【CP】帝国難民キャンプ 5

リット
痛って……って暗いな! ここはどこだ? おーーーい!
古木が悲鳴をあげている。
長い時間をかけて育った幹に鉄の斧がめり込み木屑を散らす。
「人間め」
若いエルフが弓を構えた。
木を育てるのには長い時間が必要だ。
土地の痩せたこの土地では数倍の時間が必要で、その全ての苦労が今無駄になった。
「殺してやる」
「おいよせ、止めろ!」
中年のエルフが止めようとするが無駄だ。
若いエルフは授恵者であり、気力、体力、技術の全てで非授恵者を上回っている。
矢が放たれる。
鹿の成獣を1撃で仕留める矢が、斧を振り回すヒューマンの背に突き刺さった。
「なんてことを」
中年エルフもヒューマンは大嫌いだ。
しかし若者とは違って数の脅威というものを知っている。
里のエルフが10倍のヒューマンを殺しても、その10倍の人間に反撃されたら里は全滅だ。
そんな、あまりに危機感の薄いことを考えていた。
「いてっ。野郎、やりやがったな!」
ヒューマンは倒れない。
背中に手を伸ばして矢を引っこ抜くときも眉を寄せる程度。
呆然とする若手エルフと中年エルフに気付いて、白い歯を剥き出して獰猛に笑った。
「ねーちゃん達と合流してキャンプの守りを固めろ。俺は」
同行者を逃がして剣を抜く。
エルフが二人がかりで放つ矢を盾代わりにして防ぐ。
「話を聞いてから戻るからよ」
冒険者に憧れて訓練と実戦を積み重ねた彼は、ただ授恵者となっただけのエルフよりずっと恐ろしい存在だった。
●
「リット君が捕まった!?」
難民キャンプの中心ともいえる天幕で悲鳴があがった。
「相手はエルフ?」
「1人で突撃して罠に嵌まって?」
リュシエンヌ・テタールとリオン・レスティの表情が、恐怖から呆れへ、最終的に安堵へ変わった。
「捕まえるなら交渉するつもりがあるということです。すぐに殺されることはありません」
「良かった……。リットさんが殺していたらエルフ相手の戦争が避けられなかったです」
2人はリットを嫌ってはいない。
キャンプ立ち上げ時からの同志であるし、強盗や害獣相手の戦いでは非常に頼りになる。
ただ、やり過ぎるのだ。
「救出は冒険者の皆さんに依頼します。あなた達はリットさんの帰る場所を守ってください」
リットの仲間を見送った後、キャンプの指導層である2人は難しい表情になる。
経験を積んだ授恵者は戦力であると同時に貴重な資源だ。
リットの身柄と引き替えに、境界争いや森林の扱いで不利な条件を突きつけられる可能性大だった。
「木の伐採が制限されたら、木造家屋が建てられなくなるかも……」
「燃料も、いつまでも援助に頼る訳には……」
2人とも、リットの命は特に心配していなかった。
●
「離しやがれ!!」
ロープでぐるぐる巻きにされても全身を使って跳ねている。
背中からの出血もいつの間にか止まった。
頑丈なロープがみしみしと異音を発し、今にも千切れてしまいそうだ。
「長! こいつ殺しましょう!!」
若いエルフが甲高い声で言う。
下に見ていたヒューマンの殺意に怯えたことがよほど屈辱だったようで、今にもナイフで斬りつけそうだ。
「馬鹿者!!」
長老が一喝する。
非授恵者ではあるがエルフの小集落を生き延びさせてきた人物だ。
実績も迫力も格が違う。
「こやつは主力ではない。だから見捨てられたのじゃ」
「えっ」
リットの抵抗が止まる。
「これと同等以上の戦力があるから逃げたのじゃ。そうでなければこれを助けに来ておる」
「だったらこいつを殺せば」
「妥協出来なくしてどちらかが滅ぶまで殺し合う気か馬鹿者! ヒューマンはクソだが蛮族ではないのだぞ!!」
リットは暴れるかどうか悩んでいる。
「しかしヒューマン共は何を考えている。これほどの授恵者を木こりに使うとは……馬鹿が長になったのか?」
この地のエルフは冒険者を知らない。
だから、リット程度の戦力を過大評価してしまっている。
「大森林経由で帝国へ抗議すべきかのう」
