【聖祭】赤果の花弁、氷の甘味
水繰潤
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シナリオID:1731
オープニング
没落した家の再興はもはや不可能で、新たに道を切り開くこともまた困難な道である。決して楽とは言えない。
しかし、過去の栄光に縋るよりも残された僅かな資金から新たな道を進む方が心身ともに建設的だと、その青年は進んできた。
●
世間は聖霊節の空気が満ちていて、やや北に位置する静かなこの街ラントにもその話題は届く。
辺境都市のやや北に位置するこの街、ラントは山の麓にある。
シルトラースに近い為か、この地域は冬には冷える事が多く、今も街は雪に覆われている。
「……資金繰りの為にも、ラントも観光に力を入れるべきかと思うが」
この日は、商会のメンバーで対談が行われていた。冬は静かに時間が流れるこの街でも時期に合わせた催しについての意見交換だ。
「どう思う、アドルフ」
水を向けられた青年は、この場所を拠点とするベーレント商会の会長であるアドルフ。街を治める領主とも懇意であった。
アドルフは既に没落した元貴族の出身だ。
実家の名が落ちる事さえなければ、いずれは家を継ぎ、それなりに名のある領主にはなったであろう人柄と人望は充分に持っていた。
若いながらもそうした素質を汲まれてか、数年前にこの地に移住をしてきて以降、今やラントにおける顔役でもあり何かと意見を求められることは多い。
アドルフは少し考えてから、物腰穏やかな雰囲気を崩さずに口を開く。
「そうですね、それならば――」
●雪と氷菓の祭り
酒場では、暖炉の火がぱちぱちと爆ぜている。
温かい室内で、ひんやりと冷たい器に盛られているのはこの街で育てた特産の苺を使った氷菓子。
雪を利用して凍らせた苺を削り、シロップやジャムを掛けて食べるという。
薄く削られた苺は花の花弁のようで、口に入れるとシャリっとした食感と甘酸っぱい味が広がる。
身体が冷えたら、暖かいハーブティーや玉ねぎを煮込んだ優しい味わいのスープで芯から暖まる事も出来る。
酒場を一歩出れば、雪が積もった広場。
中央に設置された大きな焚火の周りには、露天で木彫りの工芸品が並べられている。
ゆらゆら枝の先で揺れるモモンガに、掌に乗るサイズの兎の置物。石をはめ込んだペンダントまで様々だ。
町から少し外れれば、春夏には花々が咲く野原に雪が積もり、まだ誰も触れていないまっさらな銀世界も広がっている。
この街で今日一日どう過ごそうか。
ささやかな催しに興味を惹かれラントを訪れた人々を、企画者でもあるアドルフは静かに見守り笑いかける。
「どうぞゆっくりと、楽しんでください」
解説
マスターより
リプレイ
広場では露店が立ち並び、酒場は寒さを凌ぎながら食事を楽しむ人々で溢れている。
主催者であるアドルフも、今日という日を心待ちにしていた。
良い祭日になるように、と願いながら――。
●
暖炉からパチパチと薪が爆ぜる音が聞こえてくる。
ヨル・スレイマンは、街の酒場へ到着早々同居人に頭を抱えていた。
外は厚い雪に囲まれ、凍えるような寒さである。風邪を引いたら困るからと、コートとマフラーは彼の分までしっかりと用意しておいたのだが……。
「……ちょっと! もう脱いでる!」
ナハシュは酒場に足を踏み入れて早々、当然のようにコートをポォイ! と脱ぎ棄てた。
「だって暖かいから」
「そりゃ"店内"は暖かいだろうけど、これから氷菓を食べるんだよ!?」
凍らせた苺を削って食べる。そんなの、絶対に美味しいに決まっている――奢るから食べに行こう、と言うヨルの誘いで、意気揚々とやってきたものの、これである。
