黄昏の向こう側

真柄 葉

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シナリオID:3506

オープニング

 帝国東部鎮守都市『エスタル』。
 ようやく春の兆しが見え始めた頃、帝国東部にあるこの都市に一頭の早馬が駆け込んだ。
 早馬によって届けられた書状は、この都市を統治する帝国軍将軍リカルダ=C=アーレンスに宛てられたもの。
 リカルダは副官がハラハラと見つめる中、書状を開封した。

「でん……陛下はなんと?」
「レイウェスト陛下は、シルトラース帝国第26代皇帝として立つことを宣誓された。そして、私に皇帝となった自分に恭順せよと仰せだ」

 遂に……と感慨深く拳を握る副官を好ましく思いつつ、リカルダは再び書状に視線を落とす。
 書状におどる文字はレイウェストの直筆ではない。文官に代筆させたものだろう。しかし、その文章には確かに彼の癖のようなものが見え隠れしている。
 リカルダはその文面をどこか懐かしむように目元を緩ませた。

 かつてのリカルダは帝国軍将軍として25代皇帝ヨゼフの下で多くの戦場を駆けた――――あの大崩壊が起こるまでは。
 災害と呼ぶにはあまりにも巨大な破壊に、帝国の大部分が壊滅する中、大怪我を負いながらも辛くも生き延びたリカルダは、快癒後、帝国皇室の唯一の生き残りであり帝国復興の旗手として立っていた第八皇子レイウェストの元へと参じた。レイウェストはかつての剣の師匠の復帰を大いに喜ぶと、リカルダを将軍に復職させ、帝国北部及び東部指揮官の職責を与えた。
 リカルダは、ヨゼフ亡き後の帝国を背負う決意を見せるレイウェストに従い、帝国復興へ向けて尽力することになるのだが……世界はあまりに無情だった。
 ヨゼフの存命。
 その事実が、リカルダの心を大きく揺さぶる。
 リカルダはヨゼフによって帝国の将軍として取り立てられ、彼に忠義を尽くし働いてきた。大崩壊があり帝国という国が崩壊してもなお、帝国の頂点はヨゼフであり、その彼が存命である以上、『帝国将軍』が従うべきはヨゼフなのだ。
 なのに同じ将軍職にあったコンラートやバルディオンはレイウェスト側についた。帝国の宿敵とされた征竜と手を結んだ現皇帝ヨゼフに反旗を翻す形となっても、帝国の国是である『征竜の盾(人類の盾)』であることを望んだのだ。
 しかし、リカルダは選ぶことができなかった。
 どちらが覇権を取るかわからぬ闘い(賭け)に、どうしてもエスタルの人民の命をチップとして捧げることが出来なかった。
 結果、帝国のみならず大陸の行く末を決める大決戦を前に、リカルダは静観を決めことになる。
 その選択に、どのような未来が待っているのかをわかった上で――――。

「それで返事はどうしましょう? 将軍自ら陛下の元に赴かれる事ですし、日程の調整など必要ですよね。となるとお供の確保もしないといけないか……。エスタルがある程度落ち着いたとはいえ、将軍不在の間の指揮系統の整理もしないとだし……これは忙しくなりますよ」

 この先に待っている多忙な時を悲観する言葉とは裏腹に、どこか楽しむように口元を二やつかせる副官に、リカルダは苦笑する。

「陛下への謁見準備は私がやろう。お前は後事に注力してくれればいい」
「え、そうですか? まあ将軍がそう仰るなら」
「ああ、頼んだぞ」

 リカルダは少し不思議そうに自分を見つめる副官にそう告げ、退室を促した。

●
「……彼女、辞めるつもりね」
「………………はあぁぁぁぁっ!?!?」

 指揮所を出た副官は、出口に立っていた傭兵の一言に思わず大声を上げた。

「……うるさい」
「いやいやいやいや、ちょっと待て! 何がどうなったらそうなるんだ!? ってか、聞き耳立てるとか趣味悪すぎだろ!」
「……うるさいって言ってるでしょ。というか……副官なのにそんな事も分からなかったの? 無能なの?」
「無能ちゃうしっ!?」

 相変わらず大声で喚く副官の声に顔をしかめ指で耳栓をした傭兵は、うんざりとため息をつく。

「……少し考えればわかる事でしょう。理由はどうあれ、彼女は勝者(新しい皇帝)の命令を反故にしたのよ」
「ほ、反故にしたわけじゃないだろう! 確かに将軍は大戦には参戦されなかった! だが、エスタルからできる限りの兵を出したし、補給の要衝であるエスタルを大いに守護したんだぞ!」
「……はぁ、お気楽ね」
「な、なにっ!?」
「……確かに大義名分としてはそれでいいんでしょうけど、それを良く思わない者の方が多いんじゃない? 自分は命がけで戦ったのに、後方で日和見していた奴が将軍として地位を保証される……理解はしても納得できる人間はそう多くない。だから……今の皇帝が彼女を赦すことに何の得もないのよ」
「そ、そんなことあるかっ! 将軍の功績は絶大だ! それに、陛下は自身に帰順しろとの命を下されたんだぞ! 確かに、先の大戦では自ら出陣されることはなかったが、それを赦す……それこそが陛下の器量だろう! 何もおかしなことじゃない!」
「はぁ……まあどっちでもいいわ。結局のところ、彼女が職を辞すことは変わらないでしょうし」
「だ、だから、なんでそうなるんだ!」
「……まだわからないの?」
「な……」
「……理由は簡単。彼女が彼女自身を許せないからよ」
「……は?」
「……やっぱり無能ね。というか、女好きって割には女心を理解してなさすぎ」
「そうそう、女心って……って、それとこれとは話が違うだろう!?」
「……何も違わないわ。女心を理解できるのならわかるでしょう? 彼女は同じ立場だった他の元帝国将軍たちの決断を追えなかった。彼らの在り方との差に、ずっと悩んでいたわ」
「え……それ、女心関係なく――――」
「……なに?」
「ナンデモアリマセン。でも、そんな気配は微塵も……」
「はい、無能」