帝国が事実上滅んだことを知らない、エルフの中でも特に閉鎖的な集落であった。
執筆:馬車猪
長い時間をかけて育った幹に鉄の斧がめり込み木屑を散らす。
「人間め」
若いエルフが弓を構えた。
木を育てるのには長い時間が必要だ。
土地の痩せたこの土地では数倍の時間が必要で、その全ての苦労が今無駄になった。
「殺してやる」
「おいよせ、止めろ!」
中年のエルフが止めようとするが無駄だ。
若いエルフは授恵者であり、気力、体力、技術の全てで非授恵者を上回っている。
矢が放たれる。
鹿の成獣を1撃で仕留める矢が、斧を振り回すヒューマンの背に突き刺さった。
「なんてことを」
中年エルフもヒューマンは大嫌いだ。
しかし若者とは違って数の脅威というものを知っている。
里のエルフが10倍のヒューマンを殺しても、その10倍の人間に反撃されたら里は全滅だ。
そんな、あまりに危機感の薄いことを考えていた。
「いてっ。野郎、やりやがったな!」
ヒューマンは倒れない。
背中に手を伸ばして矢を引っこ抜くときも眉を寄せる程度。
呆然とする若手エルフと中年エルフに気付いて、白い歯を剥き出して獰猛に笑った。
「ねーちゃん達と合流してキャンプの守りを固めろ。俺は」
同行者を逃がして剣を抜く。
エルフが二人がかりで放つ矢を盾代わりにして防ぐ。
「話を聞いてから戻るからよ」
冒険者に憧れて訓練と実戦を積み重ねた彼は、ただ授恵者となっただけのエルフよりずっと恐ろしい存在だった。
●
「リット君が捕まった!?」
難民キャンプの中心ともいえる天幕で悲鳴があがった。
「相手はエルフ?」
「1人で突撃して罠に嵌まって?」
リュシエンヌ・テタールとリオン・レスティの表情が、恐怖から呆れへ、最終的に安堵へ変わった。
「捕まえるなら交渉するつもりがあるということです。すぐに殺されることはありません」
「良かった……。リットさんが殺していたらエルフ相手の戦争が避けられなかったです」
2人はリットを嫌ってはいない。
キャンプ立ち上げ時からの同志であるし、強盗や害獣相手の戦いでは非常に頼りになる。
ただ、やり過ぎるのだ。
「救出は冒険者の皆さんに依頼します。あなた達はリットさんの帰る場所を守ってください」
リットの仲間を見送った後、キャンプの指導層である2人は難しい表情になる。
経験を積んだ授恵者は戦力であると同時に貴重な資源だ。
リットの身柄と引き替えに、境界争いや森林の扱いで不利な条件を突きつけられる可能性大だった。
「木の伐採が制限されたら、木造家屋が建てられなくなるかも……」
「燃料も、いつまでも援助に頼る訳には……」
2人とも、リットの命は特に心配していなかった。
●
「離しやがれ!!」
ロープでぐるぐる巻きにされても全身を使って跳ねている。
背中からの出血もいつの間にか止まった。
頑丈なロープがみしみしと異音を発し、今にも千切れてしまいそうだ。
「長! こいつ殺しましょう!!」
若いエルフが甲高い声で言う。
下に見ていたヒューマンの殺意に怯えたことがよほど屈辱だったようで、今にもナイフで斬りつけそうだ。
「馬鹿者!!」
長老が一喝する。
非授恵者ではあるがエルフの小集落を生き延びさせてきた人物だ。
実績も迫力も格が違う。
「こやつは主力ではない。だから見捨てられたのじゃ」
「えっ」
リットの抵抗が止まる。
「これと同等以上の戦力があるから逃げたのじゃ。そうでなければこれを助けに来ておる」
「だったらこいつを殺せば」
「妥協出来なくしてどちらかが滅ぶまで殺し合う気か馬鹿者! ヒューマンはクソだが蛮族ではないのだぞ!!」
リットは暴れるかどうか悩んでいる。
「しかしヒューマン共は何を考えている。これほどの授恵者を木こりに使うとは……馬鹿が長になったのか?」
この地のエルフは冒険者を知らない。
だから、リット程度の戦力を過大評価してしまっている。
「大森林経由で帝国へ抗議すべきかのう」
帝国が事実上滅んだことを知らない、エルフの中でも特に閉鎖的な集落であった。
執筆:馬車猪