だが脱いでしまうならば仕方がない。暖炉に一番近い席を早々に確保し腰を落ち着けると早速削りイチゴが運ばれてくる。
ヨルの器にはイチゴの上にたっぷりの練乳、シロップ、ジャムが全て掛かっている。
「……甘さの爆弾か?」
迷ったならば全部掛けてしまえばいいとばかりに盛り盛りの様子に、多分滅茶苦茶甘いのだろうと何もかけない状態から食べ始めるナハシュは向かいの器を眺めながらイチゴをつつく。
「シンプルに美味い。不味いわけがないこんなの……」
一口、二口と食べ進めれば、とろける甘さにご満悦。
「冬に暖かい場所で氷菓子を食べるの、なんか背徳感があるな」
寒さの強い季節だからこそ味わえる贅沢がある。奇妙な背徳感がイチゴの甘さを更に際立たせている気がする。
身体が冷えて来ればハーブティーで胃を温めながら、ふたりは甘酸っぱい氷菓に舌鼓を打つ。
寒い日に、暖炉の側でぬくぬくしながら冷たいスイーツを皆で頂く――ちょっぴり悪い事をしているような気持ちになるのは、アンネエルカも同じくの様子。
背徳感をスパイスに添えて、甘露アリのシロップを惜しみなくかければ、イチゴがつやつやと輝いて見える。
「なんだか宝石みたいじゃない?」
「すごい、キラキラしてる!」
たっぷりと練乳の掛かったイチゴを前に、クレア・エクレールはそわそわと器の中を覗き込んだ。
同じテーブルに並んだアーシェル・G・クラインの削りイチゴはジャムにまんべんなく覆われており、鮮やかな赤とイチゴの香りが鼻をくすぐる。
「一口ちょーだい! ボクのもあげるから!」
他の味も気になって仕方がない様子のクレアに、アンネエルカはふわりと微笑む。
「勿論、クレアにもアーシェルさんにもちゃーんとあげるわね」
「好きなだけ食え」
アーシェルは自分が食べるよりも優先とばかりに、少女たちの方へ器を差し出す。
小皿に取り分けながら、皆で少しずつ味わっていく。
「うんうん、こっちのもなかなか……はぁ、全部美味しいねぇ……」
「ええ、本当に!どれも美味しくて、しかもお友達と食べあいだなんて幸せだわ」
甘酸っぱいイチゴが運ぶ幸福にアンネエルカの羊耳もふにゃりと垂れ、クレアの赤い尻尾はふわふわとご機嫌に揺れている。
少女たちが幸せそうな表情を浮かべる様子を、アーシェルは頬杖を突きながら優しく見守る。
「お前達の耳とか尻尾って表情豊かだよな」
くるくる変わる表情に合わせて動くのが微笑ましい。ふたりの感情の機微は、何時間見ていていも飽きない。
削りイチゴを堪能していけば、そろそろ身体が冷えてくる頃だろうか。折を見て、さりげなくアーシェルは席を立つ。
「温かいものもあるといいな。お前達が好きなハーブティーがあるか探してくるから、ここでのんびり待ってろ」
「ありがとう、アーシェルさん」
アンネエルカとクレアがお礼を告げると、アーシェルはこれくらいは気にするなと言いたげに視線を返す。
席を外したのは、スイーツを楽しむ場となれば少女同士で話したい事もあるだろうという気遣いも含まれていた。
お喋りを楽しむクレアとアンネエルカを遠目に眺めながら、アーシェルは無意識に目を細める。
去年まで聖霊節は雪を見ると蘇っていた『あの日』の記憶――。
(でも、今年はあまり思い出さねぇな……少なくともこいつらといる時は)
その事に、ふと気が付いた。共に過ごし重ねた時間は、アーシェルの心を少しずつ、優しく埋めているのかもしれない。
ハーブティーのポットが乗ったトレーを手に、少女たちの元へと戻ると。
「アーシェルさん、おかえりなさい」
「おかえりー! ハーブティー、何があった?」