 むきーっ! と憤慨する副官を無視して、傭兵は続けた。

「……聡い彼女は自分が新しい帝国(世界)に必要ないと理解しているわ。いえ、自分が居座ることが新しい帝国にとって不利益になると理解している。だから去るのよ、愛すべき祖国、愛すべき愛弟子(新皇帝)の元からね」
「そ、そんな……」
「……理解したのなら諦めて、さっさと命令を遂行するのね」
「どうにか……引き止められないのか」
「……無理でしょうね。というか、それは貴方が一番よくわかっているんじゃない?」

 そう問いかける傭兵に、副官は押し黙ってしまう。
 長きにわたりリカルダの副官として勤めてきた身だ、その真意はわからずとも性格は把握していた。

「……まあ、最後の思い出作り位はやってあげてもいいんじゃない?」
「思い出作り……」
「……とはいっても、大仰な壮行会なんてやったら、彼女は嫌がるでしょうけどね」

 そんな傭兵のアドバイスも耳に届いているのか、副官はじっと俯いたままぶつぶつと呟くだけ。

「……何にせよ、後悔だけはないようにしなさいね」

 それだけを言い残し、傭兵は副官を置いて指揮所へと入っていった――――。

解説

●目的 春の訪れを祝うお祭りを盛り上げてください。 ●場所 帝国東部鎮守都市『エスタル』。 一時は幽界樹に破壊しつくされた帝国の要衝でしたが、復興に尽力した者たちの力でようやく都市としての機能を回復させました。 街の中央には幽界樹が残した傷跡ともいえる大穴が開いており、そこに水がたまり小さな湖のようになっています。 街は復興中であり、最低限必要な施設や住居、市場や農地がある程度です。所謂『立派な建物』はありません。 崩れてボロボロだった城壁はいち早く復旧し、外敵を防ぐ壁の役割を十分に果たしています。 ●人物 リカルダ=C=アーレンス 『紅蓮』とあだ名される帝国軍将軍。 荒廃したエスタルの指揮官として駐留し、その復興に尽力してきました。 先の大戦の折、レイウェストから出征要請を受けたにも関わらず、自身の参戦を見送った経緯があります。 ビ=ネク 少女の見た目をしているが、実年齢は200を越えるエルフのヒーラーで傭兵。相棒のオルトロス『エイヲ』をはじめ、多数の魔獣を使役する魔獣使いでもあります。 現在はリカルダに雇われる形で、エスタルの防衛&復興に力を貸しています。 ロルフ 今回の祭りの企画者で、酒女賭け大好きな30代男子。リカルダの副官としてエスタル復興に尽力しているが、本業は作戦参謀なので、実はあまり能力を活かせていない。 ●補足 主催者であるロルフの目的はリカルダの思い出作りなのですが、皆様は特に気にする必要はありません。もちろん、ロルフと一緒に一計を案じていただいても結構ですが、単純にお祭りを盛り上げて楽しんでいただくだけでも大丈夫です。 エスタルはまだ復興中の為、大人数を収容できるような立派な建物はありません。基本的にイベントなどは屋外で行うと考えてください。 お祭りにはエスタル冒険者ギルドの名代として参加していただくことになります。 冒険者ギルドとして出店やイベントを企画してくださっても結構ですし、普通に飲み食いするだけの参加でも歓迎です。もちろん、NPC達と交流してくださっても構いません。 お祭りにはエスタルはもちろん、近隣の町や村からも参加者を募る予定です。会いたいNPC(未登録含む。真柄所有限定)がいれば呼び寄せることも可能ですので、招待状(プレイング)を送ってみてください。 注1:準備期間の関係上、他国や極北など遠方のNPCは呼べません。 注2:ヴィルジニア・テレーザ・セルッティは例外的に呼ぶことが可能です。

マスターより

お世話になっております。真柄と申します。 今回はエスタルで突如開催されることになったお祭りのお話になります。 どなたでも参加可能なお祭りシナリオではありますが、特定のNPCとは会える最後の機会となるかもしれませんので、よければ声をかけてやってください。(未登録NPCをご希望の場合、登場シナリオ名を添えていただけると助かります) もちろん、お友達や恋人の方とお誘いあわせの上、お祭りを楽しんでいただくだけでも大丈夫です! リカルダの進退に関しては、本人から辞めると聞けるわけではりません。あくまでビ=ネクの推測としてとらえてください。本人に聞いても、うんとは言わないでしょうし。 それでは、今シナリオもよろしくお願いいたします。

