【CP】帝国難民キャンプ連動

踏み固められた通りを歩く人々はみすぼらしく、しかし目は生き生きとしていた。
「おーい、どいてくれにーちゃん!」
大量の芋を抱えた少年が駆けてくる。
レイウェストの顔も知らない馬鹿だが悪意は皆無。
圧倒的な武力を持つエフレムは反応せず、レイウェストは驚きながらも優雅に一歩退いた。
「すまねぇ! 炊き出しやってるから腹減ったら来てくれよっ」
微かに甘い焼き芋の香りを残し、見当外れな言葉を残して皇子から遠ざかる。
「元気だな」
今のレイウェストは宮殿の書庫に籠もっていた頃とは違う。
驚きはしても心の一部では冷静さを失わず、難民キャンプの雑踏から必要な情報を拾い上げる。
「冬を越えられただけでも僥倖、か……」
寒さと飢えで人は死ぬ。
これだけ生き延びているのを見ると、自分達のやったことに意味はあったと思いたくなる。
(奪還戦に先駆け、難民からも募兵する話があるが……複雑ではある)
レイウェストは、彼に気付いた人々に鷹揚に応えながら視察を続ける。
「エフレム。もう少しだけ見ておきたい。先に馬を用意してくれないか」
そう言われた護衛騎士は、わずかな時間だけ迷い、この場を皇子と他の護衛に任せることにした。
十分に治安は確保され、万が一のことがあっても召喚獣で介入出来るという自信には、十分な根拠があったのだ。
●
「坊主のお袋さんが苦労して耕した畑があるだろう? このままじゃ取り上げられちまうぜ?」
それは扇動術であった。
「あの黒い小僧はまだまだ分かってねぇのよ。俺たちにも生活ってものがあるってな。だから、これは躾ってやつだ。ちょっと脅かしたら、あの小僧だってお前らがどのぐらい困ってるかようやく分かるってもんさ。そんで、お袋さんは畑を手に入れ坊主も腹一杯ってな」
親しみ易い言葉と雰囲気で、致命的な嘘を少量混ぜた真実を囁く。
畑を手放さねばならないのは帝国南部奪還が進んだ場合で、そのときはテントではなく帝国の街か村に正規の住人として戻れるという事実に気付かせない。
「なあに、倒れるだけで死にはしねぇよ。これでちょっと刺してやれば数日眠ってそれで終わりさ」
手渡された刃は子供のてのひらに隠せるほど小さく、しかし異様に研ぎ澄まされていた。
幼子がレイウェストに向かって歩いて行く。
一生懸命な表情は見ていて微笑ましく、自らが凶器を持っていることに気付かぬ幼子からは殺意を感じられない。
エフレムですら気付くのが遅れてしまうほど、幼子に施された術は巧妙だった。
「君は……確か、」
レイウェストも気付けない。前回の視察で言葉を交わしたことがある子だった。顔見知りであったこともまた、罠であったか。(母親がいないな。迷子……っ!?)
しかし、その手に覗いた凶器が見えた瞬間、レイウェストは声を張った。同時に、少年へと絶死の召喚術を放とうとしているエフレムとの間にその身を入れ込む。
「エフレム、っ!」
激痛が思考を中断させる。
頑丈な服を貫通し、小さな刃が肌を傷つけていた。たちまち酩酊していく意識の中、レイウェストは、
「殺す、な……!」
辛うじてそう言って、倒れ伏した。
●
「一帯を封鎖せよ」
鎮圧は速やかに行われた。
事態を吞み込めてすらいない幼子を制圧。
拘束は別の護衛に任せてエフレムは皇子の容体を確かめる。
無言のまま傷口を切り裂く。
意識を失った皇子が痙攣するが、エフレムは抉る刃を止めない。
「エフレム様っ」
混乱する護衛が聞いても彼は応えない。召喚したクリーパーの触手を傷口に這わせ、淡い光を生じさせる。
闇の底でしか流通しない暗殺毒は、即座に最善の処置を行っても手遅れになりかねないほど凶悪で陰湿だ。授恵者であっても死に至らしめる。
「そこの家を徴発する。寝台と湯を急がせろ」
治療も事態も隠蔽も最速で行われた。
皇子も意識は戻らないがぎりぎりで持ち堪えた。
なのに、その日のうちにレイウェスト死去という流言飛語が帝国難民キャンプ全体に広まった。
執筆:馬車猪
assignment帝国難民キャンプ連動 特設ページ
【CP】連動は帝国から王国まで逃れてきた難民を救うために発令された。生きていくための課題は衣食住の確保から隣人や外敵への対処、果ては同じ人間との政治的争いにまで広がっていく。
指導者や軍人の多くは逃亡の際に失われ、残された難民はほとんど武力を持たない民である。そのため、冒険者が武力を担当して外敵に対抗するとともに、さまざまな経験を活かして自活を助けている。
assignmentここまでの流れ
帝国滅亡時に膨大な難民が発生し、クリーパーのはびこる土地から大挙して逃げ出した。
ヴァイセントラフ砦単独では難民の全てを受け容れることは出来ず、その一部は王国へ流れた。
その難民が王国に定着することを嫌った王国貴族は、既存村落へ受け入れる代わりに何もない僻地を貸し与えるという形をとる。このままでは冬を越す民はほとんどいないのではないかと危惧された。