自分へと向けられる嬉しそうな笑顔に、アーシェルの表情がまた和らいだ。
シェルリア・リトヴァールは削りイチゴが盛られた器を前に、瞳をキラキラと輝かせていた。
お目当ては勿論、削りイチゴ。
トッピングは迷った末に蜂蜜とミルクを煮た練乳をチョイスして、赤い苺にたっぷりとかければ、色合いも鮮やかで美しい。
スプーンに掬って頬張れば、凍った苺のサクっとした食感に溶けるように広がる甘酸っぱさと練乳の甘さが口いっぱいに広がる。
「んー、甘くて冷たくて美味しいー!」
寒い中で冷たいお菓子を食べるのも美味しい。ひとくち、ふたくち、と味わう度に少女の表情は綻んでいく。
さくさくと食べ進めていけば、器が空になる頃には少し身体が冷えてくる。となれば、次は温かい物で身体を労わりたいところ。
「たまねぎスープください!」
続いてとろりと熱い玉ねぎスープを楽しめば、ほっと一息。イチゴとは全く違った、たまねぎの自然な甘さが染み渡る。
「温かくて美味しいー!」
スープを堪能しつつふと窓の外を眺めると、広場の賑わいが目に飛び込んでくる。
皆お土産を見て周っているのだろう。身体が温まったら、自分も色々と見てみようと次なる楽しみにシェルリアは胸を弾ませる。
暖かな酒場の一角で、ルーンス・ラグネルは練乳をかけた削りイチゴと、お勧めだというエルダーフラワーのハーブティーを楽しんでいた。
ハーブの爽やかな香りとひんやりした氷菓は、夏にも充分需要がありそうだ。街の活性化についてあれこれと思考を巡らせると、ふと案が浮かんで席を立つ。
「この街の商会の人っているかな」
街について話がしてみたいと酒場の主人に声をかければ、丁度様子を見に酒場へ足を運んでいたアドルフを紹介された。
アドルフは銀の髪に端正な顔立ちで、柔和な表情を浮かべながらも狼を連想させるような青年だった。
「この町に氷室はありますか?」
「氷室、ですか。越冬の為に食物を雪に埋めることはありますが……」
ルーンスは、氷室があるならばシロップにした苺を凍らせて削ったものを夏の氷菓子として売ったらどうかと考えたのだ。
「イチゴも良いですが、僕はミルクの方を凍らせてもいいかと思いました」
「ふむ……」
顎に手を当てて、アドルフが思案するように首を傾げる。
生のイチゴに凍ったミルクを掛けるというアイデア。ジャム以外にも甘さを抑えたシロップやソースのバリエーションも考案できるかもしれない。
イチゴに限らず、練乳に使用している蜂蜜の産地や利用法についても、様々意見を交わしていく。
「――なるほど、養蜂は花次第で希少な特産品にもなり得ますからね」
「蜜蝋も利用すれば軟膏や化粧品なども作れます。外部と交易すれば、街の活性にもつながるはずです」
気付けばルーンスとアドルフはテーブルを挟み、意見交換が程よく熱を帯びていた。
「それにしても、精通しておりますね」
様々飛び出してくる多彩なアイデアへ感嘆する様子に、ルーンスは同業に携わる立場である事をそれとなく伝えれば、納得したようにアドルフは頷いた。
「お恥ずかしながら、私も商人としてはまだまだでして……勉強させて頂きます。雪の利用に土木技術の向上も必要ですし、養蜂も時間は掛かるでしょうが、案は商会に持ち込んでみましょう」
きっと来年はもっと良い祭りを見せてみせますよと笑うアドルフに、家を継いだら商人としてまたここに来ようとルーンスは心の内で感じていた。
練乳とシロップがそれぞれ掛った削りイチゴを前にして、シルヴィア・A・カペルとエル=バ=ノイアンは静かなひと時を過ごして居た。
「交換して食べないかい?」
「あぁ、あんたが良いなら」