リプレイ

 その日、帝国東部鎮守都市『エスタル』は、今までにない期待感に包まれていた。

「――――うん、完成だよ!」

 組み上がった舞台を見たエルゼリオ・レイノーラが頭の上で大きく〇を作ると、現場から歓声が上がった。
「いやぁ、間に合ってよかった!」
「まったく調子いいんだから。ボク達が来なかったらどうするつもりだったの?」
「その時はその時! 結果オーライだからヨシッ!」
「まったく……これで参謀役だって言うんだから呆れるよ」
 肩をすくめるエルゼリオに、ロルフはかかかと笑う。
 ロルフが急遽計画した祭りは、エルゼリオたち冒険者の助けもあり、何とか予定日までに形になった。
 そして、準備万端整った祭り前日。二人が見つめるエスタルの街は言い知れぬ期待感に包まれている。
「いよいよ明日だね」
「ああ、いよいよだ」
 復興を果たしたエスタルで行われる、”初めての祭り”がいよいよ幕を上げる――――。

●
「これが復興の一つの形ですか」
 着々と進む復興の足跡を見回りながら、グレイブ・ヤードは祭りに賑わう人々の声を聴きいていた。

 エスタルは今、復興に沸いている。その集大成がこの祭りだろう。
 今までじっくりと見ている余裕はなかったが、先の大戦において人類が勝利を手にしてようやくその時間がとれるようになった。
 大崩壊の残滓がいまだに色濃く残る帝国において、この復興は一つのモデルケースとなるかもしれない。

「困難を乗り越えた先に花咲いた笑顔がここにはある……。これこそがこの世界の未来が目指すべき姿なのかもしれませんね」
 人々の顔に浮かぶ笑顔を見たグレイブは口元に小さく笑みを作ると、祭りの中心へと向かう。

●
 祭りに欠かせないものといえば、美味い酒と食事だろう。
 そう考えたネーヴェ・グラヌローザとアルフィー・リッパーの二人は、自慢の手料理を振るうべく屋台を用意した。酒は他でも沢山提供されていたので、二人は祭りを楽しみながらも気軽に口にできる軽食を提供することにした。
「――――なんて、どうでしょう。屋台の設備でも調理出来ますしお客様をお待たせすることなく素早く提供できるかと思うのですが」
「ああ、いいんじゃないかな。冷めた料理より熱々の料理はきっと喜ばれると思う」
「では、決定ということで」
 にこりと微笑むネーヴェに、アルフィーはこくりと頷いた。

「いらっしゃいませ。美味しいお食事はいかがですか?」
 屋台の前で呼び込みをする美しい店員に惹かれてか、続々とお客が集まってくる。
「熱いから気を付けて食えよ」
 一方、調理台ではイケメン店員の作る料理にお客が殺到していた。
 二人が提供するのは、ホットドックやワッフル。そして、変わり種のスティックピザなど、歩きながらでも口にできる手軽なものばかりだった。他の露店が腰を落ち着けて食べる料理をメインに提供していたこともあって、二人の軽食露店は大いに繁盛することになる。
「え、終わった後ですか? ごめんなさい、予定がありまして」
「……はぁ?! そ、そんなの無理に決まってるだろ! そんな事より、さっさと注文してくれ!」
 料理の人気はで露店は繁盛しているのだが、中には”別の目的”で集まってくるお客も少なからずいた。
 そんな客にも嫌な顔一つ見せず丁寧(?)に対応した二人の接客もあり、屋台は大いに繁盛することになる――――。

●
「うわっ、すごい品揃え!」
「いらっしゃいま……おや、どこかで見た顔ですね」
 祭りには必要だろうと露店を開いていたヴィルヘルミナの元へ、一人の客が訪れる。
「必要なものがあればどうぞ。鍋から包丁まで金物であれば何でもござれですよ」
 訪れたのはクシェン。露店に並べられた金物の数々に目を輝かせていた。
「どの品も性能は保証します。鍛冶師の腕に誓って」
「え、あなたが造ったの?」
「はい、これでも本職は鍛冶師なので」
「へー、そうなんだ。それじゃ皮削ぎナイフってある?」
 商品とヴィルヘルミナを何度も見比べたクシェンはそう問いかける。
「ありますよ。そうですね、あなたの手のサイズだと……これなんてどうですか」
 ヴィルヘルミナはクシェンの手を一目見ると、一本のナイフを差し出した。
「お、おぉ……。すごい、顔が映ってる」
 受け取ったナイフを鞘から抜き放ち、まじまじと見るクシェン。
「磨きには力を入れていますから。でも、手入れを怠るとすぐ曇るのでご注意を」
「うん、わかったわ! それじゃ、これください!」
「ありがとうございます。お代は――――Gです」
「う゛っ、意外とお高い」
「やめときますか?」
「ううん、買うわ!」
「ありがとうございます」
 よほど気に入ったのか、ナイフをぎゅっと胸に抱いたクシェンが代金をどんと差し出した。
「あ、武器とかもあるの?」
「ええ、ありますよ。試打品ばかりなので数は少ないですが、その分お値段は――――」

「クシェン様、こんな所にいらっしゃったんですね」

 よほどナイフが気に入ったのか、追加の買い物をしようとしたクシェンに声がかかった。
 クシェンは「あ、やばっ!」と声を上げると、ヴィルヘルミナに礼を言い露店を後にした。