帝国亡き世界での王国一人勝ちを阻止したい同盟が帝国難民を生き延びさせ、帝国復活の目を残すため支援を始めたのが、難民キャンプ成立までの経緯である。
当初は、衣食住の不足や心理的な絶望、指導者の不足などから短期間での崩壊や暴動も予想されていたが、冒険者の活躍のおかげでいずれも解決へ道筋が立ち、現在も存続している。
しかし、春を迎えた難民キャンプの近隣では、冬の間に撃退したはずのコボルト達が再び目撃されるようになった。更には慰問に訪れた帝国皇子レイウェスト・バルダスが暗殺者の刃に倒れ、重傷を負う。帝国南部地域の奪還をかけた戦いを前に、難民キャンプは再び試練の時を迎えていた。
assignmentこれまでの連動結果
【CP】連動は過去2回連動が行われています。以下が、そのあらすじとなります。
3の1:結果 開拓編
最初期の難民キャンプは、寝床はテント、食事は石のように硬いパン、水をくむためには野犬がうろつく小川まで出向くしかないという状況だった。
冒険者が野犬や害獣を駆除し、人間の気配に気付いて近づいて来たクリーパーを討ち、物資を狙う賊を排除することで、苛酷ではあっても安定した生活が成立するようになった。
各地に散っていた難民が難民キャンプを目指すようになったのもこの頃である。
3の2:結果 エルフ・コボルト編
帝国滅亡に気付かない水準の引き篭もりエルフ集落との間に、深刻な境界争いが発生した。
冒険者がキャンプとエルフ間の衝突回避に奔走しているタイミングで、人類の領土を狙うコボルト部族による侵攻が始まる。
激戦の末数百のコボルトを冒険者が討ち取ったことでキャンプ周辺の平和が回復した。
person_pin関連NPC
亡国となった帝国の皇族唯一の生き残り。皇位継承順位こそ八位と低いが、皇帝とその子女である第三皇女との間に生まれた生粋の皇族。
彼にとっての難民達は、慈しむべき対象であると同時に、帝国再建のための必須の材料である。
《本連動での動き》
難民キャンプへ帝国崩壊後の秋に慰問に訪れ、冒険者の仲立ちで難民と言葉を交わした。2度目の難民キャンプ慰問で暗殺者の刃に倒れ、意識不明のまま難民キャンプ内で治療を受けている。
皇太子レイウェストの護衛騎士であり、クリーパーを召喚し支配することを得手とする召喚術の達人。亡国の騎士となっても単身で各国の介入からレイウェストを守る忠義の人物。
《本連動での動き》
近く行われる帝国南部地域の奪還戦では、都市ヴィントへ赴き黒い霧を晴らす予定であった。しかし重傷を負ったレイウェストの治療のため、現在は難民キャンプ内に留まっている。
帝国の小都市テタール・ロバンを治めるテタール伯の末娘。家族により帝国から逃がされ、弟や従者とはぐれて身ひとつで難民キャンプに流れ着いた。
《本連動での動き》
難民キャンプに極少数しかいない貴族であり、指導者の1人として担ぎ上げられた。
箱入り娘だったが冒険者に心身共に鍛えられ、現在は難民の自立を目指して教育に力を入れている。
帝国の小領主の娘。領民達と共に帝国を脱出し、難民キャンプに落ち着いたはずだった。
《本連動での動き》
難民キャンプに極少数しかいない貴族であり、指導者の1人として担ぎ上げられた。
領民の長との二足のわらじは大変そうだ。
帝国地方都市のスラムに住んでいた一般人。最初期からの難民キャンプの住人。自分は戦う事しかできないと、難民の仲間を守るために率先して突撃していく。失敗も多いが、まっすぐな心根へは難民仲間からの信頼も厚い。
《本連動での動き》
冒険者に依頼するまでもない戦闘を担当しているが、時折手に負えない外敵などに遭遇し、冒険者と共に戦う。兄ちゃん姉ちゃんの届かぬ背中へ憧れを抱くようになった。
menu_book関連用語・情報
ロモズ歩兵団
難民の一部が立ち上げた自衛用戦力。
戦力化が完了したらしく、様々な勢力から注視されている。
メドゥの指先
難民キャンプに対する攻撃を行った。
コボルト勢力への工作に集中していたため、幹部級が複数動いていた割に攻撃の規模が小さかった。
コボルト
人類の土地を長年狙っていたコボルトの部族。
クリーパーや害獣が激減した土地を狙って侵攻を開始したが、クリーパーや害獣を激減させた冒険者による猛烈な反撃を受けた。
侵攻部隊の大部分を失い、勢力は激減していると思われる。
帝国南部鎮守都市ヴィント
王国国境にほど近い場所にある帝国の都市。周辺を含まぬ人口三万ほどの南部地域では最大規模の都市のひとつ。仮想敵国である王国に近い場所にあるため、平時から都市人口に匹敵する規模の二個師団二万名の兵力を駐留させていた。また、都市より兵営が広いなどともいわれていた。太守はバルディオン。
都市としては軍事以外には特筆すべき点はなく、王国との交易が盛んなところが特徴とはいえる。軍人相手の商売も盛んであったため、悪所は質量ともに名高かった。 帝国崩壊に際しては、他の都市の例にもれず壊滅している。帝国首都と同様の黒い霧に覆われ、多数のクリーパーとアンデッドの彷徨う場所となった。