シロップで艶めくイチゴも美味しそうで、ノイアンにもどちらの味も楽しんで欲しいとシルヴィアが提案すれば、ノイアンも快く応じる。
互いのイチゴを掬い合って口に運べば、シルヴィアはふと先日の出来事が脳裏に浮かんだ。
――ノイアンからシルヴィアへと贈られた、カードとハンカチ。
カードには彼からのメッセージが籠められていて、ハンカチには白詰草の四葉と花が刺繍されていた。
その花に籠められた意味は、絡まってしまった想いの糸を解くと同時に、“花の領地”の侯爵令嬢であるシルヴィアの心を揺さぶるには充分だった。
顔に出さないようにと努めてはいるものの、シルヴィアはあの日を想い出すと直ぐに頬が熱くなってしまいそうで。
口に運んだ甘酸っぱい氷菓が、火照りそうになる頬を冷やしてくれる事にほっとしていた。
想いを馳せながらイチゴをまたひと掬い、口に運んだところで、ノイアンがふと視線を重ねて語りかける。
「あんたの故郷にまた行く機会があったら……話があるんだ」
シルヴィアのスプーンを持つ手が、止まった。
氷菓でも誤魔化しきれない程頬が熱いのは、暖炉が近いから、とは言えなかった。鼓動が早くなるのが自分でも解ったからだ。
動きを止めてしまった彼女を見て、再びの誤解の無いようにとノイアンは丁寧に続ける。
「深刻な、悪い話じゃないから安心してくれ」
シルヴィアはひょっとしたら、という想いがよぎる。
(――それが本当になったとして、私の立場では……)
ざわめく胸の内とは裏腹に、シルヴィアの唇から零れたのは。
「楽しみにしているよ」
そんな事を言われたら、どうしたって頷いてしまうんだ。
「今日はのんびりおいしいものを楽しむわ!」
削りイチゴの器を手に、わくわくな様子なのはエミリア・シバ。
ララノア、ラティア・ミゼリアと共に、乙女達は先日のドワーフ王国での戦いを終えてご褒美という名の打ち上げを楽しみに来たのだ。
「それにしても、寒い……ですね」
僅かに身体を縮こませながらラティアが呟く。
そう、何故か暖かい酒場ではなく、彼女達がいるのは極寒とまではいわずとも雪が積もる屋外。手にしたスプーンも勿論キンキンである。
「……寒い中で寒いものを食べる……こ、これが都会のお作法なんでしゅか……ッ」
「冷たさをよりいっそう感じて満喫しましょ!」
既に3人とも外の気温に凍え始めているのだが、冷たいものを敢えて冷たい場所で食べるのもまた一興である。
気温は低くとも祭りを楽しむ賑やかな空気は温かい。器に入った削りイチゴに、エミリアはシロップ、ララノアは練乳、ラティアはイチゴジャムをたっぷりとかけて。
ラティアは器を掲げ、ささやかな祝勝会の音頭を取る。
「かんぱーい! ……いえ、飲みませんけども。これ削りイチゴですし……」
中身がイチゴでも気持ちは祝杯である。互いの器とこつんと合わせると、さっそく赤い氷菓をスプーンに掬って、ぱくりと一口。
「しゃ! しゃむい! 美味しい!」
寒さに震えながらもイチゴの甘さを堪能するララノア。一口、二口と夢中で頬張っていくが……。
「しゃむぃ……ぉぃしぃっぃぁぁぁああっっ」
突如、頭の奥にキーンとした痛みが襲い、思わず悲鳴を上げる。
「な、なんでしょう痛み!? わ、私何か病気なので?」
「…………っ!」
「……頭が、頭がキーンって……」
慌てふためくララノアの隣で、ラティアとエミリアも同様に襲い来る頭痛に顔を顰めていた。
「Σはっ!皆さんも同じ症状? もしや敵襲!」
「いえ、これは……」
そう、エミリアは知っていた。これは敵襲ではなく、冷たいものを急に頬張ると良く起きる現象である。
ちなみにララノアとラティアは初体験なので驚くのも無理はない。エミリアの説明で、ふたりはほっと胸を撫でおろす。
