【CP】帝国難民キャンプ 1
民家も見当たらない王国の僻地。
数日前までは人口密度が0に近かったその場所に、食い詰めた男女が集まっていた。
ここは帝国の崩壊を逃れてきた難民が集う、難民キャンプだ。
そこに集う人々がどのような状況におかれ、何を考えているかは、彼らの会話からきっとわかる事だろう。
「ヴァイセントラフ砦ぇ?」
目付きの悪い授恵者が乱暴に頭をかく。
ここ1月は水浴びも出来ていないので、汚いものがぽろぽろと落ちる。
「ちょっと、レディの前ですよ!」
少女が真正面から抗議する。物資がないなりに手入れを頑張っているのでこちらは小綺麗だ。
「細かいこと気にするなよ。それよりヴァイなんとかってのは敵か?」
「冗談だとしても不謹慎ですっ。王国との国境で帝国を守ってくれている方達ですよ!」
「守るぅ?」
目付きがさらに悪くなる。
「外からの敵は守っても内側からの敵からは守らないってか?」
「そんな言い方っ」
「見たことも聞いたこともない奴のことなんて知らねぇよ」
「……ちょっと待ってください」
少女が気付く。
「あなた、砦の側を通らなかったのですか?」
一度でも彼等の戦いぶりを見たことがあるならこんな言葉は出てこないはずだ。
この少年は粗野だが、恩人を蔑むような人間ではない。
「スラムから逃げ出してから今まで、砦なんて一度も見たことねーぞ」
帝国の領土は巨大で国境線も長大だ。
難民が通過可能な場所などいくらでもある。
「立派な方達です。難民を見れば確実に助けようとして、私はまだ余裕があったのでこちらに……ええと、何かご用ですか?」
気配に気付いて振り返る。
この場にいる2人とは別グループに属する少女が、何故かおどおどした態度でこちらを見ている。
昨日難民キャンプにやって来た授恵者だ。
「あの……砦、は」
2人は無言で促す。
「逃げてきた人で、いっぱいで」
目付きの悪い少年が肩を落とす。
「スラムみたいにメシの奪い合いになってそうだな。教えてくれてありがとよ」
少年は手をひらひらと振り、防壁どころか柵すらない難民キャンプから離れて行く。
狩りの経験などないが、野生動物を殺して食料にするつもりだ。
「情報に感謝します」
少年と話していた少女は心からお礼を言う。
長年受けてきた教育は体に染みついていて、所作は社交界でも目立つ水準だった。
極自然に同水準の礼が返ってくる。
それを懐かしく感じ、同時に安堵する。
この場所に足りないのは衣食住だけではない。
集団を維持するための人材も、先を見通し計画を立てる人材も、全く足りないのだ。
「! あなたも授恵者ですね!」
気配から相手の正体に気付く。
自然と笑みがこぼれ、無意識に一歩距離をつめる。
先程の少年相手には無理だった戦略レベルの情報交換をしたい。
現状を少しでも改善するための知恵を出し合いたい。
なにより、歳の近い同性の授恵者と仲良くなりたい。
悪意皆無の笑顔はとてもまぶしく、気弱な人間には目の毒だった。
「すみませんっ」
返事がこれである。
非の打ち所がないほど見事に謝絶して、呼び止める隙も与えず走り去る。
授恵者らしい、素晴らしい速度での逃走であった。
「……授恵者、増えましたね」
気を取り直すのに少し時間がかかった。
少なくともしばらくの間は、この場所で生き延びるしかない。
先程の少女と会話する機会もあるはずだと考え、何をする必要があり、何が出来るかを考えていく。
「この力があれば」
他の2人と同じく、彼女も新たに授恵者になった1人だ。
伯爵家子女だった頃とは違って色々出来るはず、と思っても空腹は癒やされない。
その日の夕方、少年は何も得られないまま難民キャンプに帰還した。
執筆:馬車猪
数日前までは人口密度が0に近かったその場所に、食い詰めた男女が集まっていた。
ここは帝国の崩壊を逃れてきた難民が集う、難民キャンプだ。
そこに集う人々がどのような状況におかれ、何を考えているかは、彼らの会話からきっとわかる事だろう。
「ヴァイセントラフ砦ぇ?」
目付きの悪い授恵者が乱暴に頭をかく。
ここ1月は水浴びも出来ていないので、汚いものがぽろぽろと落ちる。
「ちょっと、レディの前ですよ!」
少女が真正面から抗議する。物資がないなりに手入れを頑張っているのでこちらは小綺麗だ。
「細かいこと気にするなよ。それよりヴァイなんとかってのは敵か?」
「冗談だとしても不謹慎ですっ。王国との国境で帝国を守ってくれている方達ですよ!」
「守るぅ?」
目付きがさらに悪くなる。
「外からの敵は守っても内側からの敵からは守らないってか?」
「そんな言い方っ」
「見たことも聞いたこともない奴のことなんて知らねぇよ」
「……ちょっと待ってください」
少女が気付く。
「あなた、砦の側を通らなかったのですか?」
一度でも彼等の戦いぶりを見たことがあるならこんな言葉は出てこないはずだ。
この少年は粗野だが、恩人を蔑むような人間ではない。
「スラムから逃げ出してから今まで、砦なんて一度も見たことねーぞ」
帝国の領土は巨大で国境線も長大だ。
難民が通過可能な場所などいくらでもある。
「立派な方達です。難民を見れば確実に助けようとして、私はまだ余裕があったのでこちらに……ええと、何かご用ですか?」
気配に気付いて振り返る。
この場にいる2人とは別グループに属する少女が、何故かおどおどした態度でこちらを見ている。
昨日難民キャンプにやって来た授恵者だ。
「あの……砦、は」
2人は無言で促す。
「逃げてきた人で、いっぱいで」
目付きの悪い少年が肩を落とす。
「スラムみたいにメシの奪い合いになってそうだな。教えてくれてありがとよ」
少年は手をひらひらと振り、防壁どころか柵すらない難民キャンプから離れて行く。
狩りの経験などないが、野生動物を殺して食料にするつもりだ。
「情報に感謝します」
少年と話していた少女は心からお礼を言う。
長年受けてきた教育は体に染みついていて、所作は社交界でも目立つ水準だった。
極自然に同水準の礼が返ってくる。
それを懐かしく感じ、同時に安堵する。
この場所に足りないのは衣食住だけではない。
集団を維持するための人材も、先を見通し計画を立てる人材も、全く足りないのだ。
「! あなたも授恵者ですね!」
気配から相手の正体に気付く。
自然と笑みがこぼれ、無意識に一歩距離をつめる。
先程の少年相手には無理だった戦略レベルの情報交換をしたい。
現状を少しでも改善するための知恵を出し合いたい。
なにより、歳の近い同性の授恵者と仲良くなりたい。
悪意皆無の笑顔はとてもまぶしく、気弱な人間には目の毒だった。
「すみませんっ」
返事がこれである。
非の打ち所がないほど見事に謝絶して、呼び止める隙も与えず走り去る。
授恵者らしい、素晴らしい速度での逃走であった。
「……授恵者、増えましたね」
気を取り直すのに少し時間がかかった。
少なくともしばらくの間は、この場所で生き延びるしかない。
先程の少女と会話する機会もあるはずだと考え、何をする必要があり、何が出来るかを考えていく。
「この力があれば」
他の2人と同じく、彼女も新たに授恵者になった1人だ。
伯爵家子女だった頃とは違って色々出来るはず、と思っても空腹は癒やされない。
その日の夕方、少年は何も得られないまま難民キャンプに帰還した。
執筆:馬車猪