうだから良しとするのだった。
街角の一段高くなった場所。
気取らぬ小さな舞台のようなそこで、シルヴィアが手にとったのはリュート。ぽろん、と軽く爪弾きながら三人に視線を送った。
「曲はこれでいいかな?」
「ええ。それならミアさんに教えてもらったから」
応えてルベアが用意するのは横笛。音の粒を試しに響かせてみると……その通りの良い音色に道行く人々が目を留め始めていた。
「では、私はおうたを歌いますね。コハクさんは――」
「ん、一緒に歌う」
ミアの言葉に、コハクはそう応えて横に立っている。
コハクとしては楽器も用意していないし、そうする他ないという側面もあるのだけれど――
「それじゃあ、始めようか」
言ってシルヴィアがゆるりと前奏を奏で、歌が始まると……コハクの歌声に、振り返る人々が次々に現れる。
それは単純に、コハクの紡ぐ歌が上手であったからだ。
風に乗る声音は美しく透き通っていて、時に力強くもあって。それは確かに人を惹き付けるだけの魅力を持った歌声。
(わぁ、すごい……!)
それに感慨を覚えつつ、ミアもまた歌を合わせてゆく。
ミアは、お世話になっている病院で子供達によく歌ってあげていた。そのミアの歌声は優しく、穏やかで、撫ぜるような心地良さがあって。
コハクとユニゾンする事で、魅力が互いに増したように……人々の心に響いてゆく。
ルベアはその歌声の邪魔をしないように、リュートと共にハーモニーを作っていた。
時に低めの音で重みを出し、時に高い音で歌を支えるように。複旋律となって歌と共にメロディを彩りもして。
(少し、間違えたかしら?)
きちんと習った訳じゃないから、巧みとまでは言わないけれど……それでも無二のアンサンブルを作ってゆく。
シルヴィアはそんな皆の後ろで、曲の背景を描き出す。
三つの旋律が踊り、触れ合い、戯れる――その様をコードと低音で支え、街の人々が楽しむ一助となるように。
実際、演奏が進む頃には人が集まり……皆が曲に心を委ねているようだった。
コハクはそんな人々へ、ついでとばかりに手品も披露。コインが消えたり、カードの模様が変わったり……多芸ぶりを発揮して盛り上げる。
歌が終われば、拍手喝采。
シルヴィアは音楽の余韻が残る快い感覚の中、三人へ向いた。
「素敵な演奏だった」
「ん、楽しかった」
コハクが言えば、二人も頷いて同意を示す。
それからミアは聞いてくれた人々へ、籠に詰めた花を配っていった。
「今宵は特別、みんなのお願いが叶う日ですよ」
言葉と共に……女の子には白い花、男の子には赤い花を。
(願いが叶う日、か)
ルベアは一度空を見上げてから、また三人へ視線を。
「こんな楽しい日が続くよう、って、願いたいところね」
「そうだね」
シルヴィアも頷いた。
――この日々が続きますように。
願いも音色と共に、空に高く昇ってゆく気がした。
「お、これ良さそうだな」
楽器を模ったジンジャーブレッドに、音符型のブレデル。
良いお土産を見つけて買いつつ、カイン・ステラは街を巡っていた。
どこでも音楽が聞こえるから、道を進むだけでも楽しめる。
自分用にもノンアルコールのホットサングリアとローストポークのサンドイッチを買っているから……温かな美味としっとりとした食べごたえを堪能し、満足の心持ちだ。
けれど――
「ま、折角だしな」
カインは画材を用意し、演奏する者達を見て絵を描こうと決めた。
丁度、歩んだ先に……祝歌を奏で歌うシルヴィア達の姿。
シルヴィアが見つけて合図を送ってくれると――それに軽く返しながら、カインは筆を動かし始めた。
とは言っても写実ではなく、描くのは曲のイメージ。
(全体の印象は――)
優しく、穏やかな曲想だ。
それでいて楽しく、希望と願いに溢れている。
そこから感じ取るのは、美しい自然や生き物、人の営み――そんな景色に始まる、人々の前向きな心象だ。
カインはその中から描く題材を選び――
「このくらいか」
一応の完成を見ると、頷いて。後で見せるのもいいかなと、そう心に呟いていた。
「わぁ、星空がこんなに綺麗に……!」
手が届きそうな夜天を仰ぎながら、アンネエルカはゆっくりと道をゆく。
あんまりにも楽しい音楽が聞こえるものだから――お星さまもお祭りが気になってしまったのかも、と。
「きっと、そうだよ」
そう返しながら並ぶクレア・エクレールも、くるりと回って。遠い音楽に合わせるように、軽やかなステップを踏んでいた。
そんな二人の姿に、少し離れた位置から――アーシェル・G・クラインは優しい眼差しを向けている。