「……良かったのでし……驚きまして……わ、私こういった事も初めてで……」
「皆でつい、沢山頬張っちゃったものね」
顔を見合わせて、ふふっと皆で笑い合う。
知らない事が多いと、その分知る楽しみが多くなる。それが、毎日とても面白いと笑うララノアの表情は嬉しそうだ。
「……頭がキーンってなりましたけど、美味しいものは美味しいので……エミリアさん、ララノアさん、そちらのも一口もらっていいですか……?」
「おねえさんも二人が良ければ一口二口ぐらいシェアをしたいわ。甘露アリのシロップも、とっても美味しいわよ」
ラティアの提案に、今度はゆっくり一口ずつ味わって。
違う味も頬張ればそれぞれ異なる甘酸っぱさに、ララノアも再び花が咲くような笑顔を見せた。
「美味しいですねっ」
そこからはエミリアとララノアが話を盛り上げ、ラティアは頷きながら聞き役に徹しながら。
互いの削りイチゴを分け合いながら乙女達のお喋りはのんびりと続いていく。
●
ラントの外に広がる、雪原では熾烈な雪合戦が開始されていた。
「雪だ! 雪と言えば雪合戦だぁ! 準備はいいさぁ!」
フリューリングスルフト=ティエラは、抜群の解れ具合に調整した雪玉をにぎにぎ製造しながら臨戦態勢。
今日は授恵者でも冒険者でもない、ただのひとりの女の子として。皆で雪合戦を楽しむのはシャルロット・エクレール。
しかし、ほぼ身一つでシャルロットが戦いに挑む傍ら、共に雪合戦に興じるサフィラ・アズラク・ナハルハルアリーブにフリューリングスルフト、サイラスは全力で能力も発揮していく心づもりである。
「……ていうかサイラスは?」
一番目立つひとの姿が見えないと思いきや、サフィラが辺りを見渡すと目に飛び込んでくるのは、やたらと巨大な雪だるま。
「じー……」
「じー……」
見つめるサフィラとシャルロット。
「そこさぁ!」
フリューリングスルフトの三連雪玉が雪だるま目掛けて飛んでいく。双波で雪だるまに変装したサイラスの姿を暴いたのだ。
動けないかと思いきやじりじり移動する雪だるまだが、連続で飛んでくる雪玉の方が早かった。
「ちぇ、見破るの早かったなぁ!」
雪玉が見事に命中した雪だるまアーマーを脱ぎ捨てて、残念そうに姿を現すサイラス。
「どんどんいっくよー!」
命中を上げて的確に投げてくるサフィラの雪玉に、跳躍も擬態も効かないならばとサイラスは雪で壁を作りながら防御していく。
一方、回避に特化してあらゆる雪玉を避けていくフリューリングスルフトを本気で追いかけるのはシャルロット。
友人を追いかけることに集中しすぎたか、雪に足をとられてぼふりと新雪に身体が埋まってしまう。
「わ、ちょっと待っ……」
「手加減無用! 遊びだからこそ本気出すさぁ」
「ぷきゃ」
雪から這い出す間もなく、シャルロットは雪玉の追撃を喰らってしまうが、彼女が雪に埋もれる姿は子犬が雪と戯れているようにも見えて何処か微笑ましい。
「はははは! うちに当てられるものなら当ててみるさぁ!」
絶好調な勢いに任せ、盛大にフラグを立ててしまったフリューリングスルフト。
その瞬間、サフィラ、シャルロット、サイラス、3人の心が一つになった。アイコンタクトで連携を取ると彼女目掛けて雪玉が次々に飛んでくる。
気づけば包囲網までばっちり組まれている。
「此処は当てないとねー」
「やっと捕まえた!」
「え、ま、待って。集中砲火かつ包囲とか聞いてな、ぷきゅっ」
「問答無用ー!」
逃げ道がなくなり容赦なく次々に雪玉を当てられていく華奢な身体が、サフィラの掛け声と共にあっという間に雪に埋もれていく。噛ませ犬ならぬ噛ませ狸である。