●
 エスタルを訪れたクルススや冒険者となったクシェンと旧交を温めたレティシア・レインフィールは、一時二人と別れると指揮所を訪れた。
「単刀直入にお伺いします。リカルダ様は今後どうされるおつもりでございましょう」
「なんだ藪から棒に。そうだな、今は多忙故、あまり先の事は考えていないな」
「なるほど、予定はないと」
「うん?」
 何を納得したのかこくりと頷いたレティシアに、リカルダは首をかしげる。
「リカルダ様、新たに興された公爵家に仕える気はございませんか?」
「なに? いきなりなんだ、どういう意味だ」
 突拍子もない提案を真顔で行うレティシアに、リカルダは眉をしかめた。
「臣籍降下された彼のお方はこれから沢山の妻を娶るでしょう。その行為自体は大いに結構なのですが、問題なのはその御妃様たちの身辺です。彼のお人の人柄的に急激に膨らむと予想される”公爵夫人”となる方々の身辺を誰が警護するのかという問題が出てまいります」
「まさか、私にそれになれと」
「リカルダ様、王国へ来てはいただけませんか? 未来の帝国皇族が王国王族と婚姻を結んだ折、王国に貴女様がいらっしゃることは、ひいては帝国にとって利になるはずです」
「……はは、まさか私が調略を受けるとはな」
 真剣に訴えかけてくるレティシアに、リカルダは自嘲する。
「いや、すまない。折角の誘いではあるが、私は他国に仕える気はない」
「やはり、無理ですよね」
「……断られると分かっていたのか。では何故聞いた」
「国の為に動くこと。それこそが貴族の務めですので」
 そう言って柔らかに笑ったレティシアは、嘆息するリカルダに優雅に礼をすると、「ご健勝であれ」と言葉を残し去っていった。

●
「復興のお手伝いお疲れ様。見違えるくらい綺麗になったね」
 祭りの喧騒の隅で、エイヲ(相棒のオルトロス)と静かに食事を楽しんでいたビ=ネクの元に、トゥーリが酒を持って現れた。
 トゥーリは「飲む?」と聞きつつ酒を差し出すと、エイヲの足元にどっかと座る。
「……祭りはいいの?」
「うん、一通り回ってきた。それよりもヒルルクさんの件、聞いた?」
「……ええ。目覚めたそうね。記憶喪失だとか」
「そう、きれいさっぱり忘れちゃってた」
 トゥーリははぁとでかいため息をついて、あの日(ヒルルクが目覚めた日)の事を話始めた。

「……まだ何か言いたげね」
 一通り話し終えたトゥーリに、ビ=ネクが問いかけた。 
「……正直言ってよく分からないんだよね。記憶が戻らなくて良かった……なんて人もいるし」
 トゥーリはビ=ネクの瞳を射貫くように見つめると、心の内を吐露し始める。
「なんでみんなそんなに平気なんだろう。今まで重ねてきた想い出が全部なくなったんだよ? 記憶も約束も、覚えているのはワタシだけ。そんなの……寂しいよ」
「……現状が不服なら動けばいい。取れる選択は沢山あるでしょ」
「沢山……ありすぎて困ってるよ」
「……じゃ、全部試すことね」
「それは流石に乱暴じゃない?」
「……迷って愚痴ってるだけじゃ何も変わらないわ。もし本気なら行動するしかないわ」
「簡単に言ってくれるね」
「……他人事だから」
「他人事、か……そう割り切れたら楽なのに」
 どこか遠くを見つめながら呟くトゥーリから視線を外したビ=ネクは受け取った酒を煽った。

●
「他の街のものとは比べようもないが、こういう祭りも悪くないな」
 エスタルで催された祭りは、他の都市で開かれるような盛大なものではない。
「はい、わたしもそう思ってました。確かにこじんまりとしていますけど、復興に向かって真っ直ぐに進んでいる勢いみたいなのが感じられる素敵なお祭りだと思います」
 急ごしらえの屋台が並ぶ通りをナハティガル=ラーとゲルダ・クラインは並んで歩いていた。
「そうだな。失った物が戻る事はないが、新たに作って行く事はできる。それを先の戦いで破壊しつくされたエスタルが証明している」
 ナハティガルは屋台で買ったイカ焼きをゲルダに手渡す。
「これも……証なんですよね」
 ゲルダは受け取ったイカ焼きをじっと見つめる。

 このエスタルにも先の戦いでついた大きな傷跡があった。それでもこうして復興は進んでいて、それはきっと『ひと』の勝利がもたらした結果。護れたものの、ひとつの形なのだ。
 護れなかったもの、失ったものも確かに多いけれど、こうして街が復興し未来へと続いている。
 すべてが元通りになるのは難しいけれど、人は前に進むことができる。

「イカ焼きは好みではなかったか……?」
「え……? そ、そうじゃないです! イカ焼き、好きです!」
 いつの間にか思考に沈んでいたゲルダは、不安げにこちらを見下ろしているナハティガルの視線に気づいた。ゲルダは慌てて首を振ると、急いでイカ焼きにかぶりついた。