(どんな景色を見るかじゃない、誰と見るかが大事……とはよく言ったもんだな)
今日も一日楽しかったー! とクレアが言えば、アンネエルカも華やかに頷いていて。
幸せそうな笑顔。明るく可愛らしい笑い声。
この世のどんな景色よりも美しく愛しいものが、すぐ側にある――アーシェルは純粋な心でそう感じる。
「アンネ、クレア」
終わりを惜しむような足取りのアンネエルカと、上機嫌に歩むクレア。
名を呼べば振り返り微笑みをくれる双華を、見つめながら――愛でるだけで手折ってはならぬと、己に言い聞かせて。
「これでも飲みながら歩こうぜ」
歩み寄って、用意していた温かな飲み物を渡す。
「ありがとう!」
笑顔で受け取るアンネエルカは、その美味に思い出すように笑んだ。
「音楽モチーフのグルメ、すごかったわよね。聴くだけじゃなく、見ても食べても楽しめるだなんて本当に素敵」
たくさん買い込んでしまった荷物も示しつつ言うと……笑みを返すクレアも頷く。
「そうだね。お菓子、可愛かったし。音楽も素敵だったねー」
「ええ、本当に……!」
それからね、と。
アンネエルカは別にしていた包みを取り出していた。
「二人にプレゼントがあるの」
自分用に金色のリボンが付いたベルを買っていたけれど――その色違い。
今日の楽しかった思い出を込めて、と。クレアには赤色で……アーシェルには赤色に金フチのリボンのものを。
「私とクレアを合わせた色になっているのよ」
「ああ」
ありがとな、と。
アーシェルが照れくさそうに受け取ると、クレアも「ありがとうー!」と明るい笑みを浮かべて……自身も二人を見た。
「ならボクも。実は二人にプレゼントがあるんだー。じゃーん!」
言って見せたのは、星と月の飾りがついたウインドチャイムだ。
アンネエルカの方はピンクゴールド調の可憐なものを、アーシェルにはレッドゴールドの色合いが美しいものを。
「アーシェル君は歩兵団の執務室、アンネはお宿に飾ってくれると嬉しいな♪」
「ありがとな。大事に飾るし、音も楽しませてもらう」
「私も、本当に嬉しいわ!」
アーシェルが言えば、アンネエルカも笑顔に花咲かす。
それに嬉しげなクレアの顔を見て……アーシェルもまた、二人へ贈り物を渡した。
それは今宵聴いた曲のオルゴール。
アンネエルカには、夜空のような装飾のものを。
クレアには、舞い飛ぶ蝶の装飾のものを。
「まあ綺麗……!」
「わ、素敵なプレゼント、ありがとう!」
二人の笑みに、アーシェルは「ああ」と静かに応えて表情を和らげる。
そのオルゴールについた共通の装飾は可憐な白い花――ブライダルベール。その花言葉と同じ思いを自身も抱きながら。
「去年の今頃も三人で一緒にいたけど、毎年違う場所で遊ぶのも良いね」
クレアの言葉にアンネエルカが頷くと、アーシェルも「そうだな」と応える。またそんな日が来ればいい――そう思いながら、未来に少しだけ思いを馳せた。
マスターコメント
お疲れ様でした。
祭りは盛況に終わり、各所で大きな盛り上がりが生まれました。街の人々も様々な形で音楽に触れる事が出来たため、町長としても喜ばしい結果になったことでしょう。
イベントシナリオ易しい 報酬:標準25 / 4〜25人
2021年12月30日 10時34分15秒 公開
大成功
参加者
相談掲示板
ロゼットよ。よろしくね。 行動はちょっと迷っているのだけど、何かしら 音楽に関連した行動を取ろうと思ってるわ。
ロイ・アウレアです。 【2】で演奏するので宜しく!楽しい1日にしような。
こんにちは、テス・クラルスだよ。 ロイと一緒に2の道角に行こうと思っているよ。 街がもっと賑やかになるといいね♪︎ よろしくね!
シェルリア・リトヴァールといいます! よろしくお願いします! 私はグルメを楽しみたいって思ってますっ。
シーフのフリューリングスルフト、長いからフリューって呼んでさぁ♪ 音楽だいすきさぁ! 予定としては【2】と、いけたら【4】とか行こうかな、思ってるさぁ
ネーヴェ・グラヌローザと申します。またこの街へ来ることが出来て嬉しいです。 【2】で一芸披露致しましてから、街中を散策出来ればと思っております。 どこかでお目に掛かりました際は、どうぞ宜しくお願い致しますね。
シルヴィアだ。今回はよろしくね。 【2】で友人達とセッションをする予定。楽しく演奏したいと思う。 皆の演奏も楽しみにしている。素敵な一日になりますように。
ミア=リゼルです。友達と一緒に【2】でセッションを。 楽しい一日になりますように!
今回は【6】で、演奏体験の方に参加して 教える側を手伝わせてもらってみるわ。