フリューリングスルフトがすっかり雪で埋まったところで、1名戦闘不能により試合続行不可能として決着となった。
「っ……ふふ! フリュー、真っ白!」
雪にまみれたフリューリングスルフトの姿を見て、シャルロットがくすくすと笑う。赤い髪もふかふかの尻尾まですっかり白くなっていた。
一方、寒さで鼻先や耳はぽっと赤く染まっている姿がなんともおかしい。
「シャルこそ頭に雪がのってるさぁ!」
シャルロットもサフィラもサイラスも、みんな全身雪だらけになっている。
互いに奇妙な姿になった様子に、お腹を抱えて笑い合う。
●
削りイチゴと温かいスープを堪能したシェルリアは、酒場を後にするとお土産が並ぶ露店を巡っていく。
「可愛いアクセサリーとかあったら買っちゃおうかなあ」
ペンダントに髪飾り、指輪などなど……目移りしてしまう木彫りの品がずらりと並ぶ。
悩んでいると、露店の店主に声をかけられた。
「お嬢ちゃん、お土産探してるならこれとかどうだい?」
「わ、かわいいー!」
誘われるままに店を覗くと、丁寧に手彫りされたアクセサリーが目に留まる。
雪の結晶を模した飾りが連なるブレスレットに、不思議な紋様が刻まれた腕輪――。
どれにしようかと、店先で悩む少女の表情はとても生き生きとしていた。
ウォーゼルは別の街で受けていた依頼を終えた後、偶然ラントへと立ち寄っていた。
「賑やかだと思ったら、お祭りをしていたんだね」
足下に付いて回るミニコボのチョコへ語り掛けると、小さな相棒は祭りの賑やかな雰囲気に目を輝かせている。
雪に足跡を付けて走り回りはしゃぐ様子には、立ち寄って良かったとウォーゼルの頬も思わずゆるんだ。
その姿にふと思い出すのは、今日は留守番をしている幼馴染と愛猫の姿。
「二人も居たら、絶対喜んだだろうなぁ」
その姿が手に取るように目に浮かぶ。
その隙にチョコは幼子のようにちょこちょこと歩き回るが、ひとつの露店の前でふと足を止めた。
じー……っと一点を見つめる姿にウォーゼルも覗き込むと、店には木彫りの小物がずらりと並んでいる。
ちらりと自分を見るチョコの視線の意味に気付き、ウォーゼルは柔らかい笑顔で頷いた。
「いいね、2人へのお土産を探そう。チョコはどれがいい?」
気になる品は、可愛らしい肉球のチャームが付いた首輪だ。
チョコは小さな手で、気に入った色の首輪をぽふぽふと指し示す。
「うん、チョコのはそれにしようか。他にはどれが良いと思う?」
一緒に相談しながら購入したのは、チョコが選んだ色違いの首輪を2つに、木彫の猫と犬のキーホルダー。
自分たちの分にお留守番の二人用、お揃いをそれぞれひとつずつ。それと、街の名物であるイチゴも勿論忘れずに、全部まとめて小さな木箱に詰めてもらってマジカルポケットへ。
「楽しいは共有したいからね」
家に帰って、皆で過ごす時間が楽しみだとウォーゼルは目を細めた。
●
イチゴの氷菓を楽しんだ後、ヨルとナハシュは酒場自慢の玉ねぎスープを〆として堪能する。
「絶対美味ぇけど、削りイチゴとは合わなそうだ」
飴色になるまでしっかり炒めたあとに更にじっくりと煮込まれたスープは香ばしく、濃厚ながらも優しい味わいが広がる。
運ばれてきたスープをひと口味わってから、ヨルもそうだねと頷いた。
「どっちかというと酒に合う奴だね」
「……酒も飲みたくなってきた」
酒。その単語を口に出してしまうと、飲みたくなってくるものだ。
最初はゆっくりと玉ねぎの旨味を味わっていたものの、時間が経つにつれ身体が酒を求めてきていた。
「あぁ、酒飲みてえなー! エールかワインねえの?」
ナハシュが店主に問えば、勿論用意しているとにこやかにカウンターから酒を次々を出してくる。