●
「相変わらず元気そうで良かった」
 ビ=ネクの元に訪れたエルゼリオは、エイヲの巨体に触れつつ彼女に話しかける。
「……そちらは暇そうね。一人なの?」
「残念ながら。本当はヒルルクさんを連れて来れたらよかったんだけど、ほら今は複雑な事情があるから」
「……大体の事情は聴いたわ」
「そっか」
 短く答えたエルゼリオはビ=ネクの耳元に顔を寄せた。
「このタイミングで突然開催されたお祭り……実は何かあるよね? ボクの勝手な予想では……リカルダ将軍の進退に関係していると思ってるんだけど……違う?」
「……どうしてそう思うの」
「そういう雰囲気を感じたからさ。でももしそうなら、誰がこのエスタルを統治するんだろ……。ロルフさんは、ほらあんなだし、適任者がいるのかなって気になって。まあ王国の人間がとやかく言う問題じゃないんだけどね」
 そう言って苦笑したエルゼリオはビ=ネクから離れると「それじゃお祭り楽しんできます!」と告げ、何事もなかったかのように喧騒の中へと消えていった。

●
「あ、すみません。その……追加をお願いできますか?」
 「えっまたっ!?」と驚愕する店員ににこりと微笑んだリディリディ・トゥラ・イェレミースは、新しいお肉を待つ間、ぼーっと街並みを眺める。
 復興に沸くエスタルには真新しい建物が目立ち、人々は活気に満ちている。
「ヒルルクさんも呼べればよかったんですけど……」
 賑やかな祭りの風景を見たリディリディはぽつりと呟いた。
 ヒルルク……今はイーラというらしい、の事情は聞いている。随分と大変なことになっているみたいだ。だから今は無理に話をしようとは思わないけど、いずれ時が来たら会いに行ってみよう。彼女には”借り”があるし――――。
「……あ、ありがとうございます。えっと……念のためにお代わりをいただいておいていいですか?」
 そんな事を考えていたら、追加が運ばれてきた。リディリディは念のためだと追加注文を入れると、店員は「ひぃ!?」と悲鳴を上げ厨房へ駆け込んだ。
 厨房に消えた店員に小さく手を振ったリディリディは、こんがり肉に視線を落とす。
 幽界樹に破壊しつくされたエスタルが、ここまで(美味しいお肉が提供できるまで)復興している。住民は『故郷』を諦めなかったのだ。それが苦難の道のりだとしっていても。

「……故郷、ですか」
 リディリディが故郷を出て、長い月日が経った。
 世界はこんなに変わったけど、あの森は今もきっと何も変わっていないのだろう。
「……確かめるのも悪くないかもしれませんね。一度戻ってみますか……踏み出す為にも(一から始めるためにも)」
 そう小さく呟いて、リディリディは湯気を立てるお肉に齧り付いた。

●
「はぁ……お会いしたかったんですけど、残念です」
 酒場のテラス席でシエラ・フォン・リシェイラは酒気を含んだため息をついた。
「あの子も色々と大変な時期だろうし仕方がないとはいえ、確かに残念ではある」
 シエラの向かいに座るのは、骨面の下から器用に酒を飲むルチル・プルメリア・グレイハーツだった。
「そんなあっさり。ルチルさんはいいんですか? 本当は会いに行きたいんじゃないんですか?」
「……どうかな。確かに無事を確認したいとは思ってるが、イーラはヒルルクだった頃の記憶を失くしちまったみたいだし、今会うのが果たして正解なのか。正直言ってわからないんだよ」
「んま! 情報屋さんが”わからない”なんて言葉使っちゃダメだと思います! 私もお店で色んな方を見てきましたけど、結局、何が誰のためになるーとか、そういうのって押し付けのようなものだと思うんです! 大切なのは、今自分が何をしたいのか! それに尽きると思うんです!」
「アンタ、酔ってるだろう」
「酔ってません!」
 ため息をつくルチルを無視して、シエラは空になったジョッキをどんと机に叩き付け、お代わりを要求すると共に話を続ける。
「いいですか、ルチルさん。生あるものは自分の今をありのままに生きるしかないんだと、私は思うんです。ヒトって確かに他の生物よりちょーっとだけ頭のいいのかもしれません。だけど、だからこそ余計なことを考えてしまうと思うんです!」
「余計なことねぇ……だが、それこそがヒトの最大の長所だろう?」
「確かに長所という見方もあると思います。でも、短所でもあると私は思ってます。そもそも色々と考えすぎなんですよ。で、考えすぎた結果、よくわからない行動をとってしまってドツボにはまる。だって『あの竜』でさえそうだったんですよ?」
「あの竜か……」
「そうです! だから野暮なことは言ってないでルチルさんはルチルさんの”気・持・ち”に正直に行動するべきなんです! 成したいように成せばいい、そういうことですよきっと!」
 運ばれてきたジョッキを一気に煽って、どうだと胸を張るシエラは「で、どうします?」と再度聞いた。
「……寂しい気持ちは確かにある。でもなぁ……アタイはあの子の記憶が戻る事はないと思うし、このままの方があの子のためにも思えるんだ」
「じゃ、会わないんですか?」
「そうは言ってない。ただ……」
「ただ?」
「あの子の記憶喪失……それがあの竜が巫女に遺した最期の餞別のように感じていてな。アタイが手を出すべきものなのか迷ってる」
「そうでうすかねぇ……あの竜にそんな殊勝な考えがあるとは思えませんけど」
「確かにヒトの身からすればどうしようもなく身勝手な話だと思うが、アタイは逆にあの竜らしいと思うけどね」
 そう言って苦笑したルチルは、空になったシエラのジョッキに自分のものをコツンと合わせると、一気に煽った。