エールにワイン、蒸留酒……こうなってしまえば酒盛りの始まりである。
「はは、やっぱりこうなる。それじゃ、乾杯」
「かんぱーい!」
酒のつまみも追加して、ヨルとナハシュは満足するまで杯を交わすのだった。
削りイチゴで冷えた身体をハーブティーで温めながら、クレア、アンネエルカ、アーシェルが交わすのはこの後の予定の話。
「後でお土産の方も見に行かない?」
酒場に来るまでに通った広場に、露店も多数並んでいたのをクレアは思い出した。工芸品があるならば、是非見ていきたいとふたりも同意の様子。
「そうね。お土産、私も買って帰りたいなって思っていたの」
「なんか気になるもんでもあるのか?」
「さっき通りかかった時、木彫りのシャケを咥えたジャイアントパンダが置いてあってさ~……」
「えっ!? シャケを咥えたパンダさん……!?」
クレアの言葉に、思わず欲しくなってしまうと目を輝かせたのはアンネエルカ。
「へぇ、面白いもんもあるんだな」
咥えているのは竹ではない、シャケである。一体どんな姿の置物なのか、それは是非見てみたいとアーシェルも思わず想像を巡らせる。
アンネエルカもすっかりパンダが気になって仕方がない様子。
「宿の談話室に飾ったら、きっと可愛いわ」
「じゃ、この後見に行こ……! 決まりね!」
ハーブティーを堪能しながらも、そわそわする少女たちのテーブルは木彫りのシャケを咥えたパンダの話で盛り上がっていく。
そしてお茶を終えてお土産めぐりに繰り出した後、アーシェルからクレアとアンネエルカへ、それぞれパンダの置物がプレゼントされたのだった。
雪合戦を終えた猛者たちも、共に遊んだ仲間同士、親交を深めようと食事を楽しみに街へと繰り出していた。
「ぷふぁ……あったまるー……」
玉ねぎスープを堪能して、幸せそうな顔を浮かべるのはサフィラ。雪ですっかり冷えた身体がじんわりと温まっていくのを感じる。
テーブルの向かいではシャルロットがジャムの乗った削りイチゴをスプーンに載せている。
「私が負けたら『寒い!』とか『冷たい』って言わずに食べようと思ってたけど……」
勝者となったシャルロット、ささやかな感想縛りの罰ゲームはお預けとして、イチゴをひと口頬張った。
でも、きっと負けてしまっても『美味しい』とか『楽しかった』という素直な感想しか出てこなかったかもしれないと笑う。
「楽しかったさぁ! いっぱい遊んだあとは食事も美味しい!」
「雪合戦てのもたまにはいいもんだね」
フリューリングスルフトとサイラスも、シロップと練乳が掛かった削りイチゴをそれぞれ堪能しながら。
沢山遊んだ後に、テーブルを囲んで戦友たちは語り合う。
雪合戦の思い出話から次に遊ぶ日の提案まで。イチゴとスープの器が空になれば、ハーブティーをお供にお喋りは続いた。
尚、氷菓を堪能した後に更に身体が冷えたのか、すっかり体温の下がったサイラスの動きがやや鈍くなり復活するまで暫く時間が掛かったとか。それはまた別のお話。
●
酒場から少し離れた街の側で、ヴィルヘルミナは平和に雪玉をせっせと転がしていた。
ごろごろ、ごろごろとひたすら大きくしていき。自分の腰ほどもある大きな雪玉が出来れば、もうひとつ。
先に作った大玉の上に載せてから、手ごろな枝を両脇に刺せば、巨大な雪だるまが完成する。
「……ふぅ、こんなものでしょうか」
ヴィルヘルミナはやや満足げな表情を浮かべた後、次は雪像にでも挑戦してみようと雪だるまの隣に新しい雪をかき集めていく。
雪だるまと違い雪像となればモチーフが必要だ。さてどうしようかと見渡したところで、視界に入ってくるのはちょろちょろと自分の周囲を歩き回るカカポ。
「良いモデルが、近くに居ましたね」
主人の視線を感じて首を傾げるカカポにヴィルヘルミナは笑いかけると、ぺたぺたと地道に雪を削り始めた。
固めて、削って、足して、削って……。
――数刻後。キリの良い所で作業を終えると、そこには立派なカカポの雪像が鎮座していた。
出来も中々のものだろうと、達成感を感じて顔を上げると、大分日が高くなっていた事に気が付いた。
「街にも行ってみましょうか」
削りイチゴに土産の露店、まだまだ楽しめるものは沢山あると、ヴィルヘルミナは一度だけ雪像を振り返ってからカカポと共に街へ繰り出していく。
ヴィルヘルミナが立ち去ってから数分後、入れ違うようにアドルフがそこに立っていた。
「おや、雪だるまに……鳥の雪像ですか。良い出来だ」
周囲にはカカポの足跡のおまけつき。
一体誰が作った作品なのかアドルフには知る由もなかったが、器用に作られた雪像達に感嘆の溜息が漏れる。
「次は雪像祭りというのもアリですね。忙しくなりそうだ」
どこか楽し気な青年の呟きが、雪に吸い込まれて消えていった。
――盛況のうちに幕を閉じたラントの祭日は、街の人々の心にも想い出として深く残った一日となった。
マスターコメント
イベントシナリオ易しい 報酬:無し18 / 4〜25人
2022年01月03日 09時58分40秒 公開
参加者
相談掲示板
シーフのフリューリングスルフト、長いからフリューって呼んでさぁ♪ うちは一緒に雪合戦して、終わった後にご飯食べる仲間を募集するさぁ! 人数が多ければチーム戦。少なかったら個人戦!みんな敵だぁー!(まて タグは【雪合戦】 うちと知り合い、友人も初めましての方も大歓迎さぁ♪ ……ふっふっふ、初めましての方でも雪合戦では手を抜かないからそのつもりで! (※しかしこいつはシーフであり、本能として回避行動するつもりである←)
雪?雪遊び初めてなの。あ、キャスターのシャルロット・エクレールです。 フリューとは仲良しよ。はじめましての方も一緒に遊んでね。よろしくね。
シルヴィアだ。今回はよろしくね。 フリュー達の雪合戦、参加してみたいんだけど今回は友人と遊ぶ予定が……! また機会があったら是非よろしく頼むよ。その時は全力を尽くすね←
No.4
サイラスだ、よろしくなー 雪合戦とりま行ってみようかと
ノイアンだ。雪合戦も捨て難いのだが……今回は削りいちごが気になってだな。 もう早いところではいちごが出回る頃だが、どれほどの糖度なのか気になってな。 やはり冬場は暖かいところで冷たいもの……こほん。ともあれ、よろしく頼む。
わぁー!シルヴィアさーん!(両手をぶんぶん振ってご挨拶) うん!また機会あったら一緒に遊ぼうさぁー!ま、負けないっ!((꜆꜄•௰•)꜆꜄꜆»シュッシュッ わぁー!サイラスさんいらっしゃいいらっしゃいさぁ♪ 一緒に遊ぼうさぁ♪ いちご、いちごの誘惑はすごいさぁ(ノイアンさんの言葉にうんうん、と頷き) もしまた機会あったらぜひぜひ! >【雪合戦】 【雪合戦】 雪合戦だぁ!多人数なら適当に組みチーム戦、少人数なら個人戦 沢山遊んだ後は温かい食事で戦友()と語り尽くそう っと、ひとまずタグ内容はこんな感じ!しんぷるにした( 深く考えず、己が手に握りしめた雪玉を投げるべし! 危なくないスキルは使っていいことにしよう(回避する気満々である←)
シェルリア・リトヴァールといいます! よろしくお願いします! 私は削りイチゴを食べに行きますっ。 トッピングは何にしましょうか(わくわく)
アーシェルだ。よろしく頼む。 友人達と削りイチゴを食べる予定だ。 体が冷えるだろうからその後には温かいスープも。