「……ねぇ、ここ私必要?」

 そんな二人のやり取りを聞いていたもう一人の同席者ビ=ネクはため息をついく。
「ああ、必要さ。アンタにも色々聞きたいことがあるからな」
「……私には話すことなんてないけど」
「そう言うな。まあ、とりあえず飲むか」
 呆れるビ=ネクに苦笑しつつ、ルチルは彼女とシエラに追加の酒を注文してやった。

●
「ここがあの幽界樹が立っていた跡……もう戦いの名残はぜんぜんありませんね」
 街の中心部へとたどり着いたゲルダとナハティガル。
 かつて幽界樹がそびえ立ち、激しい戦いが繰り広げられた跡も、今はすっかり街の観光名所だ。
「これもリカルダ将軍の功績なのだろうな」
「そうですね。リカルダ様は素晴らしい統治者だと思います」
「そう……だな」
「ナハティガル様?」
「……」

 先の大戦に参戦しなかったリカルダの帝国での立場が微妙である事は想像に難しくない。リカルダもそのことを理解しているだろうし、彼女の性格からして今のままでいいとは思っていないだろう。彼女は責任を取って辞するかもしれない。しかし、将軍が退いた場合、エスタルはどうなる。統治者を失った街は再び荒れ――――。

「いや、だからこそ……未来が不確定であるからこそ、人は前へと進む事ができるのかもしれないな」
「……ナハティガル様?」
「……うん? ああ、ゲルダか。どうした?」
「いえ……その、大丈夫ですか?」
「大丈夫? ああ、問題ない。きっと良き未来に繋がっているだろうからな」
「え?」
 全くかみ合わない会話にゲルダが頭の上に「?」を浮かべていると――――。
「ゲルダ」
「えっ! あ、あの、ナハティガル様……?」
「俺はこれから先もアンタと共に歩いて行けたらと思っている」
 手を取られたかと思ったら、突然の宣言。
 あまりに突然の宣言に戸惑うゲルダだったが、彼の言葉を反芻し、受け入れ、心の中で温める。そして、ナハティガルの瞳をじっと見上げると――――。
「わたしも、あなたと共に歩く未来を選びたい、です」と静かに瞳を閉じた。

●
「外に目を向けるのもいいかもしれません」
 オープンカフェの一角に出来た人だかりの中心に居たのはグレイブだった。
「隣人を思う気持ちも理解できます。ですがもっと大きな視点でこの街を見るべきです」
 グレイブは所謂”悩み相談”を行っている。
 とはいっても、酒を酌み交わしながら、相手の本来思っている事を表面化させるだけの、アドバイスともいえない助言なのだが、それでも人々はグレイブに話を聞いて欲しいと詰めかけていた。
「貴方の勇気(行動)は必ず隣人の為となります。畏れず進んでください」
 グレイブの助言を受けた男が神妙に頷く。
 強く迷う人間は自分の中に結論がありながらも、様々なしがらみでそれを表面化できない。だが、背中を押してやれば(言葉で示してやれば)行動できる。
 だからこそグレイブは人々の声を聴き、人々に言葉を返す。
 それが街の、ひいては世界の復興の一助になると信じて――――。

●
「招きに応じていただき感謝いたします」
 新設されたビッグオウム発着場へ降り立ったヴィルジニアを出迎えたのは、シルヴィア・A・カペルだった。
「アンタの誘いを断ったら後が怖いからね」
 シルヴィアの差し出した手を取り下鳥したヴィルジニアは早速「それで?」と切り出す。
 そんなヴィルジニアに僅かに微笑んだシルヴィアは、温めてきた『計画』を話した。
 それは”商売”の話。
 シルヴィアは大陸中の都市が生産するワインを取り扱うブランドを作り上げたいと話した。
 計画はすでに進行していて、第一弾となるワインは、自領にて”森の友人”から提供された上質な葡萄を使ったワインを予定している。そして、続く生産拠点として帝国領オルセン、同盟領ローレラウラを考えていると話した。
 だが問題もある。そして、それこそがヴィルジニアを呼んだ理由だった。それはワインの販売経路。カペル商会は王国内にこそ太い販売網を持つが、こと対外国となると些か心細い。そこで知己であり同盟領の代表でもあるヴィルジニアに白羽の矢を立てたというわけだ。
「ふむ……」
「魅力を感じてはいただけませんか? 外交貿易となるならばまずは同盟領代表にお伝えするが筋かと思い、ご提案させていただいたのですが」
「そこだよ」
「そこ、とは?」
「話を持ってくるのなら同盟領代表にじゃなく、セルッティ商会当主にすべきだ。同盟領の代表なんてのはただの飾り(雑用係)でしかない、王様や皇帝みたいになんでも決められる権限はないんだよ。それに商売の話をするのなら商会へ。商人の基本だろう?」
「……そうでした。では、改めてセルッティ商会へ打診いたします。私と共に新しい商売を始めてみませんか?」
 そういって右手を差し出したシルヴィアに、ヴィルジニアは女狐の名に相応しい妖艶な笑みを浮かべ、その手を取った。

●
 祭りの参加者たちと豪快に飲み食いしながら、数多くの自身の英雄譚を面白おかしく話すハヤト=ガラン=ヴォルファングに、場は大いに盛り上がった。
 次の話を聞かせろと急かす参加者たちに「また今度な!」と告げて会場を後にしたハヤトは、一人指揮所へと向かう。

「まぁ理屈はわからねぇでもないがよ……」
 ハヤトは祭りが始まる前にビ=ネクやロルフから話を聞いた。
 ビ=ネクは「あくまで仮定だから」と前置きしていたが、何度もリカルダの冒険を共にしたハヤトにはそれが仮定だとはとても思えなかった。

「邪魔するぜ」
「貴公か。祭りはもういいのか?」
 指揮所に現れたハヤトをリカルダは作業の手を止め迎え入れる。
「ああ、楽しませてもらったぜ。リカルダは祭りに出ないのか?」
「作業が終わったら顔を出す予定だ」
「そうか」
「……どうした、何か言いたげだな」
「ああ、あんたに話さなきゃならねぇことがある」
 ハヤトは部屋に誰もいないことを確認するとリカルダに歩み寄る。そして、先の大戦の顛末を話をした。

「……そうか、陛下が」
 ハヤトの語るヨゼフの結末を聞いたリカルダは瞳を伏せた。
「強かったぜ。滅茶苦茶な」
「であろうな。陛下は真の強者であった」
「……なぁ、リカルダ。俺はあんたが戦いに参加しなかった事を責めるつもりはねえ。むしろ統治者として英断だったとさえ思う」
「……ふ、貴公に評価してもらえるとは嬉しい限りだな」
「冗談で言ってるわけじゃねぇぞ? と、まあそれはいいや。実はもう一個報告があるんだ」
「ふむ、聞こう」 
「両親が見つかった」
「そうか、銀嵐は健在だったか」
「ああ、ピンピンしてた。で、両親は軍に復帰したぜ」
 ハヤトの報告を聞き、リカルダは「そうか」と小さく呟く。
「報告は以上だ。でだ、リカルダ」
「うん?」
「俺は回りくどいのが苦手だからストレートに言うが……軍を抜けるなら俺の傭兵団に来ないか?」
 突然の勧誘にリカルダも面食らった。
「ヒルルク……今は違う名前だが、あの子もうちと各地を回るって言ってる。だから、あんたも一緒にどうだ?」
「……折角の誘いだが、丁重に断らせて貰おう。なにゆえ私が軍を抜けると思ったのかは知らないが、そのようなことはないし、仮に軍を抜けたとしても、もう戦いに身を置くつもりはない」
「……そうか、わかった」
 ハヤトはそれ以上深追いせず、「またどこかで!」と言い残し部屋を後にした。

●
「先ほど、ある噂を耳にしました。リカルダさんが責任を取り軍を抜けるというものです」
 指揮所に訪れたトーラの開口一番に、リカルダは「貴公もか」と苦笑した。
「なんとも迷惑な噂だな」
「……否定はしないんですね」
 苦笑いするリカルダをキッと睨みつけ、トーラは続ける。
「リカルダさんが中立を選んだのは、エスタルの人々の為でしょう? それが間違っているとはわたしは思いません。ですが噂が真実だとしたら、このエスタルは……リカルダさんの後任は誰になるのでしょうか。帝国は王国に負債があります。もし王国貴族か親王国の人物がここを治める事になれば……」
「ふむ……それは杞憂ではないか?」
「何故そう言い切れるのですか?」
「まず、殿下……いや、陛下がそれを許さないだろう。仮に私がこの地を去っても、エスタルの統治は問題ないと、私は思っている。そもそも私は武官であって文官ではないからな、別の人間が管理する方がよほどうまくいくだろう」
「それは違います! 確かに実務においてはリカルダさんより上の方もいらっしゃるでしょう。でも、ここはリカルダさんが管理しているからこそ、ここまでの復興ができたんです!」
「……そう言ってもらえるのは素直に嬉しいが、買いかぶりすぎだ」
「そうは思いません!」
 ふーふーと肩で息をするトーラ。
「もしリカルダさんが軍を抜ければ、部下の人たちはどうなるんですか! 部下の方々はリカルダさんを慕っています! もし貴女が抜けてしまったら、彼らは誰に従えばいいんですか!」
「陛下がよいように計らってくれるだろう」
「例えそうだとしても、そこにあなたが居なくていい理由にはなりません! 彼にはあなたも必要なんです! ……お願いです、どうかこれからもレイウェストさまの力になってください……!」
 溢れだす思いを精一杯言葉に乗せたトーラは大きく頭を下げる。
「……仮定の話に熱くなりすぎだ。さぁ、折角部下たちが催した祭りだ、貴公も存分に楽しんでくれ」
 しかしリカルダは話を打ち切ると、トーラへ退室を促した。

●
 あっという間に売り切れてしまった露店を畳み、祭りに繰り出したアルフィーとネーヴェ。二人は他の屋台で仕入れた”戦利品”を手に、城壁の上へとやってきた。
 並んで腰かけた二人の間を春風が挨拶するように吹き抜ける。
「もう春なんだな……来年も来るかな、春」
「勿論来ますわ。これからずっとずっと、暖かな春が、永遠に」
 どこか不安げに呟くアルフィーの手に自分のものを重ね、ネーヴェが応えた。
「永遠に、か……そうだな、もう寒い冬はごめんだ」
「とてもとても”長い冬”でしたからね」
 そう言ってアルフィーの肩に頭を預けたネーヴェ。
 二人は互いの温もりを近くに感じながら、蒼く抜けるような空を見上げた。
「……なぁ、ネネ。これからも俺と一緒にいてくれるか?」
「ふふ、突然ですわね」
「ダメか……?」
「ダメなんて一言も言ってないでしょう?」
「なら、いいのか……?」
「そんなに不安にならないでくださいまし。勿論、お傍におりますわ」
「次の春も?」
「次の春もその次もずっと」
「そうか……」
 何度言葉にしても自信を持ってくれない相方に、ネーヴェは一計を案じる。
「アル」
「なんだ、ネ――――んんっ?!」
 突然口の中に広がった味に、アルフィーは尻尾をぴんと逆立てた。
「春のお味はしましたか?」
 身体を離し悪戯に微笑んだネーヴェに、顔を真っ赤にしたアルフィーは何も言い返せなかった。

●
「……そうかい、7月だね。わかった、気を付けることにするよ」
 机に並んだカードを指し示し占い結果を提示したハーヴィに、ヴィルジニアは深く頷く。以前にもハーヴィの占いで吉事を得た事から、ヴィルジニアはこの結果をすんなりと受け入れた。
「……ヴィルジニアさん、イーラの件、ありがとうございました」
 使ったカードを戻しながら、ハーヴィは呟く。
「貴女ならきっと彼女の事を守ってくれるって信じてました」
「別にそんなつもりはないさね。拾ったのだってただの気まぐれだよ」
「あれ、僕はてっきり彼女は貴女にとって娘みたいなものなんじゃないかって思ってたんですけど」
 肩をすくめるヴィルジニアに、ハーヴィは苦笑しながら応えた。
「はは、あんなじゃじゃ馬が娘だなんてまっぴらごめんだね。アンタが面倒を見てくれるって聞いてせいせいしてるくらいだ」
「ふふ、そう言う事にしておきますね」
 苦笑するハーヴィに再び肩をすくめると、ヴィルジニアは「もういいかい」と席を立とうとする。
「ヴィルジニアさん……実は、先の大戦の時、彼女……ヒルルクさんと口論になったんです」
「……ふむ」
「アレって今思うと僕に対する甘えがあったのかなって……それが忘れられなくて、一度振られてるのに情けないですね」
 そんなヴィルジニアを止めるでもなく、ハーヴィは話を続けた。
「それでも僕は彼女を愛しています。別に同情から言っているわけじゃありません。僕は本気で彼女を幸せにしたい、幸せになって欲しいと思っています。だから、僕は彼女を守っていきます。これからずっと……死が二人を分かつまで」
「……そうかい、好きするといいさね。応援くらいはしてやるよ」
 決意に満ちたハーヴィの瞳をのぞき込み、女狐は優しく微笑んだ。

●
 冒険者たちの手伝いもあり質素ながらも趣向を凝らした祭りは、多くの住民たちを巻き込み盛り上がった。おかげで復興の為にと粉骨砕身働いてきた住民や兵士たちの顔に、ようやく本来の笑顔が戻ったような気がする。
「……さて行くか」
 祭りに沸くエスタルの様子を書き記した手帳を懐へとしまったリカルダは、騎乗した愛馬の手綱を繰った。
 空はすっかり茜色に染まっている。
 人々の喧騒を遠巻きに聞きつつ、リカルダは一人西門へと向かった。

「将軍!」

 リカルダが人知れず城門を出ようとしたその時、背後から聞きなれた声が聞こえた。
「今まで……今まで本当にありがとうございました!」
 その声に振り返ってみれば、沢山の兵士を背後に従えたロルフが敬礼――――ではなく、大きく頭を下げている。兵士たちも皆だ。
「……うむ」
 一様に首と垂れる部下たちへ、リカルダは何か言おうとして、やめた。
 リカルダは一度だけ小さく頷くと、馬の腹を蹴り城門をくぐっっていった。

 西門から続く荒野を行く『紅蓮』。
 その背中をいつまでも見つめる兵士たちの頭上を、突然巨大な影が飛び越えていった。

「なんだ、供ならいらんぞ」
 巨大な影がリカルダの馬に並ぶ。
「……契約期間がまだ残ってるでしょ」
 巨大な影――――オルトロスの背からビ=ネクが見下ろしている。
「ならば引き続きエスタルの復興に力を貸してやってくれ」
「……断るわ。私の雇い主はエスタルじゃない。あなただもの」
 そう言ってエイヲ(オルトロス)を先行させたビ=ネクに、リカルダは「そうだったな」と小さく呟き、愛馬の手綱を打った――――。

マスターコメント

お疲れさまでした! 皆様のおかげで復興後初のお祭りは大成功に終わりました。 とあるPC様も仰っていましたが、これを機にNPC達、そしてエスタルは新しい一歩を歩み始めることになるでしょう。それはきっと『春の訪れ』を感じられるような一歩であると私は思っております。 3年と半年、長くて短い期間でしたが、今まで本当にありがとうございました。 サービス終了と共に『アニエピカ』の幕は下りてしまいましたが、授恵者の皆様がいる限り、この世界の物語はこの先もずっと紡がれていくでしょう。そんな未来の物語を、またいつか皆様と一緒に紡がせていただく機会が訪れることを切に願っております。
イベントシナリオ

イベントシナリオ易しい 報酬:標準16 / 4〜25人

2024年04月16日 17時04分59秒 公開

大成功

相談掲示板

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アーカイブ生成日時 2026年08月05日 14時56分25秒 ・ world0